説明

塗料用添加剤及びそれを含む塗料

【課題】本発明は、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等の総合的な性能にバランスよく優れる水性塗料を得るための塗料用添加剤及びそのような塗料用添加剤を含んで成る水性塗料を提供する。
【解決手段】(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含む塗料用添加剤であって、(A)水性樹脂の酸価は20〜60mgKOH/gであり、(a)重合性不飽和単量体は、(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る塗料用添加剤を含む塗料は、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等に総合的にバランスよく優れる。(a)重合性不飽和単量体は、(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成ることが好ましい。本発明に係る塗料用添加剤は、耐汚染化剤として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用添加剤及びそれを含む塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や塗装に用いられる外装塗料に求められる性能として、塗料から形成される塗膜の耐候性に加えて、雨風、排気ガス、塵、砂などによる雨染み等の汚染に対する耐汚染性が検討されることが多い。近年、塗料分野においても環境に優しいこと等を考慮して溶剤系から水系への転換がなされつつあるが、水系塗料は、それから形成される塗膜の硬度が低く、耐汚染性は低下する傾向にある。
【0003】
特許文献1は、2個以上のヒドロキシル基を有する繰り返し単位を1個以上含有し、その繰り返し単位の含有割合(重量基準)が10%を超える重合体からなる低汚染化剤を開示する。
特許文献2は、α,β−モノエチレン性不飽和基含有アルコキシシランと、α,β−モノエチレン性不飽和基含有ヒドロキシアルキルエステルと、他のα,β−モノエチレン性不飽和基含有化合物と、共重合可能な他のα,β−モノエチレン性不飽和基含有化合物とを有機溶媒を用いた溶液重合で得られた、重量平均分子量が3000〜200000であるビニル系樹脂を含有する溶剤系コーティング剤を開示する。
【0004】
しかしながら、特許文献1の実施例では、樹脂の耐水性が不十分であるため、形成される塗膜の耐水性が不十分である。更に、得られる樹脂から低汚染化剤が流出し得るので、低汚染性能が低下し得る。
特許文献2のコーティング剤は、耐汚染性や樹脂の安定性が不十分であり得、更に溶剤系であるため、水系用途には使用しがたい。
環境問題を考慮すると、今後、水系塗料には、ますます高い性能が求められる。塗料業界では、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等の総合的な性能にバランスよく優れる水性塗料の開発が急務であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-055617号公報
【特許文献2】特開2005-232265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みなされたもので、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等の総合的な性能にバランスよく優れる水性塗料を得るための塗料用添加剤及びそのような塗料用添加剤を含んで成る水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、特定の単量体を含んで成る重合性不飽和単量体を重合して得られた水性樹脂を含んで成る塗料用添加剤を含む塗料であって、水性樹脂の酸価を特定の範囲に制御すると、塗料から形成される塗膜は、耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等に総合的にバランスよく優れることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は一の要旨において、
(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含む塗料用添加剤であって、
(A)水性樹脂の酸価は20〜60mgKOH/gであり、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る塗料用添加剤を提供する。
本発明に係る塗料用添加剤は、特に外装用の塗料に添加することで、優れた性能を塗料に与えることができる。特に耐汚染化剤として好ましく使用することができる。
【0009】
本発明は、一の態様において、(a)重合性不飽和単量体は、さらに、(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る塗料用添加剤を提供する。
本発明は、他の態様において、(a)重合性不飽和単量体は、さらに、(a4)その他の単量体を含んで成る塗料用添加剤を提供する。
【0010】
本発明は、他の要旨において、上述の塗料用添加剤を含む塗料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塗料用添加剤は、(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含み、
(A)水性樹脂の酸価は20〜60mgKOH/gであり、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成るので、
従来の塗料用添加剤と比較して、本発明に係る塗料用添加剤を用いると、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等の総合的な性能にバランスよく優れる水性塗料を得ることができる。
【0012】
本発明に係る塗料用添加剤は、(a)重合性不飽和単量体が、さらに、(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る場合、形成される塗膜の耐汚染性がよりいっそう向上した水性塗料を得ることができる。
