説明

塗料組成物

【課題】水系塗料からなる塗膜において屋外に曝露された際、大気中の塵芥や油性物質の吸着による塗膜表面の汚染が少なく、特に塗膜形成直後からの汚染防止が可能となり、降雨後の雨筋跡が残り難い耐汚染性が長期にわたり良好で、かつ塗液の保存安定性が良好な塗料用組成物を提供する。
【解決手段】(A)α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体Aと(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物B及び(C)水分散コロイダルシリカCを含むことを特徴とする塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築内装材や外装材等に用いられる塗料組成物に関するものである。詳しくは、塗膜形成直後から塗膜表面を親水化して水濡れ性を良くし、雨水が塗膜と汚染物質との界面に浸透して汚染物質を洗い流す機能を発現させることが出来、耐汚染性とその効果持続性に優れた塗膜を形成可能な塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物を保護し、かつその外観を良くするために塗料が塗装される。従来から有機溶剤希釈型塗料が多く用いられてきたが、シックハウス症候群やVOC規制に見られるような大気中への有機溶媒の放散等の環境問題等が提起され、水性塗料への転換が加速度的に進行している。また一方で、消費者ニーズはこれらの商品の塗膜の長期耐久性・高機能化への期待感の高まりも見せている。
【0003】
建築材料等の塗膜に大気中の塵芥や油性物質、排気ガス中に含まれるカーボン等の非極性の汚染物質が付着、蓄積した場合、雨水によって流去せずに蓄積し、汚れの状態が不均一で目立ち易くなる。通常この雨筋汚染を防ぐには、塗膜表面の親水性を高めることによって雨水を汚染物質と塗膜面との界面に介入させ、汚染物質を流去させる手法が用いられている。溶剤系塗料においては、アルコキシシランを塗膜表面に配位させ、経時的に加水分解することによって塗膜表面を親水化させる技術が提案されている。この技術の課題は、塗膜形成直後の1ヶ月間前後の気象条件により、加水分解の程度が左右されるため、とくに乾燥した条件が続くことで加水分解が遅れ、塗膜が汚れてしまうという点である。
【0004】
水系塗料においては、特定の溶剤を水性エマルションへ添加することによって塗膜の水接触角を低下させる方法が提案されている(特許文献1)が、その効果は十分ではなく、また長期に渡って効果を持続させることが困難であった。
【0005】
特許文献2では、特定のブロックコポリマーの架橋剤とジヒドラジド化合物架橋剤を併用し、ポリカルボニル化合物との架橋塗膜形成によって汚染を低減できることが提案されているが、耐水性が十分なものではなく、持続性にも劣っていた。
【0006】
特許文献3では、無機質充填剤を含有するコロイダルシリカ水分散体無機塗料の塗膜上にアクリル系樹脂とコロイダルシリカの混合物を上塗りする方法が提案されているが、十分な汚染性が得られなかった。
【0007】
特許文献4においては、エマルションにコロイダルシリカをコールドブレンドすることにより、塗膜表面を親水化させる方法が提案されているが、アクリル系樹脂エマルションの固形分30〜400重量部に対して必要とされるコロイダルシリカの量が100重量部と非常に多く、効果の持続性にも劣るものであった。
【0008】
特許文献5においても、含フッ素系重合体粒子とコロイダルシリカ、オルガノアルコキシシランを用いて汚染除去性に優れた塗膜を形成する方法が提案されているが、含フッ素重合体粒子の固形分100重量部に対して、50〜300重量部と非常に多い量のコロイダルシリカを必要とするものであった。
【0009】
特許文献6では、コロイダルシリカをビニル重合体で覆ったエマルションを形成して、固形分濃度が高く、成膜性に優れた塗膜を形成する方法が提案されているが、コロイダルシリカの表面はビニル重合体で覆われているために汚染の付着防止性に劣っていた。
【特許文献1】特開平10−46099号公報
【特許文献2】特開平10−298489号公報
【特許文献3】特開昭54−139938号公報
【特許文献4】特開平11−116885号公報
【特許文献5】特開平11−124534号公報
【特許文献6】特開2000−290464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の様な課題を解決することであり、水系塗料からなる塗膜において屋外に曝露された際、大気中の塵芥や油性物質の吸着による塗膜表面の汚染が少なく、特に塗膜形成直後からの汚染防止が可能となり、降雨後の雨筋跡が残り難い耐汚染性が長期にわたり良好で、かつ塗液の保存安定性が良好な塗料用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従って、(A)α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体と
(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物及び
(C)水分散コロイダルシリカ
を含むことを特徴とする塗料組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によって、水系塗料を用いることにより長期にわたり耐汚染性が良好で耐水性に優れた塗膜を形成することができる低汚染性水性被覆組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明者等は、上記の目的を達成するために種々の研究を重ねた結果、(A)α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体と(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物及び(C)水分散コロイダルシリカとを含有することを特徴とする組成物を塗料等に用いると長期にわたり耐汚染性が良好で耐水性に優れた塗膜を形成することができることを見出した。
