説明

塗料用アクリル樹脂組成物。

【課題】 ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィド、炭素繊維強化芳香族ポリアミド樹脂、ポリオレフィンなどの難付着性基材に対し、良好な付着性を有する塗料用アクリル樹脂組成物を得る。
【解決手段】 20〜100重量%のアクリル酸シクロヘキシルが共重合されたアクリル樹脂(A)と、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜100重量%、およびその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体0〜80重量%とが共重合されたガラス転移温度が65〜170℃であるアクリル樹脂(B)を含む塗料用アクリル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド樹脂(NY)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル樹脂(PES)などの有機高分子、ガラス、窯業系建材などの無機物など、種々基材に対して良好な付着性を有する塗料用アクリル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料、粘着剤は、対象となる基材に強く付着または粘着することが必要である。塗料の場合には付着性が重要なテーマである。粘着剤、特に、保護フィルムやフラットパネルディスプレイ用の機能性フィルムの場合には基材フィルムへの強固な付着性と、被着体(例えばガラス)に対する再剥離性が必要である。いずれの場合にも、基材に対しては強固に付着している必要があることに変わりはない。
【0003】
塗料業界では、近年、リサイクルが比較的容易なポリプロピレン(PP)アロイ、耐熱性や変形特性の良好なガラスや炭素繊維で強化されたPPSなどのスーパーエンプラ用途の製品開発が重要な課題となっている。これらの素材は一般に難付着性であり、従来の塗料の延長線上では付着性の良好な製品は開発され得ないのが現状である。
【0004】
また、粘着剤業界も同様に、耐熱性向上の観点から芳香族ポリアミド、ポリイミド基材が多用されており、塗料同様強固に付着し、粘着性を示すものが望まれていた。
【0005】
ポリプロピレン(PP)アロイ用付着する塗料として塩素化ポリプロピレンを配合した塗料、または塩素化ポリプロピレン変性アクリル樹脂を配合した技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。これらの技術は、ポリプロピレン(PP)アロイ(例えば、自動車バンパー、インパネのオーディオ周りなどに使用)のポリプロピレン部と塩素化ポリプロピレンのポリプロピレンユニットとの相溶性により付着性を改善しようとするものである。確かに、開示されているように、ピンポイントで塗料処方を設計すれば、特定のポリプロピレン(PP)アロイに対するそれなりの付着性は発揮される。ただ、非常に残念ながら、周知の通り、ポリプロピレン(PP)は、成形時の熱履歴で結晶構造、結晶化の度合いが変化するため、リサイクルが前提となっているPPアロイ全てにまんべんなく適用できる技術でないことは明らかである。さらに、一方でリサイクルしエコロジー対策、環境負荷低減に配慮されているにもかかわらず、他方で塩素化ポリプロピレンという塩素を含む有機高分子化合物を使用することは本末転倒である。
【0006】
また、きわめて難付着性とされるポリフェニレンスルフィド(PPS)用塗料としてアミノ基を有する化合物、アミノ基を有するシランカップリング剤を配合する技術が開示されている(特許文献3、特許文献4参照)。残念なことに、ポリフェニレンスルフィド(PPS)は、結晶性ポリマである。また、形状安定性を向上するため、および強度を向上するため一般に単独で使用されることは少なくガラス繊維強化グレードとしてガラス繊維が配合された状態で使用される。提案されている技術は成形直後は付着性を示すかもしれないが、経時ではその付着性が悪化し、剥がれやすくなることは必至である。要求を十分満足する技術とは言い難い。
【0007】
さらに、ポリオレフィンに良好な付着性を示すものとしてアクリル系の塗料組成物などが提案されている(特許文献5、6、7参照)。これらの技術は、2級アルコールまたは3級アルコールとカルボン酸とのエステル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が含まれるアクリル共重合体(A)30〜100質量%と、アクリル共重合体(A)とは異なる他の重合体(B)0〜70質量%からなるものである。2級アルコールまたは3級アルコールとカルボン酸とのエステル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどが例示されている。
【0008】
特許文献5、6、7に記載の提案は、アクリル共重合体(A)だけが用いられる場合には、ポリプロピレン(PP)アロイやポリエチレンといったポリオレフィンへの付着性に優れ、安定した性能を有する。しかし、アクリル共重合体(A)を単独で使用した場合には、架橋構造を取り得ないこと、ガラス転移温度が低いこと(または高いこと)により、耐溶剤性が悪く、自然環境に暴露された場合油膜汚れがつきやすい結果となる。
【0009】
