説明

塗料、位相差素子、表示装置、位相差素子の製造方法

【課題】一般入手可能な材料で低粘度と高い耐熱温度(Tg)を実現することの可能な、液晶性モノマーを含む塗料と、そのような塗料を用いて形成した位相差素子およびそれを備えた表示装置と、そのような塗料を用いた位相差素子の製造方法とを提供する。
【解決手段】配向膜上に塗布する塗料1として、液晶性モノマー10と非液晶性モノマー20とを含むものが用いられる。非液晶性モノマー20は、塗料1に含まれる液晶性モノマー10同士の間に入り込み、液晶性モノマー10同士の間に働く相互作用を小さくする作用を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性モノマーを含む塗料、およびその塗料を用いて製造された位相差素子に関する。また、本発明は、上記の位相差素子を備えた表示装置に関する。さらに、本発明は、上記の位相差素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光眼鏡を用いるタイプの立体映像表示装置として、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるものがある。このような表示装置では、視聴者が偏光眼鏡をかけた上で、左目用画素からの射出光を左目のみに入射させ、右目用画素からの射出光を右目のみに入射させることにより、立体映像の観察を可能とするものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるために位相差素子が用いられている。この位相差素子では、一の方向に遅相軸または進相軸を有する位相差領域が左目用画素に対応して設けられ、上記位相差領域とは異なる方向に遅相軸または進相軸を有する位相差領域が右目用画素に対応して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3360787号
【特許文献2】特開2008−248061号公報
【特許文献3】特開2010−83781号公報
【特許文献4】特開2000−345164号公報
【特許文献5】特許第4385997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の位相差素子は、例えば、表面がラビング処理された配向膜の上に、液晶性モノマーを含む液晶層を塗布し、それを加熱し、硬化させることにより形成される。ところで、配向膜の上に液晶層を塗布すると、液晶層に含まれる液晶性モノマーのうち配向膜に近い箇所の液晶性モノマーは配向膜の配向規制力によって配向する。しかし、液晶層に含まれる液晶性モノマーのうち、配向膜から遠く離れた箇所の液晶性モノマーに対しては、配向膜の配向規制力が作用しにくい。そのため、配向欠陥が生じ易く、歩留まりが低くなり易いという問題があった。
【0006】
そのため、従来から、そのような問題を解決するための方策が多数提案されている。例えば、特許文献2には、配向膜上に塗布した液晶層を硬化させる前段階において、液晶層の加熱温度を、液晶層が液晶相を示す温度にまで高くすることが開示されている。しかし、液晶性モノマーとして多官能液晶性モノマーを用いる場合には、液晶層が液晶相を示す温度が、熱重合が誘起される程にまで高くなってしまい、液晶配向の均一性が劣化してしまうという問題があった。
【0007】
上記の問題に対して、粘度や、液晶相を示す温度を下げるために、分子量の低い液晶性モノマーや、単官能の液晶性モノマーを液晶層に添加することが考えられる。しかし、分子量の低い液晶性モノマーや、単官能の液晶性モノマーを液晶層に添加した場合には、配向膜上に塗布した液晶層を硬化させることにより形成されるシートの耐熱温度(Tg)が低くなる。その結果、シートの機械強度が低下し、熱により寸法安定性およびリタデーションが低下するという問題がある。なお、特許文献3には、液晶相を示す温度を下げつつ、シートの機械強度を確保することの可能な硬化性液晶材料が開示されているが、この硬化性液晶材料は特殊な材料であり、製造コストや生産の観点で問題がある。
【0008】
特許文献4には、重合性の液晶材料に混合して空気との界面付近の液晶分子の配向を制御する添加剤が開示されている。しかし、この添加剤を用いたとしても、実際には空気との界面付近の液晶分子の配向を完全に制御することは難しい。さらに、この添加剤は低分子化合物であるので、この添加剤の全てが空気との界面付近に偏在することはできず、この添加剤の一部が液晶層の内部に残存してしまい、液晶材料の相転移点が低下する。その結果、熱により寸法安定性およびリタデーションが低下するという問題がある。
【0009】
特許文献5には、フッ素基を有するアクリル共重合体を液晶塗料に少量添加することが開示されている。これにより、アクリル共重合体がフッ素の効果により空気との界面付近に移動し、空気との界面付近の液体−液晶転移温度が低下し、配向膜の配向規制力が空気との界面付近にまで有効に働くようになる。その結果、配向欠陥を低減することができる。しかし、この場合には、アクリル共重合体の分子量と構造を制御したものを用意しておくことが必要となり、製造コストや生産の観点で問題がある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、一般入手可能な材料で低粘度と高い耐熱温度(Tg)を実現することの可能な、液晶性モノマーを含む塗料を提供することにある。第2の目的は、そのような塗料を用いて作成された位相差素子およびそれを備えた表示装置を提供することにある。第3の目的は、上記の塗料を用いた位相差素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の塗料は、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含むものである。本発明の塗料では、当該塗料に含まれる液晶性モノマー同士の間に、非液晶性モノマーが入り込み、液晶性モノマー同士の間に働く相互作用が小さくなっている。
【0012】
本発明の位相差素子は、配向膜と、配向膜の表面に接する位相差層とを備えたものである。ここで、位相差層は、配向膜の表面に、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を塗布したのち、液晶性モノマーを配向させた状態で塗料を重合させることにより形成されたものである。
【0013】
本発明の表示装置は、映像信号に基づいて駆動される表示パネルと、表示パネルを背後から照明するバックライトと、表示パネルとの関係でバックライトとは反対側に設けられた位相差素子とを備えたものである。ここで、この表示装置に設けられた位相差素子は、上記の位相差素子と同一の構成要素を有している。
【0014】
本発明の位相差素子および表示装置では、配向膜上の位相差層が、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を用いて形成されている。ここで、塗料には、非液晶性モノマーが含まれていることから、塗料に含まれる液晶性モノマー同士の間に、非液晶性モノマーが入り込み、液晶性モノマー同士の間に働く相互作用が小さくなっている。
【0015】
本発明の位相差素子の製造方法は、配向膜の表面に、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を塗布したのち、液晶性モノマーを配向させた状態で重合させることにより位相差層を形成する工程を含むものである。
【0016】
本発明の位相差素子の製造方法では、配向膜上に塗布する塗料に非液晶性モノマーが含まれている。これにより、塗料に含まれる液晶性モノマー同士の間に、非液晶性モノマーが入り込み、液晶性モノマー同士の間に働く相互作用が小さくなっている。
【0017】
ところで、本発明の塗料、位相差素子、表示装置、位相差素子の製造方法において、非液晶性モノマーは、例えば、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである。また、本発明において、非液晶性モノマーは、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有することが好ましい。また、本発明において、非液晶性モノマーは、液晶性モノマーとの重量比で、5wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗料によれば、塗料に含まれる液晶性モノマー同士の間に働く相互作用が小さくなるようにしたので、塗料に非液晶性モノマーが含まれていない場合と比べて、塗料の粘性を小さくすることができる。さらに、本発明では、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが含まれていなくても、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料の粘度と同等またはそれよりも小さな粘度(つまり、従来と同等か、または従来よりも低い粘度)を実現することができる。そのため、塗料に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、実使用に耐え得る低粘度を実現することができる。その結果、塗料に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合に、塗料を硬化させてシートを形成したときには、そのシートの耐熱温度(Tg)を、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料を硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)よりも、十分に高くすることが可能である。なお、非液晶性モノマーとしては、例えば、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーが挙げられる。これらの材料は、一般入手可能な材料であり、特殊な材料ではない。以上のことから、本発明では、低粘度と高い耐熱温度(Tg)を実現することができる。
