説明

塗布液

【課題】多孔質フィルムまたは積層フィルムの製造用に適した実用性に優れる塗布液を提供する。
【解決手段】100重量部の含窒素芳香族重合体と、160重量部以上300重量部以下の範囲の溶解助剤とが、溶媒に溶解されてなることを特徴とする塗布液。含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの含窒素芳香族重合体の重量が、0.5以上3.5以下の範囲である前記の塗布液。フィラーをさらに含むことを特徴とする前記の塗布液。含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量が、10以上500以下の範囲である前記の塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布液は、多孔質フィルム製造用または積層フィルム製造用に用いられ、これらフィルムは、塗布液を基材に塗布して得られる。多孔質フィルムまたは積層フィルムは、例えば、電池用セパレータとして用いられ、正極−負極間の短絡等を防ぐ役割を果たしている。塗布液としては、重合体を溶媒に溶解したものが知られており、例えば、特許文献1には、光学的異方性を有するアラミドドープが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−41298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような光学的異方性を有するアラミドドープを、塗布して得られる多孔質フィルムにおいては、フィルムの強度に異方性があり、また、塗布性にも、未だ改善の余地がある。本発明の目的は、多孔質フィルムまたは積層フィルムの製造用に適した実用性に優れる塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記事情に鑑み種々検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記の発明を提供する。
<1>100重量部の含窒素芳香族重合体と、160重量部以上300重量部以下の範囲の溶解助剤とが、溶媒に溶解されてなることを特徴とする塗布液。
<2>含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの含窒素芳香族重合体の重量が、0.5以上3.5以下の範囲である前記<1>記載の塗布液。
<3>含窒素芳香族重合体が、アラミドである前記<1>または<2>記載の塗布液。
<4>溶解助剤が、アルカリ金属の塩化物またはアルカリ土類金属の塩化物である前記<1>〜<3>のいずれかに記載の塗布液。
<5>溶解助剤が、塩化リチウムまたは塩化カルシウムである前記<4>記載の塗布液。
<6>溶媒が、極性有機溶媒である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の塗布液。
<7>フィラーをさらに含むことを特徴とする前記<1>〜<6>のいずれかに記載の塗布液。
<8>含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量が、10以上500以下の範囲である前記<7>記載の塗布液。
<9>粘度が0.5〜20Pa・sの範囲である前記<1>〜<8>のいずれかに記載の塗布液。
<10>以下の(1a)、(2a)および(3a)の工程をこの順で含むことを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
(1a)前記<1>〜<9>のいずれかに記載の塗布液を塗布して、塗布膜を得る工程。
(2a)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3a)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、多孔質フィルムを得る工程。
<11>以下の(1b)、(2b)および(3b)の工程をこの順で含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
(1b)前記<1>〜<9>のいずれかに記載の塗布液を、多孔質基材に塗布して、塗布膜を得る工程。
(2b)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3b)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、積層フィルムを得る工程。
<12>前記<10>記載の製造方法により得られた多孔質フィルム、または前記<11>記載の製造方法により得られた積層フィルムを、電池用セパレータとして有する電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィルムの強度および熱収縮率が改良された多孔質フィルムを与えることができ、一方向に偏った裂けが、より抑制されたフィルムを得ることができる。また、本発明の塗布液は、塗布性に極めて優れ、特にフィラーを添加した場合においても、粘度の急激な上昇を緩和することができ、例えば、塗布液の塗布速度を速めた場合に、得られる多孔質フィルムまたは積層フィルムの欠陥発生をより抑制することができるなど、極めて実用性に富む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の塗布液は、100重量部の含窒素芳香族重合体と、160重量部以上300重量部以下の範囲の溶解助剤とが、溶媒に溶解されてなることを特徴とする。塗布液における溶解助剤が、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、160重量部未満である場合には、塗布液の流動性の観点で好ましくなく、また300重量部を超える場合には、塗布液の保存安定性の観点で好ましくない。本発明において好ましい溶解助剤の量は、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、170重量部以上250重量部以下の範囲であり、より好ましくは、180重量部以上220重量部以下の範囲である。
【0009】
