説明

塗料組成物、および該塗料組成物が塗装された金属製容器

【課題】本発明は、防錆性能に優れた塗料組成物を提供することを目的とする。また、その塗料組成物を塗装した金属製容器を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の塗料組成物は、合成樹脂エマルションと、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と、水溶性ジルコニウム化合物とを含有することを特徴とする。なお、合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対して、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤を合計1〜10質量部、水溶性ジルコニウム化合物0.5〜10質量部を含有することがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂エマルションを塗膜形成成分とする水性の塗料組成物に関する。また、その塗料組成物を塗装した金属製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂エマルションを塗膜形成成分として利用した水系の塗料組成物がある。水系塗料組成物としては、合成樹脂エマルション中に微粉末状の防錆顔料を分散含有させたものや、合成樹脂エマルション中に水溶性の防錆剤を添加したものなどを挙げることができる(特許文献1、特許文献2等)。
【0003】
水系塗料組成物は、塗料中に水を含むことから、塗料を塗装してから塗料が乾燥して成膜する間に錆が発生しやすい。この現象はフラッシュラストと呼ばれている。
【0004】
水溶性防錆剤は、塗膜に防錆性能を付与できると同時に、フラッシュラストの防止にも効果があるため、水系塗料組成物には水溶性防錆剤が好ましく用いられる。水溶性の防錆剤としては、ホウ酸塩、亜硝酸塩、アミン化合物、有機酸類などが知られている。
【0005】
これら、水溶性防錆剤の中でも低毒性で環境への影響が少なく、安全性に優れている点で、有機酸類が好ましく用いられている。
【0006】
例えば、特許文献3には、錆止め液や塗料組成物に用いる水溶性の防錆剤として、2−または3−メルカプトプロピオン酸を2当量以上の塩基で中和した塩の、1種または2種以上を含有するさび止め剤が記載されている。また、このさび止め剤と、塗膜形成要素としての樹脂とを含有するさび止め塗料も記載されている。
【0007】
一方、ドラム缶等の金属製容器の塗装には、有機溶剤を溶媒とする溶剤系の塗料や、溶媒を用いない無溶剤系塗料を用いるのが一般的であって、フラッシュラストを起こしやすく、防錆性能に劣ると考えられていた水系の塗料はほとんど用いられてこなかった。例えば、特許文献4にはエポキシ樹脂塗料を塗装したドラム缶の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−49976号公報
【特許文献2】特開2009−79075号公報
【特許文献3】特開平10−265715号公報
【特許文献4】特開2000−318732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、合成樹脂エマルション中に、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤を添加することによって、防錆性能を持った塗料組成物を得ることができるが、合成樹脂エマルションの不揮発分に対する水溶性防錆剤の添加量が多くなりすぎると、塗料組成物の防錆性能が低下する傾向があった。
【0010】
防錆性能が低下する原因は明らかではないが、水系塗料組成物が合成樹脂エマルション中の樹脂成分を結合材として塗膜を形成する際に、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤が塗膜の形成に何らかの影響を与えていることも原因の一つではないかと推測される。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤の添加量を増やした際の防錆性能の低下を抑えることを課題としたものである。
【0012】
本発明は、フラッシュラストを起こし難く、防錆性能に優れた塗料組成物を提供することを目的とする。
【0013】
また、その塗料組成物がフラッシュラストを起こし難く、防錆性能に優れることを生かして、塗料組成物を塗装した金属製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、合成樹脂エマルションに、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と共に、水溶性ジルコニウム化合物を添加することによって、水溶性防錆剤の添加量を増やした際の防錆性能の低下が抑えられることを見出し、本発明に至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、合成樹脂エマルションと、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と、水溶性ジルコニウム化合物とを含有することを特徴とする塗料組成物である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗料組成物において、合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対して、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤を1〜10質量部、水溶性ジルコニウム化合物を0.5〜10質量部含有することを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の塗料組成物が、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤として、有機酸アミン塩を含有することを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物が、更に、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤、及び/又は防錆顔料を含有することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかの塗料組成物が塗装された金属製容器である