説明

塗布均一性の評価方法

【課題】塗布均一性の評価方法を提供すること。
【解決手段】
本発明は、エマルションが固体表面に均一に塗布されていることを評価する塗布均一性の評価方法であって、前記エマルションの前記固体表面上における接触線を検出する工程と、前記接触線が間欠的に移動しているか否かを判断する工程と、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する場合に、前記エマルションが前記固体表面に均一に塗布されていると判断する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布均一性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮は、細菌や有害物質を遮断する機能を有する。スキンケア化粧品は、その皮膚の表皮を保護するため、皮膚の表皮に塗布して使用される。
【0003】
スキンケア化粧品は、皮膚表皮の保護及び趣向性の観点から、その表皮に均一に塗布し易いものが要求される。そのため、化粧品の開発工程において、被験者の皮膚に候補となる化粧品を、直接、塗布し、塗布後の皮膚表皮において、その化粧品成分の分布を測定することにより、皮膚表皮に均一に塗布されているか否かを評価する。
【0004】
また、被験者に試行してもらい、感想を回収することで、製品開発に必要なニーズを把握し、次の製品開発の指標としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化粧品を皮膚に塗布する場合、その化粧品が皮膚表皮に均一に塗布されることは、その化粧品の機能を発揮する上で、重要な条件となる。塗布後の皮膚表皮の化粧品成分を測定することにより、化粧品が皮膚表皮に均一に塗布されているかを判断することはできるが、塗布中の化粧品の塗布及び乾燥過程は明らかとならず、その塗布及び乾燥過程のメカニズムは不明確なままである。
【0006】
一方、被験者の主観的感想は、感覚的、経験的判断に基づく漠然としたものである場合があり、その感想から化粧品の塗布中の塗布及び乾燥過程を定量的に評価することは困難である場合がある。また、被験者の使用状況(例えば、乾燥時若しくは湿潤時、気温が高温若しくは低温、表皮の温度、または、塗布する部位若しくはその形状等)により、その感想に個人差がでる場合がある。
【0007】
従来、被験者による個人差を解消する目的で、多数の被験者により塗布を試行し、その平均値を評価の対象としていた。そのため、評価に相当な時間を要し、化粧品開発のコストアップに繋がっていた。また、化粧品が皮膚表皮で塗布及び乾燥するメカニズムが不明確なままでは、次の開発の方向性を決める指標が得られない場合があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、被験者によらない方法で簡便、かつ、客観性及び再現性のある塗布均一性の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施の態様により、エマルションが固体表面に均一に塗布されていることを評価する塗布均一性の評価方法であって、前記エマルションの前記固体表面上における接触線を検出する工程と、前記接触線が間欠的に移動しているか否かを判断する工程と、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する場合に、前記エマルションが前記固体表面に均一に塗布されていると判断する工程と、を含むことを特徴とする評価方法が提供される。
【0010】
また、他の実施の態様において、前記間欠的に移動しているか否かを判断する工程において、前記間欠的に移動している移動距離が50μm未満の場合に、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する工程を含む。
【0011】