本発明において、含窒素芳香族重合体としては、アラミド(パラアラミド、メタアラミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等を挙げることができ、本発明は、含窒素芳香族重合体が、アラミドの場合、とりわけパラアラミドの場合に、好ましく適用できる。
【0010】
前記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0011】
前記の芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などがあげられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’−ナフタレンジアミンなどがあげられる。また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0012】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0013】
本発明において、溶解助剤としては、アルカリ金属の臭化物またはアルカリ土類金属の臭化物、アルカリ金属の塩化物またはアルカリ土類金属の塩化物を挙げることができ、好ましくは、アルカリ金属の塩化物またはアルカリ土類金属の塩化物であり、溶媒への溶解性の観点で、より好ましくは、塩化リチウムまたは塩化カルシウムである。溶解助剤は、用いる含窒素芳香族重合体の種類に応じて、選択使用される。
【0014】
本発明において、溶媒としては、有機溶媒を挙げることができ、含窒素芳香族重合体に対する溶解性の観点で、好ましくは極性有機溶媒である。極性有機溶媒としては、極性アミド系溶媒、極性尿素系溶媒を挙げることができ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレアを挙げることができる。
【0015】
本発明の塗布液において、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの含窒素芳香族重合体の重量は、塗布液の流動性向上、多孔質フィルムの生産性などを考慮して、0.5以上3.5以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.8以上2.0以下の範囲である。
【0016】
また、本発明の塗布液は、フィラーをさらに含んでいてもよい。塗布液が、フィラーをさらに含むことで、得られる多孔質フィルムにおける空隙(空隙率、空隙サイズなど)の精密制御が可能となる場合もある。また、フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物で、前記溶媒に難溶性のものを選択使用することができる。
【0017】
フィラーとしての有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0018】
フィラーとしての無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、硫酸バリウムまたは炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。
【0019】
フィラーを構成する粒子の形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、いずれの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下の範囲の値である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0020】
フィラーを構成する粒子のサイズは、得られる多孔質フィルムの用途にもよるが、多孔質フィルムを、電池用セパレータとして用いる場合には、平滑性を維持する観点で、フィラーを構成する粒子の平均粒子径は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の塗布液が、フィラーを含む場合のフィラーの重量は、フィラーの材質の比重により適宜設定できるが、含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量は、通常、1以上1500以下程度の範囲、好ましくは10以上500以下の範囲、より好ましくは100以上300以下の範囲である。フィラーは、含窒素芳香族重合体と溶解助剤とが溶媒に溶解されてなる塗布液に、分散させて用いることが好ましく、分散は圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー、ナノマイザー)等を用いて行えばよい。
【0022】
また、本発明の塗布液の粘度は、0.5〜20Pa・sの範囲であることが、塗布性をより良好にする意味で好ましい。より好ましい塗布液の粘度は、0.5〜15Pa・sの範囲である。塗布性をより良好にすることにより、塗布液の塗布速度を速めることができ、また、得られる多孔質フィルムの欠陥発生をより抑制することができる。
【0023】
次に、上述の塗布液を用いて、多孔質フィルムを製造する方法について説明する。本発明において、多孔質フィルムは、以下の(1a)、(2a)および(3a)の工程をこの順で含む製造方法により、製造することができる。
(1a)上述の塗布液を塗布して、塗布膜を得る工程。
(2a)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3a)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、多孔質フィルムを得る工程。
【0024】
工程(1a)において、本発明の塗布液を、ベースフィルム、スチールベルト、ロール、ドラム上等の基材に塗布し、塗布膜を得る。ベースフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、離型処理した紙等があげられる。また、鏡面仕上げした耐蝕性のあるスチールベルト上に塗布してもよいし、鏡面仕上げした耐蝕性のあるロール、またはドラム上に塗布することもできる。塗布の方法としては、例えばナイフ、ブレード、バー、グラビア、ダイ等の塗工方法が挙げられ、バー、ナイフ等の塗工が簡便であり好ましい。また、塗布は2回以上行ってもよい。
【0025】
