説明

塗料組成物及び塗膜形成方法

【課題】耐擦り傷性、耐酸性及び仕上り外観のいずれにも優れた硬化塗膜を形成することができる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(a)特定の2級水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル15〜80質量%及び(b)共重合可能な他の不飽和モノマー20〜85質量%を共重合することにより得られる、2級水酸基がポリマー主鎖から一定以上の離れた位置にあることを主な特徴とする、水酸基価が100〜200mgKOH/gであり、かつ、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)由来の水酸基価が、15〜85mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有する塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦り傷性、耐酸性及び仕上り外観に優れる塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体等の被塗物に塗装される塗料には、耐擦り傷性、耐酸性、仕上り外観等の塗膜性能に優れることが要求されている。
【0003】
従来、上記被塗物用の塗料として、メラミン硬化系塗料が汎用されている。メラミン硬化系塗料は、水酸基含有樹脂及び架橋剤であるメラミン樹脂を含有する塗料であり、加熱硬化時の架橋密度が高く、耐擦り傷性、仕上り性等の塗膜性能に優れている。しかし、この塗料には、水酸基含有樹脂の水酸基とメラミン樹脂の反応により生成するエーテル架橋結合が酸性雨により加水分解され易く、塗膜の耐酸性が劣るという問題がある。
【0004】
特開平6−220397号は、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有オリゴエステル及びイソシアネートプレポリマーからなる二液型ウレタン架橋系塗料組成物を開示している。この塗料は、ウレタン架橋結合が加水分解され難いため塗膜の耐酸性に優れる。しかし、塗膜の耐擦り傷性は不十分である。
【0005】
また、特開平3−278868号には、耐擦傷性等に優れた塗膜の形成方法として、3コート・2ベーク塗装方法において、2級水酸基も含む特定構造の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを共重合成分とするアクリル系共重合体(及びアルキルエーテル化メラミン樹脂)を構成成分とする第2クリヤコート塗料を使用した塗膜形成方法も開示されている。しかしながら、この塗膜の形成方法は、耐擦り傷性及び仕上り外観ともに不十分である。
【0006】
【特許文献1】特開平6−220397号公報
【特許文献2】特開平3−278868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐擦り傷性、耐酸性及び仕上り外観のいずれにも優れた硬化塗膜を形成することができる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、特定の2級水酸基含有モノマーを共重合成分とすることにより、2級水酸基がポリマー主鎖から一定以上の離れた位置にあることを主な特徴とする2級水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する塗料組成物により、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(a)下記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル15〜80質量%、
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜3のアルキレン基又は下記式(II)で表わされる基、RはRCOO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされるアシルオキシ基又はRO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされる基を表わす。)
【0012】
【化2】

【0013】
及び(b)共重合可能な他の不飽和モノマー20〜85質量%を共重合して得られる、水酸基価が100〜200mgKOH/gであり、かつ、上記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の水酸基価が、15〜85mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有する塗料組成物を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、被塗物に順次、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより複層塗膜を形成する方法であって、最上層のクリヤコート塗料として上記記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
2級水酸基は、通常、1級水酸基に比べ反応性が低いことから、塗膜の仕上り外観向上、層間付着性の向上等には有利であるが、架橋剤と反応させて得られた塗膜の耐擦り傷性等の塗膜性能が低下する。本発明の塗料組成物においては、アクリル樹脂の2級水酸基は、ポリマー主鎖から一定以上の離れた位置にあることにより、反応性を向上させることができ、2級水酸基による硬化性の低下をおさえることができる。また、長鎖の特定構造の2級ヒドロキシ基が存在することから、硬化塗膜への柔軟性の付与も図ることができる。
【0016】
さらに、水酸基含有アクリル樹脂とポリイソシアネート化合物の反応によるウレタン架橋結合は、酸による耐加水分解性及び力学的物性に優れている。
【0017】
以上のことから、本発明の塗料組成物によれば、耐擦り傷性、耐酸性及び仕上り外観のいずれにも優れた硬化塗膜を形成することができるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の塗料組成物(以下、「本塗料」ということがある。)及び複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
【0019】
塗料組成物
本発明の塗料組成物は、(a)上記式(I)で表わされる特定の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、及び(b)共重合可能な他の不飽和モノマーを共重合して得られる、特定範囲の水酸基価を有し、かつ、上記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の2級の水酸基による水酸基価が、特定範囲内であるアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有する塗料組成物である。
アクリル樹脂(A)
本塗料で用いるアクリル樹脂(A)は、特定の2級水酸基を架橋官能基として有するアクリル樹脂であり、前記(a)及び(b)の各モノマーを共重合することにより得ることができる。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)としては、一般式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルであれば、特に限定されることなく使用することができる。
【0020】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)は、具体的には、例えば、水酸基含有アクリルモノマーにジカルボン酸の酸無水物を付加し、さらに、この付加物のカルボキシル基とモノエポキシ化合物のエポキシ基とを反応させることにより合成することができる。
【0021】
上記反応で用いられる水酸基含有アクリルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、7−ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、9−ヒドロキシノニル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜10の1級のヒドロキシアルキルエステル等を挙げることができる。
【0022】
これらのうち、耐擦り傷性の観点から2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4
