説明

塗布型重層磁気記録媒体の下層用粉末並びにそれを用いた磁気記録媒体

針状の非磁性酸化鉄粒子からなる粉末であって、該粒子の平均長軸長:20〜200nm,BET法によって算出される比表面積:30〜100m/gであり,かつリン:0.1〜5重量%を含有し,可溶性リン化合物:P換算で100ppm以下であり,好ましくは粉体pH値:8未満,可溶性ナトリウム含有量:Na換算で100ppm以下,可溶性硫酸塩:SO換算で100ppm以下である塗布型重層磁気記録媒体の下層用粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は,重層構造の塗布型磁気記録媒体の下層に用いられる非磁性粉末に係り,また,この非磁性粉末を用いることにより電磁変換特性および最表面の表面平滑性を向上せしめた重層構造の塗布型磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
磁性粉末を樹脂の中に分散させた磁気記録層と非磁性の支持体(ベースフィルム)との間に,非磁性の粒子粉末を樹脂中に分散させた非磁性層(下層)を設けた重層構造の塗布型磁気記録媒体(家庭用ビデオテープをはじめとした磁気記録テープ)が広く用いられるようになっている。このような重層構造をとる磁気記録媒体は電磁変換特性に優れ,昨今望まれている高密度記録化の達成に著しく寄与している。また,下層に含まれる粒子の選択により,磁性層表面の表面平滑性およびテープ自体の耐久性も向上できることから,この分野の研究開発が盛んになされている。本願明細書における「下層用粉末」とは,このような重層構造の塗布型磁気記録媒体の非磁性層に用いられる粉末を指す。
現代の情報量の増加は顕著であり,それに対応したバックアップ用記録媒体が求められている。なかでも塗布型の磁気記録媒体は,単位体積あたりで見たとき巻き取られたテープでは記録可能な情報量が多く,また単位情報量あたりのコストも安価であるため,かような塗布型磁気記録媒体への期待はますます高まってきている。期待される磁気記録媒体の性質としては,単位体積あたりの記録容量の一層の増大と磁気記録媒体そのものの強度の保持,長期間の保存にも耐えうる保存安定性,信頼性の向上がある。
単位体積あたりの記録容量をさらに増大させるためには,媒体そのものの厚みを薄層化する必要があり,昨今ではメタル磁性粉の極微粒子化,分散技術の向上が図られている。これらの技術の進歩により極薄層の磁性層形成にともなって媒体そのものの厚みの薄層化が可能になり,磁気記録媒体の単位体積あたりの記録容量は近年飛躍的に向上するようになってきた。
記録容量の高密度化が進むにつれて磁気記録媒体の表面性が非常に大きな意味を持つようになってきた。表面平滑性の向上が図られると,重層記録媒体の利点の一つである電磁変換特性がさらに向上し,また寸法安定性が向上するので,表層の磁性粉パッキングの高密度化を達成できるからである。また,磁気記録層の極薄層化によって,重層型磁気記録媒体の表面性は磁気記録層のみならず,下層によっても大きく影響を受けるため,ベースフィルムの表面平滑性並びにその上に形成される非磁性粒子を含んだ非磁性下層の表面平滑性の向上が以前にも増して広く求められるようになってきた。
これまで,ベースフィルムの表面平滑性の向上には,それを構成する高分子の種類を規定したり,異種物質の混入を行ったりする方法が行われている。他方,非磁性の下層については,非磁性粒子の種類,粒子形状,粒子径,粒子の表面性状,粉末の比表面積,粉体pH,脂肪酸吸着量,かさ密度,残留磁化,真比重,残留水分,塗料の塗布化方法等から,良好な表面性状の下層を得るべく,最適な条件の検討が広くなされている。とくに,粒子の平均長軸長,平均短軸長,軸比(平均長軸長/平均短軸長)や長軸及び短軸の粒子径分布(粒子径分布が狭く,単一で粒子径が整っている方が望ましい)を適正に規定することにより,下層の表面性の改善が図られるようになってきた。
非磁性層にα−Fe(赤鉄鉱・ヘマタイト)を用いる試みは,媒体を重層化するという観点が見出されて以来,数多く検討されている。これは,α−Feが顔料として古くから親しみのあるものであったことや,またメタル磁性粉末の中間生成物として恒常的に得られていたものであるので,それほど大きな労力を要せずに工業的に粒径が均一でかつ分布の優れたものが大量に供給可能であることから,これが下層の原料物質として転用可能であることが容易に想像しえたからであり,例えば特許文献1にもこのようなヘマタイトを非磁性層に使用することが記載されている。
下層用粉末に用いる針状の酸化鉄(ヘマタイト)の製法としては湿式法または乾式法が知られているが,湿式法は高温における水熱合成を必要とするため工業的な生産性を考えた場合,不利といわざるを得ない。他方,乾式法といわれる非還元性雰囲気下で加熱してα−FeOOHからα−Feへ脱水,焼成するプロセスでは,工業的生産は容易であるが,高温での焼成プロセスを必要とするために粒子間の焼結が生じ,針状性も崩れやすくなるという問題があり,このためにテープ特性(表面平滑性や塗膜強度)も十分ではなかった。
そこで,高温に加熱しても焼結を防止できるような化合物,例えばアルミ化合物,珪素化合物,リン化合物などを粒子表面に被着させたり粒子内に含有させることが提案されている。それらはそれぞれ特徴があるものの,リンが最も焼結防止効果に優れ,かつ下層用粉末の表面を酸性にすることが出来る点でも好ましい。しかし,リン化合物を被着すると,ヘマタイト粒子中の鉄成分を溶出させ,そのテープ化時に使用する塗料中の脂肪酸と反応して脂肪酸鉄が形成されることがある。場合によっては,このリン化合物が磁性層を形成する鉄系金属粒子中の鉄成分を溶出させて,同様の脂肪酸鉄を形成することもある。テープ中に脂肪酸鉄が形成されると,経時的に塗膜に変化を生じさせ,保存安定性が悪化するようになる。さらには,リンは層内の脂肪酸エステルおよびウレタンバインダーの分解を促進し,さらに極性基含有バインダーの粒子表面への吸着を阻害することから,テープ中の粒子の分散性にも悪影響も与える。
