説明

塗料組成物、塗膜形成方法および塗膜構造

【課題】
自動車車体外板等の各種工業製品に対して、金属感に優れ、観察角度による色相の変化が抑制された質感の塗膜を形成可能な塗料組成物、塗膜形成方法及び塗膜構造を提供することである。
【解決手段】本発明は、光干渉性顔料、着色顔料及びマルチカラー光輝性顔料を含む塗料組成物であって、光干渉性顔料のハイライトにおける干渉色とマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色との関係及び着色顔料の色とマルチカラー光輝性顔料のハイライトの干渉色との関係が補色の関係にあることを特徴とする塗料組成物、塗膜形成方法及び塗膜構造に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属感に優れ、観察角度によって彩度が変化し且つ色相の変化が抑制された質感を呈する塗膜を形成可能な塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品には、商品力を高めるために、観察角度によって色も見え方が変化するメタリック塗色が適用される場合がある。特に観察角度によって、色相が大きく変化する塗色は、素材に立体感を与えるものとして着目されている。
【0003】
特許文献1は、立体的な光輝感を示す光輝性塗膜を形成可能な塗料組成物に関するものであり、コレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料とハイライトの色相が異なる干渉マイカ顔料を含む塗料組成物が開示されている。該塗料組成物を塗装して得られた塗膜は、ハイライト(塗膜を正面から観察)からシェード(塗膜を斜め方向から観察)にかけて、色相の変化が大きく、誘目性に優れる意匠を示すが、ハイライトからシェードにかけて彩度が高く、さらに色相の変化が大き過ぎる可能性が懸念され、その場合、塗装された工業製品の印象が奇抜なものとなってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−206444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属感に優れ、観察角度によって彩度が変化し且つ色相の変化が抑制された質感の塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
1.光干渉性顔料、着色顔料及びマルチカラー光輝性顔料を含む塗料組成物であって、マルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色と着色顔料の色との関係及び光干渉性顔料のハイライトの干渉色とマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色との関係が補色の関係にあることを特徴とする塗料組成物、
2.マルチカラー光輝性顔料が金属酸化物を被覆した鱗片状シリカである1項に記載の塗料組成物、
3.光干渉性顔料が金属酸化物を被覆した酸化アルミニウムである1項又は2項に記載の塗料組成物、
4.着色顔料が透明性顔料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物
5.基材に1〜4項のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、さらにトップクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法、
6.5項に記載の塗膜形成方法で形成された塗膜構造
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属感に優れ、観察角度によって彩度が変化し且つ色相の変化が抑制された質感の塗膜を形成可能な塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の塗料組成物は、光干渉性顔料、着色顔料及びマルチカラー光輝性顔料を含む。マルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色と着色顔料の色との関係及び光干渉性顔料のハイライトの干渉色とマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色との関係が補色の関係にある。
【0009】
光干渉性顔料とは、マイカ、人工マイカ、ガラス、酸化鉄、酸化アルミニウムや各種金属等鱗片状基材の表面に、二酸化チタンや酸化鉄等の基材と屈折率が異なる金属酸化物を被覆された顔料であって、金属酸化物層によって、干渉色を発現する顔料を意味する。
【0010】
光干渉性顔料及び後述するマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色とは具体的には、塗料組成物中に、光干渉性顔料又はマルチカラー光輝性顔料のみを着色材として含む塗料を塗装して得られた塗膜に45°の角度から光を照射して、正反射光に対して15°の方向において測色して得られた色を意味する。また、着色顔料の色とは、着色顔料のみを着色材として含む塗料を塗装して得られた塗膜に45°の角度から光を照射して、正反射光に対して45°の方向において測色して得られた色を意味する。
【0011】
2つの色が補色関係にあるとは、各々の色のL*C*h表色系における色相角度hの差Δhが180°であることを意味する。L*C*h表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されているL*a*b*表色系をベースに考案された表色系であって、hは色相角度を表わし、色度図において赤方向の軸を0°として、反時計方向に移動した角度である。各々の色の色相角度の差Δhとは、一方の色の色相角度h1と他方の色の色相角度h2との差分の角度の最小値を意味する。
【0012】
理想的には、本発明の塗料組成物において、光干渉性顔料のハイライトにおける干渉色と後述するマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色とは、前記色相角度の差Δhが180°であることが、本発明の塗料組成物を塗装して得られた塗膜の観察角度による色相変化を抑制する点から好ましいが、実際には、光干渉性顔料とマルチカラー光輝性顔料として上市されているものが限定されていることから、Δhが120°以上180°以下のものを組み合わせることが好ましく、さらに好ましくは130°以上180°以下とすること、より好ましくは150°以上180°以下とすることである。
【0013】
