説明

塗料組成物、塗膜、水中摩擦低減方法及び塗料組成物の製造方法

【課題】
従来の塗料組成物及びその塗膜性能等の機能を損なうことなく、低摩擦性能を得ることができ、安定性にも優れる塗料組成物、それを使用してなる塗膜及び水中摩擦低減方法、並びに、その塗料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)、及び、分散剤(B)からなり、かつ、粒径が0.05〜100μmである複合粒子を配合して得られる塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、塗膜、水中摩擦低減方法及び塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、漁網、その他の水中構造物には、フジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物が付着しやすく、それによって、船舶等では効率のよい運行が妨げられ燃料の浪費を招く等の問題があり、また漁網等では目詰まりが起こったり、耐用年数が短くなる等の問題が生じる。これら水中構造物に対する生物の付着を防止するために、通常、水中構造物の表面に防汚塗料を塗布することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、船舶等のように液体との摩擦が生じる箇所にコーティングを施す場合、船舶の航行燃費低減や省エネルギー化等の点から、塗膜によって液体との摩擦抵抗を低減させることが望まれている。
【0004】
このような摩擦抵抗の低減を目的とした塗料組成物は、特許文献2、3、4、5、6及び7等に開示されている。これらには、アクリル樹脂、ポリオキシエチレン鎖含有重合体、アリルアミン樹脂、キチン、キトサン等のポリマーを塗料中の樹脂バインダーとして用いた塗料用樹脂組成物が開示されている。
しかし、これらは塗膜に添加する樹脂粒子によって、摩擦抵抗の低減を行うものではない。
【0005】
特許文献8及び9には、無機微粒子を配合した防汚塗料組成物によって塗膜を形成することにより、摩擦抵抗が低い塗膜を得ることができる旨が記載されている。しかし、これらは、低速で運行する船においては若干の摩擦抵抗低減機能を有するが、高速で運行する船においては充分な摩擦抵抗低減機能を得ることができず、効果が充分ではない。
【0006】
更に、粒子を配合した防汚塗料組成物を調製する際には、粒子を安定的に溶媒中に配合することが必要とされるが、このような方法が確立されておらず、塗料の安定性を確保することができなかった。
【特許文献1】特開昭62−57464号公報
【特許文献2】特開平11−29725号公報
【特許文献3】特開平11−29747号公報
【特許文献4】特開2001−98007号公報
【特許文献5】特開平11−256077号公報
【特許文献6】特開平10−259347号公報
【特許文献7】特開2003−277691号公報
【特許文献8】特開平5−86309号公報
【特許文献9】特開平5−112741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み、従来の塗料組成物及びその塗膜性能等の機能を損なうことなく、低摩擦性能を得ることができ、安定性にも優れる塗料組成物、それを使用してなる塗膜及び水中摩擦低減方法、並びに、その塗料組成物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)、及び、分散剤(B)からなり、かつ、粒径が0.05〜100μmである複合粒子を配合して得られることを特徴とする塗料組成物である。
上記有機高分子物質(A)は、天然物由来であることが好ましい。
上記有機高分子物質(A)は、カチオン性基を有するものであることが好ましい。
上記有機高分子物質(A)は、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の有機高分子物質であることが好ましい。
上記有機高分子物質(A)は、合成高分子であることが好ましい。
上記有機高分子物質(A)は、アクリル系樹脂であることが好ましい。
上記複合粒子の含有量は、塗料固形分に対して0.01〜30質量%であることが好ましい。
【0009】
上記分散剤(B)は、一般式(1);
−COO−M−OOC−A (1)
(式中、Mは、2価又はそれ以上の金属であり、Aは、一塩基酸の有機酸残基である。)
で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂であることが好ましい。
上記分散剤(B)は、一般式(2);
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表す。)
で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂であることが好ましい。
上記分散剤(B)は、一般式(1);
−COO−M−OOC−A (1)
(式中、Mは、2価又はそれ以上の金属であり、Aは、一塩基酸の有機酸残基である。)
で表される基を少なくとも1つ側鎖に有し、かつ、一般式(2);
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ側鎖に有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂であることが好ましい。
上述の塗料組成物は、防汚塗料組成物であることが好ましい。
本発明はまた、上述の塗料組成物によって形成されたものであることを特徴とする塗膜でもある。
本発明はまた、被塗物表面に上記塗膜を形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法でもある。
本発明はまた、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させることによって粒径が0.05〜100μm複合粒子を製造する工程、及び、上記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程によって得られることを特徴とする塗料組成物でもある。
本発明はまた、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させることによって粒径が0.05〜100μm複合粒子を製造する工程、及び、上記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程からなることを特徴とする塗料組成物の製造方法でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の塗料組成物は、有機高分子物質(A)と分散剤(B)とからなる複合粒子を配合することにより得られたものであり、良好な低摩擦性能を有する塗膜を形成できるという性質を有するものである。すなわち、本発明の塗料組成物は、上述の特徴を有する有機高分子物質(A)を添加することにより、容易に低摩擦塗膜を形成することができるものであり、上記分散剤(B)を有機高分子物質(A)と複合化して複合粒子として添加するために塗料の安定性にも優れるという性質を有するものである。
【0015】
本発明は、上述の特徴を有する複合粒子を添加することによって摩擦低減機能が得られることを見出すことによって達成されたものである。上記複合粒子は、有機高分子物質(A)と分散剤(B)とからなるものである。上記有機高分子物質(A)と上記分散剤(B)とは、上記有機高分子物質(A)を核として、上記分散剤(B)による層をシェルとして上記有機高分子物質(A)が内包された状態として存在していてもよく、また、上記有機高分子物質(A)のすべてが内包されていなくともよい。
【0016】
上記複合粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)を含有する。
上記性質を有する有機高分子物質(A)を含有する複合粒子を配合することにより、本発明の塗料組成物は、水中において低摩擦能を有する塗膜を形成することができる。
【0017】
なお、ここで溶解度及び吸水量の基準として使用したのは、ASTM D1141−98に規定された人工海水である。本発明の塗料組成物によって形成された塗膜は、主として海水中で使用されるものであることから、上記溶解度及び吸水量は、純水ではなく海水を基準として判断することが必要とされる。
【0018】
上記有機高分子物質(A)は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下のものである。上記溶解度が15g/Lを超えると、充分な低摩擦性能を発揮できない。好ましくは、上記溶解度は、12g/L以下である。なお、上記溶解度は、上記有機高分子物質(A)を室温で減圧下乾燥後、秤量し、ASTM D1141−98に従い調製した人工海水への23℃での溶解度を測定した値である。
【0019】
上記溶解度の測定方法の一例を、より具体的に説明する。
試料である有機高分子物質(A)を50±2℃に調製したオーブンに入れて24±1時間の間加熱した後、試料をデシケーターに入れて室温まで冷却することで試料を乾燥する。
乾燥させた試料1.00gをASTM D1141−98に規定された50.0gの人工海水に23±1℃にて浸漬して、これをマグネチックスターラーで5時間撹拌する。
メンブレンフィルターで上記試料と人工海水の混合物を濾過する。
残渣を脱イオン水50ccで2回洗浄する。
蒸発皿に残渣を移した後、10mmgHg以下に調整した減圧チャンバー内に蒸発皿を入れ、24時間放置する。
常圧に戻した後、蒸発皿上の固形分の質量を測定する。
測定に使用した乾燥試料の質量1.00gと蒸発皿上の固形分の質量の差から、人工海水への溶解度を算出した。
【0020】
上記有機高分子物質(A)は、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である。上記吸水量が、0.01質量%未満であると、充分な水中摩擦低減効果が得られない。好ましくは、上記吸水量は、0.1質量%以上である。
【0021】
なお、本発明における吸水量は、室温で真空下(減圧下)乾燥した有機高分子物質(A)1gを精秤し、ASTM D1141−98に従い調製した50gの人工海水中に添加した後、23℃で5時間攪拌し、その後濾別し、残渣を水洗し、秤量して求めた値である。