また,重層テープ中のリンをはじめとする可溶性成分はテープの特性に対して悪影響を及ぼす可能性も指摘されており,これらを可能な限り低減する試みも広くなされている。例えば特許文献2では,強磁性金属粉末ならびに非磁性粉末に関して,それらに含まれる水溶性アニオン並びにカチオンに着目してそれらの悪影響について開示した上で,これらの低減方法として二酸化炭素を用いることを教示している。また,特許文献3には,オキシ水酸化鉄粒子の含水ケーキを酸洗することで,可溶性成分を低減させて高純度ヘマタイト粉末を得る方法が記載され,特許文献4には,炭酸ナトリウムと酸化鉄を混合した後にか焼し,弱酸液にて浸出操作を加えることによって,石英を含有する酸化鉄の精製方法が記載されている。さらに,特許文献5には,ヘマタイトが単分散状態に生成している強酸性反応母液に対してキレート剤を用いてFe3+を除くようにしたヘマタイト粒子の製造法が記載されている。
【特許文献1】特開平9−170003号公報
【特許文献2】特開平9−305958号公報
【特許文献3】特開平8−133742号公報
【特許文献4】特開平6−183749号公報
【特許文献5】特開平7−89732号公報
発明の目的
本発明者らは,前記のような可溶性成分の中で,テープ化した際に特性に悪影響を及ぼし得る成分について検討を重ねた結果,ゲーサイトの生成過程においてリンが混在した場合に極めて好ましからぬ影響があることを見いだした。しかしながら,ある程度のリンが存在することは前記の通り,焼成した際の粒子間焼結防止効果や各特性に好影響を及ぼす可能性があることも確認されており,これら相反する特性のバランスを検討することは工業的に見て非常に有用である。
そこで,本発明は,酸化鉄からなる下層用粉末にリンを含有もしくは被着させた場合でも脂肪酸鉄生成を抑制でき,且つ下層用粉末に要求される諸特性を満足した上で信頼性の高い磁気記録媒体を得ることを解決課題とする。
【発明の開示】
本発明者らは,前記の課題を解決するためにテープの特性とヘマタイトの物性等について検討を重ねたところ,最終生成物のヘマタイトから容易にリンが脱離する場合においてはテープ特性が低下するが,リンが何らかの形で強固に結びついているか,もしくは固溶している場合では,テープ特性を低下させるどころか,逆に飛躍的に向上することを見い出し,かつそれが好適に起こるのは,限られた条件においてのみであることを見いだし,本願発明を完成させた。
すなわち本発明によれば,針状もしくはそれに近い形状を有する非磁性酸化鉄粒子からなる粉末であって,
該粒子の平均長軸長:20〜200nm,
BET法によって算出される比表面積:30〜100m/g,
であり,かつ
リン:0.1〜5重量%を含み,
可溶性リン化合物:P換算で100ppm以下
であること,好ましくは
粉体pH値:8未満,
可溶性ナトリウム含有量:Na換算で100ppm以下,
可溶性硫酸塩:SO換算で100ppm以下,
であることを特徴とする塗布型重層磁気記録媒体の下層用粉末を提供するものであり,このような条件を満たした針状もしくはそれに近い形状の酸化鉄粒子からなる粉末であるときに,これを下層用粉末として使用すると,テープ特性,なかでもテープの保存安定性および耐久性を向上させうる。
この下層用粉末は,アルミおよび/または珪素を0.01〜50重量%含有させると,さらにテープ特性を向上させることができ,また,R(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を表す)をR//Feの原子比百分率(at%)で0.1〜10at.%含有させても良い。希土類元素Rを含むような粉末を下層に用いることによって,さらに平滑性の取れた下層用粉末を得ることができる。また,本発明における下層用粉末の粒子形状としては,針状もしくはそれに近い粒子形状を有するもの,例えば平針状,紡錘状,棒状,米粒状,楕円体状,粒状といった形状のものであってもよい。
発明の好ましい形態
本発明は,重層構造の塗布型磁気記録媒体の非磁性層を形成させる下層用粉末として,粒子の平均長軸長が20〜200nm,BET法による粉末の比表面積が30〜100m/gで,粒子粉末中のリン含有量が0.1〜5重量%であって,かつ可溶性リン酸塩がP換算で100ppm以下,可溶性ナトリウム塩含有量がNa換算で100ppm以下,可溶性硫酸塩がSO換算で100ppm以下であり,粉体pH値が8未満の針状の非磁性酸化鉄粒子からなる粉末を用いる点に特徴がある。この下層用酸化鉄粉末は,リン化合物で表面処理されたオキシ水酸化鉄を,EDTAなどの錯化剤溶液にて洗浄,水洗を施し,乾燥後,高温焼成することで得ることができる。場合によっては,リン化合物で表面処理されたオキシ水酸化鉄を焼成して得た酸化鉄をEDTAなどの錯化剤溶液を用いて洗浄を行っても良いし,焼成の前と後にこの洗浄を重ねても差し障りない。
針状の非磁性酸化鉄(ヘマタイト)は,湿式反応で生成させた針状のオキシ水酸化鉄を高温で焼成することによって得ることができるが,前記のように,高温で焼成処理を行うと粒子間の焼結や粒子自体の針状性の低下が生じる。本発明者らは,こうした粒子間焼結の問題をリン化合物のオキシ水酸化鉄への被着により解決できないかという観点にたって鋭意検討を行った結果,その被着によれば,高温で焼成を施しても粒子の形状を保ち,針状性に優れたα−Feを得ることができたが,そのα−Feを常法に従って重層テープ化した場合にはリンをはじめとした水溶性成分の顕著な増加が生起し,保存安定性等の面で使用に耐えられるものではなかった。
