説明

塗布装置

【課題】厚みムラが大きい基板に対しても、口金と基板とが衝突すること防止し、かつ塗布膜に膜切れが発生することのない安定した塗布を行うことができる塗布装置を提供する。
【解決手段】基板表面計測部30は、塗布動作を行う前に、基板Wの塗布領域内の各計測設定位置の高さを計測することにより、各計測設定位置の高さ情報をあらかじめ取得し、吐出部高さ調節部20は、各計測設定位置の高さ情報に基づいて、基板Wの最も高い点よりも所定距離分上方に口金11が位置するよう、塗布動作前に口金11の高さを調節し、吐出部10は、基板Wに対し水平方向に相対的に移動しながら塗布動作を行い、吐出量調節部40は、各計測設定位置の高さ情報に基づいて、吐出部10と基板Wとの距離に応じて吐出部10から塗布領域内の各位置へ吐出すべき塗布液の吐出量を塗布動作中に調節しながら、塗布を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネル基板など、厚みムラが大きい基板に対して塗布液の塗布を行う塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、ガラス等からなる基板上にレジスト液が塗布されたもの(塗布基板という)が使用されている。この塗布基板は、レジスト液を均一に塗布する塗布装置によって形成されている。すなわち、塗布装置は、基板を載置するステージと、レジスト液を吐出する塗布ユニットとを有しており、塗布ユニットの口金からレジスト液を吐出させながら、基板と塗布ユニットとを相対的に移動させることにより、所定厚さのレジスト液膜が基板上に形成されるようになっている。この塗布装置を太陽電池パネル製造における塗布工程にも適用することで、パネル基板へのレジスト薄膜の塗布を実施することができる。
【0003】
ここで、比較的基板の厚みムラが少ないガラス基板に塗布を行う塗布装置では、基板に塗布された塗布液の膜厚が均一になるようにするために、塗布中は口金の高さを固定し、さらに塗布液の吐出量が一定になるように制御して塗布を行うものが主である。
【0004】
しかし、太陽電池パネル製造において塗布を行う場合、基板の厚みムラが大きいため、塗布中に基板表面と口金とのギャップが大きく変化する。そのため、口金の高さを固定して塗布を行うと、基板表面の高さが高い箇所にて基板と口金とが衝突する可能性があり、口金の破損を招いてしまう。さらに、基板表面の高さが低い箇所では、口金とのギャップが大きくなり、口金から吐出された塗布液が基板に付着する前に途切れる可能性がある。この場合、基板上で塗布膜が切れた部分が発生し、塗布不良となる。
【0005】
基板の厚みムラに対応するために、下記特許文献1の塗布装置では、口金に対する基板の相対移動方向からみて口金の手前側に高さ測定器を配置し、それで測定された基板表面の高さ情報に基づいて、口金の高さを調整しながら塗布を行っている。こうすることで、基板表面と口金とのギャップが小さく、かつ塗布動作中一定となるようにし、塗布膜の膜切れが発生しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−152261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載された塗布装置では、それでも口金と基板とが衝突する可能性がある、といった問題があった。具体的には、この塗布装置では、厚みムラが大きい基板に対して塗布液の塗布を行う場合、口金の高さが基板表面の最も高い部分の高さよりも低くなることがあるため、塗布時の基板の搬送誤差が生じると、口金と基板とが衝突する場合がある。