説明

塗工紙

【課題】高精細な印刷物を取得可能であり、且つ印刷作業性に優れた塗工紙を提供する。
【解決手段】基紙と、基紙上に設けられた下塗り塗工層と、下塗り塗工層上に設けられた上塗り塗工層とを備える塗工紙であって、下塗り塗工層は、水溶性高分子を主成分とし、さらに水溶性電解質を含み、上塗り塗工層は、顔料と接着剤を主成分とし、顔料は、当該顔料100質量部あたりに、誘電率1.8以上7.5以下の高誘電顔料を10〜80質量部含有することを特徴とする塗工紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙に関し、より特定的には、印刷等に用いられる塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源化による環境負荷の低減、二酸化炭素排出量の削減の取り組みから、紙分野においては、従来と同程度の品質でありながら、より軽量である紙が求められている。塗工紙分野においては、軽量化を行っても印刷時に断紙しない程度の引張強度や、高精細な印刷物を得るための白色度、不透明度、白紙光沢度、面感(ボコツキの少なさ)が重要であり、印刷後の印刷物においては印刷不透明度、印刷光沢度、裏抜け、印字濃度(着肉性)、モットリング(印刷部分の濃淡ムラ)などの品質を満足する必要がある。加えて、印刷時にパイリング(紙紛)が発生しない程度の表面強度や、静電気により印刷物同士が貼り付いて紙揃え不良が発生しない程度の耐静電気性が求められている。
【0003】
塗工紙は、塗工液の塗工量や塗工層表面の平坦化処理の度合い、要求品質に応じて、アート紙(A1グレード)、塗工紙(A2グレード)、軽量塗工紙(A3グレード)、微塗工紙に分類され、A1グレードの塗工紙は、高級美術書や、雑誌の表紙、口絵、カレンダー、ポスター、ラベル、煙草包装用などの、高精細な印刷を要求されるものに使用され、A2グレードの塗工紙はカタログ、パンフレット等の見栄えが必要とされる商業印刷等に使用され、A3グレードの塗工紙および微塗工紙は、チラシ等の商業印刷等に利用されている。
【0004】
印刷時においては静電気が発生して印刷物同士が貼り付きやすくなり、印刷後にスタバン(スタッカーバンドラー)で紙揃え不良が発生し、梱包時に印刷物の端部が折れたりシワになったりする問題がある。このような問題は、静電気により印刷物同士が貼り付きやすくなることが大きな要因となっている。このため、静電気による印刷物同士の貼り付きを防止することで、紙揃え不良を解消させる検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、静電気の帯電を防止するためには、顔料を含む塗工層中に帯電防止剤を含有させ、静電気を放電しやすくすれば良い旨が開示されている。また、特許文献2および3においては、顔料を含む塗料中ではなく、顔料を含有しない下塗り塗工層の塗料や基紙そのものに電解質(導電性物質)を含有させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−278096号公報
【特許文献2】特開平11−229295号公報
【特許文献3】特開平11−315497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1などに示されたように、アニオン性である顔料を含む塗料中に水溶性電解質を含有させると顔料が凝集するため、塗工後の面感にボコツキが発生したり、インキの転写が不均一となる場合がある。そのため、印刷時においてモットリング(印刷部分の濃淡ムラ)が発生するなど、高精細な印刷物が得られない問題があった。また、塗工後に面感を向上させる目的でカレンダーなどの平坦化処理を行うと、紙厚が低下するため剛性がなくなり、より静電気による貼り付きが悪化するだけでなく、嵩高さが低下して薄っぺらい、低品質な紙となりやすい問題もある。
【0008】
また、特許文献2および3に示されたように下塗り塗工層の塗料や基紙そのものに電解質を含有させる場合、顔料塗工層が電子を通過させにくいため、下塗り塗工層が導電性を有するとしても、塗工層表面に帯電した静電気を充分に除去できない問題があった。すなわち、従来の技術では、高い印刷品質を保ちつつ、静電気による印刷物同士の貼り付きを防止可能な塗工紙を得ることはできていなかった。
【0009】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたものであり、印刷作業性および印刷品質に優れた塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本願は以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明は、基紙と、基紙上に設けられた下塗り塗工層と、下塗り塗工層上に設けられた上塗り塗工層とを備える塗工紙であって、下塗り塗工層は、水溶性高分子を主成分とし、さらに水溶性電解質を含み、上塗り塗工層は、顔料と接着剤を主成分とし、顔料は、当該顔料100質量部あたりに、誘電率1.8以上7.5以下の高誘電顔料を10〜80質量部含有することを特徴とする塗工紙である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上塗り塗工層に含まれる顔料の粒子数のうち4〜30%の粒子が、1.5μm以上の粒子径を有することを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、基紙中に凝集粒子状の填料が含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、高精細な印刷物を取得可能であり、且つ印刷作業性に優れた塗工紙を得ることができる。具体的には、水溶性電解質と顔料とが各々別層に含まれるため、塗工紙表面において顔料の凝集を防止し、優れた面感を得ることができる。そのため、高精細な印刷物を取得可能となるのである。さらに、上塗り塗工層において高誘電顔料が適切な分量配合されているため、適切な誘電性能を有する上塗り塗工層を得ることができる。したがって、印刷および梱包時において、静電気の発生および塗工紙の帯電等を抑制することができ、塗工紙同士が貼り付くことに起因する印刷不良および紙揃え不良の発生を防ぐことができるのである。