その原因について多角的に検討した結果,ヘマタイトに残存するリンの水溶性成分が最も悪影響を及ぼしていることがわかった。すなわち,α−Feの表面に付着し塗料中にて溶出するリンについて,後述の方法で洗浄を行った上でテープ化したところ,下層を形成する樹脂への分散性が向上し,テープの表面平滑性が良好なものとなり,しかも,表面に適当量のリン化合物が存在することで酸化鉄粒子の表面特性がさらに良好なものとなり,樹脂との接着性も向上し塗膜の強度が増すことがわかった。
リンを被着する時期としては,焼成前のオキシ水酸化鉄の段階でリンの付与を行えば,リンによる粒子間焼結防止効果も得られる点で有効であり,焼成後のヘマタイトに対し,同様のリン付着処理を施せば,テープ化した際に磁性層表面の平滑性並びに電磁変換特性の向上が得られるので,どちらの段階でリンを付与しても,それぞれ特徴ある結果が得られる。その際,リンの付与の形態としては,リン化合物の溶液,例えばホスホン酸ナトリウムやホスフィン酸ナトリウムといったリン酸塩の水溶液や,薄めたオルトリン酸溶液などを用いることができ,その形態については特に制限は受けない。
先に述べたように,オキシ水酸化鉄の段階でリンを表面に被着すると,焼成段階での粒子間焼結を抑制できるし,重層記録媒体の作成段階での磁性層表面の平滑性,電磁変換特性ならびに寸法安定性を向上させ得る針状ヘマタイト粒子を得ることが可能である。しかし,下層用の針状酸化鉄粉末にリン化合物が含有されることで,酸化鉄粉末から溶出する可溶性リン酸塩が増加する。この可溶性リン酸塩の増加に伴って下層として使用している酸化鉄,さらには強磁性金属合金粒子から鉄の溶出も生起させる。溶出した鉄は塗膜中における脂肪酸と化学反応が生じて塗膜中に脂肪酸鉄が蓄積し,これがテープの信頼性および保存安定性を低下させる原因となる。そこで本発明では,可溶性のリンを除去するためリン処理を施したオキシ水酸化鉄もしくは酸化鉄の粉末を洗浄し,粒子表面に物理的に吸着しているだけのリンおよび化学的な結合力に乏しい状態にあるリンを低減させるべく検討を行った。
洗浄は,可溶性の錯化剤を添加した洗浄水を用いて行なうのがよい。洗浄の初期は通常の純水を使用することができるが,この際の洗浄水に酸性の鉱酸もしくは,場合により希薄のアンモニア水などを添加して使用することを妨げない。洗浄液の温度としては常温でもよいが,各々の錯体を形成するのに最適な温度もしくは,添加した錯化剤が好適に溶解する温度とするのが好ましく,実際には錯体の形成定数との兼ね合いから温度並びにpHを適正に調整するのが好ましい。洗浄は洗浄と粉砕(ケーキの解砕)を同時に行う湿式粉砕による方法でもよいし,洗浄を施した後粉砕(解砕)を行う方法でも問題はない。粉砕を伴わない洗浄装置としてはフィルター・プレスなどを用いることができ,粉砕(解砕)を伴った洗浄を行うには超音波洗浄機,ボールミル,チューブミル,振動ボールミル,ロッドミル,サンドグラインダー,サンドミル,ダイノーミル,コロイドミル,スーパーミルなどが使用できる。これらの装置は前述の洗浄液条件と組み合わせて使用することも可能である。
また,下層用粉末に可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩が存在するとテープ中の磁性金属粉末を腐食させるので,テープの信頼性,保存安定性に好ましくない影響を与える。しかし,本発明に従って可溶性のリンを低減するための洗浄を行なうと,これに伴って可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩も同時に低減されるため,テープ自体の信頼性,保存安定性が一層向上することがわかった。
本発明に従う下層用粉末は,平均長軸長(TEM写真の視野内において無作為に選んだ100個の粒子について測定した長軸長の平均値)が20〜200nm,好ましくは50〜160nm,さらに好ましくは50〜120nmである。非磁性層の表面平滑性を高めるには,非磁性粒子がビヒクル中で均一に分散すること,すなわち分散性の優れた粒子を選定することが必要である。平均長軸長が20nmよりも小さいものではビヒクル中の分散が悪化するようになり,他方200nmよりも大きな粒子では,磁性層表面の表面平滑性が悪化してしまうので好ましくない。
針状の度合いを示す軸比(アスペクト比)については2〜10のものがよく,好ましくは3〜8,さらに好ましくは4〜8である。軸比が2よりも小さい場合では,樹脂中にヘマタイト粒子を分散させて塗膜化した際の塗膜強度が弱いものしか得られない。他方軸比が10よりも大きいと,樹脂中の分散が不良となって,表面平滑性に劣った非磁性層となる。本発明で規定する範囲の軸比をもつ針状酸化鉄粒子を非磁性層に使用すれば表面平滑性と塗膜強度がともに得られる理由としては,塗布時にベースフィルムの面内方向に粒子が規則的に配列することで非磁性層表面の平滑性が確保され,さらに粒子同士がからまり合った状態となることでテープの被膜強度が得られるためと考えられる。
本発明の下層用粉末の比表面積は,BET法による算出値で30〜100m/g,好ましくは35〜90m/g,より好ましくは35〜80m/gである。比表面積が100m/gよりも高いと,微粒子が多く存在していることを意味し,このことは塗料中での分散不良につながるために好ましいことではない。また30m/gより低い比表面積では,粒子のサイズが大きく,また粒子が凝集や焼結を生じていることを意味する。粒子中に凝集や焼結をした粒子が存在する場合には表面平滑性が確保できなくなる。したがって,非磁性層表面の平滑性を確保し,テープ化した際に走行耐久性や安定性に優れた磁気記録媒体とするためには,本発明に従う下層用粉末のBET法による比表面積は30〜100m/gの範囲にあることが必要である。
