説明

塗料組成物およびこれを用いた塗膜

【課題】従来と比較して耐食性および耐湿性がともに向上された塗膜を形成することができる塗料組成物および当該塗料組成物を用いて形成された塗膜を提供する。
【解決手段】塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)およびバナジン酸カルシウム(c)を含有する塗料組成物であって、バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液の電導度が200〜2000μS/cmであり、バナジン酸カルシウム(c)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して50〜150質量部である塗料組成物、および当該塗料組成物を用いて形成された塗膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関し、より詳しくは、非クロム系防錆塗料組成物に関する。また本発明は、当該塗料組成物を用いて形成される塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板やメッキ鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板は、プレコートメタルとも呼ばれ、エアコンの室外機、給湯器の家電外装品、屋根、壁等の外装用建材等、種々の用途に用いられている。
【0003】
亜鉛めっき鋼板を含む塗装鋼板には、耐食性を向上させて発錆を防ぐために、通常、防錆塗料がその表面に塗装される。従来、防錆塗料としてはクロム系塗料を使用するのが一般的であった。クロム含有塗膜を形成することにより、クロムによる皮膜が形成され、錆の発生が抑制することができる。しかしながらクロムは、環境への悪影響が懸念され、その使用が制限されつつある。
【0004】
そこで、クロム化合物以外の防錆剤を含有する塗料がこれまで種々提案されているが、クロム系塗料と同等の耐食性を付与することが難しく、このため、従来の非クロム系防錆塗料を塗装した塗装鋼板を、エアコンの室外機等の屋外使用品に適用することは困難であった。すなわち、従来の非クロム系防錆塗料を塗装した塗装鋼板を屋外使用品に適用すると、著しい錆発生が見られ、外観不良、塗膜の密着性の低下が生じるとともに、特にエッジ部においてフクレが生じるという問題があった。とりわけ、塗装鋼板を上記室外機などに適用する場合は、平板鋼板に防錆塗料を塗装して得られた防錆塗膜を備えた平板鋼板を、折り曲げ加工して成形体を得るプレコート工法が採用されるため、上記防錆性だけではなく、同時に折り曲げ加工によって当該塗膜に剥離が生じないなどの折り曲げ加工性、加工密着性を具備することが求められる。
【0005】
たとえば、特許文献1および2には、非クロム系防錆顔料として、リン酸イオンを放出する化合物とバナジン酸イオンを放出する化合物とを組み合わせた防錆顔料を用いることが提案されているが、防錆顔料あるいはその構成成分として、複数種の成分を用いる必要があり、塗料調製が煩雑である、および、当該非クロム系防錆顔料から形成された塗膜は、屋外用途への適用に対して耐食性が十分でないなどの問題を有している。
【0006】
また、特許文献3および4には、非クロム系防錆顔料として、(1)バナジン酸化合物、(2)金属珪酸塩等、および(3)リン酸系金属塩からなる防錆顔料を含有する防錆塗料組成物が開示されている。しかしながら、これらの防錆塗料組成物においても、特許文献1および2と同様、防錆顔料として複数種の成分を用いる必要があり、塗料調製が煩雑であるとともに、屋外用途への適用に対して耐食性が十分でなく、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−50444号公報
【特許文献2】特許第3461741号公報
【特許文献3】特許第4323530号公報
【特許文献4】特開2009−227748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バナジン酸金属塩などのバナジン酸化合物は、防錆成分として有効であることが一般に知られている。したがって、防錆塗料組成物の耐食性を向上させるための手段として、防錆顔料であるバナジン酸化合物の配合量を増加させることは有効である。しかしながら、バナジン酸化合物、特にバナジン酸金属塩は水溶性が高いため、多量に配合すると、塗膜が吸湿しやすくなり、その結果、塗膜の耐湿性が低下して、塗膜にフクレが生じるという問題があった。このような塗膜のフクレは、耐食性低下の原因ともなる。
【0009】
上記特許文献1〜4に記載の防錆顔料は、複数種の防錆成分からなる結果、これを塗料に配合する場合、バナジン酸化合物の配合量は比較的低く抑えられる傾向にある。その結果、得られる塗膜の耐湿性は比較的良好であり得るものの、耐食性が十分に付与されない。このように、耐食性と耐湿性とが両立された防錆塗料組成物は、見出されていないのが現状である。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来と比較して耐食性および耐湿性がともに向上された塗膜を形成することができる防錆塗料組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該防錆塗料組成物を用いて形成された塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、防錆顔料として、電導度が所定の範囲内に調整されたバナジン酸カルシウムを特定量用いた防錆塗料組成物によれば、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)およびバナジン酸カルシウム(c)を含有する塗料組成物であって、バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液の電導度が200〜2000μS/cmであり、バナジン酸カルシウム(c)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して50〜150質量部である塗料組成物を提供する。
【0013】
バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液のpHが6.5〜11.0であることが好ましい。
【0014】
本発明の塗料組成物は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種の体質顔料(d)をさらに含有していてもよい。この場合、体質顔料(d)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましい。
【0015】
上記塗膜形成性樹脂(a)は、数平均分子量が2000〜10000であり、ガラス転移温度が60〜120℃である水酸基含有エポキシ樹脂、および、数平均分子量が2000〜30000であり、ガラス転移温度が0〜80℃である水酸基含有ポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0016】
また、上記架橋剤(b)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(e)、および、メチロール基またはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するアミノ樹脂(f)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。架橋剤(b)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して、好ましくは、固形分で10〜80質量部である。上記ポリイソシアネート化合物は、芳香族ポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0017】
本発明の塗料組成物は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤およびジルコニウム系カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種のカップリング剤(g)をさらに含有していてもよい。この場合、カップリング剤(g)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記塗料組成物を用いて形成された塗膜を提供する。該塗膜の湿潤抵抗値は、好ましくは105〜1012Ω・cm2である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗料組成物によれば、従来と比較して耐食性および耐湿性がともに向上された塗膜を形成することができる。本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜を備える塗装鋼板等の塗装物は、高い耐食性が付与されており、錆が生じにくいとともに、フクレや塗膜の剥がれ等の外観不良が生じにくいため、屋外使用にも好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)と、架橋剤(b)と、防錆顔料としてのバナジン酸カルシウム(c)とを含有する、非クロム系防錆塗料組成物である。必要に応じて、体質顔料(d)、カップリング剤(g)などの他の添加剤を含んでもよい。本発明の塗料組成物によれば、種々の被塗物(各種鋼板など)に対して、耐食性および耐湿性がともに向上された塗膜を形成することができる。ここで、本明細書中において、「耐湿性が向上する」とは、被塗物が高湿環境下に置かれた場合でも塗膜にフクレや剥がれが生じにくくなることを意味しており、基本的には塗膜の透湿抑制性能を大きくすることで向上する。しかしながら塗膜の透湿抑制性能を向上しすぎると、防錆顔料であるバナジン酸カルシウム(c)の溶出性を低下させ、塗膜の耐食性を低下させることになる。したがって、「耐湿性と耐食性を高位で両立」させるためには、従来と比較して透湿抑制性能が大きい一方、透湿抑制性能が過度に大き過ぎず、適度な透湿性を備えることが重要になる。