【0014】
第2の発明によれば、顔料間に空気(誘電率1.0)が混ざり難い状態となっているため、より安定した誘電性能を有する上塗り塗工層を得ることができる。すなわち、より確実に印刷不良および紙揃え不良を防ぐことができる。
【0015】
第3の発明によれば、填料が凝集粒子状であるため、当該填料がパルプ繊維に絡みやすく、凝集粒子状でない他の填料を用いた場合に比べ、歩留まりを高くすることができる。このため、塗工紙の地合いを悪化させる要因となる凝集剤や凝結剤などの歩留向上剤の添加量を抑制することができる。すなわち、より面感に優れ(ボコツキが少なく)、印刷インキの転写が均一でモットリング(印刷部分の濃淡ムラ)の発生を防止した塗工紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る塗工紙について説明する。本発明の実施形態に係る塗工紙は、基紙と、前記基紙上に設けられた下塗り塗工層と、前記下塗り塗工層上に設けられた上塗り塗工層とを備える。なお、以下では、下塗り塗工層の原料を混合した溶液を、下塗り塗工液と呼称する。また、上塗り塗工層の原料を混合した溶液を、上塗り塗工液と呼称する。
【0017】
(パルプ)
基紙の原料パルプとしては、一般に製紙用途で使用される化学パルプや機械パルプ、脱墨古紙パルプなどを用いることができる。
【0018】
化学パルプは、例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等が挙げられる。
【0019】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。この中でもサーモメカニカルパルプを用いると、異物が少なく繊維同士の強度低下が少ないため、連続性生産中の断紙を防止しやすく好ましい。
【0020】
また、化学パルプや機械パルプを使用した古紙から再生される古紙パルプも使用することができる。このような古紙パルプとしては、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。但し、一般に古紙パルプの白色度、および不透明性は、機械パルプのそれに劣るため、基紙の原料としてこのような古紙パルプを多量に含有させることは好ましくない。
【0021】
基紙に用いるパルプは、塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、重さ加重の繊維長分布を繊維長0.05mmごとに求めた場合に、当該繊維長分布が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲において最大値を有するパルプであることが好ましい。特に好ましくは上記繊維長分布が0.20mm以上0.55mm未満の範囲において最大値を有することが好ましい。パルプ繊維の繊維長分布における最大値をこの範囲内とすることで、パルプ繊維同士の絡み合いが良好となり、連続生産時の断紙を防止しやすいため好ましい。また後述するが、基紙の原料に填料として、粒子の形状が不定形である凝集型炭酸カルシウムを含有すると、パルプ繊維同士の絡み合いが阻害されやすくなる場合があるが、繊維長分布の最大値を上記範囲内とすることにより填料とパルプ繊維との充分な絡み合いを得ることができる。したがって、基紙の原料に填料として凝集型炭酸カルシウムを含有させても引張強度に優れた塗工紙が得られ、塗工紙の連続製造時に断紙が発生しにくくなるため好ましい。
【0022】
基紙において繊維長0.15mm未満の繊維の含有量が比較的多いために上述の通りにして測定した繊維長分布の最大値が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲にない場合は、微細繊維が多いため引張強度が低下しやすく、連続製造時に断紙しやすいため、繊維長分布の最大値が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲内にある場合に比べ好ましくない。また、繊維長0.60mm以上の繊維の含有量が比較的多いために繊維長分布の最大値が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲外である場合も、長繊維が多いためパルプ同士の絡み合いが少なくなり断紙が発生しやすくなるため、繊維長分布の最大値が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲内にある場合に比べ好ましくない。
【0023】
繊維長0.10mm以上0.65mm未満の範囲に最大値を有するパルプ繊維を好適に得るには、従来一般に使用されている叩解方法を用いてフリーネスを調整すれば良い。叩解方法としては、例えば、ビーター、コニカルリファイナー、円筒型リファイナー、シングルディスクリファイナー(SDR)、およびダブルディスクリファイナー(DDR)を用いることができる。例えば、基紙の原料パルプとしてTMPを用いる場合、DDRを用いてフリーネスを約30〜300mlにまで叩解すれば良い。叩解して得られたパルプ繊維は、異なる繊維長を有する他のパルプと混合して用いることもできる。すなわち、混合後のパルプ繊維が、離解後の繊維長で0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有するよう、繊維長の異なる他のパルプとの配合割合を調整すれば良い。
【0024】
(填料)
