説明

塗布装置

【課題】簡易な構成で、所望のストライプ状パターンを有する塗布膜を形成可能な塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布装置は、塗布対象としての基板を保持するステージと、複数並設された吐出口と各吐出口に向かって塗布液が流通する流路とを有し、かつステージ側に吐出口を向けて配置されたノズル部とを備える。ノズル部では、各吐出口の周辺部において各流路の内壁部よりも撥液性が高くなっている。流路を伝わって吐出口から吐出された塗布液が、各吐出口の形状および大きさに応じた幅および膜厚で、基板上に塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばディスプレイなどに用いられるカラーフィルタの製造時に使用する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に塗布液を塗布する塗布装置として、塗布液を塗布幅方向に行き渡らせるマニホールドと、マニホールドに供給された塗布液を整流して吐出するスリットとを備えた、いわゆるエクストルージョン型の塗布装置が知られている。このエクストルージョン型の塗布装置では、スリットに間仕切りを設けることで、塗布液を分流させて吐出し、ストライプ状のパターンで塗布膜を形成可能となる。このような塗布装置では、均一な幅(塗布幅)でストライプ状のパターンが形成されることが望ましく、これまでにも様々な提案がなされている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
例えば、特許文献1では、半導体ウェハやガラス基板上にフォトレジスト膜を塗布形成するための塗布装置において、ノズルの先端部分をピエゾアクチュエータにより変形させ、吐出量の微調整を行うことにより、塗布幅の均一化が図られている。また、特許文献2の手法では、スリットにおける間仕切りの間隔を調整する機構(ピエゾアクチュエータ等)を設けることによって、塗布幅の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−271705号公報
【特許文献2】特開2000−233151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1,2の手法ではピエゾアクチュエータ等の制御素子をノズル部に集積化させる必要があるために、ノズル部の高精細化に不向きであり、近年のデバイスの高集積化、高精細化に対応しづらい。また、特許文献1の手法では、ノズル先端を変形させる際に、その先端部位の周辺部分も変形してしまうために、ストライプ状のパターンにおいて条毎に吐出量を均一化することは難しい。このため、塗布膜の幅の均一化は可能であるものの、膜厚にばらつきが生じ易い。よって、上記のようなノズル部の集積化を伴わず、簡易な構成で、所望のストライプ状パターンを形成可能な塗布装置の実現が望まれている。
【0006】
本開示はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡易な構成で、所望のストライプ状パターンを有する塗布膜を形成可能な塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の塗布装置は、塗布対象としての基材を保持する保持部材と、複数並設された吐出口と各吐出口に向かって塗布液が流通する流路とを有し、かつ保持部材側に吐出口を向けて配置されたノズル部とを備えている。ノズル部では、各吐出口の周辺部において各流路の内壁部よりも撥液性が高くなっている。
【0008】
本開示の塗布装置では、基材を保持する保持部材とノズル部とが設けられ、ノズル部には、複数の吐出口が並設されると共に、各吐出口に向けて塗布液が流通する流路が設けられている。このような構成において、各吐出口の周辺部の撥液性が各流路の内壁部よりも高いことにより、流路を伝わって吐出口から吐出された塗布液が、各吐出口の形状および大きさに応じた幅および膜厚で、基材上に塗布される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の塗布装置によれば、基材を保持する保持部材とノズル部とが設けられ、ノズル部には、複数の吐出口が並設されると共に、各吐出口に向けて塗布液が流通する流路が設けられている。各吐出口の周辺部の撥液性が各流路の内壁部よりも高くなるようにしたので、ピエゾアクチュエータのような制御素子を用いることなく、各吐出口の形状および大きさに応じて塗布膜の幅および膜厚を制御できる。よって、簡易な構成で、所望のストライプ状パターンを有する塗布膜を形成可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本開示の一実施の形態に係る塗布装置の概略構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した塗布装置の要部構成(ノズル部およびステージ)を表す模式図である。
