説明

塗工物の製造方法及び塗工物

【課題】金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する塗工物の製造方法、及び塗工物を提供する。
【解決手段】本発明は、[A]重合体を含有する定着層形成用組成物により基材上に定着層を形成する定着層形成工程と、[B]金属ナノ粒子を含有する金属塗工層形成用組成物を上記定着層上に塗工し、金属塗工層を形成する金属塗工層形成工程とを有する塗工物の製造方法である。また、上記重合体は、漆、ポリウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴム、及びアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子を含有する塗工物の製造方法及び塗工物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体、アルミホイール等の自動車部品や携帯電話、パソコン等の電化製品、木材、紙、布、石材、樹脂等を基材とする工芸製品等の外観において優れた意匠性が求められており、金属調光沢を物品の表面に付与する技術が要請されている。従来、かかる技術としては、金属メッキ処理、金属蒸着処理、金箔や金泥等を用いた技術が知られている。
【0003】
しかしながら、金属メッキ処理については、基材が導電性を有するものに限られ、金属蒸着処理については、真空又は減圧容器中に基材を設置する必要があり、大型の基材を金属蒸着処理できない点等に不都合がある。また、金箔を用いることについては、工程に多大な時間を要し、金泥を用いることについては、作業性が低下する点等に不都合がある。さらに、いずれの方法においても特殊な設備が必要であり、製造コストからも代替手段の開発が望まれている。このような状況から、今日では、塗工により金属調光沢を付与する技術が開発されている。
【0004】
一方、粒子径が数nm〜数10nm程度の金属ナノ粒子は、溶液中で均一に分散しコロイド溶液の形態をとり、その特徴を活かして種々の分野で利用されている。例えば、特開平11−080647号公報には、金属ナノ粒子及び高分子顔料分散剤を含有するコロイド溶液が塗料等に利用できることが開示されている。
【0005】
しかしながら、かかるコロイド溶液を塗料として基材に塗工した場合、基材と金属塗工層間の実用的な密着性が乏しく、摩擦、熱、水等に対して金属塗工層が剥離し易いという不都合がある。また、上記塗料は墨液等と同様の手軽さで造形、描画、揮毫等をすることができず、細線や線の強弱、曲線、かすれ等を自由に表現した塗工は困難である。
【0006】
このように、金属調光沢を種々の基材表面に付与する塗工技術は未だ完成されたものではなく、更なる技術開発が必要な状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−080647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる不都合に鑑みてなされたものであり、金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する塗工物の製造方法及び塗工物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
[A]重合体を含有する定着層形成用組成物により基材上に定着層を形成する定着層形成工程(以下、「定着層形成工程[A]」と称することがある。)と、
[B]金属ナノ粒子を含有する金属塗工層形成用組成物を上記定着層上に塗工し、金属塗工層を形成する金属塗工層形成工程(以下、「金属塗工層形成工程[B]」と称することがある。)と
を有する塗工物の製造方法である。
【0010】
当該製造法によれば、定着層形成工程により基材上に定着層を形成することで、金属塗工層形成工程で定着層上に形成された金属塗工層に含有される金属ナノ粒子が、定着層の表面近傍領域に定着する。これにより、摩擦、熱、水等に対する金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、塗工物に金属調光沢の外観が付与される。また幅広い種々の基材に対して、墨液等と同様の手軽さで造形、描画、揮毫等が可能となり、さらには、細線や線の強弱、曲線、かすれ等を自由に表現した塗工も可能となり、結果として、優れた意匠性を有する塗工物を製造できる。また、当該製造方法は比較的簡易な工程を有することから、コスト面でも有利である。
【0011】
上記重合体は、漆、ポリウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」と称することがある。)及びアクリロニトリルブタジエンゴム(以下、「NBR」と称することがある。)からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。定着層形成用組成物が、これらの好ましい重合体を含有することで、定着層は金属ナノ粒子の浸透に対する適度な空隙及び親和性を有し、より優れた金属ナノ粒子の定着性を実現できる。また、基材と定着層間の密着性の向上にも寄与する。
【0012】
上記基材の構成材料は、無機材料、樹脂材料、木材及び繊維材料からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。当該製造方法は、かかる幅広い構成材料の基材についても実施でき、優れた意匠性を有する塗工物が得られる。
【0013】
上記無機材料は、金属、ガラス、コンクリート及び岩石からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましく、上記樹脂材料は、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称すことがある。)、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましく、上記繊維材料は、紙、布、不織布、ガラス繊維、炭素繊維及びこれら2種以上を含有する複合材料からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらの好ましい基材は、従来、金属調光沢を付与することが困難な基材であったものの、本発明によると優れた意匠性を有する塗工物が得られる。