【0022】
〔塗膜形成性樹脂(a)〕
本発明の塗料組成物に用いられる塗膜形成性樹脂(a)としては、架橋剤(b)と反応しうる官能基を有しかつ、塗膜形成能を有する樹脂である限り特に制限されず、たとえば、エポキシ樹脂およびその変性物(アクリル変性エポキシ樹脂等);ポリエステル樹脂およびその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等);アクリル樹脂およびその変性物(シリコーン変性アクリル樹脂等);ウレタン樹脂およびその変性物(エポキシ変性ウレタン樹脂等);フェノール樹脂およびその変性物(アクリル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等);フェノキシ樹脂;アルキド樹脂およびその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);フッ素樹脂などの樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記エポキシ樹脂としては、たとえば、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを必要に応じてアルカリ触媒などの触媒存在下で高分子量まで縮合させてなる樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;およびノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0024】
エポキシ樹脂の変性物としては、たとえば、アクリル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂などの変性エポキシ樹脂を挙げることができる。たとえば、アクリル変性エポキシ樹脂を例に挙げれば、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂または上記ノボラック型エポキシ樹脂に、アクリル酸またはメタクリル酸などを含む重合性不飽和モノマー成分を反応させて調製することができる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂を例に挙げれば、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂または上記ノボラック型エポキシ樹脂にポリイソシアネート化合物を反応させて調製することができる。
【0025】
上記ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との重縮合により得られるものである。上記多価アルコールの具体例としては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールまたは1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート(BASHPN)、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−(ヒドロキシエチル)イソシアナートなどを挙げることができる。多価アルコールは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、上記多塩基酸の具体例としては、たとえば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸などを挙げることができる。多塩基酸は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリエステル樹脂の変性物としては、たとえば、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂などの変性ポリエステル樹脂を挙げることができる。たとえば、シリコーン変性ポリエステル樹脂を例に挙げれば、これは、ポリエステル樹脂と有機シリコーン(たとえば、官能基として−SiOCH3基および/または−SiOH基を有する数平均分子量300〜1000程度の有機シリコーン)とを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、ポリエステル樹脂100質量部に対して、5〜50質量部程度である。また、ウレタン変性ポリエステル樹脂を例に挙げれば、これは、上記ポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物とを反応させて調製することができる。
【0028】
上記アクリル樹脂としては、たとえば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーおよびそのラクトン付加物;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリルなどから選択される1種または2種以上のモノマーからなるアクリル樹脂を挙げることができる。アクリル樹脂は、上記モノマーに由来する構成単位のほか、他のモノマー(たとえば、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有エチレン性モノマーや、スチレンなどのビニル系モノマー等)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0029】
アクリル樹脂の変性物としては、たとえば、シリコーン変性アクリル樹脂などの変性アクリル樹脂を挙げることができる。たとえば、シリコーン変性アクリル樹脂を例に挙げれば、これは、アクリル樹脂と上記したような有機シリコーンとを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、アクリル樹脂100質量部に対して、5〜50質量部程度である。
【0030】
上記フッ素樹脂は、架橋剤(b)と反応し得る官能基を有しかつ、塗膜形成性を有するものであり、たとえば、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体などを挙げることができる。上記官能基としては、架橋剤(b)との反応性や得られる塗膜の耐水性を考慮すると、水酸基が特に好ましい。
【0031】
上記のなかでも、塗膜形成性樹脂(a)としては、得られる塗膜の加工密着性や得られる塗膜の耐湿性、耐食性および耐候性のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂またはこれらの変性物等の熱硬化性樹脂(a1)を用いることが可能であって、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂およびこれらの変性物から選択される1種以上を用いることができる。好ましくは、熱硬化性樹脂(a1)として、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂および水酸基を含有するこれらの変性物から選択される1種以上が用いられる。エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂およびこれらの変性物が水酸基を有していると、架橋剤(b)として、各種メラミン樹脂、各種イソシアネート化合物を選択することができる。その結果、種々の架橋剤(b)の中から、所望の性質を有する架橋剤(b)を選択することによって、塗膜に多様な物性を付与することができるようになるため、特に好ましい。
【0032】
水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)としては、たとえば、ジャパンエポキシレジン株式会社製のjER1004、jER1007、E1255HX30、YX8100BH30などを挙げることができる。また、水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)としては、たとえば、DIC株式会社製のベッコライト47−335、東洋紡績株式会社製のバイロン220、バイロンUR3500、バイロンUR5537、バイロンUR8300などを挙げることができる。
【0033】
