説明

塗工紙

【課題】平滑性および印刷光沢に優れ、かつ塗工ムラがないマット調塗工紙を提供する。
【解決手段】基紙と、上記基紙の少なくとも一方の面に形成されている下塗り塗工層と、上記下塗り塗工層の表面に形成されている上塗り塗工層とを有する塗工紙であって、上記下塗り塗工層は、水溶性高分子を95質量%以上含有し、上記上塗り塗工層は、顔料および水溶性高分子を含有し、かつ、当該水溶性高分子は上記顔料100質量部に対して0.1〜15.0質量部含有され、かつ、上記顔料は、粒子径2.0μm以下の割合が90質量%以上である、塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工紙に関し、より特定的には印刷光沢に優れ、塗工ムラのないマット調塗工紙の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世の中のビジュアル化の進展により、フルカラーによる高精細な印刷が可能な印刷用紙の要求がますます高まっている。そのため、基紙の表面および/または裏面に塗工液を塗工して設けられる塗工層を有し、高精細な印刷物を得ることができる塗工紙のニーズが高まっている。塗工紙は、塗工液の塗工量や塗工層表面の平坦化処理の度合いおよび要求品質等に応じて、高級美術書や、雑誌の表紙、カレンダー、ポスター、カタログ、パンフレット、チラシ等に利用されている。
【0003】
これらの塗工紙は、グロス調塗工紙とマット調塗工紙、その中間に位置するダル調塗工紙に大きく分けられる。これらの中で、マット調塗工紙は、光沢度を抑えることで落ち着いた艶消しの印刷画像が得られ、上品な高級感のある質感を醸し出すことができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−279988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗工紙の光沢度を抑えるためには、顔料として光沢の出にくい炭酸カルシウムを多く含有させる方法がある。しかし、この場合、印刷時のインクセットが速く、印刷光沢が出にくい問題がある。一方、顔料として炭酸カルシウムよりもインクセットが遅いカオリンクレーのうち、2級クレーやHCクレーを用いると、印刷光沢は高くなるものの白色度が低下する。カオリンクレーのうち白色度が高い高白色カオリンクレーであり、かつ粒子径が大きいものは塗工紙の表面を覆う効果が高く、印刷光沢が向上するが、塗工液の流動性が悪く、ブレード塗工方式で塗工すると塗工ムラを生じる。高白色であり、かつ粒子径の小さい微粒カオリンクレーを用いると、流動性と白色度の問題が改善できるものの、顔料粒子が小さいため基紙に沈み込みやすくなり、印刷光沢を向上させることができない。
【0006】
すなわち、従来は、高速オフセット印刷機において使用されるマット調塗工紙は、顔料として微粒カオリンクレーを用いた印刷光沢に劣る塗工紙か、粒子径が大きいカオリンクレーを用いた塗工ムラがある塗工紙しか得ることができず、印刷光沢に優れ、かつ塗工ムラがないマット調塗工紙は得られていない。
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、印刷光沢に優れ、かつ塗工ムラがないマット調塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下に述べる特徴を有する。
第1の発明は、基紙と、上記基紙の少なくとも一方の面に形成されている下塗り塗工層と、上記下塗り塗工層の表面に形成されている上塗り塗工層とを有する塗工紙であって、上記下塗り塗工層は、水溶性高分子を95質量%以上含有し、上記上塗り塗工層は、顔料および水溶性高分子を含有し、かつ、当該水溶性高分子は上記顔料100質量部に対して0.1〜15.0質量部含有し、かつ、上記顔料は、粒子径2.0μm以下の割合が90質量%以上である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に従属する発明であって、上記下塗り塗工層および上記上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子が、酸化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉およびヒドロキシエチル化澱粉から選ばれる、少なくとも1種類の変性澱粉であり、上記下塗り塗工層に含まれる水溶性高分子と、上記上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子とが、異なる種類であることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