説明

塗料組成物

【課題】塗膜表面を研磨した場合に、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
基体樹脂と、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、光触媒粒子とを含有することにより、塗膜表面を研磨したときに、塗膜内部の光触媒粒子が研磨面から露出され、露出された光触媒粒子の防汚効果によって、塗膜の防汚性を維持し、塗膜の防汚性が低下することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、詳しくは、自動車用上塗り塗料として好適である塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体鋼板の表面には、順次、下塗り塗膜、中塗り塗膜、カラーベース塗膜、上塗り塗膜が形成されている。
なかでも、上塗り塗膜は、車体表面に光沢を付与するとともに、車体表面に耐候性、防汚性などを付与して車体表面を保護する。
このような上塗り塗膜を形成するための塗料として、例えば、硬化性樹脂にテトラメチルシリケートやテトラエチルシリケートを配合した自動車上塗り塗料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この自動車上塗り塗料では、テトラメチルシリケートやテトラエチルシリケートがメトキシ基やエトキシ基などのアルコキシ基を有している。そのため、この自動車上塗り塗料により形成された塗膜の表面では、アルコキシ基が加水分解されることにより、親水性のシラノール基(SiOH)が生成される。シラノール基の親水性により、親油性(疎水性)の汚れが塗膜表面に付着することを防止し、さらに、汚れが付着したとしても、水洗いなどの簡易な洗浄方法で、汚れを容易に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−140077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に記載の自動車上塗り塗料では、塗膜の内部において、縮合によりシロキサン結合(Si−O−Si)が形成されている。そのため、塗膜の内部では、アルコキシ基は、ほとんど消費されている。
そのため、塗膜表面に傷がついた場合などに、傷を除去するために塗膜表面を研磨すると、シラノール基を有する塗膜表面が削り取られてしまい、塗膜の親水性が低下する。
【0006】
塗膜の親水性が低下すると、親油性の汚れが容易に塗膜表面に付着し、さらに、付着した汚れを除去することが困難になる。
その結果、塗膜表面を研磨することによって、塗膜の防汚性が低下するという不具合がある。
そこで、本発明の目的は、塗膜表面を研磨した場合に、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、塗料組成物であって、基体樹脂と、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、光触媒粒子とを含有することを特徴としている。
また、本発明は、前記光触媒粒子は、基体樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部の割合で配合されていることが好適である。
【0008】
また、本発明は、さらに、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂を含有することが好適である。
また、本発明は、塗料組成物であって、基体樹脂と、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂とを含有することを特徴としている。
【0009】
また、本発明は、前記高極性樹脂のSP値は、12.0以上であることが好適である。
また、本発明は、前記低極性溶媒のSP値は、7.0〜9.5であることが好適である。
また、本発明は、前記高極性樹脂のSP値は、前記低極性溶媒のSP値よりも大きく、その差は、3〜5であることが好適である。
【0010】
また、本発明は、前記高極性樹脂は、前記基体樹脂100重量部に対して、10〜70重量部の割合で配合されていることが好適である。
また、本発明は、前記高極性樹脂は、水酸基および/またはシラノール基を有するデンドリックポリマー、または、ポリアクリル酸であることが好適である。
また、本発明は、前記基体樹脂は、アクリル樹脂またはアミノ樹脂であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基体樹脂と、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、光触媒粒子とを含有している。
そのため、塗膜が形成されたときには、塗膜表面に、親水性のシラノール基が配置され、親油性の汚れが塗膜表面に付着することを防止し、さらに、水洗いなどの簡易な洗浄方法で、汚れを容易に除去することができる。また、光触媒効果により油等の汚染物質の分解が見込める。
【0012】
一方、塗膜表面を研磨したときには、塗膜表面のシラノール基は削り取られるものの、塗膜内部の光触媒粒子が、研磨面から露出される。
その結果、研磨面においても、光触媒粒子の防汚効果(汚れの分解)により、塗膜の防汚性を維持することができ、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる。
また、本発明によれば、基体樹脂と、SiOR基含有化合物と、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂とを含有している。
【0013】
そのため、塗膜が形成されたときには、塗膜表面に、親水性のシラノール基が配置され、親油性の汚れが塗膜表面に付着することを防止し、さらに、水洗いなどの簡易な洗浄方法で、汚れを容易に除去することができる。
