説明

塗工液の製造方法および光学フィルム

【課題】有機修飾されていない無機層状化合物を含むにもかかわらず、いわゆるcプレートとして有効であり、十分な透明性を有する光学フィルムを得ることができる塗工液を有利に製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】本発明の塗工液の製造方法は、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる分散工程と、得られる分散液に、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液を加え、50〜70℃に加温して撹拌するセルロース誘導体混合工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性有機溶媒、有機物で修飾されていない無機層状化合物、セルロース誘導体からなる塗工液の製造方法に関する。また、本発明は、前記塗工液を塗布後、乾燥して得られる光学フィルムにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶ディスプレイが、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。また、液晶技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶ディスプレイが提案されて、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶ディスプレイの問題点が解消されつつある。しかし、依然として陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘されており、視野角拡大のための各種の試みがなされている。
【0003】
このような液晶表示装置の一つに、正または負の誘電率異方性を有する棒状の液晶分子を基板に対して垂直に配向させた、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置がある。この垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶分子が基板に対して垂直に配向しているため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに吸収軸が直交するように直線偏光板を配置することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。
【0004】
しかし、このような液晶セルに偏光板のみを備えたVAモードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配置された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうこととセル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して光漏れが生じ、見る角度によってコントラスト比の著しい変動や大きな色調変化を引き起こす。このような液晶表示装置を斜めから見た場合のコントラスト比および色変化を「視野角特性」と呼ぶ。
【0005】
この視野角特性の不具合を解消するためには、液晶セルと直線偏光板の間に光学補償フィルムを配置する必要があり、従来は、二軸性の位相差フィルムを液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚ずつ配置する仕様や、一軸性の位相差フィルムと完全二軸性の位相差フィルムを、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に、または2枚とも液晶セルの片側に配置する仕様が採用されてきた。たとえば、特開2001−109009号公報(特許文献1)の請求項15、段落0036には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下の偏光板と液晶セルの間に、それぞれaプレート(すなわち、正の一軸性の位相差フィルム)およびcプレート(すなわち、完全二軸性の位相差フィルム)を配置することが記載されている。
【0006】
正の一軸性の位相差フィルムとは、Nz係数が概ね1.0のフィルムであり、また完全二軸性の位相差フィルムとは、面内の位相差値R0がほぼ0のフィルムである。ここで、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(1)〜(3)で定義される。
【0007】
0=(nx−ny)×d (1)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
z係数=(nx−nz)/(nx−ny) (3)
一軸性のフィルムではnz≒(nearly equal)nyとなるため、Nz係数≒1.0となる。しかし、一軸性のフィルムであっても、Nz係数は延伸条件により0.8〜1.5程度の間で変化する。また、完全二軸性のフィルムではnx≒nyとなるため、R0≒0となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ものであることから負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また前記のとおりcプレートとも称される。
【0008】
一軸性の位相差フィルムとしては、たとえば、自由端縦一軸延伸、固定端横一軸延伸などによって延伸された樹脂フィルムが多く用いられている。自由端一軸延伸のフィルムは、たとえば、フィルムの長手方向(流れ方向)に縦一軸延伸する方法で得られ、通常は0.9≦Nz係数≦1.1となる。固定端横一軸延伸のフィルムは、たとえば、テンターなどで横一軸延伸する方法で得られ、通常は0.8≦Nz係数≦1.5となり、若干の二軸性を帯びることが多いが、概ね一軸性の光学特性を有するといえることから、本明細書中ではこの範囲のNz係数を有するフィルムも含めて一軸性の位相差フィルムと称する。