上述の基紙においては、填料として従来一般に製紙用途で使用される填料を含有させることができるが、特に凝集型炭酸カルシウムなどの凝集粒子状の填料を含有することが好ましい。詳細は後述するが、凝集型炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの一次粒子が凝集した凝集状であるため粒子径が通常の炭酸カルシウムに比べて大きい。また、凝集型炭酸カルシウムは、粒子形状が一定でなく粒子表面の凹凸が比較的大きい。したがって、凝集型炭酸カルシウムは、凝集粒子状でない他の填料に比べパルプ繊維に絡みやすく、歩留まりを高くすることができる。このため、塗工紙の地合いを悪化させる要因となる凝集剤や凝結剤などの歩留向上剤の添加量を抑制することができる。すなわち、凝集型炭酸カルシウムなどの凝集粒子状の填料を用いると、より面感に優れ(ボコツキが少なく)、印刷インキの転写が均一でモットリング(印刷部分の濃淡ムラ)の発生を防止した塗工紙が得られるため好ましいのである。
【0025】
(凝集型炭酸カルシウム)
製紙用途において一般に填料として使用される炭酸カルシウムは、一次粒子のみで形成されており二次粒子を形成していない。本発明においては、上述の通りこれら炭酸カルシウムが凝集して二次粒子を形成した凝集型炭酸カルシウムを使用することが好ましい。例えば、一般的に填料として使用される紡錘状の一次粒子では、一次粒子の粒子径が0.05〜0.5μm程度である。一方、一次粒子が凝集して形成した凝集型炭酸カルシウム(二次粒子)の粒子径は2.0〜6.0μm程度と大きくなる。このような凝集型炭酸カルシウムとしては、特開平07−197398号または特開2008−156204号に記載のものを用いることができる。
【0026】
凝集型炭酸カルシウムには、一次粒子を有機系凝集剤または無機系凝集剤で凝集させ、凝集状二次粒子を形成させたもの(例えば特開2007−239150号広報、特開2007−023428号広報等を参照)や、一次粒子同士を炭酸化工程にて反応させて結合させ、凝集状二次粒子を形成させたもの(特開2008−156204号を参照)が挙げられる。本発明においては、後者の一次粒子同士を炭酸化工程にて反応させて結合させて得られた凝集型炭酸カルシウムを用いると、より歩留向上剤の含有量を低減できるため地合いの悪化を防止でき、充分に連続生産時の断紙を防止できるため好ましい。
【0027】
上述のごとく、本発明に係る塗工紙においては、繊維長分布が繊維長0.15mm以上0.60mm未満の範囲に最大値を有するパルプを原料パルプとして用い、さらに、填料として凝集型炭酸カルシウムを含有させることで、地合いおよび面感向上効果が得られモットリングを防止でき、かつ断紙防止できる効果を同時に得ることができる。また、詳細は後述するが、塗工顔料として粒子径1.0μm未満の粒子の割合を顔料全体の30%以下、かつ3.0μm以上の粒子の割合を10%未満とすることで、さらに良好にモットリングを防止できる塗工紙を得ることができる。
【0028】
歩留向上剤としては従来一般に凝集剤として使用されるものを使用でき、例えば、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、カチオン化澱粉などが挙げられる。歩留向上剤のパルプへの含有量は、固形分換算で絶乾パルプ100質量%に対して2〜100ppmが好ましく、10〜50ppmがより好ましい。なお、歩留向上剤のパルプへの含有量が2ppm以下である場合、あるいは、100ppmを超過する場合、いずれも塗工紙の地合いが悪化してモットリングが低下しやすいため、歩留向上剤のパルプへの含有量が2〜100ppmである場合に比べて好ましくない。
【0029】
その点、上述の凝集型炭酸カルシウムは基紙における歩留り効果が高いため歩留向上剤の含有量を低減することができ、塗工紙のモットリングを改善しやすいため好ましい。凝集状でない填料、例えば紡錘状炭酸カルシウムを用いた場合は、歩留向上剤を100ppmを超えて添加する必要があり、歩留向上剤の添加量が比較的多くなるためモットリングが悪化しやすくなる。
【0030】
(下塗り塗工)
本発明に係る塗工紙を製造するに際しては、先ず、以上のようにして基紙を製造し、次いで、上記の基紙の両面に、水溶性高分子を主成分とし、かつ水溶性電解質を含有する下塗り塗工層を設ける。水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層に食塩などの水溶性電解質を含有させることで導電性を向上でき、完成した塗工紙の紙揃えを行う際に、静電気に起因する紙揃え不良を防止できる。また、下塗り塗工層に食塩などの水溶性電解質を含有させると、上塗り塗工層を設ける際に、下塗り塗工層と接触する上塗り塗工液の一部が水溶性電解質により凝集して目止めの役割を果たすため、上塗り塗工液が基紙および下塗り塗工層に染み込みにくくなり、より嵩高な顔料塗工層(上塗り塗工層)を有する塗工紙を得ることができる。
【0031】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、種々のケン化度や重合度を有し、あるいはカルボキシ変性やシラノール変性された変性ポリビニルアルコールを含む各種のポリビニルアルコール、酸化、エーテル化、エステル化、アセチル化、あるいはカチオン化変性が施された各種の澱粉あるいは澱粉誘導体、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ノニオン性、アニオン性、カチオン性あるいは両性の各種イオン性(メタ)アクリルアミド系重合体等の通常製紙用に使用されている各種水溶性高分子を使用することができる。中でも、澱粉あるいは澱粉誘導体、特にリン酸エステル化澱粉は、後述の水溶性電解質、サイズ剤および消泡剤と混合した後の機械的安定性に優れ水溶性電解質を均一に分散させることができる。すなわち、水溶性高分子として澱粉あるいは澱粉誘導体、特にリン酸エステル化澱粉を用いると、上塗り塗工層に対する凝集作用を均一に付与でき、モットリングの発生を防止しやすいため好ましい。
