説明

塗料組成物、およびそれを用いた反射防止部材の製造方法

【課題】
簡易な方法で低反射率、耐擦傷性、耐磨耗性に優れた反射防止部材を「白化」が発生することなく安定して連続塗工可能な塗料組成物、および反射防止部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含む塗料組成物であって、前記溶媒において、酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Cとしたとき、溶媒Cの前記相対蒸発速度が0.3以下であり、溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δ項が、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下であることを特徴とする、塗料組成物、およびそれを使用した反射防止部材の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止部材の製造に好適な塗料組成物、及び当該塗料組成物を用いた反射防止部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止部材は一般に、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶表示装置(LCD)のような画像表示装置において、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するために、光学干渉の原理を用いて反射率を低減するようにディスプレイの最表面に配置される。このような反射防止部材として、より広い波長領域の反射率を低減するために、屈折率の高い物質からなる高屈折率層と屈折率の低い物質からなる低屈折率層との多層の被膜をフィルムなどの支持基材の表面に積層する、いわゆるマルチコーティングが知られている(特許文献1)。
【0003】
この反射防止部材を少ない工程で製造する方法として、1回の塗布により形成された1層の液膜から、2層以上の層を形成する反射防止積層体の製造方法が提案されている。特許文献2には「バインダー樹脂中に低屈折率微粒子と中乃至高屈折率微粒子が分散されているコーティング組成物を用いてワンコートにて形成された塗膜を含む反射防止積層体であって、該低屈折率微粒子としてフッ素系化合物により処理されているシリカ微粒子が用いられることにより、比重の差により塗膜の上部乃至中間部において低屈折率微粒子が偏在し、且つ中間部乃至下部において中乃至高屈折率微粒子が偏在していることを特徴とする反射防止積層体。」が提案されており、また、特許文献3には「構成元素が異なる2種類以上の無機粒子を含む1液の塗料組成物を1回塗布乾燥硬化する工程のみで反射率の異なる複数の層を構成する反射防止フィルムの製造方法であって、少なくとも一種類の無機粒子にフッ素化合物による表面処理が成されていることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。」が提案されている。さらに、特許文献4には「基材と、その上に多層構造を有する積層体の製造方法であって、前記基材上又は基材上に形成された層の上に、下記成分(A)〜(F)を含む液状硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、この1の塗膜から溶媒を蒸発させることにより、2以上の層を形成することを特徴とする積層体の製造方法。」が提案されている。
【0004】
また、このような反射防止部材の製造を含む塗工製品の製造において、コーティング中や直後に液膜表面が乳白色や曇りを生じて乾燥塗膜が白くなり光沢が無くなることがあり、このような現象を塗膜の「白化」、または「ブラッシング」と呼ぶ。
【0005】
塗膜の白化の原因として、非特許文献1には「塗液膜から溶媒が蒸発して、塗液がその潜熱を奪われて冷却し、雰囲気の露点に達することにより、空気中の水が塗液膜中に凝縮して、樹脂や顔料の析出、沈殿を生じさせるか、ミクロボイドを形成する現象である」との記載があり、その対策として、特許文献5には「一分子中に少なくとも2個のシロキシ基を有するビニル系重合体(A)に、該重合体(A)より生成する水酸基と反応性を有する硬化剤(B)と、シロキシ基の解離促進触媒(C)と、さらに、上記ビニル系重合体(A)の100重量部に対し、約5〜約40重量部なる範囲内の有機溶剤(D)とを配合せしめることを特徴とし、加えて、該有機溶剤が、その100重量部当たり、1.0重量部以上の水を溶解することの出来るものであり、しかも、25℃において、かつ、大気圧下における、該有機溶剤の沸点が160〜260℃なる範囲内にあることを特徴とする、塗料用樹脂組成物。」が提案されており、特許文献6には「被塗物に揮発性有機溶剤が配合された塗料を塗装する方法であって、塗装時の塗料の温度における飽和水蒸気圧P0 と、塗料を塗装して塗膜が形成される際の揮発性有機溶剤の蒸発による塗装20秒後における温度低下幅だけ塗装時の塗料の温度よりも低い温度における飽和水蒸気圧P1とを求め、前記P0 とP1 との割合((P1 /P0 )×100)で表わされる相対湿度よりも低い湿度で塗装を行なうことを特徴とする塗料の塗装方法。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−5452号公報
【特許文献2】特開2007−272132号公報
【特許文献3】特開2008−070414号公報
【特許文献4】特開2005−297539号公報
【特許文献5】特開平9−241575号公報
【特許文献6】特開平7−155683号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】コーティング 加工技術研究会編 2002 P845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが前述の1回の塗布により形成された1層の液膜から2層以上の層を形成する製造方法として、特許文献2〜4の方法をもとに一般的な連続塗工装置を用いて連続塗工を試みたところ「白化」がたびたび発生することが分かった。
【0009】
この対策として特許文献5、6、及び非特許文献1に記載の方法を用いて解決を試みたが、いずれの方法でも塗膜の白化を解決することができなかった。従って本発明が解決しようとする課題は、簡易な方法で低反射率、耐擦傷性、耐磨耗性に優れた反射防止部材を「白化」が発生することなく安定して連続塗工可能な塗料組成物、および反射防止部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
1)2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含む塗料組成物であって、
前記溶媒において、酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Cとしたとき、溶媒Cの前記相対蒸発速度が0.3以下であり、溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δ項が、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下であることを特徴とする、塗料組成物。
【0012】
2)前記溶媒として、水を含むことを特徴とする前記1)に記載の塗料組成物。
【0013】
3)前記2種類以上の無機粒子のうち少なくとも1種類の無機粒子が、フッ素化合物Aにより処理された無機粒子(以降、フッ素処理無機粒子とする)であることを特徴とする前記1)または2)に記載の塗料組成物。
【0014】
4)前記塗料組成物が、以下の疎水性化合物Bを含むことを特徴とする、前記1)から3)のいずれかに記載の塗料組成物。
【0015】
疎水性化合物Bとは、フッ素化合物B、長鎖炭化水素化合物B、及びシリコーン化合物Bからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である。
【0016】
フッ素化合物Bとは、炭素数4以上のフルオロアルキル基を有する化合物である。
【0017】
長鎖炭化水素化合物Bとは、炭素数8以上の炭化水素基を有する化合物である。
【0018】
シリコーン化合物Bとは、シロキサン基を有する化合物である。
【0019】
5)前記溶媒Cが、イソホロン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びノニルフェノキシエタノールからなる群より選択される溶媒であることを特徴とする前記1)から4)のいずれかに記載の塗料組成物。
【0020】
6)前記1)〜5)のいずれかに記載の塗料組成物を、支持基材の少なくとも片面上に1回のみ塗布することにより、屈折率の異なる2層からなる反射防止層を形成することを特徴とする、反射防止部材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好な反射防止性能、優れた耐擦傷性、耐磨耗性を有する反射防止部材を、「白化」が発生することなく安定して連続塗工可能な塗料組成物を提供可能である。また本発明の製造方法を用いることにより、生産性を向上することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の塗料組成物により得られる反射防止部材の例である。
【図2】本発明の塗料組成物により得られる反射防止部材の別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、支持基材上に塗料組成物を1回塗布することにより形成した1層の液膜から2層以上の層を形成する反射防止部材の製造方法において、連続塗工時にたびたび塗膜が白化する発生する原因を次のように考えた。
【0024】
連続塗工とワイヤーバー、アプリケーター等による手塗り塗工(ハンドコート)のプロセス上の違いは次の2点である。第一に、前者の場合、基材を連続的に搬送するため、塗工により基材表面に形成された液膜が受ける風速が早い。第二に、前者の場合、防爆対策のため塗工工程の湿度を高く設定する必要があり、さらに溶剤の蒸発量が大きいため大風量での換気を必要とし、液膜が受ける風速が大きい。この結果、連続塗工の場合には高湿度の空気が常温、高風速で液膜に接触するため、気液界面での物質移動が生じやすく、液膜中に水量が増加しやすくなると考えられる。
【0025】
液膜中の水量が増加すると、乾燥の進行に伴い(水よりも)低沸点の溶媒の揮発が先に進むので、液膜中の溶媒成分に占める水が、粒子の安定性を維持するために含まれる量を大きく上回り、乾燥の進行に伴い液膜の極性が急上昇する。一方で、1層の液膜から2層以上の層を形成する製造方法において用いる塗料組成物は、自発的な層構造を形成するため2種類の粒子のうち少なくとも1方の粒子に対して疎水的な処理がなされたものを用いている特徴がある。
