説明

塗料組成物及び絶縁塗膜を有する磁石系

【課題】特に磁石系を大量生産するために連続的自動化が可能な塗料組成物、上記塗料組成物を用いて磁石系を製造するための方法、並びに上記塗料組成物を用いて得られる磁石系を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤、及び、溶剤又は溶剤混合物を含有してなる、希土類永久磁石用接着性腐食防止塗料用塗料組成物であって、前記エポキシ樹脂混合物が、最大2当量/kg以下のエポキシ価を有する少なくとも1つの固体エポキシ樹脂、4当量/kgを超えるエポキシ価を有する少なくとも1つの固体多官能エポキシ樹脂及び30℃を超える融点を有するフェノールノボラック及び/又はクレゾールノボラックを含んでなり、前記塗料組成物が、エラストマー成分含量を有するビスフェノールAに基づく高粘性エポキシ樹脂を含有し、前記ビスフェノールAに基づく高粘性エポキシ樹脂が、23℃において、5,000mPasを超える粘度を有することを特徴とする塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤及び溶剤又は溶剤混合物を含有してなる塗料組成物、特に希土類永久磁石用接着性腐食防止塗料、上記塗料組成物を用いて磁石系を製造するための方法、並びに上記塗料組成物を用いて得られる磁石系に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石及び磁石系、特にネオジム鉄ボロン磁石を含有するものは、通常、腐食から保護されねばならない。そのことから対応する被覆、例えば塗装、が必要となる。
【0003】
磁石系を構成する場合、更に、磁石は、相互に及び/又は別の加工品、例えば鋼ヨーク又は別の軟磁性加工品、と接着技術で結合される。その際、接着結合には、高い耐熱性と共に、特に10N/mm2を超える、高い強度を有することが要求される。というのも、エンジン内で利用する場合、180℃までの温度が現われ、高い反磁界が磁石に作用するからである。これらの条件に接着は耐えねばならない。
【0004】
複数の個別磁石で構成された、いわゆるセグメント磁石系において、接着の役目は、組立体を固定又は結合保持すること、及び、個別磁石を相互に絶縁することである。このような系は、例えば電動式大型機械、例えば船舶用エンジン、風力発電機等、において利用される。個別磁石の電気絶縁により、高い渦電流の発生が防止され、こうしてエンジンの過熱が防止される。
【0005】
磁石系の従来の製造では、通常、液状高性能接着剤(エポキシ樹脂、アクリレート等)を用いて磁石を接着する。次いで、磁石系には、腐食防止塗料、通常、焼付塗料、が施されるが、この塗料は、用途に応じて、環境や化学薬品の影響から系を保護する。このとき、特に接着間隙の領域で、封入ガス泡又は空気泡によって塗料欠陥部が現われるという問題が生じる。それ故に、接着前又は接着中に腐食防止材を塗布することが試みられた。
【0006】
特許文献1には、エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤及び溶剤に基づく、接着性及び腐食防止性を有する塗料組成物が記載されており、それを使用すると、磁石の接着及び腐食防止を一工程で実施することができる。この方法では、磁石が対応する塗料組成物で被覆され、次に、ばね装置又は締付装置によって、目的の磁石系の配置で固定される。このように配置された磁石系は、次いで、締付工具と一緒に焼付炉内で硬化温度にされる。その際、ばね工具で圧力を調整することによって接合面が接触させられ、主に両側に塗布された塗料が混ざり合い、同時に硬化する。こうして、個別磁石が接着されて磁石系とされる。この方法には、比較的高い温度において、磁石系の個々の部材が、初めて互いに強固に接着されるという欠点があり、腐食防止塗料を焼付けて十分な強度の磁石系を得るには、費用を要する工具技術と対応する圧力調整が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許発明第102006012839号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、先行技術の上記諸欠点なしに使用できる塗料組成物を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、
エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤、及び、溶剤又は溶剤混合物を含有してなる、希土類永久磁石用接着性腐食防止塗料用塗料組成物であって、
