説明

塗料用艶消し剤および艶消し塗料

【目的】少量の添加により、優れた艶消し効果を有する塗料用艶消し剤および塗料の開発。
【構成】平均粒子径1〜20μm、比重0.3〜0.8の中空構造を有する樹脂であって、樹脂を構成するモノマー成分100重量部中に、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレン、アクリレート、メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、酢酸ビニルの少なくとも1種類以上を50重量部以上含有することを特徴とする塗料用艶消し剤。
水系樹脂塗料であり、上記の塗料用艶消し剤を、塗料100重量部中に0.5〜10重量部含有する艶消し塗料。
塗装時の塗料粘度が2000mPa.s以下であって塗装塗膜表面に上記の塗料用艶消し剤が配向する艶消し塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装塗膜が艶消し仕上がりとなる艶消し塗料および塗料用艶消し剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な建築、建材用塗料において、瓦、サイディングボード、内装用塗料などのうち、現場塗装ではなく工場内の生産ラインにおいて塗装される塗料に関しては、その仕上がりは艶消しが好まれており、従って使用される塗料は艶消し塗料であることが多い。
【0003】
艶消し塗料仕上げとするためには、従来塗料中に艶消し剤と呼ばれる添加剤を添加させることによって、塗膜表面の光沢度を下げるということが行なわれている。艶消し剤として広く用いられているのは、シリカ等の無機顔料であるが、これは相当量を添加しないと艶消し効果を得られない上に、シリカ自身が高価であるため、艶消し塗料の原料原価を上げてしまう原因となっている。
【0004】
このため、低価格な艶消し剤の開発が望まれている。
特開平4−337301号には、アクリル酸及び/又はメタクリル酸1〜30モル%と、これと共重合可能なビニルモノマー70〜99モル%とからなるビニル単量体組成物50〜100重量%、並びに多官能性モノマー0〜50重量%からなる単量体組成物を水系に分散し、懸濁重合して微粒子重合体を得、該微粒子重合体を中和することにより水分散性に優れたものとすることを特徴とする微小球状粒子による艶消し剤が開示されている。
【特許文献1】特開平4−337301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の発明においては、アクリル酸系水系樹脂によって、分散性に優れた艶消し剤を実現しようとするものである。しかし本発明者らは、異なるアプローチから更なる効果的な艶消し効果を有する艶消し剤と、その艶消し剤による艶消し塗料の開発に成功したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決せんとして、本発明者らは鋭意研究の結果、特定樹脂による中空のマイクロカプセル構造に着目し、これを塗料用艶消し剤、この艶消し剤を使用した艶消し塗料として開発したものであり、その要旨は以下に存する。
【0007】
平均粒子径1〜20μm、比重0.3〜0.8の中空構造を有する樹脂であって、樹脂を構成するモノマー成分100重量部中に、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレン、アクリレート、メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、酢酸ビニルの少なくとも1種類以上を50重量部以上含有することを特徴とする塗料用艶消し剤。
水系樹脂塗料であり、上記に記載の塗料用艶消し剤を、塗料100重量部中に0.5〜10重量部含有することを特徴とする艶消し塗料。
塗装時の塗料粘度が2000mPa.s以下であって塗装塗膜表面に、上記に記載の塗料用艶消し剤が配向することを特徴とする艶消し塗料。
以下に詳細に説明する。
【0008】
本発明になる艶消し剤を構成する樹脂としては、モノマー成分100質量部中に、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、シクロヘキシルメタクリレート(メタクリル酸シクロヘキシル)、アクリロニトリル、スチレン、アクリレート(アクリル酸)、メタクリレート(メタクリル酸)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、酢酸ビニルの少なくとも1種類以上を50重量部以上含有することが必須となる。モノマー成分中、上記樹脂のいずれか、あるいは組み合わされた樹脂が50質量部未満であると、艶消し剤として必要な強度等の物性が実現できない虞れがある。
樹脂の重合度については特に規定されるものではないが、重合度が低く分子量が低いと水性塗料中に含まれる造膜助剤でマイクロカプセルが膨潤または溶解する虞があることから、分子量は100万以上が好ましい。
樹脂の重合方法やマイクロカプセルの製造方法については特に規定されるものではないが、懸濁重合によるマイクロカプセルの製造方法が例示できる。
【0009】
艶消し剤の構造としては、内部が中空であるマイクロカプセル構造を有することが必須である。これは、マイクロカプセル構造とすることによって、低比重化を実現し、塗料塗膜表面に配向させることにより、少ない添加量で光沢度を低下させることが可能となるためである。
【0010】
艶消し剤の平均粒子径は、1〜20μmの範囲であることを必須とする。更に望ましくは、5〜15μmの範囲であることが望ましい。1μm未満の粒子径である場合、中空のマイクロカプセル構造化による低比重効果が著しく小さく、また光の乱反射による光沢度の低下効果が小さい。20μmを超える粒子径である場合には、光の乱反射による光沢低下が少なく、艶消し効果が望めない他、塗装塗膜表面が均一平滑とならない等の不具合が発生する虞れがある。
【0011】
