説明

塗工液の評価方法

【課題】塗工液が正常であるか否かを容易に評価することができる塗工液の評価方法を提供すること。
【解決手段】マイクロ流路10に、塗工液を通過させ、通過時における当該塗工液の動作に基づいて、塗工液の評価を行うことを特徴とするものである。マイクロ流路は、その表面に凹部が設けられた第1の基材(1)と第2の基材(2)とが接合され、第1の基材(1)と第2の基材(2)との接合部に凹部によって形成される貫通孔3が形成されてなるマイクロ流路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーフィルタや、薄膜トランジスタアレイ(TFT)等に代表されるデバイスの製造には、各種の塗工液が用いられており、これらの塗工液は、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター、バーコーター等の各種の塗工手段を用いて基材表面等に塗工される。デバイスを製造するに際し、塗工される塗工液に異常がある場合、例えば、塗工液中に異物が含まれている場合には、製造される最終製品に品質不良が生ずる。したがって、塗工される塗工液が正常であるか否かを適切に評価することは製造上非常に重要であり、粘度評価、表面張力評価、レオロジ特性、粒度分布評価、Z電位などの様々な手法を用いて塗工液の物性評価が行われている。
【0003】
しかしながら、上記の評価手法を用いて塗工液の評価を行い、異常がないと評価された場合であっても、塗工液を塗工機まで搬送する間に突発的に塗工液に異物が含まれてしまう場合がある。塗工液中に含まれる異物は最終製品の信頼性の低下に直結するために、異物の発生を防止するためには、どの段階で異物が含まれてしまうのかを正確に見極める必要がある。また、異常がないとされている塗工液であっても、実際には異物が含まれている場合もあり、信頼性を高めるためには、製造開始前に用いるべき塗工液についても異物の評価を行う必要がある。
【0004】
上記の問題に対し、異物発生の要因や、異物の成分を評価すべく、メンブレムフィルタ等を用いて異物をトラップする試みも行われているが、高精度化が要求される分野においては、数十μm程度の異物の存在も問題となることから、この試みでは、トラップ後の可視化評価や、成分分析が困難である。また、その他の方法として、特許文献1には、液体を充填した透明容器と、透明容器を回転自在に支持する載置台と、載置台を同心円上に複数個配置して搬送する検査ロータと、透明容器を照明する照明手段と、透明容器を撮像するカメラとを備えた異物検査装置を用い、載置台及び透明容器に任意時間のあいだ任意回転パターンの回転を与えて、透明容器内の異物を回転の前後で異なる位置に移動させ、回転の前後で透明容器をカメラで撮像することで液体中の異物を検出する液体中の異物検査方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、異物の検査を行うにあたり、検査に供するための液体を別途用意する必要があり、検査が煩雑となるといった問題や、依然として、製造中における異物発生のタイミングの特定ができないといった問題がある。したがって、現状、塗工液中に含まれる異物による品質不良に対する対策としては、塗工液の変更や、塗工液の搬送経路の洗浄、塗工装置の洗浄を行うにとどまっており、異物が発生するタイミングや、異物の成分を特定するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−210315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、塗工液が正常であるか否かを容易に評価することができる塗工液の評価方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、塗工液の評価方法であって、マイクロ流路に、塗工液を通過させ、通過時における当該塗工液の動作に基づいて、塗工液の評価を行うことを特徴とする。
【0008】
前記塗工液の評価を、前記通過時における塗工液の動作を可視化する可視化手段によって行うこととしてもよい。
【0009】
また、前記塗工液の評価を、塗工液を搬送するメインライン中で行ってもよい。また、前記塗工液の評価を、塗工液を搬送するメインラインから分岐されたサブライン中で行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗工液が正常であるか否かを容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マイクロ流路の一例を示す概略断面図である。
【図2】(a)は図1のマイクロ流路の概略断面図であり、(b)は図1のマイクロ流路の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の塗工液の評価方法について具体的に説明する。本発明の塗工液の評価方法は、マイクロ流路に、塗工液を通過させ、通過時における当該塗工液の動作に基づいて、塗工液の評価を行うことを特徴とするものである。つまり、マイクロ流路に塗工液を通過させ、通過時の動作に基づいて評価をするとの要件を満たせば他の要件について特に限定されることはない。
【0013】
