説明

塗工紙

【課題】比較的安価な材料を用いる場合に、印刷用軽量原紙表面に塗工液の浸透を効果的に抑制し、塗工層の塗膜を効率良く形成させることは非常に困難であった。軽量で光沢性に優れた塗工紙を提供する。
【解決手段】パルプを主原料とする紙の少なくとも片面に、特定のビニル単量体と特定のカチオン性基含有ビニル単量体とを特定のモル比で重合することにより得られるカチオン性基含有共重合体を含有する表面処理剤を処理した後、該紙の前記表面処理剤による処理面に、顔料とバインダーと特定のHLBを有するノニオン性界面活性剤を含有する塗工液の塗工層を設けてなる塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷用紙においても輸送及び郵送コストの削減などのため軽量化に対する要求が非常に高くなってきている。しかし、単純に軽量化すなわち印刷用紙の坪量を下げると紙の厚さが低下し、冊子のボリューム感が損なわれるため好ましくない。求められている軽量化とは紙重量を低下させる一方で、塗工紙の高光沢性を維持しつつ、紙厚は低下させないことを意味している。一方、印刷物のビジュアル化やカラー化が進み、非塗工印刷用紙に比較し、紙表面に平滑な塗工層をインキ受理層とする印刷用塗工紙の需要も年々増加している。炭酸カルシウムやカオリンなどの無機顔料を主成分とする塗工層は、パルプを主原料とする塗工原紙に比較して比重が重く、塗工紙の軽量化のためには塗工量を出来るだけ少なくする必要がある。しかし、原紙を低密度化した場合、細孔が多くなるので、塗工時に、塗工液の原紙内部への浸透性が上がり、低塗工量で均一に原紙表面を被覆することが難しくなる。そこで、原紙の細孔量を減らすために塗工前に原紙をカレンダー処理すれば、塗工液の原紙内部への浸透性が下がるが、紙厚が低下するため低密度紙は得られない。このように、塗工紙の軽量化のために、軽量嵩高な原紙を用いても、比重の高い無機顔料を主成分とする塗工液を単に塗布しただけでは塗工液の浸透のため塗工量が多くなって、塗工紙の高光沢性を維持しつつ、軽量を実現することは難しい。
【0003】
また、原紙内部への塗工液の浸透を抑制する方法としては、原紙と、塗工液の溶媒である水との濡れ性を下げるために原紙にサイズ処理を施す方法が考えられる。例えば、特許文献1には、カチオン性を有するポリアクリルアミドと、疎水性置換基を有するモノマーを含有するアニオン性共重合体とを含む処理剤が記載されている。また、引用文献2には、カチオン性基及び/又はアニオン性基を有する重量平均分子量50万〜200万の分岐型共重合ポリアクリルアミドからなる加工原紙用塗工剤が記載されている。また、剥離紙用基材にシリコーン等の離型剤の浸透を抑制するため、膨潤性雲母類と結着剤を含有する水溶液を塗布する方法が開示されている(特許文献3参照)。一方、特定量の膨潤性雲母類を印刷用軽量嵩高原紙表面に塗布することで、親水性塗工液の浸透を効果的に抑制できることが提案されている(特許文献4参照)。また、顔料、水性バインダー、水溶性酢酸エステル、カチオン性樹脂を含有する塗工組成物を紙に塗布することで、優れた光学特性、印刷適性を有する塗工紙が得られることが開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−012981号公報
【特許文献2】特開2006−283236号公報
【特許文献3】特開平6−200500号公報
【特許文献4】特開2005−89871号公報
【特許文献5】特開平2−84598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、細孔量の多い低密度原紙にこのような処理を施してもその効果は小さいものであった。また、塗工用でんぷん、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性高分子を主成分とする表面処理剤を紙表面に塗布し、紙表面に塗膜を形成させ、その後に塗工される塗工液の浸透を抑制する方法も考えられるが、紙表面に有効な浸透抑制塗膜を形成させることが難しかった。また、特許文献2は、剥離紙として用いられる加工原紙の剛度を向上させようとするものであるが、印刷用などに適した軽量で高光沢性な塗工紙を得るための塗工原紙という点では十分なものではなかった。また、特許文献3で用いる剥離紙用塗工液はトルエンとシリコーンが主体であるため疎水性であり、炭酸カルシウムやカオリンといった顔料及び結着剤を水で高濃度分散した親水性である印刷用塗工液とは塗工液物性が著しく異なるため、一般的な塗工紙などの問題を解決するには至らない。また、特許文献4は、膨潤性雲母類が非常に高価であるため、汎用印刷用紙の製造には利用できないという欠点があった。また、特許文献5は、紙表面の浸透抑制にある程度の効果は確認されたものの有効な浸透抑制塗膜を形成させることが難しかった。従って、比較的安価な材料を用いることで、印刷用軽量原紙表面に塗工液の浸透を効果的に抑制し、塗工層の塗膜を効率良く形成させることは非常に困難であった。
【0006】
本発明の課題は、軽量で光沢性に優れた塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、パルプを主原料とする紙の少なくとも片面に、カチオン性基含有共重合体を含有する表面処理剤を処理した後、該紙の前記表面処理剤による処理面に、顔料成分とスチレン/ブタジエン系ポリマー及び(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリマーからなるバインダー成分とHLBが2〜12のノニオン性界面活性剤とを含有する塗工液の塗工層を設けてなる塗工紙に関する。
【0008】
本発明の塗工紙により上記課題が解決される理由は明らかではないが、特定のカチオン性基含有共重合体が原紙表面に存在することにより、顔料と特定のバインダーと特定のノニオン性界面活性剤とを含有する塗工液を塗工した際、塗工液の一部が凝集することにより無機顔料を主成分とした塗工液の紙内部への浸透を抑制しているためと推定される。
【0009】
また、親水性の高い特定のカチオン性基含有共重合体が紙表面に存在することにより、顔料と特定バインダーと特定ノニオン性界面活性剤とを含有する塗工液が施された際、瞬時に塗工液中の水分を吸収することによって、塗工液が高粘度となり非流動化することにより無機顔料を主成分とした塗工液の紙内部への浸透を抑制しているためと推定される。
【0010】
また、親水性の高いカチオン性基含有共重合体が紙表面に施した際、多孔性表層部を有する紙の細孔部の穴埋めをすることによって原紙内部への塗工液の浸透を抑制しているためとも推定される。
【0011】
また、塗工液中にHLBが2〜12の範囲であるノニオン性界面活性剤を含有することによって、塗工液の表面張力が下がり、多孔性表層部を有する紙の細孔部への毛管力による浸透が抑制されるためとも推定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軽量で優れた光沢性を有する塗工紙が提供される。本発明の塗工紙は、原紙内部への塗工液の浸透を抑制することができ、現行の抄紙機や塗工機を利用して、少ない塗工量で有効な塗工層が得られ、軽量で、高光沢性の塗工紙を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例及び比較例の一部について、塗工液の塗工量と塗工紙の光沢度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔カチオン性基含有共重合体〕
