説明

塗工膜の乾燥方法及び積層体製造システム

【課題】 長尺基材上に、樹脂材料と溶剤を含有する塗工液を塗工して形成した塗工膜の極薄化が可能であると共に、安定的かつ効率よく積層体を生産可能な手段の提供。
【解決手段】 樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を移動している支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程の後に当該支持体上に形成された前記塗工膜を乾燥させる方法であって、前記塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥工程と、前記予備乾燥工程後に前記塗工膜中の前記溶剤を揮発させる本乾燥工程と、を含む塗工膜の乾燥方法において、前記塗工膜形成工程後前記予備乾燥工程前に、前記塗工膜平面略垂直方向から前記塗工膜に対して微弱な気流を均一に吹き付けるプレ乾燥工程を更に有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工膜の乾燥方法及び積層体製造システムに関し、特に、ミクロンからサブミクロンオーダーの極薄膜塗工における、溶剤を含む塗工液の加熱乾燥による塗工表面の荒れを抑えるための方法及びそれに用いられるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料及び溶剤を含む溶剤系の塗工液を走行する長尺状基材に塗工して形成した塗工膜を乾燥し、樹脂層(塗工層)を形成する方法が広く行われている。塗工後から乾燥までに時間が開いたり、乾燥時間短縮のために乾燥温度を上げたりするなど、乾燥条件により塗工層表面にいわゆる乾燥ムラが発生する。
【0003】
塗工膜の初期乾燥で発生する乾燥ムラの一般的な対策としては、塗工液の溶剤濃度を下げたり、増粘剤を添加して塗工液の粘度を増加させたりする方法が検討されているが、最適条件の検討が難しい。また、塗工液の溶剤濃度低下や、増粘剤の添加による塗工液粘度を増加させる方法は、高速での塗工による薄い塗工膜形成が困難となり、塗工速度低下による生産効率悪化という欠点がある。増粘剤の代わりに、高沸点溶媒を用いることによるレベリング効果を生じさせる方法もあるが、高沸点溶媒を用いることによる乾燥時間の増大、及び塗工膜中に残留する残留溶剤量の増大が生じるため、乾燥時間の長時間化による生産効率悪化という欠点がある。
【0004】
上記理由により、特許文献1では、有機溶剤系の塗布膜の乾燥方法として、塗工後5秒以内に塗工膜を形成した長尺状基材を加熱手段を有する乾燥ゾーンに突入させると共に、乾燥ゾーン突入までの空間で塗工膜上の風速が1m/秒以下に保たれるようにすることが開示されている。また、特許文献2には、塗布直後に乾燥ゾーンを設けて塗工面を囲み、囲んだ乾燥ゾーンの一方端側から他方端側に流れる一方方向の乾燥風で塗工膜を乾燥することを開示している。そして、特許文献3には、塗工工程から乾燥ゾーンの間に風を吹き付ける工程を設け、塗工膜の表面を風により乾燥させた後に乾燥・硬化工程を設けている。
【特許文献1】特開2000−157923号公報
【特許文献2】特開2001−170547号公報
【特許文献3】特開2004−16926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は、塗工膜の極薄化とその安定的生産かつ生産効率改善の要望が強く、特許文献1や特許文献2の乾燥方法であっても、これら要求を満たすには至っていない。また、特許文献3では塗工膜表面を乾燥させて形状を安定化させた後に乾燥・硬化する製造方法及びその装置が開示されているが、塗工膜表面に均一かつ安定的に風を吹き付けるには至っていない。
【0006】
本発明は、上記課題を鋭意検討した結果であり、長尺基材上に、樹脂材料と溶剤を含有する塗工液を塗工して形成した塗工膜の極薄化が可能であり、安定的かつ効率よく生産可能な乾燥方法及び積層体製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を移動している支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程の後に当該支持体上に形成された前記塗工膜を乾燥させる方法であって、前記塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥工程と、前記予備乾燥工程後に前記塗工膜中の前記溶剤を揮発させる本乾燥工程と、を含む塗工膜の乾燥方法において、
前記塗工膜形成工程後前記予備乾燥工程前に、前記塗工膜平面略垂直方向から前記塗工膜に対して微弱な気流を均一に吹き付けるプレ乾燥工程を更に有することを特徴とする方法である。
【0008】
本発明(2)は、前記プレ乾燥工程において均一に吹きつける微弱な気流の風量が、0.01〜1.0m/secである、前記発明(1)の方法である。
【0009】