本明細書において、「通過時における塗工液の動作」とは、読んで字の如く「マイクロ流路を通過する際の塗工液の動きや流れ」のことを意味する。つまり、異物が含まれておらず、正常な塗工液の流れを基準とした場合、塗工液中に異物が含まれていると当該異物がマイクロ流路に詰まったり、詰まりはしなくても引っ掛かりながら通過したりすることとなり、その結果、前記塗工液の基準となる流れとは異なる動きや流れが発生する。また、塗工液の流れや動きは、異物のあるなしのみならず、異物の種類やその大きさ、さらには異物の含有量などによっても種々に変化するものである。したがって、マイクロ流路を通過する塗工液の流れを注視することで、塗工液が正常であるか否かの評価をすることができる。
【0014】
(塗工液)
本明細書において、「塗工液」とは、各種デバイスの製造時に塗工される液体のことを意味する。したがって、本発明の評価方法では、各種デバイスの製造時に塗工されるあらゆる液体を適宜選択して用いることができ、この要件以外について何ら限定されるものではない。例えば、有機溶液であってもよく、無機溶液であってもよい。なお、微細加工が要求されるデバイス分野では、塗工液中の微小な異物の存在が最終製品に大きな影響を与えることから、本発明の評価方法は、微細加工が要求されるデバイス分野に用いられる塗工液、例えば、レジスト液等が正常であるか否かの評価をする際に特に好適である。
【0015】
(マイクロ流路)
本明細書において、「マイクロ流路」とは、塗工液に含まれる所定の大きさ以上の異物が、トラップされるような形状寸法に形成された流路をいう。より具体的には、塗工液中に所定の大きさ以上の異物が含まれている場合に、所定の大きさ以上の異物以外は通過させ、所定の大きさ以上の異物が通過することができない形状寸法に形成された流路をいう。
【0016】
以下、マイクロ流路の一例を、図1、図2を用いて説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、例えば、特開2008−232655号公報に開示がされているマイクロチャネルアレイ等も使用することができる。なお、図1はマイクロ流路の上面図であり、図2(a)は、図1のマイクロ流路の概略断面図であり、図2(b)は図1のマイクロ流路の概略斜視図である。
【0017】
図1、2に示すマイクロ流路は、その表面に凹部が設けられた第1の基材(1)と第2の基材(2)とが接合され、第1の基材(1)と第2の基材(2)との接合部に凹部によって形成される貫通孔3が形成されてなるマイクロ流路である。なお、図1、及び図2(b)では、説明の便宜上、第2の基材は省略している。
【0018】
第1の基材(1)、第2の基材(2)の材料について特に限定はないが、本発明の塗工液の評価は、マイクロ流路を通過する塗工液の動作に基づくものである。したがって、この点を考慮すると、少なくとも第1の基材(1)、第2の基材(2)の一方は、ガラス基材等の透明性を有する基材であることが好ましい。
【0019】
また、上記では、第1の基材の表面に凹部が設けられた構成のマイクロ流路について説明を行っているが、第1の基材(1)上に、第1の基材(1)と同一の材料、又は他の材料を用いて2以上の凸部を形成し、凸部と凸部とによって凹部が形成されたマイクロ流路であってもよい。
【0020】
図2は、貫通孔3を説明するための断面図である。図2に示すように、貫通孔3の断面形状は、凹部の幅である流路幅(W)と、凹部の深さ(T)によって決定される。貫通孔3の大きさについて特に限定はなく、塗工液に異物が含まれている場合に、正常な塗工液の流れとは異なる動きや流れが発生するような動作が生ずる大きさであればよい。例えば、最終製品に支障を及ぼす大きさの異物が通過できない大きさであってもよいし、異物が通過するものの、該異物が通過することによって正常な塗工液の流れとは異なる流れが発生する大きさであってもよい。また、貫通孔3の開口形状は、図示するように略長方形状のものに限定されるものではなく、円状、正方形状等いかなる形状であってもよい。
【0021】
貫通孔の開口形状を決定するに際しては、例えば、10μm以上の異物が最終製品に支障を及ぼす場合には、10μm以上の異物が貫通孔3を通過しないように、流路幅(W)、凹部深さ(T)を設定すればよい。また、10μm以上の異物が通過することができるものの、異物が可能した際に、該異物の存在によって塗工液の通過する流れが正常の塗工液の流れとは異なるように、流路幅(W)、凹部深さ(T)を設定することもできる。
【0022】
貫通孔3の塗工液の流れ方向の長さである流路長さ(L)についても特に限定はなく、適宜設定可能である。また、塗工液の流れ方向にむかって、貫通孔3の開口部の面積を段階的に変化させるような構成をとることもできる。この場合には、異物がどの位置で詰まる、すなわちトラップされたかに基づいて、異物の大きさを容易に確認することができる。
【0023】
貫通孔3は、図示するように塗工液の通過方向と直行する方向に所定の間隔を配して複数設けられていてもよい。このように、貫通孔3を複数配置することで、1つの貫通孔3が異物によって目詰まりを起こした場合であっても、塗工液は他の貫通孔を通過することができる。
【0024】
また、図示しないが、マイクロ流路には、貫通孔3に塗工液を流入させるための流入口と、貫通孔3を通過した塗工液を流出させるための流出口とが設けられている。
【0025】
また、本発明における塗工液の評価では、マイクロ流路を通過する塗工液の動作を可視化する可視化手段を用いて行うことが好ましい。可視化手段としては、マイクロ流路を通過する塗工液の動作を視認できる従来公知の手段を適宜選択して用いることができ、例えば、マイクロスコープ等を好適に使用することができる。