【0026】
以上の結果をまとめると、支持基材上に塗料組成物の1回の塗布により形成した1層の液膜から、2層以上の層を形成する製造方法において、得られる層(塗膜)がたびたび白化する原因は、非特許文献1に記載されているような一般的な層(塗膜)の「白化」現象と異なり、連続塗工によるプロセス上の違いから、液膜中へ水の移動が起こりやすく、これにより液膜の極性が上昇し、疎水的な処理がなされた粒子が凝集、もしくは系内の他の材料(バインダー成分、無機粒子)からの排除が自発的な層構造の形成に先んじて起こり、この結果、層(塗膜)の形成が十分に起こらず、「白化」すると考えた。
【0027】
この白化が発生する原因に対し、特許文献5の方法では、高沸点でかつ水の溶解度が高い溶媒を導入することにより対策を行っているため、乾燥の進行に伴い低沸点の溶媒が揮発していくと水を含んだ高沸点溶媒が残るため、塗膜中の水が多くなり、乾燥の進行に伴い極性が上昇するため、逆効果となり、白化が抑制できなかったと考えられる。
【0028】
また、特許文献6の方法は、基本的に塗工時の湿度を下げることにより対策を行っているが、前述のように防爆上の観点からその範囲には制約があり、汎用の塗工装置を用いた製造ではこの方法で対応することは難しい。
【0029】
以上の従来技術に対し、本発明者らは1回の塗料組成物の塗布により形成した1層の液膜から、2層以上の層を形成する反射防止部材を、連続的に安定して製造する課題に対して、以下の塗料組成物を用いることにより解決できることを見出した。
【0030】
本発明の塗料組成物は、塗料組成物中に含まれる溶媒、特に高沸点溶媒に着目することにより、乾燥過程での液膜中の極性の上昇を防ぎ、塗膜中での粒子の凝集を防止して、「白化」を抑制するものである。つまり本発明の塗料組成物は、2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含み、その溶媒のうちの1種類の溶媒の蒸発特性と水素結合性を規定することにより達成するものである。
【0031】
具体的には、塗料組成物が2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含む塗料組成物であって、酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Cとした際に、溶媒Cの相対蒸発速度が0.3以下であり、溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δが、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下である態様の塗料組成物である。
【0032】
相対蒸発速度とハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δをこの範囲にすることにより、特定の水素結合性と特定のタイミングで蒸発する特性を有する溶媒を塗料組成物に含むことになるので、仮に連続塗工工程にて液膜中の水が増加しても、水を低沸点溶媒と共に乾燥の中期に除去できるので、乾燥の進行に伴い粒子間の距離が近接し、疎水的な処理を行った無機粒子が凝集しやすい状態になっても、疎水性処理を行った粒子の分散安定性を維持でき、この結果、得られる反射防止部材は白化を生じないと考えられる。
【0033】
本発明の塗料組成物は、溶媒Cの相対蒸発速度が0.3以下であることが重要である。溶媒Cの相対蒸発速度は、より好ましくは0.25以下である。
【0034】
本発明の塗料組成物は、溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δが、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下であることが重要である。溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δは、より好ましくは、5(MPa)1/2以上、10(MPa)1/2以下である。
【0035】
ここで、溶媒の酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度とは、ASTMD3539−87(2004)に準拠して測定される蒸発速度である。具体的には、乾燥空気下で酢酸n−ブチルが90質量%蒸発するのに要する時間を基準とする蒸発速度の相対値として定義される値である。
【0036】
前記溶媒Cの相対蒸発速度が0.3よりも大きい場合には自発的な層構造の形成に要する時間が短くなるため層構造の形成不良が発生し、その結果、反射率の上昇、透明性の悪化を生じる。また、前記溶媒Cの相対蒸発速度の下限は、乾燥工程において蒸発して塗膜から除去できる溶媒であれば問題なく、一般的な塗工工程においては、0.005以上であればよい。
【0037】
また、ハンセンの溶解度パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項δ,極性項δ,水素結合項δの3成分に分割したものである。分散項δは無極性相互作用のよる効果、極性項δは双極子間力による効果、水素結合項δは水素結合力の効果を示すものである。
【0038】
多くの溶剤や樹脂についてのハンセンの溶解度パラメーターの値が調べられており、例えば“Polymer Handbook (fourth Edition)”,J.BRANDRUPら編(JOHN WILEY & SONS)にその値が記載されており、ここに値が記されていない溶媒については、Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP)ver.3.1.03によって計算することができる。
【0039】
溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δが4(MPa)1/2未満の場合には、塗料組成物中の粒子の分散安定性が低下して、粒子が凝集、沈降する場合があり、また、10.5(MPa)1/2より大きい場合には、塗工工程での「白化」の抑制効果が得られない。
【0040】
前記相対蒸発速度が0.3以下であり、前記ハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δが、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下である溶媒の例、つまり溶媒Cとして好適な例としては、ジイソブチルケトン(相対蒸発速度:0.2、δ:4.1(MPa)1/2)、イソホロン(相対蒸発速度:0.026、δ:7.4(MPa)1/2)、ジチレングリコールモノブチルエーテル(相対蒸発速度:0.004、δ:10.0(MPa)1/2)、ジアセトンアルコール(相対蒸発速度:0.15、δ:9.2(MPa)1/2)、オレイルアルコール(相対蒸発速度:0.003、δ:8.0(MPa)1/2)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.2、δ:5.1(MPa)1/2)、ノニルフェノキシエタノール(相対蒸発速度:0.25、δ:8.4(MPa)1/2)があり、イソホロン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ノニルフェノキシエタノールがより好ましい。
【0041】
前述のように、本発明の塗料組成物は2種類以上の溶媒を含むことが必要である。すなわち本発明の塗料組成物は、前記溶媒C以外に1種類以上の溶媒を含むことを意図する。溶媒C以外の溶媒の種類については特に限定されないが、前記溶媒Cに対して、相対蒸発速度が高い溶媒がこれに該当し、ケトン類、エステル類、アルコール類などが好ましく、炭素数3以上6以下のケトン類、エステル類、アルコール類などがより好ましい。
【0042】
またこのような溶媒C以外の溶媒として、水が特に好ましい。塗料組成物中に水を包含させる際には、無機粒子の処理工程(疎水的な処理を含む)にて、無機粒子に化合物を導入する際の、粒子表面の水酸基との縮合反応により発生した水を用いることができる。
【0043】
特別な処理が施されない限り、一般に無機粒子はその表面に水酸基を有する。そのため当然、本発明の塗料組成物中が含有する無機粒子の表面にも水酸基が存在し、また、表面処理を施しても無機粒子に水酸基は残存するため、溶媒C以外の溶媒として塗料組成物中に一定量の水を含有させることにより、粒子の水酸基間の縮合反応の化学平衡を保つことができ、粒子間の凝集を防いで分散安定性を確保することができる。一方で、前述のように塗料組成物中の水の含有量が多くなると、塗料組成物が含有する疎水的な表面処理がなされた粒子(フッ素処理無機粒子など)が凝集、もしくは系内の他の材料(バインダー成分、無機粒子)から排除されることにより、得られる塗膜の白化を引き起こすため、塗料組成物中の水の含有量には好ましい範囲がある。塗料組成物中の水の含有量は、塗料組成物中の粒子に対して、0.0001質量%以上0.008質量%以下、より好ましくは0.0002質量%以上0.006質量%以下である。すなわち、粒子の固形分濃度が20質量%程度の塗料組成物においては、水の含有量は0.05質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。
【0044】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、塗料組成物中に2種類以上の無機粒子、及び2種類以上の溶媒を含んでいることが必要である。このようにすることにより、本発明の塗料組成物を支持基材に1回のみ塗工することによって、高屈折率層、低屈折率層といった、支持基材上に屈折率の異なる2層からなる反射防止層を有する反射防止部材を得ることができる。
【0045】
ここで、「無機粒子」とは表面等の処理を施したものも含む。この表面処理とは、無機粒子表面に化合物を化学結合(共有結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、疎水結合等を含む)や吸着(物理吸着、化学吸着を含む)によって導入することを指す。
【0046】
本発明の塗料組成物は2種類以上の粒子を含むことが好ましい。2種類以上の粒子の内、少なくとも1種類は、他方の粒子に対して相対的に屈折率が低いことが好ましい。
【0047】
ここで粒子の種類とは、粒子を構成する元素の種類によって決まり、何らかの表面処理を行う場合には、表面処理される前の粒子を構成する元素の種類によって決まる。例えば、酸化チタン(TiO)と酸化チタンの酸素の一部をアニオンである窒素で置換した窒素ドープ酸化チタン(TiO2−x)とでは、粒子を構成する元素が異なるために、異なる種類の粒子である。また、同一の元素、例えばZn、Oのみからなる粒子(ZnO)であれば、その粒径が異なる粒子が複数存在しても、またZnとOとの組成比が異なっていても、これらは同一種類の粒子である。また酸化数の異なるZn粒子が複数存在しても、粒子を構成する元素が同一である限りは(この例ではZn以外の元素が全て同一である限りは)、これらは同一種類の粒子である。