【0022】
上記吸水量の測定方法の一例を、より具体的に説明する。
試料である有機高分子物質(A)を50±2℃に調製したオーブンに入れて24±1時間の間加熱した後、試料をデシケーターに入れて室温まで冷却することで試料を乾燥する。
乾燥させた試料1.00gをASTM D1141−98に規定された50.0gの人工海水に23±1℃にて浸漬して、これをマグネチックスターラーで5時間撹拌する。
上記試料と人工海水の混合物からデカンテーションにより人工海水を除去する。人工海水を除去した試料に100gの蒸留水を添加してマグネチックスターラーで1時間撹拌する。デカンテーションにより蒸留水を除去し、残渣を得る。得られた残渣をメンブレンフィルター上で蒸留水で洗浄後、メンブレンフィルター上に残った残渣について、1分以内に試料全量の質量を小数点2桁まで測定する。
上記操作の前後の質量の変化率から吸水量を算出する。
【0023】
上記有機高分子物質(A)は、上記性質を有するものであれば、天然由来高分子であっても合成高分子であってもよい。上記性質を有する高分子は、適度な親水性官能基量を有し、必要に応じて架橋鎖を有するものであることが好ましい。上記親水性官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ポリオキシエチレン基等を挙げることができる。親水基を有することによって、高い吸水量を得ることができるが、親水性が高くなりすぎて、海水への溶解度が高くなりすぎる場合がある。親水性が高くなりすぎた場合には、疎水基を導入したり、架橋したりすることにより、人工海水への溶解度を調節することができる。
【0024】
本発明における上記有機高分子物質(A)として使用することができる天然由来高分子としては、例えば、キチン、キトサン、アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キタンサンガム、ジェランガム、セルロース、キシロース、デンプン、プルラン、ペクチン、ローストビーンガム、デキストラン、カードラン等の多糖類;ケラチン、コラーゲン、絹、γ−ポリグルタミン酸(以下、γ−PGAと記す)等のタンパク質;核酸等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらの天然由来高分子に対して加水分解、架橋反応等を行うことによって、親水化(例えばヒドロアルキル化)、ポリエチレングリコール化、疎水化(例えばアルキル化)、グラフト化、3次元化した半合成高分子等の誘導体化合物も使用することができる。
【0025】
上記有機高分子物質(A)は、カチオン性基を有することが好ましい。カチオン性基を有することによって、塗膜の海水中での摩擦低減効果がより得られやすくなる。上記カチオン性基としては特に限定されず、例えば、アミノ基、アミド基、ピリジン基等を挙げることができる。元来カチオン性基が存在する天然高分子を使用してもよいし、カチオン性基が存在しない高分子の場合は、当該高分子を誘導体化してカチオン性基を導入してもよい。
上記有機高分子物質(A)としては、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の有機高分子物質であることがより好ましい。
【0026】
上記キチンは、多糖類であり、この脱アセチル化物がキトサンである。上記脱アセチル化は、完全脱アセチル化であっても、部分脱アセチル化であってもよい。必要に応じてポリオキシエチレン、アルデヒド基含有化合物等によって、修飾又は架橋したものであってもよい。
【0027】
上記絹粉砕物とは、蚕が産生するまゆ糸である絹を粉砕して粒子化したものである。本発明においては、絹の主成分として含まれる天然由来高分子であるフィブロイン、セリシンが上述した作用を有すると推測される。
【0028】
本発明で使用する絹粉砕物は、天然の絹をそのまま粉砕したものであっても、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0029】
γ−PGAは、下記一般式(3);
【0030】
【化3】

【0031】
で表される高分子である。身近なものとしては、納豆菌が産生する粘りの主成分であり、高分子吸収体材料、生分解性材料、医療用材料、食品添加物、化粧品材料として注目を集めている高分子である。本発明において使用するγ−PGA粒子は、上記菌類が産生した天然由来のものを乾燥し、粒子化したものである。上記γ−PGA粒子は、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0032】
本発明における上記有機高分子物質(A)としては、合成高分子を使用することもできる。上記合成高分子としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミン系樹脂、変性ポリビニルアルコール系樹脂等を挙げることができる。これらは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の親水性基を有する親水性樹脂であることが好ましく、海水への溶解性をコントロールするために、必要に応じて一部架橋構造を有するものであることが好ましい。公知の方法によって、親水性/疎水性及び架橋比率を調整することにより、上記性質を有する合成高分子を得ることができる。
【0033】
上記性質を有する合成高分子としては、特に、アクリル系樹脂粒子を好適に使用することができる。上記アクリル系樹脂粒子としては、例えば、アクリル系単量体と所望により架橋性単量体とからなる単量体組成物の乳化重合等によって得られたものであるアクリル系樹脂粒子を挙げることができる。
【0034】
上記アクリル系樹脂粒子は、例えば、アクリル系単量体と架橋性単量体とからなる単量体組成物を乳化重合することによって得ることができる。
上記アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アルリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
【0035】
上記乳化重合においては、その他のエチレン性不飽和単量体を使用してもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等を挙げることができる。上記アクリル系単量体及びエチレン性不飽和単量体は、単独で使用するものであっても、二種類以上を併用して使用するものであってもよい。
【0036】
上記架橋性単量体としては特に限定されず、例えば、分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体等を挙げることができる。
【0037】
上記アクリル系樹脂粒子の製造に使用することができる分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリメタクリレート等の多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物等を挙げることができる。
【0038】
上記単量体組成物において上記架橋性単量体は、単量体組成物全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。上記質量比が上記範囲外であると、所望のアクリル系樹脂粒子が得られないおそれがある。上記質量比は、より好ましくは、5〜70質量%である。
【0039】
上記有機高分子物質(A)はまた、2種以上の高分子からなる複合樹脂粒子であってもよい。上記複合樹脂粒子は、ある1種の高分子粒子を核として、他の高分子がそれぞれ層を形成し、順に上記核を内包していく形態を有するものである。上記2種以上の高分子としては、特に限定されず、例えば、上述したような上記天然由来高分子及び上記合成高分子を挙げることができる。なかでも、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物、デンプン、プルラン、アラビアノリ、κ−カラギーナン、ゼラチン、セルロース及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の親水性樹脂と、アクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子であることが好ましい。このような組合せであると、アクリル系樹脂の組成によって、粒子の物性を所望によって変化させつつ、親水性を得ることができる点で好ましい。上記親水性樹脂及びアクリル系樹脂は、それぞれ単独では本発明の目的を達成することができないものを組み合わせることによって使用するものであってもよいが、上記複合樹脂粒子の最外層がキチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。最外層が上記キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であると、より高い低摩擦性能が得られるため好ましい。
【0040】
上記親水性樹脂とアクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子は、例えば、上記親水性樹脂存在下で、アクリル系樹脂の原料単量体を、乳化重合又は懸濁重合させることによって得ることができる。重合時に使用する乳化剤としては、公知の乳化剤を使用することができる。
【0041】
上記重合において使用する乳化剤は、公知のものであれば特に限定されない。例えば、アニオン型、カチオン型、ノニオン型、両性イオン型という4種のタイプに分類されるものが挙げられる。上記乳化剤として市販されているものの中でアニオン型の例として、エレミノールMON、JSシリーズ(三洋化成工業社製)、ラテムルE、S、ASKシリーズ(花王社製)、ハイテノールLA、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE、SRシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等が挙げられる。また、カチオン型の例として、ラテムルKシリーズ(花王社製)等が、さらに、ノニオン型の例として、ノイゲンSDシリーズ、アクアロンシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープNE、ERシリーズ(旭電化社製)等が挙げられる。
