説明

塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物、絶縁膜、及び薄膜トランジスタ

【課題】高耐熱性、可視光領域での透明性、低誘電率及び可撓性に優れる絶縁膜を形成することが可能な、塗布型絶縁膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】有機ケイ素化合物(A)、及び、下記式(L):[化1]


で示される構造単位を有する含フッ素ポリマー(B)、からなることを特徴とする塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物、絶縁膜、及び薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、大型の液晶表示装置等に用いられている薄膜トランジスタ(TFT)は、インバーテッド・コープレーナー(inverted coplanar)型が主流となっているが、このようなTFTにおいて、ゲートとチャンネルの間にあるインシュレータ層は、TEOSや窒化珪素(SiN)を、CVD(Chemical Vapor Deposition)若しくはスパッタリングで製膜することにより形成している。
【0003】
しかしながら、表示装置の大画面化や価格競争の激化により、大面積化、低価格化が要望されていることから、薄膜トランジスタのインシュレータ層を塗布型の製膜法により製造する試みが行われている。
【0004】
塗布型の絶縁膜形成用組成物としては、ポリシロキサンを用いたものがあげられる。例えば、特許文献1には、可撓性の高い絶縁膜を形成するためのポリシロキサン組成物として、特定の繰返し単位を有するポリシロキサンと加熱により酸及びラジカルの少なくとも一方を発生する化合物とを含有するポリシロキサン組成物が記載されている。
【0005】
ところで、特許文献2には、反射防止膜を形成するための硬化性含フッ素ポリマーとして、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基が1〜3個結合している特定の構造の硬化性含フッ素ポリマーが記載されている。また、特許文献3には、防眩性を維持し、また表面散乱による「白ぼけ」が認められず、かつ密着性に優れた実用的な低反射性を有する積層体として有用な材料として、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む官能基を有する特定の構造単位と、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基が1〜3個結合している特定の構造単位とを有する硬化性含フッ素ポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−188814号公報
【特許文献2】国際公開第02/18457号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/027958号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、ポリシロキサンから形成された絶縁膜は、未だ可撓性に乏しく、撓みにより割れたりすることがあり、より可撓性に優れる絶縁膜を形成することができる材料が求められるところであった。また、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜とするには、より優れた高耐熱性、可視光領域での透明性、低誘電率が求められるところであった。
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、高耐熱性、可視光領域での透明性、低誘電率及び可撓性に優れる絶縁膜を形成することが可能な、塗布型絶縁膜形成用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが塗布型絶縁膜形成用の組成物について鋭意検討したところ、有機ケイ素化合物に、特定のフッ素樹脂をバインダーとして混合した組成物を用いると、高耐熱性、可視光領域での透明性、低誘電率及び可撓性に優れた塗布型の絶縁膜を形成することができることが見出された。
【0010】
すなわち、本発明は、有機ケイ素化合物(A)、及び、下記式(L):
【0011】
【化1】

(式中、XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF;XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;Rfはアミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む1価の有機基、又は、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基;aは0〜3の整数;bおよびcは同じかまたは異なり、0または1である。)で示される構造単位を有する含フッ素ポリマー(B)、からなることを特徴とする塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物である。
【0012】
有機ケイ素化合物(A)は、下記式(1):
{Si(R(R(R(R(R (1)
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリル基、又は炭素数3〜10のグリシジル基である。Rは、同一又は異なり、−O−、−NH−、−C≡C−、又は、シラン結合である。s、t、u及びvは、同一又は異なり0又は1であり、wは0〜4の整数であり、nは1〜20である。nが1である場合、s+t+u+vは4であり、wは0である。nが2〜20である場合、s+t+u+vは、同一又は異なり0〜4であり、wは、同一又は異なり0〜4であり、wが1以上の整数である場合、少なくとも2個のSiはRを介して、直鎖、梯子型、環状、又は複環状に結合している。)で表される化合物(A1)であることが好ましい。
【0013】
有機ケイ素化合物(A)は、テトラアルコキシシランであることが好ましい。
【0014】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、有機ケイ素化合物(A)と含フッ素ポリマー(B)との合計質量に対して、有機ケイ素化合物(A)が50質量%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、有機溶剤を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜形成用であることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物から形成された絶縁膜でもある。
【0018】
本発明は更に、半導体層、上記絶縁膜、及び、ゲート電極層がこの順に積層された薄膜トランジスタでもある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、上記構成を有することによって、高耐熱性、可視領域での透明性、低誘電率及び可撓性に優れた塗布型の絶縁膜を形成することができる。本発明の絶縁膜は、上記塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物から形成されたものであるため、耐熱性、透明性、及び可撓性に優れる。本発明の薄膜トランジスタは、上記絶縁膜からなるものであるため、耐熱性、透明性、低誘電率及び可撓性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、インバーテッド・コープレーナー型の薄膜トランジスタの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、有機ケイ素化合物(A)からなる。有機ケイ素化合物(A)は、炭素−ケイ素結合を有するものである。上記有機ケイ素化合物(A)は、常温(例えば、25℃)で液体であることが好ましい。
【0022】
上記有機ケイ素化合物(A)としては、Si−H結合を有するSi−H化合物;アミノシラン化合物、シラザン、シリルアセトアミド、シリルイミダゾール等のSi−N結合を有するSi−N化合物;モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、シロキサン、シリルエステル、シラノール等のSi−O結合を有するSi−O化合物;モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等のSi−Cl結合を有するSi−Cl化合物等のハロゲノシラン、Si−(C)化合物、Si−Si結合を有するSi−Si化合物、ビニルシラン、アリルシラン、エチニルシラン等があげられる。すなわち、有機ケイ素化合物(A)は、Si−H化合物、Si−N化合物、Si−O化合物、ハロゲノシラン、Si−(C)化合物、Si−Si化合物、ビニルシラン、アリルシラン、及びエチニルシランからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。上記有機ケイ素化合物としては、Siに、水素、酸素及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも1種の原子が結合した化合物がより好ましい。
以下に、上記化合物の具体例を示す。
【0023】
〔Si−H化合物〕
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
〔Si−N化合物〕
【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
〔Si−O化合物〕
【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
【化17】

