説明

塗料組成物

【課題】本発明は、エラストマーまたはゴムを含む軟質基材の表面への塗布において、基材との密着性、塗膜の柔軟性および均一性に優れた塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明の塗料組成物は、(a)芳香族ビニル化合物含有率が45重量%未満である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物100重量部、および(b)芳香族ビニル化合物含有率45〜80重量%である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物10〜60重量部を塗膜成分として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物に関し、特に、エラストマーまたはゴムを含む軟質基材の表面への塗布に適する塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題により、ポリ塩化ビニル化合物から熱可塑性エラストマーへの転換が進んでいる。エラストマー製品は、屈曲及び曲げ、ゆがみ及び回復、及び/又は有効寿命中に反復されるトルク又は振動を含む力を減衰させることができ、種々の用途に利用されている。また、ポリ塩化ビニル化合物のなかでもアスカーC硬度が約5〜15の柔らかいものに関しても、それと同等の硬度を有する極めて柔らかい熱可塑性エラストマーの開発が行われている。
【0003】
上記の極めて柔らかい熱可塑性エラストマーは、例えば疑似餌や玩具などの用途においてその基材として用いられるが、これらの用途では、高い意匠性を有することがしばしば要求され、そのために基材の表面を塗装する必要がある。このような極めて柔らかい軟質基材は、伸縮、屈曲及び曲げ、ゆがみ等の外的な力を受けやすいので、軟質基材上に施与される塗料は、均一に塗布できる共に、そのような外的な力に追従できるよう、得られる塗膜が柔軟性および基材との密着性に優れていることが必要である。
【0004】
ところで、自動車内装材用途等で一般的に使用されている、ショアA硬度が約0〜85の熱可塑性エラストマーにおいては、上記熱可塑性エラストマーから成る基材に施与される塗料として、従来、塗膜の強度及び/又は柔軟性や耐候性等に優れ、密着性付与剤及び/又はシランカップリング剤等の改質剤の添加が容易であることから、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等が使用されている。しかし、これらの塗料は、ショアA硬度が約0〜85の基材への施与には適しても、アスカーC硬度が約5〜15でありかつ伸びの大きい軟質基材への施与においては、その基材との密着性及び塗膜の柔軟性の点で十分ではなく、その結果、図1に示されるように、上記塗料が施与された軟質基材に伸びや曲げ等の外的な力が加わると、塗膜に亀裂や剥離を生じる。
【0005】
また、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などの熱可塑性樹脂;粘着性付与樹脂としての石油系樹脂、ロジン系樹脂及び/又はテルペン系樹脂;およびメタクリロキシ系、アクリロキシ系、メルカプト系及び/又はアミノ系のシランカップリング剤を配合した耐熱防湿絶縁塗料が開示されている(例えば、特許文献1および2)。これらの塗料は、絶縁処理された電子部品に塗布され、ガラスやプリント基板との接着性に優れる。しかし、軟質基材へ塗布した場合には、均一な塗膜が得られず、塗膜形成性に劣る。
【0006】
また、ポリスチレン未端ブロックとポリスチレンブチレンゴム中間ブロックからなるブロック共重合体および粘着付与剤としての水素添加ロジンエステル、水素添加した石油樹脂又は芳香族炭化水素で変性したテルペン樹脂を配合した塗料組成物が開示されている(例えば、特許文献3)。この塗料組成物は、耐チッピング性に優れ、自動車のアンダーボディー、タイヤハウス等に使用される。これは、鋼板(JIS G 3141)などの金属基材への施与には優れるが、軟質基材へ塗布した場合には、均一な塗膜が得られず、塗膜形成性に劣る。
【特許文献1】特開2005−162986号公報
【特許文献2】特開2005−126456号公報
【特許文献3】特開平5−179195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、軟質基材に施与した場合の基材との密着性及び塗膜の柔軟性に優れ、かつ塗膜形成性に優れる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、芳香族ビニル化合物含有率が異なる2種類の、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物を塗膜成分として使用することにより、上記特性に優れた塗料組成物が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、
(a)芳香族ビニル化合物含有率が45重量%未満である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物100重量部、および
(b)芳香族ビニル化合物含有率45〜80重量%である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物10〜60重量部
を塗膜成分として含む塗料組成物である。
本発明の塗料組成物は、(c)有機溶剤400〜1500重量部をさらに含有する。
【0009】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の塗料組成物は、
(d)テルペン樹脂水素添加誘導体、石油樹脂及び石油樹脂水素添加誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種0〜40重量部