【0014】
上記金属ナノ粒子の構成金属は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム、ケイ素及びこれらのうち2種以上の構成金属を含有する合金からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらの好ましい構成金属を有する塗料は、従来、塗工が困難であったが、当該製造方法により格段に塗工容易性が向上される。
【0015】
上記金属塗工層形成用組成物は、高分子顔料分散剤を含有することが好ましい。金属塗工層形成用組成物が高分子顔料分散剤を含有することで、分散安定性が向上し、結果として、定着層に対する親和性が増し、定着層への適度な浸透が向上する。
【0016】
上記金属塗工層形成工程における塗工手段は、ペン先、カラス口、へら、刷毛、筆、ローラー及びスプレーからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。当該製造方法により、かかる好ましい塗工手段によっても、幅広い種々の基材に対して、自由に表現した塗工が可能となり、結果として、優れた意匠性を有する金属調光沢が付与された塗工物を製造できる。
【0017】
上記基材が、表面に凹凸形状を有していてもよい。基材の表面が、凹凸形状を有する場合であっても、当該製造方法によれば、金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する塗工物を製造できる。また、自由に表現した塗工が可能となる。
【0018】
当該製造方法は、[C]重合体を含有する保護層形成用組成物により、少なくとも上記金属塗工層上に保護層を形成する保護層形成工程(以下、「保護層形成工程[C]」と称することがある。)をさらに有することが好ましい。保護層を形成することで、定着層に定着した金属ナノ粒子が摩擦、熱、水等からより強固に保護され、優れた金属調光沢を維持できる。また、透明性を有することから保護層を形成した後も優れた金属調光沢を視認できる。
【0019】
上記保護層形成用組成物の含有する重合体が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリシラザン、ポリオルガノシロキサン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を用いて形成されることが好ましい。保護層形成用組成物が、これらの好ましい重合体を含有することで、定着層に定着した金属ナノ粒子がより強固に保護される。
【0020】
当該製造方法により製造される塗工物は、金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、当該製造方法によると、摩擦、熱、水等に対する金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、塗工物に金属調光沢の外観が付与される。また、コロイド溶液中の固体物の含有濃度を高くする必要がなく作業性が向上し、幅広い種々の基材に対して、墨液等と同様の手軽さで造形、描画、揮毫等が可能となり、さらには、細線や線の強弱、曲線、かすれ等を自由に表現した塗工も可能となり、結果として、優れた意匠性を有する塗工物を製造できる。また、当該製造方法は比較的簡易な工程を有することから、コスト面でも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる塗工物の製造方法は、少なくとも定着層形成工程[A]及び金属塗工層形成工程[B]を有する。また、必要に応じ、さらに保護層形成工程を有してもよい。以下、各工程を詳細に説明する。
【0023】
[定着層形成工程[A]]
定着層形成工程[A]とは、重合体を含有する定着層形成用組成物により基材上に定着層を形成する工程である。定着層形成工程[A]により、基材上に定着層を形成することで、金属塗工層形成工程[B]で定着層上に形成された金属塗工層に含有される金属ナノ粒子が、定着層の表面近傍領域に定着する。これにより摩擦、熱、水等に対する金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、塗工物に金属調光沢の外観が付与される。また、幅広い種々の基材に対して、墨液等と同様の手軽さで造形、描画、揮毫等が可能となり、さらには細線や線の強弱、曲線、かすれ等を自由に表現した塗工も可能となり、結果として、優れた意匠性を有する金属調光沢が付与された塗工物を製造できる。
【0024】
(基材)
上記基材の構成材料としては、例えば無機材料、樹脂材料、木材、及び繊維材料が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。当該製造方法は、かかる幅広い構成材料の基材についても実施でき、優れた意匠性を有する塗工物が得られる。上記無機材料としては、金属、ガラス、コンクリート及び岩石等が好ましい。なお、金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、これらのうち2種以上の構成金属を含有する合金等が挙げられる。上記樹脂材料としては、ポリエチレン樹脂、PET、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂及びエポキシ樹脂が好ましい。上記繊維材料としては、紙、布、不織布、ガラス繊維、炭素繊維及びこれら2種以上を含有する複合材料が好ましい。なお、上記の基材の構成材料を2種以上併用する場合としては、例えば、基材の一部が樹脂材料であって他の樹脂材料以外の部分が木材である場合や、樹脂材料の上にアルミニウムが重ねられた2層構造の基材であって、そのアルミニウムの一部がくり抜かれ樹脂材料及び/又はアルミニウムに塗工が可能な場合等の形態が挙げられる。これらの好ましい基材は、従来、金属調光沢を付与することが困難な基材であったものの、本発明によると優れた意匠性を有する塗工物が得られる。
