説明

塗料用耐摩耗性改良剤

【課題】摺動性や耐摩耗性、耐薬品性に優れる塗膜表面を与える塗料組成物を提供する。
【解決手段】体積平均粒子径が0.1〜10μmであり、且つ10%以上の熱トルエン不溶分率を有するポリオレフィン共重合体を0.5〜99重量%含有する塗料組成物。前記ポリオレフィン共重合体は、ラジカル重合性の架橋前駆点を有するポリオレフィンをビニルモノマーと反応させて得られる架橋ポリオレフィン粒子であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動性や耐摩耗性に優れる塗膜表面を与える塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に摺動性(滑り性)が要求される製品は多岐に亘っており、そうした製品へ摺動性を与えるための手段も種々存在する。
【0003】
そうした手段としては、材質そのものを摺動性に優れた物質とする方法、表面を物理的に加工して摺動性を高める方法、摺動性に優れた添加剤(潤滑剤など)を配合した成形用材料で製造する方法(成形法)、摺動性に優れた塗膜を与える塗料を塗装して表面を被覆する方法(塗装法)等に大別される。
【0004】
成形法は摺動性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂に潤滑剤を配合し溶融混練して調製した成形材料をたとえば押出成形する方法であり、この方法において使用される潤滑剤には、PTFE粉末、超高分子量ポリエチレン、無機粉末等の固体潤滑剤やシリコーンオイル、フッ素オイル、特定の界面活性剤などが知られており、単独または併用されている(特許文献1)。
【0005】
一方、塗装法としては、低分子量PTFE粉末などの摺動性に優れた材料をバインダーの添加剤として用いたもののほか、これらのバインダーに固体潤滑剤を配合することが知られている。また、塗装法では超高分子量ポリエチレン等のオレフィン系の摩耗性改良剤は、その大きな粒子径から適用されていない。
【特許文献1】特開平5−247351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記成形法では、製品全体を摺動性材料で形成する必要があり、材料コストがかかるだけでなく、成形法によって製品が制限される。
【0007】
その点、塗装法では自由度は高いが、潤滑剤を配合する場合、特に溶剤型の塗料では潤滑剤の均一分散が困難となり、溶剤型塗料での潤滑剤の配合は見送られていた。特に、低分子量のフッ素樹脂粉末を塗料に配合した場合、分散不良が大きな問題となっている。
【0008】
本発明は、改質成分の分散性が良好で、摺動性、耐摩耗性に優れる塗膜表面を与える塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、以下のものである。
【0010】
体積平均粒子径が0.1〜10μmであり、且つ10%以上の熱トルエン不溶分率を有するポリオレフィン共重合体を0.5〜99重量%含有する塗料組成物(請求項1)。
【0011】
前記ポリオレフィン共重合体が、ラジカル重合性の架橋前駆点を有するポリオレフィンをビニルモノマーと反応させて得られる架橋ポリオレフィン粒子であることを特徴とする請求項2に記載の塗料組成物(請求項2)。
【0012】
前記ポリオレフィン共重合体が、オレフィンモノマーと二官能性モノマーを後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒を用いて共重合させて得られたポリオレフィンラテックスにビニルモノマーをラジカル共重合させると共にポリオレフィンを架橋させて得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物(請求項3)。
【0013】
前記ポリオレフィン共重合体が、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒として下記一般式(1)〜(5):
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Mはニッケル、パラジウム又は白金であり、Mはパラジウムまたはニッケルである。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砥素またはアンチモンである。 R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。R11,R44は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R22,R33は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R55はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R55につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)のいずれかを用いて得られたポリオレフィンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物(請求項4)。
【0020】
一般式(1)における後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(6):
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1、Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のふっ素化炭化水素基である。)で表されることを特徴とする請求項4に記載の塗料組成物(請求項5)。
【0023】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のEが酸素、Xがリンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の塗料組成物(請求項6)。
【0024】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のY又はRf1がフッ素であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の塗料組成物(請求項7)。
【0025】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のMがニッケルであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の塗料組成物(請求項8)。
【0026】
ポリオレフィン共重合体が炭素数10以下のα‐オレフィンモノマーを重合して得られることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の塗料組成物(請求項9)。