【0009】
一方、完全二軸性のフィルム(cプレート)としては、無機層状化合物のコーティング層を用いることが知られている。たとえば特許第3060744号公報(特許文献2)の請求項1、段落0022には、有機修飾されていない無機層状化合物層を位相差フィルムとすることが開示され、また、また段落0023などを参照すると、水に膨潤または分散することができる有機修飾されていない無機層状化合物にポリビニルアルコールなどの親水性樹脂を混合してコーティング層を形成し、位相差フィルムとすることも開示されている。特開平10−10320号公報(特許文献3)の請求項1にも、ポリビニルアルコールと水膨潤性無機層状化合物を含む組成物を製膜して位相差フィルムとすることが開示されている。
【0010】
前記の有機修飾されていない無機層状化合物を含有する位相差フィルム用塗工液は、有機修飾していない無機層状化合物を使用しているため、バインダーである樹脂中に無機層状化合物を分散させることが困難であり、十分な透明性が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−109009号公報
【特許文献2】特許第3060744号公報
【特許文献3】特開平10−10320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、有機修飾されていない無機層状化合物を含むにもかかわらず、いわゆるcプレートとして有効であり、十分な透明性を有する光学フィルムを得ることができる塗工液を有利に製造しうる方法を提供することにある。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、上述した製造方法で得られる塗工液を塗工、乾燥して得られる光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の塗工液の製造方法は、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる分散工程と、得られる分散液に、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液を加え、50〜70℃に加温して撹拌するセルロース誘導体混合工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の塗工液の製造方法において、前記無機層状化合物がスメクタイト族鉱物であることが好ましい。
【0016】
本発明の塗工液の製造方法において、前記無機層状化合物は、セルロース誘導体に対して0.5〜5の範囲の重量比で配合されることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、本発明の方法で得られた塗工液を、塗工、乾燥して得られる光学フィルムについても提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機修飾されていない無機層状化合物を含むにもかかわらず、いわゆるcプレートとして有効であり、十分な透明性を有する光学フィルムを得るのに有用な塗工液が有利に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[塗工液の製造方法]
本発明の塗工液の製造方法は、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる分散工程と、得られる分散液に、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液を加え、50〜70℃に加温して撹拌するセルロース誘導体混合工程とを含む。
【0020】
有機物で修飾されていない無機層状化合物を含む塗工液は、バインダーである樹脂中に無機層状化合物を分散させることが困難であり、十分な透明性が得られないことがある。
【0021】
本発明では、有機物で修飾されていない無機層状化合物を用いるにもかかわらず、本発明の塗工液の製造方法により、十分な透明性を有する光学フィルムを製造できる塗工液が得られるという効果が奏される。
【0022】
(極性有機溶媒)
本発明の塗工液に用いられる極性有機溶媒は、無機層状化合物を膨潤させ得るものであり、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るもの、また、セルロース誘導体を溶解するものであれば特に限定されないが、たとえば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラヒドロフラン、アセトンなどが好ましいものとして例示される。
【0023】
極性有機溶媒の中でも、比誘電率が30以上であるものが好ましく、このような好ましい極性有機溶媒の典型的な例として、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレンなどが挙げられる。また、これらから複数選択された混合溶媒を用いることもできる。
【0024】
有機修飾していない無機層状化合物の極性有機溶媒への分散性を向上させるために、無機層状化合物の分散液中に、水を含有させてもよい。
【0025】
(無機層状化合物)
本発明に用いられる無機層状化合物は、有機物などで修飾されていないものである。無機層状化合物とは、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄などの金属イオンと珪酸が連結してなるシート型構造が層状に形成された粘土鉱物であり、層状ケイ酸塩鉱物であることが好ましい。
【0026】