をさらに含有する。
本発明の別の実施態様によれば、成分(a)及び成分(b)の共重合体の各々がブロック共重合体又はランダム共重合体である。
本発明のさらに別の実施態様によれば、成分(c)が芳香族系有機溶剤、脂肪族系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、パラフィン系溶剤および石油系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
本発明は、伸び率(JIS K 6251引張試験に準じる)が200%以上である、エラストマーまたはゴムを含む基材の表面に、成分(a)および(b)を含む塗膜を有する物品をも提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塗料組成物は、軟質基材に施与した場合の基材との密着性及び塗膜の柔軟性に優れ、かつ均一に塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る塗料組成物の各成分について説明する。
【0013】
成分(a):芳香族ビニル化合物含有率が45重量%未満である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物
成分(a)は、塗膜の柔軟性(柔らかい基材の変形への追従性)を調整するために用いられる。成分(a)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンが挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。なかでもスチレンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンおよびペンタジエンが挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。なかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0014】
成分(a)における芳香族ビニル化合物含有率は、45重量%未満であり、好ましくは5重量%以上45重量%未満、より好ましくは5〜40重量部%、さらにより好ましくは10〜40重量%である。上記上限を越えると塗膜の感触が硬くなり柔軟性が失われる。また、上記下限未満であると、均一な塗膜が得られず、塗膜形成性に劣ると共に、耐摩耗性にも劣る。
【0015】
成分(a)は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物(以降、水添ランダム共重合体という)であっても芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以降、水添ブロック共重合体という)であってもよい。特に好ましくは水添ブロック共重合体である。
【0016】
水添ランダム共重合体の場合、好ましくは、その数平均分子量が5,000〜1,000,000であり、多分散度(Mw/Mn)の値が10以下である。また、共役ジエン化合物の部分は、側鎖に二重結合を有するような結合形態(例えば、共役ジエン化合物がブタジエンの場合には1,2−結合、イソプレンの場合には1,2−結合および3,4−結合)を好ましくは10%以上、より好ましくは20〜90%、特に好ましくは40〜90%含有する。
【0017】
上記ランダム共重合体の水素添加物は、上記ランダム共重合体を通常の方法で水素添加することにより製造することができる。ランダム共重合体は、例えば特開平2−158643号、特開平2−305814号および特開平3−72512号の各公報に記載された方法に従って製造することができる。共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0018】
水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られる。例えば、A−B、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有するブロック共重合体を水素添加して得られる。
【0019】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体か、芳香族ビニル化合物と50重量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体か、共役ジエン化合物と50重量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0020】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは好ましくは、水添ブロック共重合体全体の45重量%未満の割合で存在する。
【0021】
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、任意の割合で水素添加されるが、水素添加率が好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。また、共役ジエン化合物の結合形態は、任意であり、例えば、ブロックBがブタジエン単独で構成される場合、ポリブタジエンブロックにおいて、1,2−結合が好ましくは20〜50%、特に好ましくは25〜45%である。また、1,2−結合のものが選択的に水素添加されたものであっても良い。ブロックBがイソプレンとブタジエンの混合物から構成される場合、1,2−結合が好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、より更に好ましくは15%未満である。
【0022】
