説明

塗料、及び、塗装チタンまたはチタン合金

【課題】チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができるチタンまたはチタン合金塗布用の塗料、及び、金属質感を有すると共に親水性を有する塗装チタンまたはチタン合金を提供する。
【解決手段】(1) アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母を含有することを特徴とする塗料、(2) 前記塗料において更に親油性合成雲母を含有するもの、(3) チタンまたはチタン合金表面に上記塗料の塗布層を有することを特徴とする塗装チタンまたはチタン合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、及び、塗装チタンまたはチタン合金に関する技術分野に属するものであり、特には、チタンまたはチタン合金塗布用の塗料に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
金属やそれらの複合材等の基材表面に親水性を付与して汚れや結露を防止するために、水溶性高分子などによる被膜を施すことが知られている。この被膜を形成する具体的なものとしては、水溶性高分子ではポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、イオン性高分子が使用されている。また、特開平7-102189号公報には、ポリエチレンオキサイド(PEO )に代表されるポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性高分子化合物と、水性アルキド樹脂、水性ポリエステル樹脂等の水性樹脂とを含有する親水性表面処理液が提案されている。
【0003】
水溶性高分子以外のものでは、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム等の水ガラスによる親水化も一般的に行われている。また、特開平8-283042号公報には、リン酸又はその誘導体とホウ酸又はその誘導体と溶媒からなる表面処理剤が提案されている。
【0004】
また、特開平9-194234号公報には、リン酸と溶解性のアルミニウム化合物と水溶性珪酸塩と溶媒からなる表面処理剤が物品表面に塗布され、200 〜600 ℃で熱処理された親水性物品が提案されている。
【特許文献1】特開平7-102189号公報
【特許文献2】特開平8-283042号公報
【特許文献3】特開平9-194234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記水溶性高分子による被膜は、耐候性、耐水性、耐熱性、親水性の長期持続性が十分でなく、被膜の硬度も十分とは言えず、また、種々の成分の配合による混合物であるために、一般に白濁または不透明となり、チタンやチタン合金に適用する場合には、その金属質感が損なわれ、チタンやチタン合金の有する高級感を損ねる問題があった。
【0006】
また、無機の水ガラスの場合は、初期の親水性は良好であるが、水処理を繰り返すうちに白化・失透し、更に乾燥を繰り返すうちに表面にミクロなひび割れが起こると言った問題があった。
【0007】
また、特開平8-283042号公報記載のリン酸又はその誘導体とホウ酸又はその誘導体と溶媒からなる表面処理剤は、初期の親水性は良好であるが、加温と流水浸漬を繰り返すと親水性が低下し、持続性が必ずしも十分とは言えなかった。
【0008】
また、特開平9-194234号公報記載の親水性物品は、リン酸とアルミニウム化合物と珪酸塩の3成分の混合液からなる表面処理剤を物品表面に塗布するものであるが、アルミニウム化合物として、陽性に帯電しているアルミナ粒子から構成されているアルミナゾルを用いるとリン酸及び/又は珪酸塩、特に珪酸塩の存在下においては凝集し易くなり、混合液が増粘ゲル化してしまう。そこで、帯電の無い溶解性のアルミニウム化合物を含む表面処理剤を塗布し、その後熱処理する場合、十分な強度で架橋させるには300 〜500 ℃の熱処理(焼き付け)工程が必要である。この熱処理温度が比較的高いため、基材の酸化による変色が生じてしまう問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができる塗料、及び、金属質感を有すると共に親水性を有する塗装チタンまたはチタン合金を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0011】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、塗料、及び、塗装チタンまたはチタン合金に係わり、請求項1〜2記載の塗料(第1〜2発明に係る塗料)、請求項3記載の塗装チタンまたはチタン合金(第3発明に係る塗装チタンまたはチタン合金)であり、それは次のような構成としたものである。