前記エポキシ樹脂混合物が、
a)1〜94重量%の、最大2当量/kg以下のエポキシ価を有する少なくとも1つの固体エポキシ樹脂
b)1〜50重量%の、4当量/kgを超えるエポキシ価を有する少なくとも1つの固体多官能エポキシ樹脂、及び
c)5〜40重量%の、30℃を超える融点を有するフェノールノボラック及び/又はクレゾールノボラック
を含んでなり、
前記塗料組成物が、前記ベースエポキシ樹脂混合物中の固体樹脂量に基づいて5〜20重量%の、30重量%を超えるエラストマー含量を有するビスフェノールAに基づく、高粘性エポキシ樹脂を含有し、前記ビスフェノールAに基づく高粘性エポキシ樹脂が、23℃において、5,000mPasを超える粘度を有することを特徴とする、
塗料組成物
によって、解決される。本発明に係る塗料組成物の有利な諸構成及び諸態様は対応する従属請求項の対象である。
【0010】
本発明の課題は、また、先行技術方法の諸欠点を有しない磁石系製造方法を提供することである。
【0011】
この課題は、
本発明の塗料組成物を用いて磁石系を製造するための方法であって、
−少なくとも1つの磁石を前記塗料組成物で被覆する工程、
−その塗膜を乾燥させる工程、
−塗料で被覆された前記磁石と他の被覆された磁石又は別の加工品とを0.1〜3N/mm2の圧力及び20〜30℃の温度で3〜20秒の時間に亘って接合して、0.25N/mm2を超える剪断強度を有する磁石系とする工程、及び
−焼付炉内で前記磁石系を固定する工程
を備えてなる方法
によって、解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塗料組成物を使用すると費用を要する接着工具及び圧力調整がもはや必要でない。これにより、磁石系の製造コストを一般に下げることができる。本発明に係る方法では、個々の磁石体を予め固定するために、匹敵する強度値が達成される本質的に大きな(0.1〜3N/mm2の)処理範囲が利用可能であるので、最適圧力比を守ることは重大なことでない。他の利点として、硬化時に、もはや接着塗料が接着間隙から押し出されることがないことが挙げられる。硬化時の接着間隙の収縮が僅かであるため、仕上げられた系の最終寸法は、いまや、予め固定した系で既に監視することができ、そのことから改善されたプロセス制御がもたらされる。圧力が印加されないとき、塗料はさしあたり液状となり、異物粒子によって磁石間に接触が生じることを排除できるので、表面にある異物粒子による絶縁膜の疵は、塗膜の無圧硬化の故に、防止することができる。乾燥後の塗膜の非粘着性と室温で予め固定された磁石系の優れた強度との故に、本発明に係る塗料組成物を使用すると、連続的自動化が可能であり、磁石系の大量生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤、及び、溶剤又は溶剤混合物を含有してなる塗料組成物は、前記エポキシ樹脂混合物が、1〜94重量%の、最大2当量/kg以下のエポキシ価を有する少なくとも1つの固体エポキシ樹脂、1〜50重量%の、4当量/kgを超えるエポキシ価を有する少なくとも1つの固体多官能エポキシ樹脂、及び、5〜40重量%の、30℃を超える、特に100℃を超える、融点を有するフェノールノボラック及び/又はクレゾールノボラックを含んでなり、更に、前記塗料組成物が、前記ベースエポキシ樹脂混合物中の固体樹脂量に基づいて5〜20重量%の、30重量%を超えるエラストマー含量を有するビスフェノールAに基づく、高粘性エポキシ樹脂を含有する場合に、希土類永久磁石用接着性腐食防止塗料として、特別好ましい特性を有することが、見出された。
【0014】
上記問題の解決策を求める過程で、ビスフェノールAを基としてエラストマー成分で変性された高粘性エポキシ樹脂を添加することによって、塗料組成物の接着温度を室温に低下させることができることが見出された。こうして、個々の接着相手の固定は、もはや、圧力調整下に温度を高めて硬化する間に行われるのでなく、接着相手は、硬化前に単純に押し付けることによって強力に固定され、0.25N/mm2を超える剪断強度が達成される。
【0015】
ビスフェノールAを基とする高粘性エポキシ樹脂の粘度は、23℃において、好ましくは5,000mPasを超え、特に好ましくは50,000mPasを超え、この樹脂は、有利には、ビスフェノールAジグリシジルエーテルであり、エラストマー成分は、有利には、ニトリルブタジエンゴムである。
【0016】