【図3】図2に示したノズル部の概略構成を模式図である。
【図4】図2に示したノズル部の吐出口側の構成を説明するための模式図である。
【図5】(A)はI−I線を通るYZ平面に平行な断面図、(B)はII−II線を通るXZ平面に平行な断面図である。
【図6】ノズル部から基材上への塗布液の付着の様子を表す模式図である。
【図7】(A),(B)は、比較例1に係るノズル部の構成および作用を説明するための模式図である。
【図8】図7に示したノズル部を用いて形成される塗布パターンを表す模式図である。
【図9】(A),(B)は、図2に示したノズル部の作用を説明するための模式図である。
【図10】図2に示したノズル部を用いて形成される塗布パターン(ストライプパターン)を表す模式図である。
【図11】(A)〜(C)は、比較例2に係るノズル部の構成および作用を説明するための模式図である。
【図12】変形例に係るノズル部の概略構成を模式図である。
【図13】図12に示したノズル部の吐出口側の構成を説明するための模式図である。
【図14】(A)はI−I線を通るYZ平面に平行な断面図、(B)はII−II線を通るXZ平面に平行な断面図である。
【図15】撥液層の形成パターンの他の例を表す模式図である。
【図16】撥液層の形成パターンの他の例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における実施形態について図面を参照して詳細に説明する。尚、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(ノズル部の吐出面全域に撥液層を設けた塗布装置の例)
2.変形例(ノズル部の吐出面全域と側面の一部に撥液層を設けた例)
【0012】
<実施の形態>
[全体構成]
図1は、本開示の一の実施の形態に係る塗布装置(塗布装置1)の概略構成を表すものである。塗布装置1は、ノズル部(後述のノズル部12)の吐出口として、間仕切りによって領域分割されたスリットを有し、これによって塗布液をストライプ状のパターンで吐出する、いわゆるスリットコータである。この塗布装置1は、例えば、ステージ11(保持部材)およびノズル部12からなる塗布部10を備えるものである。塗布装置1では、この塗布部10が、例えば塗布台51上に載置されると共に制御部50に接続されている。
【0013】
制御部50は、塗布部10を稼働するためのコントロールユニット(Control Unit)であり、例えば、ステージ移送部およびディスペンサ等を含んで構成されている。ステージ移送部は、ステージ11を所定の方向Sに沿って移動させる機構であり、ディスペンサは、適切な量の塗布液をノズル部12へ送出する機能を有する。尚、本実施の形態では、ノズル部12が非可動で、ステージ11可動となっている構成を例示するが、このような構成に限定されず、ノズル部12とステージ11とが相対的に一方向に移動可能な構成であればよい。即ち、ノズル部12が可動でステージ11が非可動であってもよいし、これらの両方が可動となっていてもよい。
【0014】
図2は、塗布装置1の要部を構成する塗布部10(ステージ11およびノズル部12)の概略構成を表したものである。ステージ11上に、ノズル部12が、その吐出口12a(図2には図示せず)がステージ11側に向くように配置されている。ステージ11とノズル部12との間に、塗布対象物としての基板2(基材)が載置された状態で、ノズル部12から塗布液が吐出されるようになっている。塗布時には、詳細は後述するが、ノズル部12から吐出された塗布液が、ステージ11とノズル部12との間隙において全体的に連なって基板2上へ付着するようになっている。即ち、塗布装置1は、いわゆる接触型の塗布装置であり、インクを噴出口から勢いよく噴出して基板上へ付着させる、いわゆる非接触型であるインクジェット方式の塗布装置と異なるものである。但し、ステージ11およびノズル部12間の距離は、基板10の厚みおよび塗布液の粘性、塗布量等に応じて適切に調整される。
【0015】
ステージ11は、基板2を保持するための保持部材である。本実施の形態では、このステージ1が、制御部50の制御に基づいて走査方向Sに沿って移動するようになっている。