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、防錆性能に優れた塗料組成物を得ることができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、より防錆性能に優れた塗料組成物を得ることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、特に防錆性能に優れた塗料組成物を得ることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物の防錆性能を更に向上させることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、水系の塗料によって塗装された金属製容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の塗料組成物は、金属製の物品や構造体等の金属下地に塗装することによって、金属の錆の発生を防止する塗料であって、合成樹脂エマルションと、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と、水溶性ジルコニウム化合物とを含有する。
【0026】
合成樹脂エマルションに、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と共に、水溶性ジルコニウム化合物を添加することによって、水溶性防錆剤の添加量を増加させた際の防錆性能の低下を抑制できる。そのため、水溶性防錆剤の添加量を増やすことができ、防錆性能に優れた塗料組成物を得ることができる。
【0027】
合成樹脂エマルション、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤、及び水溶性ジルコニウム化合物の混合割合は、合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対して、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤が1〜10質量部、水溶性ジルコニウム化合物が0.5〜10質量部であることが好ましい。この範囲にあるとき、特に防錆性能に優れた塗料組成物を得ることができる。
【0028】
合成樹脂エマルションの不揮発分に対する有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤の含有量が少なすぎると、十分な防錆性能が得られない場合がある。逆に、含有量が多すぎると、水溶性ジルコニウム化合物を添加しても防錆性能が低下する場合、或いは、含有量を増やしても防錆性能が向上しない場合がある。
合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対する、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤のより好ましい含有量は1.5〜8質量部であり、特に好ましくは2〜6質量部である。
【0029】
また、合成樹脂エマルションの不揮発分に対する水溶性ジルコニウム化合物の含有量が少なすぎると、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤による防錆性能の低下を抑制することが難しい。逆に、含有量が多すぎると、塗料組成物の安定性に影響が出て、塗料の粘度が上昇したり、塗料の粘性が変化したりといった不具合が生じる恐れがある。例えば、JIS A6909の定温安定性や、JIS K5600−2−7の貯蔵安定性といった試験で不具合が生じやすくなる。
合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対する水溶性ジルコニウム化合物のより好ましい含有量は1〜8質量部であり、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0030】
前記合成樹脂エマルションとしては、一般的に水系塗料に用いられるものを用いればよい。例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などの合成樹脂を単独又は共重合したものを水に分散させた合成樹脂エマルションを用いればよい。また、2種類以上の合成樹脂エマルションを混合して用いてもよい。
【0031】
前記有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤としては、具体的には、下記の有機酸類、有機酸塩等が挙げられる。
【0032】
有機酸類としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、アルケニルコハク酸、ザルコシン酸、アルキルカルボン酸、二塩基酸等のカルボン酸;芳香族石油スルホン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸等のスルホン酸などが挙げられる。
【0033】
脂肪族カルボン酸としては、カプリル酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リノール酸、オレイン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ドデカジエン二酸等のジカルボン酸;乳酸、ヒドロキシピバリン酸、ジメチロールプロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0035】
有機酸塩としては、前記した有機酸類とアミン化合物との塩(以下、有機酸アミン塩ともいう。)、或いは、有機酸の金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩等。特に好ましくは、アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩。)、金属水酸化物塩、金属炭酸塩、或いはアンモニウム塩などが挙げられる。
【0036】
なお、アミン化合物としては、特に限定されず、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン;アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ドデシルアニリン、メチルベンジルアミン、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン等の芳香族アミン;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン;環式アミンなどが挙げられる。これらの中でも、防錆性能に優れている点で、アルカノールアミン又は脂肪族アミンを用いることが好ましく、アルカノールアミンを用いることが特に好ましい。