また、この塗布装置では、口金の高さを微小な範囲で昇降動作させるため、口金が振動し、塗布品質の不良を発生させる可能性があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、厚みムラが大きい基板に対して搬送誤差が生じた場合でも口金と基板とが衝突することを防止し、かつ塗布品質の不良の発生を防ぐことができる塗布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の塗布装置は、基板に塗布液を塗布する塗布装置であって、基板上の塗布領域へ塗布液を吐出する口金を有する吐出部と、前記吐出部の高さを調節する吐出部高さ調節部と、前記塗布領域内の計測設定位置の高さを計測する基板表面計測部と、前記吐出部から吐出される塗布液の吐出量を調節する吐出量調節部と、を備え、前記基板表面計測部は、塗布動作を行う前に、前記塗布領域内の各計測設定位置の高さを計測することにより、各計測設定位置の高さ情報をあらかじめ取得し、前記吐出部高さ調節部は、前記各計測設定位置の高さ情報に基づいて、基板の最も高い点よりも所定距離分上方に前記口金が位置するよう、塗布動作前に前記口金の高さを調節し、前記吐出部は、基板に対し水平方向に相対的に移動しながら塗布動作を行い、前記吐出量調節部は、前記吐出部と基板との距離に応じて定められる吐出量である基準吐出量の情報をあらかじめ備え、前記各計測設定位置の高さ情報および該基準吐出量の情報に基づいて、前記吐出部から前記塗布領域内の各位置へ吐出すべき塗布液の吐出量を塗布動作中に調節しながら、塗布を行うことを特徴としている。
【0010】
上記塗布装置によれば、基板の最も高い点よりも所定距離分上方に口金が位置するよう、塗布動作前に口金の高さを調節してから塗布を行うため、基板と衝突を起こすことがなく、塗布液を塗布することが可能である。また、吐出部と基板との距離に応じて基準吐出量を求めて、基板表面と吐出部との間隔が大きい箇所への塗布量が多くなるように調整することにより、塗布膜が途切れることのない安定した塗布が可能である。
【0011】
また、前記基板表面計測部は、前記各計測設定位置の高さ情報に基づき、それと隣り合う計測設定位置の高さ情報との差異を計算することにより、各位置の傾斜情報をさらに算出し、前記吐出量調節部は、前記基準吐出量に加えて、前記各位置の傾斜情報に基づいて、前記塗布領域内の各計測設定位置へ吐出すべき塗布液の吐出量の調整を行い、基板に対する前記吐出部の進行方向に対し、前記吐出部と基板とが近づく傾斜である場合は、前記基準吐出量に対して吐出量を少なく、遠のく傾斜である場合は、前記基準吐出量に対して吐出量を多く補正して調整することを特徴とすることができる。
【0012】
このように基板表面の傾斜を吐出量計算に含めることにより、特に吐出部の進行方向に対して吐出部と基板とが遠のいていく傾斜である場合に、基準吐出量に対して吐出量を多く調整することにより、膜切れが起こることをさらに防ぐことができる。また、吐出部と基板とが近づく傾斜である場合は、逆に吐出量を少なく調整することにより、膜厚が厚くなりすぎることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
上記の塗布装置によれば、口金と基板とが衝突することを防止し、かつ塗布品質の不良の発生を防いで塗布を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す模式図であり、側面図である。
【図2】高さ測定器による基板表面形状測定の概略図であり、斜視図である。
【図3】基板表面計測部による基板高さデータの取得および吐出部高さ調節部による吐出部の高さ調整の方法についての概略図である。
【図4】塗布対象とする基板の一方向の断面形状である。
【図5】基板高さデータから吐出量調整データを算出する方法についての概略図である。
【図6】膜厚のばらつきを考慮して吐出量調整データを算出する方法についての概略図である。
【図7】塗布装置による塗布動作の動作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を図1に示す。塗布装置1は、装置架台2、吐出部10、吐出部高さ調節部20、基板表面計測部30、吐出量調節部40および搬送部50を有している。塗布装置1は、搬送部50によって上流工程より搬入された基板Wを吐出部10および基板表面計測部30の下方を搬送させる間に、まず基板表面計測部30によって基板Wの塗布領域内の各計測設定位置の高さを計測し、その高さ情報に基づいて吐出部高さ調節部20によって吐出部10の高さを調整する。そして、吐出量調節部40によって高さ情報に基づいて塗布中の塗布液の吐出量を調整しながら吐出部10から塗布液を吐出することにより、基板Wへの塗布を行う。なお、以下の説明では、搬送部50が基板Wを搬送する方向をY軸方向、Y軸方向と水平面上で直交する方向をX軸方向、X軸およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明を進めることとする。
