説明

塗料組成物、その製造方法及び熱交換器用フィン

【課題】油脂等の汚染物が付着しても冷房運転時の結露水によって汚染物質が洗い流され、その結果長期にわたって親水性が低下することのない塗料組成物及び熱交換器用フィンを提供する。
【解決手段】スルホン酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーをそれぞれ40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)を固形分中15重量%以上含むとともに、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)を固形分中40重量%以上含み、これらアクリル系高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整した塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、その製造方法及びその塗料組成物からなる塗膜を形成した熱交換器用フィンに関し、特にアルミニウムの表面に塗布される塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンの熱交換器用のフィンには、軽量であること、熱伝導性が高いことから主にアルミニウムが使用されている。
エアコンなどの熱交換器ではエバポレーター側として使用される場合、空気中の水蒸気を凝縮し、フィンに結露水が生じる。結露水が水滴として存在すると通風抵抗が増加することによって圧力損失が大きくなり、熱交換器の能力低下が生じる。このため、フィンに凝縮した水を容易に流下させるために、表面に親水性を付与することが行われてきた。
アルミニウムやアルミニウム合金の表面に親水性を付与する方法は、水ガラスなどの無機系表面処理剤を表面に塗布する方法がある。しかし、これらは環境中の臭気成分を吸着しやすく、運転開始時に臭気成分が離脱して臭気を発生する場合がある。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1記載の技術では、アルミニウムの表面にクロメート皮膜を形成し、その上にアルミナゾル皮膜を形成して親水性を付与している。また、特許文献2記載の技術のように、親水性樹脂を主成分とした有機系の表面処理剤を用いる方法もある。親水性樹脂を主成分とした表面処理剤としては、アクリル系樹脂を使用したものや、セルロース系のものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−200983号公報
【特許文献2】特開平7−268274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの組成の塗料を用いても、使用される環境によっては、各種汚れが付着し本来の性能が失われてしまうことがある。特に調理時に発生する油滴等が付着した場合にはその影響が顕著である。付着する汚れの中でも、アルデヒド類等は比較的水に対して溶解度を持つので自然に結露水に溶解し落ちることになるが、油脂類(床ワックスや調理時に発生する油滴)などは水に殆ど溶解しないため、一旦塗膜表面に付着すると容易には落ちることは無い。
油滴等を付着しづらくするために、塗膜の表面張力を極めて低くする方法も考えられるが、同時に表面が撥水性になってしまい、圧力損失が大きくなってしまう。また、塗膜中に界面活性作用を持つ物質を予め混入しておくことによって、油等の付着物質を落ちやすくする方法も考えられる。しかし、この方法では界面活性物質が全て溶出してしまった後はその作用が失われてしまう。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、油脂等の汚染物が付着しても冷房運転時の結露水によって汚染物質が洗い流され、その結果長期にわたって親水性が低下することのない塗料組成物及び熱交換器用フィンを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塗料組成物は、スルホン酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーをそれぞれ40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)を固形分中15重量%以上含むとともに、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)を固形分中40重量%以上含み、これらアクリル系高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整してなるものである。
【0008】
また、本発明の塗料組成物の製造方法は、スルホン酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーをそれぞれ40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)と、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)とを、アクリル系高分子体(A)が固形分中15重量%以上、アクリル系高分子体(B)が固形分中40重量%以上となる比率で水又は水を主とする溶媒中に溶解して混合するとともに、これらアクリル系高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整することを特徴とする。
【0009】
油等の汚れが付着しても結露水によって洗い落とされる様にするためには、(1)油汚れ物質と親和性の低い塗膜であること、(2)水との親和性が高いことと共に、(3)塗膜自体の透水性が高いことが必要である。
