説明

塗料用組成物、塗料、塗料用キット及び塗装物品

【課題】艶消し塗膜外観を有しながら、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れる塗膜を形成でき、かつその塗膜表面を実質的に凹凸のない面とすることも可能な塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに該塗料用組成物を用いて塗装された塗装物品を提供する。
【解決手段】有機微粒子が有機溶媒に分散された艶消し剤(A)と、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)を含有する塗料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
建築、土木分野における建造物や、車両、公共設備などの様々な構造物における落書きは美観を損ない、除去するには多大な労力が必要とされる。
その対策として、たとえば下記特許文献1では、フルオロアルキル基と、ポリシロキサン鎖と、架橋性の官能基とを有する重合体と、架橋性の官能基を有する他の重合体とを混合してなる塗料用組成物を用いた落書き防止用塗料が提案されている。
また下記特許文献2では、片末端にヒドロキシ基を2個以上有するアクリル系重合体にシリコーンが枝ポリマーとして結合してなるグラフト重合体、その他のポリオール、およびポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンポリオールおよび硬化剤からなる耐汚染性被覆組成物が提案されている。
また下記特許文献3では、被塗面に、下塗り塗料を用いて凹凸状塗膜を形成した後、その上に湿気硬化形ポリシロキサン樹脂をビヒクル成分として含有するクリヤー塗料を用いて上塗塗膜を形成する汚染防止方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−195373号公報
【特許文献2】特開平11−323251号公報
【特許文献3】特開平10−216619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1、2は、硬く緻密な塗膜とすることにより汚染除去性を得るものであり、高光沢や底艶を有し、艶消しの風合いを有する者は得られていなかった。また、特許文献3では、凹凸形状を有するものであり、平坦な塗装面を作ることができなかった。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、艶消し塗膜外観を有しながら、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れる塗膜を形成でき、かつその塗膜表面を実質的に凹凸のない面とすることも可能な塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに前記塗料を用いて形成された塗膜を備える塗装物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の構成を採用した。
[1]有機微粒子が有機溶媒に分散された艶消し剤(A)と、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)を含有する塗料用組成物。
[2]前記有機微粒子が、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、エンジニアリングプラスチックの群から選択される1種以上である[1]に記載の塗料用組成物。
[3]前記共重合体(B)が、少なくとも末端に水酸基を有するシリコーン変性アクリル樹脂である[1]または[2]に記載の塗料用組成物。
[4]前記フッ素樹脂(C)が、フルオロオレフィン系共重合体である[1]〜[3]の何れかに記載の塗料用組成物。
[5]前記フルオロオレフィン系共重合体の水酸基価が、90〜280mgKOH/gである[4]に記載の塗料用組成物。
[6]固形分換算で、前記フッ素樹脂(C)100質量部に対して、前記共重合体(B)を0.1〜10質量部含有する[1]〜[5]の何れかに記載の塗料用組成物。
[7]さらに、シリカ微粒子を含有する[1]〜[6]の何れかに記載の塗料用組成物。
[8][1]〜[7]の何れかに記載の塗料用組成物と、硬化剤とを含有することを特徴とする塗料。
[9][1]〜[7]の何れかに記載の塗料用組成物と、硬化剤を備えることを特徴とする塗料用キット。
[10]最表面に、[8]に記載の塗料を用いて形成された塗膜を備えることを特徴とする塗装物品。
【発明の効果】
【0005】
本発明の塗料用組成物、塗料又は塗料キットを用いて形成された塗膜は、艶を抑えた塗膜外観が得られ、また、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れている。さらに、塗膜表面を実質的に凹凸のない面とすることも可能である。
本発明の塗装物品は、艶を抑えた外観を有し、また、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れている。さらに、最外層を実質的に凹凸のない面とすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<塗料用組成物>
本発明の塗料用組成物は、有機微粒子が有機溶媒に分散された艶消し剤(A)と、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)を含有する。本発明の塗料用組成物は、さらに、シリカ微粒子を含有してもよい。
