説明

塗布方法及び塗布液

【課題】 ウェブへの塗布液の塗布性の向上を図る。
【解決手段】 塗布液調製工程16を行い塗布液17を得る。塗布液17中のアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)とカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比(A/C)を3.6以上とする。アニオン性界面活性剤のモル濃度Aを1.5mol/m3以上とする。塗布液17をウェブ21上に塗布する際の動的表面張力が40mN/m以下となり、ハジキ耐性が付与されるとともに柔軟仕上げ効果などが発現するフィルム製品25を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の支持体(以下、ウェブと称する)に各種液状組成物を塗布する際の塗布方法及び塗布液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウェブに各種液状組成物(以下、塗布液と称する)を塗布することにより、写真用フィルム、写真用印画紙、印刷用感光材料、医療用感光材料、熱現像感光材料、マイクロフィルム、磁気記録テープ、接着テープ、感圧記録紙、感熱記録紙、オフセット版、液晶画面材料、フラットパネル材料、インクジェットプリンタ受像材料、シール材料などが製造される。
【0003】
ウェブ上に塗布液を塗布する際、塗布面質の均質性が品質に占める割合は極めて大きく、こと写真感材や薄層皮膜の塗布において、もっとも重要な品質の1つである。均質な塗膜を形成する上で、膜がクレーター状にはじいてしまうこと(以下、ハジキと称する)が致命的な問題であり、まず、ハジキが発生しない塗布条件を選択することを優先しなければならない。このハジキは不純物やミクロな混合不良などがきっかけとなり発生し、塗布液の表面張力が高いほど、塗布液の表面積を最小化させるようにする力が強く働くためにハジキ易くなる。このため、ハジキ抑制のためには、一般に、塗布液の表面張力を下げたり、汚染物質を排除した環境で塗布する方法が行われる(例えば、非特許文献1参照。)。また、塗布液の表面張力を低下させるためには、塗布液の気体に接する表面に界面活性剤を添加することが有用であり、特に溶解性に優れ、新しい表面が形成された直後の動的表面張力を低下させる能力の高いエアロゾルOT(商品名)、TritonX(商品名)やフッ素系のアニオン性の界面活性剤などが広く用いられる。
【0004】
また、塗布液にアニオン性、カチオン性、ベタイン性、ノニオン性の各界面活性剤を含有する方法が知られている。また、この場合に、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤とを同量含有させることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、カチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との含有量をモル比で1:10〜10:1、好ましくは3:7〜7:3とする方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、アニオン性界面活性剤の全使用量が0.0001g/m2〜1.0g/m2、好ましくは0.0005g/m2〜0.3g/m2、更に好ましくは0.001g/m2〜0.15g/m2であることが知られており、この場合にもカチオン性界面活性剤(特にフッ素系界面活性剤)を混合させることもできることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
さらに、特許文献4及び特許文献5にもカチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併せて塗布液に混合させる方法が記載されている。さらに、ポリエステルフィルムに塗布する際には、酸化アルミニウムを処理するため、固形分量比で0.01倍量〜0.05倍量のカチオン性界面活性剤と0.01倍量〜0.05倍量のアニオン性界面活性剤とを含有させる方法が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【非特許文献1】化学工学 第67巻 (2003) p48
【特許文献1】特開平10−319535号公報
【特許文献2】特開平5−265126号公報
【特許文献3】特開平8−069082号公報
【特許文献4】特開平5−197068号公報
【特許文献5】特開平6−114329号公報
【特許文献6】特開平6−145390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アニオン性界面活性剤でハジキ耐性を付与した塗布液でも、「新版界面活性剤ハンドブック」(吉田時行他著、工学図書、1987年発行)p24に示されているようにカチオン性界面活性剤の柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果などを利用するためにカチオン性界面活性剤と共存させようとしても、同書p24に示されるように、溶液中でアニオン性界面活性剤と不溶性沈殿物を生ずるので、一般には共用できない、もしくは実験条件により共用できる場合もあるがその実験条件を見出す個とは非常に難しい問題となっている。したがって、カチオン性界面活性剤の柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果を利用してハジキを抑制して塗布膜を形成することは、非常に困難な問題である。
