説明

塗料用水性樹脂組成物

【課題】耐ブロッキング性、耐候性および耐凍害性に優れ、下地に悪影響を与えない塗料用水性樹脂組成物、前記塗料用水性樹脂組成物を含有する無機質建材用塗料、ならびに前記塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材を提供すること。
【解決手段】塗料用に用いられる水性樹脂組成物であって、疎水性樹脂エマルション、多官能単量体およびレオロジーコントロール剤を含有することを特徴とする塗料用水性樹脂組成物、前記塗料用水性樹脂組成物を含有する無機質建材用塗料、ならびに前記塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用水性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、例えば、窯業系建材などの無機質建材のトップコート用塗料などに有用な塗料用水性樹脂組成物および当該塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材に関する。本発明の塗料用水性樹脂組成物は、例えば、無機質建材をはじめ建築物の外壁などを塗装する際に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、塗料用樹脂組成物として水性樹脂組成物が用いられている。水性樹脂組成物のなかで硬化性、耐久性および耐汚染性に優れた水性樹脂組成物として、硬化性単量体および/またはオリゴマーを含有するエマルション粒子を含むアクリル系樹脂エマルションを必須成分とする水系硬化性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記水系硬化性樹脂組成物は、硬化性、耐久性および耐汚染性に優れているが、最近では耐ブロッキング性、耐候性、耐凍害性などに優れ、下地に悪影響を与えない塗料用水性樹脂組成物の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−510179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、耐ブロッキング性、耐候性および耐凍害性に優れ、下地に悪影響を与えない塗料用水性樹脂組成物、および当該塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1) 塗料用に用いられる水性樹脂組成物であって、疎水性樹脂エマルション、多官能単量体およびレオロジーコントロール剤を含有することを特徴とする塗料用水性樹脂組成物、
(2) 疎水性樹脂エマルションが、疎水性単量体を50質量%以上含有する疎水性単量体成分を乳化重合させてなる疎水性樹脂エマルションである前記(1)に記載の塗料用水性樹脂組成物、
(3) レオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤、ウレタン会合型レオロジーコントロール剤およびセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のレオロジーコントロール剤である前記(1)または(2)に記載の塗料用樹脂組成物、
(4) 疎水性樹脂エマルションのエマルション粒子のガラス転移温度が60℃以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物、
(5) さらに、光重合開始剤を含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物を含有する無機質建材用塗料、および
(7) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成されてなる無機質建材
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、耐ブロッキング性、耐候性および耐凍害性に優れ、下地に悪影響を与えないという優れた効果を奏する。
【0008】
本発明の塗料用水性樹脂組成物に用いられる疎水性樹脂エマルションが、疎水性単量体を50質量%以上含有する疎水性単量体成分を乳化重合させることによって得られる疎水性樹脂エマルションである場合には、さらに耐ブロッキング性、耐候性および耐凍害性が向上し、下地に悪影響を与えないという優れた効果が奏される。
【0009】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、疎水性樹脂エマルションに用いられるレオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤、ウレタン会合型レオロジーコントロール剤およびセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のレオロジーコントロール剤である場合には、スプレーやローラーで塗装するのに好適な粘性を有するという優れた効果が奏される。
【0010】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、光重合開始剤を含有する場合には、塗料用水性樹脂組成物の耐ブロッキング性を向上させることができるとともに、塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材を効率よく製造することができるという優れた効果が奏される。
【0011】
本発明の塗料用水性樹脂組成物からなる無機質建材用塗料は、耐ブロッキング性に優れており、当該塗料を用いることにより、耐候性および耐凍害性に優れた塗膜を有する無機質建材を効率よく製造することができるという優れた効果が奏される。
【0012】
本発明の無機質建材は、前記塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜を有するので、前記塗料用水性樹脂組成物に基づく優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、前記したように、塗料用に用いられる水性樹脂組成物であり、疎水性樹脂エマルション、多官能単量体およびレオロジーコントロール剤を含有することを特徴とする。したがって、本発明の塗料用水性樹脂組成物は、耐ブロッキング性、耐候性および耐凍害性に優れ、下地に悪影響を与えないという優れた効果を奏する。
【0014】
なお、本明細書において、下地に悪影響を与えない性質、すなわち下地に塗布する前後で下地の色調に変化が生じない性質を色調保持性という。
【0015】
本発明の塗料用水性樹脂組成物に用いられる疎水性樹脂エマルションは、疎水性単量体成分を乳化重合させることによって調製することができる。
【0016】
なお、本明細書において、「疎水性単量体成分」とは、疎水性単量体の含有率が50質量%以上である単量体成分を意味する。疎水性単量体成分は、疎水性単量体以外に、親水性単量体を含有していてもよい。
【0017】
疎水性単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、フッ素原子含有アルキル(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、芳香族系単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0019】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、n−ラウリルアクリレート、n−ラウリルメタクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルアクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
フッ素原子含有アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリフルオロエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレートなどのエステル基の炭素数が2〜6のフッ素原子含有アルキルメタクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
芳香族系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−メチルスチレン、クロロスチレン、アラルキル(メタ)アクリレート、ビニルトルエンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。アラルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタクリレート、メチルベンジルアクリレート、メチルベンジルメタクリレート、ナフチルメチルアクリレート、ナフチルメチルメタクリレートなどの炭素数が7〜18のアラルキル基を有するアラルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