このような無機層状化合物としては、たとえば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スチブンサイトなどのスメクタイト族鉱物、カオリナイト、アンチゴナイト、単斜クリソタイル石、斜方クリソタイル石、パラクリソタイル石、リザード石、アメス石、ケリー石、グルーナ石、ヌポア石などのカオリナイト族鉱物、白雲母、セラドン石、ロスコー雲母、砥部雲母、鉄雲母、金雲母、真珠雲母、クリントン石などのマイカ族鉱物などが挙げられる。このような無機層状化合物は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。
【0027】
中でも、人工的に合成された層状ケイ酸塩鉱物が好ましく、合成スメクタイトがより好ましい。合成スメクタイトは天然物に比べて高純度であり、粒子径が小さく、その分布が狭いことから、光学フィルムの構成材料として比較的好適である。
【0028】
なお、天然物の層状ケイ酸塩鉱物であっても、高純度化され粒子系が十分に小さく、光学フィルム用途に用いても支障ないものであれば、人工的に合成されたものより一般に廉価であるため光学フィルムの生産性向上に大きく寄与することから、好適に用いられる。
【0029】
天然に存在する無機層状化合物は、海底や湖底に堆積した火山灰が加温度、加圧力下で、浸食、風化作用を受けることにより生成される。これらを採掘し精製することにより、工業的に利用可能な無機層状化合物を得ることができる。
【0030】
また、無機層状化合物を人工的に合成するには、通常、出発原料に目的の無機層状化合物に近い組成を持つゲルや長石などの鉱物を用い、この出発原料を十分な熱エネルギーと反応時間で水熱反応させる方法が採用される。
【0031】
こうして得られる無機層状化合物は、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、クニピア(クニミネ工業株式会社から販売:天然物ベントナイト精製物)、スメクトンSA(クニミネ工業株式会社から販売:合成サポナイト)、ベンゲル(株式会社ホウジュンから販売:天然ベントナイト精製物)、ホワイトベントナイト(株式会社ボルクレイ・ジャパンから販売:天然ベントナイト精製物)、ビーガム(バンダービルト社から販売:天然スメクタイト精製物)、ルーセンタイト(コープケミカル株式会社から販売:合成スメクタイト)、ミクロマイカ(コープケミカル株式会社から販売:合成雲母)、ソマシフ(コープケミカル株式会社から販売:合成雲母)、ラポナイト(ロックウッド・アディティブズ社から販売:合成スメクタイト)などが挙げられる。
【0032】
(セルロース誘導体)
本発明に用いられるセルロース誘導体は、下式(I)に相当するセルロースにおいて、水酸基の一部または全部がエステル化やエーテル化などにより、アルカノイルオキシ基やアルコキシ基などで置換されている化合物をいう。
【0033】
【化1】

【0034】
たとえば、セルロースアセテート(セルローストリアセテートとかセルロースジアセテートとか呼ばれているものを含む)、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースナイトレート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどを包含する。このようなセルロース誘導体は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。また、少量の可塑剤などの添加剤を加えて用いてもよい。
【0035】
そして本発明では、水酸基の置換度が2.1〜3.0の範囲にあるセルロース誘導体が採用される。ここで、セルロース誘導体における水酸基の置換度とは、一般にいわれる置換度(Degree of Substitution)と同じ意味であって、下式(II)に相当するセルロースの単位環(ピラノース環と呼ぶこともできる)1個あたり3個存在する水酸基が、他の基によって置換されている割合を意味する。
【0036】
【化2】

【0037】
上記式(I)のとおり、セルロースは式(II)に相当する単位環(ピラノース環)が多数結合した構造を有するので、水酸基の置換度は、平均的な値として求められる。また上の定義からわかるように、セルロースの単位環(ピラノース環)には水酸基が3個存在するので、セルロース誘導体における水酸基の置換度は、最大で3となる。本発明では、水酸基のすべてが置換されているか、または水酸基の7割以上が置換され、一部の水酸基がそのまま残っているセルロース誘導体を用いることになる。
【0038】
このような水酸基の置換度は、公知の方法で測定できる。たとえば、セルロースアセテートについて、水酸基の置換度は、セルロースアセテートをプロピオニル化した後、13C−NMRを測定することにより求めることができる。測定方法については、手塚らの方法(Carbohydr. Res. 273 (1995) 83-91)を参照できる。
【0039】
水酸基の置換度が2.1を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる光学フィルムの高温高湿環境下における耐久性が十分でなくなる傾向にある。このセルロース誘導体における水酸基の置換度は、2.4以上であるのが好ましい。
【0040】
また、このセルロース誘導体は、その数平均分子量が2万5千〜12万のものが採用される。数平均分子量が2万5千を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる光学フィルムの機械強度が弱くなる傾向にある。一方、数平均分子量が12万を超えるセルロース誘導体を用いると、無機層状化合物を配合して得られる塗工液において、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にあり、結果、このような塗工液を用いて得られた光学フィルムにおいても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、その透明性を低下させる傾向にある。セルロース誘導体の数平均分子量は、2万5千以上、また9万5千以下であるのが好ましい。これらの数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0041】