【0016】
(ノズル部12の構成)
ノズル部12は、制御部50の制御に基づいて供給された塗布液の整流、分流および吐出を行う部材である。図3および図4に、ノズル部12の概略構成を模式的に示す。また、図5(A)には、ノズル部12の先端付近のYZ平面における断面図、図5(B)にはXZ平面における断面図をそれぞれ示す。
【0017】
ノズル部12は、その基材部分(後述の撥液層13を除いた部分)は、耐蝕性の観点から例えばステンレス等により構成されている。
【0018】
このノズル部12は、吐出面S1に向かって先細りの形状(吐出口12aがステージ11側に向かって突出した形状)を有している。ここでは、ノズル部12は、例えば吐出面S1を上底面とする台形柱状に成形されている。具体的には、吐出面S1に隣接する側面のうち、吐出面S1の長辺に隣接する2つの側面S2が、吐出面S1に対して傾斜する(直交しない)テーパ面となっている。但し、ノズル部12の上部は開口しているか、または注入孔(図示せず)が設けられており、開口または注入孔を介してノズル部12へインク注入が可能となっている。
【0019】
上記のようなノズル部12は、Z方向負側(ステージ11側)に、複数(ここでは5つ)の吐出口12aを有すると共に、これらの複数の吐出口12aのそれぞれに向かって塗布液を流通させる流路12bを有している。具体的には、ノズル部12は、上下2つのブロックを連結させたものであり、下部側(ステージ11側)のブロックに、上記複数の吐出口12aと各吐出口12aに連通した分流路12b2とを有し、上部側のブロックに、塗布液を整流しつつ各分流路12bへ配分する供給流路12b1を有している。但し、図3〜図5では、簡便化のため、上下のブロックを一体化させ、供給流路12b1および分流路12b2の構成を簡略化して示している。
【0020】
複数の吐出口12aは、ノズル部12のステージ11に対向する吐出面S1に、ステージ11の走査方向Sに直交する一方向(X方向)に沿って一定の間隔をおいて設けられている。各吐出口12aの開口形状は、例えば正方形、矩形等の方形状であり、その幅(X方向に沿った長さ)dは、デバイス用途の場合には例えば200μm以下の範囲内で適宜設定される。吐出面S1において、吐出口12a同士の間隔t1については、従来200μm以上は必要であったが、現在では数十μm程度の微細スケールの実現が可能である。
【0021】
但し、吐出口12aの開口形状は、上記のような方形状に限らず、他の形状、例えば円形状や楕円形状、あるいは他の多角形状であってもよい。また、吐出口12aの数や幅、間隔等についても、上述したものに限定されず、所望とするストライプ数(条数)、各条の幅および膜厚、塗布材料等に応じて適切に設定されればよい。
【0022】
供給流路12b1は、例えばマニホールド等からなる。この供給流路12b1は、塗布液を収容した容器等に配管等を介して接続されており、制御部50(ディスペンサ)の制御に基づいて、所定量の塗布液を送入可能となっている。この供給流路12b1により、塗布液は、供給流路12b1内において整流されつつ、各分流路12b2へ分配される。
【0023】
分流路12b2は、その一端が上記供給流路12b1、他端が吐出口12aにそれぞれ連通して設けられている。ノズル部12の下側ブロックでは、具体的には、X方向に延在するスリット(溝)が設けられており、このスリットに複数の間仕切り部12dが配設された構造となっている。各分流路12b2は、それらの間仕切り部12d同士の間の間隙部分に相当する。この分流路12b2のY方向に沿った幅は、例えば吐出口12aに向かって徐々に狭まっている。一方、分流路12b2のX方向に沿った幅は例えば一定で、例えば吐出口12aの幅dと同程度となっている。このような分流路12b2の内壁部は、塗布液に対して適度な撥液性を有している。
【0024】
本実施の形態では、ノズル部12において、吐出口12aの周辺部(吐出口の周縁を含む)の撥液性が、分流路12b2の内壁部(詳細には、分流路12b2の吐出口12a側の壁面部分)の撥液性よりも高くなっている。換言すると、吐出口12aの周辺部では、分流路12b2の内壁部よりも塗布液に対して濡れにくい性質を有している。また、本実施の形態では、吐出面S1の全域(吐出口12aを除く)にわたって、撥液層13が形成されており、これによって、吐出面S1において分流路12b2内部よりも高い撥液性が保持されている。
【0025】
(撥液層13)
