説明

塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び染色条件の決定方法

【課題】 適切な染色条件を従来に比して容易に設定することが可能な塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び染色条件の決定方法を提供する。
【解決手段】
血液塗抹標本作製装置1は、血液を分注する吸引分注機構部21と、スライドガラスに血液を塗抹する塗抹部22と、塗抹標本に染色を施す染色部27と、表示操作部と、制御部1aとを備える。染色液の交換時において、新たな染色液により既定の染色条件で塗抹標本を染色する。制御部1aは、この染色済み塗抹標本を標本撮像装置によって撮像して得られた平均核G値及び目標核G値の入力を受け付け、これらに基づいて染色条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドガラスに血液等の検体を塗抹した塗抹標本を染色する塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び塗抹標本の染色における染色条件の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗抹標本に染色を施す塗抹標本染色装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、塗抹標本を染色液槽に浸漬することにより染色する塗抹標本染色装置が開示されている。この特許文献1に開示されている塗抹標本染色装置では、所望の濃淡に染色されるように実施者(操作者)により浸漬時間が決定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−21468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
染色液の原液の濃度は、製造元や製造ロットによって異なる。そのため、一定の浸漬時間を設定していたとしても、染色液の原液を交換した後においても適切な染色状態が得られるとは限らない。そこで、染色液の原液を交換したときには、浸漬時間を決定しなおす必要がある。しかしながら、上記の特許文献1に開示されている塗抹標本染色装置にあっては、操作者が浸漬時間を決定するように構成されているものの、一度で適切な浸漬時間を決定することができない場合も多い。そのため、適切な染色状態が得られるまで何度も浸漬時間を決定しなおす必要があり、操作者の負担が大きかった。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、適切な染色条件を容易に決定することができる塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び染色条件の決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の塗抹標本染色装置は、染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色部と、第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を受け付ける情報受付部と、情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて第2の染色条件を決定する制御部と、を備える。
【0008】
この態様においては、染色状態情報が塗抹標本の染色状態を示す数値であり、制御部が、染色状態情報と染色状態目標値とを比較し、比較結果に基づいて第2の染色条件を決定するように構成されていることが好ましい。
【0009】
また、上記態様においては、染色部が、染色液原液と希釈液とを混合することにより染色液を調製する染色液調製部を具備し、制御部が、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色液原液と希釈液との混合率を含む第2の染色条件を決定し、決定された混合率にしたがって染色液原液と希釈液とを混合して染色液を調製し、調製された染色液を用いて塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されていることが好ましい。
【0010】
また、上記態様においては、染色液調製部が、染色液原液と希釈液とを混合するための混合容器と、染色液原液を混合容器へ供給する第1供給部と、希釈液を混合容器へ供給する第2供給部と、を有し、制御部が、決定された混合率に応じて染色液原液及び希釈液のそれぞれを混合容器へ供給するように、第1供給部及び第2供給部を制御すべく構成されていることが好ましい。
【0011】
また、上記態様においては、制御部が、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて、染色液を用いて塗抹標本を染色する染色時間を含む第2の染色条件を決定し、決定された染色時間にしたがって、塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されている構成されていることが好ましい。
【0012】
また、上記態様においては、染色部が、塗抹標本を収容する収容体を搬送する搬送部と、搬送部により搬送される収容体の内部に染色液を吐出し、収容体の内部から染色液を吸引する吐出吸引部と、を具備し、制御部が、搬送部により搬送される収容体の内部に染色液を吐出し、収容体の内部に染色液が吐出されてから決定された染色時間が経過したときに、収容体の内部から染色液を吸引するように吐出吸引部を制御すべく構成されていることが好ましい。
【0013】
また、上記態様においては、染色部が、染色液原液と希釈液とを混合することにより染色液を調製する染色液調製部を具備し、染色液調製部において調製された染色液を用いて塗抹標本に染色を施すように構成されており、制御部が、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて、染色液原液と希釈液との混合率及び染色液を用いて塗抹標本を染色する染色時間を含む第2の染色条件を決定し、決定された混合率にしたがって染色液原液と希釈液とを混合して染色液を調製し、調製された染色液を用いて、決定された染色時間にしたがって塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されていることが好ましい。
【0014】
また、上記態様においては、塗抹標本染織装置が、表示部をさらに備え、制御部が、染色状態情報を入力するための画面を表示部に表示させ、情報受付部が、染色状態情報を入力するための画面が表示部に表示されているときに、染色状態情報の入力を受け付けるように構成されていることが好ましい。
【0015】
また、上記態様においては、制御部が、染色液原液が交換された後、最初に行われる塗抹標本の染色において、第1の染色条件にしたがって塗抹標本に染色を施すように染色部を制御し、第1の染色条件にしたがって塗抹標本が染色された後、前記画面を表示部に表示させるよう構成されていることが好ましい。
【0016】
また、上記態様においては、制御部が、第1の染色条件を記憶する記憶部を具備し、染色状態情報、染色状態目標値及び記憶部に記憶されている第1の染色条件に基づいて、第2の染色条件を決定するように構成されていることが好ましい。
【0017】
また、上記態様においては、染色状態情報が、第1の染色条件にしたがって染色された塗抹標本に含まれる細胞の核における色に関する情報であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の一の態様の塗抹標本作製装置は、スライドガラスに検体を塗抹して塗抹標本を作製する塗抹標本作製部と、染色液を用いて、塗抹標本作製部により作製された塗抹標本に染色を施す染色部と、第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を受け付ける情報受付部と、情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色部の第2の染色条件を決定する制御部と、を備える。
【0019】
また、本発明の一の態様の塗抹標本処理システムは、染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色部を具備する塗抹標本染色装置と、塗抹標本染色装置により染色された塗抹標本を撮像して画像を取得し、得られた画像を解析して塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を出力する塗抹標本撮像装置と、を備え、塗抹標本染色装置は、第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を、塗抹標本撮像装置から受け付ける情報受付部と、情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色部の第2の染色条件を決定する制御部と、を具備する。
【0020】
また、本発明の一の態様の染色条件の決定方法は、染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色装置により、第1の染色条件にしたがって塗抹標本を染色する工程と、第1の染色条件にしたがって染色装置により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を取得する工程と、得られた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色装置の第2の染色条件を決定する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び染色条件の決定方法によれば、適切な染色条件を従来に比して容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係る塗抹標本処理システムの全体構成を示す斜視図。
