説明

塗工紙

【課題】和紙風の風合いを有しながら、且つ印刷適性に優れた塗工紙を提供すること。
【解決手段】基材の少なくとも片面に顔料および接着剤を主成分とする塗工層を設けてなる塗工紙において、前記基材がJIS P 8117に基づく透気度が8秒未満であり、緊度が0.3g/cm3以上0.6g/cm3未満の紙であり、前記顔料が平均粒子径0.8μm未満の中空有機填料を全顔料中15〜80質量%の割合で含み、緊度が0.6g/cm3未満であることを特徴とする塗工紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙に顔料および接着剤を主成分とする塗工層を施した塗工紙に関する。特に、和紙が有する風合いと印刷適性を両立させた塗工紙に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、差別化を図り商品価値を向上させる目的で、風合いに特徴を有する紙へのニーズが高まっている。
中でも、和紙は、独特の風合い、暖かさ、美しさによって愛好されている。
和紙の風合いとして、次のような特徴がある。すなわち、表面の光沢が少なく落ち着いた外観であること、表面に凹凸感がある独特な手触りがあること、密度が小さく軽いこと、手で曲げたり押したりした際に柔軟であること等である。
ところが、これらの風合いと印刷適性とを両立させることは、従来、非常に困難であった。その主たる要因としては、和紙が非常に密度が低く軽いため、印刷時においてはインキが裏抜けし、特にカラー印刷においては鮮明な印刷が困難であった。また、近年の高速印刷化に伴い、透気度の小さい和紙は、印刷時の給紙でエアー抜け(紙を吸引して持ち上げる工程で、空気が抜けてしまう為に持ち上がらない現象)を起こしてしまい、トラブルが多発するなど問題を抱えていた。また、和紙は、洋紙に比べると印刷機内で紙粉が多く発生するために刷り版が汚れ、美麗に印刷できないなどの問題も抱えていた。
【0003】
このような問題に対し、和紙のような低密度の基材の表層に、軽量の塗工を施し、和紙の風合いと印刷適性を両立させることが考えられる。
しかし、このような基材は多くの空隙を有するため、塗工液中の顔料が基材に浸透しやすい。そのため、良好な画像を印刷できる適切な厚みの塗工層を設けようとする場合、多量に塗工する必要があり、結果として軽さと柔軟性が失われてしまう。また、上述したエアー抜けを防止する目的で塗工量を増やすと、やはり軽さと柔軟さが失われる。
【0004】
和紙の風合いを有する印刷用紙として、特許文献1では、和紙に対しキトサンと中性サイジング剤を含浸させることにより、機械適性や印刷適性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この方法では、表面強度等は改善されるものの、印刷適性については依然として不十分なものであった。
【0005】
また、特許文献2では、基材上に印刷層を設け、かつ、基材の風合い(凹凸間)を残存させる技術が開示されている。この方法は、凹凸が残存しても塗工層のクッション性によって良好な画像の印刷を可能とするものである。しかしながら、この方法では、基材の凹凸には対応できるものの、前述した基材の持つ空隙に係る問題は解決できていなかった。
さらに、特許文献3では、原紙として和紙を用い、外見を活かすための透明な塗工紙が開示されているが、和紙の表面の凹凸感がある手触り、軽さ、柔軟さと印刷適性を両立させるものではない。
特許文献4では、和紙などの基材上に、多孔質下地層と多孔質樹脂層からなるインク受理層を設け、水溶性インクを印刷後に加熱することでインク受理層を可塑化し、その上に透明樹脂層を設ける技術が開示されている。しかしながら、この方法では、和紙表面の独特の凹凸が平滑化され、その風合いが損なわれてしまうという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平5−163698号公報
【特許文献2】特開平7−166492号公報
【特許文献3】特開平11−158796号公報
【特許文献4】特開2001−328364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、和紙風の風合い(低い白紙光沢、凹凸感がある手触り、軽さ、柔軟性)と印刷適性を両立させた塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、マイグレートする性質を有する顔料を使用することによって、顔料の基材への浸透を抑制して基材の表面に集中させ、前記の問題点を解決することに想到した。
更に、特定の平均粒子径を有する中空有機填料を一定量含有させることにより、和紙の風合いを損なうことなく、良好な印刷適性をもたらすことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記