【0025】
上記基材は、表面に凹凸形状を有していてもよい。基材の表面が、凹凸形状を有する場合であっても、当該製造方法によれば、金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する塗工物を製造できる。また、自由に表現した塗工が可能となる。基材の表面が凹凸形状を有する場合又は基材の表面に凹凸形状を形成する方法としては、基材が元来凹凸を有している場合、基材表面に機械的加工を施す場合、凹凸が形成された型を基材に圧力をかけて押しつける方法、架橋樹脂粒子等の有機微粒子や無機微粒子を含ませた塗料を塗工して表面に凹凸が形成された塗膜を形成する方法、フォトリソグラフィー法を用い感光性樹脂層の表面に凹凸を形成する方法が挙げられる。
【0026】
(定着層形成用組成物)
定着層形成用組成物は、重合体を含有する。また、必要に応じ、溶媒、任意成分を含有してもよい。
【0027】
(重合体)
上記定着層形成用組成物の重合体としては、漆、ポリウレタン樹脂、合成ゴム、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂等が挙げられる。これらのうち、漆、ポリウレタン樹脂及び合成ゴムが好ましく、漆、ポリウレタン樹脂、SBR及びNBRがより好ましく、漆及びポリウレタン樹脂が特に好ましい。定着層形成用組成物が、これらの好ましい重合体を含有することで、定着層は金属ナノ粒子の浸透に対する適度な空隙及び親和性を有し、より優れた金属ナノ粒子の定着性を実現できる。また、基材と定着層間の密着性の向上にも寄与する。これらは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記漆としては、例えば、ラッカーゼを含有するウルシオールを主成分とする天然の生漆や精製漆を用いることができるが、ウルシオールと化学構造が近似したラッコール、チチオール等を含む漆を使用してもよい。また、カシューオイル、乾性油等のいわゆる合成漆にラッカーゼを添加したもの又はこれらの合成漆と天然の漆の混合物を使用することもできる。
【0029】
上記ポリウレタン樹脂としては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物との反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート及びこれらの混合物、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、及びこれらの混合物、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
上記合成ゴムとしては、例えば、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、SBR、NBR、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0031】
上記アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーとエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル等のエステル化物類;アクリル酸又はメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物類等が挙げられる。これらと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0032】
上記ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂が挙げられ、例えば多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の飽和多塩基酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和多塩基酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール等が挙げられる。
【0033】
上記アルキド樹脂としては、例えば、上記多塩基酸と多価アルコールに、さらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂が挙げられる。
【0034】
上記エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。また、市販品を使用することもでき、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(以上、シェルケミカル社)が挙げられ、また適当な鎖延長剤を用いてこれらを鎖延長したものを用いることもできる。
【0035】
上記ポリエーテル樹脂としては、例えば、エーテル結合を有する重合体又は共重合体が挙げられ、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等が挙げられる。また上記ポリエーテル樹脂と、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸類、又はこれらの酸無水物等の反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂が挙げられる。
【0036】
定着層形成用組成物中の重合体の含有量(濃度)としては、定着層上に塗工される金属塗工層形成用組成物の種類に合わせて任意に設定することができるが、通常5%以上95%以下、好ましくは20%以上80%以下である。重合体の含有量(濃度)が5%未満の場合、定着層の形成が困難となる。重合体の含有量(濃度)が95%を超えると、定着層の密度が高くなり、金属塗工層形成用組成物の適度な浸透性が確保できなくなる。
【0037】
(溶媒)
定着層形成用組成物は、上記の重合体の種類に応じて適宜溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、後述する金属塗工層形成用組成物が含有することができる溶媒と同様のものが挙げられる。