【0015】
本発明の詳細なメカニズムは未だ解明されていないが、本発明者らは以下のように考えている。図1を用いて説明すると、(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドを基本骨格とする水性樹脂組成物は、ポリエチレンオキサイドが親水性を有し、ポリアルキレンオキサイドが疎水性を有する両親媒性物質であることから、ポリアルキレンオキサイドが(A)の水性樹脂分散体表面の疎水部に吸着し、かつポリエチレンオキサイド部に(C)の水分散コロイダルシリカが吸着するものと考えられる。すなわち、(B)の水性樹脂組成物が(A)の水性樹脂分散体と(C)の水分散コロイダルシリカを繋ぐ働きをすることで、(A)の水性樹脂分散体表面に(C)の水分散コロイダルシリカが吸着し、塗膜形成後も、塗膜最表面に水分散コロイダルシリカが効果的に配向した構造を形成することが可能になった。
【0016】
(A)水性樹脂分散体としては、水を媒体とし、α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂組成物であればよく、好ましくは下記の
(1)均一構造を有するエマルション、多段階乳化重合法によって得られる異相構造を有するエマルションの一方又は両方を含む水性樹脂分散体、
(2)有機溶剤媒体で重合及び/又は縮合されたアクリルやアルキド、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン等を水にて相転換及び強制乳化により得られる水性樹脂組成物、
が挙げられる。
【0017】
均一構造を有するエマルションは、緻密な塗膜形成が可能となり耐透水性やクリアー性に優れた塗膜を得ることができ、異相構造エマルションは異なるガラス転移温度の単量体を組み合わせること等により成膜性に優れ不粘着性等に優れた塗膜を得ることができる等、これらのエマルションを用いることにより、形成される塗膜特性の幅を広げることができる。
【0018】
有機溶剤媒体で重合及び又は縮合されたアクリルやアルキド、エポキシ、ポリエステル、ポリウレタン樹脂等を水にて相転換及び強制乳化により得られた水性樹脂組成物は、被塗物に対する密着性や強靱性に優れた塗膜を形成することが可能となる。
【0019】
(A)水性樹脂分散体に利用可能なα,β−エチレン性不飽和単量体としては、以下のような単量体が挙げられる。メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリレート系単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;
(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体;
(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、イタコン酸、;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;
(メタ)アクリルアミドや、マレインアミド等のアミド基含有単量体;
2−アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;
グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及び3−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;
その他、酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート
等が代表的なものとして挙げられる。
【0020】
更に、得られる塗膜の機能を向上させるために、架橋構造を導入することも可能である。一般的に架橋構造は、“粒子内部架橋構造”と“粒子間架橋構造”の2種に大別される。
【0021】
この“粒子内架橋構造”や“粒子間架橋構造”をエマルション粒子に組み込むことで、塗膜とした時の強靱性、耐ブロッキング性、不粘着性、耐溶剤性等の塗膜性能を大幅に向上させ得ることができる。
【0022】
粒子内・間架橋構造を得るための単量体の例を列挙すると、以下のようになる。
【0023】
粒子内架橋:分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体である。
【0024】
ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等を使用する方法や;
乳化重合反応時に温度にて相互に反応する官能基を持つ単量体を組み合わせて、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組み合わせの官能基を持つエチレン性不飽和単量体を選択含有させた単量体混合物を使用する方法;加水分解縮合反応する、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等、加水分解性シリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有させた単量体混合物を使用する方法
等の方法により製造させることができる。
【0025】
粒子間架橋:カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合させた後、分子中に2個以上のヒドラジド基を有する化合物を混合する方法が最も代表的な例として挙げられる。
【0026】
カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクロレインや、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチレン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアクリレート、ビニルエチルケトン、及びビニルイソブチルケトン等が挙げられる。特に、アクロレインや、ジアセトンアクリルアミド及びビニルメチルケトンが好ましい。
