説明

塗料固化方法及びコイル製造方法

【課題】ゴミの付着による塗膜欠陥を防止することが可能な塗料固化方法及びコイル製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の塗料固化方法によれば、電磁コイルWをその巻回軸方向から見たときの輪郭部分に対して隙間を開けて隣接した溝形発熱体35の内側面からの放射熱で、塗料を加熱することができるから、ゴミの付着による塗膜欠陥を防止することができ、塗膜欠陥の無い高品質な絶縁被膜を電磁コイルWに形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面の塗料を加熱して固化させるための塗料固化方法及びその塗料固化方法を利用したコイル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の塗料固化方法としては、加熱炉内面から吹き出す熱風で塗料を加熱して固化させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−236437号公報([0035]〜[0036]、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の塗料固化方法では、熱風で巻き上げられたゴミが塗装面に付着して塗膜欠陥となるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ゴミの付着による塗膜欠陥を防止することが可能な塗料固化方法及びコイル製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る塗料固化方法は、ワークの表面を塗料で覆った後、そのワークの表面の塗料を加熱して乾燥又は硬化させる塗料固化方法において、ワークを一定方向から見たときの輪郭部分に対して隙間を空けて隣接する内側面を有した溝形ヒーターを備えておき、溝形ヒーターを発熱させかつ、ワークを溝形ヒーター内に遊嵌させた状態で溝形ヒーターの長手方向に移動し、塗料を加熱するところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の塗料固化方法において、溝形ヒーターを、金属製の溝形発熱体の外側にIHコイルを配置した構成としておき、IHコイルによって溝形発熱体を誘導加熱するところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の塗料固化方法において、溝形発熱体内の温度を計測し、その温度に基づいてIHコイルに流す交流の電流値又は周波数を変更して溝形発熱体の発熱温度を調節するところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の塗料固化方法において、コイルは、電磁コイルであり、塗料は、乾燥又は硬化して電磁コイルを被覆する絶縁皮膜になるところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の塗料固化方法において、電磁コイルの両端末部を巻回部分から同一方向に突出する構造に形成しておき、溝形ヒーターを角溝構造とし、その溝形ヒーターの長手方向に巻回部分の巻回軸方向を沿わせ、溝形ヒーターの3つの内側面を巻回部分に三方から隣接させた状態にして、塗料を加熱するところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の塗料固化方法において、電磁コイルの巻回部分を巻回軸方向から見て四角形になるようところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明に係るコイル製造方法は、ワークの表面を塗料で覆った後、請求項4乃至6の何れか1の請求項に記載の塗料固化方法にて塗料を加熱し、塗料にて表面が被覆された電磁コイルを製造するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、ワークを一定方向から見たときの輪郭部分に対して隙間を開けて隣接した溝形ヒーターの内側面からの放射熱により、塗料を加熱することができるから、塗装面へのゴミの付着による塗膜欠陥を防止しながら塗料を効果的に加熱することができる。ここで、溝形ヒーターは、赤外線により塗料を加熱する構成でもよいし、請求項2の発明のように、溝形発熱体をIHコイルによって誘導加熱してその放射熱で塗料を加熱する構成でもよい。
【0014】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、適切な温度で塗料を加熱することができる。
【0015】
[請求項4及び7の発明]
請求項4及び7の発明によれば、ゴミの付着による塗膜欠陥の無い高品質な絶縁被膜を電磁コイルの表面に形成することができる。
【0016】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、電磁コイルの巻回軸方向と直交した三方から、巻回部分を覆った塗料を加熱することができる。
【0017】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、電磁コイルの巻回部分の四角形のうち、3辺の側面を溝形ヒーターの3つの内側面に沿わせることができ、塗料を効果的に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗料固化装置の側断面図
【図2】前段加熱エリアの正面図
【図3】後段加熱エリアの正面図
【図4】電磁コイルの斜視図