【0007】
[艶消し剤(A)]
本発明における艶消し剤(A)は、有機微粒子が有機溶媒に予め分散されたものである。有機微粒子は、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、エンジニアリングプラスチックの群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0008】
ポリエチレンは、エチレンの重合によって得られる熱可塑性重合体の総称であり、触媒や重合方法により密度、融点、結晶度、架橋度、分子量分布などが異なる幅広い範囲にわたる化合物である。本発明の有機微粒子は、特に特定のポリエチレンに限定されず、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンの何れを使用してもよい。
【0009】
マイクロクリスタリンワックスは、減圧蒸留残渣油または重質留出油から分離精製された石油から得られる常温で固体のワックスであり、炭素数30〜60、分子量500〜800程度のものである。本発明の有機微粒子は、特に特定のマイクロクリスタリンワックスに限定されない。
【0010】
エンジニアリングプラスチックは、耐熱性・機械的強度・耐摩耗性にすぐれ、機械部品・自動車部品・航空機部品・電子機器部品などに使用されるプラスチックの総称である。
エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリテトラフルオロエチレンの群から選択される1種以上をエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
本発明のエンジニアリングプラスチックは、引張り強さが約50MPa以上、曲げ弾性率が2000MPa以上、耐熱性が100℃以上のものが好ましい。
【0011】
有機微粒子の粒子径は10〜70μmが好ましく、30〜50μmがより好ましい。粒子径が10μm以下のものは、艶消し効果が低く、必要な艶消し状態を得るための添加量が多くなりすぎるので好ましくない。また、粒子径が70μmを超えると塗膜表面に微細な凹凸が生じやすく好ましくない。
なお、有機微粒子の粒子径は、分散体を電子顕微鏡にて捉え測定したものの平均粒子径である。
有機微粒子の粒子形状は特に限られたものではないが、多孔質や無孔質の真球状、鱗片状、花弁状などが挙げられる。
【0012】
艶消し剤(A)の有機溶媒に特に限定はなく、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等の芳香族系溶剤、さらには、脂肪族系溶剤、エーテル系溶剤、石油系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上併用してもよい。
艶消し剤(A)中の有機微粒子は、有機溶媒100質量部に対して、5〜40質量部であることが好ましい。
【0013】
艶消し剤(A)の市販品としては、例えば、花弁状ポリエチレン分散液であるHIGH FLAT 9171(岐阜セラック社製、固形分10%、ターペン溶媒)、真球状マイクロクリスタリンワックス分散液(岐阜セラック社製 XD−448、固形分10%、酢酸ブチル溶媒)、真球状エンジニアリングプラスチック分散液(岐阜セラック社製 HIGH FLAT TR−10X、固形分10%、キシレン溶媒)が挙げられる。
【0014】
艶消し剤(A)の使用量は、固形分換算で、フッ素樹脂(C)100質量部に対し、0.1〜30質量部の範囲が好ましく、1.0〜10質量部の範囲がより好ましい。艶消し剤(A)の使用量を上記範囲の下限値以上とすることにより、作業性を損なわずに良好な艶消し塗膜を形成でき、上限値以下とすることによりタレやかぶりといった塗装時の不具合を良好に防止できる。
【0015】
[共重合体(B)]
共重合体(B)は、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体である。共重合体(B)としては、シリコーン系共重合体、シリコーン変性エポキシ系共重合体、シリコーン変性フェノール系共重合体、シリコーン変性アクリル系共重合体、シリコーン変性ポリエステル系共重合体が挙げられる。
【0016】
中でも、シリコーン変性アクリル樹脂が好ましい。シリコーン変性アクリル樹脂は、ポリシロキサンを主鎖とし、側鎖としてアクリル系重合体が結合しているグラフト重合体である。シリコーン変性アクリル樹脂は、ポリシロキサンから誘導される構造を有するので、塗膜の撥水撥油性を向上させて汚染除去性の向上に寄与する。また、アクリル系重合体から誘導される構造を有するので、フッ素樹脂(C)との相溶性が良好であり、汚染除去性の持続性に寄与する。
【0017】
共重合体(B)は、水酸基を有することが好ましい。水酸基を有する共重合体(B)は、硬化剤を架橋剤としてフッ素樹脂と結合するため、耐溶剤性の向上に寄与すると考えられる。
特に、側鎖のアクリル系重合体の少なくとも末端に水酸基を有するシリコーン変性アクリル樹脂が好ましい。
【0018】
少なくとも末端に水酸基を有するシリコーン変性アクリル樹脂の水酸基価は、硬化剤と充分に反応して、耐溶剤性に優れた塗膜を形成できることから、60mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましい。