疎水性単量体のなかでは、塗膜の耐候性を向上させる観点から、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜10のアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0024】
親水性単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有(メタ)アクリレート、オキソ基含有単量体、窒素原子含有単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。親水性単量体のなかでは、疎水性樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子とレオロジーコントロール剤との親和性を高める観点から、カルボキシル基含有単量体および水酸基含有(メタ)アクリレートが好ましく、カルボキシル基含有単量体がより好ましい。
【0025】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有脂肪族系単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基含有単量体のなかでは、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。また、疎水性単量体成分におけるカルボキシル基含有単量体の含有率は、耐ブロッキング性、耐候性、耐凍害性および色調保持性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。疎水性単量体成分におけるカルボキシル基含有単量体の含有率の下限値は、0質量%であるが、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
【0026】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18の水酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
オキソ基含有単量体としては、例えば、エチレングリコールアクリレート、エチレングリコールメタクリレート、エチレングリコールメトキシアクリレート、エチレングリコールメトキシメタクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ジエチレングリコールメトキシアクリレート、ジエチレングリコールメトキシメタクリレートなどの(ジ)エチレングリコール(メトキシ)(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
窒素原子含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
疎水性単量体成分において、耐ブロッキング性、耐候性、耐凍害性および色調保持性を向上させる観点から、疎水性単量体の含有率は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、親水性単量体の含有率は、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。また、疎水性単量体成分において、疎水性樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子とレオロジーコントロール剤との親和性を向上させる観点から、疎水性単量体の含有率は、100質量%以下、好ましくは99質量%以下であり、親水性単量体の含有率は、0質量%以上、好ましくは1質量%以上である。
【0030】
疎水性樹脂エマルションに含まれるエマルション粒子は、1段の乳化重合によって調製された1種類の樹脂のみで構成されていてもよく、疎水性単量体成分を多段乳化重合させることによって調製された複数の樹脂層を有するものであってもよい。
【0031】
疎水性単量体成分を乳化重合させる方法としては、例えば、メタノールなどの低級アルコールなどの水溶性有機溶媒と水とを含む水性媒体、水などの媒体中に乳化剤を溶解させ、撹拌下で疎水性単量体成分および重合開始剤を滴下させる方法、乳化剤および水を用いてあらかじめ乳化させておいた疎水性単量体成分を水または水性媒体中に滴下させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。なお、媒体の量は、得られる樹脂エマルションに含まれる不揮発分の含有率を考慮して適宜設定すればよい。
【0032】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤などが挙げられ、これらの乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸−ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0035】
カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライドなどのアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0036】
両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0037】
高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
また、前記乳化剤として、塗膜の耐候性を向上させる観点から、重合性基を有する乳化剤、すなわち、いわゆる反応性乳化剤が好ましく、環境保護の観点から、非ノニルフェニル型の乳化剤が好ましい。
【0039】
反応性乳化剤としては、例えば、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩〔例えば、三洋化成工業(株)製、商品名:エレミノールRS−30など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10など〕、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH−10など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE−10など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10、SR−30など〕、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩〔例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:アントックスMS−60など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープER−20など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンRN−20など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE−10など〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
乳化剤の量は、疎水性単量体成分100質量部あたり、重合安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上、特に好ましくは3質量部以上であり、塗膜の耐候性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、より一層好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは4質量部以下である。
【0041】
重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2―ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)などのアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化アンモニウムなどの過酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
重合開始剤の量は、疎水性単量体成分100質量部あたり、重合速度を高め、未反応の単量体の残存量を低減させる観点から、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、塗膜の耐候性を向上させる観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
【0043】
重合開始剤の添加方法は、特に限定されない。その添加方法としては、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下などが挙げられる。また、重合反応の終了時期を早める観点から、疎水性単量体成分を反応系内に添加する終了前またはその終了後に、重合開始剤の一部を添加してもよい。
【0044】
なお、重合開始剤の分解を促進するために、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤、硫酸第一鉄などの遷移金属塩などの重合開始剤の分解剤を反応系内に適量で添加してもよい。