【0038】
(任意成分)
上記定着層形成用組成物は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、上記成分の他に沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜含有することができる。
【0039】
(定着層の形成方法)
定着層の形成方法としては、例えば定着層形成用組成物を基材上に塗工し、必要に応じ加熱することで形成する。定着層形成用組成物の塗工方法としては、例えば、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、シルクスクリーン、インクジェット等の機具を用いたり、刷毛や絵筆等による塗布、ヘラ等によるしごき塗り、浸漬よる方法、電気泳動によっても行うことが可能である。上記塗布方法の中では、薄く均一な塗膜形成に優れることから、スプレー塗装が好ましい。また、上記加熱の方法は特に限定されず、例えばガス炉、電気炉、IR炉などを、加熱炉として使用することができる。
【0040】
定着層の塗工厚としては、上記重合体の含有量(濃度)、塗工方法等により変化させることができ、用途に合わせて任意に設定することができるが、通常1μm以上500μm以下、好ましくは5μm以上300μm以下である。定着層形成用組成物の塗工量が、1μm未満の場合、基材にまで金属塗工層形成用組成物が浸透してしまう恐れがある。定着層形成用組成物の塗工量が、500μmを超えると、定着層の凝集破壊による金属塗工層の離脱、基材の割れ、基材の表面形状の変化等を引き起こす可能性がある。
【0041】
[金属塗工層形成工程[B]]
金属塗工層形成工程[B]とは、金属ナノ粒子を含有する金属塗工層形成用組成物を上記定着層上に塗工し、金属塗工層を形成する工程である。金属塗工層形成工程[B]で定着層上に形成された金属塗工層に含有される金属ナノ粒子が、定着層の表面近傍領域に定着する。これにより、摩擦、熱、水等に対する金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、塗工物に金属調光沢の外観が付与される。また幅広い種々の基材に対して、墨液等と同様の手軽さで造形、描画、揮毫等が可能となり、さらには、細線や線の強弱、曲線、かすれ等を自由に表現した塗工も可能となり、結果として、優れた意匠性を有する金属調光沢が付与された塗工物を製造できる。
【0042】
(金属塗工層形成用組成物)
金属塗工層形成用組成物は、金属ナノ粒子を含有する。また、金属塗工層形成用組成物は、高分子顔料分散剤を含有することが好ましく、必要に応じ、還元剤等の任意成分を含有してもよい。なお、金属塗工層形成用組成物は、通常、溶媒を含有する。
【0043】
(金属塗工層形成用組成物の調製方法)
金属塗工層形成用組成物の調製方法としては、例えば、溶液中、金属ナノ粒子を与える化合物を後述する高分子顔料分散剤及び還元剤の存在下で還元し、次いで、限外濾過装置により濃縮し金属塗工層形成用組成物が得られる。なお、金属ナノ粒子の粒子径は、電子顕微鏡写真からの画像解析により測定し、体積基準のメジアン径で表示する。
【0044】
(金属ナノ粒子)
上記金属ナノ粒子の構成金属としては、金属全般が挙げられるが金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム、ケイ素、これらのうち2種以上の構成金属を含有する合金からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらの好ましい構成金属を有する塗料は、従来、塗工が困難であったが、当該製造方法により格段に塗工容易性が向上される。
【0045】
上記金属ナノ粒子を与える化合物としては、例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物(以下、「塩化金酸」と称することがある。)、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、塩化白金酸カリウム、塩化パラジウム(II)二水和物、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、硫酸銅(II)、三塩化ロジウム(III)三水和物等が挙げられる。これらのうち、塩化金酸及び硝酸銀が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記金属塗工層形成用組成物中の上記化合物の含有量は、限外濾過処理前の溶液において、金属ナノ粒子のモル濃度が0.01mol/l以上となるような含有量が好ましく、0.05mol/l以上がより好ましく、0.1mol/l以上が特に好ましい。
【0047】
(高分子顔料分散剤)
金属塗工層形成用組成物は、高分子顔料分散剤をさらに含有することが好ましい。金属塗工層形成用組成物が高分子顔料分散剤を含有することで、金属ナノ粒子の分散安定性が向上し、結果として、定着層に対する親和性が増し、定着層への適度な浸透が向上する。
【0048】
上記高分子顔料分散剤としては、顔料である金属ナノ粒子に対する親和性の高い官能基とともに溶媒親和性部分も含む両親媒性の高分子量の共重合体であって、顔料親和性基を主鎖及び/又は複数の側鎖に有し、かつ、溶媒親和性部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子等が挙げられる。
【0049】
上記顔料親和性基とは、顔料の表面に対して強い吸着力を有する官能基をいい、例えば第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等を挙げることができる。上記顔料親和性基は、金属に対して強い親和性を示し、上記高分子分散剤が、顔料親和性基を有することで、金属の保護コロイドとして充分な性能を発揮することができる。
【0050】