上記水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、2000〜10000であることが好ましく(より好ましくは2000〜4000)、ガラス転移温度(Tg)は60〜120℃であることが好ましい(より好ましくは60〜100℃)。また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、2000〜30000であることが好ましく(より好ましくは10000〜20000)、ガラス転移温度(Tg)は0〜80℃であることが好ましい(より好ましくは10〜40℃)。使用する水酸基含有エポキシ樹脂および/または水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が上記範囲より高い場合、後述する架橋剤(b)との架橋反応が十分に進行せず、塗膜の耐湿性が低下する傾向にあるとともに、得られる塗料組成物の粘度が高くなって取り扱い性が低下する傾向にある。数平均分子量(Mn)が上記範囲より低い場合には、塗膜の透湿性が過度に低くなる可能性がある。その結果、塗膜中に含まれるバナジン酸カルシウムの溶出が阻害されて、耐食性が低下する可能性があり好ましくない。また架橋密度が高くなりすぎる結果、得られる塗膜の伸び率が低下し、十分な折り曲げ加工性が得られない場合がある。また、使用する水酸基含有エポキシ樹脂および/または水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲より低いと、塗膜の透湿性が過度に高くなって、塗膜の耐湿性が低下する傾向にあり、上記範囲より高いと、塗膜の伸び率が低下し、十分な折り曲げ加工性が得られない場合がある。
【0034】
なお、本明細書中において、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。また、本明細書中において、ガラス転移温度(Tg)とは、熱分析装置(セイコーインスツル株式会社製「TMA100/SSC5020」)を用いて測定した値である。また、「伸び率」(単位:%)とは、塗膜単体(フリーフィルム)について引っ張り試験を行ない、伸ばしていった際に、当該塗膜が破断するまでにどのぐらい伸びるかを示しており、破断時における塗膜の長さ(L)および初期塗膜の長さ(L0)を用いて、「伸び率」=100×(L−L0)/L0(%)で表される。
【0035】
本発明の塗料組成物における塗膜形成性樹脂(a)の含有量は、通常、全固形分中10〜80質量%であり、20〜70質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、折り曲げ加工性の低下、塗装作業性の低下、塗膜強度の低下等を生じるおそれがある。また、塗膜形成性樹脂(a)の含有量が80質量%を超えると、十分な耐食性を得ることができない。
【0036】
また、上記塗膜形成性樹脂(a)のほかに、さらに熱可塑性樹脂(h1)または自己架橋性樹脂(h2)を併せて用いることもできる。熱可塑性樹脂(h1)としては、たとえば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等をモノマー成分とする単独重合体または共重合体;セルロース系樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;塩化ゴム系樹脂;変性ポリプロピレン樹脂(酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等);フッ素樹脂(たとえばフッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体)などを挙げることができる。また、自己架橋性樹脂(h2)としては、たとえば、ウレタン変性ポリエステル樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。熱可塑性樹脂(h1)、自己架橋性樹脂(h2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂(h1)または自己架橋性樹脂(h2)を併用することで、塗膜物性を所望の性質に調製することができる。
【0037】
熱可塑性樹脂(h1)または自己架橋性樹脂(h2)の含有量と、塗膜形成性樹脂(a)の含有量との比[(h1)または(h2)]/(a)は、質量比で、は、0/1〜0.25/0.75であることが好ましい。熱可塑性樹脂(h1)の配合比が上記好ましい範囲の上限を上回ると、得られる塗膜の硬化性が不足する可能性があり好ましくない。また、自己架橋性樹脂(h2)の配合比が上記好ましい範囲の上限を上回ると、塗膜の架橋密度が高くなりすぎるため、塗膜の透湿性が過度に低くなる可能性がある。その結果、塗膜中に含まれるバナジン酸カルシウムの溶出が阻害されて、耐食性が低下する可能性があり好ましくない。なお、熱可塑性樹脂(h1)および自己架橋性樹脂(h2)の両方を使用してもよく、この場合、熱可塑性樹脂(h1)および自己架橋性樹脂(h2)のそれぞれの含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0038】
〔架橋剤(b)〕
架橋剤(b)は、上記塗膜形成性樹脂(a)として熱硬化性樹脂(a1)を用いる場合に配合されるものであり、熱硬化性樹脂(a1)と反応して硬化塗膜を形成するものである。架橋剤(b)としては、ポリイソシアネート化合物;ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(e);アミノ樹脂;フェノール樹脂などを挙げることができ、なかでも、ブロックポリイソシアネート化合物(e)およびアミノ樹脂から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0039】
上記ポリイソシアネート化合物および上記ブロックポリイソシアネート化合物(e)を構成するポリイソシアネート化合物としては特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体例を挙げれば、たとえば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−または1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名イソホロンジイソシアネート;IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(別名:水添MDI)、2−または4−イソシアナトシクロヘキシル−2’−イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3−または1,4−ビス−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス−(4−イソシアナト−3−メチルシクロヘキシル)メタン、1,3−または1,4−α,α,α’α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,4−または2,6−ジイソシアナトトルエン、2,2’−、2,4’−または4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−またはm−フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネートなどである。また、各ジイソシアネート同士の環化重合体(イソシアヌレート型)、さらにはイソシアネート・ビウレット体(ビウレット型)、アダクト型を使用してもよい。ポリイソシアネート化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。イソシアヌレート型のポリイソシアネート化合物は、本発明において好ましく用いられるものの1つである。
【0040】
上記のなかでも、ポリイソシアネート化合物は、分子内に1以上の芳香族官能基を含有する芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることにより、塗膜の耐湿性を向上させることができるとともに、塗膜強度を向上させることができる。好ましく用いられる芳香族ポリイソシアネート化合物としては、2,4−または2,6−ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,2’−、2,4’−または4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)などを挙げることができる。
【0041】
ブロックポリイソシアネート化合物(e)を構成するポリイソシアネート化合物の、JIS K 7301−1995に準拠して測定されるイソシアネート基含有率は、ポリイソシアネート化合物の固形分中、通常3〜20%であり、好ましくは5〜15%である。イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の下限値を下回ると、塗膜の硬化性が不足する可能性があり好ましくない。一方、イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の上限値を上回ると、得られる塗膜の架橋密度が高くなりすぎる可能性があり、好ましくない。