また、該水酸基価は、有機溶剤への溶解性、フッ素樹脂(C)または硬化剤との相溶性に優れる点から、240mgKOH/g以下であることが好ましく、180mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0019】
シリコーン変性アクリル樹脂の質量平均分子量(M)は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、5,000以上20,000以下であることがより好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると、汚染除去性に優れる。また、該質量平均分子量を上記範囲の上限値以下とすると、フッ素樹脂(C)または硬化剤との相溶性に優れる。
【0020】
またシリコーン変性アクリル樹脂のガラス転移温度(T)は、30℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がより好ましい。
該Tを上記範囲の下限値以上とすると汚染除去性に優れ、該Tを上記範囲の上限値以下とすると、塗膜の柔軟性に優れ、ひび割れ等を防止できる。
【0021】
これらの好ましい条件を満たすシリコーン変性アクリル樹脂の市販品としては、例えばBYK−Silclean3700(ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:9,000、T:70〜80℃)が挙げられる。
【0022】
共重合体(B)の樹脂使用量は、固形分換算で、フッ素樹脂(C)100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.4〜8.0質量部の範囲がより好ましい。共重合体(B)の使用量を上記範囲の下限値以上とすることにより、付着汚染物の除去性が良好な塗膜を形成でき、上限値以下とすることによりレベリング不良、泡立ち等による塗装時の不具合を良好に防止できる。
【0023】
[フッ素樹脂(C)]
本塗料組成物は、フッ素樹脂を含有することにより、良好な耐候性を有する塗膜を得られる。
フッ素樹脂(C)としては、フルオロオレフィン系共重合体が好ましい。フルオロオレフィン系共重合体は、フルオロオレフィンと、フルオロオレフィンと共重合可能な他の共重合性単量体との共重合体である。
フルオロオレフィン系共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、塗膜に充分な耐候性を与えるために、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましい。一方、溶剤への溶解性の点からは70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。
【0024】
フルオロオレフィン系共重合体を構成するフルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルなどの炭素数2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。
フルオロオレフィン系共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、塗膜に充分な耐候性を与えるために、20〜70モル%であることが好ましい。
【0025】
フルオロオレフィン系共重合体を構成する他の共重合性単量体としては、ビニル系モノマー、すなわち、炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましい。ビニル系モノマーとしては、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、イソプロペニルエーテル、カルボン酸イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、カルボン酸メタリルエステル、α−オレフィン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが好ましく挙げられる。
【0026】
ビニルエーテルとしては、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル;ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などのアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0027】
アリルエーテルとしてはエチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルなどのアルキルアリルエーテルが挙げられる。
カルボン酸ビニルエステルとしては分岐状のアルキル基を有するベオバ−10(シェル化学社製、商品名)、酪酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
カルボン酸アリルエステルとしては、プロピオン酸アリル、酢酸アリルなどの脂肪酸アリルエステルが挙げられる。
イソプロペニルエーテルとしてはメチルイソプロペニルエーテルなどのアルキルイソプロペニルエーテルが挙げられる。
α−オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。
【0028】