【0027】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒を用いて得られたポリオレフィン共重合体の製造方法であって、二官能性のモノマーと共重合を行ったポリオレフィンラテックスにビニルモノマーをラジカル共重合させると共にポリオレフィンを架橋させて得られることを特徴とするポリオレフィン共重合体ラテックスの製造方法(請求項10)。
【発明の効果】
【0028】
以下に説明するとおり、本発明により得られるポリオレフィン共重合体ラテックスを添加した塗料組成物によれば、摺動性、耐磨耗性に優れる塗膜表面を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
(配位重合触媒)
ポリオレフィンラテックスを製造するための配位重合触媒としては、水および極性化合物の共存下でオレフィン重合活性を有する配位重合触媒であれば特に制限はなく、好ましい例としてケミカル・レビュー(Chemical Review),2000年,100巻,1169−1203頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2003年,103巻,283−315頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、アンゲバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544−561頁に記載されているものを挙げる事ができる。
【0031】
但し、これに限定されるものではない。合成が簡便であり高活性が得られるという点から、一般式(1)〜(5)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

【0036】
【化11】

【0037】
(式中、Mはニッケル、パラジウム又は白金であり、Mはパラジウムまたはニッケルである。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砥素またはアンチモンである。 R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。R11,R44は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R22,R33は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R55はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R55につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)。
【0038】
一般式(4)、(5)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、Brookhart触媒として知られている。
【0039】
水中で安定であることから特にMはパラジウムが好ましい。R11,R44で表される炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ブチル基などが好ましく、さらに好ましくはメチル基、イソプロピル基が好ましい。Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またR55がヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。
【0040】
また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。また、L-で表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M+)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
【0041】
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R22)−C(R33)=NArで表される化合物は、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R22、R33は炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
【0042】
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R5)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q+)が、触媒の金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合あるいは水素−炭素結合から、ハロゲン等を引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M+)が発生し、助触媒のアニオン(L-)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。
【0043】
55を具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。なお、M+−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入よりM+−炭素結合(あるいは水素結合)へのオレフィンの挿入の方がおこりやすいため、触媒の補助配位子として特に好ましいR5はメチル基である。さらに、R55としてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
【0044】
助触媒としては、Q+-で表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き抜き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF4、B(C65、B(C63(CF32、PF、AsF、SbF、(RfSO22CH、(RfSO23C、(RfSO22N、RfSO3が挙げられる。特に、PF、AsF、SbF、(RfSO22CH、(RfSO23C、(RfSO22N、RfSO3が、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF、AsF、SbF6が、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。
【0045】