【0016】
装置架台2は、塗布装置1を構成するメインフレームであり、これに後述の吐出部10、高さ測定器31および搬送部50が組み付けられている。この搬送部50を駆動させることにより、搬送部50に載置された基板Wが吐出部10および高さ測定器31に対して相対移動することが可能である。
【0017】
吐出部10は、図中のX軸方向を長手方向とするほぼ直方体の形状をとり、下端に口金11を有する。また、吐出部10は、配管15を経由して塗布液タンク13と接続されており、塗布液タンク13から吐出部10に供給された塗布液を口金11から吐出することにより、基板Wへの塗布を行い、基板Wに塗布膜16を形成する。また、吐出部10は後述の吐出部高さ調節部20を間にはさんで吐出部架台12に組み付けられており、この吐出部架台12は装置架台2に固定されている。これにより、吐出部10が装置架台2に組み付けられた構成が形成されている。
【0018】
口金11は、図中のX軸方向を長手方向とするスリット状の開口を有しており、吐出部10へ供給された塗布液をこの開口から吐出することにより、開口の長手方向に対して均一に基板Wへの塗布を行う。また、開口のX軸方向の長さは、基板WのX軸方向の長さと同等またはそれ以上であり、基板Wが搬送部50によって吐出部10の下方を搬送されている間に、連続的に口金11から塗布液を吐出することにより、基板Wの全面に塗布液を塗布することが可能である。
【0019】
塗布液タンク13は、内部に塗布液を貯留できる構造をとっている。塗布液タンク13に貯留されている塗布液は、ポンプ14の吸引、吐出動作により、一度塗布液タンク13からポンプ14へ配管15を通って吸引され、次にポンプ14から吐出されて、吐出部10へ供給される。
【0020】
吐出部高さ調節部20は、リニアステージ、ボールネジなどで構成される直動機構であり、モータを有しており、吐出部10を図中のZ軸方向に移動させることが可能である。図示しない制御装置によって吐出部高さ調節部20を駆動することにより、吐出部10が搬送部50に対してZ軸方向に相対的に移動することが可能である。これにより、基板Wの表面の高さに応じて吐出部10の高さを変化させることが可能である。
【0021】
基板表面計測部30は、高さ測定器31および解析装置32を有しており、基板Wの塗布領域内の各計測設定位置の高さを計測し、基板Wの表面の高さデータを取得する。
【0022】
高さ測定器31は、各計測設定位置における基板Wの表面の高さ情報を取得できる測定器であり、本実施形態では、接触式の変位計を使用している。高さ測定器31は、搬送部50に載置されるあらゆる基板Wと干渉することが無いよう、搬送部50の上方に、搬送部50と十分な間隔をとって固定されている。基板Wが搬送部50によって高さ測定器31の下方を搬送されている間に、この高さ測定器31が連続的に基板Wの表面と高さ測定器31との距離を測定することにより、Y軸方向の基板表面プロファイルを取得することが可能である。また、高さ測定器31は1個でも構わないが、基板Wの形状をより正確に把握するために、複数個の高さ測定器31をX軸方向に配列して設置し、X軸方向の複数箇所において基板表面プロファイルを同時に取得することが望ましい。
【0023】
解析装置32は、CPUおよびRAMやROMを有するコンピュータであり、ケーブルを介して連結している高さ測定器31によって測定された一つまたは複数の基板表面プロファイルを内部に取り込み、この基板表面プロファイルから基板Wの一つまたは複数の基板高さデータを作成する。また、解析装置32は、ハードディスクや、RAMまたはROMなどのメモリからなる、各種情報を記憶する記憶装置を有しており、基板表面プロファイル、基板高さデータや後述する距離データなどがこの記憶装置に記憶される。この基板高さデータおよび距離データが、吐出部10の高さおよび塗布液の吐出量を制御するために使用される。
【0024】
吐出量調節部40は、吐出量調整ユニット41および吐出量制御装置42を有し、塗布中の塗布液の吐出量を制御する。
【0025】