【0048】
また、本発明における「溶媒」とは、塗工後の乾燥工程にてほぼ全量を蒸発させることが可能な常温、常圧での液体である物質を指す。溶媒の種類については後述する。
【0049】
本発明の塗料組成物は、前記無機粒子及び溶媒以外の成分を含んでいてもよく、このような成分としては、バインダー原料、硬化剤、界面活性剤、分散剤、反応性部位を有する疎水性化合物Bなどを含んでもよい。
[溶媒]
本発明の塗料組成物は、2種類以上の溶媒を含む。溶媒の種類数としては2種類以上20種類以下が好ましく、より好ましくは2種類以上10種類以下、さらに好ましくは2種類以上6種類以下である。
【0050】
ここで、溶媒の種類とは、溶媒を構成する分子構造によって決まる。すなわち、同一の元素組成で、かつ官能基の種類と数が同一であっても結合関係が異なるもの(構造異性体)、前記構造異性体ではないが、3次元空間内ではどのような配座をとらせてもぴったりとは重ならないもの(立体異性体)は、種類の異なる溶媒として取り扱う。例えば、2−プロパノールと、n−プロパノールは異なる溶媒として取り扱う。
【0051】
[無機粒子]
塗料組成物は、2種類以上の無機粒子を含むことが重要である。無機粒子の種類数としては2種類以上20種類以下が好ましい。無機粒子の種類数は2種類以上10種類以下がさらに好ましく、2種類以上3種類以下が特に好ましく、2種類が最も好ましい。ここで種類については、前述の通り粒子を構成する元素の種類によって決まる。
【0052】
塗料組成物中の2種類以上の無機粒子のうち、少なくとも1種類の無機粒子が、フッ素化合物Aにより処理された無機粒子(以下、フッ素処理無機粒子という)であることが好ましい。このフッ素処理無機粒子が、第1層の構成成分として好適である。塗料組成物中にフッ素処理無機粒子を有することで、そのような塗料組成物を支持基材上に塗布することで、フッ素処理無機粒子は空気側へ移動して、最表面に屈折率の低い層(以下、最表面の層を第1層という。また相対的に屈折率の低い層を低屈折率層という)を形成することができる。なお、塗料組成物中の無機粒子の全てがフッ素処理無機粒子である場合よりも、フッ素処理無機粒子と、フッ素化合物Aによる処理が施されていない無機粒子との両方を含む塗料組成物を用いる方が、屈折率差の大きい2つの層を得ることができるために、反射防止性の点で好ましい。つまり、本発明の塗料組成物は、1種類以上のフッ素処理無機粒子と、1種類以上のフッ素化合物Aによる処理が施されていない無機粒子とを含むことが好ましく、3種類以下のフッ素処理無機粒子と、4種類以下のフッ素化合物Aによる処理が施されていない無機粒子を含むことがより好ましい。
【0053】
フッ素処理無機粒子について説明する。フッ素処理無機粒子の構成材料となる無機粒子としては、Si,Na,K,CaおよびMgからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む無機粒子が好ましい。さらに好ましくは、シリカ粒子(SiO)、アルカリ金属フッ化物(NaF,KFなど)およびアルカリ土類金属フッ化物(CaF、MgFなど)からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含む無機粒子である。耐久性、屈折率などの点からシリカ粒子が特に好ましい。なお、以下、フッ素化合物Aにより処理されたシリカ粒子をフッ素処理シリカ粒子とする。
【0054】
シリカ粒子とは、ケイ素化合物または有機珪素化合物の重合(縮合)体のいずれの組成物から成る粒子を指し、一般例として、SiOなどのケイ素化合物から導出される粒子の総称である。
【0055】
フッ素処理無機粒子の構成材料である無機粒子として、中空シリカ粒子や多孔質シリカ粒子を用いると、中空シリカ粒子や多孔質シリカ粒子が反射防止層の低屈折率層に含まれやすく、反射防止層の一部である低屈折率層の密度を下げ、屈折率を下げる効果が得られるので好ましい。
【0056】
フッ素処理無機粒子の、フッ素化合物Aにより処理される前の数平均粒子径は1nm以上200nm以下であることが好ましい。数平均粒子径は20nm以上200nm以下がさらに好ましく、40nm以上150nm以下が特に好ましい。無機粒子の数平均粒子径が1nmよりも小さくなると、第1層中の空隙密度が低下し、屈折率が上昇したり透明度が低下したりすることがある。無機粒子の数平均粒子径が200nmよりも大きくなると、低屈折率層の厚さが厚くなり、反射防止性能が低下することがある。
【0057】
前述の通りフッ素処理無機粒子とは、フッ素化合物Aにより処理された無機粒子を意味する。ここでフッ素化合物Aとは、後述の一般式(2)で表される化合物である。
【0058】
一般式(2)におけるフルオロアルキル基とは、アルキル基が持つ水素の一部、あるいはすべてがフッ素に置き換わった置換基であり、主にフッ素原子と炭素原子から構成される置換基である。 また、反応性部位とは、熱または光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位をさす。このような反応性部位として、反応性の観点からアルコキシシリル基及びアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基や、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる、反応性、ハンドリング性の観点から、アルコキシシリル基、シリルエーテル基あるいはシラノール基や、エポキシ基、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
【0059】
フッ素処理無機粒子を得るための、無機粒子に対するフッ素化合物Aによる処理は、一段階で行われてもよく、多段階で行われてもよい。また、複数の段階でフッ素化合物Aを用いても良いし、一つの段階のみでフッ素化合物Aを用いても良い。
【0060】
また無機粒子に対する処理にて好ましく用いられるフッ素化合物Aは、単一化合物でもよく、複数の異なる化合物を用いてもよい。
【0061】
フッ素化合物Aによる処理とは、無機粒子を化学的に修飾し、無機粒子にフッ素化合物Aを導入する工程をさす。
【0062】
無機粒子に直接フッ素化合物Aを導入する方法としては、1分子中にフッ素セグメントとシリルエーテル基(シリルエーテル基が加水分解されたシラノール基を含む)との両方を持つフルオロアルコキシシラン化合物を1種類以上と、開始剤とを共に撹拌する方法がある。しかし無機粒子に直接フッ素化合物Aを導入する場合、反応性の制御が困難になったり、塗料化後塗工時に塗工斑等が発生しやすくなったりする場合がある。
【0063】
またフッ素処理無機粒子を得るための別の方法としては、無機粒子を架橋成分にて処理し、フッ素化合物Aとつなぎ合わせる(フッ素化合物Aにより処理する)方法がある。この場合のフッ素化合物Aとしては、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルエポキシド、フルオロアルキルハライド、フルオロアルキルアクリレート、フルオロアルキルメタクリレート、フルオロアルキルカルボキシレート(酸無水物およびエステル類を含む)、などを用いることができる。
【0064】
架橋成分とは、分子内にフッ素は無いが、フッ素化合物Aと反応可能な部位と、無機粒子と反応可能な部位を少なくとも一カ所ずつ持っている化合物を指す。無機粒子と反応可能な部位としては反応性の観点からシリルエーテルおよびシリルエーテルの加水分解物であることが好ましい。これら化合物は一般的にシランカップリング剤と呼ばれ、例としては、グリシドキシアルコキシシラン類、アミノアルコキシシラン類、アクリロイルシラン類、メタクリロイルシラン類、ビニルシラン類、メルカプトシラン類、などを用いることができる。
【0065】
フッ素処理無機粒子のより好ましい形態は、無機粒子を下記一般式(1)で示される化合物で処理し、さらに下記一般式(2)で示されるフッ素化合物Aで処理した粒子である。
B−R−SiR(OR3−n ・・・一般式(1)
D−R−Rf2 ・・・一般式(2)
(上記一般式中のB、Dは、反応性部位を示す。R、Rは、炭素数1から6のアルキレン基およびそれらから導出されるエステル構造を示す。R、Rは、水素または炭素数が1から4のアルキル基を示す。Rf2は、フルオロアルキル基を示す。nは、0から2の整数を示し、それぞれ側鎖を構造中に持ってもよい。)。
【0066】
フッ素化合物Aの反応性部位としては、反応性二重結合基がより好ましい。この反応性二重結合基とは光または熱などのエネルギーをうけて発生したラジカルなどにより化学反応する官能基であり、具体例としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0067】
一般式(1)の具体例としては、アクリロキシエチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシブチルトリメトキシシラン、アクリロキシペンチルトリメトキシシラン、アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、アクリロキシヘプチルトリメトキシシラン、メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、メタクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、メタクリロキシヘプチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランおよびこれら化合物中のメトキシ基が他のアルコキシル基および水酸基に置換された化合物を含むものなどが挙げられる。
【0068】
一般式(2)の具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフロオロプロピルアクリレート、2−パーフルオロブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロデシルエチルアクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−3−メトキシブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2−パーフルオロブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−3−メチルブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1−トリフルオロメチルトリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0069】