活性の高さからは、BF、B(C65、B(C63(CF324が、特にB(C65、B(C63(CF324が好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF3、C25、C49、C817、C65があるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
【0046】
一般式(1)〜(3)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、SHOP(Shell Higher Olefin Process)触媒として知られている。
一般式(1)の中でも下記一般式(6):
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1,Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。)で表されるオレフィン系重合用触媒が好ましい。
【0049】
特に、Rf1がフッ素化炭化水素基である場合、乳化系でも高いエチレン重合活性を示すので好ましい。Rf2を電子吸引性のフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基にすることでより高活性およびまたはより高分子量のポリオレフィンを得ることができる。一般式(6)の化合物は、以下の反応により調製するのが好ましい。
【0050】
【化13】

【0051】
(反応式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R、R、Rは各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。MLnはゼロ価のニッケル、パラジウムまたは白金化合物である。LはMに対して配位し、Mの価数をゼロ価に保持するものであれば特に制限はない。nは自然数である)。
これらの反応が進行しやすいことから、Mはゼロ価のニッケルであることが好ましい。Eは酸素であることが好ましい。Xはリンであることが好ましい。
f1、Rは各々独立して炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基が好ましい。具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニル基等が挙げられる。特に、Rf1はトリフルオロメチル基が好ましく、Rf2はペンタフルオロフェニル基が好ましい。
【0052】
また、R、R、Rは各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、特に置換芳香族基が好ましい。置換芳香族基として最も好ましいのはフェニル基である。一般式(2)あるいは(3)の化合物は、以下の化合物によりその場で調製される配位子を用いてその場の反応で調製して用いるのが好ましい。
【0053】
【化14】

【0054】
【化15】

【0055】
(反応式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R、R、Rは各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。MLnはゼロ価のニッケル、パラジウムまたは白金化合物である。LはMに対して配位し、Mの価数をゼロ価に保持するものであれば特に制限はない。nは自然数である。)
これらの反応が進行しやすいことから、Mはゼロ価のニッケルであることが好ましい。Eは酸素であることが好ましい。Xはリンであることが好ましい。
【0056】
ゼロ価のニッケル化合物としては、例えば、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロオクタテトラエン)ニッケル等が好ましく、ビス(シクロオクタジエン)ニッケルが特に好ましい。
【0057】
これらビス(シクロオクタジエン)ニッケルは公知の方法に従って合成することもできるし、固体を取り出すことなく溶液のまま用いてもよい(例えば、実験化学講座第4版、371頁に準じて2価のニッケル化合物とシクロオクタジエン等とトリアルキルアルミニウムとから合成できる)。
【0058】
また、Yは塩素またはフッ素、特にフッ素であることが好ましい。また、R1,R2,R3は各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基が、特に置換芳香族基が好ましい。置換芳香族基として最も好ましいのはフェニル基である。反応の促進のために、ホスフィン、ホスフィン酸化物、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、ニトリル、アミン、ピリジン、オレフィン等を共存させるのが好ましい。特にオレフィンを共存させるのが好ましい。
【0059】
反応温度は0〜100℃、さらには15〜70℃が好ましい。反応時間に特に制限はないが、20分間〜24時間が好ましい。反応は不活性雰囲気下で行うのが好ましく、アルゴン、窒素等が挙げられる。場合により微量の酸素、水分が存在していてもよい。反応は、通常溶媒を使用して実施するのが好ましく、溶媒としては脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。
【0060】
例としては、トルエン、クロロベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられる。一般に溶媒中のMの濃度は、1〜20000μmol/L、さらには10〜10000μmol/Lの範囲が好ましい。
【0061】
反応において、MLn/配位子のモル比は、反応収率を高めるため少なくともMLnを等量以上使用するのがよく、4/1〜1/1が好ましく、3/1〜2/1がより好ましい。本発明のオレフィン系重合触媒は複核であってもよい。
【0062】
本発明に用いるオレフィン重合用触媒の具体例としては、一般式(1)〜(3)のMとしてはニッケルが入手性の点から優れており、具体的には下記の化合物を好適に例示することができる。
【0063】
【化16】

【0064】
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
(式中、Phはフェニル基、R’は炭素数1〜6の炭化水素基、nは1〜3を示す)。
【0067】
(オレフィンモノマー)
本発明に用いられる、オレフィンモノマーは、配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物である。オレフィンモノマーの好ましい例としては炭素数2〜20のオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、等が挙げられる。この中でも炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。オレフィンモノマーの使用量としては、制限はないが、分子量の大きい重合体を収率良く得られるという点から、オレフィンモノマー/触媒活性種がモル比で10〜109、さらには100〜107、とくには1000〜105とするのが好ましい。