(1)基材の少なくとも片面に顔料および接着剤を主成分とする塗工層を設けてなる塗工紙において、前記基材がJIS P 8117に基づく透気度が8秒未満であり、緊度が0.3g/cm3以上0.6g/cm3未満の紙であり、前記顔料が平均粒子径0.8μm未満の中空有機填料を全顔料中15〜80質量%の割合で含み、緊度が0.6g/cm3未満であることを特徴とする塗工紙、
(2)前記塗工層の表面のJIS B 0601に基づく十点平均粗さRzが30μm以上である上記(1)に記載の塗工紙、
(3)前記中空有機填料が、中空率20〜60%であり、みかけの比重が1.0以下である有機填料である上記(1)または(2)のいずれかに記載の塗工紙、
(4)全顔料中の中空有機填料の含有量が25〜70質量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗工紙、
(5)透気度が10秒以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗工紙、
(6)塗工層における塗工量が片面あたり3〜15g/m2である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の塗工紙、
(7)JIS P 8142に定める紙及び板紙の75°鏡面光沢度試験方法で測定した光沢度が10.0%以下である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の塗工紙、
(8)和紙風の風合いを有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の塗工紙、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、和紙風の独特な風合い(低い白紙光沢、表面の凹凸感がある手触り、柔軟性、軽さ)を有し、かつ印刷適性(良好な画像、給紙適性、インキ乾燥性)にも優れた塗工紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の塗工紙の詳細を説明する。
まず、基材について述べる。
本発明の基材としては、軽さや柔軟さを持たせるために、JIS P 8117に基づく透気度が8秒未満であり、緊度が0.3g/cm3以上0.6g/cm3未満のものを用いる。なお、ここで言う緊度とは、紙の坪量(g/m2)をその厚さ(mm)で除し、それを1000で除して算出したもので、JIS P 8118に基づくものである。
透気度を8秒未満とすることにより、軽さと柔軟さの点で、和紙らしい風合いをもたらすことができる。好ましくは5秒未満、より好ましくは4秒未満、更に好ましくは3秒未満である。また、透気度が8秒未満の紙は、塗工しないと枚葉の高速印刷の際の給紙においてエアー抜けが生じてトラブルが多発する一方、塗工すると塗工液が浸透し過ぎるという問題点がある。本発明はこれを克服しており、透気度が小さい方が本発明の特徴が活かされる。尚、透気度の値が小さい方が空気を通しやすい。
緊度を0.3g/cm3以上とすることにより、塗工液が過度に浸透して印刷適性が低下することを防止することができ、0.6g/cm3未満とすることにより、軽さや柔軟さがもたらされ、和紙の風合いを有する塗工紙を得ることができる。好ましくは、0.45g/cm3以上0.55g/cm3未満、更に好ましくは、0.45g/cm3以上0.50g/cm3未満である。
【0012】
また、基材として和紙を用いることも、本発明において好ましい態様の一つである。本発明においては、塗工層の表面に凹凸を持たせるため、基材として和紙を用いてその凹凸を活かせば、より一層和紙らしい風合いとなる。また、片面塗工の場合、非塗工面においては基材が表面に出るので、それが和紙であれば、非塗工面の風合いにも優れる。
和紙の原料としては、古来使用される楮、雁皮、三椏等の靱皮繊維が好ましい。
【0013】
基材としては、塗工層の表面に凹凸をもたらすために、JIS B 0601に基づく十点平均粗さRz(以下、単に「表面粗さ」と記す場合がある)が30μm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、50μm以上である。その上限は通常、100μm程度である。
【0014】
基材の表面に適切に塗工層を施すために、内添サイズ剤を用いることができる。本発明では、中空有機填料のマイグレート等の作用により、塗工液中の顔料が基材に過剰に浸透することを抑制できるが、それを補助したり、顔料以外の成分の浸透を抑制したりする目的で、内添サイズ剤を用いることができる。
内添サイズ剤は、パルプに対し0.1〜0.75質量%添加するのが好ましい。0.1質量%以上とすることにより、塗工液が基材に対し著しく浸透するのを防止し、所望の効果が得られる。一方、0.75質量%以下とすることにより塗工液が基材内に適度に浸透し、塗工液中の接着剤も浸透する。それによって、塗工層と原紙との密着強度が増大し、層間剥離を生じるのを防止する。