【0042】
上記複合樹脂粒子の合成において、アクリル系樹脂の原料である単量体組成物と親水性樹脂との混合比は、質量比(固形分)で40/60〜97/3であることが好ましい。
【0043】
上記有機高分子物質(A)は、複合樹脂粒子である場合も含め、粒径が下限0.05μm、上限95μmの範囲内であることが好ましい。上記粒径が0.05μm未満であると、充分な摩擦低減効果を得ることができないおそれがある。上記粒径が95μmを超えると、塗膜の表面状態が悪化するという問題が生じる場合がある。上記有機高分子物質(A)の粒径は、後述の複合粒子の粒径を測定する方法により同様に測定することができる。
【0044】
本発明の塗料組成物は、有機高分子物質(A)と分散剤(B)とを複合化した複合粒子を調製し、これを塗料原料として使用し、配合することによって得られたものである。
【0045】
上記分散剤(B)としては、上記有機高分子物質(A)を塗料組成物中に分散することができるものであれば、特に限定されないが、塗料組成物において塗膜を形成するバインダー成分として含まれる樹脂であることが好ましい。従来の防汚塗料においては、亜酸化銅等の防汚剤を大量に含有するために分散媒となる樹脂の配合量が抑えられてきた。このため、有機高分子物質(A)を単独で配合しても良好な分散性が得られないおそれがあった。本発明は、このような樹脂を塗料成分として配合するのではなく、直接有機高分子物質(A)と複合化した複合粒子として配合することにより、有機高分子物質(A)を安定的に塗料組成物中に分散したものである。これにより、塗料組成物のハードケーキ化等の問題が発生せず、優れた貯蔵安定性を得ることができる。
【0046】
塗料組成物において塗膜を形成するバインダー成分として含まれる樹脂としては、例えば、上述した上記一般式(1)で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I))、上記一般式(2)で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II))、上記一般式(1)で表される基を少なくとも1つ側鎖に有し、かつ、上記一般式(2)で表される基を少なくとも1つ側鎖に有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III))、塩化ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。
【0047】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)〜(III)は、自己研磨型ポリマーと呼ばれるものであり、塗料組成物において塗膜を形成する樹脂バインダーとして使用したときに、海水中で加水分解を受けることによって徐々に樹脂が溶解することによって、フジツボ等の水棲生物の付着を防止するという機能を有するものである。これらの自己研磨型ポリマーを使用すると、樹脂バインダーが溶出する際に、表面に露出していた上記複合粒子が水中に放出される。これによって、新たな複合粒子が更に表面に露出する。このような作用により、常に新たな複合粒子が表面に露出するため、複合粒子が海水中で変化するものであっても、長期間にわたって摩擦低減効果を発現しつづけるものである。上記複合樹脂の分散剤(B)として上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)〜(III)を使用した場合にも、上述したような効果が発現するものである。
【0048】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)は、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂側鎖に、上記一般式(1)で表される基を少なくとも1つ有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂であり、例えば、(方法1)重合性不飽和有機酸とその他の共重合可能な不飽和単量体とを共重合させて得られる樹脂に、金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、一塩基酸の金属エステルを用いエステル交換させる方法、(方法2)金属含有重合性不飽和単量体とその他の共重合可能な不飽和単量体とを共重合する方法により製造することができるものである。
【0049】
上記重合性不飽和有機酸としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基を1つ以上有するものが挙げられ、このようなものとしては、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸及びこのモノアルキルエステル、イタコン酸及びこのモノアルキルエステル等の不飽和二塩基酸及びこのモノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのマレイン酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのフタル酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのコハク酸付加物等の不飽和一塩基酸ヒドロキシアルキルエステルの二塩基酸付加物等を挙げることができる。これらの重合性不飽和有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等のエステル部の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のエステル部の炭素数が1〜20の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸環状炭化水素エステル;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、重合度2〜30のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル;メトキシエチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜3のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等のほか、(メタ)アクリルアミド;スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル等のビニル化合物;クロトン酸エステル類;マレイン酸ジエステル類、イタコン酸ジエステル類等の不飽和二塩基酸のジエステルを挙げることができる。上記(メタ)アクリル酸エステル類のエステル部分は炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルである。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記(方法1)、(方法2)等の方法により得られるアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)は、上記一般式(1)で表される基を少なくとも1つ有するものであり、上記一般式(1)において、Mは2価又はそれ以上の金属であり、好ましくは銅又は亜鉛である。
【0052】
上記(M)は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)固形分中、下限0.05質量%、上限20質量%含有されていることが好ましい。0.05質量%未満では、得られる塗膜における金属塩の部分が加水分解しても樹脂中の溶出が極めて遅く、20質量%を超えると、得られる塗膜の溶出速度が速すぎて、何れも好ましくない。下限0.5質量%、上限15質量%であることがより好ましい。
【0053】
上記(M)の供給源となる上記金属化合物としては特に限定されず、例えば、金属酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、有機酸金属塩、塩基性炭酸塩等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記一般式(1)において、Aは、上記一塩基酸の有機酸残基であり、上記一塩基酸としては特に限定されず、例えば、炭素数2〜30の一塩基酸を挙げることができ、なかでも、一塩基環状有機酸等が好ましい。
【0055】
上記一塩基環状有機酸としては特に限定されず、例えば、ナフテン酸等のシクロアルキル基を有するもののほか、三環式樹脂酸等の樹脂酸及びこれらの塩等を挙げることができる。
【0056】
上記三環式樹脂酸としては特に限定されず、例えば、ジテルペン系炭化水素骨格を有する一塩基酸等を挙げることができ、このようなものとしては、例えば、アビエタン、ピマラン、イソピマラン、ラブダン各骨格を有する化合物があり、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、水素添加アビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、デキストロピマル酸、サンダラコピマル酸等を挙げることができる。これらのうち、加水分解が適度に行われるので長期防汚性に優れるほか、塗膜の耐クラック性、入手容易性にも優れることから、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、水素添加アビエチン酸及びこれらの塩が好ましい。
【0057】
