説明

塗料流量調整装置

【課題】シール性能の低下を防止する。
【解決手段】従動側永久磁石22と可動部材21が、磁気吸引力により、流入室20外の駆動側永久磁石17に追従して移動すると、可動部材21の弁体26が弁口29に対して接近・離間し、弁口29の開度が増減する。弁口29の開度を増減させるための弁体16を移動させる手段として磁気吸引力を用いたので、シール部材の摩耗の問題は生じない。したがって、シール部材の摩耗に起因して流入室内の塗料が漏出する虞はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料流量調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、塗料供給装置について開示されている。この装置は、塗料が流入する流入室と、流入室内の塗料を塗装ガン側へ流出させるための弁口とを有し、流入室内に突出させたロッドの先端に弁体を設け、シリンダ内に設けたピストンにロッドの基端部を固着した構造になる。
ピストンとともにロッドを進退移動させると、弁体で弁口を閉塞する閉弁状態と、弁体を弁口から退避させて弁口を開放させる開弁状態とに切り替わり、この開閉状態を切り替えることで、塗料の流量を調整するようになっている。
【特許文献1】特開2004−230240公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の装置では、流入室内の塗料がロッドの外周面を伝ってピストンがわへ漏出することを防止する手段として、ロッドの貫通路の内周にシール部材を設けているのであるが、開弁状態と開弁状態との間で切り替わる度に、ロッドがシール部材に対して摺動することになる。そのため、長期間に亘って使用した場合には、シール部材が摩耗して、シール性能の低下を来たすことが懸念される。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、シール性能の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、塗料が流入する流入室と、前記流入室内の塗料を塗装ガン側へ流出させるための弁口と、前記流入室内に設けられ、前記弁口と対応する弁体を備えた可動部材と、前記流入室の外部において開弁位置と閉弁位置との間での移動を可能に設けられた駆動側永久磁石と、前記可動部材の外周に設けられた従動側永久磁石とを備え、前記駆動側永久磁石と前記従動側永久磁石との間の磁気吸引力により、前記可動部材と前記従動側永久磁石が前記駆動側永久磁石に追従して移動するようになっており、前記駆動側永久磁石が開弁位置へ移動するのに伴なって、前記弁体が前記弁口から離間して前記弁口の開度が増大し、前記駆動側永久磁石が閉弁位置へ移動するのに伴なって、前記弁体が前記弁口に接近して前記弁口の開度が絞られるようになっているところに特徴を有する。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記弁体には、前記駆動側永久磁石が閉弁位置にある状態において、前記弁口における前記塗料の流出を許容する流出孔が形成されているところに特徴を有する。
【0006】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記流入室の内周面と前記可動部材の外周面との間には、前記可動部材が、前記両周面の間隔を増減させるように変位することを許容するクリアランスが形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
<請求項1の発明>
可動部材の移動に伴なって弁口の開度が増減することにより、流入室から塗装ガンに送り出される塗料の流量が調整される。
弁口の開度を増減させるための弁体を移動させる手段として、流入室外から流入室内へ貫通するロッドを用いたものでは、流入室外への塗料漏出を防止する手段として、ロッドの貫通路内にシール部材が設けられるため、このシール部材がロッドとの摺動によって摩耗することが原因となって、シール性能が低下し、流入室内の塗料が漏出することが懸念される。
これに対し、本発明では、弁口の開度を増減させるための弁体を移動させる手段として磁気吸引力を用いたので、シール部材の摩耗の問題は生じない。したがって、シール部材の摩耗に起因して流入室内の塗料が漏出する虞はない。
【0008】
<請求項2の発明>