好ましい実施形態の塗料組成物において、エポキシ樹脂混合物は、1〜80重量%の、1当量/kg未満のエポキシ価を有する固体エポキシ樹脂と、1〜80重量%の、1〜2当量/kgのエポキシ価を有する固体エポキシ樹脂とを、含む。他の有利な一構成では、エポキシ価最大2当量/kg以下の少なくとも1つの固体エポキシ樹脂がビスフェノールA及び/又はビスフェノールFを基とするエポキシ樹脂である。
【0017】
4当量/kgを超えるエポキシ価を有する多官能エポキシ樹脂は、有利には、エポキシフェノールノボラック、エポキシクレゾールノボラック、イソシアヌル酸トリグリシジル及び/又はそれらの混合物からなる群から選択される。硬化促進剤は、好ましくは、第三級アミン及び/又はイミダゾール誘導体、特に好ましくは、2−エチル−4−メチルイミダゾールを含む。
【0018】
エポキシ官能性接着剤は、有利には、γ−グリシジルプロピルトリメトキシシラン及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシランからなる群から選択される。有利には、固体樹脂の総量を基準に、0.1〜5重量%、特に1〜3重量%、のエポキシ官能性接着剤が利用される。
【0019】
硬化剤として利用されるのは、30℃を超える、特に100℃を超える融点を有する、5〜40重量%、特に10〜20重量%、のフェノールノボラック又はクレゾールノボラックである。
【0020】
溶剤には特別な条件が要求されず、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、グリコールエーテル、アルコール、ケトン及び/又はそれらの混合物を利用することができる。
【0021】
腐食防止材としての塗料組成物の性質を改善するために、塗料組成物が、付加的に、リン酸亜鉛、クロム酸亜鉛及びヒドロキシ亜リン酸亜鉛から成る群から選ばれる腐食防止顔料を含有していると有利である。
【0022】
付加的添加剤、例えば可溶性着色剤;流れ調整剤及び消泡剤;例えば石英、マイカ及び滑石粉等の非金属充填材;例えばカーボンブラック又はルチル等の分散性着色顔料;分散助剤及び/又は流動学的添加剤;例えばベントナイト又はアエロジル等の抗沈殿助剤;を利用することによって、塗料組成物の更なる最適化を、達成することができる。
【0023】
バナジン酸塩、タングステン酸塩、ニオブ酸塩及びモリブデン酸塩から成る群から選ばれる塩型化合物、特にモリブデン酸亜鉛、を添加することによって、塗料組成物の耐食性を、更に改善することができる。
【0024】
部材の塗装は、塗布、浸漬、吹付け、スピンコーティング、キャストコーティング又はその他の方法によって、従来の方法で行われ、吹付け法は、好ましくは被塗部品の幾何学形状の故に、連続法でも回分法でも行われる。この理由から、塗料の固形分含量が過度に高くなく、最大50重量%、好ましくは10〜20重量%、であることも望ましい。
【0025】
本発明に係る方法では、更に、個々の接着相手が被覆後に乾燥させられることが考慮に入れられている。これにより、本発明に係る塗料組成物は、塗布して乾燥付着した後は、べとつかず、そのため部材を問題なく取り扱うことができるということが確認されている。主に10〜50μmの厚さを有する塗膜の被着後、乾燥した個別磁石は互いに接合され、3〜20秒の時間に亘って、比較的低い0.1〜3N/mm2の圧力が組立体に加えられる。その際、室温において既に塗料のいわゆるコールドフローが発生し、両方の接合相手上の各塗膜が互いに流れ込む。
【0026】
この方法の他の利点は、圧力が低いので接着間隙は僅かに変化するにすぎず、この間隙から塗料が流れ出ることはないことである。増圧終了後に、磁石系の個別モジュールは互いに強力に結合されており、この磁石系は、0.25N/mm2を超える剪断強度を有する。
【0027】
その後、磁石系は、圧力装置から取り出され、無圧の焼付炉において150〜250℃の温度で硬化される。
【0028】
耐熱性、耐酸性、耐食性、圧縮強度及び冷却潤滑剤に対する耐性に関する最終製品の特性が、塗料組成物中のゴム成分によって変化することはない。塗料の流れが肯定的影響を受けるだけであり、ごく平滑な非粘着性表面が得られ、この表面は、塗膜の損傷を懸念することなく移送機構又はロボットアームを用いて部品を取り扱うのに、十分に硬くて耐磨耗性である。この方法によって、塗料接着過程を適切に自動化する可能性が切り開かれ、先ず、全ての個別磁石が全面塗装され、次に部品は、室温と40℃との間の温度で塗料乾燥後に、ロボットアームを用いて正確な位置で積重ねて磁石系用磁石積重ね体とされる。この積重ね体に圧力を短時間加えることによって、磁石系が安定させられ、積重ね体は、今や、掴み具を介して加圧装置から取り出してコンベヤベルトによって連続熱処理炉へと搬送することができる。硬化及び冷却後、磁石系は極めて安定しており、個々の磁石は、10N/mm2を超える強度で、互いに結合されている。塗料は、支持面にのみ僅かな加圧箇所を有することがあるが、しかし、塗膜自体は損傷しておらず、腐食防止材は損傷しない。美的理由から加圧箇所を視認不能としたい場合、硬化した塗膜は、塗料組成物で問題なく上塗りすることができる。