【0027】
上記カルボニル基の対となる、分子中に2個以上のヒドラジド基を有する化合物としては、例えば、カルボヒドラジドや、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、及びチオカルボジヒドラジド等が挙げられる。これらの中でも、エマルションへの分散性や耐水性のバランスからカルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド及びコハク酸ジヒドラジドが好ましい。
【0028】
また、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩又は、それらの共重合体を含む水溶性樹脂を用いることで、塗装作業性に優れた塗料の設計や、より親水性の高い塗膜の形成により耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。それらの水溶性樹脂の重量平均分子量は5,000〜100,000であることが好ましく、その重量平均分子量が5,000未満の時は塗膜の強靱性、耐候性が劣り易くなる。また、重量平均分子量が100,000を超える場合には高粘度になるために塗装作業性が悪くなり好ましくない。
【0029】
また、(A)α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体の他にウレタンディスパージョン等の水性樹脂分散体を用いることで、塗膜の耐水性、ブロッキング性を向上させることができる。これによって塗膜形成後の耐汚染性の維持性がより良好になる。
【0030】
更に、得られる塗膜の耐候性・耐光性を向上させるために、重合性光安定性単量体や重合性紫外線吸収性単量体を組み込むことも可能である。
【0031】
重合性光安定性単量体は、具体的に例えば、
4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、
4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、
4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び
1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
等が挙げられる。
【0032】
重合性紫外線吸収性単量体としては、具体的に例えば、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシヘキシル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチル−3’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、及び
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−ニトロ−2H−ベンゾトリアゾール
等が挙げられる。
【0033】
もちろん、非反応型の光安定剤や紫外線吸収剤を重合時に併用することも可能である。
【0034】
本発明の組成物において上記α,β−エチレン性不飽和単量体を重合する際に用いられる重合開始剤としては、従来から一般的にラジカル重合に使用されているものが使用可能である。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ハイドロクロライドや、4,4’−アゾビス−シアノバレリックアシッド、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレート等のアゾ系化合物;過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。更に、L−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤と、硫酸第一鉄等を組み合わせたレドックス系も使用できる。
【0035】
また、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンや、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、及びα−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を使用することもできる。これらを適宜使用することによって、塗膜の光沢や、成膜性、不粘着性を制御することができる。
【0036】
(A)水性樹脂分散体が乳化重合で得られる場合には、一般的に乳化重合で使用される界面活性剤を乳化剤として使用することができる。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリエチレンオキサイドアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドグリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレンオキサイドアルキルエーテルや、ポリエチレンオキサイドノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレンオキサイド脂肪酸エステル、又は前述の骨格と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩や、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
pH調整剤としては、従来から中和剤として公知の各種含窒素塩基性化合物が特に制限なく利用できる。具体的には、例えば、トリメチルアミンや、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン等のアルコールアミン類、モルホリン、アンモニア等の揮発性含窒素塩基性化合物が代表的なものとして挙げられる。これらのうち1種又は2種以上のpH調整剤を併用しても構わない。