弁体が弁口を完全に閉塞して、弁口における塗料の流れを遮断する構造のものでは、弁口が閉塞されたときに脈動が発生することが懸念されるが、本発明では、駆動側永久磁石が閉弁位置へ移動して弁口が最も絞られた状態においても、弁体の流出孔を通ることで塗料が弁口から塗装ガン側へ流出するようになっているので、脈動を抑制することができる。
【0009】
<請求項3の発明>
洗浄の際には、可動部材を流入室の内周面に対して接近・離間させるように揺り動かすことにより、可動部材の外周と流入室の内周との隙間に塗料が残留することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図6を参照して説明する。上部支持体10と下部支持体11との間には軸線を上下方向に向けた外壁体12が設けられ、外壁体12の内周面は円形断面のガイド面13となっている。上部支持体10と下部支持体11との間には、ガイド面13と同心の円筒形をなす非磁性材料(非鉄金属や合成樹脂)からなる筒体14が設けられ、上下両支持体10,11とガイド面13と筒体14の外周面とによって囲まれた円筒形の空間は駆動空間15となっている。
【0011】
駆動空間15の内部には、円筒形をなす駆動体16がガイド面13に摺接しつつ上下方向(軸線方向)に往復移動し得るように収容されている。駆動体16の内部には複数の駆動側永久磁石17が埋設されている。複数の駆動側永久磁石17は、図4に示すように、N極が内周面側を向くものとS極が内周面側を向くものとが、駆動体16の内周面上において千鳥格子状の配置で縦横に整列されている。即ち、駆動体16の内周面には、N極を向けた駆動側永久磁石17とS極を向けた駆動側永久磁石17とが、上下方向及び周方向において交互に配列されている。また、駆動体16の外周面における上端側部分と下端側部分には、夫々、周方向の細かい凹凸を軸方向に並べた形態のラビリンスシール18が形成されており、このラビリンスシール18により駆動体16とガイド面13との間がシールされているとともに、駆動体16とガイド面13との間の摩擦抵抗の低減が図られている。また、駆動体16の内周面のうち駆動側永久磁石17の形成領域よりも上方の部分と下方の部分には、金属の表面にテフロン(登録商標)層を重ねた形態の軸受手段であるドライベアリング19が設けられ、このドライベアリング19が筒体14の外周面に対して摺接するようになっている。
【0012】
駆動空間15は、駆動体16より上方の上部室と、駆動体16より下方の下部室とに気密に仕切られ、上部室と下部室は、夫々、図示しないポートに個別に連通されている。これらのポートを通して作動エアの供給と排出を行うと、駆動体16が、その上端面を上部支持体10に当接させる開弁位置と、その下端面を下部支持体11に当接させる閉弁位置との間で上下移動するようになっている。
【0013】
筒体14の内周と上部支持体10と下部支持体11とによって囲まれた空間は流入室20となっており、この流入室20内には、軸線を筒体14と同心の略円柱形をなす可動部材21が上下方向への移動を可能に収容されている。可動部材21の外周には、複数の従動側永久磁石22が固定して設けられている。複数の従動側永久磁石22は、図5に示すように、駆動側永久磁石17と対応する配置、即ちN極が外周面側を向くものとS極が外周面側を向くものとが可動部材21の外周面上において千鳥格子状となる配置で縦横に整列されている。即ち、可動部材21の外周面には、N極を向けた従動側永久磁石22とS極を向けた従動側永久磁石22とが、上下方向及び周方向において交互に配列されている。
【0014】
駆動側永久磁石17のN極と従動側永久磁石22のS極は、筒体14を挟んで径方向に対向し、駆動側永久磁石17のS極と従動側永久磁石22のN極が、筒体14を挟んで径方向に対向している。これにより、駆動側永久磁石17と従動側永久磁石22との間には、径方向(駆動体16が開弁位置と閉弁位置との間で移動する方向と直角な方向)の磁気吸引力が発生している。そして、この磁気吸引力により、駆動体16が開弁位置と閉弁位置との間で上下移動すると、これに追従して可動部材21が駆動体16と一体となって上下移動するようになっている。また、可動部材21の外周面と筒体14の内周面との間には、可動部材21が径方向へ変位することを許容するクリアランス23が確保されている。
【0015】