本発明の下層用粉末の粉体pHは3〜8,好ましくは4〜8,より好ましくは4〜7の範囲にあることが望ましい。粉体pHが3より低いと,上層の金属磁性合金粉末との反応により局部電池を形成し金属磁性粉の腐食が進行するので,テープの保存安定性,データの信頼性に著しい悪影響を及ぼすことが懸念される。そのため,粉体pHは3以上,好ましくは4以上であるのがよい。また,重層構造の磁気記録媒体において,非磁性の下層は,テープ表面とヘッド間の干渉を少なくしてテープの経時変化を抑制しテープの耐久性を向上させるために,潤滑剤といわれる脂肪酸類を添加するのが通常である。この脂肪酸は多くの場合酸性を示すため,粒子の粉体pHが高ければ,塗料を仲立ちにして脂肪酸と粉体中のCaイオンやNaイオンとの反応が進行し,潤滑剤の持つ潤滑作用が発揮できなくなるため好ましくない。また,粉体pHが高ければ塗布用非磁性塗料を作成する際,塗料に十分な剪断応力がかからなくなり,凝集をとりきれなくなるため,表面性が悪化する。そのため本発明の下層用粉末の粉体pHは8以下,好ましくは7以下であることが望ましい。
本発明の下層用粉末は,Al(アルミニウム)を0.01〜50重量%含有することができる。Alの添加方法は特に制限されないが,反応中に添加して粒子の中にアルミを含ませる方法,反応終了後にAlを液に添加して,含水酸化第二鉄の表面にAlを被着させる方法でもよく,その両方の方法を同時に行っても差し障りない。Alの含有によりバインダーとのなじみが良好となって,樹脂への分散性が向上し,結果として非磁性層がより平滑なものになる。またAlを含むと,加熱による粒子間焼結を抑制する効果が得られるため,テープ化時に良好な表面性,すなわち表面平滑性が向上したものが得られる。
Alが0.01重量%未満ではその添加効果が得られず,高温プロセスにおいて粒子間焼結が進み,上述のような効果を享受できない。他方,50重量%を超えるAlの含有では,粉末の樹脂との相溶性が低下して分散が困難となるため,樹脂中で凝集が発生し,テープの表面性が低下する。したがって,Alの含有量は0.01〜50重量%,好ましくは0.02〜30重量%,さらに好ましくは0.05〜30重量%とする。
本発明の下層用粉末は,Siを0.01〜50重量%含有することができる。Siを含有すると,加熱焼成時に形状保持効果を得ることができる(例えば特開平6−302413号公報参照)。粒子間焼結が少なくなることでテープ化時に良好な表面平滑性を得ることができるが,Siが0.01重量%未満ではその添加効果がみられず,高温プロセスにおいて粒子間焼結が進み,良好な表面性が得られない。他方,50重量%を超えるSiを含有すると,粉末の樹脂との相溶性が低下して,分散が困難となる。したがって,Si含有量は0.01〜50重量%,好ましくは0.01〜30重量%,さらに好ましくは0.01〜10重量%とする。なお,AlとSiの相乗効果を目的として,AlとSiを同時に含有した組成であっても問題はない。
このようにAl,Siを含有する場合,焼結防止の観点から,それらの元素は中心部にあるよりはむしろ外側に存在する方がより好ましい。すなわち,表層部におけるそれらの元素の原子と鉄の存在比(A)と全体におけるそれらの元素と鉄の原子存在比(B)を対比したときの(A)/(B)が1以上であるのがよい。これらの分析手法としては,表層元素のみを溶解して全体の元素存在比と比較する方法や,表層をESCA(光電子分光法)による分析があるが,後記の実施例では前者の酸での溶解による元素の存在比による解析方法を使用している。
また,本発明の下層用粉末は,R(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)をR/Feの原子比百分率(at%)で0.1〜10at.%含有することができ,これにより高密度化に適し,表面平滑性に優れかつ耐久性の良い磁気記録媒体を得ることができる。
下層用粉末としての本発明に従う針状の非磁性酸化鉄粉末は,前記に加えて,さらに次の特性を有するものが好ましい。
〔ステアリン酸吸着量〕
ステアリン酸吸着量が少なければ少ないほど,下層用粉末が塗料中に分散された際に,潤滑剤たる脂肪酸の吸着量が少なくなることを示す。よって,ステアリン酸吸着量が少ないほど望ましい。具体的には,ステアリン酸吸着量は0.1〜3.0g/m,好ましくは0.1〜2.0g/m,より好ましくは0.1〜1.5g/mであるのがよい。
〔樹脂吸着量〕
樹脂吸着量(UR)が多いほど樹脂との接着性が良くなり,塗膜強度も向上する。具体的には,樹脂吸着量(UR)は0.1〜4.0mg/m,好ましくは0.5〜3.0mg/m,さらに好ましくは1.0〜3.0mg/mであるのがよい。樹脂吸着量(MR)についても,URと同様の理由から塗膜強度の向上のために多いことが望ましい。具体的には,樹脂吸着量(MR)は0.1〜4.0mg/m,好ましくは1.0〜4.0mg/m,さらに好ましくは2.0〜4.0mg/mであるのがよい。
〔テープの表面平滑性〕
重層構造の塗布型記録媒体では,ベースフィルム上に磁性層と非磁性層を一度に塗布した後,カレンダー処理を行って表面を平滑化する処理を行うことが行われるが,カレンダー処理後の平滑性は,表面粗度で表して200オングストローム以下,好ましくは150オングストローム以下であるのがよい。またカレンダー処理前後の厚さの変化率は50%以上であることが望まれる。カレンダー前後の厚みの変化率は大きければ大きいほど,下層の成型性が良く,テープ表面の平滑性の向上につながるので,下層のカレンダー変化率は大きければ大きいほどよい。
テープの走行耐久性を定量的に表す指標として使用されている鋼球摺動回数は600パス以上,より好ましくは900パス以上,より好ましくは1500パス以上の値を示すものが望ましい。走行耐久性は塗膜の強度に加えて塗膜中の潤滑剤の影響も受けるので,潤滑剤の機能劣化は望ましくない。また,鋼球摺動時の傷幅は,走行耐久性の高いものであれば傷幅は小さいものとなるので,できるだけ狭いものが望ましい。通常のテープ化したときに満たしておくべきの傷幅としては190μm以下,好ましくは170μm以下,さらに好ましくは150μm以下である。