【0068】
(二官能性モノマー)
本発明のポリオレフィンラテックスの製造時に、二官能性モノマー添加すると、ラジカル反応性の架橋前駆点を有するポリオレフィンを合成できる。二官能性モノマーとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、ノルボルナジエン、ジビニルベンゼン等のジエンが挙げられる。好ましくは、1,3−ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンが挙げられ、特に好ましくはジビニルベンゼンである。これらは単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。二官能性モノマーの使用量はオレフィンモノマー100重量部に対して好ましくは1〜20重量部である。
【0069】
(オレフィンモノマー重合)
本発明の、配位重合触媒を用いた、オレフィンモノマーの重合方法は、得られる重合体がラテックス(乳化液)で得られれば特に限定はないが、乳化重合法(ミニエマルジョン重合法を含む)あるいはミクロ懸濁重合法あるいはそれに近い系で行うことができる。例えば水中に配位重合触媒およびオレフィンモノマーを均一に分散させて反応させることが出来る。用いるオレフィンモノマーが反応温度において気体である場合は、低温で凝縮あるいは凝固させて液体もしくは固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱しても良いし、圧力をかけて液体または気体として仕込んでも良い。
【0070】
オレフィンモノマー、二官能性モノマー、および配位重合触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加しても良い。また、水および乳化剤と混合して、例えばホモジナイザーなどをかけて乳化液とした状態で仕込んでも良い。
【0071】
乳化重合またはミクロ懸濁重合に用いる乳化剤は公知のものを使うことができ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれの乳化剤も特に限定なく使うことができる。乳化能が良好であるという点から、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキル硫酸のアルカリ金属塩、アルキルスルホコハク酸のアルカリ金属塩などのアニオン性乳化剤が好ましく、さらに好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウムなどが好ましい。該乳化剤の使用量には特に限定がなく、適宜調整すればよいが、好ましくは使用する水に対して、1g/L〜50g/L、さらに好ましくは2g/L〜20g/Lである。
【0072】
ミクロ懸濁重合に用いる分散剤は、公知のものを使うことができる。具体例としてはリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のノニオン系高分子化合物;ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸およびその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物などがあげられる。
【0073】
重合の際、オレフィンモノマー、二官能性モノマー、および配位重合触媒の溶解度を高め反応を促進するために有機溶媒を少量添加してもよい。その溶媒としては特に制限はないが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、クロロベンゼン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられる。
【0074】
また、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよい。水溶性が比較的低く、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましく、このような特に好ましい例としてはトルエン、塩化メチレン、クロロホルムおよびブチルクロリド、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0075】
あらかじめ系全体を乳化させておくミニエマルジョン重合の場合にはラテックス(乳化液)の安定化のためにペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカンなどの水溶性の低い脂肪族溶媒をコスタビライザーとして用いることが好ましい。ポリブテンなどの水溶性の低いオリゴマーを用いてもよい。これらの溶媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。溶媒の合計使用量は、反応液全体の体積に対して好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。これらの溶媒は、そのまま添加してもよいし、乳化させて添加しても良い。
【0076】
本発明のポリオレフィンラテックスの製造は、通常−30〜200℃、好ましくは0〜100℃、特に好ましくは15〜90℃で行われる。重合時間は特に制限はないが、通常10分〜24時間、反応圧力は特に制限はないが、常圧〜10MPaである。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保っても良いし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させても良い。
【0077】
用いるオレフィンモノマーがエチレン、プロピレンなどの気体である場合は、重合反応によるモノマー消費に伴って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行っても良く、モノマーを供給する、加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行っても良い。
【0078】
本発明により得られるポリオレフィンは通常ラテックスとして得られる。ラテックスの粒径は使用した乳化剤、有機溶媒、水の量、乳化条件によって調整することができる。ラテックスの安定性等の点から好ましくは粒子径が20nm〜5000nm、さらに好ましくは50〜2000nmのものが得られる条件を選ぶのが好ましく、とくに好ましくは、100〜1500nmである。
【0079】