本発明に係るカチオン性基含有共重合体は、(A1)一般式(I)で表されるビニル単量体及び一般式(II)で表されるビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔以下、(A1)成分という〕と、(A2)一般式(III)で表されるカチオン性基含有ビニル単量体及び一般式(IV)で表されるカチオン性基含有ビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔以下、(A2)成分という〕とを重合することにより得られるカチオン性基含有共重合体〔以下、(A)成分という〕が好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を示す。〕
【0017】
【化2】

【0018】
〔式中、R1は前記の意味を示し、mは0又は1の数を示し、A1及びA2は同一又は異なって、式−(CH2n−(nは2〜6の整数を示す)で表される基及び−CO−基から選ばれる基を示し、Bは−O−及び−CH2−から選ばれる基を示す。〕
【0019】
【化3】

【0020】
〔R1は前記の意味を示し、R4及びR5は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基を示し、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Yは−O−、−NH−又は−O−CH2CH(OH)−基を示し、Zは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸の共役塩基、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキルサルフェート基を示す。〕
【0021】
【化4】

【0022】
〔式中、R7及びR8は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R9及びR10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは前記の意味を示す。〕
【0023】
〔(A1)成分〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、一般式(I)及び(II)で表されるビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔(A1)成分〕を構成成分とする。
【0024】
【化5】

【0025】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を示す。R2及びR3の炭素数の合計は、6以下が好ましく、4以下が更に好ましい。〕
【0026】
【化6】

【0027】
〔式中、R1は前記の意味を示し、mは0又は1の数を示し、A1及びA2は同一又は異なって、式−(CH2n−(nは2〜6の整数を示す)で表される基及び−CO−基から選ばれる基を示し、Bは−O−及び−CH2−から選ばれる基を示す。〕
【0028】
本発明の(A1)成分の単量体は、親水性であることが好ましい。ここで、親水性とは、有機概念図−基礎と応用−(甲田善生著、三共出版株式会社、昭和59年5月10日発行)において、重合単位が得られる基となるモノマーの無機性(I)と有機性(O)の比率[I/O]が、0.60以上であることを意味し、好ましくは1.00以上、更に好ましくは1.30以上である。
【0029】
上記一般式(I)で表されるビニル単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、上記一般式(II)で表されるビニル単量体としては、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドンなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではなく、またこれらのビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。なお、「(メタ)アクリル」は、アクリル及び/又はメタクリルの意味である(以下同様)。
【0030】
これら(A1)成分の単量体の中では、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ置換アクリルアミドが好ましく、更には(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミドが、カチオン性基含有共重合体の製造の観点、及び表面処理剤としての取り扱いの観点から好ましい。
【0031】
〔(A2)成分〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、一般式(III)及び(IV)で表されるカチオン性基含有ビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔(A2)成分〕を構成成分とする。
【0032】
【化7】

【0033】
〔R1は前記の意味を示し、R4及びR5は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基を示し、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Yは−O−、−NH−又は−O−CH2CH(OH)−基を示し、Zは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸の共役塩基、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキルサルフェート基を示す。〕
【0034】
【化8】

【0035】
〔式中、R7及びR8は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R9及びR10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは前記の意味を示す。〕
【0036】
上記一般式(III)で表される化合物の具体例としては、上記で例示したジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド類を酸で中和した酸中和物あるいは4級化剤で4級化した4級アンモニウム塩が挙げられ、上記一般式(IV)で表される化合物の具体例としては、上記で例示したジアリル型4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0037】
上記の酸中和物を得るための好ましい酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、スルファミン酸、トルエンスルホン酸、乳酸、ピロリドン−2−カルボン酸、コハク酸などが挙げられ、上記4級アンモニウム塩を得るための好ましい4級化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
【0038】
上記一般式(III)及び(IV)で表される化合物の中でより好ましいものとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドを前記の4級化剤で4級化した4級アンモニウム塩、あるいはジメチルジアリルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0039】