本発明に用いられるセルロース誘導体は、低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物であってもよい。低置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.1〜2.6が好ましく、数平均分子量は2万5千〜7万5千であることが好ましい。高置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.8〜3が好ましく、数平均分子量は6万5千〜9万5千が好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物を用いる場合、その混合物における水酸基の置換度は、それぞれのセルロースアセテートの混合比を考慮した置換度の加重平均で、2.4以上となるようにすることが好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物の水酸基の置換度が2.4未満であると、光学フィルムの耐湿熱性が低下し、光学フィルムが白化する場合がある。
【0042】
セルロース誘導体の製法は、特に限定されないが、通常、α−セルロース含有量の比較的高い木材パルプなどのセルロース原料を、離解・解砕後、酢酸、プロピオン酸、酪酸、または少量の酸性触媒を含んだ前記酢酸などを散布混合する前処理活性化工程と、酢酸、プロピオン酸または酪酸などとその無水物および酸性触媒(たとえば硫酸)よりなる混酸で前記活性化セルロースを処理して一次セルロースエステルを得る酢化工程と、その一次セルロースエステルを加水分解して所望の置換度の二次セルロースエステルとする熟成工程と、得られた二次セルロースエステルを反応溶液から沈澱分離、精製、安定化、および乾燥する後処理工程を経るものが採用される。
【0043】
こうして得られるセルロース誘導体は、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、LM−80(ダイセル化学工業株式会社製)、L−20、L−30、L−40、L−70(ダイセル化学工業株式会社製:セルロースジアセテート)、LT−35、LT−55、LT−105(ダイセル化学工業株式会社製:セルローストリアセテート)、TC−5(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メトローズ(信越化学工業株式会社製:メチルセルロース)、信越AQOAT(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート)、メセロース(巴工業株式会社製:メチルセルロース)、cellulose triacetate製品番号181005(アルドリッチ社製:セルローストリアセテート)などが挙げられる。
【0044】
(塗工液)
本発明の塗工液において、前記無機層状化合物は、セルロース誘導体に対して0.5〜5の範囲の重量比で配合されることが好ましい。セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5未満であると、光学フィルムとしたときに十分な厚み方向の位相差値が得られない傾向にある。一方、その重量比が5を超えると、それらを有機溶媒と混合して塗工液としたときに、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にあり、このような塗工液を用いて得られた光学フィルムにおいても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、その透明性を低下させる傾向にある。セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比は、1〜4の範囲となるようにするのがより好ましい。
【0045】
本発明の塗工液には、その疎水性、耐久性、可塑性、凝集力をさらに向上させるための各種添加剤、たとえば、滑剤、架橋剤、可塑剤などを含有していてもよい。また、有機修飾されていない無機層状化合物のセルロース誘導体への分散性をさらに向上させるための分散剤などを含有してもよい。
【0046】
このような塗工液の成分を分散または溶解するのに用いられる装置としては、特に限定されるものではないが、たとえば、タービン型などの攪拌翼を備えた通常の攪拌混合機、ホモジナイザー(ホモゲナイザー)、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。中でも、ビーズミルおよびペイントシェーカーは、有機物で修飾されていない無機層状化合物を効率よく微分散させることができるため好ましく用いられる。これらの装置は、有機物で修飾されていない無機層状化合物の分散状態や、セルロース誘導体などの樹脂成分の溶解程度に応じて異なる複数種が併用されてもよい。
【0047】
以下、本発明の塗工液の製造方法の各工程について説明する。
まず、分散工程では、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒と混合して無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる。ここで用いられる極性有機溶媒としては、上述したように有機物で修飾されていない無機層状化合物を膨潤させ得るものであり、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るものが用いられ、好適なものも上述したとおりである。