工程(2a)において、工程(1a)で得られた塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る。ここで、析出は、例えば、20℃以上の温度で湿度を制御した雰囲気中に塗布膜をおいて、含窒素芳香族重合体を析出させ、凝固液中に浸漬させて、析出膜を得る。あるいは、塗布膜を、凝固液中に浸漬させ、含窒素芳香族重合体の析出・凝固を同時に行ない、析出膜を得ることもできる。また、析出を均一にかつ早く行うために、あらかじめ塗布液に水などの貧溶媒を添加しておくこともできる。前記凝固液としては、水系溶液またはアルコール系溶液などを用いればよい。
【0026】
工程(2a)において、塗布膜における溶媒の一部または全部を蒸発させることにより、含窒素芳香族重合体を析出させて析出膜を得ることもでき、この場合、半乾燥または乾燥した析出膜が得られる。
【0027】
工程(3a)において、析出膜から溶解助剤および溶媒を除去して、多孔質フィルムを得る。溶媒の除去の方法は、溶媒の一部または全部を蒸発させることによってもよいし、水、水系溶液またはアルコール系溶液など、塗布液における溶媒を溶解できる溶媒で洗浄除去してもよい。水を用いて除去する場合には、金属イオン混入を抑制するために、イオン交換水を用いることが好ましい。また塗布液における溶媒を一定濃度含む水溶液中で洗浄した後に、更に水洗することも好ましい。また、溶解助剤の除去の方法は、水、水系溶液、またはアルコール系溶液などで洗浄除去すればよい。水を用いて除去する場合には、金属イオン混入を抑制するために、イオン交換水を用いることが好ましい。また、溶解助剤の除去は、上記溶媒の除去と同時に行ってもよいし、乾燥などにより溶媒除去を先に行った後、溶解助剤の除去を行ってもよい。
【0028】
工程(3a)において、得られた多孔質フィルムは、必要に応じて加熱乾燥、風乾などにより乾燥したり、基材から剥離したりすることもできる。
【0029】
また、本発明において、積層フィルムは、以下の(1b)、(2b)および(3b)の工程をこの順で含む製造方法により、製造することができる。
(1b)上述の塗布液を、多孔質基材に塗布して、塗布膜を得る工程。
(2b)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3b)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、積層フィルムを得る工程。
【0030】
すなわち、本発明において、積層フィルムは、多孔質基材に、上述の多孔質フィルムが積層された積層多孔質フィルムである。
【0031】
工程(1b)は、工程(1a)における基材の代わりに多孔質基材を用いる点以外は、工程(1a)と同様である。多孔質基材としては、織物、不織布、紙またはフィルム状のものを用いることができ、いずれもシート状である。また、上記の多孔質フィルムを用いることもできる。工程(1b)において塗布は、塗布液をロールまたはドラム上に塗布して、その後に多孔質基材と接触させることによってもよい。
【0032】
また、上記工程(2b)は上記工程(2a)と同様に行うことができ、また、上記工程(3b)は上記工程(3a)と同様に行うことができる。また、工程(3b)において、得られた積層フィルムは、必要に応じて加熱乾燥、風乾などにより乾燥したりすることもできる。また、多孔質基材の両面に、塗布液を塗布して、積層フィルムを得てもよい。
【0033】
本発明において、得られる多孔質フィルムや積層フィルムは、含窒素芳香族重合体を含有するため、200℃程度までは強度劣化がほとんどなく、また、約300℃程度までは形態を保ち、耐熱性に極めて優れるフィルムであり、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池などの非水電解質二次電池用セパレータとして特に有用であるが、水系電解質二次電池用、非水電解質一次電池用、キャパシター用のセパレータとしても、十分使用可能である。
【0034】
また、本発明において、積層フィルムを、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池用のセパレータとして用いる場合には、前記多孔質基材は熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。非水電解質二次電池においては、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましく、積層フィルムにおける多孔質基材が熱可塑性樹脂を含有することで、電池の温度が通常の使用温度を超えた場合には、該熱可塑性樹脂の軟化により、積層フィルムにおける空隙を閉塞することができ、電池はシャットダウンすることができる。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせる意味で、ポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンを挙げることができ、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。多孔質基材の突刺し強度をより高める意味では、熱可塑性樹脂は、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。また、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0036】
また、本発明における多孔質フィルムまたは積層フィルムを電池などのセパレータとして用いる場合には、セパレータは、イオン透過性との観点から、ガーレー法による透気度は、通常、20〜2000秒/100cc程度であり、50〜300秒/100ccであることが好ましく、50〜200秒/100ccであることがさらに好ましい。また、セパレータの空隙率は、通常、20〜90体積%、好ましくは30〜80体積%、より好ましくは40〜70体積%である。また、セパレータの厚みは、電池などの体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、通常5〜200μm程度、好ましくは5〜40μm程度、より好ましくは5〜30μm程度である。また、セパレータにおける微細孔のサイズは通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。