無機粒子に対して、分子中にフルオロアルキル基Rf2を有さない一般式(1)で表される化合物を用いて処理することにより、簡便な反応条件で、無機粒子を修飾することができるばかりではなく、無機粒子に反応性を制御しやすい官能基を導入することができる。その結果、反応性部位およびフルオロアルキル基Rf2を有する一般式(2)のフッ素化合物Aを、一般式(1)で示される化合物を介して、無機粒子に反応させることができる。
【0070】
続いて、フッ素処理無機粒子とともに塗料組成物に含まれる、フッ素化合物Aによる処理が施されていない無機粒子について説明する。フッ素化合物Aによる処理が施されていない無機粒子は、本発明の塗料組成物を支持基材上に塗布することで、最表面側から2番目の位置に形成される屈折率の高い層(以下、最表面側から2番目の位置の層を第2層という。また相対的に屈折率の高い層を高屈折率層という)の構成成分として好適に用いられる。以下、このフッ素化合物Aによる表面処理が施されていない無機粒子を、他の無機粒子とする。
【0071】
他の無機粒子は、特に限定されないが、金属や半金属を主成分とし、金属や半金属の酸化物、窒化物、ホウ素化物であることが好ましく、さらに異種元素が添加されていても良い。他の無機粒子は、Zr,Ti,Al,In,Zn,Sb,Sn,およびCeよりなる群から選ばれる少なくとも一つの金属や半金属を主成分とする酸化物粒子であることがさらに好ましい。また他の無機粒子は第2層(高屈折率層)の構成成分として好適に用いられるので、フッ素化合物Aによる表面処理がされた無機粒子がシリカ粒子の場合は、シリカ粒子よりも屈折率が高い無機粒子が好ましい。具体的には酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン(Sb)およびインジウムスズ酸化物(In)からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物や半金属酸化物である。特に好ましくはアンチモン含有酸化スズ(ATO)や酸化チタン(TiO)である。反射防止性の点から屈折率が高い酸化チタンが最も好ましい。
【0072】
塗料組成物は、他の無機粒子を1種類以上含むことが好ましい。他の無機粒子を1種類以上5種類以下含むことがさらに好ましく、1種類含むことが特に好ましい。
【0073】
他の無機粒子の数平均粒子径は1nm以上150nm以下が好ましい。数平均粒子径は2nm以上100nm以下がさらに好ましく、2nm以上25nm以下が特に好ましく、2nm以上20nm以下が最も好ましい。他の無機粒子の数平均粒子径が1nmよりも小さくなると、他の無機粒子を主として含むこととなる層中の空隙密度が低下することにより透明度が低下することがある。他の無機粒子の数平均粒子径が150nmよりも大きくなると、高屈折率層の厚さが大きくなりすぎて良好な反射防止性能が得られにくくなる。
【0074】
他の無機粒子の屈折率は1.58以上2.80以下が好ましい。屈折率は1.60以上2.50以下がさらに好ましい。無機粒子の屈折率が1.58よりも小さくなると、第2層の屈折率が低下することがある。無機粒子の屈折率が2.80よりも大きくなると、第2層と支持基材との屈折率差が大きくなり、良好な反射防止性能が得られなくなることがあり、また干渉模様が発生し外観が悪化することがある。
【0075】
塗料組成物中のフッ素処理無機粒子がフッ素処理シリカ粒子であり、他の無機粒子がシリカ粒子よりも屈折率が高い無機粒子である場合、支持基材上にこの塗料組成物を1回のみ塗工して続いて乾燥することで、支持基材から離れた側(支持基材とは反対側の最表面側)にフッ素処理シリカ粒子を含んだ第1層、及び支持基材に近い側にシリカ粒子よりも屈折率が高い無機粒子を含んだ第2層からなる反射防止層を有する反射防止部剤を容易に形成することができる。
【0076】
[疎水性化合物B]
前述のように反射防止層は、構成元素の異なる2種類以上の無機粒子に加えて、疎水性化合物Bに由来する成分を含むことが好ましい。つまり本発明の塗料組成物は、疎水性化合物Bを含有することが好ましい。
【0077】
疎水性化合物Bとは、疎水基を有する化合物であり、具体的にはフッ素化合物B、長鎖炭化水素化合物B、およびシリコーン化合物Bからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である。疎水性化合物Bとしては、フッ素処理シリカ粒子との相互作用により無機粒子同士の凝集を抑制する効果を有する点で、フッ素化合物Bが好ましい。
【0078】
塗料組成物が、疎水性化合物Bを含むことにより、フッ素処理無機粒子同士の凝集を抑制することができ、屈折率差の大きな2層の厚み制御が容易となり、反射防止部材が良好な反射防止性を発現することができる。
【0079】
また疎水性化合物Bは、分子中に1種以上の反応性部位を有することが好ましい。この反応性部位とは、前述の通りである。本発明における疎水性化合物B中の反応性部位とは、後述の一般式(4)においてはアクリル基(HC=C(R)−)、一般式(5)においてはAである。疎水性化合物B中の反応性部位の数は、一つである必要はなく、複数の反応性部位を有してもよい。特に反応性、ハンドリング性の観点から、アルコキシシリル基あるいはシラノール基や、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
【0080】
また、反応性部位を有する疎水性化合物Bを使用する場合には、そのような疎水性化合物Bは、フッ素処理無機粒子を得るための処理に用いられるフッ素化合物Aと同一の化合物であってもよい。しかし、塗料組成物中に、フッ素化合物Aとは別に、粒子表面に結合していない疎水性化合物Bを含むことで、フッ素処理無機粒子が空気側(最表面層)へ移動し易くなり、容易に低屈折率層を形成することができるため、粒子の表面に結合していない疎水性化合物Bを含むことが好ましい。
【0081】
なお、疎水性化合物Bが、塗料組成物中で粒子の表面に結合していない事は、次の分析方法により確認することができる。塗料組成物を卓上超遠心機(日立工機株式会社製:CS150NX)により遠心分離を行い(回転数30000rpm、分離時間30分)、無機粒子(フッ素処理無機粒子およびその他の無機粒子)を沈降させる。得られた上澄み液を濃縮乾固し、溶媒としてDMSO−d(太陽日酸株式会社製、ジメチルスルホキシド−d)を用いて再溶解する。再溶解したものをC13−NMR(日本電子社製/核磁気共鳴装置JNM−GX270)を用いて測定し、疎水性化合物Bの存在を確認できれば、疎水性化合物Bが無機粒子表面と結合していないことが確認できる。
【0082】
[長鎖炭化水素化合物B]
長鎖炭化水素化合物Bは、疎水基として炭素数8以上の炭化水素基を有する化合物である。さらに長鎖炭化水素化合物Bは、疎水基に加えて反応性部位を有することが好ましい。反応性部位は、前述の通りである。長鎖炭化水素化合物Bの疎水基としては、炭素数10以上30以下の炭化水素基が好ましい。長鎖炭化水素化合物Bの疎水基は、炭素数12以上30以下の炭化水素基がさらに好ましく、炭素数14以上30以下の炭化水素基が特に好ましい。炭素数が多くなるほど疎水性が高くなり、バインダー原料と分離しやすくなる。
【0083】
[シリコーン化合物B]
シリコーン化合物Bは、疎水基としてシロキサン基を有する化合物である。さらにシリコーン化合物Bは、反応性部位を有することが好ましい。反応性部位は、前述の通りである。シリコーン化合物Bの疎水基は、一般式(3)(−(Si(R)(R)−O)−)で示されるポリシロキサン基であることが好ましい。なお、RおよびRの炭素数は、3以上6以下であることが好ましい。RおよびRの炭素数は4以上6以下がさらに好ましく、5以上6以下が特に好ましい。
【0084】
[フッ素化合物B]
フッ素化合物Bは、疎水基として炭素数4以上のフルオロアルキル基を有する化合物である。フッ素化合物B中のフルオロアルキル基の数は必ずしも一つである必要はなく、フッ素化合物Bは複数のフルオロアルキル基を有してもよい。なお、本発明でいうフルオロアルキル基とは、前述のフッ素化合物Aのフルオロアルキル基と同様に、アルキル基が持つ全ての水素がフッ素に置き換わった置換基であり、フッ素原子と炭素原子のみから構成される置換基であり、これがフッ素化合物Bにおける疎水基である。
【0085】
フッ素化合物Bが有するフルオロアルキル基(以下、フッ素化合物Bが有するフルオロアルキル基を、Rf1という)は、前述の通り炭素数4以上であるが、より好ましくは4以上8以下、さらに好ましくは炭素数4以上7以下の直鎖状または分岐状である。フルオロアルキル基Rf1を、炭素数4以上7以下の直鎖状または分岐状とすることにより、2種類の粒子の分離性が高まり、屈折率の異なる2層の自発的な層形成が容易になり、反射防止性が向上する。
【0086】
フッ素化合物Bは、反応性部位を有することが好ましい。反応性部位は、前述の通りである。フッ素化合物B中の反応性部位とは、後述の一般式(4)においてはアクリル基(HC=C(R)−)、一般式(5)においてはAである。フッ素化合物B中の反応性部位の数は、一つである必要はなく、複数の反応性部位を有してもよい。特に反応性、ハンドリング性の観点から、反応性部位としては、アルコキシシリル基あるいはシラノール基や、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
【0087】
フッ素化合物Bの数平均分子量は、300以上4000以下であることが好ましい。塗料組成物が、数平均分子量が300以上4000以下のフッ素化合物Bを含む場合は、フッ素化合物Bの親和力により、フッ素化合物Bがフッ素処理無機粒子に吸着し、フッ素処理無機粒子同士の粒子間相互作用、または凝集体の形成を抑制できる。その結果、塗料組成物の乾燥時の流動性の低下を防止し、屈折率の異なる2つの層の自発的な層形成が容易となり、良好な反射防止性を発現することができる。本発明における数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒にし、分子量既知の単分散ポリスチレンを標準物質として用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定して求めたものである。
【0088】