吐出量調整ユニット41は、タンク13から吐出部10へ供給される塗布液の量を調整するユニットであり、吐出量制御装置42とケーブルを介して連結され、吐出量制御装置42から与えられる信号に応じて、吐出部10へ供給される塗布液の量を調整する。本実施形態ではポンプ14が吐出量調整ユニット41にあたり、ポンプ14からの吐出速度を吐出量制御装置42によって調整することにより、吐出部10へ供給される塗布液の量を調整する。ここで、別の構成として、吐出量調整ユニット41として遠隔操作が可能な流量調整弁を吐出部10と塗布液タンク13とをつなぐ配管15の途中に備え、吐出量制御装置42から与えられる信号に応じて、タンク13から吐出部10へ供給される塗布液の流量を調整する構成をとっても良い。
【0026】
吐出量制御装置42は、CPUおよびRAMやROMを有するコンピュータであり、解析装置32によって作成された、吐出部10と基板Wとの距離データをもとに、基板Wの各計測設定位置における吐出部10と基板Wとの距離に応じた吐出量(基準吐出量)にしたがって、その吐出量分だけ吐出できるように、吐出量調整ユニット41へ制御信号を発信する。すなわち、吐出部10と基板Wとの距離が長い箇所では、吐出量を多く、短い箇所では、吐出量を少なくするよう、制御信号を発信する。また、この基準吐出量のデータは、後述の記憶装置にあらかじめ記憶されている。
【0027】
また、本実施形態では、このようにして得られた基準吐出量に対して、基板Wの各計測設定位置の傾斜情報に基づいて吐出量を補正して制御信号を発信している。基板Wの各計測設定位置の傾斜情報は、各計測設定位置に対してそれと隣り合う計測設定位置との高低差を計算することで求めることが可能であり、基板に対する前記吐出部の進行方向に対し、前記吐出部と基板とが近づく傾斜である場合は、基準吐出量に対して吐出量を少なく、逆に遠のく傾斜である場合は、吐出量を多くするよう補正する。
【0028】
また、吐出量制御装置42は、ハードディスクや、RAMまたはROMなどのメモリからなる、各種情報を記憶する記憶装置を有しており、距離データや傾斜情報および基準吐出量のデータなどがこの記憶装置に記憶される。
【0029】
ここで、吐出量制御装置42と解析装置32は、両者の機能をまとめて一つのコンピュータで構成されていても良い。
【0030】
搬送部50は、一方向に配列されたローラユニット51を複数有するローラコンベアであって、装置架台2に組み付けられている。このローラコンベアにより、ローラユニット51の配列方向に基板Wを搬送できるようになっている。
【0031】
ローラユニット51は、図中のX軸方向に延びる軸部材52と、この軸部材52の軸方向にほぼ等間隔で固定される複数のローラ53とを有しており、軸部材52の長手方向が基板Wの搬送方向(Y軸方向)と直交する状態で所定間隔で配列されている。そして、各軸部材52が同一の高さ位置に設けられており、各ローラ53すべてが、円盤状でほぼ同径に形成されている。これにより、各ローラ53の最上位置がほぼ同一高さとなり、このローラ53の最上位置部分が基板Wの裏面に当接することにより、基板Wがローラユニット51のローラ53上に支持されるようになっている。
【0032】
また、各軸部材52の端部には、図示しないプーリが取付けられており、全ての軸部材52のプーリが図示しないベルトで連結されている。ここで、ベルトを駆動させるモータを作動させると、ベルトが回転することにより、各軸部材52が軸心回りに回転し、ローラ53が軸心回りに回転する。これにより、搬送装置50に支持された基板Wがローラユニット51の配列方向(基板搬送方向)に搬送できるようになっている。
【0033】
次に、基板表面計測部30による基板高さデータの取得および吐出部高さ調節部20による吐出部10の高さ調整の方法について、図2および図3を用いて説明する。
【0034】
図2は、高さ測定器31による基板表面形状測定の概略図である。図2では、3個の高さ測定器31を用いて基板Wの表面形状を測定する状態を表している。3個の高さ測定器31は、基板の搬送方向と直交する方向(図中のX軸方向)にほぼ等間隔に配列されており、これらを用いて連続的に高さ測定を行い、その間に一定速度で基板Wを(Y軸方向に)搬送することにより、図中の2点鎖線で示した、Y軸方向の3つの基板表面プロファイル61を取得することができる。この基板表面プロファイル61が解析装置32の記憶装置に保存され、以下の作業が実施される。
