説明

塗布膜の乾燥方法及び装置

【課題】塗布直後の初期乾燥過程で発生する斑を顕著に抑制することができ、また塗布液の粘度等の物性や溶媒の種類を変更することなく塗布膜を均一に乾燥できる乾燥方法及び装置を提供する。
【解決手段】塗布直後に乾燥ゾーン14を設けて、走行するウエブ12の乾燥される塗布膜面を囲むと共に、乾燥ゾーン14では、ウエブ12の幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第一乾燥風ゾーン35に、ウエブ12を走行させて塗布膜面を乾燥する第一乾燥工程と、乾燥風を吹かない無風ゾーン36に、ウエブ12を走行させて塗布膜面を乾燥する無風乾燥工程と、ウエブ12の幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第二乾燥風ゾーン36に、ウエブを走行させて塗布膜面を乾燥する第二乾燥工程と、を順次行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布膜の乾燥方法及び装置に係り、特に、光学補償シート等の製造において、長尺状支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面を乾燥する乾燥方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置において視野角特性を改善するために、一対の偏光板と液晶セルとの間に位相差板として光学補償シートを設けている。長尺状の光学補償シートの製造法としては、長尺状の透明フィルムの表面に配向膜形成用樹脂を含む塗布液を塗布してからラビング処理を行なって配向膜を形成する。そして、その配向膜の上に液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を塗布し、塗布した塗布膜を乾燥する方法が下記の特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示されている液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液の乾燥方法は、該配向膜上に液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を塗布してから正規の乾燥装置で乾燥するまで室内空調条件下で初期乾燥を行なって主として塗布液中の有機溶剤を蒸発させ、乾燥している。
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている製造方法で製造された光学補償シートには、初期乾燥過程において、塗布膜101面上に図10に示したようなブロードな斑A(細い線で示す)とシャープな斑B(太い線で示す)の2種類の斑(ムラ)A、Bが発生し、場合によって製品の得率を下げるという問題がある。
【0005】
この2種類の斑A、Bを解析した結果、ブロードな斑Aは図11に示すように液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液膜102の層の厚みが薄くなっていることが分かった。図11の符号103は長尺状支持体、104は配向膜層である。一方、シャープな斑Bが発生している配向部105(濃色部)の配向方向106は、図12に示すように、他の正常な配向方向107の配向部108と比べてずれていることが分かった。
【0006】
このような初期乾燥で発生する斑A、Bに対して、有効な対策として一般的に行なわれている方法としては、塗布液を高濃度化したり、増粘剤を添加したりすることで塗布液の粘度を増加させる。これにより、塗布直後の塗布膜面の乾燥風による流動を抑制することで斑の発生を防止する方法がある。別の方法としては、高沸点溶媒を用いることにより、塗布直後の塗膜面の乾燥風による流動が発生してもレベリング効果が生じることで斑の発生を防止する方法がある。
【0007】
しかしながら、塗布液の濃度を高濃度化したり、増粘剤を添加したりすることで塗布液の粘度を増加する方法は、高速塗布により超薄層な塗布膜を形成する超薄層精密塗布を行なうことができないという欠点がある。また、塗布液粘度が増加するほど限界塗布速度(安定塗布できる塗布速度の限界)が低下するので、粘度の増加と共に高速塗布が不可能になるので、生産効率が極端に悪化するという欠点がある。
【0008】
一方、高沸点溶媒を用いる方法は、乾燥時間の増大、及び塗布膜中に残留する残留溶剤量の増大をもたらし、それだけ乾燥時間がかかるので生産効率が悪化するという欠点がある。
【0009】
このような背景から、本出願人は特許文献2に記載する塗布膜の乾燥方法及び装置を提案した。この塗布方法及び装置は、塗布直後に乾燥ゾーンを設けて、前記走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲むと共に前記乾燥ゾーンに前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させることで、塗布液の粘度等の物性や溶媒の種類を変更することなく塗布膜を均一に乾燥するものである。この乾燥方法及び装置により、上記した斑の発生を抑制できるとされている。
【特許文献1】特開平9−73081号公報
【特許文献2】特開2001−170547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、光学補償シートの品質として益々高品質なものが要求されている昨今においては、特許文献2の塗布方法及び装置による斑の抑制では十分ではなくなっており、更なる改良が望まれている。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、塗布直後の初期乾燥過程で発生する斑を顕著に抑制することができ、また塗布液の粘度等の物性や溶媒の種類を変更することなく塗布膜を均一に乾燥できる乾燥方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、走行する長尺状支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜の乾燥方法において、前記塗布直後に乾燥ゾーンを設けて、前記走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲むと共に、前記乾燥ゾーンでは、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第一乾燥風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する第一乾燥工程と、乾燥風を吹かない無風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する無風乾燥工程と、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第二乾燥風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する第二乾燥工程と、を順次行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法を提供する。
【0013】
請求項1によれば、塗布直後に乾燥ゾーンを設けて、走行する長尺状支持体の塗布膜面に支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を吹いて乾燥する際に、前記乾燥ゾーンの途中に乾燥風を吹かない無風ゾーンを設けて無風乾燥工程を行うようにした。即ち、乾燥初期の第一乾燥工程では、塗布膜面に有機溶剤が多く残っており、塗布膜面から蒸発した有機溶剤の分布によるゆらぎが発生しやすく、このゆらぎが斑発生を促進する。従って、第一乾燥工程では塗布膜面に一方向流れの乾燥風を吹き付けて蒸発した有機溶剤を塗布膜面上から速やかに除去することで、斑の発生を抑制する。
【0014】
しかし、第一乾燥工程により塗布膜中の有機溶剤濃度が減少し乾燥速度が遅くなった状態のまま塗布膜面に乾燥風を吹き付け続けると、逆に斑発生の要因になる。このため、第一乾燥工程後に、乾燥風を全く供給しない無風乾燥工程を一旦行い、その後で再び塗布膜面に一方向流れの乾燥風を吹き付けて乾燥することで、乾燥ゾーン全体を通じて斑発生を抑制することができる。
【0015】
請求項2は請求項1において、前記無風乾燥工程は、前記塗布膜面の乾燥状態が恒率乾燥期から減率乾燥期に変化する位置に設けられることを特徴とする。
【0016】
請求項2は、乾燥ゾーン全体での乾燥を通じて、どの時点で無風乾燥工程を行うことが好ましいかを示したものであり、塗布膜面の乾燥状態が恒率乾燥期から減率乾燥期に変化する乾燥変化点の位置に設けられることが好ましい。これにより、塗布膜の乾燥における