【0019】
また、本発明の位相差素子、表示装置、位相差素子の製造方法によれば、液晶性モノマー同士の間に働く相互作用の小さな塗料を用いて位相差層を形成するようにしたので、塗料に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、実使用に耐え得る低粘度で位相差層を形成することができる。従って、例えば、塗料に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーを全く含めないか、またはわずかに含めた上で、その塗料を配向膜上に塗布し、硬化させて位相差素子を形成したときには、位相差素子の耐熱温度(Tg)を、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料を硬化させて形成した位相差素子の耐熱温度よりも、十分に高くすることが可能である。なお、塗料に含まれる非液晶性モノマーに用いられる材料は、一般入手可能な材料であり、特殊な材料ではない。従って、本発明の位相差素子およびその製造方法では、一般入手可能な材料で、耐熱温度(Tg)の高い位相差素子を実現することができる。その結果、位相差素子の加熱による寸法変化が小さくなるので、位相差素子の光学特性の温度依存性を小さくすることができる。また、本発明の表示装置では、光学特性の温度依存性の小さな位相差素子を用いることにより、表示品質を向上させることができる。また、光学特性の温度依存性の小さな位相差素子を3次元表示装置に用いた場合には、クロストークを小さくすることができる。
【0020】
ところで、上述したように、本発明の塗料の粘度は、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが含まれていなくても、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料の粘度と同等またはそれよりも小さくなっている。そのため、例えば、配向膜上の液晶性モノマーを配向させるための温度(いわゆる乾燥温度)を、100℃を越える高温にしなくても、配向膜上の液晶性モノマーを配向させることが可能となる。
【0021】
なお、乾燥温度は、等温相(I相)からネマティック相(N相)への転移温度(いわゆるN−I相転移温度)と相関を有する温度である。具体的には、乾燥温度とは、配向膜の表面に塗布した塗料を加熱したのち硬化させ、硬質のシートを作成し、そのシートを、クロスニコル配置した一対の偏光子の間に配置し、一方の偏光子側から光を入射させ、他方の偏光子から射出されてきた光(つまり透過光)を観察したときに、3.0×105μm2あたりに含まれる明点(輝度が局所的に明るい点)の数が10個以下となる温度条件の中で最低の温度を指している。なお、明点は、液晶性モノマーに配向欠陥が生じている箇所に対応するが、光学顕微鏡で明点が観察されない箇所(つまり黒領域)は、液晶性モノマーに配向欠陥が生じていないか、または生じていたとしても光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥しか生じていない箇所に対応している。
【0022】
乾燥温度が100℃を越えてしまう場合には、配向膜および塗料を支持する基材として樹脂フィルムを用いることが寸法精度上、難しくなる。従って、配向膜および塗料を支持する基材として樹脂フィルムを用いる場合には、乾燥温度が100℃以下(例えば、60℃〜80℃)となっていることが好ましい。本発明の塗料では、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが含まれていなくても、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料の粘度と同等またはそれよりも小さな粘度を実現することができる。従って、本発明の塗料において、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、乾燥温度を100℃以下にすることが可能であり、配向膜および塗料を支持する基材として樹脂フィルムを用いることが可能である。
【0023】
また、本発明の塗料において、非液晶性モノマーとして3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合には、非液晶性モノマーとしてそれ以外のものが用いられている場合と比べると、非液晶性モノマーの重量部および乾燥温度を同一にしたときに、3.0×105μm2あたりに含まれる明点の数を少なくしたり、またはゼロにしたりすることができる。また、非液晶性モノマーとして、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合には、明点の数だけでなく、光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数も格段に少なくすることができる。そのため、例えば、非液晶性モノマーとして、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合に、非液晶性モノマーが、液晶性モノマーとの重量比で5wt%以上10wt%以下となっているときには、1μm-2あたりに含まれる明点の数をゼロにすることができ、しかも光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数を格段に少なくすることができる。その結果、黒領域の黒輝度を極めて小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る塗料の構成の一例を表す模式図である。
【図2】図1の塗料に含まれる材料および従来の液晶材料と、粘度との関係を表す図である。
【図3】図2のLC242の構造を表す図である。
【図4】図2のTAICの構造を表す図である。
【図5】図2のA9300の構造を表す図である。
【図6】図2のA9300−1CLの構造を表す図である。
【図7】図2のADCPの構造を表す図である。
【図8】図2のA−TMM−3Lの構造を表す図である。
【図9】図2のM402の構造を表す図である。
【図10】図2のM7300Kの構造を表す図である。
【図11】図2のRMS−013Cに含まれる各液晶性モノマーの構造を表す図である。
【図12】実施例および比較例に係る材料と、配向評価との関係を表す図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る位相差素子の構成の一例を表す断面図である。
【図14】図13の位相差素子の製造方法の一例について説明するための模式図である。
【図15】実施例および比較例に係る材料と、黒輝度、白輝度およびコントラストとの関係を表す図である。
【図16】実施例および比較例に係る材料と、耐熱温度(Tg)およびリタデーション減少率との関係を表す図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係る表示装置の構成の一例を表す断面図である。
【図18】(A)図17の位相差素子の構成の一例を表す斜視図である。(B)図18(A)の位相差素子の光軸の一例を表す図である。
【図19】図17の表示装置内の透過軸および遅相軸について説明するための概念図である。
【図20】図17の表示装置と偏光眼鏡との関係について表すシステム図である。
【図21】実施例および比較例に係る材料と、プロセス温度およびクロストークとの関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態(塗料)
2.第2の実施の形態(位相差素子)
3.第3の実施の形態(表示装置)
【0026】
<1.第1の実施の形態>
まず、本発明の第1の実施の形態に係る塗料1について説明する。塗料1は、例えば、図1に示したように、容器30に収容可能な液状の材料であり、液晶性モノマー10と、非液晶性モノマー20とを含んで構成されたものである。なお、塗料1は、液晶性モノマー10および非液晶性モノマー20以外の材料を含んでいてもよく、例えば、開始剤や、界面活性剤、重合禁止剤、可塑剤、粘度調整剤などを含んでいてもよい。
【0027】
図2の実施例の欄は、液晶性モノマー10および非液晶性モノマー20に含まれる材料の一例を示したものである。図2の比較例の欄は、現在流通している液晶塗料の一例を示したものである。なお、図2の実施例の欄は、液晶性モノマー10および非液晶性モノマー20として採り得る材料を例示したものであり、液晶性モノマー10および非液晶性モノマー20が図2の実施例の欄に記載の材料だけに限定されることを示唆するものではない。
【0028】
液晶性モノマー10は、液晶性を有するモノマーであり、例えば、図2の実施例の欄に示したように、BASF社製の液晶性モノマーLC242からなる。LC242は、図3に示した構造となっている。なお、液晶性モノマー10は、図2の実施例の欄に示した材料に限定されるものではなく、例えば、後述の図11(B)または図11(C)に示した液晶性モノマーからなっていてもよい。液晶性モノマー10は、例えば、10wt%以上50wt%以下となっている。
【0029】
