説明

塗料組成物及び塗膜形成方法

【課題】自動車車体外板等の各種工業製品に対して、ハイライト(正反射光近傍)では高明度且つ高彩度で粒子感があり、シェード(スカシ方向)では粒子感がなく彩度と明度が低く、ハイライトとシェードの中間において明度変化が緩やかなスモーキーな質感の意匠及び遮熱性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物及び塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料及び鱗片状光輝性顔料を含む塗料組成物であって、塗装して得られる塗膜のL*a*b*表色系における明度が10以下であって且つハイライトからシェードに明度及び彩度が変化する塗料組成物及び塗膜形成方法、さらに該赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料がペリレン及び/又は複合金属酸化物である塗料組成物及び塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイライト(正反射光近傍)では高明度且つ高彩度で粒子感があり、シェード(スカシ方向)では粒子感がなく彩度と明度が低く、ハイライトとシェードの中間において明度変化が緩やかなスモーキーな質感の意匠及び遮熱性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物及び塗膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品には、商品力を高めるために、観察角度によって明度が変化するフリップフロップ感を有するメタリック塗色が適用される場合がある。その中でもハイライトでは明度が高く、シェードで明度が低いメタリック塗色は落ち着きがあり高級感を有する塗色として着目されている。
【0003】
特許文献1は、メタリック塗料着色用カーボンブラック分散体、メタリック塗料組成物および塗膜形成方法に関するものであり、セルロース誘導体及びカーボンブラック顔料を含むカーボンブラック分散体と光輝性顔料を含むメタリック塗料組成物が開示されている。特許文献1に開示されたメタリック塗料組成物を塗装して得られた塗膜は、フリップフロップ感を有するものではあるが、ハイライトからシェードに明度が大きく下がる単調な意匠であることや、塗膜中のカーボンブラックが赤外線を吸収することによって塗装された基材の温度が上昇してしまう等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−146243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ハイライト(正反射光近傍)では高明度且つ高彩度で粒子感があり、シェード(スカシ方向)では粒子感がなく彩度と明度が低く、ハイライトとシェードの中間において明度変化が緩やかなスモーキーな質感の意匠及び遮熱性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物及び塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
1.赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料及び鱗片状光輝性顔料を含む塗料組成物であって、塗装して得られる塗膜のL*a*b*表色系における明度が10以下であって且つハイライトからシェードに明度及び彩度が変化する塗料組成物、
2.赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料が、ペリレン及び/又は複合金属酸化物である1項に記載の塗料組成物、
3.鱗片状光輝性顔料が、ガラスフレーク又は酸化アルミニウム表面に金属酸化物を被覆した干渉性光輝性顔料である1項又は2項に記載の塗料組成物、
4.基材に1〜3項のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、さらにトップクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗料組成物は、ハイライト(正反射光近傍)では高明度且つ高彩度で粒子感があり、シェード(スカシ方向)では粒子感がなく彩度と明度が低く、ハイライトとシェードの中間において明度変化が緩やかなスモーキーな質感の意匠及び遮熱性を有する塗膜を形成可能なものであって、特に自動車外板、家電製品等の高級外観を求められている分野に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の塗料組成物は、赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料を含む。本明細書において、赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料とは、波長780nm〜2500nmの領域において、JIS K5101 4隠ぺい率試験紙法に記載された隠ぺい率試験紙に該着色顔料のみを着色材として含む塗料を塗装して得られた塗膜の白素地上のJIS K5602に定義された日射反射率が50%以上又は黒素地上の日射反射率が10%以上の顔料を意味する。
【0009】
本明細書における具体的な試験方法を以下に説明する。水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、該着色顔料を15質量部配合して攪拌混合し、適当な溶媒を用いて希釈して固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製する。隠ぺい率試験紙を平らなガラス板の上に水平に固定し、その上にドクターブレードを使用して、硬化塗膜厚が30μmとなるように塗装し、室温約20℃の実験室に15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分間加熱して硬化せしめた塗膜の白素地部分及び黒素地部分の日射反射率を、積分球ISR−3100を搭載した分光光度計UV−3100PC(共に島津製作所社製)を使用して入射角度を8°としたときの日射反射率として定義するものとする。
【0010】
赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料としては具体的には、アゾ系顔料、アニリンブラック、ペリレンブラック等の有機顔料や複合酸化物顔料等を挙げることができる。
【0011】
ペリレン系の顔料としては、特開2003−41144号公報及び特関2003−41145号公報に開示のペリレンテトラカルボン酸の酸無水物、特開2006−328238号に開示の2−メチル−2,4−ペンタンジオール及び硝酸を加熱反応して得られる黒色顔料、ペリレンテトラカルボン酸のジイミド誘導体、ペリレンジイミノジカルボン酸のジイミド誘導体を焼成処理して得られた黒色ペリレン系顔料や、特開2007−522297号公報に開示の式1a又は1bで表される異性体の1種又は2つの異性体の混合物を含有する黒色顔料を使用することができる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1、R2は互いに独立にフェニレン、ナフチレンまたはピリジレンであり、これらはそれぞれC1〜C12−アルキル、C1〜C6−アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロおよび/またはハロゲンにより一置換または多置換されていてもよく、Xはハロゲンであり、nは0〜4である)。