【0042】
上記ブロックポリイソシアネート化合物(e)に用いられる活性水素含有化合物(ブロック化剤)としては特に制限されず、−OH基(アルコール類、フェノール類等)、=N−OH基(オキシム類等)、=N−H基(アミン類、アミド類、イミド類、ラクタム類等)を有する化合物や、−CH2−基(活性メチレン基)を有する化合物、アゾール類を挙げることができる。具体例を挙げれば、たとえば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ε−カプロラクタム、σ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、メタノール、エタノール、n−、i−、またはt−ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、ホルムアミドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケドキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ピラゾールなどである。活性水素含有化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
ブロックポリイソシアネート化合物(e)の熱による解離温度は、これを構成するポリイソシアネート化合物および活性水素含有化合物の種類や触媒の有無およびその量に依存するが、本発明においては、熱による解離温度(無触媒状態)が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(e)が好ましく用いられる。この範囲内に解離温度を示すブロックポリイソシアネート化合物(e)を用いることにより、塗料の安定性を向上させることができ、また、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れているため、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。解離温度が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(e)としては、たとえば、住化バイエルウレタン株式会社製 デスモジュールBL3175、デスモサーム2170などを挙げることができる。
【0044】
上記アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂などを挙げることができ、なかでもメラミン樹脂が好ましく用いられる。「メラミン樹脂」とは、一般的に、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味し、トリアジン核1分子中に3つの反応性官能基−NX12を有している。メラミン樹脂としては、反応性官能基として−N−(CH2OR)2〔Rはアルキル基、以下同じ〕を含む完全アルキル型;反応性官能基として−N−(CH2OR)(CH2OH)を含むメチロール基型;反応性官能基として−N−(CH2OR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、−N−(CH2OR)(CH2OH)と−N−(CH2OR)(H)とを含む、あるいは−N−(CH2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。
【0045】
本発明においては、上記メラミン樹脂のなかでも、メチロール基またはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するメラミン樹脂(以下、アミノ樹脂(f)という)、すなわち、メチロール基型、イミノ基型あるいはメチロール/イミノ基型メラミン樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。アミノ樹脂(f)は、無触媒下においても塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れており、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。
【0046】
本発明の塗料組成物における架橋剤(b)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して、好ましくは、固形分で10〜80質量部であり、より好ましくは20〜70質量部である。架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して10質量部未満であると、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応が十分に進行せず、塗膜の透湿性が過度に高くなって、塗膜の耐湿性および耐食性が低下する傾向にある。また、架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して80質量部を超えると、塗膜中の防錆顔料の溶出が阻害されて耐食性が低下する傾向にある。
【0047】
〔バナジン酸カルシウム(c)〕
本発明の塗料組成物に用いられる防錆顔料であるバナジン酸カルシウム(c)は、特定の電導度を有するものであり、具体的には、その1質量%水溶液の電導度が200〜2000μS/cmである。この範囲内の電導度を有するバナジン酸カルシウム(c)を所定量用いることにより、耐食性と耐湿性とがともに向上された塗膜を得ることができる。また、この範囲内の電導度を有するバナジン酸カルシウム(c)は、適度な溶解性を示すことから、被塗物(鋼板など)の塗装面だけでなく、端面部の腐食を効果的に防止することができる。電導度が200μS/cm未満であると、塗膜から被塗物(鋼板など)へのバナジン酸カルシウムの溶出が少なくなる結果、耐食性が低下する。また、電導度が2000μS/cmを超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって(塗膜に水が過度に浸入しやすくなって)、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い耐食性も低下する。バナジン酸カルシウム(c)の1質量%水溶液の電導度は、好ましくは200〜1000μS/cmである。
【0048】
本明細書中において、「1質量%水溶液」とは、イオン交換水99gに対して試料(バナジン酸カルシウム)1gを加え、室温にて4時間攪拌して得られる溶液をいう。ただし、添加した試料のすべてがイオン交換水に溶解していなくてもよい。上記電導度は、この1質量%水溶液の電導度を、電気伝導度計(東亜電波工業株式会社製電導度計「CM−30ET」)を用いて測定したときの値である。
【0049】
本発明において、上記バナジン酸カルシウム(c)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して50〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは、55〜100質量部であり、さらに好ましくは55〜90質量部である。バナジン酸カルシウム(c)の含有量が、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して50質量部未満であると、塗膜から被塗物(鋼板など)へのバナジン酸カルシウムの溶出が少なくなる結果、耐食性が低下する。また、バナジン酸カルシウム(c)の含有量が150質量部を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって(塗膜に水が過度に浸入しやすくなって)、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い耐食性も低下する。このように、本発明においては、防錆顔料である特定のバナジン酸カルシウム(c)と樹脂固形分との比率を、適正な範囲に調整することにより、耐湿性と耐食性を高位で両立することが可能となっている。
【0050】
上記のように、本発明においては、バナジン酸カルシウムを従来と比較して多く配合するものであるが、電導度が適切な範囲内に調整されているため、耐湿性の低下を招くことなく、塗膜の耐食性を向上させることができる。したがって、本発明では、防錆顔料としてバナジン酸カルシウム(c)のみを配合することで足り、必ずしもバナジン酸カルシウム(c)以外の防錆顔料を併用する必要がないため、塗料調製の簡便化を図ることができる。
【0051】
上記バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液のpHが6.5〜11.0であることが好ましく、7.0〜10.0であることがより好ましい。pHがこの範囲内にあることにより、被塗物が亜鉛またはアルミニウムを含むめっき鋼板である場合においても、高い耐食性を示す塗膜を得ることができる。バナジン酸カルシウム(c)の1質量%水溶液のpHが上記範囲外である場合には、亜鉛やアルミニウムの腐食が生じやすくなるおそれがある。
