説明

塗布装置、塗布膜形成システム、塗布方法および塗布膜形成方法

【課題】 基材上に良好に塗布膜を形成することができる塗布装置、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システム、塗布方法および塗布膜形成方法を提供する。
【解決手段】 ノズル11が塗布液を吐出する吐出位置において、基材5を他方主面から支持しつつ、搬送経路8に沿って基材5を走行させる支持ローラ12に対して、振動付与部13が振動を付与することで、支持ローラ12に支持された基材5を介して、基材5の一方主面に塗布された塗布液に振動を付与することができる。これにより、基材5上に塗布された塗布液によって形成される塗布膜の膜厚のばらつきを平坦化することで塗布ムラを軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状とされた基材に対して連続的に塗布液を塗布することによって、基材に塗布膜を形成する塗布装置、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システム、塗布方法および塗布膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材として用いられる金属箔の上に、比較的高粘度の電極材料を塗布することによって、リチウムイオン二次電池などの化学電池を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1において、塗料タンクに貯留された活物質ペーストは、定量ポンプによりノズルに向けて送出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−199916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述の活物質ペースト(電極材料)は、比較的高粘度である。また、塗布膜の膜厚は50μm〜200μm程度であり、単位時間当たりにノズルから吐出される塗布液の吐出量は比較的少ない。
【0005】
その結果、特許文献1に記載される定量ポンプであっても、場合によっては、単位時間当たりの送出量が、脈を打つように周期的に変化する。その結果、基材上に形成される塗布膜の膜厚が不均一となり塗布ムラが発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明では、基材上に良好に塗布膜を形成することができる塗布装置、および、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システム、塗布方法および塗布膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明(塗布装置)は、帯状とされた基材に対して塗布液を塗布しつつ、搬送経路に沿って基材を移動させることによって、基材上に塗布膜を形成する塗布装置であって、塗布液を基材の一方主面に向けて吐出する吐出部と、吐出部に塗布液を供給する供給手段と、基材の一方主面に塗布された塗布液に、基材を介して振動を付与する振動付与手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、吐出部が塗布液を吐出する吐出位置において、基材を他方主面から支持しつつ、搬送経路に沿って基材を走行させる支持ローラを備え、振動付与手段は、支持ローラに対して振動を付与することで、支持ローラに支持される基材を介して、基材の一方主面に塗布された塗布液に振動を付与することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、搬送経路において、吐出部が塗布液を吐出する吐出位置よりも下流側に配置され、基材を支持しつつ、搬送経路に沿って基材を走行させる補助ローラを備え、振動付与手段は、補助ローラに対して振動を付与することで、補助ローラに支持される基材を介して、基材の一方主面に塗布された塗布液に振動を付与することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、振動付与手段は、吐出部にも振動を付与することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、振動付与手段は、基材の搬送方向と直交する水平方向の振動を付与することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、振動付与手段は、少なくとも吐出部が基材の一方主面に向けて塗布液を吐出している間、振動を付与する事を特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、振動付与手段が超音波発振器であり、超音波発振器によって発生した超音波により振動を付与することを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明(塗布膜形成システム)は、請求項1から7のいずれかに記載された塗布装置と、塗布装置で塗布された基材上の塗布液を乾燥させる乾燥装置と、を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明(塗布方法)は、帯状とされた基材に対して塗布液を塗布しつつ、搬送経路に沿って基材を移動させることによって、基材上に塗布膜を形成する塗布方法であって、塗布液を基材の一方主面に向けて吐出する吐出工程と、基材の一方主面に塗布された塗布液に、基材を介して振動を付与する振動付与工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、振動付与工程は、基材の搬送方向と直交する水平方向の振動を付与することを特徴とする。