【図2】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の内部構造を示した平面図。
【図3】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置に用いるカセット及びスライドガラスを示した斜視図。
【図4】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置に用いるカセット及びスライドガラスを示した斜視図。
【図5】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色部の第1吸引排出部を示した斜視図。
【図6】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色部に供給される液体の供給経路を示した流体回路図。
【図7】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色部の構成を示す模式図。
【図8】実施の形態に係る標本撮像装置の構成を示すブロック図。
【図9】実施の形態に係る標本撮像装置の顕微鏡ユニットの構成の一部を示す斜視図。
【図10】実施の形態に係る標本撮像装置の画像処理ユニットの構成を示すブロック図。
【図11】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色液交換動作の流れを示すフローチャート。
【図12】実施の形態に係る標本撮像装置の血球撮像及び画像解析動作の流れを示すフローチャート。
【図13】血球画像の例を示す図。
【図14】実施の形態に係る入力受付画面を示す図。
【図15A】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色条件設定処理の流れを示すフローチャート(前半)。
【図15B】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置の染色条件設定処理の流れを示すフローチャート(後半)。
【図16】実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置による染色液原液の交換後の塗抹標本作製・染色処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
[塗抹標本処理システムの構成]
図1は、本実施の形態に係る塗抹標本処理システムの全体構成を示す斜視図である。図1に示すように、塗抹標本処理システム100は、血液塗抹標本作製装置1と、標本撮像装置3とを備えている。血液塗抹標本作製装置1の前側には、試験管に収容された血液検体を搬送する搬送装置2が配置されており、この搬送装置2によって検体が血液塗抹標本作製装置1まで搬送され、その検体を用いて血液塗抹標本作製装置1が塗抹標本を作製する。作製された塗抹標本は、標本撮像装置3によって撮像され、画像処理による血球の分類が行われる。
【0025】
<血液塗抹標本作製装置の構成>
血液塗抹標本作製装置1は、血液検体を吸引し、スライドガラスに滴下して、その血液検体をスライドガラス上で薄く引き延ばし、乾燥させて塗抹標本を作製し、当該塗抹標本に染色液を供給してスライドガラス上の血液を染色する。図2は、図1に示した血液塗抹標本作製装置の内部構造を示した平面図である。血液塗抹標本作製装置1には、染色処理において使用される液体が収容された5つの容器101〜105が接続されている。本実施形態では、容器101〜105には、それぞれ、メイグリュンワルド液(染色液原液)、希釈液(本実施形態では、リン酸緩衝液)、ギムザ液(染色液原液)、メタノール液及び標本洗浄液が収容されている。
【0026】
図2に示すように、血液塗抹標本作製装置1は、血液検体の塗抹標本を作製するための動作を制御する機能を有する制御部1aを有している。この制御部1aは、CPU11並びにROM及びRAMからなるメモリ12を備える。また図1に示すように、血液塗抹標本作製装置1は、タッチパネルからなる表示操作部2aと、起動スイッチ2bと、電源スイッチ2cと、カバー2dとを含んでいる。制御部1aは、この表示操作部2aに各種情報を表示させる。また、搬送装置2は、血液が収容された試験管51を収納する検体ラック50を血液塗抹標本作製装置1に自動的に搬送するために設けられている。
【0027】
次に、血液塗抹標本作製装置1の全体構成について説明する。まず、図1に示すように、血液塗抹標本作製装置1には、血液が収容された試験管51を搬送装置2側から血液塗抹標本作製装置1側に搬送するためのハンド部材1bが設けられている。また、血液塗抹標本作製装置1は、図2に示すように、吸引分注機構部21と、塗抹部22と、樹脂製のカセット23と、カセット収容部24と、カセット搬送部25と、スライドガラス挿入部26と、染色部27と、保管部28とを備えている。
【0028】
吸引分注機構部21は、ハンド部材1b(図1参照)によって血液塗抹標本作製装置1側に搬送された試験管51から血液を吸引するとともに、吸引した血液をスライドガラス10に滴下する機能を有する。この吸引分注機構部21は、図2に示すように、試験管51から血液を吸引するためのピアサ(吸引針)21aと、吸引した血液をスライドガラス10に分注するための分注ピペット21bとを有している。
【0029】
また、塗抹部22は、図2に示すように、スライドガラス10を分注・塗抹位置90に供給するとともに、スライドガラス10に滴下された血液を塗抹して乾燥し、かつ、スライドガラス10に印字を行うために設けられている。また、樹脂製のカセット23は、塗抹が施されたスライドガラス10及び染色工程で用いる液体を収容することが可能なように構成されている。図3及び図4は、図2に示した血液塗抹標本作製装置に用いるカセット及びスライドガラスを示した斜視図である。このカセット23には、図3及び図4に示すように、スライドガラス収納孔23aと、染色液吸引分注孔23bとが設けられている。スライドガラス収納孔23aと、染色液吸引分注孔23bとは、内部で繋がっている。
【0030】
また、カセット収容部24は、図2に示すように、カセット23をカセット搬送部25に搬入するために設けられており、送りベルト24aを有している。また、カセット搬送部25は、カセット収容部24から搬入されたカセット23をスライドガラス挿入部26及び染色部27に搬送するために設けられている。このカセット搬送部25は、図2に示すように、水平方向(図2のA方向)に移動可能なカセット搬送部材25aと、カセット収容部24から供給されたカセット23を搬送するための搬送路25bとを含んでいる。また、スライドガラス挿入部26は、図2に示すように、塗抹及び印字が施されたスライドガラス10をカセット23のスライドガラス収納孔23aに収納するために設けられている。
【0031】
本実施形態に係る染色部27は、図2に示すように、カセット搬送部材25aにより搬送されたカセット23の染色液吸引分注孔23bに対して染色液及び洗浄液の供給及び排出を行い、またカセット23に収納されたスライドガラス10を持ち上げて乾燥することにより、塗抹済みのスライドガラス10に染色処理を施すために設けられている。この染色部27は、カセット搬送部材25aにより搬送されたカセット23を染色部27に送り込むための送り込み部材71と、送り込み部材71から送り込まれたカセット23を搬送するための搬送ベルト72と、カセット23に対して染色液及び洗浄液の供給及び排出などを行うための第1〜第5吸引排出部73〜77と、第2吸引排出部74においてスライドガラス10を乾燥するためのファン78aと、染色済みのスライドガラス10を乾燥するためのファン78bと、カセット23を搬送ベルト72から保管部28の搬送ベルト28a側へ送り出すための送り出し機構部79とを有している。
【0032】
次に、第1吸引排出部73について説明する。図5は、図2に示した血液塗抹標本作製装置の染色部の第1吸引排出部を示した斜視図である。第1吸引排出部73は、図5に示すように、カセット23に対してメタノール液の供給を行うピペット73aと、ピペット73aを支持するピペット支持部材73bと、ピペット支持部材73bを上下方向に移動させるモータ73c及び駆動ベルト73dを有する駆動機構部73eとを有している。さらに、かかる第1吸引排出部73は、ピペット73aを駆動機構部73eにより下方向に移動させてカセット23の内部に挿入し、メタノール液の供給を行うように構成されている。また、第1吸引排出部73のピペット支持部材73bには、スライドガラス10を把持してカセット23から持ち上げるためのスライドガラス把持部材73fが取り付けられている。
【0033】
なお、第2吸引排出部74は、基本的に、上記した第1吸引排出部73と同様の構造を有している。また、第3吸引排出部75〜第5吸引排出部77は、上記した第1吸引排出部73からスライドガラス把持部材73fを取り除いた構造を有している。図2に示すように、第2吸引排出部74〜第5吸引排出部77は、それぞれ、カセット23に対してメイグリュンワルド液、メイグリュンワルド希釈液、ギムザ希釈液、洗浄液の供給を行うピペット74a、75a、76a及び77aを有している。また、ピペット74aは、ピペット73aによって供給されたメタノール液をカセット23から吸引(排出)するためにも使用される。同様に、ピペット75aは、ピペット74aによって供給されたメイグリュンワルド液をカセット23から吸引(排出)するために、ピペット76aは、ピペット75aによって供給されたメイグリュンワルド希釈液をカセット23から吸引(排出)するために、ピペット77aは、ピペット76aによって供給されたギムザ希釈液をカセット23から吸引(排出)するために、それぞれ使用される。
【0034】