【0007】
特許文献1に記載されている方法は、塗布液にアニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤のいずれかを用いる方法である。そのため、アニオン性界面活性剤でハジキ特性をフィルムに付与するか、カチオン性界面活性剤で柔軟仕上げ効果などをフィルムに付与するかのいずれかを選択する必要がある。また、特許文献2に記載されている方法は、カチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との添加比を規定しているがその臨界的意義が明確でなく、その効果については特に言及されていない。さらに、特許文献3に記載されている方法は、アニオン性界面活性剤の好ましい使用量が記載されている方法であるが、カチオン性界面活性剤の添加比については特に言及していないためカチオン性界面活性剤を付与する際に生じる効果を得ることができない。
【0008】
また、特許文献4及び特許文献5に記載されている方法もアニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を塗布液に添加する際の効果があるが、それらの混合比については特に言及しておらず、一方の界面活性剤が他方の界面活性剤の効果を減少させる場合が生じる問題がある。さらに、特許文献6に記載されている方法は、添加される界面活性剤量は、酸化アルミニウムの処理に用いられるものであり、本発明に係る塗布膜のハジキ性を減少させるものではない。この方法は、酸化アルミニウムを安定に分散させるためのものであり、塗布膜の濡れ性やハジキ耐性を向上させるものではない。
【0009】
このようにアニオン性界面活性剤を塗布液に添加することでハジキ耐性を付与し、さらに柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果を塗布膜に付与するために塗布液にカチオン性界面活性剤を添加することは、実験条件の選択が極めて難しいものである。
【0010】
本発明は、ハジキ耐性を付与し、柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果を併せ持つ塗布膜を形成する塗布方法及び前記塗布方法に用いられる塗布液に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の塗布方法は、長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、3.6≦Rである。また、5.0≦Rであることがより好ましい。
【0012】
本発明の塗布方法は、長尺帯状のウェブ塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、R<1である。
【0013】
前記アニオン性界面活性剤のモル濃度Aが、1.5mol/m3以上であることが好ましい。前記塗布液の100msecにおける動的表面張力が、40mN/m以下であることが好ましい。前記塗布液を前記ウェブ上に塗布した直後の膜厚を5μm以上40μm以下とすることが好ましい。塗布液を複数用いる多層塗布であって、前記塗布液が最上層を形成するものであることが好ましい。前記多層塗布が、多層同時塗布であることが好ましい。前記塗布が、単層塗布であることが好ましい。マニホールドダイまたはバーコータを用いて、前記塗布液を前記ウェブに塗布することが好ましい。
【0014】
本発明の塗布液は、長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成であるものにおいて、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、3.6≦Rである。また、本発明の塗布液は、長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成であるものにおいて、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、R<1である。前記アニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)が、1.5mol/m3以上であることが好ましい。前記塗布液の100msecにおける動的表面張力が、40mN/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗布方法によれば、長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、3.6≦R又はR<1とするから、ハジキ耐性が付与されると共に柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果を併せ持つ塗布膜が形成可能な塗布方法である。
【0016】
