塗布装置、電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体および画像形成装置
【課題】本発明は、電子写真感光体の高品質な画質特性への要求に十分に対応できる塗布装置を提供する。
【解決手段】本発明の塗布装置は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
【解決手段】本発明の塗布装置は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置、電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光導電性の感光体を用いた電子写真プロセスは、感光体の光導電現象を利用した情報記録手段の一つである。
このプロセスは、先ず、感光体を暗所においてコロナ放電によりその表面を一様に帯電させた後、像露光を施して露光部の電荷を選択的に放電させることによって、非露光部に静電像を形成させる。次に、着色した荷電微粒子(トナー)を静電引力などで潜像に付着させて可視像とし、画像を形成する。
【0003】
これら一連のプロセスにおいて感光体に要求される基本的な特性としては、
1)暗所において適当な電位に一様に帯電させることができること;
2)暗所において高い電荷保持能を有し、電荷の放電が少ないこと;
3)光感度に優れており、光照射によって速やかに電荷を放電すること;
などが挙げられる。
更には容易に感光体の表面を除電することができ、残留電位が小さいこと、機械的強度があり、可撓性に優れていることや、繰り返し使用する場合に電気的特性、特に帯電性や光感度、残留電位等が変動しないこと、熱・光・温度・湿度やオゾン劣化等に対する耐性を有していることなど、安定性・耐久性が大きい等の特性が必要である。
【0004】
現在、実用化されている電子写真感光体は、導電性支持体の上に感光層が形成されているが、導電性支持体からのキャリア注入が生じ易いために表面電荷が微視的にみて消失もしくは減少することによる画像欠陥が発生する場合がある。
この画像欠陥を防止し、導電性支持体表面の欠陥の被覆、帯電性の改善、感光層の接着性の向上、塗布性改善等のために導電性支持体と感光層との間に下引き層(中間層)を設ける事が行われている。
【0005】
一般的に、電子写真感光体の製造方法としては、中間層を形成するための塗布液や感光層を形成するための塗布液が、各種有機溶剤や水系の溶液にバインダー樹脂を溶解または分散させた溶液中に有機顔料、無機顔料の他に、各種化合物を溶解または分散させた溶液で構成されており、これらの塗布液を用いて導電性支持体上に塗布膜を形成することで電子写真感光体を製造することが多い。
塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法、浸漬塗布法等があげられる。
【0006】
このうち、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗布槽に導電性支持体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体上に塗布膜を形成する方法である。この方法は比較的簡単で、生産性および原価の点で優れていることから、電子写真感光体を製造する場合に多く利用されている。
【0007】
近年、種々の高感度な電子写真感光体が開発されているが、画質や耐久性に対する要求が高まるにつれて電子写真感光体の性能を十分に発揮できるような製造技術が求められている。すなわち、高感度、高画質を得るために、導電性支持体上に形成する中間層及び感光層に僅かな塗布欠陥や塗布ムラがないよう均一な中間層や感光層を形成できる電子写真感光体の製造装置や製造方法の改善が求められている。中間層及び感光層に僅かな塗布欠陥や塗布ムラがあると、これらの欠陥に起因する画像欠陥や画像ムラが発生したり、環境変動や長期使用によって画質が変化し、初期画像には見られなかった画像欠陥や画像ムラが顕在化する場合がある。
【0008】
従来、生産性に優れた電子写真感光体の製造方法として用いられてきた浸漬塗布方法は、複数本の電子写真感光体が同時に製造できるよう大きな塗布槽中に満たした中間層用塗布液や感光層用塗布液中に導電性支持体を浸漬し、浸漬した際に溢れた塗布液は塗布槽とは別に設けたオーバーフロー槽に溜めて、オーバーフロー槽中の塗布液を再び塗布槽に再供給するように循環経路を設けた装置を使用することが一般的である。
【0009】
しかしながら、無機顔料などを分散させた中間層用塗布液や有機顔料などを分散させた感光層用塗布液、特に電荷発生層用塗布液、並びに昨今の電子写真感光体で採用されるようになった耐摩耗性向上を目的とした無機や有機顔料または不溶性の樹脂微粒子などを分散させた電荷輸送層用塗布液や感光層上に形成されるオーバーコート層を形成するための塗布液などの塗布液を循環式の電子写真感光体製造装置において繰り返し循環し、塗布槽に供給すると、各種無機、有機顔料または不溶性の樹脂微粒子などを分散した塗布液が繰り返し製造装置内で循環され、顔料や樹脂粒子同士の凝集物が発生する場合がある。このような凝集物は、導電性支持体上に形成される中間層、感光層、またはオーバーコート層の非常に僅かな塗布欠陥となる場合があり、環境変動や長期使用によって画像欠陥が顕在化し画質品位が著しく低下する原因となる場合がある。
【0010】
また、このような分散液は、液を循環する際に供給用ポンプから発生する脈流や分散液が循環用配管から塗布槽へ供給される際や塗布槽中で液がオーバーフローする際に流速が変化することで塗布液の流れに乱れが生じることから、導電性支持体上に形成される中間層、感光層、オーバーコート層には塗布液の乱流が原因とする塗布ムラが発生し、画像ムラの原因となる。
【0011】
さらに、非常に微細な塗布欠陥や塗布ムラを有する電子写真感光体を搭載した画像形成装置は、使用当初はこれら塗布欠陥や塗布ムラは画質への影響が見られない場合でも、画像形成装置を長期間使用した場合や環境変動による電子写真感光体の電気的特性の変化に伴ってこれらの微細な塗布欠陥や塗布ムラが画質へ影響し、画像品質を著しく悪化させることから常に一定の高画質を維持することができないなどの問題が生じる。
【0012】
そこで、塗布ムラの発生を防止する目的のために、塗布槽の開口端部に互いにほぼ等間隔に3つ以上の切込みを設けることにより塗布液上面の揺らぎに起因するリングムラの抑制する塗布装置(特許文献1)や塗布槽の内壁にらせん状のリブを設け、浸漬した導電性支持体の周方向に塗布液が流れる塗布装置(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2986004号
【特許文献2】特開平10−272397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、従来の電子写真感光体を製造するための塗布装置では、塗布槽下部から供給される塗布液の乱流に起因する塗布ムラが発生したり、スパイラル状の塗布ムラが発生するなどの問題が生じる場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電子写真感光体の高品質な画質特性への要求に十分に対応できる塗布装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする塗布装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内側面に直線状の整流溝を有する塗布槽を備えるため、塗布槽の底部の底部供給口から供給され、上部開口からオーバーフローするように流れる塗布液の流れを整流することができ、塗布槽内を流れる塗布液に乱流が生じることを抑制することができる。このことにより、塗布液の乱流に起因する塗布ムラが生じることを抑制して導電性支持体の表面上に塗布膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の塗布装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図4】図3の点線A−Aにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図5】図3の一点鎖線B−Bにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図7】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図8】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図9】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図10】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図11】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図12】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図13】図12の点線C−Cにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図14】図12の一点鎖線D−Dにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図15】(a)は、図14の点線で囲んだ範囲Eの拡大図であり、(b)(c)は、本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略拡大図であり、(a)に対応する。
【図16】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略平面図である。
【図17】図16の点線F−Fにおける電子写真感光体の概略断面図である。
【図18】図17の点線で囲んだ範囲Gにおける電子写真感光体の拡大断面図である。
【図19】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略断面図である。
【図20】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略断面図である。
【図21】本発明の一実施形態の画像形成装置の概略断面図である。
【図22】電子写真感光体製造実験において用いた塗布槽などの概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の塗布装置は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の塗布装置において、前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含むことが好ましい。
このような構成によれば、上部開口から流出する塗布液を流出溝から優先的にオーバーフローさせることができ、塗布槽を流通する塗布液の流れを安定化することができる。
本発明の塗布装置において、前記流出溝は、等間隔で2つ以上設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、塗布槽に溜められた塗布液が上部開口からオーバーフローするとき、液面を安定化することができる。
【0020】
本発明の塗布装置において、前記流出溝は、前記整流溝に繋がる溝であることが好ましい。
このような構成によれば、整流溝から流出溝に向かう塗布液の流れを作ることができ、流出溝および整流溝の整流効果を高めることができる。
本発明の塗布装置において、前記塗布槽は、円筒形状を有し、かつ、一方の端が底部であり他方の端が前記上部開口であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布槽内を流れる塗布液に乱流が生じることを抑制することができる。
本発明の塗布装置において、前記整流溝は、前記塗布槽が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行に設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、整流溝による底部供給口から上部開口に向かって流れる塗布液の整流効果を高めることができる。
【0021】
また、本発明は、本発明の装置を用いた電子写真感光体の製造方法であって、前記塗布槽に溜められた塗布液に前記導電性支持体を浸漬させる工程と、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程とを備え、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記上部開口からの塗布液のオーバーフローを伴う電子写真感光体の製造方法も提供する。
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、導電性支持体の表面に、塗布ムラの発生が抑制された塗布膜を形成することができ、塗布ムラが抑制された電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含み、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記流出溝からの塗布液のオーバーフローを伴うことが好ましい。
このような構成によれば、導電性支持体の表面に、塗布ムラの発生が抑制された塗布膜を形成することができる。
【0022】
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液であることが好ましい。
このような構成によれば、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液を導電性支持体の表面上に塗布ムラを抑制して塗布することにより電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、下引き層用塗布液であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布ムラの抑制された下引き層を備えた電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、電荷発生層用塗布液であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布ムラの抑制された電荷発生層を備えた電子写真感光体を製造することができる。
【0023】
また、本発明は、本発明の塗布装置、または本発明の電子写真感光体の製造方法により製造された電子写真感光体も提供する。
本発明の電子写真感光体によれば、塗布ムラが抑制された下引き層、感光層またはオーバーコート層を有する電子写真感光体を提供することができる。
また、本発明は、本発明の電子写真感光体を搭載した画像形成装置も提供する。
本発明の画像形成装置によれば、電子写真感光体の下引き層、感光層またはオーバーコート層の塗布ムラに起因する画像欠陥を抑制して印刷することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0025】
塗布装置の構成および塗布方法
図1は、本実施形態の塗布装置の構成を示す概略断面図であり、図2は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略斜視図である。図3は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図4は、図3の点線A−Aにおける塗布槽などの概略断面図であり、図5は、図3の一点鎖線B−Bにおける塗布槽などの概略断面図である。
また、図6〜8は、それぞれ本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図3に対応する概略上面図である。また、図9(a)〜11(c)はそれぞれ本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
図12は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図13は、図12の点線C−Cにおける塗布槽などの概略断面図であり、図14は、図12の一点鎖線D−Dにおける塗布槽などの概略断面図である。
【0026】
本実施形態の塗布装置20は、導電性支持体3を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽1を備え、塗布槽1は、塗布液を供給するための底部供給口6と、導電性支持体3を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を塗布槽1から流出させる上部開口7と、塗布槽1の内側面に設けられた直線状の整流溝9とを有し、整流溝9は、底部供給口6から上部開口7へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
また、本実施形態の塗布装置20は、塗布槽1からオーバーフローした塗布液を溜めるオーバーフロー槽10、塗布槽1に溜める塗布液5を循環させるための循環経路12とポンプ17、塗布液を攪拌する攪拌槽14と攪拌装置15、および導電性支持体3を塗布液に浸漬させるための昇降装置16を備えることもできる。
以下、本実施形態の塗布装置20について説明する。
【0027】
1.塗布槽
本実施形態の塗布装置20に含まれる塗布槽1は、導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成するために用いる塗布液5を溜めることができる。塗布槽1は、底を有する筒形状であってもよく、底を有する円筒形状であってもよい。また、塗布槽1は、底部2を有し、底部2に塗布液を塗布槽1に供給するための底部供給口6と有する。このことにより、底部2側から塗布槽1に塗布液を供給することができる。例えば、塗布槽1は、図2〜14のように円筒形状とすることができる。
【0028】
塗布槽1は、オーバーフローにより塗布液を塗布槽1から流出させる上部開口7を有する。このことにより、底部供給口6から塗布槽1に供給された塗布液を上部開口7から流出させることができ、塗布液を流通させることができる。また、上部開口7は、導電性支持体3を挿入可能に設けられる。上部開口7に導電性支持体3を挿入することにより、導電性支持体3を塗布槽1に溜められた塗布液に浸漬させることができ、この塗布液に浸漬した導電性支持体3を塗布液中から引き上げることにより、導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成することができる。
【0029】
塗布槽1は、その内側面に直線状の整流溝9を有する。このことにより、塗布槽1を流通する塗布液を整流することができ、塗布液の乱流が生じることを抑制することができる。
本実施形態の塗布槽1の内部に設けられる整流溝9は、塗布槽1中に供給される塗布液の流れに沿って設けられることが好ましい。図1は塗布槽1の下部から送液用ポンプ17から供給された塗布液が塗布槽1の上端の上部開口7へ向かって上昇供給される場合を示しており、塗布槽1の内部に設けられる整流溝9は塗布槽1の上下方向に溝を形成することで構成される。
この整流溝9は塗布槽1の円周方向に沿って等間隔で2個以上を設けることが好ましい。1個のみの場合は、塗布槽1中に流れる塗布液の乱れを抑制する効果が薄く、塗布槽1の傾きや供給される塗布液の流量や流速の変化を抑制して塗布ムラを無くす効果が著しく低下するだけでなく、かえって塗布ムラを助長する場合があり好ましくない。
【0030】
また、例えば、図2〜5、図9(a)、図10(a)、図11(a)のように整流溝9は、塗布槽1の内側面に2つ設けることができ、塗布槽1の底部2から上部開口7に向かう直線状の整流溝9とすることができる。また、2つの整流溝9は、塗布槽1の内側面において等間隔で設けることができる。図2〜5の例では塗布槽1が円筒形状であるため、2つの整流溝は対向して設けることができる。
また、例えば、図9(b)、図10(b)、図11(b)、図12〜14のように整流溝9は、塗布槽1の内側面に3つ設けることができ、塗布槽1の底部2から上部開口7に向かう直線状の整流溝9とすることができる。また、3つの整流溝9は、塗布槽1の内側面において等間隔で設けることができる。
さらに、図9(c)、図10(c)、図11(c)のように整流溝9は、4つ設けてもよく、また、5つまたは6つ設けてもよい。また、7〜15の範囲内の個数を設けてもよい。
【0031】
本実施形態で設けられる整流溝9の形状は、図2〜5、図8、図9(a)〜(c)、図12〜14のような側壁と底を有するU字形状の形態(タイプA)であってもよい。U字形状の底は、図3のように曲面であってもよく、図8のように平面であってもよい。また、整流溝9の形状は、図6、図10(a)〜(c)のようなV字形状の形態(タイプB)であってもよく、図7、図11(a)〜(c)のような半円形状の形態(タイプC)であってもよい。
また、整流溝9は、実質的に一定の幅を有することができ、また実質的に一定の深さを有することができる。
【0032】
塗布槽1が円筒形状を有しかつ一方の端が底部2であり、他方の端が上部開口7である場合、整流溝9は、塗布槽1が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行であってもよい。このことにより、塗布液を底部2から上部開口7に向かう方向に整流することができ、塗布液の乱流を抑制することができる。
【0033】
更に、塗布槽1の内部に設けた整流溝9の位置に合わせて、上部開口7の円周上の塗布槽1の上端に流出溝8(切り欠き)を設けることが好ましい。この切り込みによって塗布槽1中を流れる塗布液がオーバーフローする際、塗布槽1の上端部の円周方向へ均一に流れ出す効果を高めることとなり、塗布液の液面の流れが放射状で均等となることから液面の流れがスムーズで、液面の揺れによるリングムラや筋ムラのない塗布膜を形成する効果が高まる。
【0034】
しかし、塗布槽1の内部に設けた整流溝9の位置と流出溝8の位置がずれている場合や、塗布槽1の上端の流出溝8の位置の間隔が不均一に設けられていた場合は、塗布槽1中に流れてきた塗布液が塗布槽1の上端の上部開口7から流出溝8を通してオーバーフローする際に塗布液が塗布槽1の円周方向の流れが発生し、塗布液の流れが不均一となることから導電性支持体3上にリング状の筋ムラが発生することから好ましくない。
【0035】
本実施形態で塗布槽1の上端の円周上に設ける流出溝8の形状は、例えば、図2〜5、図12〜図14、図15(a)のようなU字形状の溝であってもよく、図15(b)のようなV字形状の溝であってもよく、図15(c)のような半円形状の溝であってもよい。しかし、これらの形態に限定されるものではない。
この流出溝8は、塗布槽上端開口部の円周方向に沿って等間隔で2個以上を設けることが好ましい。1個のみの場合、塗布槽上端開口部からオーバーフローする際に塗布液の供給量が少なく、開口部全域から流れない場合は1方向からオーバーフローすることとなり、塗布液から離脱する導電性支持体3上に付着する塗布液が塗布液の液面上の流れに影響してリング状の筋ムラが発生するため好ましくない。
【0036】
また、1個のみの場合、塗布液の供給量が十分で塗布槽上端開口部全域から流れる場合でも塗布液の流量が多く流速が早いため、塗布槽内壁の整流溝9に沿って均一に流れていた塗布液がオーバーフローする際に流出溝により多く流れ込むことで塗布液の流れに乱れが多くなり、塗布ムラ発生の原因となることからも好ましくない。
【0037】
2.塗布液
塗布槽1に溜める塗布液は、導電性支持体3の表面上に塗布する塗布液であれば限定されないが、例えば、下引き層用塗布液であってもよく、感光層用塗布液(電荷発生層用塗布液および電荷輸送層用塗布液を含む)であってもよく、オーバーコート層用塗布液であってもよい。これらの塗布液の調製方法は、後述する「電子写真感光体の構成」において説明する。
また、塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液であってもよい。
【0038】
3.オーバーフロー槽
オーバーフロー槽10は、塗布槽1の上部開口7からオーバーフローする塗布液を溜めることができるように設けられる。また、オーバーフロー槽10は、循環経路12を介して攪拌槽14と導通することができる。
【0039】
4.攪拌槽、攪拌装置
攪拌槽14は、塗布液を溜めることができ、塗布液を攪拌することができる。また、攪拌した塗布液を循環経路12を介して塗布槽1に供給することができる。このことにより、十分に攪拌された均一な塗布液を塗布槽1に供給することができ、塗布槽1中の塗布液の品質を安定化することができる。
また、攪拌槽14は、攪拌装置15を備えることができる。このことにより、攪拌槽14に溜められた塗布液を攪拌装置15により攪拌することができる。
【0040】
5.ポンプ
ポンプ17は、塗布液を塗布槽1に供給するために設けることができる。ポンプ17は、攪拌槽14と塗布槽1とを導通させる循環経路12中に設けることができる。
【0041】
6.昇降装置
昇降装置16は、導電性支持体3と接続することができ、導電性支持体3を昇降させることができる。昇降装置16は、導電性支持体3と接続し、導電性支持体3を降下させたとき、導電性支持体3が塗布槽1に溜められた塗布液に浸漬するように設けることができる。また昇降装置16は、導電性支持体3を上昇させたとき、導電性支持体3が塗布槽1に溜められた塗布液から引き上げることができるように設けることができる。このことにより、昇降装置16を用いて、導電性支持体3の表面上に塗布液を塗布することができ、塗布膜を形成することができる。
【0042】
電子写真感光体の製造方法
本実施形態は、本実施形態の塗布装置20を用いた電子写真感光体30の製造方法も提供する。
本実施形態の電子写真感光体30の製造方法は、整流溝9が設けられた塗布槽1を備える塗布装置20を用いた電子写真感光体30の製造方法であって、塗布槽1に溜められた塗布液に導電性支持体3を浸漬させる工程と、導電性支持体3を塗布液中から取り出す工程とを備え、導電性支持体3を塗布液中から取り出す工程は、上部開口7からの塗布液のオーバーフローを伴う。
この塗布液に、下引き層用塗布液、感光層用塗布液、電荷発生層用塗布液または電荷輸送層用塗布液と、必要に応じて形成されるオーバーフロー層用塗布液を用いることにより、電子写真感光体30を製造することができる。