属する発明であって、上記下塗り塗工層が形成され、かつ上記上塗り塗工層が形成されていない上記基紙が平坦化されており、上記塗工紙の緊度が0.95〜1.15g/cm3であることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、塗工紙を製造する方法であって、上記塗工紙は、第1〜第3のいずれか1つの発明の塗工紙であり、上記上塗り塗工層がブレード塗工によって塗工されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、高い目止め効果および剛度向上効果を有する水溶性高分子を下塗り塗工層の主成分として使用し、かつ上塗り塗工層の接着剤として塗工液の粘度調整が容易な水溶性高分子を含有させ、かつ顔料として粒子径2.0μm以下の粒子の割合を90質量%以上にすることにより、上塗り塗工液中の水分を基紙に吸収させ難く、水分の移動に伴う顔料粒子の基紙への沈み込みを防止できるため、平滑性および印刷光沢に優れ、さらに塗工ムラがない、優れたマット調塗工紙を得ることができる。
【0013】
第2の発明によれば、水溶性高分子として酸化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉およびヒドロキシエチル化澱粉から選ばれる、少なくとも1種類の変性澱粉を用い、かつ、前記下塗り塗工層に含まれる水溶性高分子と、前記上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子とを異なる種類にすることにより、平滑性および印刷光沢にさらに優れたマット調塗工紙を得ることができる。
【0014】
第3の発明によれば、下塗り塗工層を設けた後に基紙を平坦化することで下塗り塗工層表面を平坦化でき、塗工後の上塗り塗工液の流動性による平坦化効果(以下、レベリング効果と称する)を促進して、上塗り塗工層表面の平坦性をより向上でき、平滑性および印刷光沢に優れた塗工紙を得ることができる。但し、過度な平坦化は嵩高性の低下を招くため、塗工紙の緊度が0.95〜1.15g/cm3となるように平坦化することが好ましい。このような平坦化処理を行うことにより、印刷光沢がさらに優れたマット調塗工紙を得ることができる。
【0015】
第4の発明によれば、平滑性および印刷光沢に優れ、さらに塗工ムラがない、マット調塗工紙を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る塗工紙は、基紙の少なくとも一方の面に、少なくとも2層の塗工層が設けられている塗工紙である。より具体的には、本実施形態に係る塗工紙は、基紙の少なくとも一方の表面に設けられている塗工層(以下、下塗り塗工層と称する)、および当該下塗り塗工層の表面に設けられている塗工層(以下、上塗り塗工層と称する)を有する。なお、本実施形態では基紙の両面にそれぞれ上記下塗り塗工層および上記上塗り塗工層を設けているが、本発明の趣旨はこれに限られるものではなく、基紙の片面のみに上記下塗り塗工層および上記上塗り塗工層を設けても良い。また、本実施形態では、基紙の両面につき、下塗り塗工層および上塗り塗工層の2層を設けているが、本発明の趣旨はこれに限られるものではなく、基紙の一方の面につき、3層以上の層を設けても良い。
【0017】
(基紙)
基紙は、通常の原料パルプを抄紙して得られるものであれば良い。当該原料パルプにも特に限定がなく、例えば未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ;雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の古紙パルプ等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を適宜選択し、その割合を調整して用いることができる。
【0018】
上記原料パルプに、内添の填料として従来製紙用途で一般的に用いられている填料を添加することができる。填料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレン粒子、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。
【0019】
(基紙の製造方法)