非液晶性モノマー20は、液晶性を有しないモノマーであり、具体的には、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである。非液晶性モノマー20は、液晶性モノマー10との重量比で1wt%以上となっている。これにより、塗料1の粘度を液晶性モノマー10の粘度よりも低下させる効果が得られる。非液晶性モノマー20は、液晶性モノマー10との重量比で5wt%以上となっていることが好ましい。これにより、低温(例えば25℃)の環境下でも、塗料1の粘度を実使用可能な大きさにまで小さくすることができる。ただし、非液晶性モノマー20が液晶性モノマー10との重量比で10wt%を超えて非液晶性モノマー20の割合が増えると、配向処理後の配向欠陥が多くなり、後述の乾燥温度が100℃を超えてしまうか、または全く配向しない場合がある。従って、非液晶性モノマー20は、5wt%以上10wt%以下となっていることが好ましい。
【0030】
メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーとしては、例えば、図2の実施例の欄に示したように、イソシアヌル環構造、トリシクロデカン環構造、OH有りのアルキル3官能、6官能アルキル、またはポリエステル多官能を有する重合性モノマーが挙げられる。イソシアヌル環構造は、IR(赤外分光法)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)などによって分析可能である。
【0031】
ここで、イソシアヌル環構造を有する重合性モノマーとしては、例えば、TAIC(日本化成社製)、A9300(新中村化学工業社製)、A93001CL(新中村化学工業社製)などの3官能の重合性モノマーが挙げられる。イソシアヌル環構造を有する重合性モノマーには、4官能以上の重合性モノマーも含まれる。ここで、TAICは、図4に示した構造となっている。A9300は、図5に示した構造となっている。A93001CLは、図6に示した構造となっている。TAICおよびA9300では、環構造内の3つの窒素原子から延在するそれぞれの枝が互いに同一の構造からなっている。また、A93001CLでは、環構造内の3つの窒素原子から延在するそれぞれの枝が互いに共通する構造を含んでいる。
【0032】
トリシクロデカン環構造を有する重合性モノマーとしては、例えば、ADCP(新中村化学工業社製)が挙げられる。ADCPは、図7に示した構造となっている。OH有りのアルキル3官能を有する重合性モノマーとしては、例えば、A−TMM−3L(新中村化学工業社製)が挙げられる。A−TMM−3Lは、図8に示した構造となっている。6官能アルキルを有する重合性モノマーとしては、例えば、M402(東亜合成社製)が挙げられる。M402は、図9に示した構造となっている。ポリエステル多官能を有する重合性モノマーとしては、例えば、M7300K(東亜合成社製)が挙げられる。M7300Kは、図10に示した構造となっている。
【0033】
非液晶性モノマー20の例として図2の実施例の欄に挙げた種々の材料は、いわゆる架橋剤といわれるものであり、液状の材料への添加により通常は液状の材料の粘度を上昇させる作用を有するものである。ところが、非液晶性モノマー20の例として図2の実施例の欄に挙げた種々の材料は、液晶性モノマー10に対しては粘度を低下させる作用を有している。これは、図1に模式的に示したように、非液晶性モノマー20が、互いに隣接する液晶性モノマー10同士の間に入り込み、互いに隣接する液晶性モノマー10間の相互作用を阻害するからである。従って、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーであって、かつ図2の実施例の欄に挙げた種々の材料とは異なる材料であっても、互いに隣接する液晶性モノマー10間の相互作用を阻害する作用を有するものであれば、非液晶性モノマー20として用いることが可能である。
【0034】
実際、図2の実施例の欄に示したように、液晶性モノマー10としてBASF社製の液晶性モノマーLC242を30wt%、非液晶性モノマー20として図2に示した材料を液晶性モノマー10との重量比で5wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を68.5wt%としたときの25℃の粘度は4.40〜4.64mPa・sである。この値は、BASF社製の液晶性モノマーLC242を30wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を70wt%としたときの25℃の粘度(5.00mPa・s)(図2の比較例の欄を参照。)よりも大幅に低くなっている。また、この値は、現在流通している液晶塗料の1つであるMerck社製の液晶塗料RMS−013C(液晶重量30wt%)の粘度(4.52mPa・s)(図2の比較例の欄を参照。)と同等の値であり、実使用可能な値となっている。なお、上記の粘度は、東機産業社製の回転式粘度計RE550Lを用いて計測することにより得られた実測値である。
【0035】
なお、RMS−013Cは、図11(A)〜(E)に記載の各液晶性モノマーを含んでおり、図11(A)〜(E)に記載の全ての液晶性モノマーの合計重量部が30wt%となるように各液晶性モノマーの重量部が設定されたものである。ここで、各液晶性モノマーの重量部は以下の範囲内で調整されている。
図11(A)に記載の材料:1wt%以上2.5wt%未満
図11(B)に記載の材料:1wt%以上10wt%未満
図11(C)に記載の材料:1wt%以上10wt%未満
図11(D)に記載の材料:10wt%以上25wt%未満
図11(E)に記載の材料:1wt%以上10wt%未満
【0036】
従って、本実施の形態の塗料1では、塗料に上記の非液晶性モノマー20が含まれていない場合と比べて、塗料1の粘性を小さくすることができる。さらに、本実施の形態の塗料1では、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが含まれていなくても、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料(例えば、上記のRMS−013C)の粘度と同等またはそれよりも小さな粘度(つまり、従来と同等か、または従来よりも低い粘度)を実現することができる。そのため、塗料1に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、実使用に耐え得る低粘度を実現することができる。
【0037】
その結果、塗料1に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合に、塗料1を硬化させてシートを形成したときには、そのシートの耐熱温度(Tg)を、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料を硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)よりも、十分に高くすることが可能である。例えば、RMS−013Cを硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)は、68℃である。一方、例えば、塗料1として、非液晶性モノマー20として図2の実施例の欄に示した材料を用いたものであって、かつ単官能の官能基を有する液晶性モノマーを全く含んでいないものを作成し、それを硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)は、99℃〜105℃の範囲内であった。つまり、この例では、耐熱温度(Tg)が、RMS−013Cを硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)よりも30℃以上高くなっている。従って、塗料1として、非液晶性モノマー20として図2の実施例の欄に示した材料を用いたものであって、かつ単官能の官能基を有する液晶性モノマーをわずかに(例えば液晶性モノマー10との重量比で数wt%程度)含んでいるものを作成し、それを硬化させてシートを形成した場合にも、耐熱温度(Tg)は、RMS−013Cを硬化させて形成したシートの耐熱温度(Tg)よりも高くなっていると思われる。なお、非液晶性モノマー20に用いられる材料は、一般入手可能な材料であり、特殊な材料ではない。以上のことから、本実施の形態の塗料1では、一般入手可能な材料で、低粘度と高い耐熱温度(Tg)を実現することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、上述したように、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、実使用に耐え得る低粘度の塗料1を実現することができる。これにより、例えば、塗料1を配向膜上に塗布したのち、塗料1の上面に配向膜を設けないで、塗料1に対して配向処理を行った場合に、塗料1の上面に分布する液晶性モノマー10に対しても、配向膜の配向規制力を作用させることができる。その結果、塗料1に対して、不純物とも言える非液晶性モノマー20が含まれているにも拘らず、良好な配向特性を得ることができ、高歩留まりを実現することができる。
【0039】
図12は、塗料の材料として、図2の実施例の欄に示した材料を用いたもの(実施例に係る塗料)と、図2の比較例の欄の1つに示した材料(LC242)を用いたもの(比較例に係る塗料)とを用いたときの配向特性の評価結果を示したものである。図12では、所定の配向膜上に、下記に示した条件で作成した塗料を塗布し、塗布した塗料を60℃、70℃、または80℃に加熱したのち硬化させ、硬質のシートを作成し、そのシートの配向特性が所望の配向状態となっているか否かを評価したものである。なお、図12中の○は、配向特性が所望の配向状態となっていたことを意味しており、図12中の×は、配向特性が所望の配向状態となっていなかったことを意味している。