【0038】
また、3−アミノプロピルトリメトキシシランや、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−シクロへキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランも中和剤の一部として併用可能である。
【0039】
(B)水性樹脂組成物のポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)は、中心部に疎水基であるポリアルキレンオキサイドを持ち、両末端に親水基であるポリエチレンオキサイドを有する。
【0040】
そのため、疎水基であるポリアルキレンオキサイドは(A)水性樹脂分散体の表面との相互作用を生じ、両末端のポリエチレンオキサイドは(C)水分散コロイダルシリカの表面と相互作用を生じる。これにより、(A)水性樹脂分散体の表面に(C)水分散コロイダルシリカが配向した構造を形成することができる。(B)水性樹脂組成物の分子量は、1000〜10000が好ましく、より好ましくは1500〜8000である。
【0041】
(B)水性樹脂組成物に占めるポリエチレンオキサイドの割合は5〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量%である。(B)水性樹脂組成物に占めるポリエチレンオキサイドの割合が5重量%未満の場合は、疎水性が高くなり、ポリエチレンオキサイドの鎖長が短くなるかあるいは曇点が室温付近まで低下するために実用性に欠ける。また、(B)水性樹脂組成物に占めるポリエチレンオキサイドの割合が80重量%を超える場合は、親水性が高くなり、塗膜の耐水性が低下する。
【0042】
(B)水性樹脂組成物を含む割合は、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.1〜15重量%が好ましく、特に好ましくは0.5〜10重量%である。(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.1重量%未満である場合は水分散コロイダルシリカを引きつける箇所が少ないために耐汚染性の効果が劣り、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で15重量%超過の場合には、塗膜にした場合の耐水性が低下する。
【0043】
また、(B)水性樹脂組成物を加温すると、結合した水分子が次第に脱離し、徐々に親水性が低下する。やがて水中に溶解出来ずに析出する。このときの温度を曇点と呼ぶ。本発明において、(B)水性樹脂組成物の曇点は20℃〜90℃が好ましく、より好ましくは20℃〜50℃である。曇点が20℃未満の場合には、室温での使用が困難なうえに、ポリエチレンオキサイド鎖が短くなり、塗料化後の安定性に欠ける傾向にある。曇点が90℃超過の場合には、ポリエチレンオキサイドの割合が高く、鎖長が長くなるために塗膜にした場合の耐水性が低下し易くなる。
【0044】
(B)水性樹脂組成物の具体例として、
(株)ADEKA製のプルロニックL−31、F−38、L−42、L−43、L−44、L−61、L−62、L−63、L−64、P−65、F−68、L−72、P−75、F−77、L−81、P−84、P−85、F−87、F−88、L−92、P−94、F−98、L−101、P−103、P−104、P−105、F−108、L−121、L−122、P−123、F−127や、
三洋化成工業(株)製のニューポールPE−61、PE−62.PE―64、PE−68、PE−71、PE−74、PE−75、PE−78、PE−108、PE−128や、
第一工業製薬(株)製のエバン410、420、450、485、610、680、710、720、740、750、785、U−103、U−105、U−108や、
日油(株)製のプロノン#102、#104、#201、#202B、#204、#208、ユニルーブ70DP−600B、70DP−950B
等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上の(B)水性樹脂組成物を併用しても構わない。
【0045】
本発明に用いられる(C)水分散コロイダルシリカの形状には、球状、鎖状、棒状、パールスライク状のものや異形状のもの等もあるが、本発明ではこれらを使用することも可能であり、好ましくは鎖状、棒状、パールスライク状である。水分散コロイダルシリカの形状や平均粒子径は、電子顕微鏡による観察で確認することができる。また、水分散コロイダルシリカの平均粒子径は特に限定しないが、好ましくは0.1〜100nmであり、より好ましくは4〜30nmである。水分散コロイダルシリカの平均粒子径が100nmより大きくなると、沈降し易くなるので、貯蔵安定性が低下する。一方平均粒子径の下限を0.1nmとしたのは、現在容易に入手可能な平均粒子径を示したのであって、0.1nm未満となると非常に高価で入手困難になり使用用途が狭まってしまう。また、(C)水分散コロイダルシリカのpHが8.4〜11.5であることが好ましい。水分散コロイダルシリカのpHが8.4未満の場合、アルカリ性の塗料組成物では系が不安定になる。またpHが11.5超過の場合は塗料組成物中の水分散コロイダルシリカの分散安定性が劣る。
【0046】
水分散型コロイダルシリカの具体例としては、例えば、
日産化学工業(株)製のスノーテックスST−20、ST−O、ST−C、ST−S、ST−N、ST−20L、ST−AK、ST−UP、ST−ZLや、
(株)ADEKA製のアデライトAT−20、AT−30、AT−20N、AT−30N、AT−20A、AT−20S、AT−20Q、AT−30A、AT−30S、AT−40、AT−50、AT−300や、
触媒化成工業(株)製のカタロイドS−20H、カタロイドS−30、カタロイドS−30H、カタロイドSI−500、カタロイドSN、カタロイドSAや、
日本化学工業(株)製のシリカドール30、シリカドール20、シリカドール20A、シリカドール20Bや、