【0042】
【化18】

【0043】
【化19】

【0044】
【化20】

【0045】
〔ハロゲノシラン〕
Si−Cl化合物:
【0046】
【化21】

【0047】
【化22】

【0048】
【化23】

【0049】
【化24】

【0050】
SiCl
【0051】
Si−Cl化合物以外のハロゲノシラン:
【0052】
【化25】

【0053】
〔Si−(C)化合物〕
【0054】
【化26】

【0055】
【化27】

【0056】
【化28】

【0057】
【化29】

【0058】
【化30】

【0059】
【化31】

【0060】
〔Si−Si化合物〕
【0061】
【化32】

【0062】
〔ビニルシラン、アリルシラン、及びエチニルシラン〕
【0063】
【化33】

【0064】
【化34】

【0065】
【化35】

【0066】
上記有機ケイ素化合物(A)は、下記式(1):
{Si(R(R(R(R(R (1)
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリル基、又は炭素数3〜10のグリシジル基である。Rは、同一又は異なり、−O−、−NH−、−C≡C−、又は、シラン結合である。s、t、u及びvは、同一又は異なり0又は1であり、wは0〜4の整数であり、nは1〜20である。nが1である場合、s+t+u+vは4であり、wは0である。nが2〜20である場合、s+t+u+vは、同一又は異なり0〜4であり、wは、同一又は異なり0〜4であり、wが1以上の整数である場合、少なくとも2個のSiはRを介して、直鎖、梯子型、環状、又は複環状に結合している。)で表される化合物(A1)であることがより好ましい。R、R、R、及びRは、Siに結合している1価の基である。Rは、2個のSiに結合している2価の基である。
【0067】
式(1)中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、少なくとも1つは、水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアミノ基であり、それ以外は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリル基、又は炭素数3〜10のグリシジル基であることが好ましい。nが2〜20である場合、s+t+u+vは、同一又は異なり、1〜3であり、wは1〜3であることが好ましい。
【0068】
更に、式(1)においてR、R、R及びRは、同一又は異なり、少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は、炭素数1〜6のアミノ基であり、それ以外は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基であることがより好ましい。更に好ましくは、少なくとも1つが炭素数1〜6のアルコキシ基であり、それ以外が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基であること、すなわち、化合物(A1)がアルコキシシランであることである。特に好ましくは、同一又は異なり、全て炭素数1〜4のアルコキシ基であることである。
【0069】
上記R、R、R及びRにおいて、アルキル基である場合には、アルキル基の炭素数は、1〜5であることが好ましい。上記アルキル基は鎖状でも、環状でも、分岐していてもよい。また、水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などがあげられるが、例えば、R、R、R又はRとしては、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基であることが好ましい。より好ましくは、メチル基、エチル基である。
上記R、R、R及びRにおけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、又はジメチルフェニル基であることが好ましい。
上記R、R、R及びRにおけるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素が好ましく、特に塩素が好ましい。
【0070】
上記R、R、R及びRにおいて、アルコキシ基である場合には、アルコキシ基の炭素数は、1〜5であることが好ましい。上記アルコキシ基は鎖状でも、環状でも、分岐していてもよい。また、水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、又はブトキシ基が好ましく、より好ましくは、メトキシ基、又はエトキシ基である。
【0071】
は、同一又は異なり、−O−、−NH−、−C≡C−、又は、シラン結合である。Rとしては、−O−、−NH−、又は、−C≡C−が好ましい。Rは、2個のSiに結合している2価の基であり、Rによって2以上のケイ素原子がRを介して、直鎖、梯子型、環状、又は複環状に結合することができる。nが2以上の整数である場合、ケイ素原子同士で結合していてもよい。
【0072】
化合物(A1)としては、中でも、テトラアルコキシシランであることが好ましい。すなわち、上記式(1)において、nは1であり、R、R、R及びRは、同一又は異なり、炭素数1〜10のアルコキシ基であることが好ましい。R、R、R及びRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記アルコキシ基は鎖状でも、環状でも、分岐していてもよい。また、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。上記アルコキシ基の炭素数は、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが特に好ましい。
【0073】
化合物(A1)としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシランなどを挙げることができ、これらの中でもテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、より好ましくは、入手が容易で低価格でありガラスに近い屈折率の点でテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0074】
架橋性を向上させる観点からは、上記化合物(A1)は、炭素数3〜5のアリル基、炭素数3〜5のグリシジル基、アクリル基、又はメタクリル基を有することも好ましい。すなわち、化合物(A1)において、R、R、R及びRの少なくとも1つが、炭素数3〜5のアリル基、炭素数3〜5のグリシジル基、アクリル基、又はメタクリル基であることも好ましい形態の1つである。
【0075】
含フッ素ポリマー(B)は、下記式(L):
【0076】
【化36】

(式中、XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF;XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;Rfはアミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む有機基、又は、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基;aは0〜3の整数;bおよびcは同じかまたは異なり、0または1である。)で示される構造単位(以下、「構造単位L」ともいう。)を有する。上記エーテル結合は、−O−で表される2価の基である。アミド結合は、−CONH−で表される2価の基である。カーボネート結合は、−O−COO−で表される2価の基である。ウレタン結合は、−O−CONH−で表される2価の基である。上記ウレア結合は、−NH−CONH−で表される2価の基である。
なお本明細書中、「炭化水素基」とは、炭素及び水素からなる有機基を表し、「含フッ素炭化水素基」は、炭化水素基が有する一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換されたものを表している。
上記「炭化水素基」としては、例えば、アルキル基、アリル基、環状アルキル基、不飽和アルキル基等が挙げられる。「含フッ素炭化水素基」としては、含フッ素アルキル基、含フッ素アリル基、含フッ素環状アルキル基、含フッ素不飽和アルキル基等が挙げられる。
【0077】
含フッ素ポリマー(B)は、上記構成を有することによって、化合物(A)が例えばSi−O化合物である場合など、化合物(A)からSiOxが形成される場合に、該SiOxと好適に架橋することができ、形成される絶縁膜をより可撓性に優れたものとすることができる。また、そうして形成される絶縁膜は、SiOxからなるものであるため、より耐熱性及び透明性に優れる。
【0078】
構造単位Lとしては、なかでも式(L1):
【0079】
【化37】

【0080】
(式中、X、X、X、X、X、Rf、aおよびcは式(L)と同じ)で示される構造単位L1が好ましい。
【0081】
この構造単位L1を含む含フッ素ポリマー(B)は、特に屈折率が低く、また、種々の基材との密着性がよく、密着耐久性を向上させることができる点で好ましい。また、熱、ラジカルやカチオンの接触による硬化反応性を高くすることができる点でも好ましい。
【0082】
さらに構造単位L1のより好ましい具体例の1つは式(L2):
【0083】
【化38】

【0084】
(式中、Rfは式(L)と同じ)で示される含フッ素エチレン性単量体に由来する構造単位L2である。
【0085】
この構造単位L2は屈折率が低く、また、種々の基材との密着性がよく耐久性を向上させることができる点で優れているほか、他の含フッ素エチレン系単量体との共重合性が良好であるため好ましい。また、近赤外透明性を高くできるだけでなく屈折率を低くできる点でも好ましい。
【0086】
上記構造単位L2において、Rfは、例えば、−(CF(CF)CQ−O)−T(Qは、同じかまたは異なり、HまたはFを表す。Tは、−CHO−(CO)−CF=CH、又は、−CONH−R23−Si(OR20)(OR21)(OR22)(R20、R21及びR22は同じかまたは異なり、炭素数1〜5のアルキル基である。R23は、水素原子の一部もしくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜39のアルキレン基である。)である。nは、0、1又は2である。)であることも好ましい形態の1つである。
【0087】
また、構造単位L1の別の好ましい具体例は式(L3):
【0088】
【化39】

【0089】
(式中、Rfは式(L)と同じ)で示される含フッ素エチレン性単量体に由来する構造単位L3である。
【0090】
この構造単位L3は屈折率が低く、また、種々の基材との密着性がよく、密着耐久性を向上させることができる点で優れているほか、他の含フッ素エチレン系単量体との共重合性が良好である点でも好ましい。また、近赤外透明性を高くできるだけでなく屈折率を低くできる点でも好ましい。
【0091】
上記構造単位L、L1、L2およびL3に含まれるRfは、上記のとおり、アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む1価の有機基、又は、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基である。
アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基において、当該含フッ素炭化水素基の炭素数の上限は、好ましくは30、より好ましくは20、特に好ましくは10である。
【0092】
Rfは、Rf(アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基)であってもよいし、Rf(アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基)であってもよいし、Rf(アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜2箇所がYで置換されており、構造末端の1〜2箇所がYで置換されている含フッ素炭化水素基)であってもよい。製造の容易さからは、Rfは、Rf又はRfであることが好ましい。
【0093】
上記Rfは、Rf(アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基)であることが好ましい形態の1つである。上記構造単位LのRfがRfである構造単位を、以下、構造単位Mという。また、構造単位L1、L2及びL3において、RfがRfである構造単位を、以下、それぞれ、構造単位M1、M2及びM3という。上記Rf中で、炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシドは加水分解・重縮合反応を起こす役割を果たし、これにより、化合物(A)が例えばSi−O化合物である場合など、化合物(A)からSiOxが形成される場合に、該SiOxと架橋し、耐熱性、透明性、及び可撓性に優れる絶縁膜を形成することができる。
【0094】
好ましいRfとしては、式(Rf):
−D−Ry (Rf
[式中、−D−は、式(D):
【0095】
【化40】

