説明

塗布装置、塗布方法および太陽光発電モジュールの製造方法

【課題】揮発性溶剤を含む塗布液の塗布において、塗布液の濃度の変動を抑制可能とし、安定した濃度の塗布液をワークに塗布することを可能とする塗布装置、塗布方法および太陽光発電モジュールの製造方法を得ること。
【解決手段】塗布液4を貯留する貯留槽5と、貯留槽5の塗布液4に外縁部の一部を浸漬させて支持され、回転駆動により、外縁部で保持した塗布液4をワークの表面に転写する塗工回転体である第2ローラ2aと、第2ローラ2aと対をなし、回転駆動により、外縁部で保持した塗布液4をワークの表面に転写する塗工回転体である第1ローラ1aと、貯留槽5および塗工回転体を内部に収納するカバー部6と、を有し、揮発性溶剤を含む塗布液の塗布において、カバー部6は、揮発性溶剤の蒸気8を内部に充満させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性溶剤を含む塗布液をワークに塗布するための塗布装置、塗布方法および太陽光発電モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器に溜められた塗布液をローラ等の回転により引き上げ、板状のワークの表面に塗布液を転写する技術が知られている。例えば、特許文献1には、ワークに転写される塗布液のかすれを低減させるために、ローラにおける塗布液の液量を調整する技術が提案されている。また、特許文献2には、装置内における塗布液のこぼれを低減させ、かつ塗布液の濃度を一定に保つために、ローラに巻きつけられたスポンジに塗布液を吸収させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−125358号公報
【特許文献2】特開2001−79468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に開示されるように、ローラを用いて塗布液を引き上げる場合、塗布液を溜める容器の上部には、ローラを配置するための開口が必要となる。容器に溜められている塗布液に揮発性溶液が含まれる場合、容器の開口からは揮発性溶液が蒸発していく。このため、容器の開口が大きいほど、容器内の塗布液の濃度を一定に保つことが困難となる。
【0005】
また、ローラによって引き上げられた塗布液からも、揮発性溶液は蒸発していく。ワークに塗布液を転写した後にローラに残存している塗布液の濃度は、ローラから揮発性溶液が蒸発する分、容器内の塗布液の濃度に比べて高くなる。例えば特許文献2に開示されるように、常に新しい塗布液を供給する場合であっても、ローラに残存する塗布液の濃度が上昇することにより、塗布液の濃度は変化することとなる。また、例えば特許文献1に開示されるように、ローラに残存した塗布液を容器へ戻す場合、容器内の塗布液の濃度は徐々に上昇することとなる。
【0006】
塗布液の濃度は、塗布液に含まれる揮発性溶液が少量であるほど変動し易くなる。これに対して、塗布液の濃度をモニターし適宜希釈することとした場合、濃度測定器(比重測定器)や、希釈剤を送出するための機構等が必要となることで、設備が複雑かつ高価になってしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、揮発性溶剤を含む塗布液の塗布において、塗布液の濃度の変動を抑制可能とし、安定した濃度の塗布液をワークに塗布することを可能とする塗布装置、塗布方法および太陽光発電モジュールの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、塗布液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽の前記塗布液に外縁部の一部を浸漬させて支持され、回転駆動により、前記外縁部で保持した前記塗布液をワークの表面に転写する塗工回転体と、前記貯留槽および前記塗工回転体を内部に収納するカバー部と、を有し、揮発性溶剤を含む前記塗布液の塗布において、前記カバー部は、前記揮発性溶剤の蒸気を前記内部に充満させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、揮発性溶剤の蒸気を貯留槽および塗工回転体の周囲に充満させることで、貯留槽における塗布液の面、および塗工回転体の表面からの揮発性溶剤の蒸発を抑制させる。これにより、揮発性溶剤を含む塗布液の塗布において、塗布液の濃度の変動を抑制可能とし、安定した濃度の塗布液をワークに塗布することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる塗布装置の断面概略構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す塗布装置のAA断面矢視図である。
