説明

塗布処理装置、塗布処理方法及び記憶媒体

【課題】塗布膜を基板の面内に均一に形成することができる技術を提供すること。
【解決手段】基板の表面にノズルから基板の中心部に塗布膜を形成するための塗布液を供給すると共に、第1の回転速度で基板を回転させて、塗布液を基板の周縁部に遠心力によって広げ、次いで、前記塗布液の供給を続けたまま、当該基板の中心部側の液膜を周縁部側の液膜に比べて盛り上げて、液溜まりを形成するために、前記第1の回転速度よりも小さい第2の回転速度で基板を回転させた状態で塗布液の供給位置を基板の中心位置から前記偏心位置に向けて移動させ、次いで、液溜まりの厚さを大きくして、ノズルの液切れ時に当該液溜まりに垂れる液滴を馴染ませるために、基板の回転速度を前記第2の回転速度よりも小さい第3の回転速度に減速させた状態で、ノズルから前記偏心位置への塗布液の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に塗布液を供給して塗布膜を形成する塗布処理装置、塗布処理方法及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程の一つであるフォトリソグラフィー工程においては、半導体ウエハ(以下、ウエハという)の表面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程が含まれる。このレジスト膜の形成は、高速回転するウエハの中心部上にノズルからレジスト液を吐出して、当該レジスト液を遠心力により周縁部へ広げる、いわゆるスピンコーティングにより行われる。
【0003】
高価なレジスト液の使用量を低減し、少量のレジスト液でレジスト膜を形成することが検討されている。このように少量のレジスト液を用いる場合、形成されるレジスト膜は、レジスト液の吐出状態の影響を受けやすくなり、レジスト液の吐出状態が僅かに乱れたとしても、ウエハ表面に周囲と厚みが異なる塗布斑が形成されてしまうおそれがある。このように塗布斑が形成されると、例えば露光処理における焦点がずれて、所望の寸法のレジストパターンが得られなくなる場合がある。
【0004】
そして、図19〜図21に示すように前記スピンコーティングにおいては、ノズル101からウエハWへのレジスト液Rの吐出を停止させる際にレジスト液Rの切れが悪く、液滴R1が落下してしまう場合がある。この液滴R1により、前記塗布斑が形成されてしまうおそれがある。
【0005】
特許文献1には、液滴R1による塗布斑の発生を防ぐためのスピンコーティングの一例が示されている。このスピンコーティングでは、高速回転したウエハの中心位置にノズルからレジスト液を供給し、ノズルからレジスト液の供給を続けた状態でウエハの回転速度を低下させて低速回転にすると共に、レジスト液の吐出位置をウエハWの中心位置からずれた偏心位置に移動させ、レジスト液の吐出を停止させる。その後、ウエハWの回転速度を上昇させてレジストの乾燥を行う。この手法を用いれば、ウエハの回転速度が低いためウエハWの液滴R1の速やかな乾燥が防がれること、及び液滴R1の落下位置がウエハWの中心からずれているため遠心力が強く作用することにより、液滴が周囲のレジストと馴染みながら広がり、塗布斑の形成が防がれるとしている。
【0006】
しかし、この特許文献1の手法によってもレジストの種類によっては塗布斑が形成されてしまうおそれがあることが分かった。図22は、レジスト液Rの供給が停止するときのウエハWの表面状態を示している。図中102は前記高速回転時に供給されたレジスト液の層、103は前記低速回転時に供給されたレジスト液の層である。レジスト液層103の下側領域104ではすでに乾燥が進行しており、落下して下側領域104付近に達した液滴R1は、レジスト液層102に馴染まずに存在する(図23)。そして、液滴R1は乾燥して塗布斑を形成する核となり、ウエハWの回転に伴って乾燥が進んだ下側領域104に付着する。(図24)、上記のようにウエハWの回転速度が上昇すると、この核がウエハWを径方向に広がる。そして、レジスト液層102、103が乾燥し、レジスト膜105が形成されたときに、線状の塗布斑106が形成されてしまう(図25)。図26は塗布斑106が形成されたウエハWの表面を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−253986(段落0006及び段落0010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、塗布膜を基板の面内に均一に形成することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の塗布処理装置は、基板を水平に保持して回転させる回転保持部と、