【0096】
(式中、nは1〜20の整数;Rは水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されている炭素数1〜5の2価の含フッ素アルキレン基であり、nが2以上の場合は同じでも異なっていてもよい)で示される含フッ素エーテルの単位;Ryはアミド結合若しくはウレア結合を有していてもよく、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜39の炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよく、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数2〜99のエーテル結合を有する炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは上記RfにおけるYと同じ)で置換されている炭化水素基]で表される含フッ素炭化水素基が好ましい。
【0097】
−R−は炭素数1〜5の2価の含フッ素アルキレン基であって、少なくとも1個のフッ素原子を有するものであり、それによって、従来のフッ素を含まないアルキレン基を有するものやアルキレンエーテル単位を有するものに比べて、化合物の粘性をさらに低粘性化できる他、耐熱性向上、屈折率の低下、汎用溶剤への溶解性向上などに寄与することができる。
【0098】
−D−は、具体的には、−(OCFCFCF)−、−(CFCFCFO)−、−(OCFQCF)−、−(OCFCFQ)−、−(OCFQ)−、−(CFQO)−、−(OCHCFCF)−、−(OCFCFCH)−、−(OCHCHCF)−、−(OCFCHCH)−、−(OCFCFCFCF)−、−(CFQCFO)−、−(CFQCHO)−、−(CFCFCFCFO)−、−(OCFQCH)−、−(CHCFQO)−、−(OCH(CH)CFCF)−、−(CF(CF)CFO)−、−(OCFCFCH(CH))−、−(OCQ)−および−(CQO)−(Q、Qは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;QはCF)などがあげられ、−D−はこれらの1種または2種以上の繰り返し単位であることが好ましい。
【0099】
なかでも、−D−は、−(OCFQCF)−、−(OCFCFCF)−、−(OCHCFCF)−、−(OCFQ)−、−(OCQ)−、−(CFQCFO)−、−(CFQCHO)−、−(CFCFCFO)−、−(CHCFCFO)−、−(CFQO)−および−(CQO)−(Q、Qは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;QはCF)から選ばれる1種または2種以上の繰り返し単位であることが好ましく、−(OCFQCF)−、−(OCFCFCF)−、−(OCHCFCF)−、−(CFQCFO)−、−(CFQCHO)−、−(CFCFCFO)−および−(CHCFCFO)−(Qは、H、FまたはCF)から選ばれる1種または2種以上の繰り返し単位であることがより好ましく、−(OCFQCF)−、−(OCFCFCF)−、−(CFQCFO)−、−(CFQCHO)−および−(CFCFCFO)−(Qは、H、FまたはCF)から選ばれる1種または2種以上の繰り返し単位であることが更に好ましい。また、上記Qとしては、CFが好ましい。
これらの中でも、−D−は、−(CF(CF)CFO)−、−(CF(CF)CHO)−であることが特に好ましい。
【0100】
ただし、上記の含フッ素エーテルの単位−D−中および前記Rf中において、−OO−(具体的には、−R−O−O−R−、−O−O−R−および−R−O−O−など)で表される構造単位は含まれないものとする。
【0101】
式(Rf)におけるRyとしては、より具体的には、式(Ry):
−Ry (Ry)
[式中、Ryは式(Ry):
−(R11−(A)−R12−(Y1a (Ry
(式中、qは0または1;pは0または1;mは1〜3の整数;R11は、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素煤1〜5の2価の炭化水素基;Aは、−O−、−CONH−、−O−COO−、−O−CONH−または−NH−CONH−;R12は水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜38の2〜4価の炭化水素基、または、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数2〜98のエーテル結合を有する2〜4価の炭化水素基(ただし、R12が水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜38の2〜4価の炭化水素基である場合、Aは、−CONH−または−NH−CONH−である。);Y1aは式:
−[MO(R29(R30(R31(R32−M(R33(R34(R35(R36(R37
(式中、MおよびMは同じかまたは異なり、2〜6価の金属原子;a、b、cおよびdは0または1であって、かつa+b+c+d+2が金属原子Mの価数に等しい;e、f、g、hおよびiは0または1であって、e+f+g+h+i+1が金属原子Mの価数に等しい;R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36およびR37は同じかまたは異なり、式OR38またはR38(式中、R38は水素原子、もしくは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基)で示される有機基であって、かつR29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36およびR37の少なくとも1つがOR38である;n=0〜11の整数)で示される官能基)で示される有機−無機複合基]で示される基であることが好ましい。
【0102】
構造単位Mが構造単位M2である場合、上記Ryは、−Ryであることが好ましい。
【0103】
式(Ry)における−R12−の具体例としては、例えばつぎのものがあげられる。
【0104】
【化41】

【0105】
−R12−としては、例えば、−(CH−、及び、−(CH−からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0106】
1a中の金属MおよびMとしては、IB族としてCu;IIA族としてCa、Sr、Ba;IIB族としてZn;IIIA族としてB、Al、Ga;IIIB族としてY;IVA族としてSi、Ge;IVB族としてPb;VA族としてP、Sb;VB族としてV、Ta;VIB族としてW;ランタニドとしてLa、Ndがあげられる。
【0107】
特にY1aとしては、IVA族、そのうちでもSiが好ましく、特に−Si(OCH、−Si(OC、−SiCH(OCなどが加水分解・重縮合後に、水酸基を有する基材との良好な密着性および密着耐久性の点で好ましく、また、−[SiO(OCH−Si(OCH、−[SiO(OC−Si(OC(nは1〜11の整数)などが加水分解・重縮合後に水酸基を有する基材との良好な密着性およびその耐久性の他、表面硬度の向上の点で好ましい。
【0108】
これらのなかでも、Y1aとしては、−Si(OCH、−Si(OC、及び−SiCH(OCからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0109】
IVA族以外の金属の具体例としては、例えばY1aとしては、
IIA族がCa:−Ca(OR39)、好適な具体例としては−Ca(OCH);
IIB族がZn:−Zn(OR39)、好適な具体例としては−Zn(OC);
IIIA族がB:−B(OR39、好適な具体例としては−B(OCH
IIIB族がY:−Y(OR39、好適な具体例としては−Y(OC
IVB族がPb:−Pb(OR39、好適な具体例としては−Pb(OC
VB族がTa:−Ta(OR39、好適な具体例としては−Ta(OC
VIB族がW:−W(OR39、好適な具体例としては−W(OC
ランタニドがLa:−La(OR39、好適な具体例としては−La(OC
(式中、R39は水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基)などが例示できる。
【0110】
これら各種金属は、同一のものに限らず、異種のものを組みあわせてもよい。
【0111】
構造単位Mとしては、構造単位M1が好ましく、構造単位M1としてはさらに構造単位M2または構造単位M3が好ましい。そこで、−Rfを−D−Ryと表した場合、式(2−2):
【0112】
【化42】

【0113】
(式中、X、X、X、X、X、D、Ry、a、bおよびcは式(L)または式(Rf)と同じ)で示される構造単位であることが、基材との密着耐久性、さらに低粘性化や耐熱性が優れる点で好ましい。
【0114】
具体的には、式(2−2)の構造単位M1は、
【0115】
【化43】

【0116】
などが好ましく挙げられ、なかでも式(2−2)の構造単位は、式(2−3):
【0117】
【化44】

【0118】
(式中、X、X、X、X、X、D、Ry、aおよびcは式(L)または式(Rf)と同じ)で示される構造単位であることが、耐熱性および耐薬品性が優れる点で好ましい。
【0119】
式(2−3)の構造単位は、より具合的には
【0120】
【化45】

【0121】
などが好ましく挙げられ、なかでも特に、
【0122】
【化46】

【0123】
の構造単位が耐熱性および耐薬品性においてより好ましい。
【0124】
上記Rfは、Rfであることも好ましい形態の1つである。Y中の炭素−炭素二重結合は重縮合反応などを起こす能力を有し、硬化(架橋)体を与えることができるものである。詳しくは、たとえばラジカルやカチオンの接触によって、含フッ素ポリマー分子間で、または化合物(A)と必要に応じて加えられる硬化(架橋)剤との間で重合反応や縮合反応を起こし、硬化(架橋)物を与えることができるものである。
【0125】
上記構造単位LのRfがRf(アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基)である構造単位を以下、構造単位Nともいう。また、構造単位L1、L2、及びL3において、RfがRfである構造単位を、それぞれ、構造単位N1、N2、及びN3という。
【0126】
好ましいRfとしては、式(Rf):
−D−Ry (Rf
[式中、−D−は、式(Rf)と同じである。Ryは、アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよく、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜39の炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよく、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数2〜99のエーテル結合を有する炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは上記RfにおけるYと同じ)で置換されている炭化水素基]で表される含フッ素炭化水素基が好ましい。−D−Ryの好ましい形態としては、上記−D−Ryで例示された好ましい形態において、RyをRyに変更したものがあげられる。
【0127】
好ましいYの第1としては、
【0128】
【化47】

【0129】
(式中、Y2aは末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜5のアルケニル基または含フッ素アルケニル基;dおよびeは同じかまたは異なり、0または1)である。
【0130】
好ましいY2aとしては、
−CX=CX
(式中、XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF)であり、この基はラジカルやカチオンの接触による硬化反応性が高く、好ましいものである。
【0131】
好ましいY2aの具体例としては、
【0132】
【化48】

【0133】
などがあげられる。
【0134】
またより好ましいYとしては、
−O(C=O)CX=CX
(式中、XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF)があげられ、この基は特にラジカルの接触による硬化反応性がより高い点で好ましく、光硬化などにより容易に硬化物を得ることができる点で好ましい。
【0135】
上記のより好ましいYの具体例としては、
【0136】
【化49】

【0137】
などがあげられる。
【0138】
その他の好ましいYの具体例としては、
【0139】
【化50】

【0140】
などがあげられる。
【0141】
のなかでも、−O(C=O)CF=CHの構造を有するものが近赤外透明性を高くでき、さらに硬化(架橋)反応性が特に高く、効率よく硬化物を得ることができる点で好ましい。
【0142】
なお、前述の側鎖中に炭素−炭素二重結合を有する有機基Yは、ポリマー主鎖末端に導入してもよい。
【0143】
本発明で用いる含フッ素ポリマーにおいて、構造単位N、N1、N2およびN3に含まれる−Rf−(前記RfからYを除いた基)は、アミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の2価の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する2価の含フッ素炭化水素基であることが好ましい。この−Rf−基は含まれる炭素原子にフッ素原子が結合していればよく、一般に、炭素原子にフッ素原子と水素原子または塩素原子が結合した2価の含フッ素炭化水素基、エーテル結合を有する2価の含フッ素炭化水素基であるが、フッ素原子をより多く含有する(フッ素含有率が高い)ものが好ましく、より好ましくはパーフルオロアルキレン基またはエーテル結合を有する2価のパーフルオロ炭化水素基である。含フッ素ポリマー中のフッ素含有率は25質量%以上、好ましくは40質量%以上である。これらによって、含フッ素ポリマー(B)の近赤外透明性を高くできるだけでなく屈折率を低くできることが可能となり、特に絶縁膜の耐熱性や弾性率を高くする目的で硬化度(架橋密度)を高くしても近赤外透明性を高く、もしくは低屈折率性を維持できるため好ましい。
【0144】
−Rf−基の炭素数は大きすぎると、2価の含フッ素炭化水素基の場合は溶剤への溶解性を低下させたり透明性が低下したりすることがあり、またエーテル結合を有する2価の含フッ素炭化水素基の場合はポリマー自身やその硬化物の硬度や機械特性を低下させることがあるため好ましくない。該2価の含フッ素炭化水素基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。該エーテル結合を有する2価の含フッ素炭化水素基の炭素数は好ましくは2〜30、より好ましくは2〜20である。
【0145】
−Rf−の好ましい具体例としては、
【0146】
【化51】