【0032】
(水溶性電解質)
水溶性電解質としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等の無機系水溶性電解質やポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム等のアニオン性水溶性高分子、ポリビニルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド等の高分子系水溶性電解質が挙げられる。中でも、塩化ナトリウムや塩化カルシウムは、分子量が小さく溶解度が高く、水溶性高分子を含有する下塗り塗工液に対して均一に溶解させることができる。したがって、水溶性電解質として塩化ナトリウムや塩化カルシウムを用いると、上塗り塗工層に対する凝集作用を均一に付与でき、モットリングの発生を防止しやすいため好ましい。
【0033】
下塗り塗工液における水溶性電解質の含有量は、水溶性高分子100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。上記水溶性電解質の含有量が1質量部を下回る場合、静電気を防止しにくく紙揃え不良が発生する恐れがあるだけでなく、上塗り塗工液に対する凝集作用が充分でなく嵩高な塗工紙が得られにくくなるため、当該含有量が1〜10質量部である場合に比べて好ましくない。また、上記水溶性電解質の含有量が10質量部を超過する場合、下塗り塗工液の安定性が悪化して均一に塗工しにくくなり、モットリングが発生しやすいだけでなく、紙揃え不良も発生しやすくなるため、当該含有量が1〜10質量部である場合に比べて好ましくない。
【0034】
上述のごとく、水溶性高分子として澱粉あるいは澱粉誘導体、特にリン酸エステル化澱粉を用い、水溶性電解質として塩化ナトリウムや塩化カルシウムを用いると、特に下塗り塗工層中に水溶性電解質を均一に分散させることができる。すなわち、上塗り塗工層に対する凝集作用を均一に付与できるため、特にモットリングの発生を防止できる塗工紙が得られるため好ましい。
【0035】
(サイズ剤)
下塗り塗工層には、上塗り塗工液の基紙への浸透を防止しモットリングを改善する目的、および上塗り塗工液を基紙に浸透させにくくして嵩高な塗工紙を得る目的で、サイズ剤を含有させることが好ましい。サイズ剤としては、従来一般に製紙用途で使用されるものを用いることができ、例えば内添サイズ剤として用いるロジンサイズ剤、強化ロジンサイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)や、表面サイズ剤として用いるスチレン/マレイン酸系共重合体、スチレン/アクリル酸系共重合体、オレフィン系サイズ剤(エチレン、プロピレン、イソブチレン、ジイソブチレン、オクテン、デセンなどを共重合したもの)、オレフィン/マレイン酸系共重合体、ウレタン系共重合体などが挙げられる。しかしながら、サイズ剤を水溶性高分子および水溶性電解質と混合して用いる場合は、下塗り塗工液が発泡しやすくなり、モットリングが発生しやすくなる場合があるため、当該混合液に後述の消泡剤をさらに加えて発泡を抑制することが、より好ましい。
【0036】
サイズ剤の含有量は、水溶性高分子100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。水溶性高分子に対するサイズ剤の含有量が1質量部を下回る場合、上塗り塗工液が基紙に浸透しやすくなり、モットリングを防止しにくくなるだけでなく、嵩高な塗工紙も得られにくいため、当該含有量が1〜30質量部である場合に比べて好ましくない。水溶性電解質による上塗り塗工液の凝集作用があるためモットリングの改善効果および塗工紙の嵩高効果が得られるが、これら効果を高めるために、好ましくは1質量部以上を含有させる。水溶性高分子に対するサイズ剤の含有量が30質量部を超過する場合、下塗り塗工液の安定性が悪化しやすく均一に塗工できなくなくなり、モットリングが発生しやすい、紙揃え不良も発生しやすくなるため、当該含有量が1〜30質量部である場合に比べて好ましくない。
【0037】
(消泡剤)
下塗り塗工液の発泡を防止するためには、下塗り塗工液にさらに消泡剤を含有させることが好ましい。消泡剤としては、従来一般に製紙用途で使用されているものを用いることができ、例えば、灯油やスピンドル油などの鉱油系消泡剤、メチルアルコール、エチルアルコールや高級アルコールなどのアルコール系消泡剤、動植物油から得られる脂肪酸系消泡剤、高級アルコールや高級脂肪酸にアルキレンオキサイドを付加させたポリグリコール系消泡剤、アクリル系やポリエーテル系などの共重合物系、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン系消泡剤などがある。
【0038】
消泡剤の含有量は、水溶性高分子100質量部に対して10〜500ppmが好ましく、20〜200ppmがより好ましい。水溶性高分子に対する消泡剤の含有量が10ppmを下回る場合、消泡効果に劣りモットリングを改善しにくいだけでなく、均一な塗工層が得られないため静電気の発生を抑えにくくなり、紙揃え不良が発生しやすいため、当該含有量が10〜500ppmである場合に比べ好ましくない。また、水溶性高分子に対する消泡剤の含有量が500ppmを超過する場合、下塗り塗工液の安定性が悪化して均一に塗工できなくなくなり、モットリングが発生しやすいだけでなく、紙揃え不良も発生しやすくなるため、当該含有量が10〜500ppmである場合に比べ好ましくない。
【0039】