上記一塩基環状有機酸としては、高度に精製されたものである必要はなく、例えば、松脂、松の樹脂酸等を使用することもでき、このようなものとしては、例えば、ロジン類、水素添加ロジン類、不均化ロジン類等を挙げることができる。ここでいうロジン類とは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等である。ロジン類、水素添加ロジン類及び不均化ロジン類は、廉価で入手しやすく、取り扱い性に優れ、長期防汚性を発揮する点で好ましい。これらの一塩基環状有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明で使用できる一塩基酸のうち、上記一塩基環状有機酸以外のものとしては、例えば、酢酸、(メタ)アクリル酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、パルミチン酸、2−エチルヘキサン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、クロル酢酸、フルオロ酢酸、吉草酸、バーサティック酸、12−ヒドロキシステアリン酸、水添ヒマシ油脂肪酸等の炭素数1〜30のもの等を挙げることができる。好ましくは、炭素数5〜20のものである。これらの一塩基酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
上記一般式(1)における一塩基酸の有機酸残基のうち、下限5モル%、上限100モル%が環状有機酸であることが好ましい。下限15モル%、上限100モル%であることがより好ましく、下限25モル%、上限100モル%であることが更に好ましい。5モル%未満であれば、長期の防汚性と塗膜の耐クラック性の両立が達成できない。
【0060】
上記一塩基環状有機酸残基を導入するために使用する一塩基環状有機酸の酸価は、好ましくは下限70mgKOH/g、上限300mgKOH/g、より好ましくは下限120mgKOH/g、上限250mgKOH/gである。この範囲内である場合には、防汚効果を長期に保つことができる。更に好ましくは、下限120mgKOH/g、上限220mgKOH/gである。
【0061】
上記(方法1)において、重合性不飽和有機酸とその他の共重合可能な不飽和単量体とを共重合させて得られる樹脂の数平均分子量としては特に限定されず、下限2000、上限100000であることが好ましく、下限3000、上限40000であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤を使用することが必要とされるために公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0062】
上記(方法1)において、重合性不飽和有機酸とその他の共重合可能な不飽和単量体とを共重合させて得られる樹脂は、酸価70〜300mgKOH/gであることが好ましい。70未満であると、側鎖に結合させる金属塩の量が少なくなり、防汚性に劣ることがあり、300を超えると、溶出速度が速すぎて、長期の防汚性が望めない。
【0063】
上記(方法1)において、重合性不飽和有機酸とその他の共重合可能な不飽和単量体とを共重合させて得られる樹脂に、金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、一塩基酸の金属エステルを用いエステル交換させる方法は、従来公知の方法により行うことができるが、加熱・攪拌等は金属エステルの分解温度以下で行うことが望ましい。
【0064】
上記一般式(1)で表される基は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)固形分中、下限0.001mol/g、上限0.006mol/g含有されていることが好ましい。含有量が上記範囲内となることにより、樹脂バインダーの海水への溶出速度と長期防汚性のバランスがとれるために好ましく、防汚塗膜として好適なものとなる。
【0065】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)は、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂側鎖に、上記一般式(2)で表される基を少なくとも1つ有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂であり、アクリル樹脂が好ましい。
【0066】
上記一般式(2)において、R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表す。上記R、R及びRは、すべてイソプロピル基であることが好ましい。これにより、得られる塗膜において、防汚性能をより長期間維持することができる。
【0067】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)のうち、アクリル樹脂としては、例えば、重合性不飽和単量体とトリオルガノシリル基を一部に有するモノマー成分等を反応させる方法によって得られるもの等を挙げることができるが、下記一般式(4);
【0068】
【化4】

【0069】
で表されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートとその他の共重合可能な不飽和単量体とを重合することによって得られるものであることが好ましい。上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては特に限定されず、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)で述べたものや、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)で述べた重合性不飽和有機酸を挙げることができる。これらの重合性不飽和有機酸及びその他の共重合可能な不飽和単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートにおいて、Zは、水素原子又はメチル基を表す。R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表し、すべてイソプロピル基であることが好ましい。これにより、防汚性能をより長期間安定して維持することができ、また、得られる防汚塗料を貯蔵安定性に優れるものとすることができる。
【0071】
上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートは、重合に用いられるモノマー成分100質量%中に、上限90質量%、下限5質量%含まれることが好ましい。90質量%を超えると、塗装した塗膜に剥離が生じるおそれがあり、5質量%未満であると、得られる樹脂中のトリオルガノシリル基の割合が少なくなり、長期防汚性が望めないおそれがある。上限70質量%、下限10質量%であることがより好ましい。
【0072】
上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0073】
上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートとしては、安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持する点から、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましい。上記トリオルガノシリル(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
上記モノマー成分を重合させる方法としては特に限定されず、例えば、上記トリオルガノシリル(メタ)アクリレート及び上記その他の共重合可能な不飽和単量体からなるモノマー成分を、アゾ化合物、過酸化物等の重合開始剤と混合して混合溶液を調製した後、例えば、キシレン、n−ブタノール等の溶剤中に滴下して、加熱条件下に反応させる方法等を挙げることができる。
【0075】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)の数平均分子量としては特に限定されず、下限2000、上限100000であることが好ましく、下限3000、上限40000であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤を使用する必要があることから公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0076】
上記一般式(2)で表される基は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)固形分中、下限0.0004mol/g、上限0.004mol/g含有されていることが好ましい。含有量が上記範囲内となることにより、樹脂バインダーの海水への溶出速度と長期防汚性のバランスがとれるために好ましく、防汚塗膜として好適なものとなる。
【0077】
トリオルガノシリル基は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)固形分中、下限10質量%、上限90質量%含有されていることが好ましい。10質量%未満では、自己研磨性が不充分となるおそれがあり、90質量%を超えると、塗膜の溶出が速すぎて塗膜を長期間保持することができないため、何れも好ましくない。上記含有量は、下限30質量%、上限80質量%であることがより好ましい。
【0078】
更に、上記分散剤(B)として、上記一般式(1)で表される基を少なくとも1つ側鎖に有し、かつ、上記一般式(2)で表される基を少なくとも1つ側鎖に有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III)を使用することもでき、アクリル樹脂が好ましい。
【0079】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III)は、上記一般式(4)で表されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートを含有するモノマー成分から得られるものであることが好ましい。これにより、より長期防汚性に優れる塗膜を得ることができる。
【0080】