基紙は従来一般に用いられる製造方法で製造することができる。基紙を抄紙する工程のうちワイヤーパートでは、従来一般に製紙用途で使用されているフォーマを使用することができる。従来一般に製紙用途で使用されているフォーマの一例としては、円網フォーマ、長網フォーマ、ツインワイヤーフォーマが挙げられる。ツインワイヤーフォーマの一例としては、ハイブリッドフォーマ、ギャップフォーマが挙げられる。これらの中でも、ヘッドボックスから噴出された紙料ジェットを2枚のワイヤーで直ちに挟み込むギャップフォーマは、湿紙の地合を崩さずに脱水することができるため、湿紙の密度ムラが生じ難く、嵩高性が均一な塗工紙を得られるので好ましい。また、ギャップフォーマは、湿紙の両側から急激に脱水するため、湿紙中の微細繊維が抜けやすいという特徴がある。微細繊維が抜けると基紙の強度が低下するため、湿紙中の微細繊維が抜けやすいというギャップフォーマの特徴は、一般的にはデメリットとなる。しかし、湿紙中の微細繊維が抜けやすいというギャップフォーマの特徴は、本実施形態においては以下の理由によってメリットになる。すなわち、本実施形態においては、後述のように、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設けるところ、ギャップフォーマによって微細繊維が抜けることによって微細繊維に由来する細孔が少なくなり、当該水溶性高分子が基紙の内部に浸透しにくくなる。これにより、水溶性高分子の皮膜が形成されやすくなり、下塗り塗工層の被覆性が向上して、剛度(手肉感)向上効果が得られる。さらに、本実施形態においては、後述のように、顔料および水溶性高分子を含有する上塗り塗工層を設けるところ、上述のように、下塗り塗工層の皮膜が形成されやすいため、上塗り塗工層中の顔料粒子が基紙に入り込むことを防止する効果(以下、目止め効果と称する)を得ることができる。これにより、上塗り塗工層の顔料粒子が塗工紙の表面を覆う効果(以下、カバーリング効果と称する)が向上するため、印刷光沢を向上させることができる。
【0020】
なお、基紙の坪量には特に限定がないが、目的とする塗工紙の、JIS P 8124:1998に記載の「紙および板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した坪量が、30〜180g/m2であるのが好ましいことを考慮して、基紙の坪量は、10〜160g/m2となるように調整することが好ましい。
【0021】
(下塗り塗工層)
上記基紙の両面に、接着剤として水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設ける。上記下塗り塗工層は、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工液を、例えばギャップフォーマ後の基紙に塗工することによって設けられる。上記下塗り塗工液を塗布する方法は特に限定されないが、例えば、フィルム転写塗工方式、ゲートロール塗工方式等を用いることができる。下塗り塗工層の塗工量は特に限定されないが、塗工紙の剛性を出すためには基紙の坪量を多くし、かつ光沢性を向上させるためには上塗り塗工層の塗工量を多くすることが好ましい。すなわち、塗工紙全体の坪量を低減するためには下塗り塗工層の塗工量は少ない方が好ましいため、本実施形態においては、下塗り塗工層の塗工量は、両面あたり0.1〜5.0g/m2程度とすることが好ましく、さらには両面あたり0.2〜2.0g/m2とすることがより好ましい。下塗り塗工層の塗工量が、両面あたり0.1g/m2を下回ると下塗り塗工層の目止め効果が得られにくくなり、カバーリング効果が低下するため、印刷光沢が低下する。下塗り塗工層の塗工量が両面あたり5.0g/m2を超えると、塗工量がばらつきやすくなり、上塗り塗工層の平坦性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0022】
上記下塗り塗工層は、水溶性高分子を95質量%以上含有する。本実施形態における下塗り塗工層は、高い目止め効果を有する水溶性高分子を主成分として使用することでカバーリング効果が向上し、印刷光沢を向上させることができる。水溶性高分子の割合が95質量%を下回ると、下塗り塗工層の目止め効果が得られにくくなり、カバーリング効果が低下するため、印刷光沢が低下する。ラテックス等の非水溶性高分子を下塗り塗工層の主成分として使用した場合、非水溶性高分子は水溶性高分子よりもパルプ繊維となじみにくいため、非水溶性高分子がパルプ繊維に浸透して塗工層を形成しにくく、目止め効果に劣りカバーリング効果が低下するため、印刷光沢が低下する。
【0023】