本発明(3)は、前記プレ乾燥工程において前記微弱な気流の均一な吹き付けを行うに際し、前記塗工膜の近傍に前記塗工膜平面と略平行に配置された、複数の貫通孔が平面に亘って均一に設けられている有孔部材に向けて送風することにより実行する、前記発明(1)又は(2)の方法である。
【0010】
本発明(4)は、有孔部材が、100〜1000メッシュの網状部材である、前記発明(3)の方法である。
【0011】
本発明(5)は、前記プレ乾燥工程における前記気流が、雰囲気と同じ温度又は雰囲気よりも高い温度である、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの方法である。
【0012】
本発明(6)は、前記プレ乾燥工程において、外部からの風により前記塗工膜上空の気流が乱れることを防止しながら前記気流を前記塗工面に吹き付ける、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの方法である。
【0013】
本発明(7)は、前記プレ乾燥工程において、前記塗工膜に吹付けられた前記気流の少なくとも一部が前記支持体の移動に追従して下流側に移動する軌跡を辿る、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの方法である。
【0014】
本発明(8)は、前記プレ乾燥工程において、前記塗工膜に吹付けられた前記気流の少なくとも一部が前記支持体脇を通過して下方に移動する軌跡を辿る、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つの方法である。
【0015】
本発明(9)は、樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程と、前記発明(1)〜(8)のいずれか一つの塗工膜乾燥方法とを含む、少なくとも樹脂層及び支持体からなる積層体の製造方法である。
【0016】
本発明(10)は、
支持体を上流から下流側に移動させる支持体移動手段と、
移動している前記支持体上に樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を塗工して塗工膜を形成させる塗工部と、
前記塗工部の下流側に配置された、前記塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥部と、
前記予備乾燥部の下流側に配置された、前記塗工膜中の前記溶剤を揮発させる本乾燥部と
を有する積層体製造システムにおいて、
前記積層体製造システムは、
前記塗工部の下流側であって前記予備乾燥部の上流側に、微弱な気流を前記塗工膜表面に均一に吹付可能なプレ乾燥部を更に有しており、
前記プレ乾燥部は、
前記塗工膜平面の近傍で略平行に配置された平坦部材であって、気流を通過可能な複数の貫通孔が平面に亘って均一に設けられている有孔部材と、
気流を供給する気流供給手段と、
前記気流供給手段から供給される気流を前記有孔部材に対して送り込むことが可能な気流誘導手段と
を有することを特徴とするシステムである。
【0017】
本発明(11)は、有孔部材が、100〜1000メッシュの網状部材である、前記発明(10)のシステムである。
【0018】
本発明(12)は、前記支持体位置の少なくとも側面に、外部からの風によって前記塗工膜上空の気流が乱れることを防止する整風手段を更に有する、前記発明(10)又は(11)のシステムである。
【0019】
本発明(13)は、前記気流誘導手段と前記整風手段とが一体化している、前記発明(10)〜(12)のいずれか一つのシステムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長尺基材上に、樹脂材料と溶剤を含有する塗工液を塗工して形成した塗工膜の極薄化が可能であり、安定的かつ効率よく積層体が生産可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本最良形態に係る積層体製造システムの概略図である。
【図2】図2は、第一形態に係るプレ乾燥装置の概念断面図である。
【図3】図3は、気流誘導手段の概念断面図である。
【図4】図4は、整風手段の一の適用例である。
【図5】図5は、整風手段の概念図である。
【図6】図6は、本最良形態に係るプレ乾燥ユニットの第二形態であるプレ乾燥ユニットの概念断面図である。
【図7】図7は、本最良形態に係るプレ乾燥ユニットの第三形態であるプレ乾燥ユニットの概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら、本発明の特徴であるプレ乾燥の実施が可能な積層体製造システム及びその方法を説明する。支持体として長尺状基体を例にとり説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
<装置構成>
積層体製造システム