上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III)は、(方法3)第一の工程として、(a)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程、次いで第二の工程として、(b)上記第一の工程により得られた樹脂に金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、一塩基酸の金属エステルを用いエステル交換させる工程からなる方法、(方法4)(a)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、その他の共重合可能な不飽和単量体、及び、金属含有重合性不飽和単量体を共重合する方法等を行うことにより得られるものである。
【0081】
上記(方法3)の第一の工程は、(a)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、上記一般式(4)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程であって、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)で述べた成分、方法を用いて同様に行うことができる。
【0082】
上記(方法3)の第一の工程により得られた樹脂の数平均分子量としては特に限定されず、下限2000、上限100000であることが好ましく、下限3000、上限40000であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤の使用により公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0083】
上記(方法3)の第一の工程により得られた樹脂は、酸価30〜300mgKOH/gであることが好ましい。30mgKOH/g未満であると、側鎖に結合させる金属塩の量が少なくなり、防汚性に劣ることがあり、300mgKOH/gを超えると、溶出速度が速すぎて、長期の防汚性が望めない。
【0084】
上記(方法3)の第二の工程は、上記第一の工程により得られた樹脂に金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、一塩基酸の金属エステルを用いエステル交換させる工程である。即ち、この第二の工程により得られるアクリル樹脂は、上記一般式(1)で示される側鎖を少なくとも1つ有するものとなる。
【0085】
上記(方法3)の第二の工程において、上記第一の工程により得られる樹脂に金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、一塩基酸の金属エステルを用いエステル交換させる方法は、従来公知の方法により行うことができるが、加熱・攪拌等は金属エステルの分解温度以下で行うことが望ましい。
【0086】
上記一般式(1)で表される基は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III)固形分中、下限0.001mol/g、上限0.006mol/g含有されていることが好ましい。また、上記一般式(2)で表される基は、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(III)固形分中、下限0.0004mol/g、上限0.004mol/g含有されていることが好ましい。含有量が上記範囲内となることにより、樹脂バインダーの海水への溶出速度と長期防汚性のバランスがとれるために好ましく、防汚塗膜として好適なものとなる。
【0087】
上記分散剤(B)としてはまた、架橋構造を有する金属含有樹脂を使用してもよい。
上記架橋構造を有する金属含有樹脂としては、例えば、架橋鎖中に2価の金属を含有する樹脂を挙げることができる。上記2価の金属を含有する樹脂の製造方法は、カルボキシル基含有樹脂に2価の金属化合物を反応(付加)して得る方法や2価の金属を含有する重合性単量体を含む単量体混合物を一般的な溶液重合により得る方法を挙げることができる。
【0088】
上記反応によって得られる架橋構造を有する金属含有樹脂としては、例えば、下記一般式(5);
(−COO−M−OOC−) (5)
(Mは、Mg、Zn、Ca等の2価の金属を表す。)
で表される架橋鎖を有する樹脂を挙げることができる。
上記2価の金属を含有する重合性単量体としては、例えば、下記一般式(6);
〔(CH=CHCOO)M〕 (6)
(Mは、Mg、Zn、Ca等の2価の金属を表す。)
又は、下記一般式(7);
〔(CH=C(CH)COO)M〕 (7)
(Mは、Mg、Zn、Ca等の2価の金属を表す。)
で表される2個の不飽和基を有する金属含有重合性単量体等を挙げることができる。
上記溶液重合の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0089】
また、上記架橋構造を有する金属含有樹脂は、上記一般式(1)において表される基を少なくとも1つ有するものであってもよい。
上記架橋構造を有する金属含有樹脂の金属量は、樹脂固形分中、架橋構造中の金属と上記一般式(1)で表される基中の金属との合計量で、0.05〜20質量%であることが好ましい。
【0090】
上記分散剤(B)としてはまた、市販の顔料分散剤を使用してもよい。上記顔料分散剤としては特に限定されず、例えば、Disperbyk 190、Disperbyk 182、Disperbyk 184(いずれもビックケミー社製)、EFKAPOLYMER4550(EFKA社製)、ソルスパース27000、ソルスパース41000、ソルスパース53095(いずれもアビシア社製)等を挙げることができる。
【0091】
上記有機高分子物質(A)及び上記分散剤(B)からなる複合粒子を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、有機高分子物質(A)と分散剤(B)とを、分散機を用いて機械的に複合化する方法(ア)、膜乳化法により複合化させる方法(イ)、上記高分子物質(A)のモノマー成分を上記分散剤(B)を用いて反応媒体中に分散させてから重合反応させることにより得る方法(ウ)、上記分散剤(B)と同じ成分で予め作成された中空粒子に、上記有機高分子物質(A)を含浸させることで複合化する方法(エ)等を挙げることができる。上記複合粒子の製造方法は、上記有機高分子物質(A)と上記分散剤(B)との組み合わせに応じて、選択すると良い。複合粒子の形態は特に限定されず、ペースト状、粉体等、任意の形態のものを用いることができる。上述したような方法のなかでも、有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させることによるものであること効率よく複合粒子が得られる点で好ましい。なかでも、上記方法(ア)によって、有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させる方法が好ましい。上記機械的に複合化する方法(ア)としては、ディスパーやSGミルにより攪拌分散を行う方法や、ボールミルやロールミルによる混合方法等が挙げられる。
【0092】
上記の方法により得られた複合粒子は、通常、有機高分子物質(A)を核として、上記分散剤(B)による層をシェルとして上記有機高分子物質(A)が内包されたものとして得られる。なお、上記方法(ア)により、上記有機高分子物質(A)が分散剤(B)により完全に内包されず、有機高分子物質(A)が表面に露出した複合粒子が得られる場合もある。このような複合粒子が混在した場合にも、本願の効果を得ることができる。
【0093】
なお、上記製造方法(ウ)又は(エ)により複合粒子を製造する場合、上記有機高分子物質(A)の溶解度及び吸水量は、上記製造方法(ウ)又は(エ)において有機高分子物質(A)に該当する成分のみで作製した有機粒子について、上述した方法で溶解度及び吸水量を測定して得られた値をいう。
【0094】
上記複合粒子において、上記有機高分子物質(A)と上記分散剤(B)との配合比は、固形分質量で90/10〜30/70であることが好ましい。(A)の配合比率が上限を上回ると、複合粒子の安定性に不具合を生じる可能性がある。下限を下回ると、塗膜の十分な摩擦低減効果が得られないおそれがある。
【0095】
更に、上記複合粒子は、粒径が下限0.05μm、上限100μmの範囲内である。上記粒径が0.05μm未満であると、充分な摩擦低減効果を得ることができない。上記粒径が100μmを超えると、塗膜の表面状態が悪化するという問題が生じる。上記下限は、0.1μmが好ましく、上記上限は、40μmが好ましい。更に好ましくは、1〜30μmであり、特に好ましくは、15〜30μmである。上記粒径を15〜30μmとすることでより高い低摩擦性能を得ることができる。なお、上記粒径は、下記の装置で測定したものであり、ここで言う粒径とは、下記装置のマニュアルに記載の分布基準を体積と設定したときに出力される、粒径の平均値のことを指す。
装置名、メーカー;SALD−2200、島津製作所社製
【0096】
なお、粒径測定用の分散媒としては、有機高分子物質(A)が合成高分子である場合を除いてキシレンが好適に用いられる。上記有機高分子物質(A)が合成高分子である場合、上記有機高分子物質(A)がキシレンに溶解してしまう場合がある。その場合、分散媒として貧溶媒を用いることも可能である。上記貧溶媒としては特に限定されず、例えば、ヘキサン、メタノール、エタノール等を挙げることができる。
【0097】
本発明の塗料組成物における上記複合粒子の配合量は、塗料中の全固形分に対して、下限0.01質量%、上限30質量%の範囲内であることが好ましい。上記含有量が0.01質量%未満であると、所望の効果が得られず好ましくない。上記含有量が30質量%を超えても、摩擦低減効果は配合量に見合ったものが得られないだけでなく、粒子の膨潤により塗膜の割れ等が生じる場合がある。上記下限は、0.1質量%がより好ましく、上記上限は、24質量%がより好ましい。なお、本発明の塗料組成物は、上記複合粒子を一種又は二種以上含有してもよい。
【0098】
本発明の塗料組成物は、上記複合粒子以外に、樹脂バインダーを含有するものである。上記樹脂バインダーとしては特に限定されず、所望の目的に応じて、適宜選択することができる。
本発明の塗料組成物を防汚塗料として使用する場合、上記樹脂バインダーとしては、防汚性塗料において公知である各種の防汚性樹脂を使用することができる。