【0052】
なお、ここでいう「1質量%水溶液」は上記と同じ意味であり、上記pHは、1質量%水溶液のpHを、pHメータ(堀場製作所製「F−54」)を用いて測定したときの値である。
【0053】
本発明で用いられるバナジン酸カルシウム(c)の調製方法は特に制限されず、いかなる方法が用いられてもよいが、たとえば、カルシウム塩とバナジウム塩とを水中で混合し、反応させることによって得ることができる。当該反応によって得られた固体(通常、白色固体)は、必要に応じて水洗、脱水、乾燥、粉砕等の処理に供されてもよい。
【0054】
バナジン酸カルシウム(c)を調製するためのカルシウム塩としては、たとえば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよび硫酸カルシウムが例示される。さらに、ギ酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩もまた好適に用いられる。バナジウム塩としては、五酸化バナジウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムが例示されるが、これらに限定されない。
【0055】
カルシウム塩とバナジウム塩とを反応させてバナジン酸カルシウム(c)を調製する場合には、カルシウム塩とバナジウム塩との使用比率を調整することによって、所望の電導度およびpHを示すバナジン酸カルシウムを得ることができる。また、電導度および/またはpHを上記範囲内に調整するために、異なる電導度および/またはpHを示す2種以上のバナジン酸カルシウムを均一に混合してもよい。
【0056】
〔体質顔料(d)〕
本発明の塗料組成物は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種の体質顔料(d)をさらに含有していてもよい。体質顔料(d)の添加により、塗膜強度を向上させることができるとともに、塗膜表面に凹凸が生じ、上塗り塗膜との密着性が向上する等の理由により、耐湿性が良好となる。体質顔料(d)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましい。体質顔料(d)の含有量が1質量部未満であると、耐湿性向上効果が得られにくい。また、体質顔料(d)の含有量が40質量部を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって(塗膜に水が過度に浸入しやすくなって)、塗膜の耐湿性が逆に低下する傾向にある。
【0057】
〔カップリング剤(g)〕
本発明の塗料組成物は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤およびジルコニウム系カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種のカップリング剤(g)をさらに含有していてもよい。カップリング剤(g)の添加により、下地との密着性を向上させることができ、塗膜の耐湿性をさらに向上させることができる。
【0058】
上記カップリング剤(g)としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。好適に用いられるカップリング剤(g)の具体例を挙げれば、たとえば、東レ・ダウコーニング株式会社製 DOW CORNING TORAY Z−6011、DOW CORNING TORAY Z−6040等のシラン系カップリング剤;松本ファインケミカル株式会社製 オルガチックスTC−401、オルガチックスTC−750等のチタン系カップリング剤;松本ファインケミカル株式会社製 オルガチックスZC−580、オルガチックスZC−700等のジルコニウム系カップリング剤である。なかでも、シラン系カップリング剤が好ましく用いられる。
【0059】
カップリング剤(g)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。カップリング剤(g)の含有量が0.1質量部未満であると、耐湿性向上効果が得られにくい。また、カップリング剤(g)の含有量が20質量部を超えると、塗料組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0060】
〔硬化触媒〕
架橋剤(b)としてブロックポリイソシアネート化合物(e)および/またはポリイソシアネート化合物を用いる場合、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。硬化触媒としては、たとえば、スズ触媒、アミン触媒、鉛触媒などを挙げることができ、なかでも有機スズ化合物が好ましく用いられる。有機スズ化合物としては、たとえば、ジブチルスズジラウレート(DBTL)、ジブチルスズオキサイド、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセトキシスタノキサンなどを用いることができる。硬化触媒の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して、通常0.1〜10質量部であり、0.1〜1質量部であることが好ましい。硬化触媒の含有量が10質量部を超えると、塗料組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0061】
また、架橋剤(b)として、アミノ樹脂(f)を用いる場合にも、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。この場合の硬化触媒としては、たとえば、カルボン酸、スルホン酸のような酸触媒などを挙げることができ、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などが好ましく用いられる。硬化触媒の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して、通常0.1〜10質量部であり、0.1〜1質量部であることが好ましい。硬化触媒の含有量が10質量部を超えると、塗料組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0062】
〔その他の添加剤〕
本発明の塗料組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、たとえば、上記バナジン酸カルシウム(c)以外の防錆顔料;上記体質顔料(d)以外の体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;光輝性顔料;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;表面調整剤(シリコーン、有機高分子等);タレ止め剤;増粘剤;ワックス等の滑剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;防腐剤;凍結防止剤;乳化剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤などがある。これらの添加剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
上記バナジン酸カルシウム(c)以外の防錆顔料としては、非クロム系防錆顔料を用いることができ、たとえば、モリブデン酸塩顔料(モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ストロンチウム等)、リンモリブデン酸塩顔料(リンモリブデン酸アルミニウム系顔料等)、カルシウムシリカ系顔料、リン酸塩系防錆顔料、ケイ酸塩系防錆顔料などの非クロム系防錆顔料が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、所定の電導度を有するバナジン酸カルシウム(c)を所定量含有することから、十分に高い耐食性を示すが、必要に応じて、上記のようなバナジン酸カルシウム(c)以外の防錆顔料が使用されてもよい。
【0064】
上記体質顔料(d)以外のその他の顔料として、得られる塗膜の耐湿性、防錆性、折り曲げ加工性などを損なわない範囲でアルミナ、ベントナイトなどを添加することができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記着色顔料としては、たとえば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタンなどを挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
上記光輝性顔料としては、たとえば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記溶剤としては、たとえば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3−メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;ならびに、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、ペンタン、iso−ペンタン、ヘキサン、iso−ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤、シェル化学社製)などを挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよい。