更に、他の実施の態様において、前記間欠的に移動しているか否かを判断する工程において、前記エマルションの分散質が、前記接触線の近傍で、合一して、その後、破壊しているか否かを判断する工程と、前記分散質が破壊していない場合に、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験者によらない方法で簡便、かつ、客観性及び再現性のある塗布均一性の評価方法が提供される。これによって、従来の方法に比べて、評価の効率が大幅に改善され、ひいては化粧品開発の時間短縮及びコスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】皮膚表皮疑似基板上のエマルションの接触線の変化を説明する説明図である。
【図2】分散質の破壊による接触線のジャンプを説明する説明図である。
【図3】分散質の離間による接触線のジャンプを説明する説明図である。
【図4】接触線の挙動を検知する装置の一例を示す概略正面図である。
【図5】接触線のジャンプを測定する方法の一例を説明する説明図である。
【図6】液滴中心方向に接触線が後退する距離を説明する説明図である。
【図7】実施例1において、界面活性剤(PLE)の添加量に対する、接触線のジャンプの距離及び頻度を評価した評価例を示す図である。
【図8】実施例2において、界面活性剤(DBS)の添加量に対する、接触線のジャンプの距離及び頻度を評価した評価例を示す図である。
【図9】実施例3において、皮膚表皮擬似基板に対する、接触線のジャンプの距離と頻度とを評価した評価例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
エマルションの形態の化粧品(化粧料)を人間の皮膚表面に塗布した際、エマルション化粧品を均一に塗布した場合でも、エマルション化粧品が乾燥した後に、塗布ムラが生じる場合がある。
【0015】
この塗布ムラ(不均一性)は、塗布される皮膚の状態、塗布時の環境(室温、湿度など)によって変化する。また、化粧品の種類、成分、成分の配合割合などによっても変化する。
【0016】
本発明は、エマルションの形態の化粧品を皮膚表面に塗布した際に、塗布した範囲において、乾燥が不均一となる場合に生じる、エマルションが存在している塗布領域と乾燥した塗布領域(エマルション中の分散媒が蒸発して、塗布表面上に分散質のみが残留している)との境界である接触線(空気−エマルション−皮膚表面)のジャンプに基づいて、塗布ムラを評価するものである。
【0017】
図1は、顕微鏡写真による、皮膚表皮疑似基板上のエマルションの接触線の変化を示したものである。
【0018】
図1(a)は基準時(0秒)のエマルションの接触線の位置を説明する図である。図1(b)は基準時から2.0秒後の、図1(c)は基準時から3.67秒後の、図1(d)は基準時から3.73秒後の、図1(d)は基準時から4.07秒後のエマルションの接触線及び挙動を説明する図である。
【0019】
図1(a)は、接触線44近傍では、エマルションの分散媒43が蒸発し、分散媒の蒸発過程においてエマルションの液滴の中心から外側に向かう流れ(以下、「コーヒーリング」という。)により、エマルションの分散質42が接触線44近傍に集合していることを示す(図1(a)のA)。
【0020】
図1(b)は、接触線44近傍の分散媒43の蒸発により、エマルションの液滴の接触角が減少し、エマルションの液滴の表面張力により、分散質42が圧縮荷重を受け、複数の分散質42が接触線近傍で合体し、一つの塊りの分散質となる(以下、合体し、一つの塊りとなることを「合一」という。)ことを示す(図1(b)のB)。
【0021】
図1(c)は、接触線44近傍で、さらに、エマルションの分散質42の合一が進行していることを示す(図1(c)のC1)。また、図1(c)は、合一した分散質の一つが変形していることを示す(図1(c)のC2)。
【0022】
図1(d)は、接触線近傍で合一した分散質が、エマルションの液滴の表面張力による圧縮荷重で破壊されていることを示す(図1(d)のD)。
【0023】
図1(e)は、分散質が破壊された衝撃により、エマルションの接触線44の位置が急激に後退(以下、「ジャンプ」という。)が生じていることを示す(図1(e)のE)。このとき、分散質42は、皮膚表皮擬似基板上に停滞している。
【0024】