一方、塗膜表面を研磨したときには、塗膜表面のシラノール基は削り取られるものの、塗膜内部の高極性樹脂、および、高極性樹脂に取り込まれている保護されたシラノール基が、研磨面から露出される。
【0014】
その結果、研磨面においても、高極性樹脂、および、新たに表面に露出したシラノール基の親水性により、塗膜の防汚性を維持することができ、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.塗料組成物の配合
第1実施形態の塗料組成物は、有機溶媒と、必須成分として、基体樹脂、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物および光触媒粒子とを含有している。
有機溶媒は、低極性溶媒を含有している。
【0016】
低極性溶媒としては、例えば、n−ヘキサン(SP値:7.3)、酢酸ブチル(SP値:8.5)、トルエン(SP値:8.8)、キシレン(SP値:8.8)、酢酸エチル(SP値:9.0)、ベンゼン(SP値:9.2)、フタル酸ジブチル(SP値:9.4)などが挙げられる。
低極性溶媒のSP値は、例えば、7.0〜9.5、好ましくは、7.3〜8.8である。
【0017】
また、有機溶媒は、必要により、低極性溶媒とともに、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンなどの低沸点溶媒を含有することができる。
低沸点溶媒の沸点(at 1atm)は、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下である。また、低沸点溶媒を配合する場合には、低沸点溶媒は、低極性溶媒100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは、5〜20重量部の割合で配合される。低沸点溶媒を配合することにより、塗料組成物の速乾性を向上させることができる。
【0018】
有機溶媒は、塗料組成物100重量部中に、必須成分の残部として配合され、例えば、5〜95重量部、好ましくは、20〜60重量部の割合で配合される。
また、有機溶媒は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、10〜500重量部、好ましくは、50〜100重量部の割合で配合される。
基体樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、例えば、ウレタン樹脂、例えば、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂などが挙げられ、好ましくは、アミノ樹脂、アクリル樹脂が挙げられ、より好ましくは、メラミン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。メラミン樹脂、アクリル樹脂を配合することにより、塗膜に適度な硬度を付与することができる。また、メラミン樹脂を配合することにより、塗膜の熱硬化を促進し、塗膜に耐候性、耐溶剤性を付与することができる。また、アクリル樹脂を配合することにより、塗膜に透明性、耐候性、耐変色性、光沢を付与することができる。
【0019】
基体樹脂は、塗料組成物100重量部中に、例えば、10〜70重量部、好ましくは、20〜40重量部の割合で配合される。
SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物において、Rで示されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチルなどの炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基が挙げられ、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルなどの炭素数1〜3の直鎖または分岐アルキル基が挙げられる。
【0020】
SiOR基としては、例えば、シラノール基、例えば、メトキシシリル、エトキシシリル、n−プロポキシシリル、イソプロポキシシリル、n−ブトキシシリル、イソブトキシシリル、n−ペンチルオキシシリル、イソペンチルオキシシリル、n−ヘキシルオキシシリル、イソヘキシルオキシシリル、n−ヘプチルオキシシリル、イソヘプチルオキシシリル、n−オクチルオキシシリル、イソオクチルオキシシリルなどの炭素数1〜8の直鎖または分岐アルコキシシリル基などが挙げられ、好ましくは、シラノール基、メトキシシリル、エトキシシリル、n−プロポキシシリル、イソプロポキシシリルなどの炭素数1〜3の直鎖または分岐アルコキシシリル基が挙げられる。
【0021】
SiOR基含有化合物としては、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトライソプロピルシリケートなどのアルキルシリケート、例えば、上記したアルキルシリケートの縮合物であるポリアルキルシリケート、例えば、メトキシシリル基含有ジメチルポリシロキサン、エトキシシリル基含有ジメチルポリシロキサンなどのオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜3の直鎖または分岐アルコキシ基を有するアルキルシリケート、炭素数1〜3の直鎖または分岐アルコキシシリル基を有するポリアルキルシリケートが挙げられる。
【0022】
また、ポリアルキルシリケートの分子量(重量平均分子量)は、例えば、100〜100000、好ましくは、1000〜3000である。
また、SiOR基含有化合物としては、例えば、上記基体樹脂において例示したアクリル樹脂と同様のアクリル樹脂にSiOR基が導入されたシリケート変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂にSiOR基が導入されたシリケート変性エポキシ樹脂などのシリケート変性樹脂が挙げられる。すなわち、シリケート変性樹脂は、基体樹脂とSiOR基含有化合物とを併有する。