上記櫛形構造の高分子は、上記顔料親和性基を有する複数の側鎖とともに、溶媒親和性部分を構成する複数の側鎖を主鎖に結合した構造のものであり、これらの側鎖があたかも櫛の歯のように主鎖に結合されているものである。上記櫛形構造の高分子において、顔料親和性基は、側鎖末端に限らず、側鎖の途中や主鎖中に複数存在していてもよい。なお、上記溶媒親和性部分は、溶媒に親和性を有する部分であって、親水性又は疎水性の構造をいう。上記溶媒親和性部分は、例えば、親水性の重合鎖、親油性の重合鎖等から構成されている。
【0051】
上記高分子顔料分散剤としては、例えば、特開平11−80647号公報で記載されたものが挙げられる。また、市販品を使用することもでき、例えば、
ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32550、ソルスパース35100、ソルスパース37500、ソルスパース41090(以上、ルーブリゾール社);
ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック2000、ディスパービック2001(以上、ビックケミー製);
ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、エフカアディティブズ社);
フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W(以上、共栄社);
アジスパーPA111、アジスパーPB711、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911(以上、味の素社);
ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記高分子顔料分散剤の数平均分子量としては、1,000以上1,000,000以下が好ましく、2,000以上500,000以下がより好ましく、4,000以上500,000以下が特に好ましい。高分子顔料分散剤の数平均分子量が、1,000未満であると、分散安定性が充分でなく、1,000,000を超えると粘度が高すぎて取扱いが困難となる。なお、本明細書にいう「数平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0053】
上記高分子顔料分散剤の使用量としては、上記金属ナノ粒子を与える化合物と高分子顔料分散剤との合計量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。30質量%を超えると、濃縮工程で限外濾過処理を行っても、溶液における金属ナノ粒子の濃度を所望の濃度に高めることができない場合がある。
【0054】
(還元剤)
上記金属ナノ粒子を与える化合物の還元においては、アミン、アルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミン、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、ギ酸、ホルムアルデヒド等の還元剤が用いられる。これらのうち、入手が容易であることから、アミン、クエン酸、酒石酸及びアスコルビン酸が好ましく、加熱や特別な光照射装置を必要とせず、かつ、危険性が低く有害性の少ないアミンがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
還元の方法としては、例えば、上記金属ナノ粒子を与える化合物と高分子顔料分散剤を含有する溶液に還元剤を添加して撹拌、混合することにより、金属イオンが常温付近で金属に還元される。反応温度としては、通常5℃以上100℃以下程度であり、20℃以上80℃以下程度が好ましい。
【0056】
上記アミンとしては、例えば、
プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;
ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリン等の脂環式アミン;
アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;
ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルキシリレンジアミン等のアラルキルアミン;
メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらのうち、アルカノールアミンが好ましく、ジメチルアミノエタノールがより好ましい。
【0057】
上記還元剤の添加量は、上記金属ナノ粒子を与える化合物中の金属の還元に必要な量以上であることが好ましい。この量未満であると、還元が不充分となるおそれがある。また上限は特に規定されないが、上記金属ナノ粒子を与える化合物中の金属の還元に必要な量の30倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。また、還元剤を添加する方法以外に、高圧水銀灯を用いて光照射する方法を使用することもできる。
【0058】
(溶媒)
金属塗工層形成用組成物は、通常、溶媒を含有する。溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒及びその混合溶媒等が挙げられる。
【0059】
アルコール系溶媒としては、例えば、
メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール系溶媒;
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0060】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン等が挙げられる。
【0061】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0062】
エステル系溶媒としては、例えばジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸iso−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等が挙げられる。