【0068】
本発明の塗料組成物は、たとえば、塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)およびバナジン酸カルシウム(c)、ならびに任意で用いられる熱可塑性樹脂(h1)、自己架橋性樹脂(h2)、体質顔料(d)、カップリング剤(g)、硬化触媒およびその他の添加剤を、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー、ディスパー等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。あるいは、本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)およびバナジン酸カルシウム(c)を含む主剤成分と、架橋剤(b)を含む架橋剤成分とからなる2液型塗料であってもよい。
【0069】
本発明の塗料組成物は、プライマーとも呼ばれる下塗り塗料として適用してもよいし、下塗り塗料の上に重ねる上塗り塗料としてもよい。さらには下塗り塗料と上塗り塗料の中間層に形成する中塗り塗料としてもよい。あるいは、本発明の塗料組成物は、複層塗膜形成用ではなく1層の塗膜を形成するための塗料として用いられてもよい。本発明の塗料組成物は、複層塗膜のどの部位に用いても優れた耐食性および耐湿性を発揮することができる。なかでも、本発明の塗料組成物は、下塗り塗料として用いられることが好ましい。本発明の塗料組成物以外の下塗り塗料、上塗り塗料および中塗り塗料は従来公知のものであってよく、たとえば、下塗り塗料としては、従来公知の非クロム系防錆塗料などが挙げられ、上塗り塗料、中塗り塗料としては、ポリエステル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などが挙げられる。
【0070】
本発明の塗料組成物による塗膜が形成される被塗物は、耐食性が要求されるものであるかぎり特に制限されないが、典型例としてプレコートメタル(塗装鋼板)等の基材となる鋼板を挙げることができる。鋼板としては、たとえば、亜鉛めっき鋼板や冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等が例示される。亜鉛めっき鋼板としては、亜鉛の犠牲防食を活用する亜鉛含有めっき鋼板、具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛めっき鋼板、ニッケル−亜鉛めっき鋼板、マグネシウム−アルミニウム−亜鉛めっき鋼板、マグネシウム−アルミニウム−シリカ−亜鉛めっき鋼板等が例示される。鋼板は、塗装前に化成処理剤による表面処理を施したものであることが好ましい。上記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。
【0071】
本発明の塗料組成物の被塗物への塗布方法としては、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーターなど従来公知の方法を採用することができる。本発明の塗料組成物からなる塗膜は、塗料組成物を鋼板等の被塗物に塗布した後、被塗物を加熱する焼付け処理を行なうことによって形成することができる。焼付け温度(鋼板等の被塗物が達する最高温度)は、通常180〜250℃であり、焼付け時間は、通常10〜200秒である。
【0072】
たとえば、下塗り塗膜と上塗り塗膜の2層からなる複層塗膜を形成する場合、下塗り塗料組成物を塗布した後焼付けを行ない、その後、上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜の焼付けを行なうものであってもよいし、下塗り塗料組成物を塗布した後、焼付けを行なわずにウェットオンウェットで上塗り塗料組成物を塗布し、同時に焼付けを行なうものであってもよい。
【0073】
本発明の塗料組成物を用いて得られる塗膜(以下、本発明の塗膜という)の膜厚(乾燥膜厚)は、通常1〜30μmであり、たとえば上塗り塗膜である場合は、好ましくは10〜30μmである。
【0074】
本発明の塗膜は、これを形成する塗料組成物が所定の電導度を有するバナジン酸カルシウム(c)を所定量含有することから、通常、105〜1012Ω・cm2程度の湿潤抵抗値(乾燥塗膜厚15μm、印加電圧の波高±0.5V、5%NaCl水溶液中、詳細条件については、後述の実施例で述べる)を示す。塗料組成物に用いる樹脂や架橋剤の種類、配合する添加剤の種類と量、焼付条件等で最適な湿潤塗膜抵抗値は多少変動するが、概ね、塗膜の湿潤抵抗値が上記範囲内であることは、塗膜が適度な透湿性を有している一方で、良好な耐湿性を示すことを意味している。すなわち、湿潤抵抗値が105Ω・cm2程度未満であることは、塗膜の透湿性が過度に高く、耐湿性が低いことを意味しており、したがって、フクレや剥がれなどが生じやすい傾向にある。また、湿潤抵抗値が1012Ω・cm2を超えることは、塗膜の透湿性が過度に低いことを意味しており、塗膜中の防錆顔料の溶出が阻害されて耐食性が低下する傾向にある。本発明の塗膜の湿潤抵抗値は、好ましくは、106〜1011Ω・cm2程度である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記実施例中、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0076】
(1)バナジン酸カルシウムの調製
(製造例1:バナジン酸カルシウム1の調製)
炭酸カルシウム(CaCO3)55gと、五酸化バナジウム(V25)945gを水10Lに添加し、60℃に昇温後、同温度で2時間攪拌した。得られた反応生成物(白色固体)を水洗後脱水し、100℃にて乾燥した後、粉砕することにより、バナジン酸カルシウム1を得た。
【0077】
(製造例2:バナジン酸カルシウム3の調製)
炭酸カルシウム、五酸化バナジウムの使用量を、それぞれ622g、378gに変更したこと以外は、製造例1と同様にしてバナジン酸カルシウム3を得た。
【0078】
(製造例3:バナジン酸カルシウム6の調製)
炭酸カルシウム、五酸化バナジウムの使用量を、それぞれ954g、46gに変更したこと以外は、製造例1と同様にしてバナジン酸カルシウム6を得た。
【0079】
(製造例4:バナジン酸カルシウム2の調製)
356gのバナジン酸カルシウム1と644gのバナジン酸カルシウム3とを、乳鉢を用いて均一に混合することにより、バナジン酸カルシウム2を得た。
【0080】
(製造例5:バナジン酸カルシウム4の調製)
590gのバナジン酸カルシウム3と410gのバナジン酸カルシウム6とを、乳鉢を用いて均一に混合することにより、バナジン酸カルシウム4を得た。
【0081】
(製造例6:バナジン酸カルシウム5の調製)
260gのバナジン酸カルシウム3と740gのバナジン酸カルシウム6とを、乳鉢を用いて均一に混合することにより、バナジン酸カルシウム5を得た。
【0082】
(2)バナジン酸カルシウムの電導度およびpHの測定
以下の手順に従い、上記で調製したバナジン酸カルシウム1〜6の1質量%水溶液の電導度およびpHを測定した。また、バナジン酸カルシウム1〜6以外の他の防錆顔料(比較例で使用)についても同様の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0083】
(電導度およびpHの測定手順)
〔i〕イオン交換水で洗浄したポリエチレン製細口瓶に、イオン交換水99gおよび試料1gを添加する。
〔ii〕イオン交換水で洗浄したスターラーチップを投入して、室温下で4時間撹拌する。
〔iii〕撹拌後、電気伝導度計(東亜電波工業株式会社製電導度計「CM−30ET」)およびpHメータ(堀場製作所製「F−54」)を用いて、電導度およびpHを測定する。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示されるバナジン酸カルシウム1〜6以外の他の防錆顔料の詳細は次のとおりである。
(a)「シールデックスC303」:グレースジャパン株式会社製、カルシウムイオン交換シリカ微粒子。
(b)「バナジン酸セリウム」:市販試薬。
(c)「バナジン酸アルミニウム」:市販試薬。
(d)「バナジン酸ナトリウム」:市販試薬。
【0086】
(3)塗料組成物の調製
<実施例1>
塗膜形成性樹脂(a)である「jER1007」 222部、シクロヘキサノン 30部および「ソルベッソ150」 30部からなる混合物に、防錆顔料であるバナジン酸カルシウム3 60部を混合し、分散機(大平システム社製 卓上式SGミル1500W型)に、得られた混合物とガラスビーズ 468部(顔料分散塗料の合計質量の1.5倍に相当するガラスビーズ)とを入れ、バナジン酸カルシウム粗粒子の粒子径が15μm以下となるまで顔料分散を実施し、顔料分散塗料を調製した。その後、この顔料分散塗料に、ブロックポリイソシアネート化合物(e)である「デスモジュールBL3175」 45部、ジブチルスズジラウレート(DBTL)(「TVS Tin Lau」) 0.5部、シクロヘキサノン 45部およびソルベッソ150 45部を加えて均一に混合し、塗料組成物を得た。