【図3】図3は、塗工回転体としてロールを採用する塗布装置の断面矢視図である。
【図4】図4は、太陽光発電モジュールに使用される太陽電池セルに塗布装置を適用する場合の断面概略構成を示す図である。
【図5】図5は、図4に示す塗布装置の断面矢視構成と、塗布装置へ搬入される太陽電池セルの平面構成とを示す図である。
【図6】図6は、太陽電池セルのうち受光面の模式図である。
【図7】図7は、太陽電池セルのうち受光面とは反対側の裏面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる塗布装置、塗布方法および太陽光発電モジュールの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる塗布装置の断面概略構成を示す図である。図2は、図1に示す塗布装置のAA断面矢視図である。塗布装置20は、第1ローラ1a、第2ローラ2a、回転軸3、貯留槽5およびカバー部6を有する。
【0013】
第1ローラ1aおよび第2ローラ2aは、円板形状をなす塗工回転体である。第1ローラ1aおよび第2ローラ2aは、それぞれ回転軸3により支持されている。回転軸3は、モータ(図示省略)等に接続され、モータ等の駆動により回転する。第1ローラ1aおよび第2ローラ2aは、それぞれ回転軸3とともに回転する。貯留槽5は、例えば揮発性溶剤を含む塗布液4を貯留する。第2ローラ2aは、貯留槽5に溜められた塗布液4に外縁部の一部を浸漬させて支持されている。
【0014】
図1および図2に示す塗布装置20は、2対の第1ローラ1aおよび第2ローラ2aが配置されている。塗工回転体であるローラは、ワークの形状や塗布位置等によっては、1対あるいは3対以上であっても良い。また、塗布装置20は、塗工回転体として、ローラよりも幅を持たせた円柱状のロールを用いるものとしても良い。
【0015】
図3は、塗工回転体としてロールを採用する塗布装置の断面矢視図である。塗布装置20は、第1ロール(図示省略)および第2ロール2bを有する。第2ロール2bは、貯留槽5に溜められた塗布液4に外縁部の一部を浸漬させて支持されている。塗布装置20は、塗工回転体として円板形状のローラを使用する場合と円柱状のロールを使用する場合とで、塗布液4を塗布する過程は同様である。以下、ローラを使用する塗布装置20を例として説明する。
【0016】
貯留槽5は、第2ローラ2aの位置に形成された開口5aを有する。貯留槽5は、開口5a以外の部分において、上面を覆うように形成されている。なお、図3に示す構成においても、貯留槽5は、第2ロール2bの位置に開口5bを設け、上面のうち開口5b以外の部分を覆うように形成されている。
【0017】
カバー部6は、貯留槽5、第1ローラ1aおよび第2ローラ2aを内部に収納する。第1シャッター部7aは、カバー部6のうちワーク10の搬入口に設けられている。第1シャッター部7aは、カバー部6内部へのワーク10の搬入のための開閉動作を行う。第2シャッター部7bは、カバー部6のうちワーク10の搬出口に設けられている。第2シャッター部7bは、カバー部6内部へのワーク10の搬出のための開閉動作を行う。
【0018】
カバー部6は、第1シャッター部7aおよび第2シャッター部7bを閉じることで、内部をほぼ封止する。導入管9は、カバー部6の外部から内部へ、揮発性溶剤の飽和蒸気を導入する蒸気導入部として機能する。カバー部6は、第1シャッター部7aおよび第2シャッター部7bを閉じた状態において、塗布液4に含まれる揮発性溶剤の蒸気8が導入管9から内部へ導入されることにより、揮発性溶剤の蒸気8を内部に充満させる。塗布装置20は、カバー部6の内部が陽圧状態となるように導入管9から揮発性溶剤の蒸気8を送ることで、カバー部6内部への外気の侵入を抑制させる。
【0019】
第2ローラ2aは、回転により、塗布液4の液面から塗布液4を引き上げる。第2ローラ2aに引き上げられた塗布液4は、第2ローラ2aのうち回転軸3に平行な外縁表面の全体に濡れ広げられる。第2ローラ2aによって引き上げられた塗布液4は、第1ローラ1aのうち回転軸3に平行な外縁表面に接触する。塗布液4は、第1ローラ1aの回転により、第1ローラ1aの外縁表面の全体にも濡れ広げられる。
【0020】