【0063】
その他の溶媒としては、例えば、
n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、iso−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、iso−プロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、iso−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−iso−プロピルベンゼン、n−アミルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒等を挙げることができる。
【0064】
これらのうち、水、エタノールが好ましい。なお、これらの溶媒は、単独又は2種以上を併用できる。
【0065】
(任意成分)
上記金属塗工層形成用組成物は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、上記成分の他に脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜含有することができる。
【0066】
(金属塗工層形成用組成物の塗工手段)
上記金属塗工層形成工程[B]における塗工手段は、特に限定されず、上記基材に塗工され得る公知のあらゆる塗工手段が挙げられる。これらのうちペン先、カラス口、へら、刷毛、筆、ローラー及びスプレーからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。当該製造方法により、かかる好ましい塗工手段によっても、幅広い種々の基材に対して、自由に表現した塗工が可能となり、結果として、優れた意匠性を有する金属調光沢が付与された塗工物を製造できる。なお、上記塗工手段を2回以上繰り替えし、金属塗工層を2層以上としてもよい。
【0067】
[保護層形成工程[C]]
当該製造方法は、必要に応じ、さらに保護層形成工程[C]を有してもよい。保護層を形成することで、定着層に定着した金属ナノ粒子が摩擦、熱、水等からより強固に保護され、優れた金属調光沢を維持できる。また、透明性を有することから保護層を形成した後も優れた金属調光沢を視認できる。
【0068】
(保護層形成用組成物)
保護層形成用組成物としては、通常、クリヤー塗料が挙げられる。クリヤー塗料としては、例えば、無色クリヤー塗料、艶消しクリヤー塗料等が挙げられる。またこれらのクリヤー塗料を組み合わせて用い2層以上のクリヤー塗膜を形成してもよい。
【0069】
上記無色クリヤー塗料の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリシラザン、ポリオルガノシロキサン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上であるもの等と架橋剤とを混合したものが挙げられる。保護層形成用組成物が、これらの好ましい重合体を含有することで、定着層に定着した金属ナノ粒子がより強固に保護される。
【0070】
上記無色クリヤー塗料を用いた場合の保護層の乾燥膜厚としては、10μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましい。乾燥膜厚が当該範囲であることで、定着層に定着した金属ナノ粒子が摩擦、熱、水等からより強固に保護され、優れた金属調光沢を維持する効果を奏する。
【0071】
上記無色クリヤー塗料は有機溶剤型塗料、水性塗料又は無溶剤のいずれの形態であってもよい。有機溶液型塗料又は水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。
【0072】
上記艶消しクリヤー塗料としては、例えば、上記無色クリヤー塗料の材料として挙げたものと同様のもの及び艶消し剤を含むものが挙げられる。艶消し剤としては、例えば樹脂微粒子、無機微粒子等が挙げられる。上記樹脂微粒子としては、ポリアクリロニトリル、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。樹脂微粒子の平均粒径としては、10μm以上25μm以下が好ましい。10μm未満では、深みのある艶消し感の発現が不充分になり、触感が滑らかになり過ぎる。また、25μmを超えると、艶消しクリヤー塗膜の表面凹凸が荒くなり、ざらつきの大きな触感を与える。上記無機微粒子としては、例えば、シリカ微粉末、クレー、タルク、雲母等が挙げられる。無機微粒子の平均粒径は1〜5μmであることが好ましい。1μm未満であると、深みのある艶消し感の発現が不充分になり、触感が滑らかになり過ぎる。また5μmを超えると、艶消しクリヤー塗膜の表面凹凸が荒くなり、触感もざらつきが大きくなる。上記樹脂微粒子と無機微粒子は併用してもよい。
【0073】
上記艶消しクリヤー塗料を用いた場合の保護層の乾燥膜厚としては、10μm以上50μm以下が好ましく、20μm以上40μm以下がより好ましい。10μm未満では、深みのある艶消し感を発現し難く、50μmを超えると塗膜外観不良を生じる場合がある。
【0074】
上記艶消しクリヤー塗料は、有機溶剤型塗料、水性塗料又は無溶剤のいずれの形態であってもよい。有機溶剤型塗料及び水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型樹脂を用いてもよい。このように艶消しクリヤー塗料を用いて形成した艶消しクリヤー塗膜を、120℃から160℃で所定の時間焼き付けることにより、保護層を得ることができる。
【0075】
当該製造方法により製造される塗工物は、金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0077】
実施例の製造方法で用いられる基材及び定着層形成用組成物に含有される重合体の詳細を以下に示す。なお、比較例の製造方法で用いられる基材も同様のものを使用する。
【0078】
(基材)
PET(PET射出成型品)
紙(土佐麻紙)
石材(御影石)
【0079】
(定着層形成用組成物に含有される重合体)