塗料組成物中のフッ素化合物Bは、1種類であってもよく2種類以上を混合して用いてもよい。またフッ素化合物Bは、フッ素化合物Aと同一の化合物であってもよい。また、塗料組成物中に紫外線などにより硬化するフッ素化合物Bを含む場合は、酸素阻害を防ぐことができることから、紫外線による硬化工程での酸素濃度はできるだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下(窒素パージ)で硬化する方がより好ましい。
【0089】
より具体的には、フッ素化合物Bは以下の一般式(4)、一般式(5)のモノマー、一般式(4)、一般式(5)のモノマーに由来するオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
C=C(R)−COO−R−Rf1 ・・・一般式(4)
A−R−Rf1 ・・・一般式(5)
(式中、Rは、水素原子またはメチル基。Rf1は、炭素数4以上のフルオロアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Aは反応性部位である。)。
【0090】
一般式(4)のモノマーの具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフロオロプロピルアクリレート、2−パーフルオロブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロデシルエチルアクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−3−メトキシブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2−パーフルオロブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−3−メチルブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1−トリフルオロメチルトリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0091】
また一般式(4)のモノマーに由来するオリゴマーの具体例としては、上記一般式(4)のモノマーを用いて、ラジカル重合などの反応により得られる、平均重合度2〜10程度の化合物が例示される。
【0092】
一般式(5)のモノマーの具体例としては、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン(TSL8233、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン(TSL8257、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などをはじめとしたフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルシランが例示される。
【0093】
また一般式(5)のモノマーに由来するオリゴマーの具体例は、上述のフルオロアルキルシランに所定量の水を加え酸触媒の存在下にて副生するアルコールを留去しながら反応させることにより得られる化合物である。この反応により、フルオロアルキルシランの一部が加水分解し、さらにこれらが縮合反応を起こしオリゴマーが得られる。加水分解率は使用する水の量によって調節することができる。加水分解に用いる水の量は、通常シランカップリング剤に対して1.5モル倍以上である。さらに得られるオリゴマーの平均重合度は2〜10の化合物であることが好ましい。
【0094】
上記のような好ましいフッ素化合物Bとして、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランなどが例示される。
[バインダー原料]
本発明の塗料組成物は、バインダー原料を含むことが好ましい。塗料組成物中のバインダー原料は特に限定するものではないが、製造性の観点より、熱及び/または活性エネルギー線などにより、硬化可能なバインダー原料であることが好ましい。塗料組成物中のバインダー原料は、一種類であっても良いし、二種類以上を混合して用いても良い。
【0095】
ここでバインダー原料とは、塗料組成物中に含まれる化合物であり、塗料組成物を用いて得られた反射防止部材の反射防止層中のバインダー成分の原料である。つまり、本発明の塗料組成物中に含まれるバインダー原料が、熱や電離放射線などにより硬化して、反射防止層に含まれるものを、バインダー成分という。なお、一部のバインダー原料については、反射防止層中でも塗料組成物中と同様の状態で存在する場合もあり(未反応のまま、反射防止層中に存在する場合もあり)、その場合でも反射防止層中のものはバインダー成分という。
【0096】
また、本発明における2種類以上の無機粒子を膜中に保持する観点より、分子中にアルコキシ基、シラノール基、反応性二重結合、および開環反応可能な官能基を有しているモノマー、オリゴマーがバインダー原料であることが好ましい。さらにUV線により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐことができることから酸素濃度ができるだけ低い方が好ましく、嫌気性雰囲気下で硬化する方がより好ましい。酸素濃度を下げることにより最表面の硬化状態が向上し、耐薬品耐性が良化する場合がある。
【0097】
このような塗料組成物中のバインダー原料は、具体的には多官能アクリレートモノマー、オリゴマー、アルコキシシラン、アルコキシシラン加水分解物、アルコキシシランオリゴマー等が好ましく、多官能アクリレートモノマー、オリゴマーがより好ましい。
【0098】
多官能アクリレートモノマーの例としては、1分子中に、3(より好ましくは4または5)個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートおよびその変性ポリマー、具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサンメチレンジイソシアネートウレタンポリマーなどを用いることができる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。また、市販されている多官能アクリル系組成物としては三菱レイヨン株式会社;(商品名“ダイヤビーム”シリーズなど)、長瀬産業株式会社;(商品名“デナコール”シリーズなど)、新中村化学株式会社;(商品名“NKエステル”シリーズなど)、DIC株式会社;(商品名“UNIDIC”など)、東亞合成化学工業株式会社;(“アロニックス”シリーズなど)、日本油脂株式会社;(“ブレンマー”シリーズなど)、日本化薬株式会社;(商品名“KAYARAD”シリーズなど)、共栄社化学株式会社;(商品名“ライトエステル”シリーズなど)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
[その他の添加剤]
本発明の塗料組成物としては、更に光重合開始剤や硬化剤や触媒を含むことが好ましい。
【0099】
光重合開始剤及び触媒は、フッ素処理無機粒子間、無機粒子間、バインダー原料間、フッ素処理無機粒子とバインダー原料間の反応を促進するために用いられる。該開始剤としては、塗料組成物をアニオン、カチオン、ラジカル反応等による重合および/または縮合および/または架橋反応を開始あるいは促進できるものが好ましい。
【0100】
該開始剤、該硬化剤、及び触媒は、種々のものを使用できる。また、複数の開始剤を同時に用いても良いし、単独で用いても良い。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤や光重合開始剤を併用しても良い。酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。また、光重合開始剤の例としては、アルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられるがこれらに限定されるものではないが、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物が好ましく、具体例としては、2.2−ジメトキシ−1.2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタン、1−シクロヒキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−エトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、などが挙げられる。
【0101】
なお、該開始剤及び該硬化剤の含有割合は、塗料組成物中のバインダー原料の合計100質量部に対して0.001質量部から30質量部が好ましく、より好ましくは0.05質量部から20質量部であり更に好ましくは0.1質量部から10質量部である。
【0102】
本発明の塗料組成物には更に、界面活性剤、増粘剤、レベリング剤などの添加剤を必要に応じて適宜含有させても良い。
[塗料組成物中の各成分の含有量]
本発明の塗料組成物は、2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含むが、塗料組成物中のそれぞれの質量関係について説明する。
【0103】
塗料組成物は、溶媒C(溶媒Cの全成分の合計)/溶媒(溶媒の全成分の合計)=0.05〜0.4(質量比)であることが好ましい。また、無機粒子(無機粒子の全成分の合計)/溶媒(溶媒の全成分の合計)=0.05〜0.2(質量比)であることが好ましい。上記範囲にすることにより、無機粒子の分散安定性と、自発的な層構造の形成を両立することができる。
【0104】
更に好ましい様態としては、本発明の塗料組成物は、2種類以上の無機粒子としてフッ素処理無機粒子、非フッ素処理無機粒子を含み、フッ素処理無機粒子/非フッ素処理無機粒子=1/30〜1/1(質量比)であることが好ましい。
【0105】
ここで塗料組成物中の各成分の質量部は、各成分が固体として取り扱える扱える場合には塗料組成物に添加した質量から、各成分が分散物の状態である時には分散物中の固形分濃度を後述する方法で求め、それに塗料組成物に添加した分散物の質量を乗ずることにより求められる。
【0106】
塗料組成物は、フッ素処理無機粒子/非フッ素処理無機粒子=1/30〜1/1(質量比)とすることで、本塗料組成物を基材上に塗工して得られる反射防止部材の低屈折率層の厚みと高屈折率層の厚みの比を一定にすることができる。このため1回の塗工で、低屈折率層と高屈折率層の厚みを同時に、反射防止機能を有する厚みとすることが容易であるため好ましい。また高屈折率層の厚みを厚くし、ハードコート機能を付与しようとする場合にも、反射防止機能を損なうことなく、1回の塗工で必要な厚みとすることができるため、反射防止機能とハードコート機能の両立の点からフッ素処理無機粒子/非フッ素処理無機粒子を上記範囲とすることが可能となるため好ましい。