【0045】
また、反応系内には、必要により、例えば、tert−ドデシルメルカプタンなどのチオール基を有する化合物などの連鎖移動剤、pH調整剤、pH緩衝剤、キレート剤などの添加剤を添加してもよい。添加剤の量は、その種類によって異なるので一概には決定することができないため、その種類に応じて適した量となるように調整することが好ましい。
【0046】
疎水性単量体成分を乳化重合させる際の雰囲気は、特に限定されないが、重合開始剤の効率を高める観点から、窒素ガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0047】
疎水性単量体成分を乳化重合させる際の重合温度は、特に限定がないが、通常、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜95℃である。重合温度は、一定であってもよく、重合反応の途中で変化させてもよい。
【0048】
疎水性単量体成分を乳化重合させる重合時間は、特に限定がなく、重合反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、通常、2〜9時間程度である。
【0049】
以上のようにして疎水性単量体成分を乳化重合させることにより、エマルション粒子を含有する疎水性樹脂エマルションが得られる。
【0050】
エマルション粒子自体のガラス転移温度(エマルション粒子を構成する重合体のガラス転移温度)は、耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。当該重合体のガラス転移温度は、耐候性を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上である。当該重合体のガラス転移温度は、疎水性単量体成分に使用される単量体の組成を調整することにより、容易に調節することができる。
【0051】
本明細書において、エマルション粒子のガラス転移温度(エマルション粒子を構成する重合体のガラス転移温度)は、当該重合体を構成する疎水性単量体成分に使用されている単量体の単独重合体のガラス転移温度を用いて、式:
1/Tg=Σ(Wm/Tgm)/100
〔式中、Wmは重合体を構成する疎水性単量体成分における単量体mの含有率(重量%)、Tgmは単量体mの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度:K)を示す〕
で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求められた温度を意味する。
【0052】
重合体のガラス転移温度は、例えば、メチルメタクリレートの単独重合体では105℃、シクロヘキシルメタクリレートの単独重合体では66℃、イソボルニルメタクリレートの単独重合体では180℃、2−エチルヘキシルアクリレートの単独重合体では−70℃、n−ブチルメタクリレートの単独重合体では−20℃、n−ブチルアクリレートの単独重合体では−56℃、メタクリル酸の単独重合体では130℃、アクリル酸の単独重合体では95℃である。
【0053】
重合体のガラス転移温度は、前記フォックス(Fox)の式に基づいて求められた値であるが、重合体のガラス転移温度の実測値は、前記フォックス(Fox)の式に基づいて求められた値と同じであることが好ましい。重合体のガラス転移温度の実測値は、例えば、その示差走査熱量の測定によって求めることができる。
【0054】
示差走査熱量の測定装置としては、例えば、セイコーインスツル(株)製、品番:DSC220Cなどが挙げられる。また、示差走査熱量を測定する際、示差走査熱量(DSC)曲線を描画する方法、示差走査熱量(DSC)曲線から一次微分曲線を得る方法、スムージング処理を行なう方法、目的のピーク温度を求める方法などには特に限定がない。例えば、前記測定装置を用いた場合には、当該測定装置を用いることによって得られたデータから作図すればよい。その際、数学的処理を行なうことができる解析ソフトウェアを用いることができる。当該解析ソフトウェアとしては、例えば、解析ソフトウェア〔セイコーインスツル(株)製、品番:EXSTAR6000〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、このようにして求められたピーク温度には、上下5℃程度の作図による誤差が含まれることがある。
【0055】
エマルション粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、エマルション粒子の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、特に好ましくは100nm以上であり、塗膜の耐候性を向上させる観点から、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは250nm以下、特に好ましくは200nm以下である。
【0056】
なお、本明細書において、エマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定器〔パーティクル・サイジング・システムズ(Particle Sizing Systems)社製、商品名:NICOMP Model 380)を用いて測定された体積平均粒子径を意味する。
【0057】
疎水性樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は、造膜性および耐凍害性を向上させる観点から、好ましくは20重量%以上であり、耐候性を向上させる観点から、好ましくは60重量%以下である。
【0058】
なお、本明細書において、樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は、樹脂エマルション1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、式:
〔樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率(質量%)〕
=(〔残渣の質量〕÷〔樹脂エマルション1g〕)×100
に基づいて求められた値を意味する。
【0059】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、多官能単量体を含有する点にも1つの大きな特徴がある。本発明の塗料用水性樹脂組成物は、多官能単量体を含有するので、耐ブロッキング性に優れている。なお、本明細書にいう多官能単量体は、多官能オリゴマーを包含する概念のものである。
【0060】
多官能単量体としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコール残基のアルキル基の炭素数が4〜8のアルキル(メタ)アクリレート;1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのアルキルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイドの付加モル数が1〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が1〜50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数2〜4のアルキレンオキシド基を有し、アルキレンオキシドの付加モル数が1〜50であるアルキルジ(メタ)アクリレート;エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2−(2’−ビニルオキシエトキシエチル)(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートエポキシ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
多官能単量体のなかでは、塗料用水性樹脂組成物の耐水性を向上させる観点から、水酸基を2個有するアルキル基の炭素数が4〜8のアルキル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイドの付加モル数が1〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が1〜50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート、多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレートおよび多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレートが好ましく、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイドの付加モル数が1〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートおよびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0062】
