説明

塗料、及び該塗料を使用した面状発熱体

【課題】エネルギー効率の大きな面状発熱体を提供する。
【解決手段】フェライト系無機質粒状物または破砕物とカーボン粉末および/またはカーボン繊維との混合物を合成樹脂エマルジョンまたは合成樹脂溶液に分散した塗料を基材表面に塗布し、乾燥して発熱層を形成する。該発熱層は、ジュールの法則に従って発熱するが、更に通電によって同時に発生する電磁波を該フェライト系無機質粒状物が吸収することによる発熱も加わり、更に赤外線も効率良く放射するので、高エネルギー効率の面状発熱体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通電加熱性を有する無機混合材料を使用した塗料、及び該塗料を使用した面状発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、面状発熱体としてはカーボン粉末あるいはカーボン繊維、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アンチモン等の酸化金属などの低抵抗無機材料を分散させた塗料を基板表面に塗布し、乾燥して発熱層を形成した構成、あるいは基板表面に化学蒸着法によって上記金属酸化物層を形成した構成が提供されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−216938号公報
【特許文献2】特開平11−16665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記カーボン粉末あるいはカーボン繊維を低抵抗無機材料として用いた面状発熱体は、電力消費が大きいこと、また酸化金属を低抵抗無機材料として用いた面状発熱体は、酸化の度合いが一定のものを得ることが難しいこと、経験的に酸化が進み易く、品質が不安定であること等の問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決するための手段として、フェライト系無機質粒状物または破砕物とカーボン粉末および/またはカーボン繊維との混合物を主体とする無機混合材料を合成樹脂エマルジョンまたは合成樹脂溶液に分散した塗料を提供するものである。上記合成樹脂溶液は、低抵抗合成樹脂溶液であることが好ましく、この場合、上記低抵抗合成樹脂溶液は、カチオン性アクリル樹脂水溶液であることが好ましい。
【0006】
また該フェライト系無機質粒状物または破砕物は、電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの粒状物または破砕物であることが好ましく、この場合、該電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグは、電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの溶融物に空気または酸素を吹込んで強制酸化処理を施した上で急冷固化することによって得られた改質品であることが好ましい。更に、該電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの溶融物には、該電磁波吸収性を向上させるためにFe,Ba,Co,Ni,Cr,Cu,Mn,Sr,Znおよびこれらの金属の酸化物または加熱によりこれらの金属の酸化物を与える金属化合物が添加されることが好ましい。
【0007】
本発明においては、更に上記塗料を基材表面に塗布し、乾燥して発熱層を形成した面状発熱体が提供される。通常、上記面状発熱体の発熱層の両端には、電極として導電層が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
〔作用〕
上記塗料を使用した面状発熱体の発熱層に通電すると、発熱層はジュールの法則に従い、Q=RIの熱量を発生するが、更に通電によって同時に発生する電磁波をフェライト系無機質粒状物または破砕物が吸収して熱エネルギーに変換し、発熱する。
更に、上記フェライト系無機質粒状物は黒体に近似の性質を有するから、本発明の面状発熱体は加熱によって表面から赤外線を放射し、高い分光放射率と分光放射輝度が得られる。
また更に、上記フェライト系無機質粒状物は、特に電気炉酸化スラグ、銅スラグ、電気炉ダスト処理スラグの場合、大比重でかつ比熱(0.16kcal/kg・℃)が大きいので、熱容量が大きく、加熱された面状発熱体は冷めにくい。
【0009】
〔効果〕
本発明の塗料を使用した面状発熱体は、ジュールの法則による発熱以外に、電磁波吸収による発熱を伴い、しかも加熱されたら冷めにくいので、エネルギー効率の極めて高いものとなる。したがって本発明の面状発熱体は、加熱対象を効率よく加熱できるが、面状発熱体の加熱面が黒体に近いので赤外線放射効率が高く、離れた距離にある加熱対象でも局部的に効率よく加熱することができ、それ故局部的遠隔加熱や暖房などに好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔フェライト系無機質〕