上述のとおり、水溶性高分子および水溶性電解質とサイズ剤とを混合して用いる場合は、発泡トラブルが発生しやすいため、消泡剤を併用することが好ましい。上述のサイズ剤および消泡剤の中でも、サイズ剤としてスチレン系サイズ剤を用い、かつ消泡剤としてグリコール系消泡剤を用いることで、特に水溶性高分子および水溶性電解質とを併用した下塗り塗工層の発泡性を防止しやすく、モットリングの発生を抑える効果および嵩高な塗工紙を得られる効果を奏しやすいため好ましい。スチレン系サイズ剤以外のサイズ剤と、グリコール系以外の消泡剤を併用した場合は、上記発泡を充分に抑制できず、下塗り塗工が均一とし難くなる。このような場合、上塗り塗工液への凝集作用が不均一となりモットリングが悪化しやすくなるだけでなく、静電気による紙揃え不良が発生しやすくなったり、上塗り塗工液の基紙への浸透を充分に抑制しにくくなったりして、嵩高な塗工層が得られにくいため、スチレン系サイズ剤およびグリコール系消泡剤を併用した場合に比べて好ましくない。
【0040】
なお、下塗り塗工液においては、上述の水溶性高分子、水溶性電解質、サイズ剤および消泡剤以外にも、防滑剤、防腐剤、防錆剤、粘度調整剤、染料等の添加物を併用しても構わない。
【0041】
(上塗り塗工)
本発明に係る塗工紙を製造するに際しては、上記のようにして形成された下塗り塗工層上に、顔料および接着剤を主成分とする上塗り塗工液を塗布して、上塗り塗工層を設ける。
【0042】
(顔料)
本発明では、上塗り塗工層の顔料として、全顔料100質量部に対して、誘電率が1.8以上7.5以下の顔料を10〜80質量部含有することを特徴とする。
【0043】
上述のごとく、下塗り塗工層に水溶性電解質を含有させることで塗工紙の静電気を防止しやすくなるが、単に下塗り塗工層に水溶性電解質を含有させたのみでは、上塗り塗工層の帯電を防止させることはできない。具体的には、発明者らの検討の結果、上塗り塗工層に用いる顔料の誘電率が特定範囲外であると、下塗り塗工層に水溶性電解質を含有させても静電気を解消できず、印刷物同士が貼り付いてスタバンでの紙揃え不良が発生することがわかった。
【0044】
そして、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、誘電率が1.8以上7.5以下の顔料(以下、高誘電顔料と称する)を顔料100質量部に対して10〜80質量部、好ましくは20〜70質量部、特に好ましくは50〜70質量部であり、さらには誘電率1.4以上1.8未満の顔料を20〜90質量部とすることで、上塗り塗工層の誘電率を、静電気を防止できる程度に維持することができることがわかった。
【0045】
なお、上塗り塗工層において誘電率1.8以上7.5以下の高誘電顔料の含有量が80質量部を超過する場合、塗工層の誘電率が高く静電気を解消しやすくなる一方で、連続印刷においては後続の印刷物からの静電気を吸収して帯電した状態が継続しやすくなってしまうため、スタバンにおいて紙揃え不良の発生が抑制困難となる。
【0046】
また、全顔料に対する誘電率1.8未満の顔料の含有量が比較的多く、誘電率1.8以上7.5以下の顔料の含有量が10質量部未満であると、顔料塗工層の誘電率が低くなり静電気を解消できないため、スタバンでの紙揃え不良を防止し難い。また、顔料のうち誘電率7.5以上の顔料の含有量が比較的多く、誘電率1.8以上7.5以下の顔料が10質量部未満である場合は、上述の理由と同様に帯電した状態が続きやすく、連続印刷する際において紙揃え不良を防止できない。
【0047】
上記顔料としては上述の通り誘電率が1.8以上7.5以下の高誘電顔料を10〜80質量部使用するが、必要に応じて、誘電率1.4以上1.8未満の低誘電顔料を、20〜90質量部の範囲で組み合わせて使用することができる。なお、誘電率が1.4未満の顔料を用いると、上塗り塗工層の誘電率が低くなりすぎて静電気の発生を解消できない可能性がある。
【0048】
また、誘電率が1.4を下回る顔料や、誘電率が7.5を超過する顔料を用いた場合は、下塗り塗工層に含まれる水溶性電解質による帯電防止効果が充分に発揮できないため、上塗り塗工層に用いる顔料としては、上述の通り1.8以上7.5以下のものを上記の分量で用いることが好ましい。
【0049】
上述の誘電率が1.8以上7.5以下である顔料としては、例えばクレー(誘電率1.8〜2.8)、タルク(誘電率1.8〜2.0)、水酸化アルミ(誘電率2.2)、酸化アルミナ(誘電率2.14)、雲母(誘電率4.5〜7.5)などが挙げられる。誘電率が1.4以上1.8未満である顔料としては、炭酸カルシウム(誘電率1.58)が挙げられる。また、誘電率が1.4を下回る顔料や、誘電率が7.5を超過する顔料としては、焼結アミルナ(誘電率8.0〜11.0)、酸化チタン(誘電率83.0)、シェル砂(誘電率1.2)などが挙げられる。
【0050】
なお、ここで言う誘電率は、誘電体インピーダンス測定システム(型番:126096W、東陽テクニカ社製)を用いて測定した値である。
【0051】
(顔料の粒度)
上塗り塗工層の誘電率は、当該上塗り塗工層に含まれる顔料の粒度によっても変化しやすい。すなわち、粒子径が小さい顔料では、粒子同士の隙間ができやすくなり、顔料間に空気(誘電率1.0)が混ざりやすくなるため上塗り塗工層の誘電率が低下しやすくなる場合がある。このため、粒子径1.5μm以上の粒子径を有する顔料粒子の含有比率が顔料全体の4%〜30%となるよう、比較的粒子径の大きい顔料を含有させることが、より好ましい。
【0052】
粒子径1.5μm以上の顔料粒子が顔料粒子の4%以上であれば、空気と混合することによる誘電率の低下量は、上述において好ましいとした誘電率の値からは無視し得る程度に小さくなり、静電気の帯電防止効果に影響しない。一方、4%を下回ると、誘電率が低下しやすくなり、静電気を防止しにくいため好ましくない。
【0053】
粒子径1.5μm以上の顔料粒子が顔料粒子の30%を超過すると、塗工層の誘電率が増加しやすくなり、静電気を吸収しやすくなるため、連続印刷時においては後続の印刷物からの静電気を吸収して帯電した状態が続きやすくなり、スタバンにおいて紙揃え不良を防止しにくい。