【0013】
本発明に係る塗料用添加剤は、(a)重合性不飽和単量体が、さらに、(a4)その他単量体を含んで成る場合、(A)水性樹脂のガラス転移温度(Tg)をより容易に制御することができ、本発明に係る塗料用添加剤を含む水性塗料から形成される塗膜の表面タック性能、耐汚染性能を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る塗料用添加剤は、耐汚染化剤として使用することができる。
本発明に係る塗料は、本発明に係る塗料用添加剤を含むので、形成される塗膜が、耐汚染性及び耐水性に優れ、更に、耐候性及び表面タック性能などの性能のバランスに優れる。本発明に係る塗料は、形成される塗膜の耐汚染性等に優れるので、特に、屋外の建築物に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る塗料用添加剤は、(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含み、
(A)水性樹脂の酸価は20〜60mgKOH/gであり、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る。
【0016】
本発明において「(a)重合性不飽和単量体」とは、エチレン性二重結合を有するラジカル重合性単量体をいう。(a)重合性不飽和単量体として、「(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」、「(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」、「(a3)酸基とエチレン性二重結合を有する単量体」及び「(a4)その他のエチレン性二重結合を有する単量体」を例示できる。(a)重合性不飽和単量体は、(a1)単量体を含み、場合により、(a2)〜(a4)単量体を含んでなる。
【0017】
本明細書において「エチレン性二重結合」とは、重合反応(ラジカル重合)し得る炭素原子間二重結合をいう。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH−)、(メタ)アリル基(CH=CH−CH−及びCH=C(CH)−CH−)、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CH−COO−及びCH=C(CH)−COO−)、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(CH=CH−COO−R−及びCH=C(CH)−COO−R−)及び−COO−CH=CH−COO−等を例示できる。
【0018】
尚、本明細書においては、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」ともいい、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステル」又は「(メタ)アクリレート」ともいう。アリル基及びアクリロイルオキシ基についても同様である。
【0019】
「(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」(以下「(a1)単量体ともいう」)とは、ラジカル重合反応によって得られる(A)水性樹脂に、ヒドロキシル基を付与することができる化合物をいい、本発明に係る(A)水性樹脂が得られ、目的とする塗料用添加剤を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体は、ヒドロキシル基とエチレン性二重結合を共に有し、ヒドロキシル基とエチレン性二重結合は、例えば、エステル結合、アミド結合及びアルキレン基等の他の官能基を介して結合してよい。
【0020】
(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体として、下記式(I)で示される化合物が好ましい。
(I):CH=CR−X−R
[但し、式(I)において、Rは、H、メチル基もしくはエチル基、Xは、エステル基又はアミド基(好ましくは、−COO−及び−CONH−)、Rはヒドロキシル基を有する官能基を表す。]
【0021】
式(I)のRとして、ヒドロキシアルキル基が好ましく、ヒドロキシアルキル基のアルキル基は、置換基を有してよく、環状構造を有しても良い。ヒドロキシアルキル基として、例えば、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、7−ヒドロキシヘプチル基、4−ヒドロキシシクロヘキシル基、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基等を例示できる。
【0022】
(a1)ヒドロキシル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体の具体例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなどを例示できる。耐水性及び耐汚染性のバランスを考慮すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0023】
本発明における「(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」(以下「(a2)単量体」ともいう)とは、ラジカル重合反応によって得られる(A)水性樹脂に、アルコキシシリル基を付与することができる化合物をいい、本発明に係る(A)水性樹脂が得られ、目的とする塗料用添加剤を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体は、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を共に有し、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合は、例えば、エステル結合、アミド結合及びアルキレン基等の他の官能基を介して結合してよい。
【0024】