【0040】
(実施例に係る塗料の条件)
液晶性モノマーとして図2の実施例の欄に示した材料を17.68wt%使用
非液晶性モノマーとして図2の実施例の欄に示した材料を液晶性モノマーとの重量比で5wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.98wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.096wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を80.4wt%、それぞれ使用
(比較例に係る塗料の条件)
液晶性モノマーとしてLC242を17.8wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.99wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.099wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を81.0wt%、それぞれ使用
【0041】
所望の配向状態となっているか否の評価には、乾燥温度の概念が用いられている。つまり、上記のようにして作成したシートを、クロスニコル配置した一対の偏光子の間に配置し、一方の偏光子側から光を入射させ、他方の偏光子から射出されてきた光(つまり透過光)を観察したときに、3.0×105μm2あたりに含まれる明点(輝度が局所的に明るい点)の数が10個以下となっていたら配向特性が所望の配向状態となっていると評価され、3.0×105μm2あたりに含まれる明点の数が10個を超えていたら配向特性が所望の配向状態となっていないと評価されている。
【0042】
なお、乾燥温度は、等温相(I相)からネマティック相(N相)への転移温度(いわゆるN−I相転移温度)と相関を有する温度である。具体的には、乾燥温度とは、配向膜の表面に塗布した塗料を加熱したのち硬化させ、硬質のシートを作成し、そのシートを、クロスニコル配置した一対の偏光子の間に配置し、一方の偏光子側から光を入射させ、他方の偏光子から射出されてきた光(つまり透過光)を観察したときに、3.0×105μm2あたりに含まれる明点(輝度が局所的に明るい点)の数が10個以下となる温度条件の中で最低の温度を指している。なお、明点は、液晶性モノマーに配向欠陥が生じている箇所に対応するが、光学顕微鏡で明点が観察されない箇所(つまり黒領域)は、液晶性モノマーに配向欠陥が生じていないか、または生じていたとしても光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥しか生じていない箇所に対応している。
【0043】
図12の実施例の欄から、非液晶性モノマーとして図12の実施例の欄に示したいずれの材料を用いた場合であっても、70℃、80℃における評価結果が○となっていることがわかる。また、図12の実施例の欄から、非液晶性モノマーとしてTAICまたはM7300Kを用いた場合には、60℃における評価結果でも○となっていることがわかる。以上のことから、非液晶性モノマーとしてメタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーを用いることにより、液晶性モノマーを配向させるための温度(つまり、上記の乾燥温度)を、100℃を越える高温にしなくても、配向膜上の液晶性モノマーを配向させることが可能となる。このように、実施例に係る塗料では、塗料の粘度を低くすることができるだけでなく、乾燥温度も低くすることができることがわかる。
【0044】
一方、図12の比較例の欄からは、非液晶性モノマーを不使用の場合には、60℃、70℃、80℃における評価結果がいずれも×となり、110℃においてようやく評価結果が○となったことがわかる。このことから、非液晶性モノマーを使用することにより、乾燥温度を劇的に低くすることができることがわかる。
【0045】
ところで、乾燥温度が100℃を越えてしまう場合には、配向膜および塗料を支持する基材として樹脂フィルムを用いることが寸法精度上、難しくなる。従って、配向膜および塗料を支持する基材として樹脂フィルムを用いる場合には、乾燥温度が100℃以下(例えば、60℃〜80℃)となっていることが好ましい。図12の実施例の欄からは、非液晶性モノマー20としてメタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーを用いることにより、乾燥温度を樹脂フィルムの寸法精度上の耐熱温度よりも十分に低くすることができることがわかる。従って、本実施の形態の塗料1では、塗料1を支持する基材として樹脂フィルムを用いることができる。
【0046】
なお、液晶性モノマー10として図12の実施例の欄に示した材料が10wt%以上50wt%以下となっており、かつ非液晶性モノマー20として図12の実施例の欄に示した材料が液晶性モノマー10との重量比で5%wt以上10wt%以下の範囲内で使用されている場合には、図12の実施例の欄と同様の評価結果が得られる。
【0047】
また、本実施の形態の塗料1において、非液晶性モノマー20として3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合には、非液晶性モノマーとしてそれ以外のものが用いられている場合と比べると、非液晶性モノマー20の重量部および乾燥温度を同一にしたときに、3.0×105μm2あたりに含まれる明点の数を少なくしたり、またはゼロにしたりすることができる。また、非液晶性モノマー20として、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合には、明点の数だけでなく、光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数も格段に少なくすることができる。そのため、例えば、非液晶性モノマー20として、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合に、非液晶性モノマー20が、液晶性モノマー10との重量比で5wt%以上10wt%以下となっているときには、3.0×105μm2あたりに含まれる明点の数をゼロにすることができ、しかも光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数を格段に少なくすることができる。
【0048】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る位相差素子2について説明する。図13は、位相差素子2の断面構成の一例を表したものである。位相差素子2は、入射光の偏光状態を変化させるものである。位相差素子2は、上記の塗料1を用いて作成されたものであり、例えば、図13に示したように、基材21上に、配向膜22および位相差層23をこの順に積層して構成されたものである。
【0049】
基材21は、光透過性を有する材料、例えば、ガラス板、透明樹脂フィルムによって構成されている。透明樹脂フィルムとしては、光学異方性の小さい、つまり複屈折の小さいものが好ましい。そのような透明樹脂フィルムとしては、例えば、COC(環状オレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、日本ゼオン社のゼオノア(登録商標)もしくはゼオネックス(登録商標)、JSR社のアートン(登録商標)、TAC(トリアセチルセルロース)、またはPET(ポリエチレンテレフタレート)が挙げられる。
【0050】
配向膜22は、液晶などを配向させる配向機能を有するものであり、例えば、後述するように、配向膜22上に塗布した塗料1に含まれる液晶性モノマー10を特定の方向に配向させる機能を有している。配向膜22は、面内の一の方向に延在する複数の微細溝を含んでいる。配向膜22の微細溝は、例えば、ラビング処理によって形成されたものである。位相差層23は、光学異方性を有する薄い層であり、入射光の偏光状態を変化させる機能を有している。位相差層23は、配向膜22の表面に設けられたものである。位相差層23は、例えば、配向膜22の表面に第1の実施の形態の塗料1を塗布したのち、塗布した後の塗料1に含まれる液晶性モノマー10を配向させた状態で重合させることにより形成されたものである。位相差層23は、面内の一の方向に遅相軸を有している。遅相軸は、配向膜22の微細溝の延在方向と平行な方向または所定の角度で交差する方向を向いている。
【0051】
本実施の形態の位相差素子2は、例えば、以下のようにして製造することが可能である。まず、基材21の表面全体に、例えば、ポリイミド系材料を塗布したのち、乾燥させ、焼成する。基材21としてプラスチック基板を用いる場合には、塗布した材料を100℃で真空乾燥させ、焼成することもできる。次に、塗布した材料に対してラビング処理を行う。これにより、所望の配向機能を有する配向膜22が形成される(図14(A))。次に、この後に塗布する塗料1の漏れを防止するためのシール剤を、例えば額縁状に塗布する。このシール剤はディスペンサー法やスクリーン印刷法にて形成することができる。
【0052】
次に、所定の体積の塗料1を配向膜22表面に均一に塗布する(図14(B))。塗料1の塗布にはリニアガイド方式の精密ディスペンサーを用いることが好ましいが、シール剤を土手として利用して、ダイコータなどを用いてもよい。ここで、塗料1には、液晶性モノマー10および非液晶性モノマー20の他には、開始剤(重合開始剤)を添加する。使用する紫外線波長に応じて、添加する開始剤の重量比を所定の範囲内で調整する。塗料1には、この他に、重合禁止剤や可塑剤、粘度調整剤なども必要に応じて添加可能である。塗料1が室温で固体やゲル状である場合には、口金やシリンジ、基板を加温することが好ましい。