結露水によって油等の汚れ物質が洗い落とされる機構は図1のようになっていると考えられる。
すなわち、図1(a)に示すように、非常に親水性が高い塗膜(親水性塗膜)1の表面では油汚れ物質2は、化学的な結合を作らず、塗膜1の表面に単に乗っている状態である。そして、(b)で示すように油汚れ物質2の周辺で塗膜1の表面に結露水3が付着すると、塗膜1の透水性が高く親水性が高いため、(c)で示すように水3が塗膜1内を通り、塗膜1の表面と油汚れ物質2との界面に到達する。このため、油汚れ物質2の付着力が低下し、塗膜1表面から結露水3と共に油汚れ物質2が落ちることになる
【0010】
本発明の塗料組成物は、スルホン酸基とカルボキシル基をそれぞれ40mol%以上有するアクリル系高分子体(A)とカルボキシル基を65mol%以上有するアクリル系高分子体(B)との2種のアクリル系高分子体を、水または水を主とする溶媒中に溶解してなるものである。
スルホン酸アルカリ金属塩を多く含む高分子体は、油脂類とは親和性が極めて低いため、油脂類がこびりつきづらく、また水との親和性にも優れている。しかしこのような高分子体単独では焼き付けても硬化しづらく、耐水性に劣る塗膜しか得られない。また、硬化し易くするためにスルホン酸含有モノマーの比率を下げてしまうと、油脂類との親和性が高くなってしまう。本発明の塗料組成物を用いて塗膜を作成した場合、2つの高分子体が固溶はするが、より水への溶解度が高いスルホン酸基を多く含む高分子体(A)の方が表面に多く偏在することになる。また、水溶液中のアルカリ金属イオンも優先的にスルホン酸基と結合する。その結果塗膜表面にスルホン酸アルカリ金属塩の基が高密度で存在することになる。そのため油脂類とは親和性が極めて低く、水との親和性にも優れたものが得られる。その一方で、カルボキシル基を多く含む高分子体(B)とある程度固溶し、高分子体(A),(B)中のカルボキシル基同士が反応し焼付け硬化するため、耐水性にも優れた塗膜を得ることが出来る。また、その他アミノ系樹脂などの架橋剤を用いておらず、エステル結合のみで架橋がなされていることから、塗膜自体の透水性にも優れる。
【0011】
本発明は、油脂類等と親和性が低いスルホン酸を多く含む高分子体(A)と、ある程度の親水性は有し高分子体(A)と反応することが出来るカルボキシル基を多く含む高分子体(B)とを混合した塗料組成物である。この混合物はアルカリ金属水酸化物及びアンモニアもしくはアミンで調整されている。これらの調整剤のうちアルカリ金属水酸化物は焼き付けて塗膜を生成した後は、主としてスルホン酸基と結合しスルホン酸アルカリ金属塩基として存在し、親水性の向上に大きな役割を果たす。また、アンモニアまたはアミン類は焼付け中に揮散し塗膜中には殆ど残存しないが、揮発時にカルボキシル基同士を結びつけ架橋反応に寄与すると考えられる。
【0012】
高分子体(A)のスルホン酸含有基が40mol%未満であると油脂落ち性が充分ではなく、またカルボキシル基が40mol%未満の場合は高分子体(B)との相溶性が不足し、且つ架橋反応が充分に進まない。また、高分子体(B)のカルボキシル基も65mol%未満であると、焼付け硬化が充分でなく、耐水性に劣る。
また、アンモニアまたはアミン類の量をカルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上とした理由としては、mol比0.3未満の場合ではカルボキシル基同士の反応が充分に進まず架橋不足となり、耐水性に劣る塗膜となってしまう。一方上限を設けていないが、多量に加えた場合でも、焼付け時に揮発してしまうので多く入れすぎても不具合が生じることは無いからである。またアルカリ金属水酸化物の量をスルホン酸含有モノマーに対してmol比で0.5〜2.0に限定した理由としては、0.5未満の場合油脂落ち性が充分ではなく、また2.0を超える場合は高分子体(A)(B)の相溶性が失われ、樹脂(B)のみが硬化し、樹脂(A)は表面に未架橋の状態で存在し、水で溶解してしまうことになる。
【0013】
また、本発明の塗料組成物において、セルロース系高分子体を固形分中30重量%以下含むものとしてもよい。
高分子体(A)、(B)以外にセルロース系の高分子体を30重量%以下加えると親水性が良化する。この理由としては表面の粗面化が促進されるためであると考えられる。しかし、30重量%を超えた場合、初期の親水性には優れるが油脂落ち性が低下してくるために好ましくない。
【0014】
本発明の熱交換器用フィンは、アルミニウム製板材の表面上又はアルミニウム製板材上に塗布された有機耐食性皮膜の表面上に、前記塗料組成物から形成された塗膜が形成されてなるものである。
高分子体(A),(B)からなる調整された塗布液を用いて形成された塗膜は、透水性が高いために耐食性はそれ程高くはない。それ程耐食性が要求されない様な用途では、リン酸クロメートなどの耐食性表面処理を施したアルミニウム製板材の表面上に塗布することによって充分使用に耐えうる。しかし、使用環境が厳しく耐食性が必要な場合は、有機耐食性皮膜上に本塗布液を塗布することによって要求を満たすことが出来る。この場合耐食性の皮膜については特に限定するものではないが、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系などの樹脂系の皮膜を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗料組成物によれば、油脂等の汚染物が付着しても冷房運転時の結露水によって汚染物質が洗い流され、その結果長期にわたって親水性が低下することがなく、その塗料組成物を塗布した熱交換器用フィンは、油脂等の汚染物によって通風抵抗が増加することなく、熱交換器としての能力低下を長期に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る塗料組成物からなる塗膜上に付着した油汚れ物質が洗い落とされる機構を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