上記下塗り塗工液に主成分として含まれる水溶性高分子は、特に制限はなく、一般的に製紙用途に用いられるものを使用することができる。上記下塗り塗工液に用いる水溶性高分子の一例としては、ポリアクリルアミド、およびポリビニルアルコール(以下、PVAと称する)等の水溶性樹脂、並びにヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロース等のセルロース系水溶性高分子、並びに生澱粉、酵素変性澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化澱粉、酸化澱粉類の澱粉および澱粉類(以下、澱粉類と称する)が挙げられる。これらの水溶性高分子の中から1種または2種以上を適宜選択して併用することができるが、上記水溶性高分子の中でも澱粉類が好ましい。これは、澱粉類を主成分とする下塗り塗工層は流動性が良く、操業性に優れるからである。目止め効果ではポリビニルアルコールが特に優れるが、ポリビニルアルコールは流動性が悪く、一般の塗工紙製造条件(抄速が毎分数百メートル〜千数百メートル)においては、操業性が悪くなるため好ましくない。また、上記澱粉類の中でも酸化澱粉がより好ましい。酸化澱粉は、塗工紙の剛度向上効果が高く、剛度(手肉感)に優れた塗工紙が得られやすい。澱粉類の中でも、酸化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉およびヒドロキシエチル化澱粉から選ばれる、少なくとも1種類の変性澱粉を用いると、平滑性および印刷光沢に優れるため好ましい。また、後述するが、下塗り塗工層に用いる水溶性高分子として、上塗り塗工層に用いる水溶性高分子とは異なる種類のものを用いると、より印刷光沢の向上効果に優れるため好ましい。
【0024】
(プレカレンダー)
本実施形態においては、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設けた後の基紙(以下、下塗り塗工紙と称する)に上塗り塗工層を設ける前に、上記下塗り塗工紙を平坦化する処理(以下、平坦化処理と称する)をすることが好ましい。上塗り塗工層を設ける前に上記下塗り塗工紙を平坦化処理することによって、下塗り塗工後の平坦性が高くなる。上記下塗り塗工紙の平坦化処理の条件については、特に限定されないが、目止め効果が高い緊度(0.95〜1.15g/cm3)を有する塗工紙を得るためには、ニップ圧10〜150kN/m、金属ロールの表面温度20〜150℃とすることが好ましい。緊度が0.95〜1.15g/cm3となるよう平坦化処理すれば、塗工ムラが発生しにくく、かつ高い剛性を有する塗工紙となるため好ましい。0.95g/cm3を下回ると、十分に平坦化処理されていないため、塗工ムラが発生しやすいため好ましくない。1.15g/cm3を超過すると、剛度が低下して見栄えに劣る塗工紙となりやすいため好ましくない。
【0025】
(上塗り塗工層)
上記下塗り塗工紙の表面に、顔料および接着剤を含有する上塗り塗工層を設ける。上記上塗り塗工層は、上記下塗り塗工紙の表面に、顔料および接着剤を含有する上塗り塗工液を塗工することにより設けられる。上記上塗り塗工液を塗布する方法は特に限定されないが、塗工面の平滑性に優れるブレード塗工方式が好ましい。粒子径が大きい顔料を使用した場合は、上述したように、塗工液の流動性が悪くなり、ブレード塗工方式では塗工ムラが生じるという問題がある。しかし、本実施形態では、後述のように、微細粒子顔料を使用することによって上塗り塗工液の流動性を向上させているため、このような問題は生じにくい。
【0026】
上塗り塗工層に用いられる顔料としては、従来一般に製紙用途にて顔料として使用されているものを用いることができる。上塗り塗工層に用いられる顔料の例としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、および水酸化亜鉛等の無機顔料、並びにポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子等の有機顔料が挙げられ、必要に応じて1種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロスを脱水、乾燥、焼成および粉砕して得られた、いわゆる再生粒子を用いても良い。
【0027】
これら顔料の中でも、カオリンクレーは板状であり、塗工層内部で積層し密な塗工層を形成して塗工層中の細孔が少なくなりやすく、インクセットが遅くなり印刷光沢が向上しやすいため好ましい。カオリンクレー以外の顔料、特に平板状でない顔料、例えば非晶質シリカを用いると、カオリンクレーほど塗工層が密にならず細孔が多くなるため、インクセットが比較的早くなり、印刷光沢が低下する傾向がある。
【0028】