一方で、アクリル共重合体(A)とアクリル共重合体(A)を構成する単量体とは異なる単量体を共重合してなるアクリル共重合体(B)とのポリマブレンドでは、アクリル共重合体(A)とアクリル共重合体(B)との非相溶性を原因として、特許文献5、6、7に提案されているような結果は得られない。非相溶性が原因で、付着性が悪化することは、塗料業界では周知のことである。
【0010】
また、アクリル共重合体(A)とアクリル共重合体(A)を構成する単量体とは異なる単量体を共重合してなるアクリル共重合体(B)とのポリマブレンドでは、塗料の基本的性能である塗膜の透明性、光沢、色調、色安定性、鮮鋭性などに満足なものが得られない。さらにまた、アクリル共重合体(A)を単独で使用した場合には、架橋構造を取り得ないこと、ガラス転移温度が低いこと(または高いこと)により、耐溶剤性が悪く、自然環境に暴露された場合油膜汚れがつきやすい結果となる。
【特許文献1】特開2005−290314号公報
【特許文献2】特開2003−55597号公報
【特許文献3】特開2002−309165号公報
【特許文献4】特開2000−226536号公報
【特許文献5】特開2004−315668号公報
【特許文献6】特開2004−196990号公報
【特許文献7】特開2004−307577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィド(PPS)、炭素繊維強化芳香族ポリアミド樹脂(NY)などに代表されるスーパーエンプラ、エチレン−プロピレン共重合体などでアロイ化されたポリプロピレン(PP)に代表されるポリオレフィンなどの難付着性基材に対し、完璧で、強固な付着性を有する塗料用アクリル樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、20〜100重量%のアクリル酸シクロヘキシルが共重合されたアクリル樹脂(A)と、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜100重量%、およびその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体0〜80重量%とが共重合されたガラス転移温度が65〜170℃であるアクリル樹脂(B)を含む塗料用アクリル樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド樹脂(NY)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル樹脂(PES)などの有機高分子、ガラス、窯業系建材などの無機物など、種々基材に対して良好な付着性を有する。
【0014】
特記すべきは、本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィド(PPS)、炭素繊維強化芳香族NYなどに代表されるスーパーエンプラ、エチレン−プロピレン共重合体などでアロイ化されたPPに代表されるポリオレフィンなどの難付着性基材に対し、完璧で、強固な付着性を有することである。
【0015】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、種々難付着性基材に対して良好な付着性を示すともに、塗膜は良好な耐傷つき性、屈曲性有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の説明で出てくる共重合体のガラス転移温度(以下Tgとも言う)は、文献に記載されている方法により算出した(参考文献:「高分子の力学的性質」、J.E.NIELSEN著、小野木重治訳、p26−p27、化学同人(1975))。
【0017】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、20〜100重量%のアクリル酸シクロヘキシルが共重合されたアクリル樹脂(A)と、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜100重量%、およびその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体0〜80重量%とが共重合されたガラス転移温度が65〜170℃であるアクリル樹脂(B)を含む塗料用アクリル樹脂組成物である。
【0018】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル酸シクロヘキシルは、上市されているものから任意に選択し、使用することができる。
【0019】
アクリル樹脂(A)は、アクリル酸シクロヘキシルが、20〜100重量%共重合される。アクリル酸シクロヘキシルは、好ましくは、30〜100重量%、さらに好ましくは、60〜98重量%共重合されることが推奨される。アクリル酸シクロヘキシルの共重合量が20重量%未満の場合には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリプロピレン(PP)アロイのような難付着性基材に対する付着性が悪化する。
【0020】
アクリル樹脂(A)において、アクリル酸シクロヘキシルの共重合量が100重量%(アクリル酸シクロヘキシル単独重合体)の場合には、種々基材に対する付着性はきわめて良好である。
【0021】
アクリル酸シクロヘキシル共重合量が100重量%の場合には、塗膜が軟らかくなる傾向がある。塗膜の粘着性をなくし、塗膜の汚染性を改良し、塗膜が傷つきにくくするために、アクリル酸シクロヘキシル共重合量が100重量%の場合には、アクリル樹脂(A)をラジカル重合で製造する際にチオグリコール酸、チオプロピオン酸、チオエタノールなどのメルカプト基以外の活性水素原子基を有する連鎖移動剤を併用することが推奨される。