内添サイズ剤としては、アルキルケテンダイマー、スチレン系サイズ剤などが使用されるが、中でも、アルキルケテンダイマーを用いると、非常に滑性が高いため、抄紙工程中での乾燥工程において基材とドライヤーとの剥離が良好となり、毛羽立ち防止の点から好ましい。特に基材として和紙を用いた場合にその効果が顕著である。
【0015】
次に顔料について述べる。
本発明においては、顔料として、中空有機填料を用いる。
中空有機填料は、空洞を有しており、塗工液中においてはその空洞に塗工液が充満している。乾燥工程において、その空洞内の塗工液中の水分が蒸発する。この際にマイグレートする。すなわち、塗工後に基材の空隙に入って基材の中心部に比較的近く位置していた中空有機填料が、空洞内の塗工液中の水分の蒸発に伴って上昇し、基材の表面や表面に近い位置に移動する。また、塗工層の内部に位置していた中空有機填料も上昇し、塗工層の比較的表面に近い位置に移動する。通常の填料では、空隙が多い基材に塗工する場合は、塗工紙の表面近くに填料を配置しようとすると、基材に浸透してしまう分を補うために多量に塗工せざるを得ないが、中空有機填料を使用すれば、前記の性質により、比較的少量で済む。従って、通常の填料を使用すると、適切な印刷適性を得るために多量の塗工液を塗工することを要して塗工紙の軽さが失われ、また塗工液が基材に浸透して基材の柔軟性が失われるが、本発明では、中空有機填料の性質によってその問題を解決しているのである。また、填料が基材の内部ではなく塗工層に集中することで、少量でも塗工紙が空気を通しにくく、すなわち透気度を大きくして、エアー抜けを防ぎ、給紙適性を向上させる効果も有する。
また、中空有機填料は、そのみかけの比重が小さいことも、塗工紙の軽さを損なわずに風合いを維持する点と、塗工紙の表面付近に位置しやすい点で、有利である。
【0016】
中空有機填料は、平均粒子径が0.8μm未満であることが必須であり、好ましくは0.6μm未満である。平均粒子径を0.8μm未満とすることにより、本発明においては印刷光沢が向上し、またインキ乾燥性が良好なものとなる。一方、平均粒子径が小さくなると比表面積が増えるために接着剤の必要量が増え経済的に不利であるので、0.3μm以上が好ましい。
【0017】
中空有機填料は、中空率が20〜60%であることが好ましく、さらに好ましくは25〜50%である。中空率を20%以上とすることにより、マイグレートする性質を向上させることができ、60%を超えると、中空粒子の殻層が薄くなり割れやすくなってしまう。
【0018】
中空有機填料のみかけの比重は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.9以下である。なお、ここで言うみかけの比重とは、中空有機填料の空洞(中空部分)を体積に算入して計算した比重のことである。中空有機填料は、分散液に分散されて空洞に分散液が入った状態で市販される場合が多いが、ここでいうみかけの比重は、空洞内に分散液が入っていない空の状態の質量で計算した値である。
【0019】
中空有機填料は、主として合成樹脂からなり、例えばアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、架橋スチレン−アクリル共重合体、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、尿素ホルマリン樹脂などが挙げられる。
【0020】
中空有機填料の含有量は、中空有機填料を含む全顔料中、15〜80質量%であり、好ましくは25〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%である。15質量%以上とすることにより、前記の中空有機填料が有する効果が顕著となり、多量に塗工しなくとも適度な印刷光沢を初めとする優れた画像品質を得ることができ、80質量%以下とすることにより、塗工層の強度を向上させ、また、塗工層の表面の光沢(白紙光沢)を抑制して和紙らしい風合いを向上させることができる。尚、白紙光沢とは、印刷後の印刷部の光沢と区別するために用いる用語である。
【0021】
また、中空有機填料以外に使用する顔料としては、特に制限は無く、通常の塗工紙に使用する無機顔料や有機顔料を用いることができるが、塗工層の表面の光沢を抑制する観点から、無機顔料が好ましい。
【0022】
無機顔料としては、クレー、カオリン、デラミネーテッドカオリン、タルク、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム等が挙げられ、それらを単独、又は2種類以上組合せて使用してもよい。
【0023】