【0043】
[浸漬塗布法]
従来、電子写真感光体を製造する方法としては、同時に複数の塗布が可能であること、比較的容易な製造設備で製造条件を維持し、塗布膜の制御が容易であることなどから浸漬方法が一般的に採用されることが多い。
まず、塗布装置20を用いて導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成する浸漬塗布法について説明する。
浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗布槽1に導電性支持体3を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体3上に塗布膜を形成する方法である。この方法は比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体を製造する場合に多く利用されている。なお、浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。
【0044】
しかし、浸漬塗布方法は、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液または単層型感光層用塗布液などの感光体塗布液を満たした塗布槽1に、導電性支持体3を浸漬した後、一定速度又は、逐次変化する速度で引き上げることにより感光層24を形成できる方法であり、比較的簡単で、生産性及びコストの点で優れているために、電子写真感光体30を製造する場合に多く利用されている。
【0045】
より詳細には、図1に示した浸漬塗布装置20は、塗液槽1および撹拌槽14の内部には、塗布液5が収容される。塗布液5はポンプ17によって循環経路12を通って撹拌槽14から塗液槽1へ送られる。塗布槽1の塗布液5は上部開口7からオーバーフローし、オーバーフロー槽10に流れ込み、オーバーフロー槽10と撹拌槽14の上部とをつなぐ傾斜する循環経路12を通ってオーバーフロー槽10から撹拌槽14へ送られ、このようにして循環される。
【0046】
塗液槽1の上部には、導電性支持体3が昇降装置6の回転軸19に取付けられている。回転軸19の軸方向は、塗液槽1の上下方向に沿っており、回転軸19をモーター18で回転させることによって、取付けられた導電性支持体3が昇降する。モーター18を予め定められる一方向に回転させて導電性支持体3を下降させ、塗液槽1の内部の塗布液5に浸漬する。
次に、モーター18を前記一方向とは逆の他方向に回転させて導電性支持体3を上昇させ、塗布液5から引き上げ、乾燥させて塗布液5による塗布膜が形成される。
【0047】
[浸漬塗布法の留意点]
ここでは、主に浸漬塗布法の留意点について記載する。
導電性支持体上に形成する下引き層22や感光層24、オーバーコート層29を塗布欠陥や塗布ムラのない均一な薄膜を形成するためには、塗布槽に供給される塗布液を一定流量に保ちながら、導電性支持体3を一定速度に維持しながら導電性支持体3を引き上げたり、塗り始めの位置と塗り終わりの位置に膜厚差が発生せず塗布液の付着量が均一となるよう導電性支持体3と液面との相対速度を連続的に変化させるなど、塗布条件にはきめ細かな制御と設備上の管理が必要となる。
【0048】
たとえば、塗布液を供給するポンプの送液能力が低下するなど変化したり、脈流が発生して塗布液の供給量が僅かに変動しても導電性支持体3と塗布液との相対速度を決めて浸漬塗布しているにもかかわらず、導電性支持体3上に付着する塗布液が変化してリングムラや筋ムラが発生する場合がある。このような塗布ムラは画像欠陥となって画質に影響することからリングムラや筋ムラなどの塗布ムラを発生させないことが肝要である。
【0049】
また、塗布槽中に供給される塗布液は、ポンプから供給された後、塗布槽の内部を流れて上部開口7からオーバーフローする間に塗布液の流れが不均一となる場合があり、導電性支持体3上に形成する塗布液の付着量が変化したり、塗布液の乱れによる筋ムラなどの塗布ムラが発生することがある。これは、浸漬塗布を行う際、感光体の生産効率向上を目指して同時に複数本を塗布する場合は、塗布槽へ供給される塗布液の流量が塗布する位置によって必ずしも同量ではなく、塗布槽の傾きや塗布槽1内を流れる塗布液に乱流が発生することが原因と考えられる。
【0050】
更に、塗布槽の上端開口から塗布液がオーバーフローする際、塗布槽の傾斜や塗布槽の内部や塗布槽の上部開口へ流れる際の流量が異なることなどが助長して、塗布液が塗布槽の上部開口からオーバーフローする位置が変化したり、導電性支持体3の円周上から見て偏りが発生し、導電性支持体3の円周方向に膜厚が不均一となったり、筋ムラが発生するなど塗布ムラが発生する原因となる場合がある。
【0051】
特に無機顔料や有機顔料、不溶性の樹脂微粒子を分散させた塗布液の場合、電子写真感光体製造装置である塗布装置の配管や塗布槽、オーバーフロー槽など送液ポンプを介して供給、循環させる循環式の電子写真感光体製造装置において、塗布液の流量や流速が変化し、塗布液の流れが乱れることで塗布液中の顔料の分散状態が不均一となり凝集するなどして粗大粒子の異物や塗布ムラなど塗布欠陥が発生する場合がある。
【0052】
また、このような浸漬塗布装置20を用いて下引き層22などを形成する場合、長期間の使用により塗布液を供給するポンプ17の送液能力の低下や脈流の発生、オーバーフロー槽10から配管、送液ポンプ17を介して塗布槽に供給される際の流量や流速の変動により塗布液に乱流が発生することで導電性支持体3上に形成する塗布される塗布液の付着量が僅かに変化したり、分散された金属酸化物微粒子などの濃度分布にムラを生じて塗布ムラ発生原因となる場合がある。
【0053】
[本実施形態の塗布装置を用いた浸漬塗布法]
しかしながら、本発明者は、導電性支持体3を塗布槽1に満たされた塗布液中に浸漬していく際、浸漬によって塗布槽1内の塗布液が塗布槽の上部開口部からオーバーフローさせた後、導電性支持体3を塗布槽1から離脱させて該支持体3上に塗布膜を形成させる装置において、塗布槽の内側面に直線状の整流溝を設けることで塗布欠陥の無い均一な膜厚を形成することができる塗布装置を見出した。
これは、本実施形態のように塗布槽内部に整流溝9を設けることで、塗布槽1中に流れる塗布液の流れに乱れがなくなり、縦スジやリング状の塗布ムラのない非常に均一な下引き層22などが形成できるものと考えられる。
また、本実施形態の塗布装置を用いて製造した電子写真感光体30は、塗布欠陥や塗布ムラのない均一な膜を形成し、当該感光体30を搭載した画像形成装置45は、各環境下、長期間使用しても画質欠陥のない優れた画像を提供できることを見出した。
【0054】
また、塗布槽1に溜めた塗布液中に浸漬させた導電性支持体3を塗布液中から引き上げる際に、上部開口7から塗布液がオーバーフローするように、塗布槽1に塗布液を供給することができる。このことにより、導電性支持体3を引き上げる際にも、塗布槽中の塗布液の流れを底部2から上部開口7に向かう方向とすることができ、塗布槽内で塗布液の乱流が生じることを抑制することができる。
【0055】
さらに、近年の電子写真感光体を長寿命化する場合、特に感光体最表面層である電荷輸送層やオーバーコート層中にアルミナやシリカなどの無機顔料やフッ素系樹脂微粒子などを耐摩耗性向上のために添加されることが多く、このようなフィラーを添加した電荷輸送層用塗布液やオーバーコート層用塗布液を形成する場合でも、本実施形態の塗布装置を用いると塗布欠陥のない塗布膜を形成した電子写真感光体を得ることができる。
更に、塗布槽1の内部に設けた整流溝9に沿って、塗布槽上端開口部の円周上に等間隔で流出溝8を設けると均等に塗布液が流れることから、流出溝8を設けることは、塗布液の液面の乱れや不均一な流れが発生しないことも均一な塗布膜形成に効果的であると考えられる。
【0056】
電子写真感光体の構成
本実施形態は、本実施形態の塗布装置を用いて製造した電子写真感光体も提供する。
図16は、本実施形態の電子写真感光体の概略平面図であり、図17は、図16の点線F−Fにおける電子写真感光体の概略断面図である。また、図18は、図17の点線で囲んだ範囲Gにおける電子写真感光体の拡大断面図である。また、図19、図20は、本実施形態の電子写真感光体の概略断面図であり、図18に対応する。
電子写真感光体30は、導電性支持体3と、導電性支持体3の表面上に感光層24を有する。また、電子写真感光体30は、導電性支持体3と感光層24との間に下引き層22を備えてもよく、感光層24の上にオーバーコート層29を備えてもよい。
【0057】
1.導電性支持体
導電性支持体3は、電子写真感光体30の電極としての役割を果たすとともに、他の各層の支持部材としても機能する。
導電性支持体3の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属および合金材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、セルロース、ポリ乳酸などの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料または合金材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、カーボンブラックなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0058】
導電性支持体3の形状としては、一般的にシート状、円筒状、円柱状、無端ベルト(シームレスベルト)状などが挙げられるが、同時に複数製造できるなどコスト的に有利で、導電性支持体3上に下引き層22、感光層24、オーバーコート層29などを形成するための塗布液で満たした塗布槽1中に浸漬する方法を採用する場合は、取扱いが比較的容易な円筒状の導電性支持体3が好ましい。
【0059】
導電性支持体3の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化被膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
乱反射処理は、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて、本実施形態の電子写真感光体30を用いる場合に特に有効である。
すなわち、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザー光の波長が揃っているので、電子写真感光体30の表面で反射されたレーザー光と電子写真感光体30の内部で反射されたレーザー光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥を生じることがある。そこで、導電性支持体3の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザー光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0060】
2.下引き層
下引き層22の1例として後述のものを用いることができるが、この下引き層22に限定するものではなく、下引き層22を形成せずに導電性支持体3上に電荷発生層26、電荷輸送層27などの感光層24を設けてもよい。例えば、図17〜20のように下引き層22を導電性支持体3と感光層24との間に設けることができる。
【0061】
下引き層22は、導電性支持体3から感光層24(単層型感光層または積層型感光層)への電荷の注入を防止する(ホール注入に対して障壁となる)機能を有する。
すなわち、下引き層22により単層型感光層または積層型感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。
特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
【0062】
また、導電性支持体3の表面を被覆する下引き層22は、導電性支持体3の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、単層型感光層または積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体3と単層型感光層または積層型感光層との密着性(接着性)を向上させることができる。
上記の下引き層22が形成された電子写真感光体30は、導電性支持体3と感光層24との間において、所定の電気的特性を保ちながら、導電性支持体3の欠陥に由来する画像欠陥を防止することができる。
【0063】
特に下引き層22が形成された電子写真感光体30において、電荷発生物質として、長波長に対して光感度である有機材料、例えばフタロシアニン顔料を用いて電子写真感光体30を製造し、この電子写真感光体30を、反転現像方法を利用する画像形成装置に搭載することにより、微小領域での表面電荷の減少や消失による反転現像特有の白地に微小な黒点(黒ポチ)のない優れた画像特性を発揮することができる。
【0064】
一般的に電子写真感光体30は、導電性支持体3と、該導電性支持体3上に形成された下引き層22と、該下引き層22上に形成された感光層24とを備えた電子写真感光体30において、下引き層22の膜厚が0.05〜10μm程度であることが好ましい。
下引き層22の膜厚を薄くすると電子写真感光体30の環境変動に伴う電気的特性の変動は少なく安定した特性を示すが、導電性支持体3と感光層24との接着性が低下し、導電性支持体3の欠陥に起因する画像欠陥が発生する場合がある。
【0065】
一方、下引き層22の膜厚を厚くすると感度低下を招き、環境変動に対する安定性特性が悪化するという問題があり、画像欠陥の低減と電気的特性の安定性向上を両立させるための実用的な膜厚が制限される要因となっている。
しかしながら、感光体特性、特に感度や残留電位の変動を抑制することができ、画像カブリの発生を防止するなどのために種々の検討がなされてきたが、下引き層22が金属酸化物微粒子、特に酸化チタン微粒子や酸化亜鉛微粒子などを含有することにより、下引き層22の電気的特性を改善し、塗布膜が平坦に形成できれば下引き層22の抵抗値を均一に保つことができ、長期間、各環境下でも優れた画質を安定して発揮できる電子写真感光体30および画像形成装置が得られることから下引き層22に金属酸化物粒子を分散させたものが多く開発されてきた。
【0066】
下引き層22は、金属化合物微粒子とバインダー樹脂を主成分とすることができ、下引き層用塗布液は、有機溶剤にバインダー樹脂と金属化合物微粒子とを分散機により分散させることにより調製することができる。また、下引き層22は、例えば、導電性支持体3の表面上に下引き層用塗布液を浸漬塗布することにより形成することができる。
【0067】
[分散機]
まず、下引き層用塗布液を調製するために用いる分散機について説明する。この分散機は、感光層用塗布液、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液の調製するためにも用いることができる。
下引き層用塗布液の分散方法としては、分散メディアを使用しない超音波分散機や分散メディアを用いるボールミル、ビーズミル、ペイントコンディショナーなどの分散機を用いることができるが、有機溶剤に溶解させたバインダー樹脂溶液中に無機化合物を投入し、分散メディアを通じて分散機から与えられた強力な力で無機化合物を分散させることができるような分散メディアを用いる分散機が好ましい。
【0068】
分散メディアの材質としては、ガラス、ジルコン、アルミナ、チタン好ましくは耐磨耗性が高いジルコニア、チタニアを用いることが好ましい。
分散メディアの形状は、0.3mmから数mm程度のビーズ状、数cm程度のボール状など何れの形状および大きさを用いてもよい。
分散メディアの材質がガラスを使用した場合には、分散液の粘度が上昇し保存安定性が悪くなることから、好ましくない。
【0069】
[金属化合物微粒子]
下引き層22に分散された金属化合物微粒子は、電子写真感光体30としたときの下引層22の体積抵抗値を調節し、導電性支持体3から感光層24へのキャリアの注入を防止すると共に、各種環境下での電子写真感光体30の電気特性を維持する機能を有する。
下引き層22に分散された金属化合物微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ケイ素、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムなどが挙げられ、これらの中でも酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウムが好ましく、酸化チタンおよび酸化亜鉛が特に好ましい。
【0070】
金属化合物微粒子が酸化チタンまたは酸化亜鉛の微粒子である場合、下引き層22を形成するための塗布液を調製するときに用いる分散機から与えられた強力な力が酸化チタンまたは酸化亜鉛の微粒子を分散するエネルギーとしてだけでなく、分散メディア自身や分散メディアを収容するシリンダー内壁および分散メディアを攪拌する回転ディスクなどを磨耗するエネルギーとしても使用され、これらの材料が削れて分散塗布液に混入し、分散塗布液の分散性や保存安定性、感光体の下引き層22を形成する際に塗布性や下引き層22の膜質に何らかの影響を与えているものと考えられる。
【0071】
金属化合物微粒子に用いる酸化チタンの結晶型は、ルチル型、アナタース型やアモルファスの何れであってもよく、その形状は一般的には、粒状のものが用いられるが、針状もしくは樹枝状のものが好ましい。
ここで、用語「針状」とは、棒状、柱状や紡錘状などを含む細長い形状であればよく、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。
また、同様に、用語「樹枝状」とは、棒状、柱状や紡錘状などを含む細長い形状、すなわち、上記の針状の形状が枝分かれしているものを、樹枝状と呼ぶ。
【0072】
針状もしくは樹枝状の酸化チタン微粒子の粒径は、好ましくは長軸長aが100μm以下、短軸長bが1μm以下であるが、より好ましくは長軸長aが10μm以下、短軸長bが0.5μm以下であり、針状とは長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上の形状を指す。
これら針状もしくは樹枝状の軸長がこの範囲より大きければ、分散安定性のある下引層用塗布液が得られにくい。
さらに、微粒子のアスペクト比は好ましくは1.5以上300以下の範囲であり、より好ましくは2以上10以下の範囲である。
粒径およびアスペクト比を測定する方法としては、重量沈降法や光透過式粒度分布測定法などの方法でも測定可能であるが、針状もしくは樹枝状のものは、直接電子顕微鏡で測定する方が好ましい。
【0073】
酸化チタン微粒子および酸化亜鉛微粒子の粉体の体積抵抗値は、105〜1010Ωcmが好ましい。
粉体の体積抵抗値が105Ωcmより小さくなると、下引き層22としての抵抗値が低下し電荷ブロッキング層として機能しなくなる。例えば、アンチモンをドープした酸化錫導電層などの導電処理を施した金属化合物微粒子の場合には、100Ωcmないし101Ωcmと、非常に粉体の体積抵抗値が低くなり、これを用いた下引き層22は電荷ブロッキング層として機能せず、感光体特性としての帯電性が悪化することで、画像にカブリや黒点(黒ポチ)が発生するために使用することはできない。
また、粉体の体積抵抗値が1010Ωcm以上に高くなってバインダー樹脂自身の体積抵抗値と同等あるいはそれ以上になると、下引き層としての抵抗値が高過ぎて、光照射時に生成したキャリアの輸送が抑制阻止され、残留電位が上昇し光感度が低下するので好ましくない。
【0074】
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の粉体の体積抵抗値を上述の範囲に維持する限り、微粒子の表面は、アルミナなどの無機化合物やシランカップリング剤などの有機化合物で被覆させたものを用いることができる。使用する金属化合物微粒子が表面未処理の酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子を用いると、微粒子であるために十分に分散された下引き層用塗布液であっても長期間の使用や塗布液の保管時に酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の凝集が避けらない。そのため、下引き層22を形成する際、塗布膜の欠陥や塗布ムラが発生し画像欠陥が生じる。また、導電性支持体3からの電荷の注入が起こり易くなるために、微小領域の帯電性が低下し黒点が発生することになる。
【0075】
そこで、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を種々の金属化合物やその混合物などで被覆させることにより微粒子の凝集を防止し、非常に分散性や保存安定性に優れた下引き層用塗布液が得られる。
さらに導電性支持体3からの電荷の注入を抑制することができるために、黒点のない優れた画像特性を有する電子写真感光体が得られる。酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を被覆する金属化合物としては、Al2O3、ZrO2、SiO2が好ましい。また、Al2O3もしくはZrO2のように異なる金属化合物の両方やAl(OH)3など複数の異なる材料で表面処理を施すと、さらに優れた画像特性が得られることから、より好ましい効果が発現される。
【0076】
また、Fe2O3などの磁性を持つ金属化合物で酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面に被覆を施した場合には、感光層中に含有するフタロシアニン顔料と化学的に相互作用が起こり、感光体特性、特に感度低下や帯電性の低下が生じるために好ましくない。
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を被覆する金属化合物として用いられるAl2O3、ZrO2、SiO2やAl(OH)3などの表面処理量としては、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に対して0.1重量%から20重量%が好ましい。0.1重量%より少ない処理量であれば、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を十分に被覆することができないために表面処理の効果が発現しにくくなる。20重量%を超える処理量であれば表面処理としては十分に施されているために、特性としては変わらなくなりそれ以上ではコストがかかるため好ましくない。
【0077】
また、下引き層22に分散される酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面は、有機化合物で被覆することができ、一般的なカップリング剤を用いることができる。
カップリング剤の種類としては、アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ハロゲン、窒素、硫黄のような原子が珪素と結合したシリル化剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
例えば、シランカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、N−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等のクロロシラン類、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等のシラザン類、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホフェート)等のチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、これらカップリング剤によって酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に表面処理を施したり、これらカップリング剤を分散剤として使用する場合に、1種または2種以上のカップリン剤を併用して用いてもよい。
【0078】
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に表面処理を施す方法としては、前処理法とインテグラルブレンド法に大別され、さらに前処理法としては湿式法と乾式法に分けられるが、電子写真感光体の電気的特性や画像欠陥が発生しない範囲内で何れの方法を用いて表面処理を施してもよい。
また、金属酸化物微粒子は、その表面が未処理のものやAl2O3、ZrO2、SiO2など、もしくはその混合物やAl(OH)3などの金属化合物で被覆させた後、前述のカップリング剤で表面処理を施すなど、粉体の体積抵抗値を前述の範囲に維持する限り、金属化合物と有機化合物による表面処理を併用しても良い。
【0079】
金属化合物微粒子の下引き層中の含有率は、10〜99重量%、好ましくは30〜99重量%、さらに好ましくは35〜95重量%の範囲である。
金属化合物微粒子が10重量%未満の場合、感度が低下し、下引き層中に電荷が蓄積され残留電位が増大し、特に低温低湿下での繰り返し特性において顕著になることがある。
一方、金属化合物微粒子が99重量%を超える場合、下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなり、金属化合物微粒子の沈降が起こり易くなり、塗布装置20の配管内部や塗布槽1、オーバーフロー槽10など送液ポンプ17を介して供給、循環させる循環式の電子写真感光体製造装置で長期間使用することで金属酸化物微粒子の凝集や沈降が発生しやすく、凝集物などによる塗布欠陥となることから好ましくない。
【0080】
[バインダー樹脂]
このような金属酸化物粒子を均一に分散、保持するために含有されるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料やこれらの繰り返し単位のうち二つ以上を含む共重合体樹脂、更には、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース等が知られている。これらの中でもアルコール可溶性のポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0081】