図1は、本最良形態に係る積層体製造システムの概略図である。積層体製造システムは、長尺状基材Sがロール状に巻かれた巻出しロール1と、当該基材Sを所望の方向へと誘導するバックアップローラ2〜5と、当該基材S上に塗工液を塗工して塗工膜を形成する塗工ヘッド6と、塗工膜に対して微弱な気流を均一に吹き付けるプレ乾燥装置7と、当該塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥装置8と、当該予備乾燥装置により処理された基材S上の塗工膜を更に乾燥させるドライヤー9と、樹脂材料として光硬化性樹脂を用いる場合に設けられるUV照射装置10と、処理された基材が巻き取られる巻取りロール11とから構成される。
【0024】
プレ乾燥装置
続いて、本発明の一の特徴的部分であるプレ乾燥装置について説明する。本最良形態に係るプレ乾燥装置7は、一又は複数のプレ乾燥ユニットを有する。例えば、図1に示したように3つのプレ乾燥ユニットを有するプレ乾燥装置が挙げられる。但し、これに限定されず、更にプレ乾燥ユニットを増設してもよい。以下、第一〜第三形態に分けてプレ乾燥ユニット71の構成について説明するが、プレ乾燥ユニット71a〜cは、同様の構成を有するものであってもよいし、それぞれ違った構成のプレ乾燥ユニットであってもよい。
【0025】
第一形態
図2は、第一形態に係るプレ乾燥装置7の概念断面図である。ここで、本乾燥ユニット71(1)は、気流を供給する気流供給手段701(1)と、当該気流供給手段から供給される気流を、塗工膜平面略垂直方向から塗工膜形成面に対して送り込むことが可能な気流誘導手段702(1)と、前記気流を通過可能な貫通孔を多数有し、前記気流を前記塗工膜に対して均一に分配する有孔部材703(1)と、から構成される。尚、プレ乾燥ユニット71(1)は、更に、気流加熱手段を有していてもよい。
【0026】
図3は、気流誘導手段の702(1)の概念断面図である。気流誘導手段702(1)は、気流供給手段701(1)から導入された気流が、塗工膜全体に均一に誘導されるように、少なくとも長尺状基材Sの幅方向の長さlよりも大きい幅の開口部(長さ:L)を有していることが好適である。当該幅に設定することにより、塗工膜表面に均一に気流を送り込むことが可能となる。
【0027】
図2に戻ると、有孔部材703(1)は、前記気流を通過可能な貫通孔を多数有している部材である。例えば、多数の貫通孔を有する板状部材(例えばパンチングメタル)、網状部材等が挙げられる。特に、有孔部材703(1)としては、網状部材が好適である。当該網状部材のメッシュ数は、細かいほど風速分布が安定し(整流効果が高くなり)、100〜1000メッシュが好適であり、200〜1000メッシュが好適であり、300〜1000メッシュが更に好適である。尚、メッシュ数は25.4mm(1インチ)内の目数である。当該範囲内のメッシュ数を有する網状部材を用いることにより、より微弱な気流を塗工膜表面上に供給することが可能となり、更には、より均一な気流を塗工膜表面上に供給することが可能となる。また、線径は、0.01〜0.20mmが好適であり、0.01〜0.10mmがより好適であり、0.01〜0.05mmがより好適である。尚、有孔部材703(1)と塗工膜との距離は、2cm以下であることが好適である。下限値は特に限定されないが、例えば0.5cm以上である。この範囲に有孔部材を配して気流を通過させることにより、塗工ムラの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0028】
乾燥ユニット71(1)は、整風手段を更に有していることが好適である。当該整風手段は、空調の風等外部からの風による塗工膜上の気流の乱れを防止可能であるため、塗工ムラの発生をより効果的に防止することを可能とする。整風手段は、外部からの風をある程度遮断できるものであれば特に限定されず、例えば、気流誘導手段の開口部と塗工膜の間を覆う板状体等が挙げられる。
【0029】
整風手段の一の適用例を、図4に示した。図4(a)は、整風手段として板状体を配した乾燥装置の概念断面図である。ここで、矢印は気流方向を意味する。整風手段11は、気流誘導手段の開口部と塗工膜の間を側面から覆うように配される。整風手段11は、プレ乾燥ユニット毎に個別に設けられてもよいが、図4(b)に示すようにプレ乾燥装置を構成する全てのユニット71(1)a〜cを覆うように配された一対の板であってもよい。
【0030】
ここで、前述した従来技術においては、塗工部から予備乾燥部までの間に隙間(搬送部)が存在する。通常の塗工ではこれで問題無いが、極薄膜塗工ではこのような隙間が問題となり得る。そこで、整風手段は、プレ乾燥ユニット71(1)の側面だけでなく、塗布膜形成手段Cの塗工ヘッドHの側面を覆うように成型されている整風手段12を用いることがより好適である。ここで、図5(a)に示した概念側面図を用いて整風手段12の構造について説明すると、整風手段12は、気流誘導手段の開口部と塗工膜の間を側面から覆うように構成され、更に、塗工ヘッドHの側面を覆う塗工ヘッド防風部12aを有する。当該構成とすることにより、塗工膜形成時又は塗工膜形成直後から外部の風を防止することが可能となり、より綺麗に塗工膜を乾燥させることができる。当該整風手段は、図5(b)に示すようにプレ乾燥装置を構成する全てのユニット71(1)a〜cを覆うように配されていてもよい。尚、プレ乾燥ユニット71(1)からの気流は、前述のように塗工部より下流においては塗工面に対して略垂直方向であるが、塗工部付近{例えばブレードの位置やその周囲(例えば20cm下流位まで)}においては略垂直方向であってもなくてもよい。
