説明

塗料ミスト除去装置

【課題】メンテナンスが比較的容易で、低コストで塗料ミストを除去し得、しかもVOCガスの発生を軽減し得る塗料ミスト除去装置を得る。
【解決手段】塗料により被塗装物を塗装するための塗装ブース;ならびに該塗装ブースから発生した塗料ミストを排気するためのダクト、または塗装ブースに設けられた、不燃性の塗料ミスト捕捉手段、を備えてなる塗料ミスト除去装置であって、該塗料ミスト捕捉手段は該ダクト内外もしくは該塗装ブース内外を移動可能に構成されており、該塗料ミスト捕捉手段は、該ダクト内もしくは該塗装ブース内にあるときに該塗料ミストを捕捉し、ついで該ダクト外もしくは該塗装ブース外に移動した際に、該ダクト内もしくは該塗装ブース内で捕捉された該塗料ミストを燃焼させ、生成した粒子状残渣物を除去するように構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料ミスト除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料により被塗装物を塗装する際には、作業環境および周囲の汚染防止、塗膜の品質確保等の観点から、塗装ブース(スプレーブース)内で作業することが必須である。そして、顔料等とその溶剤よりなる、塗装ブース内で発生する塗料ミストを含有する汚染空気を処理、排出する塗装装置が用いられている。この塗装装置においては、汚染空気から塗料ミストを除去するために、水洗・シャワー式、オイル式等の湿式法およびフィルター式、衝突板式等の乾式法が知られている。湿式法においては、塗料のスラッジの回収、シャワーノズルの詰まり防止等、一方乾式法においてはフィルター、衝突板等の交換、がメンテナンスにおいて重要となる。また、主として溶剤に由来する揮発性有機化合物(VOC)ガスが塗装ブースより発生するが、このVOCガスを除去するために、触媒酸化法、蓄熱式燃焼法等の種々の方法が用いられている。しかしながら、これらの方法は運転管理等に高度の正確さが要求されたり、イニシャルコストおよびランニングコストに最大の難があることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、フィルターを用いる場合、汚染したフィルターを廃棄し、新規なフィルターと交換するのが一般的であるが、コスト、資源面で課題があった。本発明は、従来技術における課題を解決して、メンテナンスが比較的容易で、低コストで塗料ミストを除去し得、しかもVOCガスの発生を軽減する塗料ミスト除去装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の発明を提供する。
(1)塗料により被塗装物を塗装するための塗装ブース;ならびに該塗装ブースから発生した塗料ミストを排気するためのダクト、または塗装ブースに設けられた、不燃性の塗料ミスト捕捉手段、を備えてなる塗料ミスト除去装置であって、該塗料ミスト捕捉手段は該ダクト内外もしくは該塗装ブース内外を移動可能に構成されており、該塗料ミスト捕捉手段は、該ダクト内もしくは該塗装ブース内にあるときに該塗料ミストを捕捉し、ついで該ダクト外もしくは該塗装ブース外に移動した際に、該ダクト内もしくは該塗装ブース内で捕捉された該塗料ミストを燃焼させ、生成した粒子状残渣物を除去するように構成されてなる塗料ミスト除去装置;
(2)不燃性の塗料ミスト捕捉手段がフィルターである上記(1)に記載の塗料ミスト除去装置;
(3)フィルターがロール状または板状である上記(1)または(2)に記載の塗料ミスト除去装置;
(4)フィルターがダクト内もしくは塗装ブース内の排気方向に直交するように設けられる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置;
(5)フィルターが金属またはセラミックスからなる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置;
(6)ダクト外もしくは塗装ブース外に移動したフィルターを加熱してダクト内もしくは塗装ブース内で捕捉された塗料ミストを燃焼させするための燃焼室をさらに備えてなり、該燃焼室は空気導入手段および加熱着火手段、ならびに生成した粒子状残渣物を除去するための粒子状残渣物除去手段を設けてなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置;ならびに
(7)さらにダクトもしくは塗装ブースとハウジングとの間に伝熱・引火を防止するための伝熱・引火防止室が設けられている上記(6)に記載の塗料ミスト除去装置、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、従来の交換式に代えて連続再生式の塗料ミスト捕捉手段を用い、燃焼法を併用して直接に塗料ミストを処理することにより、メンテナンスが比較的容易で、低コストで塗料ミストを除去し得、しかもVOCガスの発生を軽減し得る塗料ミスト除去装置を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明に係る塗料ミスト除去装置の実施態様の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