ここで、本実施形態に係る染色部27の第1吸引排出部73〜第4吸引排出部76のピペット73a、74a、75a及び76aから各々供給される液体の供給経路について詳細に説明する。図6は、図2に示した染色部に供給される液体の供給経路を示した流体回路図である。本実施形態による供給経路には、図6に示すように、染色部に供給される液体を収容するための4つの容器101〜104が設置されている。具体的には、上述したように、容器101には染色液原液としてのメイグリュンワルド液が収容され、容器102には希釈液(リン酸緩衝液)が収容され、容器103には染色液原液としてのギムザ液が収容され、容器104にはメタノール液が収容されている。
【0035】
染色液原液としてのメイグリュンワルド液を収容した容器101は、図6に示すように、バルブ111、バルブ112、チャンバ113及びバルブ114を介して、第2吸引排出部74のピペット74aに接続されている。チャンバ113には、気圧調節器115が接続されている。また、バルブ114は、気圧調節器116に接続されたダイヤフラムポンプ117と接続されている。
【0036】
チャンバ113は、血液塗抹標本作製装置1の下方に配置されている(図示せず)。また、チャンバ113は、図6に示すように、内部にフロートスイッチ113aが設けられたタンク113bによって構成されている。このフロートスイッチ113aは、タンク113b内の液体が規定量に達したときにこれを検出する。また、気圧調節器115は、気圧調節器115が接続されているチャンバ113内を加圧及び減圧するための機能を有している。ダイヤフラムポンプ117は、一定量の溶液を吸引及び排出する機能を有している。なお、本実施形態に係る流体経路に設置されている複数の気圧調節器及びダイヤフラムポンプは、上記した気圧調節器115及びダイヤフラムポンプ117と同様の機能を有している。
【0037】
また、容器101は、バルブ111、バルブ112、チャンバ113、バルブ121、混合チャンバ122及びバルブ123を介して、第3吸引排出部75のピペット75aにも接続されている。バルブ121は、気圧調節器124に接続されたダイヤフラムポンプ125と接続されている。また、バルブ123は、気圧調節器126に接続されたダイヤフラムポンプ127と接続されている。また、希釈液(リン酸緩衝液)を収容した容器102は、バルブ131を介して、混合チャンバ122に接続されている。バルブ131は、気圧調節器132に接続されたダイヤフラムポンプ133と接続されている。混合チャンバ122は、容器101に収容された染色液原液であるメイグリュンワルド液と、容器102に収容された希釈液(リン酸緩衝液)とを混合するために設けられている。
【0038】
染色液原液としてのギムザ液を収容した容器103は、バルブ141、バルブ142、チャンバ143、バルブ144、混合チャンバ145及びバルブ146を介して、第4吸引排出部76のピペット76aに接続されている。チャンバ143には、気圧調節器147が接続されている。また、バルブ144は、気圧調節器148に接続されたダイヤフラムポンプ149と接続されている。また、バルブ146は、気圧調節器150に接続されたダイヤフラムポンプ151と接続されている。チャンバ143は、上記したチャンバ113と同様の構造を有しており、内部にフロートスイッチ143aが設けられている。また、チャンバ143は、血液塗抹標本作製装置1の下方に配置されている(図示せず)。また、希釈液を収容した容器102は、図6に示すように、バルブ134を介して、混合チャンバ145に接続されている。バルブ134は、気圧調節器135に接続されたダイヤフラムポンプ136と接続されている。混合チャンバ145は、容器103に収容された染色液原液であるギムザ液と、容器102に収容された希釈液とを混合するために設けられている。
【0039】
また、混合チャンバ122は、バルブ161を介して、廃液チャンバ163と接続されており、混合チャンバ145は、バルブ162を介して、廃液チャンバ163と接続されている。廃液チャンバ163には、気圧調節器164が接続されている。この廃液チャンバ163は、上記したチャンバ113とほぼ同様の構造を有しており、内部にフロートスイッチ163aが設けられている。この廃液チャンバ163のフロートスイッチ163aは、廃液チャンバ163内に貯留された廃液の排出が正確に行われているか否かを検知するために設けられている。また、チャンバ113、チャンバ143及び廃液チャンバ163は、それぞれ、バルブ171、172及び173を介して、排出口174、175及び176と接続されている。
【0040】
また、メタノール液を収容した容器104は、バルブ181を介して、メイグリュンワルド液を収容する容器101からチャンバ113へのメイグリュンワルド液の供給経路の途中に接続されている。また、メタノール液を収容した容器104は、バルブ182を介して、ギムザ液を収容する容器103からチャンバ143へのギムザ液の供給経路の途中に接続されている。
【0041】
ここで、本実施形態では、メタノール液を収容した容器104は、図6に示すように、バルブ191を介して、第1吸引排出部73のピペット73aに接続されている。バルブ191は、気圧調節器192が接続されたダイヤフラムポンプ193と接続されている。このように、容器104からバルブ191を介して第1吸引排出部73のピペット73aに至る経路を設けることによって、容器104に収容された洗浄用のメタノール液を染色部27の第1吸引排出部73の塗抹標本(スライドガラス10)に供給することが可能になる。
【0042】
また、図2に示した保管部28は、染色部27により染色された染色済みのスライドガラス10が収納されたカセット23を保管するために設けられている。この保管部28には、カセット23を搬送するための搬送ベルト28aが設けられている。
【0043】
図7は、本実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置1の染色部27の構成を示す模式図である。制御部1aは、第1〜第5吸引排出部73〜77のそれぞれに設けられたモータ73c〜77cに接続されており、これらのモータ73c〜77cを駆動制御する。モータ73c〜77cのそれぞれは、各別にピペット73a〜77aに連結されており、モータ73c〜77cの動作によってピペット73a〜77aが上下移動する。また、上述したような流体回路により、ピペット73a〜77aは液体の吸引及び吐出動作を行う。これらのピペット73a〜77aには、上述したように、メタノール液、メイグリュンワルド液の原液、希釈されたメイグリュンワルド液、希釈されたギムザ液、及び洗浄液のそれぞれが供給されるようになっている。
【0044】
上記構成により、血液塗抹標本作製装置1における塗抹標本の染色は、概略以下のようにして進められる。まず、メタノール液又はメイグリュンワルド液(原液)に標本塗抹済みのスライドガラス10が所定時間(以下、「固定化時間」という。)浸漬される固定化工程が行われ、次に希釈されたメイグリュンワルド液(以下、「第1染色液」という。)に標本固定化済みのスライドガラス10が所定時間(以下、「第1染色時間」という。)浸漬される第1染色工程が行われ、次に希釈されたギムザ液(以下、「第2染色液」という。)に第1染色工程が終了したスライドガラス10が所定時間(以下、「第2染色時間」という。)浸漬される第2染色工程が行われ、最後にスライドガラス10が洗浄される洗浄工程が行われる。
【0045】
かかる血液塗抹標本作製装置1は、塗抹標本の染色条件を設定可能な構成となっている。ここでいう染色条件は、染色液原液の希釈倍率及び染色時間である。染色液原液の希釈倍率は、5倍、10倍、20倍の何れかに設定可能であり、デフォルト値は10倍とされる。染色液原液の希釈倍率を1段階変更すると、平均核G値が30変化すると推定される。つまり、希釈倍率を10倍から5倍へ又は20倍から10倍へ1段階下げると、平均核G値が30増加し、希釈倍率を5倍から10倍へ又は10倍から20倍へ1段階上げると、平均核G値が30減少すると推定される。ここで平均核G値とは、血液塗抹標本作製装置1によって作製された塗抹標本を標本撮像装置3によって撮像して得られた複数の血球画像における白血球の核の領域のG値の平均値をいう。
【0046】
また、染色時間は11段階で設定可能である。設定可能な染色時間には、上述した第1染色時間と、第2染色時間とがある。染色時間の設定は、第1染色時間と第2染色時間との組み合わせであり、11通りの組み合わせの何れかが設定される。つまり、第1染色時間及び第2染色時間は独立して設定変更することはできず、第1染色時間と第2染色時間とが共に設定変更される。染色時間のデフォルト値は、第1染色時間が5分、第2染色時間が20分の組合せであり、第1染色時間は0.5分刻みで、第2染色時間は2.5分刻みで設定変更可能である。染色時間の下限値は、第1染色時間が2.5分、第2染色時間が7.5分の組合せである。染色時間の上限値は、第1染色時間が7.5分、第2染色時間が32.5分である。染色時間を1段階変更すると、平均核G値は5変化すると推定される。例えば、デフォルト値の「第1染色時間5分、第2染色時間20分」から、1段階上の「第1染色時間5.5分、第2染色時間22.5分」へ変更すると平均核G値が5増加し、1段階下の「第1染色時間4.5分、第2染色時間17.5分」へ変更すると平均核G値が5減少すると推定される。
【0047】
<標本搬送装置の構成>
図1に示すように、血液塗抹標本作製装置1と標本撮像装置3との間には、標本搬送装置6が設けられている。標本搬送装置6は、血液塗抹標本作製装置1から受け取ったカセットに収容されているスライドガラス10を標本撮像装置3に搬送するために設けられている。また、標本搬送装置6は、図1に示すように、表示部6aと、電源スイッチ6bと、カバー6cとを含んでいる。この標本搬送装置6は、搬出口6dを介して、標本撮像装置3に撮像対象のスライドガラス10を搬出するように構成されている。
【0048】
<標本撮像装置の構成>
図8は、本実施の形態に係る標本撮像装置の構成を示すブロック図である。なお、図8は装置の構成を模式的に示すものであり、分かり易くするためにセンサ及びスライドカセット等の配置が実際とは若干異なっている。例えば、図8では、WBC検出用のセンサとオートフォーカス用のセンサとが上下に配置されているが、実際には後出する図9に示されるように、両センサは略同一平面内に配置されている。