【0031】
第二形態
図6は、本最良形態に係るプレ乾燥ユニットの第二形態であるプレ乾燥ユニット71(2)の概念断面図である。プレ乾燥ユニット71(2)は、プレ乾燥ユニット71(1)と基本構成は共通するが、整風手段及び気流誘導手段が一体成型された整風・気流誘導手段704(2)を有する点で異なる。プレ乾燥ユニット71(2)は、気流供給部701(2)と、整風・気流誘導手段704(2)と、有孔部材703(2)とを有する。整風・気流誘導手段704(2)は、少なくとも長尺状基材Sの幅よりも大きい幅の中空部Mを有し、当該長尺状基材Sの側面のみを覆うように壁面が延伸成型され、更に開口部Oが前記中空部よりも狭い幅で成型されている。図6(b)は、プレ乾燥ユニット71(2)a〜cから構成されるプレ乾燥装置の斜視図である。図6(c)は、整風・気流誘導手段704(2)の中の気流を示した図である。尚、矢印は気流の方向を示す。整風・気流誘導手段704(2)は、前述の構成を有することにより、外部からの風による気流の乱れを防止するだけでなく、気流そのものを積極的に変化させることが可能である。即ち、当該整風・気流誘導手段704(2)は、気流を前記塗工膜上で塗工膜表面に沿った方向とし、基材Sの脇で基材平面に対して垂直方向とする。このような気流を形成することにより、基材上の溶媒蒸気雰囲気を更に均一化できる(更に均一な溶媒蒸気濃度を維持することができる)ため、塗工ムラをより一層発生させずに綺麗に乾燥させることが可能となる。
【0032】
第三形態
図7は、本最良形態に係るプレ乾燥ユニットの第三形態であるプレ乾燥ユニット71(3)の概念図である。プレ乾燥ユニット71(3)は、プレ乾燥ユニット71(2)と基本構成は共通するが、整風・気流誘導手段が、塗工膜形成手段Cの塗工ヘッドHの側面を覆うように成型されている点で異なる{整風・気体誘導手段704(3)}。図7(a)は、プレ乾燥ユニット(3)の概念側面図である。整風・気体誘導手段704(3)は、塗布膜形成時又は直後から外部からの風を防ぐために、塗工ヘッドHの側面まで延伸形成されている塗工ヘッド防風部704a(3)を有する。当該構成とすることにより、より効果的に外部の風を遮断し、塗工膜を綺麗に乾燥することが可能となる。当該プレ乾燥ユニットは、例えば、図7(b)に示すように、塗工ヘッドの直後にプレ乾燥ユニット71(3)を配置し、更にその後に、例えば、第二の最良形態に係るプレ乾燥ユニット71(2)a、bを配置することができる。
【0033】
予備乾燥装置
以上で本発明の特徴的要素であるプレ乾燥装置を詳述したので、次にプレ乾燥装置の下流側に配された予備乾燥装置を説明する。尚、予備乾燥装置は、従来技術における、本乾燥装置の上流に設けられた、塗工膜の最表面を乾燥させるものと同一である。ここで、予備乾燥装置の一例は、前述した特許文献1〜3に詳しく記載されている。したがって、本最良形態に係る予備乾燥装置を簡単に説明すると、予備乾燥装置8は、一又は複数の予備乾燥ユニット81を有している。予備乾燥ユニット81は、外部からの風を防ぐために長尺状基体Sを覆うように成型されている本体801と、当該本体の一側面であり長尺状基体Sの通過する面よりも上部に位置する気体導入孔802と、当該導入孔の反対側面に形成された気体排気口(図示しない)を有する。当該ユニット81により、気体導入孔802から気体排気口へと気流を形成することにより、塗工膜に直接風を当てずに塗工膜表面上空の溶媒蒸気を取り除き予備乾燥を行うことが可能となる。
【0034】
<乾燥方法>
本発明に係る乾燥方法は、塗工膜形成工程後(好適には形成直後)予備乾燥工程前に、塗工膜平面略垂直方向から塗工膜に対して微弱な気流を均一に吹き付けるプレ乾燥工程と、前記塗工膜の最表面を少なくとも乾燥する予備乾燥工程と、前記塗工膜中の溶剤を乾燥させる本乾燥工程とを有する。
【0035】
まず、本発明に係る一特徴的部分である塗工膜のプレ乾燥工程について詳述する。プレ乾燥工程は、塗工液を塗工した後(好適には直後)に、塗工膜の形成面に対して、前記塗工膜平面略垂直方向から微弱な気流を均一に送り込むことにより、塗工膜から蒸発した溶媒を上方から均一な力で押え付け、塗工膜上の溶媒雰囲気を均一化する工程である。微弱な気流を均一に送り込むことは、プレ乾燥ユニット71を使用すれば可能である。当該工程は、極薄膜塗工の場合に特に有効である。具体的には、塗工直後の塗工膜をいきなり予備乾燥工程に付すると、塗工膜の場所により溶媒蒸気濃度に差が出る結果(例えば、塗工膜の中央部と端とでは中央部の方が高濃度)、デリケートな極薄膜塗工の場合には、塗工膜に温度分布が発生して塗工液が塗工ムラを生じる。他方、塗工膜上の溶媒雰囲気が均一な状況で塗工膜を予備乾燥工程に付すると、極薄膜塗工の場合でも塗工ムラを抑えることが可能となる。尚、プレ乾燥工程は、上述のように塗工膜上の溶媒雰囲気を均一化することを目的とした処理であるが、予備乾燥と同じく塗工膜の表面も結果的に乾燥される。以下、プレ乾燥工程における諸条件を詳述する。