【0017】
請求項11に係る発明は、振動付与工程は、吐出工程において少なくとも基材の一方主面に向けて塗布液が吐出されている間、振動を付与する事を特徴とする。
【0018】
請求項12に係る発明(塗布膜形成方法)は、請求項9ないし請求項11に記載された塗布方法と、塗布方法で塗布された基材上の塗布液を乾燥させる乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1ないし請求項12のいずれかに係る発明によれば、基材の一方主面に塗布された塗布液に基材を介して振動を付与することで、基材上に塗布された塗布液によって形成された塗布膜の膜厚のばらつきを平坦化することで塗布ムラを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システムの全体構成の一例を示す正面図である。
【図2】塗布処理部の第1の実施形態の概略構成を示す正面図である。
【図3】送出部の概略構成を示す正面図である。
【図4】振動付与部の概略構成を示す図である。
【図5】塗布膜の膜厚変動を説明するための図である。
【図6】塗布膜形成処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【図7】塗布処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【図8】塗布処理部の第2の実施形態の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システム1の全体構成を示す図である。なお、図1および以降の各図には、方向関係を明確にするために、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が付されている。また、図1および以降の各図において、理解容易のため必要に応じて、各部の寸法や数が誇張または簡略化して描かれている。
【0023】
塗布膜形成システム1は、基材5の上に活物質の塗布膜を形成するとともに、形成された塗布膜を乾燥させることによって、リチウムイオン二次電池の電極を製造する。図1に示すように、塗布膜形成システム1は、主として、塗布処理部10と、予熱部60と、乾燥部65と、アニール部70と、冷却部75と、搬送部80とを備えている。また、塗布膜形成システム1は、電源等を収納する電装ボックス9を備えている。
【0024】
ここで、基材5は、リチウムイオン二次電池の集電体として機能する帯状の金属箔である。基材5の形状は、より具体的には、長尺のシート状とされている。また、基材5の幅および厚さは特に限定されるものではないが、基材5の幅は600mm〜700mmとすることができ、基材5の厚さは10μm〜20μmとすることができる。
【0025】
また、塗布膜形成システム1において、リチウムイオン二次電池の正極が製造される場合、基材5として例えばアルミニウム(Al)箔が使用できる。一方、負極が製造される場合、基材5として例えば銅(Cu)箔が使用できる。
【0026】
図1に示すように、帯状の基材5は、巻き出しローラ81に装着される。装着された基材5は巻き出しローラ81から送り出されて巻き取りローラ82によって巻き取られる。そして、基材5は、塗布処理部10、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、冷却部75の各部に、この順番で搬送される。
【0027】
搬送部80は、これら巻き出しローラ81および巻き取りローラ82と複数の補助ローラ83a〜83gとを備えて構成されており、基材5を矢印AR1方向(搬送方向)に沿って搬送する。なお、補助ローラ83a〜83gの個数および配置については、図1の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に増減することができる。
【0028】
塗布処理部10は、電極材料として用いられる活物質の塗布液を基材5に塗布するノズル11と、ノズル11と対向する位置に配設され基材5を押圧支持する支持ローラ12とを備え、支持ローラ12に支持された基材5上に塗布膜を形成する。塗布処理部10は、基材5の長手方向(矢印AR1方向)(以下、単に、「長手方向」とも称する)に沿った基材5の搬送経路8において、巻き出しローラ81より下流側であって、予熱部60の上流側に配置されている。なお、塗布処理部10の詳細な構成については後述する。
【0029】