【0053】
次に、必要に応じて配向処理を行うことが好ましい(図示せず)。クロスニコル偏光子の間に、塗料1が塗布された基材21を挿入した際に、配向乱れが生じている場合には、塗料1をある一定時間加熱処理して配向させる。例えば、図14(C)に示したように、基材21の裏面に配置したヒータHを発熱させ、その熱で塗料1を加熱処理する。このときの加熱温度は、基材21としてプラスチック基板を用いる場合には、100℃以下(例えば、60℃〜80℃)となっていることが好ましい。続いて、基材21を加熱した状態で、紫外線Lを照射して液晶性モノマー10を重合させてポリマー化する(図14(D))。なお、紫外線Lを照射している時には、塗料1の温度が変化しないようにすることが好ましい。赤外線カットフィルターを用いたり、光源にUV−LEDなどを用いたりすることが好ましい。このようにして、位相差素子2が製造される。
【0054】
本実施の形態では、上記実施の形態の塗料1が用いられている。これにより、塗料1を配向膜22上に塗布したのち、塗料1の上面に配向膜を設けないで、塗料1に対して配向処理を行った場合に、塗料1の上面に分布する液晶性モノマー10に対しても、配向膜22の配向規制力を作用させることができる。その結果、塗料1に対して、不純物とも言える非液晶性モノマー20が含まれているにも拘らず、良好な配向特性を得ることができ、高歩留まりを実現することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、上記実施の形態の塗料1が用いられている。これにより、塗料1に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが全く含まれていないか、またはわずかしか含まれていない場合であっても、実使用に耐え得る低粘度で位相差層23を形成することができる。従って、例えば、塗料1に対して、単官能の官能基を有する液晶性モノマーを全く含めないか、またはわずかに含めた上で、その塗料1を配向膜22上に塗布し、硬化させて位相差素子2を形成したときには、位相差素子2の耐熱温度(Tg)を、単官能の官能基を有する液晶性モノマーが多く含まれている塗料を硬化させて形成した位相差素子の耐熱温度よりも、十分に高くすることが可能である。なお、塗料1に含まれる非液晶性モノマー20に用いられる材料は、一般入手可能な材料であり、特殊な材料ではない。従って、本実施の形態の位相差素子2およびその製造方法では、一般入手可能な材料で、耐熱温度(Tg)の高い位相差素子2を実現することができる。その結果、位相差素子2の加熱による寸法変化が小さいので、位相差素子2の光学特性の温度依存性を小さくすることができる。
【0056】
また、本実施の形態では、上記実施の形態の塗料1が用いられていることから、液晶性モノマー10を配向させるための温度を、100℃を越える高温にしなくても(つまり、60℃〜80℃程度の低温で)、配向膜22上の液晶性モノマー10を配向させることができる。これにより、乾燥温度を樹脂フィルムの寸法精度上の耐熱温度よりも十分に低くすることができるので、塗料1を支持する基材21として樹脂フィルムを用いることができる。
【0057】
また、塗料1において、非液晶性モノマー20として3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有するものが用いられている場合には、明点の数だけでなく、光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数も格段に少なくすることができる。そのため、この場合には、格段に良好な配向特性を得ることができるので、例えば、位相差素子2を後述の表示装置3の映像表示面3Aに設置した場合に、黒輝度を極めて小さくすることができ、さらに、高コントラストを得ることが可能となる。
【0058】
図15は、塗料の材料として、図2の実施例の欄に示した材料を用いたもの(実施例に係る塗料)と、図2の比較例の欄の1つに示した材料(LC242)を用いたもの(比較例に係る塗料)とを用いたときの黒輝度および白輝度の測定値と、これら黒輝度および白輝度の比を取ることにより得られたコントラストとを示したものである。
【0059】
黒輝度および白輝度の計測は、以下のようにして行った。まず、実施例に係る塗料または比較例に係る塗料を用いることにより形成した位相差素子を、クロスニコル配置した一対の偏光子の間に配置し、位相差素子を回転させる。その状態で、一方の偏光子側から光を入射させ、他方の偏光子から射出されてきた光(つまり透過光)の輝度を計測したときに、計測値の最低値を黒輝度とし、計測値の最高値を白輝度とした。
【0060】
なお、実施例に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとして図15の実施例の欄に示した材料を17.68wt%使用
非液晶性モノマーとして図15の実施例の欄に示した材料を液晶性モノマーとの重量比で5wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.98wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.096wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を80.4wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃
【0061】
比較例に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとしてLC242を17.68wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.99wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.099wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を81.0wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃
【0062】
図15から、非液晶性モノマー20として3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を持った重合性モノマーを用いた位相差素子2において、黒輝度が最も小さく、コントラストが最も大きいことがわかる。これは、非液晶性モノマー20としてそのような重合性モノマーを用いることにより、明点の数だけでなく、光学顕微鏡では観察できない程度のわずかな配向欠陥の数も格段に少なくすることができたためである。
【0063】
これらの効果に加え、実施例に係る位相差素子の製造方法では、従来技術のように単官能の液晶性モノマーを添加する必要がないので、2官能以上の液晶性モノマーをそのまま使用することができる。2官能以上の液晶性モノマーでは、メソゲン基の両端が架橋により固定化され、分子の揺らぎの影響が少ない。従って、実施例に係る位相差素子では、高温や高湿状態において高い信頼性が得られる。
【0064】
図16は、実施例および比較例に係る位相差素子の耐熱温度(Tg)およびリタデーション減少率の結果を表したものである。リタデーション減少率とは、以下の式で示したように、位相差素子を所定の環境下に所定の期間、曝したときの、リタデーションの変化量(減少量)を、そのような環境下に曝す前のリタデーション値で除算することにより得られた値に100をかけた値を指している。図16中の左側のリタデーション減少率は、90℃のドライ環境下に500時間、位相差素子を曝したときの結果であり、図16中の右側のリタデーション減少率は、60℃、90%RHの環境下に500時間、位相差素子を曝したときの結果である。なお、実施例および比較例に係る位相差素子の初期のリタデーション(試験前のリタデーショ)は126nmであった。
【0065】
ΔRe=(Re2−Re1)/Re1×100
ΔRe:リタデーション減少率
Re1:位相差素子を所定の環境下に曝す前の位相差素子のリタデーション
Re2:位相差素子を所定の環境下に所定の期間、曝したときの位相差素子のリタデーション
【0066】
実施例に係る位相差素子では、塗料として図16の実施例の欄に記載の材料が含まれているものを用いた。一方、比較例に係る位相差素子では、液晶塗料として、図16の比較例の欄に記載の材料が含まれているものを用いた。
【0067】
なお、実施例に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとして図16の実施例の欄に示した材料を17.68wt%使用
非液晶性モノマーとして図16の実施例の欄に示した材料を液晶性モノマーとの重量比で5wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.98wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.096wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を80.4wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃
【0068】