本発明の塗布液によれば、長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成であるものにおいて、前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、3.6≦R又はR<1であるから、ハジキ耐性が付与されると共に柔軟仕上げ効果、撥水効果、帯電防止効果、殺菌消毒効果を併せ持つ塗布膜が形成可能な塗布液である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の塗布方法について図1の工程図を用いて説明する。溶媒11、バインダ12、アニオン性界面活性剤13,カチオン性界面活性剤14及び所望に応じて各種添加剤15を用いて塗布液調製工程16により塗布液17を調製する。次に塗布工程20が行われる。塗布工程20では連続して搬送されているウェブ21に塗布装置22を用いて前記塗布液17を塗布する。この塗布液17が塗布されているウェブを塗布済ウェブ23と称する。塗布済ウェブ23は乾燥工程24により所望の程度まで乾燥されて製品25となる。製品25は巻取工程26で巻き取られる。なお、製品25は巻取工程26を行わず、順次切断して板状で保管しても良い。
【0018】
[溶媒]
溶媒は純物質ではなく混合物でも良い。また、粉末やワックスのような固形分で添加しても良い。界面活性剤溶液の薬品を調製する際に溶解させるために30℃〜100℃に加熱しても良いし、超音波をかけて分散させても良い。また、ディゾルバのような分散機で予め粗分散してから混合しても良い。
【0019】
[バインダ]
塗布液には、乾燥後に皮膜を形成させる媒質として、バインダーと称されるゼラチン,セルロース,ポリビニルアルコールなどの天然高分子や合成高分子などの高分子と、ハロゲン化銀、分散物粒子やラテックス、乳化物のような固形分を含有させる。
【0020】
[界面活性剤]
本発明において、界面活性剤とは「新版界面活性剤ハンドブック」(吉田時行他著 工学図書 1987年発行)に記載されているような、炭素の直鎖やベンゼン環、ナフタレン、2本や3本に分岐した炭素鎖及びこれらの組み合わせを主体とした疎水基と、カルボン酸、スルホン酸、ポリエチレンオキサイドなどの親水基の両方を分子内に有する素材を指し示す。本発明で用いられる界面活性剤の分子量は、この特徴を有していれば特に限定しないが分子量が1000以下のものが好ましい。アニオン性界面活性剤とは、液中で対イオンと解離して主鎖が陰イオンになる界面活性剤を意味している。また、カチオン性界面活性剤とは水中で対イオンと解離して主鎖が陽イオンになる界面活性剤を意味する。ここで、主鎖とは解離後に分子量が大きい側を指し示す。本発明に好ましく用いられる界面活性剤を化1に示す。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明の添加比Rを算出するために界面活性剤のモル濃度について定義する。V(m3)の塗布液に分子量Mw(g/mol)のアニオン性界面活性剤ma(g)を溶解させたとき、アニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)は、A=(ma/Mw)/Vで表わされる。カチオン性界面活性剤の場合は、モル濃度C(mol/m3)は、C=(mc/Mw)/Vで表わされる。
【0023】
アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤は液中で対イオンと解離する。対イオンとしては、ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リチウム,アルミニウム,塩素,臭素,ヨウ素,有機塩などに代表されるが、これらに限定されるものではない。モル濃度を計算する際の分子量には、この対イオンの分子量も加算する。また、界面活性剤は分子量分布を有する場合があるが、その場合は分子量として平均分子量を用いてモル濃度を計算する。また、本発明の界面活性剤のモル濃度は、親水基や対イオンの価数に関わらず、主鎖を基準として算出する。これの界面活性剤の定義を満たしておれば、分子内にフッ素、リン、硫黄、塩素などの元素を含有していても良い。
【0024】
本発明のアニオン性界面活性剤もしくはカチオン性界面活性剤が複数使用される場合には、アニオン性界面活性剤の総モル濃度をA(mol/m3)とし、カチオン性界面活性剤の総モル濃度をC(mol/m3)をCとして計算する。
【0025】
水中で対イオンと解離して主鎖が陽イオンと陰イオンとの両方を有する両極性界面活性剤については、共存させる界面活性剤との凝集核を生成するか否かを問題としているので、本発明においては、共存させる界面活性剤がアニオン性界面活性剤のときは両極性界面活性剤をカチオン性、共存させる界面活性剤がカチオン性界面活性剤のときは両極性界面活性剤をアニオン性とみなす。
【0026】
本発明において、動的表面張力とは、例えば“Liquid Film Coating”, Ed by Kistler & Schweizer (Chapman & Hall) Chapter 4, p99〜p136に示されるように、液体が新しい表面を形成した直後の表面張力である。界面活性剤を含有する液の表面張力は、界面活性剤の表面配向が平衡に達する前の新しい表面で測定した値を示す。その測定方法は、最大泡圧法、振動ジェット法、膜破壊法、懸滴法、Falling Meniscus法、滴重法などがあるが、新しい表面が形成されたところでの測定方法であればどのような方法でもよい。
【0027】
[添加剤]
前述のようにハジキを抑制させるための界面活性剤などの他にpH調整剤や防腐剤、増粘剤など種々の添加剤を含有することができる。
【0028】
[塗布液]
本発明における塗布液の溶媒主成分には水が好ましいが、その中に防腐剤、界面活性剤、増粘剤、乳化物、不凍液が含有されていても構わないし、水以外の液体が使用されていても構わない。
【0029】