本発明に用いられる乳化重合またはミクロ懸濁重合により製造されたポリオレフィンラテックスは、そのままビニルモノマーとの反応に用いても良いし、必要に応じて希釈、濃縮、熱処理、熟成処理などの操作を加えた後用いても良いし、乳化剤、凍結防止剤、安定剤、pH調整剤などの添加物を加えて成分を調整した後用いても良い。該ポリオレフィンラテックスは、固形分含量が1〜50重量%のラテックスとして用いることが好ましく、さらに好ましくは固形分含量が3〜30重量%のラテックスとして用いることが好ましい。
【0080】
固形分含量が多すぎるとラテックス粒子の凝集が起って反応が不均一になりやすく、固形分含量が少なすぎると反応液全体の量が増えるので釜効率が悪くなる。
【0081】
(ビニルモノマー)
本発明で言うビニルモノマーとは、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル等の、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレンのようなビニル芳香族化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデンのようなハロゲン化ビニル、アクリル酸アミドのような不飽和カルボン酸アミド、N−メチルアクリルアミドのような不飽和カルボン酸アミドのN−アルキル及び/又はN−アルキロール誘導体、酢酸ビニルのような飽和カルボン酸ビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α−シアノエチルアクリレート、フマロニトリル、シアノスチレン等のビニルニトリルが挙げられる。
【0082】
官能基含有ビニルモノマーも用いることができる。具体的には、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジシクロペンテニルエーテルメタクリレート等の分子内に複数の不飽和炭素結合を含有するモノマー、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ基含有ビニルモノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレートのようなヒドロキシル基含有ビニルモノマー等も挙げられる。
【0083】
(二官能性モノマーを取り込んだポリオレフィンとビニルモノマーの反応)
本発明のポリオレフィン重合体は、ラテックスの状態でラジカル開始剤を添加することで容易に架橋ポリオレフィン粒子を得ることが可能である。また、ラジカル開始剤と共に、ビニルモノマーを添加すると、ポリオレフィン中の反応性官能基とビニルモノマーが反応し得る。これにより、ポリオレフィン共重合体を得ることができる。
【0084】
ポリオレフィン乳化液の平均粒子径は、添加したラジカル開始剤及びビニルモノマーとの速度論的な衝突回数という観点から、平均粒子径は好ましくは20〜5000nm、さらに好ましくは50〜2000nm、特に好ましくは100〜1500nmの範囲内であることが望ましい。ビニルモノマーとの共重合後に得られるポリオレフィン共重合体の平均粒子径は、通常は0.1〜10μmである。
【0085】
また、ビニルモノマーとの共重合後に得られるポリオレフィン共重合体の熱トルエン不溶分率(ゲル分率)としては、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上であることが好ましい。熱トルエン不溶分率が低すぎると、摩耗特性が劣る場合がある。
【0086】
ラジカル開始剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;各種有機過酸化物例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのアルキルハイドロパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイトなどの過酸化ジアルキル;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、などが挙げられる。
【0087】
これらのうち、有機過酸化物が水素引抜能を有し、ポリオレフィンの架橋度を高めるのに好ましい。
【0088】
また、これら開始剤は、熱分解的な方法の他に、重合開始剤並びに賦活剤(金属塩または金属錯体)、キレート剤、還元剤とからなるレドックス触媒として用いることもできる。ラジカル開始剤は熱分解的な方法でもレドックス系触媒を用いる方法でも良い。熱分解的な方法は、還元剤や賦活剤などの添加物を加える必要がないので、金属イオン含量の少ない重合体を得るのに適している。レドックス系触媒を用いる方法は、低い反応温度で反応させることができるので、反応の制御が容易となる利点がある。
【0089】
レドックス触媒を構成する還元剤としては例えばグルコース、デキストロース、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸などが好ましく使用できる。安価で活性が高いという点から、このうちスルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒドが特に好ましい。
【0090】
レドックス触媒を構成するキレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩、クエン酸などのオキシカルボン酸類、縮合リン酸塩など水溶性キレート化合物を形成するもの、およびジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾンなど油溶性キレート化合物を形成するものが挙げられる。これらの中でエチレンジアミン四酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩およびクエン酸などのオキシカルボン酸類が好ましい。
【0091】
レドックス触媒を構成する賦活剤としては例えば鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、コバルトなどの金属塩または金属キレートを挙げる事ができ、好ましい例としては例えば硫酸第一鉄、硫酸銅、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムなどが挙げられる。賦活剤とキレート剤は、別々の成分として用いても良く、予め反応させて金属錯体として用いても良い。
【0092】
開始剤、賦活剤、キレート剤、還元剤の組み合わせに特に限定は無く、それぞれ任意に選べば良い。賦活剤/還元剤/キレート剤の組み合わせの好ましい例としては例えば硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸、硫酸銅/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸の組み合わせである。
【0093】
とくに好ましい組み合わせとしては硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0094】