図2は、上述した顕微鏡写真で示されている現象を図示したものである。図2(a)は、エマルションの分散質が合一する前の図である。図2(b)は、エマルションの分散質が合一したときの図である。図2(c)は、エマルションの合一した分散質が破壊した後に、接触線のジャンプが発生したときの図である。
【0025】
図2(a)において、接触線の近傍では、エマルションの分散媒である蒸留水が蒸発し、分散媒の蒸発過程で、エマルションの液滴にコーヒーリングが発生する。このとき、コーヒーリングにより、エマルションの分散質がエマルションの液滴の中心から、接触線近傍に誘導される(図2(a)のA)。
【0026】
図2(b)において、エマルションの液滴は、分散媒の蒸発により、接触角が減少する(図2(b)のB1)。このとき、接触線近傍に誘導されたエマルションの分散質は、エマルションの液滴の表面張力により、圧縮荷重を受ける。そのため、接触線近傍に誘導されたエマルションの分散質は、接触線近傍で合一する(図2(b)のB2)。その後、エマルションの液滴の分散媒が更に蒸発し、接触角が更に減少し、接触線近傍で合一した分散質B2が、エマルションの液滴の表面張力により、破壊される。
【0027】
図2(c)において、接触線近傍で合一した分散質が破壊した後に、その衝撃で、エマルションの接触線の位置が、エマルションの液滴の中心方向に、ジャンプする(図2(c)のC)。
【0028】
エマルションの液滴のジャンプの移動速度は、分散媒の蒸発による接触線の移動速度と比較して、大きなものとなる。そのため、結果として、エマルションの液滴の接触線が急激に後退する現象となる。
【0029】
その後、エマルションの液滴は、図2(a)乃至図2(c)の現象を繰り返し、接触線が間欠的に移動し、最終的に、皮膚表皮上のエマルションがすべて乾燥する。
【0030】
図3は、図2の場合に比べて、界面張力の影響が大きい(同じ界面活性剤を用いる場合は、図3の方が界面活性剤の添加量が多い)場合において、接触線近傍で合一した分散質が破壊する前に、分散質と分散媒とが離間する現象を図示したものである。図3(a)は、エマルションの接触線近傍に、分散質及び界面活性剤分子が誘導されることを説明する図である。図3(b)は、エマルションの接触線近傍において、誘導された分散質が合一し、界面活性剤分子がその合一した分散質の界面を覆うことを説明する図である。図3(c)は、エマルションの合一した分散質が、エマルションの液滴から離間することを説明する図である。
【0031】
図3(a)において、接触線近傍では、エマルションの分散媒である蒸留水が蒸発し、分散媒の蒸発過程で、エマルションの液滴中のコーヒーリングにより、エマルションの分散質A1及び界面活性剤分子A2が、接触線近傍に誘導される。
【0032】
図3(b)において、エマルションの液滴は、分散媒の蒸発により、接触角が減少する(図3(b)のB1)。このとき、接触線近傍に誘導されたエマルションの分散質は、エマルションの液滴の表面張力により、圧縮荷重を受ける。そのため、接触線近傍に誘導されたエマルションの分散質は、接触線近傍で合一する(図3(b)のB2)。また、界面活性剤分子B3は、接触線近傍で過剰に分布し、合一した分散質B2を覆うように分散質B2と分散媒B4との間に分布する。
【0033】
また、図3(b)において、接触線近傍において、表面張力及び界面張力が分散質及び分散媒の表面積を小さくするように作用するため、合一した分散質B2を分散媒B4から分離する力が発生する。
【0034】
図3(c)において、エマルションの液滴の接触線の位置は後退し、分散質C1が分散媒C2から離間される(図3(c)のC)。
【0035】
エマルションの液滴の接触線の位置の移動速度は、分散媒の蒸発による接触線の位置の移動速度と比較して、大きなものとなる。そのため、結果として、エマルションの液滴の接触線が急激に後退するジャンプが発生する。
【0036】
その後、エマルションの液滴は、図3(a)乃至図3(c)の現象を繰り返し、接触線の位置が間欠的に移動し、皮膚表皮擬似基板の表面のエマルションが乾燥する。
【0037】
エマルションの形態の化粧品が、皮膚表面に塗布し乾燥した場合において、この接触線のジャンプが頻繁に発生し、かつ、ジャンプの距離が大きい場合に、塗布ムラ(不均一な塗布)が発生している場合が多い。