一方、比較例2に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとしてLC242を17.68wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.99wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.099wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を81.0wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃
【0069】
図16から、実施例に係る位相差素子では、比較例2に係る位相差素子と同等の耐熱温度(Tg)となっており、比較例1に係る位相差素子よりも耐熱温度(Tg)が優れていることがわかった。つまり、非液晶性モノマーの添加によって耐熱温度(Tg)はほとんど変化しないことがわかった。また、図16から、実施例に係る位相差素子では、比較例2に係る位相差素子と同等のリタデーション減少率となっており、比較例1に係る位相差素子よりもリタデーション減少率が優れていることがわかった。つまり、非液晶性モノマーの添加によってリタデーション減少率はほとんど変化しないことがわかった。
【0070】
(第2の実施の形態の変形例)
なお、本実施の形態の位相差素子2において、配向膜22が、微細溝の延在方向が互いに異なる複数種類の配向領域によって構成されていてもよい。この場合には、位相差層23は、上記の配向領域に含まれる微細溝の延在方向に対応する方向に遅相軸を有する複数種類の位相差領域によって構成されている。
【0071】
<3.第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る表示装置3について説明する。図17は、表示装置3の断面構成の一例を表すものである。表示装置3は、後述する偏光眼鏡6を眼球の前に装着した観察者(図示せず)に対して立体映像を表示する偏光眼鏡方式の表示装置である。この表示装置3は、バックライトユニット4、液晶表示パネル5および位相差素子2をこの順に積層して構成されたものである。なお、液晶表示パネル5は、本発明の「表示パネル」の一具体例に相当する。この表示装置3において、位相差素子2は液晶表示パネル5の光射出側の面に貼り合わされている。位相差素子2の表面が映像表示面3Aとなっており、観察者側に向けられている。
【0072】
なお、本実施の形態では、映像表示面が垂直面(鉛直面)と平行となるように表示装置3が配置されている。映像表示面は長方形状となっており、映像表示面の長手方向が水平方向(図中のy軸方向)と平行となっている。観察者は偏光眼鏡6を眼球の前に装着した上で、映像表示面を観察するものとする。偏光眼鏡6は、例えば円偏光タイプであり、表示装置3は、例えば円偏光眼鏡用の表示装置である。
【0073】
(バックライトユニット4)
バックライトユニット4は、液晶表示パネル5を背後から照明するものである。例えば、反射板、光源および光学シート(いずれも図示せず)を有している。反射板は、光源からの射出光を光学シート側に戻すものであり、反射、散乱、拡散などの機能を有している。この反射板は、例えば、発泡PET(ポリエチレンテレフタレート)などによって構成されている。これにより、光源からの射出光を効率的に利用することができる。光源は、液晶表示パネル5を背後から照明するものであり、例えば、複数の線状光源が等間隔で並列配置されたり、複数の点状光源が2次元配列されたりしたものである。なお、線状光源としては、例えば、熱陰極管(HCFL;Hot Cathode Fluorescent Lamp)、冷陰極管(CCFL;Cold Cathode Fluorescent Lamp)などが挙げられる。また、点状光源としては、例えば、発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)などが挙げられる。光学シートは、光源からの光の面内輝度分布を均一化したり、光源からの光の発散角や偏光状態を所望の範囲内に調整したりするものであり、例えば、拡散板、拡散シート、プリズムシート、反射型偏光素子、位相差板などから選ばれた1または複数の部材によって構成されている。
【0074】
(液晶表示パネル5)
液晶表示パネル5は、複数の画素が行方向および列方向に2次元配列された透過型の表示パネルであり、映像信号に応じて各画素が駆動されることによって画像を表示するものである。この液晶表示パネル5は、例えば、図17に示したように、バックライトユニット4側から順に、偏光板51A、透明基板52、画素電極53、配向膜54、液晶層55、配向膜56、共通電極57、カラーフィルタ58、透明基板59および偏光板51Bを有している。
【0075】
ここで、偏光板51Aは、液晶表示パネル5の光入射側に配置された偏光板であり、偏光板51Bは液晶表示パネル5の光射出側に配置された偏光板である。偏光板51A,51Bは、光学シャッターの一種であり、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光板51A,51Bはそれぞれ、例えば、偏光軸が互いに所定の角度だけ(例えば90度)異なるように配置されており、これによりバックライトユニット4からの射出光が液晶層を介して透過し、あるいは遮断されるようになっている。
【0076】
偏光板51Aの透過軸(図示せず)の向きは、バックライトユニット4から射出された光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、バックライトユニット4から射出される光の偏光軸が垂直方向となっている場合には、偏光板51Aの透過軸も垂直方向を向いている。また、例えば、バックライトユニット4から射出される光の偏光軸が水平方向となっている場合には、偏光板51Aの透過軸も水平方向を向いている。なお、バックライトユニット4から射出される光は直線偏光光である場合に限られるものではなく、円偏光や、楕円偏光、無偏光であってもよい。
【0077】
偏光板51Bの偏光軸(図示せず)の向きは、液晶表示パネル5を透過した光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、偏光板51Aの偏光軸の向きが水平方向となっている場合には、偏光板51Bの偏光軸はそれと直交する方向(垂直方向)を向いている。偏光板51Aの偏光軸の向きが垂直方向となっている場合には、偏光板51Bの偏光軸はそれと直交する方向(水平方向)を向いている。
【0078】
透明基板52,59は、一般に、可視光に対して透明な基板である。なお、バックライトユニット4側の透明基板には、例えば、透明画素電極に電気的に接続された駆動素子としてのTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)および配線などを含むアクティブ型の駆動回路が形成されている。複数の画素電極53は、例えば透明基板52の面内に行列状に配置されている。この画素電極53は、例えば酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなり、画素ごとの電極として機能する。配向膜54は、例えばポリイミドなどの高分子材料からなり、液晶に対して配向処理を行う。液晶層55は、例えば、VA(Vertical Alignment)モード、TN(Twisted Nematic)モードまたはSTN(Super Twisted Nematic)モードの液晶からなる。この液晶層55は、図示しない駆動回路からの印加電圧により、バックライトユニット4からの射出光を画素ごとに透過または遮断する機能を有している。共通電極57は、例えばITOからなり、共通の対向電極として機能する。カラーフィルタ58は、バックライトユニット4からの射出光を、例えば、赤(R)、緑(G)および青(B)の三原色にそれぞれ色分離するためのフィルタ部58Aを配列して形成されている。このカラーフィルタ58では、フィルタ部58Aは画素間の境界に対応する部分に、遮光機能を有するブラックマトリクス部58Bが設けられている。
【0079】
(位相差素子2)
次に、位相差素子2について説明する。図18(A)は、本実施の形態の位相差素子2の構成の一例を斜視的に表したものである。図18(B)は、図18(A)の位相差素子2の遅相軸について表したものである。
【0080】
位相差素子2は、液晶表示パネル5の偏光板51Bを透過した光の偏光状態を変化させるものである。この位相差素子2は、液晶表示パネル5との関係でバックライトユニット4とは反対側に設けられており、例えば、図17、図18(A)に示したように、基材21、配向膜22および位相差層23を映像表示面3A側から順に有している。
【0081】
配向膜22は、図18(A)に示したように、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bを有している。右目用領域22Aおよび左目用領域22Bは、共通する一の方向(例えば水平方向)に延在する帯状の形状となっている。これら右目用領域22Aおよび左目用領域22Bは、基材21の面内方向に、隣接して規則的に配置されており、例えば、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bの短手方向(例えば垂直方向)に交互に配置されている。従って、この場合には、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bが互いに隣接する(接する)境界線は、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bの長手方向(水平方向)と同一の方向を向いている。また、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bは、複数の画素電極53の配列に対応して配置されている。
【0082】