【0026】
本発明の評価方法によって評価可能な項目についても限定はないが、マイクロ流路にトラップされる、すなわち貫通孔3を通過できない異物が塗工液中に含まれているか否かに基づいて、塗工液が正常であるか否かの評価が可能である。具体的には、最終製品に支障をきたす異物がマイクロ流路を通過することができない場合には、この塗工液は異常であると評価することができる。また、貫通孔3を異物が通過できる場合であっても、正常な塗工液の流れと異なる流れが生じているか否かに基づいて、塗工液が正常であるか否かの評価を行うことも可能である。
【0027】
また、異物がトラップされることで塗工液が異常であると評価された場合に、マイクロ流路の貫通孔3を通過した塗工液の総量と、トラップされた異物の総量とから、塗工液中に含まれる異物の含有量を評価することもできる。さらに、マイクロ流路を通過できない異物を採取し、該異物を成分分析することで、異物の成分を評価することができる。これ以外にも、後述する塗工液を塗工機に搬送する搬送経路中における異物の発生タイミングを、本発明の評価方法に基づいて評価することで、搬送中における問題点を特定することができる。
【0028】
また、本発明の塗工液の評価は、(i)製造に用いる前の塗工液の評価であってもよく、(ii)塗工機に搬送中の塗工液の評価であってもよい。上記(i)の評価によれば、製造を行う前の塗工液が正常であるか否かを評価することができる。一方(ii)の評価によれば、搬送中のどの段階で塗工液に異常が生じているかを評価することで、結果として、搬送中に塗工液に影響を及ぼす要因を特定することができる。
【0029】
上記(i)の場合には、例えば、シリンジ等を用いて塗工液をマイクロ流路に通過させる方法によって、塗工液を評価することができる。
【0030】
上記(ii)の場合には、塗工液を塗工機に搬送するまでの経路における任意の搬送経路中にマイクロ流路を設けることで、搬送経路中の塗工液の評価が可能となる。例えば、搬送経路中に異物を除去するためのフィルタを設け、該フィルタを通過した塗工液を、搬送経路中に設けられたマイクロ流路に通過させることで、フィルタ通過後の塗工液の評価を行うことができる。例えば、この評価時に、フィルタの開口形状以上の異物がマイクロ流路にトラップされる動作が確認された場合には、フィルタ性能に問題があると判断することができる。
【0031】
また、最終製品に塗工液中に含まれる異物に起因する不具合が生じている場合には、塗工液を塗工機に搬送するまでの経路、例えば、塗工液の溶液タンクから塗工液まで搬送するまでの搬送経路中における複数の箇所にマイクロ流路を設けることで、どの段階で塗工液に異物が含まれているのかを評価することができる。例えば、搬送経路中において塗工液にせん断力が加わる場合には、せん断力がかかる前後の塗工液の評価を行うことで、せん断力が塗工液に支障を与えるか否かを評価することができる。
【0032】
なお、上記では、搬送経路であるメインルートにマイクロ流路を設けた構成を中心に説明を行ったが、メインルートから分岐させたサブルートにマイクロ流路を設けることとしてもよい。例えばメインルートの搬送経路は流量が多くなるようにし、サブルートにマイクロ流路を設けることとすれば、搬送流量を低減させることなく、塗工液を搬送することが可能である。
【0033】
以上、本発明の塗工液の評価方法について説明を行ったが、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記では、塗工液の評価について、塗工液に含まれる異物の有無を中心に説明を行ったが、異物が含まれない場合であっても、正常な塗工液とは異なる粘度である場合には、マイクロ流路を通過時の流速が、正常な塗工液の流速とは異なる。したがって、マイクロ流路を通過する塗工液の流速に基づいて塗工液が正常であるか否かの評価を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…第1の基材
2…第2の基材
3…貫通孔
10…マイクロ流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工液の評価方法であって、
マイクロ流路に、塗工液を通過させ、通過時における当該塗工液の動作に基づいて、塗工液の評価を行うことを特徴とする塗工液の評価方法。
【請求項2】
前記塗工液の評価を、前記通過時における塗工液の動作を可視化する可視化手段によって行うことを特徴とする請求項1に記載の塗工液の評価方法。
【請求項3】
前記塗工液の評価を、塗工液を搬送するメインライン中で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗工液の評価方法。
【請求項4】
前記塗工液の評価を、塗工液を搬送するメインラインから分岐されたサブライン中で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗工液の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−11510(P2013−11510A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144246(P2011−144246)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】