上記共重合性単量体のうちで、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アリルエーテル、カルボン酸アリルエステルがフルオロオレフィンとの共重合性に優れる点から好ましい。特に、炭素原子数1〜10の直鎖状または脂環状のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル、脂肪酸ビニルエステル、アルキルアリルエーテル、脂肪酸アリルエステルが好ましい。
上記共重合性単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、フルオロオレフィン系共重合体は、後述の硬化剤と反応して架橋結合を形成できる官能基を有することが好ましい。官能基の種類は、硬化剤との組み合わせにより適宜選択できる。代表的な例としては、水酸基、アミノ基、アミド基等の活性水素含有基、カルボキシ基、加水分解性シリル基、エポキシ基、ハロゲン、二重結合などが例示される。
好ましい官能基は活性水素含有基であり、中でも水酸基が特に好ましい。
【0030】
このような官能基の導入方法としては、予め官能基を有するモノマーを共重合させる方法が挙げられる。
官能基を有するモノマーとしては、以下のものが例示される。2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテルなどのヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニルなどの水酸基含有カルボン酸のビニルエステルまたはアリルエステルなどの水酸基を有するモノマー。クロトン酸、ウンデセン酸などのカルボキシ基を有するモノマー。トリエトキシビニルシランなどの加水分解性シリル基を有するモノマー。グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテルなどのエポキシ基を有するモノマー。アミノプロピルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテルなどのアミノ基を有するモノマー。
【0031】
また、重合後の後反応によっても官能基を導入できる。この方法としては、例えばカルボン酸ビニルエステルを共重合した重合体をケン化することにより水酸基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価カルボン酸またはその無水物を反応させてカルボキシ基を導入する方法、水酸基を有する重合体にイソシアネートアルキルアルコキシシランを反応させて加水分解性シリル基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価イソシアネート化合物を反応させてイソシアネート基を導入する方法などが例示される。
【0032】
硬化剤と反応して架橋結合を形成できる官能基を有するフルオロオレフィン系共重合体の市販品としては、たとえば商品名ルミフロン(旭硝子)、セフラルコート(セントラル硝子)、ザフロン(東亜合成)、ゼッフル(ダイキン工業)、フルオネート(大日本インキ工業)、フローレン(日本合成ゴム)などが挙げられる。
【0033】
フルオロオレフィン系共重合体の質量平均分子量(M)は1,000以上50,000以下が好ましく、3,000以上30,000以下がより好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると、耐候性、汚染除去性により優れる。また、該質量平均分子量を上記範囲の上限値以下とすると、有機溶剤への溶解性、硬化剤との相溶性、レベリング性に優れる。
【0034】
フルオロオレフィン系共重合体の水酸基価は、90mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましい。水酸基価を好ましい下限値以上とすることにより塗膜密度を充分に高くすることができ、油性インキなどの溶剤浸透性を低下させて、汚染除去性を向上させることができる。
一方、該水酸基価の上限は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等からなる溶剤への溶解性の観点から、280mgKOH/g以下が好ましく、200mgKOH/g以下がより好ましく、160mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0035】
フッ素樹脂(C)としては、フルオロオレフィン系共重合体を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、フルオロオレフィン系共重合体の他に、他のフッ素樹脂を単独で、またはフルオロオレフィン系共重合体と共に用いてもよい。
【0036】
[シリカ微粒子]
本発明の塗料用組成物はシリカ微粒子を含有してもよい。シリカ微粒子は含水二酸化ケイ素であって、粒子径が1〜30μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。これを満たすシリカ微粒子としては、ミズカシルP−526(水澤化学工業社製、粒子径7μm)、ミズカシルP−527(水澤化学工業社製、粒子径2μm)などがある。
なお、シリカ微粒子の粒子径は、レーザー回析、散乱によって求められた平均粒子径である。
【0037】
[その他の成分]
本発明の塗料用組成物には、上記成分の他に、必要に応じて硬化触媒、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、界面活性剤、タレ防止剤または塗膜の付着性向上のためのシランカップリング剤などが含まれていてもよい。