上塗り塗工層に用いられる顔料のうち、カオリンクレーを10〜70質量%、さらには50〜70質量%含有させることにより、特に印刷光沢向上効果に優れるため好ましい。カオリンクレーの含有割合をこの範囲とすることで、カオリンクレーが塗工層内部で積層して密な塗工層を形成しやすいため好ましい。カオリンクレーの含有割合が70質量%を超過すると、特に特に密な塗工層となりやすいが、一方で、塗料の流動性が悪くなりやすく、特に後述するとおり、ブレード塗工により上塗り塗工層を設けた場合には、塗工ムラが発生しやすく平滑性が低下しやすいため好ましくない。カオリンクレーの含有量が10質量%を下回ると、そもそも密な塗工層となりにくく、平滑性および印刷光沢が低下しやすいため好ましくない。
【0029】
上塗り塗工層に用いられる顔料の粒子径についても、従来一般に製紙用途にて顔料として使用されているものであれば、特に制限なく用いることができるが、粒子径の小さい顔料を多く使用することが好ましい。これは、粒子径が小さい顔料を使用した塗工液は、流動性が向上する傾向にあるため、ブレード塗工方式を用いても、ムラなく上塗り塗工しやすいからである。また、微細粒子を多く含む顔料は比表面積が大きく、保水性が高いため、基紙に塗工液の水分が吸収されにくい。これらの効果は、粒子径2.0μm以下の顔料粒子が、上塗り塗工液中の顔料の90質量%以上ある場合に顕著であり、上塗り塗工液中の顔料の93質量%以上ある場合に特に顕著である。
【0030】
一般に、粒子径が小さい顔料を使用した場合、顔料粒子が基紙内部に沈み込みやすいため、塗工紙の平坦性や白紙光沢、印刷光沢が低下しやすくなる。しかしながら本実施形態においては、後述するとおり、好ましくは下塗り塗工層と上塗り塗工層とで、異なる種類の水溶性高分子を含有させるため、基紙中に顔料粒子が沈み込みにくくなり、粒子径2.0μm以下の顔料粒子が90質量%以上、特に93質量%以上と多くても、十分に平滑性および印刷光沢が高い塗工紙を得ることができる。
【0031】
本実施形態においては、上塗り塗工層中の接着剤は、顔料100質量部に対して水溶性高分子を0.1〜15.0質量部含有するものを用いる。これは、非水溶性高分子のみを上塗り塗工液中の接着剤として用いるとカバーリング効果に劣るため、平滑性および印刷光沢が低下しやすいからである。本実施形態では、上塗り塗工液中の接着剤として顔料100質量部に対して水溶性高分子を0.1〜15.0質量部用いることにより、例え非水溶性高分子を使用したとしても上塗り塗工液中の微細顔料粒子が基紙に沈み込むのを防止し、平滑性および印刷光沢を向上させることができる。
【0032】
上塗り塗工液中の接着剤として使用することができる水溶性高分子は、特に制限はなく、一般的に製紙用途に使用できるものを用いることができる。上塗り塗工液中の接着剤として使用することができる水溶性高分子の一例としては、上述の下塗り塗工層で用いることができる水溶性高分子と同様であり、これらの水溶性高分子の中から1種または2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0033】
上塗り塗工層の水溶性高分子としては、下塗り塗工層とは異なる種類の水溶性高分子を含有させることが好ましい。これは、下塗り塗工層と上塗り塗工層とで同一の水溶性高分子を使用すると、上塗り塗工層と下塗り塗工層との親和性が高くなり、上塗り塗工層の塗工液が下塗り塗工層を軟化させて、微細粒子が下塗り塗工層および基紙に浸透しやすくなるためである。上塗り塗工時には既に、下塗り塗工層の水溶性高分子は成膜しているため流動性はないものの、上塗り塗工液の熱により下塗り塗工層が軟化しやすい傾向があり、下塗り塗工層および基紙に微細粒子が沈み込む可能性がある。特に、オンマシン塗工機で下塗り塗工層および上塗り塗工層を一連で設ける場合は、下塗り塗工層が乾燥工程で乾燥された後、紙面温度が高い状態で直ぐに上塗り塗工層が塗工されるため、より下塗り塗工層が軟化しやすい。このため、上述のとおり、上塗り塗工層と下塗り塗工層とで異なる種類の水溶性高分子を含有させることにより、微細顔料がより下塗り塗工層および基紙に沈み込みにくく、より平滑性および印刷光沢を向上させた塗工紙を得ることができる。
【0034】
また、上塗り塗工層中の顔料粒子の沈み込みを防止することで、上塗り塗工層中に顔料粒子を留めておくことができ、レベリング効果を促進でき、特に平滑性に優れた塗工紙を得ることができる。
【0035】
上述の下塗り塗工層と同様、上塗り塗工層においても、水溶性高分子として酸化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉およびヒドロキシエチル化澱粉から選ばれる、少なくとも1種類の変性澱粉を用いると、平滑性および印刷光沢に優れるため好ましい。特に、尿素リン酸エステル化澱粉またはヒドロキシエチル化澱粉を用いると、特に印刷光沢が高い塗工紙を得られやすいため好ましい。
【0036】