【0014】
無機顔料としては、Cu−Fe−Mn系、Cu−Cr系、Cu−Cr―Mn系、Cu−Cr―Mn―Ni系、Cu−Cr―Fe系、Co―Cr―Fe系、Mn−Bi系、Mn−Y系、等の複合酸化物顔料を挙げることができる。
【0015】
本発明において、赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料は、塗装して得られる塗膜の色調によって、上記から1種類又は複数を選択して使用することができる。
【0016】
本発明の塗料組成物における赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料の量は、塗装して得られる塗膜の色調や、仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは2〜18質量部の範囲内、特に好ましくは3〜15質量部の範囲内である。
【0017】
本発明の塗料組成物は鱗片状光輝性顔料を含む。
【0018】
鱗片状光輝性顔料とは、マイカ、人工マイカ、ガラス、酸化鉄、酸化アルミニウムや各種金属等鱗片状基材の表面に、二酸化チタンや酸化鉄等の基材と屈折率が異なる金属酸化物を被覆された光干渉性顔料や、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料を意味する。
【0019】
本発明においては、塗装して得られる塗膜のハイライトにおける明度や粒子感の点から、鱗片状光輝性顔料として前記光干渉性顔料を用いることが好ましい。特に干渉色が鮮やかに発色し、粒子感に優れる光干渉性顔料であるガラスフレーク又は酸化アルミニウムを金属酸化物で被覆した光干渉性顔料を用いることが特に好ましい。
【0020】
光干渉性顔料を用いる場合、塗装して得られる塗膜の観察角度による彩度変化を顕著なものとし、スモーキーな意匠を発現させる点から、ハイライトにおける干渉色のL*C*h表色系における色相角度hが、60°〜270°範囲内のものを使用することが好ましく、より好ましくは90°〜180°の範囲内である。L*C*h表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されているL*a*b*表色系をベースに考案された表色系であって、hは色相角度を表わし、色度図において赤方向の軸を0°として、反時計方向に移動した角度である。
【0021】
光干渉性顔料のハイライトにおける干渉色の色相角度とは具体的には、塗料組成物中に、光干渉性顔料のみを着色材として含む塗料を塗装して得られた塗膜に45°の角度から光を照射して、正反射光に対して15°の方向において測色して得られた分光反射率に基づいて計算した数値を意味する。
【0022】
本明細書において、光干渉性顔料のハイライトにおける干渉色とは、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、光干渉性顔料を15質量部配合して攪拌混合し、溶媒を添加して塗装に適正な粘度に希釈して得られた固形分約25%の有機溶剤型塗料を、予め黒色(N−2)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して15°で受光した分光反射率に基づいて測定した測色値で定義するものとする。
【0023】
本発明の塗料組成物において、鱗片状光輝性顔料の大きさは、平均粒径が5〜25μmの範囲内のものを使用することが、塗装された塗膜の仕上がり性やハイライトにおける粒子感の点から好ましく、より好ましくは粒径が7〜20μmの範囲内もの、特に好ましくは8〜18μmの範囲内ものである。厚さは0.05〜0.5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。ここでいう粒径及び厚さは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で該鱗片状光輝性顔料を観察して得られた数値を意味する。
【0024】
本発明における鱗片状光輝性顔料の塗料組成物中への含有量は、塗装して得られる塗膜のハイライトにおける粒子感から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは2〜18質量部の範囲内、特に好ましくは3〜15質量部の範囲内である。
【0025】
本発明の塗料組成物は、さらに赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料以外の着色顔料を配合せしめることができる。特に鱗片状光輝性顔料として光干渉性顔料を用いる場合、光干渉性顔料のハイライトにおける干渉色と同系色の着色顔料を配合せしめることができる。この組み合わせによって、塗装して形成された塗膜のハイライトの彩度を高くすることができ、さらに干渉色を際立たせる効果を奏する。
【0026】
本発明における着色顔料は、特に制限されるものではないが、具体的には、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明においては特に、上記着色顔料の中から、透明性着色顔料を用いることが、塗装して得られる塗膜の深み感や透明感の点から好ましい。透明性着色顔料とは具体的には、塗料中の樹脂固形分100質量部に基づいて顔料量が20質量部となるように配合して塗料化し、硬化塗膜厚が30μmとなるように平滑なPTFE板に塗装し、硬化、剥離した塗膜を分光光度計MPS−2450(商品名、島津製作所製)にて測定した可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率が90%以上となるような顔料を意味し、平均一次粒子径が100nm以下である顔料を意味する。
【0028】
本発明において、上記着色顔料の塗料組成物中への含有量は、塗装して得られる塗膜のハイライトの彩度を高める効果や仕上がり性の点から、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対し0.01〜20質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲内、特に好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。
【0029】
本発明の塗料組成物には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、必要に応じてメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0030】
さらに、本発明の塗料組成物には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0031】
本発明の塗料組成物は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、12〜50質量%、好ましくは15〜30質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0032】