【0012】
即ち、請求項1記載の塗料は、アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母を含有することを特徴とする塗料である〔第1発明〕。
【0013】
請求項2記載の塗料は、更に親油性合成雲母を含有する請求項1記載の塗料である〔第2発明〕。
【0014】
請求項3記載の塗装チタンまたはチタン合金は、チタンまたはチタン合金表面に請求項1または2記載の塗料の塗布層を有することを特徴とする塗装チタンまたはチタン合金である〔第3発明〕。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る塗料によれば、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができる。このため、金属質感を有すると共に親水性を有する塗装チタンまたはチタン合金を得ることができる。
【0016】
本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、金属質感を有すると共に親水性を有するので、チタンやチタン合金の耐食性等の材質特性の他、金属質感および親水性も要求される用途の材料として好適に用いることができ、金属質感を維持することができると共に表面に付着した汚れを水洗等によって容易に除去できて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る塗料は、前述のように、アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母を含有することを特徴とするものである〔第1発明〕。本発明に係る塗料によれば、このような組成を有していることに起因して、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができる。このため、金属質感を有すると共に親水性を有する塗装チタンまたはチタン合金を得ることができる。
【0018】
以下、本発明に係る塗料について、主に各成分の作用効果を説明する。
【0019】
本発明に係る塗料は、アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母を含有している。アルミナゾル及びシリカゾルを含有すると、塗布されるチタンまたはチタン合金(以下、基材ともいう)の金属質感を損なうことなく、金属質感と共に親水性を有する被膜(塗膜)を基材に付与することができる。カチオン変性樹脂を含有すると、塗料のゲル化を抑制することができ、更には、塗膜と基材との密着性を向上させることができ、このため、耐久性に優れた塗膜を基材に付与することができる。絹雲母を含有すると、塗膜の焼き付け時に生じる黄変を抑制することができ、このため、金属質感を維持した塗膜を基材に付与することができる。なお、塗膜の親水性をより高めたい場合には上記成分に加えて親油性合成雲母を含有させるとよく、これを含有させると、より親水性に優れた塗膜を基材に付与することができる。
【0020】
上記の作用効果を発現するメカニズムについては、以下のように考えられる。アルミナゾル及びシリカゾルを含有すると、その固有の光沢度ゆえに基材との色差を小さくすることができ、このため、基材の金属質感を損なうことなく、基材の金属質感を維持することができ、また、アルミナゾル及びシリカゾル自身が有している高い親水性により、親水性を有する塗膜を基材に付与することができるものと考えられる。カチオン変性樹脂を含有すると、斥力によってアルミナゾル及びシリカゾルのゲル化が抑制され、塗工に良好な流動性を有する塗料となり、また、基材との密着性に優れた塗膜を形成できるようになり、それ故に、アルミナゾル及びシリカゾルが均一に分散した塗料となり、また、耐久性に優れた塗膜を実現することができるものと考えられる。このアルミナゾル及びシリカゾルを含有するだけでは、焼き付ける場合に黄変が生じ、基材の金属質感を損ねるが、絹雲母を含有すると、それが塗膜表面に偏在して塗膜を保護するために、焼き付け時の黄変を抑制することができ、それ故に、基材の金属質感を維持することができるものと考えられる。更に親油性合成雲母を含有させると、この雲母の塗膜内への高い分散により、アルミナゾル及びシリカゾルとの相互作用を強固にし、それ故に、塗膜の親水性をより高めることができるものと考えられる。
【0021】
以上のことからわかるように、本発明に係る塗料によれば、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができる。このため、金属質感を有すると共に親水性を有する塗装チタンまたはチタン合金を得ることができる。
【0022】
前述のように、塗膜の親水性をより高めたい場合には更に親油性合成雲母を含有させるとよい。更に親油性合成雲母を含有させると、被膜(塗膜)の親水性をより高めることができる〔第2発明〕。