上塗り塗工液中の接着剤として使用する水溶性高分子の配合割合は、上塗り塗工層中の顔料100質量部に対して0.1〜15.0質量部が好ましく、0.1〜10.0質量部がより好ましく、0.5〜5.0質量部がさらに好ましい。上塗り塗工層の接着剤として、水溶性高分子を顔料100質量部に対し0.1〜15.0質量部を含有させることで、塗工液の粘度を調整することができる。すなわち、上塗り塗工液のB型粘度を3,000〜5,000cpsに調整することができ、ブレード塗工を行った際の塗工ムラの発生を防止することができる。
【0037】
また、水溶性高分子を顔料100質量部に対して0.1〜15.0質量部配合することにより、上塗り塗工液の濃度を60.0〜71.0質量%、さらには65.0〜70.5質量%、特に67.0〜70.0質量%としても、B型粘度を上述の範囲とすることができ、ブレード塗工に適した濃度とすることができる。上述の濃度とすることで、上塗り塗工層の乾燥時間を短くできるため、上塗り塗工層中の微細な顔料粒子が下塗り塗工層および基紙に沈み込みにくくなり、平滑性および印刷光沢に優れた塗工紙を得ることができる。濃度が60.0質量%を下回ると、上塗り塗工層を乾燥させる時間が長くなるため、微細な顔料粒子が下塗り塗工層および基紙に沈み込みやすくなるため好ましくない。
【0038】
上塗り塗工液の保水度は200g/m2以下、好ましくは150g/m2以下、特に好ましくは100g/m2以下に調整することが好ましい。保水性を向上させる(保水度を減少させる)ことで、上塗り塗工液中の水分が下塗り塗工層に吸収され難く、水分の移動に伴う微細顔料粒子の下塗り塗工層および基紙への浸透を抑制できるため好ましい。特に本実施形態においては、上塗り塗工層のうち、粒子径2.0μm以下の顔料粒子が全体の90質量%以上と、比表面積が大きい顔料を多く含むため保水性を向上させやすく、基紙に塗工液の水分が吸収されにくいとの相乗効果を有する。
【0039】
上塗り塗工液中の接着剤として使用する水溶性高分子の配合割合が0.1質量部を下回ると、塗料の粘度が低下しやすくなるため、微細顔料粒子が下塗り塗工紙に沈み込みやすく、印刷光沢が低下しやすい。また15.0質量部を超えると、塗工液の粘度が増加し過ぎてしまうため、ブレード塗工できるようB型粘度を調整するためには、濃度を低下させる必要があり、平滑性および印刷光沢が低下しやすいため好ましくない。
【0040】
上塗り塗工層の塗工量(固形分量)は、両面合計で、好ましくは10〜30g/m2であり、上塗り塗工層と下塗り塗工層の合計塗工量が10〜35g/m2程度あれば、充分に光沢性および平滑性に優れた塗工紙が得られる。
【0041】
なお、本実施形態にて用いる上塗り塗工液には、顔料および接着剤以外にも、例えば、ダスト防止剤、蛍光染料、蛍光染料増白剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等、製紙用途で一般に用いられる各種助剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。上記上塗り塗工液を調製する方法には特に限定がなく、顔料、接着剤、および必要な各種助剤等を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すれば良い。
【0042】
また、従来技術(例えば特許文献1)では、塗工層を設けた基紙に、塗工ムラを低減させる目的でスーパーカレンダーやソフトカレンダー等の平坦化処理を施しているが、本実施形態によれば、上塗り塗工層を設けた後にカレンダー等の平坦化処理を行わなくても平坦性が高く塗工ムラがない良好なマット調塗工紙が得られる。
【実施例】
【0043】
【表1】

【0044】
(製造手順)
まず、原料パルプとしてNBKP、LBKPおよび雑誌古紙由来のDIPを、20:70:10で混合した。このパルプ100質量部(絶乾量)に対して、各々固形分で、填料(紡錘型軽質炭酸カルシウム、品番:TP−121―6S、奥多摩工業社製)5.0質量%、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成社製)0.05質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン社製)1.0質量%、および歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス社製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。
【0045】
