説明

塗工装置

【目的】 塗工品質を向上させる。
【構成】 バッキングロール10と、バッキングロール10によって送られる紙3の表面に塗料8を塗布する塗布装置と、該塗布装置の後段に備えて紙3の表面の余分な塗料8をかき取るブレード12とを備えた塗工装置であって、バッキングロール10の表面11を硬くして、バッキングロール10の表面11に対面するブレード先端面9のブレード角θが変化しないようにしたことを特徴とし、バッキングロール10の表面11が凹まないようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、製紙工程において紙の表面に塗料を塗布する塗工装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図4は一般に使用されている塗工装置の側面図であって、1はバッキングロール、2はクリーニングドクタ、3はバッキングロール1の回転によって送られる紙、4は紙3の表面に塗料を吹き付ける塗布装置、5は塗布装置4の後段に配置して紙3の表面の余分な塗料をかき取って吹き付けられた塗料が均一な厚みになるようにするブレードである。
【0003】図5は従来の塗工装置の要部拡大断面図であって、バッキングロール1は通常、鉄製ロール6の表面にショアーD硬度60〜70のゴム層7を被覆して構成されており、回転しながら紙3を保持している。紙3表面への塗料8の塗布とブレード5による余分な塗料8のかき落とし作業とは、全て紙3がバッキングロール1の表面に接している状態で行われる。従って、バッキングロール1の表面はできるだけ平滑な面が要求される。もし、バッキングロール1の表面に凹凸部分があると、部分的に塗工量が変化して均一な塗工作業ができない。図5のブレード5は、ブレードの刃先を使って塗料8をかき落とすベベルブレードタイプのものを示している。
【0004】図6は図5に対して、ブレードの先端を使って塗料8をかき落とすベントブレードタイプのブレード12を備えた場合を示したもので、図5と同様にして塗料のかき落としが行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】バッキングロール1上の紙3にブレード12(5)を押し当て、余分な塗料8をかき落とす際に、図7に示すように、ブレード12(5)の押圧により紙3の側面エッジ部(紙端部A)がバッキングロール1に食い込み、紙端部Aで紙3の走行速度とバッキングロール1の周速との間に速度差が生じ、その結果、バッキングロール1のその部分に円周に沿って摩耗が発生する。
【0006】すなわち、本来ブレード押圧部におけるバッキングロール1と紙3の周速は同速となるように設計されているが、紙端部Aでは、ブレードから集中荷重を受けて、図7に示すように、バッキングロール1への紙の食い込みが生じ、この部分のバッキングロール1の周速が低下する。一方、紙3は紙端部A、中央部Bを含めて幅方向の各部とも同速で走行する。その結果、紙端部Aでは紙3の走行速度とバッキングロール1の周速との間に速度差が生じ、これによる両者間の摩擦により、バッキングロール1の紙端部Aとの当接個所が次第に摩耗し、その円周方向に図8に示すような筋状の傷Dが発生することになる。
【0007】通常、塗工量の単位はg/m2で表わされ、1g/m2の厚さは約1μmに相当する。従って10μm摩耗すれば、その部分の塗工量は逆に10g/m2も余分に塗工することになる。このような状態の塗工紙3を巻き取ると、過剰に塗工された部分が重なって膨れ上り、破れ、破断等が発生して塗工が実質的に不可能となる。
【0008】一般に、1台のブレード塗工装置で塗工する紙3の種類は単一ではない。例えば、紙巾をとってみても多くの種類があり、多いときには10種類にも及ぶ。これを1台の塗工装置で塗工する場合は、バッキングロール1に付く傷が塗工紙3の品質に及ぼす影響を考慮して、塗工の順序を、巾の広いものから順次巾の狭いものを塗工し、一番巾の狭い紙3を塗工した時点で、そのバッキングロール1は使用不可になり、その時点で予備のバッキングロール1と取り替えることになる。取り外したバッキングロール1は、再研磨するというサイクルを繰り返しているのが現状である。
【0009】しかるに、最小の小ロット多品種生産によりバッキングロール1は取替頻度が高まるばかりである。そのため、操業効率の低下、ロール替えに要する人的、時間的損失及びロール研磨に要する人的、時間的損失及びそれに要する費用は莫大なものがある。
【0010】また、塗料8の塗布面を良好に保つには、バッキングロール1の表面に対するブレード先端面9のブレード角θを塗工が良好な35度以下の一定値に保つことが必要で、一般的には設定角度θ’に対して1〜3度の範囲内で保持させるようにしている。
【0011】即ち、このために、バッキングロール1に対するブレード5の押付方法を、ブレード先端面9のブレード角θが変化しないような機構にすることが種々行われているが、ブレード5,12の押付力によってゴム層7が凹んでしまうために結果的にブレード角θが変化して一般的に設定角度θ’より大きくなることにより塗料8の流れに乱れが生じて塗布面も不安定になってしまう。このブレード角θの変化はバッキングロール1が低硬度であると大きくなり、バッキングロール1表面の硬度をある程度以上に高くすれば、バッキングロール1の凹みは非常に小さくなってブレード角θの変化はほとんどなくすことができる。