多官能単量体の量は、樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたり、塗料用水性樹脂組成物の耐水性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、耐凍結害性を向上させる観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0063】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、レオロジーコントロール剤を含有する点にも1つの大きな特徴がある。本発明の塗料用水性樹脂組成物は、レオロジーコントロール剤を含有するので、耐凍害性および色調保持性に優れるという優れた効果が奏される。
【0064】
レオロジーコントロール剤は、本来、粘性を上昇させたり下降させたりするときに用いられている。しかし、本発明の塗料用水性樹脂組成物では、意外なことに、レオロジーコントロール剤が用いられていることにより、耐凍害性のみならず色調保持性にも優れている。
【0065】
レオロジーコントロール剤としては、例えば、アルカリ可溶型ポリ(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤;ポリエーテルウレタン会合基変性体などのウレタン会合型レオロジーコントロール剤;カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤;水溶性ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩、モンモリロナイト、コロイド状アルミナなどの無機系レオロジーコントロール剤;カゼイン、カゼイン酸ナトリウム、カゼイン酸アンモニウムなどのタンパク質系レオロジーコントロール剤;アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸系レオロジーコントロール剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニル−ベンジルエーテル共重合体などのポリビニル系レオロジーコントロール剤;ポリアクリル酸ナトリウム、アルカリ可溶型ポリ(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのポリアクリル酸系レオロジーコントロール剤;プルロニックポリエーテル、ポリエーテルジアルキルエステル、ポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルウレタン会合基変性体、ポリエーテルエポキシ変性体などのポリエーテル系レオロジーコントロール剤;ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体の部分エステル、乾性油脂肪酸アリルアルコールエステルと無水マレイン酸との反応物の半エステルなどの無水マレイン酸共重合体系レオロジーコントロール剤;アセチレングリコール、キサンタンガム、ザンタンガム、デンプンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0066】
レオロジーコントロール剤のなかでは、本発明の塗料用水性樹脂組成物にスプレーやローラーで塗装するのに好適な粘性を付与する観点から、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤、ウレタン会合型レオロジーコントロール剤およびセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のレオロジーコントロール剤が好ましく、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤およびセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のレオロジーコントロール剤がより好ましく、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤がさらに好ましい。
【0067】
なお、本明細書にいうアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤は、室温(例えば、25℃)においてpHが8以上の水性溶媒に50質量%以上が溶解するレオロジーコントロール剤を意味する。
【0068】
アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸を含有する単量体成分を重合させることによって得られるアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0069】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどのアルキル基の炭素数が1〜4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのメタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
単量体成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は、耐候性、耐凍害性および色調保持性を向上させる観点から、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。また、単量体成分における(メタ)アクリル酸の含有率は、耐候性、耐凍害性および色調保持性を向上させる観点から、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%である。なお、単量体成分には、本発明の目的が阻害されない範囲内で他の単量体が含まれていてもよい。
【0071】
単量体成分を重合させる方法は、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これの重合法のなかでは、疎水性樹脂エマルションとの親和性を高め、耐候性、耐凍害性および色調保持性を向上させる観点から、乳化重合法が好ましい。親水性樹脂用単量体成分を乳化重合させる場合の重合条件は、前記疎水性単量体成分を乳化重合させる方法と同様であればよい。
【0072】
以上のようにして単量体成分を重合させることにより、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤が得られる。なお、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤を乳化重合法によって調製した場合、エマルション粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、エマルション粒子の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、塗膜の耐候性を向上させる観点から、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは250nm以下、特に好ましくは200nm以下である。アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤における不揮発分の含有率は、エマルション粒子の貯蔵安定性および経済性を向上させる観点から、好ましくは20重量%以上であり、エマルション粒子の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは50重量%以下である。
【0073】
アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤は、商業的に容易に入手することができるものであり、例えば、アクリセットWR−507、アクリセットWR−650〔以上、(株)日本触媒製、商品名〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0074】
本明細書にいうウレタン会合型レオロジーコントロール剤は、ウレタン化合物同士が疎水性相互作用によって会合しているレオロジーコントロール剤を意味する。
【0075】
ウレタン会合型レオロジーコントロール剤は、商業的に容易に入手することができるものであり、例えば、アデカノールUH−420、アデカノールUH−438、アデカノールUH−450VF、アデカノールUH−472〔以上、(株)ADEKA製、商品名〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのレオロジーコントロール剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
セルロース誘導体系レオロジーコントロール剤は、商業的に容易に入手することができるものであり、例えば、SP−600、SP−800、SP−850〔以上、ダイセル化学工業(株)製、ヒドロキシエチルセルロース、商品名〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0077】