−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを好ましいものとしてあげることができる。
【0023】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。また、「(メタ)アクリルアミド」は、「アクリルアミド又はメタクリルアミド」を意味する。
【0024】
ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸の酸無水物等をあげることができる。
これらのジカルボン酸の酸無水物は、1種単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0025】
これらのうち、耐擦り傷性、耐汚染性等に優れる点から、無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸を好適に用いることができる。
【0026】
水酸基含有アクリルモノマーと、ジカルボン酸の酸無水物との付加反応は、ハーフエステル化反応させることにより合成することができる。
【0027】
ハーフエステル化反応の最適温度は、主として用いるジカルボン酸の酸無水物の融点等により変動する。例えば、酸無水物として、ヘキサヒドロ無水フタル酸を使用する場合は100〜180℃程度である。また、ハーフエステル化反応において、必要に応じて触媒を使用することができる。
【0028】
上記付加反応は、水酸基含有アクリルモノマーと、ジカルボン酸の酸無水物とを等モル反応させることにより、所望の付加物を得ることができる。
【0029】
モノエポキシ化合物は、1分子中に1個のエポキシ基を有する化合物であり、例えば、
モノグリシジルエーテル化合物、モノグリシジルエステル化合物等をあげることができる。
モノグリシジルエーテル化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、オクタデシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0030】
モノグリシジルエステル化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2−エチルヘキシル酸、ネオデカン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、安息香酸、トルイル酸等の一価カルボン酸のグリシジルエステル化合物をあげることができる。
上記モノエポキシ化合物のうち、耐擦り傷性、仕上り性等の観点から、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエステル化合物を好適に使用することができる。
【0031】
水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物とモノエポキシ化合物の付加反応は、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物のカルボキシル基とモノエポキシ化合物のエポキシ基とを反応させることにより容易に行なうことができる。
【0032】
上記付加反応は、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物とモノエポキシ化合物とを混合し、100〜150℃程度の温度で、1〜10時間程度反応させることにより行なうことができる。必要に応じて、さらに有機溶剤を添加して行なうこともできる。
【0033】
また、上記付加反応においては、必要に応じて、触媒を使用することができる。具体的には、カルボキシル基とエポキシ基との架橋反応に有効な触媒として、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド、トリフェニルベンジルフォスフォニウムクロライド等の4級塩触媒;トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類等を挙げることができる。これらのうち4級塩触媒を好適に使用することができる。
水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物とモノエポキシ化合物との反応において、その反応比率は、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物中のカルボキシル基とモノエポキシ化合物中のエポキシ基とが等モルとなる比率で反応させることにより、所望の付加物を得ることができる。
【0034】
実際の合成反応においては、等モルであると反応時間を要するので、若干、水酸基含有アクリルモノマーと酸無水物の付加物を過剰にするのが好ましい。
【0035】
具体的にはモル比(水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物/モノエポキシ化合物)を1/1〜1.2/1として、反応させるのが好ましい。
【0036】
なお、アクリル樹脂(A)の生産効率の観点から、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物とモノエポキシ化合物との反応は、アクリル樹脂(A)の共重合反応と同時に行なうこともできる。
【0037】
具体的には、例えば、反応容器中にモノエポキシ化合物を適宜添加される溶剤とともに予め仕込んでおき、所定の共重合反応温度に昇温した後、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物、共重合可能な他の不飽和モノマー(b)及び重合開始剤の混合物を滴下することにより、共重合反応と、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物中のカルボキシル基とモノエポキシ化合物中のエポキシ基との付加反応を同時に行なうこともできる。
【0038】
上記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)において、アルキレン基Rの炭素原子数は1〜10であり、塗膜の耐擦り傷性、耐酸性の観点から、2〜6であるのが好ましく、2〜4であるのがより好ましい。Rは耐擦り傷性・耐汚染性の観点から、上記式(II)で表わされるシクロヘキシル環を有する基であるのが好ましい。また、Rがアルキレン基である場合、炭素原子数は1〜3であり、耐擦り傷性・耐汚染性の観点から、2〜3であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。
【0039】
が、RCOO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされるアシルオキシ基である場合、Rで表わされるアルキル基は、耐擦り傷性・仕上り性の観点から、ネオデカン基であるのが好ましい。
【0040】
が、RO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされる基である場合、Rで表わされるアルキル基は、耐擦り傷性・仕上り性の観点から、2−エチルヘキシル基であるのが好ましい。
【0041】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の分子量は、仕上り性の観点から、300〜700程度であるのが好ましく、400〜600程度であるのがより好ましい。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)は、1種で、又は2種以上を組合せて使用することができる。
共重合可能な他の不飽和モノマー(b)
不飽和モノマー(b)は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の共重合可能な他の不飽和モノマーであり、具体的には、1分子中に1個の重合性不飽和結合を有する化合物である。不飽和モノマー(b)の具体例を、下記(1)〜(9)に列挙する。
【0042】
(1)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の、1分子中に水酸基と不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物である。
【0043】
具体的には、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数2〜10の2価アルコールとのモノエステル化物が好適であり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0044】