クラリアントジャパン(株)製のクレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50、
デュポン社製のルドックスHS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30、ルドックスAS、ルドックスAM
等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上の水分散型コロイダルシリカを併用しても構わない。
【0047】
(C)水分散コロイダルシリカを含む割合は、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.5〜20重量%が好ましく、特に好ましくは3〜15重量%ある。(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.5重量%未満である場合は耐汚染性の効果が劣り、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で20重量%超過の場合、塗膜が硬く脆くなり、更に塗膜内がポーラスになり易く耐水性が劣る傾向がある。また、(C)水分散コロイダルシリカを含む割合が、(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物に対して固形分基準で0.5〜200重量%が好ましく、(B)水性樹脂組成物に対して固形分基準で0.5重量%未満である場合は耐汚染性の効果が劣り、(B)水性樹脂組成物に対して固形分基準で200重量%を超えると塗膜が剛直になり、耐水性が劣る。
【0048】
また、更に下記一般式(a)で表される(D)加水分解性シランを含有すると、塗膜形成後の(C)水分散コロイダルシリカの雨水による流出が抑制されるために耐汚染性の維持性がより良好になり、更に塗膜強度が向上されて、耐久性、硬度、耐熱性が向上する。
【0049】
(R−Si−(R4−n (a)
式(a)中、nは0〜3の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、又は炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基から選ばれる。n個のRは同一であっても、異なってもよい。Rは炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基又は水酸基から選ばれる。(4−n)個のRは同一であっても、異なってもよい。
【0050】
(D)加水分解性シランの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等がある。
【0051】
(D)加水分解性シランを含む割合は、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.05〜5重量%であることが好ましく、特に0.1〜1重量%であることが好ましい。(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で0.05重量%未満である場合は(D)加水分解性シランを含むことで得られる耐汚染性の維持効果が薄れる、(A)水性樹脂分散体に対して固形分基準で5重量%を超える場合には塗料の貯蔵安定性が低下する。
【0052】
上記のように得た(A)水性樹脂分散体と(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物及び(C)水分散コロイダルシリカを含む水性被覆組成物を、ガラス基板上に塗装し、温度10℃〜200℃で2分〜10日間乾燥させた塗膜を用い、静的表面接触角計CA−X型(協和界面科学社製)で測定した塗膜表面の純水との接触角が、75°以下であることが塗膜の耐汚染性に優れるため好ましく、更には60°以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明の組成物の用途は、建築内装材や外装材等に用いられる水性塗料用として用いることが好ましい。塗料として使用する場合には、組成物だけをクリアー塗料として使用可能であるが、一般的に使用されるベンガラ、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の着色顔料や、炭酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の体質顔料、更には、光触媒活性を有する酸化チタン、シミ止め・吸着機能を有するフライポンタイト、活性亜鉛華、珪酸マグネシウム等の機能性顔料も添加することが可能である。塗料としての各種機能を付与させるためには、増粘剤や、分散剤、沈降防止剤や、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜添加してもよい。
【0054】
この様にして得られた組成物は、各種無機質素材や金属素材、木材素材、プラスチック素材等に適用でき、自然乾燥、若しくは、50℃以上の温度で強制乾燥させることにより優れた塗膜を形成することが可能である。また、成膜に際しては、成膜温度を下げる目的で、エチレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等の有機溶剤(造膜助剤)を任意に添加することも可能である。
【0055】
本発明の組成物を用いることで、長期にわたり耐汚染性が良好で、耐水性に優れる塗膜を有する被覆物が提供できる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準で示す。
【0057】