予熱部60は、塗布処理部10での塗布処理によって基材5の上に形成された電極材料の塗布膜を昇温し、一定時間の予熱を行う。また、乾燥部65は、主たる乾燥処理を行う処理部であり、予熱部60にて予熱された塗布膜に熱風を吹き付けて加熱して溶媒を乾燥させる。さらに、アニール部70は、塗布膜をより高温に加熱し、乾燥部65での乾燥処理で塗布膜中に発生した歪み、および残留応力を除去する。冷却部75は、加熱された塗布膜に常温のドライエアを吹き付けることによって塗布膜を冷却する。
【0030】
このように、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、および冷却部75は、塗布処理部10で塗布された基材5上の塗布液を乾燥させる乾燥装置として使用できる。なお、基材5上に形成された塗布膜を乾燥させる乾燥装置としては、上記の4つの処理部を備えた構成に限定されるものではなく、塗布液の種類に応じて適宜のものとすることができる。例えば、乾燥装置は、予熱部60および乾燥部65のみによって構成されても良い。
【0031】
図2は、本発明に係る塗布装置である塗布処理部10の第1の実施形態の概略構成を示す正面図である。図2に示すように、塗布処理部10は、主として、ノズル11と、送出部30と、タンク50と、第1および第2供給配管55a、55bと、閉止バルブ20と、を備えている。
【0032】
タンク50は、リチウムイオン二次電池の電極材料である活物質の溶液を、塗布液として貯留する。これにより、ノズル11側には、正極用または負極用の電極材料が供給される。このように、タンク50は、塗布液を貯留する貯留部として、および塗布液をノズル
11側に供給する供給源として用いられる。
【0033】
ここで、塗布膜形成システム1において正極が製造される場合、タンク50には、正極材料の塗布液として、例えば正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電助剤であるカーボン(C)と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)との混合液が貯留される。
【0034】
正極活物質としては、コバルト酸リチウムに代えて、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、または燐酸鉄リチウム(LiFePO4)等も使用できるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0035】
一方、塗布膜形成システム1において負極が製造される場合、タンク50には、負極材料の塗布液として、例えば負極活物質である黒鉛(グラファイト)と、結着剤であるPVDFと、溶剤であるNMPとの混合液を貯留する。
【0036】
負極活物質としては、黒鉛に代えて、ハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti512)、シリコン合金、またはスズ合金等も使用できるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0037】
また、正極材料および負極材料の双方において、結着剤としては、PVDFに代えてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)等も用いられ、溶剤としては、NMPに代えて水(H2O)等も使用できる。さらに、結着剤としてSBRが、溶剤として水が、それぞれ用いられる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)が、増粘剤として併用できる。
【0038】
さらに、これら正極材料および負極材料の塗布液は、固体(微粒子)が分散されたスラリーである。これら塗布液の粘度は、いずれも1Pa・s(パスカル秒)以上であり、一般的にチクソトロピー性を有する。
【0039】
タンク50には、攪拌機53およびエア加圧ユニット54が付設されている。攪拌機53は、スクリュー53aを有しており、スクリュー53aは、タンク50内の塗布液に浸漬可能とされている。したがって、スクリュー53aが回転させられることによって、タンク50に貯留された塗布液が撹拌される。
【0040】
エア加圧ユニット54は、高圧の空気をタンク50内の気相部分に送り込んで貯留されている塗布液の液面を加圧する。液面を加圧することでタンク50から塗布液が送出される。なお、送出部30のみで送液が可能であれば、エア加圧ユニット54は必須の要素ではない。
【0041】
第1供給配管55aは、図2に示すように、タンク50および送出部30のそれぞれと連通接続されている。第1供給配管55aは、タンク50側から送出部30に導入される塗布液を流通させる。
【0042】
第2供給配管55bは、図2に示すように、送出部30およびノズル11のそれぞれと連通接続されている。第2供給配管55bは、送出部30からノズル11側に送出される塗布液を流通させる。また、図2に示すように、第2供給配管55bの経路途中には、閉止バルブ20および流量計52が介挿されている。なお、第1および第2供給配管55a、55bとしては、ステンレス管または樹脂管が使用できる。
【0043】