本発明で使用するフェライト系無機質は、MIIO・Fe23 およびFe34 を含むものであり、MIIとしてはFe,Ba,Cr,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Cdが例示され、望ましいフェライト系無機質としては、FeO・Fe23を含むものである。
上記フェライト系無機質としては、鋼材を溶断する際に発生するスケール粉や電気炉酸化スラグを使用することが望ましい。これらのフェライト系無機質は安価に入手出来る。
更に本発明において望ましいフェライト系無機質としては、電気炉酸化スラグ、銅スラグ、および電気炉ダスト処理スラグがある。上記スラグは産業廃棄物として処理されていたものであるが、本発明においては上記スラグの有効な再利用が可能になる。
電気炉酸化スラグは、通常、CaOを10〜26質量%、SiO2 を8〜22質量%、MnOを4〜7質量%、MgOを2〜8質量%、FeOを13〜32質量%、Fe23を9〜45質量%、Al23 を4〜16質量%、Cr23 を1〜4質量%程度含み、更に微量成分としてBaOを0.05〜0.20質量%、TiO2を0.25〜0.70質量%、P25 を0.15〜0.50質量%、Sを0.005〜0.085質量%程度含み、安定な鉱物組成を得るためのFeを20〜45質量%程度含むものであり、天然骨材成分に含まれる粘土、有機不純物、塩分を全く含まず、不安定な遊離石灰、遊離マグネシアあるいは鉱物も殆ど含まない。該電気炉酸化スラグは粒状物または破砕物として提供される。
銅スラグは銅精錬工程で得られるスラグであり、通常、CaOを1〜10質量%、SiO2 を25〜40質量%、FeをFeO換算で15〜55質量%程度含み、上記電気炉酸化スラグと同様に天然骨材に含まれる粘土、有機不純物、塩分は全く含まない。
電気炉ダスト処理スラグは電気炉による製鋼過程において発生する集塵ダストを加熱溶融し、該ダスト中の低沸点有害および/または有価金属あるいは重金属を蒸発分離除去し、蒸発分離した上記金属あるいは重金属を回収する処理を施したスラグであり、通常、CaOを5〜20質量%、FeをFeO換算で35〜55質量%程度含み、上記電気炉酸化スラグと同様に天然骨材に含まれる粘土、有機不純物、塩分は全く含まない。
上記銅スラグ、電気炉ダスト処理スラグも上記電気炉酸化スラグと同様に粒状物または破砕物として提供される。
【0011】
〔電気炉酸化スラグ粒化法〕
上記電気炉酸化スラグを粒化して粒状物を製造するには、該電気炉酸化スラグの溶融物を高速回転する羽根付きドラムに注入し、該溶融物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し、粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。
このようにして得られる電気炉酸化スラグの粒状物は、再酸化が促進されるので、Fe23系の鉱物およびFe34系の鉱物(マグネタイト)を多く含み、かつ急冷により、極微細な粒状物になるため、電磁波吸収性が非常に良好なものとなる。また通常5mm以下の粒径を有し、粒径2.5mm以下のものは略球状であり、比重は3.3〜4.1の範囲にあり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸を有しまた中空構造のものからなるかまたは中空構造のものを含んでいる。
【0012】
〔電気炉酸化スラグ破砕法〕
上記電気炉酸化スラグ破砕物を製造するには、上記電気炉酸化スラグを溶融状態で耐熱容器中に所定の厚みに流し出し、上から水をかけることによって急冷改質処理が施される。この場合、耐熱容器中のスラグ溶融物の厚さが小さすぎると、水をかける前に自然冷却(徐冷)によって硬化し易くなり、所望の硬度が得られなくなるおそれがあり、また厚さが大きくなり過ぎると、水をかけた場合に水が急激に水蒸気となり、水蒸気爆発の危険がある。望ましいスラグ溶融物の厚さは80mm〜120mmである。
【0013】
水をかける場合には耐熱容器中のスラグ溶融物のスラグ溶融物の表面に水が溜まらないようにすることが望ましく、水をかける量が多過ぎてスラグ溶融物の表面に水が溜まって水の蒸発潜熱による急冷効果が期待出来なくなる。
上記水をかける量は、スラグ溶融物1トン当たり毎秒200〜400リットル程度が望ましい。
上記急冷によってスラグ溶融物は急速に硬化するが、この際自己破砕によって容器中のスラグ溶融物の厚さ程度の径を有するスラグ原塊が得られる。
【0014】
該スラグ原塊は粗砕機で粗砕され、更に細砕機で細砕される。上記粉砕によって、スラグ塊はスラグ成分のマトリクスと鉱物相との境界で破断し、表面に微細な凹凸が形成される。所望なれば上記破砕物は粗篩機等によって粗分級され、更に細篩機等によって望ましくは10〜30μmの粒度に細分級する。
【0015】
上記粗砕および細砕はスラグ原塊が水で濡れたままで行ってもよいし、またスラグ原塊を乾燥して粗砕以後の工程を行ってもよいし、あるいはスラグ原塊を粗砕した後に乾燥して細砕以後の工程を行ってもよい。また上記分級工程において、篩を通過しない残分は破砕工程に戻されることが望ましい。