第1ローラ1aの外縁表面に濡れ広がった塗布液4は、第1ローラ1aの回転により、再び第2ローラ2aへと戻される。第1ローラ1aから第2ローラ2aへ戻された塗布液4は、貯留槽5から第2ローラ2aによって引き上げられた塗布液4と混合される。第1ローラ1aおよび第2ローラ2aの間には、塗布液4の液溜まりが存在する。
【0021】
塗布装置20は、塗布液4に含まれる揮発性溶剤の蒸気雰囲気でカバー部6が満たされている状態において第1シャッター部7aを開き、カバー部6内部へワーク10を搬入する。塗布装置20は、ワーク10がカバー部6内部に収まったと同時に第1シャッター部7aを閉じる。
【0022】
塗布装置20は、第1ローラ1aの外縁表面と第2ローラ2aの外縁表面に十分塗布液4が濡れ広げられた状態において、第1ローラ1aおよび第2ローラ2aの間へワーク10を挿入する。第1ローラ1aおよび第2ローラ2aは、回転駆動により、外縁表面で保持した塗布液4をワーク10の上下表面に転写する。
【0023】
塗布装置20は、第2シャッター部7bを開き、塗布液4が転写されたワーク10を外部へ搬出する。なお、塗布装置20は、第1ローラ1aおよび第2ローラ2aのうち、第2ローラ2aのみを配置し、ワーク10の片面にのみ塗布液4を塗布することとしても良い。
【0024】
例えば、上面が開放された貯留槽を有する従来の塗布装置において塗布液に揮発性溶剤が含まれている場合、貯留槽内の塗布液の表面から蒸発した揮発性溶剤は、貯留槽の外部へ発散する。さらに、揮発性溶剤は、塗工回転体によって引き上げられた塗布液からも蒸発する。貯留槽および塗工回転体からの揮発性溶剤の蒸発が顕著であるほど、塗布液の濃度の上昇も顕著となる。
【0025】
塗布装置は、複数のワークへ順次塗布液を塗布する場合において、揮発性溶剤が蒸発することで、塗布を継続するに従いワーク毎の塗布液の濃度がばらつく場合がある。貯留槽における塗布液の濃度を安定化させるために、塗布液の濃度をモニターし適宜希釈することとした場合、塗布装置は、濃度測定器(比重測定器)や、希釈剤を送出するための機構等が必要となることで、設備が複雑かつ高価になってしまう。
【0026】
本発明の実施の形態にかかる塗布装置20は、装置全体をカバー部6で覆い、また、開口面積を必要最小限にとどめた貯留槽5を適用することで、揮発性溶剤の蒸散を抑制させる。塗布装置20は、塗布液4に含まれる揮発性溶剤の雰囲気でカバー部6内部を満たし、カバー部6内部において揮発性溶剤をほぼ飽和蒸気圧とする。
【0027】
塗布装置20は、カバー部6内部を揮発性溶剤の蒸気8で充満させることで、貯留槽5内の塗布液4、第1ローラ1aおよび第2ローラ2aの表面に濡れ広がった塗布液4、第1ローラ1aおよび第2ローラ2aの間に発生した塗布液4の液溜まりからの、揮発性溶剤の蒸発を抑制させる。塗布装置20は、貯留槽5の開口部5a、5bを必要最小限にまで小さくすること、貯留槽5および塗工回転体の全体をカバー部6で覆うことで、簡易かつ安価な構成により、揮発性溶剤の雰囲気を確保することができる。
【0028】
塗布装置20は、ワーク10の移動に伴って第1シャッター部7aおよび第2シャッター部7bを適宜開閉させることで、カバー部6内部の揮発性溶剤の雰囲気を保持し、塗布液4から揮発性溶剤が揮発するのを抑制させる。塗布装置20は、カバー部6内における塗布液4の濃度のばらつきを抑制可能とすることで、ワーク10へ塗布される塗布液4の濃度のばらつきを抑制させることができる。
【0029】
塗布装置20は、貯留槽5の開口5aを必要最小限まで小さくし、貯留槽5および各塗工回転体の全体をカバー部6で覆う比較的単純かつ安価な構造により、塗布液4の濃度の変動の抑制、安定した濃度の塗布液4の塗布が可能となる。
【0030】
次に、図4から図7を用いて、本実施の形態にかかる塗布装置20を太陽光発電モジュールの製造に適用する場合の例を説明する。太陽光発電モジュールは、効率的な発電を可能とするために、太陽光を受光して発電する太陽電池セルを直列に接続する構成を採用する。
【0031】
図4は、太陽光発電モジュールに使用される太陽電池セルに塗布装置を適用する場合の断面概略構成を示す図である。図5は、図4に示す塗布装置の断面矢視構成と、塗布装置へ搬入される太陽電池セルの平面構成とを示す図である。図6は、太陽電池セルのうち受光面の模式図である。図7は、太陽電池セルのうち受光面とは反対側の裏面の模式図である。
【0032】