本発明において、塗布液を調製する際、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との添加順はどちらが先でも良いし、事前に双方を混合してから添加しても良い。また、アニオン性界面活性剤もカチオン性界面活性剤も事前に水やメタノールなどの溶媒で希釈した薬品にしても良い。薬品には防腐剤を添加していることが好ましい。pHや電動度や粘度などの物性は特に限定されるものではない。
【0030】
[ウェブ]
ウェブには、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティッド紙、合成紙などを用いることができる。プラスチックフィルムの材質には、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどのビニル重合体を使用することができる。また、ナイロン−66,ナイロン−6などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステルを使用することもできる。さらに、ポリカーボネートなどを使用することができ、セルローストリアセテート(以下、TACとも称する)、セルロースジアセテートなどのセルロースアセテートなどを使用することもできる。これらウェブには、ゼラチンなどの下引き層がウェブの表面に形成されていることが、塗布性を良好なものとするために好ましい。また、レジンコーティッド紙に用いる樹脂としては、ポリエチレンを始めとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0031】
[塗布工程]
図2に示した塗布ラインでは、ウェブ21は送出機31から送り出され、加熱室32に送られる。ウェブ21は、加熱室32に多数設けられている加熱ローラ33に搬送されながら加熱される。その後に冷却室34に送られる。冷却室34では、多数設けられている冷却ローラ35によりウェブ21は所望の温度まで冷却される。例えば、ウェブ21にTACを用いた場合、加熱室32出口でウェブ21の温度が50℃〜120℃になるように加熱し、冷却室34出口のウェブ21の温度が10℃〜40℃になるように冷却することが好ましい。これにより、ウェブ21の塑性変形が回復されて、その表面に塗布液17が塗布されやすくなる。なお、本発明において塗布液17を塗布する前に、予めウェブ21を加熱冷却することは必ずしも必要ではない。
【0032】
ウェブ21は、冷却室34から送り出された後に、ローラ37により搬送されながら、帯電部40に送られる。帯電部40は、ウェブ21の表面に電荷を帯電させる帯電器41とその表面電位を測定する表面電位計42とから構成されている。ウェブ21表面に塗布液17を塗布しやすくするために帯電器41によりその表面電位を150V〜1500Vにすることが好ましい。なお、本発明において、ウェブ21に塗布液17を塗布する前に、ウェブ21の表面に電荷を帯電させることは必ずしも必要でない。
【0033】
帯電部40から搬送されたウェブ21は、塗布装置22により塗布液17が塗布される。塗布装置22は、塗布ダイ50と背面減圧室51とウェブ21を巻き回しながら走行させるバックアップローラ52と塗布液17の温度を調節するために塗布ダイ50に取り付けられている温度調節機53とを備えている。塗布装置22によりウェブ21上に塗布された塗布液から塗布膜が形成されて塗布済ウェブ23となる。ローラ54によって乾燥装置(図示しない)に搬送され、製品25が得られる。バックアップローラ52は、金属ローラか、特開平2−251266号公報にあるような表面を薄くセラミックコーティングされ電荷漏洩を防止できるローラを用いることが好ましいが、公知のいずれをも用いることができる。なお、本発明において塗布装置22には、背面減圧室51、温度調節機53は必ずしも取り付けられている必要はない。
【0034】
図3を用いて塗布装置22を更に詳細に説明する。塗布ダイ50は、3個のダイブロック60,61,62が一体として備えられている。また、塗布ダイ50の上面にはスライド面63が形成されている。スライド面63は、バックアップローラ52に向かうに従い低くなるように傾斜面になっている。ダイブロック60〜62には、ウェブ21に塗布される3層の塗布液17a,17b,17cが図示しないそれぞれの塗布液タンクから送液量が可変の送液ポンプによりマニホールド67,68,69に供給される。塗布液17a〜17cの供給は、マニホールド67〜69の幅方向中央からなされても良いし、マニホールド67〜69の片側端部から供給されても良い。本発明においてマニホールド67〜69の形状は、公知のいずれのものを用いても良い。
【0035】
マニホールド67〜69に供給された塗布液17a〜17cは、各スロット70,71,72を通ってスライド面63に押し出される。スライド面63に押し出された塗布液17a〜17cはスライド面63上で多層液膜73を形成した後に、塗布ダイ50の先端であるリップ74から塗布ビード75を形成してウェブ21上に塗布されて塗布膜76が形成されている塗布済ウェブ23となる。本発明において、塗布速度は特に限定されるものではないが、0.1m/s〜10m/sが好ましく、より好ましくは1m/s〜4m/sである。
【0036】
背面減圧室51は、形成された塗布ビード75のウェブ21に塗布される面(以下、背面と称する)を減圧にするために取り付けられている。形成された塗布ビード75の背面を減圧にすることで、空気同伴現象の発生を防止できる。本発明において、減圧度は特に限定されるものではないが、形成された塗布ビード75の表面の大気圧P0と背面の圧力Pbとの差(P0−Pb)が300Pa〜1000Paであることが好ましく、より好ましくは400Pa〜700Paである。