ここで「アルコキシシリル基」とは、加水分解することによってケイ素に結合するヒドロキシル基(Si−OH)を与えるケイ素含有の官能基をいう。「アルコキシシリル基」として、例えば、トリメトキシシル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシシリル基、モノエトキシシリル基、及びモノメトキシシリル基等のアルコキシシルリ基を例示できる。特に、トリメトキシシリル基およびトリエトキシシリル基が好ましい。「エチレン性二重結合」については、上述の通りである。
【0025】
(a)重合性不飽和単量体は(a2)単量体を含むので、(A)水性樹脂はアルコキシシリル基を含んでなる。本発明に係る塗料用添加剤を含む塗料から形成される塗膜を乾燥すると、アルコキシシリル基は脱水縮合反応し、塗膜中で架橋し、(A)水性樹脂の内部または(A)水性樹脂同士の間に架橋構造を形成し得、塗膜の耐候性及び耐水性等の向上に寄与し得る。また塗膜の乾燥後、塗膜の表面に本発明に係る塗料用添加剤を固定化することができるので、塗膜の耐汚染性及び表面タック性等を長く持続することができると考えられる。
【0026】
(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体として、下記式(II)で示される化合物を例示できる。
(II):RSi(OR)(OR)(OR
[但し、式(II)において、Rはエチレン性二重結合を有する官能基であり、R、R及びRは、炭素数1〜5のアルキル基である。R、R及びRは、相互に同一でも異なってもよい。]
【0027】
のエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル基、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、2−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、3−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルを例示できる。
、R、Rの炭素数1〜5のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、及びn−ペンチル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基を例示できる。
【0028】
(a2)アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体として、(a2−1)ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリn−ブトキシシランなどのビニルトリアルコキシシラン:及び下記式(III)で示される化合物
(III):CH=CR−COO−Z−Si(OR
[但し、式(III)において、Rは、HもしくはCH、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、Zは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。]である化合物が好ましい。
【0029】
式(III)で示される化合物として、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましく、特に、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0030】
これらの(a2)アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体は、(A)水性樹脂を含む塗料用添加剤の性質に応じて適宣選択することができ、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0031】
本発明では、(A)水性樹脂の酸価に応じて、「(a3)酸基とエチレン性二重結合を有する単量体」(以下「(a3)単量体」ともいう)を使用することができる。ここで「(a3)酸基とエチレン性二重結合を有する単量体」とは、ラジカル重合反応によって得られる(A)水性樹脂に、酸基を付与することができる化合物をいい、本発明に係る(A)水性樹脂が得られ、目的とする塗料用添加剤を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。
【0032】
本明細書において「酸基」とは、水中で水素イオンを放出して対応する負電荷を有する官能基を形成し得る官能基(例えば、−COOH及び−SO3H等)、その対応する負電荷を有する官能基(例えば、−COO-及び−SO3-等)及び負電荷が対カチオンによって電気的に中和されている官能基(例えば、−COO-Na+及び−SO3-+等)をいう。これらの「水中で水素イオンを放出して負電荷を有する官能基を形成し得る官能基」、「負電荷を有する官能基」及び「負電荷が対カチオンによって電気的に中和されている官能基」は、各官能基の周囲の状態、例えば、pH等を変えることによって、容易に相互に変換可能であることはいうまでもない。
【0033】
ここで、「水中で水素イオンを放出して負電荷を有する官能基を形成し得る官能基」として、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(又はスルホ基)(−SO3H)、及びリン酸基(−PO42)等を例示できる。
更に、「負電荷が対カチオンによって電気的に中和されている官能基」及び「負電荷を有する官能基」として、例えば、カルボン酸塩基(−COO-及び−COOM1)、スルホン酸塩基(−SO3-及び−SO32)、及びリン酸塩基(−PO4-、−PO42-及び−PO434)等を例示できる[但し、M1、M2、M3、及びM4は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムである(尚、M3及びM4は、いずれか一方が水素であってもよい)]。
「エチレン性二重結合」については、上述の通りである。
【0034】
このような「(a3)酸基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体」として、例えば、以下の化合物を例示できる:
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、マレイン酸の半エステル等のカルボキシル基及びエチレン性二重結合を有する化合物、並びにカルボン酸塩基及びエチレン性二重結合を有する化合物;
スチレンスルホン酸等のスルホン酸基及びエチレン性二重結合を有する化合物、並びにスルホン酸塩基及びエチレン性二重結合を有する化合物;
(メタ)アクリル酸オキシエチルアミドフォスフェート等のリン酸基及びエチレン性二重結合を有する化合物、並びにリン酸塩基及びエチレン性二重結合を有する化合物。
【0035】
尚、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、及びリン酸塩基の対カチオンはアンモニウムイオン及びアルカリ金属イオン類等が好ましく、特に、アンモニウムイオン、カリウムイオン、及びナトリウムイオンが好ましい。
特に、(a3)酸基とエチレン性二重結合を有する単量体として、カルボキシル基及びエチレン性二重結合を有する化合物、並びにカルボン酸塩基及びエチレン性二重結合を有する化合物が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が特に好ましい。
これらの(a3)単量体は、単独で又は組み合わせて用いることができ、本発明が目的とする塗料用添加剤の特性に応じて適宜使用することができる。
【0036】
本発明は、(a)重合性不飽和単量体が、さらに、(a4)その他の単量体を含んで成る塗料用添加剤を提供することが好ましい。
本発明における「(a4)その他の単量体」(以下「(a4)単量体」ともいう)とは、上述の(a1)〜(a3)以外のエチレン性二重結合を有する単量体であって、上述の(a1)〜(a3)と共重合(ラジカル重合)することができる単量体を言う。目的とする(A)水性樹脂の性質に応じて適宣使用することができる。「エチレン性二重結合」については上述のとおりである。
【0037】
(a4)その他の単量体は、(A)水性樹脂の後述するガラス転移温度(以下「Tg」と略す)を制御するために重要である。Tgをより高くすることで、塗料用添加剤の表面タック性能が向上し、また耐汚染性能も向上すると考えられる。
【0038】
(a4)その他の単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類を例示することができ、これらが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル類として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクレレートオクチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等を例示できる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル類は、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明に係る(A)水性樹脂は、(a)重合性不飽和単量体を、ラジカル重合することによって得ることができる。目的とする(A)水性樹脂を得ることができる限り、重合方法は特に制限されるものではなく、一般的なラジカル重合方法を用いて(A)水性樹脂を得ることができる。例えば、(a)重合性不飽和単量体を、有機溶媒中で重合し、水性媒体に置換して得ることができ、この方法が好ましい。(A)水性樹脂は、その水溶性等の特性に応じ、必要に応じてアルカリ性物質で中和してよい。
(A)水性樹脂は、マイクロエマルジョンの形態に調製することが好ましく、より少量で低汚染性能が発揮される。
【0040】
(A)水性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、塗料用添加剤として使用することを考慮すると、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。(A)水性樹脂のTgが20℃未満の場合、形成される塗膜を大気中に暴露すると、大気中の汚染物質が塗膜に付着し易くなり得、耐汚染性が低下し得るからである。
【0041】
(A)水性樹脂のTgは、使用する単量体の質量分率を調整することにより、設定することができる。(A)水性樹脂のTgは、各単量体から得られる単独重合体(ホモポリマー)のTgと、(A)水性樹脂中で使用される単量体の質量分率から、下記の計算式(i)を用いて求めることができる。この計算によって求められるTgを目安にして、モノマー組成を決定することが好ましい。
(i):1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
[前記式(i)中、Tgは(A)水性樹脂のガラス転移温度を示し、W1、W2、・・・Wnは各単量体の質量分率を示し、Tg1、Tg2、・・・Tgnは対応するモノマーの単独重合体のガラス転移温度を示す。]なお単独重合体のTgは、「POLYMER HANDBOOK」(第4版;John Wiley & Sons,Inc.発行)等の刊行物に記載されている数値を採用すればよい。
【0042】
例えば、下記の単量体の単独重合体のTgは、以下の通りである:
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:55℃
メタクリル酸:130℃
メチルメタクリレート:105℃
n−ブチルアクリレート:−54℃
尚、(A)水性樹脂のTgを算出する際、(a1)単量体、(a3)単量体及び(a4)単量体を考慮し、(a2)単量体は、少量であるので考慮しなかった。
【0043】
本発明における(A)水性樹脂の水酸基価は、80mgKOH/gより大きいことが好ましく、210mgKOH/g以上であることが好ましく、240mgKOH/g以上であることが特に好ましい。
本明細書で「水酸基価」とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するために要する水酸化カリウムのmg数を示す。
本発明では、具体的には、下記式(ii)で算出される。
(ii):水酸基価=((a1)単量体の重量/(a1)単量体の分子量)×(a1)単量体1モルに含まれる水酸基のモル数×KOHの式量×1000/(A)水性樹脂の重量
【0044】