撥液層13は、例えばフッ素系高分子を含む薄膜よりなり、本実施の形態では、吐出口12aを除く吐出面S1の全域を被覆して設けられている。この撥液層13は、分流路12b2の内壁部よりも高い撥液性(撥水性)を有しており、例えば共析めっき膜(複合めっき膜)よりなる。共析めっき膜としては、例えばニッケル(Ni)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを主成分とし、PTFEがニッケル中に例えば20%含有された(分散された)めっき膜が挙げられる。但し、撥液層13は、そのようなニッケルとPTFEとを含むめっき膜に限らず、共析めっきを形成可能なものであれば、他のフッ素樹脂をニッケルに含有させたものであってもよい。このような撥液層13の厚みは例えば10μm以下であり、例えば2μmである。
【0026】
この撥液層13とノズル部12の基材との間には、撥液層13の基材への接着性を高めるために、ニッケルを主成分とした中間層(下地層)が設けられていてもよい。中間層は電解めっき法によりニッケルを主成分とした、いわゆるストライクめっきを用いて形成可能である。ストライクめっきどうでは、0.1μm程度の厚みを有していれば、接着性を高めるという機能を十分に得ることができる。このように中間層を設けたとしても、非常に薄膜であるため、インクの流れや撥液層13の濡れ性に影響を与えることもない。
【0027】
(撥液層13の形成方法)
上記撥液層13は、例えば次のようにして形成することができる。即ち、まず、ノズル部12を構成する基材のうち、塗布液が充填される部分(供給流路12b1および各分流路12b2)にフォトレジストを充填すると共に、外側の吐出面S1を除いた部分(側面S2,S3および上面)にもフォトレジストを塗布する。この後、フォトレジストによってマスクされたノズル基材を、例えばニッケル及びPTFEが含有されためっき液に浸して、電解めっきを施すことにより、基材表面にニッケル中にPTFEが含有された共析めっき膜を形成する。その後、フォトレジストを剥離することで、ノズル部12の吐出面S1にのみ選択的に撥液層13を形成することができる。
【0028】
尚、撥液層13は、上記のような電解めっき法に限らず、無電解めっき方法等の湿式法により形成してもよい。また、撥液層13の形成後、200度以上の高温下において熱処理を施してもよい。これにより、ニッケル中に分散しているPTFEの粒子が、ニッケル中に溶け込み、ニッケルと混じり合うため、撥液層13の硬度及び耐久性を向上させることができる。更に、撥液層13の形成前に、接着性を高めるために上述したようなニッケルを主成分とした中間層を形成してもよい。
【0029】
[作用、効果]
本実施の形態の作用、効果について図1〜図10を用いて説明する。
【0030】
塗布装置1では、塗布台51上において、ステージ11上に載置された塗布対象物としての基板2に対し、制御部50の制御に基づいて塗布液が所定のパターンで塗布される。この際、基板2がステージ11上においてノズル部12の吐出面S1に対向して配置された状態で、制御部50が、ステージ11を所定の方向Sに向かって移送すると共に、ノズル部12へ所定量の塗布液を送入する。これにより、ノズル部12では、塗布液が供給流路12b1において整流されつつ複数の分流路12b2へ分配された後、各分流路12b2を通って、それぞれ対応する吐出口12aから送出される。各吐出口12aから送出された塗布液3aは、吐出面S1と基板2との間隙において、図6に模式的に示したように、液滴が全体的に連なった状態で順次、基板2の表面に付着する。このようにして、複数の条状(ストライプ状)のパターンを有する塗布膜が形成される。
【0031】
ここで、図7および図8を参照して、本実施の形態の比較例1に係るノズル部(ノズル部100)について説明する。比較例1のノズル部100では、図7(A)に示したように、本実施の形態と同様、図示しない供給流路と、スリットおよび間仕切り部102dから形成される複数の分流路102bとを有しており、各分流路102bの端部側に、幅dを有する吐出口102aが設けられている。但し、この比較例1では、吐出口102aの周辺部に、上述したような撥液層13が形成されておらず、即ち吐出口102aの周辺部における撥液性が分流路102bの内壁部における撥液性と同等となっている。
【0032】