【0147】
などがあげられる。
【0148】
本発明で用いる含フッ素ポリマーを構成する構造単位Nは構造単位N1が好ましく、構造単位N1としてはさらに構造単位N2または構造単位N3が好ましい。そこで、つぎに構造単位N2および構造単位N3の具体例について述べる。
【0149】
構造単位N2を構成する単量体として好ましい具体例としては、
【0150】
【化52】

【0151】
(以上、nは1〜30の整数;Yは上記RfにおけるYと同じ)があげられる。
【0152】
より詳しくは、
【0153】
【化53】

【0154】
(以上、Rf、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、nは0〜30の整数;XはH、CH、FまたはCF)などがあげられる。
【0155】
構造単位N3を構成する単量体として好ましい具体例としては、
【0156】
【化54】

【0157】
(以上、Yは上記RfにおけるYと同じ;nは1〜30の整数)などがあげられる。
【0158】
さらに詳しくは、
【0159】
【化55】

【0160】
(以上、Rf、Rf10は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基;mは0〜30の整数;nは1〜3の整数;XはH、CH、FまたはCF)などがあげられる。
【0161】
これらの構造単位N2およびN3以外に、含フッ素ポリマーの構造単位Nを構成する単量体の好ましい具体例としては、たとえば、
【0162】
【化56】

【0163】
(以上、YおよびRfは前述の例と同じ)などがあげられる。
【0164】
より具体的には、
【0165】
【化57】

【0166】
(以上、Yは上記RfにおけるYと同じ)などがあげられる。
【0167】
含フッ素ポリマー(B)は、更に、構造単位Aからなるものであってもよい。構造単位Aは式(L)で示される構造単位Lを与える含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体に由来する構造単位であればよい。構造単位Aは任意成分であり、構造単位Lを与える含フッ素エチレン性単量体と共重合し得る単量体であれば特に限定されず、目的とする含フッ素ポリマーやその硬化物の用途、要求特性などに応じて適宜選択すればよい。
【0168】
構造単位Aとしては、たとえばつぎの構造単位が例示できる。
【0169】
(A1)官能基を有する含フッ素エチレン性単量体から誘導される構造単位
この構造単位A1は、含フッ素ポリマーおよびその硬化物の基材への密着性や溶剤、特に汎用溶剤への溶解性を付与できる点で好ましく、そのほか架橋性などの機能を付与できる点で好ましい。
【0170】
官能基を有する好ましい含フッ素エチレン性単量体の構造単位A1は、式(A1):
【0171】
【化58】

【0172】
(式中、X11、X12およびX13は同じかまたは異なりHまたはF;X14はH、F、CF;hは0〜2の整数;iは0または1;Rfは炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数2〜100のエーテル結合を有する2価の含フッ素アルキレン基;Zは−OH、−CHOH、−COOH、カルボン酸誘導体、−SOH、スルホン酸誘導体、エポキシ基およびシアノ基よりなる群から選ばれる官能基)で示される構造単位であり、なかでも、
CH=CFCFORf−Z
(式中、RfおよびZは前記と同じ)から誘導される式(A1−1):
【0173】
【化59】

【0174】
(式中、RfおよびZは式(A1)と同じ)で示される構造単位が好ましい。
【0175】
より具体的には、
【0176】
【化60】

【0177】
(以上、Zは式(A1)と同じ)などの含フッ素エチレン性単量体から誘導される構造単位が好ましくあげられる。
【0178】
また、
CF=CFORf−Z
(式中、RfおよびZは式(A1)と同じ)から誘導される式(A1−2):
【0179】
【化61】

【0180】
(式中、RfおよびZは式(A1)と同じ)で示される構造単位も好ましく例示できる。
【0181】
より具体的には、
【0182】
【化62】

【0183】
(以上、Zは式(A1)と同じ)などの単量体から誘導される構造単位があげられる。
【0184】
その他、官能基含有含フッ素エチレン性単量体としては、
CF=CFCF−O−Rf−Z、CF=CF−Rf−Z
CH=CH−Rf−Z、CH=CHO−Rf−Z
(以上、−Rf−は前記の−Rf−と同じ;Zは式(A1)と同じ)などがあげられ、より具体的には、
【0185】
【化63】

【0186】
(以上、Zは式(A1)と同じ)などがあげられる。
【0187】
(A2)官能基を含まない含フッ素エチレン性単量体から誘導される構造単位
この構造単位A2は含フッ素ポリマーまたはその硬化物の屈折率を低く維持できる点で、さらに低屈折率化することができる点で好ましい。また単量体を選択することでポリマーの機械的特性やガラス転移温度などを調整でき、特に構造単位Lと共重合してガラス転移点を高くすることができ、好ましいものである。
【0188】
この含フッ素エチレン性単量体の構造単位(A2)としては、式(A2):
【0189】
【化64】

【0190】
(式中、X15、X16およびX18は同じかまたは異なりHまたはF;X17はH、FまたはCF;h1、i1およびjは同じかまたは異なり0または1;ZはH、F、Clまたは炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐鎖状パーフルオロアルキル基;Rfは炭素数1〜20の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数2〜100のエーテル結合を含む2価の含フッ素アルキレン基)で示されるものが好ましい。
【0191】
具体例としては、
【0192】
【化65】

【0193】
などの単量体から誘導される構造単位が好ましくあげられる。
【0194】
特に、これらは硬化性含フッ素ポリマーまたはその硬化物の屈折率を低く維持できる点から、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構造単位であることが好ましい。
【0195】
(A3)フッ素を有する脂肪族環状の構造単位
この構造単位A3を導入すると、透明性を高くでき、また、高ガラス転移温度の含フッ素ポリマーが得られ、硬化物にさらなる高硬度化が期待できる点で好ましい。
【0196】
含フッ素脂肪族環状の構造単位A3としては式(A3):
【0197】
【化66】

【0198】
(式中、X19、X20、X23、X24、X25およびX26は同じかまたは異なりHまたはF;X21およびX22は同じかまたは異なりH、F、ClまたはCF;Rfは炭素数1〜10の含フッ素アルキレン基または炭素数2〜10のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基;n2は0〜3の整数;n1、n3、n4およびn5は同じかまたは異なり0または1の整数)で示されるものが好ましい。
【0199】
たとえば、
【0200】
【化67】

【0201】
(式中、Rf、X21およびX22は式(A3)と同じ)で示される構造単位があげられる。
【0202】
具体的には、
【0203】
【化68】

【0204】
(式中、X19、X20、X23およびX24は式(A3)と同じ)などがあげられる。
【0205】
そのほかの含フッ素脂肪族環状構造単位としては、たとえば
【0206】
【化69】

【0207】
などがあげられる。
【0208】
(A4)フッ素を含まないエチレン性単量体から誘導される構造単位
構造単位A4を導入することによって、汎用溶剤への溶解性が向上したり、添加剤、たとえば光触媒や必要に応じて添加する硬化剤との相溶性を改善できる。
【0209】
非フッ素系エチレン性単量体の具体例としては、
αオレフィン類:
エチレン、プロピレン、ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど
ビニルエーテル系またはビニルエステル系単量体:
CH=CHOR、CH=CHOCOR10(R10:炭素数1〜20の炭化水素基)など
アリル系単量体:
CH=CHCHCl、CH=CHCHOH、CH=CHCHCOOH、CH=CHCHBrなど
アリルエーテル系単量体:
CH=CHCHOR10(R10:炭素数1〜20の炭化水素基)、
CH=CHCHOCHCHCOOH、
【0210】
【化70】

【0211】
アクリル系またはメタクリル系単量体:
アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類のほか、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸エステル類など
などがあげられる。
【0212】
これらの非フッ素系エチレン性単量体の水素原子を重水素原子に一部または全部置換したものは透明性の点でより好ましい。
【0213】
(A5)脂環式単量体から誘導される構造単位
構造単位M、Nの共重合成分として、より好ましくは構造単位M、Nと前述の含フッ素エチレン性単量体または非フッ素エチレン性単量体(前述のA3、A4)の構造単位に加えて、第3成分として脂環式単量体構造単位A5を導入してもよく、それによって高ガラス転移温度化や高硬度化が図られる。
【0214】
脂環式単量体A5の具体例としては、
【0215】
【化71】