ラジカル開始剤の好ましい使用量はポリオレフィン100重量部に対して0.005〜20重量部、さらには0.01〜10重量部であることが好ましい。
(ベース塗料) 本発明の塗料組成物は、ベース塗料とポリオレフィン共重合体粒子からなる。ベースとなる塗料は、液状のものでも、粉体のものでもよい。液状の塗料の場合は、溶剤型塗料でも水性塗料でもよい。
【0095】
ベース塗料中のバインダーポリマーとしては特に制限されず、樹脂でもエラストマー(ゴム)でもよい。バインダーポリマーとしては、たとえばアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられ、特にフッ素樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂が好適である。摺動性の改善が求められている製品に使用されているポリマーが好ましい。
【0096】
アクリル樹脂としては、たとえばメチルメタクリレート/ブチルアクリレート/スチレン/2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどが具体的に例示できる。
【0097】
ウレタン樹脂としては、グリセリールモノリシノレート/グリセリールリシノレート/トルエンジイソシアネート、ポリプロピレントリオール/ポリプロピレングリコール/ジフェニルメタンジイソシアネート/トルエンジイソシアネートなどが具体的に例示できる。
【0098】
バインダーポリマーとしてのエラストマーとしては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが例示できる。
バインダーポリマーは硬化性でも非硬化性でもよいが、表面硬度を高め、摺動性、耐摩耗性を上げる観点からは、硬化性のポリマーが望ましい。バインダーポリマーを硬化性にするには水酸基やカルボキシル基、アミノ基、エポキシ基などの硬化性の官能基を常法によりポリマーに導入すればよい。その場合、硬化剤や硬化触媒を配合することが好ましい。配合する硬化剤は硬化性バインダーポリマーに合わせて、イソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂系硬化剤、加水分解性シリケート系硬化剤、ヒドラジド化合物などの従来公知のものが使用できる。例えば、硬化性官能基が水酸基の場合、イソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂系硬化剤が好ましい。硬化触媒としてはパラトルエンスルホン酸などが使用できる。
【0099】
ベース塗料は上記バインダーポリマーの他に、一般的な塗料に添加される各種添加剤を含有していてもよい。添加剤の具体例としては、固体潤滑剤、顔料、紫外線防止剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、密着性改良剤、皮張り防止剤などが挙げられる。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二酸化タングステン、黒鉛、窒化ホウ素、窒化アルミなどの無機系潤滑剤; ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール樹脂、アシルアミノ酸系ポリマーなどの高分子潤滑剤などが挙げられる。
【0100】
(塗料組成物)
本発明の塗料組成物におけるポリオレフィン共重合体の固形分濃度は、塗料の目的、塗装対象、塗装方法などにより適宜選定すればよいが、通常、組成物基準で0.5〜99重量%、好ましくは1〜33重量%であり、さらに好ましくは5〜23重量%である。このような塗料組成物は、ベース塗料にポリオレフィン共重合体を添加して得ることができる。ベース塗料が水性塗料である場合は、水性塗料にポリオレフィン共重合体粒子を含有するラテックスを添加する方法で得てもよい。ベース塗料100重量部に対するポリオレフィン共重合体の使用量は固形分で1〜50重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。
【0101】
本発明の塗料組成物の調製は、サンドミルグラインド分散混合法(混合装置にビーズを入れて均一な混合を達成する方法)やデスパー分散混合法(単に攪拌して分散混合する方法)、ボールミル分散混合法、セントリミル分散混合法、ロールミル分散混合法など従来公知の方法で行うことができる。
【0102】
本発明の塗料組成物は、種々の基材に塗装でき、摺動性が改善された塗膜を与える。塗装方法としては、従来公知のロールコート法、ディップコート法、ナイフコート法、スプレーコート法、シャワーコート法、ハケ塗装、ローラー塗装、アプリケーターなどが採用できる。
【0103】
塗膜の形成は、基材表面に塗装後、乾燥し、必要に応じて加熱(焼成)、または硬化させることにより行うことができる。
【0104】
得られる塗膜は、優れたものである。
【0105】
本発明の塗料組成物を塗装する基材としては特に制限されない。無機基材として、金属(アルミニウム、鋼板、ステンレス、亜鉛鋼板、銅、真鍮、クロム、ブリキなど)、セラミック(アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、サイアロンなど)、ガラスなどがあげられる。有機基材として、プラスチック(ポリカーボネート、硬質塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、FRP、ABS、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、その他の各種合成樹脂塗膜など)、エラストマー(ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、SBR、天然ゴムなど)、皮(人工皮革、合成皮革、天然皮革)、天然材料(石材、木材、皮革など)などがあげられる。
【実施例】
【0106】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0107】
[重合転化率]
乳化重合において、仕込んだモノマー、乳化剤および開始剤の重量の合計を反応液全体の総重量で除して、モノマーが100%重合した場合の最大固形分濃度を求めた。反応後に得られたラテックスを軟膏缶に0.5〜2g程度採取し、100℃のオーブンで熱乾燥して残留する固形分の割合を求め、これをラテックス中の固形分濃度とみなした。熱乾燥する時間は、さらに30分以上加熱しても重量変化が1%以下となるまで(通常30分〜2時間)である。以下の式に基づいて重合転化率を算出した。
重合転化率(重量%)={(ラテックス中の固形分濃度)/(最大固形分濃度)}×100。
【0108】
[粒子径の測定]
粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)(Microtrac Nanotrac 150 Version:10.1.2−016SA)にて測定した。なお、本発明の粒子径とは体積平均値のことを言う。
【0109】
[ポリオレフィン共重合体の熱トルエン不溶分率(ゲル分率)測定]
重合後の架橋ポリエチレン粒子を充分に乾燥させた後、プレス成形機(神藤金属工業所、型式NSF−50、プレス条件:160℃、無圧、7min→160℃、50kgf/cm2、2min→室温、50kgf/cm2、3min)で厚さ1mmのシートとした。この架橋ポリエチレンのシートを、恒温室で24時間放置して恒量に達した円筒ろ紙(東洋濾紙(株)、GRADE84、Size20×90mm)に、0.5g秤量して入れた。この円筒ろ紙を100mLナス型フラスコに入れ、トルエン(関東化学(株)製)80mLを加えて、3時間リフラックスさせた。熱トルエンで処理した後の円筒ろ紙は真空乾燥した後、円筒ろ紙内に残留した熱トルエン不溶分量(ゲル分量)を計測した。これらの測定量から、次式より熱トルエン不溶分率(ゲル分率)を算出した。
ゲル分率=(円筒ろ紙内残留量)÷(円筒ろ紙内仕込み量)×100
ゲル分率は、架橋度を表すものであり、数値が高いほど架橋度が高いことを示す。
【0110】
[塗膜の作成]
アルミニウム板: 表面を清浄化したアルミニウム板にアプリケーター(200μm)で塗料組成物を塗布後、室温にて1週間、乾燥した。
【0111】
[塗膜の目視による評価]
塗料組成物を塗装したアルミニウム板を、200mmの距離から塗膜を目視で観察する。評価は、つぎの基準による。
5: 塗膜全体に改質剤成分が均一に分散されており、塗膜透明性が比較的高い。
4: 塗膜の透明性は比較的高いが、一部に小さなブツ(改質剤成分のつぶれ残り)がある。
3: 塗膜全体に曇りがかかっており、全体に小さなブツが分散している。
2: 塗膜の一部が濁っており、一部に目視でハッキリ判る大きなブツがある。
1: 全面に大きなブツ(1mm程度)がある。
【0112】
[塗膜の指触による評価]
塗料組成物を塗装したアルミニウム板の塗膜を手の人差し指で指触により評価する。評価は、つぎの基準による。
5: ブツ(改質剤のつぶれ残り) による引っかかりがなく、触感は平滑である。
4: ブツによる引っかかりはないが、触感は一部にザラザラ感がある。
3: ブツによる引っかかりはないが、触感は全体にわたってザラザラ感がある。
2: 大きなブツによる引っかかりが一部にあり、触感は全体的にザラザラしている。
1: 大きなブツによる引っかかりが全面にある。
【0113】
[テーバー摩耗試験]
改質成分を分散させた塗料組成物の塗膜をアルミニウム板に塗装した。この塗膜の耐摩耗性をテーバー型摩耗試験機((株)東洋精機製作所製のROTARY ABRASION TESTER)により、磨耗輪CS−10、荷重250g、100〜200回転の条件で、磨耗量(mg)を測定した。
【0114】
(合成例1)配位子の合成
窒素雰囲気下、Helvetica Chimica Acta.1928頁,76巻,1993年を参考にして合成したペンタフルオロベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド2.61g、乾燥THF(和光純薬(株)製)11mlを仕込み、氷浴を用いて0℃に冷却した。モレキュラーシーブで乾燥したトリエチルアミン(和光純薬(株)製)1.5mlを加え、15分攪拌した。さらにトリフルオロ酢酸無水物(東京化成製)0.78mlを滴下し、0℃で1時間、室温(15℃)で1時間反応させた。 濾液を濃縮し、蒸留水(和光純薬(株)製)15mlで洗浄、乾燥した。得られた生成物を60℃のメタノールに溶解させ0℃まで徐々に冷却し、再結晶を行った。乾燥後の収量は、1.5gであった。1H−NMR(CDCl3)により、ベンジルプロトンが消失していることから、
【0115】
【化19】

【0116】
で示される化学式で示される化合物が生成していることを確認した。
【0117】
(合成例2)ジビニルベンゼン存在下でのエチレン重合
アルゴン雰囲気下、(合成例1)で得られた化合物14mg(25μmol)、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル(関東化学(株)製)40mg(150μmol)を脱水トルエン(関東化学(株)製)1mLにそれぞれ溶かし15分間攪拌した。その後、それぞれのトルエン溶液を混合し、さらに1−ヘキセン(和光純薬(株)製)0.36mLを加えた。この触媒溶液を、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬(株)製)2g、純水20mL、ヘキサデカン(和光純薬(株)製)0.2gと共に超音波ホモジナイザー(SMT company社製、超音波分散機 UH−600)によって乳化した。なお、乳化の際の超音波作用時間は1分間である。
【0118】
アルゴン置換した1Lオートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製、TAS−1型オートクレーブ、材質SUS 316)に、ドデシル硫酸ナトリウム2g、純水500mL、脱水トルエン50mL、ヘキサデカン(和光純薬(株)製)5g、ジビニルベンゼン(新日鉄化学(株)製)5gの混合物を超音波ホモジナイザー(SMT company社製、超音波分散機 UH−600)で5分間乳化させた溶液を仕込んだ。仕込んだ乳化液とオートクレーブ内はアルゴンガスで加圧脱気した(アルゴン1MPa×15回、攪拌200rpm、室温)。
そこに、上記触媒の乳化溶液をシリンジで注入した。その後、エチレンガス(住友精化(株)社製)を導入して、オートクレーブ内を3MPaとし、300rpm、50℃で5時間反応させた。
反応後、未反応のエチレンガスを除去し、ポリエチレンラテックスを得た。なお、得られたポリエチレンラテックスの固形分濃度(SC)は8.2%であった。また、この反応では、TON=65,900[mol Ethylene/mol cat.]であった。得られたポリエチレンラテックスの粒子径は400nmであった。
【0119】
(合成例3)合成例2のポリエチレンラテックスとグリシジルメタクリレートの共重合
冷却管、温度計を備えた4口フラスコに、上記で合成したポリエチレンラテックス(使用時固形分量8%)100gを仕込み窒素雰囲気下とした。続いて、このポリエチレンラテックスをスターラーで緩やかに撹拌して、オイルバスで昇温し、70℃とした。ここへ、過硫酸カリウム(和光純薬(株)製)0.07gを1mLの純水に溶解させたものを加えた。
過硫酸カリウム添加後の反応液を80℃まで昇温させて、グリシジルメタクリレート(1.4g、和光純薬(株))を添加した。さらに、3時間攪拌し続け、反応を行った。重合後のラテックス粒子径は500nm、固形分濃度は9%であった。