上記樹脂バインダーとして使用する防汚性樹脂としては、上述した上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)、(II)及び(III)、塩化ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、並びに、上記架橋構造を有する金属含有樹脂等を挙げることができる。上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)、(II)及び(III)は、上述した分散剤(B)と同一の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。また、上記塗料組成物は、必要に応じて、シリコンオイル、ワックス、ワセリン、流動パラフィン、ロジン、水添ロジン、ナフテン酸、脂肪酸及びこれらの2価金属塩、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ポリプロピレンセバケート、部分水添ターフェニル、ポリエーテルポリオール等の添加剤を含有していてもよい。これらの樹脂バインダー又は添加剤は、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0099】
本発明の塗料組成物を防汚塗料として使用する場合、塗膜の物性や塗膜の消耗速度を調整するために、上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)、(II)又は(III)のほかに他の樹脂バインダーを含有させることができる。上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)と上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)との樹脂固形分の合計量の上記他の樹脂バインダーの樹脂固形分に対する質量比〔アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(I)及び上記アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂(II)〕:〔他の樹脂バインダー〕は、100:0〜50:50であることが好ましい。上記他の樹脂バインダーの割合が上記範囲を超えると、優れた長期防汚性と塗膜の耐クラック性の両立が保てず好ましくない。上記他の樹脂バインダーとしては上述のものを使用することができる。
【0100】
上記塗料組成物には、上記樹脂バインダーの他に、例えば、防汚剤、可塑剤、顔料、溶剤等の慣用の添加剤を添加することができる。
【0101】
上記防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0102】
上記防汚剤としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、亜酸化銅、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバーメート、ロダン銅、4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩及び銅塩等の金属塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン塩、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、ラウリルアミン−トリフェニルボロン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート等を挙げることができる。これらの防汚剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
上記防汚剤の使用量は、塗料固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%が好ましい。0.1質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。下限1質量%、上限60質量%であることがより好ましい。
【0104】
上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルすずラウリレート、ジブチルすずラウリレート等の有機すず系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
上記顔料としては、例えば、沈降性バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト等の体質顔料;酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化すず、カーボンブラック、黒鉛、ベンガラ、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドン等の着色顔料等を挙げることができる。これらの顔料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n−ブタノール、プロピルアルコール等のアルコール等を挙げることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
上記のほか、その他の添加剤としては特に限定されず、例えば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳、ひまし油等;水結合剤、タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤等を挙げることができる。
【0108】
本発明の塗料組成物は、上述の有機高分子物質(A)及び分散剤(B)からなる複合粒子を製造する工程、並びに、上記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程によって得ることができる。上記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程において、必要に応じて防汚剤、可塑剤、塗膜消耗調整剤、顔料、溶剤等の慣用の添加剤を混合することができる。より具体的には、上記複合粒子と樹脂バインダーと、必要に応じて添加剤を混合し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。
【0109】
上記塗料組成物は、常法に従って被塗物の表面に塗布した後、常温下又は加熱下で溶剤を揮散除去することによって乾燥塗膜を形成することができる。
上記塗料組成物によって形成された塗膜も本発明の一つである。本発明の塗膜は、上記塗料組成物により形成されることから、低摩擦性能に優れたものである。上記塗膜は、例えば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装、電着塗装等の従来公知の方法により上記塗料組成物を塗布することによって形成することができる。
【0110】
このような塗膜を被塗物表面に形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法も本発明の一つである。上記被塗物は、必要に応じて前処理を行ったものでもよい。上記被塗物としては特に限定されないが、優れた低摩擦性能を示す塗膜を形成することから、船舶、配管材料、漁網等が好ましい。
【0111】
本発明の塗料組成物は、10〜30ノット程度の速度で走行する船舶に塗布した場合にも、良好な低摩擦性能を付与することができる点で従来の塗料組成物よりも優れたものである。上記塗料組成物を塗布することによって、従来からの防汚塗料を塗布するのに対して2〜3%以上の摩擦抵抗を低減することができる。このように、本発明の塗料組成物は、特に船底塗料として航行燃費低減に著しく寄与することができる。
【発明の効果】
【0112】
本発明により、樹脂バインダーを限定されることなく、優れた低摩擦性能を得ることができる塗料組成物が得られた。樹脂バインダーを限定されないため、従来の塗料組成物等の機能を損なうことなく、低摩擦性能を得ることができる。更に、塗料の安定性にも優れるものである。上記塗料組成物により形成される塗膜は低摩擦性能に優れるため、上記塗膜を被塗物表面に形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法も本発明により得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0113】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0114】
製造例1 樹脂溶液Aの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、キシレン80g、n−ブタノール20gを加え100℃に加熱する。この溶液にアクリル酸エチル40g、アクリル酸18g、アクリル酸シクロヘキシル15g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)27g、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1.5gの混合溶液を3時間にわたり滴下し、その後3時間保温した。これを樹脂溶液Aとする。
【0115】
製造例2 樹脂溶液Bの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、キシレン100gを加え、100℃に加熱する。この溶液にメタクリル酸メチル40g、メタクリル酸トリーイソープロピルシリル55g、メタクリル酸2−メトキシエチル5g、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1.5gの混合溶液を3時間にわたり滴下し、その後3時間保温し、固形分濃度50.7質量%の樹脂溶液Bを得た。
【0116】
製造例3
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管、デカンターを備えた4つ口フラスコに、イソプロピルアルコール20g、プロピレングリコールメチルエーテル110g、酸化亜鉛22gを加え80℃に加熱する。メタクリル酸22g、ナフテン酸(MW=300、AV=165)75gを2時間にわたり滴下し2時間保温した。この溶液を減圧下、75℃で溶剤を除去し、重合性単量体濃度50.4質量%の単量体溶液Cを得た。