【0023】
本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、前述のように、チタンまたはチタン合金表面に本発明に係る塗料(第1発明または第2発明に係る塗料)の塗布層を有することを特徴とするものである〔第3発明〕。本発明に係る塗料によれば、前述のように、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができる。故に、本発明に係る塗料の塗布層は、基材(チタンまたはチタン合金)の金属質感を損なうことがなく、また、親水性を有する。よって、本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、金属質感を有すると共に親水性を有することができる。
【0024】
従って、本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、金属質感を維持することができると共に、表面に付着した汚れを水洗や雨水等によって容易に除去できる(易洗浄性および防汚染性に優れている)。このため、チタンやチタン合金の耐食性等の材質特性の他、金属質感、易洗浄性および防汚染性も要求される用途の材料として好適に用いることができ、金属質感を維持することができると共に、表面に付着した汚れを水洗や雨水等によって容易に除去できて有用である。
【0025】
なお、本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金での本発明に係る塗料の塗布層は、本発明に係る塗料を塗布してなる層または本発明に係る塗料を塗布し焼き付けてなる層のことである。通常は、後者の塗布し焼き付けてなる層とした状態で使用し、前者の塗布してなる層もこれを焼き付け処理してから用いる。この塗布層は焼き付け後のものでは、シリカ及びアルミナ、または、シリカ・アルミナ複合酸化物、あるいは、シリカ及びアルミナならびにシリカ・アルミナ複合酸化物に、カチオン変性樹脂、絹雲母(第2発明に係る塗料の塗布層では、更に親油性合成雲母)が混ざった状態、あるいは更に必要に応じて添加された添加剤(分散剤、増粘剤、界面活性剤、顔料等)が混ざった状態のものからなる。即ち、シリカ及びアルミナ、または、シリカ・アルミナ複合酸化物、あるいは、シリカ及びアルミナならびにシリカ・アルミナ複合酸化物を含有すると共に、カチオン変性樹脂および絹雲母(第2発明に係る塗料の塗布層では、更に親油性合成雲母)を含有する層からなる。
【0026】
本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、チタンまたはチタン合金表面に本発明に係る塗料を塗布し、あるいは更に焼き付けることにより、製造される。通常は、塗布した後、焼き付け処理をしてから使用する。
【0027】
本発明において、アルミナゾルとしては、特に限定されるものではなく、基材(チタンまたはチタン合金)表面に塗布され、150 〜 300℃の焼き付けによって膜が形成されるものがよいが、特に5〜200 μm のコロイドの大きさを有するものが好適である。このようなアルミナゾルとしては、例えばアルミナゾル-100、200 乃至は520 (いずれも日産化学工業株式会社製)、アルミナクリアーゾル、アルミゾル-10 、アルミゾル-CSA 55 、アルミゾル-SH5(いずれも川研ファインケミカル株式会社製)等の市販品のアルミナゾルを使用することができ、水、有機溶媒または両者の混合溶液で分散させて使用する。なお、アルミナゾルは、化学名でコロイダルアルミナといわれるものであり、通常、 Al2O3・nH2O含有量:20質量%(重量%)である。
【0028】
シリカゾルとしては、特に限定されるものではなく、基材表面に塗布され、150 〜 300℃の焼き付けによって膜が形成されるものがよいが、特に無定形シリカ粒子が水溶液中あるいは有機溶媒中に分散して10〜100nm のコロイド状のコロイダルシリカとなったものを好適に用いることができる。このようなコロイダルシリカとしては、スノーテックスO、メタノールシリカゾル、IPA-ST、EG-ST (いずれも日産化学工業株式会社製)、シリカドール20A、シリカドール20P(いずれも日本化学工業株式会社製)等の市販品のコロイダルシリカを使用することができる。なお、シリカゾルは、化学名でコロイダルシリカといわれるものであり、通常、SiO2含有量:15〜50質量%である。
【0029】
カチオン変性樹脂としては、特に限定されるものではないが、基材表面に塗布され、150 〜 300℃の焼き付けによって膜が形成されるものがよい。このようなカチオン変性樹脂としては、パテラコールIJ-2、IJ-21 、IJ-60 (いずれも大日本インキ化学工業株式会社製)、ゴーセファイマー K-210(日本合成化学工業株式会社製)、アデカレジンEM436F(株式会社ADEKA 製)等の市販品を使用することができる。