このようにして得られる破砕物は徐冷スラグに較べ、再酸化が促進されるので、Fe23系の鉱物を多く含み、かつ急冷により、微細な粒状物になるため、電磁波吸収性が非常に良好なものとなり、その比重は水砕品と同様3.3〜4.1の範囲にある。
【0016】
〔改質電気炉酸化スラグ〕
更に本発明にあっては、電気炉酸化スラグに電磁波吸収性を向上させるための添加物を添加してもよい。
上記電磁波吸収性を向上させるための添加物としては、Fe,Ba,Co,Ni,Cr,Cu,Mn,Sr,Zn等の金属あるいはこれら金属を含む合金、あるいはこれらの金属の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩等の加熱により酸化物を与える化合物、あるいはシリカ粉、ケイ砂、ケイ石の粉末、水ガラス、ケイ藻土、ドロマイト、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、シラスバルーン、パーライト等のケイ酸含有物質がある。望ましい添加物としては鉄スクラップ、スケール、BaO屑、硫酸バリウムを含む重晶石等がある。
上記添加物は前記粒化法あるいは破砕法において、電気炉酸化スラグ溶融物に添加されるかあるいは電気炉酸化スラグに混合されて共に溶融される。上記溶融は通常電気溶解炉で行われるが、この時溶融物に空気または酸素を吹込み強制酸化処理を施す。上記強制酸化処理は特にFeO比率が高い破砕法によるスラグに対して有効であり、上記強制酸化処理によってFe23やFe34 の含有率を高めて電磁波吸収性を向上せしめることが出来る。
該改質電気炉酸化スラグも粒状物または破砕物として提供される。
【0017】
銅スラグおよび電気炉ダスト処理スラグは上記電気炉酸化スラグと同様に、上記銅スラグや電気炉ダスト処理スラグの溶融物を急冷処理して粒化あるいは破砕して分級する。
上記電気炉酸化スラグと同様に、上記銅スラグおよび電気炉ダスト処理スラグには上記電磁波吸収性を向上させるための添加物が添加されてもよいし、また強制酸化処理が行なわれてもよい。
上記銅スラグ粒状物および電気炉ダスト処理スラグ粒状物は上記電気炉酸化スラグ粒状物と同様に通常5mm以下の粒径を有し、粒径2.5mm以下のものは略球状であり、比重は銅スラグ粒状物で3.2〜3.7、電気炉ダスト処理スラグで3.5〜4.5の範囲にあり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸を有し、また中空構造のものからなるかまたは中空構造のものを含んでいる。
【0018】
〔導電性材料〕
本発明においては、導電性材料としては、カーボン粉末および/またはカーボン繊維が使用される。カーボン粉末としては、細長形状で高導電性のものが望ましく、また上記カーボン粉末およびカーボン繊維には、銅、銀等の金属メッキが施されてもよい。
【0019】
〔無機混合材料〕
上記フェライト系無機質粒状物または破砕物と、カーボン粉末および/またはカーボン繊維とは、通常は95:5質量比〜80:20質量比の範囲で混合される。
【0020】
〔面状発熱体用塗料〕
本発明の面状発熱体用塗料を調製するには、上記無機混合材料を合成樹脂エマルジョンまたは合成樹脂溶液に分散する。上記合成樹脂としては、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル共重合体樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂等が使用される。望ましい合成樹脂としては、アミン塩型、イミダゾリン型、第4級アンモニウム塩型等のカチオン性アクリル樹脂のような低抵抗合成樹脂がある。該アクリル樹脂は、通常メタノール、エタノール、イソプロパノール等の水溶性アルコールと水との混合溶媒の溶液または水性ディスパーションとして提供され、カチオン性親水基に起因する電導性を有する。
上記塗料には通常、上記無機混合材料が、該塗料の樹脂分100質量部に対し、50〜400質量部程度添加される。
【0021】
〔面状発熱体〕
上記塗料を基材に塗布して乾燥させれば、該基材の表面に低抵抗(発熱層)を形成することが出来る。
上記基材としては、ポリプロピレン板またはシート、ポリエステル板またはシート、ポリ塩化ビニル板またはシート、ポリアミド板またはシート等のプラスチック板またはシート、木質板、セラミックス板等が例示され、上記発熱層の厚みは通常、10〜100μm、望ましくは20〜50μm程度に設定される。
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例を記載する。
【0022】
〔実施例1〕(電気炉酸化スラグ粒状物の製造)
図1に本発明の電気炉酸化スラグ粒状物8(以下「スラグ粒状物8」と略す)を製造する装置を示す。