また落書き等の除去性に支障ない範囲で、かつ後述する塗膜の好ましい接触角を満たす範囲で、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、塗料用樹脂として公知の他の樹脂を配合してもよい。
【0038】
[製造方法]
本発明の塗料用組成物は、艶消し剤(A)、共重合体(B)、及びフッ素樹脂(C)と、必要に応じてその他の成分を有機溶剤に溶解または分散させることによって得られる。
ここで用いる有機溶剤は特に限定されず、一般的に塗料用溶剤として使用されるものを用いることができる。具体例としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等の芳香族系溶剤、さらには、脂肪族系溶剤、エーテル系溶剤、石油系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は2種以上を併用してもよい
【0039】
<塗料>
本発明の塗料用組成物と硬化剤とを混合することにより本発明の塗料が得られる。
[硬化剤]
硬化剤としては、共重合体(B)及び/またはフッ素樹脂(C)を架橋し得るものが使用できる。具体例としては、イソシアネート系硬化剤、アミノプラスト系硬化剤、多塩基酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤などが挙げられる。中でも、耐薬品性、耐候性が良好であり、かつ焼付の工程を経ない場合でも硬化できることから、イソシアネート系硬化剤が好ましい。
【0040】
イソシアネート系硬化剤としては、多価イソシアネート化合物や、該多価イソシアネート化合物を常温で架橋しないようにブロック剤で保護したブロック化物が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する化合物であり、その変性体や多量体からなる2以上のイソシアネート基を有する化合物であってもよい。
【0041】
多価イソシアネート化合物の例としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族多価イソシアネート化合物;およびm−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート等の無黄変性芳香族イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0042】
また、多価イソシアネート化合物の変性体や多量体の例としては、ウレタン変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。特に3量体であるイソシアヌレート変性体やトリメチロールプロパン等の多価アルコールとの反応生成物であるウレタン変性体等が好ましい。
特に、好ましい多価イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの無黄変性イソシアネート類や、これらのブロック化物、多量化物などが挙げられる。
【0043】
ブロック化されていない多価イソシアナート化合物を用いる場合は、常温でフッ素樹脂を架橋できるため現場施工が容易であるとともに、補修塗装をする場合に有利である。
多価イソシアネート化合物を用いる場合は、ジブチル錫ジラウレートなどの公知の触媒の添加によって架橋反応を促進することもできる。
【0044】
アミノプラスト系硬化剤としては、メチロールメラミン類、メチロールグアナミン類、メチロール尿素類等が挙げられる。メチロールメラミン類としては、ブチル化メチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン等の低級アルコールによりエーテル化されたメチロールメラミン、エポキシ変性メチロールメラミン等が挙げられる。メチロール尿素類としては、メチル化メチロール尿素、エチル化メチロール尿素等のアルキル化メチロール尿素等が挙げられる。
アミノプラスト系硬化剤を使用した場合、酸性触媒の添加によって架橋反応を促進することもできる。
多塩基酸としては、長鎖脂肪族ジカルボン酸類、芳香族多価カルボン酸類、その酸無水物が挙げられる。
【0045】
硬化剤の使用量は、「硬化剤の架橋点総数」/「共重合体(B)の架橋点総数と、フッ素樹脂(C)の架橋点総数の合計」で表される架橋点総数比の値を0.7以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましい。
イソシアネート系硬化剤を用いた場合、架橋点総数比は、「共重合体(B)の水酸基の水酸基のモル数と、フッ素樹脂(C)の水酸基のモル数の合計」に対する、イソシアネート系硬化剤のイソシアネート基のモル数の比で表される。
架橋点総数比を0.7以上とすることにより、塗料用組成物が良好に硬化し耐溶剤性に優れた塗膜が得られる。架橋点総数比の上限は特に限定されないが、塗膜中に未反応のイソシアネート基等の反応性基が残存することによる耐候性その他の性能への影響を考慮して、2.0以下とすることが好ましく、1.3以下とすことがより好ましい。
【0046】
<塗料用キット>
本発明の塗料用組成物は、これと前記硬化剤とを備えた塗料用キットとして、流通、販売等することができる。
該塗料用キットは、塗装を行う現場で、塗料用組成物と硬化剤とを混合して塗料を調製するのに好適である。