本明細書において、光干渉性顔料及び後述するマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色とは、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、光干渉性顔料又はマルチカラー光輝性顔料を15質量部配合して攪拌混合し、溶剤を添加して塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製して得られた塗料を、予め黒色(N−2)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して15°で受光した分光反射率に基づいて測定した測色値で定義するものとする。
【0014】
また、後述する着色顔料の色とは具体的には、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、該着色顔料を15質量部配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調整して得られた塗料を、予めグレー(N−6)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として30μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して測定した測色値で定義するものとする。
【0015】
本発明の塗料組成物においては特に塗装して得られる塗膜の金属感の点から光干渉性顔料として、鱗片状酸化アルミニウムの表面に二酸化チタンを被覆したものを使用することが好ましい。該光干渉性顔料の大きさは、平均粒径が5〜25μmの範囲内のものを使用することが、塗装された塗膜仕上がり性や粒子感の点から好ましく、より好ましくは粒径が7〜20μmの範囲内もの、特に好ましくは8〜18μmの範囲内ものである。厚さは0.05〜0.5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。ここでいう粒径及び厚さは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で該光干渉性顔料を観察して得られた数値を意味する。
【0016】
本発明における該光干渉性顔料の塗料組成物中への含有量は、塗装して得られる塗膜の観察角度によって色相が変化する効果や仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは2〜18質量部の範囲内、特に好ましくは3〜15質量部の範囲内である。また、後述するマルチカラー光輝性顔料と該光干渉性顔料との合計量として、塗装して得られる塗膜の仕上がり性の点から塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは2〜18質量部の範囲内、特に好ましくは3〜15質量部の範囲内である。
【0017】
本発明の塗料組成物は、マルチカラー光輝性顔料を含有する。マルチカラー光輝性顔料とは、塗料組成物中に配合せしめた場合に観察角度によって色相が変化する効果を付与する光輝性顔料であり、具体的には、例えば、マイカ、人工マイカ、ガラス、シリカ、酸化鉄、酸化アルミニウムや各種金属等鱗片状基材の表面に、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、二酸化チタン、酸化鉄、硫化亜鉛、硫化亜鉛、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化トリウム等の中から屈折率の異なるものを選択して3層以上の干渉皮膜を形成した顔料や、これら屈折率の異なる皮膜を3層以上積層させた顔料、金属酸化物で被覆された鱗片状シリカ等を挙げることができる。また、マルチカラー光輝性顔料の大きさは、塗装された塗膜の色相変化の程度や仕上がり性の点から前記光干渉性顔料と同様のものを使用することができる。
【0018】
本発明においては特に金属酸化物で被覆された鱗片状シリカを使用することが、塗装して得られる塗膜が耐候性に優れること及び入手が容易な点から好ましい。金属酸化物で被覆された鱗片状シリカは、表面が平滑で且つ厚さが均一な基材である鱗片状シリカを基材とは屈折率が異なる金属酸化物で被覆したものであり、金属酸化物層の厚さも均一であることから、塗料組成物に配合した場合に、塗装して得られた塗膜がハイライトからシェードにかけて大きく色変化するものである。
【0019】
本発明における該マルチカラー光輝性顔料の塗料組成物中への含有量は、塗装して得られる塗膜の観察角度によって色相が変化する効果や仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは2〜18質量部の範囲内、特に好ましくは3〜15質量部の範囲内である。
【0020】
本発明の塗料組成物は、マルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色と補色関係にある着色顔料を含有する。この組み合わせによって、塗装して形成された塗膜の観察角度による色相変化が抑制されたものになって、好ましい意匠の塗膜を形成可能な効果を奏する。
【0021】
本発明における着色顔料は、その色がマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色と補色関係にあるものであれば特に制限されるものではないが、具体的には、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明においては特に、上記着色顔料の中から、透明性着色顔料を用いることが、塗装して得られる塗膜の深み感や透明感の点から好ましい。透明性着色顔料とは具体的には、塗料中の樹脂固形分100質量部に基づいて顔料量が20質量部となるように配合して塗料化し、硬化塗膜厚が30μmとなるように平滑なPTFE板に塗装し、硬化、剥離した塗膜を分光光度計MPS−2450(商品名、島津製作所製)にて測定した可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率が90%以上となるような顔料を意味し、平均一次粒子径が100nm以下である顔料を意味する。
【0023】
本発明において、上記着色顔料の塗料組成物中への含有量は、塗装して得られる塗膜の観察角度によって色相が変化する効果や仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対し0.01〜20質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲内、特に好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。
仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対し5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部の範囲内である。
【0024】
本発明の塗料組成物には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、必要に応じてメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0025】
さらに、本発明の塗料組成物には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0026】
本発明の塗料組成物は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、12〜50質量%、好ましくは15〜30質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0027】
本発明の塗料組成物は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜45μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。本発明の塗料組成物の塗膜は通常、約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0028】
本発明の塗膜形成方法は、基材上に上記塗料組成物を塗装し、硬化乾燥せしめる方法に関するものである。
【0029】
本発明の塗膜形成方法において、基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等を挙げることができる。これら素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理して基材とすることができる。さらに、上記基材に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材とすることもでき、これらのものが特に好ましい。
【0030】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0031】
また、上記中塗り塗膜とは、下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与するために形成されるものであり、乾燥硬化した下塗り塗膜又は未硬化の下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料種は、特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。
【0032】
また、基材として、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を形成させる場合においては、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に本発明の塗料組成物を塗装することができる。あるいは、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が未硬化の状態で、塗装することもできる。
【0033】
本発明の塗膜形成方法においては、基材上に上記塗料組成物を塗装して得られた塗膜上にさらにトップクリヤー塗料を1層もしくは2層以上塗装して、トップクリヤー塗膜を形成させることができる。
【0034】
本発明の塗膜形成方法におけるトップクリヤー塗料は、樹脂成分および溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状塗料である。
【0035】
本発明方法におけるトップクリヤー塗料としては、従来公知のものが制限なく使用できる。例えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。基体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノ−ル基、エポキシ基などの架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、前記基体樹脂の官能基と反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、表面調整剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0036】
上記トップクリヤー塗料には、透明性を損なわない範囲内において、着色顔料を適時配合することができる。着色顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。その添加量は、適宜決定されて良いが、クリヤー塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以下、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0037】
上記トップクリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。トップクリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0038】
本発明の塗膜形成方法においては、本発明の塗料組成物を塗装後、加熱し、乾燥硬化後に、その塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装して加熱し、乾燥硬化させるいわゆる2C2B工程であっても良いが、該塗料組成物を塗装後にその未硬化の状態でトップクリヤー塗料を塗装して、その後に加熱し、これらを同時に硬化せしめるいわゆる2C1B工程で、複層塗膜を得ることもできる。
【0039】
本発明の塗膜構造は、上記塗膜形成方法で得られた塗膜構造に関するものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(製造例1)水酸基含有アクリル樹脂の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート50部を仕込み、撹拌混合し、135℃に昇温した。次いで下記のモノマー/重合開始剤の混合物を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート10部、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.6部からなる混合物を同温度に保持した1時間30分かけて滴下し、さらに2時間熟成した。次にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを減圧下で留去し、水酸基価54mgKOH/g、数平均分子量20,000、樹脂固形分65質量%の水酸基含有アクリル樹脂を得た。ここで数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