即ち1500℃前後の電気炉酸化スラグ溶融物1は電気溶解炉から取鍋2に移され、該取鍋2からシューター3に移し、該シューター3から高速回転する羽根付きドラム4,5に注入する。該製鋼スラグ溶融物1は該羽根付きドラム4,5によって細破砕されて粒状化し、該電気炉酸化スラグ溶融物の粒化物1Aは急冷チャンバー6内にスプレー装置7からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られたスラグ粒状物8は備蓄容器9内に備蓄される。
該スラグ粒状物8は略球状の中空体であり、表面にはひび割れ等の欠陥はなく、微細な凹凸が有り、高硬度(モース硬さでマトリックスが6程度、鉱物相が8程度であった。)を有し耐摩耗性に優れており、真比重は3.84、絶乾比重は3.52、耐火度は1100℃で、電磁波吸収性、透磁性、誘電性、耐酸性、耐アルカリ性等にも優れている。
該スラグ粒状物8の粒度分布を図2に示す。
【0023】
〔実施例2〕(電気炉酸化スラグ破砕物の製造)
実施例1において電気溶解炉から取鍋2に移されたスラグの溶融物に鉄粉および酸化カルシウムと酸化ケイ素とを後添加して次の組成に調節する。
CaO 24.92重量%
SiO2 15.24重量%
Al23 6.72重量%
MnO 5.66重量%
MgO 4.25重量%
Cr23 1.97重量%
TiO2 0.42重量%
BaO 0.07重量%
総Fe 40.75重量%
CaO/SiO2 =1.64
上記スラグ溶融物は約1350℃に加熱されているが、取鍋2から耐熱容器(皿型鋼鉄製)に約100mmの厚さに流し出され、直ちにスラグ溶融物1トン当たり毎秒300リットル、スプレーにより散水する。
【0024】
このようにして約100mm径のスラグ原塊が得られ、該スラグ原塊のモース硬さはマトリクスで6、鉱物相で8であった。該スラグ原塊は粗砕機で粗砕され、乾燥機で乾燥後細砕機で細砕される。細砕されたスラグ原塊は次いで粗篩機で粗分級され、更に細篩機で細分級されて、10〜30μmの粒度の細骨材に分けられる。
【0025】
〔実施例3〕(改質電気炉スラグ破砕物の製造)
4.5トンの電気炉酸化スラグ1を図3に示す電気溶解炉10に投入し、更に鉄スクラップとして1.5トンの銑ダライと125kgの重晶石を加えてランス管12から酸素を吹精しつつ加熱溶融し、得られた溶融物1Aを図1に示す取鍋2に移し、以後実施例2と同様にして改質電気炉酸化スラグ破砕物を得る。
上記改質電気炉酸化スラグ破砕物の化学組成の一例を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
〔実施例4〕(面状発熱体)
実施例1の電気スラグ粒状物をボールミルによって粉砕して平均粒径20μm の粉末とした。以下、これをスラグ粉末と称する。
合成樹脂としてジュリマーSP−50TF(商品名、日本純薬(株)製)を使用した。該ジュリマーSP−50TFは、第4級アンモニウム塩を有するカチオン性アクリル樹脂の20質量%水性溶液(イソプロパノール:水=1:1質量比)である。
上記合成樹脂100質量部に対して表2の組成(質量比)の無機混合材料を20質量部添加して面状発熱体用塗料を調製した。
【0028】
【表2】

【0029】
上記塗料No1〜No5を幅150mm、長さ150mm、厚さ2mmのアクリル板に塗布し、100℃、10分乾燥後、長さ方向両端に銅テープを貼着して電極(導電層)とし、面状発熱体試料No1〜No5を作成した。なお発熱層の膜厚は45μm に設定した。
上記面状発熱体No1〜No5の発熱層の抵抗値を測定した結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
次いで上記面状発熱体試料No1〜No5の電極間に100ボルトの直流電圧を印加して発熱層中央の温度上昇を測定した。その結果を図3に示す。雰囲気温度は25℃に設定した。
図3をみると、スラグ粉末:粉末カーボンの質量比が90:10の試料No2が最も良好な発熱を示し、電圧印加後1時間30分で表面温度が57℃に達した。しかしスラグ粉末:粉末カーボンの質量比が95:5の試料No1は抵抗が大きく、逆にスラグ粉末:粉末カーボンの質量比が80:20の試料No4、および質量比が75:25の試料No5は導電性が大きく、1時間30分でも温度が40℃に達しなかった。
本実施例ではフェライト系無機質として比熱の大きい電気炉酸化スラグ粒状物を使用したので、発熱層の保温性が高く、電圧をオフにした後、急速には冷却しないことが認められた。
【0032】
〔実施例5〕
(面状発熱体)
実施例2および実施例3の電気スラグ粉砕物をボールミルによって粉砕して平均粒径15μm の粉末とした。以下、これらをスラグ粉砕物A(実施例2)、スラグ粉砕物B(実施例3)と称する。
合成樹脂としてアミン塩型カチオン性アクリル樹脂水性ディスパーション(30質量%、樹脂分)を使用した。
上記合成樹脂100質量部に対して表4の組成(質量比)の電磁波吸収材料を30質量部添加して面状発熱体を調製した。
【0033】
【表4】

【0034】
上記塗料No6〜No11を使用し、上記実施例4と同様にして面状発熱体試料No6〜No11を作成した。