本発明に係る(A)水性樹脂の酸価は、20〜60mgKOH/gである。(A)水性樹脂の酸価が20mgKOH/gより低いと、(A)水性樹脂の安定性及び塗膜の耐汚染性が低下し、(A)水性樹脂の酸価が60mgKOH/gよりも高いと、塗膜の耐水性が低下する。(A)水性樹脂の酸価が、上述の特定の範囲内に維持されることによって、塗膜に、優れた耐水性と耐汚染性を与えるとともに、耐候性及び表面タック等の性能をバランスよく付与することができると考えられる。
【0045】
尚、本発明に係る(A)水性樹脂の「酸価」は、樹脂1g中に含まれる酸基が全て遊離した酸であると仮定して、それを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数の計算値で表す。従って、実際の系内で塩基として存在しているとしても、遊離した酸として考慮する。これは、(a3)単量体が含む酸基と対応する。本発明に係る「酸価」は、下記式(iii)で求めることができる。
(iii):酸価=((a3)単量体の重量/(a3)単量体の分子量)×(a3)単量体1モルに含まれる酸基のモル数×KOHの式量×1000/(A)水性樹脂の重量
【0046】
(a)重合性不飽和単量体の重合は、例えば、通常の溶液重合の方法を使用して、有機溶媒中で適宣触媒等を用いて、上述の(a)重合性不飽和単量体をラジカル重合することで行うことができる。ここで「有機溶媒」とは、(a)重合性不飽和単量体を重合するのに用いることができ、重合反応後の塗料用添加剤としての特性に実質的に悪影響を与えないものであれば特に限定されることはない。そのような溶媒として、例えば、メタノール、エタノール及びプロパノール等の低級アルコール及び酢酸エチル等のエステル並びにそれらの組み合わせを例示することができる。
【0047】
(a)重合性不飽和単量体の重合の反応温度、反応時間、有機溶媒の種類、単量体の種類及び濃度、攪拌速度、並びに触媒の種類及び濃度等の重合反応の条件は、目的とする(A)水性樹脂の特性等によって、適宣選択され得るものである。
【0048】
「触媒」とは、少量の添加によって(a)重合性不飽和単量体の重合を起こさせることができる化合物であって、有機溶媒中で使用することができるものが好ましい。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチトニトリル(AIBN)及び2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、及び2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を例示することができ、特に、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。
【0049】
本発明における重合には、連鎖移動剤等を適宣用いることができる。分子量を調節するための「連鎖移動剤」としては、当業者に周知の化合物を使用できる。例えば、n−ドデシルメルカプタン及びラウリルメチルメルカプタン等のメルカプタン類を例示できる。
【0050】
重合後、有機溶媒は水性媒体によって置換することが好ましい。水性媒体による有機溶媒の置換は、常套の方法を使用できる。例えば、有機溶媒を蒸留することによって、留去した後水性媒体を加える方法、水性媒体を加えた後有機溶媒を蒸留によって留去する方法を例示できる。
【0051】
本明細書において「水性媒体」とは、蒸留水、イオン交換水及び純水などのいわゆる水をいうが、水溶性の有機溶剤、例えばアセトン及び低級アルコール等を含むことができる。有機媒体を水性媒体に置換することによって、(A)水性樹脂を得ることができる。
【0052】
(A)水性樹脂の特性に応じて、(A)水性樹脂を中和してもよい。ここで「中和」は、通常中和に用いられるアルカリ性物質を加えることで行うことができる。その結果、(A)水性樹脂のアニオン基、特にカルボキシル基が中和されて、(A)水性樹脂に水溶性が付与され得る。しかし(A)水性樹脂は、完全に水溶性である必要はなく、本発明に係る塗料用添加剤を加えて得られる塗料の特性を悪くしない程度の水溶性であればよい。
【0053】
本明細書において「アルカリ性物質」とは、水に溶解することによって7より大きなPHを呈する物質をいい、通常アルカリ性物質の形態は気体、液体及び固体を問わないが、水に溶解性せしめた水溶性の形態のものが取り扱いやすく、また、中和反応を制御し易いので好ましい。このような「アルカリ性物質」として、例えば、アンモニア、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属等を例示できるが、アンモニア水ナトリウム水溶液及びカリウム水溶液が好ましい。
【0054】
アルカリ性物質は、(A)水性樹脂を含む水性媒体のpHが8.0以上となるように加えることが好ましく、pHが8.0〜10.0となるように加えることがより好ましく、pHが8.0〜9.5となるように加えることが特に好ましい。
【0055】
本発明に係る塗料は、本発明に係る塗料用添加剤を含んで成るものであれば、特に限定されるものではない。例えば、キシレン樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を主成分とする一般的な塗料の全ては、本発明に係る塗料用添加剤を含む場合、本発明に係る塗料に含まれる。
【0056】
本発明に係る塗料は、上塗り剤としても下塗り剤(中塗り剤及びいわゆるシーラーを含む)としても使用できる。ここで「上塗り剤」とは、トップコートとも呼ばれ、最も外側に塗工される塗料をいい、外観の向上、つやだし、耐水性の向上、耐候性の向上等を目的として塗工される塗料をいう。一方、「下塗り剤」とは、上塗り剤以外の塗料をいい、主に防水性、防湿性、基材密着性の向上等を目的として、基材に直接塗工されるシーラー(下地調整剤又はプライマーと呼ばれることもある)、並びに主に上塗り剤とシーラーとの間をつなぎ、防水性、防湿性、耐ブリスター性の向上等を目的として塗工される中塗り剤を含む。
本発明の塗料は、種々の基材へ塗工される。基材としては、金属、木質材料、プラスチック、無機質建材等、一般的なもの全てに塗工可能である。
【0057】