【0037】
次に、本発明における多孔質フィルムまたは積層フィルムを、電池用セパレータとして有する電池について、例として、非水電解質二次電池であるリチウム二次電池を挙げて説明する。
【0038】
リチウム二次電池の製造には、公知の技術を使用すればよい。すなわち、例えば、正極、負極およびセパレータを積層して巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの容器内に収納し、電極群に電解液を含浸させて製造することができる。
【0039】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0040】
前記の正極としては、通常、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極用電極合剤を正極集電体に塗布したものを用いる。正極用電極合剤としては、正極活物質としてリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電剤として炭素材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂を含むものが好ましい。
【0041】
前記正極活物質としては、具体的にはV、Mn、Fe、Co、Ni、CrおよびTiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、Li、Naなどのアルカリ金属元素とを含有する金属複合酸化物が挙げられ、好ましくはα−NaFeO2型構造を母体とする複合酸化物が挙げられ、平均放電電位が高いという点で、より好ましくはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル酸リチウムのニッケルの一部をMn、Co等の他元素と置換されてなる複合酸化物を挙げることができる。また、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を母体とする複合酸化物を挙げることもできる。
【0042】
前記結着剤としては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0043】
前記導電剤としては、炭素材料を挙げることができ、具体的には天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどを挙げることができ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
前記正極集電体としては、Al、ステンレスなどを挙げることができ、軽量、安価、加工の容易性の観点でAlが好ましい。正極集電体に前記の正極用電極合剤を塗布する方法としては、加圧成型による方法、溶媒などを用いて正極用電極合剤をペースト化し正極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0045】
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能であればよく、負極材料を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、または負極材料単独からなる電極を挙げることができる。負極材料としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な材料が挙げられる。また、これらの負極材料を混合して用いてもよい。
【0046】
前記の負極材料につき、以下に例示する。前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などを挙げることができる。前記酸化物として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物、TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物、V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物、Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物、SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物、WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物、Li4Ti512、LiVO2(たとえばLi1.10.92)などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物などを挙げることができる。前記硫化物として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物、V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物、Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物、Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物、SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物、WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物、Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物、Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物などを挙げることができる。前記窒化物として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0047】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属、スズ金属が挙げられる。また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金、Si−Znなどのシリコン合金、Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金のほか、Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金を挙げることもできる。これらの金属、合金は、主に、単独で電極として用いられる(例えばシート状で用いられる)。