また、上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物としては、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルにさらに、ε−カプロラクトンを開環重合した化合物、例えば、「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」、「プラクセルFM−5」(以上、いずれもダイセル化学(株)製、商品名)等を挙げることができる。
【0045】
上記のうち、炭素原子数4以上のヒドロキシアルキル基を有する水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(b−1)を、塗膜の耐擦り傷性を向上させる観点から好適に使用することができる。(b−1)を構成成分とすることにより、得られる塗膜の高架橋密度化を図ることができることから、塗膜の耐擦り傷性向上の効果を得ることができる。(b−1)を構成成分とする場合、その配合割合は、(a)及び(b)の全量に基づいて3〜50質量%、特に、10〜40質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0046】
炭素原子数4以上のヒドロキシアルキル基を有する水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数4〜10の2価アルコールとのモノエステル化物、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数2〜10の2価アルコールとのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物などをあげることができる。
【0047】
アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数4〜10の2価アルコールとのモノエステル化物
としては、具体的には上記したもののうち、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートをあげることができる。
【0048】
アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数2〜10の2価アルコールとのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物としては、具体的には上記したもののうち、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFM−3」(以上、いずれもダイセル化学(株)製、商品名)等をあげることができる。
【0049】
(2)酸基含有モノマー
酸基含有モノマーは、1分子中に酸基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物である。該モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などのカルボキシル基含有モノマー;ビニルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクロイルオキシエチルフェニルリン酸などの酸性リン酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
また、前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)合成の際の中間生成物である水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物も酸基含有モノマーとして使用することができる。
【0050】
酸基含有モノマーは、アクリル樹脂(A)が架橋剤と架橋反応する時の内部触媒としても作用することができるものである。
【0051】
(3)アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1〜20の1価アルコールとのモノエステル化物
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、エチル(メタ)クリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート,tert−ブチル(メタ)アクリレート,2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3,5−ジメチルアダマンチル(メタ)アクリレート、3−テトラシクロドデシルメタアクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、4−メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−エチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−メトキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等をあげることができる。
【0052】
上記のうち、炭素原子数10〜20の有橋脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマー及び/又は炭素原子数3〜12の脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマー(b−2−1)を塗膜の耐汚染性を向上させる観点から好適に使用することができる。モノマー(b−2−1)を構成成分とすることにより、得られる樹脂のTgが上昇し、極性が低下することから、表面の平滑化による仕上り性の向上及び耐水性、耐汚染性の向上の効果を得ることができる。炭素原子数10〜20の有橋脂環式炭化水素基の代表例としては、イソボルニル基、トリシクロデカニル基及びアダマンチル基などを挙げることができる。
【0053】
炭素原子数10〜20の有橋脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマーの具体例としては、上記したもののうち、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3,5−ジメチルアダマンチル(メタ)アクリレート、3−テトラシクロドデシルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0054】
炭素原子数3〜12の脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマーの具体例としては、上記したもののうち、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−エチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−メトキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等をあげることができる。
【0055】
また、上記のうち、分岐構造を有する炭素原子数8以上の炭化水素基を有する不飽和モノマー(b−2−2)を塗膜の耐擦り傷性を向上させる観点から好適に使用することができる。モノマー(b−2−2)を構成成分とすることにより、得られる樹脂のTg及び極性が低下することから、柔軟性付与による塗膜の耐擦り傷性の向上及び表面の平滑化による仕上り性の向上効果を得ることができる。また、分岐構造を有していることから、直鎖状の炭素原子数8以上の炭化水素基を有する不飽和モノマーを構成成分とする場合にくらべて塗膜のTgの低下を抑えることができるため、耐酸性の向上の観点からも有利である。
【0056】
分岐構造を有する炭素原子数8以上の炭化水素基を有する不飽和モノマーの具体例としては、上記したもののうち、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名)をあげることができる。
【0057】
モノマー(b−2−2)を構成成分とする場合、その配合割合は、(a)及び(b)の全量に基づいて3〜50質量%、特に、10〜40質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0058】
(4)アルコキシシリル基含有不飽和モノマー
例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリロキシエチルトリメトキシシラン、メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等をあげることができる。これらのうち好ましいアルコキシシラン基含有不飽和モノマーとして、ビニルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0059】