前記基板の表面に塗布膜を形成するための塗布液を供給するノズルと、
塗布液の供給位置を、基板の中心位置と当該中心位置からずれた偏心位置との間で基板の径方向に沿って移動させるために前記ノズルを移動させる移動機構と、
前記回転保持部による基板の回転と、前記ノズルからの塗布液の吐出と、移動機構によるノズルの移動とを制御するために制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
基板の中心部に塗布液を供給すると共に、遠心力により前記塗布液を基板の周縁部に広げるために第1の回転速度で基板を回転させ、
次いで、前記塗布液の供給を続けたまま、当該基板の中心部側の液膜を周縁部側の液膜に比べて盛り上げて、液溜まりを形成するために、前記第1の回転速度よりも小さい第2の回転速度で基板を回転させた状態で塗布液の供給位置を基板の中心位置から前記偏心位置に向けて移動させ、
次いで、液溜まりの厚さを大きくして、ノズルの液切れ時に当該液溜まりに垂れる液滴を馴染ませるために、基板の回転速度を前記第2の回転速度よりも小さい第3の回転速度に減速させた状態で、ノズルから前記偏心位置への塗布液の供給を停止し、
その後、液溜まりを基板の周縁部に広げて塗布膜を形成するために、基板の回転速度が前記第3の回転速度よりも高くなるように制御信号を出力することを特徴とする。
【0010】
上記の塗布処理装置の具体的な態様としては例えば下記の通りである。
(a)基板が前記第2の回転速度で回転している間に、塗布液の供給位置が偏心位置で停止する。第2の回転速度で回転している間には、第2の回転速度から第3の回転速度に切り替えを行う時点も含む
(b)前記第3の回転速度は、0rpm〜30rpmである。
(c)前記第2の回転速度は、50rpm〜1000rpmである。
【0011】
本発明の塗布処理方法は、基板を回転保持部により水平に保持する工程と、
基板の表面にノズルから基板の中心部に塗布膜を形成するための塗布液を供給すると共に、第1の回転速度で基板を回転させて、塗布液を基板の周縁部に遠心力によって広げる工程と、
次いで、前記塗布液の供給を続けたまま、当該基板の中心部側の液膜を周縁部側の液膜に比べて盛り上げて、液溜まりを形成するために、前記第1の回転速度よりも小さい第2の回転速度で基板を回転させた状態で塗布液の供給位置を基板の中心位置から前記偏心位置に向けて移動させる工程と、
次いで、液溜まりの厚さを大きくして、ノズルの液切れ時に当該液溜まりに垂れる液滴を馴染ませるために、基板の回転速度を前記第2の回転速度よりも小さい第3の回転速度に減速させた状態で、ノズルから前記偏心位置への塗布液の供給を停止する工程と、
その後、液溜まりを基板の周縁部に広げて塗布膜を形成するために基板の回転速度を前記第3の回転速度よりも高くする工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の記憶媒体は、基板に対する塗布処理を行う塗布処理装置に用いられるコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、上述の塗布処理方法を実施するためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布液の供給位置を基板の中心位置から偏心位置に移動させ、塗布液の供給を停止するときに、基板の回転速度を低下させて液だまりの厚さを大きくしている。ノズルから垂れる液滴が前記液だまりになじみやすくなると共に液溜まりの形状が歪むことが抑えられるので、基板の面内に均一性高く塗布膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るレジスト塗布装置の縦断側面図である。
【図2】前記レジスト塗布装置の平面図である。
【図3】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図4】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図5】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図6】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図7】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図8】レジスト塗布処理を行う工程図である。
【図9】レジストが塗布されるウエハの平面図である。