【0049】
標本撮像装置3は、オートフォーカスにより焦点が合わされた血液塗抹標本の拡大画像を撮像する顕微鏡ユニット3aと、撮像された画像を処理して血液中の白血球の分類を行い、当該白血球の分類毎の計数を行う画像処理ユニット3bとを備えている。また、標本撮像装置3の近傍には、上述した標本搬送装置6が配置されており、血液塗抹標本作製装置1によって作製された血液塗抹標本が標本搬送装置6によって顕微鏡ユニット3aに自動的に供給されるように構成されている。
【0050】
<顕微鏡ユニット3aの構成>
図9は、顕微鏡ユニット3aの構成の一部を示す斜視図である。顕微鏡ユニット3aは、XYステージ31上に載置されたスライドガラス10にうすく引き伸ばされて塗布された血液の像を拡大する顕微鏡のレンズ系の一部を構成する対物レンズ32を備えている。標本(上面に血液が塗抹されたスライドガラス10)を保持する前記XYステージ31は、XYステージ駆動回路33(図8参照)により駆動制御される駆動部(図示せず)により前後左右(X方向及びY方向)に移動自在とされる。また、前記対物レンズ32は、対物レンズ駆動回路34により駆動制御される駆動部(図示せず)により上下(Z方向)に移動自在とされている。
【0051】
スライドガラス10は、複数枚積み重ねられた状態でスライドカセット35内に収容されており、このスライドカセット35は、カセット搬送駆動回路36により駆動制御される搬送部(図示せず)によって搬送される。前記XYステージ31には、スライドガラス10の長手方向の両端付近2箇所を把持し得るチャック部37(図9参照)が、所定位置に停止している前記スライドカセット35内に収容されているスライドガラス10に対して進退自在に設けられている。当該チャック部37によりスライドガラス10を把持し、チャック部37を後退させることにより、スライドカセット35からスライドガラス10を引き出して、XYステージ31の所定の位置に配置することができる。
【0052】
スライドガラス10の下方には光源であるランプ38が配設されており、このランプ38からの光は、スライドガラス10上の血液を通過し、さらに光路上に配置されたハーフミラー39及び干渉フィルタ310を経由して、複数の画素が一列に並んだオートフォーカス用のラインセンサ311、複数の画素が一列に並んだ白血球(WBC)検出用のセンサ312、及びCCDカメラ313に入射する。白血球検出用のセンサ312には、FPGA又はASIC等で構成された白血球検出部314が接続され、センサ312の出力信号に基づいて白血球検出部314により白血球の検出が行われるようになっている。また、オートフォーカス用のセンサ311には、FPGA又はASIC等で構成されたフォーカス算定部315が接続され、センサ311の出力信号に基づいてフォーカス算定部315でオートフォーカスの動作に用いられる情報が算定され、かかる情報に基づいてオートフォーカスの動作が行われる。
【0053】
また、顕微鏡ユニット3aは、制御部316及び通信インタフェース317,318を備えている。制御部316はCPU及びメモリを備え、制御部316がメモリに記憶された制御プログラムを実行することにより、上述した各機構が制御されるようになっている。
【0054】
通信インタフェース317は、通信ケーブルを介して画像処理ユニット3bにデータ通信可能に接続されている。また、通信インタフェース318は、A/D変換器313aを介してCCDカメラ313に接続されており、また通信ケーブルを介して画像処理ユニット3bに接続されている。CCDカメラ313から出力された画像信号(アナログ信号)は、A/D変換器313aによりA/D変換され、A/D変換器313aから出力された画像データ(デジタルデータ)が通信インタフェース318に与えられ、画像処理ユニット3bへ送信される。
【0055】
また、顕微鏡ユニット3aは、2次元バーコードリーダ319を備えている。上述したように、スライドガラス10のフロスト部(図示せず)には、検体IDを示す2次元バーコードが印字されており、顕微鏡ユニット3aに導入されたスライドガラス10の2次元バーコードが、2次元バーコードリーダ319により読み取られる。
【0056】
<画像処理ユニット3bの構成>
次に、画像処理ユニット3bの構成について説明する。図10は、画像処理ユニット3bの構成を示すブロック図である。画像処理ユニット3bは、コンピュータ320によって実現される。図10に示すように、コンピュータ320は、本体321と、画像表示部322と、入力部323とを備えている。本体321は、CPU321a、ROM321b、RAM321c、ハードディスク321d、読出装置321e、入出力インタフェース321f、通信インタフェース321g、及び画像出力インタフェース321jを備えており、CPU321a、ROM321b、RAM321c、ハードディスク321d、読出装置321e、入出力インタフェース321f、通信インタフェース321g、及び画像出力インタフェース321jは、バス321kによって接続されている。
【0057】
読出装置321eは、コンピュータを画像処理ユニット3bとして機能させるためのコンピュータプログラム324aを可搬型記録媒体324から読み出し、当該コンピュータプログラム324aをハードディスク321dにインストールすることが可能である。
【0058】
画像処理ユニット3bは、顕微鏡ユニット3aから送信された画像をROM321b又はハードディスク321dに記憶している。CPU321aは、ユーザからの操作に応じて、記憶されている画像を画像表示部322に表示させる。また、CPU321aは、ユーザからの操作に応じて、記憶されている画像を解析し、解析結果を画像表示部322に表示させる。
【0059】
[塗抹標本処理システムの動作]
次に、本実施形態に係る塗抹標本処理システム100の動作について説明する。血液塗抹標本作製装置1においては、染色液原液又は希釈液がなくなったり、使用期限が経過してしまったりすると、その染色液原液又は希釈液を新しいものに交換する必要がある。染色液原液は、その濃度が製造業者によって異なる。同一製造業者により製造された染色液原液であっても製造ロット毎に濃度は異なる。したがって、染色液原液が交換される前後において、同一の染色条件(染色時間及び希釈率)で標本を染色すると、染色の程度が異なってしまう。そこで、本実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置1においては、染色液の交換の際に、以下のようにして染色条件の設定が行われる。
【0060】
図11は、本実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置1の染色液原液交換動作の流れを示すフローチャートである。まず、血液塗抹標本作製装置1の制御部1aのCPU11は、染色液原液の交換が必要か否かを判定する(ステップS101)。この処理では、バルブ111,112を開いても、フロートスイッチ113aによってメイグリュンワルド液のチャンバ113への供給が検出されない場合に、メイグリュンワルド液の交換が必要と判断され、バルブ141,142を開いても、フロートスイッチ143aによってギムザ液のチャンバ143への供給が検出されない場合に、ギムザ液の交換が必要と判断される。また、メイグリュンワルド液及びギムザ液それぞれの使用期限が制御部1aのメモリ12に記憶されており、使用期限が経過したか否かをCPU11が判断することによっても、染色液原液の交換の要否が判断される。染色液原液の交換が不要な場合には(ステップS101においてNO)、CPU11はステップS101の処理を繰り返す。一方、染色液原液の交換が必要と判断された場合には(ステップS101においてYES)、CPU11は染色液原液の交換が必要であることを通知するエラーメッセージを表示操作部2aに表示させる(ステップS102)。
【0061】
次にCPU11は、染色液原液が交換されたか否かを判断する(ステップS103)。これは、例えば、表示操作部2aに表示されたエラーメッセージが操作者によって閉じられたときに染色液原液が交換されたと判定される。染色液原液が交換されていなければ(ステップS103においてNO)、CPU11はステップS103の処理を繰り返す。一方、染色液原液が交換されたと判定された場合には(ステップS103においてYES)、CPU11は「染色液原液が交換されました。テスト染色を行いますか?」というメッセージとともに、OKボタン及びNOボタンを表示操作部2aに表示させ、テスト染色の実行が指示されたか否かを判定する(ステップS104)。OKボタンの選択が検出され、テスト染色の実行指示が与えられた場合には(ステップS104においてYES)、CPU11はステップS105へ処理を進める。一方、NOボタンの選択が検出され、テスト染色を実行しない指示が与えられた場合には(ステップS104においてNO)、CPU11は処理を終了する。この場合は、染色条件の設定が変更されず、それまでの染色条件が維持される。
【0062】
ステップS105において、CPU11は、標本作製処理を実行する(ステップS105)。この標本作製処理においては、搬送装置2によって搬送された試験管51から吸引分注機構部21により血液が吸引され、吸引された血液がスライドガラス10に滴下される。
テスト染色に用いる血液としては、健常者から採取された新鮮血を用いることが好ましい。健常者から採取された新鮮血とは、例えば、血球分析装置で複数の測定項目について測定したときに、各測定項目の測定値が所定の範囲内に収まる血液であり、かつ、採取されてから24時間以内の血液を用いることが好ましい。
なお、後述するように、テスト染色によって染色された塗抹標本は、標本撮像装置3に供給され、その塗抹標本の染色状態を示す平均核G値が求められる。この平均核G値は、白血球のうちの好中球の核G値を、複数の好中球について取得し、複数の核G値の平均値を求めることにより得られる。好中球は、白血球の60%を占める血球であり、健常者から採取される血液には必ず含まれており、好中球の性状(例えば核の染まり易さ)は、血液が劣化していない限りは検体間でほとんど差が認められない。したがって、テスト染色において健常者から採取された新鮮血を用いる限り、常に安定した平均核G値が得られる。