【0023】
SiOR基含有化合物は、塗料組成物100重量部中に、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは、1〜6重量部の割合で配合される。
また、SiOR基含有化合物は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは、5〜20重量部の割合で配合される。
光触媒粒子における光触媒としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe)などの金属酸化物が挙げられ、好ましくは、酸化チタンが挙げられ、より好ましくは、アナターゼ型酸化チタンが挙げられる。酸化チタンは、容易に入手することができるとともに、光触媒効果を安定して得ることができる。
【0024】
光触媒粒子は、塗料組成物100重量部中に、例えば、0.01〜2重量部、好ましくは、0.03〜1.5重量部の割合で配合される。
また、光触媒粒子は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、0.01〜5重量部、好ましくは、0.09〜4.6重量部の割合で配合される。
また、本発明の塗料組成物は、任意成分として、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂を含有していてもよい。
【0025】
高極性樹脂としては、例えば、水酸基および/またはシラノール基を有するデンドリックポリマー、ポリアクリル酸、ポリアミドなどが挙げられ、好ましくは、デンドリックポリマー、ポリアクリル酸が挙げられる。
デンドリックポリマーとしては、例えば、アダマンタンをコアとして、末端が水酸基で修飾されたデンドロンを有するデンドリックポリマーなどが挙げられる。具体的には、Adhesion Resin LTW(EVONIK INDUSTRIES社製)が挙げられる。
【0026】
高極性樹脂のSP値は、例えば、12.0以上、好ましくは、12〜15である。また、高極性樹脂のSP値は、低極性溶媒のSP値よりも大きく、その差は、例えば、2〜7、好ましくは、3〜5である。高極性樹脂が低極性溶媒に対する溶解性を有することにより、有機溶媒に低極性溶媒を用いることができ、塗料組成物の塗布効率を向上させることができる。
【0027】
高極性樹脂は、塗料組成物100重量部中に、例えば、5〜30重量部、好ましくは、10〜20重量部の割合で配合される。
また、高極性樹脂は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、10〜70重量部、好ましくは、30〜70重量部の割合で配合される。高極性樹脂の基体樹脂に対する割合が10未満であると、塗膜に親水性を付与する効果が低くなる場合がある。また、高極性樹脂の基体樹脂に対する割合が70を超過すると、塗膜の物性(耐候性、硬度など)が低下する場合がある。
【0028】
さらに、塗料組成物には、その目的、用途などに応じて、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤などを添加してもよい。
紫外線吸収剤としては、例えば、光触媒活性を示さない酸化亜鉛、光触媒活性を示さない酸化チタン(ルチル型)、酸化セリウムなどの無機系紫外線吸収剤、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系などの有機系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0029】
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などが挙げられる。
2.塗料組成物の調製、および、塗膜の形成
塗料組成物を調製するには、まず、上記した配合割合で、有機溶媒に基体樹脂と高極性樹脂とを配合し、基体樹脂および高極性樹脂を有機溶媒に溶解させて基体樹脂溶液を調製する。
【0030】
次いで、上記した配合割合で、基体樹脂溶液にSiOR基含有化合物と光触媒粒子とを配合して分散させる。
なお、SiOR基含有化合物および光触媒微粒子を基体樹脂溶液に配合するには、光触媒微粒子をSiOR基含有化合物中に予め包含させておき、光触媒微粒子を包含したSiOR基含有化合物を、基体樹脂溶液に配合してもよい。
【0031】
これにより、塗料組成物が調製される。
なお、調製された塗料組成物は、DME、LPGなどのガス成分とともに、スプレー缶に封入してもよい。この場合には、塗料組成物の扱いが容易となり、家庭的、個人的に、容易に塗料組成物を扱うことができる。また、塗料組成物をエアゾールとして吹き付けることができ、吹付け回数や、吹付け時間などによって、容易に塗膜の膜厚を調節することができる。
【0032】
塗料組成物は、特に限定されず、例えば、自動車用上塗り塗料、バイクや原動機付き自転車等の二輪車用塗料、船体用塗料、建築物の外装用塗料などに用いることができる。
調製された塗料組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、静電塗装や、スプレー法、はけ塗り法などの方法が挙げられる。
そして、上記した方法により塗布された塗料組成物を、加熱などにより乾燥させることにより、塗膜が形成される。
3.作用効果
本発明によれば、基体樹脂と、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、光触媒粒子とを含有している。
【0033】
そのため、塗膜が形成されたときには、塗膜表面に、親水性のシラノール基が配置され、親油性の汚れが塗膜表面に付着することを防止し、さらに、水洗いなどの簡易な洗浄方法で、汚れを容易に除去することができる。また、光触媒効果により油等の汚染物質の分解が見込める。