レオロジーコントロール剤の有効成分の量は、本発明の塗料用水性樹脂組成物の耐凍害性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上であり、本発明の塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜の耐候性を向上させる観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0078】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤のなかでは、耐ブロッキング性を向上させ、塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成された無機質建材を効率よく製造する観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0079】
光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライドなどのベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリドなどのチオキサントン類、フェニルグリオキシリックメチルエステル、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤のなかでは、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノンが好ましい。
【0080】
熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、tert−ヘキシルヒドロパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジtert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジn−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ2−エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジs−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、tert−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシソブチレート、tert−ブチルパーオキシマレート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシ−m−トルイルベンゾエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(tert−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、tert−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどの有機過酸化物系重合開始剤;
【0081】
2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−ヒドロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2''−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]などのアゾ系重合開始剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの熱重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
熱重合開始剤のなかでは、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルおよび2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
【0083】
多官能単量体100質量部あたりの光重合開始剤の量は、塗料用水性樹脂組成物の耐凍害性および耐候性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0084】
本発明の塗料用水性樹脂組成物には、必要により、成膜助剤を含有させてもよい。成膜助剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート、2−エチルヘキシルジグリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール、n−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの成膜助剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0085】
樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたりの成膜助剤の量は、成膜性を向上させる観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0086】
本発明の塗料用水性樹脂組成物には、必要により、顔料を含有させてもよい。顔料としては、有機顔料および無機顔料が挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0087】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、アゾメチン顔料、メチン顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イミノイソインドリン顔料、イミノイソインドリノン顔料、キナクリドンレッドやキナクリドンバイオレットなどのキナクリドン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、カルバゾール顔料、モノアリーライドイエロー、ジアリーライドイエロー、ベンゾイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、キノフタロン顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0088】
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などをはじめ、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。顔料のなかでは、耐候性を向上させる観点から、二酸化チタンがより好ましい。
【0089】
樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたりの顔料の量は、着色効果を十分に付与する観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、成膜性を向上させる観点から、好ましくは400質量部以下である。
【0090】
本発明の塗料用水性樹脂組成物は、樹脂エマルション、多官能単量体、レオロジーコントロール剤、必要により、重合開始剤、成膜助剤、顔料などを混合することにより、容易に調製することができる。
【0091】
本発明の塗料用水性樹脂組成物における不揮発分の含有率は、造膜性および耐凍害性を向上させる観点から、好ましくは20重量%以上であり、耐候性を向上させる観点から、好ましくは60重量%以下である。
【0092】
なお、本明細書において、本発明の塗料用水性樹脂組成物における不揮発分の含有率は、樹脂エマルション1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、式:
〔塗料用水性樹脂組成物における不揮発分の含有率(質量%)〕
=(〔残渣の質量〕÷〔樹脂エマルション1g〕)×100
に基づいて求められた値を意味する。
【0093】
以上のようにして得られる本発明の塗料用水性樹脂組成物は、耐ブロッキング性、色調保持性、耐候性および耐凍害性に総合的に優れているので、無機質建材などの基材の下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料などの各種塗料に好適に用いることができるが、特に基材のトップコート(最表面)に塗布される塗料など好適に用いることができる。したがって、本発明の塗料用水性樹脂組成物は、例えば、窯業系建材などの無機質建材のトップコート用塗料に有用である。
【0094】
無機質建材としては、例えば、窯業系基材、金属系基材などが挙げられる。窯業系基材は、例えば、瓦、外壁材などの用途に使用される。窯業系基材は、無機質硬化体の原料となる水硬性膠着材に無機充填剤、繊維質材料などを添加し、得られた混合物を成形し、得られた成形体を養生し、硬化させることによって得られる。無機質建材としては、例えば、スレート板、フレキシブルボード、サイディングボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボードなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0095】