斑の発生を一層抑制することができる。
【0017】
請求項3は請求項1において、前記無風乾燥工程は、前記乾燥ゾーンで乾燥される塗布膜中の固形分量が60〜80質量%になる位置に設けられることを特徴とする。
【0018】
請求項3は、乾燥ゾーン全体での乾燥を通じて、どの時点で無風乾燥工程を行うことが好ましいかの別の態様であり、乾燥ゾーンで乾燥される塗布膜中の固形分量が60〜80質量%になる位置に設けられることが好ましい。これは、塗布膜中の固形分量が60〜80質量%になる範囲に乾燥変化点が位置するからである。従って、試験乾燥等により、塗布膜中の固形分量を測定すれば、乾燥ゾーンのどの位置で無風乾燥工程を行えばよいかが分かる。
【0019】
請求項4は請求項1において、前記第一乾燥風ゾーンの長さが、前記長尺状支持体の走行方向において80mm以上1600mm以下であると共に、前記無風ゾーンの長さが、前記長尺状支持体の走行方向において20mm以上1000mm以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項4は、乾燥ゾーン全体での乾燥を通じて、どの時点で無風乾燥工程を行うことが好ましいかの更に別の態様であり、第一乾燥風ゾーンの長さと無風ゾーンの長さとを上記のように設定したので、上記した乾燥変化点を無風乾燥工程内に位置させることが可能となる。
【0021】
請求項5は請求項1から4のいずれかにおいて、前記第一乾燥工程の乾燥風の平均風速が0.3m/s以上0.6m/s以下であると共に、前記第二乾燥工程の乾燥風の平均風速が0.1m/s以上0.3m/s以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項5によれば、第一乾燥工程での乾燥風の平均風速よりも、第二乾燥工程の乾燥風の平均風速を小さくしたので、斑の発生を一層抑制できる。
【0023】
請求項6は請求項1から5いずれかにおいて、前記乾燥される塗布膜は、光学補償シートを製造する際に、ラビング処理が施された配向膜上に塗布された液晶層用の塗布液であることを特徴とする。
【0024】
本発明の乾燥方法は、ラビング処理が施された配向膜上に塗布された液晶層用の塗布液を、長尺状支持体に塗布形成した塗布膜の乾燥において特に有効だからである。
【0025】
請求項7は請求項1から6いずれかにおいて、前記塗布液が、下記(i)のモノマーから導かれる繰り返し単位を含むフルオロ脂肪族基含有ポリマーを含有するとともに、該フルオロ脂肪族基含有ポリマーが下記(ii)の条件を満たすことを特徴とする。
【0026】
(i)末端構造が−(CFCFFで表される第1のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、末端構造が−(CFCFFで表される第2のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、を含むフルオロ脂肪族基含有共重合体である。
【0027】
(ii)前記塗布液中の前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーの濃度C質量%と該フルオロ脂肪族基含有ポリマー中のフッ素含量F%との積C×Fが0.05〜0.12であるときの前記塗布液の最大泡気圧法にて測定した10m秒と1000m秒との表面張力比(塗布後10m秒における表面張力/塗布後1000m秒後の表面張力)が1.00〜1.20である。
【0028】
請求項7によれば、上記(i)のモノマーの繰り返し単位を含み、かつ上記(ii)を満たすフルオロ脂肪族基含有ポリマーを、塗布液に添加するようにした。これにより、塗布後の初期乾燥において前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーが塗布液の空気界面に速やかに移動し、塗膜空気界面を安定化するため、塗布量を増加して乾燥ムラが発現し易い条件下で高速乾燥しても乾燥ムラが生じるのを抑制できる。また、C×Fが0.05未満であると、空気界面での液晶化合物の制御が十分でなく、光学フィルムの外観特性(ムラの程度)が悪くなるという問題があり、0.12を超えると液晶性組成物を透明支持体に塗布したときの塗布性が十分でなく光学フィルムの外観特性(ハジキ故障が発生する)が悪くなるという問題がある。C×Fが前記範囲であると、かかる問題がなく、初期乾燥時のムラをより軽減することができる。
【0029】
なお、上記(ii)の表面張力比は、主に室温(25℃)における値であり、塗布液の表面張力は、最大泡圧法により動的表面張力測定装置(MPT2:LAUDA製)を用いて測定することができる。また、塗布液の塗布量は、5.0〜6.4mL/mがより好ましい。なお、最大泡圧法とは、液の中に差し込んだ細管から窒素ガスを吹き出して泡を膨らますことにより、液体と気体の界面を広げ、その際の最大圧力から表面張力を測定する方法である。
【0030】
請求項8は請求項1から7いずれかにおいて、形成された前記塗布膜は、ESCA法により測定したフッ素原子存在率(F/C)を前記塗布膜の空気界面において100とした場合に空気界面から深さ方向に10nmの位置でのフッ素原子存在率(F/C)が2〜10であることを特徴とする。
【0031】
請求項8によれば、塗布膜の表面のフッ素濃度が高く、さらに、塗布膜の内部においても、フッ素が存在するため、ため、外観特性に優れた塗布膜を形成することができる。
【0032】
請求項9は前記目的を達成するために、走行する長尺状支持体に塗布機により有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜の乾燥装置において、前記塗布機の直後に設けられ、前記走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲む乾燥ゾーンを形成する乾燥装置本体と、前記乾燥ゾーンの前半側に形成され、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備えた第一乾燥風ゾーンと、前記乾燥ゾーンの後半側に形成され、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備えた第二乾燥風ゾーンと、前記第一乾燥風ゾーンと前記第二乾燥風ゾーンとの間に形成され、乾燥風を供給しない無風ゾーンと、前記第一乾燥風ゾーン、前記第二乾燥風ゾーン、及び前記無風ゾーンを互いに分割する仕切板と、を備えたことを特徴とする塗布膜の乾燥装置を提供する。
【0033】
請求項9によれば、乾燥装置本体に形成される乾燥ゾーンの前半側に、乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備える第一乾燥ゾーンを備え、次に、乾燥風を供給しない無風
ゾーンを備えている。したがって、充分に有機溶剤を含んでいる乾燥の初期段階において、風を供給することで早期に乾燥させることができる。また、乾燥が進み、有機溶剤が少なくなった時点は、乾燥速度の分布が大きくなり、斑が発生しやすくなるため、風を供給せず、乾燥速度を遅くすることにより、斑の発生を抑制することができる。
【0034】
さらに、無風ゾーンの次には、乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備える第二乾燥ゾーンを備えている。無風ゾーンを通過した後は、再び乾燥速度の分布が小さくなるため、第二乾燥ゾーンにおいて乾燥風を供給することで、乾燥速度を向上させることができる。そして、各ゾーンは仕切板により分割されているため、乾燥風は各ゾーン内の一方端側から他方端側に流れ、他のゾーンに流れることがない。したがって、一方向の乾燥風を供給することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、乾燥中の乾燥風の供給位置及び風速を調節することにより、塗布直後の初期乾燥過程で発生する斑を抑制することができ、均一な乾燥をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面により本発明の塗布膜の乾燥方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0037】
図1は、本発明の塗布膜の乾燥装置の側面図であり、また、図2は図1を上方から見た平面図である。
【0038】