【0047】
<塗装物品>
本発明の塗装物品は、被塗物の最表面に、本発明の塗料を用いて形成された塗膜を備える。
本発明における被塗物の材質は特に限定されない。たとえば、コンクリート、モルタル、スレート等のセメント系基材;鋼材、アルミニウム、ステンレス等の金属類;ガラス;木材;プラスチック類;タイル等のあらゆる材質に適用できる。
被塗物によっては、被塗物と塗膜との接着力または防錆機能等を考慮して、エポキシ系塗料、アクリルウレタン系塗料、シランカップリング剤等の下塗り層、中塗り層等を適宜選択設けることが好ましい。
本発明の塗料を用いて形成された塗膜は、塗装方法による意匠性の効果を狙い、複層仕上げ、セメント系基材の濡れ肌色を防止したクリヤー塗装仕上げ、メタリックやパール調仕上げとしてもよい。
【0048】
落書き作業を行い難くし、また落書きの除去性をより向上させる目的で、塗膜に凹凸模様を形成してもよい。
たとえば、下塗り層、中塗り層、または本発明の塗料用組成物を用いた塗膜に、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、珪砂等を含有させることにより、凹凸模様を形成することができる。
【0049】
本発明の塗料は、被塗物上に新規の塗装を行う場合に用いられるほか、旧塗膜の塗り替えを目的とした塗装を行う場合にも使用できる。
本発明の塗装物品は、被塗物の表面に本発明の塗料を塗布し、乾燥させて塗膜を形成することによって得られる。
塗装方法は、種々の方法で行うことができる。たとえば刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬法による塗装、ロールコーターやフローコーターによる塗装等が適用できる。
塗膜の厚みは、特に制限はなく、2〜200μmが好ましい。塗膜の厚みが厚くなると艶消しの効果が低下し、薄いと均一な塗膜が得られにくいことから5〜50μmの範囲がより好ましい。塗膜の光沢値は塗膜が厚い程高くなりやすいので、優れた艶消し外観を得るためにはできるだけ薄い塗膜とすることが好ましい。
乾燥方法は、特に制限されず、たとえば自然乾燥で行うことができる。
【0050】
本発明の塗料を用いて形成された塗膜は、撥水撥油性に優れる。例えば水に対する接触角が90度以上、かつ流動パラフィンに対する接触角が40度以上を容易に達成することができる。該塗膜の接触角は、落書き防止および汚染除去性の点からは、より高い方が好ましい。
本発明の塗料を用いて形成された塗膜は、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れる。
【0051】
[汚染除去]
本発明の塗料を用いて形成された塗膜に落書き等により付着した汚染物を除去する際には、たとえば、布またはスポンジ等により乾拭きまたは水拭きを行う方法、または粘着テープを用いて汚染物を引き剥がす方法等の簡単な方法を採用できる。また、被塗物の形状や汚染量の状況によっては、界面活性剤、有機溶剤、ストリッパブルペイント(剥ぎ取り塗料)を使用することによって作業効率を向上できる。
【0052】
汚染除去に用いる有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、酢酸エチル、酢酸nブチル、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0053】
また、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール溶媒にリモネンを混合することにより、さらに除去性を高めることができる。たとえばリモネン・アルコール系の市販品として「消すぞーくん(商品名)」(シントーファミリー社製)が市販されている。
【0054】
ストリッパブルペイントとしては市販のものが使用でき、一例としては塩化ビニルまたは酢酸ビニル系の樹脂を有機溶剤に溶解させたものが使用できる。これを塗膜上に付着した汚染物の上から塗布し、乾燥後に引き剥がすことによって汚染物を除去できる。また汚染除去作業の効率を上げるため、さらに仕上げに高圧水洗浄機等を組み合わせて使用することも有効である。
【0055】
本発明の塗料用組成物によれば、表面の撥水撥油性が良好で、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜が形成できる。該塗膜は耐久性に優れ、耐候性に優れ、耐溶剤性が良好であり、有機溶剤を用いた汚染除去を繰り返し行っても塗膜の良好な表面状態が保たれる。したがって、長期にわたって塗装物品の美観が保護され、かつ汚染除去性能の持続性に優れる。
【0056】
これは、オルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)と、硬化剤とを組み合わせて塗膜を形成することによって、フッ素樹脂(C)による耐久性および耐候性が損なわれずに、共重合体(B)による撥水撥油性の向上が得られるとともに、共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)と、硬化剤との架橋反応により膜密度が向上して優れた耐溶剤性が発現され、かつ共重合体(B)とフッ素樹脂(C)との相乗効果により汚染除去性の持続性が良好となるためと考えられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下において、「%」および「部」は特に断りがない限り質量基準である。