【図5】変形例に係る塗料固化装置の後段加熱エリアにおける正面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した塗料固化装置10の一実施形態を、図1〜図4に基づいて説明する。本実施形態で例示する金属製ワークは、例えば、モータ用の電磁コイルWであって図4に示されている。同図に示すように、電磁コイルWは、偏平断面の銅線を巻回軸方向から見て四角形になるように巻回すると共に、1対の端末部Wb,Wbを巻回部Waの四角形の一辺から同じ方向に直線状に突出させた構造になっている。巻回部Waの表面は、例えば電着塗装によって塗料で被覆されている。これに対し、1対の端末部Wb,Wbは塗料で被覆されておらず銅線が露出している。
【0020】
巻回部Waが未固化状態の塗料で覆われた電磁コイルWは、コンベア30によって本発明の塗料固化装置10に搬送される。コンベア30は、巻回部Waを上にした状態で電磁コイルWを保持するチャック治具31,31を一体に備えている。また、コンベア30は絶縁部材で構成されており、例えば、前進と停止とを繰り返すタクト搬送(間欠搬送)を行う。
【0021】
チャック治具31,31は、電磁コイルWを構成する銅線よりも電気抵抗の大きい金属(例えば、鉄、ステンレス)で構成され、電磁コイルWのうち、銅線が露出した1対の端末部Wb,Wbを把持している。また、チャック治具31,31は、巻回部Waの巻回軸が、コンベア30による搬送方向と平行になるように電磁コイルWを保持している。
【0022】
塗料固化装置10は、電磁コイルWの搬送方向に沿って直線状に延びている。詳細には、塗料固化装置10は、角筒状のトンネル構造をなした加熱炉11を備え、その加熱炉11のうち搬入口11Aに近い側に前段加熱エリアAR1が設けられ、搬出口11Bに近い側に後段加熱エリアAR2が設けられている。
【0023】
加熱炉11のうち、前段加熱エリアAR1の内面には、電磁コイルWの搬送方向に沿って複数のIH(誘導加熱)コイル13,13が設けられている。図2に示すように、IHコイル13,13は、加熱炉11のうち、電磁コイルWの搬送方向と直交した幅方向の両側面に設けられている。また、これらIHコイル13,13は、電磁コイルWの搬送方向において、タクト搬送における1回の前進距離分の間隔を空けて設けられており(図1参照)、コンベア30は、IHコイル13,13とチャック治具31,31とが隣接した位置で一時停止するようになっている。
【0024】
チャック治具31,31とIHコイル13,13とが隣接した状態で、IHコイル13,13に高周波電流が流されると、チャック治具31,31が誘導加熱される。なお、コンベア30は絶縁部材で構成されているので発熱することはない。
【0025】
前段加熱エリアAR1のうち、IHコイル13,13が配置された位置には、放射温度計14,14が設けられている。放射温度計14,14は、電磁コイルWにおける1対の端末部Wb,Wbの温度を非接触で計測可能となっており、その計測結果に基づいて、加熱炉制御部12が電磁コイルW(チャック治具31,31)の温度を自動調節するようになっている。具体的にはIHコイル13,13に接続された高周波電源の電流値又は周波数を調節して、例えば、前段加熱エリアAR1を進むに従って徐々に電磁コイルW(チャック治具31,31)が昇温するように自動調節される。
【0026】
加熱炉11のうち、後段加熱エリアAR2の内側には、溝形発熱体35が配設されている。図3に示すように溝形発熱体35は、加熱炉11と平行に延びた角溝形構造をなしており、電磁コイルWは、その巻回部Waが溝形発熱体35の内側に遊嵌した状態で、溝形発熱体35の長手方向に移動するようになっている。詳細には、溝形発熱体35は、電磁コイルWをその巻回軸方向から見たときに四角形をなした巻回部Waの輪郭部分に対して、三方から所定の隙間を空けて隣接する内側面を有している。
【0027】
溝形発熱体35は、例えば、電磁コイルWよりも電気抵抗の大きい金属(例えば、鉄、ステンレス等)で構成されている。また、加熱炉11の内面には、溝形発熱体35の幅方向における両側壁の外面と天井壁の外面とに近接するように複数のIHコイル36,36が設けられている。さらに、加熱炉11のうち、少なくとも後段加熱エリアAR2に対応する部分は、断熱構造となっている。例えば、全体が断熱材で構成されるか或いは、内面に断熱材がライニングされている。なお、溝形発熱体35とIHコイル36とで本発明の「溝形ヒーター」が構成されている。
【0028】
図3に示すように、後段加熱エリアAR2の所定位置には、溝形発熱体35の温度を計測するための温度センサ22が設けられている。その計測結果に基づいて、加熱炉制御部12が、溝形発熱体35の発熱温度を自動調節する。例えば、後段加熱エリアAR2を進むに従って溝形発熱体35の発熱温度が高くなるようにIHコイル36,36に通電する交流の電流値又は周波数を調節する。
【0029】
次に本実施形態の塗料固化装置10の動作について説明する。電着塗装工程にて巻回部Waの表面が塗料で覆われた電磁コイルWは、その端末部Wb,Wbをチャック治具31,31にて把持された状態で、搬入口11Aから加熱炉11内へと搬入され、前段加熱エリアAR1、後段加熱エリアAR2の順にタクト搬送されながら加熱される。
【0030】
前段加熱エリアAR1では、IHコイル13,13によってチャック治具31,31が誘導加熱され、その熱が、電磁コイルWを構成する銅線に伝熱される。これにより、電磁コイルWの表面を覆った塗料が、内側(電磁コイルW側)から加熱される。また、前段加熱エリアAR1を先に進むに従って、IHコイル13の電流値又は周波数が上がって、チャック治具31,31の温度が上昇し、これに伴い、電磁コイルWの温度も上昇する。そして、前段加熱エリアAR1における加熱により、塗料に含まれる水分や溶剤が気化して未固化状態の塗料の外面から揮散する。