これは、バインダー樹脂の特性として、下引き層22の上に感光層24を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないことや、導電性支持体3との接着性に優れ、可撓性を有すること、さらに下引き層22中に含有される金属化合物微粒子との親和性がよく、金属化合物微粒子の分散性および分散液の保存安定性に優れていることなどの特性が必要とされるからである。
【0082】
ポリアミド樹脂の中でも、アルコール可溶性ナイロン樹脂が好ましい。具体的には、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン等を共重合させた、いわゆる共重合ナイロンや、N−アルコキシメチル変性ナイロン、N−アルコキシエチル変性ナイロンのような、ナイロンを化学的に変性させたタイプが挙げられる。
また、天然物由来の脂肪酸であるジカルボン酸やその誘導体、ピペラジンやイソホロンジアミンなどの環状構造を有するジアミン化合物を含有する有機溶剤に可溶なポリアミド樹脂を用いることが特に好ましい。
【0083】
バインダー樹脂の下引き層22中の含有率は、1〜90重量%、好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは5〜65重量%の範囲である。
バインダー樹脂が1重量%未満の場合、下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなるため好ましくない。
一方、バインダー樹脂が90重量%を超える場合、金属化合物微粒子の含有量が少なくなることでその効果が低下し、電気的特性及び画像特性が悪化するばかりか、繰り返し安定性、環境特性も悪化するため好ましくない。
【0084】
[有機溶剤]
下引き層用塗布液で用いられるバインダー樹脂を溶解させる有機溶剤としては一般的な有機溶剤を使用することができるが、感光層用塗布液の溶剤に難溶であることが望ましく、バインダー樹脂としてアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いる場合には、炭素数1〜4の低級アルコール群およびジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トルエン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランよりなる群から選ばれた単独系および混合系の有機溶剤などを使用することができる。
【0085】
しかしながら、ハロゲン系溶剤は近年の環境問題や安全性の問題からその使用が削減もしくは禁止の方向にあることから好ましくない。
より詳細には、下引き層用塗布液の溶媒が、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールおよびt−ブチルアルコールよりなる群から選ばれた低級アルコールが好ましく、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなど他の有機溶剤との混合溶剤が更に好ましい。
【0086】
3.感光層
下引き層22の上に形成される感光層24の構造としては、電荷発生層26と電荷輸送層27との二層から成る機能分離型(積層型)感光層、および、これらが分離されずに単一層で形成される単層型感光層があるが、いずれを用いてもよい。
【0087】
図18は、感光層24が、電荷発生層26と電荷輸送層27とがこの順で、下引き層22上に積層された積層型感光層(「機能分離型感光層」ともいう)である積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図19は、感光層24が、一層からなる単層型感光層であり、下引き層22上に積層された単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図18の積層型感光層は、電荷発生層26と電荷輸送層27とが逆順であってもよいが、図18の順に形成された積層型感光層のほうが好ましい。
図18の積層型感光体30は、導電性支持体3の表面に、下引き層22と、電荷発生物質およびバインダー樹脂を含有する電荷発生層26と電荷輸送物質およびバインダー樹脂を含有する電荷輸送層27とがこの順で積層された積層型感光層24がこの順で形成されている。
図19の単層型感光体30は、導電性支持体3の表面に、下引き層22と、電荷発生物質と電荷輸送物質とバインダー樹脂とを含有する単層型感光層24がこの順で形成されている。
【0088】
[積層型感光体の感光層]
積層型感光体30の感光層24は、電荷発生層26と電荷輸送層27とからなる。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることにより、各層を構成する最適な材料を独立して選択することができる。
以下の説明では、電荷発生層26と電荷輸送層27とがこの順で積層された積層型感光体(図18)について説明するが、逆二層型の積層型感光体の場合には積層順が異なるだけで基本的に同様である。
なお、単層構造、積層構造いずれの場合も感光層は、下引き層22が導電性支持体3からのホール注入に対して障壁となり、さらに、高感度、高耐久性を有するためには積層型感光体30の感光層24および後述する単層型感光体30の感光層24は、負帯電性であるのが好ましい。
【0089】
[電荷発生層26]
電荷発生層26は、照射された光を吸収することにより電荷を発生する電荷発生能を有する電荷発生物質を主成分とし、任意に公知の添加剤およびバインダー樹脂(結合剤)を含有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、アゾ系顔料(カルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有する、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など)、ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など)、多環キノン系顔料(キナクリドン、アントラキノン、ピレンキノンなど)、フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなど)、インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど)、スクアリリウム色素、アズレニウム色素、チオピリリウム色素、ピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機顔料または染料、さらにセレン、非晶質シリコンなどの無機材料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0090】
レーザー光やLEDなどの光源を用いて反転現像プロセスにより画像形成を行う感光体30では、620〜800nmの長波長の範囲に感度を有することが要求される。
上記の電荷発生物質の中でも、フタロシアニン系顔料、トリスアゾ系顔料は耐久性および高感度を有することから特に好ましい。
金属フタロシアニン顔料において用いられる金属としては、酸化状態がゼロであるものおよびその塩化物、臭化物などのハロゲン化金属や酸化物などが用いられる。好ましい金属としては、Cu、Ni、Mg、Pb、V、Pd、Co、Nb、Al、Sn、Zn、Ca、In、Ga、Fe、Ge、Ti、Crなどが挙げられる。
これらのフタロシアニン顔料の製造方法は種々の手法が提案されているが、特に限定されず、顔料化された後に各種精製や結晶型を変換させる処理、例えば種々の有機溶剤中での分散処理に付してもよい。
【0091】
電荷発生物質には、非晶型やα型、β型、γ型、δ型、ε型、χ型、τ型等の結晶型を有する金属を使用することができる。
電荷発生層26は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤、可塑剤、無機化合物もしくは有機化合物の微粒子などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。これらの添加剤は、後述する電荷輸送層27に含有されてもよく、電荷発生層26および電荷輸送層27の両方に含有されてもよい。
【0092】
化学増感剤および光学増感剤は、感光体30の感度を向上させ、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑え、電気的耐久性を向上させる。
化学増感剤としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物;ジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料およびこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0093】
光学増感剤としては、例えばキサンテン系色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0094】
酸化防止剤は、長期にわたって感度安定性を維持させることができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール:BHT)のようなヒンダードフェノールなどのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミンなどのアミン系酸化防止剤、ビタミンE、ハイドロキノン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄系化合物、有機燐系化合物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の添加量は、電荷発生物質100重量部に対して0.1〜40重量部が好ましく、0.5〜15重量部が特に好ましい。
酸化防止剤の添加量が0.1重量部未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないおそれがある。また、酸化防止剤の添加量が40重量部を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0095】
レベリング剤および可塑剤は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させることができる。
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
無機化合物または有機化合物の微粒子は、機械的強度を増強し、電気特性を向上させることができる。このような微粒子としては、例えば、前述の下引層において例示する微粒子が挙げられる。
上記のチタニルフタロシアニンの基本構造は下記一般式:
【0096】
【化1】
(式中、X1〜X4は、ハロゲン原子、C1〜C4アルキル又はアルコキシ基を示し、k、l、m、nは0〜4の整数である)で示される。
【0097】
上記のハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子であり、上記のC1〜C4アルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチルまたはt−ブチル基であり、そして上記のC1〜C4アルコキシ基は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシまたはt−ブトキシ基である。
【0098】
チタニルフタロシアニンの合成方法はモーザー及びトーマスの「フタロシアニン化合物」(Moser, and Thomas. "Phthalocyanine Compounds", Reinhold Publishing Corp., New York, 1963)に記載されている公知の方法等、いずれによってもよい。例えば、o-フタロジニトリルと四塩化チタンを加熱融解または、α−クロロナフタレンなどの有機溶媒の存在下で加熱する方法等によりジクロロチタニウムフタロシアニンは収率良く得られる。さらにこのジクロロチタニウムフタロシアニンを塩基もしくは水で加水分解することによって、チタニルフタロシアニンが得られる。この得られたチタニルフタロシアニンには、ベンゼン環の水素原子が塩素、フッ素、ニトロ基、シアノ基またはスルホン基等の置換基で置換されたフタロシアニン誘導体が含有されていてもよい。
【0099】
このようなチタニルフタロシアニン組成物を、水の存在下にジクロロエタン等の水に非混和性の有機溶媒で処理することができる。
チタニルフタロシアニンを水の存在下で水に非親和性の有機溶媒で処理する方法としては、チタニルフタロシアニンを水で膨潤させ、有機溶媒で処理する方法、或いは膨潤処理を行わずに、水を有機溶媒中に添加し、その中にチタニルフタロシアニン粉末を投入する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
チタニルフタロシアニンを水で膨潤させる方法としては、例えば、チタニルフタロシアニンを硫酸に溶解させ、水中で析出させてウェットペースト状にする方法、または、ホモミキサー、ペイントミキサー、ボールミル、またはサイドミル等の撹拌・分散装置を用いて、チタニルフタロシアニンを水で膨潤させ、ウェットペースト状にする方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0100】
また、加水分解で得られたチタニルフタロシアニン組成物を十分な時間の撹拌、もしくは、機械的歪力をもってミリングすることができる。
この処理で用いられる装置としては、一般的な撹拌装置の他に、ホモミキサー、ペイントミキサー、デイスパーサー、アジター、或いはボールミル、サイドミル、アトライター、超音波分散装置等を用いることもできる。処理後、濾過し、メタノール、エタノール、水等を用いて洗浄し単離される。
【0101】
このようにして得られたチタニルフタロシアニンは電子写真感光体の電荷発生材料として優れた特性を発揮する。また、上記のチタニルフタロシアニンの他に、他の電荷発生材料を併用してもよい。そのような電荷発生材料としては、上記のチタニルフタロシアニンとは結晶型の異なるα型、β型、Y型、アモルファスのチタニルフタロシアニン、または、他のフタロシアニン類、さらに、アゾ顔料、アントラキノン顔料、ぺリレン顔料、多環キノン顔料、スクエアリウム顔料等が挙げられる。
【0102】
これらのフタロシアニン顔料を用いた電荷発生層26の作製方法としては、電荷発生物質、特にフタロシアニン顔料を真空蒸着することによって形成する方法、及び、バインダー樹脂と有機溶剤と混合分散して成膜する方法があるが、混合分散処理する前に予め粉砕機によって粉砕処理を行っても良い。その粉砕機に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、振動ミル及び超音波分散機などを用いた方法があるが、電子写真感光体30の感度を左右する顔料の結晶型、特にフタロシアニン顔料の結晶系を所定の結晶型に結晶変換したり、結晶型を維持する為には種々の分散機を用いても良い。
【0103】
感光層用塗布液に用いられる結着性樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂などや二つ以上の繰り返し単位を含む共重合体樹脂、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、一般に用いられるすべての樹脂を単独あるいは二種以上混合して使用することができる。
【0104】
また、これらの樹脂を溶解させる溶媒としては、塩化メチレン、2塩化エタン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒あるいはこれらの混合溶剤などを用いることができる。フタロシアニン顔料とバインダー樹脂との配合比は、フタロシアニン顔料が10重量%から99重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ない場合は感度が低下し、多ければ耐久性が低下するばかりでなく、分散性が低下する為に粗大粒子が増大することから画像欠陥、特に黒ポチが多くなる。
【0105】
電荷発生層用塗布液を製造する際には、前述のフタロシアニン顔料とバインダー樹脂、有機溶剤を混合し分散させるが、分散条件としては用いる容器や分散メディアの摩耗等による不純物の混入が起こらないように適当な分散条件を選択して行う。
上記のようにして得られる分散液中に含有されるフタロシアニン顔料は、一次粒子及び/またはその凝集粒子径が3μm以下の粒子径にまで分散を進めることが肝要である。
一次粒子及び/またはその凝集粒子径が3μmよりも大きければ得られる電子写真感光体30において、反転現像の際、白地に黒ポチが非常に発生することとなる。そのため各種分散機により電荷発生層用塗布液を製造する際には、分散条件を最適化しフタロシアニン顔料粒子を3μm以下、更に好ましくはメジアン径で0.5μm以下、モード径で3μm以下にまで分散し、これよりも大きい粒子を含有しないことが好ましい。
【0106】
フタロシアニン顔料粒子はその化学的構造から微粒子にするためには比較的強い分散条件と長時間の分散時間を必要としており、これ以上に分散を進めることはコスト的に効率が悪く、分散メディアの摩耗等による不純物の混入が避けられない。
また、分散時の有機溶剤や熱、分散による衝撃などによりフタロシアニン顔料粒子の結晶型が変化することにより、感光体の感度が大きく低下するなどの弊害が発生する。そのため、メジアン径で0.01μm以下、モード径で0.1μm以下にフタロシアニン顔料の粒子径を小さくすることは好ましくない。
【0107】
また、分散された塗布液中のフタロシアニン顔料粒子中に3μmよりも大きい粒子が含まれている場合にはろ過処理を施すことにより3μmよりも大きい一次粒子及び/または凝集粒子を除去することができる。ろ過処理に用いられるフィルターの材質は分散の際に用いられる有機溶剤に膨潤や溶解しないものであれば一般的に用いられるものが使用されるが、好ましくは孔径が均一のテフロン(登録商標)製メンブランフィルターが良い。更に遠心分離により粗大粒子や凝集物を除去しても良い。
また、このようにして得られた電荷発生層用塗布液を用いて形成される電荷発生層は、好ましくは0.05μm〜10μm、より好ましくは0.08μmから5μmの厚みに塗布される。
【0108】
下引き層22と感光層24の構成では、電荷発生層26の膜厚を厚くすると、感度特性が向上するが、微小領域での表面電荷の消失による白地に微小な黒点が発生するなど、画像欠陥が発生する弊害があった。
一方、下引き層22の膜厚を薄くすると感度低下を招くため、画像欠陥の低減と電気的特性および生産安定性向上を両立させるための実用的な膜厚が制限されることとなっていた。
【0109】
上記の厚みより電荷発生層の膜厚が薄ければ、感度低下をもたらすばかりでなく、フタロシアニン顔料を非常に小さくなるまで分散する必要があるために結晶型が変化するなど好ましくない。
また、上記の膜厚より電荷発生層の膜厚が厚くなれば一定の感度を示すが、コスト的に好ましくないばかりか、均一に塗布することが困難となり好ましくない。
【0110】
このように電子写真感光体30の電気的特性、特に感光体感度が大きく影響する電荷発生層26を均一に塗布ムラなく形成するための塗布方法は、下引き層22の形成と同様に、本発明で示した塗布槽1の内壁に整流溝9を設けたものや、さらに塗布槽1の上部開口7の円周上に等間隔で切り込みを設けることで塗布液の流れが均一で乱れず塗布欠陥の無い電荷発生層26が形成できる。
【0111】
[電荷輸送層27]
電荷発生層26の上に設けられる電荷輸送層27の作製方法としては、結着性樹脂溶液中に電荷輸送物質を溶解させた電荷輸送用塗布液を作製し、これを塗布して成膜する方法が一般的である。
電荷輸送層に含有される電荷輸送物質としては、ヒドラゾン系化合物、ピラゾリン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、オキサジアゾール系化合物などが知られており、一種もしくは二種以上併用することも可能である。
【0112】
結着性樹脂としては、前記の電荷発生層用の樹脂を一種もしくは二種以上混合して使用することができる。電荷輸送層27の作製方法としては、下引き層22と同様の方法が用いられる。
電荷輸送層27の膜厚は、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下の範囲である。
【0113】
[単層型感光体の感光層]
単層型感光層24は、電荷発生物質と、電荷輸送物質と、バインダー樹脂(結合剤)とを主成分として含有する。
単層型感光層24は、必要に応じて、電荷発生層26に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
単層型感光層24は、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解および/または分散して単層型感光層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体3上に形成された下引き層22の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層26および電荷輸送層27の形成に準ずる。
【0114】
単層型感光層24の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
単層型感光層24の膜厚が5μm未満であると、感光体30の表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、単層型感光層24の膜厚が50μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0115】
また、感度の向上、残留電位や繰り返し使用時の疲労低減等を目的として、感光層24に少なくとも一種以上の電子受容性物質を添加することができる。例えば、パラベンゾキノン、クロラニル、テトラクロロ1,2−ベンゾキノン、ハイドロキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、メチル1,4−ベンゾキノン、α−ナフトキノン、β−ナフトキノン等のキノン系化合物、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、p−ニトロベンゾフェノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2−ニトロフルオレノン等のニトロ化合物、テトラシアノエチレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、4−(P−ニトロベンゾイルオキシ)−2',2'−ジシアノビニルベンゼン、4−(m−ニトロベンゾイルオキシ)−2',2'−ジシアノビニルベンゼン等のシアノ化合物などを挙げることができる。
【0116】
これらのうち、フルオレノン系、キノン系化合物やCl、CN、NO2等の電子吸引性置換基のあるベンゼン誘導体が特に好ましい。また、安息香酸、スチルベン化合物やその誘導体、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、オキサジアゾール化合物、チアゾール化合物、およびその誘導体等の含窒素化合物類などのような紫外線吸収剤や酸化防止剤を含有させることもできる。
【0117】
4.オーバーコート層
感光体30は、積層型感光体の感光層24および単層型感光体の感光層24の表面にオーバーコート層29を有していてもよい。例えば、図20のようにオーバーコート層29を感光層24の上に設けることができる。
オーバーコート層29は、感光層24の摩耗性の改善やオゾン、窒素酸化物などによる化学的悪影響の防止の機能を有する。
【0118】
オーバーコート層29には、熱可塑性樹脂や、光または熱硬化性樹脂を用いることができる。また、オーバーコート層29中に、紫外線防止剤や酸化防止剤、金属酸化物等の無機材料、有機金属化合物および電子受容性物質等を含有させることもできる。
オーバーコート層29は、例えば、適当な有機溶剤にバインダー樹脂、必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を溶解または分散させてオーバーコート層形成用塗布液を調製し、このオーバーコート層形成用塗布液を単層型感光層24または積層型感光層24の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層26の形成に準ずる。
【0119】
オーバーコート層29の膜厚は特に制限されないが、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmが特に好ましい。オーバーコート層29の膜厚が0.5μm未満では、感光体30の表面の耐擦過性が劣り、耐久性が不十分になるおそれがあり、逆に10μmを超えると、感光体30の解像度が低下するおそれがある。
また感光層24及びオーバーコート層29には必要に応じて、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステルや塩素化パラフィン等の可塑剤を混合させて、加工性及び可撓性を付与し、機械的物性の改良を施しても良く、シリコン樹脂などのレベリング剤を使用することもできる。
【0120】
特に耐摩耗性を向上させるため、下引き層22の場合と同様に金属酸化物微粒子やフッ素化合物微粒子を分散させる場合があり、このような分散液は本発明の塗布装置20を用いることで塗布ムラがなく、均一な層を形成することができる。
本発明の電子写真感光体30は、電子写真複写機やレーザー、発光ダイオード(LED)などを光源とする各種プリンター及び電子写真製版システムなどに使用することができる。
【0121】
画像形成装置
本実施形態は、本実施形態の電子写真感光体30を搭載した画像形成装置45も提供する。
図21は、本実施形態の画像形成装置の概略断面図である。
【0122】