【0022】
アクリル樹脂(A)をラジカル重合で製造する際にチオグリコール酸、チオプロピオン酸、チオエタノールなどのメルカプト基以外の活性水素原子基を有する連鎖移動剤を併用することは、アクリル酸シクロヘキシル共重合量が20重量%以上100重量%未満の場合も好ましい。これにより、塗膜の軟化を改善でき、粘着性や耐汚染性、耐傷つき性が向上する傾向が見られる。同時に、アクリル樹脂(B)との一体化が図れるようになり、塗膜の透明性、鮮鋭性、光沢などの意匠性が向上する傾向にある。
【0023】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル酸シクロヘキシルと共重合可能なその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが例示できる。該(メタ)アクリル酸エステル単量体は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0024】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル樹脂(A)は、Tgが、好ましくは、−50〜50℃、より好ましくは、−30〜30℃、さらに好ましくは、−10〜30℃であることが推奨される。アクリル樹脂(A)のTgが、−50℃未満の場合には、ポリマ凝集力が低下し付着性が悪化する傾向が見られる。また、アクリル樹脂(A)のTgが、−50℃未満の場合には、塗膜に粘着性が残りやすくなる傾向があり、耐汚染性や耐傷つき性が悪化する場合がある。アクリル樹脂(A)のTgが、50℃を超える場合には、同様に塗膜が脆くなる傾向が見られ、付着性が悪化する場合がある。また、塗料粘度が高くなる傾向にある、レベリング性や鮮鋭性が悪化する傾向が見られる。
【0025】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル樹脂(A)は、良く知られる通常のラジカル重合により製造できる。すなわち、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合などにより製造できる。
【0026】
溶液重合での製造例をあげれば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチルセロソルブなどの有機溶媒を使用し、重合温度50〜150℃で、重合開始剤としてα,α−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、過酸化ベンゾイルなどの有機アゾ系化合物、有機過酸化物を使用して、アクリル酸シクロヘキシルおよびその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体のラジカル重合を行うことにより製造できる。ポリマの着色防止のため重合中は窒素ガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスを吹き込むのが望ましい。
【0027】
また、アクリル樹脂(A)の製造において、分子量調節のため、必要であればn−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオエタノール、α−スチレンダイマーなどの連鎖移動剤を使用することもできる。これらの連鎖移動剤は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0028】
さらに好ましくは、アクリル樹脂(A)の製造において、分子量調節のため、チオグリコール酸、チオプロピオン酸、チオエタノールなどの分子中にメルカプト基以外の活性水素原子含有基を有する連鎖移動剤を用いることである。これらの連鎖移動剤を使用することにより、アクリル樹脂(A)のポリマ末端に活性水素原子を効率的に導入可能となり、より強靱な塗膜を形成することができる。さらに、アクリル樹脂(B)とブレンド使用する場合において、例えばウレタン架橋する場合に、アクリル樹脂(B)との一体化がなされ、アクリル樹脂(A)/アクリル樹脂(B)間の相溶性が飛躍的に向上し、塗膜の透明性、光沢、付着性、屈曲性など数々の性能に優れた効果が発揮される。
【0029】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル樹脂(B)は、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が、20〜100重量%共重合される。アクリル樹脂(B)は、好ましくは、30〜100重量%、さらに好ましくは、50〜98重量%共重合されるのが望ましい。シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合量が20重量%未満の場合には、アクリル樹脂(A)との相溶性が悪化する傾向が見られ、塗料の沈殿、分離などの貯蔵安定性が悪化する傾向が見られ、また塗膜の均一性、透明性、鮮鋭性、光沢、および付着性が悪化する場合がある。