アルコキシシリル基含有不飽和モノマーを構成成分とすることにより、水酸基とイソシアネート基との架橋結合に加え、アルコキシシリル基同士の縮合反応及びアルコキシシリル基と水酸基の反応による架橋結合を生成することができる。それにより、得られる塗膜の架橋密度が向上することから、耐酸性、耐汚染性の向上の効果を得ることができる。
アルコキシシリル基含有不飽和モノマーを構成成分とする場合、その配合割合は(a)及び(b)の全量に基づいて3〜50質量%、特に、5〜35質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0060】
(5)芳香族系ビニルモノマー
具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0061】
芳香族系ビニルモノマーを構成成分とすることにより、得られる樹脂のTgが上昇し、また、高屈折率で疎水性の塗膜を得ることができることから、塗膜の光沢向上による仕上り性の向上、耐水性および耐酸性の向上という効果を得ることができる。
【0062】
芳香族系ビニルモノマーを構成成分とする場合、その配合割合は、(a)及び(b)の全量に基づいて3〜50質量%、特に、5〜40質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0063】
(6)重合性不飽和結合含有アミド系化合物
例えば、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等を挙げることができる。
【0064】
(7)その他のビニル化合物
例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、バーサティック酸ビニルエステル等を挙げることができる。バーサティック酸ビニルエステルとしては、市販品である「ベオバ9」、「ベオバ10」(以上、商品名、ジャパンエポキシレジン(株)製)等を挙げることができる。
【0065】
(8)重合性不飽和結合含有ニトリル系化合物
例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。
【0066】
(9)エポキシ基含有ビニルモノマー
エポキシ基含有ビニルモノマーは、1分子中にエポキシ基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物であり、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等を挙げることができる。
【0067】
なお、エポキシ基含有ビニルモノマーは、上記したアクリル樹脂(A)の生産効率の観点から、水酸基含有アクリル酸エステル(a)の合成に際し、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物と、モノエポキシ化合物との反応を、アクリル樹脂(A)の共重合反応と同時に行なう場合は、使用しないことが好ましい。
【0068】
不飽和モノマー(b)としては、前記(1)〜(9)で示されるモノマーを1種で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0069】
上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)及び共重合可能な他の不飽和モノマー(b)からなるモノマー混合物を共重合することにより、アクリル樹脂(A)を合成することができる。
【0070】
上記モノマー混合物を共重合してアクリル樹脂(A)を得るための共重合方法は、特に限定されるものではなく、それ自体既知の共重合方法を用いることができるが、なかでも有機溶剤中にて、重合開始剤の存在下で重合を行なう溶液重合法を好適に使用することができる。
【0071】
上記溶液重合法に際して使用される有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、スワゾール1000(コスモ石油社製、商品名、高沸点石油系溶剤)などの芳香族系溶剤;酢酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系溶剤、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、エトキシエチルプロピオネートなどを挙げることができる。
【0072】
これらの有機溶剤は、1種で又は2種以上を組合せて使用することができるが、本塗料に使用されるアクリル樹脂は高い水酸基価を有するため、樹脂の溶解性の点から高沸点のエステル系溶剤を使用することが好ましい。また、さらに高沸点の芳香族系溶剤を組合せて使用することもできる。
【0073】
アクリル樹脂(A)の共重合に際して使用できる重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド、t−ブチルパーオクトエート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などのそれ自体既知のラジカル重合開始剤を挙げることができる。
【0074】
アクリル樹脂(A)の水酸基価は、最終的に得られる塗料組成物の硬化性、及び得られる塗膜の耐擦り傷性及び耐水性等の塗膜性能の観点から、100〜200mgKOH/gであり、好ましくは110〜170mgKOH/g程度、さらに好ましくは130〜160mgKOH/g程度である。水酸基価が100mgKOH/g未満であると、本発明の塗料組成物から得られる塗膜の耐擦り傷性が不充分な場合があり、一方、200mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0075】
また、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)由来の水酸基価は、15〜85mgKOH/gであり、好ましくは25〜75mgKOH/g程度、さらに好ましくは30〜70mgKOH/g程度である。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)由来の水酸基価が15mgKOH/g未満であると、本発明の塗料組成物から得られる塗膜の耐擦り傷性が不充分な場合があり、一方、100mgKOH/gを越えると塗膜の耐酸性又は耐水性が低下する場合がある。
【0076】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、最終的に得られる塗料組成物の硬化性、及び得られる塗膜の耐擦り傷性及び耐水性等の塗膜性能の観点から、2000〜30000程度が好ましく、3000〜20000程度であるのがより好ましく、4000〜15000程度であるのがさらに好ましい。
【0077】
本明細書において、樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンを基準として測定した値である。下記製造例等における測定は、GPC装置として、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0078】
アクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、得られる塗膜の硬度及び塗面平滑性の観点から、−40〜30℃程度であるのが好ましく、−30〜10℃程度であるのがより好ましい。
【0079】
本明細書において、ガラス転移温度はDSC(示差走査型熱量計)でJISK7121(プラッスチックの転移温度測定方法)に基づいて10℃/分の昇温スピードで測定した値である。下記製造例等における測定は、DSCとして、「SSC5200」(商品名、セイコー電子工業(株)製)を用い、試料をサンプル皿に所定量秤取した後、130℃で3時間乾燥させてから行なった。
【0080】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)、及び共重合可能な他の不飽和モノマー(b)の配合割合は、全モノマー量に対して、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)が15〜80質量%であり、好ましくは20〜70質量%程度、さらに好ましくは30〜65質量%程度である。共重合可能な他の不飽和モノマー(b)が20〜85質量%であり、好ましくは30〜80質量%程度、さらに好ましくは35〜70質量%程度である。