【0037】
本発明の塗布ダイ装置としては、スライドビード方式、スライドカーテン方式、エクストルージョンビード方式、エクストルージョンカーテン方式、ディップ方式、バーコータ方式、コンマコータ方式のいずれか、またこれらの組合せでも、単層塗布でも重層塗布でも、同時塗布でも、逐次重層でも構わない。
【0038】
以下、実施例1ないし実施例5を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料の種類、それらの割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0039】
図2に示す塗布装置22を用いて、ゼラチン下塗りを施したトリアセチルセルロース支持体(ウェブ)21に、最下層用塗布液17a(ゼラチン濃度 4%,粘度 80mPa・s,ウェット膜厚 20μm)、中間層用塗布液17b(ゼラチン濃度 8%,粘度 150mPa・s,ウェット膜厚 100μm),最上層用塗布液17c(ゼラチン濃度 6%,粘度 40mPa・s ウェット膜厚 10μm)を用いた。各々の層の粘度はポリビニルスルホン酸の添加により調整した。また各層の塗布液17a,17b,17cのpHは5.5〜7.0に調整した。塗布速度は2m/sec、最上層用塗布液17cにはアニオン性界面活性剤A3(化1参照)を3.50mol/m3、カチオン性界面活性剤C1(化1参照)を0.41mol/m3添加した。この場合の添加比R(=アニオン性界面活性剤A/カチオン性界面活性剤C)は10.1となった。ウェブ21の温度は30℃〜45℃、各塗布液17a〜17cの温度は40℃、背面減圧度は大気圧−500Paとして塗布したものを乾燥させ面状評価するサンプルを作製した。なお、塗布膜76のハジキの数の測定は目視で行った。ハジキ抑制効果はハジキ数が5個/m2以下のときはハジキ抑制に極めて大きな効果有り(◎)、300個/m2以下のときはハジキ抑制に効果有り(○)、300個/m2を超えるとハジキ抑制効果無し(×)の3段階で行った。さらに、アニオン性界面活性剤A3の添加量及び添加比Rとを代えて実験2ないし4の各実験を行った。実験条件及び実験結果は表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】

【実施例2】
【0041】
実施例2の実験5では、アニオン性界面活性剤A3に代えてアニオン性界面活性剤A2(化1参照)を用いた。実験5では、2.50mol/m3のアニオン性界面活性剤A2と0.41mol/m3のカチオン性界面活性剤C1とを最上層用塗布液に添加した。それ以外の実験条件は実施例1の実験1と同じ条件で実験を行った。また、アニオン性界面活性剤A2の添加量及び添加比Rとを代えて実験6ないし10の各実験を行った。実験条件及び実験結果は表2にまとめて示す。
【0042】
【表2】

【実施例3】
【0043】
実施例3の実験11では、化1のアニオン性界面活性剤A2及びA3を併せて用い、化1のカチオン性界面活性剤C2(化1参照)を用いた。2.5mol/m3のアニオン性界面活性剤A2と2.5mol/m3のアニオン性界面活性剤A3と0.5mol/m3のカチオン性界面活性剤C2とを最上層用塗布液に添加した。このときの添加比R{=(A2+A3)/C2}は9.96であった。それ以外の実験条件は実施例1の実験1と同じ条件で実験を行った。
【0044】
実験11では、静的表面張力及び100msecにおける動的表面張力の測定を行った。静的表面張力はWhilhelmy型表面張力計(協和界面科学(株)社製 Surface Tensiomater CBVP−A3型)で測定し、動的表面張力は最大泡圧法型表面張力計(協和界面科学(株)社製 BP−D3型表面張力計)で測定した。また、アニオン性界面活性剤A2、A3及びカチオン性界面活性剤C2の添加量及び添加比Rとを代えて実験12を行った。実験条件は表3に実験結果は表4にまとめて示す。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
実施例1ないし実施例3の各実験より添加比Rが大きいほどハジキ抑制効果が向上することが分かった。その効果は、Rが3.6以上でより発現(○)し、5.0以上であると極めて顕著に発現(◎)することが分かった。さらに、アニオン性界面活性剤の添加濃度(実験11のように複数の場合にはその総和)が高くなるとハジキ抑制効果が向上し、1.5mol/m3以上であるとその効果が顕著に発現することが分かった。
【0048】
実施例3の実験11及び実験12から静的表面張力は添加比にもハジキ抑制にも相関しないが、添加比Rが大きいと100msecにおける動的表面張力が下がり、ハジキ抑制効果が向上(◎)することが分かった。
【実施例4】
【0049】
実施例4の実験13では2.00mol/m3のアニオン性界面活性剤A2と0.41mol/m3のカチオン性界面活性剤C1とを最上層用塗布液に添加した。このときの添加比R(=A/C)は4.88であった。そして最上層膜厚が40μm(塗布時)となるように実験した以外は実施例1の実験1と同じ条件で実験を行った。また、最上層膜厚を代えて実験14ないし実験18の各実験を行った。実験条件及び実験結果は表5にまとめて示す。
【0050】
【表5】

【0051】
最上層膜厚が5μm以上でハジキ抑制効果が発現(○)し、20μm以上とすることでより顕著にその効果が現れた(◎)。なお、実験18のように最上層膜厚が80μmとなると塗布膜の乾燥ムラが生じてハジキ抑制効果の確認が不可能であった。
【実施例5】
【0052】