循環配管56は、第2供給配管55bの途中から分岐して設けられている。循環配管56の一方端側は第2供給配管55bの閉止バルブ20と流量計52との間の位置に接続され、他方端側はタンク50に接続されている。循環配管56には、循環バルブ57および流量調整バルブ58が介挿されている。
【0044】
送出部30は、タンク50側から導入された塗布液をノズル11側に送出する。図2に示すように、送出部30の一方端は、第1供給配管55aと、送出部30の他方端は第2供給配管55bと、それぞれ連通している。なお、送出部30の詳細な構成については、後述する。
【0045】
流量計52は、送出部30から送り出された後、第2供給配管55bを流れる塗布液の流量を計測する。閉止バルブ20は、第2供給配管55bの流路を開閉することによって、ノズル11への塗布液の供給を断続させる。
【0046】
循環配管56に設けられている循環バルブ57は、循環配管56の流路を開閉する。閉止バルブ20が第2供給配管55bを閉止した状態で、循環バルブ57が開かれることによって、第2供給配管55bを流れる塗布液は、循環配管56に流れ込み、タンク50へと帰還させられる。循環配管56を流れる塗布液の流量は、流量調整バルブ58により調整される。
【0047】
ノズル11は、供給配管55を経由して送られてきた塗布液を基材5に向けて吐出する。図2に示すように、ノズル11の先端部には、基材5の幅方向(矢印AR2方向)(基材5の長手方向と直交する方向:以下、単に、「幅方向」と称する)に沿ったスリット状の吐出口11aが設けられている。
【0048】
支持ローラ12は、基材5を押圧支持しつつ、搬送経路8に沿って基材5を走行させる。図2に示すように、支持ローラ12は、ノズル11と対向する位置に配置されており、X軸と平行なローラ回転軸12a(第1回転軸)を中心に回転自在とされている。そして、ノズル11の吐出口11aから吐出される塗布液は、支持ローラ12に押圧支持された基材5に向けて吐出される。
【0049】
振動付与部13は、支持ローラ12のローラ回転軸12aに振動を付与する。ローラ回転軸12aに振動が付与されることで、支持ローラ12も同様の振動数で振動する。これにより、支持ローラ12に押圧支持されている基材5も振動することとなる。振動付与部13の詳細については後述する。
【0050】
駆動部15は、ノズル11を前後左右上下に移動させることによって、支持ローラ12に対する吐出口11aの位置を調整する。圧力計18は、ノズル11内における塗布液の圧力を計測する。また、圧力計18によってノズル11内における塗布液の圧力が計測されるとともに、流量計52によって第2供給配管55bを流れる塗布液の流量が計測されることによって、第2供給配管55bを流れる塗布液の状態が把握できる。
【0051】
制御部90は、塗布膜形成システム1の各要素の動作を制御するとともに、種々のデータ演算を実現する。図2に示すように、制御部90は、主として、ROM91と、RAM92と、CPU93とを有している。
【0052】
ROM(Read Only Memory)91は、いわゆる不揮発性の記憶部であり、例えば、プログラム91aが格納されている。なお、ROM91としては、読み書き自在の不揮発性メモリであるフラッシュメモリが使用されてもよい。RAM(Random Access Memory)92は、揮発性の記憶部であり、例えば、CPU93の演算で使用されるデータが格納される。
【0053】
CPU(Central Processing Unit)93は、ROM91のプログラム91aに従った制御(例えば、駆動部15によるノズル11の移動動作や、振動付与部13の振動付与動作の制御、閉止バルブ20および送出部30による塗布液の吐出動作等の制御)が、実行される。
【0054】
図3は、送出部30の概略構成を示す正面図である。図3に示すように、送出部30は、主として、移送ポンプ31と、導入管41と、排出管43と、を有している。
【0055】
導入管41は、移送ポンプ31に塗布液を導入する。図3に示すように、導入管41は、第1供給配管55aと、移送ポンプ31の導入部38と、を連通接続する。
【0056】
排出管43は、移送ポンプ31から排出される塗布液を、流通させる。図3に示すように、排出管43は、第2供給配管55bと、移送ポンプ31の排出部39と、を連通接続する。
【0057】
移送ポンプ31は、いわゆるモーノポンプにより構成されている。移送ポンプ31は、導入部38から導入された塗布液を、排出部39に移送することによって、排出部39から所望の流量の塗布液を排出する。図3に示すように、移送ポンプ31は、主として、ステータ32と、ロータ33と、ジョイント34と、モータ35と、を有している。
【0058】
ステータ32は、金属製の円筒体である。ステータ32の内側には、雌ねじが成形された弾性材が、取り付けられている。ロータ33は、ステータ32内に配置される棒体である。ロータ33の外面には、雄ねじが成形されている。また、図3に示すように、ロータ33は、ジョイント34を介してモータ35の回転軸35aと連動連結されている。
【0059】