一方、塗膜表面を研磨したときには、塗膜表面のシラノール基は削り取られるものの、塗膜内部の光触媒粒子が、研磨面から露出される。
【0034】
その結果、研磨面においても、光触媒粒子の防汚効果(汚れの分解)により、塗膜の防汚性を維持することができ、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる。
また、自動車車体の塗装工程では、塗装中において、塗膜表面に、微細なごみが付着する場合や、傷がつく場合がある。塗装後の検査において、そのような付着物や傷が発見された場合には、塗膜表面を研磨するなどして塗膜を整えるリペア工程が実施される。
【0035】
本発明では、上記したように、研磨面においても、塗膜の防汚性を維持することができ、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる。
そのため、特に、本発明を自動車車体の塗装工程に使用した場合には、リペア工程において、研磨面と、未研磨の塗膜表面との間で、防汚性能がばらつくことを防止することができる。
4.第2実施形態
上記した第1実施形態では、塗料組成物は、必須成分として、基体樹脂、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物および光触媒粒子を含有している。
【0036】
しかし、塗料組成物は、光触媒粒子を含有せずに、必須成分として、基体樹脂、SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物、および、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂を含有していてもよい。
第2実施形態においても、第1実施形態における例示と同様の有機溶媒、基体樹脂、SiOR基含有化合物、および、高極性樹脂が挙げられる。
【0037】
第2実施形態では、塗料組成物100重量部中に、有機溶媒が、例えば、5〜95重量部、好ましくは、20〜60重量部、基体樹脂が、例えば、10〜70重量部、好ましくは、20〜40重量部、SiOR基含有化合物が、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは、1〜6重量部、高極性樹脂が、塗料組成物100重量部中に、例えば、5〜30重量部、好ましくは、10〜20重量部の割合で配合される。
【0038】
また、有機溶媒は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、10〜500重量部、好ましくは、50〜100重量部の割合で配合される。
また、SiOR基含有化合物は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは、5〜20重量部の割合で配合される。
また、高極性樹脂は、基体樹脂100重量部に対して、例えば、10〜70重量部、好ましくは、30〜50重量部の割合で配合される。高極性樹脂の基体樹脂に対する割合が10未満であると、塗膜に親水性を付与する効果が低くなる場合がある。また、高極性樹脂の基体樹脂に対する割合が70を超過すると、塗膜の物性(耐候性、硬度など)が低下する場合がある。
【0039】
第2実施形態において、塗料組成物を調製するには、第1実施形態と同様に、まず、上記した配合割合で、有機溶媒に基体樹脂と高極性樹脂とを配合し、基体樹脂および高極性樹脂を有機溶媒に溶解させて基体樹脂溶液を調製する。
次いで、上記した配合割合で、基体樹脂溶液にSiOR基含有化合物を配合して分散させることにより、塗料組成物を調製することができる。
【0040】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、塗料組成物を塗布、乾燥させて塗膜を形成することができる。
第2実施形態の塗料組成物によれば、基体樹脂と、SiOR基含有化合物と、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂とを含有している。
そのため、塗膜が形成されたときには、塗膜表面に、親水性のシラノール基が配置され、親油性の汚れが塗膜表面に付着することを防止し、さらに、水洗いなどの簡易な洗浄方法で、汚れを容易に除去することができる。
【0041】
一方、塗膜表面を研磨したときには、塗膜表面のシラノール基は削り取られるものの、塗膜内部の高極性樹脂、および、高極性樹脂に取り込まれている保護されたシラノール基が、研磨面から露出される。
その結果、研磨面においても、高極性樹脂、および、新たに表面に露出したシラノール基の親水性により、塗膜の防汚性を維持することができ、塗膜の防汚性が低下することを防止することができる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例および比較例により限定されるものではない。
<使用薬剤>
1)基体樹脂
アクリル樹脂A:アクリディック55−129(DIC社製)
アクリル樹脂B:アクリディックDU−931(DIC社製)
メラミン樹脂:スーパーベッカミンL−109−65(DIC社製)
2)SiOR含有化合物
ポリメチルシリケート:MKCシリケートMS57(重量平均分子量(Mw):1500、三菱化学社製)
3)光触媒粒子
アナターゼ型酸化チタン粒子:ST−01(石原産業社製)
4)高極性樹脂
デンドリックポリマー:Adhesion Resin LTW(EVONIK INDUSTRIES社製)
5)有機溶媒
低極性溶媒:キシレン
<塗料組成物の調製>
下記表1に示す配合処方により、各実施例および各比較例における塗料組成物を調製した。
【0043】
詳しくは、まず、下記表1に示す配合割合で、低極性溶媒に、アクリル樹脂A、アクリル樹脂B、メラミン樹脂およびデンドリックポリマーを配合し、溶解させて、基体樹脂溶液を調製した。
別途、下記表1に示す配合割合で、ポリメチルシリケートにアナターゼ型酸化チタン粒子を分散させて、アナターゼ型酸化チタン粒子を包含したポリメチルシリケートを調製した。