【0081】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の量が、15質量%未満であると、得られる塗膜の耐擦り傷性が不十分な場合があり、80質量%を超えると、塗膜の耐酸性が不十分な場合がある。共重合可能な他の不飽和モノマー(b)の量が、20質量%未満であると、得られる塗膜の耐酸性が不十分な場合があり、85質量%を超えると、得られる塗膜の耐擦り傷性が不十分な場合がある。
ポリイソシアネート化合物(B)
ポリイソシアネート化合物(B)は、本塗料組成物の架橋剤であり、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物である。ポリイソシアネート化合物(B)としては、ポリウレタン製造用等として公知のもの、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及びこれらポリイソシアネートの誘導体などを挙げることができる。
【0082】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0083】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0084】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネートまたはその混合物、ω,ω'−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−または1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0085】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4'−または4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4'−トルイジンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、例えば、トリフェニルメタン−4,4',4'''−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート、例えば、4,4'−ジフェニルメタン−2,2',5,5'−テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどを挙げることができる。
【0086】
また、ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン等の各種誘導体を挙げることができる。
【0087】
これらポリイソシアネートは、1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。これらポリイソシアネートの中でも、硬化塗膜の耐候性等に優れる点から、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及びこれらの誘導体が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及びイソホロンジイソシアネートの誘導体がより好ましい。
【0088】
また、ポリイソシアネート化合物として、上記した1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした化合物であるブロック化ポリイソシアネート化合物を使用することもできる。
【0089】
ブロック剤は、遊離のイソシアネート基を封鎖するものである。ブロック化ポリイソシアネート化合物は、例えば、100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱することにより、イソシアネート基が再生し、水酸基と容易に反応することができる。かかるブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチルなどのフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコールなどの脂肪族アルコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノールなどのエーテル系;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチルなどのグリコール酸エステル;乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアルコール系;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミンなどアミン系;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系;3,5−ジメチルピラゾールなどのピラゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素などの尿素系;N−フェニルカルバミン酸フェニルなどのカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリなどの亜硫酸塩系などのブロック剤を挙げることができる。
【0090】
ブロック化を行なう(ブロック剤を反応させる)にあたっては、必要に応じて溶剤を添加して行なうことができる。ブロック化反応に用いる溶剤としてはイソシアネート基に対して反応性でないものが良く、例えば、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、酢酸エチルのようなエステル類、N−メチルピロリドン(NMP)のような溶剤をあげることができる。
ポリイソシアネート化合物(B)は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0091】
本発明の塗料組成物において、アクリル樹脂(A)中の水酸基と、ポリイソシアネート化合物(B)中のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)は、組成物の硬化性及び塗料安定性に優れる点から、0.5〜2.0程度であることが好ましく、0.8〜1.5程度であることがより好ましい。
【0092】
また、本発明の塗料組成物中のアクリル樹脂(A)及びポリイソシアネート化合物(B)の量は、(A)成分及び(B)成分の固形分総量を基準として、不揮発分として、アクリル樹脂(A)が40〜80質量%、好ましくは45〜70質量%、ポリイソシアネート化合物(B)が20〜60質量%、好ましくは30〜55質量%の範囲内であるのが適している。
その他の成分
本発明の塗料組成物には、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料、防錆顔料等の公知の顔料を配合することができる。
【0093】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等を挙げることができる。体質顔料としては、例えば、タルク、クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナホワイト等を挙げることができる。光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム粉末、雲母粉末、酸化チタンで被覆した雲母粉末などをあげることができる。
【0094】
本発明の塗料組成物には、必要に応じて、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の各種樹脂を添加することも可能である。また、メラミン樹脂、ブロックポリイソシアネート化合物等の架橋剤を少量併用することも可能である。更に、必要に応じて、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、消泡剤等の一般的な塗料用添加剤を配合することも可能である。
【0095】
硬化触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2−エチルヘキサン酸鉛などの有機金属触媒、第三級アミンなどを挙げることができる。
【0096】
硬化触媒として上記したこれらの化合物は単独で又は2種以上の混合物として用いてもよい。硬化触媒の量はその種類により異なるが、(A)成分及び(B)成分の固形分合計100質量部に対し、通常、0〜5質量部、好ましくは0.1〜4質量部程度である。
紫外線吸収剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ベンゾトリアゾール系吸収剤、トリアジン系吸収剤、サリチル酸誘導体系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤等の紫外線吸収剤をあげることができる。紫外線吸収剤を配合することによって、塗膜の耐候性、耐黄変性等を向上させることが出来る。