【0216】
(mは0〜3の整数;A、B、CおよびDは同じかまたは異なり、H、F、Cl、COOH、CHOHまたは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基など)で示されるノルボルネン誘導体、
【0217】
【化72】

【0218】
などの脂環式単量体や、これらに置換基を導入した誘導体などがあげられる。
【0219】
含フッ素ポリマー(B)は、構造単位Lのみからなる重合体であってもよいし、構造単位Lと構造単位Aとからなる共重合体であってもよい。また、構造単位Lとしては、構造単位Mのみであってよいし、構造単位Nのみであってもよいし、含フッ素ポリマー(B)は、構造単位Mと構造単位Nの両方が、含フッ素ポリマー(B)中に含まれていてもよい。また、構造単位M、構造単位N、及び構造単位Aからなる共重合体であってもよい。
【0220】
含フッ素ポリマーが構造単位Lのみからなる場合、基材との密着耐久性を付与する機能、さらには被膜の高硬度化を付与できるといった点で有利である。
【0221】
また含フッ素ポリマーが共重合体である場合、構造単位Lは、含フッ素ポリマー(B)を構成する全構造単位に対し0.1モル%以上であればよいが、硬化(架橋)により高硬度で耐摩耗性、耐擦傷性に優れ、耐薬品性、耐溶剤性に優れた硬化物を得るためには、2モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であることが好ましい。
【0222】
特に耐熱性、透明性、低吸水性に優れた絶縁膜の形成が必要な用途においては、10モル%以上、好ましくは20モル%以上、さらには30モル%以上、特には40モル%以上含有することが好ましい。また、構造単位Lは、含フッ素ポリマー(B)を構成する全構造単位に対し100モル%未満であることが好ましい。
【0223】
含フッ素ポリマー(B)の分子量は、たとえば数平均分子量において500〜1,000,000の範囲から選択できるが、好ましくは1,000〜500,000、特に2,000〜200,000の範囲から選ばれるものが好ましい。
【0224】
分子量が低すぎると、硬化後であっても機械的物性が不充分となりやすく、特に絶縁膜が脆く強度不足となりやすい。分子量が高すぎると、溶剤溶解性が悪くなったり、特に薄膜形成時に成膜性やレベリング性が悪くなりやすく、また含フッ素ポリマー(B)の貯蔵安定性も不安定になりやすい。最も好ましくは数平均分子量が5,000〜100,000の範囲から選ばれるものである。
数平均分子量は、ポリスチレンに準拠して測定した値であり、後述する実施例において実施される測定方法により測定することができる。
【0225】
含フッ素ポリマー(B)は、例えば、構造単位Lからなり、必要に応じて、更に構造単位Aからなり、含フッ素ポリマーを構成する全構造単位に対して、構造単位Lを0.1〜100モル%、および構造単位Aを0〜99.9モル%含む数平均分子量が500〜1,000,000である含フッ素ポリマーであってもよい。この場合、構造単位Lは、構造単位Mが0.1〜100モル%であり、構造単位Nが0〜99.9モル%であってもよいし、構造単位Nが0.1〜100モル%であり、構造単位Mが0〜99.9モル%であってもよい。
【0226】
含フッ素ポリマー(B)としてはまた、構造単位Lからなり、必要に応じて、更に、構造単位A1及び構造単位A2からなり、含フッ素ポリマー(B)を構成する全構造単位に対して、構造単位Lが0.1〜90モル%、構造単位A1が0〜99.9モル%および構造単位A2が0〜99.9モル%であり、かつ構造単位A1と構造単位A2との合計が、10〜99.9モル%であり、数平均分子量が500〜1,000,000であることも好ましい形態の1つである。
【0227】
含フッ素ポリマー(B)における構造単位Lの含有量は、含フッ素ポリマーを構成する全構造単位に対し0.1モル%以上であればよいが、硬化(架橋)により高硬度で耐摩耗性、耐擦傷性に優れ、耐薬品性、耐溶剤性に優れた硬化物を得るためには2モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上とすることが好ましい。特に耐熱性、透明性、低吸水性に優れた硬化被膜の形成が必要な用途においては、10モル%以上、好ましくは20モル%以上、さらには50モル%以上含有することが好ましい。上限は100モル%未満である。
【0228】
構造単位A1およびA2の含有量はいずれも99.9モル%以下である。また、A1+A2の合計モル%は10〜99.9モル%とする。10モル%未満の場合は屈折率が低く維持できず、さらに硬化後の被膜硬度が低くなる傾向となり好ましくない。より好ましいA1+A2の合計モル%は20モル%以上、さらには30モル%以上であり、60モル%以下、さらには50モル%以下である。また、90モル%以下であってもよいし、80モル%以下であってもよいし、50モル%以下であってもよい。
【0229】
含フッ素ポリマー(B)において、構造単位L〔構造単位M(M1、M2、及びM3)と構造単位N(N1、N2、及びN3)〕と、構造単位A(A1及びA2)との組合せや組成比率は、構造単位Mと構造単位Nと構造単位Aの組合せが、上記の例示から、目的とする用途、物性(特にガラス転移温度、硬度など)、機能(透明性)などによって種々選択すればよい。
【0230】
含フッ素ポリマー(B)の分子量は、たとえば数平均分子量において500〜1,000,000の範囲から選択できるが、好ましくは1,000〜500,000、特に2,000〜200,000の範囲から選ばれるものが好ましい。
【0231】
分子量が低すぎると、硬化後であっても機械的物性が不充分となりやすく、特に硬化物や硬化膜が脆く強度不足となりやすい。分子量が高すぎると、溶剤溶解性が悪くなったり、特に薄膜形成時に成膜性やレベリング性が悪くなりやすく、また含フッ素ポリマーの貯蔵安定性も不安定となりやすい。最も好ましくは数平均分子量が5,000〜100,000の範囲から選ばれるものである。
【0232】
含フッ素ポリマー(B)は、汎用溶剤に可溶であることが好ましく、たとえばケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤の少なくとも1種に可溶または汎用溶剤を少なくとも1種含む混合溶剤に可溶であることが好ましい。
【0233】
汎用溶剤に可溶であることは、特に、被膜を形成するプロセスにおいて3μm以下、例えば約0.1μm程度の薄膜形成が必要な際、成膜性、均質性に優れるため好ましく、生産性の面でも有利である。
【0234】
上記含フッ素ポリマー(B)は、
(1)Rfを有する単量体を予め合成し、重合して得る方法
(2)一旦、他の官能基を有する重合体を合成し、その重合体に高分子反応により官能基変換し、官能基Rfを導入する方法
(3)(1)と(2)の両方の方法を用いて導入する方法
のいずれの方法も採用できる。
これらの方法のうち、(3)の方法は含フッ素ポリマー側鎖末端の炭素―炭素二重結合を硬化反応させずに、本発明の加水分解性金属アルコキシド部位を有する硬化性フッ素ポリマーを得る点から(3)の方法が好ましい。
【0235】
上記含フッ素ポリマー(B)は、例えば、国際公開第02/18457号パンフレット、特開2006−027958号公報に記載の方法により製造することができる。
【0236】
重合方法としては、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法などが例示でき、加水分解性金属アルコキシド部位を有する重合体を得るために例示した単量体は組成や分子量などの品質のコントロールがしやすい点や工業化しやすい点からラジカル重合法が特に好ましい。
【0237】
構造単位Lを与える含フッ素エチレン性単量体は、下記式:
【0238】
【化73】

【0239】
(式中、XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF;XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;Rfは上記と同じである。;aは0〜3の整数;bおよびcは同じかまたは異なり、0または1)で示される単量体である。上記の単量体において、X、X、X、X、X、a、b、c、及びRfにおける好ましい形態は式(L)と同じである。
【0240】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、化合物(A)と含フッ素ポリマー(B)との合計質量に対して、化合物(A)が50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、化合物(A)が60質量%以上であり、更に好ましくは、80質量%以上である。化合物(A)が少なすぎると、耐熱性や透明性に劣るおそれがある。また、化合物(A)と含フッ素ポリマー(B)との合計質量に対して、含フッ素ポリマー(B)は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。含フッ素ポリマー(B)が少なすぎると、誘電率が高くなり可撓性に劣るおそれがある。
【0241】
塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、化合物(A)及び含フッ素ポリマー(B)以外に、有機溶剤を含むことが好ましい。有機溶剤は、上記含フッ素ポリマー(B)を溶解可能なものであることが好ましい。
【0242】
有機溶剤としては、たとえばメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのセロソルブ系溶剤;ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル、2−ヒドロキシイソ酪酸エチルなどのエステル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのプロピレングリコール系溶剤;2−ヘキサノン、シクロヘキサノン、メチルアミノケトン、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類あるいはこれらの2種以上の混合溶剤などがあげられる。
【0243】
またさらに、含フッ素ポリマー(B)の溶解性を向上させるために、必要に応じてフッ素系の溶剤を用いてもよい。
【0244】
フッ素系の溶剤としては、たとえばCHCClF(HCFC−141b)、CFCFCHCl/CClFCFCHClF混合物(HCFC−225)、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、メトキシ−ノナフルオロブタン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンなどのほか、
【0245】
【化74】