右目用領域22Aは、例えば、右目用領域22Aの延在方向と直交以外の角度で交差する方向に延在する複数の微細溝を含んでいる。一方、左目用領域22Bは、例えば、左目用領域22Bの延在方向と直交以外の角度で交差する方向であって、かつ右目用領域22Aの微細溝の延在方向とは異なる方向に延在する複数の微細溝を含んでいる。右目用領域22Aの微細溝の延在方向と左目用領域22Bの微細溝の延在方向とは、例えば互いに直交している。
【0083】
位相差層23は、配向膜22の表面に設けられたものであり、液晶表示パネル5の光射出側の表面(偏光板51B)に貼り付けられている。位相差層23は、例えば、配向膜22の表面に、塗料1を塗布し、液晶性モノマー10を配向させたのち、配向した後の液晶性モノマー10を重合させることにより形成されたものである。位相差層23は、遅相軸の向きが互いに異なる2種類の位相差領域(右目用領域23A,左目用領域23B)を有している。
【0084】
右目用領域23Aおよび左目用領域23Bは、例えば、図17、図18(A)に示したように、共通する一の方向(例えば水平方向)に延在する帯状の形状となっている。これら右目用領域23Aおよび左目用領域23Bは、配向膜22の面内方向に、隣接して規則的に配置されており、具体的には、右目用領域22Aおよび左目用領域22Bの短手方向(例えば垂直方向)に交互に配置されている。位相差層23の右目用領域23Aは、図18(A)に示す右目用領域22Aの直上に配置されており、位相差層23の左目用領域23Bは、図18(A)に示す左目用領域22Bの直上に配置されている。また、位相差層23の右目用領域23Aおよび左目用領域23Bは、複数の画素電極53の配列に対応して配置されている。
【0085】
位相差層23の右目用領域23Aは、図18(A),(B)に示したように、位相差層23の右目用領域23Aおよび左目用領域23Bが互いに隣接する(接する)境界線BL1と直交以外の角度θ1で交差する方向に遅相軸AX1を有している。一方、位相差層23の左目用領域23Bは、図18(A),(B)に示したように、境界線BL1と直交以外の角度θ2で交差する方向であって、かつ遅相軸AX1の向きとは異なる方向に遅相軸AX2を有している。遅相軸AX1および遅相軸AX2は、例えば互いに直交しており、例えば、θ1が−45°(境界線BL1を基準に時計回り方向に45°)となっており、θ2が+45°(境界線BL1を基準に反時計回り方向に45°)となっている。
【0086】
ここで、「遅相軸AX1の向きとは異なる方向」とは、単に、遅相軸AX1の向きとは異なるということを意味しているだけでなく、境界線BL1に関して、遅相軸AX1とは反対方向に回転しているということを意味している。つまり、遅相軸AX1,AX2は、境界線BL1を挟んで互いに異なる方向に回転している。遅相軸AX1の角度θ1と、遅相軸AX2の角度θ2とは、絶対値としては(回転方向を考慮しない場合には)、互いに等しいことが好ましい。ただし、これらが、製造誤差(製造ばらつき)などによって若干、互いに異なっていてもよい。
【0087】
遅相軸AX1,AX2は、図19(A),(B)に示したように、液晶表示パネル5の偏光板51Bの偏光軸AX4とも交差する方向を向いている。さらに、遅相軸AX1は、後述する偏光眼鏡6の右目用位相差フィルム61Bの遅相軸AX5の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、偏光眼鏡6の左目用位相差フィルム62Bの遅相軸AX6の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX2は、遅相軸AX6の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX5の向きと異なる方向を向いている。
【0088】
(偏光眼鏡6)
次に、偏光眼鏡6について説明する。図20は、偏光眼鏡6の構成の一例を、表示装置3と共に斜視的に表したものである。偏光眼鏡6は、観察者(図示せず)の眼球の前に装着されるものであり、映像表示面3Aに映し出される映像を観察する際に観察者によって用いられるものである。この偏光眼鏡6は、例えば、図20に示したように、右目用眼鏡61および左目用眼鏡62を有している。
【0089】
右目用眼鏡61および左目用眼鏡62は、表示装置3の映像表示面3Aと対向するように配置されている。なお、これら右目用眼鏡61および左目用眼鏡62は、図20に示したように、できるだけ一の水平面内に配置されることが好ましいが、多少傾いた平坦面内に配置されていてもよい。
【0090】
右目用眼鏡61は、表示装置3から射出された映像光L1のうち右目用画像光L2を選択的に透過するものであり、例えば、偏光板61Aおよび右目用位相差フィルム61Bを有している。一方、左目用眼鏡62は、表示装置3から射出された映像光L1のうち左目用画像光L3を選択的に透過するものであり、例えば、偏光板62Aおよび左目用位相差フィルム62Bを有している。右目用位相差フィルム61Bは、偏光板61Aの表面であって、かつ光入射側に設けられたものである。左目用位相差フィルム62Bは、偏光板62Aの表面であって、かつ光入射側に設けられたものである。
【0091】
偏光板61A,62Aは、偏光眼鏡6における光Lの光射出側に配置されており、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光板61A,62Aの偏光軸AX7,AX8はそれぞれ、表示装置3における偏光板51Bの偏光軸AX4と直交する方向を向いている(図19(A),(B))。偏光軸AX7,AX8はそれぞれ、例えば、図19(A),(B)に示したように、偏光軸AX4が垂直方向を向いている場合には水平方向を向いており、偏光軸AX4が水平方向を向いている場合には垂直方向を向いている。
【0092】
右目用位相差フィルム61Bおよび左目用位相差フィルム62Bは、光学異方性を有する薄い層である。右目用位相差フィルム61Bの遅相軸AX5および左目用位相差フィルム62Bの遅相軸AX6は、図19(A),(B)に示したように、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いており、偏光板61A,62Aの偏光軸AX7,AX8とも交差する方向を向いている。また、遅相軸AX5は、遅相軸AX1の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX2の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX6は、遅相軸AX2と同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX1の向きと異なる方向を向いている。
【0093】
(基本動作)
次に、本実施の形態の表示装置1において画像を表示する際の基本動作の一例について説明する。
【0094】
まず、バックライトユニット4から照射された光が液晶表示パネル5に入射している状態で、映像信号として右目用画像および左目用画像を含む視差信号が液晶表示パネル5に入力される。すると、奇数行の画素から右目用画像光が出力され、偶数行の画素から左目用画像光が出力される。その後、右目用画像光および左目用画像光は、位相差素子2の右目用領域22Aおよび左目用領域22Bによって楕円偏光に変換され、位相差素子2の配向膜23を透過したのち、映像光L1として表示装置3の画像表示面3Aから外部に出力される。
【0095】
その後、表示装置3から出力された映像光L1は、偏光眼鏡6に入射し、右目用位相差フィルム61Bおよび左目用位相差フィルム62Bによって楕円偏光から直線偏光に戻されたのち、偏光眼鏡6の偏光板61A,62Aに入射する。このとき、偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち右目用画像光に対応する光の偏光軸は、偏光板61Aの偏光軸AX7と平行となっており、偏光板62Aの偏光軸AX8と直交している。従って、偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち右目用画像光に対応する光は、偏光板61Aだけを透過して、観察者の右目に到達する。一方、偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち左目用画像光に対応する光の偏光軸は、偏光板61Aの偏光軸AX7と直交しており、偏光板62Aの偏光軸AX8と平行となっている。従って、偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち左目用画像光に対応する光は、偏光板62Aだけを透過して、観察者の左目に到達する。
【0096】
このようにして、右目用画像光に対応する光が観察者の右目に到達し、左目用画像光に対応する光が観察者の左目に到達した結果、観察者は表示装置3の映像表示面3Aに立体画像が表示されているかのように認識することができる。
【0097】
(効果)
ところで、本実施の形態では、液晶表示パネル5の光射出側の面に位相差素子2が設けられているので、偏光眼鏡6の偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち右目用画像光に対応する光が偏光板62Aを透過したり、偏光眼鏡6の偏光板61A,62Aへの入射光(映像光L1)のうち左目用画像光に対応する光が偏光板61Aを透過したりする割合を極めて小さくすることができる。その結果、クロストークを極めて小さくすることができる。また、本実施の形態では、液晶表示パネル5の光射出側の面には、一般入手可能な材料で作成された耐熱温度(Tg)の高い位相差素子2が使用されている。これにより、位相差素子2の加熱による寸法変化が小さいので、位相差素子2の光学特性の温度依存性を小さくすることができる。その結果、表示品質を向上させることができる。