【0097】
紫外線吸収剤の塗料組成物中の含有量としては、通常、樹脂固形分総合計量100質量部に対して0〜10質量部程度である。また、紫外線吸収剤の含有量は、0.2〜5質量部程度であるのが好ましく、0.3〜2質量部程度であるのがより好ましい。
光安定剤としては、従来から公知のものが使用でき、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤をあげることができる。光安定剤を配合することによって、塗膜の耐候性、耐黄変性等を向上させることが出来る。
【0098】
光安定剤の塗料組成物中の含有量としては、通常、樹脂固形分総合計量100質量部に対して0〜10質量部程度である。また、光安定剤の含有量は、0.2〜5質量部程度であるのが好ましく、0.3〜2質量部程度であるのがより好ましい。
【0099】
本発明の塗料組成物の形態は特に制限されるものではないが、通常、有機溶剤型の塗料組成物として使用される。この場合に使用する有機溶剤としては、各種の塗料用有機溶剤、例えば、芳香族又は脂肪族炭化水素系溶剤;アルコール系溶剤;エステル系溶剤;ケトン系溶剤;エーテル系溶剤等が使用できる。使用する有機溶剤は、(A)成分、(B)成分等の調製時に用いたものをそのまま用いても良いし、更に適宜加えても良い。
塗料組成物の調製方法
本発明の塗料組成物は、アクリル樹脂(A)、ポリイソシアネート化合物(B)及び必要に応じて使用される硬化触媒、顔料、各種樹脂、紫外線吸収剤、光安定剤、有機溶剤等を、公知の方法により、混合することによって、調製することができる。
【0100】
本発明の塗料組成物は(B)成分であるポリイソシアネート化合物のイソシアネート基がブロック化されていないものである場合には、貯蔵安定性から、アクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とが分離した2液型塗料であり、使用直前に両者を混合して使用することが好適である。
【0101】
本発明塗料組成物の固形分濃度は、30〜70質量%程度であるのが好ましく、40〜60質量%程度の範囲内であるのがより好ましい。
【0102】
塗装方法
本発明の塗料組成物は、以下に示す種々の塗装方法において、好適に使用することができる。
【0103】
被塗物
被塗物としては、自動車、二輪車等の車体又はその部品等が挙げられる。また、これら車体等を形成する冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、錫メッキ鋼板等の鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等の金属基材;各種プラスチック基材等であってもよい。
【0104】
また、被塗物としては、上記車体、部品、金属基材の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理等の化成処理が施されたものであってもよい。更に、被塗物としては、上記車体、金属基材等に、各種電着塗料等の下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が形成されたものであってもよい。
【0105】
塗装及び硬化方法
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、特に限定されないが、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などの塗装方法でウエット塗膜を形成することができる。エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装及び回転霧化塗装においては、必要に応じて、静電印加してもよい。これらの内、エアスプレー塗装及び回転霧化塗装が特に好ましい。塗装膜厚は、通常、硬化膜厚として、10〜50μm程度とするのが好ましい。
【0106】
エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装及び回転霧化塗装する場合には、本塗料の粘度を、該塗装に適した粘度範囲、通常、フォードカップ#No.4粘度計において、20℃で15〜60秒程度の粘度範囲となるように、有機溶剤等の溶媒を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0107】
ウエット塗膜の硬化は、加熱することによって行われる。加熱は、公知の加熱手段により、行うことができる。例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を適用できる。
【0108】
加熱温度は、通常、100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度の範囲であることが適当である。加熱時間は、通常、5〜60分間程度の範囲であるのが、適当である。
【0109】
複層塗膜形成方法
本発明の塗料組成物によれば、耐擦り傷性、耐酸性、仕上り外観等の塗膜性能に優れる塗膜を形成できるので、被塗物に上塗複層塗膜を形成する塗膜形成方法において、トップクリヤコートを形成するクリヤ塗料組成物として使用することが好ましい。
【0110】
従って、本発明の複層塗膜形成方法は、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより複層塗膜を形成する方法であって、最上層のクリヤコート塗料として上記記載の塗料組成物を用いることを特徴とする。
【0111】
本発明の複層塗膜形成方法を適用する被塗物としては、自動車車体及びその部品が、特に好ましい。
【0112】
上記の複層塗膜形成方法としては、より具体的には、例えば下記方法a〜cの複層塗膜形成方法において、トップクリヤコート形成用として本発明の塗料組成物を用いる方法を挙げることができる。
【0113】
方法a:被塗物に、着色ベースコート及びトップクリヤコートを順次形成する2コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0114】
方法b:被塗物に、着色ベースコート、クリヤコート及びトップクリヤコートを順次形成する3コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0115】
方法c:被塗物に、第一着色ベースコート、第二着色ベースコート及びトップクリヤコートを順次形成する3コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0116】
これらの方法a、方法b、方法cの各上塗り塗膜形成工程について、詳細に説明する。
【0117】
各方法において、着色ベース塗料組成物及びクリヤ塗料組成物の塗装方法としては、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装などの塗装方法を採用することができる。これらの塗装方法は、必要に応じて、静電印加していてもよい。
【0118】
上記方法aにおいて、着色ベースコートを形成する塗料組成物としては、公知の着色塗料組成物を使用できる。
上記着色ベース塗料組成物としては、自動車車体等を塗装する場合に用いられる塗料組成物を用いるのが好適である。
【0119】
上記着色ベース塗料組成物は、基体樹脂、架橋剤、着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料等を含有する有機溶剤型又は水性の塗料組成物である。
【0120】
基体樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂は、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシシリル基等の架橋性官能基を有している。架橋剤としては、例えば、アルキルエーテル化メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基含有化合物などの少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂及び架橋剤は、両成分の合計量を基準にして、基体樹脂50〜90重量%、架橋剤50〜10重量%の割合で使用することが好ましい。
【0121】
方法aにおいては、被塗物に、上記着色ベース塗料組成物を、硬化膜厚で約10〜50μmとなるように塗装する。塗装されたベース塗料組成物は、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は塗装後硬化することなく室温で数分間放置もしくは約40〜100℃で、約1〜20分間プレヒートする。