【0246】
などのフッ素系アルコール類;
ベンゾトリフルオライド、パーフルオロベンゼン、パーフルオロ(トリブチルアミン)、ClCFCFClCFCFClなどがあげられる。
【0247】
これらフッ素系溶剤は単独でも、またフッ素系溶剤同士、非フッ素系とフッ素系の1種
以上との混合溶剤として用いてもよい。
【0248】
これらのなかでも、ケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、アルコール系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤が好ましく、より具体的には、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、2−ヘプタノン(MAK)及び乳酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤が、塗装性、塗布の生産性などの面で好ましい。
【0249】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、更に、硬化開始剤を含むことが好ましい。特に、上記Yが、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基であるYである場合に、硬化開始剤を含むことが好ましい。
【0250】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物における硬化開始剤としては、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤等があげられる。例えば、活性エネルギー線硬化開始剤のほか、加熱硬化や常温2液硬化系の硬化剤が使用できる。比較的低温で硬化反応が可能である点からは、活性エネルギー線硬化開始剤が好ましい。上記Yの種類(ラジカル反応性か、カチオン(酸)反応性か)、使用する活性エネルギー線の種類(波長域など)と照射強度などによって適宜選択される。
【0251】
活性エネルギー線硬化開始剤は、たとえば350nm以下の波長領域の電磁波、つまり紫外線、電子線、X線、γ線などの活性エネルギー線を照射することによって初めてラジカルやカチオン(酸)などを発生し、含フッ素ポリマー(B)の架橋基(たとえば炭素−炭素二重結合)の硬化(架橋反応)を開始させる触媒として働くものであり、通常、紫外線でラジカルやカチオン(酸)を発生させるもの、特にラジカルを発生するものを使用する。
【0252】
上記Yが、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である場合、本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、前記活性エネルギー線により容易に硬化反応を開始できるため好ましい。
【0253】
紫外線領域の活性エネルギー線を用いて硬化させる場合、硬化開始剤としては、たとえばつぎのものが例示できる。
【0254】
アセトフェノン系
アセトフェノン、クロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、α−アミノアセトフェノンなど
【0255】
ベンゾイン系
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタールなど
【0256】
ベンゾフェノン系
ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシ−プロピルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、ミヒラーケトンなど
【0257】
チオキサンソン類
チオキサンソン、クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン、ジエチルチオキサンソン、ジメチルチオキサンソンなど
【0258】
その他
ベンジル、α−アシルオキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、アンスラキノンなど
【0259】
また、必要に応じてアミン類、スルホン類、スルフィン類などの光開始助剤を添加してもよい。
【0260】
また、カチオン(酸)反応性の開始剤(光酸発生剤)としては、つぎのものが例示できる。
【0261】
オニウム塩
ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩など
【0262】
スルホン化合物
β−ケトエステル、β−スルホニルスルホンとこれらのα−ジアゾ化合物など
【0263】
スルホン酸エステル類
アルキルスルホン酸エステル、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、イミノスルホネートなど
【0264】
その他
スルホンイミド化合物類、ジアゾメタン化合物類など
【0265】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物において、硬化開始剤の添加量は、含フッ素ポリマー(B)中の架橋基の含有量、化合物(A)が架橋性基を有する場合には、その架橋性基の含有量、さらには用いる硬化開始剤、活性エネルギー線の種類や、照射エネルギー量(強さと時間など)によって適宜選択されるが、例えば、硬化開始剤は、化合物(A)及び含フッ素ポリマー(B)の合計100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜20質量部であり、更に好ましくは、0.1〜10質量部である。
【0266】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、硬化剤を含むことも好ましい。特に、上記Yが、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である場合に、硬化剤を含むことが好ましい。
【0267】
硬化剤としては、炭素−炭素不飽和結合を1つ以上有しかつラジカルまたは酸で重合できるものが好ましく、具体的にはアクリル系モノマーなどのラジカル重合性の単量体、ビニルエーテル系モノマーなどのカチオン重合性の単量体があげられる。これら単量体は、炭素−炭素二重結合を1つ有する単官能であっても炭素−炭素二重結合を2つ以上有する多官能の単量体であってもよい。
【0268】
これらの炭素−炭素不飽和結合を有するいわゆる硬化剤は、本発明の組成物中の活性エネルギー線硬化開始剤と光などの活性エネルギー線との反応で生じるラジカルやカチオンで反応し、本発明の組成物中の含フッ素ポリマー(B)の側鎖の炭素−炭素二重結合と共重合によって架橋することができるものである。
【0269】
単官能のアクリル系単量体としては、アクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類、α−フルオロアクリル酸、α−フルオロアクリル酸エステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル類のほか、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などを有する(メタ)アクリル酸エステル類などが例示される。
なかでも硬化物の屈折率を低く維持するために、フルオロアルキル基を有するアクリレート系単量体が好ましく、たとえば一般式:
【0270】
【化75】

(XはH、CHまたはF、Rfは炭素数2〜40の含フッ素アルキル基または炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基)で表わされる化合物が好ましい。
具体的には、
【0271】
【化76】

などがあげられる。
多官能アクリル系単量体としては、ジオール、トリオール、テトラオールなどの多価アルコール類のヒドロキシル基をアクリレート基、メタアクリレート基、α−フルオロアクリレート基に置き換えた化合物が一般的に知られている。
具体的には、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのそれぞれの多価アルコール類の2個以上のヒドロキシル基がアクリレート基、メタクリレート基、α−フルオロアクリレート基のいずれかに置き換えられた化合物があげられる。
また、含フッ素アルキル基、エーテル結合を含む含フッ素アルキル基、含フッ素アルキレン基またはエーテル結合を含む含フッ素アルキレン基を有する多価アルコールの2個以上のヒドロキシル基をアクリレート基、メタアクリレート基、α−フルオロアクリレート基に置き換えた多官能アクリル系単量体も利用でき、特に硬化物の屈折率を低く維持できる点で好ましい。
具体例としては、
【0272】
【化77】