このような無機質建材は、一般に、その内部に水が透しやすので、劣化しやすいという性質を有する。そのため、無機質建材の表面および裏面には、一般に塗料用水性樹脂組成物が塗布され、その無機質建材の表面には、通常、所望の意匠を付与するために、上塗り塗料が塗布されている。
【0096】
本発明の無機質建材は、その表面および裏面に塗料用水性樹脂組成物を塗布することによって得られ、当該塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜を有するものである。
【0097】
無機質建材の表面および裏面に塗料用水性樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、刷毛、バーコーター、アプリケーター、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーターなどを用いた塗布方法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0098】
無機質建材に塗布される塗料用水性樹脂組成物の量には特に限定がなく、通常、塗布時の厚さが5〜500μmであり、この厚さの範囲からその用途に適した厚さを選択することが好ましい。
【0099】
無機質建材に塗料用水性樹脂組成物を塗布することによって形成された塗膜は、例えば、紫外線、電子線などを照射したり、加熱したりするなどにより、硬化させることができる。このとき、重合開始剤として光重合開始剤を用いた場合には、紫外線、近赤外線などを照射することによって硬化させることが好ましく、また重合開始剤として熱重合開始剤を用いた場合には、加熱することによって硬化させることが好ましい。
【0100】
以上説明したように、本発明の塗料用水性樹脂組成物は、耐ブロッキング性、色調保持性、耐候性および耐凍害性に総合的に優れているので、例えば、無機質建材などに好適に使用することができるものである。
【実施例】
【0101】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0102】
製造例1
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水802部を仕込んだ。滴下ロート内で脱イオン水250部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:ハイテノールN−08〕の15%水溶液105部、乳化剤〔三洋化成工業(株)製、商品名:ノニポール200〕の20%水溶液81部、エチルアクリレート300部、メチルメタクリレート200部およびメタクリル酸500部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の6%にあたる86部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら70℃まで昇温し、過硫酸アンモニウムの5%水溶液23部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と過硫酸アンモニウムの5%水溶液23部を240分間かけてフラスコ内に均一に滴下した。滴下終了後、同温度で60分間維持し、重合反応を終了した。得られた反応混合物に脱イオン水1140部を添加し、室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤を得た。
【0103】
実施例1
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0104】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート800部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、n−ブチルメタクリレート90部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0105】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0106】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0107】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pH〔(株)堀場製作所製、品番:F−23を用いて23℃で測定、以下同様〕を9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0108】
次に、レオロジーコントロール剤として、ウレタン会合型レオロジーコントロール剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカノールUH−472、有効成分の含有率:30%〕50部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0109】
実施例2
実施例1において、レオロジーコントロール剤として、セルロース系増粘剤〔ダイセル化学工業(株)製、品番:SP−600の3%水溶液〕50部を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0110】
実施例3
実施例1において、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0111】
実施例4
実施例3において、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤の量を25部から50部に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作を行なうことにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0112】
実施例5
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0113】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート800部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、n−ブチルメタクリレート90部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0114】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0115】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0116】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート250部およびジトリメチロールプロパンテトラアクリレート250部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0117】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0118】
実施例6
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0119】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート900部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、n−ブチルメタクリレート70部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0120】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0121】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0122】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン50部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部およびポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキサイド基の付加モル数:9)500部との混合溶液、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、品番:CS−12〕250部、脱イオン水2165部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0123】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は94℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0124】