ブロックBがイソプレン単独で構成される場合、ポリイソプレンブロックにおいて、1,4−結合が好ましくは70〜100%であり、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の好ましくは少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0023】
水添ブロック共重合体は、重量平均分子量が500,000以下であるのが好ましく、さらに好ましくは50,000〜350,000である。重量平均分子量が500,000を超えると、塗膜形成性が低下する恐れがある。重量平均分子量が50,000未満では塗膜の強度が不十分である。
【0024】
水添ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−エチレン・ブタジエン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、SBBS)等を挙げることができる。
【0025】
水添ブロック共重合体の製造方法としては、数多くの方法が提案されている。代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合を行い、こうして得られたブロック共重合体を、公知の方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加処理する方法が挙げられる。
【0026】
成分(b)スチレン含有率が45〜80重量%である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物
成分(b)は、塗膜の硬度を調整し、かつ均一な塗膜の形成を可能にするために使用される。成分(b)を構成する芳香族ビニル化合物および共役ジエン化合物としては、上記成分(a)に関して記載したものと同じものが挙げられる。
【0027】
成分(b)における芳香族ビニル化合物含有率は、45重量%〜80重量%であり、好ましくは45〜75重量%、より好ましくは45〜70重量%である。上記上限を越えると塗膜の柔軟性および軟質基材との密着性が不十分である。上記下限未満の場合には、塗膜の硬度および均一性が不十分である。
【0028】
成分(b)は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物(以降、水添ランダム共重合体という)であっても芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以降、水添ブロック共重合体という)であってもよい。特に好ましくは水添ブロック共重合体である。
【0029】
水添ランダム共重合体の場合、好ましくは、その数平均分子量が5,000〜1,000,000であり、多分散度(Mw/Mn)の値が10以下である。また、共役ジエン化合物の部分は、側鎖に二重結合を有するような結合構造(例えば、共役ジエン化合物がブタジエンの場合には1,2−結合構造、イソプレンの場合には1,2−結合構造および3,4−結合構造)を好ましくは10%以上、より好ましくは20〜90%、特に好ましくは40〜90%含有する。
【0030】
上記ランダム共重合体の水素添加物は、上記ランダム共重合体を通常の方法で水素添加することにより製造することができる。ランダム共重合体は、例えば特開平2−158643号、特開平2−305814号および特開平3−72512号の各公報に記載された方法に従って製造することができる。共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0031】
水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られる。例えば、A−B、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有するブロック共重合体を水素添加して得られる。
【0032】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体か、芳香族ビニル化合物と50重量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体か、共役ジエン化合物と50重量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0033】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは好ましくは、水添ブロック共重合体全体の45〜80重量%の割合で存在する。
【0034】
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、任意の割合で水素添加されるが、水素添加率が好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。また、共役ジエン化合物の結合形態は、任意であり、例えば、ブロックBがブタジエン単独で構成される場合、ポリブタジエンブロックにおいて、1,2−結合が好ましくは20〜50%、特に好ましくは25〜45%である。また、1,2−結合のものが選択的に水素添加されたものであっても良い。ブロックBがイソプレンとブタジエンの混合物から構成される場合、1,2−結合が好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、より更に好ましくは15%未満である。
【0035】
ブロックBがイソプレン単独で構成される場合、ポリイソプレンブロックにおいて、1,4−結合が好ましくは70〜100%であり、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の好ましくは少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0036】