上記カチオン性基含有ビニル単量体の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジt−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド類などのアミノ基を有する単量体の酸中和物あるいは4級アンモニウム塩;ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のジアリル型4級アンモニウム塩;4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等のビニルピリジン類、N−ビニルイミダゾール等のN−ビニル複素環化合物類、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類などのアミノ基を有する単量体の酸中和物あるいは4級アンモニウム塩などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートの意味である(以下同様)。
【0040】
〔単量体成分の配合割合〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、(A1)成分と(A2)成分の組成比率(モル比)が(A1)成分/(A2)成分で、好ましくは97/3〜30/70であり、より好ましくは、97/3〜40/60である。これらの組成比率内にある場合は、顔料とバインダーを主成分とする塗工液を塗工した際、塗工液の一部が凝集すること、また共重合体が瞬時に塗工液中の水分を吸収することから、塗工液の紙内部への浸透を抑制し得るといった効果が発現される。更に、上記組成比率内にある場合には、表面処理剤の紙表面への接着力が向上し、原紙と塗工層の剥離強度低下を十分に抑制し得る。
【0041】
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、構成単量体中、(A1)成分と(A2)成分の合計が80〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは90〜99.9モル%である。
【0042】
〔(A3)成分〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、必要に応じて、(A3)成分として、架橋性ビニル単量体〔但し、前記一般式(IV)で表される単量体を除く〕も構成成分とすることができる。架橋性ビニル単量体は、好ましくは、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基及びアリル基から選ばれる少なくとも2個の基を分子中に有する。少なくとも2個のビニル基を分子中に有する架橋性ビニル単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;N−メチルアリルアクリルアミド、N−ビニルアクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスアクリルアミド酢酸等のアクリルアミド類;ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、ジビニルエチレン尿素等のジビニル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、トリアリルアンモニウム塩、ペンタエリスリトールのアリルエーテル化体、分子中に少なくとも2個のアリルエーテル単位を有するスクローゼのアリルエーテル化体等のポリアリル化合物;ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0043】
これらの架橋性ビニル単量体の中では、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルが好ましい。
【0044】
また、(A)成分のカチオン性基含有共重合体において、(A3)成分の架橋性ビニル単量体の割合は、(A1)成分、及び(A2)成分及び(A3)成分の合計中、0.0005〜5モル%が好ましく、0.001〜1モル%が特に好ましい。すなわち、(A3)成分/〔(A1)成分+(A2)成分+(A3)成分〕×100(モル%)が0.0005〜5モル%が好ましく、0.001〜1モル%がより好ましい。かかる架橋性ビニル単量体の割合が0.0005モル%以上である場合には、得られるカチオン性基含有共重合体の架橋度が適正となり、カチオン性基含有共重合体を紙に施した際、紙表面にとどまる割合が向上し、紙内部に浸透しにくくなる。このため塗工液が施された際、塗工液の一部が凝集することや、カチオン性基含有共重合体が紙表面に存在することにより、顔料とバインダーを主成分とする塗工液が施された際、瞬時に塗工液中の水分を吸収することによって、塗工液が高粘度となり非流動化すること、あるいはカチオン性基含有共重合体を紙表面に施した際、多孔性表層部を有する紙の細孔部の穴埋めをすることによって原紙内部への塗工液の浸透を抑制するといった効果が十分に発現する。また5モル%以下である場合には、カチオン性基含有共重合体を紙に施した際、カチオン性基含有共重合体が塗工液を施した際においても塗工液中の水分を吸収する能力が低下せず塗工液が高粘度となり非流動化する効果も維持できる等の結果から、塗工液の紙内部に浸透しにくくなり好ましい。なお、(A3)成分を用いる場合、(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、構成単量体中、(A1)成分と(A2)成分と(A3)成分の合計が90〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは95〜100モル%である。
【0045】
〔他の単量体成分〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体は、前記の少なくとも2種類のビニル単量体を必須構成成分とし、好ましくは更に前記架橋性ビニル単量体を構成成分とする共重合体であるが、これらビニル単量体と共重合可能な他のビニル単量体も構成成分とすることができる。
【0046】
他のビニル単量体としては、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、キシリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#210モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#400モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#600モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#1000モノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#210(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#600(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#1000(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸誘導体(#の次の数字は重量平均分子量を示す);2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸、メタアクリル酸、2−スルホエチルメタクリレートなどのアニオン性基含有単量体;N−(3−スルホプロピル)−N−アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−スルホプロピル)−N−メタクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−カルボキシメチル)−N−メタクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−スルホプロピル)−N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−カルボキシメチル−N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン等のベタイン類が挙げられる。