モノマー/重合開始剤の混合物:
メチルメタクリレ−ト38部、エチルアクリレ−ト17部、n−ブチルアクリレ−ト17部、ヒドロキシエチルメタクリレ−ト7部、ラウリルメタクリレ−ト20部及びアクリル酸1部及び2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)2部からなる混合物。
(製造例2)アクリル樹脂エマルションの製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水130質量部、アクアロンKH−10(商品名、界面活性剤、第一工業製薬社製)0.52質量部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで下記のモノマー乳化物(1)のうちの全量の1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3質量部とを反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物(1)を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、下記のモノマー乳化物(2)を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%ジメチルエタノールアミン水溶液40質量部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、平均粒子径100nm(サブミクロン粒度分布測定装置「COULTER N4型」(ベックマン・コールター社製)を用いて、脱イオン水で希釈し20℃で測定した。)、固形分濃度30%のアクリル樹脂エマルションを得た。得られたアクリル樹脂は、酸価が33mgKOH/g、水酸基価が25mgKOH/gであった。
【0041】
モノマー乳化物(1):脱イオン水42質量部、アクアロンKH−10 0.72質量部、メチレンビスアクリルアミド2.1質量部、スチレン2.8質量部、メチルメタクリレート16.1質量部、エチルアクリレート28質量部及びn−ブチルアクリレート21質量部を混合攪拌して得られたモノマー乳化物(1)。
【0042】
モノマー乳化物(2):脱イオン水18質量部、アクアロンKH−10 0.31質量部、過硫酸アンモニウム0.03質量部、メタクリル酸5.1質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5.1質量部、スチレン3質量部、メチルメタクリレート6質量部、エチルアクリレート1.8質量部及びn−ブチルアクリレート9質量部を混合攪拌して得られたモノマー乳化物(2)。
(製造例3)ポリエステル樹脂の製造
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン109質量部、1,6−ヘキサンジオール141質量部、ヘキサヒドロ無水フタル酸126質量部及びアジピン酸120質量部を仕込み、160℃から230℃に達するまでの時間を3時間となるように昇温させた後、230℃で4時間縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物にカルボキシル基を付加するために、さらに無水トリメリット酸38.3質量部を加え、170℃で30分間反応させた後、2−エチル−1−ヘキサノールで希釈し、固形分濃度70%であるポリエステル樹脂溶液を得た。得られたポリエステル樹脂は、酸価が46mgKOH/g、水酸基価が150mgKOH/g、重量平均分子量が6,400であった。ここで重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
(製造例4)着色顔料分散体1の調製
225ml容マヨネーズビンに、GREEN L8730(商品名、塩素化銅フタロシアニン緑顔料、平均粒径40nm、BASF社製)を7.4部、製造例3で得られたポリエステル樹脂溶液53部及び脱イオン水50部を配合し、さらに1.5mm径のジルコニアビーズ130部を投入して密栓し、振とう型ペイントコンディショナーを使用して120分分散した。分散後100メッシュの金網濾過を行なってジルコニアビーズを除去して、着色顔料分散体1を得た。
(製造例5)着色顔料分散体2の調製
225ml容マヨネーズビンに、MONARCH1300(商品名、高漆黒性カーボンブラック顔料、キャボットスペシャリティケミカルズ社製)を7.4部、製造例3で得られたポリエステル樹脂溶液53部及び脱イオン水50部を配合し、さらに1.5mm径のジルコニアビーズ130部を投入して密栓し、振とう型ペイントコンディショナーを使用して120分分散した。分散後100メッシュの金網濾過を行なってジルコニアビーズを除去して、着色顔料分散体2を得た。
(製造例6)高濃度光輝性顔料液1の調製
ステンレス製ビーカー内において、COLOR STREAM T20−01 WNT Viola Fantasy(商品名、酸化チタン被覆シリカフレークマルチカラー光輝性顔料、メルク社製)100部、エチレングリコールモノブチルエーテル130質量部を攪拌混合して、高濃度光輝性顔料液1を得た。
(製造例7)高濃度光輝性顔料液2の調製
ステンレス製ビーカー内において、Xirallic T60−24 WNT Stellar Green(商品名、酸化チタン被覆酸化アルミニウム顔料、干渉色=緑、メルク社製)を100部、エチレングリコールモノブチルエーテル130部を攪拌混合して、高濃度光輝性顔料液2を得た。
(光輝性顔料の干渉色及び着色顔料の色測定)
実施例及び比較例に使用する光輝性顔料の干渉色と着色顔料の色を以下の要領で測定し、結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
光輝性顔料のハイライトにおける干渉色は、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂固形分100部あたり、光輝性顔料を15部配合して攪拌混合し、溶剤を添加して塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製して得られた塗料を、予め黒色(N−2)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して15°で受光した分光反射率に基づいて測定したL*C*h表色系における色相角度hで示した。