図1及び図2に示すように本発明の塗布膜の乾燥装置10は、主として、走行する長尺状支持体12(以下、「ウエブ12」と言う)を通過させて塗布膜の乾燥が行なわれる乾燥ゾーン14を形成する乾燥装置本体16と、乾燥ゾーン14の前半側に形成され、ウエブ12の幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段18を備える第一乾燥風ゾーン35と、乾燥風を供給しない無風ゾーン36と、乾燥ゾーン14の後半側に形成され、ウエブ12の幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段18を備える第二乾燥風ゾーン37とで構成される。そして、乾燥ゾーン14内は仕切版28により第一乾燥風ゾーン35、無風ゾーン36、及び第二乾燥風ゾーン37に分割されている。また、この乾燥装置10は、走行するウエブ12に有機溶剤を含む塗布液を塗布する塗布機20の直後に設けられる。
【0039】
なお、本発明において、「無風ゾーン」とは、乾燥風を供給しないゾーンのことをいう。塗布時にはラインが動いているためにウエブに同伴する風がウエブ進行方向に発生するが、乾燥風を供給していなければ、その乾燥ゾーンは、本発明において「無風ゾーン」と称する。この無風ゾーンの風速をライン停止時に風速計で測定すると0.1m/s以下の風速が検知されることがあるが、風速が検知されても本発明では「無風ゾーン」と称することとする。
【0040】
塗布機20としては、例えば、ワイヤーバー20Aを備えたバー塗布装置を使用することができ、複数のバックアップローラ22、24、26に支持されて走行するウエブ12の下面に塗布液が塗布されて塗布膜が形成される。
【0041】
乾燥装置本体16は、塗布機20の直後に設けられ、走行するウエブ12の塗布膜面側(ウエブの下面側)に沿った長四角な箱体状に形成され、箱体の各辺のうちの塗布膜面側
の辺(箱体の上辺)が切除されている。これにより、走行するウエブ12の乾燥される塗布膜面を囲む乾燥ゾーン14が形成される。乾燥ゾーン14は、乾燥装置本体16を、ウエブ12の走行方向に直交した複数の仕切板28、28・・・で仕切ることにより、複数の分割ゾーン14A、14B、14C、14D、14E、14F、14G(本実施例では7つの分割ゾーン)に分割される。そして、本実施例においては、14A,14Bが第一乾燥風ゾーン35、14Cが無風ゾーン36、14D〜14Gが第二乾燥風ゾーン37を構成している。この場合、乾燥ゾーン14を分割する仕切板28の上端と、ウエブ12に形成された塗布膜面との距離は、0.5mm〜12mmの範囲が好ましく、更に好ましくは1mm〜10mmの範囲である。また、第一乾燥風ゾーン35及び第二乾燥風ゾーン37には、一方向気流発生手段18(図2参照)が設けられている。ただし、無風ゾーンにおいては、風を供給しなければ、本発明の乾燥方法により乾燥することができるため、無風ゾーンにおいて、一方向気流発生手段を設けることも可能である。また、本実施例においては、2つの分割ゾーン14A、14Bを第一乾燥風ゾーン35、次の一つの分割ゾーン14Cを無風ゾーン36、次の4つの分割ゾーン14D〜14Gを第二乾燥風ゾーン37としているが、塗布液の種類、乾燥のしやすさ等により、適宜変更が可能である。
【0042】
一方向気流発生手段18は、主として、乾燥装置本体16の両側辺の一方側に形成された吸込口18A、18B、18C、18D、18E、18Fと、他方側に吸込口18A〜18Fに対向して形成された排気口18G、18H、18I、18J、18K、18Lと、排気口18G〜18Lに接続された排気手段18M、18N、18P、18Q、18R、18Sとで構成される。これにより、排気手段18M〜18Sを駆動させることにより、吸込口18A〜18Fから分割ゾーン14A、14B、14D〜14Gに吸い込まれたエアが排気口18G〜18Lから排気されるので、各分割ゾーン14A、14B、14D〜14Gには、ウエブ12幅方向の一方端側(吸込口側)から他方端側(排気口側)に向けて一方向に流れる乾燥風が発生する。そして、各分割ゾーン14A〜14Gは仕切板28により、分割されているため、他の分割ゾーンの乾燥風が、別の分割ゾーンに供給されることがない。したがって、一つの分割ゾーン内で供給されたエアは、同一の分割ゾーン内で排気されるため、乾燥風は一方向に供給される。また、この一方向気流発生手段18は、排気手段18M〜18Sにより、分割ゾーン14A、14B、14D〜14Gごとに個々に排気量を制御できるようになっている。吸込口18A〜18Fから吸い込まれる乾燥風としては、温度・湿度が空調された空調風が好ましい。
【0043】
第一乾燥風ゾーン35の長さは、長尺状支持体の走行方向において、80mm以上1600mm以下であることが好ましく、より好ましくは50mm以上200mm以下である。また、無風ゾーン36の長さは、長尺状支持体の走行方向において、20mm以上1000mm以下であることが好ましく、より好ましくは100mm以上500mm以下である。
【0044】
第一乾燥ゾーン35の長さを上記範囲とすることにより、第一乾燥工程において、乾燥を充分に行うことができるため、ブロードな斑Aの発生を抑制することができる。80mmより短いと、乾燥が不充分であり、乾燥速度が遅くなる。また、1600mmより長いと初期乾燥が終了し、乾燥速度が風の影響を受けやすくなるため、ブロードな斑Aが発生しやすくなる。
【0045】
また、無風ゾーン36の長さを上記範囲とすることにより、塗布液の乾燥速度を遅くすることができ、乾燥状態が恒率乾燥期から減率乾燥期に変化する乾燥変化点を無風ゾーン内に位置させることができる。80mmより短いと、乾燥変化点を無風ゾーン内に位置させることが困難であり、1000mを越えると、乾燥の終了段階で、ウエブの走行によりラビング方向と異なる風向きの風が発生し、シャープな斑Bが発生しやすくなる。
【0046】
なお、第一乾燥風ゾーン及び無風ゾーンは、複数の分割ゾーンにより形成されている場合は、すべてのゾーンを合わせた長さをいう。
【0047】
また、第一乾燥風工程の乾燥風の平均風速は、0.3m/s以上0.6m/s以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/s以上0.6m/s以下である。上記範囲とすることにより、第一乾燥工程において、乾燥を充分に行うことができるため、ブロードな斑Aの発生を抑制することができる。0.3m/sより遅い場合は、乾燥が不十分であり、乾燥速度が遅くなる。また、0.6m/sより速い場合は、乾燥変化点が第一乾燥ゾーン内に位置されるため、ブロードな斑Aが発生しやすくなる。
【0048】
また、第二乾燥工程の乾燥風の平均風速は、0.1m/s以上0.3m/s以下であることが好ましく、より好ましくは0.1m/s以上0.15m/s以下である。乾燥の終了段階において、塗布膜の下の配向膜に施されるラビング処理のラビング方向と異なる風向きの風によりシャープな斑Bが発生する。このシャープな斑Bの発生は、第一乾燥工程の乾燥風より弱い乾燥風を一定の方向に供給することで抑制することができる。したがって、上記範囲内の乾燥風を供給することが好ましい。
【0049】
なお、本発明において、平均風速とは、各分割ゾーンの風速の絶対値に分割ゾーンのウエブの搬送方向の長さをかけたものをたし、その合計を求めるゾーンの全体の長さで割ることにより求めることができる。
【0050】
乾燥装置本体16の幅はウエブ12の幅よりも大きくなるように形成して、乾燥ゾーン14の両側の開放部分を整風板32で蓋をした整風部分を設けるようにした。この整風部分は、吸込口18A〜18Gから塗布膜端までの距離と、塗布膜端から排気口18H〜18Nまでの距離を確保すると共に、乾燥風が吸込口18A〜18Gのみから乾燥ゾーン14内に吸い込まれ易くするもので、乾燥ゾーン14に急激な乾燥風の流れを作らないようにしたものである。この整風部分、即ち整風板32の長さとしては、吸込口側及び排気口側ともに、50mm以上150mm以下の範囲が好ましい。
【0051】
各分割ゾーン14A〜14Gのうち、特に塗布機に一番近い分割ゾーン14Aは、ウエブ12に塗布液が塗布された直後に、乾燥ゾーン14外の新鮮な空気、例えば上記した空調風が乾燥ゾーン14に入り込みにくくすることが重要である。この為には、塗布機20に隣接するように分割ゾーン14Aを配置することや前記した整風板32の他に、塗布機20のワイヤーバー20Aの位置と、バックアップローラ24の位置を調整し、ウエブ12が分割ゾーン14Aの直近を走行するようにして、ウエブ12で分割ゾーン14Aの開放部をあたかも蓋をするように構成することが好ましい。
【0052】
また、ウエブ12を挟んで、乾燥装置本体16の反対側位置には、前記空調風等の風により、ウエブ12の安定走行が阻害されないように遮蔽板34が設けられる。
【0053】
次に、上記の如く構成された乾燥装置10の作用を説明する。
【0054】