実施例7
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0125】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート380部、シクロヘキシルメタクリレート450部、2−エチルヘキシルアクリレート50部、n−ブチルメタクリレート100部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0126】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0127】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0128】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0129】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0130】
実施例8
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0131】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート800部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、n−ブチルメタクリレート90部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0132】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0133】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0134】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0135】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0136】
実施例9
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0137】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート300部、イソボルニルメタクリレート〔共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステルIB−X〕640部、n−ブチルアクリレート40部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0138】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0139】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0140】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0141】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤25部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は136℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0142】
実施例10
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0143】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート800部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、n−ブチルメタクリレート90部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0144】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0145】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0146】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、光重合開始剤としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドと1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとを1:3の質量比で混合した混合物25部と、多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート250部およびジトリメチロールプロパンテトラアクリレート250部との混合溶液、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0147】
次に、製造例1で得られたアルカリ可溶型レオロジーコントロール剤50部をフラスコ内に添加し、その状態を30分間維持した後、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0148】
前記で得られた塗料用水性樹脂組成物125部をホモディスパーで回転速度1500min-1にて撹拌しながら脱イオン水41部を添加し、不揮発分の含有率を30%に調節した。この不揮発分の含有率が30%に調節された塗料用水性樹脂組成物にエナメル用顔料ペースト47部を添加し、さらにクレーブス単位粘度計(ブルックフィールド社製、品番:KU−1)を用いて25℃で測定したときの粘度が65±1KUとなるようにセルロース系増粘剤〔ダイセル化学工業(株)製、品番:SP−600、有効成分の含有率:3%〕を添加した後、得られた混合物をホモディスパーで回転速度1500min-1にて30分間撹拌することにより、クリヤー塗料を得た。得られたクリヤー塗料を室温中で1日間放置することによって安定化させた後、使用に供した。
【0149】
なお、前記エナメル用顔料ペーストは、分散剤〔花王(株)製、商品名:デモールEP〕60部、分散剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:ディスコートN−14〕50部、湿潤剤〔花王(株)製、商品名:エマルゲンLS−106〕10部、プロピレングリコール60部、脱イオン水210部、酸化チタン〔石原産業(株)製、品番:CR−95〕1000部、抑泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034L〕10部およびガラスビーズ(直径:1mm)500部をホモディスパーで回転速度3000min-1にて60分間分散させることにより、調製した。
【0150】
比較例1
滴下ロート、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に脱イオン水1040部を仕込んだ。
【0151】
滴下ロート内で脱イオン水290部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10〕の25%水溶液120部、メチルメタクリレート800部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、n−ブチルメタクリレート90部、メタクリル酸10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製した。
【0152】
得られた滴下用プレエマルションのうち、単量体成分の総量の6%にあたる85部を前記フラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部をフラスコ内に添加し、重合反応を開始した。
【0153】
次に、滴下用プレエマルションの残部、3.5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および2.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を240分間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、80℃の温度で60分間維持した。
【0154】
その後、25%アンモニア水をフラスコ内に添加し、pHを9に調整し、重合反応を終了した。得られた樹脂エマルションを室温まで冷却した後、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)25部と多官能単量体として1,4−ブタンジオールジアクリレート500部、脱イオン水1260部および脱泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777〕5部をフラスコ内に添加し、そのままの状態で120分間維持した。
【0155】