【図10】レジストが塗布されるウエハの平面図である。
【図11】ウエハの回転速度の変化を示すグラフ図である。
【図12】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図13】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図14】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図15】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図16】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図17】レジスト膜の膜厚を調べる実験結果を示すグラフ図である。
【図18】レジスト膜の膜厚のばらつきを調べる実験結果を示すグラフ図である。
【図19】ノズルからの液切れの様子を示す説明図である。
【図20】ノズルからの液切れの様子を示す説明図である。
【図21】ノズルからの液切れの様子を示す説明図である。
【図22】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図23】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図24】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図25】ウエハに落下した液滴の変化を示す説明図である。
【図26】液滴によりウエハに形成される塗布斑を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の塗布処理装置に係る、レジスト塗布装置1について図1及び図2を参照しながら説明する。図1、図2は夫々レジスト塗布装置1の縦断側面図、平面図である。レジスト塗布装置1は、スピンチャック11を備えており、真空吸着によりウエハWを水平に保持するように構成されている。スピンチャック11には、回転モータなどを含む回転駆動部12に接続されている。回転駆動部12は、後述の制御部4から出力される制御信号に応じた回転速度で、スピンチャック11を鉛直回りに回転させる。
【0016】
図中13は、ウエハWの裏面を支持する3本の支持ピン(図示の便宜上2本のみ示している)であり、昇降機構14により昇降自在に構成されている。支持ピン13によりウエハWの搬送機構10とスピンチャック11との間でウエハWが受け渡される。
【0017】
スピンチャック11の下方側には断面形状が山形のガイドリング15が設けられており、このガイドリング15の外周縁は下方側に屈曲して延びている。前記スピンチャック11及びガイドリング15を囲むように塗布液であるレジスト液の飛散を抑えるためのカップ16が設けられている。
【0018】
このカップ16は上側が開口し、スピンチャック11にウエハWを受け渡すことができるようになっており、カップ16の側周面とガイドリング15の外周縁との間に排出路をなす隙間17が形成されている。前記カップ16の下方側には起立した排気管18が設けられ、排気管18内は排気口18aとして構成されている。またカップ16の底部には排液口19が開口している。
【0019】
レジスト塗布装置1はレジスト液ノズル21を備えており、レジスト液ノズル21は鉛直下方にレジスト液を吐出する。前記レジスト液ノズル21は、レジスト液供給管22を介して、レジスト液が貯留されたレジスト液供給源23に接続されている。レジスト液供給源23はポンプを備え、レジスト液を下流側へ圧送する。前記レジスト液供給管22にはバルブや流量調整部等を含む供給機器群24が介設され、制御部4から出力される制御信号に基づいてレジスト液の給断を制御する。
【0020】
前記レジスト液ノズル21は、図2に示すように水平方向に伸びたアーム25を介して移動機構26に接続されている。移動機構26は、横方向に伸びたガイドレール20に沿って移動し、また、アーム25を昇降させることができる。これによって、レジスト液ノズル21はウエハWの直径に沿ってレジスト液を供給することができ、また、カップ16の外部に設けられた待機領域27とウエハW上との間で移動することができる。
【0021】
レジスト塗布装置1は溶剤ノズル31を備えており、溶剤ノズル31は鉛直下方に溶剤例えばシンナーを供給する。溶剤ノズル31は、溶剤供給管32を介してシンナーが貯留された溶剤供給源33に接続されている。図中34は、供給機器群であり、前記供給機器群24と同様に構成されている。溶剤ノズル31は、レジスト液ノズル21と同様にアーム35を介して移動機構36に接続され、カップ16の外部の待機領域37とウエハW上との間で移動自在に構成されている。