【0044】
次いで、基体樹脂溶液に、アナターゼ型酸化チタン粒子を包含したポリメチルシリケートを配合して分散させ、塗料組成物を得た。
【0045】
【表1】

【0046】
<試験片の調製>
得られた塗料組成物を、金属板の表面(下塗り塗膜および中塗り塗膜を形成したもの)に塗布し、加熱により乾燥させて上塗り塗膜を形成することにより、試験片A(未研磨)を得た。金属板の表面に形成された各塗膜(下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜)の合計厚みは、各実施例および各比較例において、いずれも約90μm(マイクロメータで測定)であった。
【0047】
試験片Aの塗膜表面を、布バフを装着した両頭グラインダーTG−61(RYOBI社製)を用いて、回転数(無負荷)3000rpmで研磨し、試験片B(研磨済み)を得た。金属板の表面に形成された各塗膜の合計厚みは、研磨後において、80〜90μm(マイクロメータで測定)であった。
得られた試験片AおよびBを、2.5重量%硫酸水溶液中に24時間浸漬し、塗膜表面を親水化した。これにより、試験片AおよびBを調製した。
<評価試験>
各実施例および各比較例の試験片AおよびBを用いて、以下の各評価試験を行った。
1.曝露試験
各試験片AおよびBを、それぞれ、塗膜表面が、水平面に対して30°傾斜し、上方および北方に向かうように、屋外に設置し、6ヶ月間曝露した。そして、曝露前と曝露後の塗膜表面の色差(ΔE)を、色差計(NF333、日本電色社製)で測定した。なお、曝露試験のサンプル数(n)は、3つであり、平均値を結果として下記表2に示す。
2.接触角試験
各試験片AおよびBの塗膜表面に、イオン交換水2μlを滴下し、着滴後、30秒後に、Drop Master DM−500(協和界面科学社製)を用いて、接触角を測定した(液適法、温度条件:室温)。なお、接触角測定のサンプル数(n)は、8つであり、平均値を結果として下記表2に示す。
3.メチレンブルー分解試験(JIS R1703−2簡易試験)
メチレンブルーを水で50倍希釈してメチレンブルー水溶液を調整し、メチレンブルー水溶液を、各試験片AおよびBの塗膜表面に付着させた。メチレンブルーが付着した各試験片AおよびBを、太陽光に1ヶ月間曝露させ、メチレンブルーの変色を目視にて評価した。結果を下記表2に示す。また、評価基準を下記に示す。
【0048】
◎:メチレンブルーが完全に消色されている。
○:メチレンブルーがほとんど消色されているが、注視すると痕跡が認められる。
△:メチレンブルーの退色は認められるが、一瞥しただけでメチレンブルーの残存が確認できる。
×:メチレンブルーの退色がほとんど認められない。
4.外観
各試験片AおよびBの塗膜表面の調製直後における外観を、目視で評価した。結果を下記表2に示す。また、評価基準を下記に示す。
【0049】
○:塗膜表面に光沢が認められる。
×:塗膜表面に光沢が認められない。
【0050】
【表2】

【0051】
−:塗料組成物が光触媒粒子を含有していないため、未測定。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体樹脂と、
SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、
光触媒粒子と
を含有することを特徴とする、塗料組成物。
【請求項2】
前記光触媒粒子は、基体樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部の割合で配合されていることを特徴とする、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
さらに、低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
基体樹脂と、
SiOR(Rは、水素原子またはアルキル基を示す。)基含有化合物と、
低極性溶媒に対する溶解性を有する高極性樹脂と
を含有することを特徴とする、塗料組成物。
【請求項5】
前記高極性樹脂のSP値は、12.0以上であることを特徴とする、請求項3または4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記低極性溶媒のSP値は、7.0〜9.5であることを特徴とする、請求項3ないし5のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記高極性樹脂のSP値は、前記低極性溶媒のSP値よりも大きく、その差は、2〜7であることを特徴とする、請求項3ないし6のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記高極性樹脂は、前記基体樹脂100重量部に対して、10〜70重量部の割合で配合されていることを特徴とする、請求項3ないし7のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記高極性樹脂は、水酸基および/またはシラノール基を有するデンドリックポリマー、または、ポリアクリル酸であることを特徴とする、請求項3ないし8のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項10】
前記基体樹脂は、アクリル樹脂またはアミノ樹脂であることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の塗料組成物。

【公開番号】特開2011−68726(P2011−68726A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219431(P2009−219431)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】