本実施形態の画像形成装置45は、本実施形態の感光体30と、感光体30を帯電させる帯電手段34と、帯電された感光体30を露光して静電潜像を形成する露光手段38と、露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段35と、現像によって形成された前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段36と、転写された前記トナー像を前記記録材上に定着して画像を形成する定着手段41を少なくとも備えることができる。
図面を用いて本実施形態の画像形成装置45について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0123】
図21の画像形成装置20は、本実施形態の感光体30と、帯電手段(帯電器)34と、露光手段38と、現像手段(現像器)35と、転写手段(転写器)36と、クリーニング手段(クリーナ)37と、定着手段(定着器)41と、除電手段(図示せず、クリーニング手段37に併設される)を含んで構成される。符号40は転写紙を示す。
【0124】
感光体30は、図示しない画像形成装置45本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線32回りに矢符33方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体30の芯体を構成する導電性支持体3に伝えることによって、感光体30を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器34、露光手段38、現像器35、転写器36およびクリーナ37は、この順序で、感光体30の外周面に沿って、矢符33で示される感光体30の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0125】
帯電器34は、感光体30の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。具体的には、例えば帯電器34は、接触式の帯電ローラ34aや帯電ブラシあるいはコロトロンやスコロトロンなどのチャージャーワイヤによって実現される。符号34bはバイアス電源を示す。
【0126】
露光手段38は、例えば半導体レーザーなどを光源として備え、光源から出力されるレーザー光38aを、感光体30の帯電器34と現像器35との間に照射することによって、帯電された感光体30の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光38aは、主走査方向である感光体30の回転軸線32の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って感光体30の表面に静電潜像が順次形成される。
【0127】
現像器35は、露光によって感光体30の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体30を臨んで設けられ、感光体30の外周面にトナーを供給する現像ローラ35aと、現像ローラ35aを感光30の回転軸線32と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング35bとを備える。
【0128】
転写器26は、現像によって感光体30の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符39方向から感光体30と転写器36との間に供給される記録媒体である転写紙40上に転写させる転写手段である。転写器26は、例えば、帯電手段を備え、転写紙40にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙40上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0129】
クリーナ37は、転写器36による転写動作後に感光体30の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体30の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード37aと、クリーニングブレード37aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング37bとを備える。また、このクリーナ37は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0130】
また、画像形成装置45には、感光体30と転写器36との間を通過した転写紙40が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器41が設けられる。定着器41は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ41aと、加熱ローラ41aに対向して設けられ、加熱ローラ41aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ41bとを備える。
【0131】
この画像形成装置45による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体30が駆動手段によって矢符33方向に回転駆動されると、露光手段38による光38aの結像点よりも感光体30の回転方向上流側に設けられる帯電器34によって、感光体30の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0132】
次いで、露光手段38から、感光体30の表面に対して画像情報に応じた光38aが照射される。感光体30は、この露光によって、光38aが照射された部分の表面電荷が除去され、光38aが照射された部分の表面電位と光38aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0133】
次いで、露光手段38による光38aの結像点よりも感光体30の回転方向下流側に設けられる現像器35から、静電潜像の形成された感光体30の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
感光体30に対する露光と同期して、感光体30と転写器36との間に、転写紙40が供給される。転写器36によって、供給された転写紙40にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体30の表面に形成されたトナー像が、転写紙40上に転写される。
【0134】
次いで、トナー像の転写された転写紙40は、搬送手段によって定着器41に搬送され、定着器41の加熱ローラ41aと加圧ローラ41bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙40に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙40は、搬送手段によって画像形成装置45の外部へ排紙される。
【0135】
一方、転写器36によるトナー像の転写後も感光体30の表面上に残留するトナーは、クリーナ37によって感光体30の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体30の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体30の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体30はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰り返されて連続的に画像が形成される。
また、画像形成装置は、機種によって感光体30に残留するトナーを除去し回収するクリーナ37のようなクリーニング手段と、感光体30に残留する表面電荷を除電する除電手段を装備していないものであってもよい。
【0136】
電子写真感光体製造実験
本発明の塗布装置などを用いて電子写真感光体を製造する実験を行った。なお、本実験で製造した電子写真感光体のタイプおよび製造に用いた塗布槽のタイプを表1にまとめて示した。
本実験において用いた塗布装置に含まれる塗布槽は、すべて内径70mm×深さ360mmのものを用いた。塗布槽の内側面に設けたタイプAの整流溝9とは、図9に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。タイプBの整流溝9とは、図10に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。タイプCの整流溝9とは、図11に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。また、塗布槽に設けた整流溝は、図9〜11に示すように等間隔で設けた。
【0137】
【表1】
【0138】
1.実施例1
本発明の塗布装置を用いて図19に示すような単層型電子写真感光体を製造した。この感光体では、図19に示されるように、導電性支持体3の上に下引き層22が形成され、その上に電荷発生物質と電荷輸送物質を含有している感光層24が形成されている。また、実施例1では、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1を備えた塗布装置20を用いて下引き層22および感光層24を形成した。なお、実施例1で用いた塗布槽1には、図2〜5、図9(a)し示したような流出溝8は形成していない。
【0139】
[下引き層用塗布液の調製]
下引き層22用の塗布液を調製した。
まず、容積100Lのステンレス製の攪拌タンクに、酸化チタン(Al(OH)3、SiO2表面処理、粒状、テイカ株式会社製、製品名:MT−500SA)を8重量部、ポリアミド樹脂(アルケマ社製、製品名:M1276)を2重量部、メタノールを50重量部、テトラヒドロフランを50重量部、投入し、液温が40℃になるようにステンレス容器を加熱しながら、攪拌羽を備えた攪拌モーターを用いて回転数200rpmで2時間、混合溶液を攪拌し樹脂を溶解させて、下引き層用塗布液の樹脂溶液を得た。
【0140】
横型ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:KD−20B、シリンダー容積:16.5L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.5mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入した。次いで、ダイヤフラムポンプを介して、得られた樹脂溶液を攪拌タンクから横型ビーズミルに送液し、再び攪拌タンクに送液する循環を流速3.3L/分で30時間継続して、分散処理した下引き層用塗布液を80kg調製した。
【0141】
[下引き層の形成]
得られた下引き層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に下引き層用塗布液を供給しながら直径30mm×全長345mmのアルミニウム製の円筒状導電性支持体3を塗布槽1内の下引き層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた円筒状導電性支持体3を下引き層用塗布液から引き上げることにより、円筒状導電性支持体3の表面上に下引き層用塗布液を塗布した。得られた塗布膜を温度100℃で30分間、熱風乾燥させて、乾燥膜厚1.0μmの下引き層22を形成した。
【0142】
[感光層用塗布液の調製]
感光層24用の塗布液を調製した。
攪拌タンクで、τ型無金属フタロシアニンLiophoton TPA-891(東洋インキ製造社製)を20重量部、ポリカーボネート樹脂Z−400(三菱瓦斯化学社製)を20重量部、下記式(II)のヒドラゾン系化合物を20重量部、下記式(III)のジフェノキノン化合物を20重量部、テトラヒドロフランを100重量部、を混合し、混合液を得た。その後、下引き層用塗布液と同様に横型分散機(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:ダイノーミル KLDパイロットタイプ、シリンダー容積:1.4L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.2mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入し、得られた混合液を攪拌タンクから横型分散機に送液した後、再び攪拌タンクに分散液を移して再び分散処理をおこなうよう繰り返す分散処理を行い、感光層用塗布液80Kgを調製した。
【0143】
【化2】
【0144】
【化3】
【0145】
[感光層の形成]
得られた感光層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に感光層用塗布液を供給しながら、下引き層22を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の感光層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を感光層用塗布液から引き上げることにより、下引き層22上に感光層用塗布液を塗布した。その後、100℃で1時間の熱風乾燥を行ない、乾燥膜厚20μmの感光層24を設け、図19に示す単層型の電子写真感光体30を作製した。
【0146】
2.実施例2
本発明の塗布装置を用いて図18に示すような機能分離型電子写真感光体(積層型感光体)を製造した。この感光体では、図18に示されるように、導電性支持体3の上に下引き層22が形成され、その上に電荷発生層26及び電荷輸送層27とから成る感光層24が形成されている。電荷発生層26には電荷発生物質が、電荷輸送層27には電荷輸送物質がそれぞれ含まれている。また、実施例2では、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1を備えた塗布装置20を用いて下引き層22、電荷発生層26及び電荷輸送層27を形成した。なお、実施例2で用いた塗布槽1には、図2〜5、図9(a)し示したような流出溝8は形成していない。
【0147】
[下引き層の形成]
実施例1と同様の円筒状導電性支持体3の表面上に、実施例1と同様の下引き層用塗布液を、実施例1と同様の方法で塗布し、得られた塗布膜を温度100℃で30分間、熱風乾燥させて、乾燥膜厚1.0μmの下引き層22を形成した。
【0148】
[電荷発生層用塗布液の調製]
電荷発生層用塗布液を調製した。
攪拌タンクで、τ型無金属フタロシアニンLiophoton TPA-891(東洋インキ製造社製)を2重量部、塩化ビニル―酢酸ビニル―マレイン酸共重合体樹脂SOLBIN M(日信化学工業社製)を2重量部、メチルエチルケトンを100重量部、を混合し、混合液を得た。その後、下引き層用塗布液と同様に横型分散機(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:ダイノーミル、KLDパイロットタイプ、シリンダー容積:1.4L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.2mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入し、得られた混合液を攪拌タンクから横型分散機に送液した後、再び攪拌タンクに分散液を移して再び分散処理をおこなうよう繰り返す分散処理を行い、電荷発生層形成用塗布液を80Kg調製した。
【0149】
[電荷発生層の形成]
得られた電荷発生層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速20L/minで塗布槽1に電荷発生層用塗布液を供給しながら、下引き層22を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の電荷発生層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を電荷発生層用塗布液から引き上げることにより、下引き層22上に電荷発生層用塗布液を塗布した。その後、自然乾燥して膜厚0.8μmの電荷発生層26を形成した。
【0150】
[電荷輸送層用塗布液の調製]
電荷輸送層用塗布液を調製した。
下記式(IV)のエナミン化合物を8重量部、ポリカーボネート樹脂・PCZ−400(三菱ガス化学株式会社製)を10重量部、シリコンオイル・KF50(信越化学社製)を0.002重量部、テトラヒドロフランを120重量部、混合・撹拌・溶解させて電荷輸送層用塗布液を80Kg調製した。
【0151】
【化4】
【0152】
[電荷輸送層の形成]
得られた電荷輸送層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に電荷輸送層用塗布液を供給しながら、電荷発生層26を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の電荷輸送層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を電荷輸送層用塗布液から引き上げることにより、電荷発生層26上に電荷輸送層用塗布液を塗布した。その後、130℃で1時間乾燥して膜厚25μmの電荷発生層を形成した。
このようにして図18に示す積層型の電子写真感光体30を作製した。
【0153】
3.比較例1
実施例1で使用した下引き層用塗布液、感光層用塗布液を用いて、それぞれ塗布槽の内壁に整流溝を設けていない円筒状のものを用いた以外は、実施例1と同様にして下引き層22、感光層24を形成し、図19に示す単層型の電子写真感光体30を作製した。
【0154】
4.比較例2
実施例2で使用した下引き層用塗布液、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層塗布液を用いて、それぞれ塗布槽1の内壁に整流溝を設けていない円筒状のものを用いた以外は、実施例2と同様にして下引き層22、電荷発生層26、電荷輸送層27を形成し、図18に示す積層型の電子写真感光体30を作製した。
【0155】
5.実施例3〜10
実施例3〜10では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を表1にまとめたようにした以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。
【0156】
6.実施例11〜13
実施例11〜13では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を2つとし、塗布槽上部開口端部に幅5mm、深さ2mmの流出溝8を設けた塗布槽1を用いた以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。なお、この実施例において、流出溝8は、図2〜5のように整流溝9に繋がるように設けている。
【0157】
7.参考例1〜3
参考例1〜3では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を2つとし、塗布槽上部開口端部に幅5mm、深さ2mmの流出溝8を設けた塗布槽1を用いた以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。なお、この参考例において、流出溝8は、図22のように整流溝9と90度ずらして設けている。図22は、図3に対応している。
【0158】
画像評価実験
電子写真感光体製造実験で製造した電子写真感光体を、それぞれ搭載したデジタル複写機(シャープ社製:AR−455)改造機で印刷し、初期ハーフトーン画像を以下の評価基準に従って評価した。画像評価実験における評価結果をまとめたものを表2に示す。
【0159】
【表2】
【0160】
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラの塗布欠陥無し、画像特性に優れている」と判断された場合には、表2においてVG(very good)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラがわずかに存在、画像特性は実使用上問題なし」と判断された場合には、表2においてG(good)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラが存在、画像特性は実使用上問題あり」と判断された場合には、表2においてB(bad)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラが多く存在、画像特性上劣っている」と判断された場合には、表2においてVB(very bad)と表した。
【0161】
1.実施例1、2、比較例1、2で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例1、2で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも欠陥が全く無いか、または無視し得るようなムラがわずかに認められる程度であり通常の使用には支障をきたさない良好な画像が得られた。また、比較例1、2による感光体による印刷物には、画像上に感光層の塗布ムラに起因するハーフトーンムラや筋ムラ、リング状ムラが見られ、画質品位の劣る画像しか得られなかった。
【0162】
2.実施例3〜10で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例3〜10で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも塗布ムラなどの欠陥が全く無く、非常に優れた画質が得られた。
【0163】
3.実施例11〜13で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例11〜13で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも塗布ムラなどの欠陥が全く無く、非常に優れた画質が得られた。
また、実施例11〜13は、耐久性試験として10,000枚の実写Agingを30度80%RHの高温高湿環境下と5度20%RHの低温低湿環境下で行った後の画像特性を評価すると、実施例11〜13では、初期と同等に塗布ムラに起因する画像ムラの発生はなかった。
【0164】
4.参考例1〜3で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において参考例1〜3で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には筋ムラやリングムラが発生し、画像品位が劣ると評価された。この原因は明らかではないが、下引き層または感光層の形成時において、塗布槽下部から供給された塗布液が塗布槽上部へ上昇し、オーバーフローする際に塗布液の流れが乱れるためと考えられる。
また、耐久性試験として10,000枚の実写Agingを30度80%RHの高温高湿環境下と5度20%RHの低温低湿環境下で行った後の画像特性を評価すると、比較例3〜5では、Aging後、ハーフトンムラが非常に顕著に見られるようになり、初期に発生した画像ムラのレベルが悪化した。
【符号の説明】
【0165】
1: 塗布槽 2:底部 3:導電性支持体 4:内側面 5:塗布液 6:底部供給口 7:上部開口 8:流出溝 9:整流溝 10:オーバーフロー槽 12:循環経路 14:攪拌槽 15:攪拌装置 16:昇降装置 17:ポンプ 18:モーター 19:回転軸 20:塗布装置 22:下引き層 24:感光層 26:電荷発生層 27:電荷輸送層 29:オーバーコート層 30:電子写真感光体 32:回転軸線 33:回転駆動方向 34:帯電器 34a:帯電ローラ 34b:バイアス電源 35:現像器 35a:現像ローラ 35b:ケーシング 36:転写器 37:クリーナ 37a:クリーニングブレード 37b:回収用ケーシング 38:露光手段 38a:レーザー光(光) 39:転写紙移動方向 40:転写紙 41:定着器 41a:加熱ローラ 41b:加圧ローラ 45:画像形成装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置、電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光導電性の感光体を用いた電子写真プロセスは、感光体の光導電現象を利用した情報記録手段の一つである。
このプロセスは、先ず、感光体を暗所においてコロナ放電によりその表面を一様に帯電させた後、像露光を施して露光部の電荷を選択的に放電させることによって、非露光部に静電像を形成させる。次に、着色した荷電微粒子(トナー)を静電引力などで潜像に付着させて可視像とし、画像を形成する。
【0003】
これら一連のプロセスにおいて感光体に要求される基本的な特性としては、
1)暗所において適当な電位に一様に帯電させることができること;
2)暗所において高い電荷保持能を有し、電荷の放電が少ないこと;
3)光感度に優れており、光照射によって速やかに電荷を放電すること;
などが挙げられる。
更には容易に感光体の表面を除電することができ、残留電位が小さいこと、機械的強度があり、可撓性に優れていることや、繰り返し使用する場合に電気的特性、特に帯電性や光感度、残留電位等が変動しないこと、熱・光・温度・湿度やオゾン劣化等に対する耐性を有していることなど、安定性・耐久性が大きい等の特性が必要である。
【0004】
現在、実用化されている電子写真感光体は、導電性支持体の上に感光層が形成されているが、導電性支持体からのキャリア注入が生じ易いために表面電荷が微視的にみて消失もしくは減少することによる画像欠陥が発生する場合がある。
この画像欠陥を防止し、導電性支持体表面の欠陥の被覆、帯電性の改善、感光層の接着性の向上、塗布性改善等のために導電性支持体と感光層との間に下引き層(中間層)を設ける事が行われている。
【0005】
一般的に、電子写真感光体の製造方法としては、中間層を形成するための塗布液や感光層を形成するための塗布液が、各種有機溶剤や水系の溶液にバインダー樹脂を溶解または分散させた溶液中に有機顔料、無機顔料の他に、各種化合物を溶解または分散させた溶液で構成されており、これらの塗布液を用いて導電性支持体上に塗布膜を形成することで電子写真感光体を製造することが多い。
塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法、浸漬塗布法等があげられる。