これにより、モータ35の回転力が回転軸35aおよびジョイント34を介してロータ33に伝達され、ロータ33がステータ32に対して回転すると、ステータ32およびロータ33に囲まれたキャビティ32a(空洞)が、導入部38側から排出部39側に移動する。そのため、ロータ33が回転すると、キャビティ32a内の塗布液が、導入部38側から排出部39側に移送される。
【0060】
なお、ステータ32の弾性材としては、例えば、合成ゴム、樹脂、および金属等が採用できる。また、ロータ33の材質としては、例えば、ステンレスおよびセラミックス等が採用できる。
【0061】
この動作によってタンク50から第1供給配管55aを介して供給される塗布液を、移送ポンプ31がノズル11に第2供給配管55bを介して塗布液を供給することができる。なお、移送ポンプ31としては、モーノポンプに限定されるものではなく、例えば、シリンジポンプ等でもよい。
【0062】
図4は、振動付与部13の概略構成を示す図であり、特に図4(a)は、支持ローラ12をY軸側から見た断面図であり、図4(b)は、支持ローラ12をX軸側から見た図である。
【0063】
図4(a)に示すように、振動付与部13は、主として、超音波発振器131と、超音波発振器131からのパルスを受けて超音波振動する振動子132とを備える。超音波発振器131は、制御部90と電気的に接続されており制御部90によって設定された周波数で発振する。
【0064】
図4(b)に示すように、振動子132は、円筒状の形状を有しており、支持ローラ12のローラ回転軸12aに挿入可能である。そして、超音波発振器131で発振されたパルスを受けて振動子132は超音波振動する。つまり、振動子132が振動することで支持ローラ12も振動することとなる。そして、支持ローラ12が押圧支持する基材5を介して、基材5上に塗布された塗布液に振動が付与される。なお、振動子132をローラ回転軸12aに挿入するのではなく、ローラ回転軸12aに挿入可能な振動伝達部材を介して振動子132から振動を伝達するようにしてもよい。
【0065】
このように、振動付与部13によって基材5上に塗布された塗布液に基材5を介して超音波振動を付与することができる。
【0066】
特に、振動付与部13によって付与される振動方向は、基材5の搬送方向と直交する水平方向の振動であることが好ましい。このような方向で振動を付与することで、送出量が、脈を打つように周期的に変化することで生じる塗布膜の膜厚が不均一となる現象(塗布ムラ)を軽減することができる。
【0067】
図5は、基材5を介して塗布液に振動を付与することで塗布膜の膜厚がどのように変動するかを説明するための模式図である。特に図5(a)は、従来技術(基材5を介して振動が付与されない)で塗布膜が形成された状態を示しており、図5(b)は、本実施形態で塗布膜が形成された状態を示している。なお、図示の都合上、基材5が水平に搬送されつつ、塗布液が塗布されているが、実際には図2で表されるように基材5が支持ローラ12に他方主面から支持されつつ塗布液が塗布されるものである。
【0068】
図5(a)は、基材5を介して塗布液に振動が付与されずに基材5の一方主面に塗布膜が形成された場合である。このような場合、ノズル11に送出される塗布液の送出量が脈を打つように周期的に変化した場合、塗布膜の膜厚に周期的な変動(山と谷)が生じることが知られている。つまり、当該変動に応じて膜厚の厚い部分(山)と、膜厚の薄い部分(谷)の差FT1が生じる。この差が大きければ大きいほど塗布ムラが目立ちやすくなるとともに、リチウムイオン二次電池の性能にも影響を及ぼす。
【0069】
これに対し図5(b)は、支持ローラ12のローラ回転軸12aに振動子132を挿入し、支持ローラ12に支持された基材5に振動を付与することで、基材5を介して塗布液に振動を付与しつつ塗布膜を形成した場合である。このように塗布膜を形成することで、ノズル11に送出される塗布液の送出量が脈を打つように周期的に変化した場合でも、基材5上に塗布液が塗布されると同時に塗布液に振動が付与されることで、基材5上では塗布液が平坦となりやすく、基材5上に形成される塗布膜の膜厚変動である、膜厚の厚い部分(山)と、膜厚の薄い部分(谷)の差FT2は小さくなる。
【0070】
したがって、基材5を介して塗布液に振動を付与した場合と、しない場合では、膜厚の厚い部分(山)と、膜厚の薄い部分(谷)の差を比較すると、FT2<FT1となる。このように、基材5を介して塗布液に振動を付与することで塗布ムラを軽減することができる。
【0071】
続いて、上述した塗布装置および乾燥装置を用いた塗布膜形成システム1の動作の一例について図6、図7を用いて説明する。図6は、塗布膜形成処理にかかる全体の処理の流れについて説明するためのフローチャートである。また、図7は、塗布処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0072】
塗布膜形成システム1は、制御部90からの動作指令に従い、巻き出しローラ81にあらかじめ装着された基材5の搬送を開始する(ステップS11)。より具体的には、巻き出しローラ81が回転および巻き取りローラ82が同期して回転することで、巻き出しローラ81から送り出された基材5が巻き取りローラ82に巻き取られることで、基材5が搬送経路8に沿って搬送される。