【0122】
次いで、トップクリヤコートを形成する塗料として、本発明のクリヤ塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜70μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱は、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間が好ましい。
【0123】
上記2コート方式において、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの二層塗膜を同時に硬化する場合は2コート1ベーク方式であり、又ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化後、クリヤ塗料組成物を塗装し、クリア塗膜を硬化する場合は2コート2ベーク方式である。
【0124】
方法bにおける着色ベース塗料組成物としては、方法aの項で説明した着色ベース塗料組成物と同様のものを使用することができる。また、クリヤコートを形成する第1クリヤ塗料組成物としては、透明塗膜形成用塗料であればよく、例えば、上記公知の着色ベース塗料組成物において顔料の殆ど又はすべてを含有していない塗料組成物を使用することができる。そして、トップクリヤコートを形成する第2クリヤ塗料組成物として、本発明の塗料組成物を使用する。また、第1クリヤ塗料組成物として、本発明のクリヤ塗料組成物を用いて、本発明クリヤ塗料組成物から形成されたクリヤコート及びトップクリヤコートが形成されていてもよい。
【0125】
方法bにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、着色ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化させてから、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、着色ベース塗膜上に、第1クリヤ塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行う。
【0126】
次に、第2クリヤ塗料組成物として、本発明塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱条件は、方法aの場合と同様である。
【0127】
ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は3コート1ベーク方式である。また、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの塗膜を同時に加熱硬化し、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート2ベーク方式である。また、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化し、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート3ベーク方式である。
【0128】
方法cにおいて、第1着色べース塗料組成物としては、方法aの項で説明した着色ベース塗料組成物と同様のものを使用することができる。
【0129】
方法cにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、第1着色ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、第1着色ベース塗膜上に、第2着色ベース塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行う。
【0130】
次に、トップクリヤコートを形成する塗料組成物として、本発明塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱条件は、方法aの場合と同様である。
【0131】
第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は、3コート1ベーク方式である。また、第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの塗膜を同時に硬化する場合は、3コート2ベーク方式である。また、第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化し、クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート3ベーク方式である。
【実施例】
【0132】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとし、また、塗膜の膜厚はいずれも硬化塗膜に基づくものである。
水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物(a−1)の製造
製造例1〜6
撹拌装置、温度計、冷却管、空気導入口を備えた四ツ口フラスコに、下記表1に示す量(質量部)の酸無水物を仕込み、空気雰囲気下で100℃に昇温した。100℃に達した後、メトキシフェノール0.3部を加え、下記表1に示す量(質量部)の水酸基含有アクリルモノマーを2時間かけて滴下した。その後、2時間熟成することにより、水酸基含有アクリルモノマーとジカルボン酸の酸無水物との付加物(a−1)のNo.1〜6を得た。得られた各付加物(a−1)の特数値を併せて下記表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造
製造例7〜18
撹拌装置、温度計、冷却管、空気導入口を備えた四ツ口フラスコに、下記表2に示す量(質量部)のモノエポキシ化合物を仕込み、空気雰囲気下で130℃に昇温した。130℃に達した後、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.5部を加え、下記表2に示す量(質量部)の上記製造例で得た付加物(a−1)を5時間かけて滴下した。その後、4時間熟成することにより、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)のNo.1〜12を得た。得られた各水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の特数値を併せて下記表2に示す。各水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)のエポキシ基含有量はいずれも0ミリモル/gである。
【0135】
なお、表2において(注1)及び(注2)は以下のとおりである。
【0136】
カージュラE−10P(注1):商品名、ジャパンエポキシレジン社製、ネオデカン酸モノグリシジルエステル
デナコールEX−121(注2):商品名、ナガセケムテックス社製、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル
【0137】
【表2】

【0138】
アクリル樹脂(A)の製造例
製造例19〜41
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた四ツ口フラスコにスワゾール1000(商品名、コスモ石油社製、炭化水素系溶剤)を310部仕込み、窒素雰囲気下で125℃に昇温し、下記表3に示す量(質量部)のモノマー及び重合開始剤の混合物を4時間かけて滴下した。次いで、125℃で窒素ガスを通気しながら30分間熟成させた後、更にスワゾール1000 320部及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5部の混合物を1時間かけて滴下し、その後1時間熟成させることにより、各アクリル樹脂(A)No.1〜23の溶液を得た。得られた各アクリル樹脂(A)No.1〜23の溶液の特数値を併せて下記表3に示す。
【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
塗料組成物の製造
実施例1〜20及び比較例1〜4
上記製造例19〜41で得られたアクリル樹脂(A)及び後記表4に記載の原材料を用いて、後記表4に示す配合にてディスパーを用いて攪拌して混合することにより、各塗料組成物1〜24を得た。なお、表4に示す各塗料組成物の配合は各成分の固形分質量比である。
【0142】
なお、表4中の(*1)〜(*4)は以下の意味を有する。
(*1)N−3300:住化バイエルウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、固形分100%、NCO含有率21.8%。