尚、ウエブ12は、予め塗布された配向膜形成用樹脂をラビング処理して配向膜となる層を有するものであると共に、塗布液は液晶性ディスコティック化合物を含む有機溶剤性塗布液の例で説明する。
【0055】
バックアップローラ22、24、26に支持され走行するウエブ12に塗布機20のワイヤーバー20Aで塗布液を塗布した直後、乾燥装置10によって塗布膜面の初期乾燥が行なわれる。この初期乾燥は、塗布直後、遅くとも5秒以内の塗布直後に乾燥風による乾燥を開始することが好ましい。
【0056】
この初期乾燥において、塗布直後の塗布膜面は有機溶剤が十分に含まれた状態にあり、特に有機溶剤を溶媒とする塗布液を塗布した直後の初期乾燥では有機溶剤の蒸発の分布(ゆらぎ)によって塗布膜面に温度分布が発生する。これが原因で表面張力の分布が発生し、塗布膜面内で塗布液の流動が起き、乾燥の遅い部分の塗布膜が薄くなり、ブロードな斑Aとなる。
【0057】
このブロードな斑は速乾することで解消されるため、初期の乾燥風を大きくすることが有効である。しかし、このブロードな斑が発生し得る乾燥ゾーンで風を全く吹かさないと、逆にブロードな斑が発生しないことを発明者らは発見した。これが無風ゾーンを設けることの意味である。
【0058】
つまり、初期の乾燥風を大きくすること、または、全く風を吹かないことにより、ブロードな斑Aの発生を抑制することができる。しかし、乾燥変化点において、乾燥速度の分布が大きくなるため、乾燥風の影響により、乾燥速度が著しく変化し、ブロードな斑Aが発生する。また、最初から全く風を供給しないで乾燥した場合、乾燥時間が増大し、生産効率が悪化するという問題は解決されない。
【0059】
これを回避するために乾燥変化点に対応する乾燥ゾーンの風を無風にし、乾燥を極端に遅くさせることにより、ブロードな斑Aの発生を抑制することができる。
【0060】
また、液晶性ディスコティック化合物の配向方向は、配向膜形成用樹脂の表面をラビング処理して決めているが、初期乾燥においてラビング方向と異なる風向きの風速が速い場合、風が合流する場合、風の渦が発生している場合等の風が塗布膜面に当たることで塗布膜面の一部に配向方向のずれを生じさせ、これがシャープな斑Bの原因となる。したがって、ブロードな斑が発生する乾燥ゾーンを通過した後ではシャープな斑が発生しない程度に弱い風を吹かせることが重要である。これが、膜全体が恒率乾燥期から減率乾燥期になったところで、再度風を与えて乾燥させることの効果である。
【0061】
このことから、初期乾燥時における塗布膜面の斑A、Bを防止するためには、塗布してから塗布膜面における塗膜液の流動が停止するまでの初期乾燥の間、外部からの不均一な風が塗布膜面に当たるのを阻止すると共に、塗布膜面近傍の有機溶剤濃度を常に一定に保つことが重要になる。
【0062】
ここで乾燥期について説明する。詳細は化学工学便覧の乾燥章に記載してある通りである。図4に乾燥時間に対する膜面温度の温度変化を示す。図4は横軸が乾燥時間、縦軸が膜面温度である。一定の風速と風温で塗布膜を乾燥させた場合、図4に示すように、ある時間から湿球温度であった膜面温度が上昇する。上昇前を恒率乾燥期と称し、湿球温度である間は膜内の揮発分の膜内移動が充分早く、表面から揮発する液が充分存在する状態である。
【0063】
しかし上昇し始める減率乾燥期には膜内の揮発分が表面に不足して同じ風を与えても乾燥速度が遅い状態になる。この臨界点である乾燥変化点は固形分量が60〜80%になる点である。
【0064】
ここでいう固形分量とは
固形分量(%)=固形分/(揮発分+固形分)×100
である。固形分及び(揮発分+固形分)は、重量測定により、以下の式(1)及び式(2)により求めることができる。
固形分=[A:乾燥終了した膜の重量]−[B:塗布前の支持体の重量]・・・(1)
揮発分+固形分=[C:ある乾燥ゾーンでサンプルした膜の重量]−[B:塗布前の支持体の重量] ・・・(2)
したがって、あるゾーンでサンプルを採取した時に
A:揮発分の沸点以上で絶乾させた重量、
B:Aを脱膜して測った重量、
C:サンプルしてすぐに測った重量、
を各々測定することにより固形分量を得ることができる。本発明の実施例の条件で無風ゾーンのサンプルの固形分量を測定すると、いずれも60〜80%の間であった。
【0065】
本発明で使用されるウエブ12としては、一般に幅0.3〜5m、長さ45〜10000m、厚さ5〜200μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布またはラミネートした紙、アルミニウム、銅、錫等の金属箔等、或いは帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたものが含まれる。更に、前記したウエブ12には、光学補償シート塗布液、磁性塗布液、写真感光性塗布液、表面保護帯電防止あるいは滑性用塗布液等がその表面に塗布され、乾燥された後、所望する長さ及び幅に裁断されるものも含まれ、これらの代表例としては、光学補償シート、各種写真フィルム、印画紙、磁気テープ等が挙げられる。
【0066】
塗布液の塗布方法として、上記したバーコーティング法の他、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法及びスライドコーティング法を使用することができる。特にバーコーティング法、エクストルージョンコーティング法、スライドコーティング法が好適に使用できる。
【0067】
また、本発明において同時に塗布される塗布液の塗布層の数は単層に限定されるものではなく、必要に応じて同時多層塗布方法にも適用できる。
【0068】
[塗布液]
次に、本発明で使用される塗布液について説明する。本発明の塗布膜の乾燥方法に用いられる塗布液は、特に限定されず用いることができる。しかし、好ましくは、塗布液中のフルオロ脂肪族基含有ポリマーの濃度C質量%と、フルオロ脂肪族基含有ポリマーに起因するフッ素含量F質量%との積C×Fが0.05〜0.12であるときの前記塗布液の最大泡気圧法にて測定した10m秒と1000m秒との表面張力比(塗布後10m秒における表面張力/塗布後1000m秒後の表面張力)が1.00〜1.20を満たすことが好ましい。塗布液の表面張力を適切に調整することにより、塗布液のレベリング性を向上させることができるため、表面張力比を上記範囲とすることにより、光学異方性層に好適に用いることができる。
【0069】
すなわち、上記の表面張力比が1.20よりも大きいと塗布直後の空気界面への移動速度が遅く、空気界面での塗布表面の安定性が劣り、初期乾燥時のムラを低減する効果が十分でない。表面張力比が上記1.00〜1.20の範囲であれば、このような不具合がなく、初期乾燥時のムラをより軽減できる。
【0070】
液晶化合物を主とする塗布組成物(溶媒を除いた塗布成分)に対する本発明に係るフルオロ脂肪族基含有ポリマーの含有量は、0.05〜1質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であることがより好ましい。フルオロ脂肪族基含有ポリマーの添加量が0.05質量%未満では、レベリング性を向上させる効果が不十分であり、また1質量%よりも多くなると、光学フィルムとしての性能(例えばレターデーションの均一性等)に悪影響を及ぼしたりするためである。
【0071】
また、本発明者らは、塗布液の表面張力が、塗布液に添加するフルオロ脂肪族基含有ポリマーの化学構造、具体的にはフルオロ脂肪族基含有ポリマーを構成する少なくとも1つのフルオロ脂肪族基含有モノマーの末端構造と深く関係することを見出した。
【0072】
すなわち、フルオロ脂肪族基含有ポリマーを構成するフルオロ脂肪族基含有モノマーの末端構造は、従来の−(CFCFHから−(CFCFFとすることにより、有機溶媒を多く含有する塗布液の表面張力を小さくすることができる。また、nは2〜4が好ましく、2又は3がより好ましい。
【0073】
さらに、フルオロ脂肪族基含有モノマーの末端構造が、−(CFCFFである第1のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、−(CFCFFである第2のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、を含有する共重合体であることがより好ましい。
【0074】
なお、フルオロ脂肪族基含有ポリマーにおいては、末端構造以外の部分については、特に限定されず、種々の繰り返し単位を採ることができる。
【0075】
次に、フッ素ポリマーについて説明する。本発明の乾燥方法に好ましく用いられるフッ素ポリマーは、下記一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーから導かれる繰り返し単位を少なくとも1種及びポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び(又は)ポリ(オキシアルキレン)メタクリレートのモノマーから導かれる繰り返し単位を少なくとも1種含むフルオロ脂肪族基含有ポリマーである。