【0006】
このうち、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗布槽に導電性支持体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体上に塗布膜を形成する方法である。この方法は比較的簡単で、生産性および原価の点で優れていることから、電子写真感光体を製造する場合に多く利用されている。
【0007】
近年、種々の高感度な電子写真感光体が開発されているが、画質や耐久性に対する要求が高まるにつれて電子写真感光体の性能を十分に発揮できるような製造技術が求められている。すなわち、高感度、高画質を得るために、導電性支持体上に形成する中間層及び感光層に僅かな塗布欠陥や塗布ムラがないよう均一な中間層や感光層を形成できる電子写真感光体の製造装置や製造方法の改善が求められている。中間層及び感光層に僅かな塗布欠陥や塗布ムラがあると、これらの欠陥に起因する画像欠陥や画像ムラが発生したり、環境変動や長期使用によって画質が変化し、初期画像には見られなかった画像欠陥や画像ムラが顕在化する場合がある。
【0008】
従来、生産性に優れた電子写真感光体の製造方法として用いられてきた浸漬塗布方法は、複数本の電子写真感光体が同時に製造できるよう大きな塗布槽中に満たした中間層用塗布液や感光層用塗布液中に導電性支持体を浸漬し、浸漬した際に溢れた塗布液は塗布槽とは別に設けたオーバーフロー槽に溜めて、オーバーフロー槽中の塗布液を再び塗布槽に再供給するように循環経路を設けた装置を使用することが一般的である。
【0009】
しかしながら、無機顔料などを分散させた中間層用塗布液や有機顔料などを分散させた感光層用塗布液、特に電荷発生層用塗布液、並びに昨今の電子写真感光体で採用されるようになった耐摩耗性向上を目的とした無機や有機顔料または不溶性の樹脂微粒子などを分散させた電荷輸送層用塗布液や感光層上に形成されるオーバーコート層を形成するための塗布液などの塗布液を循環式の電子写真感光体製造装置において繰り返し循環し、塗布槽に供給すると、各種無機、有機顔料または不溶性の樹脂微粒子などを分散した塗布液が繰り返し製造装置内で循環され、顔料や樹脂粒子同士の凝集物が発生する場合がある。このような凝集物は、導電性支持体上に形成される中間層、感光層、またはオーバーコート層の非常に僅かな塗布欠陥となる場合があり、環境変動や長期使用によって画像欠陥が顕在化し画質品位が著しく低下する原因となる場合がある。
【0010】
また、このような分散液は、液を循環する際に供給用ポンプから発生する脈流や分散液が循環用配管から塗布槽へ供給される際や塗布槽中で液がオーバーフローする際に流速が変化することで塗布液の流れに乱れが生じることから、導電性支持体上に形成される中間層、感光層、オーバーコート層には塗布液の乱流が原因とする塗布ムラが発生し、画像ムラの原因となる。
【0011】
さらに、非常に微細な塗布欠陥や塗布ムラを有する電子写真感光体を搭載した画像形成装置は、使用当初はこれら塗布欠陥や塗布ムラは画質への影響が見られない場合でも、画像形成装置を長期間使用した場合や環境変動による電子写真感光体の電気的特性の変化に伴ってこれらの微細な塗布欠陥や塗布ムラが画質へ影響し、画像品質を著しく悪化させることから常に一定の高画質を維持することができないなどの問題が生じる。
【0012】
そこで、塗布ムラの発生を防止する目的のために、塗布槽の開口端部に互いにほぼ等間隔に3つ以上の切込みを設けることにより塗布液上面の揺らぎに起因するリングムラの抑制する塗布装置(特許文献1)や塗布槽の内壁にらせん状のリブを設け、浸漬した導電性支持体の周方向に塗布液が流れる塗布装置(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2986004号
【特許文献2】特開平10−272397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、従来の電子写真感光体を製造するための塗布装置では、塗布槽下部から供給される塗布液の乱流に起因する塗布ムラが発生したり、スパイラル状の塗布ムラが発生するなどの問題が生じる場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電子写真感光体の高品質な画質特性への要求に十分に対応できる塗布装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする塗布装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内側面に直線状の整流溝を有する塗布槽を備えるため、塗布槽の底部の底部供給口から供給され、上部開口からオーバーフローするように流れる塗布液の流れを整流することができ、塗布槽内を流れる塗布液に乱流が生じることを抑制することができる。このことにより、塗布液の乱流に起因する塗布ムラが生じることを抑制して導電性支持体の表面上に塗布膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の塗布装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図4】図3の点線A−Aにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図5】図3の一点鎖線B−Bにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図7】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図8】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図9】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図10】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図11】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
【図12】本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図である。
【図13】図12の点線C−Cにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図14】図12の一点鎖線D−Dにおける塗布槽などの概略断面図である。
【図15】(a)は、図14の点線で囲んだ範囲Eの拡大図であり、(b)(c)は、本発明の一実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略拡大図であり、(a)に対応する。
【図16】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略平面図である。
【図17】図16の点線F−Fにおける電子写真感光体の概略断面図である。
【図18】図17の点線で囲んだ範囲Gにおける電子写真感光体の拡大断面図である。
【図19】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略断面図である。
【図20】本発明の一実施形態の電子写真感光体の概略断面図である。
【図21】本発明の一実施形態の画像形成装置の概略断面図である。
【図22】電子写真感光体製造実験において用いた塗布槽などの概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の塗布装置は、導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の塗布装置において、前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含むことが好ましい。
このような構成によれば、上部開口から流出する塗布液を流出溝から優先的にオーバーフローさせることができ、塗布槽を流通する塗布液の流れを安定化することができる。
本発明の塗布装置において、前記流出溝は、等間隔で2つ以上設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、塗布槽に溜められた塗布液が上部開口からオーバーフローするとき、液面を安定化することができる。
【0020】
本発明の塗布装置において、前記流出溝は、前記整流溝に繋がる溝であることが好ましい。
このような構成によれば、整流溝から流出溝に向かう塗布液の流れを作ることができ、流出溝および整流溝の整流効果を高めることができる。
本発明の塗布装置において、前記塗布槽は、円筒形状を有し、かつ、一方の端が底部であり他方の端が前記上部開口であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布槽内を流れる塗布液に乱流が生じることを抑制することができる。
本発明の塗布装置において、前記整流溝は、前記塗布槽が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行に設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、整流溝による底部供給口から上部開口に向かって流れる塗布液の整流効果を高めることができる。
【0021】
また、本発明は、本発明の装置を用いた電子写真感光体の製造方法であって、前記塗布槽に溜められた塗布液に前記導電性支持体を浸漬させる工程と、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程とを備え、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記上部開口からの塗布液のオーバーフローを伴う電子写真感光体の製造方法も提供する。
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、導電性支持体の表面に、塗布ムラの発生が抑制された塗布膜を形成することができ、塗布ムラが抑制された電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含み、前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記流出溝からの塗布液のオーバーフローを伴うことが好ましい。
このような構成によれば、導電性支持体の表面に、塗布ムラの発生が抑制された塗布膜を形成することができる。
【0022】
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液であることが好ましい。
このような構成によれば、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液を導電性支持体の表面上に塗布ムラを抑制して塗布することにより電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、下引き層用塗布液であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布ムラの抑制された下引き層を備えた電子写真感光体を製造することができる。
本発明の電子写真感光体の製造方法において、前記塗布槽に溜められた塗布液は、電荷発生層用塗布液であることが好ましい。
このような構成によれば、塗布ムラの抑制された電荷発生層を備えた電子写真感光体を製造することができる。
【0023】
また、本発明は、本発明の塗布装置、または本発明の電子写真感光体の製造方法により製造された電子写真感光体も提供する。
本発明の電子写真感光体によれば、塗布ムラが抑制された下引き層、感光層またはオーバーコート層を有する電子写真感光体を提供することができる。
また、本発明は、本発明の電子写真感光体を搭載した画像形成装置も提供する。
本発明の画像形成装置によれば、電子写真感光体の下引き層、感光層またはオーバーコート層の塗布ムラに起因する画像欠陥を抑制して印刷することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0025】
塗布装置の構成および塗布方法
図1は、本実施形態の塗布装置の構成を示す概略断面図であり、図2は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略斜視図である。図3は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図4は、図3の点線A−Aにおける塗布槽などの概略断面図であり、図5は、図3の一点鎖線B−Bにおける塗布槽などの概略断面図である。
また、図6〜8は、それぞれ本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図3に対応する概略上面図である。また、図9(a)〜11(c)はそれぞれ本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽の概略上面図である。
図12は、本実施形態の塗布装置に含まれる塗布槽などの概略上面図であり、図13は、図12の点線C−Cにおける塗布槽などの概略断面図であり、図14は、図12の一点鎖線D−Dにおける塗布槽などの概略断面図である。
【0026】
本実施形態の塗布装置20は、導電性支持体3を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽1を備え、塗布槽1は、塗布液を供給するための底部供給口6と、導電性支持体3を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を塗布槽1から流出させる上部開口7と、塗布槽1の内側面に設けられた直線状の整流溝9とを有し、整流溝9は、底部供給口6から上部開口7へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする。
また、本実施形態の塗布装置20は、塗布槽1からオーバーフローした塗布液を溜めるオーバーフロー槽10、塗布槽1に溜める塗布液5を循環させるための循環経路12とポンプ17、塗布液を攪拌する攪拌槽14と攪拌装置15、および導電性支持体3を塗布液に浸漬させるための昇降装置16を備えることもできる。
以下、本実施形態の塗布装置20について説明する。
【0027】
1.塗布槽
本実施形態の塗布装置20に含まれる塗布槽1は、導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成するために用いる塗布液5を溜めることができる。塗布槽1は、底を有する筒形状であってもよく、底を有する円筒形状であってもよい。また、塗布槽1は、底部2を有し、底部2に塗布液を塗布槽1に供給するための底部供給口6と有する。このことにより、底部2側から塗布槽1に塗布液を供給することができる。例えば、塗布槽1は、図2〜14のように円筒形状とすることができる。
【0028】
塗布槽1は、オーバーフローにより塗布液を塗布槽1から流出させる上部開口7を有する。このことにより、底部供給口6から塗布槽1に供給された塗布液を上部開口7から流出させることができ、塗布液を流通させることができる。また、上部開口7は、導電性支持体3を挿入可能に設けられる。上部開口7に導電性支持体3を挿入することにより、導電性支持体3を塗布槽1に溜められた塗布液に浸漬させることができ、この塗布液に浸漬した導電性支持体3を塗布液中から引き上げることにより、導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成することができる。
【0029】
塗布槽1は、その内側面に直線状の整流溝9を有する。このことにより、塗布槽1を流通する塗布液を整流することができ、塗布液の乱流が生じることを抑制することができる。
本実施形態の塗布槽1の内部に設けられる整流溝9は、塗布槽1中に供給される塗布液の流れに沿って設けられることが好ましい。図1は塗布槽1の下部から送液用ポンプ17から供給された塗布液が塗布槽1の上端の上部開口7へ向かって上昇供給される場合を示しており、塗布槽1の内部に設けられる整流溝9は塗布槽1の上下方向に溝を形成することで構成される。
この整流溝9は塗布槽1の円周方向に沿って等間隔で2個以上を設けることが好ましい。1個のみの場合は、塗布槽1中に流れる塗布液の乱れを抑制する効果が薄く、塗布槽1の傾きや供給される塗布液の流量や流速の変化を抑制して塗布ムラを無くす効果が著しく低下するだけでなく、かえって塗布ムラを助長する場合があり好ましくない。
【0030】
また、例えば、図2〜5、図9(a)、図10(a)、図11(a)のように整流溝9は、塗布槽1の内側面に2つ設けることができ、塗布槽1の底部2から上部開口7に向かう直線状の整流溝9とすることができる。また、2つの整流溝9は、塗布槽1の内側面において等間隔で設けることができる。図2〜5の例では塗布槽1が円筒形状であるため、2つの整流溝は対向して設けることができる。
また、例えば、図9(b)、図10(b)、図11(b)、図12〜14のように整流溝9は、塗布槽1の内側面に3つ設けることができ、塗布槽1の底部2から上部開口7に向かう直線状の整流溝9とすることができる。また、3つの整流溝9は、塗布槽1の内側面において等間隔で設けることができる。
さらに、図9(c)、図10(c)、図11(c)のように整流溝9は、4つ設けてもよく、また、5つまたは6つ設けてもよい。また、7〜15の範囲内の個数を設けてもよい。
【0031】
本実施形態で設けられる整流溝9の形状は、図2〜5、図8、図9(a)〜(c)、図12〜14のような側壁と底を有するU字形状の形態(タイプA)であってもよい。U字形状の底は、図3のように曲面であってもよく、図8のように平面であってもよい。また、整流溝9の形状は、図6、図10(a)〜(c)のようなV字形状の形態(タイプB)であってもよく、図7、図11(a)〜(c)のような半円形状の形態(タイプC)であってもよい。
また、整流溝9は、実質的に一定の幅を有することができ、また実質的に一定の深さを有することができる。
【0032】
塗布槽1が円筒形状を有しかつ一方の端が底部2であり、他方の端が上部開口7である場合、整流溝9は、塗布槽1が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行であってもよい。このことにより、塗布液を底部2から上部開口7に向かう方向に整流することができ、塗布液の乱流を抑制することができる。
【0033】
更に、塗布槽1の内部に設けた整流溝9の位置に合わせて、上部開口7の円周上の塗布槽1の上端に流出溝8(切り欠き)を設けることが好ましい。この切り込みによって塗布槽1中を流れる塗布液がオーバーフローする際、塗布槽1の上端部の円周方向へ均一に流れ出す効果を高めることとなり、塗布液の液面の流れが放射状で均等となることから液面の流れがスムーズで、液面の揺れによるリングムラや筋ムラのない塗布膜を形成する効果が高まる。
【0034】
しかし、塗布槽1の内部に設けた整流溝9の位置と流出溝8の位置がずれている場合や、塗布槽1の上端の流出溝8の位置の間隔が不均一に設けられていた場合は、塗布槽1中に流れてきた塗布液が塗布槽1の上端の上部開口7から流出溝8を通してオーバーフローする際に塗布液が塗布槽1の円周方向の流れが発生し、塗布液の流れが不均一となることから導電性支持体3上にリング状の筋ムラが発生することから好ましくない。
【0035】
本実施形態で塗布槽1の上端の円周上に設ける流出溝8の形状は、例えば、図2〜5、図12〜図14、図15(a)のようなU字形状の溝であってもよく、図15(b)のようなV字形状の溝であってもよく、図15(c)のような半円形状の溝であってもよい。しかし、これらの形態に限定されるものではない。
この流出溝8は、塗布槽上端開口部の円周方向に沿って等間隔で2個以上を設けることが好ましい。1個のみの場合、塗布槽上端開口部からオーバーフローする際に塗布液の供給量が少なく、開口部全域から流れない場合は1方向からオーバーフローすることとなり、塗布液から離脱する導電性支持体3上に付着する塗布液が塗布液の液面上の流れに影響してリング状の筋ムラが発生するため好ましくない。
【0036】
また、1個のみの場合、塗布液の供給量が十分で塗布槽上端開口部全域から流れる場合でも塗布液の流量が多く流速が早いため、塗布槽内壁の整流溝9に沿って均一に流れていた塗布液がオーバーフローする際に流出溝により多く流れ込むことで塗布液の流れに乱れが多くなり、塗布ムラ発生の原因となることからも好ましくない。
【0037】
2.塗布液
塗布槽1に溜める塗布液は、導電性支持体3の表面上に塗布する塗布液であれば限定されないが、例えば、下引き層用塗布液であってもよく、感光層用塗布液(電荷発生層用塗布液および電荷輸送層用塗布液を含む)であってもよく、オーバーコート層用塗布液であってもよい。これらの塗布液の調製方法は、後述する「電子写真感光体の構成」において説明する。
また、塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液であってもよい。
【0038】
3.オーバーフロー槽
オーバーフロー槽10は、塗布槽1の上部開口7からオーバーフローする塗布液を溜めることができるように設けられる。また、オーバーフロー槽10は、循環経路12を介して攪拌槽14と導通することができる。
【0039】
4.攪拌槽、攪拌装置
攪拌槽14は、塗布液を溜めることができ、塗布液を攪拌することができる。また、攪拌した塗布液を循環経路12を介して塗布槽1に供給することができる。このことにより、十分に攪拌された均一な塗布液を塗布槽1に供給することができ、塗布槽1中の塗布液の品質を安定化することができる。
また、攪拌槽14は、攪拌装置15を備えることができる。このことにより、攪拌槽14に溜められた塗布液を攪拌装置15により攪拌することができる。
【0040】
5.ポンプ
ポンプ17は、塗布液を塗布槽1に供給するために設けることができる。ポンプ17は、攪拌槽14と塗布槽1とを導通させる循環経路12中に設けることができる。
【0041】
6.昇降装置
昇降装置16は、導電性支持体3と接続することができ、導電性支持体3を昇降させることができる。昇降装置16は、導電性支持体3と接続し、導電性支持体3を降下させたとき、導電性支持体3が塗布槽1に溜められた塗布液に浸漬するように設けることができる。また昇降装置16は、導電性支持体3を上昇させたとき、導電性支持体3が塗布槽1に溜められた塗布液から引き上げることができるように設けることができる。このことにより、昇降装置16を用いて、導電性支持体3の表面上に塗布液を塗布することができ、塗布膜を形成することができる。
【0042】
電子写真感光体の製造方法
本実施形態は、本実施形態の塗布装置20を用いた電子写真感光体30の製造方法も提供する。
本実施形態の電子写真感光体30の製造方法は、整流溝9が設けられた塗布槽1を備える塗布装置20を用いた電子写真感光体30の製造方法であって、塗布槽1に溜められた塗布液に導電性支持体3を浸漬させる工程と、導電性支持体3を塗布液中から取り出す工程とを備え、導電性支持体3を塗布液中から取り出す工程は、上部開口7からの塗布液のオーバーフローを伴う。
この塗布液に、下引き層用塗布液、感光層用塗布液、電荷発生層用塗布液または電荷輸送層用塗布液と、必要に応じて形成されるオーバーフロー層用塗布液を用いることにより、電子写真感光体30を製造することができる。
【0043】
[浸漬塗布法]
従来、電子写真感光体を製造する方法としては、同時に複数の塗布が可能であること、比較的容易な製造設備で製造条件を維持し、塗布膜の制御が容易であることなどから浸漬方法が一般的に採用されることが多い。
まず、塗布装置20を用いて導電性支持体3の表面上に塗布膜を形成する浸漬塗布法について説明する。
浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗布槽1に導電性支持体3を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体3上に塗布膜を形成する方法である。この方法は比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体を製造する場合に多く利用されている。なお、浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。
【0044】
しかし、浸漬塗布方法は、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液または単層型感光層用塗布液などの感光体塗布液を満たした塗布槽1に、導電性支持体3を浸漬した後、一定速度又は、逐次変化する速度で引き上げることにより感光層24を形成できる方法であり、比較的簡単で、生産性及びコストの点で優れているために、電子写真感光体30を製造する場合に多く利用されている。
【0045】
より詳細には、図1に示した浸漬塗布装置20は、塗液槽1および撹拌槽14の内部には、塗布液5が収容される。塗布液5はポンプ17によって循環経路12を通って撹拌槽14から塗液槽1へ送られる。塗布槽1の塗布液5は上部開口7からオーバーフローし、オーバーフロー槽10に流れ込み、オーバーフロー槽10と撹拌槽14の上部とをつなぐ傾斜する循環経路12を通ってオーバーフロー槽10から撹拌槽14へ送られ、このようにして循環される。
【0046】
塗液槽1の上部には、導電性支持体3が昇降装置6の回転軸19に取付けられている。回転軸19の軸方向は、塗液槽1の上下方向に沿っており、回転軸19をモーター18で回転させることによって、取付けられた導電性支持体3が昇降する。モーター18を予め定められる一方向に回転させて導電性支持体3を下降させ、塗液槽1の内部の塗布液5に浸漬する。
次に、モーター18を前記一方向とは逆の他方向に回転させて導電性支持体3を上昇させ、塗布液5から引き上げ、乾燥させて塗布液5による塗布膜が形成される。
【0047】
[浸漬塗布法の留意点]
ここでは、主に浸漬塗布法の留意点について記載する。
導電性支持体上に形成する下引き層22や感光層24、オーバーコート層29を塗布欠陥や塗布ムラのない均一な薄膜を形成するためには、塗布槽に供給される塗布液を一定流量に保ちながら、導電性支持体3を一定速度に維持しながら導電性支持体3を引き上げたり、塗り始めの位置と塗り終わりの位置に膜厚差が発生せず塗布液の付着量が均一となるよう導電性支持体3と液面との相対速度を連続的に変化させるなど、塗布条件にはきめ細かな制御と設備上の管理が必要となる。