【0038】
したがって、当該接触線の挙動(ジャンプの程度)を調べることにより、エマルションの形態の化粧品を表面に塗布した場合、均一な塗布が得られるか、塗布ムラが生じる(不均一な塗布となる)かを評価することができる。
【0039】
通常のエマルションの形態の化粧品を皮膚表面に塗布する場合、一定の範囲の領域において、乾燥が完全に均一となることはなく、実際は必ず多少の不均一な乾燥となる。その不均一な乾燥となる場合であっても、実質的に均一に塗布されたとみなすことができる場合がある。
【0040】
そのような均一な塗布と判断しうる接触線のジャンプの距離として、例えば、評価するエマルション形態の化粧品について、その想定される使用条件等に応じて、ジャンプと判断する距離を定めることが可能である。具体的には、開発を予定する化粧品が、顔や腕等の表皮に使用される場合は、表皮の細胞の直径が20〜60μm程度であるので、所定の距離を20〜60μmとすることができる。より好ましくは、30〜50μmである。
【0041】
すなわち、ジャンプの距離が50μm未満の場合は、均一な塗布結果が得られるとし、50μm以上の場合は、塗布ムラ(不均一な塗布)とするものである。
【0042】
また、接触線のジャンプの発生を調べる領域の大きさ、雰囲気の状況によりジャンプの発生回数等が異なる。そのために、調査する領域の大きさや、調査する雰囲気を予め決めておき、調査条件の相違により調査結果が異なることが無いようにすべきであることは当然のことである。
【0043】
<エマルションの接触線の挙動を検知する装置及びその操作>
以下に、エマルションの接触線の挙動を検知する装置及びその操作の一例を説明する。
【0044】
図4は、接触線の挙動を検知する装置の一例を示す概略正面図である。
【0045】
図4において、エマルション41を滴下する滴下手段として、マイクロピペット71を用いる。可視化手段の撮影手段は、電子顕微鏡61を用いる。電子顕微鏡61は、エマルション41が滴下される表面とは反対側の表面の方向から、エマルション41の液滴を可視化し、画像データとして記憶する。
【0046】
可視化する手順として、まず、エマルションの接触線を精度よく可視化するために、エマルションの乳化後に、エマルションの分散媒のみ可溶な色素(スルホローダミン)をエマルションに微量添加し、エマルションの分散媒を着色する。
【0047】
次に、マイクロピペット71により、所定の温度に加熱された皮膚表皮擬似基板31上に、2μl(2マイクロリットル)のエマルション41を滴下する。この状態を塗布及び乾燥過程として、皮膚表皮擬似基板のエマルションが滴下された表面とは反対側の表面の方向から、電子顕微鏡61により、エマルション41の液滴を撮影する。
【0048】
エマルション41の液滴の撮影は、エマルション41の液滴がすべて乾燥するまで、連続して撮影を行う。また、撮影結果は、図示しない記憶装置に、画像データとして記録する。
【0049】
以上により、皮膚表皮擬似基板上のエマルションの液滴を撮影することにより、エマルションの液滴の塗布及び乾燥過程の現象を画像データとして記憶することができる。
【0050】
<皮膚表皮疑似基板>
皮膚表皮擬似基板は、皮膚表皮の濡れ性を擬似した基板である。皮膚表皮擬似基板は、疎水性の皮膚表皮擬似基板及び親水性の皮膚表皮擬似基板を用いる。皮膚表皮擬似基板は、加熱手段を含む。
【0051】
表1に、疎水性の皮膚表皮擬似基板及び親水性の皮膚表皮擬似基板の接触角を示す。
【0052】
表1において、疎水性の皮膚表皮擬似基板は、アクリル基板を用いる。親水性の皮膚表皮擬似基板は、硫酸処理したガラス基板を用いる。硫酸処理は、ガラス基板の表面に硫酸(濃度96%)を塗布し、30分後、その硫酸を除去し、アセトン及びエタノールで洗浄する処理を用いることができる。
【0053】
【表1】

加熱手段は、皮膚表皮擬似基板を所定の温度に加熱する。加熱手段は、例えば、皮膚表皮擬似基板を45℃に加熱する。皮膚表皮温度は、外界の環境にも影響するが、20℃〜50℃であり、さらに実際の化粧品の使用態様を考慮すると、25℃〜40℃が好ましい。ただし、著しく乾燥が遅い製剤について、ジャンプ現象を効率よく観察するために、実際の使用態様よりも5℃〜15℃高い温度で観察することもある。