本発明の塗料は、当業者にとって周知である顔料、充填剤、防錆剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等を必要に応じて含有してよい。
顔料とは、通常、顔料とされるものであれば特に限定されることはない。顔料は、通常、有機顔料と無機顔料に分類される。
有機顔料として、例えば、ファストエロ、ジアゾエロー、ジアゾオレンジ及びナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ファナールレーキ、タンニンレーキ及びカタノール等の染色レーキ、イソインドリノエローグリーニッシュ及びイソエンドリノエローレディッシュ等のイソインドリノ系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレンスーカット及びペリレンマルーン等のペリレン系顔料等を例示できる。
無機顔料として、例えば、カーボンブラック、鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、酸化コバルト、二酸化チタン、チタニウムイエロー、ストロンチウムクロメート、モリブテン赤、モリブテンホワイト、鉄黒、リトボン、エメラルドグリーン、ギネー緑、コバルト青等を例示できる。
【0058】
充填剤とは、性能向上、コスト低減等の目的で添加される物質をいい、通常充填剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、アルミナ等を例示できる。
防錆剤とは、素材の腐食を抑制するために加えられる物質をいい、通常、防錆剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、鉛丹、白鉛、亜鉛化鉛、塩基性硫酸白鉛、塩基性クロム酸鉛、鉛酸カルシウム、クロム酸亜鉛、鉛酸シアナミド、亜粉末、ジクロロメート、バリウムクロメート、亜硝酸ソーダ、ジシクロヘキシルアンモニウムニトリル、シクロヘキシルアミンカーボネート、防錆油等を例示できる。
【0059】
増粘剤とは、通常、増粘剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、アルカリ増粘型の増粘剤として、変性アクリルポリマーを、会合型の増粘剤として、ウレタン変性ポリエーテル及びポリエーテル等を例示できる。アルカリ増粘型の増粘剤として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(SP600(商品名)ダイセル化学社製)、SNシックナー615(商品名)(サンノプコ(株)製)、ASE60(商品名)(R&H(株)製)、KA10K(商品名)(ヘンケルテクノロジーズジャパン(株)製)などを例示できる。また会合型の増粘剤として、例えば、SN812(商品名)(サンノプコ(株)製)、RM8W(商品名)(R&H(株)製)、UH752(商品名)(ADEKA(株)製)等を例示できす。
【0060】
分散剤とは、通常、分散剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、トリポリリン酸カリウム(太平化学産業(株)製)、プライマール850(商品名)(ローム&ハース社製)、デモールEP(商品名)(花王(株)製)ディスコートN−14(商品名)(第一工業製薬(株)製)、オロタン165A(商品名)(R&H製)、SNディスパーサント5020(商品名)(サンノプコ(株)製)を例示できる。
【0061】
消泡剤とは、通常、消泡剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、疎水性シリカ、金属石鹸系、アマイド系、変性シリコーン系、シリコーンコンパウンド系、ポリエーテル系、エマルション系、粉末系などがある。例えば、疎水性シリカとして、ノプコSNデフォーマー777(商品名)(サンノプコ(株)製)、SNデフォーマーVL(商品名)(サンノプコ(株)製)、金属石鹸系ではノプコNXZ(商品名)(サンノプコ(株)製)、アマイド系消泡剤として、ノプコ267−A(商品名)(サンノプコ(株)製)、変性シリコーン系消泡剤として、シリコーンKM80(商品名)(信越化学製)、シリコーンコンパウンド系消泡剤として、SNデフォーマー121N(商品名)(サンノプコ(株)製)、ポリエーテル系消泡剤として、SNデフォーマーPC(商品名)(サンノプコ(株)製)、エマルション系消泡剤として、ノプコKF−99(商品名)(サンノプコ(株)製)、粉末系消泡剤として、SNデフォーマー14−HP(商品名)(サンノプコ(株)製)などを例示できる。
【0062】
防腐剤として、例えば、ACTICIDE LG(商品名)(ソージャパン(株)製)、ACTICIDE MBS(商品名)(ソージャパン(株)製)などを例示できる。
成膜助剤とは、通常、成膜助剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、CS−12(商品名)(チッソ(株)製)、ベンジルアルコール、ブチルグリコール、2−エチルヘキシルグリコ−ル、フェニルプロピレングリコール、ジブチルジグリコールや、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレンモノグリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルなどの多価アルコールモノアルキルエーテルの有機エステル類、3−エトキシプロピオン酸エステル類、酢酸3−メトキシ−3−メチル−ブチル等を例示できる。
【0063】
更に、本発明に係る塗料用添加剤及び塗料は、下記式(IV)に示すポリジメチルシロキサン構造の両末端にメチル基を有する化合物(一般的にシリコンオイルと呼ばれる)を含むことができる。
(IV):[−Si(CH−O−]n
[ここで、nは、通常、10〜100の自然数。]
シリコンオイルを加えると、形成される塗膜の耐汚染性が向上し得る。乾燥後の塗膜にジメチルシランが撥水性を与え、汚れの付着を防止し得るからである。
このようなシリコンオイルとして、具体的には、例えば、X−22 173DX、X−22 170BX、X−22 170DX、X−22 176DX、X−22 160F(商品名)(信越化学工業(株)製)などを例示できる。
【0064】