【0030】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル樹脂(B)には、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が共重合される。シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、ジシクロペンタニルオキシアクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチルアクリレート、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、ジシクロペンテニルオキシメタクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどが例示できる。これらのシクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合量は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0031】
これらのシクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合量のなかではメタクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルオキシメタクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルオキシアクリレートが好ましく使用することができる。これらの単量体を共重合することにより、アクリル樹脂(A)との相溶性改善に大きい効果が見られる傾向がある。さらに、相溶性改善により、塗料の貯蔵安定性、付着性、均一性、透明性、光沢などが向上する傾向が見られる。
【0032】
アクリル樹脂(B)において、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合し使用できるその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが例示できる。該(メタ)アクリル酸エステル単量体は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0033】
アクリル樹脂(B)はアクリル樹脂(A)と同様にラジカル共重合で製造することができる。
【0034】
アクリル樹脂(B)は、Tgが、好ましくは、65〜170℃、より好ましくは、80〜170℃、さらに好ましくは、100〜150℃であることが推奨される。アクリル樹脂(B)のTgが65℃未満の場合には、塗膜が軟らかく、塗膜のやや粘着性が残る場合が見られる。耐傷つき性や耐汚染性が悪化する傾向が見られる。アクリル樹脂(B)のTgが170℃を超える場合には、塗料粘度が高くなり塗装作業性が悪化する傾向が見られる。結果として、塗装外観、均一性、光沢などがやや悪化する場合がある。
【0035】
アクリル樹脂(B)は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基を有していることが望ましい。これらの官能基は、アクリル樹脂(B)に、好ましくは、0.5〜30重量%、より好ましくは、0.8〜25重量%、さらに好ましくは、1.0〜22重量%共重合されるのが望ましい。共重合量が0.5重量%未満の場合には、官能基導入の効果が希薄であり、付着性や架橋性に目立った改善効果は見られない傾向にある。30重量%を超えて共重合される場合には、塗膜が硬くなりすぎ、脆く割れやすくなる傾向にある。また、硬化反応、架橋反応時の歪みが塗膜に残りやすくなり、曲げや押し出し加工への追随性が損なわれる傾向にある。
【0036】
アクリル樹脂(B)に、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基を導入するには、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有アクリル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有アクリル単量体、メタクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどのエポキシ基含有アクリル単量体を共重合すればよい。
【0037】
アクリル樹脂(B)に、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基を導入することにより、塗料に良好な顔料分散性やレベリング性を付与することができる。さらに、これらの官能基を利用して、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、γ−アミノプロピルルトリエトキシシランなどのアミノ基含有化合物、テルペンフェノール樹脂などのフェノール基を有する化合物、などの架橋剤を配合することにより塗膜に強靱な架橋構造を持たせることが可能となり、塗膜の耐久性、耐傷つき性、屈曲性などを一段と高めることができ推奨される。
【0038】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物では、アクリル樹脂(A)とアクリル樹脂(B)とは、アクリル樹脂(A)とアクリル樹脂(B)との合計量が100重量%のとき、アクリル樹脂(A)の配合量が、好ましくは、5重量%以上100重量%未満、より好ましくは、10〜90重量%、さらに好ましくは、30〜85重量%であることが望ましい。アクリル樹脂(A)の配合量が5重量%未満の場合には、付着性、屈曲性が劣る場合が見られる。特に、PPS、PPアロイなどの難付着性基材の場合に顕著となる傾向が見られる。
【0039】