重層構造の磁気記録媒体において,本発明に従う下層用粉末を使用して下層を形成させる場合,その上に形成させる上層用の磁性粉末,塗料組成物としては次のものがあげられる。
磁性層を構成する磁性粉末としては(表示のat.%はFeに対する相対比である),
Co:5〜50at.%,
Al:0.1〜50at.%,
希土類元素(Yを含む)の1種または2種以上:0.1〜30at.%,
周期律表第1a族元素(Li,Na,K等):0.05重量%以下,
周期律表第2a族元素(Mg,Ca,Sr,Ba等):0.1重量%以下,
を含有した鉄を主体とする強磁性粉末であって,
平均長軸長:10〜200nm,
比表面積がBET法で30〜150m/g,
X線結晶粒径(Dx):50〜200オングストローム,
の形状を有する針状の強磁性粉末であり,且つ
保磁力(Hc):1000〜3000Oe,
飽和磁化量(σs):10〜200emu/g
の磁気特性を有する磁性粉末を挙げることができる。
磁性層(上層)を形成するための磁性塗料としては,
金属磁性粉末 100重量部
カーボンブラック 5重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200)15重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
からなる組成の磁性塗料を挙げることができる。
重層構造の磁気記録媒体を形成するためのベースフイルムとしては,ポリエチレンフタレート,ポリエチレン−2−6−ナフタレート等のポリエステル類,ポリプロピレンなどのポリオレフィン類,セルローストリアセテート,セルロースダイアセテートなどのセルロース誘導体,ポリアミド,ポリカーボネイト,ポリイミドなどを始めとしたプラスチック類があげられる。
非磁性層(下層)を形成するための非磁性塗料としては,
非磁性針状粉末(α−Fe)85重量部
カーボンブラック 20重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200)15重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
からなる組成の非磁性塗料を挙げることができる。
上層,下層のいずれの塗料においても,各材料を該組成となるような割合で配合し,ニーダーおよびサンドグラインダーを用いて混練・分散を行うことによって磁性もしくは非磁性の塗料を作成できる。これらの塗料の支持体への塗布は,よく知られているように,下層の湿潤なうちに可及的速やかに上層磁性を塗布する,いわゆるウエット・オン・ウエット方式で行うことが好ましいが,逐次塗布方法でもかまわない。ウエット・オン・ウエット重層塗布の方法については,公知のあらゆる方法が適用できる。例えば,塗料をベースフイルム上にそれぞれ目標厚みとなるように塗布したあとは,磁性層が湿潤状態にあるうちに,磁場をかけて磁性層を配向させ,ついで乾燥,カレンダーを行うことによって磁気テープを作製する方法を挙げることができる。このようにして,先に例示した強磁性粉末,塗料組成物,ベースフィルムを使用し,且つ本発明に従う下層用粉末を使用した非磁性層を形成することによって,従来のものにはない,高密度記録に適した高性能の磁気記録媒体を製造できる。
【実施例】
以下に本発明の代表的な実施例を挙げるが,その前に,各実施例における特性値の測定法について脱明する。
・平均長軸長,平均短軸長および軸比:いずれも174000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)写真から不作為に抽出した100個の粒子について測定した値の平均を採った。
・比表面積:BET法を用いて算出した。
・粉体pH:JIS K5101(の煮沸法)に準拠した方法で測定した。
・水溶性成分:50mLの遠沈管に超純水50mLを分取し,その中に測定試料3gを加える。それを10分間振とうしたのち,20分間遠心分離を行い,上澄みを分離し,この上澄みから分取してNaのみは原子吸光分析,その他についてはICP発光分析法により測定を行った。なお,Naについては高濃度のため,上澄み10mLを超純水にて5倍に希釈したものを用いた。
・ステアリン酸吸着量:試料粉末をステアリン酸2%溶液(溶媒はMEK)に分散させた後,遠心分離機により試料粉末を分離させ,上澄み液における樹脂濃度を求めることにより比表面積当たりの吸着量として算出した。
・樹脂吸着量(MR):塩化ビニル系樹脂(MR−110)の1%の溶液(溶媒はMEK+トルエン)を使用し,ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
・樹脂吸着量(UR):ポリウレタン樹脂(UR−8200)の2%溶液(溶媒はMEK,トルエンおよびMIBK)を使用し,ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
・粉体粒子表面のSiおよびAl濃度状態の確認
作成されたヘマタイトを5g分取し,これを0.1Nの塩酸(100mL)中にて70℃で5分間撹拌して表層を溶解させる。そのあとろ過分離し,得られたろ液中に含まれるFeとSi,Alをそれぞれ定量分析する。その分析値から,Siについては,FeとSiの比(Si/Fe)を表層のものとし,全体の組成分析によって得られているSi/Feの比を全体のものとして,表層/全体の比で表した。Alについても同様である。定量分析は原子%を使用して表現した。