このような比較例1のノズル部100を用いて、上記本実施の形態と同様にして、塗布膜形成を行った場合、次のような不具合が生じる。即ち、図7(A),(B)に示したように、分流路102bを通って吐出口102aから送出された塗布液103aが、間仕切り部10dの下面S100aや、ノズル先端部102cにおける側面S100bを伝い(つたい)易い。このため、基板101上に、吐出口の幅dと同等の幅の条形状を形成することが難しい。例えば、図8に示した塗布膜103のように、隣の吐出口12aから送出された塗布液103aと連結しつつ基板101上に付着したり、途切れたり、あるいは局所的に幅が狭まったり(または拡がったり)する。また、図示はしないが、膜厚にもばらつきが生じ易い。このため、所望のストライプ状のパターンを形成することができない。このようなパターンの劣化は、低粘度の塗布液を用いる場合に特に顕著に表れる。
【0033】
これに対し、本実施の形態では、ノズル部12の吐出面S1に撥液層13を有している(吐出口12a周辺部において分流路12b2内部よりも撥液性が高く(濡れ性)なっている)。吐出口12aの周辺部では濡れ性が低く、塗布液3aが弾かれることから、吐出口12aから外側に突出する塗布液3aのメニスカス形状が適切に形成され、吐出口12a周囲への回り込みが抑制される。また、分流路12b2の内壁面では適度な濡れ性を有するため、一旦吐出口12a側へ送り出された塗布液3aの後退が抑制される。従って、本実施の形態では、塗布液3aを、吐出口12aから安定して送り出すことができる。
【0034】
これにより、図9(A),(B)に示したように、各吐出口12aから送出された塗布液3aは、間仕切り部12dの下面12d1(吐出面S1に相当する部分)や、ノズル先端12cの側面12c1(側面S2,S3の吐出面S1側の一部)に伝うことなく、基板2上へ付着する。従って、図10(A),(B)に示したように、塗布液3aは、各吐出口12aの形状および大きさに応じた幅a1および膜厚a2で、基板2上に塗布される。即ち、各吐出口12aの形状および大きさによって塗布膜3の幅a1および膜厚a2を制御可能となり、所望のストライプ状パターンAを形成できる。
【0035】
ここで、実施例として、本実施の形態のノズル部12および上記比較例1のノズル部100を作製して、塗布膜パターンの評価を行った。この際、実施例では、吐出口12aの開口形状を正方形とし、その幅dを100μm、間仕切り部12dの幅(吐出口12a同士の間隔t1)を100μmとした。また、撥液層13は、ニッケルおよびPTFEの共析めっきにより膜厚2μmとなるように成膜した。一方、上記比較例1のノズル部100では、撥液層13を設けず、吐出口102aの開口形状、幅d、間仕切り部102dの幅については上記実施例と同様とした。実施例のノズル部12と比較例1のノズル部100とのそれぞれを用いてインクを塗布したところ、実施例では、吐出口12aの寸法に応じたストライプ状パターンAを得ることができたのに対し、比較例1においては、ストライプ状に形成された部分と、ストライプ状にならない部分が発生した。
【0036】
尚、本実施の形態では、上述したように、吐出口12aから送出された塗布液3aが、液滴が連なった状態で基板2上に順次付着していくため、吐出口12aの周囲に塗布液が回り込み易い。ここで、図11(A)に、インクジェット方式の印刷装置で用いられるノズル部105の噴出口106a側の構成を模式的に示す。このように、インクジェット方式では、ノズル部105に複数の噴出口106aが設けられるが、これら複数の噴出口106aの開口形状が円形で、その径は、上記塗布装置1の吐出口12aの幅に比べて極めて小さく、また数も多い。このインクジェット方式の印刷装置では、本実施の形態のような吐出口形状に応じたストライプ状パターンを形成するスリットコータと異なり、図11(B)に示したように、ノズル部105と基板101との間隙において、噴出口106aから、液滴108aが勢いよく噴出され、基板101上に堆積することで印刷パターンが形成される。このため、噴出口106aの周囲では、インクの回り込みが生じにくい。このようなインクジェット方式では、噴出したインクの飛散による付着を防ぐため、一般に、噴出口106aの周囲を除いた領域に撥液層107が形成される。
【0037】
以上説明したように本実施の形態では、ノズル部12において、複数の吐出口12aが並設されると共に、各吐出口12aに向けて塗布液3aが流通する流路12b(供給流路12b1および分流路12b2)が設けられている。各吐出口12aの周辺部の撥液性が各分流路12b2の内壁部よりも高くなるように撥液層13を設けるようにしたので、ピエゾアクチュエータのような制御素子を用いることなく、各吐出口12aの形状および大きさに応じて塗布膜の幅および膜厚を制御することができる。よって、簡易な構成で、所望のストライプ状パターンを有する塗布膜を形成可能となる。
【0038】