本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、有機高分子用塗料や、ガラス、窯業系建材などの無機物用塗料に好適であり、より好ましくは、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン樹脂(ABS樹脂)用の塗料、ポリフェニレンスルフィド(PPS)用の塗料、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)用の塗料、ポリアミド樹脂(NY)用の塗料、ポリプロピレン(PP)用の塗料、ポリエステル樹脂(PES)用の塗料に使用することができる。
【0040】
さらに、本発明の塗料用アクリル樹脂組成物は、ガラス繊維強化PPS、炭素繊維強化芳香族NYなどに代表されるスーパーエンプラ用の塗料、エチレン−プロピレン共重合体などでアロイ化されたPPに代表されるポリオレフィン用の塗料に好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をもって本発明を詳細に説明する。
【0042】
なお、実施例、比較例中、特に断りがなければ組成比は重量比を表す。また、分子量は標準ポリメタクリル酸メチルを分子量標準として、GPC(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー)により測定した。
【0043】
付着性は、JIS K 5400(1987)記載の碁盤目試験法に従い試験、評価した。100/100で合格とした。鉛筆硬度は、JIS K 5400(1987)記載の鉛筆引っ掻き抵抗性試験により試験、評価した。塗膜の耐傷付き性の尺度としてB以上で合格とした。屈曲性は、JIS K 5400(1987)記載の屈曲性試験により試験、評価した。塗膜の柔軟性、強靱性の尺度として5mmφ以下を合格とした。
【0044】
実施例1
酢酸ブチルを溶媒とし、重合開始剤にα,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、チオエタノールを連鎖移動剤として、アクリル酸シクロヘキシルをラジカル重合し、Mn4.0万、固形分50.3%のアクリル樹脂(A−1)(Tg=20℃)を製造した。
【0045】
同様に、酢酸ブチルを溶媒として、重合開始剤にα,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、単量体組成が、ジシクロペンタニルオキシメタクリレート(ホモポリマーのTg=170℃)/アクリル酸シクロヘキシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(ホモポリマーのTg=40℃)(=75/10/15)の混合モノマーをラジカル重合し、Mn=5.7万、固形分40.2%のアクリル樹脂(B−1)(Tg=125℃)を製造した。
【0046】
アクリル樹脂(A−1)とアクリル樹脂(B−1)とを固形分比で70/30〜30/70になるよう混合し、酢酸ブチルを添加して固形分を30%に調整した。これに硬化剤として「スミジュール N−3300」(住友バイエルウレタン(株)の製品、ウレタン硬化剤)を硬化剤のNCO基のモル数/アクリルのOH基のモル数(以下NCOインデックスとも言う)が1.2となるよう配合し、均一になるまで攪拌した。この塗料を表1,2,3の各種基材に乾燥膜厚が25μmとなるよう塗布し、80℃で20分間乾燥した。さらに1週間23℃で養生した後、試験を行った。付着性、耐傷つき性、屈曲性の試験結果を表1,2,3に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表1,2,3に示したとおり、アクリル樹脂(A−1)(連鎖移動剤にチオエタノールを使用)とアクリル樹脂(B−1)(シクロアルキル基含有(メタ)アクリレートを85%共重合、かつ相溶性を良くするため、アクリル酸シクロヘキシルを10%共重合)とをポリマブレンドしたアクリルウレタン塗料は難付着性とされる種々基材に良好な付着性を示し、さらに塗膜の耐傷付き性、屈曲性にも優れていた。
【0051】
実施例2
酢酸ブチルを溶媒とし、重合開始剤にα,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、チオエタノールを連鎖移動剤として、メタクリル酸シクロヘキシル(ホモポリマのTg=60℃)/アクリル酸シクロヘキシル(=80/20)をラジカル重合し、Mn4.5万、固形分48.5%のアクリル樹脂(A−2)(Tg=51℃)を製造した。
【0052】
同様に、酢酸ブチルを溶媒として、重合開始剤に、α,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、単量体組成が、ジシクロペンタニルオキシメタクリレート/メタクリル酸シクロヘキシル/アクリル酸シクロヘキシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(=30/20/30/20)の混合モノマーをラジカル重合し、Mn=6.2万、固形分40.2%のアクリル樹脂(B−2)(Tg=67℃)を製造した。
【0053】
アクリル樹脂(A−2)とアクリル樹脂(B−2)とを固形分比で70/30〜30/70になるよう混合し、酢酸ブチルを添加して固形分を30%に調整した。これに硬化剤として「スミジュール N−3300」をNCOインデックスが1.2となるよう配合し、均一になるまで攪拌した。この塗料を表4、5、6の各種基材に乾燥膜厚が25μmとなるよう塗布し、80℃で20分間乾燥した。さらに1週間23℃で養生した後、試験を行った。付着性、耐傷つき性、屈曲性の試験結果を表4、5、6に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