【0031】
前段加熱エリアAR1に次ぐ後段加熱エリアAR2では、IHコイル36,36に高周波電流を流すことで、溝形発熱体35が誘導加熱され、その溝形発熱体35からの放射熱により、電磁コイルWを覆った塗料が、外側から加熱される。また、温度センサ22により計測された溝形発熱体35の温度に基づいて、電磁コイルW(溝形発熱体35)の加熱温度が自動調節される。なお、後段加熱エリアAR2における加熱中も、電磁コイルWの余熱により、塗料は内側から加熱される。そして、加熱炉11内を所定時間かけて移動することで、電磁コイルWの表面の塗料が完全に固化して絶縁被膜が形成される。
【0032】
このように本実施形態によれば、電磁コイルWをその巻回軸方向から見たときの輪郭部分に対して隙間を開けて隣接した溝形発熱体35の内側面からの放射熱で、塗料を加熱することができるから、ゴミの付着による塗膜欠陥を防止しながら塗料を効果的に加熱することができ、塗膜欠陥の無い高品質な絶縁被膜を電磁コイルWに形成することができる。また、加熱炉11を断熱構造としたので消費電力の低減を図ることができる。
【0033】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0034】
(1)上記実施形態では、電磁コイルWを覆った塗料を、その内側から加熱する前段加熱エリアAR1を設けていたが、前段加熱エリアAR1を設けずに、溝形発熱体35による加熱のみで塗料を固化させてもよい。
【0035】
(2)上記実施形態では、チャック治具31,31の誘導加熱による塗料の内側からの加熱の後で、溝形発熱体35の誘導加熱による塗料の外側からの加熱を行っていたが、これら塗料の内側と外側からの加熱を同時に行ってもよい。
【0036】
(3)上記実施形態では、電磁コイルWを加熱炉11内でタクト搬送しながら加熱を行っていたが、加熱炉11内を一定速度で搬送しながら加熱を行ってもよい。
【0037】
(4)上記実施形態では、「ワーク」として電磁コイルを例示したが、ワークは電磁コイルに限定するものではない。また、塗料は、絶縁被膜を形成するためのものに限定するものではなく、防錆用や装飾用の塗料であってもよい。
【0038】
(5)上記実施形態では、電磁コイルWの巻回軸方向とコンベア30による電磁コイルWの搬送方向とを平行となるようにしていたが、図5に示すように、電磁コイルWの巻回軸及び1対の端末部Wb,Wbの突出方向とに直交した方向で電磁コイルWを搬送するようにしてもよい。この場合、溝形発熱体35の内側面を、電磁コイルWの巻回軸及び1対の端末部Wb,Wbの突出方向とに直交した方向から巻回部Waを見たときの輪郭部分に隙間を空けて隣接させればよい。
【符号の説明】
【0039】
10 塗料固化装置
22 温度センサ
35 溝形発熱体
36 IHコイル
W 電磁コイル(ワーク)
Wa 巻回部
Wb 端末部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面を塗料で覆った後、そのワークの表面の塗料を加熱して乾燥又は硬化させる塗料固化方法において、
ワークを一定方向から見たときの輪郭部分に対して隙間を空けて隣接する内側面を有した溝形ヒーターを備えておき、
前記溝形ヒーターを発熱させかつ、前記ワークを前記溝形ヒーター内に遊嵌させた状態で前記溝形ヒーターの長手方向に移動し、前記塗料を加熱することを特徴とする塗料固化方法。
【請求項2】
前記溝形ヒーターを、金属製の溝形発熱体の外側にIHコイルを配置した構成としておき、前記IHコイルによって前記溝形発熱体を誘導加熱することを特徴とする請求項1に記載の塗料固化方法。
【請求項3】
前記溝形発熱体の温度を計測し、その温度に基づいて前記IHコイルに流す交流の電流値又は周波数を変更して前記溝形発熱体の発熱温度を調節することを特徴とする請求項2に記載の塗料固化方法。
【請求項4】
前記コイルは、電磁コイルであり、前記塗料は、乾燥又は硬化して前記電磁コイルを被覆する絶縁皮膜になることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の塗料固化方法。
【請求項5】
前記電磁コイルの両端末部を巻回部分から同一方向に突出する構造に形成しておき、
前記溝形ヒーターを角溝構造とし、その溝形ヒーターの長手方向に前記巻回部分の巻回軸方向を沿わせ、前記溝形ヒーターの3つの内側面を前記巻回部分に三方から隣接させた状態にして、前記塗料を加熱することを特徴とする請求項4に記載の塗料固化方法。
【請求項6】
前記電磁コイルの前記巻回部分を巻回軸方向から見て四角形になるように巻回しておくことを特徴とする請求項5に記載の塗料固化方法。
【請求項7】
電磁コイルの表面を塗料で覆った後、請求項4乃至6の何れか1の請求項に記載の塗料固化方法にて前記塗料を加熱し、前記塗料にて表面が被覆された電磁コイルを製造することを特徴とするコイル製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115802(P2012−115802A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270047(P2010−270047)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】