水添ブロック共重合体は、重量平均分子量が500,000以下であるのが好ましく、さらに好ましくは50,000〜350,000である。重量平均分子量が500,000を超えると、塗膜形成性が低下する恐れがある。重量平均分子量が50,000未満では塗膜の強度が不十分である。
【0037】
水添ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−エチレン・ブタジエン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、SBBS)等を挙げることができる。
【0038】
水添ブロック共重合体の製造方法としては、数多くの方法が提案されている。代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合を行い、こうして得られたブロック共重合体を、公知の方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加処理する方法が挙げられる。
【0039】
本発明の塗料組成物は、上記成分(a)および(b)を塗膜成分として含む。これらの成分の配合割合は、成分(a)100重量部に対して成分(b)が10〜60重量部、好ましくは10〜55重量部である。成分(a)100重量部に対する成分(b)の配合割合が上記上限を超えると、塗膜の柔軟性および軟質基材との密着性が不十分である。上記下限未満の場合には、塗膜の硬度および均一性が不十分である。
【0040】
成分(c):有機溶剤
本発明の塗料組成物は上記塗膜成分(a)および(b)と共に成分(c)有機溶剤を含む。有機成分としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、パラフィン油、ナフテン油等のパラフィン系溶剤、ミレラルターペン、ナフサ等の石油系溶剤などが挙げられる。
【0041】
成分(c)は好ましくは、常温乾燥時間の点から、沸点が150℃以下である。
【0042】
成分(c)の配合量は、作業性に関連する塗料の粘度に応じて決められるが、成分(a)100重量部に対して400〜1600重量部、好ましくは500〜1400重量部である。上記下限未満では塗料の粘度が高過ぎて塗布作業が困難になり、また上記上限を超えると塗料がタレ易くなり、塗膜形成が困難となり、さらに乾燥時間も長くなる。
【0043】
成分(d):テルペン樹脂水素添加誘導体、石油樹脂及び/又は石油樹脂水素添加誘導体
成分(d)は密着性付与剤として任意に添加される成分であり、基材に対する塗膜密着性を向上させる機能を付与する。
【0044】
成分(d−1):テルペン樹脂水素添加誘導体
成分(d−1)は、任意のテルペン樹脂水素添加誘導体を使用することができる。例えば、α−ピネンやβ−ピネンを重合したテルペン樹脂、フェノールとテルペンを反応させたテルペンフェノール樹脂、スチレン等で極性を付与した芳香族変性テルペン樹脂などのテルペン樹脂の水素添加誘導体を例示することができる。
【0045】
テルペン樹脂の水素添加誘導体は、テルペン樹脂を、当業者に公知の方法により水素添加することにより得られる。
【0046】
成分(d−1)として市販品を使用することもでき、例えば、ヤスハラケミカル(株)製のクリアロン(水素化テルペン樹脂)が挙げられる。
【0047】
成分(d−2):石油樹脂及び石油樹脂水素添加誘導体
石油樹脂は、石油精製工業、石油化学工業の各種工程で得られる樹脂状物又は、それらの工程、特にナフサの分解工程にて得られる不飽和炭化水素を原料として共重合して得られる樹脂のことを指し称する。例えば、C5留分を主原料とする芳香族系石油樹脂、それらの共重合系石油樹脂、及び、脂環族系石油樹脂等を挙げることができる。好ましい石油樹脂は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂及び脂環族系石油樹脂である。
【0048】
成分(d−2)は、上記石油樹脂の水素添加誘導体をも包含する。石油樹脂水素添加誘導体は、完全に水素添加されたものが好ましい。部分的に水素添加されたものは、熱安定性と耐候性の点で劣る傾向にある。
【0049】
石油樹脂の水素添加誘導体は、慣用の方法で製造される上記石油樹脂を慣用の方法によって水素化することにより得られる。
【0050】
とりわけ耐熱性が要求される成形品においては、石油樹脂水素添加誘導体が好ましい。より好ましくは、脂肪族系石油樹脂の水素添加誘導体が用いられ、その中でもシクロペンタジエン系化合物を共重合して水素添加したものが特に好ましい。
【0051】
成分(d)の配合量は、配合される場合、成分(a)100重量部に対し40重量部以下、好ましくは10〜30重量部である。前記上限値を超えると、タック性が著しく大きくなり、塗膜形成性が悪化する。
【0052】
本発明の塗料組成物は、上記成分(a)〜(d)の他に、必要に応じて、湿潤分散剤、レベリング剤及び着色剤などを任意に含むことができる。
【0053】
湿潤分散剤としては例えば、アニオン系、カチオン系、ウレタン変性アクリルコポリマーなどの公知の湿潤分散剤が挙げられる。
【0054】
レベリング剤として例えば、シリコングリコール、変性ポリシロキサン、アミノ樹脂変性アクリル共重合物などの公知のレベリング剤が挙げられる。
【0055】