【0107】
塗料組成物は、より好ましくはフッ素処理無機粒子/非フッ素処理無機粒子=1/29〜1/5(質量比)、さらに好ましくは1/26〜1/10(質量比)、特に好ましくは1/23〜1/15(質量比)である。
【0108】
また好ましくは、本発明の塗料組成物100質量%において、無機粒子の合計が0.2質量%以上40質量%以下、溶媒の合計が40質量%以上98質量%以下、バインダー原料が1質量%以上30質量%以下、開始剤、硬化剤、触媒、およびフッ素化合物Bなどのその他の成分が0.1質量%以上20質量%以下の態様である。より好ましくは、無機粒子の合計が1質量%以上35質量%以下、溶媒の合計が50質量%以上97質量%以下、バインダー原料を2質量%以上25質量%以下、その他の成分を1質量%以上15質量%以下含む態様である。
[反射防止部材]
本発明の塗料組成物を用いて得られる反射防止部材とは、各種支持基材の少なくとも片面に反射防止機能を有する層が形成された部材を指し、支持基材がプラスチックフィルムの場合には一般に反射防止フィルムと呼ばれる。その必要性や要求される性能などは特開昭59−50401号公報に記載されている様に、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上の屈折率差を有する2層以上の反射防止層を支持基材上に積層させることで構成された様態である。また支持基材上の層、つまり反射防止層内の各層の屈折率差は5.0以下であることが好ましい。この屈折率差とは隣接する層間の屈折率を相対的に比較した値であり、相対的に屈折率が低い層を低屈折率層と呼び、相対的に屈折率が高い層を高屈折率層と呼ぶ。
【0109】
図1に本発明の塗料組成物により得られる反射防止部材の1例を示す。反射防止部材1は、支持基材2の片面上のハードコート層5の上に、屈折率の異なる2層からなる反射防止層が形成されている。反射防止層は最表面側に低屈折率層4、次いで高屈折率層3から構成される、支持基材上に3つの層が形成されている。この構成の場合には、支持基材上に通常は3回の塗工を必要とするが、本発明の塗料組成物を用いることにより、2回(ハードコート層と反射防止層)の塗工で形成することが可能になる。
【0110】
図2により好ましい例として、ハードコート層の代わりに、高屈折率層に耐傷性を付与させ、高屈折率ハードコート層6を設けた例を示す。高屈折率ハードコート層は、支持基材2と低屈折率層3との接着を強化する機能も有する。この構成の場合には、支持基材上に通常は2回の塗工を必要とするが、高屈折率ハードコート層の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。本発明の塗料組成物を用いることにより、1回の塗工で形成することが可能である。
【0111】
なお、このような本発明の反射防止部材中の反射防止層には、屈折率の異なる2層以上の層である高屈折率層と低屈折率層との間には粒子の配列による明確な界面があることが好ましい。
【0112】
本発明における明確な界面とは、1つの層と他の層とが区別可能な状態をいう。区別可能な界面とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察することにより判断することができる界面を表し、後述する方法に従い判断することができる。
【0113】
反射防止部材として良好な性能を示すには、分光測定に置いて最低反射率が好ましくは0%以上1.0%以下、より好ましくは0%以上0.8%以下、さらに好ましくは0%以上0.6%以下であり、特に好ましくは0%以上0.5%以下であることが望ましい。
【0114】
また、反射防止部材として良好な性質を示すには更に、透明性が高いことが望ましい。透明性が低いと画像表示装置として用いた場合、画像彩度の低下などによる画質低下が生じるために好ましくない。本発明の製造方法により得られる反射防止部材の透明性の評価にはヘイズ値を用いることができる。ヘイズはJIS K 7136(2000)に規定された透明性材料の濁りの指標である。ヘイズは小さいほど透明性が高いことを示す。反射防止部材のヘイズ値としては好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは1.8%未満、更に好ましくは1.5%未満であり、値が小さいほど透明性の点で良好であるものの、0%とすることは困難であり、現実的な下限値は0.01%程度と思われる。ヘイズ値が2.0%を超えると、画像劣化が生じる可能性が高くなるため好ましくない。
【0115】
反射防止部材として良好な性質を示すには、高屈折率層、低屈折率の厚みが特定の厚みであることが望ましく、低屈折率層の厚みが好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは70nm以上150nm以下であり、特に好ましくは90nm以上130nm以下であることが望ましい。低屈折率層の厚みが50nm未満であると光の干渉効果が得られず反射防止効果が得られず画像の映り込みが大きくなるために好ましくない。また200nmを超える場合も光の干渉効果が得られなくなるため画像の映り込みが大きくなるために好ましくない。
【0116】
高屈折率層の厚みについては好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは70nm以上150nm以下であり、特に好ましくは90nm以上130nm以下であることが望ましい。
【0117】
また、支持基材上にハードコート層を設けずに高屈折率層を形成する場合は、好ましくは500nm以上2000nm以下、さらに好ましくは600nm以上2000nm以下、特に好ましくは600nm以上1500nm以下であることが望ましい。反射防止層側の最表層から2層目の層(第2層)の厚みを500nm以上2000nm以下とすることで、耐擦傷性、耐摩耗性と、反射防止部材のカールや反射率、透過率の改善、塗膜表面のクラック発生を抑制することができるために望ましい。
【0118】
本発明の反射防止部材には、さらに、易接着層、防湿層、帯電防止層、シールド層、下塗り層や保護層などを設けてもよい。シールド層は、電磁波や赤外線を遮蔽するために設けられる。
【0119】
[支持基材]
反射防止部材をCRT画像表示面やレンズ表面に直接設ける場合を除き、反射防止部材は支持基材を有することが重要である。支持基材に特に限定はないが、ガラス板よりもプラスチックフィルムの方が好ましい。プラスチックフィルムの材料の例には、セルロースエステル(例、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート及びポリエーテルケトンなどが含まれるが、これらの中でも得にトリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0120】
本発明の塗料組成物を基材上に塗工して得られた反射防止部材、および本発明の反射防止部材の製造方法により得られた反射防止部材の好ましい態様では、上述のような耐擦傷性が十分でないプラスチックを支持基材に使用しても、高屈折率層の厚みを制御することで反射防止性に加えて耐擦傷性も付与できるため、公知技術のように、支持基材上にハードコート層を設ける必要は必ずしもない。また上述のように、支持基材は接着層、シールド層、滑り層などの各種機能層を有するフィルムとすることもできる。
【0121】
支持基材の表面には、各種の表面処理を施すことも可能である。表面処理の例には、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が含まれる。これらの中でもグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火焔処理が好ましく、グロー放電処理と紫外線処理がさらに好ましい。
[フッ素処理無機粒子の製造方法]
フッ素処理無機粒子の製造方法は、各種顔料、無機化合物取り扱いメーカーから粉体状態、または溶媒(分散媒とも呼ばれる)に分散された粒子分散物(粒子分散液、コロイド溶液、またはゾルとも呼ばれる)の形で入手したいずれの無機粒子に対しても前述の処理を行うことで得ることができるが、粒子分散物の形で入手した無機粒子に対して処理を行う方が、粗大粒子の除去や塗料組成物の分散安定性の面で好ましい。
【0122】
フッ素処理無機粒子は、前記無機粒子または前記粒子分散物に対して各種化合物(フッ素化合物A,化合物Dなど)、溶媒、反応触媒、重合開始剤、反応停止剤、重合禁止剤、凝集防止剤、分散剤等を添加し、混合、攪拌しながら、加熱または冷却状態で反応させることにより得られ、加えてエバポレーターや逆浸透膜による脱アルコール処理、モレキュレーシーブによる脱水処理、イオン交換樹脂、イオン交換膜によるイオン交換処理などをおこなってもよい。
【0123】
処理時の固形分濃度は、可能な範囲で低い濃度であることが好ましく、1質量%以上60質量%以下、より好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、これよりも固形分濃度が低すぎると反応を十分に進めることができず、これよりも高すぎると、無機粒子の凝集による異物の発生、さらにはゲル化、凝集、沈降を起こす場合がある。また、反応終了後は、安定性を付与するため溶媒による希釈や、反応停止剤、重合禁止剤、凝集防止剤を添加してもよい。
【0124】
処理は複数の反応系を組み合わせて行ってもよく、例えば、シラノール縮合による処理とラジカル重合による処理を組み合わせてもよい。この際には、同時、逐次いずれの方法でもよいが、逐次的に行う方がより好ましい。
[塗料組成物の製造方法]
塗料組成物は、2種類以上の無機粒子、2種類以上の溶媒、好ましくはさらにバインダー原料、他添加物(開始剤、硬化剤、触媒等)を混合して得られる。その製造方法は、前記成分の処方量を質量、または体積で計量し、これらを攪拌により混合することにより得られる。この時、加えて減圧や逆浸透膜による脱溶媒処理、モレキュレーシーブによる脱水処理、イオン交換樹脂によるイオン交換処理などをおこなってもよい。
【0125】
無機粒子は粒子分散物、粉体いずれの形で添加してもよいが、粒子分散物の形で取り扱うことが凝集、異物発生を防止する面で好ましい。粉体を原料としてとり扱う場合には、メディア型分散機などの各種分散機により溶媒(分散媒)に分散する工程を経た方が好ましい。粒子分散物として添加する場合の処方量は、粒子分散物の固形分濃度と粒子分散物の質量の積から求めた粒子の質量を用いることできる。
【0126】
この固形分濃度の測定は、粒子分散物を、アルミ皿(この質量をWとする)に約2gを秤量後(この質量をWとする)、120℃の熱風オーブン内で1時間乾燥、デシケーター中で室温まで冷却後、秤量(この質量をWとする)し、下記の式に従って固形分濃度を求めることができる。