【0045】
また、着色顔料の色とは具体的には、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂固形分100部あたり、着色顔料を15部配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調整して得られた塗料を、予めグレー(N−6)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として30μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して45°で受光した分光反射率に基づいて測定したL*C*h表色系における色相角度hで示した。
【0046】
実施例1〜5、比較例1〜4
製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、光輝性顔料及び着色顔料を表2に示す比率で配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調整し、実施例1〜5及び比較例1〜4に使用する塗料組成物を作成した。
【0047】
実施例6
製造例2で得られたアクリル樹脂エマルション100部、製造例3で得られたポリエステル樹脂溶液51.8部、製造例4で得られた着色顔料分散体1を6.7部、製造例5で得られた着色顔料分散体2を4部、高濃度光輝性顔料液1を11.5質量部、高濃度光輝性顔料液2を11.5質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性塗料組成物を調製した。
【0048】
実施例6で調整した塗料組成物における光輝性顔料及び着色顔料の比率は、実施例4と同一である。
(試験板の作成)
基材の調整
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400×300×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0049】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗りグレ−」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板を基材とした。
塗装
(1)で調整した基材に実施例及び比較例で調整した塗料組成物をそれぞれREAガンを用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、25μmとなるように塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、これらの未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、25〜35μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板を得た。
(意匠性の評価)
上記試験板の意匠性を以下の要領にて評価し、結果を表2に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
(1)観察角度による色相変化
目視:作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、ハイライト(正面)〜シェード(スカシ)への色相変化を目視にて評価した。
◎:色相変化が適度に抑制されている。
○:色相変化が抑制されている。
△:色相変化が少ない又は過剰である。
×:色相変化がない又は著しく過剰である。
Δh:作成した塗板のΔh(L*C*h表色系における色相角度hの差)をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して15°と75°の受光角度で測定した分光反射率に基づいて、L*C*h表色系における色相角度の差Δhを計算した。
(2)金属感
作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、金属感(ハイライト〜シェードへの明度変化)を目視にて評価した。
◎:金属感に優れる。
○:金属感がある。
△:金属感に乏しい。
×:金属感がない。
(3)観察角度による彩度変化
作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、ハイライト(正面)〜シェード(スカシ)への彩度変化を目視にて評価した。
◎:ハイライト〜シェードに彩度が大きく上昇。
○:ハイライト〜シェードに彩度がやや上昇。
△:ハイライト〜シェードへの彩度変化に乏しい。
×:ハイライト〜シェードへの彩度変化にない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の塗料組成物、塗膜形成方法及び塗膜構造は、各種工業製品、特に自動車車体の外板に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光干渉性顔料、着色顔料及びマルチカラー光輝性顔料を含む塗料組成物であって、マルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色と着色顔料の色との関係及び光干渉性顔料のハイライトの干渉色とマルチカラー光輝性顔料のハイライトにおける干渉色との関係が補色の関係にあることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
マルチカラー光輝性顔料が金属酸化物を被覆した鱗片状シリカである請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
光干渉性顔料が金属酸化物を被覆した酸化アルミニウムである請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
着色顔料が透明性顔料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
基材に請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、さらにトップクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の塗膜形成方法で形成された塗膜構造。

【公開番号】特開2011−1536(P2011−1536A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65331(P2010−65331)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】