上記パルプスラリーを抄紙し、ワイヤーパート、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して坪量が約43g/m2の基紙を製造した。なお、ワイヤーパートでは表1に記載のワイヤー形状で抄紙した。次いでアンダーコーターパートにおいて、表1に記載の酸化澱粉、リン酸澱粉、PVAまたはラテックスを主成分とする下塗り塗工層が片面あたり0.5g/m2となるように、フィルム転写塗工方式によって下塗り塗工液を塗工した。
【0046】
次に、両面に下塗り塗工層が設けられた基紙をアフタードライヤーパートに供し、この下塗り塗工紙を乾燥させた後、表に記載のニップ圧および金属ロール温度80℃の条件で平坦化処理(プレカレンダー)を施した。
【0047】
次に、トップコーターパートにおいて、表1に記載の顔料と、顔料100質量部に対して表1に記載の量となる表1に記載の種類の接着剤を含有する上塗り塗工層が、片面あたり10g/m2となるように表1に記載の塗工方法によって上塗り塗工液を両面に塗工し、坪量64g/m2の印刷用塗工紙を製造した。なお、抄紙〜上塗り塗工までは、全てオンマシン塗工機を用いて製造した。ラテックスの含有量は、顔料100質量部に対して5.0質量部とした。なお、上塗り塗工層の顔料は、後述のクレーと後述の炭酸カルシウムとを併せて100質量部となるようにした。
【0048】
表1に示す接着剤および顔料は、次のとおりである。
【0049】
<下塗り塗工層>
(接着剤)
(水溶性高分子)
・酸化澱粉(品番:マーメイドM−200、三晶社製)
・尿素リン酸エステル化澱粉(リン酸澱粉)(品番:スターコート#16、日本食品化社製)
・PVA(品番:PVA205、クラレ社製)
(ラテックス)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(品番:PA9902、日本エイアンドエル社製)
【0050】
<上塗り塗工層>
(接着剤)
(水溶性高分子)
・酸化澱粉(品番:マーメイドM−200、三晶社製)
・尿素リン酸エステル化澱粉(リン酸澱粉)(品番:スターコート#16、日本食品化社製)
・ヒドロキシエチル化澱粉(HES)(品番:K96F、三晶社製)
(ラテックス)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(品番:PA9902、日本エイアンドエル社製)
(顔料)
・炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ90、オミヤコーリア社製、平均粒子径2μm以下が90質量%)
・炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ75、オミヤコーリア社製、平均粒子径2μm以下が75質量%)
・カオリンクレー(品番:HCクレー、パラピグメント社製、平均粒子径2μm以下が82質量%)
なお、カオリンクレーは湿式粉砕機(品番:プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕し、平均粒子径2μm以下の割合が表に記載のとおりになるよう調整した。
【0051】
なお、表1における、粒子径2μm以下の割合は、2μm以下の粒子径の顔料が顔料全体の質量に対して占める割合を示している。
【0052】
(評価方法)
(a)坪量
JIS P 8124:1998「紙および板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0053】
(b)緊度
JIS P 8118:1998「紙および板紙‐厚さおよび密度の試験方法」に記載の方法に準拠して密度を測定し、緊度とした。緊度が0.95〜1.15g/cm3であれば、微細粒子の沈み込みを防止しやすく、かつ高い剛性を有する塗工紙となるため好ましい。0.95g/cm3を下回ると、塗工ムラが発生しやすいため好ましくない。1.15g/cm3を超過すると、剛度が低下して見栄えに劣る塗工紙となりやすいため好ましくない。
【0054】
(c)印刷光沢
次の条件で塗工紙に印刷を行って印刷試験体を作製した。
・印刷機:RI−3型、株式会社明製作所製
・インク:WebRexNouverHIMARKプロセス、大日精化社製
・インク量:上段ロールに0.3ml、下段ロールに0.2ml
・試験方法:上段、下段ロールでそれぞれインクを各3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させてさらに1分間練る)、回転速度30rpmで2色同時印刷を行った。
前記印刷試験体について、JIS P 8142:2005「紙および板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した。印刷光沢度が65%以上であれば光沢性に優れ、60%以上あれば光沢性が良好であり、55%以上あれば光沢性があり、55%を下回ると光沢性に劣るものである。