【0048】
上記負極材料の中で、電位平坦性が高い、平均放電電位が低い、サイクル性が良いなどの観点からは、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0049】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0050】
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。該負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0051】
電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有する。電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いる。
【0052】
また前記電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの二種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF6等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでもない。また、次に、各種試験・評価方法を示す。
【0054】
(1)重合溶液の溶液粘度
B型粘度形を使用し、25℃、12rpmで測定した。
(2)塗布性
目視にて確認した。
(3)空隙率
多孔質フィルム、積層フィルム、多孔質基材のサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g))を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空隙率(体積%)を求めた。
空隙率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}
(4)ガーレー法による透気度の測定
多孔質フィルム、積層フィルム、多孔質基材の透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(5)厚み測定
多孔質フィルム、積層フィルム、多孔質基材の厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、積層フィルムの厚みから、多孔質基材の厚みを差し引くことで、多孔質基材に積層された多孔質フィルムの厚みの値を得ることができる。
【0055】
製造例1(含窒素芳香族重合体の製造)
含窒素芳香族重合体として、アラミドであるポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、PPTAと略すことがある。)の製造を次のようにして行った。撹拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する3リットルのセパラブルフラスコを使用して、フラスコを十分乾燥し、フラスコ内に溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある。)を2200g入れ、溶解助剤である塩化カルシウム(200℃で2時間真空乾燥して使用)158.37gを添加し、100℃に昇温して完全に溶解させた。室温に戻して、パラフェニレンジアミン70.136gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保持しつつ、攪拌しながらテレフタル酸ジクロライド128.05gを3分割して約10分おきに添加した。その後も攪拌しながら、溶液を20℃±2℃に保持したまま1時間熟成した。得られたPPTA溶液は光学的異方性を示し、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は6.0であり、溶解助剤の重量は6.5であった。得られたPPTA溶液においては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は110重量部である。
【0056】
実施例1−1
1.塗布液の製造
製造例1におけるPPTA溶液100gを、撹拌翼、温度計、窒素流入管および液体添加口を有する500mlのセパラブルフラスコに秤取し、150gのNMPと、50gの塩化カルシウム/NMP溶液を添加し、60分間攪拌して、塗布液1を得た。塗布液1の粘度は、1Pa・sであった。塗布液1においては、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は2.0であり、溶解助剤の重量は4.0であった。塗布液1においては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は200重量部である。
【0057】
2.多孔質フィルムの製造
厚み100μmのPETフィルムを基材として、その上に、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該PETフィルムの上に、塗布液1を塗布して、PETフィルム上に塗布膜を得て、貧溶媒であるイオン交換水中に浸漬させ、含窒素芳香族重合体を析出させ、溶解助剤を除去して、乾燥により溶媒を除去した後、PETフィルムから、多孔質フィルムを剥離して、多孔質フィルム1を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られる多孔質フィルム1にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0058】
実施例1−2
1.塗布液(フィラー含有)の製造