【0022】
続いて制御部4について説明する。制御部4はコンピュータにより構成され、プログラム格納部を備えている。このプログラム格納部には、後述の作用で説明する塗布処理が行われるように命令が組まれたプログラムが格納される。前記プログラム格納部に格納されたプログラムが制御部4に読み出され、制御部4はレジスト塗布装置1の各部へ制御信号を送信する。それによって、各ノズル21、31の移動、レジスト液ノズル21からのレジスト液の吐出及びウエハWの回転速度などが制御され、後述のステップ群が実施される。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスクまたはメモリーカードなどの記憶媒体に収納された状態でプログラム格納部に格納される。
【0023】
続いて、このレジスト塗布装置1の作用について、図3〜図10を参照しながら説明する。図3〜図8は、各ステップにおけるウエハWの変化を示している。図9及び図10はウエハWの平面図であり、ウエハW表面の変化を示している。また、ウエハWの回転速度であるrpm(1分あたりの回転数)の変化を示した図11も適宜参照しながら説明する。図11のグラフの横軸、縦軸は時間、前記回転速度を夫々示しており、横軸には0.1秒間隔で目盛りを付している。なお、図11のグラフ中において、矢印A1はレジスト液Rが吐出される区間を示し、矢印A2はレジスト液ノズル21が移動し、レジスト液Rの供給位置がウエハWの中心位置から偏心位置へ移動する区間を示している。
【0024】
搬送機構10により、ウエハWがレジスト塗布装置1に搬送され、支持ピン13によりスピンチャック11に受け渡される。溶剤ノズル31が待機領域37からウエハWの中心部上に移動し、ウエハWの回転が例えば30rpmで回転する。溶剤ノズル31からウエハWの中心部にシンナーTが供給されると共にウエハWの回転速度が例えば2000rpmで回転する。遠心力により前記シンナーTがウエハWの周縁部に行き渡る。
【0025】
ウエハWの回転速度が500rpmに減少し、溶剤ノズル31が待機領域37へ戻ると共にレジスト液ノズル21が待機領域27からウエハWの中心部上に移動し、ウエハWの中心部にレジスト液Rが供給される(グラフ中時刻t1)と共にウエハWの回転速度が上昇する。レジスト液Rは遠心力によりシンナーTで濡れたウエハWの表面上を周縁部に向かって広がり、ウエハWの表面全体にレジスト液Rが塗布される(図3、ステップS1)。ウエハWの回転速度が第1の回転速度である例えば3000rpmになると、回転速度が低下すると同時に、レジスト液ノズル41がウエハWの径方向に沿って周縁部側に向かって移動を開始する(時刻t2)(図4、ステップS2)。
【0026】
ウエハW表面では、ウエハWの減速により、レジスト液RがウエハWの中央部に向かって引き寄せられ、当該中央部に円形の液溜まり41が形成される。ウエハWの回転速度が例えば200rpmになると(時刻t3)、回転速度の低下が止まり、回転速度が200rpmに維持される。時刻t1から時刻t3までの間隔は例えば1.8秒である。引き続き、レジスト液ノズル21が移動するが、このとき、ウエハWの回転により受ける力により液溜まり41は円形に保たれる(図9)。200rpm以上で3000rpmより低い回転速度は特許請求の範囲で言う第2の回転速度である。
【0027】
時刻t3から例えば0.1秒経過すると、ウエハWの中心部上から例えば5mmずれた位置でレジスト液ノズル21の移動が停止すると同時に、ウエハWの回転速度がさらに低下し(時刻t4)、液溜まり41の厚さが大きくなる(図5、ステップS3)。ウエハWの回転速度が第3の回転速度である例えば10rpmになると、回転速度の低下が停止して(時刻t5)、10rpmで回転が続けられ、レジスト液ノズル21からレジスト液Rの吐出が停止する(時刻t6)(図6、ステップS4)。
【0028】
このレジスト吐出停止時にレジスト液ノズル21から液溜まり41に垂れる液滴R1の挙動について、ウエハWの表面の状態を示した図12〜図16も参照しながら説明する。図12中42は、時刻t1〜時刻t2にレジスト液ノズル21から吐出されたレジスト液Rからなる層であり、吐出された時にウエハWの回転が高速であるため、乾燥が進んでいる。また、図中43は時刻t2〜時刻t6で供給されたレジスト液Rからなる層である。このレジスト液層43においても、先に供給されたレジスト液Rからなる下方領域44は、比較的乾燥が進んでいる。しかし、上記のように10rpmに回転速度を落とし、液溜まり41の厚さが大きくなったため、レジスト液層43において比較的乾燥が進んでいない上方領域45の厚さが大きい。
