説明

塗料組成物、塗装仕上げ方法および塗装物品

【課題】 クリヤーオンクリヤー付着性、リコート性、耐水性、耐酸性、外観性、塗膜硬度および耐擦り傷性に優れた塗膜を形成でき、かつ、1液型塗料として十分な安定性を有する塗料組成物を提供する。
【解決手段】 (A)1分子中に、カルボキシル基を2個以上含有するポリエステル樹脂、
(B)1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するラジカル共重合体、
(C)1分子中にエポキシ基を2個以上含有するラジカル共重合体、
(D)水酸基と反応する架橋剤、
を必須成分として含有し、
(A)成分、(B)成分、(C)成分の溶解性パラメーター(SP値)が全て9.5〜11.2(cal/cm1/2であり、(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率が当量比で0.7〜1.3であり、かつ、(D)成分の含有割合が全樹脂固形分中1〜15質量%であることを特徴とする塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塗料組成物、塗装仕上げ法及び塗装物品に関する。さらに詳しく言えば、自動車塗装分野においては、高いリコート性及びクリヤーオンクリヤー付着性、耐水性、耐酸性、外観性、塗膜硬度および耐擦り傷性に優れた塗膜を形成でき、1液型塗料として十分な安定性を有し、また、同一クリヤー塗膜上におけるオーバーコート塗膜の形成も可能である塗料組成物及び塗装仕上げ法、並びにそれによって得られる塗装物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車塗装分野においては、上塗り塗料に、高い耐侯性、耐酸性及び優れた外観性を有する塗膜を得ることが要求されている。
酸/エポキシ架橋を用いた技術としては、(a)少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物、(b)少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物、及び(c)樹脂固形分の合計100重量部に対して0.01〜3.0重量部のオニウム塩を含有する液体塗料組成物が、クリヤー塗料組成物として知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この塗料組成物においては、耐水性、及びクリヤーオンクリヤー付着性が不十分であった。
【0003】
また、貯蔵安定性が良好で、しかも低温硬化性、耐酸性、耐擦り傷性などに優れた塗膜を形成しうる熱硬化性被覆用樹脂組成物として、(A)(a)酸無水基含有重合性不飽和化合物をモノアルコールにてハーフエステル化してなる重合性不飽和モノマー、(b)水酸基含有重合性不飽和化合物と酸無水基含有化合物とのハーフエステル化物である炭素原子数が9〜24のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、及び(c)他の共重合性モノマーを共重合させてなる重量平均分子量が1,500〜10,000の範囲内にあるハーフエステル基含有共重合体、(B)ポリエステルポリオールと酸無水基含有化合物とをハーフエステル化反応させてなる数平均分子量800〜5,000のカルボキシル基含有ポリエステル、及び(C)エポキシ当量が200〜800、アルコキシシリル基当量が300〜10,000、重量平均分子量が1,500〜10,000の共重合体を含有する熱硬化性被覆用樹脂組成物が、知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この塗料組成物においては、耐水性、及びクリヤーオンクリヤー付着性が不十分であった。
【0004】
また、酸基とエポキシ基と水酸基とを有する硬化性樹脂組成物の固形分濃度を高めるとともに、架橋密度を増加させる技術として、(a)(i)(1)酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーと(2)酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとを共重合させることにより得られる共重合体と、(ii)1〜12個の炭素原子を有するモノアルコールとを反応させることにより得られる、カルボキシル基とカルボン酸エステル基とを有するアクリル系ポリカルボン酸10〜70質量%、(b)多官能ポリオール、ラクトン化合物、および酸無水物から得られる、ポリエステルポリカルボン酸10〜70質量%、ならびに(c)水酸基とエポキシ基とを有するアクリル系ポリエポキシド10〜80質量%において、上記ポリエステルポリカルボン酸(b)の分岐性が70%以上であることを特徴としている硬化性樹脂組成物が、知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この塗料組成物においては、耐水性、及びクリヤーオンクリヤー付着性が不十分であった。
【0005】
また、上塗り塗料に、高い耐侯性、耐酸性、および、優れた外観性を有する塗膜を得ることができ、さらに、サーキュレーションでの使用に耐えうる十分な貯蔵安定性が得られる塗料組成物として、(A)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体と、その他のラジカル重合性単量体との共重合によって得られる1分子中にカルボキシル基を2個以上含有し、酸価が100〜300mgKOH/g、重量平均分子量が2,000〜30,000である樹脂であって、かつ、樹脂固形分中にラクトン化合物に基づく構成単位を5〜50質量%含有するカルボキシル基含有樹脂、(B)1分子中にエポキシ基を2個以上含有するエポキシ基含有樹脂、(C)紫外線吸収剤、及び(D)塩基性度(pKb)が9以上である光安定剤を必須成分として含有し、(A)成分のカルボキシル基と(B)成分のエポキシ基との割合が、モル比で75/25〜25/75の範囲である塗料組成物が、知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、この塗料組成物においては、クリヤーオンクリヤー付着性が不十分であった。
【0006】
また、塗膜性能、メタリック感等の仕上がり性に優れた塗膜を形成する水性塗料組成物として、(a)多価アルコール、(b)多価カルボン酸及び/又は多価カルボン酸無水物、及び(c)長鎖炭化水素基を有するモノエポキシド化合物を反応させて得られる、50〜600mgKOH/gの範囲内の水酸基価及び300〜3,000の範囲内の数平均分子量を有するポリエステルポリオールに、さらに、(d)多価カルボン酸及び/又は多価カルボン酸無水物、及び/又は(e)ポリイソシアネート化合物を反応させて得られる、10〜300mgKOH/gの範囲内の水酸基価、10〜100mgKOH/gの範囲内の酸価及び400〜6,000の範囲内の数平均分子量を有するポリエステル樹脂を用いることが知られている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、クリヤー塗料に用いた場合、水性かつ高極性であるために耐水性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平9−509696号公報
【特許文献2】特開2002−060672号公報
【特許文献3】特開2007−238896号公報
【特許文献4】特開2007−177216号公報
【特許文献5】再公表WO2005−121209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、リコート性、クリヤーオンクリヤー付着性、耐水性、耐酸性、外観性、塗膜硬度および耐擦り傷性に優れた塗膜を形成でき、かつ、1液型塗料として十分な安定性を有する塗料組成物、塗装仕上げ法及び塗装物品を提供することにある。
ここで、リコート性とは、少なくとも着色ベースコート塗料、クリヤー塗料を用いた3コート2ベーク、3コート1ベーク等の塗装仕上げ法により塗装され、焼き付けて得られた表面塗膜が、クリヤー塗料を塗装したクリヤー塗膜である複層塗膜のクリヤー塗膜に、再び下地と同一の着色ベースコート塗料を塗装し、さらに未架橋のまま下地と同一のクリヤー塗料を塗装し焼き付けることによって得られた複層塗膜の付着性を意味する。
また、クリヤーオンクリヤー付着性とは、少なくとも着色ベースコート塗料、クリヤー塗料を用いた3コート2ベーク、3コート1ベーク等の塗装仕上げ法により塗装され、焼き付けて得られた表面塗膜が、クリヤー塗料を塗装したクリヤー塗膜である複層塗膜のクリヤー塗膜に、下地と同一のクリヤー塗料を塗装し焼き付けるオーバーコート塗装仕上げ方法によって得られた複層塗膜の付着性を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、特定のSP値、好ましくは特定の酸価、及び、特定の重量平均分子量を有する1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するポリエステル樹脂、及び1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するラジカル共重合体、さらには、特定のSP値、好ましくは特定のエポキシ価、及び、特定の重量平均分子量を有する1分子中にエポキシ基を2個以上含有するラジカル共重合体と、水酸基などと反応する架橋剤とを必須成分とする塗料組成物を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)1分子中に、カルボキシル基を2個以上含有するポリエステル樹脂、(B)1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するラジカル共重合体、(C)1分子中にエポキシ基を2個以上含有するラジカル共重合体、(D)水酸基と反応する架橋剤、
を必須成分として含有し、(A)成分、(B)成分、(C)成分の溶解性パラメーター(SP値)が全て9.5〜11.2(cal/cm1/2であり、(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率が当量比で0.7〜1.3であり、かつ、(D)成分の含有割合が全樹脂固形分中1〜15質量%であることを特徴とする塗料組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記塗料組成物において、(A)成分が、重量平均分子量300〜3,700で、水酸基価210〜1,200mgKOH/gのポリオールに炭素数6以上の脂肪酸を縮合反応させた後、又は該縮合反応と同時に、酸無水物を付加反応させて得られるポリエステル樹脂、及び/又は、重量平均分子量300〜3,700で、水酸基価210〜1,200mgKOH/gのポリオールと酸無水物との付加物に炭素数6以上のグリシジルエーテル及び/又はグリシジルエステルをさらに付加反応して得られるポリエステル樹脂であって、そのポリエステル樹脂の重量平均分子量が1,000〜12,000で、酸価が110〜220mgKOH/gである塗料組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記塗料組成物において、(B)成分の酸価が80〜200mgKOH/gであり、(B)成分の重量平均分子量が2,000〜15,000であり、(B)成分の含有割合が、樹脂固形分質量比で、(A)成分と(B)成分の総含有量に対して1質量%以上、50質量%未満である塗料樹脂組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記塗料組成物において、(C)成分の重量平均分子量が2,000〜15,000であり、エポキシ基価が120〜250mgKOH/gである塗料組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記塗料組成物において、(D)成分が、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、ブロック化イソシアネート化合物、メラミン樹脂の中から選ばれる架橋剤である塗料組成物を提供するものである。
さらに、本発明は、上記塗料組成物を塗装する塗装仕上げ方法、並びにこの塗装仕上げ方法によって塗装された塗装物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料組成物は、リコート性、クリヤーオンクリヤー付着性、耐水性、耐酸性、外観性、塗膜硬度および耐擦り傷性に優れた塗膜を形成でき、かつ、1液型塗料として十分な安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いる(A)成分のポリエステル樹脂は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するポリエステル樹脂であり、好ましくは、1分子中にカルボキシル基を4個以上含有しているものであり、特に好ましくは、5個以上含有しているものである。(A)成分のポリエステル樹脂に含有されるカルボキシル基が、1分子中に2個未満の場合には、塗膜硬度が低下し、塗膜の耐酸性、耐水性が低下する。
(A)成分のポリエステル樹脂は、重量平均分子量が好ましくは1,000〜12,000、より好ましくは1,200〜10,000、特に好ましくは1,400〜8,000である。(A)成分のポリエステル樹脂の重量平均分子量が1,000未満では耐水性が低下することがあり、12,000を超えると他の樹脂との相溶性が低下し外観が劣ることがある。
また、(A)成分のポリエステル樹脂は、酸価が好ましくは110〜220mgKOH/g、より好ましくは120〜190 mgKOH/g、特に好ましくは130〜180mgKOH/gである。(A)成分のポリエステル樹脂の酸価が110mgKOH/g未満では塗膜硬度が低下することがあり、220mgKOH/gを超えると安定性が低下することがある。
【0015】
(A)成分のポリエステル樹脂は、重量平均分子量が300〜3,700、水酸基価210〜1,200mgKOH/gのポリオールを用いて製造されたものであることが好ましい。
(A)成分のポリエステル樹脂の製造に用いられるポリオールの重量平均分子量は、350〜3,000がより好ましく、400〜2,500が特に好ましい。ポリオールの重量平均分子量が300未満の場合、塗膜硬度が低下することがあり、3,700を超えると、他の樹脂との相溶性が低下して外観性が劣ることがある。
また、ポリオールの水酸基価(OHV)は、210〜1,200mgKOH/gが好ましく、400〜1,000mgKOH/gが特に好ましい。ポリオールの水酸基価が、210mgKOH/g未満の場合、塗膜硬度が低下することがあり、1,200mgKOH/gを超えると、耐水性が低下することがある。
【0016】
(A)成分のポリエステル樹脂の製造に用いられるポリオールとしては、1分子中に水酸基を複数個含有する多価アルコール、多価アルコールと多塩基酸とが反応したポリエステルポリオール、多価アルコールとイソシアネート化合物とが反応したポリウレタンポリオールなどが用いられる。
上記ポリオールとして用いられる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ヘキサンジオール、1, 6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのジオール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、市販の各種デンドリマー、例えば、Boltorn H30やBoltorn P1000(共に、Perstorp社製)などが挙げられる。
【0017】
ポリオールが、ポリエステルポリオールである場合には、常法のポリエステル樹脂の合成方法を用いることができる。
ポリエステル樹脂の合成方法が、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合反応による直接エステル化法の場合、多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸などの二塩基酸類及びそれらの無水物類、トリメリット酸、ピロメリット酸などの三価以上の多価カルボン酸類及びそれらの無水物類などが挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ヘキサンジオール、1, 6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのジオール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの三価以上の多価アルコール類などが挙げられる。
【0018】
また、ポリエステル樹脂の合成方法として、多価カルボン酸の低級アルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換による縮重合方法や、β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン類の開環重合方法などを用いることができる。
【0019】
ポリオールが、ポリウレタンポリオールである場合には、上記の多価アルコールと、イソシアネート化合物を反応させて得ることができる。イソシアネート化合物の具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートのようなイソシアネートモノマーと呼ばれる化合物、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンのアダクト体のようなポリイソシアネート誘導体などのポリイソシアネート化合物なども挙げることができる。
【0020】
(A)成分のポリエステル樹脂は、上記ポリオールと炭素数6以上の脂肪酸、好ましくは6〜25、より好ましくは、炭素数7〜18の脂肪酸との縮合物に酸無水物を付加反応したものであることが好ましい。
脂肪酸を用いる理由は、SP値をコントロールのためであり、また、脂肪酸の炭素数に関しては、炭素数が6未満の場合、SP値のコントロールが困難になる。
炭素数が6以上の脂肪酸としては、例えばカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸などが挙げられる。
【0021】
(A)成分のポリエステル樹脂は、ポリオールと酸無水物との付加反応も用いられるが、酸無水物との反応は、ポリオールと炭素数6以上の脂肪酸との縮合反応が完了してから酸無水物を反応の系に仕込むことによって行ってもよいし、酸無水物を炭素数6以上の脂肪酸と一緒に仕込むことで、縮合反応と付加反応とを同時に行ってもよい。
酸無水物としては、例えば無水フタル酸、4―メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられるが、4―メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸が特に好ましい。
【0022】
また、(A)成分のポリエステル樹脂は、上述の炭素数6以上の脂肪酸を用いる代わりに、炭素数6以上のグリシジルエーテルやグリシジルエステルを用いることができる。
グリシジルエーテルやグリシジルエステルを用いる理由は、SP値をコントロールするためであり、グリシジルエーテルやグリシジルエステルの炭素数に関しては、炭素数が6未満の場合、SP値のコントロールが困難になることがある。
炭素数が6以上のグリシジルエーテルとしては、例えば2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、市販の各種アルファーオレフィンオキシド、例えばAOE X24(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
炭素数が6以上のグリシジルエステルとしては、市販の各種脂肪族カルボン酸グリシジルエステル、例えばカージュラE10(Hexion Speciality Chemicals社製)などが挙げられる。
【0023】
(A)成分のポリエステル樹脂を合成する場合、上記のポリオールと上記の酸無水物とを予め付加反応をさせた後、炭素数6以上のグリシジルエーテルやグリシジルエステルをポリオール中のカルボキシル基又は酸無水物が開環したカルボキシル基と付加反応させるとよい。
(A)成分のポリエステル樹脂を合成する条件は、縮合反応の場合、140〜250℃で1〜20時間の反応が、付加反応の場合、100〜200℃で1〜20時間の反応が用いられる。
【0024】
本発明に用いる(B)成分のラジカル共重合体は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する樹脂である。好ましくは、1分子中にカルボキシル基を3個以上含有しているものであり、特に好ましくは、4個以上含有しているものである。(B)成分のラジカル共重合体に含有されるカルボキシル基が、1分子中に2個未満の場合には、塗膜硬度が低下する。
(B)成分のラジカル共重合体は、(A)成分のポリエステル樹脂とは異なるものであり、(B)成分には、(A)成分は含まれない。
【0025】
(B)成分のラジカル共重合体は、重量平均分子量が好ましくは2,000〜15,000、より好ましくは2,500〜10,000、特に好ましくは3,000〜6,000である。(B)成分のラジカル共重合体の重量平均分子量が2,000未満では耐水性が低下することがあり、15,000を超えると、他の樹脂との相溶性が低下し外観が劣ることがある。
また、(B)成分のラジカル共重合体は、酸価が好ましくは80〜200mgKOH/g、より好ましくは100〜180 mgKOH/g、特に好ましくは120〜160mgKOH/gである。(B)成分のラジカル共重合体の酸価が80mgKOH/g未満では、塗膜硬度が低下することがあり、200mgKOH/gを超えると安定性が低下することがある。
【0026】
(B)成分のラジカル共重合体は、カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体と、その他のラジカル重合性単量体との共重合によって得られる1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する共重合体樹脂である。
(B)成分のラジカル共重合体を製造するために用いられるカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などが挙げられる。これらのカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体は1種で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0027】
(B)成分のラジカル共重合体を製造するために用いられるその他のラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。これらのラジカル重合性単量体は、1種で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
(B)成分のラジカル共重合体を製造するためのラジカル共重合は、公知のラジカル共重合方法により行なうことができる。ラジカル共重合には、通常ラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、t−ブチルヒドロパーオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0029】
ラジカル重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組合せて用いてもよい。ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限ないが、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01〜20質量%にすることが好ましい。
これらのラジカル重合開始剤の系においては必要に応じてジメチルアニリン、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、酢酸第1鉄等の第1鉄塩、酸性亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット等の還元剤を組合せても差し支えないが、重合温度が低くなりすぎないように留意して選択する必要がある。
【0030】
(B)成分のラジカル共重合体の製造において用いられる有機溶剤はカルボキシル基と反応する官能基を有さないものが好ましい。用いられる有機溶剤の適当な例としては、例えばシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸3−メトキシブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。
【0031】
また、(B)成分のラジカル共重合体の固形分濃度は樹脂の分散安定性を損なわない範囲において任意に選ぶことができるが、通常固形分濃度で10〜70質量%である。
(B)成分のラジカル共重合体の含有割合は、樹脂固形分質量比で、(A)成分と(B)成分との総量に対して1質量%以上、50質量%未満であることが好ましく、より好ましくは5〜40質量%であり、特に好ましくは10〜30質量%である。
(A)成分と(B)成分との総量に対する(B)成分の含有割合が、1質量%未満では耐水性が低下することがあり、50質量%以上であると塗膜硬度が低下することがある。
【0032】
本発明に用いられる(C)成分のラジカル共重合体は、1分子中にエポキシ基を2個以上含有する樹脂である。好ましくは、1分子中にエポキシ基を3個以上含有しているものであり、特に好ましくは、4個以上含有しているものである。(C)成分のラジカル共重合体に含有されるエポキシ基が、1分子中に2個未満の場合には、塗膜硬度が低下する。
(C)成分のラジカル共重合体は、(B)成分のラジカル共重合体とは異なるものであり、(C)成分には、(B)成分は含まれない。
(C)成分のラジカル共重合体は、重量平均分子量が好ましくは2,000〜15,000、より好ましくは2,500〜14,000、特に好ましくは3,000〜13,000である。(C)成分のラジカル共重合体の重量平均分子量が2,000未満では塗膜硬度が低下することがあり、15,000を超えると、他の樹脂との相溶性が低下し外観が低下することがある。
また、(C)成分のラジカル共重合体は、エポキシ基価が好ましくは120〜250mgKOH/g、より好ましくは130〜240 mgKOH/g、特に好ましくは140〜230mgKOH/gである。(C)成分のラジカル共重合体のエポキシ基価が120mgKOH/g未満では塗膜硬度が低下することがあり、250mgKOH/gを超えると、安定性が低下することがある。
【0033】
(C)成分のラジカル共重合体は、エポキシ基含有ラジカル重合性単量体と、その他のラジカル重合性単量体との共重合によって得られる1分子中にエポキシ基を2個以上含有する共重合体樹脂である。エポキシ基を含有するラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチルなどが挙げられ、これらの単量体は、1種で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。その他のラジカル重合性単量体としては、(B)成分の製造のために用いられる前記のその他のラジカル重合性単量体が挙げられる。その他のラジカル重合性単量体は、1種で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
本発明において、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の樹脂の溶解性パラメーター(SP値)は、全て9.5〜11.2(cal/cm1/2である。
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分のより好ましいSP値は、9.5〜11.0(cal/cm1/2の範囲である。それぞれの成分のSP値が9.5(cal/cm1/2未満の場合、リコート性、クリヤーオンクリヤー付着性が低下し、11.2(cal/cm1/2を超える場合耐水性が低下する。
本発明における溶解性パラメーター(SP値)は、参考文献(K. W. Suh, et al., Journal of Polymer Science: Part A-1, 5,
1671-1681, 1967.)の方法に基づき、アセトン−ヘキサン、アセトン−水の濁点の滴定によって測定された値である。
【0035】
具体的には、コニカルビーカーにサンプルを0.5g、アセトンを50g入れ溶解し、攪拌しながらヘキサンを滴下し、濁点に達したヘキサンの量を計測する。次に、濁点における溶媒のモル体積比に応じて、それぞれの溶媒のSP値(文献値)を用いて、サンプルのSP1値(低極性側のSP値)を計算する。同様にして、サンプル0.5g、アセトン5gの溶液に脱イオン水を滴下し濁点に達した時の脱イオン水量を計測しSP2値(高極性側のSP値)を求める。ここで求められたSP1とSP2の平均値を計算することで、サンプルのSP値を求めることができる。
使用した溶媒の文献値は、以下の通りである。
(参考文献:Polymer Handbook
Third Edition, pp. 526-544, A Wiley-Interscience pbulication)
【0036】
【表1】

【0037】
さらに、本発明においては、(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率が当量比で0.7〜1.3である。
(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率が当量比で0.7未満の場合、および、1.3を超える場合、未反応の官能基が塗膜に残存するため、耐水性に劣る。
【0038】
本発明に用いる(D)成分の架橋剤は、水酸基と反応する官能基を1 分子中に少なくとも1個以上有すればよく、例えば、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基などの官能基を有する架橋用樹脂、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、メラミン樹脂などが挙げられ、1種単独で用いても良く、2種類以上を組合せて用いても良い。架橋剤における水酸基と反応する官能基の数は、1分子中に2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。水酸基と反応する官能基の数の上限は、特に制限ないが、30個以下が好ましい。
【0039】
(D)成分の架橋剤の含有割合は、全樹脂固形分に対して、1〜15質量%であり、好ましくは3〜10質量%である。架橋剤の割合が、全樹脂固形分に対して1質量%未満では、塗膜の架橋密度が低下し、耐擦り傷性が劣り、15質量%を超えた場合には、塗膜の硬化歪みが大きくなり、塗膜外観が低下する。
ここで、全樹脂固形分とは、塗料組成物の樹脂成分が(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分からなる場合、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の固形分の総量を意味する。
イソシアネート基含有化合物の具体例としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、フエニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0040】
ブロックイソシアネート基含有化合物の具体例としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、フエニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートを、ピラゾール系、活性メチレン系、オキシム系等のブロック剤でブロックしたイソシアネート化合物を挙げることができる。
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジンの具体例としては、トリス(メトキシカルボニルアミノ)トリアジン、または、トリス(ブトキシカルボニルアミノ)トリアジンが好ましい。
【0041】
メラミン樹脂としては、反応性基の種類の異なる完全アルキル型メラミン樹脂、メチロール型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びそれらの混合型などが挙げられ、イミノ基含有型メラミン樹脂が特に好ましい。
完全アルキル型メラミン樹脂としては、完全メチル化メラミン樹脂が好ましく、イミノ基含有型メラミン樹脂としては、イミノ基含有型メチル化メラミン樹脂、イミノ基含有型ブチル化メラミン樹脂、イミノ基含有型メチル化ブチル化混合メラミン樹脂が好ましい。
【0042】
完全アルキル型メラミン樹脂の市販品としては、例えば、Luwipal L066(BASF社製)、サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350(以上、日本サイテックインダストリーズ(株)製)等が挙げられる。
また、イミノ基含有型メチル化メラミン樹脂の市販品としては、例えば、サイメル325、サイメル327(以上、日本サイテックインダストリーズ(株)製)などが挙げられる。
また、イミノ基含有型ブチル化メラミン樹脂の市販品としては、例えば、ユーバン220(三井化学(株)製)などが挙げられる。
また、イミノ基含有型メチル化ブチル化混合メラミン樹脂の市販品としては、例えば、サイメル254(以上、日本サイテックインダストリーズ(株)製)などが挙げられる。
(D)成分の架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本発明の塗料組成物は、そのままで、あるいは必要に応じて、有機溶剤、各種添加剤、例えば、界面活性剤、表面調整剤、硬化反応触媒、帯電防止剤、香料、脱水剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などを1種又は2種以上添加して使用することができる。本発明の塗料組成物は、1液型塗料として好適に使用でき、貯蔵安定性に優れている。
本発明の塗料組成物は、クリヤー塗料として用いてもよいし、染料、顔料などの着色剤を配合して着色塗料として用いてもよいが、上塗り塗料組成物として使用することが好ましい。
【0044】
本発明の塗料組成物の塗装仕上げ方法は特に限定されないが、例えば、中塗り塗装を施した基材上に着色ベースコートを塗装し、未架橋のまま上塗り塗料として本発明の塗料組成物を塗装する3コート2ベーク塗装仕上げ方法、基材上に中塗り塗料を塗装し、未架橋のまま着色ベースコートを塗装し、さらに未架橋のまま上塗り塗料として、本発明の塗料組成物を塗装する3コート1ベーク塗装仕上げ方法、また、3コート2ベーク、3コート1ベーク等の塗装仕上げ法により塗装され、焼き付けた後に、オーバーコート塗料として本発明の塗料組成物を塗装し焼き付けるオーバーコート塗装仕上げ方法等が挙げられる。
【0045】
前記着色ベースコート塗料、中塗り塗料、上塗り塗料、オーバーコート塗料、及びプライマー塗料は、必要に応じて加温したり、有機溶剤又は反応性希釈剤を添加することにより所望の粘度に調整した後、エアースプレー、静電エアースプレー、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機等の通常使用される塗装機、又は刷毛、バーコーター、アプリケーターなどを用いて塗装が行われる。これらのうちスプレー塗装が好ましい。
【0046】
本発明の塗料組成物の塗布量は、乾燥膜厚が通常10〜100μmとなるようにすることが好ましい。本発明の塗料組成物を塗装して得られる塗膜は、通常焼付けることが好ましい。また、焼付け温度は、通常120〜180℃の範囲で適宜選定すればよい。さらに、焼付け時間は、通常10〜60分の範囲で適宜選定すればよい。また、本発明の塗料組成物を塗装する基材としては、木、ガラス、金属、布、プラスチック、発泡体、弾性体、紙、セラミック、コンクリート、石膏ボード等の有機素材及び無機素材などが挙げられる。これらの基材は、予め表面処理されたものでもよいし、予め表面に塗膜が形成されたものでもよい。これまで具体例を示したが、本発明の塗料組成物の塗装仕上げ方法は、これらにより何ら制限されるものではない。
【0047】
本発明の塗料組成物により得られる塗装物品としては、例えば、構造物、木製品、金属製品、プラスチック製品、ゴム製品、加工紙、セラミック製品、ガラス製品などが挙げられる。より具体的には、自動車、自動車用部品(例えば、ボディー、バンパー、スポイラー、ミラー、ホイール、内装材等の部品であって、各種材質のもの)、鋼板等の金属板、二輪車、二輪車用部品、道路用資材(例えば、ガードレール、交通標識、防音壁等)、トンネル用資材(例えば、側壁板等)、船舶、鉄道車両、航空機、家具、楽器、家電製品、建築材料、容器、事務用品、スポーツ用品、玩具などが挙げられる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、本発明のクリヤー塗料組成物により得られる塗膜の性能は次のようにして求めた。
【0049】
≪試験方法≫
試験片の作成及び塗膜性能の検討
リン酸亜鉛処理軟鋼板にカチオン電着塗料カソガード500(商品名、BASFコーティングス(株)製)を乾燥膜厚20μmとなるよう電着塗装して175℃で25分間焼き付け、さらに中塗り塗料ハイエピコNo.560(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚30μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けた。次に、溶剤系ベースコート塗料であるベルコートNo.6000黒(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、塗色:黒)を乾燥膜厚15μmとなるようエアスプレー塗装し20℃で3分間セット後、下記の実施例で得られたクリヤー塗料をソルベッソ100(商品名、芳香族ナフサ系溶剤;エクソン化学(株)製)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものをウェット・オン・ウェット方式でそれぞれ乾燥膜厚40μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて試験片を作成した。
【0050】
外観性
目視観察により、次の基準に従い評価した。
◎:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯が鮮明に映る。
○:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)がわずかにぼやける。
△:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)がぼやける。
×:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)が著しくぼやける。
【0051】
塗膜硬度
JIS K5600−5−4(1999)引っかき硬度(鉛筆法)試験方法に準拠して、塗膜硬度を測定した。
良好な塗膜硬度は、HB以上である。
【0052】
貯蔵安定性
クリヤー塗料をソルベッソ100(商品名、エクソン化学(株)製、芳香族石油ナフサ)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものを、30℃で10日間貯蔵後の粘度変化により確認した。
◎:粘度変化が5秒未満
○:粘度変化が5秒以上10秒未満
△:粘度変化が10秒以上15秒未満
×:粘度変化が15秒以上
【0053】
耐水性
JIS K−5400 9.9(1990)耐候性試験方法に準じて屋外にて表面に塗膜を形成した試験板を3ヶ月曝露後、塗膜の未洗浄面の色をJIS K−5400(1990)7.4.2塗膜の色−計測法に準じて測定し、試験片を40℃の温水に240時間浸漬した後のL値から試験前のL値を引くことにより△L値を算出し、下記の基準で塗膜の白化を判定した。
◎:1.0未満
○:1.0以上2.0未満
△:2.0以上3.0未満
×:3.0以上
【0054】
リコート性
上記試験片の作成方法により得られた試験片のクリヤーコート塗膜表面に、着色ベースコート塗料として、試験片の作成に用いた着色ベースコート塗料の、溶剤系ベースコート塗料であるベルコートNo.6000黒(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、塗色:黒)を乾燥膜厚15μmとなるようエアスプレー塗装し20℃で3分間セット後、未架橋のまま上塗り塗料として、試験片の作成に用いた本発明のクリヤー塗料をソルベッソ100(商品名、芳香族ナフサ系溶剤;エクソン化学(株)製)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものをウェット・オン・ウェット方式で乾燥膜厚40μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けてリコート性の試験片を作成した。このリコート性の試験片の塗膜にカッターナイフで素地に達する縦横11本の平行線を2mm間隔で正方形のごばん目をつくり、30mm程度のセロハンテープを密着させ、上方に一気に引き剥がし、剥がれずに塗膜に残ったごばん目の数と剥がれた数を求めた。その結果を、以下に示す基準で評価した。
○:剥がれなし。
△:全正方形面積の10%未満の剥がれ
×:全正方形面積の10%以上の剥がれ
【0055】
クリヤーオンクリヤー付着性
上記試験片の作成方法により得られた試験片のクリヤーコート塗膜表面に、オーバークリヤー塗料として、試験片の作成に用いた本発明のクリヤー塗料をソルベッソ100(商品名、芳香族ナフサ系溶剤;エクソン化学(株)製)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものを、乾燥膜厚40μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けてクリヤーオンクリヤー付着性の試験片を作成した。このクリヤーオンクリヤー付着性の試験片の塗膜にカッターナイフで素地に達する縦横11本の平行線を2mm間隔で正方形のごばん目をつくり、30mm程度のセロハンテープを密着させ、上方に一気に引き剥がし、剥がれずに塗膜に残ったごばん目の数と剥がれた数を求めた。その結果を、以下に示す基準で評価した。
○:剥がれなし。
△:全正方形面積の10%未満の剥がれ
×:全正方形面積の10%以上の剥がれ
【0056】
(7)耐酸性
40%硫酸水溶液0.2mlを試験板にスポット状にのせた後、60℃で15分間加熱し、その後、水洗いしてシミ跡の発生度合いを目視判定した。
○:塗膜にほとんど変化は見られない。
△:わずかに水シミ跡が見られる。
×:著しい水シミ跡が見られる。
【0057】
(8)耐擦り傷性
耐洗車傷性ともいい、試験板上に泥水(JIS Z−8901−84 8種ダスト/水/中性洗剤=10/99/1質量比で混合したもの)をハケで塗布後、自動車用洗車機にて洗車ブラシを150rpmで10秒間回転させ、試験板を流水にて洗浄する。以上の操作を2回繰り返した後、試験板表面の擦り傷の程度を色彩色差計(CR−331 ミノルタカメラ(株)製)によりL*値を測定した。次式によりΔL*値を算出し、その値から耐擦り傷性を評価した。
ΔL*値=試験後のL*値−試験前のL*
○;ΔL*値が20未満
△;ΔL*値が20以上30未満
×;ΔL*値が30以上
【0058】
<製造例>
<ポリエステルポリオール(PE−1)の製造>
温度計、ディーンスターク、還流冷却器、窒素導入管、撹拌機を備えた4つ口フラスコに、アジピン酸50.3質量部、トリメチロールプロパン30.9質量部、ペンタエリスリトール31.3質量部を仕込み、160℃から200℃に加熱・昇温しながら撹拌し、水12.5質量部が脱水するまで縮合重合反応を行った。重量平均分子量1,740のポリエステルポリオールPE−1を得た。
【0059】
<PE2〜7の製造>
製造例PE−1の製造方法と同じようにして、表2に記載した配合にてPE2〜PE7を得た。
【0060】
【表2】

【0061】
<ポリウレタンポリオール(PU−1)の製造>
温度計、還流冷却器、窒素導入管、撹拌機を備えた4つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアナート47.4質量部、トリメチロールプロパン26.2質量部、ペンタエリスリトール26.5質量部を仕込み、80℃に加熱・昇温しながら撹拌し、IRスペクトルにてイソシアネート基(2270cm−1)の吸収が消失するまで反応を行った。重量平均分子量2,100のポリウレタンポリオールPU−1を得た。
<カルボキシル基含有ポリエステル樹脂A−1の製造>
温度計、ディーンスターク、還流冷却器、窒素導入管、撹拌機を備えた4つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(PE−1)24.9質量部、ネオデカン酸9.8質量部を仕込み、160℃から200℃に加熱・昇温しながら撹拌し、水1.1質量部が脱水するように縮合反応を行った。次に、140℃まで冷却してから、ヘキサヒドルフタル酸無水物26.4質量部を加えて2時間攪拌後、ソルベッソ100を40質量部加えた。樹脂酸価160、重量平均分子量4200のポリエステル樹脂A−1を得た。
【0062】
<A−2〜A−19の製造>
製造例A−1の製造方法と同じようにして、表3〜表5に記載した配合にて樹脂A−2〜A−19を得た。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
≪表3〜表5の略号の説明≫
AOE X24:ダイセル化学工業社製アルファーオレフィンオキシド(炭素数12と14の混合物)
カージュラE10:Hexion Speciality
Chemicals社製ネオデカン酸グリシジルエステル
【0067】
<カルボキシル基含有ラジカル共重合体B−1の製造>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、ソルベッソ100(商品名、芳香族ナフサ系溶剤;エクソン化学(株)製)35質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら加熱し140℃を保った。ブチルメタクリレート13.2質量部、スチレン6.0質量部、エチルヘキシルメタクリレート30.0質量部、アクリル酸10.8質量部、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート4.0質量部の混合物を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、t−ブチルペルオキシ−ベンゾエート0.5質量部とソルベッソ100 0.5質量部の混合物を滴下し、さらに140℃の温度を2時間保ったところで反応を終了した。樹脂酸価140、重量平均分子量4900のラジカル共重合体B−1を得た。
【0068】
<B−2〜B−9の製造>
製造例B−1の製造方法と同じようにして、表6に記載した配合にて樹脂B−2〜B−9を得た。
【0069】
【表6】

【0070】
<エポキシ基含有ラジカル共重合体樹脂溶液C−1の製造>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、ソルベッソ100 35質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら加熱し140℃を保った。次に、140℃の温度で滴下成分としてブチルメタクリレート21.9質量部、エチルヘキシルアクリレート4.8質量部、グリシジルメタクリレート27.3質量部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート6.0質量部、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート4.0質量部の混合物を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、t−ブチルペルオキシ−ベンゾエート0.5質量部とソルベッソ100 0.5質量部の混合物を滴下し、さらに140℃の温度を2時間保ったところで反応を終了した。重量平均分子量5000のラジカル共重合体C−1を得た。
【0071】
<C−2〜C−13の製造>
製造例C−1の製造方法と同じようにして、表7〜表8に記載した配合にて樹脂C−2〜C−13を得た。
【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
(実施例1〜40)
<クリヤー塗料CC−1〜CC−40の製造>
表9〜表12に記載した原料を順次混合して均一になるように撹拌し、クリヤー塗料CC−1〜CC−40を得た。
(比較例1〜14)
<クリヤー塗料CC−41〜CC−54の製造>
表13〜表14に記載した原料を順次混合して均一になるように撹拌し、クリヤー塗料CC−41〜CC−54を得た。
なお、表9〜表14において、当量比(エポキシ基/酸基)は、(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率を当量比で表したものであることを意味する。
【0075】
【表9】

【0076】
【表10】

【0077】
【表11】

【0078】
【表12】

【0079】
【表13】

【0080】
【表14】

【0081】
≪表9〜表14の略号の説明≫
1)デスモジュールVPLS2253:住化バイエルウレタン社製ブロック型ポリイソシアネートの75質量%溶液
2)Larotact LR9018:BASF アクチェンゲゼルシャフト社製トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジンの50質量%溶液
3)サイメル327:日本サイテックインダストリーズ社製メチル化メラミン樹脂の90質量%溶液
4)紫外線吸収剤:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 85質量%溶液
5)光安定剤:チバ・スペシャリティケミカルズ社製社製 100質量%溶液
6)表面調整剤:楠本化成社製 10質量%溶液
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の塗料組成物は、種々の用途の塗料組成物として利用でき、特に自動車用の塗料組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に、カルボキシル基を2個以上含有するポリエステル樹脂、
(B)1分子中にカルボキシル基を2個以上含有するラジカル共重合体、
(C)1分子中にエポキシ基を2個以上含有するラジカル共重合体、
(D)水酸基と反応する架橋剤、
を必須成分として含有し、
(A)成分、(B)成分、(C)成分の溶解性パラメーター(SP値)が全て9.5〜11.2(cal/cm1/2であり、(A)成分及び(B)成分のカルボキシル基の総数に対する(C)成分中のエポキシ基の数の比率が当量比で0.7〜1.3であり、かつ、(D)成分の含有割合が全樹脂固形分中1〜15質量%であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
(A)成分が、重量平均分子量300〜3,700で、水酸基価210〜1,200mgKOH/gのポリオールに炭素数6以上の脂肪酸を縮合反応させた後、又は該縮合反応と同時に、酸無水物を付加反応させて得られるポリエステル樹脂、及び/又は、重量平均分子量300〜3,700で、水酸基価210〜1,200mgKOH/gのポリオールと酸無水物との付加物に炭素数6以上のグリシジルエーテル及び/又はグリシジルエステルをさらに付加反応して得られるポリエステル樹脂であって、そのポリエステル樹脂の重量平均分子量が1,000〜12,000で、酸価が110〜220mgKOH/gである請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
(B)成分の酸価が80〜200mgKOH/gであり、(B)成分の重量平均分子量が2,000〜15,000であり、(B)成分の含有割合が、樹脂固形分質量比で、(A)成分と(B)成分の総含有量に対して1質量%以上、50質量%未満である請求項1記載の塗料樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分の重量平均分子量が2,000〜15,000であり、(C)成分のエポキシ基価が120〜250mgKOH/gである請求項1記載の塗料組成物。
【請求項5】
(D)成分が、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、ブロック化イソシアネート化合物、及びメラミン樹脂の中から選ばれる架橋剤である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法。
【請求項7】
請求項6の塗装仕上げ法によって塗装された塗装物品。

【公開番号】特開2010−285549(P2010−285549A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140607(P2009−140607)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】