【0012】塗料8の塗布面品質の評価で重要なものは、紙3の幅方向の塗布量の均一性(塗布量プロファイル)である。塗布量プロファイルを乱す要因の最も大きなものに、バッキングロール1表面の凹凸がある。従来のゴム層7で被覆したバッキングロール1は、前記したように高精度で研磨しても塗工時に、紙3、ブレード5,12、クリーニングドクタ2により、バッキングロール1表面に部分的磨耗が発生し、この磨耗による凹凸によりプロファイルが大きく乱れる。
【0013】上記のような観点から、本発明はバッキングロールの摩耗を抑制し、塗工品質の安定化が可能な塗工装置を提供しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の塗工装置は、バッキングロールと、該バッキングロールに巻回して送られる紙の表面に塗料を塗布する塗布装置と、該塗布装置の後段に備えて紙の表面の余分な塗料をかき取るブレードとを備えた塗工装置であって、バッキングロールの表面を、金属であればビッカース硬度85以上、高分子材料であればショアーD硬度80以上としたことを特徴とし、更に金属ロールの表面に硬化層が付与されていることを特徴とし、更に硬化層がフッ素樹脂コーティング膜であることを特徴とし、更にブレードがベントブレードタイプであることを特徴とし、更にブレード角が35度以下であることを特徴とし、更にバッキングロールの表面を清浄に保つための高分子材料からなるフロークリンドクタを備えていることを特徴とするものである。
【0015】
【作用】バッキングロールの磨耗が減少してロール交換の頻度が減少し、且つロール表面が凹むことがなくなり、塗工ムラ等の発生が減少し、塗工品質が安定する。
【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図を参照して説明する。
【0017】図1は本発明の一実施例の要部拡大断面図であって、3は紙、12はベントブレードタイプのブレード、8は塗料、10は本発明を適用したバッキングロールである。
【0018】図2は図1のバッキングロール10に対してベベルブレードタイプのブレード5を備えた場合であり、他の構成は図1と同様である。図3は図1又は図2の構成を含む本発明の塗工装置の概略構成を示す側面図である。
【0019】本発明は、上記のブレード塗工装置を構成するバッキングロール10が当接する紙3の側端部による摩耗を生じさせないようにした硬い表面11を有するもので、ビッカース硬度(JIS−Z−2244)において85以上の硬度の高い金属表面を持つロール、若しくは金属ロール表面に硬化層13を付与したクロームメッキロール、セラミックコーティングロールを使用したり、又は高硬度ゴム、フッ素樹脂コーティング等のプラスチックからなる高分子材料を付与してなるロールを使用する場合には、ショアーD硬度(ASTM規格、D−2240)において80以上の硬化層13としたロールを使用する。
【0020】具体的には、従来のブレード塗工方法によると、約8時間の連続操業後に例えばバッキングロール1に2mm巾で20μm深さの傷が発生するとした場合にも、本発明のバッキングロール10を使用した場合には、紙の側端部による傷付きは全く見られない。
【0021】なお、ビッカース硬度85以下の硬度の低い金属表面を持つバッキングロールを使用したり、或いはショアーD硬度で80以下のバッキングロールを使用するとき、例えば現状のショアーD硬度で20〜30のゴム製のものを使用した場合には、従来のように、バッキングロールと周速で走行している紙との間で摩擦が発生し、バッキングロールの紙の側端部と当接する部分が部分的に摩耗し、筋状の傷が付くことになり、バッキングロールの表面に凹凸部分が有ると部分的に塗工量が変化して均一な塗工作業ができなくなり、このような状態の塗工紙を巻き取ると、過剰に塗工された部分が重なって膨れ上り、破れ、破断等が発生して塗工が実質的には不可能となる。
【0022】また、ブレード塗工装置により紙面に塗工層を形成する方式は、バッキングロール上に紙を保持し、その上に充分なる塗料を塗工し、ブレードにて余分な塗料をかき落とし所定の塗工量を得るが、塗工量の設定はバッキングロールの弾性とブレード自身の弾性による面圧により決定される。このときの塗工量の設定は、ブレードの押し込み量とブレードの角度にて行われる。
【0023】これに対し、本発明に用いられるバッキングロール10は、弾性が極めて小さく、ブレード5,12のみの弾性により塗工量が決定されることとなるが、面圧が同じであれば塗工量は同一となり、ロールの弾性は特に必要としない。そのため、ブレード角θは35度以下にしてもブレード角θが変動することがなく一定に保持されるので非常に好ましい。
【0024】一般的な塗工では、ブレード5,12の押付力(線圧)は高くても3kgf/cm2であり、この力に対し、バッキングロール10の表面11に対面するブレード先端面9のブレード角θの変化が2度以内であれば、経験的に塗料8の塗布面品質の変化が認められない。従って、ブレード5,12の押付力が零から3kgf/cm2に変化した時のブレード先端面9のブレード角θの変化が2度程度以内になるような硬度をバッキングロール10の表面11にもたせれば良いことになる。