【0098】
また、位相差素子2として、非液晶性モノマー20として3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有する塗料1が用いられたものを用いた場合には、格段に良好な配向特性を得ることができる。これにより、クロストークを極めて小さくすることができるだけでなく、黒輝度を極めて小さくすることができ、高コントラストを得ることができる。
【0099】
図21は、実施例および比較例に係る表示装置におけるクロストークの計測結果を表したものである。図中のクロストークの値は、右目用画像光L1のクロストークの値である。ここで、右目用画像光L1のクロストークの値は、下記の式により求められる値である。
【0100】
右目用画像光L1のクロストーク=
(右目用画像光L1を、左目用眼鏡62を介して見たときの輝度)/(右目用画像光L1を、右目用眼鏡61を介して見たときの輝度)×100
【0101】
上記のクロストークが低くなるほど、立体表示特性が良くなる。逆に、上記のクロストークが高くなるほど、右目に左目用の画像光が入り込んだり、左目に右目用の画像光が入り込んだりするゴーストという現象が顕著となる。ゴーストは、眼精疲労を引き起こし、ひどい場合には、観察者がそもそも立体映像を見ることを困難にしてしまう。
【0102】
実施例に係る表示装置では、塗料として図21の実施例の欄に記載の材料が含まれているものを用いて製造した位相差素子を用いた。一方、比較例に係る表示装置では、液晶塗料として、図21の比較例の欄に記載の材料が含まれているものを用いて製造した位相差素子を用いた。
【0103】
なお、実施例に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとして図21の実施例の欄に示した材料を17.68wt%使用
非液晶性モノマーとして図21の実施例の欄に示した材料を液晶性モノマーとの重量比で5wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.98wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.096wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を80.4wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃
【0104】
一方、比較例4,5に係る位相差素子の製造条件は、以下の通りである。
液晶性モノマーとしてLC242を17.68wt%使用
その他の材料として、開始剤IRG907(BASF製)を0.99wt%、界面活性剤B330(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.099wt%、PGMEA:酢酸ブチル=50:50の溶液を81.0wt%、それぞれ使用
配向処理温度:80℃または110℃
【0105】
図21から、実施例に係る表示装置では、比較例に係るいずれの表示装置と比べても、クロストークが小さく、立体表示特性が優れていることがわかる。このことから、非液晶性モノマーを添加した場合の方が、プロセス温度を上げた場合よりも、クロストークを効果的に下げることができることがわかる。
【0106】
(第3の実施の形態の変形例)
上記の第3の実施の形態では、位相差素子2には、遅相軸の向きが互いに異なる2種類の位相差領域(右目用領域22A,左目用領域22B)が設けられていたが、遅相軸の向きが互いに異なる3種類以上の位相差領域が設けられていてもよい。
【0107】
また、上記の第3の実施の形態では、位相差素子2の位相差領域(右目用領域22A,左目用領域22B)が水平方向に延在している場合が例示されていたが、それ以外の方向に延在していてもかまわない。
【0108】
また、上記の第3の実施の形態およびその変形例では、位相差素子2を表示装置1に適用した場合が例示されていたが、他のデバイスに適用することももちろん可能である。
【0109】
また、上記の第3の実施の形態およびその変形例では、偏光眼鏡6が円偏光タイプであり、表示装置3としては円偏光眼鏡用の表示装置である場合について説明をしたが、本発明は、偏光眼鏡6が直線偏光タイプであり、表示装置3として直線偏光眼鏡用の表示装置である場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…塗料、2…位相差素子、3…表示装置、4…バックライトユニット、5…液晶表示パネル、6…偏光眼鏡、10…液晶性モノマー、20…非液晶性モノマー、21…基材、22,54,56…配向膜、23…位相差層、22A,23A…右目用領域、22B,23B…左目用領域、30…容器、51A,51B,61A,62A…偏光板、52,59…透明基板、53…画素電極、55…液晶層、57…共通電極、58…カラーフィルタ、58A…フィルタ部、58B…ブラックマトリクス部、61…右目用眼鏡、62…左目用眼鏡、61B…右目用位相差フィルム、62B…左目用位相差フィルム、AX1〜AX8…遅相軸または透過軸、BL1…境界線、H…ヒータ、L…紫外線、L1…映像光、θ1、θ2…角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む
塗料。
【請求項2】
前記非液晶性モノマーは、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである
請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記非液晶性モノマーは、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有する
請求項2に記載の塗料。
【請求項4】
前記非液晶性モノマーは、前記液晶性モノマーとの重量比で5wt%以上10wt%以下となっている
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の塗料。
【請求項5】
配向膜と、
前記配向膜の表面に接する位相差層と
を備え、
前記位相差層は、前記配向膜の表面に、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を塗布したのち、前記液晶性モノマーを配向させた状態で前記塗料を重合させることにより形成されたものである
位相差素子。
【請求項6】
前記非液晶性モノマーは、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである
請求項5に記載の位相差素子。
【請求項7】
前記非液晶性モノマーは、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有する
請求項6に記載の位相差素子。
【請求項8】
前記非液晶性モノマーは、前記液晶性モノマーとの重量比で5wt%以上10wt%以下となっている
請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の位相差素子。
【請求項9】
映像信号に基づいて駆動される表示パネルと、
前記表示パネルを背後から照明するバックライトと、
前記表示パネルとの関係で前記バックライトとは反対側に設けられた位相差素子と
を備え、
前記位相差素子は、
配向膜と、
前記配向膜の表面に接する位相差層と
を有し、
前記位相差層は、前記配向膜の表面に、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を塗布したのち、前記液晶性モノマーを配向させた状態で前記塗料を重合させることにより形成されたものである
表示装置。
【請求項10】
前記非液晶性モノマーは、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである
請求項9に記載の表示装置。
【請求項11】
前記非液晶性モノマーは、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有する
請求項10に記載の表示装置。
【請求項12】
前記非液晶性モノマーは、前記液晶性モノマーとの重量比で5wt%以上10wt%以下となっている
請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載の表示装置。
【請求項13】
配向膜の表面に、液晶性モノマーと非液晶性モノマーとを含む塗料を塗布したのち、前記液晶性モノマーを配向させた状態で重合させることにより位相差層を形成する
位相差素子の製造方法。
【請求項14】
前記非液晶性モノマーは、メタクリレートもしくはアクリレートを構造に有する重合性モノマーである
請求項13に記載の位相差素子の製造方法。
【請求項15】
前記非液晶性モノマーは、3官能以上の官能基を有するイソシアヌル環構造を有する
請求項14に記載の位相差素子の製造方法。
【請求項16】
前記非液晶性モノマーは、前記液晶性モノマーとの重量比で5wt%以上10wt%以下となっている
請求項13ないし請求項15のいずれか一項に記載の位相差素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−131917(P2012−131917A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285642(P2010−285642)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】