スライドガラス10に滴下された血液は、塗抹部22によってスライドガラス10に塗抹され、さらに乾燥される。こうして得られた塗抹標本がカセット23に挿入され、染色部27における上述した染色工程によりテスト染色が行われる。テスト染色においては、デフォルト値の染色条件が用いられる。つまり、染色液原液の希釈倍率が10倍とされ、第1染色時間が5分とされ、第2染色時間が20分とされる。
【0063】
以下に、テスト染色処理を詳しく説明する。まず、染色部27に標本塗抹済みのスライドガラス10が送り込まれると、上述した固定化工程が行われる。この固定化工程では、第1吸引排出部73のピペット73a又は第2吸引排出部74のピペット74aが動作することにより、このスライドガラス10が挿入されているカセット23の内部にメタノール液又はメイグリュンワルド液の原液が吐出される。カセット23の内部にメタノール液又はメイグリュンワルド液が供給されてから、固定化時間が経過するまでは、標本塗抹済みのスライドガラス10がメタノール液又はメイグリュンワルド液の原液に浸漬される。カセット23の内部にメタノール液又はメイグリュンワルド液の原液が供給されてから固定化時間が経過すると、第2吸引排出部74により、カセット23のスライドガラス収納孔23aから塗抹済みのスライドガラス10を持ち上げられ、スライドガラス10の塗抹面にファン78aによる送風が行われ、塗抹面上の液体成分の乾燥が行われる。これによって、メタノール液による塗抹標本の固定処理が終了する。なお、塗抹済みのスライドガラス10がメタノール液又は希釈されていないメイグリュンワルド液に浸漬されてから第2吸引排出部74によりスライドガラス10が持ち上げられるまでの時間(固定化時間)は、約20秒〜約120秒である。次に、カセット23の内部のメタノール液又はメイグリュンワルド液が排出される。これは、カセット23の内部にメタノール液が供給されている場合には、ピペット74aにより当該メタノール液が吸引されることにより行われ、カセット23の内部にメイグリュンワルド液が供給されている場合には、ピペット75aにより当該メイグリュンワルド液が吸引されることにより行われる。その後、カセット23のスライドガラス収納孔23aにスライドガラス10が戻される。
【0064】
次に、第1染色工程が行われる。第3吸引排出部75のピペット75aに希釈されたメイグリュンワルド液(第1染色液原液)を供給する際には、まず、図6に示したバルブ121により、チャンバ113とダイヤフラムポンプ125との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器124によりダイヤフラムポンプ125内が減圧される。これにより、チャンバ113のメイグリュンワルド液がダイヤフラムポンプ125に一定量吸引される。その後、バルブ121により、ダイヤフラムポンプ125と混合チャンバ122との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器124によりダイヤフラムポンプ125内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ125のメイグリュンワルド液が混合チャンバ122に移動される。その後、バルブ121により、ダイヤフラムポンプ125と混合チャンバ122との間の流路が遮断状態にされる。これにより、チャンバ113のメイグリュンワルド液の混合チャンバ122への移動が終了する。
【0065】
そして、混合チャンバ122のメイグリュンワルド液を希釈するために、容器102の希釈液(リン酸緩衝液)が混合チャンバ122に移動される。具体的には、まず、バルブ131により、容器102とダイヤフラムポンプ133との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器132によりダイヤフラムポンプ133内が減圧される。これにより、容器102の希釈液がダイヤフラムポンプ133に一定量吸引される。その後、バルブ131により、ダイヤフラムポンプ133と混合チャンバ122との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器132によりダイヤフラムポンプ133内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ133の希釈液が混合チャンバ122に移動される。その後、バルブ131により、ダイヤフラムポンプ133と混合チャンバ122との間の流路が遮断状態にされる。これにより、容器102の希釈液の混合チャンバ122への移動が終了する。このようなメイグリュンワルド液及び希釈液の混合チャンバ122への定量供給動作の繰り返し回数を制御することにより、デフォルト値である10倍の希釈倍率の第1染色液が調製される。
【0066】
そして、バルブ123により、混合チャンバ122とダイヤフラムポンプ127との間の流路が開放状態にされた後、気圧調節器126によりダイヤフラムポンプ127内が減圧される。これにより、混合チャンバ122の第1染色液がダイヤフラムポンプ127に一定量吸引される。その後、バルブ123により、ダイヤフラムポンプ127と混合チャンバ122との間の流路が遮断状態にされるとともに、ダイヤフラムポンプ127と第3吸引排出部75のピペット75aとの間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器126によりダイヤフラムポンプ127内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ127内の第1染色液が、第3吸引排出部75のピペット75aからカセット23(図2参照)内に供給される。
【0067】
カセット23の内部に第1染色液が供給されてから、第1染色時間が経過するまでは、カセット23が搬送ベルト72により搬送されながら、標本塗抹済みのスライドガラス10が第1染色液に浸漬され、第1染色液による標本の染色が行われる。テスト染色においては、第1染色時間はデフォルト値の5分である。第1染色時間の経過後、ピペット76aにより第1染色液が吸引され、カセット23の内部の第1染色液が排出される。
【0068】
次に、第2染色工程が行われる。染色部27の第4吸引排出部76のピペット76aにギムザ希釈液(第2染色液原液)を供給する際には、まず、初期状態(全バルブの遮断状態)から、図6に示したバルブ141及び142が開放状態にされるとともに、気圧調節器147によりチャンバ143内が減圧される。これにより、容器103のギムザ液がチャンバ143に吸引される。このギムザ液のチャンバ143への流入に伴って、チャンバ143に設置されているフロートスイッチ143aがオン状態になる。これにより、バルブ141及び142が遮断状態にされ、気圧調節器147による減圧が解除される。そして、容器103のギムザ液のチャンバ143への移動が終了する。
【0069】
そして、チャンバ143のギムザ液が混合チャンバ145に移動される。具体的には、まず、バルブ144により、チャンバ143とダイヤフラムポンプ149との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器148によりダイヤフラムポンプ149内が減圧される。これにより、チャンバ143のギムザ液がダイヤフラムポンプ149に一定量吸引される。その後、バルブ144により、ダイヤフラムポンプ149と混合チャンバ145との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器148によりダイヤフラムポンプ149内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ149のギムザ液が混合チャンバ145に移動する。その後、バルブ144により、ダイヤフラムポンプ149と混合チャンバ145との間の流路が遮断状態にされる。これにより、チャンバ143のギムザ液の混合チャンバ145への移動が終了する。
【0070】
そして、混合チャンバ145のギムザ液を希釈するために、容器102の希釈液(リン酸緩衝液)が混合チャンバ145に移動される。具体的には、まず、バルブ134により、容器102とダイヤフラムポンプ136との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器135によりダイヤフラムポンプ136内が減圧される。これにより、容器102の希釈液がダイヤフラムポンプ136に一定量吸引される。その後、バルブ134により、ダイヤフラムポンプ136と混合チャンバ145との間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器135によりダイヤフラムポンプ136内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ136の希釈液が混合チャンバ145に移動する。その後、バルブ134により、ダイヤフラムポンプ136と混合チャンバ145との間の流路が遮断状態にされる。これにより、容器102の希釈液の混合チャンバ145への移動が終了する。そして、ギムザ液は、混合チャンバ145において希釈液と混合されることによりギムザ希釈液(第2染色液)となる。このようなギムザ液及び希釈液の混合チャンバ145への定量供給動作の繰り返し回数を制御することにより、デフォルト値である10倍の希釈倍率の第2染色液が調製される。
【0071】
そして、バルブ146により、混合チャンバ145とダイヤフラムポンプ151との間の流路が開放状態にされた後、気圧調節器150によりダイヤフラムポンプ151内が減圧される。これにより、混合チャンバ145の第2染色液がダイヤフラムポンプ151に一定量吸引される。その後、バルブ146により、ダイヤフラムポンプ151と混合チャンバ145との間の流路が遮断状態にされるとともに、ダイヤフラムポンプ151と第4吸引排出部76のピペット76aとの間の流路が開放状態にされる。そして、気圧調節器150によりダイヤフラムポンプ151内が加圧される。これにより、ダイヤフラムポンプ151のギムザ希釈液が、第4吸引排出部76のピペット76aからカセット23(図2参照)内に供給される。