【0058】
<試験体の調製>
[実施例1]
ポリエチレンをターペンにて分散した艶消分散液(HIGH FLAT 9171、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部と、水酸基を有するシリコーン変性アクリルポリマー(BYK−Silclean3700、ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:約9,000、T:70〜80℃)の5部と、フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
【0059】
得られた塗料用組成物と、多価イソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名:コロネート−HX、固形分100%、NCO含量21.3質量%)の14.0部を混合して塗料を調製した。この塗料の架橋点総数比は1である。
得られた塗料をアルミ板上に、エアスプレーを使用して乾燥膜厚が20〜40μmになるように塗装し、23℃の雰囲気中で7日間静置して塗膜を形成し、実施例1の試験体を得た。
【0060】
[実施例2]
ポリエチレンをターペンにて分散した艶消分散液(HIGH FLAT 9171、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部に代えて、エンジニアリングプラスチックをキシレンにて分散した艶消分散液(HIGH FLAT TR−10X、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部を用いた他は実施例1と同様にして塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして実施例2の試験体を得た。
【0061】
[実施例3]
ポリエチレンをターペンにて分散した艶消分散液(HIGH FLAT 9171、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部に代えて、マイクロクリスタリンワックスを酢酸ブチルにて分散した艶消分散液(XD−448、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部を用いた他は実施例1と同様にして塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして実施例3の試験体を得た。
【0062】
[実施例4]
ポリエチレンをターペンにて分散した艶消分散液(HIGH FLAT 9171、岐阜セラック社製、固形分10%)の25部を15部に変更し、シリカ微粒子(ミズカシルP−526、水澤化学工業社製、粒子径7μm)の6部を追加した他は実施例1と同様にして塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして実施例4の試験体を得た。
【0063】
[比較例1]
水酸基を有するシリコーン変性アクリルポリマー(BYK−Silclean3700、ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:約9,000、T:70〜80℃)の5部と、フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例1の試験体を得た。
【0064】
[比較例2]
水酸基を有するシリコーン変性アクリルポリマー(BYK−Silclean3700、ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:約9,000、T:70〜80℃)の5部と、フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、シリカ微粒子(ミズカシルP−526、水澤化学工業社製、粒子径7μm)の6部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例2の試験体を得た。
【0065】
[比較例3]
フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、ポリテトラフルオロエチレン粉末(KTL−916、喜多村社製)の30部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例3の試験体を得た。
【0066】
[比較例4]
フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、変性ポリエチレンワックス(CERAFLOUR950、ビックケミー・ジャパン社製)の5部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例4の試験体を得た。
【0067】
〔比較例5〕
フッ素樹脂(ルミフロンLF−906N、旭硝子社製、固形分65%、水酸基価118mgKOH/g、M:7,000)の50部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、多価イソシアネート化合物の配合量を13.5部に変更した他は、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例5の試験体を得た。
【0068】
〔比較例6〕