などの一般式で示される含フッ素多価アルコール類の2個以上のヒドロキシル基をアクリレート基、メタアクリレート基またはα−フルオロアクリレート基に置き換えた構造のものが好ましくあげられる。
また、これら例示の単官能、多官能アクリル系単量体を硬化剤として本発明の組成物に用いる場合、なかでも特にα−フルオロアクリレート化合物が硬化反応性が良好な点で好ましい。
【0273】
本発明の組成物において、活性エネルギー線硬化開始剤の添加量は、含フッ素ポリマー(B)中の炭素−炭素二重結合の含有量、上記硬化剤の使用の有無や硬化剤の使用量によって、さらには用いる硬化開始剤、活性エネルギー線の種類や、照射エネルギー量(強さと時間など)によって適宜選択されるが、硬化剤を使用しない場合では、含フッ素ポリマー(B)100重量部に対して0.01〜30重量部、さらには0.05〜20重量部、最も好ましくは、0.1〜10重量部である。
詳しくは、含フッ素ポリマー(B)中に含まれる炭素−炭素二重結合の含有量(モル数)に対し、0.05〜50モル%、好ましくは0.1〜20モル%、最も好ましくは、0.5〜10モル%である。
【0274】
硬化剤を使用する場合は、含フッ素ポリマー(B)中に含まれる炭素−炭素二重結合の含有量(モル数)と硬化剤の炭素−炭素不飽和結合のモル数の合計モル数に対して0.05〜50モル%、好ましくは0.1〜20モル%、最も好ましくは0.5〜10モル%である。
【0275】
硬化剤を使用する場合、硬化剤の使用量は目的とする硬度や屈折率、硬化剤の種類、使用する硬化性含フッ素ポリマーの硬化性基の含有量などによって適宜選択され、望ましくは硬化性含フッ素ポリマーに対して、1〜80重量%、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%である。硬化剤の添加量が多すぎると屈折率が高くなる傾向にあり、好ましくない。
【0276】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、上述したものの他に、必要に応じて種々の添加剤を含むものであってもよい。
【0277】
添加剤としては、たとえばシランカップリング剤、可塑剤、変色防止剤、酸化防止剤、無機充填剤、レベリング剤、粘度調整剤、光安定剤、水分吸収剤、顔料、染料、補強剤などがあげられる。
【0278】
また、本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、絶縁膜の硬度を高め、また屈折率の制御を行う目的で無機化合物の微粒子または超微粒子を含むものであってもよい。
【0279】
無機化合物微粒子としては特に限定されないが、屈折率が1.5以下の化合物が好ましい。具体的にはフッ化マグネシウム(屈折率1.38)、酸化珪素(屈折率1.46)、フッ化アルミニウム(屈折率1.33〜1.39)、フッ化カルシウム(屈折率1.44)、フッ化リチウム(屈折率1.36〜1.37)、フッ化ナトリウム(屈折率1.32〜1.34)、フッ化トリウム(屈折率1.45〜1.50)などの微粒子が望ましい。微粒子の粒径については、低屈折率材料の透明性を確保するために可視光の波長に比べて充分に小さいことが望ましい。具体的には300nm以下、特に100nm以下が好ましい。
【0280】
無機化合物の微粒子または超微粒子によって、空隙を形成することが可能である。すなわち、本発明の組成物に無機化合物の微粒子または超微粒子を配合させた被膜は、この空隙を利用して被膜単体の屈折率よりもさらに低屈折率にすることが可能である。
【0281】
無機化合物微粒子を使用する際は、組成物中での分散安定性、低屈折率材料中での密着性などを低下させないために、予め有機分散媒中に分散した有機ゾルの形態で使用するのが望ましい。さらに、組成物中において、無機化合物微粒子の分散安定性、低屈折率材料中での密着性などを向上させるために、予め無機微粒子化合物の表面を各種カップリング剤などを用いて修飾することができる。各種カップリング剤としては、たとえば有機置換された珪素化合物;アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、アンチモンまたはこれらの混合物などの金属アルコキシド;有機酸の塩;配位性化合物と結合した配位化合物などがあげられる。
【0282】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、有機溶剤に対して含フッ素ポリマー(B)または添加物がディスパージョン状のものでも、溶液状のものでもよいが、均一な薄膜を形成する観点からは、比較的低温で成膜が可能となる点で、均一な溶液状であることが好ましい。
【0283】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、形成される膜が1〜5μmとなるために相応の粘度、すなわち1〜10cp程度であることが好ましい。その為に本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物全質量に対して、化合物(A)及び含フッ素ポリマー(B)の質量の合計が、10〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは、20〜50質量%である。
【0284】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、例えば、液体の化合物(A)に、含フッ素ポリマー(B)、並びに、必要に応じて硬化開始剤、架橋剤、その他の添加剤を添加して、必要に応じて撹拌して混合することにより、製造することができる。
【0285】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物を塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用することができる。塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物を基材に塗布し、乾燥し、そののち必要に応じて焼成する方法等があげられる。塗布方法として具体的には、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、フローコート法、バーコート法、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、スリットコート法などが採用でき、基材の種類、形状、生産性、膜厚のコントロール性などを考慮して選択できる。薄膜トランジスタのゲート絶縁膜を形成する場合、スリットコート法により塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物を塗布することが好ましい。
【0286】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、架橋、たとえば熱架橋又は光架橋させることによって、絶縁膜を形成することが可能である。絶縁膜は、本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物を基材に塗布し、乾燥し、そののち、焼成することで架橋させてもよいし、紫外線、電子線または放射線などの活性エネルギー線を照射することによって光硬化させて形成してもよい。
【0287】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、種々の用途に利用可能であるが、特に、大面積の絶縁膜を形成する用途、可撓性を必要とする用途に使用する絶縁膜を形成する材料として特に好適である。例えば、本発明の組成物により得られる絶縁膜の用途としては、多層プリント配線基板層間絶縁膜、発光ダイオード素子絶縁膜、多層チップ層間絶縁膜、等があげられる。また、半導体素子用の絶縁膜として好適であり、層間絶縁膜、パッシベーション膜、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜、等があげられる。また、低誘電率で可視光領域の透明性が高いため、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜を形成する材料として特に好適である。
【0288】
本発明の絶縁膜は、上記塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物から形成されたものである。上記塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物から形成されたものであるため、この絶縁膜は、可撓性に優れる。更に、耐熱性、低誘電率及び透明性にも優れる。
【0289】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、絶縁膜を形成することができるが、低誘電率及び透明性にも優れるため、特に半導体素子を形成するための絶縁膜形成用組成物として好適である。
【0290】
本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜形成用であることが好ましい。本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物は、高耐熱性、可視光領域の透明性、低誘電率及び可撓性に優れ、また、汎用溶剤可溶性であるため、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜を形成した場合にも対応でき、塗布型であるため、低コスト化を図ることができるし、大面積の製膜を容易に行うことができる。
【0291】
薄膜トランジスタのゲート絶縁膜形成用である場合、本発明の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物のより好ましい構成としては、たとえばつぎのものが例示できるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0292】
(例I)
有機ケイ素化合物(A)成分:加水分解縮合性シラン化合物
含フッ素ポリマー(B)成分:側鎖にシランカップリング基を持つ構造単位L2からなるホモポリマー、もしくは、構造単位L2、構造単位M、及び構造単位Nからなる共重合体(例えば、(L2)−(M)−(N)の構造を有する共重合体)
溶剤:ケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、アルコール系溶剤、含フッ素アルコール系溶剤、又は芳香族系溶剤
組成割合
(A)成分100質量部(固形分)に対して、(B)成分を1〜50質量部
溶剤:必要に応じて適量
【0293】
(例II)
有機ケイ素化合物(A)成分:加水分解縮合性シラン化合物
含フッ素ポリマー(B)成分:側鎖にラジカル重合性基を持つL2のホモポリマー、もしくは、構造単位L2、構造単位M、及び構造単位Nからなる共重合体(例えば、(L2)−(M)−(N)の構造を有する共重合体)
硬化剤(架橋剤):ラジカル性架橋基と加水分解性シランカップリング基を持つ化合物
硬化開始剤:紫外光ラジカル発生剤
溶剤:ケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、アルコール系溶剤、含フッ素アルコール系溶剤、又は芳香族系溶剤
組成割合
(A)成分100質量部(固形分)に対して、(B)成分を1〜50質量部、架橋剤を0.1〜10質量部、開始剤を0.01〜0.5質量部、溶剤を必要に応じて適量
【0294】
本発明の薄膜トランジスタは、半導体層、上記ゲート絶縁膜、及び、ゲート電極層がこの順に積層したものである。本発明の薄膜トランジスタは、上記ゲート絶縁膜を使用したものであるため、可撓性に優れ、更に、耐熱性、及び透明性にも優れる。
【0295】
上記薄膜トランジスタは、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置等の表示装置用の薄膜トランジスタとして好適である。
また、可撓性に優れるものであるため、例えば、フレキシブル基板を用いた表示装置等に用いられる薄膜トランジスタとしても有用である。
【0296】
図1に、インバーテッド・コープレーナー型の薄膜トランジスタの一例を示す。図1に示す薄膜トランジスタ1は、ゲート電極層10上に、ゲート絶縁膜11、半導体層13がこの順に形成されており、更にソース・ドレイン電極14が、酸化膜15を挟んで形成されている。ソース・ドレイン電極14上には、パッシベーション膜12が形成されている。
本発明の薄膜トランジスタは、このようなバックゲート型の薄膜トランジスタに限定されるものではなく、トップゲート型の薄膜トランジスタであってもよい。
【0297】
上記半導体層は、薄膜トランジスタの活性層となる層であり、半導体からなるものである。上記半導体としては、シリコン、ゲルマニウム等のIV族半導体であってもよいし、ガリウムヒ素、ガリウムナイトライド等のIII−V族化合物半導体であってもよいし、酸化亜鉛等のII−VI族化合物半導体等であってよい。またペンタセン、チオフェン等の有機半導体であってもよい。実用的観点からは、シリコンが好ましい。半導体層としては、単結晶、多結晶、非晶質等の各種半導体を使用することができる。
【0298】
ゲート電極層を形成する材料としては特に限定されず、通常のゲート電極層を形成する材料を用いることができる。例えば、銅、アルミ、金等の金属を用いることができる。
【0299】
また本発明の絶縁膜は、透明性が高いため、LED素子中の絶縁膜としても有用である。
【実施例】
【0300】
つぎに本発明を合成例、製造例および実施例などに基づいて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、物性の評価に使用した装置および測定条件は以下のとおりである。
【0301】
(1)NMR:BRUKER社製
1H−NMR測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
【0302】
(2)IR分析:PERKIN ELMER社製のFT−IR SPECTROMETER 1760X
【0303】
(3)重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による。昭和電工(株)製のShodex GPC−104を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF−604を1本、GPC KF−603を1本、GPC KF−602を2本直列に接続)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.5ml/分で流して測定したデータより算出する。
【0304】
合成例1(OH基を有する含フッ素アリルエーテルのホモポリマーの合成)
攪拌装置および温度計を備えた100mLのガラス製四ツ口フラスコに、パーフルオロ(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサノネノール)
【0305】
【化78】