【0029】
本発明に係る塗料組成物によって、磁石系が得られる。このものは、10N/mm2の最低圧縮強度、150℃の連続耐熱性、1,000時間を超える冷却潤滑剤に対する耐性、1,000時間を超える85℃、空気湿度95%における腐食強度、250時間を超える塩水噴霧試験における耐性を有する。硬化した塗膜は、電気絶縁的に作用する。
【0030】
本発明の範囲内での研究から、公知防食塗料系の肯定的特性は、高分子鎖中のNBRゴム含量が30重量%を超えるビスフェノールAに基づく高粘性エポキシ樹脂を添加しても損なわれず、他方で、この接着法は、本質的に簡素となり、本発明に係る塗料の使用により、磁石系の製造は十分に自動化することができることが判明した。更に、塗料マトリックスに重合して含まれたニトリルブタジエンゴム成分によって、従来の塗料と比べて、より高い耐熱衝撃強度が得られる。このことは、特に、例えば鉄部品とネオジム鉄ボロン磁石との組合せのように、著しく異なる熱膨張率を有する接合相手を結合する場合、肯定的に現われる。
【0031】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳しく説明する。
【0032】
実施例1(塗料溶液の製造)
0.03当量/kgのエポキシ価を有するビスフェノールA固体樹脂15g、1.5当量/kgのエポキシ価を有するビスフェノールA樹脂6g、5.6当量/kgのエポキシ価を有するエポキシフェノールノボラック4.8g及び融点120℃のクレゾールノボラック4.2gが、3部のメチルエチルケトンと1部のエタノールとから成る200gの溶剤混合物に溶かされる。この溶液に2−エチル−4−メチルイミダゾール及び0.5gのγ−グリシジルプロピルトリメトキシシランが加えられる。
【0033】
実施例2(本発明に係る噴霧塗料の製造)
実施例1による固体樹脂含量15%の塗料溶液1,000gに、充填材45g、ニトリルブタジエンゴムで変性したエポキシ樹脂(Struktol−Polydis(登録商標)3614、Schill & Seilacher社)15g及び硬化剤4.5gが付加的に加えられた。このとき、融点120℃の、出発塗料溶液におけると同じクレゾールノボラックが利用された。このために、樹脂及び硬化剤は、先ず、3:1比のメチルエチルケトン/エタノール混合物100mlに溶解され、引き続き、攪拌しながらベース塗料に添加された。
【0034】
実施例3(磁石系の製造)
実施例2で製造された塗料が噴霧法で寸法17.5×14.5×5mmの合計10個のネオジム鉄ボロン磁石に噴霧され、これらの磁石は、約25μm厚の塗膜で全面被覆された。この被覆は、表面吹付け法で行われた。磁石は、先ず、一側面から塗料で被覆され、引き続き、塗料は、30℃のフラッシュオフ設備において新鮮空気を供給しながら、2時間、乾燥された。次に、部品は裏返され、この過程が繰り返された。こうして塗装された磁石は、僅かに後方に傾いた角度装置によって、正確に10個組積重ね体へと、包装され、10kgの重しを短時間載置することによって、約0.4N/mm2の圧力が磁石積重ね体に加えられた。こうして個々の磁石の強力な結合体が達成され、この磁石積重ね体は、補助装置から問題なく取り出すことができた。磁石積重ね体は、いまや、付着防止膜を備えた薄板上に置かれ、接着塗料が180℃の空気循環炉内で1時間焼付けられた。
【0035】
実施例4(剪断試験)
それぞれ、6個、8個又は10個のセグメントを有する3つの異なる系が実施例3に従って仕上げられ、これらの系について、DIN54451に依拠して剪断試験が実施され、5〜20N/mm2の圧縮剪断強度が確認された。
【0036】
実施例5(腐食試験)
オートクレーブ内で、130℃、圧力2.7バール、空気湿度100%において、実施例3による3つの8個組セグメント磁石系について、腐食試験が実施され、10日間の試験期間後でも、系に腐食痕は、何ら発見されなかった。
【0037】
実施例6(絶縁性試験)