(水性樹脂分散体A1の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水250部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:ニューコール707SF、非反応性アニオン乳化剤、日本乳化剤(株)製)10部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0058】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル180部、アクリル酸ブチル120部、メタクリル酸シクロヘキシル92部、メタクリル酸8部、ニューコール707SF16部、水300部をディスパーで乳化攪拌して得られた乳化混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で1時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、均一構造を有するエマルション粒子が分散した固形分42%の水性樹脂分散体A1を得た。
【0059】
(水性樹脂分散体A2の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水250部、ニューコール707SF 10部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0060】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル172部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、メタクリル酸8部、ニューコール707SF10部、水140部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。次いで、メタクリル酸メチル50部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学(株)製)10部、ニューコール707SF10部、脱イオン水140部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、多段階乳化重合法による異相構造エマルション粒子が分散した固形分43%の水性樹脂分散体A2を得た。
【0061】
(水性樹脂分散体A3の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水250部、α−スルホナト−ω−(1−(アリルオキシメチル−アルキルオキシポリオキシエチレンアンモニウム塩(商品名:アクアロンKH−10、反応性アニオン乳化剤、エチレンオキシド平均付加モル数10モル、第一工業製薬(株)製)2部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0062】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル115部、アクリル酸ブチル45部、メタクリル酸ブチル30部、グリシジルメタクリレート4部、アクリル酸5部、アクアロンKH−10 4部、水150部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。次いで、メタクリル酸メチル70部、アクリル酸2−エチルヘキシル40部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、ダイアセトンアクリルアミド40部、アクアロンKH−10 4部、脱イオン水150部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、アジピン酸ジヒドラジド12部を添加して更に30分間撹拌させて溶解し、多段階乳化重合法による異相構造エマルション粒子が分散した固形分43%の水性樹脂分散体A3を得た。
【0063】
(水性樹脂分散体A4の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水250部、α−スルホナト−ω−(1−(アリルオキシメチル−アルキルオキシポリオキシエチレンアンモニウム塩(商品名:アクアロンKH−10、反応性アニオン乳化剤、エチレンオキシド平均付加モル数10モル、第一工業製薬(株)製)2部、α−(1−(アリルオキシ)メチル−2−(ノニルフェノキシ)エチル)ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−30、反応性ノニオン乳化剤、エチレンオキシド平均付加モル数30モル、ADEKA(株)製)4部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0064】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル100部、アクリル酸ブチル40部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5部、アクリル酸5部、アクアロンKH−10 4部、水150部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。次いで、メタクリル酸メチル71部、アクリル酸2−エチルヘキシル75部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4部、アクアロンKH−10 4部、脱イオン水150部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、多段階乳化重合法による異相構造エマルション粒子が分散した固形分43%の水性樹脂分散体A4を得た。
【0065】
(水性樹脂分散体A5の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イソプロパノール170部を仕込み、窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)3部を加え、メタクリル酸メチル148部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部、メタクリル酸シクロヘキシル80部、メタクリル酸ヒドロキシエチル5部、アクリル酸17部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で4時間撹拌を続けながら熟成し、50℃に冷却後、N,N−ジメチルエタノールアミン10部と脱イオン水490部を添加した。次いで、還流冷却器及び撹拌機を備えた反応器を用いて、減圧〔1.3×10Pa(100トール)〕下、脱溶剤を行った後、水で固形分35%になるように希釈調整を行い、相転換法によって固形分40%の水性樹脂分散体A5を得た。