【0035】
例として、1個の高さ測定器31から得られた基板表面プロファイル61を図3(a)に示す。このプロファイルに表れるデータは、Y軸方向に並んだ各計測設定位置における高さ測定器31から基板Wの表面までの距離である。ここで、搬送装置50のローラ53から高さ測定器31までの距離が図2に示すようにhであったとすると、この距離hから図3(a)の各計測設定位置のデータの値を差し引きした値が、基板Wの高さとなる。仮に、ある計測設定位置において高さ測定器31から基板Wの表面までの距離がdであったとすると、このdをhから引いた(h−d)が、この計測設定位置における基板Wの高さである。このようにして、図3(a)で示した全ての計測設定位置のデータに対して距離hと差し引きすることにより、解析装置32は図3(b)に示すような基板高さプロファイル62を得る。
【0036】
この基板高さプロファイル62に対し、ノイズ成分を除去することにより、解析装置32は図3(c)に示すような、基板高さデータ63を得る。この基板高さデータ63が、吐出部10の高さ調整および吐出量調整を行うための基礎データとなる。
【0037】
次に、解析装置32は、基板高さデータ63から基板高さの最大値であるtmaxを求める。ここで、複数個の高さ測定器31を用いて複数の基板高さデータ63を取得している場合は、全ての基板高さデータ63の中から基板高さの最大値tmaxを求める。
【0038】
このようにして得られたtmaxの値に対し、図3(d)に示すように、ローラ53からみて口金11がこの基板高さの最大値tmaxに所定距離Δtを加えた分だけ高い位置となるように、吐出部高さ調節部20は、基板Wが吐出部10の下方に到達する前に、吐出部10の高さを調整する。また、解析装置32は、吐出部高さ調整部20がこのような調整の動きをとるよう、図示しない制御装置へ、もしくは直接吐出部高さ調整部20へ信号を送信する。そして、基板Wへの塗布中は吐出部10の高さが上記の高さで保持されることにより、搬送誤差が生じた場合であっても基板Wと口金11との衝突を防ぎつつ、基板Wに近い位置から塗布できるようにしている。また、本実施形態では、この所定距離Δtは、約60〜100ミクロンとしている。
【0039】
ここで、本発明では、基板Wの最大高さは、上記の通り有限個の高さ測定器31でのプロファイル測定結果から算出しており、基板Wの搬送方向と直交する方向(図中のX軸方向)の高さ分布は、設置した高さ測定器31の個数分の点しか確認することができないため、もし、この方向にも不規則な高さ変化があれば、基板W上で高さが最も高い位置を高さ測定器31で測定できない可能性がある。これに対し、本発明で塗布対象としている太陽電池パネル向けの基板Wは、製作工程上、高さのばらつきは一方向(ローラの回転方向)に大きく現れており、その方向と直交する方向(ローラの長手方向)においては、ばらつきは小さく(具体的には、一方向では600ミクロン程度の高さのばらつきがあるのに対し、それと直交する方向では、高さのばらつきは100ミクロン程度である)、また、図4(a)および図4(b)に示すように直線的に高さが変化する、もしくは図4(c)に示すように中央付近に最高点があるという特徴がある。したがって、高さのばらつきが大きい方向と基板Wの搬送方向(図中のY軸方向)とをそろえて搬送し、また、高さ測定器31を少なくとも基板WのX軸方向の両端および中央付近を測定するように設置することにより、高さ測定器31でのプロファイル測定結果から得られる基板Wの最大高さtmaxと、基板Wの実際の最大高さとに大差は生じないため、上記の通り、ローラ53からtmaxに所定距離Δtを加えた分だけ上方になるように口金11の位置を調整することにより、基板Wと口金11との衝突を防ぐことが可能である。
【0040】
次に、基板高さデータ63から、吐出量調整データを算出する方法について、図5に示す。ここで、複数個の高さ測定器31を用いて複数の基板高さデータ63を取得している場合は、解析装置32が同一の基板座標の計測設定位置における各基板高さデータ63の高さの値を平均し、その平均された高さをその基板座標の計測設定位置における高さの値としてまとめることにより作成した一つの基板高さデータ63を吐出量の調整に使用する。