上記の顔料と接着剤を水に分散または溶解させた塗工液を作成し、これを基材に塗工して、塗工紙を製造する。
【0024】
次に接着剤について述べる。
接着剤としては、通常の塗工層のために用いられる水溶性または水分散性のものであれば特に制限は無い。例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酵素変性澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリル系、メチルアクリレート、酢酸ビニル系、アクリル系などの各種重合体又は共重合体からなるラテックス樹脂が適宜使用される。中でも、ラテックス樹脂は、澱粉と共に用いるとマイグレートし易いことが知られている。本発明においては、顔料のマイグレーションによる効果をより向上させるために接着剤をもマイグレートさせることが好ましいため、接着剤としてラテックス樹脂と澱粉を共用することが、好ましい態様の一つである。ラテックス樹脂としては、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体または共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性あるいは非溶解性のラテックス等の水系ラテックスが好ましい。
【0025】
接着剤は、塗工層を形成する全固形分中、15〜40質量%程度、好ましくは25〜35質量%程度になるように含有させる。
接着剤の含有量を全固形分中15質量%以上とすることにより、塗工層強度を高めることができるため、印刷時にインクのタックに負けて塗工層中の顔料が剥離する等のトラブルを防止することができ、40質量%以下とすることにより、印刷時のインクの乾燥性を良好にすることができる。塗工液中には、必要に応じて種々の添加剤、例えば、インク転移防止剤、耐水化剤、レベリング剤、サイズ剤などを使用することができる。
【0026】
次に塗工液の塗工と乾燥および形成される塗工層について述べる。
塗工層形成のための塗工装置については特に限定されるものではなく、一般に公知の塗工装置が適宜利用できる。具体例としては、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、あるいはビルブレードコーター等を用いることができ、これらのコーターを1つ以上有するオンマシンコーターあるいはオフマシンコーターによって、基材上に塗工層を一層あるいは多層に分けて設けることができる。そして、上記の装置の中でもエアナイフコーターが塗工前の基材の有する凹凸を維持しながら、均一な塗工層を形成できるため好ましく用いることができる。
【0027】
塗工量としては、片面あたり固形分で3〜15g/m2が好ましい。さらに好ましくは6〜12g/m2である。15g/m2以下とすることにより、基材の凹凸を塗工層表面に影響させて和紙風の風合いを発揮しやすくなり、3g/m2以上とすることにより、印刷の画像の品質が向上し、また塗工紙の透気度が増大してエアー抜け防止性能が向上する。
【0028】
また、乾燥条件は塗工スピードや乾燥工程のライン長などによって異なるが、通常は塗工層のひび割れを警戒し、急激な乾燥や過度な高温での乾燥を避ける傾向が有る。求める品質、またコーターの種類によっても異なるが、望ましくは乾燥温度を徐々に上げていき乾燥中に発生する水蒸気、塗工液に含まれる空気を放出しながら乾燥させる。しかし、本発明では、中空有機填料がマイグレートすることを均一にし、かつより促進させるために、不動化点(マイグレートが完了する時点)までより高い温度で乾燥させ、その後、温度を下げ徐々に乾燥させることが望まれる。また、中空有機填料の変形を防ぐため、塗工層の表面の温度が中空有機填料のガラス転移温度より低いことが好ましい。
【0029】
上記のように塗工液を塗工して形成された塗工層を有する本発明の塗工紙は、その一方の面のJIS B 0601に基づく十点平均粗さ(表面粗さ)Rzが30〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは50〜100μmである。30μm以上であることにより、手触りや外観の和紙らしさが向上する。100μmを超えると、印刷適性が劣る場合がある。十点平均粗さは、基材として表面粗さが大きいものを選択したり、塗工量を減少させること等によって増大させることができる。尚、本発明の場合は、透気度が低い基材を用いるが、透気度が低い紙は比較的表面粗さが大きい傾向が強く、また、基材の表面の凹凸が塗工層の表面に影響を及ぼし易いため、容易に30μm以上の値を得ることができる。
【0030】
また、塗工紙の緊度は、0.6g/cm3未満とすることが必須である。そうすることにより、和紙らしい軽さや柔軟さを有する印刷塗工紙を得ることができる。より好ましくは0.56g/cm3未満である。塗工紙の緊度は、基材の緊度、塗工量、軽量な有機填料の添加率によって調整できるが、本発明においては緊度が低い基材を用い、塗工量も少なくて済むため、塗工紙の緊度を低くすることが容易である。片面塗工の場合のみならず、両面塗工の場合でも緊度を低くすることが容易である。