着色剤としては、公知の無機顔料、有機系顔料、及び有機系染料等が挙げられ、所望する色調に応じて使用される。これらの着色剤は、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本発明の塗料組成物は、上記成分を一般的な撹拌・脱泡装置を用いて常温にて溶解混合することにより得られる。上記攪拌装置としては、例えば、デゾルバー、ホモジナイザーのようなローター・ステーター式の高速回転による撹拌機、容器を自転と同時に公転させて混合させる遊星式撹拌機、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、コロイダルミル、ペイントシェーカー、スタティックミキサー、噴流混合機、バブルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等によって機械的剪断力を作用させながら分散させるものが挙げられる。
【0057】
こうして得られる塗料組成物は、エラストマーまたはゴムを含む軟質基材の表面への塗布において、基材との密着性、塗膜の柔軟性および均一性に優れる。特に、伸び率(JIS K 6251引張試験に準じる、3号ダンベル使用、引張速度500mm/分)が200%以上である、エラストマーまたはゴムを含む基材の表面への塗布に有用である。図2は、本発明の塗料組成物を軟質基材の表面に施与したものを伸ばしたときの状態を示す写真である。図2から分かるように、本発明の塗料組成物は、軟質基材に施与したとき、伸びや曲げ等の外的な力が加わっても、塗膜に亀裂や剥離を生じない。なお、図1に示す従来の塗料は白色であり、図2に示す本発明の塗料は赤色であるため、両者は明度に差がある。
【0058】
塗布方法としては、一般的に公知の種々の方法を用いることができ、例えばスプレー塗装、ロールコート、ハケ塗り等が挙げられる。
【0059】
上記伸び率が200%以上である、エラストマーまたはゴムを含む基材としては、例えばスチレン系ゴムまたはエラストマー(SBR、SBS、SIS、水添SBR、SEPS、SEBS、SEEPS等)及び/又はオレフィン系ゴム(EPR、EBR、EPDM等)等にオイルを目的を損なわない範囲で配合して軟化させたものを例示できる。配合例を下記表1に示す。
【実施例】
【0060】
次に本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた評価方法及び原料は以下の通りである。
【0061】
評価方法
(1)基材の作製:
塗料組成物を塗布するための基材を、表1に示す組成に従って作製した。表1に記載の各成分を、L/Dが47の二軸押出機に投入し、混練温度180℃、スクリュー回転数350rpmで溶融混練してペレット化した。得られたペレットを余熱2分/加圧2分(圧力50kg/cm2)に付して、長さ90.0mm、幅50.0mm、厚さ3.0mmの熱プレスシートを製作し、表1に示す物性を有する軟質基材を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
(2)基材との密着性試験:
上記(1)で得られた基材に塗料を膜厚約200μmとなるようにスプレー塗布し、常温で1日間乾燥させて試験片を作製した。この試験片を用い、JIS K 5400に準じて、試験片のほぼ中央に直交する縦横11本づつの平行線を1mmの間隔で引き、100個の升目ができるように碁盤目状の切り傷をカッターで付ける。碁盤目の欠損しないで残存している升目の有無を目視で観察し、次の基準で評価した。
○:欠損しないで残存している升目の割合が90%以上である。
△:欠損しないで残存している升目の割合が70%以上90%未満である。
×:欠損しないで残存している升目の割合が70%未満である。
【0064】
(3)塗膜の柔軟性試験:
上記(1)で得られた基材に塗料を膜厚約200μmとなるようにスプレー塗布し、常温で1日間乾燥させて試験片を作製した。この試験片の両端を固定し、試験片の長さを2倍長(180.0mm)まで伸ばした状態で固定する。常温(23℃)で1時間放置後、塗膜の亀裂、割れおよび剥離の有無を目視で観察し次の基準で評価した。
○:亀裂、割れおよび剥離がない。
△:亀裂、割れおよび剥離のいずれかが若干ある。
×:亀裂、割れおよび剥離のいずれかが著しい。
【0065】
(4)塗膜形成性試験
上記(1)で得られた基材に塗料を膜厚約200μmとなるようにエアーガンにより噴射して塗布する。常温(23℃)で3時間の乾燥の後、噴射粒子の均一性および塗膜の均一性を目視で観察し次の基準で評価した。
○:噴射粒子が均一でありかつ塗膜が均一である。
△:噴射粒子がやや不均一である及び/又は塗膜がやや不均一である。
×:噴射粒子が著しく不均一である及び/又は塗膜が著しく不均一である。
【0066】
塗料組成物のための原料
成分(a):
成分(a−1):H1651(商標;クレイトンジャパン社製)、直鎖SEBS(スチレン−エチレン・ブテン−スチレンブロック共重合体)、比重0.92 芳香族ビニル化合物含有率33重量%、重量平均分子量13万
成分(a−2):セプトン4033(商標;株式会社クラレ社製)、SEEPS(スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体)、比重0.91、芳香族ビニル化合物含有率30重量%、重量平均分子量13万
成分(a−3):ダイナロン1320P(商標;JSR社製)、水素添加SBR(水素添加スチレン・ブタジエンランダム共重合体)、数平均分子量30万、Mw/Mw=1.1、芳香族ビニル化合物含有率10%
成分(a−4)(比較用):ダイナロン6200P(JSR製)、CEBC(結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン−ブテンブロックを有するブロック重合体)、スチレン含有量0%
【0067】
成分(b):
成分(b−1):セプトン2104(商標;株式会社クラレ社製)、SEPS(スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体)、比重0.98、芳香族ビニル化合物含有率65重量%、重量平均分子量9万