【0030】
絹雲母としては、特に限定されるものではないが、アルミナゾル、シリカゾルおよびカチオン変性樹脂とともに基材表面に塗布され、150 〜 300℃の焼き付けによって膜が形成されるものがよい。このような絹雲母としては、タカラマイカM-101(白石カルシウム株式会社製)、斐川マイカZ20(斐川礦業株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0031】
親油性合成雲母としては、特に限定されるものではないが、アルミナゾル、シリカゾルおよびカチオン変性樹脂ならびに絹雲母とともに基材表面に塗布され、150 〜 300℃の焼き付けによって膜が形成されるものがよい。かかる親油性合成雲母としては、ルーセンタイトSPN 、ソマシフMPE (いずれもコープケミカル株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0032】
基材(チタン、チタン合金)としては、特に限定されるものではなく、JIS H 4600で規定される種類1、2、3、4、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、60、60E、61、61F、80種等を用いることができる。
【0033】
アルミナゾルとシリカゾルの配合比率については、アルミナゾル成分に対するシリカゾル成分の固形分重量比(シリカゾル成分の固形分の重量/アルミナゾル成分の固形分の重量)が20/80〜50/50の範囲であることが好ましい。前記重量比が20/80未満(シリカゾル成分がアルミナゾル成分に対して20重量%未満)の場合は、前述のアルミナゾル及びシリカゾルの含有による効果が十分には発揮されず、一方、前記重量比が50/50超(シリカゾル成分がアルミナゾル成分に対して50重量%超)の場合は、ゾル溶液が増粘ゲル化しやすくなり、保存安定性が低下するので好ましくない。
【0034】
絹雲母の配合比率については、アルミナゾル成分に対する絹雲母の固形分重量比(絹雲母の固形分の重量/アルミナゾル成分の固形分の重量)が5/95〜40/60の範囲であることが好ましい。前記重量比が5/95未満(絹雲母がアルミナゾル成分に対して5重量%未満)の場合は、前述の絹雲母の含有による効果が十分には発揮されず、一方、前記重量比が40/60超(絹雲母がアルミナゾル成分に対して40重量%超)の場合は、表面性状が悪くなるので好ましくない。
【0035】
親油性合成雲母の配合比率については、アルミナゾル成分に対する親油性合成雲母および絹雲母の固形分重量比〔(親油性合成雲母の重量+絹雲母の重量)/アルミナゾル成分の固形分の重量〕で5/95〜40/60の範囲であり、且つ、絹雲母に対する親油性合成雲母の固形分重量比(親油性合成雲母の重量/絹雲母の重量)が70/30以下であることが好ましい。絹雲母に対する親油性合成雲母の固形分重量比が70/30超(親油性合成雲母が絹雲母に対して70重量%超)の場合は、焼き付け時の黄変が発生しやすくなるので好ましくない。
【0036】
本発明に係る塗料は、アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母(第2発明に係る塗料では、更に親油性合成雲母)を塗料溶剤に分散させて作られる。このとき、性能を損なわない範囲であれば、添加剤として、分散剤、増粘剤、界面活性剤、顔料等を添加することができる。上記塗料溶剤としては、水、アルコール類が最適であるが、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラハイドロフラン、エチレングリコール、ブチルセルソルブなどの水混和性の溶剤を、本発明の作用効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0037】
本発明に係る塗料を基材(チタンまたはチタン合金)表面に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、ディッピング法や、ロールコーター法、スピンコーティング法、スプレー法など、従来より使用されている塗装方法が利用できる。
【0038】
本発明に係る塗料を基材(チタンまたはチタン合金)表面に塗布した後、焼き付ける場合、焼き付けの条件は、温度と時間および基材材質などの要因があるので、一義的には規定することはできないが、通常、焼き付けは150 〜 300℃の温度で熱処理することにより行われる。温度が150 ℃より低いと焼き付けが不十分となり、一方、 300℃より高いと、黄変等、塗膜の性能を損ねる現象が起こるので好ましくない。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0040】
〔No.1(本発明例)〕