【0054】
なお、上塗り塗工層に含まれる顔料の粒子径とは、塗工層表面の顔料粒子を電子顕微鏡で撮影し、撮影した粒子の直径を測定して得られた粒子径を指す。
【0055】
粒子径1.5μm以上の顔料粒子の含有量を顔料粒子の4〜30%とするには、市販の湿式粉砕機(例えば、プラネタリーミル セイシン企業製)を用いて添加する顔料の粒度を調整すれば良い。また、粒子径1.5μm以上の粒子を多く含む市販顔料を用いても良く、また平均粒子径が1.6μm〜3.0μmの市販顔料を用いても良い。例えば、二級クレーやHCクレーなどを、顔料100質量部のうち50〜90質量部、好ましくは60〜80質量部と多く含有させることで達成できる。このようなクレーとしては、例えば、HYDRASPERSE(HUBER社製、平均粒子径1.8μm)、UW−90(エンゲルハード社製、平均粒子径1.6μm)、CAPIM NP(リオカピム社製、平均粒子径2.2μm)、KCS(イメリス社製、平均粒子径2.7μm)などが挙げられる。なお、ここで言う平均粒子径とは、後述するレーザー粒度分布測定により求めたものである。
【0056】
また、粒子径1.5μm以下の顔料粒子を比較的多量に用いた場合、顔料粒子が下塗り塗工層を通過して基紙に吸収されやすくなり、嵩高な塗工紙を得難くなる場合がある。このような観点からも、上記顔料は、粒子径1.5μm以上の顔料粒子の含有量が顔料粒子の4〜30%であることが好ましい。すなわち、粒子径が比較的小さい顔料の含有比率が比較的高く、特に粒子径1.5μm以上の顔料粒子の含有量が顔料粒子の4%を下回る場合、粒子径1.5μm以上の粒子が顔料粒子の4〜30%である場合に比べて上塗り塗工層の塗工液が下塗り塗工層の水溶性電解質に接触して凝集したとしても目止め効果が得られにくく、粒子径の小さい顔料が基紙に浸透しやすくなるため、上塗り塗工層の嵩高さが低下するとともに、モットリングも発生しやすくなるため、好ましくない。
【0057】
また、顔料粒子中、粒子径1.5μm以上の顔料粒子の含有量が30%を超過する場合、粒子径1.5μm以上の粒子が顔料粒子の4〜30%である場合に比べて塗工層表面に粗大な凹凸が発生しやすくなり、印刷インキの吸収性にムラが発生しやすく、モットリングが発生しやすくなるため、好ましくない。
【0058】
上述のごとく、下塗り塗工層に水溶性高分子および水溶性電解質を含有させ、かつ上塗り塗工層として誘電率が1.8以上7.5以下の高誘電顔料を顔料100質量部に対して10〜80質量部、さらには誘電率1.4以上1.8未満の顔料を20質量部以上90質量部以下とすることで、塗工層の静電気を解消することができ、印刷物が帯電しにくくスタバンでの紙揃え不良が発生せず、かつ下塗り塗工層と接触する上塗り塗工液の一部が凝集して目止めの役割を果たすため、より嵩高な塗工紙が得られる。
【0059】
さらには、粒子径1.5μm以上の粒子が顔料粒子の4〜30%であれば、空気の混入による上塗り塗工層の誘電率低下が少ないため静電気を、より防止しやすく、かつ上塗り塗工層の顔料が基紙中に浸透しにくくなるため、特に嵩高な塗工紙となるため好ましい。
【0060】
加えて、基紙中に凝集型炭酸カルシウムを含有させることで基紙の地合いを向上でき、かつ下塗り塗工層としてスチレン系サイズ剤およびグリコール系消泡剤を含有させることで、発泡トラブルなく下塗り塗工層を設けることができるため、上塗り塗工層の凝集を均一にでき、塗工紙表面の微小な凹凸が発生しにくくなり、印刷インキの吸収ムラに起因するモットリングが発生しにくくなるため好ましい。特に粒子径1.5μm以上の粒子が顔料粒子の4〜30%の上塗り塗工層を設けることで、大粒子径の顔料の含有量を必要最小限に抑制でき、静電気の除去、嵩高な塗工層および面感向上の全ての効果が得られ、特にはモットリングの発生が少ない塗工紙が得られやすいため好ましい。
【0061】
(接着剤)
上塗り塗工層に用いる接着剤としては、従来一般に製紙用途で用いるものを使用することができる。すなわち、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、生澱粉などの澱粉またはその誘導体;カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常製紙用途に用いられる接着剤が挙げられ、これらの中から一種又は二種以上を適宜選択して併用することができる。
【0062】
(塗工量)
上述の通り、顔料および接着剤を主成分とした上塗り塗工液を下塗り塗工層上に塗布し、上塗り塗工層を設けることにより本発明に係る塗工紙を得ることができる。なお、上塗り塗工液の塗工量(固形分量)は、片面あたり3.0〜10.0g/m2程度が好ましい。
【0063】
<実施例>
次に、本発明に係る塗工紙について表1から表4に示す実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0065】
先ず、原料パルプ、填料、内添サイズ剤、カチオン化澱粉、および歩留向上剤を配合してパルプスラリーを得た。より詳細には、原料パルプは、晒針葉樹パルプ(NBKP)20質量%と、晒広葉樹パルプ(LBKP)60質量%と、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)20質量%とから構成した。そして、原料パルプ100質量%(絶乾量)に対して、各々固形分で、表に記載の量の填料(凝集状炭酸カルシウム 品番:TP−NPF、奥多摩工業社製、または紡錘状炭酸カルシウム 品番:TP−121―6S、奥多摩工業社製)、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、および表に記載の量の歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)を配合してパルプスラリーを得た。なお、NBKPのフリーネスは500ml、LBKPのフリーネスは400ml、BTMPのフリーネスは160mlに調整した。