【0048】
たとえば、塗布液を供給するポンプの送液能力が低下するなど変化したり、脈流が発生して塗布液の供給量が僅かに変動しても導電性支持体3と塗布液との相対速度を決めて浸漬塗布しているにもかかわらず、導電性支持体3上に付着する塗布液が変化してリングムラや筋ムラが発生する場合がある。このような塗布ムラは画像欠陥となって画質に影響することからリングムラや筋ムラなどの塗布ムラを発生させないことが肝要である。
【0049】
また、塗布槽中に供給される塗布液は、ポンプから供給された後、塗布槽の内部を流れて上部開口7からオーバーフローする間に塗布液の流れが不均一となる場合があり、導電性支持体3上に形成する塗布液の付着量が変化したり、塗布液の乱れによる筋ムラなどの塗布ムラが発生することがある。これは、浸漬塗布を行う際、感光体の生産効率向上を目指して同時に複数本を塗布する場合は、塗布槽へ供給される塗布液の流量が塗布する位置によって必ずしも同量ではなく、塗布槽の傾きや塗布槽1内を流れる塗布液に乱流が発生することが原因と考えられる。
【0050】
更に、塗布槽の上端開口から塗布液がオーバーフローする際、塗布槽の傾斜や塗布槽の内部や塗布槽の上部開口へ流れる際の流量が異なることなどが助長して、塗布液が塗布槽の上部開口からオーバーフローする位置が変化したり、導電性支持体3の円周上から見て偏りが発生し、導電性支持体3の円周方向に膜厚が不均一となったり、筋ムラが発生するなど塗布ムラが発生する原因となる場合がある。
【0051】
特に無機顔料や有機顔料、不溶性の樹脂微粒子を分散させた塗布液の場合、電子写真感光体製造装置である塗布装置の配管や塗布槽、オーバーフロー槽など送液ポンプを介して供給、循環させる循環式の電子写真感光体製造装置において、塗布液の流量や流速が変化し、塗布液の流れが乱れることで塗布液中の顔料の分散状態が不均一となり凝集するなどして粗大粒子の異物や塗布ムラなど塗布欠陥が発生する場合がある。
【0052】
また、このような浸漬塗布装置20を用いて下引き層22などを形成する場合、長期間の使用により塗布液を供給するポンプ17の送液能力の低下や脈流の発生、オーバーフロー槽10から配管、送液ポンプ17を介して塗布槽に供給される際の流量や流速の変動により塗布液に乱流が発生することで導電性支持体3上に形成する塗布される塗布液の付着量が僅かに変化したり、分散された金属酸化物微粒子などの濃度分布にムラを生じて塗布ムラ発生原因となる場合がある。
【0053】
[本実施形態の塗布装置を用いた浸漬塗布法]
しかしながら、本発明者は、導電性支持体3を塗布槽1に満たされた塗布液中に浸漬していく際、浸漬によって塗布槽1内の塗布液が塗布槽の上部開口部からオーバーフローさせた後、導電性支持体3を塗布槽1から離脱させて該支持体3上に塗布膜を形成させる装置において、塗布槽の内側面に直線状の整流溝を設けることで塗布欠陥の無い均一な膜厚を形成することができる塗布装置を見出した。
これは、本実施形態のように塗布槽内部に整流溝9を設けることで、塗布槽1中に流れる塗布液の流れに乱れがなくなり、縦スジやリング状の塗布ムラのない非常に均一な下引き層22などが形成できるものと考えられる。
また、本実施形態の塗布装置を用いて製造した電子写真感光体30は、塗布欠陥や塗布ムラのない均一な膜を形成し、当該感光体30を搭載した画像形成装置45は、各環境下、長期間使用しても画質欠陥のない優れた画像を提供できることを見出した。
【0054】
また、塗布槽1に溜めた塗布液中に浸漬させた導電性支持体3を塗布液中から引き上げる際に、上部開口7から塗布液がオーバーフローするように、塗布槽1に塗布液を供給することができる。このことにより、導電性支持体3を引き上げる際にも、塗布槽中の塗布液の流れを底部2から上部開口7に向かう方向とすることができ、塗布槽内で塗布液の乱流が生じることを抑制することができる。
【0055】
さらに、近年の電子写真感光体を長寿命化する場合、特に感光体最表面層である電荷輸送層やオーバーコート層中にアルミナやシリカなどの無機顔料やフッ素系樹脂微粒子などを耐摩耗性向上のために添加されることが多く、このようなフィラーを添加した電荷輸送層用塗布液やオーバーコート層用塗布液を形成する場合でも、本実施形態の塗布装置を用いると塗布欠陥のない塗布膜を形成した電子写真感光体を得ることができる。
更に、塗布槽1の内部に設けた整流溝9に沿って、塗布槽上端開口部の円周上に等間隔で流出溝8を設けると均等に塗布液が流れることから、流出溝8を設けることは、塗布液の液面の乱れや不均一な流れが発生しないことも均一な塗布膜形成に効果的であると考えられる。
【0056】
電子写真感光体の構成
本実施形態は、本実施形態の塗布装置を用いて製造した電子写真感光体も提供する。
図16は、本実施形態の電子写真感光体の概略平面図であり、図17は、図16の点線F−Fにおける電子写真感光体の概略断面図である。また、図18は、図17の点線で囲んだ範囲Gにおける電子写真感光体の拡大断面図である。また、図19、図20は、本実施形態の電子写真感光体の概略断面図であり、図18に対応する。
電子写真感光体30は、導電性支持体3と、導電性支持体3の表面上に感光層24を有する。また、電子写真感光体30は、導電性支持体3と感光層24との間に下引き層22を備えてもよく、感光層24の上にオーバーコート層29を備えてもよい。
【0057】
1.導電性支持体
導電性支持体3は、電子写真感光体30の電極としての役割を果たすとともに、他の各層の支持部材としても機能する。
導電性支持体3の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属および合金材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、セルロース、ポリ乳酸などの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料または合金材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、カーボンブラックなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0058】
導電性支持体3の形状としては、一般的にシート状、円筒状、円柱状、無端ベルト(シームレスベルト)状などが挙げられるが、同時に複数製造できるなどコスト的に有利で、導電性支持体3上に下引き層22、感光層24、オーバーコート層29などを形成するための塗布液で満たした塗布槽1中に浸漬する方法を採用する場合は、取扱いが比較的容易な円筒状の導電性支持体3が好ましい。
【0059】
導電性支持体3の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化被膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
乱反射処理は、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて、本実施形態の電子写真感光体30を用いる場合に特に有効である。
すなわち、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザー光の波長が揃っているので、電子写真感光体30の表面で反射されたレーザー光と電子写真感光体30の内部で反射されたレーザー光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥を生じることがある。そこで、導電性支持体3の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザー光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0060】
2.下引き層
下引き層22の1例として後述のものを用いることができるが、この下引き層22に限定するものではなく、下引き層22を形成せずに導電性支持体3上に電荷発生層26、電荷輸送層27などの感光層24を設けてもよい。例えば、図17〜20のように下引き層22を導電性支持体3と感光層24との間に設けることができる。
【0061】
下引き層22は、導電性支持体3から感光層24(単層型感光層または積層型感光層)への電荷の注入を防止する(ホール注入に対して障壁となる)機能を有する。
すなわち、下引き層22により単層型感光層または積層型感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。
特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
【0062】
また、導電性支持体3の表面を被覆する下引き層22は、導電性支持体3の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、単層型感光層または積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体3と単層型感光層または積層型感光層との密着性(接着性)を向上させることができる。
上記の下引き層22が形成された電子写真感光体30は、導電性支持体3と感光層24との間において、所定の電気的特性を保ちながら、導電性支持体3の欠陥に由来する画像欠陥を防止することができる。
【0063】
特に下引き層22が形成された電子写真感光体30において、電荷発生物質として、長波長に対して光感度である有機材料、例えばフタロシアニン顔料を用いて電子写真感光体30を製造し、この電子写真感光体30を、反転現像方法を利用する画像形成装置に搭載することにより、微小領域での表面電荷の減少や消失による反転現像特有の白地に微小な黒点(黒ポチ)のない優れた画像特性を発揮することができる。
【0064】
一般的に電子写真感光体30は、導電性支持体3と、該導電性支持体3上に形成された下引き層22と、該下引き層22上に形成された感光層24とを備えた電子写真感光体30において、下引き層22の膜厚が0.05〜10μm程度であることが好ましい。
下引き層22の膜厚を薄くすると電子写真感光体30の環境変動に伴う電気的特性の変動は少なく安定した特性を示すが、導電性支持体3と感光層24との接着性が低下し、導電性支持体3の欠陥に起因する画像欠陥が発生する場合がある。
【0065】
一方、下引き層22の膜厚を厚くすると感度低下を招き、環境変動に対する安定性特性が悪化するという問題があり、画像欠陥の低減と電気的特性の安定性向上を両立させるための実用的な膜厚が制限される要因となっている。
しかしながら、感光体特性、特に感度や残留電位の変動を抑制することができ、画像カブリの発生を防止するなどのために種々の検討がなされてきたが、下引き層22が金属酸化物微粒子、特に酸化チタン微粒子や酸化亜鉛微粒子などを含有することにより、下引き層22の電気的特性を改善し、塗布膜が平坦に形成できれば下引き層22の抵抗値を均一に保つことができ、長期間、各環境下でも優れた画質を安定して発揮できる電子写真感光体30および画像形成装置が得られることから下引き層22に金属酸化物粒子を分散させたものが多く開発されてきた。
【0066】
下引き層22は、金属化合物微粒子とバインダー樹脂を主成分とすることができ、下引き層用塗布液は、有機溶剤にバインダー樹脂と金属化合物微粒子とを分散機により分散させることにより調製することができる。また、下引き層22は、例えば、導電性支持体3の表面上に下引き層用塗布液を浸漬塗布することにより形成することができる。
【0067】
[分散機]
まず、下引き層用塗布液を調製するために用いる分散機について説明する。この分散機は、感光層用塗布液、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液の調製するためにも用いることができる。
下引き層用塗布液の分散方法としては、分散メディアを使用しない超音波分散機や分散メディアを用いるボールミル、ビーズミル、ペイントコンディショナーなどの分散機を用いることができるが、有機溶剤に溶解させたバインダー樹脂溶液中に無機化合物を投入し、分散メディアを通じて分散機から与えられた強力な力で無機化合物を分散させることができるような分散メディアを用いる分散機が好ましい。
【0068】
分散メディアの材質としては、ガラス、ジルコン、アルミナ、チタン好ましくは耐磨耗性が高いジルコニア、チタニアを用いることが好ましい。
分散メディアの形状は、0.3mmから数mm程度のビーズ状、数cm程度のボール状など何れの形状および大きさを用いてもよい。
分散メディアの材質がガラスを使用した場合には、分散液の粘度が上昇し保存安定性が悪くなることから、好ましくない。
【0069】
[金属化合物微粒子]
下引き層22に分散された金属化合物微粒子は、電子写真感光体30としたときの下引層22の体積抵抗値を調節し、導電性支持体3から感光層24へのキャリアの注入を防止すると共に、各種環境下での電子写真感光体30の電気特性を維持する機能を有する。
下引き層22に分散された金属化合物微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ケイ素、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムなどが挙げられ、これらの中でも酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウムが好ましく、酸化チタンおよび酸化亜鉛が特に好ましい。
【0070】
金属化合物微粒子が酸化チタンまたは酸化亜鉛の微粒子である場合、下引き層22を形成するための塗布液を調製するときに用いる分散機から与えられた強力な力が酸化チタンまたは酸化亜鉛の微粒子を分散するエネルギーとしてだけでなく、分散メディア自身や分散メディアを収容するシリンダー内壁および分散メディアを攪拌する回転ディスクなどを磨耗するエネルギーとしても使用され、これらの材料が削れて分散塗布液に混入し、分散塗布液の分散性や保存安定性、感光体の下引き層22を形成する際に塗布性や下引き層22の膜質に何らかの影響を与えているものと考えられる。
【0071】
金属化合物微粒子に用いる酸化チタンの結晶型は、ルチル型、アナタース型やアモルファスの何れであってもよく、その形状は一般的には、粒状のものが用いられるが、針状もしくは樹枝状のものが好ましい。
ここで、用語「針状」とは、棒状、柱状や紡錘状などを含む細長い形状であればよく、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。
また、同様に、用語「樹枝状」とは、棒状、柱状や紡錘状などを含む細長い形状、すなわち、上記の針状の形状が枝分かれしているものを、樹枝状と呼ぶ。
【0072】
針状もしくは樹枝状の酸化チタン微粒子の粒径は、好ましくは長軸長aが100μm以下、短軸長bが1μm以下であるが、より好ましくは長軸長aが10μm以下、短軸長bが0.5μm以下であり、針状とは長軸長aと短軸長bとの比a/bであるアスペクト比が1.5以上の形状を指す。
これら針状もしくは樹枝状の軸長がこの範囲より大きければ、分散安定性のある下引層用塗布液が得られにくい。
さらに、微粒子のアスペクト比は好ましくは1.5以上300以下の範囲であり、より好ましくは2以上10以下の範囲である。
粒径およびアスペクト比を測定する方法としては、重量沈降法や光透過式粒度分布測定法などの方法でも測定可能であるが、針状もしくは樹枝状のものは、直接電子顕微鏡で測定する方が好ましい。
【0073】
酸化チタン微粒子および酸化亜鉛微粒子の粉体の体積抵抗値は、105〜1010Ωcmが好ましい。
粉体の体積抵抗値が105Ωcmより小さくなると、下引き層22としての抵抗値が低下し電荷ブロッキング層として機能しなくなる。例えば、アンチモンをドープした酸化錫導電層などの導電処理を施した金属化合物微粒子の場合には、100Ωcmないし101Ωcmと、非常に粉体の体積抵抗値が低くなり、これを用いた下引き層22は電荷ブロッキング層として機能せず、感光体特性としての帯電性が悪化することで、画像にカブリや黒点(黒ポチ)が発生するために使用することはできない。
また、粉体の体積抵抗値が1010Ωcm以上に高くなってバインダー樹脂自身の体積抵抗値と同等あるいはそれ以上になると、下引き層としての抵抗値が高過ぎて、光照射時に生成したキャリアの輸送が抑制阻止され、残留電位が上昇し光感度が低下するので好ましくない。
【0074】
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の粉体の体積抵抗値を上述の範囲に維持する限り、微粒子の表面は、アルミナなどの無機化合物やシランカップリング剤などの有機化合物で被覆させたものを用いることができる。使用する金属化合物微粒子が表面未処理の酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子を用いると、微粒子であるために十分に分散された下引き層用塗布液であっても長期間の使用や塗布液の保管時に酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の凝集が避けらない。そのため、下引き層22を形成する際、塗布膜の欠陥や塗布ムラが発生し画像欠陥が生じる。また、導電性支持体3からの電荷の注入が起こり易くなるために、微小領域の帯電性が低下し黒点が発生することになる。
【0075】
そこで、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を種々の金属化合物やその混合物などで被覆させることにより微粒子の凝集を防止し、非常に分散性や保存安定性に優れた下引き層用塗布液が得られる。
さらに導電性支持体3からの電荷の注入を抑制することができるために、黒点のない優れた画像特性を有する電子写真感光体が得られる。酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を被覆する金属化合物としては、Al2O3、ZrO2、SiO2が好ましい。また、Al2O3もしくはZrO2のように異なる金属化合物の両方やAl(OH)3など複数の異なる材料で表面処理を施すと、さらに優れた画像特性が得られることから、より好ましい効果が発現される。
【0076】
また、Fe2O3などの磁性を持つ金属化合物で酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面に被覆を施した場合には、感光層中に含有するフタロシアニン顔料と化学的に相互作用が起こり、感光体特性、特に感度低下や帯電性の低下が生じるために好ましくない。
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を被覆する金属化合物として用いられるAl2O3、ZrO2、SiO2やAl(OH)3などの表面処理量としては、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に対して0.1重量%から20重量%が好ましい。0.1重量%より少ない処理量であれば、酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面を十分に被覆することができないために表面処理の効果が発現しにくくなる。20重量%を超える処理量であれば表面処理としては十分に施されているために、特性としては変わらなくなりそれ以上ではコストがかかるため好ましくない。
【0077】
また、下引き層22に分散される酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子の表面は、有機化合物で被覆することができ、一般的なカップリング剤を用いることができる。
カップリング剤の種類としては、アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ハロゲン、窒素、硫黄のような原子が珪素と結合したシリル化剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
例えば、シランカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、N−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等のクロロシラン類、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等のシラザン類、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホフェート)等のチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、これらカップリング剤によって酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に表面処理を施したり、これらカップリング剤を分散剤として使用する場合に、1種または2種以上のカップリン剤を併用して用いてもよい。
【0078】
酸化チタン微粒子または酸化亜鉛微粒子に表面処理を施す方法としては、前処理法とインテグラルブレンド法に大別され、さらに前処理法としては湿式法と乾式法に分けられるが、電子写真感光体の電気的特性や画像欠陥が発生しない範囲内で何れの方法を用いて表面処理を施してもよい。
また、金属酸化物微粒子は、その表面が未処理のものやAl2O3、ZrO2、SiO2など、もしくはその混合物やAl(OH)3などの金属化合物で被覆させた後、前述のカップリング剤で表面処理を施すなど、粉体の体積抵抗値を前述の範囲に維持する限り、金属化合物と有機化合物による表面処理を併用しても良い。
【0079】
金属化合物微粒子の下引き層中の含有率は、10〜99重量%、好ましくは30〜99重量%、さらに好ましくは35〜95重量%の範囲である。
金属化合物微粒子が10重量%未満の場合、感度が低下し、下引き層中に電荷が蓄積され残留電位が増大し、特に低温低湿下での繰り返し特性において顕著になることがある。
一方、金属化合物微粒子が99重量%を超える場合、下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなり、金属化合物微粒子の沈降が起こり易くなり、塗布装置20の配管内部や塗布槽1、オーバーフロー槽10など送液ポンプ17を介して供給、循環させる循環式の電子写真感光体製造装置で長期間使用することで金属酸化物微粒子の凝集や沈降が発生しやすく、凝集物などによる塗布欠陥となることから好ましくない。
【0080】
[バインダー樹脂]
このような金属酸化物粒子を均一に分散、保持するために含有されるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料やこれらの繰り返し単位のうち二つ以上を含む共重合体樹脂、更には、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース等が知られている。これらの中でもアルコール可溶性のポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0081】
これは、バインダー樹脂の特性として、下引き層22の上に感光層24を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないことや、導電性支持体3との接着性に優れ、可撓性を有すること、さらに下引き層22中に含有される金属化合物微粒子との親和性がよく、金属化合物微粒子の分散性および分散液の保存安定性に優れていることなどの特性が必要とされるからである。
【0082】
ポリアミド樹脂の中でも、アルコール可溶性ナイロン樹脂が好ましい。具体的には、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン等を共重合させた、いわゆる共重合ナイロンや、N−アルコキシメチル変性ナイロン、N−アルコキシエチル変性ナイロンのような、ナイロンを化学的に変性させたタイプが挙げられる。
また、天然物由来の脂肪酸であるジカルボン酸やその誘導体、ピペラジンやイソホロンジアミンなどの環状構造を有するジアミン化合物を含有する有機溶剤に可溶なポリアミド樹脂を用いることが特に好ましい。
【0083】
バインダー樹脂の下引き層22中の含有率は、1〜90重量%、好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは5〜65重量%の範囲である。
バインダー樹脂が1重量%未満の場合、下引き層用塗布液の保存安定性が悪くなるため好ましくない。
一方、バインダー樹脂が90重量%を超える場合、金属化合物微粒子の含有量が少なくなることでその効果が低下し、電気的特性及び画像特性が悪化するばかりか、繰り返し安定性、環境特性も悪化するため好ましくない。
【0084】
[有機溶剤]
下引き層用塗布液で用いられるバインダー樹脂を溶解させる有機溶剤としては一般的な有機溶剤を使用することができるが、感光層用塗布液の溶剤に難溶であることが望ましく、バインダー樹脂としてアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いる場合には、炭素数1〜4の低級アルコール群およびジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トルエン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランよりなる群から選ばれた単独系および混合系の有機溶剤などを使用することができる。
【0085】
しかしながら、ハロゲン系溶剤は近年の環境問題や安全性の問題からその使用が削減もしくは禁止の方向にあることから好ましくない。
より詳細には、下引き層用塗布液の溶媒が、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールおよびt−ブチルアルコールよりなる群から選ばれた低級アルコールが好ましく、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなど他の有機溶剤との混合溶剤が更に好ましい。
【0086】
3.感光層
下引き層22の上に形成される感光層24の構造としては、電荷発生層26と電荷輸送層27との二層から成る機能分離型(積層型)感光層、および、これらが分離されずに単一層で形成される単層型感光層があるが、いずれを用いてもよい。