【0117】
製造例4 樹脂溶液Dの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管、デカンターを備えた4つ口フラスコに、製造例1で得られた樹脂溶液Aを200g、ロジン80g、酢酸銅32g、キシレン200gを加え、リフラックスしながらキシレンを加えつつ溶剤を除去した。その後、40gのn−ブタノールを加え、固形分濃度51.3質量%の樹脂溶液Dを得た。
【0118】
製造例5 樹脂溶液Eの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、キシレン90gを加え、100℃に加熱する。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸トリ−イソ−プロピルシリル55g、メタクリル酸2―メトキシエチル5g、単量体溶液Cを20g、t−ブチルパーオキシ2―エチルヘキサノエート1.5gの混合溶液を3時間にわたり滴下し、その後3時間保温し、固形分濃度50.5質量%の樹脂溶液Eを得た。
【0119】
製造例6 樹脂溶液Fの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管、デカンターを備えた4つ口フラスコに、上記樹脂溶液A200g、水素添加ロジン82g、酢酸亜鉛34g、キシレン200gを加えリフラックスしながらキシレンを加えつつ溶剤を除去した。その後40gのn−ブタノールを加え固形分濃度53.8%の樹脂溶液Fを得た。
【0120】
製造例7 樹脂溶液Gの調製
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管、デカンターを備えた4つ口フラスコに、樹脂溶液A200g、水素添加ロジン50g、12−ヒドロキシステアリン酸33g、酢酸亜鉛34g、キシレン200gを加えリフラックスしながらキシレンを加えつつ溶剤を除去した。その後40gのn−ブタノールを加え固形分濃度54.2%の樹脂溶液Gを得た。
【0121】
製造例8 複合粒子1の製造
冷却管、温度計、攪拌機、窒素銅入管を備えた4つ口フラスコに、ロウス(商品名、シェル・ケミカルズ・ジャパン社製、炭化水素系溶剤、以下、すべて同一)70g、樹脂溶液Fを60g加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、エチレングリコールジメタクリレート10g、アクリル酸2−ヒドロキシエチル20g、VPE−0201(和光純薬株式会社製)5gを加え、7時間反応させ、固形分濃度50.0%の複合粒子1を得た。
【0122】
製造例9 複合粒子2の製造
冷却管、温度計、攪拌機、窒素銅入管を備えた4つ口フラスコに、ロウス70g、樹脂溶液Gを60g加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル25g、エチレングリコールジメタクリレート10g、VPE−0601(和光純薬株式会社製)7gを加え、7時間反応させ、固形分濃度50.0%の複合粒子2を得た。
【0123】
製造例10 複合粒子3の製造
冷却管、温度計、攪拌機、窒素銅入管を備えた4つ口フラスコに、ロウス70g、分散剤Z(樹脂溶液B)を60g加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル20g、アクリル酸ノニルフェノールエチレンオキサイド(平均重合度:8)20g、エチレングリコールジメタクリレート30g、V−59(和光純薬株式会社製)7gを加え、7時間反応させ、固形分濃度50.0%の複合粒子3を得た。
【0124】
製造例11 複合粒子4の製造
γ−PGAをジェット粉砕機で粉砕し、粒径4μmの有機粒子Aを得た。
ビーカーに上記樹脂溶液Dの樹脂固形分600g相当をはかり採り、上記有機粒子Aを400g加え、この混合物をディスパー攪拌機で攪拌、分散することで複合粒子4を得た。
【0125】
製造例12 複合粒子5の製造
脱イオン水200g中にホモジナイザーで攪拌しながらキトサン−酢酸塩の5%水溶液10gとアルギン酸の5%水溶液10gを2時間にわたり滴下し、粒径7μmの有機粒子Bを得た。
ビーカーに上記樹脂溶液Dの樹脂固形分600g相当をはかり採り、上記有機粒子Bの固形分400g相当を加え、この混合物をディスパー攪拌機で攪拌、分散することで複合粒子5を得た。
【0126】
製造例13 複合粒子6の製造
キチン(大日精化社製:商品名キチンP)をジェット粉砕機で粉砕し、粒径4μmの有機粒子Cを得た。
上記有機粒子Cを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子6を得た。
【0127】
製造例14 複合粒子7の製造
キトサン(甲陽ケミカル社製:商品名SK−10)をジェット粉砕機で粉砕し、粒径4μmの有機粒子Dを得た。
上記有機粒子Dを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子7を得た。
【0128】
製造例15 複合粒子8の製造
上記有機粒子Bの分散液を濃縮して固形分含有比率を15%とした。これを、多孔質膜を取り付けた膜乳化装置を用いて樹脂溶液F中に分散することにより、複合粒子8(粒径26μm)を得た。
【0129】
製造例16 複合粒子9の製造
上記有機粒子C15gを量り採り、これにイオン交換水85gを加えて得られたキチン分散液を攪拌機で混合することでキチン粒子の分散ペーストを得た。この分散ペーストを、多孔質膜を取り付けた膜乳化装置を用いて分散剤X(樹脂溶液F)中に分散することにより、複合粒子9(粒径23μm)を得た。
【0130】
製造例17 複合粒子10の製造
ER−20(旭電化社製ノニオン系反応性乳化剤)30.0部とイオン交換水162.6からなる水溶液に、メタクリル酸メチル28.8部、メタクリル酸シクロヘキシル10.1部、アクリル酸2−エチルヘキシル40.6部、エチレングリコールジメタクリレート10.0部、キシレン100部とパーロイルL(日本油脂社製過酸化物系ラジカル開始剤)4.0部の混合液を加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、懸濁液(粒径10μm)を得た。
滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、ヒドロキノン0.2部、ER−20(旭電化社製ノニオン系反応性乳化剤)9.0とイオン交換水262.2部を仕込み、窒素雰囲気下で70℃に昇温した。次に、得られた懸濁液356.1部を一括添加し、同温度で4時間反応を継続した後、重合反応終了と判断し、冷却した。さらに、得られた微粒子に含有するキシレンを除去することで中空粒子Eを得た。
キトサン−酢酸塩の5%水溶液に中空粒子Eを浸漬させ、充分に吸収させた後、粒子を濾過、水洗した。さらに得られた粒子をアルギン酸の5%溶液に浸漬させた後、粒子を濾過、水洗することで複合粒子10を得た。
【0131】
製造例18 複合粒子11の製造
上記有機粒子Cを400gとポリビニルアルコール樹脂の粉体600gとを混合し、これをロールミルで混合、分散することで複合粒子11を得た。
【0132】
有機粒子の製造
上記複合粒子1〜3の有機高分子物質の成分に該当する成分のみで有機粒子E〜Gを製造した。
製造例19 有機粒子Eの製造(複合粒子1の有機高分子物質)
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘプタン500gを加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、エチレングリコールジメタクリレート10g、アクリル酸2−ヒドロキシエチル20g、VPE−0201(和光純薬株式会社製)5gを加え、7時間反応させ固形分濃度18質量%の有機高分子粒子分散液を得た。この分散液を遠心分離し、有機粒子Eを得た。この粒子の粒径は2.2μmであった。
【0133】
製造例20 有機粒子Fの製造(複合粒子2の有機高分子物質)
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘプタン500gを加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル25g、エチレングリコールジメタクリレート10g、VPE−0601(和光純薬株式会社製)7gを加え、7時間反応させ固形分濃度18%の有機高分子粒子分散液を得た。この分散液を遠心分離し、粒径1.8μmの有機粒子Fを得た。
【0134】
製造例21 有機粒子Gの製造(複合粒子3の有機高分子物質)
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘプタン500gを加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル20g、アクリル酸ノニルフェノールエチレンオキサイド(平均重合度:8)20g、エチレングリコールジメタクリレート30g、V−59(和光純薬株式会社製)7gを加え、7時間反応させ固形分濃度13質量%の有機高分子粒子分散液を得た。この分散液を遠心分離し、粒径8μmの有機粒子Gを得た。
【0135】
製造例22 複合粒子12の製造
γ-PGAの代わりに、ポリスチレン、Mw=50000を用いる他は、製造例11と同様の方法でポリスチレンを粉砕し、ふるいで分級することにより、粒径40μmの有機粒子Hを得た。
ビーカーに上記樹脂溶液Dの樹脂固形分600g相当をはかり採り、上記有機粒子Hを400g加え、この混合物をディスパー攪拌機で撹拌、分散することで複合粒子12を得た。
【0136】
製造例23 複合粒子13の製造
γ-PGAの代わりに、ポリビニルアルコール、Mw=70000を用いる他は、製造例11と同様の方法でポリビニルアルコールを粉砕することにより、粒径30μmの有機粒子Iを得た。
ビーカーに上記樹脂溶液Dの樹脂固形分600g相当をはかり採り、上記有機粒子Iを400g加え、この混合物をディスパー攪拌機で撹拌、分散することで複合粒子13を得た。