【0066】
次に、上記のようにして得たパルプスラリーを、ギャップフォーマからなるワイヤーパート、オープンドローのないストレートスルー型のプレスパート、シングルデッキドライヤーからなるプレドライヤーパートの各工程を順に経て湿紙状態の基紙を製造した。
【0067】
続いて、水溶性高分子(リン酸エステル化澱粉、酸化澱粉、またはポリビニルアルコール)、水溶性電解質(塩化ナトリウム、または塩化カルシウム)、サイズ剤(スチレン系、オレフィン系またはAKD系)、および消泡剤(ポリグリコール系、シリコーン系または鉱物系)を、各々、表に記載の含有割合となるよう下塗り塗工液を調製した。なお、表1および2に示す水溶性電解質、サイズ剤、および消泡剤の含有割合は、各々、水溶性高分子100質量部に対する重量割合を示すものである。
【0068】
次いで、上記の通りに調製した下塗り塗工液を、基紙両面に、両面あたり0.6g/m2となるようフィルム転写型ロールコーターで下塗り塗工した後、アフタードライヤーパートで乾燥し、プレカレンダーパートにおいてニップ圧20kN/mで平坦化処理を行い、下塗り塗工層を備えた基紙を得た。
【0069】
次いで、表に記載の種類および粒子径を有する顔料と、顔料100質量部に対して接着剤(スチレン−ブタジエンラテックス、品番:XY4、日本A&L社製)7質量部、澱粉(品番:コートマスターK96F、三晶社製)5質量部を混合して上塗り塗工液を調製した。
【0070】
なお、上塗り塗工液の原料とした顔料の詳細は次の通りである。クレーは、表に記載の平均粒子径となるよう、湿紙機粉砕機(プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕した。シェル砂、雲母および焼結アルミナも同様に次の平均粒子径となるよう粉砕した。
・炭酸カルシウム
重質炭酸カルシウム、品番:ハイドロカーブ90、備北粉化工業(株)製、平均粒子径1.3μm、誘電率1.58。
・クレー
品番:カピムCC、イメリス社製、平均粒子径3.2μm、誘電率1.8〜2.8。
・シェル砂
東海サンド社製、平均粒子径1.6μm、誘電率1.2。
・雲母
品番:MK−100、コープケミカル社製、平均粒子径1.6μm、誘電率4.5〜7.5。
・焼結アルミナ
品番:A−12、昭和電工社製、平均粒子径1.6μm、誘電率8.0〜11.0。
【0071】
なお、ここでいう顔料の平均粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒度分布を測定し、粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求めた。
【0072】
また、誘電率は、誘電体インピーダンス測定システム(型番:126096W、東陽テクニカ社製)を用いて測定した。
【0073】
次いで、上記の通りに調製した上塗り塗工液を、片面あたり7g/m2となるようフィルム転写型ロールコーターを用いて、下塗り塗工層を備えた基紙に両面塗工した。そして、上塗り塗工および下塗り塗工を施した基紙を乾燥した後、ソフトカレンダーを用いてニップ圧30kN/m、ロール温度80℃の条件で2ニップの平坦化処理を行うことにより、塗工紙を得た。
【0074】
なお、表1および表2中において示す略称は、以下の物質を示すものである。
・水溶性高分子
リン酸変性:尿素リン酸エステル化澱粉、品番:スターコート16、日本食品加工社製
PVA:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217、クラレ社製
・水溶性電解質
NaCl:塩化ナトリウム、鳴門塩業社製
CaCl:塩化カルシウム、和光純薬工業社製
・サイズ剤
スチレン系:スチレン系、品番:SS2710、星光PMC社製
オレフィン系:オレフィン系、品番:PM−1329、荒川化学工業社製
AKD系:アルキルケテンダイマー、品番:SE2360、星光PMC社製
・消泡剤
PG:ポリグリコール系、品番:フォームクリンSP−25、伯東社製
シリコーン系:品番:FSアンチフォーム1266、東レ・ダウコーニング社製
鉱物系:品番:オルガフォームFC150、オルガノ社製
【0075】
上述のようにして得られた塗工紙について繊維長分布における最大値を測定したところ、0.50〜0.55mmの範囲に最大値を有していた。離解パルプの繊維長分布における最大値の範囲は、次のとおり求めた。塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、このパルプ繊維について、重さ加重の繊維長分布を求め、繊維長0.05mmごとに集計した。最も繊維が多い範囲を最大値の範囲とした。
【0076】
上記の各実施例において得られた塗工紙の物性を以下の方法にて調べた。結果を表3および表4に示す。
【0077】
(a)粒子径1.5μm以上の粒子の割合
表3および表4に記載した、「粒子径1.5μm以上の粒子の割合」は、次のとおり測定した。塗工紙をA4サイズに切り出し、用紙短辺を上辺として、上辺から下辺方向にαcm、左辺から右辺方向へαcmの位置を中心として、縦横5mm角のサンプル紙片を切り出した。ここでαは1〜20の整数である。なお、当該サンプル紙片は、実施例毎に20枚を採取した。切り出したサンプル紙片の表面を、走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて倍率12000倍で写真撮影した。そして、撮影した写真の上辺から下辺方向にβcm、左辺から右辺方向へβcmの基準位置近傍において、粒子全体がわかる程度に撮影されている顔料粒子の粒子径を測定した。なお、βは1〜5の整数である。この際、1つのサンプル紙片毎に、基準位置までの距離が短い顔料粒子のうち上位5個の顔料粒子について粒子径を求め、合計100点の顔料粒子について粒子径を求めた。この100点の顔料粒子のうち、粒子径が1.5μm以上の粒子数の割合を算出した。
【0078】
(b)密度
各実施例に係る塗工紙の密度をJIS P 8118:1998「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準じて測定した。なお、塗工紙の密度が0.87〜0.99g/cm3であれば好ましい嵩高性を有する塗工紙であり、0.90〜0.96g/cm3であれば、より好ましい嵩高性を有する塗工紙であるといえる。一方、塗工紙の密度が0.99g/cm3を超過すると嵩高な塗工紙とは言えない。
【0079】
(c)モットリング
先ず、次の条件で各実施例に係る塗工紙に印刷を行って印刷試験体を作製した。
・印刷機:RI‐3型、(株)明製作所製
・インキ:WebRexNouverHIMARKプロセス(藍)、大日精化社製
・インキ量:上段ロールに0.3ml、下段ロールに0.2ml
・試験方法:上段、下段ロールでそれぞれインキを各3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させてさらに1分間練る)、回転速度30rpmで2色同時印刷を塗工紙に対して行い、印刷試験体を作成した。このようにして得られた印刷試験体について、モットリングセンサー(型番:KHEOPS、TECHPAP社製)でモットリング試験を行った。表3および表4においては、当該モットリング試験において得られた指数を示す。なお、指数が11以下であればモットリングの発生がなく見栄えに優れるといえる。また、指数が11より大きく且つ13以下であればモットリングの発生が僅かであり見栄えが良好であるといえる。また、指数が13より大きく且つ15以下であればモットリングの発生が少なく見栄えが問題とはならないといえる。一方、指数が15を超過するとモットリングの発生が多くなり見栄えに劣り、問題がある。
【0080】
(d)紙揃え
各実施例に係る塗工紙について印刷および輪転オフセット輪転印刷機(型番:LR−435/546SII、小森コーポレーション社製)を使用し、カラーインク(品番:WEB ACTUS MAJOR、東京インキ社製)にて、印刷速度1000rpmでカラー4色オフセット印刷を1万7千メートル行った。得られた印刷物について、次のとおり紙揃えの発生状況を評価した。
◎:紙揃え特に良好で梱包時の印刷物の端部折れやシワがほとんどない。
○:紙揃えが良好で梱包時の印刷物の端部折れやシワがあまりない。
△:紙揃えが良く梱包時の印刷物の端部折れやシワが多少見られるが、実使用可能な下限レベルである。
×:紙揃えが悪く、ほとんどの梱包において端部折れやシワが見られ、実使用不可能である。
【0081】
実施例1から36の塗工紙はいずれも、上塗り塗工層の原料である顔料100質量部あたりに誘電率1.8以上7.5以下の高誘電顔料が10〜80質量部含まれるため、適切な誘電性能を有する。すなわち、各実施例に係る塗工紙は、梱包時において、静電気の発生および塗工紙の帯電等を抑制することができ、塗工紙同士が貼り付くことに起因する紙揃え不良の発生を防ぐことができる。
【0082】
これに対して比較例1から4の塗工紙は、いずれも、顔料100質量部あたりに含まれる高誘電顔料の含有比率が10〜80質量部の範囲外であるため、適切な誘電性能を有しておらず、紙揃え不良を抑制することが困難である。
【0083】
また、上記実施例の塗工紙の中でも、上塗り塗工層に含まれる顔料粒子のうち1.5μm以上の粒子径を有する粒子の含有量が粒子数の4〜30%であるもの(実施例28〜31以外の実施例に係る塗工紙)は、より安定した誘電性能を有するため、紙揃え不良を抑制しやすい。
基紙に填料として、粒子の形状が不定形である凝集状粒子が含まれて凝集型炭酸カルシウムを含有するとパルプ繊維同士の水素結合を阻害しやすくなる懸念がある。しかしながら繊維長分布の最大値を上記範囲内とすることにより填料とパルプ繊維との充分な絡み合いが得られるため、凝集型炭酸カルシウムを含有させても引張強度に優れた塗工紙が得られ、塗工紙の連続製造時に断紙が発生しにくくなるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る塗工紙は、静電気等に起因する紙揃え不良を抑制可能な塗工紙などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、
前記基紙上に設けられた下塗り塗工層と、
前記下塗り塗工層上に設けられた上塗り塗工層とを備える塗工紙であって、
前記下塗り塗工層は、
水溶性高分子を主成分とし、
さらに水溶性電解質を含み、
前記上塗り塗工層は、
顔料と接着剤を主成分とし、
前記顔料は、当該顔料100質量部あたりに、誘電率1.8以上7.5以下の高誘電顔料を10〜80質量部含有することを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記上塗り塗工層に含まれる前記顔料の粒子数のうち4〜30%の粒子が、1.5μm以上の粒子径を有することを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記基紙中に凝集粒子状の填料が含有されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の塗工紙。

【公開番号】特開2012−12721(P2012−12721A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149537(P2010−149537)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】