塗膜粘度およびテープの評価については,得られた酸化鉄粉末を下記の塗料化条件で塗料化し,下記の条件で下層テープを作製したものについて評価した。
・塗料化条件
酸化鉄粉末 100重量部
塩ビ系樹脂(MR−110) 10重量部
ポリウレタン樹脂 10重量部
メチルエチルケトン 165重量部
シクロヘキサノン 65重量部
トルエン 165重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
の成分組成となるように各材料を配合し,これを遠心ボールミルで1時間分散させて得た塗料を,ポリエチレンフタレートからなるベースフィルム上にアプリケーターを用いて,目標厚みが約3μmとなるように塗布して非磁性の下層(下層テープ)を形成した。
・塗料粘度:株式会社東機産業製の粘度計(R110型)を用いて分散塗料の粘度を測定した。
・表面平滑性(表面粗度):株式会社小坂研究所製の3次元微細形状測定機(ET−30HK)を用いて,下層テープの表面のRa(粗度)を測定することにより評価した。
・表面平滑性(光沢度):下層テープをグロスメータで角度60度で光沢度を測定した。
・塗膜強度(鋼球摺動):下層テープの塗布面が上になるようにガラス板に貼りつけ,水平な場所にガラス板を置き,テープの塗布面に直径5mmのステンレス鋼球をのせ,鉛直方向に5gの荷重がかかるようにする。この状態からガラス板を水平に定速2320mm/minで,片道20mmで300回の往復運動をさせる。この操作の後に,SUS鋼球によりテープ表面に残された傷を光学顕微鏡で観察し,傷幅を測定した。また,テープが剥離するまでのパス回数を測定し,これを摺動回数とした。
・走行耐久性(鋼球摺動):上記の鋼球摺動において,塗膜が剥がれ落ちるまでの摺動回数を測定する。
[実施例1]
長軸長が132nmでBET法による比表面積が127m/gのオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)710gを純水40リットルに分散させ,液の温度を35℃に保ちながら激しく攪拌し,その状態を30分間保持する。次いで攪拌状態のまま,リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液を533.1g添加し,温度を35℃に保ったまま攪拌を30分間継続させ,リンをオキシ水酸化鉄に被着させた。こうして得たスラリーをろ過によって母液とケーキに分離し,ケーキをリパルプした後,純水にエチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)を1wt%溶解させた液に再分散させて温度が70℃になるまで昇温させ,超音波を照射しながら24時間維持した。次いで,常法でろ過後,70℃の純水中に投入して1時間洗浄を施した。その後,再度ろ過し,220℃で大気雰囲気中にて乾燥し解砕してリン被着オキシ水酸化鉄を得た。
続いて,得られたリン被着オキシ水酸化鉄50gを不活性ガスの存在下で分取し600℃にて30分間焼成し,赤褐色のα−Fe(ヘマタイト)を得た。このヘマタイトを純水にて洗浄し,洗浄液のpHが安定するまで洗浄を繰り返した。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例2]
EDTA溶液中で再分散させる洗浄を行わなかった以外は,実施例1を繰り返してリンが被着したα−Fe(ヘマタイト)を得た。得られたリン被着ヘマタイトを,エチレンジアミン四酢酸塩を1wt%溶解した純水中に再分散させて温度が70℃になるまで昇温させ,超音波をかけながら24時間維持した。次いで,常法によりろ過後,再度70℃の純水中に投入して1時間洗浄を施した。その後,再度ろ過を経て220℃にて大気中にて乾燥,解砕を行って,リン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例3]
実施例1で得られたヘマタイトに対し,以下の洗浄処理を施した。すなわち,実施例1で得られたヘマタイトを,エチレンジアミン四酢酸塩を1wt%溶解した純水中に再分散させ,温度が70℃になるまで昇温させた後,超音波をかけながら24時間維持した。次いで,常法によりろ過後,再度70℃の純水中に投入して1時間洗浄を施した。その後,再度ろ過を経て220℃にて大気中にて乾燥,解砕を行って,リン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例4]
長軸長が132nmでBET法による比表面積が130m/gのオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)710gを純水40リットルに分散させ,20wt%のNH水を2000g添加して液をアルカリ側としたのち,液の温度を35℃に保ちながら激しく攪拌し,その状態を30分間保持する。次いで攪拌状態のまま,Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液をY/Feの原子百分率が1.0at.%になるように添加した。その状態のまま,35℃にて30分維持した。その後,リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液を533.1g添加し,温度を35℃に保ったまま攪拌を30分間継続させた。次いでこのスラリーをろ過によって母液とケーキを分離し,ケーキをリパルプした後,エチレンジアミン四酢酸塩を1wt%溶解させた純水中に再分散させ,温度が70℃になるまで昇温させた後,超音波をかけながら24時間維持した。次いで,ろ過後,70℃の純水中に投入して1時間洗浄し,さらに再度ろ過を経て220℃にて大気中にて乾燥,解砕を行って,リンおよびYを被着したオキシ水酸化鉄を得た。