【0066】
(実施例1〜22及び比較例1〜6)
表1〜表3に示すように実施例1〜22及び比較例1〜6の試験塗料を作製した。脱イオン水を12部、顔料として酸化チタン(商品名:タイペークCR−90、石原産業(株)製)を20部、添加剤としてノニオン性界面活性剤(商品名:Disperbyk−190、ビックケミージャパン(株)製)を0.2部加えて混合した中に、(A)水性樹脂分散体、予め20重量%濃度にイオン交換水で希釈しておいた(B)水性樹脂組成物水溶液、(C)水分散コロイダルシリカを加え、ウレタン系増粘剤(商品名:プライマルRM−8W、ローム・アンド・ハース(株)製)を2部、シリコーン系消泡剤(商品名:SNデフォーマー1312、サンノプコ(株)製)を0.4部、エチレングリコールを2部添加して各塗料を作製し、以下のように各種性能評価を行った。
【0067】
<接触角>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料をガラス板に6milアプリケーターで塗布し、60℃で2時間乾燥した後に室温で1日乾燥させた。協和界面科学製FACE接触角計CA−X型を使用して純水との静的接触角を測定し、結果を表1〜表3に示した。
【0068】
<耐雨筋汚染性>
白色塗料を塗装したスレート板(寸法10cm×30cm×厚さ5mm)に上記実施例1〜22及び比較例1〜6の各塗料に適宜成膜助剤を添加したものをスプレー塗装し、60℃で2時間乾燥させた。これを10日間養生した後に、水平面に対して10度に傾斜し、かつ長さ30cmで深さ3mmの溝が3mmピッチで刻まれた屋根を有する架台に、屋根に降った雨が塗膜の表面に筋状に流れ落ちるように南向きに垂直に取り付け、その状態で1ヶ月、6ヶ月、12ヶ月暴露した後、塗膜の外観を未試験の塗膜と比較して汚染状態を目視観察した。結果を表1〜表3に示した。
[評価基準]
◎:汚れが全く付着しておらず、試験開始時と同等の状態を維持している。
○:わずかな汚れはあるが、雨筋はほとんど確認されない。
△:局所的な汚れがあり、雨筋がうっすらと確認される。
×:全面にかなりの汚れがあり、雨筋がしっかりと確認される。
【0069】
<耐水性>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料をガラス板上に6milアプリケーターで塗装し、50℃で6時間乾燥後、室温で一日養生した。その後、試験板を23℃の水に1週間浸し、乾燥後の塗膜の白化度合いを目視で判定した。
[評価基準]
◎:塗膜の変色が全くない。
○:塗膜の変色がほとんどない、若しくは、やや青みがかった透明である。
△:塗膜が局所的に白化している。
×:塗膜が全体に白化している。
【0070】
<耐温水白化性>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料を黒板上に6milアプリケーターで塗装し、50℃で6時間乾燥後、室温で一日養生した。その後、試験板を60℃温水に24時間浸し、乾燥後の塗膜の白化度合いを目視で判定した。
[評価基準]
◎:塗膜の変色が全くない。
○:塗膜の変色がない、若しくは、やや青みがかった透明である。
△:塗膜が局所的に白化している。
×:塗膜が全体に白化している。
【0071】
<溶出性>
各試験塗料をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板に6milアプリケーターで塗装し、70℃で2時間乾燥した後に室温で1日乾燥させた。作製した膜を剥がして、10cm×10cmの正方形に裁断し膜重量を測定したのちに23℃のイオン交換水に24時間浸漬した。取り出した膜を23℃で減圧乾燥し、下記一般式にて塗膜からの水への溶出率を算出した;
溶出率(%)={1−(浸漬後の皮膜絶乾重量)/(浸漬前の皮膜絶乾重量)}×100
[評価基準]
◎:溶出率1%未満(塗膜の劣化が全くなく、試験開始時の状態が維持されている)
○:溶出率1%以上2%未満(塗膜の劣化がほとんどなく、艶も維持されている)
△:溶出率2%以上5%未満(塗膜表面が若干洗い流され、艶が一部低下する)
×:溶出率5%以上(塗膜表面が脆弱化し、艶が全体的に低下する)
【0072】
<貯蔵安定性>
上記実施例1〜22及び比較例1〜6の各塗料を各々100mlガラス製サンプル瓶に入れ、密栓した状態で50℃恒温室に1ヶ月間貯蔵し、その状態を以下のように評価した。
【0073】
[評価基準]
○:試験前と同じ状態であり、変化なし。
△:目視で沈殿ブツは確認されないが、塗装したときの外観に差を生じる。
×:目視で沈殿ブツが確認された。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
*1 ADEKA(株)製界面活性剤(ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド),平均分子量2500,EO20%、曇点32℃
*2 ADEKA(株)製界面活性剤(ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド),平均分子量2900,EO40%、曇点58℃
*3 ADEKA(株)製界面活性剤(ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド),平均分子量8350,EO80%、曇点100℃以上
*4 ADEKA(株)製界面活性剤(ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド),平均分子量10800,EO80%、曇点100℃以上