固形分濃度 =(W−W)/(W−W)×100
得られた塗料組成物は、塗工する前に適当なろ過処理を行ってもよい。この適当なろ過処理とは、溶媒、粒子の表面の極性状態に合わせたフィルター材料、フィルター目開きを選択し、粒子分散物の分散状態を破壊しないせん断速度、フィルター構造に合わせた圧力条件にてろ過することがより好ましい。
[反射防止部材の製造方法]
本発明の反射防止部材の製造方法としては、支持基材の少なくとも片面に、本発明の塗料組成物を1回のみ塗工することにより形成される1層の液膜が、前記2層からなる反射防止層を形成する方法であることが望ましい。この製造方法は、塗工工程で2つの層を形成できるため経済性の面で好ましい。
【0127】
ここで、支持基材の少なくとも片面に塗料組成物を1回のみ塗工することにより形成される1層の液膜とは、支持基材に対して1回の塗工工程にて1種類の塗料組成物からなる1層の液膜を形成することを指し、1回の塗工工程にて複数層からなる液膜を同時に1回塗工する多層同時塗工や、1回の塗工時に1層の液膜を複数回の塗工、乾燥工程を有する連続逐次塗工、1回の塗工時に1層の液膜を複数回の塗工し、次いで乾燥する、ウェットオンウェット塗工などを行わないことを指す。
【0128】
まず、本発明の塗料組成物を、ディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許2681294号明細書参照)などにより支持基材上に塗工する。
【0129】
これらの塗工方式のうち、グラビアコート法または、ダイコート法が塗工方法として好ましい。
【0130】
次いで、支持基材上に塗工された液膜を乾燥する。得られる反射防止部材中から完全に溶媒を除去する事に加え、自発的に層構造を形成させるために液膜中での粒子の運動を促進するという観点からも、乾燥工程では液膜の加熱を伴うことが好ましい。
【0131】
乾燥方法については、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)などが挙げられる。この中でも、本発明の製造方法では、精密に幅方向で乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱、または輻射伝熱を使用した方式が好ましい。
【0132】
さらに、乾燥工程後に形成された支持基材上の2層に対して、熱またはエネルギー線を照射する事によるさらなる硬化操作(硬化工程)を行ってもよく、エネルギー線により硬化する場合には汎用性の点から電子線(EB線)及び/又は紫外線(UV線)であることが好ましい。また紫外線により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐことができることから酸素濃度ができるだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下(窒素パージ)で硬化する方がより好ましい。
【0133】
硬化を熱により行う場合、乾燥工程と硬化工程とを同時におこなってもよい。また本発明の反射防止部材は、PDPなどの各種画像表示装置の視認側表面に設けることで、反射防止性に優れた画像表示装置を提供することができる。なおこの際は、反射防止部材における支持基材側を画像表示装置側として、反射防止部材などを設けることが重要である。
【実施例】
【0134】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0135】
[フッ素処理無機粒子の調製]
[フッ素処理無機粒子分散物(a)]
中空シリカ粒子イソプロピルアルコール分散物(日揮触媒化成株式会社製中空シリカ:固形分濃度20質量%、数平均粒子径 60nm)15gに、(CH=C(CH)COOCSi(OCH)1.37gと10質量%蟻酸水溶液0.17g、水0.306gとを混合し、70℃にて1時間撹拌した。次いでフッ素化合物AとしてHC=CHCOOCH(CFF 1.38g及び2,2−アゾビスイソブチロニトリル0.057gを加えた後、60分間90℃にて加熱撹拌した。次いで、後述の方法で固形分濃度を確認後、希釈溶媒としてメチルイソブチルケトンを加え希釈し、固形分3.5質量%のフッ素処理無機粒子分散物(a)とした。
【0136】
フッ素処理無機粒子分散物(a)が含有する溶媒の種類は、メチルイソブチルケトンとイソプロピルアルコール、メタノール、水である。
【0137】
[フッ素処理無機粒子分散物(b)の調製]
フッ素処理無機粒子分散物(a)に対し、中空シリカ粒子イソプロピルアルコール分散物をコロイダルシリカイソプロピルアルコール分散物(日産化学工業製:固形分濃度30質量%、数平均粒子径 40nm)に置き換えた以外は同様にして、フッ素処理無機粒子分散物(b)を得た。
【0138】
[その他の無機粒子の調製]
[無機粒子分散物(a)]
原料粒子分散物として、酸化ジルコニウムメタノール分散物(日産化学株式会社製:“ナノユース OZ−30M” 固形分濃度31質量%)167gを用い、CH=CHCOOCSi(OCH25gを滴下、均一に攪拌した。 次いで、これに20%酢酸水溶液12.5g、イオン交換水12.9gを滴下し、滴下終了後35℃で30分、60℃で3時間反応させた。
さらに、置換溶媒としてメチルイソブチルケトン200gを加え、ロータリーエバポレーターにて、脱メタノール処理を行い、後述の方法で固形分濃度を確認後、最終的にメチルイソブチルケトンで固形分濃度30質量%に調製、精密ろ過をして無機粒子分散物(a)を得た。
【0139】
無機粒子分散物(a)が含有する溶媒の種類は、メチルイソブチルケトンとメタノール、水である。
【0140】
[無機粒子分散物(b)]
酸化チタンイソプロピルアルコール分散物(日揮触媒化成株式会社製:“ELECOM” 固形分濃度30質量%)をそのまま無機粒子分散物(b)として使用した。
【0141】
無機粒子分散物(b)が含有する溶媒の種類は、イソプロピルアルコールとメタノール、水である。
【0142】
[無機粒子分散物(c)]
酸化ジルコニウムメチルエチルケトン分散物(日産化学株式会社製:“ナノユース OZ−S30K”固形分濃度30質量%)をそのまま無機粒子分散物(c)として使用した。
【0143】
無機粒子分散物(b)が含有する溶媒の種類は、メチルエチルケトンとメタノール、水である。
【0144】
[塗料組成物]
〔塗料組成物1〜15の調製〕
[塗料組成物1] 下記材料を混合し、塗料組成物1を得た。
フッ素処理無機粒子分散物(a) 43 質量部
無機粒子分散物(a) 28 質量部
カヤラッドDPHA(日本化薬株式会社製:固形分100質量%) 5.8 質量部
メチルイソブチルケトン 4.2 質量部
ジイソブチルケトン 10.0質量部
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン 0.3 質量部
R1820(ダイキン株式会社製:固形分100質量%) 8.7 質量部
この塗料組成物の溶媒Cはジイソブチルケトンになる。
【0145】
[塗料組成物2] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをイソホロンに置き換えた以外は同様にして塗料組成物2を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0146】
[塗料組成物3] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに置き換えた以外は同様にして塗料組成物3を得た。この塗料組成物の溶媒Cはエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートになる。
【0147】
[塗料組成物4] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをノニルフェノキシエタノールに置き換えた以外は同様にして塗料組成物4を得た。この塗料組成物の溶媒Cはノニルフェノキシエタノールになる。
【0148】
[塗料組成物5] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをジエチレングリコールモノブチルエーテルに置き換えた以外は同様にして塗料組成物5を得た。この塗料組成物の溶媒Cはジエチレングリコールモノブチルエーテルになる。
【0149】
[塗料組成物6] 塗料組成物1に対して、フッ素処理無機粒子分散物(a)をフッ素処理無機粒子分散物(b)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物6を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0150】
[塗料組成物7] 塗料組成物1に対して、バインダー原料をカヤラッドDPHAからPETIA(ダイセルサイテック株式会社製:固形分100%)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物7を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0151】
[塗料組成物8] 塗料組成物1に対して、無機粒子分散物(a)を無機粒子分散物(b)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物8を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0152】
[塗料組成物9] 塗料組成物1に対して、無機粒子分散物(a)を無機粒子分散物(c)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物9を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0153】
[塗料組成物10] 塗料組成物1に対して、R1820をR1210(ダイキン株式会社製:固形分100%)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物10を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0154】
[塗料組成物11] 塗料組成物1に対して、R1820をn−デシルトリメトキシシラン(Z−6210、東レ・ダウコーニング株式会社製:固形分濃度100質量%)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物12を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0155】