太陽電池セル11は、内部で発電した電力を効率良く取り出すために、グリッド電極13と、グリッド電極13から電力を集電するためのバスバー電極12が設けられる。グリッド電極13は、太陽電池セル11の受光面に設けられる。バスバー電極12は、太陽電池セル11の受光面および裏面に設けられる。
【0033】
このような太陽電池セル11は、一般に、太陽電池セル11上の電極に銅線等をはんだ付けすることにより、直列に接続される。太陽電池セル11のはんだ付けには、フラックスが用いられる。本実施の形態にかかる塗布装置20は、バスバー電極12上にフラックスを塗布する場合に適用可能である。
【0034】
貯留槽5は、塗布液4としてフラックスを貯留する。第1ローラ1aおよび第2ローラ2aは、バスバー電極12の本数や位置に合わせて配置されている。カバー部6の内部は、フラックスに含まれる揮発性溶剤の蒸気8で充満させておく。
【0035】
フラックスは、成分の多くを揮発性有機溶剤が占めていることから、揮発性有機溶剤の蒸発により濃度が容易に変動する。フラックスの濃度が変動すると、はんだ付けによる固定が不安定になるとともに、設備汚染等による品質上の問題が発生することとなる。
【0036】
そこで、本実施の形態にかかる塗布装置20をフラックスの塗布に採用することで、フラックスに含まれる揮発性有機溶剤の揮発を抑制可能とし、はんだ付けによる固定の安定化や、品質上の問題の低減が可能となる。
【0037】
本発明にかかる塗布装置20の適用分野は、上記の太陽光発電モジュールの製造工程に限るものではない。本発明にかかる塗布装置20は、揮発性溶剤を含む塗布液をワークに塗布する他の分野においても広く適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1a、2a ローラ
3 回転軸
4 塗布液
5 貯留槽
5a 開口
6 カバー部
7a、7b シャッター部
8 蒸気
9 導入管
10 ワーク
11 太陽電池セル
12 バスバー電極
13 グリッド電極
20 塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽の前記塗布液に外縁部の一部を浸漬させて支持され、回転駆動により、前記外縁部で保持した前記塗布液をワークの表面に転写する塗工回転体と、
前記貯留槽および前記塗工回転体を内部に収納するカバー部と、を有し、
揮発性溶剤を含む前記塗布液の塗布において、前記カバー部は、前記揮発性溶剤の蒸気を前記内部に充満させることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記カバー部は、前記内部への前記ワークの搬入、および前記内部からの前記ワークの搬出のための開閉動作を行うシャッター部を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記貯留槽は、前記塗工回転体の位置に形成された開口を有し、前記開口以外の部分において上面を覆うことを特徴とする請求項1または2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記カバー部の前記内部へ前記揮発性溶剤の蒸気を導入する蒸気導入部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の塗布装置。
【請求項5】
貯留槽に塗布液を貯留して、塗工回転体のうち外縁部の一部を前記貯留槽の前記塗布液に浸漬させる工程と、
前記塗工回転体の回転駆動により、前記外縁部に保持されている前記塗布液をワークの表面に転写する工程と、を含み、
揮発性溶剤を含む前記塗布液の塗布において、前記貯留槽および前記塗工回転体を収納するカバー部の内部に、前記揮発性溶剤の蒸気を充満させることを特徴とする塗布方法。
【請求項6】
貯留槽にフラックスを貯留して、塗工回転体のうち外縁部の一部を前記貯留槽の前記フラックスに浸漬させる工程と、
前記塗工回転体の回転駆動により、前記外縁部に保持されている前記フラックスを太陽電池セルの表面に転写する工程と、を含み、
前記貯留槽および前記塗工回転体を収納するカバー部の内部に、前記フラックスに含まれる揮発性溶剤の蒸気を充満させることを特徴とする太陽光発電モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200620(P2012−200620A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64551(P2011−64551)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】