【0031】
さらに、印刷時にエアーによる給紙を支障なく行うためには、塗工紙の透気度が10秒以上であることが好ましい。なお、ここにいう透気度とは、JIS P 8117に記載された測定方法で、一定容量の空気が試料を垂直方向に通過する時間(秒)で表し、その数値が小さいほど空気が通過しやすいことを示すものである。透気度は、塗工量によって調整することができる。
【0032】
また、塗工紙の光沢度について、JIS P 8142に定める紙及び板紙の75°鏡面光沢度試験方法で測定した塗工層の表面の光沢度が、好ましくは10.0%以下、より好ましくは6.0%以下、更に好ましくは2〜5%である。10.0%以下にすることにより和紙に似た外観となり、6.0%以下にすることにより、外観の和紙らしさがより向上する。2%よりも小さいと、くすんだ印象になる場合がある。光沢度の調整は、塗工層の表面粗さ、塗工量、光沢を増大させる有機填料の含有率の調整によって可能である。本発明は、表面粗さを大きくし易いため、低い光沢度を得ることが容易である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中の質量部は、固形分量を示すものとする。
【0034】
<実施例1>
顔料として、平均粒子径3.3μmの軽質炭酸カルシウム(商品名:PZ/白石工業社)30.3質量部、平均粒子径0.15μmの軽質炭酸カルシウム(商品名:ブリリアント−15/白石カルシウム社)30.3質量部、平均粒子径0.55μmで中空率25%の中空有機填料(商品名:ローペイクOP−84J/ロームアンドハース社)39.4質量部を使用し、これに接着剤として、スチレン−ブタジエンラテックス(商品名:SN−307/日本エイアンドエル社)を24.8質量部、アセチル化澱粉(商品名:マーメイドMC−3000/敷島スターチ社)6.1質量部を加え、助剤としてポリオレフィン樹脂(商品名ケミパールW400/三井化学社)を1.3質量部と、ポリアミド系樹脂(商品名:スミレーズレジン633/住友化学社)1.0質量部を加え、水を加えて固形分30.0質量%の塗工液を得た。
基材として、針葉樹の木材パルプからなる坪量113g/m2、緊度0.500g/cm3、JIS P 8117に規定される透気度が3秒の機械抄き和紙(内添サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを使用)に対して、上記塗工液を、片面あたりの塗工量が固形分で8.5g/m2になるように両面塗工し、加熱して乾燥させ、塗工紙を製造した。
【0035】
<実施例2>
実施例1で使用した中空有機填料を18質量部とし、0.15μmの軽質炭酸カルシウムを51.7部とした以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0036】
<実施例3>
実施例1で使用した中空有機填料を75.2部、平均粒子径が3.3μmの軽質炭酸カルシウム24.8部とし、0.15μmの軽質炭酸カルシウムを使用しなかった以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0037】
<比較例1>
実施例1で使用した基材として、緊度0.68、透気度13秒の原紙を使用した以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0038】
<比較例2>
実施例1で使用した中空有機填料を、粒子径1.0μmで中空率50%の中空有機填料(商品名:ローペイクHP−91/ロームアンドハース社)に替えた以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0039】
<比較例3>
実施例1で使用した中空有機填料を13.4部とし、0.15μmの軽質炭酸カルシウムを56.3部とした以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0040】
<比較例4>
実施例1で使用した中空有機填料を80.6部とし、平均粒子径3.3μmの軽質炭酸カルシウムを19.4部とし、0.15μmの軽質炭酸カルシウムを使用しなかった以外は実施例1と同様にして塗工紙を製造した。
【0041】
以上の実施例、比較例の塗工紙について、下記の方法により、測定及び試験を行なった。その結果を表1に示す。
(1)塗工紙緊度
JIS P 8118に準拠して測定した。
(2)塗工紙表面粗さRz
JIS B 0601に準拠して測定した。
(3)塗工紙の透気度
JIS P 8117に準拠して測定した。
(4)塗工層の表面光沢度