【0047】
〔重合方法〕
(A)成分のカチオン性基含有共重合体を製造する方法については必ずしも制限はないが、通常は水溶液重合法、逆相懸濁重合法、沈澱重合法などの方法によることが好ましい。例えば、水溶液重合法としては、水又は水と均一に混合可能な親水性有機溶媒或いはこれらの混合溶媒等の溶媒中に単量体成分、架橋剤を均一に溶解し、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスによる置換等により系内の溶存酸素を除去した後、重合開始剤を添加して反応させる方法が挙げられる。重合開始温度は通常20〜90℃程度であり、反応時間は1〜10時間程度である。単量体として水に溶け難い成分を使用する場合、親水性有機溶媒を併用するのが望ましい。
【0048】
上記親水性有機溶媒の代表的な例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等の低級アルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらのうち特に、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が好ましい。
【0049】
また、重合開始剤としては、溶媒中に均一に溶解する過酸化物、有機又は無機過酸若しくはその塩、アゾビス系化合物の単独或いは還元剤との組合せによるレドックス系のものが用いられ、それらの代表的な例としては、例えば、t−ブチルパーオキサイド、t−アミルパーオキサイド、クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、プロピオニルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルイソブチリルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、シクロヘキシルハイドロパーオキサイド、テトラリンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーアセテート、t−ブチルパーベンゾエート、ビス(2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、フェニルアゾトリフェニルメタン、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過硫酸塩とトリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアニリン等の第3級アミンとの組合せ等が挙げられる。
【0050】
これらのうち特に、t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム若しくは過硫酸アンモニウムの単独、又はこれらの過硫酸塩とトリエチルアミン、トリエタノールアミン若しくはジメチルアニリン等の第3級アミンとの組合せが好ましい。
【0051】
(A)成分のカチオン性基含有共重合体を製造する際に用いられる重合装置としては特に制限はなく、例えば一般的なニーダー、円筒型反応容器が用いられる。
【0052】
水溶液重合法では、(A)成分のカチオン性基含有共重合体を製造する手順の一例を示すと、フタを有するニーダー中に単量体混合物の10〜50重量%の水溶液を送入し、必要に応じて系を窒素等の不活性気体で置換し、水溶性ラジカル重合開始剤を添加して、20〜90℃にして重合を開始させ、重合の進行に伴い生成する含水ゲル状重合体をニーダーの羽根の回転による剪断力で細分化しながら重合を完結する方法を挙げることができる。勿論本発明の範囲がこの例により限定されるものではない。ここで用いられる単量体混合物水溶液の初期濃度は10〜50重量%であることが好ましい。
【0053】
重合開始剤の使用量としては、単量体成分を基準として0.01〜5モル%、好ましくは0.01〜3モル%、特に好ましくは0.01〜1モル%の範囲である。因みに、重合開始剤の使用量が単量体成分を基準として5モル%以下であるときは、主鎖の高分子鎖の重合度が上がり、架橋されない高分子鎖の割合が低減されるために期待する吸水能や増粘作用等の性能が十分に発揮される。一方、0.01モル%以上であるときは、重合反応の反応率が上がり、残留モノマーの量が低減されるため好ましい。
【0054】
反応生成物は反応に使用した溶媒を含むゲル状であり、通常は回転式カッター等で粉砕し、更に、加熱、減圧等の方法により溶媒を除去して乾燥、粉砕分級して粉末とする。
【0055】
また、一般的な円筒型の密閉反応容器を用いた水溶液重合法も用いられる。この場合においても、単量体混合物の10〜50重量%の水溶液を仕込み、あるいは滴下しつつ、必要に応じて系を窒素等の不活性気体で置換し、水溶性ラジカル重合開始剤を添加して、常温であるいは30〜80℃に加熱して重合を開始させ、液状の共重合物として得る方法が挙げられる。
【0056】
逆相懸濁重合法としては、水中に単量体成分、架橋剤を均一に溶解し、分散剤などを用いて水と均一に混合しない有機溶媒中に懸濁又は乳化させて重合反応を行う。重合開始剤としては、必ずしも水溶性のもののみに限らず有機溶媒中に可溶なものも用いられる。ここで用いられる有機溶媒としては、前記のもの以外に、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素系有機溶媒、四塩化炭素、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素系有機溶媒、アイソバー等の鉱油等も用いられる。
【0057】
また、分散剤としては、例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、シュガーエステル等、更に一般に乳化分散剤に用いられる界面活性剤等が挙げられる。
【0058】
系内の溶存酸素の除去、反応生成物の処理等は前記と同様であり、また、反応条件は必ずしも制限はないが、概ね次の通りである。溶媒使用量:単量体水溶液と等量〜20倍、好ましくは等量〜10倍、重合開始剤の使用量:単量体成分を基準として0.01〜5モル%、好ましくは0.01〜3モル%、重合開始温度:10〜90℃程度、反応時間:1〜10時間程度である。
【0059】
(A)成分等のカチオン性基含有共重合体は、1重量%水溶液の粘度が5mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは15mPa・s以上である。また、(A)成分等のカチオン性基含有共重合体は、10重量%水溶液の粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは1000mPa・s以上、更に好ましくは3000mPa・s以上である。これらの粘度は、1重量%水溶液又は10重量%水溶液を25℃恒温槽中で30分以上静置した後に、B型粘度計により、ローター回転数60rpmで測定されたものである。
【0060】
なお、(A)成分等のカチオン性基含有共重合体は、1重量%水溶液、更に10重量%水溶液に曳糸性がないことが好ましい。
【0061】
本発明における(A)成分等のカチオン性基含有共重合体は、溶液、粉末、塊状、又は分散体として得ることができる。本発明の紙の表面処理剤の好適な態様は、(A)成分等のカチオン性基含有共重合体を好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは0.8〜10重量%含有する水溶液あるいは水分散体である。