【0037】
有機酸塩としては、防錆性に優れている点で、有機酸アミン塩を用いることが好ましい。有機酸アミン塩の中でもより好ましくは、有機酸としてカルボン酸(特に好ましくは、脂肪族カルボン酸)又はスルホン酸を用い、且つアミン化合物としてアルカノールアミン又は脂肪族アミン(特に好ましくは、アルカノールアミン)を用いたものである。
【0038】
これらの有機酸類と有機酸塩は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
前記水溶性ジルコニウム化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等を挙げることができる。これらの中でも、塗料組成物の安定性への影響が小さく、塗料組成物への添加量を多くできる点で、炭酸ジルコニウムアンモニウムと炭酸ジルコニウムカリウムが好ましく、炭酸ジルコニウムアンモニウムが特に好ましい。塗料組成物への添加量を多できることによって、水溶性防錆剤の添加量を増やすことによる防錆性能の低下をより抑制することができる。
【0040】
これらの水溶性ジルコニウム化合物は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の塗料組成物には、前記したもの以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤、顔料等を含有させてもよい。添加剤、顔料等は合成樹脂エマルションを結合材とする水系塗料に一般的に用いられるものを適宜選択して添加すればよい。
【0042】
添加剤としては、例えば、増粘剤等の粘性調整剤、分散剤、消泡剤、造膜助剤、湿潤剤、凍結防止剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。また、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤や防錆顔料を添加してもよい。
【0043】
これらの中でも、塗料組成物の防錆性能を向上させるために、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤及び/又は防錆顔料を用いることが好ましい。本発明の塗料組成物に、更に有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤及び/又は防錆顔料を用いれば、塗料組成物の防錆性能をより向上させることができる。
有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤及び/又は防錆顔料としては、例えば、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、チタン、アルミニウム、及びマグネシウム等の金属の亜硝酸塩、リン酸塩、縮合リン酸塩(リン酸が2個以上縮合したものの塩)、亜リン酸塩、リン珪酸塩、ケイ酸塩、硝酸塩、ホウ珪酸塩、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、モリブデン酸塩、或いはリンモリブデン酸塩などを用いることができる。また、前記したアミン化合物などを用いてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
これらの有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤及び/又は防錆顔料の含有量は、合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対して、合計で1〜30質量部であることがこのましく、2〜20質量部であることがより好ましく、5〜15質量部であることが特に好ましい。含有量がこの範囲にあるとき、塗料組成物の防錆性能を特に向上させることができ、塗料の安定性に対する影響が少なく、本発明の効果を損なうこともない。
含有量が少なすぎると、防錆性能をほとんど向上させることができない。逆に、多すぎると、塗料組成物の安定性に影響が出て、塗料の粘度が上昇したり、塗料の粘性が変化したりといった不具合が生じる恐れがある。
【0045】
本発明の塗料組成物は、金属製の物品、部材、部品、構造体等の金属下地に好ましく用いることができる。金属としては特に限定されず、具体的には、アルミニウム、鉄、鉄鋼、ステンレス、銅、各種合金などが挙げられる。
なお、本発明の塗料組成物は、これらの金属下地の中でも、金属製の物品である金属製容器の塗装に好ましく用いることができる。金属製容器の塗装には、従来、フラッシュラストを起こしやすく、防錆性能に劣ると考えられていた水系の塗料はほとんど用いられてこなかったが、本発明の塗料組成物は水系でありながらフラッシュラストを起こし難く、防錆性能に優れているため、金属製容器のコーティングにも用いることができる。
【0046】
なお、金属製容器のコーティングに塗料組成物を用いる場合には、塗料組成物によって形成される塗膜には、十分な可撓性と、十分な塗膜の硬度が求められる。これらを満足させるためには、合成樹脂エマルションとして、樹脂のガラス転移点Tgが0〜65℃(より好ましくは15〜55℃)のものを用いることが好ましい。Tgが低すぎると十分な可撓性が得られないし、Tgが高すぎると十分な塗膜硬度が得られない。
【0047】
(実施形態)
本発明の塗料組成物によって金属製容器を塗装する方法の一例を以下に示す。
【0048】
金属製容器として金属製ドラム缶を用いた。このドラム缶は、鋼製オープンヘッドドラム(蓋が取り外せるタイプのドラム缶)であって、板厚は1.2mm、容量は200リトルであった。
なお、このドラム缶は使用済みのものであって、胴体及び蓋体の外面及び内面の表面にはエポキシ樹脂による既存のコーティング層があった。
【0049】
塗料組成物としては、下記の表1に示す実施例5の配合の塗料を用いた。なお、この実施形態では塗料に用いるアルリル樹脂系合成樹脂エマルションのTgは30℃とした。
【0050】
塗装するにあたって、まずショットブラストによってドラム缶の既存のコーティング層を剥離除去した。なお、新品で未塗装のドラム缶に塗装する場合など、ショットブラストによる処理は行なわずに塗装できるケースもある。
【0051】