る塗料ミスト除去装置の実施態様のもう一つの例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る塗料ミスト除去装置の実施態様のさらにもう一つの例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の塗料ミスト除去装置は、塗料により被塗装物を塗装するための塗装ブース;ならびに該塗装ブースから発生した塗料ミストを排気するためのダクト、または塗装ブースに設けられた、不燃性の塗料ミスト捕捉手段を備えてなる塗料ミスト除去装置であって、塗料ミスト捕捉手段はダクト内外もしくは塗装ブース内外を移動可能に構成されており、塗料ミスト捕捉手段は、ダクト内もしくは塗装ブース内にあるときに塗料ミストを捕捉し、ついでダクト外もしくは塗装ブース外に移動した際に、ダクト内もしくは塗装ブース内で捕捉された塗料ミストを燃焼させ、生成した粒子状残渣物を除去するように構成されてなる。
【0008】
塗料により被塗装物を塗装するための塗装ブースは、排気ファンによりブース内の空気が排気され、一方において給気ファンにより、その排気される空気量に見合う空気が外気から取り入れられ、除塵、湿度調整等の処理後に塗装ブース内に供給される。本発明の塗料ミスト除去装置は、湿式法、乾式法のいずれの塗装装置にも適用しえるが、特に乾式法に好適である。
【0009】
不燃性の塗料ミスト捕捉手段としては、フィルター、衝突板(邪魔板)等が挙げられるが、捕捉効率の点からフィルターが好適に用いられる(以下、不燃性の塗料ミスト捕捉手段としてフィルターについて説明する。)。フィルターはロール状(エンドレス型)または板状であるのが好ましく、ダクト内もしくは塗装ブースの排気方向に直交するように設けられるのが捕捉効率の点で好適である。
【0010】
フィルターは塗料ミストの燃焼温度が通常700〜800℃程度であることから1200℃以下程度で不燃性であることが好適であり、金属またはセラミックスから選ばれる。金属としては、ステンレス鋼等のワイヤーメッシュ、パンチメタル等が好適である。セラミックスとしては、アルミナ、コーディエライト、シリカ・アルミナ、ジルコニアもしくは炭化ケイ素等から選ばれ、発泡構造を有するセラミックフォームの形態が好適である。
【0011】
フィルターはダクトもしくは塗装ブース内外を移動可能に構成されており、ダクト内もしくは塗装ブース内にあるときに塗料ミストを捕捉する。ついでダクトもしくは塗装ブース外に移動した際に、ダクトもしくは塗装ブース内で捕捉された塗料ミストを燃焼させ、生成した粒子状残渣物を除去するように構成されてなる。そのために、本発明の塗料ミスト除去装置は、ダクト外もしくは塗装ブース外に移動したフィルターを加熱してダクト内もしくは塗装ブース内で捕捉された塗料ミストを燃焼させするための燃焼室をさらに備えてなり、該燃焼室は空気導入手段および加熱着火手段、ならびに生成した粒子状残渣物を除去するための粒子状残渣物除去手段を設けてなる。そして、この燃焼室には空気導入手段としての空気導入口、排ガス出口および粒子状残渣物取り出し口が設けられているのが好適である。
【0012】
塗料ミストの燃焼はヒーター等の加熱着火手段により着火させれば、自燃によることもできる。ヒーターとしては、たとえば高周波誘導加熱、ハロゲンランプから発生する放射熱を利用するハロゲンヒーター等を用い得る。熱媒体として砂等を用いた流動床方式も採り得る。
【0013】
廃熱を有効利用してランニングコストを低下させる、各種の蓄熱方法も好適に採用され得る。
【0014】
フィルターのダクト内の設置場所は、フィルターがダクト外に移動する燃焼室の設置に障害のない位置であれば特に制限されず、たとえばダクトの塗装ブース近くに設けられる。
【0015】
一方、フィルターの塗装ブース内の設置場所は、スプレー位置より下流であれば特に制限されず、たとえば被塗装物の近傍にスクリーン状に設けられる。
【0016】
ダクトもしくは塗装ブースと燃焼室との間には、ダクトもしくは塗装ブース内への伝熱・引火を防止するための伝熱・引火防止室を設けるのが好適であり、伝熱・引火防止室内は空気により遮断されている。これにより、燃焼法で直接に塗料ミストをきわめて安全に処理することができる。
【0017】
また、フィルターをダクトもしくは塗装ブースならびに伝熱・引火防止室および燃焼室の壁で貫通させる際に、フィルターとそれらの壁との間隙は引火防止のために0.9mm以下とするのが好適である。
【実施例】
【0018】
本発明の塗料ミスト除去装置の実施態様例を図1〜図3とともに以下に説明する。
【0019】
図1において、塗装ブース(1)において、スプレーノズルから塗料が噴霧されて被塗装物(ワーク)に塗装が行われる。被塗装物に塗布されなかった塗料は、塗料ミストおよびVOCガスとなって、排気ファン(6)によりダクト(2)内に導入される。
【0020】