成分(b−2):セプトン1050(商標;株式会社クラレ社製)、SEP(スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体)、比重0.94、芳香族ビニル化合物含有率50重量%、重量平均分子量15万
成分(b−3)(比較用):セプトン2007(商標;株式会社クラレ社製)、SEPS(スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体)、比重0.92 芳香族ビニル化合物含有率30重量%、重量平均分子量9万
成分(b−4)(比較用):G200(商標;東洋スチレン株式会社社製)、PS(ポリスチレン)、MFR8.5(230℃×2.16kg)10dg/分、比重1.05、曲げ弾性率3330MPa
【0068】
成分(c):
成分(c−1):キシロール(ジメチルベンゼン)、ゴードー溶剤株式会社製、密度(20℃)0.8802、融点−25.23℃、沸点144.4℃
成分(c−2):ヘキサヒドロベンゼン(シクロヘキサン)、和光純薬工業株式会社製、比重(20℃)0.78、平均分子量84.16、沸点(℃)80.74
【0069】
成分(d):
成分(d−1)テルペン樹脂水素添加誘導体:クリアロンP−125(商標;ヤスハラケミカル株式会社製)、軟化温度125℃、ガラス転移点温度68℃
成分(d−2)石油樹脂水素添加誘導体:アイマーブP−140(商標;出光石油化学社製)、軟化温度140℃、平均分子量910、密度1.03
【0070】
実施例1〜10および比較例1〜6
表2および3に示す成分を遊星式撹拌・脱泡装置を用いて常温(23℃)にて溶解混合することにより、実施例1〜10および比較例1〜6の塗料組成物を製造した。また、得られた塗料組成物を用いて上記(2)〜(4)の評価試験を行った。結果を表2および3に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
表2から明らかなように、本発明に従う塗料組成物は、軟質基材に塗布したとき、塗膜の優れた密着性、柔軟性および均一性(塗膜形成性)を有する。
【0074】
一方、表3から明らかなように、成分(b)を用いないで2種類の成分(a)を用いた(すなわち、成分(b)の芳香族ビニル化合物含有率が本発明の下限に満たない)比較例1の組成物および成分(b)の配合量が本発明の下限に満たない比較例2の組成物は塗膜形成性が著しく悪化し、均一な塗膜が得られなかった。成分(b)の配合量が本発明の上限を超える比較例3の組成物は密着性と柔軟性が悪化し、塗膜にヒビが生じた。成分(b)の芳香族ビニル化合物含有率が本発明の上限を超える比較例4の組成物および成分(a)を用いないで2種類の成分(b)を用いた(すなわち、成分(a)の芳香族ビニル化合物含有率が本発明の上限を超える)比較例5の組成物は、密着性と柔軟性が悪化し、塗膜にヒビが生じた。比較例6の組成物は、成分(a)として、芳香族ビニル化合物含有率が0重量%である共重合体水素添加物を使用した例である。この組成物は、流動性が低下して塗膜形成性が悪化し、均一な塗膜が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の塗料組成物は、エラストマーまたはゴムを含む軟質基材の表面に良好に塗布することができ、擬似餌や玩具等における基材表面への塗料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】従来の塗料を軟質基材の表面に施与したものを伸ばしたときの状態を示す写真である。
【図2】本発明の塗料を軟質基材の表面に施与したものを伸ばしたときの状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ビニル化合物含有率が45重量%未満である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物100重量部、および
(b)芳香族ビニル化合物含有率が45〜80重量%である、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物10〜60重量部
を塗膜成分として含む塗料組成物。
【請求項2】
(c)有機溶剤400〜1500重量部
をさらに含有することを特徴とする請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
(d)テルペン樹脂水素添加誘導体、石油樹脂及び石油樹脂水素添加誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種0〜40重量部
をさらに含有することを特徴とする請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
成分(a)及び成分(b)の共重合体の各々がブロック共重合体又はランダム共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
成分(c)が芳香族系有機溶剤、脂肪族系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、パラフィン系溶剤および石油系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
伸び率(JIS K 6251引張試験に準じる)が200%以上である、エラストマーまたはゴムを含む基材の表面に、成分(a)および(b)を含む塗膜を有する物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−153999(P2007−153999A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349701(P2005−349701)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】