シリコンオイルを、塗料用添加剤及び塗料に加える時期は、本発明が目的とする塗料用添加剤及び塗料を得ることができる限り特に限定されるものではない。例えば、(A)水性樹脂を製造する段階で、(a)重合性不飽和単量体に加えて、単量体の重合時に存在させてもよいし、(A)水性樹脂製造後に水性樹脂に加えることもでき、塗料を製造する際に塗料に加えることもできる。
【0065】
このようなシリコンオイルには、「エチレン性二重結合を有するシリコンオイル」が含まれる。「エチレン性二重結合を有するシリコンオイル」とは、ラジカル重合反応によって得られる(A)水性樹脂に、下記式(IV)に示すポリジメチルシロキサン構造を付与することができる化合物をいい、本発明に係る(A)水性樹脂が得られ、目的とする塗料用添加剤を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。
(IV):[−Si(CH−O−]n
[ここで、nは、10〜100の自然数。]
「エチレン性二重結合」については上述のとおりである。
「エチレン性二重結合を有するシリコンオイル」を塗料に加える時期は、(A)水性樹脂を製造する段階で、(a)重合性不飽和単量体に加えることが好ましい。
【0066】
このようなエチレン性二重結合を有するシリコンオイルとして、ポリジメチルシロキサン構造の片末端側にエチレン性二重結合を有するシリコンオイルが好ましく、例えば、X−22 174DX(商品名)、X−22 2426、X−22 2475(商品名)(信越化学工業(株)製)を例示することができ、X−22 174DX(商品名)が好ましい。
【0067】
エチレン性二重結合を有するシリコンオイルを用いると、形成される塗膜の耐汚染性がより向上し得ると考えられ、より好ましい。エチレン性二重結合を有するシリコンオイルを使用すると、(A)水性樹脂中にジメチルシロキサン構造を組み込むことができるので、乾燥後の塗膜にジメチルシロキサン構造が撥水性を与え、汚れの付着を防止し得るからである。更に、ジメチルシロキサン構造が化学結合によって(A)水性樹脂中に組み込まれるので、性能がより長期的に維持され得る。
エチレン性二重結合を有するシリコンオイルは、単独又は組み合わせて使用することができる。尚、エチレン性二重結合を有するシリコンオイルは、(A)水性樹脂のTgの計算の際は考慮しない。
【0068】
上述したように本発明に係る塗料用添加剤は、(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含んで成る。
本発明の塗料用添加剤は、従来の添加剤と比較して、塗料から形成される塗膜は、耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等に総合的にバランスよく優れる。これは以下の理由によると考えられる。
【0069】
本発明の塗料用添加剤は、塗料中で保護コロイドとして機能し、塗料から形成される塗膜の表面に、塗膜が乾燥すると現れると考えられる。雨が降ると、塗料用添加剤に含まれる親水基、即ち「親水性の高いヒドロキシル基」が塗膜の表面に析出し、塗膜に付着した汚れを効率的に洗い流す効果を生じえるので、耐汚染性が向上すると推察される。
また(A)水性樹脂の酸価は、20〜60mgKOH/gという特定の値に制御されているので、耐水性の低下もより減少し得る。
更に、(A)水性樹脂中は、(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を用いるので、塗膜の乾燥時に塗料用添加剤に架橋を生ずる。その結果、耐汚染性能がより持続し、耐候性及び表面タック性能も向上すると考えられる。
上述のような理由により、本発明に係る塗料用添加剤及びそれを含む塗料は優れた性質を有すると考えられるが、これらの理由により、本発明が何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。尚、実施例において部とは、重量部を意味する。
【0071】
<(A)水性樹脂を含む塗料用添加剤A1〜A9、A’10〜A’12の製造>
以下、(A)水性樹脂の製造に使用した単量体(a)を示す。
(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体として、
(a1−1)メタクリル酸2−ヒドロキシルエチル(和光純薬工業(株)製)を用いた。
(a2)アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を有する単量体として、
(a2−1)3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ−6030 東レ・ダウコーニング(株)製)を用いた。
(a3)酸基とエチレン性二重結合を有する単量体として、
(a3−1)メタクリル酸(和光純薬工業(株)製)を用いた。
(a4)その他エチレン性二重結合を有する単量体として、
(a4−1)メチルメタクリレート(和光純薬工業(株)製)及び
(a4−2)n−ブチルアクリレート(和光純薬工業(株)製)を用いた。
【0072】
攪拌翼、温度計、及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、表1に記載した量で単量体とn−DM(n−ドデシルメルカプタン)及び場合によりエチレン性二重結合を有するシリコンオイル(X−22 174DX(商品名)、信越化学工業(株)製)を加え、100部の2−プロパノール(和光純薬工業(株)製)、及び1部の2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製)を加えた。80℃にて4時間攪拌して化合物を共重合した。反応混合物を室温に冷却後、500部の水を加えながら、アンモニア水を加えて混合物のpHが9になるように調製した。2−プロパノールを減圧除去することで除去して、均一で透明な混合物、即ち、水性媒体中に存在する(A)水性樹脂を得た。得られた(A)水性樹脂をそのまま塗料用添加剤A1〜A9及びA’10〜A’12とした。塗料用添加剤A1〜A9及びA’10〜A’12の濃度は、いずれも20重量%であった。尚、この濃度は、105℃のオーブン中で3時間乾燥し残留する部分の、乾燥前の重量に対する重量百分率である。
【0073】
【表1】