【0054】
加熱後、皮膚表皮擬似基板上に、エマルションを滴下される。
【0055】
<ジャンプの測定方法>
以下に、接触線のジャンプの測定方法を説明する。
【0056】
図5は、本発明の評価方法を実施する装置において、接触線のジャンプを測定した一例を示す。図5(a)は、ジャンプする前のエマルションの接触線の一例である。図5(b)は、ジャンプした後のエマルションの接触線の一例である。
【0057】
図5(a)において、接触線のジャンプの測定は、まず、ジャンプの前の接触線44Aの位置を測定する。接触線44A近傍では、分散質42が合一し、合一した分散質A1が発生する(図1(a)及び(b))。次に、図5(b)より、ジャンプの後の接触線44Bの位置を測定する。ジャンプの距離B1は、ジャンプ前の接触線44Aの位置とジャンプ後の接触線44Bの位置との差から算出する。
【0058】
<合一および破壊の検知による評価>
以下に、合一および破壊の検知による評価について、図6を用いて、詳細に説明する。図6は、液滴中心方向に接触線が後退した距離を説明する測定結果の一例を示す図である。図6(a)は、0〜50秒後までの、エマルションA、界面活性剤溶液B、蒸留水C、及び、固体高分子分散液Dの液滴の接触線の液滴中心方向の移動距離(以下、「後退距離」という。)を説明するグラフである。図6(b)は、図6(a)のJを説明する拡大図である。
【0059】
図6(a)において、エマルションA、界面活性剤溶液B、蒸留水C、及び、固体高分子分散液Dの後退距離を比較すると、エマルションAの場合は、他と比較して、接触線が間欠的(階段状)に移動している。図6(b)で、エマルションの液滴の接触線の移動動作を説明する。
【0060】
図6(b)において、エマルションの液滴の接触線は、まず、乾燥過程で一定の位置に停止している(図6(b)のJ1)。このとき、エマルションの液滴の接触線近傍では、分散質が合一している図1(a)乃至(c)。次に、接触線近傍で合一した分散質は破壊し(図1(d))、その位置は急激に移動する(図6(b)のJ2、及び、図1(e))。その後、一定の位置に停止し(図6(b)のJ3)、さらにその後、その位置は急激に移動する(図6(b)のJ4)。この急激に移動が接触線のジャンプである。
【0061】
<実施例>
【実施例1】
【0062】
実施例1として、エマルションの接触線のジャンプの距離及び頻度の測定例を、図7に示す。
【0063】
図7は、蒸留水にノニオン性界面活性剤のポリオキシエチレン23ラウリルエーテル(以下、「PLE」という。)を添加し、ケロシンによって乳化したエマルションについて、臨界ミセル濃度に対するPLEの濃度の比C*において(C*が「0」、「0.513」、及び、「4.44」の場合の)接触線のジャンプの距離及び頻度を評価した実施例である。
【0064】
図7は、「ジャンプの距離が50μm」の場合で、PLEの濃度の比C*を増加すると(PLEの濃度が増加すると)、ジャンプの頻度が減少することを示す。これは、エマルションの液滴の接触線近傍において、PLEの界面活性効果により、エマルションの液滴の表面張力が減少し、エマルションの分散質の合一が減少するためである。これにより、分散質の合一及び破壊に伴うジャンプの距離及び頻度が減少したと考えられる(図2)。
【0065】
以上により、複数の基準値となるPLEの添加量に対するジャンプの距離を測定することで、上記基準値以外のジャンプの距離及び頻度を、PLEの添加量とジャンプの頻度との関係に基づいて、評価することが可能となる。
【実施例2】
【0066】
実施例2として、蒸留水にアニオン性界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、「DBS」という。)を添加した場合の、接触線のジャンプの距離及び頻度の測定例を図8に示す。
【0067】
図8は、臨界ミセル濃度に対するDBSの濃度の比C*において(C*が「0」、「2.25」、「12.5」、「22.0」、及び、「34.1」の場合)接触線のジャンプの距離及び頻度を評価した実施例である。