上記実施例1−1と同様に製造した塗布液1について、アルミナフィラー(日本アエロジル社製品;アルミナC、平均粒子径0.013μm)6gと、アルミナフィラー(住友化学社製品;AA03、平均粒子径0.3μm)6gを添加し、10分間3000rpmで高速攪拌した。アルミナフィラーを圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー;60MPa、2回通し)で十分に分散させ、1000メッシュの金網でろ過し、塗布液2を得た。塗布液2の粘度は、6Pa・sであった。塗布液2においては、塗布液1と同様、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は200重量部である。また、含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量は、200である。
【0059】
2.多孔質フィルムの製造
塗布液1の代わりに塗布液2を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、多孔質フィルム2を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られる多孔質フィルム2にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0060】
3.積層フィルムの製造
多孔質基材として、ポリエチレン製の多孔質基材を用いた(厚み12μm、透気度140秒/100cc、空隙率50%)。厚み100μmのPETフィルムの上に上記多孔質基材を固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、多孔質基材の上に塗布液2を塗布して、多孔質基材上に塗布膜を得て、そのまま23℃で湿度50%の雰囲気に10分間置き、含窒素芳香族重合体を析出させ、イオン交換水により洗浄して、溶解助剤、溶媒を除去し、乾燥して、積層フィルム1(厚み16μm、透気度300秒/100cc、空隙率56%)を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られた積層フィルム1にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0061】
実施例2−1
1.塗布液の製造
製造例1におけるPPTA溶液60gを、撹拌翼、温度計、窒素流入管および液体添加口を有する500mlのセパラブルフラスコに秤取し、210gのNMPと、30gの塩化カルシウム/NMP溶液を添加し、60分間攪拌して、塗布液3を得た。塗布液3の粘度は、0.5Pa・sであった。塗布液3においては、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は1.2であり、溶解助剤の重量は2.3であった。塗布液3においては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は190重量部である。
【0062】
2.多孔質フィルムの製造
塗布液1の代わりに塗布液3を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、多孔質フィルム3を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られる多孔質フィルム3にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0063】
実施例2−2
1.塗布液(フィラー含有)の製造
上記実施例2−1と同様に製造した塗布液3について、アルミナフィラー(日本アエロジル社製品;アルミナC、平均粒子径0.013μm)7.2gと、アルミナフィラー(住友化学社製品;AA03、平均粒子径0.3μm)3.6gを添加し、10分間3000rpmで高速攪拌した。アルミナフィラーを圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー;60MPa、2回通し)で十分に分散させ、1000メッシュの金網でろ過し、塗布液4を得た。塗布液4の粘度は、4Pa・sであった。塗布液4においては、塗布液3と同様、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は190重量部である。また、含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量は、300である。
【0064】
2.多孔質フィルムの製造
塗布液1の代わりに塗布液4を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、多孔質フィルム4を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られる多孔質フィルム4にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0065】
3.積層フィルムの製造
塗布液2の代わりに塗布液4を用いた以外は、実施例1−2と同様にして、積層フィルム2(厚み17μm、透気度280秒/100cc、空隙率60%)を得た。塗布の際の塗りムラは見られず、また得られた積層フィルム2にも、塗りムラに起因するストライプ状の欠陥は見られなかった。
【0066】
比較例1
製造例1におけるPPTA溶液100gを、撹拌翼、温度計、窒素流入管および液体添加口を有する500mlのセパラブルフラスコに秤取し、200gのNMPを添加し、60分間攪拌して、アルミナフィラー(日本アエロジル社製品;アルミナC、平均粒子径0.013μm)6gと、アルミナフィラー(住友化学社製品;AA03、平均粒子径0.3μm)6gを添加し、10分間3000rpmで高速攪拌した。アルミナフィラーを圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー;60MPa、2回通し)で十分に分散させ、1000メッシュの金網でろ過し、塗布液Aを得た。塗布液Aは、流れ性が悪く、その粘度は、21.0Pa・sであった。塗布液Aにおいては、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は2.0であり、溶解助剤の重量は2.9であった。塗布液Aにおいては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は150重量部である。塗布液2の代わりに塗布液Aを用いた以外は、実施例1−2と同様にして、積層フィルムを得るべく実験を行ったが、塗布の際に塗りムラが生じ、良好な積層フィルムを得ることができなかった。