3つの10個組セグメント磁石系に32V直流電圧を印加することによって、塗膜の電気絶縁作用が試験された。接着されたブロックは、それぞれ1つの側面を研磨して塗料が取り除かれ、直流電流源で負荷された。この試験では、全ての接着が優れた絶縁作用を示し、通電を可能としなかった。
【0038】
上記試験で例示的に示そうとするのは、本発明に係る塗料組成物の潜在能力であり、そのなかに本発明を減縮するものを認めるものではなく、本発明の諸利点は以下の如くにまとめることができる。
【0039】
本発明に係る塗料組成物を使用すると費用を要する接着工具及び圧力調整がもはや必要でない。これにより、磁石系の製造コストを一般に下げることができる。本発明に係る方法では、個々の磁石体を予め固定するために、匹敵する強度値が達成される本質的に大きな(0.1〜3N/mm2の)処理範囲が利用可能であるので、最適圧力比を守ることは重大なことでない。それに対して先行技術によれば、塗料接着時に、応用事例毎に好適な接合圧力を個別に求めねばならなかった。他の利点として、硬化時に、もはや接着塗料が接着間隙から押し出されることがない。それに対して先行技術によれば、硬化時に圧力調整に伴って接着間隙から進出する塗料によって、磁石ブロックの外寸が変化して再加工を必要とする恐れがあり、又は磁石系の利用可能性が疑問視されさえする。硬化時の接着間隙の収縮が僅かであるため、仕上げられた系の最終寸法は、いまや、予め固定した系で既に監視することができ、そのことから改善されたプロセス制御がもたらされる。圧力が印加されないとき、塗料はさしあたり液状となり、異物粒子によって磁石間に接触が生じることを排除できるので、表面にある異物粒子による絶縁膜の疵は、塗膜の無圧硬化の故に、防止することができる。乾燥後の塗膜の非粘着性と室温で予め固定された磁石系の優れた強度との故に、本発明に係る塗料組成物を使用すると、磁石系を大量生産するために、連続的自動化が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂混合物、硬化促進剤、シラン系エポキシ官能性接着剤、及び、溶剤又は溶剤混合物を含有してなる、希土類永久磁石用接着性腐食防止塗料用塗料組成物であって、
前記エポキシ樹脂混合物が、
a)1〜94重量%の、最大2当量/kg以下のエポキシ価を有する少なくとも1つの固体エポキシ樹脂
b)1〜50重量%の、4当量/kgを超えるエポキシ価を有する少なくとも1つの固体多官能エポキシ樹脂、及び
c)5〜40重量%の、30℃を超える融点を有するフェノールノボラック及び/又はクレゾールノボラック
を含んでなり、
前記塗料組成物が、前記ベースエポキシ樹脂混合物中の固体樹脂量に基づいて5〜20重量%の、30重量%を超えるエラストマー成分含量を有するビスフェノールAに基づく、高粘性エポキシ樹脂を含有し、前記ビスフェノールAに基づく高粘性エポキシ樹脂が、23℃において、5,000mPasを超える粘度を有することを特徴とする、
塗料組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノールAを基とする高粘性エポキシ樹脂が、23℃において、50,000mPasを超える粘度を有する請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記エラストマー成分がニトリルブタジエンゴムを含んでなる請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記ビスフェノールAを基とする高粘性エポキシ樹脂がビスフェノールAジグリシジルエーテルである請求項1から3のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂混合物が、1〜80重量%の、1当量/kg未満のエポキシ価を有する固体エポキシ樹脂と、1〜80重量%の、1〜2当量/kgのエポキシ価を有する固体エポキシ樹脂とを、含む請求項1から4のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項6】
エポキシ価最大2当量/kg以下の前記少なくとも1つの固体エポキシ樹脂が、ビスフェノールA及び/又はビスフェノールFを基とするエポキシ樹脂である請求項1から5のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項7】