実施例5の実験19では、アニオン性界面活性剤A1(化1参照)とカチオン性界面活性剤C1(化1参照)とを最上層用塗布液に添加した。本実験では、カチオン性界面活性剤が過剰となるように(すなわちR<1)活性剤の添加量を調整した。この場合の添加比Rは、0.16であった。それ以外の実験条件は実施例1の実験1と同じ条件で実験を行った。また、アニオン性界面活性剤A1の添加量及び添加比Rとを代えて実験20及び実験21を行った。実験条件及び実験結果は表6にまとめて示す。
【0053】
【表6】

【0054】
添加比Rが約1である実験21ではハジキ抑制効果が発現し難いことが分かった。すなわち本発明によれば、アニオン性界面活性剤を過剰に添加する場合(3.6≦R、より好ましくは5.0≦R)とカチオン性界面活性剤を過剰に添加する場合(R<1)のいずれであってもハジキ抑制に効果があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の塗布方法を実施するための工程図である。
【図2】本発明の塗布方法を実施するための設備の概略図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0056】
13 アニオン性界面活性剤
14 カチオン性界面活性剤
16 塗布液調製工程
17 塗布液
21 ウェブ
22 塗布装置
23 塗布済ウェブ
76 塗布膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、
前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、
3.6≦Rであることを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
長尺帯状のウェブ塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、
前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、
5.0≦Rであることを特徴とする塗布方法。
【請求項3】
長尺帯状のウェブ塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成である塗布方法において、
前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、
R<1であることを特徴とする塗布方法。
【請求項4】
前記アニオン性界面活性剤のモル濃度Aが、1.5mol/m3以上であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項5】
前記塗布液の100msecにおける動的表面張力が、40mN/m以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項6】
前記塗布液を前記ウェブ上に塗布した直後の膜厚を5μm以上40μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項7】
塗布液を複数用いる多層塗布であって、前記塗布液が最上層を形成するものであることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項8】
前記多層塗布が、多層同時塗布であることを特徴とする請求項7記載の塗布方法。
【請求項9】
前記塗布が、単層塗布であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項10】
マニホールドダイまたはバーコータを用いて、前記塗布液を前記ウェブに塗布することを特徴とする請求項1ないし9いずれか1つ記載の塗布方法。
【請求項11】
長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成であるものにおいて、
前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、
全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、
3.6≦Rであることを特徴とする塗布液。
【請求項12】
長尺帯状のウェブに塗布される塗布液が、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との両方を含有する組成であるものにおいて、
前記塗布液が含有する全てのアニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)と、
全てのカチオン性界面活性剤のモル濃度C(mol/m3)との比R(=A/C)が、
R<1であることを特徴とする塗布液。
【請求項13】
前記アニオン性界面活性剤のモル濃度A(mol/m3)が、1.5mol/m3以上であることを特徴とする請求項11または12記載の塗布液。
【請求項14】
前記塗布液の100msecにおける動的表面張力が、40mN/m以下であることを特徴とする請求項11ないし13いずれか1つ記載の塗布液。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−95372(P2006−95372A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281894(P2004−281894)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】