*5 日油(株)製界面活性剤(ポリエチレンオキサイド−ポリブチレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド),平均分子量3300,EO40%
*6 花王(株)製界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
*7 花王(株)製界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタントリオレート)
*8 球状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:30%、粒子径:8〜11nm、pH9.5〜10.5、Na安定型
*9 球状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:20%、粒子径:10〜20nm、pH9.5〜10.0、Na安定型
*10 球状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:20%、粒子径:10〜20nm、pH8.5〜9.0、pH安定型
*11 球状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:20%、粒子径:10〜20nm、pH9.0〜10.0、Na安定型
*12 鎖状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:19%、粒子径:10〜18nmの粒子が80〜120nmに結合、pH9.5〜11.0、Na安定型
*13 棒状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:20%、粒子径:40〜100nm、pH9.0〜10.5、Na安定型
*14 球状コロイダルシリカ、日産化学工業(株)製、固形分SiO:40%、粒子径:200nm、pH8.0〜10.0、Na安定型
*15 三井武田ケミカル(株)製ウレタンディスパージョン、NV35%
*16 酸化チタン、石原産業(株)製
*17 ノニオン性界面活性剤、ビックケミージャパン(株)製
*18 ウレタン系増粘剤、ローム・アンド・ハース(株)製
*19 シリコーン系消泡剤、サンノプコ(株)製
【0078】
表1〜表3から明らかな通り、本発明の塗料組成物は、耐汚染性とその維持性に優れ、耐水性、耐温水白化性も良好であった。比較例1の一般的なアクリルエマルションのみの塗膜は接触角が高く、濡れ性が悪いために汚染が付着しやすく、最も雨筋汚染性に劣っていた。比較例2の(C)水分散コロイダルシリカを含有しない場合、比較例3及び4の(B)水性樹脂組成物を含有しない場合にも、塗膜表面の親水性が向上しないために、汚染物質が付着したまま流去されず、耐雨筋汚染性に劣っていた。比較例4は(C)水分散コロイダルシリカ量が多いために初期の雨筋汚染性は比較的良好であったが、塗膜内の水分散コロイダルシリカ量が多いために耐水性、溶出率に劣った。(B)水性樹脂組成物の代わりに一般的なノニオン性界面活性剤を配合した比較例5、6においても、濡れ性が向上せず、雨筋汚染性が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の樹脂組成物を模式的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)α,β−エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体と
(B)ポリエチレンオキサイド−ポリアルキレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物及び
(C)水分散コロイダルシリカ
を含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記(A)水性樹脂分散体に対して、(B)水性樹脂組成物を含む割合が、固形分基準で0.1〜15重量%であり、(C)水分散コロイダルシリカを含む割合が、固形分基準で0.5%〜20重量%であり、かつ(C)/(B)の重量比が0.5〜200重量%である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記(B)水性樹脂組成物が、20℃〜90℃の曇点を有する請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記(C)水分散コロイダルシリカのシリカ成分が鎖状、棒状及びパールスライク状の群から選択されるものであり、該水分散コロイダルシリカのpHが8.4〜11.5である請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
更に、下記一般式(a)で表される(D)加水分解性シランを含む請求項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
(R−Si−(R4−n (a)
(式(a)中、nは0〜3の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、又は炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基から選ばれる。n個のRは同一であっても、異なってもよい。Rは炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基又は水酸基から選ばれる。(4−n)個のRは同一であっても、異なってもよい。)

【図1】
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【公開番号】特開2010−70607(P2010−70607A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237910(P2008−237910)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】