【0072】
この後、カセット23の内部に第2染色液が供給されてから、第2染色時間が経過するまでは、カセット23が搬送ベルト72により搬送されながら、当該スライドガラス10が第2染色液に浸漬され、第2染色液による標本の染色が行われる。テスト染色においては、第2染色時間はデフォルト値の20分である。第2染色時間の経過後、ピペット77aにより第2染色液が吸引され、カセット23の内部の第2染色液が排出される。
【0073】
次に、洗浄工程が行われる。ピペット77aによりカセット23の染色液吸引分注孔23bに対して洗浄液が分注された後、ピペット77aにより吸引されて染色済みのスライドガラス10が洗浄される。そして、染色済みのスライドガラス10は、ファン78bにより乾燥される。これにより、染色処理が完了する。
【0074】
その後、染色済みのスライドガラス10が収納されたカセット23は、搬送ベルト72から保管部28の搬送ベルト28aへ順次送り出される。そして、カセット23は、保管部28の搬送ベルト28aにより搬送される。
【0075】
かかる標本作製処理が完了すると、作製された染色済みの塗抹標本が標本搬送装置6によって血液塗抹標本作製装置1から顕微鏡ユニット3aへ自動供給される。図12は、本実施の形態に係る標本撮像装置3の血球撮像及び画像解析動作の流れを示すフローチャートである。標本撮像装置3は、スライドガラス10をXYステージ31がX方向及びY方向に移動させながら、センサ312によりスライドガラス10に塗布された血液中の白血球の検出を行う(ステップS201)。次いで、制御部316は、オートフォーカス動作を実行し(ステップS202)、染色された血球を撮像する(ステップS203)。
【0076】
制御部316は、得られた血球画像を画像処理ユニット3bへ送信する。画像処理ユニット3bのCPU321aは、受信した血球画像をROM321b又はハードディスク321dに記憶し、血球画像に基づき白血球の各種特徴パラメータを算出する(ステップS204)。この特徴パラメータとしては、画像の色信号(G、B、R)に基づいて求めることができる白血球の核の面積、核数、凹凸、色調、及び濃度(むら)、白血球の細胞質の面積、色調、及び濃度(むら)、並びに前記核と細胞質との面積比及び濃度比などをあげることができる。
【0077】
次に、CPU321aは、取得した特徴パラメータを用いて、白血球の種類を分類する(ステップS205)。具体的には、例えば白血球のいくつかの特徴パラメータについて、順次、各パラメータについて予め定めておいた判定基準値と比較することで、白血球の種類を除々に絞り込んでいくことができる。このようにして、撮像された白血球は、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、好中球(桿状、分葉状)といった成熟白血球の分類、芽球、幼若顆粒球、異型リンパ球といった未熟白血球の分類、赤芽球の分類がなされる。
【0078】
図13は、血球画像の例を示す図である。上記のようなメイギムザ染色を実施したときの血球画像160Aには、核の領域161a及び細胞質の領域161bを有する血球像161が含まれる。血球画像160Aの核領域161aは、染色液の濃度並びに染色時間によって色合いが異なる。つまり、核領域161aの特定の色成分(本実施の形態においては緑成分)の輝度値は、血球画像の核領域161aの特徴を表しており、また血球の染色状態を表している。
【0079】
画像処理ユニット3bは、このような染色状態を示す染色状態情報を取得する。このことを以下に具体的に説明する。CPU321aは、ステップS205における分類の結果、この血球画像に係る白血球が好中球と分類されたか否かを判定する(ステップS206)。当該白血球が好中球と分類された場合には(ステップS206においてYES)、補正後の血球画像における白血球の核の領域の各画素の色成分(赤:R、緑:G、青:B)のうち緑成分の輝度値(以下、G値という)を取得し、核領域の全画素について取得したG値の平均値を算出し、得られた値(核G値)をRAM321cに記憶する(ステップS207)。CPU321aは、この後、ステップS208へと処理を進める。
【0080】
一方、ステップS206において、この血球画像に係る白血球が好中球と分類されなかった場合には(ステップS206においてNO)、CPU321aは、ステップS208へと処理を移す。ステップS208において、CPU321aは、所定数(例えば、100)の血球画像について核G値が算出されたか否かを判定する(ステップS208)。所定数の核G値が得られていない場合には(ステップS208においてNO)、ステップS201に処理が戻され、再度ステップS201〜S208の処理が実行される。
【0081】
一方、所定数の核G値が得られた場合には(ステップS208においてYES)、CPU321aは、得られた核G値の平均値である平均核G値を算出する(ステップS209)。この平均核G値が、染色部27においてデフォルトの染色条件にしたがって染色された塗抹標本の染色状態を示す情報となる。CPU321aは、得られた血球画像及び平均核G値を画像表示部322に表示させ(ステップS210)、処理を終了する。
【0082】
図11に戻り、ステップS105の標本作製処理が完了した後、血液塗抹標本作製装置1のCPU11は、目標とする核G値(以下、「目標核G値」という。)及び画像処理ユニット3bに表示された平均核G値の入力を受け付けるための入力受付画面を表示操作部2aに表示させる(ステップS106)。図14は、入力受付画面を示す図である。入力受付画面200には、目標核G値を入力するための入力エリア201と、平均核G値を入力するための入力エリア202と、数字等を入力するためのソフトウェアキー203とが設けられている。目標核G値及び平均核G値のそれぞれは、0〜125の範囲の数値である。よって、入力エリア201,202のそれぞれには、0〜125の範囲内の数値を入力可能である。ユーザは、表示操作部2aに表示されたソフトウェアキー203を操作して、適切に染色された塗抹標本の核G値を示す目標核G値を入力エリア201に入力し、画像処理ユニット3bに表示された平均核G値を入力エリア202に入力し、エンターキーを選択する。CPU11は、このような目標核G値及び平均核G値の入力を受け付けたか否かを判定し(ステップS107)、目標核G値及び平均核G値が入力されなければ(ステップS107においてNO)、入力されるまでステップS107の処理を繰り返す。目標核G値及び平均核G値が入力されたときは(ステップS107においてYES)、CPU11は、以下の染色条件設定処理を実行する(ステップS108)。なお、目標核G値が入力されず、平均核G値は入力された場合には、デフォルト値(例えば、70)の目標核G値が自動で設定される。
【0083】
目標核G値としては、適切に染色された塗抹標本の染色状態を示す核G値を入力する。このような核G値としては、染色液原液の交換前に染色が行われた染色済み塗抹標本の核G値を用いることができる。このような操作は、例えば次のようにして行われる。
標本撮像装置3の画像処理ユニット3bには、染色液原液の交換前に染色された染色済み塗抹標本を撮像して得られた好中球の血球画像が複数記憶されている。ユーザは、画像処理ユニット3bを操作して、記憶されている血球画像を画像表示部322に表示させ、所望の染色状態に染色されている血球画像を複数選択する。ここで選択される血球画像は、健常者から採取された新鮮血を用いて作製され染色された塗抹標本を撮像して得られた血球画像であることが好ましい。また、選択される複数の血球画像は、一つの染色済み塗抹標本から得られたものであってもよいし、それぞれ別の染色済み塗抹標本から得られたものであってもよく、特に限定されない。
ユーザは、選択した複数の血球画像の平均の核G値を求める処理(図12のステップS207の処理)を実行するように画像処理ユニット3bに指示する。画像処理ユニット3bは、複数の血球画像のそれぞれについて核G値を求め、それらを平均した値を画像表示部322に表示する。ユーザは、表示された値を目標核G値として入力受付画面に入力する。
このようにして目標核G値を入力して染色条件を設定することにより、染色液原液の交換前に得られた所望の染色状態と、ほぼ同じ染色状態とすることが可能な染色条件を設定することができる。
【0084】
図15A及び図15Bは、染色条件設定処理の流れを示すフローチャートである。CPU11は、入力された目標核G値から平均核G値を減ずる演算を行い、差分Aを算出する(ステップS111)。次にCPU11は、差分Aが0であるか否かを判定し(ステップS112)、差分Aが0である場合には(ステップS112においてYES)、染色条件である希釈倍率及び染色時間(第1染色時間及び第2染色時間)をデフォルト値に設定し(ステップS113)、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0085】
一方、差分Aが0でない場合には(ステップS112においてNO)、CPU11は差分Aが0より大きいか(正であるか)否かを判定し(ステップS114)、差分Aが正である場合には(ステップS114においてYES)、差分Aが30以上であるか否かを判定する(ステップS115)。差分Aが30以上である場合(ステップS115においてYES)、CPU11は差分Aが55より大きいか否かを判定する(ステップS116)。差分Aが55より大きい場合には(ステップS116においてYES)、染色条件の変更によっては対応できない異常が生じていると考えられるため、CPU11は表示操作部2aにエラーメッセージを表示させ(ステップS117)、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0086】