【0048】
次に、セルロース誘導体混合工程において、上述のようにして得られた無機層状化合物の分散液を、あらかじめセルロース誘導体と極性有機溶媒を混合して準備したセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液と混合し、撹拌する。ここで、セルロース誘導体を溶解させる極性有機溶媒は、上記分散工程で用いられる極性有機溶媒と同種の極性有機溶媒であってもよく、別の極性有機溶媒であってもよいが、好ましくは、上記分散工程で用いられる極性有機溶媒と同種の極性有機溶媒である。
【0049】
この工程における撹拌温度は、50〜70℃とする。好ましくは55〜65℃である。混合液の温度が50℃未満の場合、無機層状化合物がセルロース誘導体の分散性が低下し、十分な透明性が得られない場合がある。また、混合液の温度が70℃を超えると、塗工液の粘度が下がり、撹拌時に分散に必要な剪断力が得られず、十分な透明性が得られない場合がある。
【0050】
[光学フィルム]
本発明は、本発明の方法によって得られる塗工液を塗工後、乾燥して得られる光学フィルも提供する。
【0051】
本発明の光学フィルムは、フィルムの厚み、またはそれを構成する組成物の配合比率を適宜調整して厚み方向の位相差値を制御し、完全二軸性の位相差フィルム(cプレート)とすることができる。この位相差値は、面内が0〜10nmであり、厚み方向が40〜400nmであることが好ましい。面内の位相差値が10nmを超えると、その値が無視できなくなり厚み方向の負の一軸性が損なわれ、複合偏光板化し液晶セルに貼合した際に光漏れなどが生じることがある。また、厚み方向の位相差値は、この位相差フィルムの用途、特に複合偏光板が貼合して用いられる液晶セルの特性にあわせて適時選択されるものであり、前記範囲内から特に制限されないが、50〜270nmがより好ましい。
【0052】
この厚み方向の位相差値は、フィルム中の無機層状化合物の含有量およびフィルムの厚みによって制御することができる。従って、フィルムの厚みは特に制限されるものではなく、位相差フィルムに求められる位相差を実現するのに必要な厚みであればよい。
【0053】
なお、厚み方向の屈折率異方性は、前記式(2)により定義される厚み方向の位相差値Rthで表され、面内の位相差値R0、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、およびフィルムの平均屈折率n0を用いて、前記式(1)と次式(4)および(5)から数値計算によりnx、nyおよびnzを求め、これらを前記式(2)に代入して算出することができる。
【0054】
40=(nx−ny′)×d/cos(φ) (4)
(nx+ny+nz)/3=n0 (5)
ここで、
φ=sin-1[sin(40°)/n0] (6)
y′=ny×nz/[ny2×sin2(φ)+nz2×cos2(φ)]1/2 (7)
本発明の光学フィルムの内部ヘイズは0.5%以下が好ましい。内部ヘイズが0.5%を超えると、光学フィルムを通過する光が拡散するため、複合偏光板化し液晶セルに貼合した際に光漏れなどが生じることがある。
【0055】
塗工液の塗工工程において、塗工液を基材上に塗工する方法は、塗工液の物性や固形分濃度に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものでないが、たとえば、ダイコーター、カンマコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、ワイヤーバーコーター、ドクターブレードコーター、エアドクターコーターなど、適宜の塗工機を用いて塗工する方法を採用することができる。
【0056】
また、乾燥工程において、基材上に塗工された塗工液を乾燥して極性有機溶媒を除去する方法は、通常、塗工直後に基材を乾燥炉へ導入する方法が採用される。この際、塗工液が水を含む場合は、その水も極性有機溶媒とともに除去される。乾燥温度と乾燥時間は、用いた溶媒を除去するのに十分な範囲であれば特に制限されないが、たとえば、温度は50℃〜170℃程度、時間は30秒間〜30分間程度の範囲から適宜選択することができる。
【0057】
塗工液を塗布する基材は、光学用途として適当な透明基板またはフィルムであれば特に限定されないが、たとえば、ガラス、環状オレフィン系樹脂フィルム、セルローストリアセテート系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムなどが挙げられる。このような基材は、塗工液を塗布し乾燥されてなる光学フィルムを基材から剥離するために、離型処理されたものでもよい。また、上述した以外に、偏光板、位相差フィルム、輝度向上フィルムなど、任意の光学機能性フィルムが用いられてもよい。
【0058】
このような基材として用いられる樹脂フィルムは、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、環状オレフィン系樹脂フィルムは、ゼオノアフィルム(日本ゼオン株式会社製)、アートンフィルム(JSR株式会社製)などが挙げられる。たとえば、セルローストリアセテート系樹脂フィルムとしては、フジタックTD(富士フィルム株式会社製)、コニカミノルタTACフィルムKC(コニカミノルタオプト株式会社製)などが挙げられる。