水性樹脂の酸価、水酸基価、ガラス転移温度(Tg)は、上述した計算式(i)〜(iii)を用いて求めた。尚、水性樹脂のTgを求める際、n−DM、X22 174DX及び(a2−1)単量体については、考慮しなかった。
【0074】
次に、塗料用添加剤A1〜A9又はA’10〜A’12を含有する塗料を作製し、その性質を評価した。以下、塗料の製造及びその性質の評価について記載する。
<塗料の作成>
水性樹脂(ヨドゾールAD138(商品名)、ヘンケルテクノロジーズジャパン(株)製)100部に対し、ヒドロキシエチルセルロース(SP600(商品名)、ダイセル化学社製)を0.06部、蒸留水を3.3部、エチレングリコール(和光純薬工業(株)製)を0.6部、4%トリポリリン酸カリウム(太平化学産業(株)製)を2.33部、プライマール850(商品名)(ローム&ハース社製)を0.15部、チタン(CR97(商品名)、石原産業社製)21.3部及びCS12(商品名)(チッソ社製)7部を混合して、塗料用混合物を得た。その混合物100部に塗料用添加剤A1〜A9又はA’10〜A’12を添加して、実施例1〜10及び比較例1〜4の塗料を得た。塗料用添加剤A1〜A9及びA’10〜A’12の添加量については、表2に示した。尚、塗料用添加剤の重量部は、水性媒体を含む重量部である。
【0075】
塗料用添加剤A1〜A9(実施例1〜10)、A’10〜A’12(比較例1〜4)を含有する塗料について、以下の評価試験を行った、
<塗膜の耐汚染性>
各々の塗料をアルミ板(ユタカパネルサービス)にウェット状態で約500μmの厚さになるように塗布し、十分に乾燥させて塗膜を得た。そのアルミ板について三ヶ月間屋外暴露を行い、暴露後の塗膜の表面の汚れ方を目視により評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:全く汚れていない
○:若干汚れが付着しているが実用上問題なし。
× :雨筋がくっきり観察される。
その結果を表2に示す。
【0076】
<塗膜の耐候性>
各々の塗料をアルミ板(ユタカパネルサービス)にウェット状態で約500μm厚さになるように塗布し、十分に乾燥させて塗膜を得た。
次に、アイスーパーUVテスターWタイプ(SUV−W−13:岩崎電気製)で促進耐候性試験を行った。具体的には、ブラックパネル温度60℃の条件で、295〜450nmの波長の紫外線を4時間照射し、2.1kg・cmの水圧で30秒間、シャワーから水を噴射した。90%の湿度、30℃の外温の下で、結露を生成させた状態を4時間確保した。
上述のウェザーメーター内に保持する前後の塗膜の光沢を、変角光沢計(NIPPON DENSHOKU KOUGYOU(株))を用いて測定し、光沢維持率を算出した。評価基準は以下の通りである。
○: 光沢維持率80%より高い
△: 光沢維持率60%〜80%
×: 光沢保持率60%未満
その結果を表2に示す。
【0077】
<塗膜の耐水性>
各々の塗料をアルミ板(ユタカパネルサービス)にウェット状態で約500μmの厚さになるように塗布し、十分に乾燥させて塗膜を得た。塗膜を20℃の水中に1日浸漬し、塗膜の状態を目視により観察した。評価基準は以下の通りである。
○: 変化なし
△: 塗膜が膨潤しつつある
×: ブリスターが観察されるまたは溶出している
その結果を表2に示す。
【0078】
<塗膜の表面タック性>
各々の塗料をアルミ板(ユタカパネルサービス)にウェット状態で約500μmの厚さになるように塗布し、十分に乾燥させて塗膜を得た。その塗膜の表面のタック性を指触により観察した。評価基準は以下の通りである。
○: タックが観察されない
△:わずかにタックが観察される
×: タックが観察される
その結果を表2に示す。
【0079】
<塗膜の総合評価>
以上の塗膜の評価から、塗料用添加剤を総合評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:耐汚染性能が◎で、かつ、他の性能に×が含まれないもの。
○:耐汚染性能が○で、かつ、他の性能が◎又は○であるもの。
△:耐汚染性能が○で、かつ、他の性能に△が含まれ、×が含まれないもの。
×:いずれかの性能に×が含まれるもの。
その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すように、実施例1〜10の塗料は、本発明に係る塗料用添加剤A1〜A9を含んでいるので、形成される塗膜の耐水性と耐汚染性に優れ、更に、耐候性及び表面タック等の総合的な性能にバランスよく優れる。特に、実施例2〜4及び6の塗料は優れ、総合評価が、◎と成っている。これに対し、比較例1〜4の塗料は、本発明に係る塗料用添加剤A1〜A9を含まないので、形成される塗膜は、耐水性と耐汚染性に優れることはなく、総合的な性能のバランスに劣る。具体的には、比較例1〜3の塗料は耐汚染性に乏しく、比較例4の塗料は、耐候性、耐水性に乏しい。
これらの結果から、本発明に係る塗料用添加剤A1〜A9が優れた効果を有することは、明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合性不飽和単量体を重合して得られた(A)水性樹脂を含む塗料用添加剤であって、
(A)水性樹脂の酸価は20〜60mgKOH/gであり、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)ヒドロキシル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成ることを特徴とする塗料用添加剤。
【請求項2】
(a)重合性不飽和単量体は、さらに、(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る請求項1に記載の塗料用添加剤。
【請求項3】
耐汚染化剤として使用される請求項1又は2に記載の塗料用添加剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗料用添加剤を含む塗料。

【公開番号】特開2010−254911(P2010−254911A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109501(P2009−109501)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】