VOCとしては、主として溶剤に由来するトルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。ダクト(2)の顔料と溶剤が完全に分離する前の任意の位置にロール状(エンドレスベルト状)のフィルター(3)が、ダクト(2)内外を連続的にまたは間欠的に移動し得るように設けられている。フィルター(3)は、ダクト(2)外に移動する部分は断熱構造の燃焼室(14)内に収容されており、燃焼室(14)内に移動すると加熱着火手段であるヒーター(4)で加熱され、空気導入手段である空気導入口(7)より空気が導入される。これにより、ダクト(2)内でフィルター(3)に吸着除去により捕捉された塗料ミストは、燃焼される。ついで、燃焼によりフィルター(3)上に生成した粒子状残渣物は、粒子状残渣物除去手段(5)(灰分スクレイバー)により除去される。粒子状残渣物は粒子状残渣物取り出し口(8)より燃焼室(14)外に排出される。(9)は燃焼排ガス出口である。粒子状残渣物取り出し口(8)および燃焼排ガス出口(9)は兼用することもできる。また、図1において、(13)はダクト(2)と燃焼室(14)の間に設けられた伝熱・引火防止室であり、ダクト(2)と燃焼室(14)の間を空気により遮断している。さらに、(10)は蓄熱熱移動棒、(11)は熱移動ローラーであり、発生する熱を低温側に移動させて熱の有効利用を図るものである。(12)はローラーである。
【0021】
フィルター(3)をダクト(2)および燃焼室(14)の壁で貫通させる際に、フィルター(3)とそれらの壁との間隙は引火防止のために0.9mm以下とされている。
【0022】
フィルター(3)はステンレス鋼のワイヤーメッシュ(平織り)で形成されている。ダクト(2)内に導入された塗料ミストおよびVOCガスは、ダクト(2)内のフィルター(3)を通過する際に、塗料ミストを吸着除去される(除去率90%程度)。
【0023】
図2は、本発明の塗料ミスト除去装置のもうひとつの実施態様例を示し、フィルター(31)は一対の板状フィルターであり、左右方向に移動可能に構成され、一方がダクト(2)内にあるとき、他方は燃焼室(14)にあるように構成されている。(15)はフィルター連結部である。
【0024】
図3は、本発明の塗料ミスト除去装置のさらにもうひとつの実施態様例を示し、燃焼により生成した粒子状残渣物を用いた流動床(16)を加熱着火手段とするように構成されている。空気導入口(7)は燃料導入口としても用いられ得る。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、メンテナンスが比較的容易で、低コストで塗料ミストを除去し得、しかもVOCガスの発生を軽減し得る塗料ミスト除去装置を提供し得る。
【符号の説明】
【0026】
1 塗装ブース
2 ダクト
3、31 フィルター
4 ヒーター
5 粒子状残渣物除去手段
6 排気ファン
13 伝熱・引火防止室
14 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料により被塗装物を塗装するための塗装ブース;ならびに該塗装ブースから発生した塗料ミストを排気するためのダクト、または塗装ブースに設けられた、不燃性の塗料ミスト捕捉手段を備えてなる塗料ミスト除去装置であって、該塗料ミスト捕捉手段は該ダクト内外もしくは該塗装ブース内外を移動可能に構成されており、該塗料ミスト捕捉手段は、該ダクト内もしくは該塗装ブース内にあるときに該塗料ミストを捕捉し、ついで該ダクト外もしくは該塗装ブース外に移動した際に、該ダクト内もしくは該塗装ブース内で捕捉された該塗料ミストを燃焼させ、生成した粒子状残渣物を除去するように構成されてなる塗料ミスト除去装置。
【請求項2】
不燃性の塗料ミスト捕捉手段がフィルターである請求項1に記載の塗料ミスト除去装置。
【請求項3】
フィルターがロール状または板状である請求項1または2に記載の塗料ミスト除去装置。
【請求項4】
フィルターがダクト内もしくは塗装ブース内の排気方向に直交するように設けられる請求項1〜3のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置。
【請求項5】
フィルターが金属またはセラミックスからなる請求項1〜4のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置。
【請求項6】
ダクト外もしくは塗装ブース外に移動したフィルターを加熱してダクト内もしくは塗装ブース内で捕捉された塗料ミストを燃焼させするための燃焼室をさらに備えてなり、該燃焼室は空気導入手段および加熱着火手段、ならびに生成した粒子状残渣物を除去するための粒子状残渣物除去手段を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載の塗料ミスト除去装置。
【請求項7】
さらにダクトもしくは塗装ブースとハウジングとの間に伝熱・引火を防止するための伝熱・引火防止室が設けられている請求項6に記載の塗料ミスト除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172809(P2010−172809A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16979(P2009−16979)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】