【0087】
図18は、感光層24が、電荷発生層26と電荷輸送層27とがこの順で、下引き層22上に積層された積層型感光層(「機能分離型感光層」ともいう)である積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図19は、感光層24が、一層からなる単層型感光層であり、下引き層22上に積層された単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図18の積層型感光層は、電荷発生層26と電荷輸送層27とが逆順であってもよいが、図18の順に形成された積層型感光層のほうが好ましい。
図18の積層型感光体30は、導電性支持体3の表面に、下引き層22と、電荷発生物質およびバインダー樹脂を含有する電荷発生層26と電荷輸送物質およびバインダー樹脂を含有する電荷輸送層27とがこの順で積層された積層型感光層24がこの順で形成されている。
図19の単層型感光体30は、導電性支持体3の表面に、下引き層22と、電荷発生物質と電荷輸送物質とバインダー樹脂とを含有する単層型感光層24がこの順で形成されている。
【0088】
[積層型感光体の感光層]
積層型感光体30の感光層24は、電荷発生層26と電荷輸送層27とからなる。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることにより、各層を構成する最適な材料を独立して選択することができる。
以下の説明では、電荷発生層26と電荷輸送層27とがこの順で積層された積層型感光体(図18)について説明するが、逆二層型の積層型感光体の場合には積層順が異なるだけで基本的に同様である。
なお、単層構造、積層構造いずれの場合も感光層は、下引き層22が導電性支持体3からのホール注入に対して障壁となり、さらに、高感度、高耐久性を有するためには積層型感光体30の感光層24および後述する単層型感光体30の感光層24は、負帯電性であるのが好ましい。
【0089】
[電荷発生層26]
電荷発生層26は、照射された光を吸収することにより電荷を発生する電荷発生能を有する電荷発生物質を主成分とし、任意に公知の添加剤およびバインダー樹脂(結合剤)を含有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、アゾ系顔料(カルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有する、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など)、ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など)、多環キノン系顔料(キナクリドン、アントラキノン、ピレンキノンなど)、フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなど)、インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど)、スクアリリウム色素、アズレニウム色素、チオピリリウム色素、ピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機顔料または染料、さらにセレン、非晶質シリコンなどの無機材料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0090】
レーザー光やLEDなどの光源を用いて反転現像プロセスにより画像形成を行う感光体30では、620〜800nmの長波長の範囲に感度を有することが要求される。
上記の電荷発生物質の中でも、フタロシアニン系顔料、トリスアゾ系顔料は耐久性および高感度を有することから特に好ましい。
金属フタロシアニン顔料において用いられる金属としては、酸化状態がゼロであるものおよびその塩化物、臭化物などのハロゲン化金属や酸化物などが用いられる。好ましい金属としては、Cu、Ni、Mg、Pb、V、Pd、Co、Nb、Al、Sn、Zn、Ca、In、Ga、Fe、Ge、Ti、Crなどが挙げられる。
これらのフタロシアニン顔料の製造方法は種々の手法が提案されているが、特に限定されず、顔料化された後に各種精製や結晶型を変換させる処理、例えば種々の有機溶剤中での分散処理に付してもよい。
【0091】
電荷発生物質には、非晶型やα型、β型、γ型、δ型、ε型、χ型、τ型等の結晶型を有する金属を使用することができる。
電荷発生層26は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤、可塑剤、無機化合物もしくは有機化合物の微粒子などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。これらの添加剤は、後述する電荷輸送層27に含有されてもよく、電荷発生層26および電荷輸送層27の両方に含有されてもよい。
【0092】
化学増感剤および光学増感剤は、感光体30の感度を向上させ、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑え、電気的耐久性を向上させる。
化学増感剤としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物;ジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料およびこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0093】
光学増感剤としては、例えばキサンテン系色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0094】
酸化防止剤は、長期にわたって感度安定性を維持させることができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール:BHT)のようなヒンダードフェノールなどのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミンなどのアミン系酸化防止剤、ビタミンE、ハイドロキノン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄系化合物、有機燐系化合物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の添加量は、電荷発生物質100重量部に対して0.1〜40重量部が好ましく、0.5〜15重量部が特に好ましい。
酸化防止剤の添加量が0.1重量部未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないおそれがある。また、酸化防止剤の添加量が40重量部を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0095】
レベリング剤および可塑剤は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させることができる。
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
無機化合物または有機化合物の微粒子は、機械的強度を増強し、電気特性を向上させることができる。このような微粒子としては、例えば、前述の下引層において例示する微粒子が挙げられる。
上記のチタニルフタロシアニンの基本構造は下記一般式:
【0096】
【化1】
(式中、X1〜X4は、ハロゲン原子、C1〜C4アルキル又はアルコキシ基を示し、k、l、m、nは0〜4の整数である)で示される。
【0097】
上記のハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子であり、上記のC1〜C4アルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチルまたはt−ブチル基であり、そして上記のC1〜C4アルコキシ基は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシまたはt−ブトキシ基である。
【0098】
チタニルフタロシアニンの合成方法はモーザー及びトーマスの「フタロシアニン化合物」(Moser, and Thomas. "Phthalocyanine Compounds", Reinhold Publishing Corp., New York, 1963)に記載されている公知の方法等、いずれによってもよい。例えば、o-フタロジニトリルと四塩化チタンを加熱融解または、α−クロロナフタレンなどの有機溶媒の存在下で加熱する方法等によりジクロロチタニウムフタロシアニンは収率良く得られる。さらにこのジクロロチタニウムフタロシアニンを塩基もしくは水で加水分解することによって、チタニルフタロシアニンが得られる。この得られたチタニルフタロシアニンには、ベンゼン環の水素原子が塩素、フッ素、ニトロ基、シアノ基またはスルホン基等の置換基で置換されたフタロシアニン誘導体が含有されていてもよい。
【0099】
このようなチタニルフタロシアニン組成物を、水の存在下にジクロロエタン等の水に非混和性の有機溶媒で処理することができる。
チタニルフタロシアニンを水の存在下で水に非親和性の有機溶媒で処理する方法としては、チタニルフタロシアニンを水で膨潤させ、有機溶媒で処理する方法、或いは膨潤処理を行わずに、水を有機溶媒中に添加し、その中にチタニルフタロシアニン粉末を投入する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
チタニルフタロシアニンを水で膨潤させる方法としては、例えば、チタニルフタロシアニンを硫酸に溶解させ、水中で析出させてウェットペースト状にする方法、または、ホモミキサー、ペイントミキサー、ボールミル、またはサイドミル等の撹拌・分散装置を用いて、チタニルフタロシアニンを水で膨潤させ、ウェットペースト状にする方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0100】
また、加水分解で得られたチタニルフタロシアニン組成物を十分な時間の撹拌、もしくは、機械的歪力をもってミリングすることができる。
この処理で用いられる装置としては、一般的な撹拌装置の他に、ホモミキサー、ペイントミキサー、デイスパーサー、アジター、或いはボールミル、サイドミル、アトライター、超音波分散装置等を用いることもできる。処理後、濾過し、メタノール、エタノール、水等を用いて洗浄し単離される。
【0101】
このようにして得られたチタニルフタロシアニンは電子写真感光体の電荷発生材料として優れた特性を発揮する。また、上記のチタニルフタロシアニンの他に、他の電荷発生材料を併用してもよい。そのような電荷発生材料としては、上記のチタニルフタロシアニンとは結晶型の異なるα型、β型、Y型、アモルファスのチタニルフタロシアニン、または、他のフタロシアニン類、さらに、アゾ顔料、アントラキノン顔料、ぺリレン顔料、多環キノン顔料、スクエアリウム顔料等が挙げられる。
【0102】
これらのフタロシアニン顔料を用いた電荷発生層26の作製方法としては、電荷発生物質、特にフタロシアニン顔料を真空蒸着することによって形成する方法、及び、バインダー樹脂と有機溶剤と混合分散して成膜する方法があるが、混合分散処理する前に予め粉砕機によって粉砕処理を行っても良い。その粉砕機に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、振動ミル及び超音波分散機などを用いた方法があるが、電子写真感光体30の感度を左右する顔料の結晶型、特にフタロシアニン顔料の結晶系を所定の結晶型に結晶変換したり、結晶型を維持する為には種々の分散機を用いても良い。
【0103】
感光層用塗布液に用いられる結着性樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂などや二つ以上の繰り返し単位を含む共重合体樹脂、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、一般に用いられるすべての樹脂を単独あるいは二種以上混合して使用することができる。
【0104】
また、これらの樹脂を溶解させる溶媒としては、塩化メチレン、2塩化エタン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒あるいはこれらの混合溶剤などを用いることができる。フタロシアニン顔料とバインダー樹脂との配合比は、フタロシアニン顔料が10重量%から99重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ない場合は感度が低下し、多ければ耐久性が低下するばかりでなく、分散性が低下する為に粗大粒子が増大することから画像欠陥、特に黒ポチが多くなる。
【0105】
電荷発生層用塗布液を製造する際には、前述のフタロシアニン顔料とバインダー樹脂、有機溶剤を混合し分散させるが、分散条件としては用いる容器や分散メディアの摩耗等による不純物の混入が起こらないように適当な分散条件を選択して行う。
上記のようにして得られる分散液中に含有されるフタロシアニン顔料は、一次粒子及び/またはその凝集粒子径が3μm以下の粒子径にまで分散を進めることが肝要である。
一次粒子及び/またはその凝集粒子径が3μmよりも大きければ得られる電子写真感光体30において、反転現像の際、白地に黒ポチが非常に発生することとなる。そのため各種分散機により電荷発生層用塗布液を製造する際には、分散条件を最適化しフタロシアニン顔料粒子を3μm以下、更に好ましくはメジアン径で0.5μm以下、モード径で3μm以下にまで分散し、これよりも大きい粒子を含有しないことが好ましい。
【0106】
フタロシアニン顔料粒子はその化学的構造から微粒子にするためには比較的強い分散条件と長時間の分散時間を必要としており、これ以上に分散を進めることはコスト的に効率が悪く、分散メディアの摩耗等による不純物の混入が避けられない。
また、分散時の有機溶剤や熱、分散による衝撃などによりフタロシアニン顔料粒子の結晶型が変化することにより、感光体の感度が大きく低下するなどの弊害が発生する。そのため、メジアン径で0.01μm以下、モード径で0.1μm以下にフタロシアニン顔料の粒子径を小さくすることは好ましくない。
【0107】
また、分散された塗布液中のフタロシアニン顔料粒子中に3μmよりも大きい粒子が含まれている場合にはろ過処理を施すことにより3μmよりも大きい一次粒子及び/または凝集粒子を除去することができる。ろ過処理に用いられるフィルターの材質は分散の際に用いられる有機溶剤に膨潤や溶解しないものであれば一般的に用いられるものが使用されるが、好ましくは孔径が均一のテフロン(登録商標)製メンブランフィルターが良い。更に遠心分離により粗大粒子や凝集物を除去しても良い。
また、このようにして得られた電荷発生層用塗布液を用いて形成される電荷発生層は、好ましくは0.05μm〜10μm、より好ましくは0.08μmから5μmの厚みに塗布される。
【0108】
下引き層22と感光層24の構成では、電荷発生層26の膜厚を厚くすると、感度特性が向上するが、微小領域での表面電荷の消失による白地に微小な黒点が発生するなど、画像欠陥が発生する弊害があった。
一方、下引き層22の膜厚を薄くすると感度低下を招くため、画像欠陥の低減と電気的特性および生産安定性向上を両立させるための実用的な膜厚が制限されることとなっていた。
【0109】
上記の厚みより電荷発生層の膜厚が薄ければ、感度低下をもたらすばかりでなく、フタロシアニン顔料を非常に小さくなるまで分散する必要があるために結晶型が変化するなど好ましくない。
また、上記の膜厚より電荷発生層の膜厚が厚くなれば一定の感度を示すが、コスト的に好ましくないばかりか、均一に塗布することが困難となり好ましくない。
【0110】
このように電子写真感光体30の電気的特性、特に感光体感度が大きく影響する電荷発生層26を均一に塗布ムラなく形成するための塗布方法は、下引き層22の形成と同様に、本発明で示した塗布槽1の内壁に整流溝9を設けたものや、さらに塗布槽1の上部開口7の円周上に等間隔で切り込みを設けることで塗布液の流れが均一で乱れず塗布欠陥の無い電荷発生層26が形成できる。
【0111】
[電荷輸送層27]
電荷発生層26の上に設けられる電荷輸送層27の作製方法としては、結着性樹脂溶液中に電荷輸送物質を溶解させた電荷輸送用塗布液を作製し、これを塗布して成膜する方法が一般的である。
電荷輸送層に含有される電荷輸送物質としては、ヒドラゾン系化合物、ピラゾリン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、オキサジアゾール系化合物などが知られており、一種もしくは二種以上併用することも可能である。
【0112】
結着性樹脂としては、前記の電荷発生層用の樹脂を一種もしくは二種以上混合して使用することができる。電荷輸送層27の作製方法としては、下引き層22と同様の方法が用いられる。
電荷輸送層27の膜厚は、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下の範囲である。
【0113】
[単層型感光体の感光層]
単層型感光層24は、電荷発生物質と、電荷輸送物質と、バインダー樹脂(結合剤)とを主成分として含有する。
単層型感光層24は、必要に応じて、電荷発生層26に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
単層型感光層24は、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解および/または分散して単層型感光層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体3上に形成された下引き層22の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層26および電荷輸送層27の形成に準ずる。
【0114】
単層型感光層24の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
単層型感光層24の膜厚が5μm未満であると、感光体30の表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、単層型感光層24の膜厚が50μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0115】
また、感度の向上、残留電位や繰り返し使用時の疲労低減等を目的として、感光層24に少なくとも一種以上の電子受容性物質を添加することができる。例えば、パラベンゾキノン、クロラニル、テトラクロロ1,2−ベンゾキノン、ハイドロキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、メチル1,4−ベンゾキノン、α−ナフトキノン、β−ナフトキノン等のキノン系化合物、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、p−ニトロベンゾフェノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2−ニトロフルオレノン等のニトロ化合物、テトラシアノエチレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、4−(P−ニトロベンゾイルオキシ)−2',2'−ジシアノビニルベンゼン、4−(m−ニトロベンゾイルオキシ)−2',2'−ジシアノビニルベンゼン等のシアノ化合物などを挙げることができる。
【0116】
これらのうち、フルオレノン系、キノン系化合物やCl、CN、NO2等の電子吸引性置換基のあるベンゼン誘導体が特に好ましい。また、安息香酸、スチルベン化合物やその誘導体、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、オキサジアゾール化合物、チアゾール化合物、およびその誘導体等の含窒素化合物類などのような紫外線吸収剤や酸化防止剤を含有させることもできる。
【0117】
4.オーバーコート層
感光体30は、積層型感光体の感光層24および単層型感光体の感光層24の表面にオーバーコート層29を有していてもよい。例えば、図20のようにオーバーコート層29を感光層24の上に設けることができる。
オーバーコート層29は、感光層24の摩耗性の改善やオゾン、窒素酸化物などによる化学的悪影響の防止の機能を有する。
【0118】
オーバーコート層29には、熱可塑性樹脂や、光または熱硬化性樹脂を用いることができる。また、オーバーコート層29中に、紫外線防止剤や酸化防止剤、金属酸化物等の無機材料、有機金属化合物および電子受容性物質等を含有させることもできる。
オーバーコート層29は、例えば、適当な有機溶剤にバインダー樹脂、必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を溶解または分散させてオーバーコート層形成用塗布液を調製し、このオーバーコート層形成用塗布液を単層型感光層24または積層型感光層24の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層26の形成に準ずる。
【0119】
オーバーコート層29の膜厚は特に制限されないが、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmが特に好ましい。オーバーコート層29の膜厚が0.5μm未満では、感光体30の表面の耐擦過性が劣り、耐久性が不十分になるおそれがあり、逆に10μmを超えると、感光体30の解像度が低下するおそれがある。
また感光層24及びオーバーコート層29には必要に応じて、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステルや塩素化パラフィン等の可塑剤を混合させて、加工性及び可撓性を付与し、機械的物性の改良を施しても良く、シリコン樹脂などのレベリング剤を使用することもできる。
【0120】
特に耐摩耗性を向上させるため、下引き層22の場合と同様に金属酸化物微粒子やフッ素化合物微粒子を分散させる場合があり、このような分散液は本発明の塗布装置20を用いることで塗布ムラがなく、均一な層を形成することができる。
本発明の電子写真感光体30は、電子写真複写機やレーザー、発光ダイオード(LED)などを光源とする各種プリンター及び電子写真製版システムなどに使用することができる。
【0121】
画像形成装置
本実施形態は、本実施形態の電子写真感光体30を搭載した画像形成装置45も提供する。
図21は、本実施形態の画像形成装置の概略断面図である。
【0122】
本実施形態の画像形成装置45は、本実施形態の感光体30と、感光体30を帯電させる帯電手段34と、帯電された感光体30を露光して静電潜像を形成する露光手段38と、露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段35と、現像によって形成された前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段36と、転写された前記トナー像を前記記録材上に定着して画像を形成する定着手段41を少なくとも備えることができる。
図面を用いて本実施形態の画像形成装置45について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0123】
図21の画像形成装置20は、本実施形態の感光体30と、帯電手段(帯電器)34と、露光手段38と、現像手段(現像器)35と、転写手段(転写器)36と、クリーニング手段(クリーナ)37と、定着手段(定着器)41と、除電手段(図示せず、クリーニング手段37に併設される)を含んで構成される。符号40は転写紙を示す。
【0124】
感光体30は、図示しない画像形成装置45本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線32回りに矢符33方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体30の芯体を構成する導電性支持体3に伝えることによって、感光体30を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器34、露光手段38、現像器35、転写器36およびクリーナ37は、この順序で、感光体30の外周面に沿って、矢符33で示される感光体30の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0125】
帯電器34は、感光体30の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。具体的には、例えば帯電器34は、接触式の帯電ローラ34aや帯電ブラシあるいはコロトロンやスコロトロンなどのチャージャーワイヤによって実現される。符号34bはバイアス電源を示す。
【0126】
露光手段38は、例えば半導体レーザーなどを光源として備え、光源から出力されるレーザー光38aを、感光体30の帯電器34と現像器35との間に照射することによって、帯電された感光体30の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光38aは、主走査方向である感光体30の回転軸線32の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って感光体30の表面に静電潜像が順次形成される。
【0127】
現像器35は、露光によって感光体30の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体30を臨んで設けられ、感光体30の外周面にトナーを供給する現像ローラ35aと、現像ローラ35aを感光30の回転軸線32と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング35bとを備える。
【0128】