得られたオキシ水酸化鉄を実施例1と同じ条件で焼成してヘマタイトを得たのち,このヘマタイトを実施例3と同じ条件で洗浄した。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例5]
焼成後のヘマタイトの洗浄において,エチレンジアミン四酢酸塩の1wt%溶液を20wt%のアンモニア水に代えた以外は,実施例3を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例6]
オキシ水酸化鉄の洗浄において,エチレンジアミン四酢酸塩の1wt%溶液を20wt%のアンモニア水に代えた以外は,実施例4を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例7]
原料のオキシ水酸化鉄として,アルミニウムを2.0wt%含有し且つ平均長軸径145nmでBET法による比表面積が134m/gのα−オキシ水酸化鉄を用いた以外は実施例3を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例8]
原料のオキシ水酸化鉄として,珪素をSiO換算で0.5wt%含有し且つ平均長軸径132nmでBET法による比表面積が138m/gのα−オキシ水酸化鉄を用いた以外は実施例3を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例9]
原料のオキシ水酸化鉄として,珪素をSiO換算で0.5wt%とアルミニウムを2.0wt%含有し且つ平均長軸径129nmでBET法による比表面積が143m/gのα−オキシ水酸化鉄を用いた以外は実施例3を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
〔比較例1〕
実施例1と同じ条件でリン被着オキシ水酸化鉄を製造したあと,このリン被着オキシ水酸化鉄に対してエチレンジアミン四酢酸塩による洗浄を行わずに,30℃の純水中に投入して2時間洗浄した以外は,実施例1を繰り返してリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
〔比較例2〕
比較例1と同じ条件でリン被着ヘマタイトを得た。得られたヘマタイトを純水中に再分散し攪拌した上で温度を70℃まで昇温させ,5時間の洗浄を行った。このヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
〔比較例3〕
リンの被着を行わなかった以外は比較例2を繰り返して,ヘマタイトを得た。このヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例10]
リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液に代えて,リン換算で1.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液を使用した以外は,実施例1を繰り返した。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例11]
リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液に代えて,リン換算で4.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液を使用した以外は,実施例1を繰り返した。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例12]
リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液に代えて,リン換算で6.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液を使用した以外は,実施例1を繰り返した。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
〔比較例4〕
リン換算で2.0wt%に調製したオルトリン酸水溶液に代えて,リン換算で10wt%に調製したオルトリン酸水溶液を使用した以外は,実施例1を繰りした。得られたヘマタイトの粉体特性を表1に示した。また,この粉体を用いてテープを作成を試みたが,分散不良でテープ化ができなかった。また,リンを被着したオキシ水酸化鉄の粒子のろ過操作時において,ろ過性が悪かった。
[実施例13]
実施例1で用いたのと同じオキシ水酸化鉄を分散させたスラリー(粒子濃度:20g/L)に対し,酸化アルミニウム3.02gを希硫酸100mLに溶解した溶液(Alとして2.00wt%に相当)を添加し,50℃まで上昇した後に20分間その温度に維持し,ついで,アンモニア水を添加してpHを8.5程度に調整してから,ろ過,水洗,乾燥を経て,アルミ被覆のオキシ水酸化鉄を得た。
このアルミ被覆のオキシ水酸化鉄を出発材料として実施例1と同様にリンの被着処理を行って,Alおよびリンが被着したヘマタイトを得た。
得られたヘマタイトを,エチレンジアミン四酢酸塩を1wt%溶解した純水中に再分散させて温度が70℃になるまで昇温させ,超音波をかけながら24時間維持した。次いで,常法によりろ過後,再度70℃の純水中に投入して1時間洗浄を施した。その後,再度ろ過を経て220℃にて大気中にて乾燥,解砕を行って,Al・リン含有のヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。
[実施例14]
実施例1で用いたのと同じオキシ水酸化鉄を分散させたスラリー(粒子濃度:20g/L)に対し,SiOとして36.5wt%含有する一級珪酸ナトリウム水溶液23.45g(Siとして0.50wt%に相当)を添加し,60℃まで上昇した後に1%の酢酸を添加して液性を弱酸性に調整したあと,その温度(60℃)に20分間維持してから,ろ過,水洗,乾燥(130℃)を経て,ケイ素被覆のオキシ水酸化鉄を得た。