差分Aが30以上、55以下である場合には(ステップS116においてNO)、CPU11は差分Aから30を減じ、その結果を5で除する演算を行う(ステップS118)。ステップS118の処理において余りが生じた場合は切り捨てられる。つまり、ステップS118の処理においては、0〜5の範囲の整数が得られる。次にCPU11は、染色条件を設定する(ステップS119)。ステップS119の処理では、希釈倍率が1段階下げられ、染色時間がステップS118の処理で得られた数値分だけ上げられる。つまり、希釈倍率はデフォルト値の10倍より1段階低い5倍に設定され、染色時間はデフォルト値の第1染色時間5分及び第2染色時間20分からステップS118の処理で得られた数値分だけ高い値に設定され、設定値がメモリ12に記憶される。染色条件の設定が完了すると、CPU11は、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0087】
ステップS115において、差分Aが30未満である場合には(ステップS115においてNO)、CPU11は差分Aを5で除する演算を行う(ステップS120)。ステップS120の処理において余りが生じた場合は切り捨てられる。つまり、ステップS120の処理においては、0〜5の範囲の整数が得られる。次にCPU11は、染色条件を設定する(ステップS121)。ステップS121の処理では、希釈倍率は変更されず、染色時間がステップS120の処理で得られた数値分だけ上げられる。つまり、希釈倍率はデフォルト値の10倍に設定され、染色時間はデフォルト値の第1染色時間5分及び第2染色時間20分からステップS120の処理で得られた数値分だけ高い値に設定され、設定値がメモリ12に記憶される。染色条件の設定が完了すると、CPU11は、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0088】
ステップS114において、差分Aが負である場合には(ステップS114においてNO)、CPU11は差分Aが−30以下であるか否かを判定する(ステップS122)。差分Aが−30以下である場合(ステップS122においてYES)、CPU11は差分Aが−55未満であるか否かを判定する(ステップS123)。差分Aが−55未満である場合には(ステップS123においてYES)、染色条件の変更によっては対応できない異常が生じていると考えられるため、CPU11は表示操作部2aにエラーメッセージを表示させ(ステップS124)、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0089】
差分Aが−30以下、−55以上である場合には(ステップS123においてNO)、CPU11は差分Aに30を加え、その結果を5で除する演算を行う(ステップS125)。ステップS125の処理において余りが生じた場合は切り捨てられる。つまり、ステップS125の処理においては、0〜−5の範囲の整数が得られる。次にCPU11は、染色条件を設定する(ステップS126)。ステップS126の処理では、希釈倍率が1段階上げられ、染色時間がステップS125の処理で得られた数値分だけ下げられる。つまり、希釈倍率はデフォルト値の10倍より1段階高い20倍に設定され、染色時間はデフォルト値の第1染色時間5分及び第2染色時間20分からステップS125の処理で得られた数値分だけ低い値(−1であれば、1段階低い値)に設定され、設定値がメモリ12に記憶される。染色条件の設定が完了すると、CPU11は、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0090】
ステップS122において、差分Aが−30より大きい場合には(ステップS122においてNO)、CPU11は差分Aを5で除する演算を行う(ステップS127)。ステップS127の処理において余りが生じた場合は切り捨てられる。つまり、ステップS127の処理においては、0〜−5の範囲の整数が得られる。次にCPU11は、染色条件を設定する(ステップS128)。ステップS128の処理では、希釈倍率は変更されず、染色時間がステップS127の処理で得られた数値分だけ下げられる。つまり、希釈倍率はデフォルト値の10倍に設定され、染色時間はデフォルト値の第1染色時間5分及び第2染色時間20分からステップS127の処理で得られた数値分だけ低い値(−1であれば、1段階低い値)に設定され、設定値がメモリ12に記憶される。染色条件の設定が完了すると、CPU11は、メインルーチンにおける染色条件設定処理の呼び出しアドレスへ処理を戻す。
【0091】
上記のような染色条件設定処理が終了すると、CPU11は処理を終了する。
【0092】
上述したような染色条件の設定が行われると、その設定値は制御部1aのメモリ12に記憶され、以後の塗抹標本の染色処理において用いられる。
図16は、本実施の形態に係る血液塗抹標本作製装置1による染色液原液の交換後の塗抹標本作製・染色処理の流れを示すフローチャートである。CPU11は、ユーザから塗抹標本の作製及び染色が指示されたか否かを判断する(ステップS301)。指示されていない場合(ステップS301においてNO)には、指示されるまでステップS301の処理を繰り返す。ユーザによって、血液を収容した試験管51が搬送装置2にセットされ、表示操作部2aから塗抹標本の作製及び染色が指示されると、CPU11は指示があったと判断し(ステップS301においてYSE)、メモリ12に記憶されている染色条件の設定値を読み出す(ステップS302)。ついで、CPU11は、標本作製及び染色処理を実行する(ステップS303)。標本作製処理においては、搬送装置2によって搬送された試験管51から吸引分注機構部21により血液が吸引され、吸引された血液がスライドガラス10に滴下される。スライドガラス10に滴下された血液は、塗抹部22によってスライドガラス10に塗抹され、さらに乾燥される。こうして得られた塗抹標本がカセット23に挿入され、染色部27において染色が行われる。染色処理においては、テスト染色に用いられた染色液原液と同じ染色液原液を用いて、ステップS302においてメモリ12から読み出された染色条件の設定値にしたがって塗抹標本が染色される。具体的には、交換された新たな染色液原液が、設定された希釈倍率にしたがって希釈されることにより、第1及び第2染色液が調製される。塗抹標本は、設定された第1染色時間において第1染色液による染色が行われ、設定された第2染色時間において第2染色液による染色が行われる。塗抹標本作製及び染色処理が終了すると、CPU11は処理を終了する。
【0093】
上記のような構成とすることにより、操作者は目標核G値と平均核G値とを入力すれば、入力された目標核G値と平均核G値との差分Aに応じて、目標核G値に近い核G値を得ることが期待できる染色条件に設定することができる。したがって、操作者は適切な染色条件を容易に設定することができる。また、染色条件の設定に熟練を必要とせず、操作者毎に染色条件の設定がばらつくことも防止される。
【0094】
また、上記のように、希釈倍率及び染色時間を個別に設定する構成としたことにより、希釈倍率を変更することで染色状態を大きく変えることができ、染色時間を変更することで染色状態を微調整することができる。したがって、所望の染色条件をきめ細かく正確に設定することができる。
【0095】
(その他の実施の形態)
なお、上述した実施の形態においては、画像処理ユニット3bに表示された平均核G値を、操作者が血液塗抹標本作製装置1に入力する構成について述べたが、これに限定されるものではない。血液塗抹標本作製装置1と標本撮像装置3とが通信可能に接続され、標本撮像装置によって得られた平均核G値が血液塗抹標本作製装置1へと通信により与えられ、この平均核G値を用いて血液塗抹標本作製装置1が自動的に染色条件を設定する構成としてもよい。
【0096】
また、上述した実施の形態においては、染色液原液を交換する際にテスト染色及び染色条件の設定を行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。テスト染色及び染色条件の設定を任意の時期に行う構成としてもよく、例えば、血液塗抹標本作製装置1の保守点検作業の際にテスト染色及び染色条件の設定を行うようにしてもよい。
【0097】
また、上述した実施の形態においては、血球画像の核の領域のG値に関する平均核G値を用いて、血液塗抹標本作製装置1の染色条件を設定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。平均核G値ではなく、血球画像の核の領域のB値又はR値を検体毎に平均した値(平均核B値又は平均核R値)を求め、平均核B値又は平均核R値を用いて染色条件を設定する構成としてもよい。また、濃淡画像の血球画像を得、この血球画像の核の領域の明度(輝度)の平均値を用いて染色条件を設定する構成としてもよい。また、複数の血球画像からそれぞれ算出した核G値の平均値ではなく、1つの血球画像から算出した核G値(若しくは核B値又は核R値)を用いて染色条件を設定する構成としてもよいし、1つの濃淡画像である血球画像を得、この血球画像の核の領域の明度の平均値を用いて染色条件を設定する構成としてもよい。さらに、血球画像の核の領域における1画素のG値(若しくはB値,R値又は濃淡画像の明度)を代表値として採用し、この値を用いて染色条件を設定する構成としてもよい。
【0098】
また、上述した実施の形態においては、目標核G値と平均核G値との入力を受け付け、入力された目標核G値と平均核G値とに基づいて染色条件を設定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。目標核G値を固定値として記憶しておき、平均核G値のみ入力を要求し、入力された平均核G値と、記憶されている目標核G値とに基づいて、染色条件を設定する構成としてもよい。また、目標核G値のユーザによる設定を可能とし、平均核G値の入力を要求する際に目標核G値の入力は要求せず、入力された平均核G値と、設定値として記憶している目標核G値を使用して、染色条件を設定する構成としてもよい。