また、上記のような塗布装置1は、例えばカラーフィルタ用のフォトレジストのパターニング(塗り分け)、有機EL(Electro Luminescence)素子の発光材料のパターニング、有機TFT(Thin Film Transistor)等の半導体装置の製造方法に好適に使用することができる。例えば、有機TFTでは、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を備えると共に、有機材料よりなるゲート絶縁膜および半導体層(活性層)を有するが、これらの製造プロセスに塗布工程または印刷工程を有する。例えば半導体層をパターン形成する際に、塗布装置1を使用することができる。塗布時には、これらの有機半導体を溶媒に溶かしたものを上記塗布液3aとして用いるが、有機半導体は一般に溶媒に溶けにくいため、塗布液3aは極めて低粘度となる。このような低粘度の塗布液3aであっても、上記実施の形態の塗布装置1を用いることにより、吐出口12aの形状および大きさに応じた所望のストライプ状パターンを形成することができる。これにより、有機TFTの製造工程において、半導体層を複数列にわたってパターン形成できるため量産性が向上すると共に、そのストライプ状パターンを所望の幅および膜厚で精度良く形成できるため、歩留まりが向上する。
【0039】
<変形例>
次に、上記実施の形態の変形例に係るノズル部(ノズル部22)について説明する。尚、以下では、上記実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0040】
ノズル部22は、上記実施の形態のノズル部12と同様、制御部50および塗布台51を備えた塗布装置において、ステージ11と共に塗布部10を構成するものであり、制御部50の制御に基づいて供給された塗布液の整流、分流および吐出を行う部材である。図12および図13に、ノズル部22の概略構成を模式的に示す。また、図14(A)には、ノズル部22の先端付近のYZ平面における断面図、図14(B)にはXZ平面における断面図をそれぞれ示す。
【0041】
ノズル部22は、上記実施の形態のノズル部12と同様の基材から構成され、吐出面S1に向かって先細りの形状(吐出口12aがステージ11側に向かって突出した形状)を有している。また、吐出面S1には、複数(ここでは5つ)の吐出口12aを一方向(X方向)に沿って有すると共に、各吐出口12aに向かって塗布液を流通させる流路12b(供給流路12b1,分流路12b2)を有している。更に、このノズル部22においても、吐出口12aの周辺部の撥液性が、分流路12b2の内壁部の撥液性よりも高くなっている。
【0042】
但し、本変形例のノズル部22では、撥液層23が、吐出面S1の全域(吐出口12aを除く)だけでなく、側面S2,S3の吐出面S1側の一部にも形成されている。即ち、ノズル先端22Cの側面部分も撥液層23で被覆した構成となっている。この撥液層23は、上記実施の形態の撥液層13と同様、例えばフッ素系高分子を含む薄膜、具体的には、ニッケルとPTFEとを含む共析めっき膜から構成されている。また撥液層23の厚みは、例えば2μm以下である。このような撥液層23は、例えば共析めっき前のフォトレジスト形成工程において、側面S2,S3のうちの吐出面S1側の一部をフォトレジストから露出させること以外は、上記実施の形態の撥液層13と同様にして形成可能である。
【0043】
このように、撥液層23を、吐出面S1だけでなく側面S2,S3の吐出面S1側の一部に形成するようにしてもよい。これにより、塗布液の吐出口12aの周囲および側面S2,S3側への回り込みをも抑制できる。よって、より精度良くストライプ状パターンを形成可能となる。尚、本変形例では、撥液層23を側面S2,S3の一部にのみ形成したが、撥液層23は側面S2,S3の全域を覆っていてもよい。
【0044】
以上、実施の形態および変形例を挙げて説明したが、本開示内容はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、塗布装置を用いて製造可能な半導体装置は、上述の有機TFTに限らず、ストライプ状パターンによる塗布形成を必要とする他の半導体装置であってもよい。
【0045】
また、上記実施の形態等では、撥液層を吐出面S1の全域にわたって形成した構成を例示したが、撥液層は、必ずしも吐出面S1の全域を覆っていなくともよい。例えば、図15に示したように、吐出口12aの周縁を含む周辺部に対応する選択的な領域にのみ撥液層33を形成してもよい。このような構成によっても、塗布液の吐出部12aの周囲への回り込みを緩和することができ、本開示とほぼ同等の効果を得ることができる。また、必ずしも吐出口12aを囲むように撥液層が形成されていなくともよい。例えば、図16に示したように、塗布幅方向(X方向)のみを制御すれば足りる場合には、吐出口12a同士の間の領域を埋めるように、ストライプ状の領域にのみ撥液層34を形成してもよい。