【0087】
<実施例2〜45、比較例1〜18>
表2〜表4に示される配合組成に従い、配合成分の種類および/または添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0088】
表2〜表4に示される各種配合成分の詳細は次のとおりである。
(e)「jER1004」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%(不揮発分が30%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、数平均分子量(Mn):1400、ガラス転移温度(Tg):60℃〕。
(f)「jER1007」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%(不揮発分が30%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、Mn:2900、Tg:73℃〕。
(g)「E1255HX30」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%、Mn:10000、Tg:85℃〕。
(h)「YX8100BH30」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%、Mn:14000、Tg:110℃〕。
(i)「ベッコライト47−335」:DIC株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:60%、Mn:1800、Tg:0℃〕。
(j)「バイロン220」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:60%(不揮発分が60%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、Mn:3000、Tg:53℃〕。
(k)「バイロンUR5537」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:30%、Mn:20000、Tg:34℃〕。
(l)「バイロンUR8300」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:30%、Mn:30000、Tg:23℃〕。
(m)「バイロンUR3500」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:40%、Mn:40000、Tg:10℃〕。
(n)「デスモジュールBL3175」:住化バイエルウレタン株式会社製、ブロックポリイソシアネート〔ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のブロック体(イソシアヌレート型、ブロック剤:メチルエチルケトンオキシム)、熱による解離温度(無触媒状態):160℃、イソシアネート基含有率:14.9%、不揮発分:75%〕。
(o)「デスモサーム2170」:住化バイエルウレタン株式会社製、ブロックポリイソシアネート〔4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のブロック体(イソシアヌレート型、ブロック剤:活性メチレン基含有化合物)、熱による解離温度(無触媒状態):120℃、イソシアネート基含有率:5.7%、不揮発分:70%〕。
(p)「マイコート715」:日本サイテックインダストリーズ株式会社製、イミノ基型メラミン樹脂〔不揮発分:80%〕。
(q)「沈降性硫酸バリウムB−55」:堺化学工業株式会社製、沈降性硫酸バリウム。
(r)「クレー1号」:丸尾カルシウム株式会社製、クレー。
(s)「DOW CORNING TORAY Z−6011」:東レ・ダウコーニング株式会社製、シランカップリング剤 DOW CORNING TORAY Z−6011〔γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、不揮発分:100%〕。
(t)「DBTL」:日東化成株式会社製、「TVS Tin Lau」〔ジブチルスズジラウレート、不揮発分:100%〕。
【0089】
<鋼板裏面用塗料組成物Aの調製>
塗膜形成性樹脂(a)である「jER1007」 222部、シクロヘキサノン 30部および「ソルベッソ150」 30部からなる混合物に、酸化チタン 80部を混合し、分散機(大平システム社製 卓上式SGミル1500W型)に、得られた混合物とガラスビーズ 332部とを入れ、酸化チタン粗粒子の粒子径が15μm以下となるまで顔料分散を実施し、顔料分散塗料を調製した。その後、この顔料分散塗料に、ブロックポリイソシアネート化合物(e)である「デスモジュールBL3175」 45部、ジブチルスズジラウレート(DBTL)(「TVS Tin Lau」) 0.5部、シクロヘキサノン 45部およびソルベッソ150 45部を加えて均一に混合し、塗料組成物Aを得た。
【0090】
(4)塗装鋼板の作製
厚さ0.4mmのアルミニウム亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、日本ペイント株式会社製のリン酸処理剤「サーフコートEC2310」を、鋼板表面および裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。ついで、得られた鋼板の裏面に上記で得られた塗料組成物Aを、乾燥塗膜が7μmとなるように塗布し、最高到達温度180℃にて30秒間焼き付けを行なって、裏面塗膜を形成した。次に、鋼板の表面に実施例1〜45、比較例1〜18のいずれかの塗料組成物を、乾燥塗膜が5μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼き付けを行なって、表面下塗り塗膜を形成した。さらに、上記下塗り塗膜上に日本ペイント株式会社製のポリエステル系上塗り塗料「NSC300HQ」を、乾燥塗膜が10μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒間焼き付けを行なって、表面上塗り塗膜を形成し、塗装鋼板を得た。
【0091】
(5)塗膜性能の評価
次に示す項目<1>〜<7>について、塗膜性能の評価試験を行なった。結果を表2〜表4に併せて示す。
【0092】
<1>耐沸騰水性試験
上記で得られた各塗装鋼板(表面下塗り塗膜が、それぞれ実施例1〜45、比較例1〜18の塗料組成物からなるもの)を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、約100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、引き上げて表面側の塗装外観を、ASTM D714−56に従って評価した(平面部フクレ評価)。ASTM D714−56は、各フクレの大きさ(平均径)と密度について、標準判定写真と対比して評価し、等級記号を示すものである。大きさについては8(直径約1mm)、6(直径約2mm)、4(直径約3mm)、2(直径約5mm)の順に4段階、密度については、小さい方からF、FM、M、MD、Dの5段階に級別するものであり、フクレがなければ、10とする。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0093】
また、約100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後の塗装鋼板試験片について、碁盤目テープ付着試験(碁盤目密着性試験)を行ない、評価した。碁盤目テープ付着試験は、JIS K−5400 8.5.2(1990)碁盤目テープ法に準じて、切り傷の隙間間隔を1mmとし、碁盤目を100個作り、その表面にセロハン粘着テープを密着させ、急激に剥がしたときの塗面に残存する碁盤目の数を調べた。
【0094】
<2>耐湿性試験
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、純水により50℃×98RH%とした条件下に500時間放置した後、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0095】
<3>耐食性試験
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×15cmとなるよう切断した。この際、切断は表面からと裏面からの交互に行ない、各試験片の断面が上バリ(裏面より切断)、下バリ(表面より切断)の両方を有するように試験片を作製した。次に、表面側中央部に素地に達する狭角30度、カット幅0.5mmのクロスカットをカッターナイフにて入れ、塗装鋼板上部エッジ部を防錆塗料にてシールし、下端部に4T折り曲げ加工部(塗装板の表面部を外側にして折り曲げ、その内側に塗装板と同じ厚さの板を4枚挟み、上記塗装板を万力にて180度折り曲げする加工。加工後4枚の板は取り除く。)を設けた。以上のようにして得られた塗装鋼板試験片の模式図を図1に示す。図1(a)は、得られた塗装鋼板試験片の上バリおよび下バリの断面を模式的に示す図であり、図1(b)は、得られた塗装鋼板試験片が有するクロスカット部および4T折り曲げ加工部を模式的に示す図である。