【0073】
続いて、巻き出しローラ81から送り出された基材5は塗布装置に向かって搬送される。塗布装置である塗布処理部10は、制御部90からの動作指令に従い、搬送されている基材5の一方主面に向けてノズル11から塗布液を連続的に吐出し、基材5上に塗布膜を形成する塗布処理を行う(ステップS12)。塗布処理については後述する。
【0074】
塗布処理部10にて塗布処理が行なわれた基材5は、乾燥装置向かって搬送され乾燥装置を通過することで乾燥処理が行なわれる(ステップS13)。乾燥装置では、制御部90からの動作指令に従い、まず予熱部60が図示を省略する加熱機構により基材5上に形成された塗布膜を昇温し一定時間の予熱を行う。予熱部60を通過した基材5は搬送経路8に沿って搬送され、乾燥部65に搬入される。乾燥部65は、塗布膜に向けて熱風を吹き付け、予熱部60で予熱された塗布膜をさらに加熱して溶媒の乾燥を行う。乾燥部65を通過した基材5は搬送経路8に沿って搬送され、アニール部70に搬入される。アニール部70は、塗布膜をより高温に加熱し、乾燥処理で塗布膜中に発生した歪みおよび残留応力を除去する。アニール部70を通過した基材5は搬送経路8に沿って搬送され、冷却部75に搬入される。冷却部75は、塗布膜に向けて常温のドライエアを吹き付け、塗布膜を冷却する。これら4つの処理部を基材5が通過することで塗布膜の乾燥処理が行なわれる。
【0075】
乾燥装置を通過し乾燥処理が完了した基材5は、巻き取りローラ82に巻き取られる。そして、基材5に対する塗布膜の形成が終えると、制御部90は巻き出しローラ81および巻き取りローラ82を停止させることで基材5の搬送を停止する(ステップS14)。以上の処理により塗布膜形成システム1は基材5上に塗布膜を形成する。
【0076】
図7を参照しつつ、塗布処理の流れについて説明する。
【0077】
送出部30は制御部90からの動作指令に従い、搬送経路8に沿って搬送されてきた基材5がノズル11と対向する位置に搬送されてくる前に送出動作を開始する。そして、基材5上の塗布領域がノズル11と対向する位置に搬送されてくるタイミングに同期して送出部30は塗布液をノズル11に送出する(ステップS121)。
【0078】
ノズル11は、送出部30から送られてきた塗布液を吐出口11aから、基材5の対向する面(一方主面)に向けて吐出する(ステップS122)。吐出された塗布液は基材5上で塗布膜を形成する。
【0079】
振動付与部13は、制御部90の動作指令に従い、ノズル11から基材5に向けて塗布液が吐出されるタイミングに同期して支持ローラ12のローラ回転軸12aに挿入された振動子132を振動させ超音波振動を発生させる。そして、基材5の一方主面に塗布された塗布液に対して、基材5を介して振動を付与する(ステップS123)。
【0080】
より具体的には、振動付与部13による振動の付与は、ノズル11から基材5に向けて塗布液が吐出される直前あるいは略同時に開始され、塗布液の吐出が継続している間、振動の付与も継続される。つまり、少なくともノズル11が基材5の一方主面に向けて塗布液を吐出している間、振動を付与していればよい。
【0081】
以上のように、塗布膜形成システム1が備える塗布処理部10が、基材5を介して基材5上に塗布された塗布液に振動を付与する振動付与部13を備えることで、基材5上に塗布された塗布液によって形成される塗布膜の膜厚のばらつきを平坦化することができ、塗布ムラを軽減することができる。
【0082】
次に第2の実施形態について図8を用いて説明する。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、基材5の搬送経路8において、ノズル11が塗布液を吐出する吐出位置よりも下流側に配置された補助ローラ83cにおいても、振動付与部14を備える点である。また、残余の点については同様であるため、図2と同一構成については同一符号を用いるとともに説明を省略する。
【0083】
振動付与部14は、ノズル11から基材5に向けて塗布液が吐出されるタイミングに同期して、補助ローラ83cに基材5の搬送方向と直交する水平方向の超音波振動を付与する。つまり、第2の実施形態では、支持ローラ12および補助ローラ83cの両方に振動を付与する点に特徴を有する。このように2段階で基材5を介して基材5上に塗布された塗布液に振動を付与することで、より平坦な塗布膜を形成することができる。なお、振動付与部13および振動付与部14は共通の超音波発振器により構成されていてもよい。また、搬送経路8における支持ローラ12の下流側であって、乾燥装置の上流側に設けられた補助ローラであれば、振動を付与する補助ローラの数は限定されない。そして、該補助ローラに振動を付与することで同様に効果を得ることができる。
<変形例>
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく様々な変形が可能である。
【0085】