基材(チタンまたはチタン合金)としては、幅:80mm、長さ:150mm 、厚さ:0.3mm の純チタン(JIS 1種)板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520(日産化学工業株式会社製)、シリカドール20P(日本化学工業株式会社製)、アデカレジンEM436F(株式会社 ADEKA製)、斐川マイカZ20(斐川礦業株式会社製)、水、メタノールを混合したものを用いた。このとき、固形分での混合比(重量比)を、アルミナゾル-520:シリカドール20P:斐川マイカZ20=3.5 :1.5 :1とし、固形分濃度を合計で9重量%(質量%)とした。なお、アルミナゾル-520はアルミナゾルの一種、シリカドール20Pはシリカゾルの一種、アデカレジンEM436Fはカチオン変性樹脂の一種、斐川マイカZ20は絹雲母の一種に相当するものである。
【0041】
上記塗料をバーコーターにより基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.1(本発明例)の塗装チタンを得た。
【0042】
〔No.2(本発明例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520、シリカドール20P、アデカレジンEM436F、斐川マイカZ20、ソマシフMPE (コープケミカル株式会社製)、水、メタノールを混合したものを用いた。このとき、固形分での混合比(重量比)を、アルミナゾル-520:シリカドール20P:斐川マイカZ20:ソマシフMPE =3.5 :1.5 :0.5 :0.5 とし、固形分濃度を合計で9質量%(重量%)とした。なお、ソマシフMPE は親油性合成雲母の一種に相当するものである。
【0043】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.2(本発明例)の塗装チタンを得た。
【0044】
〔No.3(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520を用いた。
【0045】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。しかし、塗膜が十分に密着せず、基材から剥離した。
【0046】
〔No.4(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、シリカドール20Pを用いた。
【0047】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。しかし、塗膜が十分に密着せず、基材から剥離した。
【0048】
〔No.5(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アデカレジンEM436Fを用いた。
【0049】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.5(比較例)の塗装チタンを得た。
【0050】
〔No.6(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520、シリカドール20Pを混合したものを用いた。このとき、固形分での混合比(重量比)を、アルミナゾル-520:シリカドール20P=3.5 :1.5 とした。
【0051】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。しかし、塗膜が十分に密着せず、基材から剥離した。
【0052】
〔No.7(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520、アデカレジンEM436Fを混合したものを用いた。このとき、固形分濃度を21.5質量%とした。
【0053】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.7(比較例)の塗装チタンを得た。
【0054】
〔No.8(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、シリカドール20P、アデカレジンEM436Fを混合したものを用いた。このとき、固形分濃度を22.6質量%とした。
【0055】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.8(比較例)の塗装チタンを得た。
【0056】
〔No.9(比較例)〕
基材としては、前記No.1の場合と同様の純チタン板を用いた。塗料としては、アルミナゾル-520、シリカドール20P、アデカレジンEM436Fを混合したものを用いた。このとき、固形分での混合比(重量比)を、アルミナゾル-520:シリカドール20P=3.5 :1.5 とし、固形分濃度を合計で21.2質量%とした。
【0057】
上記塗料をバーコーターを用いて基材に塗布した後、260 ℃で1分間焼き付け処理を行った。このようにしてNo.9(比較例)の塗装チタンを得た。