熱交換器用フィンは、アルミニウム製の板材と、この板材の上に形成された有機耐食性皮膜と、この有機耐食性皮膜の上に形成された親水性塗膜とを備える。
アルミニウム製の板材としては、例えばJIS規格の合金番号で1100、1200、1050、3003、7072等が用いられる。本発明でアルミニウムとは、純アルミニウム及びアルミニウム合金の両方を含むものとする。
有機耐食性皮膜に用いられる樹脂としては、エポキシ系樹脂が一般的であるが、アクリル系、ポリエステル系などの樹脂も用いることができる。その膜厚は特に限定されるものではないが、0.5〜5μmが好ましい。0.5μm未満では耐食性が必要な用途に対して充分な耐食性を有しない。また、5μmを超える場合は、それ以上耐食性が向上しないばかりではなく、フィン材に加工する際の切断加工性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0018】
親水性塗膜に用いられる塗料組成物は、スルホン酸基含有モノマーを40mol%以上、カルボキシル基含有モノマーを40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)と、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)とを混合してなる水溶液をアンモニアもしくはアミンとアルカリ金属水酸化物とで調整したものである。
アクリル系高分子体(A)で用いられるスルホン酸基含有モノマーとしては、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸から選ばれる少なくとも1種などを用いることが出来る。またアクリル系高分子体(A)で用いられるカルボキシル基含有モノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸から選ばれる少なくとも1種が用いられる。スルホン酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマー以外に親水性を阻害しない範囲で他のモノマーを含んでいても良い。他のモノマーとしては2−ヒドロキシアクリレート、2メトキシエチルアクリレート、アクリルアミドなどが挙げられる。
また、アクリル系高分子体(B)で用いられるカルボキシル基含有モノマーはメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸から選ばれる少なくとも1種が用いられ、親水性を阻害しない範囲で他のモノマーを含んでいても良い。他のモノマーとしてはアクリル系高分子体(A)と同様に2−ヒドロキシアクリレート、2メトキシエチルアクリレート、アクリルアミドなどと共にスルホン酸基を含むモノマーを用いても構わない。
【0019】
そして、これら2種類のアクリル系高分子体(A),(B)を高分子体(A)が固形分中15重量%以上、高分子体(B)が固形分中40重量%以上含むように水または水を主とする溶媒中に溶解して混合し、その高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整することにより、塗料組成物としたものである。
また、その高分子体混合物としては、さらに、セルロース系高分子体を固形分中30重量%以下含むものとしてもよく、その場合、セルロース系の高分子体としては、カルボキシメチルセルロース塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)、ヒドロキシメチルセルロースなどを好適に用いることができる。
この塗料組成物を塗布してなる親水性塗膜の膜厚は、例えば0.3〜3μmとされる。塗膜厚が0.3μm未満の場合は図1(c)に示したような水3が塗膜1内を通って塗膜1と油汚れ物質2との界面に到達する現象が充分に起こらないため、汚染物質洗浄性が充分ではなく、また3μmを超える場合は水に膨潤した後乾燥するまでに著しく時間がかかるようになるため、黴などが繁殖し易い傾向が現れてくる。
【0020】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、例えば、有機耐食性皮膜は、耐食性の要求品質に応じて省略し、又はリン酸クロメート等の表面処理に代えてもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例について説明する。
<アクリル系高分子体の合成>
表1に示したモノマー比率で、水中で重合を行い、高分子体(A)を得た。実施例として、スルホン酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーとからなるもの、及びその他のモノマーを加えたものの5種類作成した。また、比較例として、スルホン酸基含有モノマー又はカルボキシル基含有モノマーの一方が40mol%未満で、本発明の範囲から外れるものも作成した。
【0022】
【表1】

【0023】
また、表2に示したモノマー組成で、水中で重合を行い高分子体(B)を得た。実施例として、カルボキシル基モノマーからなるもの、その他のモノマーを加えたものの4種類作成した。また、比較例として、カルボキシル基モノマーが65mol%未満で、本発明の範囲から外れるものも作成した。
【0024】
【表2】

【0025】
<塗料の調整>