【0137】
製造例24 複合粒子14の製造
絹(ユウシルク社製:商品名;丹後シルクパウダー100%)をジェット粉砕機で粉砕後、分級し表3に示した粒径を持つ有機粒子Jを得た。
上記有機粒子Jを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子14を得た。
【0138】
製造例25 複合粒子15の製造
γ-PGAをジェット粉砕機で粉砕し、分級して表3に示した粒径を持つ有機粒子Kを得た。
ビーカーに上記樹脂溶液Dの樹脂固形分600g相当をはかり採り、上記有機樹脂Kを400g加え、この混合物をディスパー攪拌機で撹拌、分散することで複合粒子15を得た。
【0139】
製造例26 複合粒子16の製造
絹(ユウシルク社製:商品名;丹後シルクパウダー100%)をジェット粉砕機で粉砕後、分級し表3に示した粒径を持つ有機粒子Lを得た。
上記有機粒子Lを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子16を得た。
【0140】
製造例27 有機粒子Mの製造
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘプタン400gを加え、80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル20g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、エチレングリコールジメタクリレート30g、アクリル酸2−ヒドロキシエチル10g、VPE−0201(和光純薬株式会社製)4gを加え、7時間反応させ固形分濃度22質量%の有機高分子粒子分散液を得た。この分散液を遠心分離し、有機粒子Mを得た。
【0141】
製造例28 複合粒子17の製造
絹(ユウシルク社製:商品名;丹後シルクパウダー100%)をジェット粉砕機で粉砕後、分級し表3に示した粒径を持つ有機粒子Nを得た。
上記有機粒子Nを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子17を得た。
【0142】
製造例29 複合粒子18の製造
絹(ユウシルク社製:商品名;丹後シルクパウダー100%)をジェット粉砕機で粉砕後、分級し表3に示した粒径を持つ有機粒子Oを得た。
上記有機粒子Oを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子18を得た。
【0143】
製造例30 複合粒子19の製造
絹(ユウシルク社製:商品名;丹後シルクパウダー100%)をジェット粉砕機で粉砕後、分級し表3に示した粒径を持つ有機粒子Pを得た。
上記有機粒子Pを800g、及び、上記樹脂溶液Gの樹脂固形分200g相当をはかり採り、これらを混合した。この混合物をSGミル分散装置で混合、分散することで、複合粒子19を得た。
【0144】
上記有機粒子A〜Pについて、以下の方法で人工海水への溶解度及び吸水量を測定した。
(溶解度及び吸水量)
室温で真空下(減圧下)乾燥した有機粒子A〜Pそれぞれ1gを精秤し、ASTM D1141−98に従い調製した50gの人工海水中に添加した後、23℃で5時間攪拌した。その後濾別し、残渣を水洗し、秤量して吸水量を求めた。
次に、室温で減圧下乾燥後、秤量し、海水への溶解度を求めた。結果を表1に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
実施例1〜14、比較例1〜7
表2及び表3に示した組成に基づき、各配合成分を、ディスパーを用いてガラスビーズで分散し、塗料を調製した。単位はすべて「g」である。得られた塗料について以下の評価を行った。
なお、使用した防汚剤は、表4に示したものである。
【0147】
(摩擦抵抗試験)
直径10cm、高さ10cmの塩ビ製円筒ドラムに得られた塗料を塗布し、海水中で回転させ(Re(レイノルズ数):2500000及び4000000、速度換算で約15ノット及び約25ノット)、トルクメーターにより摩擦抵抗を測定した。バフ処理によって鏡面仕上げした平滑な塩ビ製円筒ドラムの摩擦抵抗を標準として測定し、それぞれの摩擦抵抗の増減を表5に示した。海水浸漬直後、及び、1ヶ月浸漬後の摩擦抵抗を評価した。
【0148】
(防汚性)
さび止め塗料を塗布したブラスト板(300mm×10mm×1.6mm)に実施例1〜14、及び、比較例1〜7で得られた塗料を乾燥膜厚約300μmとなるように塗布し、2昼夜室内で放置し、乾燥させた。更に、この試験板を海水中に筏浸漬し、付着生物の面積%を目視評価した。結果を表5に示す。表中の月数は筏浸漬後の月数を示す。
【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
【表4】

【0152】
【表5】

【0153】
表5より、実施例により得られた塗料によって形成された塗膜は、優れた低摩擦性能を示すことが分かった。また、塗膜表面の状態も良好であった。更に、海水浸漬1カ月後に得られた摩擦抵抗値が初期に得られた摩擦抵抗値よりも減少していることから、実施例により得られた塗膜はいずれも、継続的に長期間にわたって優れた低摩擦性能を発揮することが分かった。なお、比較例7により得られた塗料組成物は、低摩擦性能は良好であったものの、60日間室温放置で塗料組成物中に凝集物がみられた。実施例により得られた塗料組成物には、凝集物の発生はみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の塗料組成物によって、低摩擦性能を有する塗膜を形成することができ、これによって船舶の運行におけるエネルギー使用量を低減することができ、省エネルギーを図るとともに、二酸化炭素排出量の低減によって、環境への負荷を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)、及び、分散剤(B)からなり、かつ、粒径が0.05〜100μmである複合粒子を配合して得られることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
有機高分子物質(A)は、天然物由来である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
有機高分子物質(A)は、カチオン性基を有する請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
有機高分子物質(A)は、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の有機高分子物質である請求項1、2又は3記載の塗料組成物。
【請求項5】
有機高分子物質(A)は、合成高分子である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項6】
有機高分子物質(A)は、アクリル系樹脂である請求項5記載の塗料組成物。
【請求項7】
複合粒子の含有量は、塗料固形分に対して0.01〜30質量%である請求項1、2、3、4、5又は6記載の塗料組成物。
【請求項8】
分散剤(B)は、一般式(1);
−COO−M−OOC−A (1)
(式中、Mは、2価又はそれ以上の金属であり、Aは、一塩基酸の有機酸残基である。)
で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の塗料組成物。
【請求項9】
分散剤(B)は、一般式(2);
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表す。)
で表される側鎖を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の塗料組成物。
【請求項10】
分散剤(B)は、一般式(1);
−COO−M−OOC−A (1)
(式中、Mは、2価又はそれ以上の金属であり、Aは、一塩基酸の有機酸残基である。)
で表される基を少なくとも1つ側鎖に有し、かつ、一般式(2);
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、イソプロピル基又はn−ブチル基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ側鎖に有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の塗料組成物。
【請求項11】
防汚塗料組成物である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の塗料組成物。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の塗料組成物によって形成されたものであることを特徴とする塗膜。
【請求項13】
被塗物表面に請求項12記載の塗膜を形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法。
【請求項14】
ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させることによって粒径が0.05〜100μm複合粒子を製造する工程、及び、前記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程
によって得られることを特徴とする塗料組成物。
【請求項15】
ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上である有機高分子物質(A)を分散剤(B)存在下で液体媒体中に分散させることによって粒径が0.05〜100μm複合粒子を製造する工程、及び、前記複合粒子と樹脂バインダーとを混合する工程
からなることを特徴とする塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−169628(P2007−169628A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319126(P2006−319126)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】