このケイ素被覆のオキシ水酸化鉄を出発材料として実施例1と同様にリンの被着処理を行って,Siおよびリンが被着したヘマタイトを得た。
得られたヘマタイトを,エチレンジアミン四酢酸塩を1wt%溶解した純水中に再分散させて温度が70℃になるまで昇温させ,超音波をかけながら24時間維持した。次いで,常法によりろ過後,再度70℃の純水中に投入して1時間洗浄を施した。その後,再度ろ過を経て220℃にて大気中にて乾燥,解砕を行って,Si・リン含有のヘマタイトを得た。得られたヘマタイトの粉体特性並びにこれを用いて作成したテープ評価結果を表1および2に示した。


表1および2の結果から次のことがわかる。
(1)比較例2と3の対比により,ヘマタイト中にリンが存在すると,テープの耐久性が向上し,ヘッド汚れも低減できることがわかる。しかし,リンが存在する比較例2は存在しない比較例3に比べて表面粗度ならびに保存安定性が悪化する傾向にある。したがって,いずれも磁気記録媒体の下層用粉体原料としてはいずれも不十分である。
(2)焼成前にEDTA洗浄した実施例1のヘマタイトは,EDTA洗浄しなかった比較例2のヘマタイトに比べて,溶出Pが1/3程度にまで減少し,それに伴って下層の表面粗さが低下し,テープ走行時におけるヘッドの汚れも低減してテープ特性が改善していることがわかる。
(3)焼成前と後の両方でEDTA洗浄した実施例3のヘマタイトは,焼成前だけまたは焼成後だけEDTA洗浄した実施例1および2のヘマタイトに比べて,一層溶出P量を低減出来ることがわかる。そして溶出P量が少ないほど,テープ特性が向上して優れた表面性ならびに走行時におけるヘッド汚れの低減が達成できることがわかる。
(4)アンモニア水で洗浄した実施例5では,EDTA洗浄した実施例3のものよりも溶出成分がさらに低減している。したがって,洗浄に用いる液としては不純物の混入を低減できるアンモニア水の使用がより効果的であり,これによって溶出成分を飛躍的に低減でき,磁気記録媒体の下層用粉体原料として好適なヘマタイトを得ることができる。
(5)実施例1および実施例10〜12と,比較例3〜4との比較により,リンの含有(被着量)の作用効果が明らかである。すなわち,リンを含有することが好ましいが,過剰にリンを添加をしてしまった場合には,ろ過性が悪くなってヘマタイトの作成すら困難になると共に,過剰のリンが存在すると,塗料への分散性が悪くなってテープ化で不可能となる。一般にリン添加量が増加すると粉体pHが酸性側となり,本文中に述べた理由により媒体にとって好ましいこともあるが,あまりに進みすぎると,上層の金属磁性粒子との間で経時的化学反応がおこり,保存状態が悪くなる。
(6)実施例7と13または実施例8と14との比較により,表面にAlまたはSiが存在するか否かで粉体特性並びに媒体特性に影響を与えることがわかる。すなわち,表面部分にAlまたはSiが存在する割合が多ければ,溶出する元素量を低減できることがわかる。その詳しい機構は明らかではないが,AlやSiが粒子を包み込むように存在することにより,粒子内部からの溶出成分の低減を図ることが出来るのではないかと考えられる。
以上説明したように,本発明によると,重層構造の塗布型磁気記録媒体における下層用粉末に要求される諸特性,とくに,テープの表面平滑性,テープ強度およびテープの保存安定性を向上させることができる酸化鉄粉末が得られる。したがって,本発明の酸化鉄粉末を重層構造の塗布型磁気記録媒体の下層用粉末として用いることにより,高記録密度に適した耐久性のある記録媒体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状もしくはそれに近い非磁性酸化鉄粒子からなる粉末であって,
該粒子の平均長軸長:20〜200nm,
BET法によって算出される比表面積:30〜100m/g
であり,かつ
リン:0.1〜5重量%を含み,
可溶性リン化合物:P換算で100ppm以下
であることを特徴とする塗布型重層磁気記録媒体の下層用粉末。
【請求項2】
粉体pH:8未満
可溶性ナトリウム含有量:Na換算で100ppm以下,
可溶性硫酸塩:SO換算で100ppm以下
である請求の範囲1に記載の下層用粉末。
【請求項3】
R(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を表す)をR/Feの原子比百分率(at.%)で0.1〜10at.%含有する請求の範囲1または2に記載の下層用粉末。
【請求項4】
Alを0.1〜50重量%含有する請求の範囲1ないし3のいずれかに記載の下層用粉末。
【請求項5】
Siを0.1〜50重量%含有する請求の範囲1ないし4のいずれかに記載の下層用粉末。
【請求項6】
粒子の表面にAlおよび/またはSiが濃縮している請求の範囲4または5に記載の下層用粉末。
【請求項7】
磁性粉末を樹脂中に分散させた磁性層とベースフイルムとの間に,非磁性粉末を樹脂中に分散させた非磁性層(下層)を設ける重層構造の塗布型磁気記録媒体において,前記の非磁性粉末として請求項1ないし6のいずれかに記載の下層用粉末を用いたことを特徴とする塗布型磁気記録媒体。

【国際公開番号】WO2005/004116
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511410(P2005−511410)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009693
【国際出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】