【0099】
また、上述した実施の形態においては、目標核G値と平均核G値との差分Aの大きさにより希釈倍率を決定し、差分Aを用いて所定の演算を行うことにより染色時間を決定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。差分Aと染色条件(希釈倍率、第1染色時間、及び第2染色時間)のデフォルト値からの変化量との関係を記憶したテーブルを参照し、差分Aに対応する染色条件の変化量分だけデフォルト値から設定値を変更する構成としてもよい。
【0100】
また、上述した実施形態においては、テスト染色時には一律に染色条件をデフォルト設定に再設定する構成を示したが、これに限定されるものではない。例えば、テスト染色の直前の設定に基づいてテスト染色を行う構成であってもよい。
【0101】
また、上述した実施の形態においては、塗抹標本を作製する血液塗抹標本作製装置が染色条件の設定を行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。塗抹標本を作製する機能を有していないが、塗抹標本の染色を行う機能を有する塗抹標本染色装置において、目標核G値及び平均核G値の入力を受け付け、入力された目標核G値と平均核G値とに基づいて染色条件を設定する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、塗抹標本処理システム、及び染色条件の決定方法は、スライドガラスに血液等の検体を塗抹した塗抹標本を染色する塗抹標本染色装置、塗抹標本作製装置、及び塗抹標本処理システム、並びに塗抹標本の染色における染色条件の決定方法として有用である。
【符号の説明】
【0103】
100 塗抹標本処理システム
1 血液塗抹標本作製装置
2 搬送装置
3 標本撮像装置
101〜105 容器
1a 制御部
11 CPU
12 メモリ
2a 表示操作部
10 スライドガラス
21 吸引分注機構部
22 塗抹部
23 カセット
25 カセット搬送部
26 スライドガラス挿入部
27 染色部
73〜77 第1〜第5吸引排出部
111,112,121,131,134,141,142,144 バルブ
113,143 チャンバ
113a,143a フロートスイッチ
117,125,133,136,149 ダイヤフラムポンプ
122,145 混合チャンバ
136 ダイヤフラムポンプ
3a 顕微鏡ユニット
313 カメラ
316 制御部
3b 画像処理ユニット
6 標本搬送装置
160A 血球画像
161a 核領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色部と、
第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を受け付ける情報受付部と、
情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて第2の染色条件を決定する制御部と、
を備える、
塗抹標本染色装置。
【請求項2】
染色状態情報は塗抹標本の染色状態を示す数値であり、
制御部は、染色状態情報と染色状態目標値とを比較し、比較結果に基づいて第2の染色条件を決定するように構成されている、
請求項1に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項3】
染色部は、染色液原液と希釈液とを混合することにより染色液を調製する染色液調製部を具備し、
制御部は、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色液原液と希釈液との混合率を含む第2の染色条件を決定し、決定された混合率にしたがって染色液原液と希釈液とを混合して染色液を調製し、調製された染色液を用いて塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されている、
請求項1又は2に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項4】
染色液調製部は、
染色液原液と希釈液とを混合するための混合容器と、
染色液原液を混合容器へ供給する第1供給部と、
希釈液を混合容器へ供給する第2供給部と、
を有し、
制御部は、決定された混合率に応じて染色液原液及び希釈液のそれぞれを混合容器へ供給するように、第1供給部及び第2供給部を制御すべく構成されている、
請求項3に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項5】
制御部は、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて、染色液を用いて塗抹標本を染色する染色時間を含む第2の染色条件を決定し、決定された染色時間にしたがって、塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項6】
染色部は、
塗抹標本を収容する収容体を搬送する搬送部と、
搬送部により搬送される収容体の内部に染色液を吐出し、収容体の内部から染色液を吸引する吐出吸引部と、
を具備し、
制御部は、搬送部により搬送される収容体の内部に染色液を吐出し、収容体の内部に染色液が吐出されてから決定された染色時間が経過したときに、収容体の内部から染色液を吸引するように吐出吸引部を制御すべく構成されている、
請求項5に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項7】
染色部は、染色液原液と希釈液とを混合することにより染色液を調製する染色液調製部を具備し、染色液調製部において調製された染色液を用いて塗抹標本に染色を施すように構成されており、
制御部は、染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて、染色液原液と希釈液との混合率及び染色液を用いて塗抹標本を染色する染色時間を含む第2の染色条件を決定し、決定された混合率にしたがって染色液原液と希釈液とを混合して染色液を調製し、調製された染色液を用いて、決定された染色時間にしたがって塗抹標本に染色を施すように染色部を制御すべく構成されている、
請求項1又は2に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項8】
表示部をさらに備え、
制御部は、染色状態情報を入力するための画面を表示部に表示させ、
情報受付部は、染色状態情報を入力するための画面が表示部に表示されているときに、染色状態情報の入力を受け付けるように構成されている、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項9】
制御部は、染色液原液が交換された後、最初に行われる塗抹標本の染色において、第1の染色条件にしたがって塗抹標本に染色を施すように染色部を制御し、第1の染色条件にしたがって塗抹標本が染色された後、前記画面を表示部に表示させるよう構成されている、
請求項8に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項10】
制御部は、第1の染色条件を記憶する記憶部を具備し、染色状態情報、染色状態目標値及び記憶部に記憶されている第1の染色条件に基づいて、第2の染色条件を決定するように構成されている、
請求項1乃至9の何れか1項に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項11】
染色状態情報は、第1の染色条件にしたがって染色された塗抹標本に含まれる細胞の核における色に関する情報である、
請求項1乃至10の何れか1項に記載の塗抹標本染色装置。
【請求項12】
スライドガラスに検体を塗抹して塗抹標本を作製する塗抹標本作製部と、
染色液を用いて、塗抹標本作製部により作製された塗抹標本に染色を施す染色部と、
第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を受け付ける情報受付部と、
情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色部の第2の染色条件を決定する制御部と、
を備える、
塗抹標本作製装置。
【請求項13】
染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色部を具備する塗抹標本染色装置と、
塗抹標本染色装置により染色された塗抹標本を撮像して画像を取得し、得られた画像を解析して塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を出力する塗抹標本撮像装置と、
を備え、
塗抹標本染色装置は、
第1の染色条件にしたがって染色部により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を、塗抹標本撮像装置から受け付ける情報受付部と、
情報受付部によって受け付けた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色部の第2の染色条件を決定する制御部と、
を具備する、
塗抹標本処理システム。
【請求項14】
染色液を用いて塗抹標本に染色を施す染色装置により、第1の染色条件にしたがって塗抹標本を染色する工程と、
第1の染色条件にしたがって染色装置により染色された塗抹標本の染色状態を示す染色状態情報を取得する工程と、
得られた染色状態情報と染色状態目標値とに基づいて染色装置の第2の染色条件を決定する工程と、を含む染色条件の決定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−185895(P2011−185895A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54265(P2010−54265)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】