表4、5、6に示したとおり、アクリル樹脂(A−2)(連鎖移動剤にチオエタノールを使用)とアクリル樹脂(B−2)(シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を80%共重合、かつ相溶性を良くするためアクリル酸シクロヘキシルを20%共重合)とをポリマブレンドしたアクリルウレタン塗料は難付着性とされる種々基材に良好な付着性を示し、さらに塗膜の耐傷付き性、屈曲性にも優れていた。
【0058】
比較例1
酢酸ブチルを溶媒とし、重合開始剤にα,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、メタクリル酸メチル(ホモポリマーのTg=104℃)をラジカル重合しアクリル樹脂(C−1)を製造した。アクリル樹脂(C−1)のMnは5.8万であった。また固形分は40.2%であった。アクリル樹脂(C−1)を表7の各種基材に乾燥膜厚が25μmとなるよう塗布し、80℃で20分間乾燥した。付着性試験結果を表7に示した。
【0059】
【表7】

【0060】
アクリル酸シクロヘキシルまたはシクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が共重合されていないアクリル樹脂(C−1)は基材に全く付着性を有さなかった。
【0061】

同時に、ルミラーT−60#50の塗装板で屈曲性試験を行ったところ、10mmφ×であった。塗膜の柔軟性が全くなかった。
【0062】
比較例2
酢酸ブチルを溶媒とし、重合開始剤に、α,α−アゾビスイソブチロニトリルを用い、アクリル酸シクロヘキシル(ホモポリマーのTg=20℃)をラジカル重合し数平均分子量(以下Mnとも言う)が20万のアクリル樹脂(A−3)(A−3は、連鎖移動剤を使用していない)を製造した。固形分は、50.0%であった。アクリル樹脂(A−3)を表8、9のPPアロイに乾燥膜厚が25μmとなるよう塗布し、80℃で20分間乾燥した。付着性試験結果を表8に示した。また、塗膜硬度の試験結果(耐傷付き性)を表9に示した。
【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
アクリル樹脂(A−3)は、塗膜が軟らかく傷つきやすい傾向が見られた。
【0066】
比較例2
アクリル樹脂(A−1)とアクリル樹脂(C−1)とを80/20で混合し試験を行った。混合溶液は混合直後は白濁していたが、1日目頃から分離をはじめ、約3週間で上層部と下層部を有する分離液となった。アクリル樹脂(A−1)とシクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が全く共重合されていないアクリル樹脂(C−1)とは相溶性が悪く、塗料の貯蔵安定性が劣悪であった。
【0067】
混合した塗料を、表10の各種基材に乾燥膜厚が25μmとなるよう塗布し、80℃で20分間乾燥した。付着性試験結果を表10に示した。
【0068】
【表10】

【0069】
アクリル樹脂(A−1)とアクリル樹脂(C−1)とは相溶性が悪いために、アクリル樹脂(A−1)を80%も配合したにもかかわらず、付着性を有していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜100重量%のアクリル酸シクロヘキシルが共重合されたアクリル樹脂(A)と、シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜100重量%、およびその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体0〜80重量%とが共重合されたガラス転移温度が65〜170℃であるアクリル樹脂(B)を含む塗料用アクリル樹脂組成物。
【請求項2】
シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が、メタクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルオキシメタクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルオキシアクリレートの群から選択される1種以上の単量体を含むものである請求項1記載の塗料用アクリル樹脂組成物。
【請求項3】
その他の(メタ)アクリル酸エステル単量体が、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体を含むものである請求項1または2に記載の塗料用アクリル樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル樹脂(A)が、チオグリコール酸、チオプロピオン酸、チオエタノールの群から選択される少なくとも1種の連鎖移動剤の存在下に重合されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の塗料用アクリル樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−302835(P2007−302835A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134649(P2006−134649)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】