表1、表2に示した高分子体を表3で示す比率で混合し、種々のpH調整剤を用いて塗料を作成した。また、セルロース系の高分子体を添加したものについても作成した。表3中、DMEAはジメチルエタノールアミン、TEAはトリエタノールアミン、DMAはジメチルアミンである。また、CMC−Naはカルボキシメチルセルロースナトリウム、CMC−アンモニウムはカルボキシメチルセルロースアンモニウム、HMCはヒドロキシメチルセルロースである。
【0026】
【表3】

【0027】
<塗膜性能評価>
リン酸クロメート処理を施したアルミニウム製板材及び予め有機耐食性皮膜を1μmの厚さで塗布したアルミニウム製板材の表面上に、前述の<塗料の調整>の欄で調整した塗料を塗布し、焼付けを行い評価サンプルとした。塗膜厚さはいずれも1μmとした。有機耐食性皮膜の樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を用いた。評価項目としては、以下の膜密着性、油落ち性、耐食性とした。
(1)膜密着性
水で湿らせた布で塗膜の表面を10回擦った後の塗膜剥離の有無を目視で判定した。剥離なしの状態を○、僅かに剥離有りの状態を△、大きく剥離の状態を×とした。
(2)油落ち性評価
オレイン酸に浸漬し、10分間立てかけて余分な油を落とした後、1分間純水に浸し、引き上げ乾燥した後の接触角を測定した。接触角が20°以下であれば良好として○、20°を超えて40°以下の場合は比較的良好として△、40°を超える場合は問題ありとして×とした。
(3)耐食性
JIS Z 2371に基づいて480時間の塩水噴霧試験を行い、表面の腐食の程度を確認し、JIS H 8679に記載のレイティングナンバ(Rating Number、以下R.N.と称す)により腐食の程度を評価した。○がR.N.9.8以上、△が同9.5以上9.8未満、×が同9.5未満とした。
【0028】
【表4】

【0029】
この表4に示すとおり、実施例のものは、塗膜密着性、油落ち性、耐食性のいずれもが概ね良好であった。また、下地処理として有機耐食性皮膜を形成したものも良好であった。比較例のものは、塗膜密着性、油落ち性、耐食性のいずれかが不良となった。
<塗膜組成の分析>
前述の<塗料の調整>の欄で示したサンプルBの塗膜をリン酸クロメート処理を施したアルミニウム製板材の表面に塗布し、その後希塩酸溶液中でアルミニウム製板材を溶解して、フリーフィルムを得た。
このフィルムの表面と裏面(アルミニウム製板材に接着していた面)について、X線光電子分光分析装置(ESCA)で表面分析を行った。表面には汚れが付着しているため、1分間、SiO換算で厚さ200オングストローム相当のイオンスパッタリングをし、表面を清浄にした後に分析した。その結果を以下の表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
この表5に示す結果から、高分子体(A)中のスルホン酸に由来するSが塗膜表面での濃度が高く、裏面では低くなっていることがわかる。また、KOHとして添加したKもそれに連動し、主にスルホン酸基と結合していることが推測される。つまり、塗膜の表面側に、スルホン酸アルカリ金属塩の基が高密度に存在しており、そのため、油脂類との親和性が低く、水との親和性に優れ、また、密着性にも優れる塗膜となると認められる。
【符号の説明】
【0032】
1 塗膜(親水性塗膜)
2 油汚れ物質
3 水(結露水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーをそれぞれ40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)を固形分中15重量%以上含むとともに、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)を固形分中40重量%以上含み、これらアクリル系高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整してなる塗料組成物。
【請求項2】
セルロース系高分子体を固形分中30重量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
スルホン酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーをそれぞれ40mol%以上含むアクリル系高分子体(A)と、カルボキシル基含有モノマーを65mol%以上含むアクリル系高分子体(B)とを、アクリル系高分子体(A)が固形分中15重量%以上、アクリル系高分子体(B)が固形分中40重量%以上となる比率で水又は水を主とする溶媒中に溶解して混合するとともに、これらアクリル系高分子体混合物の水溶液に、アンモニアもしくはアミンの1種または2種以上を総カルボキシル基含有モノマーに対してmol比で0.3以上、アルカリ金属水酸化物をスルホン酸基含有モノマーに対してmol比が0.5〜2.0加えて調整することを特徴とする塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム製板材の表面上又はアルミニウム製板材上に塗布された有機耐食性皮膜の表面上に、請求項1又は2に記載の塗料組成物から形成された塗膜が形成されてなるものであることを特徴とする熱交換器用フィン。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159379(P2010−159379A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4120(P2009−4120)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】