【0076】
【化1】

【0077】
は水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子、イオウ原子又は−N(R)−を表し、mは1以上6以下の整数、nは2〜4の整数を表す。Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を表し、好ましくは水素原子又はメチル基である。Xは酸素原子が好ましい。
【0078】
一般式[1]中のmは、1以上6以下の整数が好ましく、2が特に好ましい。また、nは2以上4以下であって、特に2又は3が好ましく、また、これらの混合物を用いてもよい。
【0079】
次に、フルオロ脂肪族基含有ポリマーを構成する他の成分であるポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び(又は)ポリ(オキシアルキレン)メタクリレートについて説明する(以下、アクリレートとメタクリレートの両方を指すときには、両方をまとめて(メタ)アクリレートと呼ぶこともある)。
【0080】
ポリオキシアルキレン基は(OR)で表すことができ、Rは2〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、例えば−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)CH−、又は−CH(CH)CH(CH)−であることが好ましい。
【0081】
前記ポリ(オキシアルキレン)基中のオキシアルキレン単位は、ポリ(オキシプロピレン)におけるように同一であってもよく、また互いに異なる2種以上のオキシアルキレンが不規則に分布されたものであってもよく、直鎖又は分岐状のオキシプロピレン又はオキシエチレン単位であったり、直鎖又は分岐状のオキシプロピレン単位のブロック及びオキシエチレン単位のブロックのように存在するものであったりしてもよい。
【0082】
このポリ(オキシアルキレン)鎖は、複数のポリ(オキシアルキレン)単位同士が1つ又はそれ以上の連鎖結合(例えば、−CONH−Ph−NHCO−、−S−など、ここでPhはフェニレン基を表す)で連結されたものも含むことができる。連鎖の結合が3つ又はそれ以上の原子価を有する場合には、これは分岐鎖のオキシアルキレン単位を得るための手段を供する。また、この共重合体を本発明に用いる場合には、ポリ(オキシアルキレン)基の分子量は250〜3000が適当である。
【0083】
ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及びメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(オキシアルキレン)材料、例えば商品名“プルロニック”[Pluronic(旭電化工業(株)製)、“アデカポリエーテル”(旭電化工業(株)製)“カルボワックス”[Carbowax(グリコ・プロダクス)]、“トリトン”[Toriton(ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas製))及び“P.E.G”(第一工業製薬(株)製)として販売されているものを公知の方法でアクリル酸、メタクリル酸、アクリルクロリド、メタクリルクロリド又は無水アクリル酸等と反応させることによって製造できる。また、これとは別に、公知の方法で製造したポリ(オキシアルキレン)ジアクリレート等を用いることもできる。
【0084】
本発明に用いられるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの一態様としては、一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートとの共重合体が用いられる。
【0085】
本発明に用いられるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの好ましい態様としては、一般式[1]において、末端構造が−(CFCFFで表される第1のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、−(CFCFFで表される第2のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートと、を含有する共重合体が用いられる。
【0086】
この場合、フルオロ脂肪族基含有ポリマー中の一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの総量は、該フルオロ脂肪族基含有ポリマーの構成モノマー総量の20〜50質量%が好ましく、40質量%程度がより好ましい。また、(第1のフルオロ脂肪族基含有モノマー)/(第1のフルオロ脂肪族基含有モノマー+第2のフルオロ脂肪族基含有モノマー)が、20〜80質量%であることが好ましい。
【0087】
本発明で用いられるフルオロ脂肪族基含有ポリマー中の一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの量は、該フルオロ脂肪族基含有ポリマーの構成モノマー総量の5〜60質量%であるのが好ましく、35〜45質量%程度であるのがより好ましい。
【0088】
ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及び/又はポリ(オキシアルキレン)メタクリレートの量は、該フルオロ脂肪族基含有ポリマーの構成モノマー総量の40〜95質量%であるのが好ましく、55〜65質量%であるのがより好ましい。
【0089】
本発明で用いられるフルオロ脂肪族基含有ポリマーの好ましい重量平均分子量は、3000〜100000が好ましく、6000〜80000がより好ましい。
【0090】
本発明で用いられるフルオロ脂肪族基含有ポリマーは公知慣用の方法で製造することができる。たとえば、上述したフルオロ脂肪族基を有する(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート等の単量体を含む有機溶媒中に、汎用のラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより製造てきる。また、場合によりその他の付加重合性不飽和化合物を、さらに添加して上記と同じ方法にて製造することができる。各モノマーの重合性に応じ、反応容器にモノマーと開始剤を滴下しながら重合する滴下重合法なども、均一な組成のポリマーを得るために有効である。
【0091】
次に、上述したフルオロ脂肪族基含有ポリマー以外の塗布液の材料について説明する。
【0092】
(液晶性化合物)
液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0093】
なお、液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0094】
(ディスコティック液晶性化合物)
ディスコティック液晶性化合物には、C.Destradeらの研究報告(Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年))に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告(Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990))に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告(Angew.Chem.96巻、70頁(1984年))に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告(J.C.S.,Chem.Commun.,1794頁(1985年))、J.Zhangらの研究報告(J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年))に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0095】
光学異方性層形成用の組成物中には、上述したような液晶性化合物、フルオロ脂肪族基含有ポリマーの他に、任意の添加剤を併用することができる。添加剤の例としては、ハジキ防止剤、配向膜のチルト角(光学異方性層/配向膜界面での液晶性化合物のチルト角)を制御するための添加剤、重合開始剤、配向温度を低下させる添加剤(可塑剤)、重合性モノマー及びポリマー、界面活性剤等が挙げられる。