また、たとえば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとしては、ダイアホイル(三菱樹脂株式会社製)、ホスタファン(三菱樹脂株式会社製)、フュージョン(三菱樹脂株式会社製)、テイジンテトロンフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)、メリネックス(帝人デュポンフィルム株式会社製)、マイラー(帝人デュポンフィルム株式会社製)、テフレックス(帝人デュポンフィルム株式会社製)、東洋紡エステルフィルム(東洋紡績株式会社製)、東洋紡エスペットフィルム(東洋紡績株式会社製)、コスモシャイン(東洋紡績株式会社製)、クリスパー(東洋紡績株式会社製)、ルミラー(東レフィルム加工株式会社製)、エンブロン(ユニチカ株式会社製)、エンブレット(ユニチカ株式会社製)、スカイロール(エス・ケー・シー社製)、コーフィル(株式会社高合製)、瑞通ポリエステルフィルム(株式会社瑞通製)、太閤ポリエステルフィルム(フタムラ化学株式会社製)などが挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。例中、含有量または使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【0060】
[実施例1]
(1)スメクタイト/N,N−ジメチルアセトアミド分散液の調製
有機物で修飾されていない無機層状化合物である合成スメクタイト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル株式会社製)6.6g、N,N−ジメチルアセトアミド96.1gを加え、ジルコニアビーズ(直径:0.8mm)79mlと高速攪拌機(スリーワンモーターBL1200、新東科学株式会社製)を用いて攪拌し、スメクタイトを分散させスメクタイト分散液を得た。
【0061】
(2)セルロースアセテート溶液の調製
水酸基の置換度が2.88で数平均分子量が76000のセルロースアセテート(セルローストリセテート LT−35、ダイセル化学工業株式会社製)15部にN,N−ジメチルアセトアミド85部を加え、攪拌して溶解させ、15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液を調製した。
【0062】
(3)塗工液の調製
上記(1)で調製したスメクタイトとN,N−ジメチルアセトアミドの分散液102.7gに、同じく上記(2)で調製した15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液22.2gを加え、湯浴を用いて塗工液の温度を60℃に調整し、高速攪拌機でさらに2時間攪拌し、分散処理を行なった。得られた分散液を孔径6μmのメンブランフィルターで濾過し、塗工液を作製した。この塗工液は、全体を100部としたときに以下の組成を有するものである。
【0063】
・ルーセンタイトSWN 5.3部
・水酸基の置換度が2.88の高置換度セルロースアセテート 2.7部
・N,N−ジメチルアセトアミド 92.0部
(4)光学フィルムの作製および評価
上記(3)で調製した塗工液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で5分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた光学フィルムを作製した。その光学フィルム側(コーティング層側)を、感圧接着剤を介して4cm角のガラス板に転写し、位相差値測定用サンプルを作製した。このサンプルの面内位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthを、位相差測定装置(KOBRA−WR、王子計測機器株式会社製)を用いて、波長589nmの単色光で回転検光子法により測定した。その結果、面内位相差値R0=0.2nm、厚み方向の位相差値Rth=114.1nmであった。
【0064】
また、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムをガラス板に変え、他は上と同様にして、ガラス板上に上記の塗工液を塗工し、乾燥して、光学フィルムを作製した。その光学フィルムの内部ヘイズ値を、光学フィルムをフタル酸ジメチル溶液に浸け、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定したところ、0.00%であった。
【0065】
[実施例2,3]
撹拌時の塗工液の温度を実施例2では55℃、実施例3では65℃に変更した以外は実施例1と同様にして塗工液を作製し、同様の評価を実施した。実施例2、3の結果は表1にまとめた。
【0066】
[比較例1,2,3,4]
撹拌時の塗工液の温度を比較例1では25℃、比較例2では40℃、比較例3では80℃、比較例4では90℃に変更した以外は実施例1と同様にして塗工液を作製し、同様の評価を実施した。比較例1、2、3、4の結果は表1にまとめた。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる分散工程と、
前記分散工程で得られる分散液に、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液を加え、50〜70℃に加温して撹拌するセルロース誘導体混合工程とを含む塗工液の製造方法。
【請求項2】
前記無機層状化合物はスメクタイト族鉱物である請求項1に記載の塗工液の製造方法。
【請求項3】
前記無機層状化合物は、セルロース誘導体に対して0.5〜5の範囲の重量比で配合される請求項1または2に記載の塗工液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で得られる塗工液を、塗工し、乾燥して得られる光学フィルム。

【公開番号】特開2011−195697(P2011−195697A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63634(P2010−63634)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】