【0041】
この基板高さデータ63の各計測設定位置における値を、吐出部高さ調節部20によって調整された後の吐出部10の高さから差し引きすることにより、解析装置32は図5(a)に示すような、塗布時の吐出部10と基板Wとの距離のデータである距離データ64を得る。
【0042】
この距離データ64は、解析装置32から吐出量調節部40の吐出量制御装置42へ転送され、吐出量制御装置42は、距離データ64の各計測設定位置において基板Wに対して吐出すべき塗布液の吐出量を決定する。
【0043】
ここで、上記の吐出すべき塗布液の吐出量とは、吐出部10と基板Wとの距離に応じて定まる量であって、本説明にて基準吐出量と表しており、そのデータは吐出量制御装置42の記憶装置に記憶されている。この基準吐出量は、それぞれの吐出部10と基板Wとの距離をとって塗布を行った場合に、吐出部10と基板Wとの間に作られる塗布液のビードが途中で途切れることのない吐出量と定義している。具体的には、吐出部10と基板Wとの距離が長い場合、少ない吐出量で吐出を行うと、吐出部10と基板Wとの間に作られる塗布液のビードが細くなり、途中で途切れやすくなる。ビードが途中で途切れると、基板W上の塗布膜に膜切れが発生してしまうため、膜切れを防ぐためには基準吐出量が多くなっている。ただし、吐出量を多くすると、その吐出量の制御が難しくなり、塗布膜の膜厚にムラが発生するおそれがあるため、吐出部10と基板Wとの距離が短く、吐出量を多くする必要が無い場合は、逆に基準吐出量は少なくなっている。したがって、基板Wの高さが低い部分では、吐出部10と基板Wとの距離が長くなるので、塗布液の吐出量を多く、逆に基板Wの高さが高い部分では塗布液の吐出量を少なくするように吐出量が調整される。
【0044】
また、本実施形態では、基板Wの傾斜も吐出量の算出に反映し、調整を行っている。基板Wのそれぞれの計測設定位置の傾斜情報は、その計測設定位置とそれと隣り合う計測設定位置との高低差を計算することで求めることが可能である。そして、基板に対する前記吐出部の進行方向に対して前記吐出部と基板とが遠のく傾斜である場合は、基準吐出量に対して吐出量を多くして膜切れが起こることをさらに防ぐよう、逆に近づく傾斜である場合は、吐出量を少なくして膜厚が厚くなりすぎることを防ぐよう吐出量の補正を行う。また、傾斜が急峻な場合は、吐出量の補正の増減量を大きく、緩やかな場合は補正の増減量を小さくしている。
【0045】
以上の吐出量の調整を反映し、吐出量制御装置42は、距離データ64をもとに図5(b)に示すような吐出量調整データ65を得る。そして、基板Wへの塗布中、各計測設定位置にて吐出量調整データ65に定められた吐出量となるよう、吐出量制御装置42から吐出量調整ユニット41へ制御信号を発信する。これにより、吐出部10と基板Wとの距離に応じた塗布を行うことが可能である。
【0046】
ここで、上記の通り吐出量を調整しながら塗布動作が行われることにより、基板W上の塗布膜の厚みには、ばらつきが生じる。このばらつきは、基板Wの厚さのばらつきが大きいほど大きくなる。このばらつきが製品として許容される膜厚のばらつきの値を超えると、基板Wが不良品となってしまうので、このような場合を考慮し、塗布前に膜厚のばらつきの許容値を設定し、それを超えないように吐出量制御装置42が吐出量の変化量を計算し、その範囲内で吐出量の調整を行う方法をとっても良い。この調整の方法について、図6を用いて説明する。
【0047】
まず、塗布装置1にて塗布動作を行う前に、オペレータが膜厚のばらつきの許容値を吐出量制御装置42へ入力する。これにより、吐出量制御装置42が塗布動作時に守るべき吐出量の変化量(最大値と最小値との差)ΔQを算出する。次に、基板表面計測部30によって距離データ64が作成されることにより、吐出量の最大値(吐出部10と基板Wとの距離が最大となる位置において膜切れを起こさないような吐出量、すなわち、その位置における基準吐出量)Qmaxが計算される。次に、吐出量の最小値(吐出部10と基板Wとの距離が最小となる点での吐出量)が、吐出量の最大値から吐出量制御装置42により算出された変化量を差し引いた値(Qmax−ΔQ)として計算され、その最大値と最小値の間の範囲内で、基板Wのその他の各位置への吐出量が、吐出部10との距離および傾斜状況によって決定され、吐出量調整データ66が得られる。