【0096】
(ハジキ防止剤)
塗布時のハジキを防止するために、ハジキ防止剤を液晶性化合物、特にディスコティック液晶性化合物とともに使用できる。ハジキ防止剤は、液晶性化合物と相溶性を有し、液晶性化合物のチルト角変化や配向を著しく阻害しない高分子化合物(ポリマー)であれば特に制限はない。
【0097】
ハジキ防止剤として使用できるポリマーの例としては、特開平8−95030号公報に記載があり、特に好ましい具体的なポリマーの例としては、セルロースエステル類を挙げることができる。セルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロースおよびセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
【0098】
ハジキ防止剤として使用できるポリマーの添加量は、液晶性化合物の配向を阻害しないようにする上で、液晶性化合物に対して一般に0.1〜10質量%の範囲であるのが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあるのがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあるのが更に好ましい。
【0099】
(配向膜側傾斜角制御剤)
配向膜側表面の傾斜角を制御する添加剤として、分子内に極性基と非極性基の双方を有する化合物を光学異方性層中に添加することができる。
【0100】
極性基としては、R−OH、R−COOH、R−O−R、R−NH、R−NH−R、R−SH、R−S−R、R−CO−R、R−COO−R、R−CONH−R、R−CONHCO−R、R−SOH、R−SO−R、R−SONH−R、R−SONHSO−R、R−C=N−R、HO−P(−R)、(HO−)P−R、P(−R)、HO−PO(−R)、(HO−)PO−R、PO(−R)、R−NO、R−CN、等が例として挙げられる。また、有機塩(例えば、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩)でもよい。
【0101】
極性基としては、R−OH、R−COOH、R−O−R、R−NH、R−SOH、HO−PO(−R)、(HO−)PO−R、PO(−R)もしくは有機塩が好ましい。ここで、上記極性基中に含まれるRは、非極性基を表し、例えば、下記の非極性基が挙げられる。
【0102】
非極性基としては、アルキル基〔好ましくは炭素数1〜30の直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基〕、アルケニル基[好ましくは炭素数1〜30の直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基]、アルキニル基[好ましくは炭素数1〜30の直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基]、アリール基[好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基]、シリル基[好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基]が例として挙げられる。
【0103】
これらの非極性基は、更に置換基を有していてもよく、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールアゾ基、ヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基等が例として挙げられる。
【0104】
また、光学異方性層形成用の組成物に配向膜チルト制御剤を添加することもできる。配向膜チルト制御剤の存在下で液晶性化合物の分子を配向させることにより、配向膜側界面における液晶性分子のチルト角を調整することができる。このときのチルト角の変化量は、ラビング密度に関係がある。ラビング密度が高い配向膜とラビング密度の低い配向膜を比較すれば、ラビング密度の低い配向膜の方が、配向膜チルト制御剤の添加量が同一であっても、チルト角が変わりやすい。したがって、配向膜チルト制御剤の添加量の好ましい範囲は、用いる配向膜のラビング密度および所望のチルト角の大きさ等によって変動するが、一般的には、液晶性化合物の質量に対して0.0001質量%〜30質量%であるのが好ましく、0.001質量%〜20質量%であるのがより好ましく、0.005質量%〜10質量%であるのがさらに好ましい。なお、チルト角とは、液晶性化合物の分子の長軸方向と界面(配向膜界面あるいは空気界面)の法線がなす角度をいう。
【0105】
(重合開始剤)
液晶性化合物の分子を配向状態に固定して光学異方性層を形成することが好ましい。配向状態を固定する方法としては、重合反応を利用するのが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれるが、熱により支持体等が変形、変質するのを防ぐためにも、光重合反応が好ましい。
【0106】
光重合開始剤の例としては、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各公報記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号公報記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号公報記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各公報記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号公報記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号、米国特許4239850号の各公報記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号公報記載)が含まれる。
【0107】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがより好ましい。液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
【0108】
照射エネルギーは、20mJ/cm〜50J/cmの範囲にあることが好ましく、20mJ/cm〜5000mJ/cmの範囲にあることがより好ましく、100mJ/cm〜800mJ/cmの範囲にあることが更に好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0109】
(重合性モノマー)
光学異方性層形成用の組成物には、液晶性化合物とともに重合性モノマーを含んでもよい。本発明に使用できる重合性モノマーとしては、液晶性化合物と相溶性を有し、液晶性化合物のチルト角変化や配向阻害を著しく引き起こさない限り、特に限定はない。これらの中では重合活性なエチレン性不飽和基、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基およびメタクリロイル基などを有する化合物が好ましく用いられる。上記重合性モノマーの添加量は、液晶性化合物に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。また反応性官能基数が2以上のモノマーを用いると、配向膜と光学異方性層間の密着性を高める効果が期待できるため、特に好ましい。
【0110】
(ポリマー)
光学異方性層形成用の組成物には、本発明に係るフルオロ脂肪族基含有ポリマーが含まれているが、更に別のポリマーをディスコティック液晶性化合物とともに使用してもよい。そのポリマーとしては、ディスコティック液晶性化合物とある程度の相溶性を有し、ディスコティック液晶性化合物に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0111】
このようなポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース及びセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
【0112】
ディスコティック液晶性化合物の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、ディスコティック液晶性化合物に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあることが更に好ましい。ディスコティック液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0113】