【0029】
従って、図13に示すように落下した液滴R1は、下方領域44に付着せずに前記上方領域45に留められる。そして、ウエハWの回転速度が比較的遅いので、上方領域45の乾燥度合いは、液滴R1の乾燥度合いと比べて大きな差が無いため、液滴R1はこの上方領域45のレジスト液Rに馴染み、次第に消失を始める(図14)
【0030】
レジスト液Rの吐出停止後、レジスト液ノズル21が待機領域27に戻ると共にウエハWの回転が上昇し(時刻t7)、液溜まり41は遠心力の作用によりウエハWの周縁部へ広げられる(図7及び図10、ステップS5)。このとき遠心力の作用を受けて、液滴R1は周囲のレジスト液Rと混ざり合い、消失する(図15、図16)。時刻t5から時刻t7までの間隔は、例えば0.8秒である。
【0031】
ウエハWの回転速度が例えば1500rpmになると、回転速度の上昇が停止し、1500rpmのまま回転が続けられて、ウエハW表面のレジスト液R中の溶剤が揮発する。それによって、レジスト膜R2が形成される(図8、ステップS6)。時刻t7から所定の時間経過後にウエハWの回転が停止し、支持ピン13によりウエハWは突き上げられ、搬送機構10に受け渡されて、レジスト塗布装置1から搬出される。
【0032】
このレジスト塗布装置1によれば、ウエハWにレジスト液供給中にウエハWの回転速度を落として、円形の液溜まり41を形成し、さらに液溜まり41の厚さを大きくするために回転速度を落とした後、レジスト液ノズル21からレジスト液の吐出を停止している。これにより、レジスト液ノズル21から垂れた液滴が液溜まり41に馴染むため、レジスト膜R2が形成されたときに塗布斑の発生を抑えることができる。また、レジスト液ノズル21の移動時には、ウエハWは、液溜まり41の形状が歪むことが抑えられる回転速度に制御されるので、上記のステップS5で液溜まり41は略円形のままウエハWの周縁部へ向けて広げられる。つまり、レジスト液が均一性高くウエハWの周縁部に向けて広げられる。この結果として、ウエハWの面内に均一性高い膜厚でレジスト膜を形成することができる。
【0033】
ステップS2における回転速度は、少なくとも上記の液溜まり41が形成される回転速度であり、従って0rpmよりも大きい回転速度である。そして、上記のようにレジスト液ノズル21の移動による外乱が抑えられ、液溜まり41が平面で見て正円に近い形状に保たれるように制御される回転速度であることが好ましく、例えば50rpm〜1000rpmに制御される。また、ステップS4でレジスト液の供給停止を行うときの回転速度は、前記ステップS2の回転速度よりも小さく、液滴による塗布斑を抑えることができる回転速度であり、後述の実験から0rpm〜30rpmであることが好ましい。
【0034】
また、上記の実施形態において、レジスト液ノズル21の移動開始及び移動停止のタイミングとしては時刻t2よりも後、且つ時刻t4よりも前であってもよい。時刻t2よりも前にレジスト液を吐出した状態でレジスト液ノズル21が移動すると、レジスト液RによるウエハWの被覆性及びレジスト膜の均一性が低下してしまう。また時刻t4より後にレジスト液を吐出した状態でレジスト液ノズル21の移動が行われると、液溜まり41の形状が歪みやすくなり、膜厚の均一性が低下してしまう。また、レジスト液の供給を停止するタイミングとしては、液滴による塗布斑の発生を抑えることができるように液溜まりが厚くなった状態で前記供給の停止が行われればよく、例えば回転速度が低下中の時刻t4〜t5間で供給を停止させてもよい。
【0035】
このレジスト塗布装置1では塗布液としてレジスト液を供給しているが、塗布液としてはレジスト液に限られない。例えばレジスト膜の下層または上層に反射防止膜を形成するための薬液や、液浸露光時にレジスト膜を保護する保護膜形成用の薬液を供給してもよい。
【0036】
以下、本発明に関連して行った評価試験について説明する。
[評価試験1]
上記の実施形態に従ってウエハW1にレジスト膜を成膜した。そして、ウエハW1の直径に沿って間隔をおいた多数の位置でレジスト膜の膜厚を測定した。また、ウエハW2にレジスト膜を形成した。このレジスト膜の形成処理は、上記の実施形態と略同様であるが、差異点としてステップS2で回転速度を200rpmにした後、ステップS3でウエハWの回転速度の減速を行わず、0.2秒間回転速度を200rpmに維持している。200rpmに維持している間にステップS4を行い、然る後上記の実施形態と同様にステップS5を行っている。このように処理したウエハW2のレジスト膜について、ウエハW1と同様に直径方向の多数の位置で膜厚の測定を行った。
【0037】