【0096】
得られた各塗装鋼板試験片について、JIS K5600−7−9A JASO M609 に従い、複合サイクル腐食試験(CCT)を行なった。(35℃で5%食塩水噴霧2時間)−(60℃で乾燥4時間)−(50℃でRH95%以上の耐湿試験機内で静置2時間)を1サイクルとして、120サイクル試験(合計960時間)を行なった。この試験後の塗装鋼板試験片のエッジ部、クロスカット部および4T折り曲げ加工部の状態を下記評価方法および評価基準に基づいて評価した。いずれも4点以上を良好と評価した。
【0097】
(4T折り曲げ加工部)
4T折り曲げ加工部における錆部の合計長さを求め、次の基準により評価した。
5:錆の発生が認められない。
4:白錆が認められるが、10mm未満。
3:白錆が10mm以上かつ25mm未満。
2:白錆が25mm以上かつ40mm未満。
1:白錆が40mm以上、又は赤錆の発生が認められる。
【0098】
(エッジ部)
塗装鋼板試験片の左右の長辺(すなわち、上バリを有する長辺と下バリを有する長辺)のエッジクリープ幅(フクレの幅)の平均値を求め、次の基準により評価した。
5:フクレ幅が5mm未満。
4:フクレ幅が5mm以上かつ10mm未満。
3:フクレ幅が10mm以上かつ15mm未満。
2:フクレ幅が15mm以上かつ20mm未満。
1:フクレ幅が20mm以上。
【0099】
(クロスカット部)
クロスカット部の腐食状態を0.5mmのカット幅の素地露出部における白錆発生長さ割合、およびクロスカット部の左右のフクレ幅(両側の和)の平均値により、次の基準で評価した。
5:素地露出部における白錆発生長さ割合25%未満でかつフクレ幅3mm未満。
4:素地露出部における白錆発生長さ割合25%以上かつ50%未満でかつフクレ幅3mm未満。
3:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm未満。
2:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm以上5mm未満。
1:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅5mm以上。
【0100】
<4>耐アルカリ性試験
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、23℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬した後、取り出し洗浄し、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0101】
<5>耐酸性試験
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、23℃の5%硫酸水溶液に48時間浸漬した後、取り出し洗浄し、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0102】
<6>耐スクラッチ性試験
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、試験片を得た。23℃の室温において、コインスクラッチテスターを用いて、各各塗装鋼板試験片の表面の塗面に10円銅貨の縁を45度の角度に保ち、1Kgの加重をかけて押しつけながら10円銅貨を10mm/秒の速度で50mm引っ張って塗面に5本の傷をつけた。傷全体の面積に対する金属の素地露出の度合いを下記基準に従って評価した。4点以上を良好と評価した。
5:傷の部分に金属の素地が認められない。
4:傷の部分の面積の10%以上かつ25%未満に金属の素地が認められる。
3:傷の部分の面積の25%以上かつ50%未満に金属の素地が認められる。
2:傷の部分の面積の50%以上かつ75%未満に金属の素地が認められる。
1:傷の部分に塗膜がほとんど残らず金属の素地がきれいに認められる。
【0103】
<7>塗膜の湿潤抵抗値Rfの測定
厚さ0.4mmのアルミニウム亜鉛めっき鋼板上に、実施例および比較例で得られた各塗料組成物を、乾燥塗膜が15μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼き付けを行なって、塗膜を形成した。得られた塗装鋼板を15cm×10cmに切断し、これを電気化学セル(測定面積0.785cm2)にセットして5%NaCl水溶液を加え、35℃で1時間湿潤させた後に、塗膜の直流抵抗値を高抵抗計(Keithley社製「モデル6517A」)を用いて測定した。直流抵抗値Rは、塗装鋼板試験片とPt対極との間に波高±0.5V、時間間隔1分間の矩形波電圧を5分間印加し、1分後毎の電流値の差を4点求め、その平均値をΔIとして、直流抵抗値R=ΔV/ΔI=1/ΔIの関係式から算出したものである。表2〜表4に示される湿潤抵抗値Rfは、算出した直流抵抗値Rに測定面積0.785(cm2)を乗じ、有効数字1桁で単位面積(cm2)当たりに換算したものである。
【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)およびバナジン酸カルシウム(c)を含有する塗料組成物であって、
前記バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液の電導度が200〜2000μS/cmであり、
前記バナジン酸カルシウム(c)の含有量は、前記塗膜形成性樹脂(a)および前記架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して50〜150質量部である、塗料組成物。
【請求項2】
前記バナジン酸カルシウム(c)は、その1質量%水溶液のpHが6.5〜11.0である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカおよびシリカからなる群から選択される少なくとも1種の体質顔料(d)をさらに含有し、
前記体質顔料(d)の含有量は、前記塗膜形成性樹脂(a)および前記架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して1〜40質量部である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記塗膜形成性樹脂(a)は、数平均分子量が2000〜10000であり、ガラス転移温度が60〜120℃である水酸基含有エポキシ樹脂、および、数平均分子量が2000〜30000であり、ガラス転移温度が0〜80℃である水酸基含有ポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記架橋剤(b)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(e)、および、メチロール基またはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するアミノ樹脂(f)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記架橋剤(b)の含有量は、前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して、固形分で10〜80質量部である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート化合物は、芳香族ポリイソシアネート化合物である、請求項5に記載の塗料組成物。
【請求項7】
シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤およびジルコニウム系カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種のカップリング剤(g)をさらに含有し、
前記カップリング剤(g)の含有量は、前記塗膜形成性樹脂(a)および前記架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の塗料組成物を用いて形成された塗膜。
【請求項9】
湿潤抵抗値が105〜1012Ω・cm2である、請求項8に記載の塗膜。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184624(P2011−184624A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53095(P2010−53095)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(503234872)日本ファインコーティングス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】