【0048】
次に、塗布装置1による塗布動作の動作フローを図7に示す。
【0049】
まず、塗布装置にて塗布動作を行う前に、オペレータが塗布条件の1つのパラメータとして膜厚ばらつきの許容値を入力する(ステップS1)。膜厚ばらつきの許容値が入力されると、解析装置32は、吐出部10から基板Wへ塗布液を塗布する際の塗布量の変化量を決定する(ステップS2)。
【0050】
次に、上流工程から塗布装置1へ基板Wが搬入されると(ステップS3)、搬送部50による塗布装置1内の基板Wの搬送動作が開始することで、塗布装置1の動作が開始する(ステップS4)。
【0051】
基板Wが搬送され、まず高さ測定器31の直下に基板Wが到達すると(ステップS5)、高さ測定器31による基板Wの表面形状測定が行われる(ステップS6)。基板Wを等速で搬送しながら基板Wの表面形状測定を行うことにより、先述の基板表面プロファイル61が取得できる。この基板表面プロファイル61のデータは、解析装置32に送られ、解析装置32により、基板高さデータ63が作成される(ステップS7)。
【0052】
次に、ステップS7で作成された基板高さデータ63をもとに、吐出部10が基板Wへの塗布を行うときの吐出部10の高さが解析装置32により決定される(ステップS8)。この吐出部10の高さの値は、吐出部高さ調節部20の制御装置へ送られ、吐出部高さ調節部20はこの制御装置に制御されて吐出部10を所定の高さ、すなわち吐出部10と基板Wとが衝突しない高さになるように調整する(ステップS9)。この調整動作を基板Wが吐出部10の直下に到達する前に完了させることにより、吐出部10の口金11と基板Wとが衝突することを防ぐことができる。
【0053】
次に、基板高さデータ63をもとに解析装置32により作成された距離データ64が吐出量制御装置42へ転送され、この距離データ64をもとに吐出量制御装置42が吐出量調整データ65または吐出量調整データ66を作成する(ステップS10)。
【0054】
そして、吐出部10の直下に基板Wが到達すると(ステップS11)、基板Wへの塗布液の塗布が開始される(ステップS12)。
【0055】
基板Wへの塗布は、基板Wを搬送させながら行うが、先述の通り、吐出量調整データ65または吐出量調整データ66にしたがって塗布液の吐出量を調整しながら塗布を行っている。具体的には、まず、吐出量調整データ65または吐出量調整データ66で求められた各基板座標における吐出量にしたがい、吐出量制御装置42によって吐出量調整ユニット41が制御され、タンク13から吐出部10へ供給される塗布液の流量(吐出量)が調整される(ステップS13)。そして、調整された吐出量で吐出部10が基板Wへ塗布液を吐出する(ステップS14)。このステップS13とステップS14の動作を、基板Wへの塗布が終了するまで繰り返し行っている。
【0056】
最後に、基板Wへの塗布が完了すると(ステップS15)、基板Wは搬送部50によってさらに搬送され、下流工程へ搬出される(ステップS16)。以上の一連の動作により、塗布装置1による基板Wへの塗布動作が完了する。
【0057】
以上説明した通りの塗布装置によれば、口金と基板とが衝突することを防止し、かつ塗布膜に膜切れが発生することのない安定した塗布を行うことができる。
【0058】
また、ここまでの説明では、図3(c)に示したように、基板表面プロファイル61から基板高さデータ63を一度作成し、そのデータをもとに吐出量調整データ65または吐出量調整データ66を作成していたが、基板高さデータ63を作成せずに直接基板表面プロファイル61から吐出量調整データ65または吐出量調整データ66を作成しても良い。この場合、まず、ノイズ除去を実施した一つまたは複数の直接基板表面プロファイル61から、高さ測定器31と基板Wとの距離が最も短い点を求めることにより、吐出部高さ調節部20により調整すべき塗布時の吐出部10の高さが求まる。具体的には、その最も短い距離の値と、あらかじめ設定してある所定の値(先述のΔt)との差を、図2に示したローラ53と高さ測定器31との距離hから差し引きした値が、塗布時の吐出部10の高さとして得られる。そして、高さ測定器31の高さと塗布時の吐出部10の高さとの差の値を基板表面プロファイル61のデータから差し引きすることにより、塗布時の吐出部10と基板Wとの距離のデータである距離データ64が得られるので、先述の通りの方法を実施することにより吐出量調整データ65または吐出量調整データ66を作成することが可能である。