本発明の塗料組成物は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜45μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。本発明の塗料組成物の塗膜は通常、約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0033】
本明細書の塗料組成物は、塗装して得られる塗膜のL*a*b*表色系における明度L*が10以下である。本明細書において塗料組成物を塗装して得られる塗膜の明度とは、予めグレー色(N−6)の塗膜を形成した塗板上に、該塗料組成物を塗装に適正な粘度に希釈して、硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して45°で受光した分光反射率に基づいて計算した数値で定義するものとする。
【0034】
本発明の塗膜形成方法は、基材上に上記塗料組成物を塗装し、硬化乾燥せしめる方法に関するものである。
【0035】
本発明の塗膜形成方法において、基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、コンクリートやスレート等の建材ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等を挙げることができる。これら素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理して基材とすることができる。さらに、上記基材に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材とすることもでき、これらのものが特に好ましい。
【0036】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0037】
また、上記中塗り塗膜とは、下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与するために形成されるものであり、乾燥硬化した下塗り塗膜又は未硬化の下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料種は、特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。
【0038】
本発明の塗膜形成方法においては、適用される鋼板等の日射による温度上昇を低減する点から反射率が高い中塗り塗膜を形成可能な中塗塗料を適用することが好ましい。具体的には、明度が高い塗膜を形成可能なものであり、カーボンブラック顔料の含有率が塗料中の樹脂固形分100質量部に対して0.5質量部以下の塗料が好ましい。また中塗塗料に白色酸化チタン顔料以外の着色顔料を配合する場合には、赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料を用いることが好ましい。
【0039】
また、基材として、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を形成させる場合においては、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に本発明の塗料組成物を塗装することができる。あるいは、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が未硬化の状態で、塗装することもできる。
【0040】
本発明の塗膜形成方法においては、基材上に上記塗料組成物を塗装して得られた塗膜上にさらにトップクリヤー塗料を1層もしくは2層以上塗装して、トップクリヤー塗膜を形成させる。
【0041】
本発明の塗膜形成方法におけるトップクリヤー塗料は、樹脂成分および溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状塗料である。
【0042】
本発明方法におけるトップクリヤー塗料としては、従来公知のものを制限なく使用することができる。例えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。基体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノ−ル基、エポキシ基などの架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、前記基体樹脂の官能基と反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、表面調整剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0043】
上記トップクリヤー塗料には、透明性を損なわない範囲内において、着色顔料や染料を適時配合することができる。着色顔料や染料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料や染料を1種あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。その添加量は、適宜決定されて良いが、クリヤー塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以下、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0044】
上記トップクリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。トップクリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0045】
本発明の塗膜形成方法においては、本発明の塗料組成物を塗装後、加熱し、乾燥硬化後に、その塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装して加熱し、乾燥硬化させるいわゆる2C2B工程であっても良いが、該塗料組成物を塗装後にその未硬化の状態でトップクリヤー塗料を塗装して、その後に加熱し、これらを同時に硬化せしめるいわゆる2C1B工程で、複層塗膜を得ることもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(製造例1)水酸基含有アクリル樹脂の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート50部を仕込み、撹拌混合し、135℃に昇温した。次いで下記のモノマー/重合開始剤の混合物を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート10部、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.6部からなる混合物を同温度に保持した1時間30分かけて滴下し、さらに2時間熟成した。次にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを減圧下で留去し、水酸基価54mgKOH/g、数平均分子量20,000、樹脂固形分65質量%の水酸基含有アクリル樹脂を得た。ここで数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