JIS P 8142に準拠して75°鏡面光沢度を測定した。
(5)画質(印刷光沢)
RI型印刷試験機を用い、オフセット印刷用インクを使用して印刷を行ない、鏡面 光沢度をJIS Z 8741に準拠して測定した。値が12.0未満のものは実 用上不適と判断した。
(6)インキ乾燥性
RI−1型印刷試験機を用い、オフセット印刷用インクを使用して印刷を行ない、 一定の時間ごとに、印刷面を上質紙に一定圧で押し当て、上質紙に対する印刷面の インクの転移状況を観察した。
短時間でインクの転移が生じなくなるもの程乾燥性に優れる。目視で評価し、良 好な順に、○、△、×とした。×は実用上不適切なレベルである。
(7)塗工層の強度
JIS P 8129に記載されている、振子式IGT試験機を用いて下記の基準 で評価した。
○・・・印刷ディスクに取られた紙むけや塗工層の塊の付着なし。
△・・・印刷ディスクに取られた紙むけや塗工層の塊の付着が1〜4個。
×・・・印刷ディスクに取られた紙むけや塗工層の塊の付着が5個以上。(実用上 不適切)
尚、JIS P 8129の基準ではなく上記の基準で評価した理由は、次の通り である。すなわち、本発明の塗工紙は塗工層表面の凹凸が激しいため、IGT試験 機の印圧では深い凹部にインクが付着しない部分が生じ、それと紙むけとの識別が 困難なためである。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜3の塗工紙は、緊度、表面粗さ、塗工層表面光沢度が、いずれも和紙に類似し、良好な風合いであった。また、印刷適性にも優れていた。
比較例1の塗工紙は、基材として透気度が高いものを用いた結果、軽さと柔軟性が不足し塗工層の光沢度も大きく、和紙らしい風合いが得られなかった。
比較例2の塗工紙は、中空有機填料の粒子径が大きいものを用いた結果、インキ乾燥性が劣り、また、中空有機填料の添加率は実施例1の塗工紙と同率であるにもかかわらず、印刷光沢が実施例1の塗工紙より低かった。
比較例3の塗工紙は、中空有機填料の添加率を小さくした結果、印刷光沢が実用上不十分なものであった。中空有機填料の添加率が小さいため、マイグレートが少なく、実施例と同量の塗工を施したにもかかわらず、充分な機能を有する塗工層が形成されなかったものと推測される。
比較例4の塗工紙は、中空有機填料の添加率を大きくした結果、塗工層強度が実用上不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、和紙風の風合いを有し、かつ、印刷適性に優れた塗工紙が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に顔料および接着剤を主成分とする塗工層を設けてなる塗工紙において、前記基材がJIS P 8117に基づく透気度が8秒未満であり、緊度が0.3g/cm3以上0.6g/cm3未満の紙であり、前記顔料が平均粒子径0.8μm未満の中空有機填料を全顔料中15〜80質量%の割合で含み、緊度が0.6g/cm3未満であることを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記塗工層の表面のJIS B 0601に基づく十点平均粗さRzが30μm以上である請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記中空有機填料が、中空率20〜60%であり、みかけの比重が1.0以下である有機填料である請求項1または2のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項4】
全顔料中の中空有機填料の含有量が25〜70質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項5】
透気度が10秒以上である請求項1〜4のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項6】
塗工層における塗工量が片面あたり3〜15g/m2である請求項1〜5のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項7】
JIS P 8142に定める紙及び板紙の75°鏡面光沢度試験方法で測定した光沢度が10.0%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項8】
和紙風の風合いを有する請求項1〜7のいずれかに記載の塗工紙。

【公開番号】特開2009−133028(P2009−133028A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310042(P2007−310042)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】