【0306】
を20g、
[H−(CF2CF23−COO−]2
の8.0質量%パーフルオロヘキサン溶液を21.2g入れ、充分に窒素置換を行った後、窒素気流下20℃で24時間攪拌を行ったところ、高粘度の固体が生成した。得られた固体をジエチルエーテルに溶解させたものをパーフルオロヘキサンに注ぎ、分離、真空乾燥させ、重合体17.6gを得た。この重合体を19F−NMR、1H−NMR分析、IR分析により分析したところ、上記含フッ素アリルエーテルの構造単位のみからなり側鎖末端にヒドロキシル基を有する含フッ素重合体であった。また、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒に用いるGPC分析により測定した数平均分子量は9000、重量平均分子量は22000であった。
【0307】
合成例2(α−フルオロアクリロイル基を有する含フッ素硬化性ポリマーの合成)
還流冷却器、温度計、攪拌装置、滴下漏斗を備えた200mLの四ツ口フラスコに、ジエチルエーテル80mL、合成例1で得たヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテルの単独重合体5.0gと、ピリジン1.0gを仕込み5℃以下に氷冷した。窒素気流下、攪拌を行いながら、さらにα−フルオロアクリル酸フルオライド:CH2=CFCOFの1.2gをジエチルエーテル20mLに溶解したものを約30分間かけて滴下した。滴下終了後、室温まで温度を上げさらに4.0時間攪拌を継続した。反応後のエーテル溶液を分液漏斗に入れ、水洗、2%塩酸水洗浄、5%NaCl水洗浄、さらに水洗を繰返したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ついでエーテル溶液を濾過により分離した。このエーテル溶液を19F−NMR分析により調べたところ、−OOCCF=CH2基含有含フッ素アリルエーテル/OH基含有含フッ素アリルエーテル=50/50モル%の共重合体を含んでいた。また、NaCl板に塗布し、室温にてキャスト膜としたものをIR分析したところ、炭素−炭素二重結合の吸収が1661cm-1に、C=O基の吸収が1770cm-1に観測された。得られたα−フルオロアクリロイル基を有する含フッ素硬化性ポリマー(エーテル溶液)にメチルイソブチルケトン(MIBK)を加えた後、エーテルをエバポレーターにより留去し、固形分濃度15.0質量%に調整した。
【0308】
合成例3(トリエトキシシラン基を有する含フッ素硬化性ポリマーの合成)
温度計、攪拌装置、滴下漏斗を備えた300mLの四ツ口フラスコに、MIBK150mL、合成例1で得たヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテルの単独重合体20.0gと、イソシアナトプロピルトリエトキシシラン17.4gを仕込み5℃以下に氷冷した。窒素気流下、攪拌を行いながら、さらにラウリルジブチルスズ18mgを加えた後、室温まで温度を上げさらに4.0時間攪拌を継続した。NaCl板に塗布し、室温にてキャスト膜としたものをIR分析したところ、水酸基の吸収が消失し、反応が完了したことが確認できた。反応物はそのまま精製することなく組成物に使用した。
【0309】
【化79】

【0310】
実施例1(40wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例3ポリマー=9/1であるMIBK溶液の調製)
合成例3のポリマーMIBK溶液20gにTEOS36g、MIBK54gを加え充分攪拌して熱加水分解型絶縁膜材料溶液を調製した。
【0311】
実施例2(20wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例3ポリマー=9/1であるMIBK溶液の調製)
合成例3のポリマーMIBK溶液10g、TEOS18g、MIBK72gを実施例1と同様にして表記溶液を調製した。
【0312】
実施例3(40wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例3ポリマー=4/1であるMIBK溶液の調製)
合成例3のポリマーMIBK溶液40g、TEOS32g、MIBK28gを実施例1と同様にして表記溶液を調製した。
【0313】
実施例4(20wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例3ポリマー=4/1であるMIBK溶液の調製)
合成例3のポリマーMIBK溶液20g、TEOS16g、MIBK64gを実施例1と同様にして表記溶液を調製した。
【0314】
実施例5(20wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例2ポリマー=9/1であるMIBK溶液の調製)
合成例2のポリマーMIBK溶液13.3gにTEOS17.5g、トリプロポキシプロピル メタクリレート0.5g、重合開始剤イルガキュア907(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)0.1g、MIBK68.7gを加え室温で充分攪拌して紫外熱加水分解型絶縁膜材料溶液を調製した。
【0315】
実施例6(20wt%テトラエトキシシラン(TEOS)/合成例2ポリマー=4/1であるMIBK溶液の調製)
合成例2のポリマーMIBK溶液26.7g、TEOS15.5g、トリプロポキシプロピル メタクリレート0.5g、重合開始剤イルガキュア907(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)0.1g、MIBK57.3gを実施例5と同様にして表記溶液を調製した。
【0316】
試験例1
実施例1〜6でそれぞれ得た重合体について、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を測定した。結果を表1に示す。
ガラス転移温度(Tg):
示差走査熱量計(SEIKO社製、RTG220)を用いて、30℃から600℃までの温度範囲を10℃/分の条件で昇温−降温−昇温(2回目の昇温をセカンドランと呼ぶ)させて得られるセカンドランにおける吸熱曲線の中間点をTg(℃)とした。
熱分解温度(Td):
島津製作所製TGA−50型熱天秤を用い、10℃/分の昇温速度で1%質量減少の始まる温度を測定した。
【0317】
試験例2
実施例1〜6でそれぞれ得た重合体について、エリプソメーターを用いてつぎの方法により透過率(消衰係数)ならびに屈折率を測定した。結果を表1に示す。
試料の作製:
8インチのシリコンウエハ基板に、実施例1〜6でそれぞれ得た組成物のそれぞれを、スピンコーターを用いて、はじめに300rpmで3秒間、ついで4000rpmで20秒間ウェハーを回転させながら塗布し、乾燥後、1〜2μmの膜厚になるように調整しながら被膜を形成した。
屈折率の測定:
分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製のVASE ellipsometer)を用いて各波長光におけるk値(消衰係数)、屈折率および膜厚を測定した。
【0318】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0319】
本発明の組成物は、塗布型の絶縁膜を形成することができるものであり、種々の用途に適用することができる。特に、大面積の絶縁膜を形成する用途、可撓性を必要とする用途に使用する絶縁膜を形成する材料として特に好適に利用可能である。また、半導体素子用の絶縁膜として好適であり、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜を形成する材料として特に好適である。
【符号の説明】
【0320】
1:薄膜トランジスタ
10:ゲート電極層
11:ゲート絶縁膜
12:パッシベーション膜
13:半導体層
14:ソース・ドレイン電極
15:酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物(A)、及び、下記式(L):
【化1】

(式中、XおよびXは同じかまたは異なり、HまたはF;XはH、F、CHまたはCF;XおよびXは同じかまたは異なり、H、FまたはCF;Rfはアミド結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数1〜40の含フッ素炭化水素基、または、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合若しくはウレア結合を有していてもよい炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素炭化水素基であって、構造末端の1〜3箇所がY(Yは、末端に炭素数1〜50の加水分解性金属アルコキシド部位を少なくとも1個含む1価の有機基、又は、末端にエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の1価の有機基である。)で置換されている含フッ素炭化水素基;aは0〜3の整数;bおよびcは同じかまたは異なり、0または1である。)で示される構造単位を有する含フッ素ポリマー(B)、
からなることを特徴とする塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項2】
有機ケイ素化合物(A)は、下記式(1):
{Si(R(R(R(R(R (1)
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリル基、又は炭素数3〜10のグリシジル基である。Rは、同一又は異なり、−O−、−NH−、−C≡C−、又は、シラン結合である。s、t、u及びvは、同一又は異なり0又は1であり、wは0〜4の整数であり、nは1〜20である。nが1である場合、s+t+u+vは4であり、wは0である。nが2〜20である場合、s+t+u+vは、同一又は異なり0〜4であり、wは、同一又は異なり0〜4であり、wが1以上の整数である場合、少なくとも2個のSiはRを介して、直鎖、梯子型、環状、又は複環状に結合している。)で表される化合物(A1)である請求項1記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項3】
有機ケイ素化合物(A)は、テトラアルコキシシランである請求項1又は2記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項4】
有機ケイ素化合物(A)と含フッ素ポリマー(B)との合計質量に対して、有機ケイ素化合物(A)が50質量%以上である
請求項1、2又は3記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項5】
有機溶剤を含む請求項1、2、3又は4記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項6】
薄膜トランジスタのゲート絶縁膜形成用である請求項1、2、3、4又は5記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の塗布型絶縁膜形成用含フッ素組成物から形成された絶縁膜。
【請求項8】
半導体層、請求項7記載の絶縁膜、及び、ゲート電極層がこの順に積層された薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−109542(P2012−109542A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226768(P2011−226768)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】