【0067】
比較例2
製造例1におけるPPTA溶液60gを、撹拌翼、温度計、窒素流入管および液体添加口を有する500mlのセパラブルフラスコに秤取し、240gのNMPを添加し、60分間攪拌して、アルミナフィラー(日本アエロジル社製品;アルミナC、平均粒子径0.013μm)7.2gと、アルミナフィラー(住友化学社製品;AA03、平均粒子径0.3μm)3.6gを添加し、10分間3000rpmで高速攪拌した。アルミナフィラーを圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー;60MPa、2回通し)で十分に分散させ、1000メッシュの金網でろ過し、塗布液Bを得た。塗布液Bは、プリン状で流れ性が悪く、その粘度は、21Pa・sであった。塗布液Bにおいては、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は1.2であり、溶解助剤の重量は1.7であった。塗布液Bにおいては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は140重量部である。塗布液2の代わりに塗布液Bを用いた以外は、実施例1−2と同様にして、積層フィルムを得るべく実験を行ったが、塗布の際に塗りムラが生じ、積層フィルムを得ることができなかった。
【0068】
比較例3
製造例1におけるPPTA溶液60gを、撹拌翼、温度計、窒素流入管および液体添加口を有する500mlのセパラブルフラスコに秤取し、135gのNMPと、105gの塩化カルシウム/NMP溶液を添加し、60分間攪拌して、アルミナフィラー(日本アエロジル社製品;アルミナC、平均粒子径0.013μm)7.2gと、アルミナフィラー(住友化学社製品;AA03、平均粒子径0.3μm)3.6gを添加し、10分間3000rpmで高速攪拌した。アルミナフィラーを圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー;60MPa、2回通し)で十分に分散させ、1000メッシュの金網でろ過し、塗布液Cを得た。塗布液Cについて、室温にて3日静置したところ、塗布液中の含窒素芳香族重合体の析出による固化が観察され、保存安定性が良好ではないことがわかった。なお、塗布液Cにおいては、含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの、含窒素芳香族重合体の重量は3.6gであり、溶解助剤の重量は11.4gであった。塗布液Cにおいては、含窒素芳香族重合体100重量部に対して、溶解助剤は315重量部である。
【0069】
比較例4
塗布液1の代わりに製造例1におけるPPTA溶液(含窒素芳香族重合体溶液)を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、多孔質フィルムを得た。この多孔質フィルムは、異方性を示し、一方向に裂けを生じるものであった。また、このPPTA溶液について、室温にて3日静置したところ、PPTA溶液中の含窒素芳香族重合体の析出による固化が観察され、保存安定性が良好ではないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部の含窒素芳香族重合体と、160重量部以上300重量部以下の範囲の溶解助剤とが、溶媒に溶解されてなることを特徴とする塗布液。
【請求項2】
含窒素芳香族重合体、溶解助剤および溶媒の重量を100としたときの含窒素芳香族重合体の重量が、0.5以上3.5以下の範囲である請求項1記載の塗布液。
【請求項3】
含窒素芳香族重合体が、アラミドである請求項1または2記載の塗布液。
【請求項4】
溶解助剤が、アルカリ金属の塩化物またはアルカリ土類金属の塩化物である請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液。
【請求項5】
溶解助剤が、塩化リチウムまたは塩化カルシウムである請求項4記載の塗布液。
【請求項6】
溶媒が、極性有機溶媒である請求項1〜5のいずれかに記載の塗布液。
【請求項7】
フィラーをさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗布液。
【請求項8】
含窒素芳香族重合体の重量を100としたときのフィラーの重量が、10以上500以下の範囲である請求項7記載の塗布液。
【請求項9】
粘度が0.5〜20Pa・sの範囲である請求項1〜8のいずれかに記載の塗布液。
【請求項10】
以下の(1a)、(2a)および(3a)の工程をこの順で含むことを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
(1a)請求項1〜9のいずれかに記載の塗布液を塗布して、塗布膜を得る工程。
(2a)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3a)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、多孔質フィルムを得る工程。
【請求項11】
以下の(1b)、(2b)および(3b)の工程をこの順で含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
(1b)請求項1〜9のいずれかに記載の塗布液を、多孔質基材に塗布して、塗布膜を得る工程。
(2b)該塗布膜における含窒素芳香族重合体を析出させ、析出膜を得る工程。
(3b)該析出膜における溶解助剤および溶媒を除去して、積層フィルムを得る工程。
【請求項12】
請求項10記載の製造方法により得られた多孔質フィルム、または請求項11記載の製造方法により得られた積層フィルムを、電池用セパレータとして有する電池。

【公開番号】特開2010−254731(P2010−254731A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102763(P2009−102763)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】