艶消し剤の比重は、0.3〜0.8の範囲であることが必須である。0.3未満の低比重である場合には、塗料中でのマイクロカプセルの浮上速度が速く不均一になりやすい。0.8を超える比重の場合には、塗料塗膜表面に艶消し剤を配向することができない虞れがある。
【0012】
上記の艶消し剤を使用する塗料としては、水系樹脂塗料であることを必須とする。水系樹脂塗料としては、エマルション樹脂塗料、水溶性樹脂塗料が例示できる。溶剤系塗料の場合には、溶剤の種類によっては、本発明になる艶消し剤の樹脂を溶解してしまい、中空マイクロカプセル構造を維持できない虞れがある。
【0013】
本発明になる艶消し剤は、塗料100質量部中に0.5〜10質量部含有することを必須とする。0.5質量部未満であると、十分な光沢低下による艶消し効果が得られない虞れがある。10質量部を超えて配合しても、配合量に比例した艶消し効果は得られず、コストが増大してしまう。
【0014】
本発明の艶消し剤を適正量配合した艶消し塗料による塗装塗膜表面に、艶消し剤が配向することを必須とする。一般に、塗料中に配合される各種の添加剤は、その目的性能を十全に発揮するために、塗料中に均一に分散されることを必須とされており、その状態を維持したままで塗装塗膜を形成するのが必要とされている。塗料における塗膜成分の分散不良は、塗膜形成後に仕上がり面の不均一、非平滑等の塗膜表面不良を発生させることが多いためである。しかしながら本発明における艶消し塗料においては、全く逆転の発想により、中空マイクロカプセル構造による光乱反射効果を有する低比重の艶消し剤を配合することにより、塗装塗膜とするために必要な被塗物に本発明になる塗料を塗装した後、一旦塗料塗膜中に分散した艶消し剤が、艶消し剤自身の低比重によって、塗料塗膜の最上層、即ち表面に集中して配向する。艶消し剤の塗膜表面への配向により、光の乱反射が発生して表面光沢が低下し、その結果艶消し仕上がりを実現するものである。
【0015】
本発明の艶消し塗料は、水系樹脂塗料であることを特徴とするが、その他、塗装時粘度が2000mPa.s以下、好ましくは1000mPa.s以下であることが望ましい。2000mPa.sを超える粘度である場合、塗装後に中空マイクロカプセル構造を有する艶消し剤を配合したとしても、塗装塗膜の表面層に配向することができない虞れがあるためである。
塗料用艶消し剤としてはマイクロカプセルに着色する必要はないが、意匠性付与のため着色顔料を添加することも可能である。
【0016】
本発明の艶消し塗料は、従来公知の混合分散機により製造できる。即ち、ペイントシェーカー、羽根型高速攪拌機、ロールミル、ボールミル、アトライター、グレンミル、ニーダー等である。混合分散工程においても、特に制限はなく、一般的な塗料製造工程により製造が可能である。
【0017】
本発明の艶消し塗料は、従来公知の塗装方法により塗装が可能である。即ち、流し塗り、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、ロールコーター、カーテンロールコーター、静電塗装、ディッピング等である。
【0018】
本発明の艶消し塗料は、艶消し仕上げを好まれる分野において全て使用することが可能である。現在建築建材分野においては、工場ライン塗装により生産される瓦、サイディングボード、内装壁材などに艶消し仕上げが好まれている。その他の分野においても塗装することは何ら差し障りはない。
【発明の効果】
【0019】
本願発明になる艶消し剤は、従来の艶消し剤と比較して、塗料全量における必要配合量が3割〜5割は少なくなり、塗料塗膜表面に配向されるためにその光沢低減による艶消し効果は非常に大きい。従って、従来と比較して低コストで高い効果の仕上げによる艶消し塗料を実現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を説明する。言うまでもないが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
アクリル樹脂エマルションを主成分とする、ブラウン色に調色したエマルション塗料に、表1に記載の艶消し剤を各3.5質量部配合し、混合攪拌後、水希釈により塗料粘度を800Pa.sに調整した。得られた各塗料を150μmフィルムアプリケーターを使用してガラス板に塗装し、常温乾燥後に各塗膜表面の60度光沢をグロスメーターによって測定した。その結果を表1に示す。
【0022】
表1


実施例1および実施例2については、60度光沢が2.5で、塗装仕上がり面において艶消し効果は著しく大きい。
比較例1と比較例2については、塗装塗膜表層に艶消し剤が配向せず、塗装しあがり面において艶消し効果は十分ではなかった。
比較例3については、粒子径が大きいため、艶消し効果が十分ではなかった。
比較例4については塗装塗膜表層に艶消し剤が配向せず、艶消し効果が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径1〜20μm、比重0.3〜0.8の中空構造を有する樹脂であって、樹脂を構成するモノマー成分100重量部中に、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレン、アクリレート、メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、酢酸ビニルの少なくとも1種類以上を50重量部以上含有することを特徴とする塗料用艶消し剤。
【請求項2】
水系樹脂塗料であり、請求項1に記載の塗料用艶消し剤を、塗料100重量部中に0.5〜10重量部含有することを特徴とする艶消し塗料。
【請求項3】
塗装時の塗料粘度が2000mPa.s以下であって塗装塗膜表面に、請求項1に記載の塗料用艶消し剤が配向することを特徴とする艶消し塗料。

【公開番号】特開2010−31161(P2010−31161A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195754(P2008−195754)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】