【0046】
尚、本開示は、以下の(1)〜(7)に記載したような構成であってもよい。
(1)塗布対象としての基材を保持する保持部材と、複数並設された吐出口と各吐出口に向かって塗布液が流通する流路とを有し、かつ前記保持部材側に前記吐出口を向けて配置されたノズル部とを備え、前記ノズル部では、各吐出口の周辺部において各流路の内壁部よりも撥液性が高くなっている塗布装置。
(2)前記ノズル部は、前記保持部材に対向すると共に前記複数の吐出口を含む吐出面を 有し、前記吐出面の全域にわたって撥液層が設けられている上記(1)に記載の塗布装置 。
(3)前記ノズル部は、前記吐出面に隣接すると共に1または複数の面からなる側面部を有し、前記撥液層は、前記吐出面の全域と、前記側面部の少なくとも前記吐出面側の一部とにわたって設けられている上記(1)または(2)に記載の塗布装置。
(4)前記ノズル部は、前記吐出面に向かって先細りの形状を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗布装置。
(5)前記撥液層は、フッ素系高分子を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗布装置。
(6)前記撥液層は、前記フッ素系高分子およびニッケル(Ni)を含む共析めっき膜である上記(5)に記載の塗布装置。
(7)前記複数の吐出口は、一の方向に沿って並設され、前記複数の吐出口の配列方向と直交する方向に沿って、前記ノズル部が前記保持部材に対して相対的に移動するようになっている上記(1)〜(6)のいずれかに記載の塗布装置。
【符号の説明】
【0047】
1…塗布装置、10…塗布部、11…ステージ、12…ノズル部、12a…吐出口、12b…流路、12b1…供給流路、12b2…分流路、12c…ノズル先端、12d…間仕切り部、50…制御部、51…塗布台、2…基板、3a…塗布膜、A…ストライプ状パターン、S1…吐出面、S2,S3…側面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象としての基材を保持する保持部材と、
複数並設された吐出口と各吐出口に向かって塗布液が流通する流路とを有し、かつ前記保持部材側に前記吐出口を向けて配置されたノズル部とを備え、
前記ノズル部では、各吐出口の周辺部において各流路の内壁部よりも撥液性が高くなっている
塗布装置。
【請求項2】
前記ノズル部は、前記保持部材に対向すると共に前記複数の吐出口を含む吐出面を有し、
前記吐出面の全域にわたって撥液層が設けられている
請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記ノズル部は、前記吐出面に隣接すると共に1または複数の面からなる側面部を有し、
前記撥液層は、前記吐出面の全域と、前記側面部の少なくとも前記吐出面側の一部とにわたって設けられている
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記ノズル部は、前記吐出面に向かって先細りの形状を有する
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記撥液層は、フッ素系高分子を含む
請求項1に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記撥液層は、前記フッ素系高分子およびニッケル(Ni)を含む共析めっき膜である
請求項5に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記複数の吐出口は、一の方向に沿って並設され、
前記複数の吐出口の配列方向と直交する方向に沿って、前記ノズル部が前記保持部材に対して相対的に移動するようになっている
請求項1に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−78741(P2013−78741A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220777(P2011−220777)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】