[塗料組成物12] 塗料組成物1に対して、R1820をヘキシルトリメトキシシラン(KBM−3063、信越化学工業株式会社製:固形分濃度100質量%)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物12を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0156】
[塗料組成物13] 塗料組成物1に対して、R1820を反応性シリコーン(GRANDIC、PC−4131、大日本インキ化学工業株式会社製:固形分濃度100質量%)に置き換えた以外は同様にして塗料組成物13を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0157】
[塗料組成物14] 塗料組成物1に対して、R1820を除去した以外は同様にして塗料組成物13を得た。この塗料組成物の溶媒Cはイソホロンになる。
【0158】
[塗料組成物15] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをフタル酸ジオクチルに置き換えた以外は同様にして塗料組成物14を得た。この塗料組成物の溶媒Cはフタル酸ジオクチルになる。
【0159】
[塗料組成物16] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをエチレングリコールモノブチルエーテルに置き換えた以外は同様にして塗料組成物15を得た。この塗料組成物の溶媒Cはエチレングリコールモノブチルエーテルになる。
【0160】
[塗料組成物17] 塗料組成物1に対して、ジイソブチルケトンをシクロヘキサノンに置き換えた以外は同様にして塗料組成物16を得た。この塗料組成物の溶媒Cはシクロヘキサノンになる。
【0161】
[反射防止部材の作製]
支持基材としてPET樹脂フィルム上に易接着性塗料が塗工されている“ルミラー”U46(東レ(株)製)を用いた。
前記塗料組成物1〜17を搬送速度10m/minの条件でグラビアコーターを有する連続塗工装置を用いて塗工した。塗工から乾燥、硬化までの間に液膜にあたる風の条件は下記の通りである。
【0162】
塗工から乾燥室入口まで
送風温湿度 : 温度20℃、 相対湿度40%
風速 : 塗工面側:0.5m/s
風向 : 塗工面側:基材に対して平行
滞留時間 : 1分間
第1乾燥
送風温湿度 : 温度:45℃、 相対湿度:10%
風速 : 塗工面側:5m/s、反塗工面側:5m/s
風向 : 塗工面側:基材に対して平行、反塗工面側:基材に対して垂直
滞留時間 : 1分間
第2乾燥
送風温湿度 : 温度:100℃、相対湿度:1%
風速 : 塗工面側:5m/s、反塗工面側:5m/s
風向 : 塗工面側:基材に対して垂直、反塗工面側:基材に対して垂直
滞留時間 : 1分間
硬化工程
照射出力 600W/cm2 積算光量120mJ/cm
酸素濃度 0.1体積%
なお、風速、温湿度は熱線式風速計(日本カノマックス株式会社 アネモマスター風速・風量計 MODEL6034)による測定値を使用した。以上の方法により、実施例1〜14、比較例1〜3の反射防止部材を作成した。
【0163】
[ハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δ]
ハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δは、Polymer Handbook (fourth Edition)”,J.BRANDRUPら編(JOHN WILEY & SONS)から求めた値を使用した。
【0164】
[相対蒸発速度]
各溶媒の相対蒸発速度は、酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))として求めた。
【0165】
[塗料組成物中の水分量]
塗料組成物中の水分量は、JISK0068:2001に基づいて、カールフィッシャー法にて京都電子工業株式会社MKS−520を用いて求めた。
【0166】
[反射防止部材の評価]
作製した反射防止部材について、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表2に示す。特に断りのない場合を除き、測定は各実施例・比較例において1つのサンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。
【0167】
[界面状態]
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察することにより、反射防止層中の高屈折率層と低屈折率層の間で形成される界面の有無を判断した。界面の有無の判断は以下の方法に従い判断した。反射防止層の超薄切片に対し、TEMにより20万倍の倍率で撮影した画像を、ソフトウェア(画像処理ソフトEasyAccess)にて、ホワイトバランスを最明部と最暗部が8bitのトーンカーブに収まるように調整した。さらに2種類の粒子が明確に見分けられるようにコントラストを調節した。このとき1つの層と他の層との間に明確な境界を引くことができる場合を、明確な界面があるとみなした。
明確な境界を引くことができる場合 「○」
明確な境界を引くことができない場合「×」
[耐擦傷性]
反射防止部材に250g/cm荷重となるスチールウール(#0000)を垂直にあて、1cmの長さを10往復した際に目視される傷の概算本数を記載し、下記のクラス分けを行い3点以上を合格とした。
5点: 0本
4点: 1本以上 5本未満
3点: 5本以上 10本未満
2点: 10本以上 20本未満
1点: 20本以上。
【0168】
[耐摩耗性]
本光製作所製消しゴム摩耗試験機の先端(先端部面積 1cm)に、白ネル〔興和(株)製〕を取り付け、500gの荷重をかけて反射防止部材上を5cm、5000回往復、及び1000g荷重をかけて反射防止部材上を5cm、200回往復摩擦し、下記のクラス分けを行い、3点以上を合格とした。
5点: 傷なし
4点: 1〜10本の傷
3点: 11〜20本の傷
2点: 21本以上の傷
1点: 試験部分の反射防止層が全面剥離。
【0169】
[透明性]
透明性はヘイズ値を測定することにより判定した。測定はJIS K 7136(2000)に基づき、日本電色工業(株)製 ヘイズメーターを用いて、反射防止部材サンプルの支持基材とは反対側(反射防止層側)から光を透過するように装置に置いて測定を行い、ヘイズ値が2.0%以下を合格とした。また、この評価で合格しているものを「白化」が起こっていないものとした。
【0170】
[反射防止性能]
反射防止性能の評価は島津製作所製分光光度計UV−3100を用いて400nmから800nmの波長範囲にて行い、最低反射率(ボトム反射率)を測定し、1.0%以下を合格とした。反射率は波長550nm付近で極小値(最低反射率)となったときの値を示した。
【0171】
表1に塗料組成物の組成を、表2に実施例、比較例の構成と得られた反射防止部材の評価結果をまとめた。評価項目において1項目でも合格とならないものについて、課題未達成と判断した。
【0172】
表2に示すように本発明の実施例は、耐擦傷性、耐摩耗性と透明性、反射防止性能いずれにおいても合格しており、本発明が解決しようとする課題を達成している。
【0173】
疎水性化合物Bが本発明の好ましい範囲から外れる実施例10、12と、疎水性化合物Bを含まない実施例14では、透明性、反射防止性能がやや劣っていたが、許容できる範囲であった。
【0174】
【表1】

【0175】
【表2】

【符号の説明】
【0176】
1 反射防止部材
2 支持基材
3 反射防止層
4 低屈折率層
5 高屈折率層
6 高屈折率ハードコート層
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明の塗料組成物、それを用いた反射防止部材の製造方法、及び反射防止部材は、例えば、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石等の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材;フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜;各種基材の接着剤、シーリング材;印刷インクのバインダー材等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の無機粒子と2種類以上の溶媒とを含む塗料組成物であって、
前記溶媒において、酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Cとしたとき、
溶媒Cの前記相対蒸発速度が0.3以下であり、
溶媒Cのハンセンの溶解度パラメーターの水素結合項δ項が、4(MPa)1/2以上、10.5(MPa)1/2以下であることを特徴とする、塗料組成物。
【請求項2】
前記溶媒として、水を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記2種類以上の無機粒子のうち少なくとも1種類の無機粒子が、フッ素化合物Aにより処理された無機粒子(以降、フッ素処理無機粒子とする)であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記塗料組成物が、以下の疎水性化合物Bを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の塗料組成物。
疎水性化合物Bとは、フッ素化合物B、長鎖炭化水素化合物B、及びシリコーン化合物Bからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である。
フッ素化合物Bとは、炭素数4以上のフルオロアルキル基を有する化合物である。
長鎖炭化水素化合物Bとは、炭素数8以上の炭化水素基を有する化合物である。
シリコーン化合物Bとは、シロキサン基を有する化合物である。
【請求項5】
前記溶媒Cが、イソホロン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びノニルフェノキシエタノールからなる群より選択される溶媒であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の塗料組成物を、支持基材の少なくとも片面上に1回のみ塗布することにより、屈折率の異なる2層からなる反射防止層を形成することを特徴とする、反射防止部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144606(P2012−144606A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2711(P2011−2711)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】