【0036】
まず、気流の風量は、好適には、0.01〜1.0m/secである。ここで、当該風量の測定は、風速計{KANOMAX CLIMOMASTER(商標)}を用いて行うこととし、当該風速計の風速検知孔を有孔部材に1cm離隔した状態で対向させて実施する。当該範囲の風量とすることにより、塗工膜上の溶媒雰囲気をより均一化させることが可能となる。
【0037】
次に、気流の温度は、雰囲気と同じ温度又は雰囲気よりも高い一定温度に設定することが好適である。具体的には、気流の温度を25±2〜3℃に設定することが好適である。尚、気流を加熱する必要はないが、年間での雰囲気温度の最大温度よりも高い温度となるよう常時加熱することにより、年間を通じて同一の条件でプレ乾燥処理を実施することが可能となる。
【0038】
予備乾燥工程は、塗工膜上の溶媒雰囲気が均一化した塗工膜の最表面を乾燥させる工程であり、周知の予備乾燥方法を用いることができる。また、本乾燥工程は、予備乾燥工程後の塗工膜中に含まれる溶剤を蒸発させて乾燥させる工程であり、周知の乾燥方法を用いることができる。尚、本発明において同時に形成される塗工層の数は単層に限定されるものではなく、必要に応じて同時多層形成方法にも適用可能である。
【0039】
<製造方法>
続いて、積層体の製造方法について説明する。積層体は、支持体と樹脂層を少なくとも有する。ここで、積層体は樹脂層が極薄膜である限り特に限定されず、例えば、液晶ディスプレイの表面に搭載される光学積層フィルムを挙げることができる。ここでは、光学積層フィルムを例にとり製造方法について説明する。まずは、各原料から詳述し、続いて製造工程について詳述する。
【0040】
支持体
支持体は、その上に塗工膜を形成させる基材であれば特に限定されない。ここで、支持体の形状には特に限定されないが、典型的には長尺状フィルムである。支持体としては、石英ガラスやソーダガラス等のガラス、PET、TAC、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、含ノルボルネン樹脂、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド等の各種樹脂フィルムを好適に使用することができる。尚、PDP、LCDに用いる場合は、PET、TACフィルムがより好ましい。また基材に、アルカリ処理、コロナ処理、プラズマ処理、スパッタ処理等の表面処理や、界面活性剤、シランカップリング剤等の塗布、又はSi蒸着等の表面改質処理を行うことにより、基体と塗工層との密着性を向上させることができる。
【0041】
本発明において使用できる支持体としては、前述のものに加えて、後述する塗工液の塗工乾燥により構築された樹脂層を有する支持体も使用することが可能である。
【0042】
塗工液
塗工液は、少なくとも、樹脂材料と溶剤とから構成される。以下、まず、これら成分を詳述し、その後に本発明に係るプレ乾燥が特に有効な塗工液の組成を説明する。
【0043】
まず、溶剤としては、支持体への濡れ性、粘度、乾燥速度といった塗工適性を考慮して、水、アルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系、芳香族炭化水素から選択される単独又は混合溶剤を使用することができる。
【0044】
樹脂材料としては、特に限定されないが、放射線硬化型樹脂組成物、高分子樹脂が好適に用いられる。放射線硬化型樹脂組成物は、放射線硬化型樹脂組成物を放射線で硬化可能である限り特に限定されない。放射線硬化型樹脂組成物としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等のラジカル重合性官能基や、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基等のカチオン重合性官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマーを単独で、または適宜混合した組成物が用いられる。モノマーの例としては、アクリル酸メチル、メチルメタクリレート、メトキシポリエチレンメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等を挙げることができる。