(塗布溶剤)
光学異方性層形成用の組成物は、塗布液として調製できる。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましい。
【0114】
有機溶媒としては、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0115】
(塗布膜)
本発明の乾燥方法により形成された塗布膜は、ESCA法により測定したフッ素原子存在率(F/C)を前記塗布膜の空気界面において100とした場合に空気界面から深さ方向に10nmの位置でのフッ素原子存在率(F/C)が2〜10であることが好ましい。塗布膜の表面のフッ素濃度を高くし、さらに、塗布膜の内部においても、フッ素を含ませることにより、外観特性の良好な塗布膜を形成することができる。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例により本発明の実質的な効果を説明する。
【0117】
[試験例1:乾燥装置]
本発明の乾燥装置を用いて、0.2〜0.7m/sの風速で表の実施例1〜11、比較例1〜5の条件で乾燥を行い、塗膜の斑の発生を確認した。風速はライン停止状態で風速計を360度回転させて最大になる値で測定した。
【0118】
先ず、光学補償シートの製造工程について説明すると、図3のように送出機40で送り出されたウエブ12は複数のガイドローラ42、42・・・によって支持されながらラビング処理装置44、塗布機20そして、初期乾燥を行なう本発明の乾燥装置10、本乾燥を行なう乾燥ゾーン46、加熱ゾーン48、紫外線ランプ50を通過して巻取機52で巻き取られる。
【0119】
ウエブ12としては、厚さ80μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士写真フイルム(株)製)を使用した。そして、ウエブ12の表面に、長鎖アルキル変性ポバール(MP−203、クラレ(株)製)の2重量パーセント溶液をフィルム1m当り25ml塗布後、60°Cで1分間乾燥させて造られた配向膜用樹脂層を形成したウエブ12を、30m/分で搬送走行させながら、樹脂層表面にラビング処理を行って配向膜を形成した。
【0120】
そして、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、塗布液としては、ディスコティック化合物TE−8の(3)とTE−8の(5)の重量比で4:1の混合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製造)を前記混合物に対して1重量パーセント添加した混合物の40重量%メチルエチルケトン溶液とする液晶性化合物を含む塗布液を使用した。ウエブ12を走行速度30m/分で走行させながら、この塗布液を配向膜上に、塗布液量がウエブ1m当り5ml〜7mlになるようにワイヤーバー20Aで塗布した。そして、塗布直後に乾燥装置10を使用して初期乾燥を行なった。
【0121】
また、乾燥ゾーン14を7分割する仕切板28の上端と塗布膜面との間隔は5〜9mmの範囲に設定して行った。また、乾燥装置10で初期乾燥されたウエブ12は、100°Cに調整された乾燥ゾーン46及び、130°Cに調整された加熱ゾーン48を通過させてネマチック相を形成した後、この配向膜及び液晶性化合物が塗布されたウエブ12を連続搬送しながら、液晶層の表面に紫外線ランプ50により紫外線を照射した。
【0122】
乾燥装置10内の風向きを図5に示す。(A)は、従来の乾燥装置の風向きを示す。(B)は、本発明の乾燥装置の乾燥風の風向きを示す。図に示すように、本発明の乾燥装置は、第一乾燥風通気ゾーンの次に無風ゾーンが設けられ、その後、第二乾燥風通気ゾーンが設けられている。
【0123】
結果を図6に示す。なお、図6における斑の発生状況、総合評価については、以下の基準により評価した。
(斑の発生状況)
○・・・斑が発生しなかった
△・・・斑は僅かに発生するが品質上問題にならないレベルの斑である
×・・・斑の発生が見られた
(総合判定)
○・・・製品として許容でき極めてよい面状である
△・・・製品として許容できる
×・・・製品として許容できない
その結果、図6から分かるように、無風ゾーンを設けなかった比較例1においては、恒率乾燥期から減率乾燥期に変化する際に風が供給されるため、乾燥速度に分布がみられ、ブロードな斑が発生している。また、無風ゾーンが長い実施例5は、風は供給していないもののウエブが走行しているため、ウエブの走行方向に風が発生し、シャープな斑が僅かに発生していた。第一乾燥風ゾーンの長い実施例8、及び、第一乾燥風ゾーンの風速が速い実施例12においても、第一乾燥工程の乾燥が速いため、その後の第一乾燥工程における乾燥風により、シャープな斑が僅かに発生していた。また、第一乾燥工程における乾燥風の速度が弱い実施例10においては、乾燥風の供給が不十分であるため、均一に乾燥されず、ブロードな斑が僅かに確認された。
【0124】
以上より、第一乾燥ゾーンの後に、無風ゾーンを設けることにより、ブロードな斑およびシャープな斑の発生を抑制することができた。また、乾燥ゾーンの長さ、乾燥風の風速を適正な範囲で乾燥させることにより、さらに良好な品質の塗布膜を得ることができた。
【0125】
[試験例2:塗布液(表面張力)]
図7に示す組成を用いて、メチルエチルケトンに溶解し、塗布液を調整した。ディスコティック液晶性化合物は、下記のディスコティック液晶性化合物(1)を用いた。また、フルオロ脂肪族基含有ポリマーは下記の化合物(P−0)から(P−4)の化合物を用いて塗布液を調整した。
【0126】
【化2】

【0127】
化合物(P−0):酸性基含有モノマー
【化3】

【0128】
化合物(P-1):ωHC6型ポリマー
【化4】

【0129】
化合物(P-2):ωFC6型ポリマー
【化5】

【0130】
化合物(P-3):ωF(C6+C4)型ポリマー
【化6】

【0131】
化合物(P-4):ωF(C6+C4)型ポリマー
【化7】

【0132】
このように、フルオロ脂肪族基含有ポリマー等の組成が異なる塗布液について、エクストルージョン塗布方式(E型)により透明支持体上に塗布した。そして、塗布直後からの塗布液の表面張力の時間変化と、外観特性との関係について評価した。
【0133】
塗布液の表面張力は、最大泡圧法により動的表面張力測定装置(MPT2:LAUDA製)を用いて測定した。この方法では、フルオロ脂肪族基含有ポリマーを含む塗布液を一定量ビーカー内に入れ、その中に差し込んだ細管から窒素ガスを吹き出して泡を膨らませ、液体と気体の界面を広げる際の最大圧力から表面張力を求めた。この結果を図8に示す。
【0134】
図8に示すように、フルオロ脂肪族基含有ポリマーとしてωF(C4+C6)型ポリマーを用いた実施例16、17では、ωFC4型ポリマー又はωFC6型ポリマーを単独で用いた比較例2、4、5よりも塗布直後から表面張力が低かった。また、実施例16、17では、図8に示すように、表面張力比(10m秒後の表面張力/1000m秒後の表面張力)が1.1mN/mと小さかった。
【0135】
このことから、フルオロ脂肪族基含有ポリマーとしてωF(C4+C6)型ポリマーを用いた実施例16、17では、ωFC4型ポリマー又はωFC6型ポリマーを単独で用いた比較例2、4、5よりも塗布直後の空気界面の吸着速度が速く、塗膜表面を安定化する効果が高いことわかる。これにより、初期乾燥により生じるムラ故障を防止でき、光学フィルムの外観特性を向上できることがわかった。
【0136】
また、フルオロ脂肪族基含有ポリマーとしてωH型ポリマーを用いた比較例3では、塗布直後の表面張力は低く、空気界面への吸着速度は速いが、ωH型ポリマーの一部にH基を有するため空気界面安定化効果が低く、外観特性が劣ることがわかった。また、同様の試験をバー塗布方式についても実施した結果、同様の傾向が得られた。
【0137】
[試験例3:塗布液(フッ素原子存在比率)]
本発明の乾燥装置を用いて実施例16、比較例2、3の塗布液を用いて塗布膜の形成、乾燥を行った。塗布膜の形成条件は、ウエブを走行速度30m/分で走行させながら、塗布液量がウエブ1m当たり5ml〜7mlになるように行った。乾燥後のフッ素原子存在比率をESCA分析により測定した。結果を図9に示す。なお、フッ素濃度はESCA分析により測定した。測定には、JEOL製JPS−9000MXを用いて行った。また、図9における外観特性については、以下の基準により評価した。
【0138】
(偏光板の作製)