漆(渡辺商店、生正味)
ポリウレタン樹脂(ワシン社、ウレタンラッカー)
SBR(DIC社、ラックスター 7310−K)
NBR(DIC社、ラックスター 1570B)
【0080】
(製造例1)
金属塗工層形成用組成物aの調製
2Lのコルベンに、高分子顔料分散剤(ディスパービック191、ビックケミー社)6.2g及びエタノール280.2gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、高分子顔料分散剤が溶解するまで50℃で撹拌した。次いで、金属ナノ粒子を与える化合物として塩化金酸30.0gをエタノール280.2gに溶解させたものを撹拌しながらコルベンに加え、50℃で10分間撹拌した。次いで、還元剤としてジメチルアミノエタノール32.4gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が63℃まで上昇した。液温が50℃に下がるまで放置し、50℃を保ちながら2時間撹拌を続け、黒っぽい紫色を呈するエタノールを溶媒とする金コロイド溶液が得られた。限外濾過モジュール(AHP1010、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ及び下部にチューブ接続口のある3Lのステンレスカップをシリコンチューブで接続することにより、限外濾過装置を作成した。上記金コロイド溶液をステンレスカップに入れて、さらに2Lのエタノールを加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2Lになった時点で、ステンレスカップに2Lのエタノールを加えた。その後、濾液の伝導度が30μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mLになるまで濃縮を行った。500mLステンレスカップ、限外濾過モジュール(AHP0013、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数100本)、チューブポンプ及びアスピレーターからなる限外濾過装置を作成した。ステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約300mLになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了し固形分10%の金コロイド溶液(以下、「金属塗工層形成用組成物a」と称することがある。)が得られた。この溶液中の金コロイド粒子の平均粒子径は22nmであった。また、TG−DTA(セイコーインスツル社)を用いて、固形分中の金の含有率を計測したところ90質量%であった。
【0081】
(製造例2)
金属塗工層形成用組成物bの調製
2Lのコルベンに、高分子顔料分散剤(ディスパービック190、ビックケミー社)12g及びイオン交換水420.5gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、高分子顔料分散剤が溶解するまで50℃で撹拌した。次いで、金属ナノ粒子を与える化合物として硝酸銀100gをイオン交換水420.5gに溶解させたものを撹拌しながらコルベンに加え、70℃で10分間撹拌した。次いで、還元剤としてジメチルアミノエタノール262gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が76℃まで上昇した。液温が70℃に下がるまで放置し、70℃を保ちながら2時間撹拌を続け、黒っぽい黄色を呈する水を溶媒とする銀コロイド溶液が得られた。得られた銀コロイド溶液を1Lのポリ瓶に移し換え、60℃の恒温室で18時間静置した。限外濾過モジュール(AHP1010、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ及び下部にチューブ接続口のある3Lのステンレスカップをシリコンチューブで接続することにより、限外濾過装置を作成した。静置後の銀コロイド溶液をステンレスカップに入れて、さらに2Lのイオン交換水を加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2Lになった時点で、ステンレスカップに2Lのエタノールを加えた。その後、濾液の伝導度が300μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mLになるまで濃縮を行った。500mLステンレスカップ、限外濾過モジュール(AHP0013、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数100本)、チューブポンプ及びアスピレーターからなる限外濾過装置を作成した。ステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約100mLになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了し固形分30%の銀コロイド溶液(以下、「金属塗工層形成用組成物b」と称することがある。)が得られた。この溶液中の銀コロイド粒子の平均粒子径は27nmであった。また、TG−DTA(セイコーインスツル社)を用いて、固形分中の銀の含有率を計測したところ96質量%であった。
【0082】
(実施例1)
約15cm角の上記PET基材に、上記漆1gをテレピン油に溶解せしめたものを、刷毛にて上記基材に塗工し、7日間常温乾燥し、定着層を形成した。次いで、上記定着層上に上記金属塗工層形成用組成物aを刷毛にて、約1.5cm×約2.0cmの矩形に塗工した。常温で60分乾燥し、金属塗工層を形成し、塗工物を製造した。
【0083】
(実施例2及び実施例3)
基材を上記の紙又は石材とすること以外は、実施例1と同様に操作して塗工物を製造した。
【0084】
(実施例4)
約30cm×約30cmの略矩形に切断した上記紙基材に、上記ポリウレタン樹脂を刷毛にて塗工し、常温乾燥させ、定着層を形成した。次いで、上記定着層上に上記金属塗工層形成用組成物aを、刷毛にて、約1.5cm×約2.0cmの矩形に塗工した。常温で60分乾燥し、金属塗工層を形成し、塗工物を製造した。