可動部材21の内部には、その軸線と同心の円形断面をなす導孔24が形成されている。導孔24の上端は可動部材21の上端面に開口されており、上部支持体10に形成した流入ポート25と同心状に対応している。流入ポート25には、塗料の供給源(図示せず)が接続されている。また、可動部材21の下端部には、可動部材21と同心の略円錐形であって下方に向かって外径寸法が次第に小さくなるテーパ状の弁体26が形成されている。弁体26の内部には、径方向の横孔27が周方向に90°ピッチで形成されている。各横孔27は、夫々、個別に弁体26の外周面に開口しているとともに、導孔24の下端部に集合して連通している。また、弁体26には、導孔24と同心であり、且つ導孔24及び横孔27よりも小径の流出孔28が形成されている。流出孔28の上端は導孔24と横孔27とに連通し、流出孔28の下端は弁体26の下端面に開口している。
【0016】
下部支持体11には、可動部材21及び弁体26と同心であって、弁体26の下方に位置するように円形の弁口29が形成されている。弁口29は、弁体26の外周面と同様にテーパ状をなすシート面30を有し、弁口29の下端は、下部支持体11に形成した流出ポート31に連通されている。流出ポート31には、塗装ガン(図示せず)が接続されている。
【0017】
次に、本実施形態の作用を説明する。
塗料の供給源から塗装ガンに至る塗料の供給路の途中には流量計(図示せず)が設けられており、この流量計で計測される値の変動に応じて、駆動体16(駆動側永久磁石17)が開弁位置(図2を参照)と閉弁位置(図3を参照)との間で移動する。即ち、流量が所定量よりも少なくなると、駆動体16が開弁位置に移動する。すると、可動部材21が、磁気吸引力により駆動体16に追従して上方へ移動し、弁体26が弁口29から離間するので、弁口29の開度が大きくなる。この状態では、流入ポート25から流入室20内に流入した塗料が、断面積の大きい導孔24と、断面積の大きい横孔27と、弁体26の外周面と弁口29の内周面(シート面30)との間の断面積の大きいリング状流路32を順に流れて弁口29を通過するので、流出ポート31から塗装ガン側へ供給される塗料の流量が増大する。
【0018】
これに対し、流量が所定量よりも大きくなると、駆動体16が閉弁位置に移動し、駆動体16に追従して可動部材21が下方へ移動するのに伴って、弁体26が弁口29に接近し、弁体26の外周面下端部がシート面30に当接する。これにより、弁体26の外周と弁口29の内周(シート面30)との間のリング状流路32における塗料の流動が規制され、塗料は、断面積の小さい流出孔28のみを通過することになる。つまり、弁口29の開度が絞られるのである。したがって、流出ポート31から塗装ガン側へ供給される塗料の流量は減少する。
上記のように駆動体16を、塗料の流量に応じて開弁位置と閉弁位置との間で適宜に移動させることにより、塗装ガンに対して所定の流量の塗料を安定して供給することができる。
弁口29の開度を増減させるための弁体26を移動させる手段として、流入室20外から流入室20内へ貫通するロッドを用いたものでは、流入室20外への塗料漏出を防止する手段として、ロッドの貫通路内にシール部材が設けられるが、このシール部材はロッドとの摺動によって摩耗するため、これが原因となって、シール性能が低下し、流入室20内の塗料が漏出することが懸念される。
これに対し、本実施形態では、弁口29の開度を増減させるための弁体26を移動させる手段として磁気吸引力を用いたので、シール部材の摩耗の問題は生じない。したがって、シール部材の摩耗に起因して流入室20内の塗料が漏出する、という虞はない。
【0019】
また、弁体26が弁口29を完全に閉塞して、弁口29における塗料の流れを遮断する構造とした場合は、弁口29が閉塞された瞬間に脈動が発生することが懸念されるが、本実施形態では、弁体26に、駆動側永久磁石17が閉弁位置にある状態において、弁口29における塗料の流出を許容する流出孔28を形成し、弁口29が最も絞られた状態においても、弁体26の流出孔28を通ることで少量の塗料が弁口29から塗装ガン側へ流出するようにしているので、脈動を抑制することができる。
【0020】
さらに、弁口29が完全に閉塞された場合には、弁口29よりも上流の流入室20(一次側)の圧力が、弁口29よりも下流の流路(二次側)よりも大きくなるため、この圧力差が磁気吸引力を上回った場合には、駆動体16が開弁位置へ移動しても可動部材21が駆動対に追従せずに弁口29が閉塞されたままになってしまうことが懸念される。その点、本実施形態では、流出孔28を介して一次側と二次側とを連通させているので、一次側と二次側の圧力差が過大にならずに済み、可動部材21を確実に駆動体16に追従させることができる。