(*2)UV1164:チバガイギー社製、紫外線吸収剤。
(*3)HALS292:チバガイギー社製、光安定剤。
(*4)BYK−300:商品名、ビックケミー社製、表面調整剤
上記実施例1〜20及び比較例1〜4で得られた各塗料組成物1〜24は、酢酸ブチルを添加してフォードカップ#No.4を用いて20℃で25秒の粘度に調整した。
【0143】
試験板の作成
上記粘度調整した各塗料組成物1〜24を使用して、それぞれについて以下の様にして試験板を作製した。
【0144】
リン酸亜鉛化成処理を施した厚さ0.8mmのダル鋼板上に、エレクロンGT−10(関西ペイント社製、商品名、熱硬化性エポキシ樹脂系カチオン電着塗料)を膜厚が20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱して硬化させ、該電着塗面上にアミラックTP−65−2(関西ペイント社製、商品名、ポリエステル・メラミン樹脂系自動車中塗り塗料)を膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間加熱して硬化させた。該中塗塗面上に水性メタリックベースコートWBC713T#202(関西ペイント社製、アクリル・メラミン樹脂系自動車用上塗ベースコート塗料、黒塗色)を膜厚15μmとなるように塗装し、室温で5分間放置してから、80℃で10分間プレヒートを行なった後、未硬化の該ベースコート塗面上に各塗料組成物1〜24を膜厚35μmとなるように塗装し、室温で10分間放置してから、140℃で20分間加熱してこの両塗膜を一緒に硬化させることにより試験板を得た。得られたそれぞれの試験板を常温で7日間放置してから下記塗膜性能試験を行なった。
性能試験結果
耐擦り傷性:ルーフにニチバン社製耐水テープにて試験板を貼りつけた自動車を、20℃の条件下、洗車機で15回洗車を行なった後の試験板の20度鏡面反射率(20°光沢値)を測定し、試験前の20°光沢値に対する光沢保持率(%)により評価した。該光沢保持率が高いほど耐擦り傷性が良好であることを表わす。洗車機は、ヤスイ産業社製「PO20 FWRC」を用いた。
【0145】
耐酸性:40%硫酸を各試験板の塗膜上に0.4cc滴下し、60℃に加熱したホットプレート上で15分間加熱した後、試験板を水洗した。硫酸滴下箇所のエッチング深さ(μm)を表面粗度計(東京精密社製、表面粗さ形状測定機 『サーフコム570A』)を用いて、カットオフ0.8mm(走査速度0.3mm/sec、倍率5000倍)の条件で測定することにより耐酸性の評価を行なった。エッチング深さが小さいほど耐酸性が良好であることを表わす。
【0146】
耐汚染性:各試験板をサンシャインウエザオメーター(スガ試験機社製、促進耐侯性試験機)中でJIS K5400の条件で600時間試験後、泥土、カーボンブラック、鉱油及びクレーの混合物からなる汚染物質をネルに付着させて各試験塗板の塗面に軽くこすりつけた。これを20℃で75%RHの恒温恒湿室中に24時間放置後、塗面を流水で洗浄し、塗膜の汚染度を塗板の明度差(ΔL)により下記の基準により評価した。ΔL値が小さいほど耐汚染性は良好である。ΔLは以下の式で求めた。
【0147】
ΔL=(耐汚染性試験前のL値)−(耐汚染性試験後のL値)
L値の測定はコニカミノルタ製CR400(三刺激値直読式色彩計 D65光源 2°視野 拡散照明垂直受光(d/0))を用いて行なった。なお、上記L値はCIE 1976 L表色系に基づく値である。
【0148】
◎:ΔL<0.2、○:0.2≦ΔL<0.5、○△:0.5≦ΔL<1、△:1≦ΔL<2、×:2≦ΔL。
【0149】
なお、耐汚染性の試験においては、リン酸亜鉛化成処理を施した厚さ0.8mmのダル鋼板上に、エレクロンGT−10(商品名、関西ペイント社製、熱硬化性エポキシ樹脂系カチオン電着塗料)を膜厚が20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱し硬化させ、その上にアミラックTP−65−2(関西ペイント社製、商品名、ポリエステル・メラミン樹脂系自動車中塗り塗料、白塗色)を膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間加熱硬化させた塗板を被塗物とし、この被塗物に各塗料組成物1〜24を膜厚35μmとなるように塗装し、室温で10分間放置してから、140℃で20分間加熱して硬化させることにより得られた白色試験板を使用した。同様に各試験板を常温で7日間放置してから耐汚染性の試験を行なった。
【0150】
仕上り性(20°光沢):各試験板の20度鏡面反射率(20°光沢値)をHG−268(ハンディ光沢計 スガ試験機(株)製)を用いて測定した。
上記性能試験結果を併せて表4に示す。
【0151】
【表5】

【0152】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル15〜80質量%、
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜3のアルキレン基又は下記式(II)で表わされる基、RはRCOO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされるアシルオキシ基又はRO−(Rは任意のアルキル基、フェニル基又はトリル基)で表わされる基を表わす。)
【化2】

及び(b)共重合可能な他の不飽和モノマー20〜85質量%を共重合して得られる、水酸基価が100〜200mgKOH/gであり、かつ、上記式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の水酸基価が、15〜85mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有する塗料組成物。
【請求項2】
が(−CH−)で表わされるテトラメチレン基である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
が上記式(II)で表わされる基である請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
(b)共重合可能な他の不飽和モノマーとして、炭素原子数4以上のヒドロキシアルキル基を有する水酸基含有不飽和モノマーを共重合成分として含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
(b)共重合可能な他の不飽和モノマーとして、炭素原子数3〜12の脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマーを共重合成分として含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
(b)共重合可能な他の不飽和モノマーとして、炭素原子数10〜20の有橋脂環式炭化水素基を有する不飽和モノマーを共重合成分として含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
(b)共重合可能な他の不飽和モノマーとして、分岐構造を有する炭素原子数8以上の炭化水素基を有する不飽和モノマーを共重合成分として含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
(b)共重合可能な他の不飽和モノマーとして、アルコキシシリル基含有不飽和モノマーを共重合成分として含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
ポリイソシアネート化合物(B)として、脂肪族ジイソシアネートおよびこれらの誘導体を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項10】
さらに、着色顔料を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項11】
被塗物に順次、少なくとも1層の着色ベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより複層塗膜を形成する方法であって、最上層のクリヤコート塗料として請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2009−144111(P2009−144111A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325458(P2007−325458)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】