【0062】
本発明において(A)成分等のカチオン性基含有共重合体を含有する表面処理剤を紙の表面に処理する方法としては特に限定はなく、あらかじめ作製された原紙や塗工原紙の表面に施される。処理としては塗布が好適である。
【0063】
本発明の表面処理剤の対象となる紙は、パルプを主原料とするものであって、密度が0.30〜1.00g/cm3のものが好ましく、より好ましくは0.35〜0.85g/cm3である。密度が0.30g/cm3以上のものは、紙力低下を抑制できるため、塗工時に断紙する頻度が低減され安定操業できる。また、密度が1.00g/cm3以下の紙は、本発明の表面処理剤が適正に原紙表面
に処理されるため、適度な透気抵抗度となり、オフセット印刷時のブリスター耐性が良好となり、印刷用塗工紙としての用途の制約がない。
【0064】
原紙に用いるパルプとしては、植物性繊維である木材や草本の繊維を原料とするいずれのパルプも使用できる。すなわち、晒化学パルプ(NBKP、LBKP等)や機械パルプ(TMP、CTMP、GP、RGP等及びその漂白処理をしたパルプ)、高収率パルプ(SCP、CGP等及びその漂白処理をしたパルプ)並びに、古紙パルプ及び脱墨古紙パルプ(DIP)及びその漂白処理をしたパルプ(BDIP)等の回収パルプを使用することができる。
【0065】
また、必要に応じて填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、嵩高剤等の製紙用補助薬品を加えてもよい。サイズ剤としてアルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤等が挙げられる。填料として炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0066】
本発明における表面処理剤の処理量(例えば塗布量)としては、原紙片面あたり乾燥重量として0.01〜3.0g/m2が好ましく、より好ましくは、0.02〜2.0g/m2、更に好ましくは0.03〜1.0g/m2、更により好ましくは0.05〜1.0g/m2である。0.01g/m2以上であると塗工液浸透抑制効果が発現され、3.0g/m2以下であると両面合計の処理量(例えば塗布量)が6g/m2以下となることから紙の軽量化が達成される。
【0067】
表面処理剤の処理方法としては公知の方法より適宜選択して行うことが出来るが、特に2ロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、カーテンコーター、ダイコーター、グラビアコーター、キスコーター、バーコーター、ロールコーター、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、シムサイザー等が好ましい。
【0068】
表面処理剤を紙表面に施す方法は限定されるものではないが、一般的な方法として、(A)成分等のカチオン性基含有共重合体を含有する溶液又は分散液が用いられる。この場合の溶媒もしくは分散媒としては、水、有機溶剤が用いられるが、特に水が望ましい。
【0069】
溶液又は分散液とする場合、共重合によって得られた粉末又は塊状物の(A)成分等のカチオン性基含有共重合体は、粉砕等の方法により共重合体の平均粒径が1mm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは平均粒径50μm以下とし、溶媒や分散媒と混合し、溶液や分散体として用いられる。共重合体の平均粒径が1mm以上の場合、溶解や分散に時間を要すことから望ましくない。カチオン性基含有共重合体を溶液又は分散体として得た場合は、そのままあるいは希釈して用いられる。
【0070】
本発明は、上記特定の表面処理剤を紙表面に処理した塗工原紙上に、顔料とバインダーとノニオン性界面活性剤を含有する特定の塗工液の塗工層を設けた塗工紙に関するものである。すなわち、本発明に係る前記表面処理剤による処理面に、顔料と特定のバインダーとHLBが2〜12の範囲にあるノニオン性界面活性剤とを含有する塗工液の塗工層を設けてなる塗工紙に関するものである。
【0071】
本発明に係る塗工液は、バインダーとして、スチレン/ブタジエン系ポリマー及び(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリマー〔以下、(B)成分という〕を含有する。これらのポリマーは適度な弾性を持つことで、バインダーとしての能力を発揮し良好な塗工層を形成することができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及び/又はアクリル酸の意味である(以下同様)。
【0072】
(B)成分のスチレン/ブタジエン系ポリマーは、構成モノマーとして、スチレン及びブタジエンを含むものであり、スチレン、ブタジエン以外の単量体として、アクリロニトリルやビニルピリジン、及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びマレイン酸等のカルボキシル基を有するビニル単量体が用いられる。
【0073】
(B)成分の(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーは、構成モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルを含むものであり、(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体としてスチレン、アクリロニトリル、及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びマレイン酸等のカルボキシル基を有するビニル単量体が用いられる。
【0074】
(B)成分の具体例としては、スチレン/ブタジエン系ポリマーとして、(B1)スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/ブタジエン/ビニルピリジン共重合体、これら共重合体の構成単量体とアニオン性ビニル単量体との共重合体、また、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーとして、(B2)(メタ)アクリル酸エステルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体が挙げられる。
【0075】
(B)成分のポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−40℃から60℃であることが好ましい。(B)成分のTgは、−30℃以上、更に−25℃以上が好ましい。Tgが−40℃以上の場合、乾燥、カレンダー処理によって形成された塗工層がカレンダー時に発生した内部応力によって塗工紙表面の平滑性が失われることがなく、高い光沢性能が得られる。また、Tgが60℃以下の場合、通常のカレンダー処理温度に比べTgが高くないことから、カレンダー処理後においても十分な平滑性が得られ、高い光沢性能が得られる。
【0076】
ここで、(B)成分のTgは、示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ(株)製、昇温速度4℃/分)により測定されたものである。
【0077】