上記実施形態では、ノズル11から基材5に向けての塗布液の吐出は連続的に行っているがこれに限られるものではない。例えば、あらかじめ設定されたタイミングでノズル11から塗布液を間欠的に吐出する構成としてもよい。このような構成とすることで、基材5上に、平坦でかつ複数の塗布膜を形成することができる。
【0086】
また、上記実施形態では、振動付与部13、14が付与する振動の方向は、基材5の搬送方向と直交する水平方向としているがこれに限られるものではなく、基材5の搬送方向と平行な水平方向に超音波振動を付与してもよい。
【0087】
また、支持ローラ、補助ローラに加えて、ノズル11にもあわせて振動を付与してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 塗布膜形成システム
5 基材
8 搬送経路
10 塗布処理部
11 ノズル
12 支持ローラ
13、14 振動付与部
30 送出部
60 予熱部
65 乾燥部
70 アニール部
75 冷却部
80 搬送部
83a、83b、83c、83d、83e、83f、83g 補助ローラ
90 制御部
131 超音波発振器
132 振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状とされた基材に対して塗布液を塗布しつつ、搬送経路に沿って前記基材を移動させることによって、前記基材上に塗布膜を形成する塗布装置であって、
前記塗布液を前記基材の一方主面に向けて吐出する吐出部と、
前記吐出部に前記塗布液を供給する供給手段と、
前記基材の一方主面に塗布された前記塗布液に、前記基材を介して振動を付与する振動付与手段と、を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記吐出部が前記塗布液を吐出する吐出位置において、前記基材を他方主面から支持しつつ、前記搬送経路に沿って前記基材を走行させる支持ローラを備え、
前記振動付与手段は、前記支持ローラに対して振動を付与することで、前記支持ローラに支持される前記基材を介して、前記基材の一方主面に塗布された前記塗布液に振動を付与することを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記搬送経路において、前記吐出部が前記塗布液を吐出する吐出位置よりも下流側に配置され、前記基材を支持しつつ、前記搬送経路に沿って前記基材を走行させる補助ローラを備え、
前記振動付与手段は、前記補助ローラに対して振動を付与することで、前記補助ローラに支持される前記基材を介して、前記基材の一方主面に塗布された前記塗布液に振動を付与することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記振動付与手段は、前記吐出部にも振動を付与することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記振動付与手段は、前記基材の搬送方向と直交する水平方向の振動を付与することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記振動付与手段は、少なくとも前記吐出部が前記基材の一方主面に向けて塗布液を吐出している間、振動を付与する事を特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記振動付与手段が超音波発振器であり、
前記超音波発振器によって発生した超音波により前記振動を付与することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載された塗布装置と、
前記塗布装置で塗布された前記基材上の前記塗布液を乾燥させる乾燥装置と、を備えることを特徴とする塗布膜形成システム。
【請求項9】
帯状とされた基材に対して塗布液を塗布しつつ、搬送経路に沿って前記基材を移動させることによって、前記基材上に塗布膜を形成する塗布方法であって、
前記塗布液を前記基材の一方主面に向けて吐出する吐出工程と、
前記基材の一方主面に塗布された前記塗布液に、前記基材を介して振動を付与する振動付与工程と、を備えることを特徴とする塗布方法。
【請求項10】
前記振動付与工程は、前記基材の搬送方向と直交する水平方向の振動を付与することを特徴とする請求項9に記載の塗布方法。
【請求項11】
前記振動付与工程は、前記吐出工程において少なくとも前記基材の一方主面に向けて前記塗布液が吐出されている間、振動を付与する事を特徴とする請求項9または請求項10に記載の塗布方法。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載された塗布方法と、
前記塗布方法で塗布された前記基材上の前記塗布液を乾燥させる乾燥工程と、を備えることを特徴とする塗布膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48995(P2013−48995A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186677(P2011−186677)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】