上記面状発熱体No6〜No11の発熱層の抵抗値を測定した結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
次いで上記実施例15と同様にして上記面状発熱体試料No6〜No11の発熱層中央の温度上昇を測定した。その結果を図4に示す。
図4をみると、実施例15と同様に、スラグ粉末:粉末カーボンの質量比が90:10の試料No7および試料No10は良好な発熱を示し、電圧印加後1時間30分で表面温度が、試料No7は55℃、試料No10は53℃に達した。しかしスラグ粉末:粉末カーボンの質量比が95:5の試料No6および試料No9は抵抗値が試料No7および試料No10よりも高く、またスラグ粉末:粉末カーボンの質量比が85:15の試料No8および試料No11は抵抗値が試料No7および試料No10よりも低く、いずれも発熱は不良であった。なお本実施例に使用したスラグ粉末も高比熱であり、発熱層の保温性が高く、電圧をオフにした後、急速には冷却しないことが認められた。
【0037】
〔赤外線放射テスト〕
面状発熱体の試料No1〜No3について、赤外分光放射(分光放射率、分光放射出力)を測定した。測定は、フーリエ変換赤外分光光波計を用いて行った。その結果を図5〜図7(分光放射率)および図8〜図10(分光放射出力)に示す。
図5〜図7を参照すると、試料No1〜No3は、何れもほぼ1に近いと云う高い分光放射率を示し、また分光放射輝度も黒体に近似の出力グラフとなり、効率良く赤外線が放射されていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の塗料を使用した面状発熱体は、安価に提供出来かつ発熱効率および赤外線放射効率が高いので産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】電気炉スラグ粒状物製造装置の説明図。
【図2】電気炉スラグ粒状物の粒度分布を示すグラフ。
【図3】実施例4の試料の発熱状況を示すグラフ。
【図4】実施例5の試料の発熱状況を示すグラフ。
【図5】試料No1の分光放射率のグラフ。
【図6】試料No2の分光放射率のグラフ。
【図7】試料No3の分光放射率のグラフ。
【図8】試料No1の分光放射出力のグラフ。
【図9】試料No2の分光放射出力のグラフ。
【図10】試料No3の分光放射出力のグラフ。
【符号の説明】
【0040】
1 電気炉酸化スラグ溶融物
8 電気炉スラグ粒状物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系無機質粒状物または破砕物とカーボン粉末および/またはカーボン繊維との混合物を主体とする無機混合材料を合成樹脂エマルジョンまたは合成樹脂溶液に分散したことを特徴とする塗料。
【請求項2】
上記合成樹脂溶液は、低抵抗合成樹脂溶液である請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
上記低抵抗合成樹脂溶液は、カチオン性アクリル樹脂水溶液である請求項2に記載の塗料。
【請求項4】
該フェライト系無機質粒状物または破砕物は、電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの粒状物または破砕物である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の塗料。
【請求項5】
該電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグは、電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの溶融物に空気または酸素を吹込んで強制酸化処理を施した上で急冷固化することによって得られた改質品である請求項4に記載の塗料。
【請求項6】
該電気炉酸化スラグおよび/または銅スラグおよび/または電気炉ダスト処理スラグの溶融物には、該電磁波吸収性を向上させるためにFe,Ba,Co,Ni,Cr,Cu,Mn,Sr,Znおよびこれらの金属の酸化物または加熱によりこれらの金属の酸化物を与える金属化合物が添加される請求項5に記載の塗料。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の塗料を基材表面に塗布し、乾燥して発熱層を形成したことを特徴とする面状発熱体。
【請求項8】
上記面状発熱体の発熱層の両端には、電極として導電層が形成されている請求項7に記載の面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−102519(P2009−102519A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275566(P2007−275566)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(394026079)株式会社星野産商 (12)
【Fターム(参考)】