【0058】
〔評価試験項目および評価試験方法〕
このようにして得られた塗装チタンについて、光沢度、色差、水接触角の測定、水塗れ性の評価試験、外観の観察を行った。これらの測定、評価試験、観察は、下記方法により行った。
【0059】
光沢度は、株式会社東洋精機製作所製GLOSS METER UDを用いて測定した。色差は、コニカミノルタ株式会社製色彩色差計CR-200を用いて測定した。水接触角は、協和界面科学製CA-A型接触角計を用いて測定した。外観の観察は目視により行い、塗膜面の状態を評価した。
【0060】
水塗れ性については、塗装チタンの表面に水を霧状に噴霧し、水塗れ状態を目視観察して評価した。即ち、目視観察の結果、表面にハジキが全く無い(即ち、水噴霧部全面が水で濡れている)場合は◎(極良好)、ハジキが有る部分(即ち、水がはじかれて水で濡れていない部分)の総面積(以下、ハジキ部面積という)が水噴霧面積の50%以下の場合は○(良好)、ハジキ部面積が水噴霧面積の50%超100 %未満の場合は△(不良)、ハジキが全面にある(即ち、ハジキ部面積が水噴霧面積の100 %)の場合は×(極不良)として評価した。
【0061】
〔評価試験の結果〕
上記評価試験の結果を表1に示す。なお、表1において、L値、a値、b値、ΔEは、色差に係わる値であって、L値は明度、a値は赤−緑方向の彩度、b値は黄−青方向の彩度であり、ΔEは、下記式(1) より求められる被膜と基材との色差を示すものである。
【0062】
【数1】

【0063】
表1から明らかなように、No.1〜2 (本発明例)の塗装チタンの場合、被膜(塗膜)と基材のチタン板(以下、原板ともいう)との光沢度差および色差が小さくて、原板の金属質感を良好に保持しており、また、水塗れ性が◎(極良好)あるいは○(良好)であって親水性に優れていて、易洗浄性に優れている。中でも、No.2の塗装チタンは特に易洗浄性が優れている。
【0064】
No.5(比較例)の塗装チタンの場合、被膜と原板との光沢度差および色差が大きくて、原板の金属質感を充分保持することができず、また、水塗れ性が△(不良)であって親水性が不充分である。No.7(比較例)の塗装チタンの場合、水塗れ性が○(良好)であり、被膜と原板との光沢度差は小さいものの、被膜と原板との色差が大きくて、原板の金属質感を充分保持することができていない。No.9(比較例)の塗装チタンの場合、被膜と原板との光沢度差は小さいものの、被膜と原板との色差が大きく、また、外観では黄変が見られて、原板の金属質感を充分に保持することができていない。No.8(比較例)の塗装チタンの場合、被膜と原板との光沢度差は小さいものの、被膜と原板との色差が大きく、また、外観では黄変が見られて、原板の金属質感を充分に保持することができず、更に、水塗れ性が×(極不良)であって親水性が悪い。No.3, 4, 6(比較例)の場合、形成された被膜の強度が弱く、焼き付け処理の際に基材から剥離した。
【0065】
【表1】

【0066】
なお、以上の本発明の実施例(本発明例)および比較例においては基材として純チタン板を用いたが、基材としてチタン合金板を用いた場合も、板以外(線、棒、ブロック等)の形状のチタンやチタン合金を用いた場合も、本発明の構成及びその作用効果からして、以上の本発明例および比較例の場合と同様の傾向の結果が得られるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る塗装チタンまたはチタン合金は、金属質感を有すると共に、親水性を有して易洗浄性および防汚染性に優れているので、チタンやチタン合金の耐食性等の材質特性の他、金属質感、易洗浄性および防汚染性も要求される用途の材料として好適に用いることができ、金属質感を維持することができると共に、表面に付着した汚れを水洗や雨水等によって容易に除去できて有用である。本発明に係るチタンまたはチタン合金塗布用の塗料によれば、チタンまたはチタン合金表面に、その金属質感を損なうことなく、親水性の被膜を形成することができるので、上記のような塗装チタンまたはチタン合金を得る際の塗料として好適に用いることができて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナゾル、シリカゾル、カチオン変性樹脂、絹雲母を含有することを特徴とする塗料。
【請求項2】
更に親油性合成雲母を含有する請求項1記載の塗料。
【請求項3】
チタンまたはチタン合金表面に請求項1または2記載の塗料の塗布層を有することを特徴とする塗装チタンまたはチタン合金。

【公開番号】特開2008−274099(P2008−274099A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119070(P2007−119070)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】