【0025】運転中にバッキングロール10の表面を常に清浄に保つために、従来のバッキングロールが硬度の低いゴム製の場合には、スチール製のクリーニングドクタ2(図4参照)を使用していたものを、これに代えて逆に硬度の低いゴム、プラスチック等の高分子材料からなるフロークリンドクタ14(図3参照)を配設する構成とすることにより、バッキングロール10の表面に傷を付けることなく常により清浄に保つことが可能になり、これは本発明の好ましい一実施態様の一つである。
【0026】なお、本発明のバッキングロール10を用いた場合、ロールが硬いため異物等の抜けが問題(筋状傷と呼ばれる所謂ストリークの発生)になる場合には、経験的知見からベベルブレードタイプのブレード5より異物等の抜けが良好であるので、ベントブレードタイプのブレード12を使用するのが望ましい。
【0027】また、金属材料からなるバッキングロール10の表面に、硬い表面11を構成する硬化層13としてフッ素樹脂コーティング層を施すようにすると、防錆及び耐薬品性を持たせることができるので、かかる構成は望ましい。
【0028】
【本発明の具体例】以下、本発明の具体例を記載するが、本発明はこれらの具体例のみに限定されないことは勿論である。
【0029】具体例1顔料と接着剤を主成分とする印刷紙用塗料を、ブレード塗工装置により、米坪64g/m2の未塗工の巻取紙に塗工するにつけ、塗工条件として、塗工量 27g/m2(乾燥重量)
塗抹速度 780m/分ブレード角 30°ブレード厚 0.381mmビッカーズ硬度で85度のクロームメッキ製バッキングロール8時間操業上記の条件で塗工した後、バッキングロールの摩耗度の調査をしたところ傷の痕跡は全くなく、又塗工量も充分にコントロールでき、操業には問題ないことが確認された。しかも、バッキングロールが硬いため、プロファイル制御は非常に敏感になり極めて制御し易くなった。
【0030】比較例1バッキングロール材質を、ゴム製とし、ロールの硬度をショアーD硬度で22度とし、具体例1と同様にしてブレード塗工した。
【0031】上記の条件で塗工した後、バッキングロールの摩耗度を調査したところ、摺動巾2mmの範囲内における摩耗度は約20μmにも達しており、その部分の塗工量は逆に20g/m2も余分に塗工される結果となった。しかも、過剰に塗工された部分が重なって膨れ上り、破れ或いは紙切れ等が発生することが予想され、塗工紙の品質を低下させるものであった。
【0032】
【発明の効果】本発明はバッキングロールの表面を硬くすることにより、磨耗が減少してバッキングロールの寿命を飛躍的に延ばすことができ、研磨のためのバッキングロールの交換頻度が減少して塗工装置の操業効率が向上し、且つブレードの磨耗が均一になって塗布量の紙の幅方向の均一性(塗布量プロファイル)が保たれると共にブレード角が安定に保たれて塗工品質が向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の要部拡大断面図である。
【図2】ベベルブレードタイプのブレードを備えた場合の本発明の一実施例の要部拡大断面図である。
【図3】本発明の塗工装置の概略構成の側面図である。
【図4】一般的な構成のブレード塗工装置の側面図である。
【図5】従来の塗工装置の要部拡大断面図である。
【図6】ベントブレードタイプのブレードを備えた場合の従来の要部拡大断面図である。
【図7】ブレードの押圧で紙がバッキングロールに食い込んだ状態を示す正面断面図である。
【図8】筋状の傷がついたバッキングロールを示す正面断面図である。
【符号の説明】
3 紙
4 塗布装置
5 ブレード(ベベルブレードタイプ)
8 塗料
9 ブレード先端面
10 バッキングロール
11 バッキングロール表面
12 ブレード(ベントブレードタイプ)
13 硬化層
14 フロークリンドクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】 バッキングロールと、該バッキングロールに巻回して送られる紙の表面に塗料を塗布する塗布装置と、該塗布装置の後段に備えて紙の表面の余分な塗料をかき取るブレードとを備えた塗工装置であって、バッキングロールの表面を、金属であればビッカース硬度85以上、高分子材料であればショアーD硬度80以上としたことを特徴とする塗工装置。
【請求項2】 金属ロールの表面に硬化層が付与されていることを特徴とする請求項1記載の塗工装置。
【請求項3】 硬化層がフッ素樹脂コーティング膜であることを特徴とする請求項2記載の塗工装置。
【請求項4】 ブレードがベントブレードタイプであることを特徴とする請求項1記載の塗工装置。
【請求項5】 ブレード角が35度以下であることを特徴とする請求項1又は4記載の塗工装置。
【請求項6】 バッキングロールの表面を清浄に保つための高分子材料からなるフロークリンドクタを備えていることを特徴とする請求項1記載の塗工装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate