説明

塗料組成物、塗装品、塗装方法

【課題】紫外線を必要とすることなく長期に亘って表面の親水性を維持することができ、低汚染性や自己洗浄性を長期間有すると共に透明性の高い塗膜を形成することができる塗料組成物を提供する。
【解決手段】一般式がSi(OR)で表されるアルコキシドの加水分解物及び/又は部分加水分解物(A)と、微粒子シリカ(B)と、希釈溶媒(C)と、表面張力調整剤(D)とを含有する。そして(B)成分が、平均粒子径が4nm以上〜20nm未満のもの(B1)と、平均粒子径が20nm以上〜150nm以下のもの(B2)の2種類以上の微粒子シリカの組合せからなり、(B1)と(B2)の比率が固形分換算した質量比で(B1):(B2)=99.9:0.1〜90:10の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン系の塗料組成物、特に屋内外で使用される建材などに長期に渡って低汚染性を付与することができる防汚塗料組成物に関するものであり、またこの塗料組成物を塗装した塗装品、及びこの塗料組成物を塗装する塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建材など建造物を構成する各部材に汚れが生じることを防止することを目的として、表面を撥水性にしたり、親水性にしたりすることが行なわれている。
【0003】
例えば、表面を撥水性にして、汚れを持ち込む水を弾かせることで、汚れが付き難いようにすることができるが、水滴が垂直面でも落下しない大きさになってくると、水滴が表面に付着して滞留したまま乾くことになり、この場合には却って汚れの原因となることがある。
【0004】
一方、表面を親水性にして、汚れが水で洗い流されるようにすることで、汚れを防止することができるが、親水性を付与する方法としては、表面に親水性樹脂からなる塗膜を形成する方法や、界面活性剤を塗布する方法などが知られている。しかし、ポリビニルアルコール等の親水性樹脂で被覆したり、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等の界面活性剤を塗布したりして、表面を親水性にしても、その効果は一時的なものであり、長期に亘って親水性を維持することができないという問題があった。
【0005】
そこで、シリコーン樹脂をバインダーとし、微粒子シリカを含有するシリコーン系塗料を基材表面に塗布して硬化させることにより、防汚性能を持たせる方法が取られている。このような、微粒子シリカを用いたシリコーン系の塗料組成物は、高い親水性を示すので、汚れが雨水などに洗い流されて良好な防汚性能を示すことが知られている(例えば特許文献1等参照)。
【0006】
また、微粒子シリカの代わりに酸化チタンなどの光半導体を含有させた光触媒塗料も、光半導体に紫外線が照射されることで生起される光触媒作用によって表面を親水性にすることができるため、高い防汚性能を得ることができることが知られている。
【特許文献1】特開平10−324838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、光半導体を含有するシリコーン系の塗料で形成される塗膜は、励起波長の光である紫外線の存在下では、光半導体による親水性効果を得ることができる。しかし、このような効果は塗膜を形成した直後から得られるものではなく、製膜直後においては塗膜の水に対する接触角は高く、親水性に乏しい。しかも、紫外線など光の存在しない環境下では光触媒作用が働かないため、親水性向上の効果を得ることができないものであり、この場合にはいつまでも水に対する接触角が高く、防汚性の効果を得ることができないという問題があった。
【0008】
一方、親水性の微粒子シリカを含有させたシリコーン系の塗料組成物で形成される塗膜は、紫外線などの光の有無にかかわらず、表面を親水性にして良好な防汚性能を示す。しかし、微粒子シリカの選択によっては、経年すると親水性が低下すると共に、防汚性能が低下することがあった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、紫外線を必要とすることなく長期に亘って表面の親水性を維持することができ、低汚染性や自己洗浄性を長期間有すると共に透明性の高い塗膜を形成することができる塗料組成物、及びこの塗料組成物の塗膜を形成した塗装品、またこの塗料組成物を塗装する塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る塗料組成物は、一般式がSi(OR)[Rは同一又は異種の置換若しくは非置換の炭素数1〜8の一価炭化水素基]で表されるアルコシキシドの加水分解物及び/又は部分加水分解物(A)と、微粒子シリカ(B)と、希釈溶媒(C)と、表面張力調整剤(D)とを含有し、(B)成分が、平均粒子径が4nm以上〜20nm未満のもの(B1)と、平均粒子径が20nm以上〜150nm以下のもの(B2)の2種類以上の微粒子シリカの組合せからなり、(B1)と(B2)の比率が固形分換算した質量比で(B1):(B2)=99.9:0.1〜90:10の範囲であることを特徴とするものである。
【0011】
この発明によれば、微粒子シリカ(B)の親水性によって、紫外線を必要とすることなく親水性を発現する塗膜を形成することができるものである。また微粒子シリカ(B)を平均粒子径が4nm以上〜20nm未満のもの(B1)と、平均粒子径が20nm以上〜150nm以下のもの(B2)の組合せで用いることによって、大きな粒子(B2)の間に小さな粒子(B1)が配置されるものであり、微粒子シリカ(B)による親水性の効果を長期に亘って維持することができ、低汚染性や自己洗浄性を長期間有し且つ透明性の高い塗膜を形成することができるものである。さらに塗膜の製膜直後から水に対する接触角が低く親水性に優れ、良好な防汚性を発揮することができるものである。
【0012】
また本発明において、(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計質量に対し、固形分換算した質量比で0.5〜0.95の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、造膜性を損ねたり、密着性が低下したり、塗膜が白濁化したりすることなく、高い親水性を有する塗膜を形成することができるものである。
【0014】
また本発明において、(B)成分の微粒子シリカは親水性であることを特徴とするものであり、高い親水性を有する塗膜を形成することができるものである。
【0015】
また本発明において、(C)成分の希釈溶媒は、有機溶剤及び水から選ばれるものであることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、透明性と親水性が高い塗膜を形成することができるものである。
【0017】
本発明に係る塗装品は、被塗装物に表層として、上記の塗料組成物の塗膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、紫外線が当たらなくとも、長期に亘って低汚染性や自己洗浄性を有し、また透明性の高い塗膜を表層に形成した塗装品を得ることができるものである。また塗膜の製膜直後から水に対する接触角が低く親水性に優れ、良好な防汚性を発揮することができるものである。
【0019】
本発明に係る塗装方法は、水の接触角が60°以上である下地塗膜が形成された被塗装物の表面に、上記の塗料組成物を塗布して塗膜を形成することを特徴とするものである。
【0020】
本発明の塗料組成物は表面張力調整剤(D)を含有しているために表面張力が低く、水の接触角が60°以上である撥水性の下地塗膜の上にもはじかれることなく均一に塗布することができ、均一な親水性を有する塗膜を形成することができるものである。
【0021】
また本発明に係る塗装方法は、被塗装物に形成された下地塗膜の上に上記の塗料組成物を塗布して塗膜を形成するにあたって、下地塗膜が半硬化状態のときに、塗料組成物を塗膜の上に塗布することを特徴とするものである。
【0022】
この発明によれば、下地の塗膜の硬化と塗料組成物の親水性の塗膜の硬化を同時に行なわせることができ、下地塗膜に対する親水性塗膜の密着性を向上することができるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微粒子シリカ(B)の親水性によって、紫外線を必要とすることなく親水性を発現する塗膜を形成することができるものである。また微粒子シリカ(B)を平均粒子径が4nm以上〜20nm未満のもの(B1)と、平均粒子径が20nm以上〜150nm以下のもの(B2)の組合せで用いることによって、大きな粒子(B2)の間に小さな粒子(B1)が配置されるものであり、微粒子シリカ(B)による親水性の効果を長期に亘って維持することができ、低汚染性や自己洗浄性を長期間有すると共に透明性の高い塗膜を形成することができるものである。さらに塗膜の製膜直後から水に対する接触角が低く親水性に優れ、良好な防汚性を発揮することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0025】
本発明に係る塗料組成物は、次の(A)〜(D)成分を必須成分として形成されるものであり、これらの成分について説明する。
【0026】
(A)成分は、一般式が次の式(1)
Si(OR)…(1)
で表されるアルコキシドの加水分解物及び/又は部分加水分解物である。式(1)においてRは、同一又は異種の置換若しくは非置換の炭素数1〜8の1価炭化水素基が好適であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基を例示することができる。アルコキシ基中に含有されるアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。
【0027】
アルコキシドを加水分解(部分加水分解)するのに必要な水の量は、特に限定されるものではないが、例えば、(B)成分としての微粒子シリカ(コロイダル状シリカなど)中に含まれる水の量と合わせて、式(1)中のOR基1モルに対して0.001モル以上の水で加水分解するのが好ましい。
【0028】
また、アルコキシドを加水分解(部分加水分解)する際に必要に応じて触媒を用いることができる。この触媒としては、特に限定されるものではないが、製造工程に要する時間を短縮する点から、酸性触媒が好ましい。このような酸性触媒としては特に限定されないが、例えば、酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸や、塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等の無機酸、酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾル等の酸性ゾル状フィラー等を挙げることができ、これらの1種あるいは2種以上を使用することができる。また、アルコキシドの加水分解(部分加水分解)は、必要に応じて、例えば40〜100℃程度に加温して行なってもよい。
【0029】
上記の(A)成分は、親水性の塗膜を形成する際のバインダー成分及び造膜成分となるものであり、後述する微粒子シリカ成分(B)を固定化するためのものである。また、アルコキシドを加水分解(部分加水分解)することによって塗膜の親水性能が向上し、雨水による洗浄効果がより高くなって、防汚性をさらに向上できるものである。
【0030】
(B)成分は微粒子シリカである。この微粒子シリカとしては、シリカをゾル状にした形態、すなわち、コロイダルシリカを使用することが好ましい。コロイダルシリカは、耐溶剤性・耐酸性等の化学的安定性に優れ、またアルコキシドを加水分解(部分加水分解)して得られる(A)成分への分散性にも優れている。使用されるコロイダルシリカは、特に限定されるものではないが、例えば、水分散コロイダルシリカあるいはアルコール等の非水系の有機溶剤分散コロイダルシリカを使用することができる。一般にこのようなコロイダルシリカは、固形分としてのシリカを20〜50質量%含有しており、この値からシリカ配合量を決定することができる。水分散コロイダルシリカを使用する場合には、このコロイダルシリカ中に固形分以外として存在する水は、アルコキシドの加水分解(部分加水分解)に使用することができる。従って、アルコキシドの加水分解(部分加水分解)の際の水の量にはこの水分散コロイダルシリカの水を加算する必要がある。
【0031】
本発明の塗料組成物において、(B)成分の微粒子シリカの含有量は、上記の(A)成分と(B)成分の合計質量に対し、固形分換算した質量比(B/(A+B))が0.5〜0.95の範囲になるように設定されるものである。この質量比が0.5未満であると、十分な親水性を得ることができない場合がある。逆に質量比が0.95を超えると、塗料組成物の造膜性が悪くなり、例え成膜できたとしても塗膜の密着性が悪くなったり、塗膜に白濁が生じたりする原因となる場合がある。尚、密着性や透明性をそれほど必要としない場合においては、質量比を0.95以上にしても構わない。
【0032】
また本発明において、(B)成分の微粒子シリカは、粒子径が異なる2種以上のものを混合して使用するものである。ここで、平均粒子径が異なる微粒子シリカを2種以上混合して使用すると、粒子径が大きな微粒子シリカの間に、粒子径が小さな微粒子シリカが配置されて表面の凹凸が増すと考えられ、微粒子シリカによる親水性の効果がより発揮されるようになり、長期に亘って優れた低汚染性、自己洗浄性の効果を得ることができるものである。粒子径が小さいものと大きいものの組み合わせは、平均一次粒子径が4nm以上〜20nm未満の範囲のもの(B1)と、平均一次粒子径が20nm以上〜150nm以下の範囲のもの(B2)とに設定されるものであり、平均一次粒子径が4nm以上〜20nm未満の範囲のもの1種以上と、平均一次粒子径が20nm以上〜150nm以下の範囲のもの1種以上との組み合わせで混合した微粒子シリカを用いることができるものである。異なる粒子径の組み合わせをこの平均粒子径の範囲で設定することによって、長期の親水性能を一層高く得ることができるものである。(B)成分の微粒子シリカとして、平均粒子径が小さい(B1)だけを使用した場合、一時的には良好な親水性能を示すが、長期的な親水性能が得られない場合がある。また平均粒子径が大きい(B2)だけを使用した場合は、塗膜が白濁してしまう場合がある。尚、親水性の塗膜に透明性を必要としない場合においては、平均粒径が大きい(B2)だけを使用しても構わない。ここで本発明において平均粒子径はレーザー回折・散乱法で測定した値である。
【0033】
(C)成分は希釈溶媒であり、上記のアルコキシドの加水分解物(部分加水分解物)(A)や微粒子シリカ(B)などを任意の割合で混合して希釈し、塗布するのに適した状態にするために用いられるものである。(C)成分としては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体、及びジアセトンアルコール等の有機溶剤を挙げることができ、これらは1種を単独で使用する他、2種以上を混合して混合溶剤として使用することもできる。
【0034】
また希釈溶媒としてはこれらの有機溶剤の他に、水を用いることも可能である。水希釈して調製した塗料組成物を塗装する場合、一旦、塗布された状態から水が短時間で完全に乾燥して被膜化するので、透明性が高く、親水性能も高い塗膜を得ることができるものである。
【0035】
一方、上記のような有機溶剤で希釈して調製した塗料組成物を塗装する場合、蒸発速度の速い有機溶剤を選択すると、塗料組成物は被塗装物に到達する前に乾燥しながら塗着されることになるので、やや白い塗膜が形成されることがある。また、蒸発速度の遅い有機溶剤を選択すると、透明性の高い塗膜を得ることができるものの、有機溶剤が完全に乾燥するのに時間がかかり、初期の親水性能が良好に得られない場合がある。このため、必要な塗膜性能に応じて有機溶剤を選択する必要がある。
【0036】
希釈溶媒(C)による希釈割合は、必要に応じて任意に設定することができるが、形成する塗膜に求められる膜厚や、有機溶剤や水による希釈でアルコキシドの加水分解物(部分加水分解物)(A)の分子量増加が抑制されて塗料組成物の安定性が向上する、ことなどに鑑みると、A成分とB成分の固形分が0.1質量%〜30質量%の濃度範囲になるように希釈割合を調整するのが好ましい。
【0037】
(D)成分は表面張力調整剤であり、この表面張力調整剤は塗料組成物の表面張力を低下させ、被塗装物の下地の状態、例えば被塗装物を形成する基材の種類や基材の形状、被塗装物の表面に形成される下地の塗膜の種類などがどのような場合であっても、均一に塗装できるようにするための成分である。すなわち、被塗装物の表面にはデザイン性を付与する為に凹凸が付与されることがあり、このような凹凸を有する表面に塗料組成物を塗装すると、凹部に塗料が溜まって膜厚が不均一になり、塗膜の親水性能が不均一になるが、表面張力調整剤(D)を塗料組成物中に含有することによって、このようなことを抑制することができるものである。
【0038】
また、被塗装物の表面形状に凹凸が無くとも、被塗装物の表面上に他の目的で塗装された下地の塗膜が形成されている場合、この下地の塗膜がシリコーン系やフッ素系など高い撥水性を有する場合、例えば水滴の接触角60°以上の場合、塗布される塗料組成物がはじかれて均一に塗布することが難しいが、塗料組成物中に表面張力調整剤(D)を含有することによって、塗料のはじきを防いで均一に塗布することができ、均一な親水性能を有する塗膜を形成することができるものである。勿論このとき、高い撥水性の表面にさらに凹凸があっても、塗料組成物を均一に塗布することができ、安定した親水性能を発揮する塗膜を形成することができるものである。
【0039】
このような表面張力調整剤(D)としては、表面張力を低下させることができ、また本発明の塗料組成物に良好に混合することができるものであれば、特に制限されることなく使用することができる。一般的に入手が可能なものは、例えば、界面活性剤、レベリング剤、湿潤剤などである。界面活性剤としては、通常のアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤のいずれも用いることたできる。またレベリング剤、湿潤剤としては、シリコーン変性タイプなどの汎用品を使用することができる。表面張力調整剤(D)の含有量は、必要に応じて任意に設定されるものであるが、本発明の塗料組成物の全量に対して0.1〜1.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
上記の(A)〜(D)成分を必須成分とし、必要に応じて硬化触媒など他の任意成分を配合して、これら混合することによって本発明の塗料組成物を調製することができるものである。そして、被塗装物の表面にこの塗料組成物を塗布し、これを乾燥・硬化させることによって、被塗装物の表層に塗料組成物の塗膜を形成した塗装物を得ることができるものである。
【0041】
被塗装物としては、特に限定されるものではないが、例えばセメント等の窯業系材料で形成される外装材などの建材を用いることができる。また塗料組成物の塗布方法は、特に限定されることなく任意の方法を採用することができ、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、バーコート等の通常の方法を適宜選択することができる。硬化方法についても特に限定されるものではなく、公知の方法で行なうことができる。この硬化の際の温度も特に限定されるものではなく、所望とする塗膜性能や硬化触媒の使用の有無に応じて常温から加熱まで広い温度範囲を取ることができる。
【0042】
塗料組成物によって被塗装物の表層に形成される塗膜の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば0.05〜10μm程度であればよいが、塗膜が長期に亘って被塗装物の表面に安定して密着・保持され、且つクラックや剥離が生じることを防ぐために、0.05〜2μmの範囲が好ましく、0.1〜1μmの範囲がより好ましい。
【0043】
ここで、被塗装物の表面に他の目的で塗装した下地の塗膜の上に、本発明の塗料組成物を塗装して塗膜を形成する場合、下地の塗膜の硬化状態が半硬化状態のときに、本発明の塗料組成物をこの下地塗膜の上に塗布するのが好ましい。このように半硬化状態の下地塗膜の上に塗料組成物を塗布すると、下地塗膜の硬化と塗料組成物の塗膜の硬化が同時に進行して、下地塗膜と親水性の塗膜との密着力を強固にすることができるものである。この半硬化状態とは、下地塗膜の塗料を塗布した後、完全に硬化する前の段階で、指触乾燥レベルの状態をいうものであり、この状態は完全なタックフリーの状態ではなく、タックが残る程度のレベルであることが好ましい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0045】
(実施例1)
(A)成分となるテトラエトキシシラン(TES)4部にイソプロピルアルコール18部を加え、更に(B)成分の微粒子シリカを下記のように配合し、これをディスパーを用いてよく混合した。そして2時間重合反応させた後に、全固形分が5%になるように(C)成分の水で希釈し、さらに(D)成分のレベリング剤(デグサ社製「BYK−346」)を全量に対して0.3%加えることによって、塗料組成物を調製した。
【0046】
ここで上記の(B)成分の微粒子シリカとして、平均一次粒子径が小さい成分(B1)であるシリカゾル(日産化学工業(株)商品名「ST−O」:粒径10〜20nm)(表に「シリカ1」と表記)と、平均一次粒子径が大きい成分(B2)であるシリカゾル(日産化学工業(株)製商品名「ST−OL」:粒径40〜50nm)(表に「シリカ2」と表記)を使用した。
【0047】
そして(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で99.9:0.1となるように組み合わせて用い(B=B1+B2)、(A)成分と(B)成分を、(B)成分が(A)成分と(B)成分の合計質量に対し、固形分換算した質量比で0.91になるように配合した。
【0048】
一方、被塗装物として、窯業系基材の表面に無機コーティング剤(パナソニック電工化研(株)製 MC−T570)を塗布・硬化して、水の接触角が60°以上の高撥水性の下地塗膜を形成したものを用いた。そして上記のように調製した塗料組成物を窯業系基材の撥水性下地塗膜の上にエアースプレーして塗布し、150℃で30分間焼成することによって、平均膜厚1.0μmの親水性塗膜を表層に形成した防汚建材を得た。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で99.0:1.0となるように組み合わせて用いるようにした。
【0050】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で95.0:5.0となるように組み合わせて用いるようにした。
【0052】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0053】
(実施例4)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で92.0:8.0となるように組み合わせて用いるようにした。
【0054】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0055】
(実施例5)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で90.0:10.0となるように組み合わせて用いるようにした。
【0056】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0057】
(実施例6)
実施例1において、(C)成分としてイソプロピルアルコール(IPA)を用いて全固形分が5%になるように希釈した。
【0058】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0059】
(実施例7)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で99.0:1.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0060】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0061】
(実施例8)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で95.0:5.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0062】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0063】
(実施例9)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で92.0:8.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0064】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0065】
(実施例10)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で90.0:10.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0066】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0067】
(実施例11)
実施例1において、(C)成分として水とIPA=1:1(質量比)の混合溶媒を用いて、全固形分が5%になるように希釈した。
【0068】
その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、さらに実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0069】
(実施例12)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で99.0:1.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0070】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0071】
(実施例13)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で95.0:5.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0072】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0073】
(実施例14)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で92.0:8.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0074】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0075】
(実施例15)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で90.0:10.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0076】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0077】
(実施例16)
窯業系基材の表面に実施例1と同じ無機コーティング剤を塗布し、100℃で1分間加熱することによって、塗膜を半硬化させた。そしてこの撥水性の下地塗膜が半硬化状態のときに、実施例5で調製した塗料組成物をエアースプレーして塗布し、150℃で30分間焼成することによって、平均膜厚1.0μmの親水性塗膜を表層に形成した防汚建材を得た。
【0078】
(実施例17)
実施例10で調製した塗料組成物を用いるようにした他は、実施例16と同様にして、防汚建材を得た。
【0079】
(実施例18)
実施例15で調製した塗料組成物を用いるようにした他は、実施例16と同様にして、防汚建材を得た。
【0080】
(比較例1)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が小さい(B1)成分のみ用いるようにし、その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0081】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0082】
(比較例2)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が小さい(B1)成分のみ用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0083】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0084】
(比較例3)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が小さい(B1)成分のみ用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0085】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0086】
(比較例4)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が大きい(B2)成分のみ用いるようにし、その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0087】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0088】
(比較例5)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が大きい(B2)成分のみ用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0089】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0090】
(比較例6)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカとして、粒子径が大きい(B2)成分のみ用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0091】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0092】
(比較例7)
実施例1において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で75.0:25.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0093】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0094】
(比較例8)
実施例6において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で75.0:25.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例6と同様にして塗料組成物を調製した。
【0095】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0096】
(比較例9)
実施例11において、(B)成分の微粒子シリカを、(B1)成分:(B2)成分の比率が固形分質量比で75.0:25.0となるように組み合わせて用いるようにし、その他は実施例11と同様にして塗料組成物を調製した。
【0097】
そしてこの塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布・焼成することによって、防汚建材を得た。
【0098】
上記の各実施例及び各比較例で形成した親水性塗膜について、「塗膜の状態」「水の接触角」「水膜保持面積」「カーボン液による汚れ」「密着性」を評価した。
【0099】
「塗膜の状態」は、塗膜を目視観察して評価し、また「水の接触角」は、成膜直後の塗膜の表面に0.2cmの蒸留水を滴下し、これを拡大カメラで観察することによって測定した。
【0100】
「水膜保持面積」の試験は、成膜直後及び成膜3ヶ月後の防汚建材の塗膜に対して、水をまんべんなく霧吹きで拭きかけ、防汚建材を10秒間垂直に立て掛けた後、塗装物表面の水膜保持面積を観察した。そして、水膜面積が90%以上のものを「○」、水膜面積が60%以上90%未満程度のものを「△」、水膜面積が60%未満のものを「×」と評価した。
【0101】
「カーボン液による汚れ」の試験は、成膜直後の塗膜と、成膜から3ヶ月経過した後の塗膜に、カーボン粉末(デグサ社製「FW−200」)と水を10:90の質量比で混合したカーボン液を、まんべんなく霧吹きで拭きかけた後、水で洗い流し、水で洗い流した後の塗膜の表面のカーボン液の残りかたを観察することによって行なった。そしてカーボン残存なしを「○」、カーボン残存少しありを「△」、カーボン残存多くありを「×」と評価した。
【0102】
「密着性」の試験は、JIS K5400.8.5.2に準拠して、成膜直後の塗膜にカッターナイフガイドを用いて縦横6本ずつ4mm間隔で平行線を引き、25個の碁盤の目を作り、碁盤目の上にセロテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼り付け、上から消しゴムで擦りつけた後、一気にセロテープ(登録商標)を引き剥がすことによって行なった。そしてセロテープ(登録商標)剥離後の塗膜残存を観察し、塗膜剥離なしを「◎」、塗膜剥離2%以下を「○」、塗膜剥離10%以下を「△」、塗膜剥離50%以上を「×」と評価した。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
表1乃至表3の結果にみられるように、微粒子シリカ(B)として、平均粒子径が小さい(B1)成分と、平均粒子径が大きい(B2)成分を組み合わせて用いた各実施例のものは、塗膜の状態が良好であり、水の接触角が小さく親水性が高いものであった。また成膜直後と3ヶ月経過後とにおいて、水膜保持面積やカーボン液による汚れの評価に変化がなく、低汚染性や自己洗浄性を長期間有するものであった。さらに密着性にも優れるものであった。
【0107】
一方、微粒子シリカ(B)として、平均粒子径が小さい(B1)成分と、平均粒子径が大きい(B2)成分のいずれか一方のみを用いた比較例1〜6のものは、成膜3ヶ月経過後の塗膜では水膜保持面積やカーボン液による汚れの評価が低下しており、低汚染性や自己洗浄性を長期間保持できないものであった。また微粒子シリカ(B)として平均粒子径が大きい(B2)成分のみを用いた比較例4,5,6では、塗膜に白濁が発生するものであった。
【0108】
また平均粒子径が大きい(B2)成分の比率が高い比較例7〜9のものは、成膜3ヶ月経過後の塗膜では水膜保持面積やカーボン液による汚れの評価が低下しており、低汚染性や自己洗浄性を長期間保持できないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がSi(OR)[Rは同一又は異種の置換若しくは非置換の炭素数1〜8の一価炭化水素基]で表されるアルコキシドの加水分解物及び/又は部分加水分解物(A)と、微粒子シリカ(B)と、希釈溶媒(C)と、表面張力調整剤(D)とを含有し、(B)成分が、平均粒子径が4nm以上〜20nm未満のもの(B1)と、平均粒子径が20nm以上〜150nm以下のもの(B2)の2種類以上の微粒子シリカの組合せからなり、(B1)と(B2)の比率が固形分換算した質量比で(B1):(B2)=99.9:0.1〜90:10の範囲であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計質量に対し、固形分換算した質量比で0.5〜0.95の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
(B)成分の微粒子シリカは親水性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
(C)成分の希釈溶媒は、有機溶剤及び水から選ばれるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
被塗装物に表層として、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗料組成物の塗膜が形成されていることを特徴とする塗装品。
【請求項6】
水の接触角が60°以上である下地塗膜が形成された被塗装物の表面に、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗布して塗膜を形成することを特徴とする塗装方法。
【請求項7】
被塗装物に形成された下地塗膜の上に請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗布して塗膜を形成するにあたって、下地塗膜が半硬化状態のときに、上記塗料組成物を下地塗膜の上に塗布することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2010−144083(P2010−144083A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323863(P2008−323863)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】