転写器26は、現像によって感光体30の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符39方向から感光体30と転写器36との間に供給される記録媒体である転写紙40上に転写させる転写手段である。転写器26は、例えば、帯電手段を備え、転写紙40にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙40上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0129】
クリーナ37は、転写器36による転写動作後に感光体30の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体30の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード37aと、クリーニングブレード37aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング37bとを備える。また、このクリーナ37は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0130】
また、画像形成装置45には、感光体30と転写器36との間を通過した転写紙40が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器41が設けられる。定着器41は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ41aと、加熱ローラ41aに対向して設けられ、加熱ローラ41aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ41bとを備える。
【0131】
この画像形成装置45による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体30が駆動手段によって矢符33方向に回転駆動されると、露光手段38による光38aの結像点よりも感光体30の回転方向上流側に設けられる帯電器34によって、感光体30の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0132】
次いで、露光手段38から、感光体30の表面に対して画像情報に応じた光38aが照射される。感光体30は、この露光によって、光38aが照射された部分の表面電荷が除去され、光38aが照射された部分の表面電位と光38aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0133】
次いで、露光手段38による光38aの結像点よりも感光体30の回転方向下流側に設けられる現像器35から、静電潜像の形成された感光体30の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
感光体30に対する露光と同期して、感光体30と転写器36との間に、転写紙40が供給される。転写器36によって、供給された転写紙40にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体30の表面に形成されたトナー像が、転写紙40上に転写される。
【0134】
次いで、トナー像の転写された転写紙40は、搬送手段によって定着器41に搬送され、定着器41の加熱ローラ41aと加圧ローラ41bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙40に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙40は、搬送手段によって画像形成装置45の外部へ排紙される。
【0135】
一方、転写器36によるトナー像の転写後も感光体30の表面上に残留するトナーは、クリーナ37によって感光体30の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体30の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体30の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体30はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰り返されて連続的に画像が形成される。
また、画像形成装置は、機種によって感光体30に残留するトナーを除去し回収するクリーナ37のようなクリーニング手段と、感光体30に残留する表面電荷を除電する除電手段を装備していないものであってもよい。
【0136】
電子写真感光体製造実験
本発明の塗布装置などを用いて電子写真感光体を製造する実験を行った。なお、本実験で製造した電子写真感光体のタイプおよび製造に用いた塗布槽のタイプを表1にまとめて示した。
本実験において用いた塗布装置に含まれる塗布槽は、すべて内径70mm×深さ360mmのものを用いた。塗布槽の内側面に設けたタイプAの整流溝9とは、図9に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。タイプBの整流溝9とは、図10に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。タイプCの整流溝9とは、図11に示したような形状を有する整流溝であり、幅を10mmとし、深さを5mmとした。また、塗布槽に設けた整流溝は、図9〜11に示すように等間隔で設けた。
【0137】
【表1】
【0138】
1.実施例1
本発明の塗布装置を用いて図19に示すような単層型電子写真感光体を製造した。この感光体では、図19に示されるように、導電性支持体3の上に下引き層22が形成され、その上に電荷発生物質と電荷輸送物質を含有している感光層24が形成されている。また、実施例1では、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1を備えた塗布装置20を用いて下引き層22および感光層24を形成した。なお、実施例1で用いた塗布槽1には、図2〜5、図9(a)し示したような流出溝8は形成していない。
【0139】
[下引き層用塗布液の調製]
下引き層22用の塗布液を調製した。
まず、容積100Lのステンレス製の攪拌タンクに、酸化チタン(Al(OH)3、SiO2表面処理、粒状、テイカ株式会社製、製品名:MT−500SA)を8重量部、ポリアミド樹脂(アルケマ社製、製品名:M1276)を2重量部、メタノールを50重量部、テトラヒドロフランを50重量部、投入し、液温が40℃になるようにステンレス容器を加熱しながら、攪拌羽を備えた攪拌モーターを用いて回転数200rpmで2時間、混合溶液を攪拌し樹脂を溶解させて、下引き層用塗布液の樹脂溶液を得た。
【0140】
横型ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:KD−20B、シリンダー容積:16.5L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.5mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入した。次いで、ダイヤフラムポンプを介して、得られた樹脂溶液を攪拌タンクから横型ビーズミルに送液し、再び攪拌タンクに送液する循環を流速3.3L/分で30時間継続して、分散処理した下引き層用塗布液を80kg調製した。
【0141】
[下引き層の形成]
得られた下引き層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に下引き層用塗布液を供給しながら直径30mm×全長345mmのアルミニウム製の円筒状導電性支持体3を塗布槽1内の下引き層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた円筒状導電性支持体3を下引き層用塗布液から引き上げることにより、円筒状導電性支持体3の表面上に下引き層用塗布液を塗布した。得られた塗布膜を温度100℃で30分間、熱風乾燥させて、乾燥膜厚1.0μmの下引き層22を形成した。
【0142】
[感光層用塗布液の調製]
感光層24用の塗布液を調製した。
攪拌タンクで、τ型無金属フタロシアニンLiophoton TPA-891(東洋インキ製造社製)を20重量部、ポリカーボネート樹脂Z−400(三菱瓦斯化学社製)を20重量部、下記式(II)のヒドラゾン系化合物を20重量部、下記式(III)のジフェノキノン化合物を20重量部、テトラヒドロフランを100重量部、を混合し、混合液を得た。その後、下引き層用塗布液と同様に横型分散機(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:ダイノーミル KLDパイロットタイプ、シリンダー容積:1.4L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.2mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入し、得られた混合液を攪拌タンクから横型分散機に送液した後、再び攪拌タンクに分散液を移して再び分散処理をおこなうよう繰り返す分散処理を行い、感光層用塗布液80Kgを調製した。
【0143】
【化2】
【0144】
【化3】
【0145】
[感光層の形成]
得られた感光層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に感光層用塗布液を供給しながら、下引き層22を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の感光層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を感光層用塗布液から引き上げることにより、下引き層22上に感光層用塗布液を塗布した。その後、100℃で1時間の熱風乾燥を行ない、乾燥膜厚20μmの感光層24を設け、図19に示す単層型の電子写真感光体30を作製した。
【0146】
2.実施例2
本発明の塗布装置を用いて図18に示すような機能分離型電子写真感光体(積層型感光体)を製造した。この感光体では、図18に示されるように、導電性支持体3の上に下引き層22が形成され、その上に電荷発生層26及び電荷輸送層27とから成る感光層24が形成されている。電荷発生層26には電荷発生物質が、電荷輸送層27には電荷輸送物質がそれぞれ含まれている。また、実施例2では、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1を備えた塗布装置20を用いて下引き層22、電荷発生層26及び電荷輸送層27を形成した。なお、実施例2で用いた塗布槽1には、図2〜5、図9(a)し示したような流出溝8は形成していない。
【0147】
[下引き層の形成]
実施例1と同様の円筒状導電性支持体3の表面上に、実施例1と同様の下引き層用塗布液を、実施例1と同様の方法で塗布し、得られた塗布膜を温度100℃で30分間、熱風乾燥させて、乾燥膜厚1.0μmの下引き層22を形成した。
【0148】
[電荷発生層用塗布液の調製]
電荷発生層用塗布液を調製した。
攪拌タンクで、τ型無金属フタロシアニンLiophoton TPA-891(東洋インキ製造社製)を2重量部、塩化ビニル―酢酸ビニル―マレイン酸共重合体樹脂SOLBIN M(日信化学工業社製)を2重量部、メチルエチルケトンを100重量部、を混合し、混合液を得た。その後、下引き層用塗布液と同様に横型分散機(株式会社シンマルエンタープライゼス製、型式:ダイノーミル、KLDパイロットタイプ、シリンダー容積:1.4L)のシリンダー内に、分散メディアとして直径0.2mmのジルコニア製ビーズをシリンダー容積の80%まで投入し、得られた混合液を攪拌タンクから横型分散機に送液した後、再び攪拌タンクに分散液を移して再び分散処理をおこなうよう繰り返す分散処理を行い、電荷発生層形成用塗布液を80Kg調製した。
【0149】
[電荷発生層の形成]
得られた電荷発生層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速20L/minで塗布槽1に電荷発生層用塗布液を供給しながら、下引き層22を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の電荷発生層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を電荷発生層用塗布液から引き上げることにより、下引き層22上に電荷発生層用塗布液を塗布した。その後、自然乾燥して膜厚0.8μmの電荷発生層26を形成した。
【0150】
[電荷輸送層用塗布液の調製]
電荷輸送層用塗布液を調製した。
下記式(IV)のエナミン化合物を8重量部、ポリカーボネート樹脂・PCZ−400(三菱ガス化学株式会社製)を10重量部、シリコンオイル・KF50(信越化学社製)を0.002重量部、テトラヒドロフランを120重量部、混合・撹拌・溶解させて電荷輸送層用塗布液を80Kg調製した。
【0151】
【化4】
【0152】
[電荷輸送層の形成]
得られた電荷輸送層用塗布液を、図2〜5、図9(a)のような底および側壁を有する直線状の整流溝9(タイプA)が2つ等間隔で内側面に設けられた塗布槽1に満たし、引き上げ塗布する際に塗布液がオーバーフローするよう流速2L/minで塗布槽1に電荷輸送層用塗布液を供給しながら、電荷発生層26を形成した導電性支持体3を塗布槽1内の電荷輸送層用塗布液中に浸漬させ、浸漬させた導電性支持体3を電荷輸送層用塗布液から引き上げることにより、電荷発生層26上に電荷輸送層用塗布液を塗布した。その後、130℃で1時間乾燥して膜厚25μmの電荷発生層を形成した。
このようにして図18に示す積層型の電子写真感光体30を作製した。
【0153】
3.比較例1
実施例1で使用した下引き層用塗布液、感光層用塗布液を用いて、それぞれ塗布槽の内壁に整流溝を設けていない円筒状のものを用いた以外は、実施例1と同様にして下引き層22、感光層24を形成し、図19に示す単層型の電子写真感光体30を作製した。
【0154】
4.比較例2
実施例2で使用した下引き層用塗布液、電荷発生層用塗布液、電荷輸送層塗布液を用いて、それぞれ塗布槽1の内壁に整流溝を設けていない円筒状のものを用いた以外は、実施例2と同様にして下引き層22、電荷発生層26、電荷輸送層27を形成し、図18に示す積層型の電子写真感光体30を作製した。
【0155】
5.実施例3〜10
実施例3〜10では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を表1にまとめたようにした以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。
【0156】
6.実施例11〜13
実施例11〜13では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を2つとし、塗布槽上部開口端部に幅5mm、深さ2mmの流出溝8を設けた塗布槽1を用いた以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。なお、この実施例において、流出溝8は、図2〜5のように整流溝9に繋がるように設けている。
【0157】
7.参考例1〜3
参考例1〜3では、塗布槽1の内壁の整流溝9の形状を表1にまとめたように図9に示すタイプA、図10に示すタイプBまたは図11に示すタイプCとし、また塗布槽1の内壁の整流溝9の個数を2つとし、塗布槽上部開口端部に幅5mm、深さ2mmの流出溝8を設けた塗布槽1を用いた以外は、実施例2と同様に積層型電子写真感光体を作製した。なお、この参考例において、流出溝8は、図22のように整流溝9と90度ずらして設けている。図22は、図3に対応している。
【0158】
画像評価実験
電子写真感光体製造実験で製造した電子写真感光体を、それぞれ搭載したデジタル複写機(シャープ社製:AR−455)改造機で印刷し、初期ハーフトーン画像を以下の評価基準に従って評価した。画像評価実験における評価結果をまとめたものを表2に示す。
【0159】
【表2】
【0160】
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラの塗布欠陥無し、画像特性に優れている」と判断された場合には、表2においてVG(very good)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラがわずかに存在、画像特性は実使用上問題なし」と判断された場合には、表2においてG(good)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラが存在、画像特性は実使用上問題あり」と判断された場合には、表2においてB(bad)と表した。
評価実験において初期ハーフトーン画像が、「画像濃度ムラ、筋ムラ、リング状ムラが多く存在、画像特性上劣っている」と判断された場合には、表2においてVB(very bad)と表した。
【0161】
1.実施例1、2、比較例1、2で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例1、2で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも欠陥が全く無いか、または無視し得るようなムラがわずかに認められる程度であり通常の使用には支障をきたさない良好な画像が得られた。また、比較例1、2による感光体による印刷物には、画像上に感光層の塗布ムラに起因するハーフトーンムラや筋ムラ、リング状ムラが見られ、画質品位の劣る画像しか得られなかった。
【0162】
2.実施例3〜10で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例3〜10で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも塗布ムラなどの欠陥が全く無く、非常に優れた画質が得られた。
【0163】
3.実施例11〜13で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において実施例11〜13で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には、いずれも塗布ムラなどの欠陥が全く無く、非常に優れた画質が得られた。
また、実施例11〜13は、耐久性試験として10,000枚の実写Agingを30度80%RHの高温高湿環境下と5度20%RHの低温低湿環境下で行った後の画像特性を評価すると、実施例11〜13では、初期と同等に塗布ムラに起因する画像ムラの発生はなかった。
【0164】
4.参考例1〜3で作製した感光体を搭載したデジタル複写機で印刷した初期ハーフトーン画像の評価
初期ハーフトーン画像評価において参考例1〜3で得られた感光体を装着したデジタル複写機による印刷物には筋ムラやリングムラが発生し、画像品位が劣ると評価された。この原因は明らかではないが、下引き層または感光層の形成時において、塗布槽下部から供給された塗布液が塗布槽上部へ上昇し、オーバーフローする際に塗布液の流れが乱れるためと考えられる。
また、耐久性試験として10,000枚の実写Agingを30度80%RHの高温高湿環境下と5度20%RHの低温低湿環境下で行った後の画像特性を評価すると、比較例3〜5では、Aging後、ハーフトンムラが非常に顕著に見られるようになり、初期に発生した画像ムラのレベルが悪化した。
【符号の説明】
【0165】
1: 塗布槽 2:底部 3:導電性支持体 4:内側面 5:塗布液 6:底部供給口 7:上部開口 8:流出溝 9:整流溝 10:オーバーフロー槽 12:循環経路 14:攪拌槽 15:攪拌装置 16:昇降装置 17:ポンプ 18:モーター 19:回転軸 20:塗布装置 22:下引き層 24:感光層 26:電荷発生層 27:電荷輸送層 29:オーバーコート層 30:電子写真感光体 32:回転軸線 33:回転駆動方向 34:帯電器 34a:帯電ローラ 34b:バイアス電源 35:現像器 35a:現像ローラ 35b:ケーシング 36:転写器 37:クリーナ 37a:クリーニングブレード 37b:回収用ケーシング 38:露光手段 38a:レーザー光(光) 39:転写紙移動方向 40:転写紙 41:定着器 41a:加熱ローラ 41b:加圧ローラ 45:画像形成装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、
前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、
前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記流出溝は、等間隔で2つ以上設けられた請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記流出溝は、前記整流溝に繋がる溝である請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記塗布槽は、円筒形状を有し、かつ、一方の端が底部であり他方の端が前記上部開口である請求項1〜4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記整流溝は、前記塗布槽が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行に設けられた請求項5に記載の装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置を用いた電子写真感光体の製造方法であって、
前記塗布槽に溜められた塗布液に前記導電性支持体を浸漬させる工程と、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程とを備え、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記上部開口からの塗布液のオーバーフローを伴う電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含み、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記流出溝からの塗布液のオーバーフローを伴う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、下引き層用塗布液である請求項7〜9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、電荷発生層用塗布液である請求項7〜9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置により、または請求項7〜11のいずれか1つに記載の製造方法により製造された電子写真感光体。
【請求項13】
請求項12に記載の電子写真感光体を搭載した画像形成装置。
【請求項1】
導電性支持体を収容でき、かつ、塗布液が流動しうる塗布槽を備え、
前記塗布槽は、塗布液を供給するための底部供給口と、前記導電性支持体を挿入可能であり、かつ、オーバーフローにより塗布液を前記塗布槽から流出させる上部開口と、前記塗布槽の内側面に設けられた直線状の整流溝とを有し、
前記整流溝は、前記底部供給口から前記上部開口へ塗布液を流動させたとき、塗布液の整流を行うことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記流出溝は、等間隔で2つ以上設けられた請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記流出溝は、前記整流溝に繋がる溝である請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記塗布槽は、円筒形状を有し、かつ、一方の端が底部であり他方の端が前記上部開口である請求項1〜4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記整流溝は、前記塗布槽が有する円筒形状の軸方向と実質的に平行に設けられた請求項5に記載の装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置を用いた電子写真感光体の製造方法であって、
前記塗布槽に溜められた塗布液に前記導電性支持体を浸漬させる工程と、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程とを備え、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記上部開口からの塗布液のオーバーフローを伴う電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記上部開口は、前記塗布槽の側壁の端部に設けられた流出溝を含み、
前記導電性支持体を塗布液中から取り出す工程は、前記流出溝からの塗布液のオーバーフローを伴う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、無機顔料、有機顔料および不溶性の樹脂微粒子のうち少なくとも1つを分散させた分散液である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、下引き層用塗布液である請求項7〜9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記塗布槽に溜められた塗布液は、電荷発生層用塗布液である請求項7〜9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の装置により、または請求項7〜11のいずれか1つに記載の製造方法により製造された電子写真感光体。
【請求項13】
請求項12に記載の電子写真感光体を搭載した画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−3397(P2013−3397A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135314(P2011−135314)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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