作製した光学フィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、ポリマー基材(TACフィルム)面で偏光子の片側に貼り付けた。また、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(TD−80U:富士写真フイルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付けた。
【0139】
偏光子の透過軸とポリマー基材の遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と上記トリアセチルセルロースフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。このようにして偏光板を作製した。
【0140】
(平面高輝度光源上でのムラ評価)
上記偏光板を平面高輝度光源(群馬ウシオ電機製 FP901高輝度平面光源)に貼合し、判断基準となるレベル見本と対比させて、肉眼によりムラを評価した。
○・・・レベル見本同等以上に優れる。
×・・・レベル見本より劣る。
【0141】
その結果、フルオロ脂肪族基含有ポリマーとして、化合物(P-3)を含む塗布液を用いた実施例16は、形成された塗布膜表面のフッ素濃度が100%であり、かつ、深さ方向に対しても、塗布膜内部にフッ素を含んでおり、外観特性の良好な塗布膜が得られた。化合物(P−2)を用いた比較例2および化合物(P−1)を用いた比較例3は、フッ素が、表面のみに存在する、または、表面のフッ素濃度が100%でないため、外観特性が良好ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の乾燥装置の側面図である。
【図2】本発明の乾燥装置の平面図である。
【図3】光学補償シートの製造工程に、本発明の乾燥装置を組み込んだ工程図である。
【図4】乾燥時間に対する膜面温度の温度変化を示す図である。
【図5】従来の乾燥装置の乾燥風の風向き(A)、本発明の乾燥装置の乾燥風の風向き(B)を示す図である。
【図6】本実施例の結果を示す表図である。
【図7】本実施例の結果を示す表図である。
【図8】本実施例の結果を示す表図である。
【図9】本実施例の結果を示す表図である。
【図10】従来の乾燥方式で発生した斑(ムラ)発生状況図である。
【図11】ブロードな斑(ムラ)を説明する説明図である。
【図12】シャープな斑(ムラ)を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0143】
10…乾燥装置、12…ウエブ、14…乾燥ゾーン、14A〜14G…分割ゾーン、16…乾燥装置本体、18…一方向気流発生手段、18A〜18F…吸込口、18G〜18L…排気口、18M〜18S…排気手段、20…塗布機、22、24、26…バックアップローラ、28…仕切板、32…整風板、35…第一乾燥風ゾーン、36…無風ゾーン、37…第二乾燥風ゾーン、A…ブロードな斑、B…シャープな斑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する長尺状支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜の乾燥方法において、
前記塗布直後に乾燥ゾーンを設けて、前記走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲むと共に、前記乾燥ゾーンでは、
前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第一乾燥風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する第一乾燥工程と、
乾燥風を吹かない無風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する無風乾燥工程と、
前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を供給する第二乾燥風ゾーンに、前記長尺状支持体を走行させて前記塗布膜面を乾燥する第二乾燥工程と、を順次行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法。
【請求項2】
前記無風乾燥工程は、前記塗布膜面の乾燥状態が恒率乾燥期から減率乾燥期に変化する乾燥変化点を含む位置に設けられることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項3】
前記無風乾燥工程は、前記乾燥ゾーンで乾燥される塗布膜中の固形分量が60〜80質量%になる位置に設けられることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項4】
前記第一乾燥風ゾーンの長さが、前記長尺状支持体の走行方向において80mm以上1600mm以下であると共に、前記無風ゾーンの長さが、前記長尺状支持体の走行方向において20mm以上1000mm以下であることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項5】
前記第一乾燥工程の乾燥風の平均風速が0.3m/s以上0.6m/s以下であると共に、前記第二乾燥工程の乾燥風の平均風速が0.1m/s以上0.3m/s以下であることを特徴とする請求項1から4いずれか記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項6】
前記乾燥される塗布膜は、光学補償シートを製造する際に、ラビング処理が施された配向膜上に塗布された液晶層用の塗布液であることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項7】
前記塗布液が、下記(i)のモノマーから導かれる繰り返し単位を含むフルオロ脂肪族基含有ポリマーを含有するとともに、該フルオロ脂肪族基含有ポリマーが下記(ii)の条件を満たすことを特徴とする請求項1から6いずれか記載の塗布膜の乾燥方法。
(i)末端構造が−(CFCFFで表される第1のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、末端構造が−(CFCFFで表される第2のフルオロ脂肪族基含有モノマーと、を含むフルオロ脂肪族基含有共重合体である。
(ii)前記塗布液中の前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーの濃度C質量%と該フルオロ脂肪族基含有ポリマー中のフッ素含量F%との積C×Fが0.05〜0.12であるときの前記塗布液の最大泡気圧法にて測定した10m秒と1000m秒との表面張力比(塗布後10m秒における表面張力/塗布後100m秒後の表面張力)が1.00〜1.20である。
【請求項8】
形成された前記塗布膜は、ESCA法により測定したフッ素原子存在率(F/C)を前記塗布膜の空気界面において100とした場合に空気界面から深さ方向に10nmの位置でのフッ素原子存在率(F/C)が2〜10であることを特徴とする請求項1から7いずれか記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項9】
走行する長尺状支持体に塗布機により有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜の乾燥装置において、
前記塗布機の直後に設けられ、前記走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲む乾燥ゾーンを形成する乾燥装置本体と、
前記乾燥ゾーンの前半側に形成され、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備えた第一乾燥風ゾーンと、
前記乾燥ゾーンの後半側に形成され、前記長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる一方向気流発生手段を備えた第二乾燥風ゾーンと、
前記第一乾燥風ゾーンと前記第二乾燥風ゾーンとの間に形成され、乾燥風を供給しない無風ゾーンと、
前記第一乾燥風ゾーン、前記第二乾燥風ゾーン、及び前記無風ゾーンを互いに分割する仕切板と、を備えたことを特徴とする塗布膜の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−190841(P2008−190841A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44670(P2007−44670)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】