【0055】
(d)平滑性
JIS P 8119:1998「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠して平滑度を測定した。平滑度が40秒以上であれば平滑性に優れ、35秒以上であれば平滑性が良く、30秒以上であれば平滑性があり、30秒を下回ると平滑性に劣るものである。
【0056】
(e)塗工ムラ
塗工面の平坦性および光沢性のムラについて、次の基準で評価した。
◎:塗工ムラがなく、見栄えに優れる。
○:塗工ムラが僅かに見られるが、印刷後には目立たなくなり実使用上問題ない
△:塗工ムラが多少あり、印刷後でもムラが見られるが、実使用できる下限レベル
×:塗工ムラが目立ち、印刷後でもムラが目立ち、実使用不可能なレベル
【0057】
(f)剛度
JAPAN TAPPI No.40:2000 「紙および板紙−荷重曲げによるこわさ試験方法−ガーレー法」に準拠して、抄紙幅方向(CD方向)を測定した。剛度が0.45mN以上であれば剛性に特に優れ、0.40mN以上であれば剛性に優れ、0.35mN以上であれば剛性があり、0.35mNを下回ると、剛性に劣るものである。
【0058】
(g)上塗り塗工液の保水度
AA−GWR保水度計(SMT社製)を用い、B型粘度4,000cps、23℃に温度調整した塗工液を、圧力2.0kg/cm2、接触時間30秒にて測定した。値が小さい程保水性が優れていることを示す。保水度が100g/m2以下であればより優れ、150g/m2以下であれば優れ、200g/m2以下であれば実使用可能であり、200g/m2を超過すると、保水性に劣り実使用が難しい。
【0059】
(h)上塗り塗工液のB型粘度
30℃に温度調整した塗工液を、回転数60rpmにて測定した。B型粘度が3,500〜4,500cpsとなるよう、塗工液濃度を調整した。
【0060】
実施例の塗工紙はいずれも、請求項1の構成を満たすため、上記各評価項目において良好な結果が得られた。すなわち、各実施例に係る塗工紙は、本願課題を解決できるものである。
【0061】
これに対して、比較例の塗工紙はいずれも、請求項1の構成を満たさないため、いずれかの評価項目において良好な結果が得ることができず、本願課題を必ずしも解決できないものである。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態を詳細に説明してきたが、上述の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、平滑性および印刷光沢に優れ、塗工ムラがない塗工紙を提供でき、例えば印刷用のマット調塗工紙に利用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、前記基紙の少なくとも一方の面に形成されている下塗り塗工層と、前記下塗り塗工層の表面に形成されている上塗り塗工層とを有する塗工紙であって、
前記下塗り塗工層は、水溶性高分子を95質量%以上含有し、
前記上塗り塗工層は、顔料および水溶性高分子を含有し、かつ、当該水溶性高分子は前記顔料100質量部に対して0.1〜15.0質量部含有され、かつ、前記顔料は、粒子径2.0μm以下の割合が90質量%以上である、塗工紙。
【請求項2】
前記下塗り塗工層および前記上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子が、酸化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉およびヒドロキシエチル化澱粉から選ばれる、少なくとも1種類の変性澱粉であり、
前記下塗り塗工層に含まれる水溶性高分子と、前記上塗り塗工層に含まれる水溶性高分子とが、異なる種類であることを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記下塗り塗工層が形成され、かつ前記上塗り塗工層が形成されていない前記基紙が平坦化されており、前記塗工紙の緊度が0.95〜1.15g/cm3であることを特徴とする、請求項1または2に記載の塗工紙。
【請求項4】
塗工紙を製造する方法であって、
前記塗工紙は、請求項1〜3いずれか1項に記載の塗工紙であり、
前記上塗り塗工層がブレード塗工方式によって塗工されていることを特徴とする、塗工紙を製造する方法。

【公開番号】特開2012−117179(P2012−117179A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269596(P2010−269596)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】