【0059】
また、搬送部50は、ローラコンベアだけでなく、リニアステージ、ボールネジなどの直動機構を用いても良い。本実施形態では、ローラコンベアを採用することにより、上流工程および下流工程との基板Wの受け渡しの時間を短縮し、タクトアップを図っている。この場合、基板Wの搬送中にローラ53と基板Wとがすべる可能性があり、搬送精度が他の直動機構と比べて良くないため、本発明の通り基板Wに対して衝突を起こすことのない位置へ吐出部10を移動させ、塗布液を塗布することは、口金11の破損を防ぐ方法として非常に有用である。
【0060】
また、搬送部50によって基板Wを吐出部10および基板表面計測部30の下方を搬送させる方法以外に、吐出部10および基板表面計測部30が移動軸を持ち、固定支持された基板Wの上方をそれぞれが走行しながら基板Wの基板表面高さ測定および基板Wへの塗布を行う構成としても良い
【符号の説明】
【0061】
1 塗布装置
2 装置架台
10 吐出部
11 口金
12 吐出部架台
13 塗布液タンク
14 ポンプ
15 配管
16 塗布膜
20 吐出部高さ調節部
30 基板表面計測部
31 高さ測定器
32 解析装置
40 吐出量調節部
41 吐出量調整ユニット
42 吐出量制御装置
50 搬送部
51 ローラユニット
52 軸部材
53 ローラ
61 基板表面プロファイル
62 基板高さプロファイル
63 基板高さデータ
64 距離データ
65 吐出量調整データ
66 吐出量調整データ
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に塗布液を塗布する塗布装置であって、
基板上の塗布領域へ塗布液を吐出する口金を有する吐出部と、
前記吐出部の高さを調節する吐出部高さ調節部と、
前記塗布領域内の計測設定位置の高さを計測する基板表面計測部と、
前記吐出部から吐出される塗布液の吐出量を調節する吐出量調節部と、
を備え、
前記基板表面計測部は、塗布動作を行う前に、前記塗布領域内の各計測設定位置の高さを計測することにより、各計測設定位置の高さ情報をあらかじめ取得し、
前記吐出部高さ調節部は、前記各計測設定位置の高さ情報に基づいて、基板の最も高い点よりも所定距離分上方に前記口金が位置するよう、塗布動作前に前記口金の高さを調節し、
前記吐出部は、基板に対し水平方向に相対的に移動しながら塗布動作を行い、
前記吐出量調節部は、前記吐出部と基板との距離に応じて定められる吐出量である基準吐出量の情報をあらかじめ備え、前記各計測設定位置の高さ情報および該基準吐出量の情報に基づいて、前記吐出部から前記塗布領域内の各位置へ吐出すべき塗布液の吐出量を塗布動作中に調節しながら、塗布を行うことを特徴とする、塗布装置。
【請求項2】
前記基板表面計測部は、前記各計測設定位置の高さ情報に基づき、それと隣り合う計測設定位置の高さ情報との差異を計算することにより、各位置の傾斜情報をさらに算出し、
前記吐出量調節部は、前記基準吐出量に加えて、前記各位置の傾斜情報に基づいて、前記塗布領域内の各計測設定位置へ吐出すべき塗布液の吐出量の調整を行い、基板に対する前記吐出部の進行方向に対し、前記吐出部と基板とが近づく傾斜である場合は、前記基準吐出量に対して吐出量を少なく、遠のく傾斜である場合は、前記基準吐出量に対して吐出量を多く補正して調整することを特徴とする、請求項1に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−148204(P2012−148204A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6432(P2011−6432)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】