説明

塗料組成物、塗膜組成物、及びエラストマー被覆ガスケット、並びにガスケットの固着防止方法

【課題】 例えばエラストマーを被覆したガスケットにおいて、そのガスケット本来のシール性を損なわせることなく、相手材へのエラストマー成分の固着を効果的かつ効率的に防止することができる塗料組成物、塗膜組成物、及びその塗料組成物が塗布されたエラストマー被覆ガスケット、並びにガスケットの固着防止方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物を、エラストマーを被覆したガスケットのエラストマー被覆層上に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び塗膜組成物に関し、特に、例えばエラストマーを被覆したガスケットの固着防止に用いて好適な塗料組成物、塗膜組成物、及びその塗料組成物が塗布されたエラストマー被覆ガスケット、並びにガスケットの固着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属ガスケットには、シリンダ等の相手材との密着性を向上させるために、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のエラストマーを被覆させることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、NBRをケトン系溶剤にて塗料化させ、ミクロシール性に優れたガスケット用ゴム被覆ステンレス鋼板を作成する方法が提案されている。また、特許文献2には、鉄合金体の表面に、タルク、クレー、二硫化モリブデン、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ及びアルミナ等を配合したエポキシ樹脂塗料の硬化塗膜を形成したエポキシ樹脂塗布鉄合金体が提案されている。また、特許文献3には、ゴム層の上に、フッ素樹脂、フッ素ゴム、加硫剤及び液状担体からなる非粘着処理用塗料組成物を塗装することにより非粘着処理層が積層形成された積層体が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、ミクロシール皮膜としての特性を備えたガスケットの連続コーティング法による効率的な製造方法に関するものであり、NBRのみでは、ミクロシール特性は得られるものの、NBRが高温で軟化することによって、ガスケットの相手材に固着してしまう問題が生じる。
【0005】
また、特許文献2に記載の技術では、無機微細体を含有するエポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂塗料を用いることにより、鉄合金体に対する塗布性は改善されるものの、エポキシ樹脂では可撓性が不十分であるため、ガスケット本来の密着性が損なわれてしまい、また相手材への固着防止に対する考え方はなされていない。
【0006】
このように、特許文献1及び2に記載の技術は、例えば自動車のエンジン部等の高温環境で使用される場合等では、ガスケットに被覆したエラストマーが高温によって軟化し、相手材に固着してしまう問題がある。
【0007】
この点に関して特許文献3に記載の技術では、フッ素ゴムを用いてゴム本来のシール性を損なわせることなくゴム層の固着を防止することが記載されている。しかしながら、この技術において使用するフッ素ゴムは高価な材料であり、ガスケットに被覆したエラストマー成分の相手材への固着を、効率的に防止することはできない。
【0008】
以上のように、これまでの技術では、ガスケット本来のシール性を損なわせることなく、ガスケットに被覆したエラストマーの軟化による相手材への固着を、効果的にかつ効率的に防止できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2663320号公報
【特許文献2】特許第3737569号公報
【特許文献3】特開2009−190171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、例えばエラストマーを被覆したガスケットにおいて、そのガスケット本来のシール性を損なわせることなく、相手材へのエラストマー成分の固着を効果的かつ効率的に防止することができる塗料組成物、塗膜組成物、及びその塗料組成物が塗布されたエラストマー被覆ガスケット、並びにガスケットの固着防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アニオン性ポリエステル系水系ウレタン樹脂と固体潤滑剤とを所定量含有してなる塗料組成物を、エラストマーを被覆したガスケットの被覆層に塗膜することにより、そのガスケット本来のシール性を損なわせることなく、ガスケットに被覆したエラストマー成分の相手材への固着を防止することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る塗料組成物は、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、当該塗料組成物の固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる。
【0013】
また、本発明に係る塗膜組成物は、固形分中、9質量%以上15質量%以下のアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、85質量%以上91質量%以下の固体潤滑剤とを含有してなる。
【0014】
また、本発明に係るエラストマー被覆ガスケットは、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物がエラストマー被覆層上に塗布されてなる。
【0015】
また、本発明に係るガスケットの固着防止方法は、エラストマーを被覆したガスケットの相手材に対する該エラストマーの固着を防止するガスケットの固着防止方法であって、上記ガスケットのエラストマー被覆層上に、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物を塗布する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えばNBR等のエラストマーを被覆したガスケット等において、高い密着性を付与してその本来のシール性を損なわせることなく、エラストマー成分の相手材への固着を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態では、本発明に係る塗料組成物を、エラストマーを被覆したガスケットにおいてそのエラストマー表面に塗布して適用する場合を例に挙げて説明する。
【0018】
本実施の形態に係る塗料組成物は、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有してなるものである。そして、この塗料組成物は、塗料組成物の固形分(100質量%)中に、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下の割合で含有し、固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有する。
【0019】
そして、この塗料組成物を塗布することによって形成される塗膜組成物は、固形分中、9質量%以上15質量%以下のアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、85質量%以上91質量%以下の固体潤滑剤とを含有してなる。
【0020】
このような塗料組成物及び塗膜組成物によれば、所定量のアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂が含有されてなることにより、その塗膜組成物に高い可撓性を付与し、ガスケットとエラストマーとの間に高い密着性を与えることができ、ガスケット及びエラストマー本来のシール機能を維持することができる。また、そのアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂に対して、高濃度に固体潤滑剤が含有されてなることにより、ガスケットに被覆したエラストマーが高温で軟化した場合でも、その塗膜組成物が、ガスケットの相手材(例えば、ワッシャ等)への固着を効率的かつ効果的に防止する。
【0021】
アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂としては、ゴムやプラスチックに対する密着性が良好なものであれば特に制限されないが、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に対する密着性がクロスカット法(JIS K 5600−5−6:1mm)による評価分類で1以下であるものが好ましい。これにより、より効果的にガスケットとエラストマーとの間に高い密着性を付与することができる。
【0022】
アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の含有量は、上述のように、塗料組成物の固形分(100質量%)中において、9質量%以上15質量%以下の割合とする。含有量を9質量%以上とすることにより、形成させた塗膜の表面剥離を防止し、またその高い可撓性の効果を十分に発揮させることができ、エラストマーを被覆したガスケット本来のシール性を維持させることができる。また、含有量を15質量%以下とすることにより、ガスケット本来のシール性を損なわせることなく、ガスケットに被覆したエラストマー成分の相手材への固着を効果的に防止することができる。
【0023】
なお、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の塗料組成物全質量に対する配合量としては、塗料組成物の固形分中の含有量が上述した範囲となるように調製すれば特に限定されないが、例えば15質量%以上25質量%以下の割合とする。
【0024】
固体潤滑剤としては、特に制限されないが、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、及びポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。特に、二硫化モリブデンは高荷重に適しており、またポリテトラフルオロエチレンは滑り性に優れており低摩擦係数を有するという観点からより好ましい。使用する固体潤滑剤の平均粒径としては、特に制限されないが、二硫化モリブデンでは10μm以下、グラファイトでは10μm以下、及びポリテトラフルオロエチレンでは10μm以下であるものが好ましい。
【0025】
これら固体潤滑剤は、1種単独で、又は2種以上を混合させて用いることができる。特に、上述した二硫化モリブデンとポリテトラフルオロエチレンとを混合して配合させた固体潤滑剤を用いることによって、より効果的にエラストマー成分の固着を防止することができる。
【0026】
固体潤滑剤の含有量は、上述のように、塗料組成物の固形分(100質量%)中において、85質量%以上91質量%以下の割合とする。含有量を85質量%以上とすることにより、ガスケットに被覆したエラストマー成分の相手材への固着を効果的に防止することができる。また、含有量を91質量%以下とすることにより、ガスケット本来の密着性を損なわせことなく、エラストマーの固着を効果的に防止することができる。このように、水系ウレタン樹脂に対して、高濃度に固体潤滑剤を配合させることにより、効果的にエラストマー成分の高温軟化によるガスケットの相手材への固着を防止することができる。
【0027】
なお、固体潤滑剤の塗料組成物全質量に対する配合量としては、塗料組成物の固形分中の含有量が上述した範囲となるように調製すれば特に限定されないが、例えば48質量%以上58質量%以下の割合とする。
【0028】
溶剤は、上述したアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂や固形潤滑剤等を溶解又は分散させるために用いる。この溶剤としては、特に制限されないが、水や各種有機溶剤を用いることができる。その中でも、安全かつ効率的に製造及び使用できるという観点から、水を溶剤として用いることが好ましい。または、水よりも揮発し難い性質を有しコーティング時の操作性を向上できるという観点から、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0029】
上述した溶剤は、1種単独で、又は2種以上を混合させて用いることができる。特に、2種以上を混合させて用いる場合には、水と、上述したポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等から選ばれる有機溶剤との混合溶剤とすることが好ましい。
【0030】
なお、溶剤の塗料組成物全質量に対する配合量としては、溶解又は分散させる成分量によっても異なるが、例えば17質量%以上27質量%以下の割合とする。
【0031】
本実施の形態における塗料組成物は、上述したアニオン性ポリエチレン系ウレタン樹脂、固体潤滑剤、及び溶剤以外にも、必要に応じて、種々の添加剤を含有させることが可能である。必要に応じて添加できる添加剤としては、例えば極圧剤、着色剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤等が挙げられる。ただし、これらの添加剤を配合することにより、要求される性能を低下させないことが前提となる。
【0032】
以上のように、本実施の形態に係る塗料組成物は、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、塗料組成物の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を5質量%以上9質量%以下、固体潤滑剤を86質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる。これにより、エラストマーを被覆したガスケットに対し、この塗料組成物をエラストマー(被覆層)の表面に塗布することによって、エラストマーが高温によって軟化することでガスケットの相手材、例えばワッシャ等に固着することを効果的に抑制することができる。したがって、特に、自動車のエンジン部位のような高温環境において用いられるようなガスケット等に対して好適に用いることができ、メンテナンス時等においてガスケットの相手材への固着を効果的に防止して、メンテナンス作業を効率的に行うことが可能となる。
【0033】
ここで、上述した塗料組成物をエラストマー被覆層の表面に塗布した場合、その表面上には、固形分中、9質量%以上15質量%以下のアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、85質量%以上91質量%以下の固体潤滑剤とを含有してなる塗膜組成物が形成される。
【0034】
上述した塗料組成物を塗布することができるエラストマーとしては、特に限定されるものではなく、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等、周知のエラストマーに対して適用することができる。また、エラストマーとしては、上述した主原料に対して、カーボンブラック、シリカ、炭カルセライト等の充填剤や、老化防止剤、加工助剤、加硫剤等を配合してなるものであってもよい。
【0035】
また、エラストマー等の塗膜形成対象に対する上述した塗料組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えばスプレーコーティング、浸漬塗布、ハケ塗り、フローコーティング、ディスペンサーコーティング、スクリーンコーティング等が挙げられる。なお、エラストマーの表面等へ塗布する前に、その表面を充分に脱脂及び洗浄しておくことが好ましい。
【0036】
このように、エラストマーの表面に、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂に対して高濃度に固体潤滑剤を含有する塗膜組成物が形成されたエラストマー被覆ガスケットでは、そのエラストマー成分が高温で軟化した場合でも、ガスケットの相手材に対する固着を防止することができる。また、その形成された塗膜組成物には、9質量%以上15質量%以下の割合でアニオン系ポリエステルウレタン樹脂が含有されているので、ガスケットに対して高い密着性を付与することができ、ガスケット本来の密着性を損なわせることなく、効果的にエラストマーの固着を防止することができる。
【0037】
なお、上述の説明においては、主としてエラストマーに対して塗料組成物を塗布する態様を例に挙げてきたが、塗布対象としてはエラストマーに限られるものではなく、またガスケット以外にもエラストマー等の被覆層を設けた基材に対して本発明を適用することができる。例えば、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の汎用樹脂や耐熱性樹脂の成形品や被覆物等の基材に対しても好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<密着性の評価>
先ず、下記のようにして作製した塗料(実施例1、比較例1〜3)を、スポンジローラーを用いて試験片(ガスケットパッキンの端材)に塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜の密着性評価を行った。密着性評価は、JIS K 5600−5−6付着性(クロスカット法)に基づいて、カッターガイドのすきま間隔を1mmとして評価した。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、固体潤滑剤である二硫化モリブデン31.0質量%及びポリテトラフルオロエチレン21.5質量%に、溶媒として水5.9質量%及びプロピレングリコール16.3質量%を配合し、さらに添加剤3.9質量%を添加して、そこにスチールビーズを各成分の合計量と同容量入れて高速ディスパー(DISPERMAT AE、VMA−GETZMANN GmbH社製)にて30分間攪拌した。
【0041】
続いて、ろ過によりスチールビーズを除去した後、水系ウレタン樹脂であるアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂(スーパーフレックス210、第一工業製薬株式会社製)21.4質量%(固形分7.5質量%)を配合し、高速ディスパーにて10分間攪拌して塗料を作製した。
【0042】
得られた塗料の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の固形分が12.5質量%、二硫化モリブデンが51.7質量%、ポリテトラフルオロエチレンが35.8質量%の割合で含有されていた。固体潤滑剤とアニオン性ポリウレタン樹脂との質量比は、7:1であった。
【0043】
(比較例1)
比較例1では、水系ウレタン樹脂として、アニオン性カーボネート系ウレタン樹脂(スーパーフレックス410、第一工業製薬株式会社製)18.7質量%(固形分7.5質量%)を配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。なお、水系ウレタン樹脂の減量分は、水で調製した。得られた塗料の固形分(100質量%)中の、水系ウレタン樹脂、二硫化モリブデン及びポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、実施例1と同じであった。
【0044】
(比較例2)
比較例2では、水系ウレタン樹脂として、ノニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂(ボンディック2220、DIC株式会社製)18.8質量%(固形分7.5質量%)を配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。なお、水系ウレタン樹脂の減量分は、水で調製した。得られた塗料の固形分(100質量%)中の、水系ウレタン樹脂、二硫化モリブデン及びポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、実施例1と同じであった。
【0045】
(比較例3)
比較例3では、水系ウレタン樹脂として、カチオン性エーテル系ウレタン樹脂(スーパーフレックス600、第一工業製薬株式会社製)30.0質量%(固形分7.5質量%)を配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。なお、水系ウレタン樹脂の減量分は、水で調製した。得られた塗料の固形分(100質量%)中の、水系ウレタン樹脂、二硫化モリブデン及びポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、実施例1と同じであった。
【0046】
表1に、実施例1及び比較例1〜3で作成した塗料を塗布して形成した塗膜組成物及びその塗膜組成物の密着性評価の評価結果を示す。なお、密着性評価は、JIS K 5600−5−6付着性(クロスカット法)の評価に基づき、分類0〜5の6段階評価で行った。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を用いた実施例1では全く剥離することなく分類0の評価となり、高い密着性があることが示された。一方で、その他の水系ウレタン樹脂を用いた比較例1〜3では、剥離が生じて分類5の評価となり、密着性が得られないことが示された。
【0049】
<固着の評価>
次に、実施例1で作製した塗料、及び下記のようにして作製した塗料(実施例2、3、比較例4、5)を用いてNBRの表面に塗膜を形成し、NBRのワッシャへの固着の状態を調べた。固着性評価は、ボルト穴をあけたNBRの表面にスポンジローラーを用いて塗料を塗布し、ワッシャで挟みこみボルトを規定の締め付け力で締め、200℃で1時間放置し、冷却後、ワッシャを外してワッシャへのNBRの固着の状態を確認した。なお、併せて密着性の評価もJIS K 5600−5−6付着性(クロスカット法:1mm)に基づいて行った。
【0050】
(実施例2)
実施例2では、水系ウレタン樹脂であるアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を24.5質量%(固形分8.6質量%)、二硫化モリブデンを30.4質量%、ポリテトラフルオロエチレンを21.0質量%の割合で配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。
【0051】
得られた塗料の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の固形分が14.3質量%、二硫化モリブデンが50.7質量%、ポリテトラフルオロエチレンが35.0質量%の割合で含有されていた。固体潤滑剤とアニオン性ポリウレタン樹脂との質量比は、6:1であった。
【0052】
(実施例3)
実施例3では、水系ウレタン樹脂であるアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を15.6質量%(固形分5.5質量%)、二硫化モリブデンを32.3質量%、ポリテトラフルオロエチレンを22.3質量%の割合で配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。
【0053】
得られた塗料の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の固形分が9.1質量%、二硫化モリブデンが53.7質量%、ポリテトラフルオロエチレンが37.2質量%の割合で含有されていた。固体潤滑剤とアニオン性ポリウレタン樹脂との質量比は、10:1であった。
【0054】
(比較例4)
比較例4では、水系ウレタン樹脂であるアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を28.6質量%(固形分10.0質量%)、二硫化モリブデンを29.5質量%、ポリテトラフルオロエチレンを20.5質量%の割合で配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。
【0055】
得られた塗料の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の固形分が16.6質量%、二硫化モリブデンが49.2質量%、ポリテトラフルオロエチレンが34.2質量%の割合で含有されていた。固体潤滑剤とアニオン性ポリウレタン樹脂との質量比は、5:1であった。
【0056】
(比較例5)
比較例5では、水系ウレタン樹脂であるアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を34.3質量%(固形分12.0質量%)、二硫化モリブデンを28.3質量%、ポリテトラフルオロエチレンを19.7質量%の割合で配合させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製した。
【0057】
得られた塗料の固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂の固形分が20.0質量%、二硫化モリブデンが47.2質量%、ポリテトラフルオロエチレンが32.8質量%の割合で含有されていた。固体潤滑剤とアニオン性ポリウレタン樹脂との質量比は、4:1であった。
【0058】
表2に、実施例1〜3及び比較例4、5で作製した塗料を塗布して形成した塗膜組成物及びその塗膜組成物の固着性評価及び密着性評価の試験結果を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下とし、固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗膜組成物を形成させた実施例1〜3では、ワッシャに対してのNBRの固着は認められなかった。また、密着性についても、実施例1及び2では分類0、実施例3では分類1の評価となり、高い密着性を得ることができた。
【0061】
一方で、固形分(100質量%)中、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂が16.6質量%であり、固体潤滑剤が83.4質量%の割合で含有された塗膜組成物を形成させた比較例4では、高い密着性は得られたものの、5%程度のNBRの固着が認められた。また、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂が20.0質量%であり、固体潤滑剤が80.0質量%の割合で含有された塗膜組成物を形成させた比較例5では、10%程度のNBRの固着が認められた。
【0062】
以上の結果から、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中に、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物を、例えばガスケットに被覆されるNBR等のエラストマーの表面に塗布することによって、高い密着性を付与してガスケット本来のシール性を損なわせることなく、ガスケットの相手材に対してエラストマー成分が固着することを効果的かつ効率的に防止できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、当該塗料組成物の固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物。
【請求項2】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
エラストマーを被覆したガスケットの該エラストマー被覆層上に塗布され、該ガスケットの相手材に対する該エラストマーの固着を防止する固着防止用であることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
固形分中、9質量%以上15質量%以下のアニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、85質量%以上91質量%以下の固体潤滑剤とを含有してなる塗膜組成物。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の塗膜組成物。
【請求項6】
エラストマーを被覆したガスケットの該エラストマー被覆層上に塗膜されることを特徴とする請求項4又は5記載の塗膜組成物。
【請求項7】
少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物がエラストマー被覆層上に塗布されてなるエラストマー被覆ガスケット。
【請求項8】
エラストマーを被覆したガスケットの相手材に対する該エラストマーの固着を防止するガスケットの固着防止方法であって、
上記ガスケットのエラストマー被覆層上に、少なくとも、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂と、固体潤滑剤と、溶剤とを含有し、固形分(100質量%)中、該アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂を9質量%以上15質量%以下、該固体潤滑剤を85質量%以上91質量%以下の割合で含有してなる塗料組成物を塗布することを特徴とするガスケットの固着防止方法。

【公開番号】特開2012−219183(P2012−219183A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86199(P2011−86199)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】