水酸基を有するシリコーン変性アクリルポリマー(BYK−Silclean3700、ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:約9,000、T:70〜80℃)の5部と、フッ素樹脂(ルミフロンLF−200、旭硝子社製、固形分60%、水酸基価52mgKOH/g、M:13,000)の50部と、キシレンの30部と、ジブチル錫ジラウレートの0.0007部とを混合して塗料用組成物を調製した。
この塗料用組成物を用い、多価イソシアネート化合物の配合量を6.0部に変更した他は、実施例1と同様にして架橋点総数比1の塗料を調製した。さらに、この塗料を用い、実施例1と同様にして比較例6の試験体を得た。
【0069】
<試験体の評価>
得られた試験体について、光沢値、接触角、油性インキのハジキ性、油性インキの除去性、および耐候性の評価を下記の方法で行った。評価結果を表1に示す。
[光沢値]
デジタル変角光沢計 UGV−6P(スガ試験機社製)を使用して、入射角および受光角を60°に調整し、各試験体の塗膜の光沢値を測定した。
【0070】
[接触角]
FACE接触角計 CA−A型(協和界面化学社製)を使用して、イオン交換水および流動パラフィン(関東化学社製、鹿1級、比重(測定温度15℃):0.870〜0.890)の液滴をそれぞれ0.005ミリリットルに調整して、各試験体の塗膜の接触角を測定した。表1において、接触角1はイオン交換水に対する接触角、接触角2は流動パラフィンに対する接触角である。
【0071】
[油性インキのハジキ性]
各試験体の塗膜上に赤色および黒色の油性インキによる落書きをそれぞれ行い、油性インキのハジキ具合を、よくはじいたものを「○」、殆どはじくことが出来ないものを「×」、その中間を「△」として評価した。
【0072】
[油性インキの除去性]
各試験体の塗膜上に赤色および黒色の油性インキによる落書きをそれぞれ行い、3日間室温で保持した後、拭き取り布としてBEMCOT(商品名、小津産業社製)を使用して乾拭きした。
乾拭きにより、油性インキを完全に除去できたものを「○」、殆ど除去できないものを「×」、その中間を「△」として評価した。
【0073】
[耐候性]
サンシャインウェザーメーターにて各試験体に4000時間照射し、促進耐候性の試験を行った。照射後の塗膜の外観について、殆ど変化が認められないものを「○」、明らかに色艶の変化が認められるものを「×」、その中間を「△」として評価した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、実施例1〜4では、光沢値が低く、艶を抑えた塗膜外観が得られた。また、接触角1、2が共に大きく、油性インキに対するハジキ性、汚染の除去性に優れていた。さらに、耐候性も良好であった。
これに対して、有機微粒子が有機溶媒に分散された艶消し剤(A)を用いていない比較例1〜6では、光沢値が高く、艶を抑えた塗膜外観が得られなかった。
さらに、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)を用いていない比較例3〜5では、油性インキによるハジキ性及び除去性が不充分であった。また、フッ素樹脂(C)として、水酸基価が好ましい範囲より低いものを使用した比較例6では、共重合体(B)を含有しているものの、油性インキによるハジキ性及び除去性が実施例より劣っていた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機微粒子が有機溶媒に分散された艶消し剤(A)と、主鎖または側鎖にオルガノシロキサン鎖を有する共重合体(B)と、フッ素樹脂(C)を含有する塗料用組成物。
【請求項2】
前記有機微粒子が、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、エンジニアリングプラスチックの群から選択される1種以上である請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
前記共重合体(B)が、少なくとも末端に水酸基を有するシリコーン変性アクリル樹脂である請求項1または2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂(C)が、フルオロオレフィン系共重合体である請求項1〜3の何れかに記載の塗料用組成物。
【請求項5】
前記フルオロオレフィン系共重合体の水酸基価が、90〜280mgKOH/gである請求項4に記載の塗料用組成物。
【請求項6】
固形分換算で、前記フッ素樹脂(C)100質量部に対して、前記共重合体(B)を0.1〜10質量部含有する請求項1〜5の何れかに記載の塗料用組成物。
【請求項7】
さらに、シリカ微粒子を含有する請求項1〜6の何れかに記載の塗料用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の塗料用組成物と、硬化剤とを含有することを特徴とする塗料。
【請求項9】
請求項1〜7の何れかに記載の塗料用組成物と、硬化剤を備えることを特徴とする塗料用キット。
【請求項10】
最表面に、請求項8に記載の塗料を用いて形成された塗膜を備えることを特徴とする塗装物品。

【公開番号】特開2008−127424(P2008−127424A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311457(P2006−311457)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】