次に、ドラム缶の胴体及び蓋体の表面に前記の塗料組成物を塗装した。塗装はスプレー塗装機によって行ない、塗布量は120g/mとした。
なお、塗装方法はスプレー塗装に限定されず、一般的な塗料の塗装方法によって塗装すればよい。例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、フローコーター等の塗装器具や塗装機を用いて塗装できる。また、複雑な形状の金属製容器を塗装する場合には、静電塗装によって塗装することもできる。
【0052】
また、塗布量も被塗装物の形状や材質などによって適宜決定すればよい。好ましくは、50〜300g/m程度である。この範囲の塗布量であれば、十分な防錆性能を持つコーティング層を得ることができる。
【0053】
塗装完了後、温度30℃、湿度40%の環境下で10分静置した後、120℃の環境下で15分加熱させた。
なお、前記の静置を行なう環境(温度・湿度)や静置時間は適宜決定すればよいが、温度は0〜60℃(より好ましくは、20〜60℃)、静置時間は5〜20分であることが好ましい。また、前記の加熱を行なう環境(温度)や加熱時間も適宜決定すればよいが、温度は80〜200℃(より好ましくは、100〜180℃)、加熱時間は5〜30分(より好ましくは、10〜25分)であることが好ましい。上記の静置条件及び乾燥条件で塗膜を形成すれば、フラッシュラストが発生に難く、また、短時間で健全な塗膜を形成することができる。
【0054】
以上のように塗装したドラム缶を120℃による加熱後、常温で24時間静置した。その後、ドラム缶の表面を目視で確認したが、フラッシュラストは見られなかった。
【実施例】
【0055】
表1に配合を示す各塗料の防錆性能を確認した。
表1に示す配合は各材料の配合量を質量部で示したものである。なお、各材料の詳細は以下の通りである。
【0056】
合成樹脂エマルションとしてアルリル樹脂系合成樹脂エマルション(不揮発分50質量%)、有機酸類からなる水溶性防錆剤として有機酸塩(脂肪族カルボン酸アミン塩とスルホン酸アミン塩)、水溶性ジルコニウム化合物として炭酸ジルコニウムアンモニウム、防錆顔料としてトリポリリン酸二水素アルミニウム、増膜助剤としてテキサノール、添加剤として界面活性剤(分散剤)、増粘剤、消泡剤、及び凍結防止剤など、顔料として酸化チタンを使用した。
なお、水溶性防錆剤は、脂肪族カルボン酸アミン塩とスルホン酸アミン塩の質量比が1:1となるように各塗料に添加した。
また、塗料の製造時に水溶性防錆剤及び水溶性ジルコニウム化合物を添加する際には、表1中の水の一部にそれらを溶かした水溶液をあらかじめ調製しておき、それらの水溶液を塗料に添加した。表1に示す配合量は、水溶液中の有効成分の量である。
【0057】
防錆性能の確認する方法として、JIS K5621(2008)に準拠してサイクル腐食性試験を採用した。ただし、サイクルの回数だけはJIS K5621と異なり、40サイクルとした。
【0058】
サイクル腐食性試験のサイクルが終了した後、試験体の状態を観察した。
まず、JIS K5621と同様に、試験体の周辺約10mm以内および塗膜につけた傷の両側それぞれ2mm以内の塗膜は観察の対象から外し、錆汁による汚れも評価の対象外として試験体を観察して、錆の発生状況を目視によって確認した。
次に、対象の部分では錆の発生なしとなった試験体の防錆性能を更に細かく評価するために、傷の両側それぞれ2mm以内の錆の程度を目視によって観察した。
【0059】
前記の手順で試験体を観察した結果は以下のように評価した。評価の結果は表1に示す。
◎:錆の発生なし(傷から0.5mm〜2mmの部分に錆が見られないもの。)
○:錆の発生なし(傷から0.5mm〜2mmの部分に錆が見られるもの。)
△:錆が発生(傷の両側2mmを超える部分の錆、或いは、傷周辺以外の僅かな点錆など。)
×:試験体全体に点錆が発生
【0060】
なお、比較例1については、試験体を作製した際に、フラッシュラストが発生していた。
【0061】
【表1】



【0062】
表1に示す試験結果から以下のことが分かる。
【0063】
・ 水溶性防錆剤に加えて、水溶性ジルコニウム化合物を添加することによって、防錆性能に優れた塗料組成物が得られる。(実施例1〜8を参照)
【0064】
・ 水溶性防錆剤に加えて、水溶性ジルコニウム化合物を添加すると、防錆性能が向上する。(比較例2と比較した実施例1,4、比較例3と比較した実施例2,5、比較例4と比較した実施例3,6を参照)
【0065】
・ 水溶性ジルコニウム化合物を添加しない場合には、水溶性防錆剤の添加量を増やしすぎると防錆性能が低下する傾向が見られる。(比較例2〜4を参照)
しかし、水溶性ジルコニウム化合物を添加した場合には、そのような傾向は見られない。(実施例1〜3、実施例4〜6を参照)
【0066】
次に、実施例1〜8の塗料を用いてドラム缶を塗装した。ドラム缶の形状、塗装条件(塗装方法、塗布量、静置条件、加熱条件など)は全て、前記した実施形態と同じ条件で行なった。
塗装後に各塗料を塗装したドラム缶を目視にて確認したが、フラッシュラストは見られなかった。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルションと、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤と、水溶性ジルコニウム化合物とを含有することを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
合成樹脂エマルションの不揮発分100質量部に対して、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤を1〜10質量部、水溶性ジルコニウム化合物を0.5〜10質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤として、有機酸アミン塩を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
更に、有機酸類(その塩も含む)からなる水溶性防錆剤以外の防錆剤、及び/又は防錆顔料を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの塗料組成物が塗装された金属製容器。

【公開番号】特開2012−188481(P2012−188481A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51233(P2011−51233)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】