また、ウエハW3にレジスト膜を形成した。このレジスト膜の形成処理は、上記の実施形態と略同様であるが、差異点としてステップS2で回転速度を10rpmに下げ、10rpmに維持した状態でステップS3、S4のレジスト液ノズル21の移動停止及びレジスト液の供給停止を行っている。従って、ウエハW3への処理では、液溜まりの膜厚を段階的に変化させていない。このウエハW3のレジスト膜についても、ウエハW1と同様に直径方向の多数の位置で膜厚の測定を行った。
【0038】
図17はウエハW1〜W3の直径方向に沿った膜厚のデータを示したグラフであり、実線、鎖線、点線で夫々ウエハW1、W2、W3の測定結果を示している。グラフの縦軸は膜厚の大きさ(単位nm)を示している。グラフの横軸は測定位置を示しており、ウエハWの一端を0、他端を50として、測定位置を数値化している。この結果に示されるように、ウエハW3ではウエハWの一端と他端とで膜厚の差が大きかった。これは実施の形態で説明したように、液溜まり41の形状が、レジスト液の吐出位置の移動により乱れたためであると考えられる。
【0039】
[評価試験2]
上記のウエハW1〜W3を各々複数枚用意し、夫々の周縁部において、周方向に沿って間隔をおいた25箇所のレジスト膜の膜厚を測定し、3シグマを測定した。また、ウエハW1、W2、W3夫々について、3シグマの平均を演算した。図18のグラフは、ウエハWごとに得られた3シグマの値をプロットして示しており、グラフの縦軸は3シグマの値を示している。ウエハW1の3シグマの平均は0.99、ウエハW2の3シグマの平均は0.51、ウエハW3の3シグマの平均は1.36であった。
【0040】
上記の実施形態で説明したように、液滴の落下時にウエハWの回転速度を抑えることで、液滴を周囲のレジスト液に馴染ませて塗布斑の発生を抑えることができる。しかし、上記の評価試験1、2からウエハWの周縁部の面内均一性はウエハW2>ウエハW1>ウエハW3の順で高かった。この結果から、レジスト液を広げるために回転速度を上昇させた後、回転速度を急激に下げて10rpmにすると、液滴以外の要因により膜厚のばらつきが大きくなってしまうことが分かる。そして、ウエハW2では、背景技術の項目で述べたように液滴に起因した塗布斑が発生するおそれがあることから、ウエハの膜厚の面内均一性の低下を防ぎ、且つ液滴による塗布斑の発生を防ぐためには、上記の実施形態のようにレジストの吐出位置の変更時と、液切れ時とで回転速度を変化させることが有効であると言える。
【0041】
[評価試験3]
上記の実施形態のステップS3〜S4において、10rpmになるように回転速度を低下させた後、回転速度が10rpmに維持されている時刻t4からt7の間隔を変化させて各ウエハWに処理を行い、塗布斑の発生頻度を調べた。さらに、このステップS3〜S4において、回転速度を10rpmにする代わりに10rpmとは異なる回転速度に制御してウエハWを処理し、塗布斑の発生頻度を調べた。この評価試験3ではレジスト液の吐出量を0.55mLに設定し、レジスト液の吐出時間を1.9秒に設定した。下記の表1は、この評価試験3の結果を示している。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように回転速度を10rpmに設定し、且つステップS3、S4の実行時間を0.2秒、0.4秒に設定した実験では、ウエハW25枚あたり1枚の割合で塗布斑が発生していた。回転速度を10rpmに設定し、且つステップS3、S4の実行時間を0.6秒、0.8秒に設定した実験では、ウエハW50枚のうち、すべてのウエハWに塗布斑の発生が見られなかった。回転速度を30rpmに設定し、且つステップS3、S4の実行時間を0.6秒に設定した実験ではウエハW50枚中、すべてのウエハWに塗布斑の発生は見られなかった。回転速度を50rpmに設定し、且つステップS3、S4の実行時間を0.6秒に設定した実験ではウエハW25枚あたり1枚の割合で塗布斑が発生していた。
【0044】
この評価試験3の結果から、ステップS3、S4の回転速度が小さいほど塗布斑の発生が抑えられ、またステップS3、S4の時間が長いほど塗布斑の発生が抑えられていることが分かる。上記のようにステップS3、S4の実行時間を0.6秒に設定した実験では、ウエハWの回転数が10rpm、30rpmであるものについては塗布斑が観察されていない。ステップS3、S4の実行時間を0.8秒に設定した実験では、ウエハWの回転数が10rpmに設定して塗布斑が観察されていない。これらの実験において、ウエハWの回転速度を10rpmより低く設定した場合には、液溜まり41の表面の乾燥がより抑えられ、液滴が液溜まり41により馴染みやすくなると考えられる。従って、この評価試験3より、ステップS3、S4で好ましい回転速度は0rpm〜30rpmであると言える。