オリゴマー、プレポリマーとしては、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、多官能ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アルキットアクリレート、メラミンアクリレート、シリコーンアクリレート等のアクリレート化合物、不飽和ポリエステル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルや各種脂環式エポキシ等のエポキシ系化合物、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル等のオキセタン化合物を挙げることができる。これらは単独、もしくは複数混合して使用することができる。高分子樹脂は、有機溶剤に可溶な熱可塑性樹脂が好適である。具体的にはアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂中には、カルボキシル基やリン酸基、スルホン酸基等の酸性官能基を有することが好ましい。また、放射線硬化型樹脂組成物と当該高分子を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
更に、塗工液に透光性微粒子が含まれていてもよい。透光性微粒子としては、シリカ、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン系樹脂等よりなる無機・有機透光性微粒子を使用することができる。
【0046】
次に、本発明に係るプレ乾燥が特に有効な塗工液の組成を説明する。本発明では、高生産効率(高速塗工、高速乾燥)を達成しつつ、塗工ムラの無い極薄膜塗工を主に目指している。したがって、当該塗工液は、従来技術のような、塗工液の溶剤濃度を下げたり増粘剤を添加して塗工液の粘度を増加させたものであったり、高沸点溶媒を使用した特殊なものではなく、増粘剤を添加しておらずかつ汎用溶剤を通常濃度で含むものであることが好適である。但し、本発明で使用される塗工液はこれには限定されず、用途に応じて高沸点溶媒や増粘剤を含有していてもよい。
【0047】
本発明に係る積層体製造方法は、樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程と、前記塗工膜を乾燥させる乾燥工程とを有する。尚、乾燥工程において使用する乾燥方法は、前述した方法である。
【0048】
支持体上に塗工液を塗工する方法に特に制限はなく、例えば、通常の塗工方式や印刷方式が適用される。具体的には、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティングや、グラビア印刷等の凹版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷等が使用できる。また、塗工膜の乾燥時の厚さは、好適には0.1〜20μmであり、より好適には0.1〜10μmである。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例および比較例を以下に説明する。なお、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0050】
樹脂層用塗料として下記塗料成分からなる混合物をサンドミルにて30分間分散することによって得られた塗料を、膜厚80μm、全光線透過率92%からなる透明基体のTACの片面上に、リバースコーティング方式にて塗布した。当該塗布直後に、第三形態に係るプレ乾燥装置(網状部材:300メッシュ、SUS316、線径φ30μm、綾織)を用いて、塗工膜と網状部材の距離が10mm、風量が0.01m/sec、気流の温度が23℃の条件でプレ乾燥を行った。そして、当該プレ乾燥後、予備乾燥及び本乾燥を行った後、窒素雰囲気中で120W/cm集光型高圧水銀灯1灯で紫外線照射(照射距離10cm、照射時間30秒)を行い、塗工膜を硬化させた。
【0051】
<樹脂層用塗料成分>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 28.44部
(商品名:PE3A 固形分100%溶液 屈折率1.52 共栄社化学社製)
・多官能ウレタンアクリレート 12.19部
(商品名:ビームセット575BT 固形分100%溶液 屈折率1.52 荒川化学工業社製)
・光重合開始剤 2.14部
(商品名:イルガキュアー184 チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
・レベリング剤 0.23部
(商品名:メガファックF471 大日本インキ化学工業社製)
・架橋ポリスチレンビーズ 1.89部
(商品名:SX350H 屈折率1.60 粒子径3.5μm 綜研化学社製)
・架橋アクリルビーズ 1.17部
(商品名:MX500 屈折率1.49 粒子径5μm 綜研化学社製)
・増粘剤 0.94部
(商品名:ルーセンタイトSAN コープケミカル社製)
・トルエン 53部
【0052】
このようにして、厚さ8μmの樹脂層を有する実施例の光学積層フィルムを得た。当該方法により得られた積層体の表面は、塗工ムラが無く綺麗であった。また、風量を0.30m/sec以外とした点は上記と同様の手順で別の積層体を得たが、これについても同様に塗工ムラが無く綺麗であった。
【0053】
〔比較例1〕
プレ乾燥工程を行わないこと以外は、実施例1と同様とし、積層体の製造を行った。このようにして得られた積層体の表面には、塗工ムラが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を移動している支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程の後に当該支持体上に形成された前記塗工膜を乾燥させる方法であって、前記塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥工程と、前記予備乾燥工程後に前記塗工膜中の前記溶剤を揮発させる本乾燥工程と、を含む塗工膜の乾燥方法において、
前記塗工膜形成工程後前記予備乾燥工程前に、前記塗工膜平面略垂直方向から前記塗工膜に対して微弱な気流を均一に吹き付けるプレ乾燥工程を更に有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プレ乾燥工程において均一に吹きつける微弱な気流の風量が、0.01〜1.0m/secである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記プレ乾燥工程において前記微弱な気流の均一な吹き付けを行うに際し、前記塗工膜の近傍に前記塗工膜平面と略平行に配置された、複数の貫通孔が平面に亘って均一に設けられている有孔部材に向けて送風することにより実行する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
有孔部材が、100〜1000メッシュの網状部材である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記プレ乾燥工程における前記気流が、雰囲気と同じ温度又は雰囲気よりも高い温度である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記プレ乾燥工程において、外部からの風により前記塗工膜上空の気流が乱れることを防止しながら前記気流を前記塗工面に吹き付ける、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記プレ乾燥工程において、前記塗工膜に吹付けられた前記気流の少なくとも一部が前記支持体の移動に追従して下流側に移動する軌跡を辿る、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記プレ乾燥工程において、前記塗工膜に吹付けられた前記気流の少なくとも一部が前記支持体脇を通過して下方に移動する軌跡を辿る、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を支持体上に塗工して塗工膜を形成させる塗工膜形成工程と、請求項1〜8のいずれか一項記載の塗工膜乾燥方法とを含む、少なくとも樹脂層及び支持体からなる積層体の製造方法。
【請求項10】
支持体を上流から下流側に移動させる支持体移動手段と、
移動している前記支持体上に樹脂材料と溶剤とを含む塗工液を塗工して塗工膜を形成させる塗工部と、
前記塗工部の下流側に配置された、前記塗工膜の少なくとも最表面を乾燥させる予備乾燥部と、
前記予備乾燥部の下流側に配置された、前記塗工膜中の前記溶剤を揮発させる本乾燥部と
を有する積層体製造システムにおいて、
前記積層体製造システムは、
前記塗工部の下流側であって前記予備乾燥部の上流側に、微弱な気流を前記塗工膜表面に均一に吹付可能なプレ乾燥部を更に有しており、
前記プレ乾燥部は、
前記塗工膜平面の近傍で略平行に配置された平坦部材であって、気流を通過可能な複数の貫通孔が平面に亘って均一に設けられている有孔部材と、
気流を供給する気流供給手段と、
前記気流供給手段から供給される気流を前記有孔部材に対して送り込むことが可能な気流誘導手段と
を有することを特徴とするシステム。
【請求項11】
有孔部材が、100〜1000メッシュの網状部材である、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
前記支持体位置の少なくとも側面に、外部からの風によって前記塗工膜上空の気流が乱れることを防止する整風手段を更に有する、請求項10又は11記載のシステム。
【請求項13】
前記気流誘導手段と前記整風手段とが一体化している、請求項10〜12のいずれか一項記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−223702(P2012−223702A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93141(P2011−93141)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】