【0021】
また、弁体26の外周面やシート面30が変形した場合には、閉弁状態において弁体26の外周面とシート面30との間に隙間が生じることになるのであるが、本実施形態では、閉弁状態でも弁口29が完全に閉塞されない構造としているので、弁体26の外周面とシート面30との間に隙間が生じることは、流量調整機能の障害とはならない。
【0022】
また、流入室20(筒体14)の内周面と可動部材21の外周面との間には、可動部材21が、その外周面と流入室20の内周面との間隔を増減させるように変位することを許容するクリアランス23を形成しているので、洗浄の際には、外部から振動を与える等の手段によって可動部材21を流入室20の内周面に対して接近・離間させるように揺り動かせば、可動部材21の外周と流入室20の内周との隙間に塗料が残留することを防止できる。
【0023】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)駆動側永久磁石が閉弁位置に移動した状態において、弁口が完全に閉塞されて、弁口における塗料の流出が規制されるようにしてもよい。
(2)流入室の内周面と可動部材の外周面との間には、可動部材の変位を許容する隙間を設けない形態としてもよい。
(3)上記実施形態の装置は主剤と硬化剤を所定流量ずつ交互に投入して混合して得られる二液塗料にも適用することができる。この場合は、本実施形態の装置を主剤流路と硬化剤流路に個別に設けることにより、主剤と硬化剤の1回当たりの投入量を制御することができる。また、この場合、1回の投入量に達するまで、駆動体を細かく開閉移動させて、弁口における主剤と硬化剤の通過量を複数回増減させてもよい。
(4)流入室の内周面と可動部材の外周面との間にクリアランスを設けない形態としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1の開弁状態をあらわす断面図
【図2】図1の部分拡大図
【図3】閉弁状態をあらわす部分拡大断面図
【図4】駆動側永久磁石の配列をあらわす展開図
【図5】従動側永久磁石の配列をあらわす展開図
【図6】図1のX−X線断面図
【符号の説明】
【0025】
17…駆動側永久磁石
20…流入室
21…可動部材
22…従動側永久磁石
23…クリアランス
26…弁体
28…流出孔
29…弁口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料が流入する流入室と、
前記流入室内の塗料を塗装ガン側へ流出させるための弁口と、
前記流入室内に設けられ、前記弁口と対応する弁体を備えた可動部材と、
前記流入室の外部において開弁位置と閉弁位置との間での移動を可能に設けられた駆動側永久磁石と、
前記可動部材の外周に設けられた従動側永久磁石とを備え、
前記駆動側永久磁石と前記従動側永久磁石との間の磁気吸引力により、前記可動部材と前記従動側永久磁石が前記駆動側永久磁石に追従して移動するようになっており、
前記駆動側永久磁石が開弁位置へ移動するのに伴なって、前記弁体が前記弁口から離間して前記弁口の開度が増大し、
前記駆動側永久磁石が閉弁位置へ移動するのに伴なって、前記弁体が前記弁口に接近して前記弁口の開度が絞られるようになっていることを特徴とする塗料流量調整装置。
【請求項2】
前記弁体には、前記駆動側永久磁石が閉弁位置にある状態において、前記弁口における前記塗料の流出を許容する流出孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載の塗料流量調整装置。
【請求項3】
前記流入室の内周面と前記可動部材の外周面との間には、前記可動部材が、前記両周面の間隔を増減させるように変位することを許容するクリアランスが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗料流量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−126174(P2008−126174A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315872(P2006−315872)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】