【符号の説明】
【0045】
R レジスト液
R1 液滴
W ウエハ
1 レジスト塗布装置
11 スピンチャック
12 回転駆動部
21 レジスト液ノズル
26 移動機構
4 制御部
41 液溜まり
43 レジスト液層
45 上方領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に保持して回転させる回転保持部と、
前記基板の表面に塗布膜を形成するための塗布液を供給するノズルと、
塗布液の供給位置を、基板の中心位置と当該中心位置からずれた偏心位置との間で基板の径方向に沿って移動させるために前記ノズルを移動させる移動機構と、
前記回転保持部による基板の回転と、前記ノズルからの塗布液の吐出と、移動機構によるノズルの移動とを制御するために制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
基板の中心部に塗布液を供給すると共に、遠心力により前記塗布液を基板の周縁部に広げるために第1の回転速度で基板を回転させ、
次いで、前記塗布液の供給を続けたまま、当該基板の中心部側の液膜を周縁部側の液膜に比べて盛り上げて、液溜まりを形成するために、前記第1の回転速度よりも小さい第2の回転速度で基板を回転させた状態で塗布液の供給位置を基板の中心位置から前記偏心位置に向けて移動させ、
次いで、液溜まりの厚さを大きくして、ノズルの液切れ時に当該液溜まりに垂れる液滴を馴染ませるために、基板の回転速度を前記第2の回転速度よりも小さい第3の回転速度に減速させた状態で、ノズルから前記偏心位置への塗布液の供給を停止し、
その後、液溜まりを基板の周縁部に広げて塗布膜を形成するために、基板の回転速度が前記第3の回転速度よりも高くなるように制御信号を出力することを特徴とする塗布処理装置。
【請求項2】
基板が前記第2の回転速度で回転している間に、塗布液の供給位置が偏心位置で停止することを特徴とする請求項1記載の塗布処理装置。
【請求項3】
前記第3の回転速度は、0rpm〜30rpmであることを特徴とする請求項1または2記載の塗布処理装置。
【請求項4】
前記第2の回転速度は、50rpm〜1000rpmであることを特徴とする請求項1または2記載の塗布処理装置。
【請求項5】
基板を回転保持部により水平に保持する工程と、
基板の表面にノズルから基板の中心部に塗布膜を形成するための塗布液を供給すると共に、第1の回転速度で基板を回転させて、塗布液を基板の周縁部に遠心力によって広げる工程と、
次いで、前記塗布液の供給を続けたまま、当該基板の中心部側の液膜を周縁部側の液膜に比べて盛り上げて、液溜まりを形成するために、前記第1の回転速度よりも小さい第2の回転速度で基板を回転させた状態で塗布液の供給位置を基板の中心位置から前記偏心位置に向けて移動させる工程と、
次いで、液溜まりの厚さを大きくして、ノズルの液切れ時に当該液溜まりに垂れる液滴を馴染ませるために、基板の回転速度を前記第2の回転速度よりも小さい第3の回転速度に減速させた状態で、ノズルから前記偏心位置への塗布液の供給を停止する工程と、
その後、液溜まりを基板の周縁部に広げて塗布膜を形成するために基板の回転速度を前記第3の回転速度よりも高くする工程と、
を備えたことを特徴とする塗布処理方法。
【請求項6】
基板が前記第2の回転速度で回転している間に、塗布液の供給位置が偏心位置で停止する工程を含むことを特徴とする請求項5記載の塗布処理方法。
【請求項7】
前記第3の回転速度は、0rpm〜30rpmであることを特徴とする請求項5または6記載の塗布処理方法。
【請求項8】
前記第2の回転速度は、50rpm〜1000rpmであることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一項に記載の塗布処理方法。
【請求項9】
基板に対する塗布処理を行う塗布処理装置に用いられるコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項5ないし8のいずれか一つに記載の塗布処理方法を実施するためのものであることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−151348(P2012−151348A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9864(P2011−9864)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】