なお、(B)成分のTgは、高分子の力学的性質(L.NIELSEN著、小野木重治訳、化学同人、1版7刷、1969年5月1日発行)の23頁に記載の式(2.8、共重合体組成とガラス転移温度)等を参照することにより、所望の範囲に設計することができる。例えば、スチレン/ブタジエン系ポリマーの場合、スチレン比率を上げることで、高いTgのポリマーを得ることができ、一方、ブタジエン比率を上げることで、低いTgのポリマーを得ることができる。また、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーの場合、スチレン比率を上げることで、高いTgのポリマーを得ることができ、一方、(メタ)アクリル酸エステル比率を上げることで、低いTgのポリマーを得ることができる。
【0078】
(B)成分のポリマーの重量平均分子量としては、1万以上が好ましく、2万以上が更に好ましい。(B)成分のポリマーの分子量が1万以上であることによって、塗工層に十分な強度や接着性が得られる。重量平均分子量は、溶媒としてクロロホルムを用いたGPC法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0079】
(B)成分のポリマーの合成法としては一般的なラジカル重合法を用いて製造する方法が挙げられる。
【0080】
本発明では、バインダーとして、酢酸ビニル系ポリマー、エチレン酢酸ビニル系ポリマー、酸化でんぷん、リン酸エステル化でんぷん(リン酸変性でんぷん)、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、ポリビニルアルコール等の(B)成分以外の化合物を用いることができる。
【0081】
本発明において、バインダー、更に(B)成分は、有効分換算で、顔料100重量%に対して5〜50重量%、更に10〜30重量%の範囲で使用されることが好ましい。また、バインダーの全量中、(B)成分が50〜100重量%、更に60〜99.8重量%であることが好ましい。
【0082】
本発明に係る塗工液は、HLBが2〜12の範囲にあるノニオン性界面活性剤〔以下、(C)成分という〕を含有する。(C)成分としては、例えば、ポリオキシアルキレン(好ましくはポリオキシエチレン)アルキル(好ましくは炭素数10〜24)エーテル、ポリオキシアルキレン(好ましくはポリオキシエチレン)アルキル(好ましくは炭素数10〜20)フェニルエーテル、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられ、本発明においては、これらのノニオン性界面活性剤を単独で用いることもでき又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0083】
(C)成分のHLBは2〜12の範囲であり、好ましくは2〜11.5、より好ましくは2〜11である。HLBが2以上であれば、(C)成分の配合安定性が良く、光沢性能も高くなる、また、HLBが12以下であれば、塗工液の親水性が高くなりすぎず、塗工液の紙の細孔内への毛管力による浸透を十分に抑制し、塗工紙の光沢性能が高くなる。(C)成分のHLBは、親水性・親油性バランスを数値的に表したものであり、ノニオン性界面活性剤の構造(アルキレンオキシド付加モル数、アルキル基等の炭素数等)は、かかるHLBとなるように選定される。
【0084】
本発明に係る塗工液は、(C)成分を0.01〜10重量%、更に0.03〜7重量%、より更に0.05〜5重量%含有することが好ましい。(C)成分の含有量が0.01重量%以上であれば、光沢度の向上が有意差として十分に認識されるため好ましい。また、(C)成分の含有量が10重量%以下であれば、光沢度の向上が有意差として十分に認識され、塗工適性も良好で、かつ実用上十分な強度を有する塗工紙が得られるため好ましい。
【0085】
本発明の塗工液は、アニオン性塗工液であることが好ましい。この「アニオン性」塗工液とは、カルボン酸、スルホン酸等のアニオン性基を有するポリマー、アニオン性乳化剤、及びアニオン性分散剤から選ばれる成分を含有する塗工液をいう。アニオン性乳化剤は、ポリマーを乳化重合する際に用いられるアニオン性乳化剤であってもよい。アニオン性分散剤は、塗工液を製造する際に用いられるアニオン性分散剤であってもよい。
【0086】
本発明では、カチオン性基含有共重合体が原紙表面に存在することにより、顔料と特定のバインダーと特定のノニオン界面活性剤を含有する塗工液を塗工した際、塗工液の一部が凝集することにより無機顔料を主成分とした塗工液の紙内部への浸透を抑制して紙表面により多く存在することによって高い光沢性能が得られるものと推定される。このような観点からもアニオン性の塗工液を用いることが好ましい。
【0087】
また、塗工液の顔料としては、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどの無機顔料、プラスチックピグメントなどの有機顔料を使用することができる。塗工液は顔料を40〜70重量%、更に50〜65重量%含有することが好ましい。
【0088】
また、塗工液は、水を含有する。水の含有量は20〜55重量%、更に25〜50重量%が好ましい。また、有効分濃度(水以外の成分の濃度)は80〜45重量%、更に75〜55重量%が好ましい。
【0089】
また、塗工液は、必要に応じて分散剤、増粘剤、減粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有することもできる。これらの助剤類は当業界で通常用いられる量で使用でき、一例として、顔料100重量%に対して0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%の範囲で使用される。
【0090】
塗工液の塗工方法としては、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター等などの公知の方法を使用することができる。
【0091】
塗工層の厚さは特に限定されず、塗工紙の用途、品質等により設定されるが、光沢の高い紙を得る観点から、塗工液の塗工量(固形分換算)は、片面あたり、乾燥重量で、3g/m2以上が好ましく、3〜30g/m2がより好ましく、更に好ましくは4〜25g/m2である。
【0092】
乾燥方法としては、蒸気加熱ヒーター、熱風加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ガスヒーター、シリンダードライヤー等の通常の方法が用いられる。また、必要に応じて、スーパーカレンダー、ソフトカレンダーなどの平滑化処理を行う。
【0093】
本発明の効果をより発揮させるためには、塗工紙の密度は、1.5g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.40〜1.40g/cm3である。
【0094】
本発明の塗工紙は、例えば、カタログ、ポスター、書籍用紙、雑誌、新聞用紙等に用いられる、オフセット印刷用、グラビア印刷用などの印刷用塗工紙、あるいは、PPC用紙、フォーム用紙、インクジェット用紙等の情報用紙などに使用することができる。また、本発明の塗工紙は、アート紙、中質コート紙、上質コート紙、微塗工紙、キャストコート紙などの表面光沢性の向上が求められている各種印刷用塗工紙に効果的に使用できる。
【0095】
本発明により、パルプを主原料とする紙の少なくとも片面に、カチオン性基含有共重合体を含有する表面処理剤を処理した後、該紙の前記表面処理剤による処理面に、顔料とバインダーと界面活性剤とを含有する塗工液の塗工層を設ける塗工紙の製造方法であって、前記カチオン性基含有共重合体が、前記本発明に係る(A)成分のカチオン性基含有共重合体であり、前記塗工液が、前記本発明に係るノニオン性界面活性剤を含有する塗工紙の製造方法が提供される。
【実施例】
【0096】
以下、配合量を示す「部」及び「%」はすべて「固形分重量部」及び「固形分重量%」を示す。
【0097】
〔カチオン性基含有共重合体の製造方法〕
表1の単量体を用いてカチオン性基含有共重合体を以下の方法で製造した。
【0098】
<カチオン性基含有共重合体の製造例1>
2Lビーカーにイオン交換水560.0g、MOEDES(ジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチル硫酸の当モル付加物(有効分90重量%)。いずれも試薬、和光純薬工業(株)製)413.67g(有効分372.30g)、AAm(N,N−ジメチルアクリルアミド、試薬、和光純薬工業(株)製)84.98g、NK−14G(架橋剤、ポリエチレングリコールジメタクリレート、新中村化学(株)製)1.056g、V−50(重合開始剤、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・2塩酸塩、和光純薬工業(株)製)0.707gを混合し、モノマー水溶液Aとした。5Lのガラス容器にシクロヘキサン1977g、分散剤としてシュガーエステルS−770(三菱化成(株)製)を4.58g仕込み、60℃で1時間かけ均一に溶解せしめた。溶解後、30℃に冷却し、分散剤溶液Bとした。
【0099】
分散剤溶液Bに、前記モノマー水溶液Aを加え、ホモミキサー(ROBOMICS、特殊機化工業(株)製)にセットし、9000回転で4分間攪拌し、平均粒子径5μmのモノマー分散液を得た。全量を5Lの攪拌機と温度計、冷却管の付いたSUS槽に仕込み、窒素置換後、昇温し、70℃で1時間重合した。更に70℃で1時間熟成した後、冷却管付きの脱水管を装着し、約2時間かけて系内から水532gを除去した。脱水が進むにつれ、槽内温度は70℃から81℃に上昇した。
【0100】
ついで40℃以下に冷却し、内容物をステンレス製トレーに移し、80℃、熱風乾燥して溶媒を除去し、白色・粒状のカチオン性基含有共重合体1を得た。なお、実施例で用いたカチオン性基含有共重合体1は、家庭用コーヒーミルで約1秒間、軽く粉砕し平均粒子径3.8μmのカチオン性基含有共重合体1を得た。
【0101】
<カチオン性基含有共重合体の製造例2>
カチオン性基含有共重合体の製造例1に順じ、表1に示すモノマー組成で、平均粒子径4.0μmのカチオン性基含有共重合体2を得た。
【0102】
<カチオン性基含有共重合体3>
カチオン性基含有共重合体3には、市販のGAFQUAT HS−100〔ビニルピロリドン/メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド共重合物、GAFジャパン製〕を用いた。
【0103】
〔バインダーの製造方法〕
<バインダーの製造例1>
2Lの攪拌機と温度計、冷却管の付いたガラス反応槽に、イオン交換水475.25gとアニオン性界面活性剤エマール20C(固形分25%、花王(株)製)28.00gに、アクリル酸(以下、AAと表記する)(東亞合成化学(株)製)0.06g、2−エチルヘキシルアクリレート(以下、2HEAと表記する)(試薬、和光純薬工業(株)製)4.29g、スチレン(以下、Stと表記する)(試薬、和光純薬工業(株)製)13.15gを混合したモノマー溶液を仕込み、30分間窒素置換した。過硫酸アンモニウム(以下、APSと表記する)(試薬、和光純薬工業(株)製)0.45gをイオン交換水5gに溶解後、反応系に添加し、窒素置換しながら80℃に昇温した。白濁を確認後、AA1.20g、2EHA81.46g、St249.84gを混合したモノマー溶液を2時間にわたり滴下した。なお、APS1.35gをイオン交換水15gに溶解した水溶液を、滴下中に3分割し系内に投入した。ひきつづき80℃で2時間熟成したのち、35℃以下に冷却し、バインダー1を得た。
【0104】
<バインダー2、3、4>
スチレン/ブタジエン系ポリマーから成るアニオン性水性バインダーとして、表2に示す市販のSBRバインダーを使用した。
【0105】
〔原紙の製造方法〕
<パルプ原料>
パルプ原料としては、LBKP(広葉樹晒パルプ)を、25℃で叩解機にて離解、叩解して2.2重量%のLBKPスラリーとしたヴァージンパルプを用いた。このもののカナダ標準濾水度(JIS P 8121)は450mlであった。
【0106】
<抄紙方法>
ヴァージンパルプスラリーを抄紙後のパルプシートのパルプ坪量が80g/m2±1g/m2になるように量り取り、角型タッピ抄紙機にて80メッシュワイヤー(面積625cm2)で抄紙し、パルプシートを得た。抄紙後のシートは、3.5kg/cm2で5分間プレス機にてプレスし、鏡面ドライヤーを用い105℃で2分間乾燥した。乾燥されたパルプシートを23℃、湿度50%の条件で1日間調湿し、表面処理に供する原紙とした。原紙嵩密度は0.574g/cm3であった。
【0107】
〔表面処理剤の処理方法〕
ガラス板上にワイヤーコーターで、表面処理剤として表1のカチオン基含有共重合体を所定濃度で含有する水溶液を用い、50g/m2のキャスティング皮膜を形成した。次いで上記原紙(幅12.5cm×長さ25cm)をキャスティング皮膜上にのせ、100g/m2のろ紙一枚でカバーし、ロール(直径200mm、幅200mm、線圧230g/cm)を転がし、表面処理剤をガラス板上から原紙表面に転写した。次いで鏡面ドライヤーを用い105℃で2分間乾燥した。これらの一連の操作は間髪をいれずすみやかに操作した。乾燥されたパルプシートを23℃、湿度50%の条件で1日間調湿し、塗工原紙とした。なお、水溶液濃度等は処理量(固形分換算)が表5中の数値となるように調整した。
【0108】
〔塗工紙の製造方法〕
上記で得られた塗工原紙(表面処理紙)の片面に、塗工液を、ブレード式の塗工機(フレキシブルトレーリングブレードコーター、塗工速度140m/分、塗工圧0.5〜1.5kg/cm2、熊谷理機工業(株)製)にて、乾燥後の塗工量が14.5g/m2となるように塗工した。次いで、105℃、20秒間鏡面ドライヤーを用い乾燥した。
【0109】
ここで、塗工液は、顔料として炭酸カルシウム(FMT97、ファイマテック株式会社製)50gと微粒カオリン(アマゾンプラス、カデム(株)製)50gを配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ(ポイズ535M、有効分31%、花王(株)製)を有効分として0.075g、及び2Nの苛性ソーダ0.020gを添加して分散し、前記顔料100gに対して表2のバインダーを有効分として11g、変性デンプン(リン酸変性澱粉、王子コンスターチ(株)製)を有効分として3.0gを混合して得た有効分濃度65重量%(残部は水)の混合物に、該混合物を100重量%として、表4のノニオン性界面活性剤を表5の割合で添加して調製した塗工液である。
【0110】
更に、テストスーパーカレンダー(熊谷理機工業(株)製)にて線圧200kg/cm、(圧力49MPa)、処理速度10m/分、ロール温度50℃、2ニップ処理することにより塗工紙を得た。
【0111】
〔塗工紙の評価方法〕
<表面処理剤の塗布量>
表面処理剤の処理で得られた塗工原紙(表面処理紙)と、表面処理前の原紙を、それぞれ23℃、湿度50%の条件で1日間調湿し、その差分をサンプルの面積(幅12.5cm×長さ25cm)で除した値から塗布量(g/m2)を算出した(測定枚数3の平均値)。表面処理剤による塗布を行わないものは、塗布量を0g/m2とした。
【0112】
<光沢度>
JIS P8142に従って光沢度計(GMX−203型、75°型、(株)村上色彩技術研究所製)を用い、塗工面の白紙光沢度を測定し、その平均値を求めた(測定ヶ所数6/1枚、測定枚数3枚、18点の平均値)。結果を表5に示す。光沢度が大きいほど、光沢性が高く、また光沢度の1%(1ポイント)の差は有意差として十分に認識されるものであり、差が3%(3ポイント)になると相違は更に顕著となる。
【0113】
<嵩密度>
JIS P8118により、緊度を測定し、嵩密度とした(測定枚数3の平均値)。結果を表4に示す。嵩密度が小さいほど、軽量であり、また嵩密度の0.02の差は有意差として十分に認識されるものである。
【0114】
なお、実施例、比較例で用いた成分について、表1にカチオン性基含有共重合体の単量体組成等を、表2にバインダーの種類及びTgを、表3にバインダー1の単量体組成等を、表4にノニオン性界面活性剤の種類とHLBを示した。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
*1:塗工液中のノニオン性界面活性剤の含有量
【0121】
表5において、手抄き紙に、本発明に係る表面処理を施し、特定のバインダーとHLBが2〜12の範囲であるノニオン性界面活性剤とを用いた塗工液を塗工した実施例1〜17の塗工紙と、表面処理剤による処理をしていない、すなわち未処理の比較例1の塗工紙と比較した場合、実施例1〜17の方が格段に高い光沢度を示すことが明らかである。
【0122】
また、実施例1〜17の塗工紙は、表面処理剤による処理を行わなかった比較例2の塗工紙や、ノニオン性界面活性剤を含有しない塗工液を用いた比較例3の塗工紙に比べて、格段に高い光沢度を示すことが明らかである。
【0123】
また、実施例1〜17の塗工紙は、ノニオン性界面活性剤としてHLBが12よりも大きいノニオン性界面活性剤を用いた塗工液で製造した比較例4、5の塗工紙に比べて、格段に高い光沢度を示すことが明らかである。
【0124】
表5の一部の実施例及び比較例において、塗工液の塗工量を表6のように変更した以外は上記と同様にして得た塗工紙について、上記と同様の評価を行った。その結果を表6に示す。また、表6の結果のうち、塗工液の塗工量と塗工紙の光沢度との関係を示すグラフを図1に示した。図1中、曲線Aは実施例2a、2、2bの結果を、曲線Bは比較例1a、1、1bの結果を、曲線Cは比較例6a、6、6bの結果を結ぶものである。
【0125】
【表6】

【0126】
表6、図1から、同一塗工量においては、特定の表面処理剤と本発明で選定した特定の塗工液との組み合わせにより、光沢度が格段に向上することがわかる。従って、光沢度が同等である場合は、本発明の塗工紙では、比重の高い無機顔料を主成分とする塗工液の塗工量を著しく低減できることから、塗工紙の嵩密度を低下させることができ、塗工紙の軽量化が可能となる。
【0127】
このように、本発明では、原紙に特定の表面処理剤を施し、更に特定の塗工液を塗工することで、既存の技術(例えば比較例1)に比べ、光沢度が向上していることが明らかである。これらは、塗工液の塗工量やカレンダー条件が同一条件である場合、実施例は塗工液の浸透が抑制されているために、比較例に比べ光沢度の向上に寄与する有効塗工層が多くなっているためであると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主原料とする紙の少なくとも片面に、カチオン性基含有共重合体を含有する表面処理剤を処理した後、該紙の前記表面処理剤による処理面に、顔料成分とスチレン/ブタジエン系ポリマー及び(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリマーからなるバインダー成分とHLBが2〜12のノニオン性界面活性剤とを含有する塗工液の塗工層を設けてなる塗工紙。
【請求項2】
前記バインダー成分が、カルボキシル基を有するビニル単量体を含む単量体を共重合してなるアニオン性ポリマーである、請求項1記載の塗工紙。
【請求項3】
前記バインダー成分が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びマレイン酸から選ばれる少なくとも1種の単量体を含む単量体を共重合してなるアニオン性ポリマーである、請求項1又は2記載の塗工紙。
【請求項4】
前記カチオン性基含有共重合体が、(A1)一般式(I)で表されるビニル単量体及び一般式(II)で表されるビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔以下、(A1)成分という〕と、(A2)一般式(III)で表されるカチオン性基含有ビニル単量体及び一般式(IV)で表されるカチオン性基含有ビニル単量体から選ばれる少なくとも1種〔以下、(A2)成分という〕とを、(A1)成分/(A2)成分で97/3〜30/70のモル比で重合することにより得られるカチオン性基含有共重合体である、請求項1〜3の何れか1項記載の塗工紙。
【化1】


〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を示す。〕
【化2】


〔式中、R1は前記の意味を示し、mは0又は1の数を示し、A1及びA2は同一又は異なって、式−(CH2n−(nは2〜6の整数を示す)で表される基及び−CO−基から選ばれる基を示し、Bは−O−及び−CH2−から選ばれる基を示す。〕
【化3】


〔R1は前記の意味を示し、R4及びR5は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基を示し、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Yは−O−、−NH−又は−O−CH2CH(OH)−基を示し、Zは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸の共役塩基、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキルサルフェート基を示す。〕
【化4】


〔式中、R7及びR8は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R9及びR10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは前記の意味を示す。〕
【請求項5】
前記カチオン性基含有共重合体が、(A1)成分と、(A2)成分と、更に(A3)架橋性ビニル単量体〔但し、前記一般式(IV)で表される単量体を除く〕〔以下、(A3)成分という〕とを重合することにより得られる、請求項4記載の塗工紙。
【請求項6】
(A)成分が、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド及びN,N−ジエチル(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種以上である請求項4又は5記載の塗工紙。
【請求項7】
前記カチオン性基含有共重合体における(A3)成分の量が、(A1)成分、(A2)成分及び(A3)成分の合計中、0.0005〜5モル%である請求項5又は6記載の塗工紙。
【請求項8】
前記表面処理剤の処理量が、片面当たり、乾燥重量で0.01〜3.0g/m2である、請求項1〜7の何れか1項記載の塗工紙。
【請求項9】
前記塗工液の塗布量が、片面当たり、乾燥重量で3〜30g/m2である、請求項1〜8の何れか1項記載の塗工紙。
【請求項10】
密度が1.5g/cm3以下である、請求項1〜9の何れか1項記載の塗工紙。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248659(P2010−248659A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99307(P2009−99307)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】