【0085】
(実施例5及び実施例6)
定着層形成用組成物に含有される重合体をSBR又はNBRとすること以外は、実施例4と同様に操作して塗工物を製造した。
【0086】
(実施例7〜12)
金属塗工層形成用組成物、基材及び定着層形成用組成物に含有される重合体を表1に示すものを使用すること以外はそれぞれ実施例1〜6と同様に操作して塗工物を製造した。
【0087】
(比較例1〜6)
定着層を形成せずに、表1に示す基材上に直接金属塗工層形成用組成物を塗工すること以外は、実施例1〜12と同様に操作して比較例1〜6を得た。
【0088】
実施例1〜12及び比較例1〜6の製造方法により製造した塗工物について、下記の性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(密着性の評価)
消しゴム(レーダーS−60、株式会社シード)を用い、塗工物を数回擦った後の金属塗工層の残留状況から、密着性を評価した。判断基準としては、実施例については、金属塗工層が全く剥離しないものを○とし、金属塗工層が部分的に剥離するが定着層上に金属塗工層の残留が一部認められるものを△、容易に金属塗工層が剥離し定着層上に金属塗工層が残留しないものを×とした。比較例については、金属塗工層が全く剥離しないものを○とし、金属塗工層が部分的に剥離するが基材上に金属塗工層の残留が一部認められるものを△、容易に金属塗工層が剥離し基材上に金属塗工層が残留しないものを×とした。
【0090】
(外観性の評価)
目視により外観性を評価した。判断基準としては、塗工物が金属調の外観を示したものを○、基材に金属塗工層形成用組成物が浸透して金属調の外観を示さなかったものを×とした。
【0091】
【表1】

【0092】
(評価)
表1から、実施例1〜12は比較例1〜6と比べ良好な密着性、外観性を示すことが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は金属塗工層の剥離が抑制され、かつ、優れた意匠性を有する外観が得られる塗工物の製造方法及び塗工物を提供するものであり、自動車内外装飾、電化製品、工芸製品等の意匠分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]重合体を含有する定着層形成用組成物により基材上に定着層を形成する定着層形成工程と、
[B]金属ナノ粒子を含有する金属塗工層形成用組成物を上記定着層上に塗工し、金属塗工層を形成する金属塗工層形成工程と
を有する塗工物の製造方法。
【請求項2】
上記重合体が、漆、ポリウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴム及びアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の塗工物の製造方法。
【請求項3】
上記基材の構成材料が、無機材料、樹脂材料、木材及び繊維材料からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1又は請求項2に記載の塗工物の製造方法。
【請求項4】
上記無機材料が、金属、ガラス、コンクリート及び岩石からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項3に記載の塗工物の製造方法。
【請求項5】
上記樹脂材料が、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項3に記載の塗工物の製造方法。
【請求項6】
上記繊維材料が、紙、布、不織布、ガラス繊維、炭素繊維及びこれら2種以上を含有する複合材料からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項3に記載の塗工物の製造方法。
【請求項7】
上記金属ナノ粒子の構成金属が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム、ケイ素及びこれら2種以上を含有する合金からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の塗工物の製造方法。
【請求項8】
上記金属塗工層形成用組成物が、高分子顔料分散剤を含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の塗工物の製造方法。
【請求項9】
上記金属塗工層形成工程における塗工手段が、ペン先、カラス口、へら、刷毛、筆、ローラー及びスプレーからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の塗工物の製造方法。
【請求項10】
上記基材が、表面に凹凸形状を有する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の塗工物の製造方法。
【請求項11】
[C]重合体を含有する保護層形成用組成物により、少なくとも上記金属塗工層上に保護層を形成する保護層形成工程をさらに有する請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の塗工物の製造方法。
【請求項12】
上記保護層形成用組成物の含有する重合体が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリシラザン、ポリオルガノシロキサン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項11に記載の塗工物の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の製造方法により製造される塗工物。

【公開番号】特開2011−189323(P2011−189323A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59864(P2010−59864)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】