モノマー/重合開始剤の混合物:
メチルメタクリレ−ト38部、エチルアクリレ−ト17部、n−ブチルアクリレ−ト17部、ヒドロキシエチルメタクリレ−ト7部、ラウリルメタクリレ−ト20部及びアクリル酸1部及び2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)2部からなる混合物。
(鱗片状光輝性顔料の干渉色測定)
実施例及び比較例に使用する鱗片状光輝性顔料の干渉色を以下の要領で測定し、結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
鱗片状光輝性顔料のハイライトにおける干渉色は、製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、鱗片状光輝性顔料を15部配合して攪拌混合し、溶剤を添加して塗装に適正な粘度に希釈して得られた塗料を、予め黒色(N−2)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して15°で受光した分光反射率に基づいて測定したL*C*h表色系における色相角度hで示した。
(着色顔料の白素地上と黒素地上の日射反射率測定)
実施例及び比較例に使用する着色顔料各々の白素地及び黒素地上の日射反射率を以下の要領で測定し、結果を表1に示した。
【0049】
水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、該着色顔料を15質量部配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製する。JIS K5101 4隠ぺい率試験紙法に記載された隠ぺい率試験紙を平らなガラス板の上に水平に固定し、その上にドクターブレードを使用して、硬化塗膜厚が30μmとなるように塗装し、室温約20℃の実験室に15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分間加熱して硬化せしめた塗膜の白素地部分及び黒素地部分の日射反射率として、積分球ISR−3100を搭載した分光光度計UV−3100PC(共に島津製作所社製)を使用して入射角度を8°としたときのJIS K5602に定義された反射率を測定した。
【0050】
実施例1〜7、比較例1、2
製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、鱗片状光輝性顔料及び着色顔料を表2に示す比率で配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製し、実施例1〜7及び比較例1、2に使用する塗料組成物を作成した。
(試験板の作成)
基材の調整
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ150×75×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0051】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗り白N−9」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板を基材とした。
塗装
(1)で調整した基材に実施例及び比較例で調製した塗料組成物をそれぞれREAガンを用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、25μmとなるように塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、これらの未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、25〜35μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板を得た。
(3)明度の測定
(2)で作成した塗板の明度を測定した。測定は、X−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して行ない、正反射光に対して45°で受光した分光反射率に基づいて計算したL*a*b*表色系における明度L*を表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
(4)目視による意匠性評価
作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、ハイライト(正反射光近傍)やシェード(スカシ)の意匠性を目視にて評価し、結果を表2に示した。
・ハイライトの粒子感
◎:粒子感に優れる。
○:粒子感がある。
△:粒子感がほとんどない。
×:粒子感がない。
・ハイライトの彩度感
◎:干渉色が強く発現して彩度感に優れる。
○:干渉色が発現して彩度感がある。
△:干渉色が弱く彩度感が少ない。
×:彩度感がない。
・シェードのスモーキー感(シェードの明度が低く、ハイライトとシェードの中間において明度変化が緩やかな質感をスモーキー感として定義する。)
◎:スモーキー感に優れる。
○:スモーキー感がある。
△:スモーキー感が少ない。
×:スモーキー感がない。
(5)遮熱性評価
1辺が40cmのダンボール箱上部に70mm四方の正方形の穴をあけたものを、室温約20℃の実験室に30分間静置した。意匠性評価に使用した試験板を、75mm×75mmの大きさに切断して、裏に熱電対のセンサーをセロハンテープで固定した塗板を、
前記穴をふさぐように静置した。40cmの距離から、HALOGEN LIGHT(LPL1500)を照射し、15分後の塗板温度を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の塗料組成物、塗膜形成方法は、各種工業製品、特に自動車車体の外板に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料及び鱗片状光輝性顔料を含む塗料組成物であって、塗装して得られる塗膜のL*a*b*表色系における明度が10以下であって且つハイライトからシェードに明度及び彩度が変化する塗料組成物。
【請求項2】
赤外線を反射及び/又は透過する着色顔料が、ペリレン及び/又は複合金属酸化物である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
鱗片状光輝性顔料が、ガラスフレーク又は酸化アルミニウム表面に金属酸化物を被覆した干渉性光輝性顔料である請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
基材に1〜3項のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、さらにトップクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法。

【公開番号】特開2011−26543(P2011−26543A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65329(P2010−65329)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】