4当量/kgを超えるエポキシ価を有する前記多官能エポキシ樹脂が、エポキシフェノールノボラック、エポキシクレゾールノボラック、イソシアヌル酸トリグリシジル及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1から6のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記塗料組成物が、10〜20重量%の、30℃を超える融点を有する、フェノールノボラック及び/又はクレゾールノボラックを硬化剤として含む請求項1から7のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記硬化促進剤が第三級アミン及び/又はイミダゾール誘導体を含んでなる請求項1から8のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項10】
前記エポキシ官能性接着剤がγ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシランからなる群から選択される請求項1から9のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項11】
前記シラン系エポキシ官能性接着剤の含量が、固体樹脂の総量に基づいて、0.1〜5重量%である請求項1から10のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項12】
前記溶剤が脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、グリコールエーテル、アルコール、ケトン及び/又はそれらの混合物を含んでなる請求項1から11のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項13】
前記塗料組成物の固形分含量が1〜50重量%である請求項1から12のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項14】
前記腐食防止塗料が付加的に、リン酸亜鉛、クロム酸亜鉛及びヒドロキシ亜リン酸亜鉛からなる群から選ばれる防錆顔料を含み、並びに/又は、バナジン酸塩、タングステン酸塩、ニオブ酸塩及びモリブデン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩型化合物を含んでなる請求項1から13のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1つの塩型化合物がモリブデン酸亜鉛である請求項14記載の塗料組成物。
【請求項16】
前記腐食防止塗料が、可溶性着色剤、流れ調整剤及び消泡剤、非金属充填材、分散性着色顔料、分散助剤及び/又は流動学的添加剤並びに抗沈殿助剤からなる群から選ばれる付加的添加剤を含んでなる請求項1から15のいずれか1つに記載の塗料組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1つに記載の塗料組成物を用いて磁石系を製造するための方法であって、
−少なくとも1つの磁石を前記塗料組成物で被覆する工程、
−その塗膜を乾燥させる工程、
−塗料で被覆された前記磁石と他の被覆された磁石又は別の加工品とを0.1〜3N/mm2の圧力及び20〜30℃の温度で3〜20秒の時間に亘って接合して、0.25N/mm2を超える剪断強度を有する磁石系とする工程、及び
−焼付炉内で前記磁石系を固定する工程
を備えてなる方法。
【請求項18】
前記磁石系の製造が自動化されており、塗料で被覆された前記磁石と他の被覆された磁石又は別の加工品との接合がロボットアームによって行われる請求項17記載の方法。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか1つに記載の塗料組成物を使用して得られる膜厚10〜50μmの絶縁塗膜を有する磁石系であって、10N/mm2の最低圧縮強度、150℃の連続耐熱性、1,000時間を超える冷却潤滑剤に対する耐性、1,000時間を超える85℃、空気湿度85%における腐食強度、及び250時間を超える塩水噴霧試験における耐性を有する磁石系。

【公開番号】特開2011−162785(P2011−162785A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22805(P2011−22805)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(500460379)バクームシュメルツェ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニ コマンディートゲゼルシャフト (7)
【Fターム(参考)】