得られた共重合ラテックスの一部に、10%塩化カルシウム水溶液を加え塩析させた。得られた固形物を純水で3回洗浄した後、真空乾燥させてポリエチレン/ポリグリシジルメタクリレート共重合体を得た。得られた共重合体のゲル分率は、50%であった。
【0120】
(実施例1)合成例3のラテックスを添加した塗料組成物による塗膜
使用塗料: ゼムラック(水系、W3108F、クリヤー塗料2、カネカ社製)
上記塗料100部に対して、合成例3で得られたポリオレフィン共重合体ラテックス111重量部(ポリオレフィン共重合体の固形分10重量部)を添加し、スターラーによる撹拌を10分行って、本発明の塗料組成物を作成した。攪拌後に得られた塗料組成物中のポリオレフィン共重合体の固形分濃度は4.7%である。
【0121】
作成した塗膜の目視による評価は『5』、指触による評価は『5』、テーバー摩耗試験100回転後の摩耗量は7mg、200回転後の摩耗量は24mgであった。
【0122】
(比較例1)フッ素樹脂を添加した塗料組成物による塗膜
比較として、フッ素樹脂を含む水系塗料(ルブロンLDW410、固形分濃度41%、ダイキン社製)を含む塗料組成物を作成した。ポリオレフィン共重合体ラテックス111重量部の代わりに上記フッ素樹脂を含む水系塗料24.4重量部(固形分10重量部)を使用した点以外は、実施例1と同様の組成及び作成方法とした。攪拌後に得られた塗料組成物中のポリオレフィン共重合体の固形分濃度は8.0%である。
【0123】
作成した塗膜の目視による評価は『4』、指触による評価は『4』、テーバー摩耗試験100回転後の摩耗量は8mg、200回転後の摩耗量は33mgであった。
これらにより得られた塗膜について、目視による分散状態の確認、指触による表面状態の確認、テーバー摩耗試験による摩耗量の評価を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
表1より、本願発明のポリオレフィン共重合体は、塗膜への分散性が良好で、且つフッ素樹脂を添加した塗膜よりも摩耗量も小さく、優れた耐摩耗性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒子径が0.1〜10μmであり、且つ10%以上の熱トルエン不溶分率を有するポリオレフィン共重合体を0.5〜99重量%含有する塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン共重合体が、ラジカル重合性の架橋前駆点を有するポリオレフィンをビニルモノマーと反応させて得られる架橋ポリオレフィン粒子であることを特徴とする請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン共重合体が、オレフィンモノマーと二官能性モノマーを後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒を用いて共重合させて得られたポリオレフィンラテックスにビニルモノマーをラジカル共重合させると共にポリオレフィンを架橋させて得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン共重合体が、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒として下記一般式(1)〜(5):
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式中、Mはニッケル、パラジウム又は白金であり、Mはパラジウムまたはニッケルである。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砥素またはアンチモンである。 R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。R11,R44は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R22,R33は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R55はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R55につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)のいずれかを用いて得られたポリオレフィンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
一般式(1)における後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(6):
【化6】

(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1、Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のふっ素化炭化水素基である。)で表されることを特徴とする請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項6】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のEが酸素、Xがリンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の塗料組成物。
【請求項7】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のY又はRf1がフッ素であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のMがニッケルであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
ポリオレフィン共重合体が炭素数10以下のα‐オレフィンモノマーを重合して得られることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項10】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒を用いて得られたポリオレフィン共重合体の製造方法であって、二官能性のモノマーと共重合を行ったポリオレフィンラテックスにビニルモノマーをラジカル共重合させると共にポリオレフィンを架橋させて得られることを特徴とするポリオレフィン共重合体ラテックスの製造方法。

【公開番号】特開2009−197193(P2009−197193A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43031(P2008−43031)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】