次に、フラスコ内の内容物を300メッシュの金網で濾過することにより、塗料用水性樹脂組成物を得た。得られた塗料用水性樹脂組成物に含まれているエマルション粒子のガラス転移温度は70℃であり、塗料用水性樹脂組成物の不揮発分の含有率は40質量%であった。
【0156】
実験例
〔試験板の作製1〕
分散剤〔花王(株)製、商品名:デモールEP〕60部、分散剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:ディスコートN−14〕50部、湿潤剤〔花王(株)製、商品名:エマルゲンLS−106〕10部、プロピレングリコール60部、脱イオン水210部、酸化チタン〔石原産業(株)製、品番:CR−95〕1000部、抑泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034L〕10部およびガラスビーズ(直径:1mm)500部をホモディスパーで回転速度3000min-1にて60分間分散させることにより、白色ペーストを調製した。
【0157】
アクリル樹脂エマルション〔(株)日本触媒製、商品名:アクリセットEX−41〕300部、前記で得られた白色ペースト135部、成膜助剤(ブチルセロソルブ15部、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、品番:CS−12〕)15部、黒色ペースト〔横浜化成(株)製、商品名:ユニラント88〕10部および抑泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034L〕1.5部を混合することにより、ベースコート用塗料を調製した。
【0158】
次に、前記で得られたベースコート用塗料を凹凸基材〔ウベボード(株)製、商品名:UBボードライト、品番:SS3×10T12−00、小スコッタ調〕に、エアレススプレー〔アネスト岩田(株)製〕で塗布量100g/m2にて塗布することにより、塗装板を得た。
【0159】
実施例1〜7および実施例9〜10で得られた各塗料用水性樹脂組成物を、それぞれ別々に、前記で得られた塗装板のベースコートの塗膜上に塗装板の表面温度が60℃±5℃の状態でエアレススプレー〔アネスト岩田(株)製〕を用いて塗布量100g/m2にて塗布し、室温で5分間放置した後、紫外線を照射(500mJ)することにより、それぞれ試験板2枚を得た。
【0160】
〔試験板の作製2〕
実施例8および比較例1で得られた塗料用水性樹脂組成物を、それぞれ別々に、実施例1と同様にして作製した塗装板上に塗装板の表面温度が60℃±5℃の状態でエアレススプレー〔アネスト岩田(株)製、品番:EX−700〕を用いて塗布量100g/m2にて塗布した後、100℃の熱風乾燥機で10分間乾燥させることにより、それぞれ試験板2枚を得た。
【0161】
<耐ブロッキング性>
前記で得られた試験板2枚を作製後にただちに50℃の熱風乾燥機内に入れ、2枚の試験板の塗装面同士を重ね合わせ、得られた積層体の面に500g/cm2(約490kPa)の荷重をかけ、6時間放置した。次に、試験板の接触面が動かないようにしながら、積層体をそのままの状態で80℃の熱風乾燥機内に入れ、積層体の面に500g/cm2(約490kPa)の荷重をかけ、2時間放置した。その後、試験板の接触面が動かないようにしながら、積層体をそのままの状態で5℃の恒温器内に2時間入れ、次いで25℃の恒温器内に6時間放置した。
【0162】
以上の一連の操作を1サイクルとし、当該サイクルを10サイクル(合計160時間)行なった後、積層体を構成している2枚の試験板同士をゆっくりと剥がし、塗膜の状態を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
25:異常が認められない。
20:剥離抵抗があるが、塗膜に異常が認められない。
15:剥離抵抗があり、塗膜の一部に痕が認められる。
10:剥離抵抗があり、塗膜の一部に剥がれが認められる。
0:試験板同士を剥離させることができない。
【0163】
<色調保持性>
試験板の外観を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて色調保持性を評価した。
(評価基準)
25:下地の色の変化がなく、色調が維持されている。
20:下地の色が一部変化しているが、基材の色調を保持している。
15:下地の色が一部変化し、基材の色調がやや変化している。
10:下地の色が斑に変化しているか、または基材の色調が明らかに変化している。
0:下地の色が全体に変化し、基材の色調が明らかに変化している。
【0164】
<耐候性>
試験体の側面および裏面をアルミニウムテープでシールし、その試験板の塗料用水性樹脂組成物が塗布されている塗膜面の色差(L0、a0、b0)を色差計〔日本電色工業(株)製、商品名:分光式色差計SE−2000〕で測定し、さらに以下の耐候性試験の試験条件で1000時間耐候性試験を行なった。
【0165】
〔耐候性試験の試験条件〕
・耐候性試験機:メタルウェザー〔ダイプラ・ウィンテス(株)製、品番:KU−R〕
・照射:気温65℃で相対湿度50%の雰囲気中で4時間紫外線を照射(照射強度:80mW/cm2
・湿潤:気温35℃で相対湿度98%の雰囲気中で4時間紫外線を照射(照射強度:80mW/cm2
・水シャワー:湿潤前後に各30秒間
【0166】
耐候性試験の終了後、前記色差計で試験板の塗膜面の色差(L1、a1、b1)を測定し、E値の変化値(ΔE)を式:
ΔE=[(L1−L02+(a1−a02+(b1−b021/2
に基づいて求め、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
25:ΔEが2.0未満
20:ΔEが2.0以上、4.05未満
15:ΔEが4.0以上、6.0未満
10:ΔEが6.0以上、8.0未満
0:ΔEが8.0以上
【0167】
<耐凍害性>
試験板の側面をシリコーン系バスボンド〔コニシ(株)製〕でシールした後、凍結融解試験機を用い、大気中で−20℃に冷却することによって2時間凍結した後に20℃の水中に2時間浸漬する操作を1サイクルとし、100サイクルごとに拡大倍率が30倍のルーペを用いて被膜面のクラックの発生状態を観察しながら前記操作を300サイクル行ない、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
25:300サイクルでも問題なし
20:200サイクルで問題がないが、300サイクルでクラックが発生
10:100サイクルで問題がないが、200サイクルでクラックが発生
0:100サイクルでクラックが発生
【0168】
<総合評価>
各評価の得点を合計することにより、総合評価(満点:100点)を行なった。
【0169】
【表1】

【0170】
表1に示された結果から、各実施例で得られた塗料用水性樹脂組成物は、いずれも、比較例1と対比して、耐ブロッキング性、色調保持性、耐候性および耐凍害性に総合的に優れた塗膜を形成することがわかる。
【0171】
したがって、各実施例で得られた塗料用水性樹脂組成物は、無機質建材用塗料に好適に使用することができるとともに、例えば、無機質建材をはじめ建築物の外壁などを塗装する際に好適に使用することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料用に用いられる水性樹脂組成物であって、疎水性樹脂エマルション、多官能単量体およびレオロジーコントロール剤を含有することを特徴とする塗料用水性樹脂組成物。
【請求項2】
疎水性樹脂エマルションが、疎水性単量体を50質量%以上含有する疎水性単量体成分を乳化重合させてなる疎水性樹脂エマルションである請求項1に記載の塗料用水性樹脂組成物。
【請求項3】
レオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型レオロジーコントロール剤、ウレタン会合型レオロジーコントロール剤およびセルロース誘導体系レオロジーコントロール剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のレオロジーコントロール剤である請求項1または2に記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
疎水性樹脂エマルションのエマルション粒子のガラス転移温度が60℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、光重合開始剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物を含有する無機質建材用塗料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の塗料用水性樹脂組成物からなる塗膜が形成されてなる無機質建材。


【公開番号】特開2013−82809(P2013−82809A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223517(P2011−223517)
【出願日】平成23年10月8日(2011.10.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】