【0068】
図8は、「ジャンプの距離が50μm」の場合で、DBSの濃度の比C*を増加すると(DBSの濃度が増加すると)、ジャンプの距離及び頻度が減少することを示す。DBSの添加により、エマルションの液滴の分散媒の蒸発過程で、接触線近傍に、界面活性剤分子を過剰に分布する。過剰に分布した界面活性剤分子は、接触線近傍の分散質が合一する前に、分散質と分散媒とを分離及び離間するため、エマルションの液滴の接触線のジャンプが減少すると考えられる(図3)。
【0069】
以上により、複数の基準値となるDBSの添加量に対するジャンプの距離を測定することで、上記基準値以外のジャンプの距離及び頻度を、DBSの添加量とジャンプの頻度との関係に基づいて、評価することが可能となる。
【実施例3】
【0070】
実施例3として、図9に、皮膚表皮擬似基板に疎水性の皮膚表皮擬似基板及び親水性の皮膚表皮擬似基板(表1)を用いたときの接触線のジャンプの距離と頻度との関係を評価した例を示す。
【0071】
図9より、疎水性の皮膚表皮擬似基板A及び親水性の皮膚表皮擬似基板Bにおいて、エマルションの液滴の接触線のジャンプの距離と頻度との関係は同様の傾向であることを示す。
【0072】
これにより、皮膚表面の濡れ性にあまり影響を受けることなく、当該接触線のジャンプが発生することがわかる。
【実施例4】
【0073】
実施例4として、分散質に固体高分子を用いた化粧品の評価方法を示す。
【0074】
表2は、界面活性剤溶液に分散させる固体高分子の物性である。
【0075】
【表2】

本実施例では、エマルションの分散質と同程度の粒径の固体高分子を界面活性剤溶液に分散し、固体高分子分散液を生成する。
【0076】
固体高分子分散液の接触線の後退距離を、前述の図6(a)を用いて、説明する。図6(a)は、接触線の後退距離を説明する測定結果の一例である。
【0077】
図6(a)において、固体高分子分散液の液滴の接触線の後退距離Dは、本測定結果では、ジャンプ(間欠的に移動)しない。
【0078】
したがって、固体高分子分散液では、接触線のジャンプが発生することが少なく、固体高分子分散液の形態の化粧品を皮膚表面に塗布した場合、比較的塗布ムラが少ないことがわかる。
【符号の説明】
【0079】
30 : 皮膚表皮擬似基板
42 : 分散質
43 : 分散媒
44 : 接触線(空気−エマルション−皮膚表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルションが固体表面に均一に塗布されていることを評価する塗布均一性の評価方法であって、
前記エマルションの前記固体表面上における接触線を検出する工程と、
前記接触線が間欠的に移動しているか否かを判断する工程と、
前記接触線が間欠的に移動していないと判断する場合に、前記エマルションが前記固体表面に均一に塗布されていると判断する工程と、
を含むことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記間欠的に移動しているか否かを判断する工程において、
前記間欠的に移動している移動距離が50μm未満の場合に、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記間欠的に移動しているか否かを判断する工程において、
前記エマルションの分散質が、前記接触線の近傍で、合一して、その後、破壊しているか否かを判断する工程と、
前記分散質が破壊していない場合に、前記接触線が間欠的に移動していないと判断する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の評価方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7631(P2013−7631A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139812(P2011−139812)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】