説明

塗料配管の洗浄方法および洗浄液

【課題】塗料配管に屈曲部や段差部があっても塗料片や顔料を効率よく押し流すことができる塗料配管の洗浄方法と、それに用いる塗料配管の洗浄液とを提供する。
【解決手段】塗料配管を、直接または塗料除去剤により洗浄した後に、水系および/または有機溶剤系の溶媒に増粘剤(例、アクリル酸系、カルボン酸系もしくはセルロース系増粘剤またはガム類)を含有させた、粘度100mPa・s以上、好ましくは500〜4000mPa・sの粘性流体からなる洗浄液でさらに洗浄する。塗料配管を直接洗浄する場合には、洗浄液に芳香族アルコールを含有させる。洗浄液は、アルカリ、界面活性剤および防錆剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ラインにおいて塗料の移送に使われる塗料配管の洗浄方法および洗浄液に関する。より詳しくは、塗料配管に屈曲部(エルボー)や異径接続により生じた段差部があっても効率よく塗料配管を洗浄することができる塗料配管の洗浄方法および洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工場、塗料工場等の塗装ラインの塗料配管は、配管内の塗料固着物や錆を除去するために、定期的に洗浄される。また、色替え時にも塗料配管の洗浄が必要である。塗料配管の洗浄は、主に洗浄用シンナーまたは他の有機溶剤(塩化メチレン、トリクレン等)、あるいはアルカリの水溶性有機溶剤溶液(例、水酸化ナトリウムのメタノール溶液)からなる塗料除去剤を塗料配管に循環させることにより行われている。
【0003】
特許第2549790号明細書には、塩化メチレンに少量のギ酸と非イオン界面活性剤とを配合した塗料配管内の沈着物除去用組成物が開示されており、この組成物はセルロース系の増粘剤を含有しうる。実施例には増粘剤を含有させた組成物は例示されていない。
【0004】
特開平8−325490号公報には、N−アルキル−2−ピロリドン、石油系および/または水溶性溶剤、増粘剤、および界面活性剤を含有するペイント剥離剤が記載されている。これは、塗料配管の洗浄用ではなく、塗り替えなどのために塗布した塗料を剥がすためのものである。
【0005】
特公平6−26697号公報には、塗料配管に塗料除去剤を用いて洗浄した後、酸で処理し、さらにフラッシング処理(好ましくは防錆剤を含有させた水を用いる)した後、水置換処理することからなる塗料配管の洗浄方法が記載されている。
【特許文献1】特許第2549790号明細書(請求項1、段落0011)
【特許文献2】特開平8−325490号公報(請求項1、表2)
【特許文献3】特公平6−26697号公報(請求項1、第3頁左欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗料配管にシンナーその他の塗料除去剤を循環させることによる塗料配管の洗浄では、配管内に固着した塗料は除去剤に完全に溶解して除去されるのではなく、塗料固着物の一部は塗料片となって配管内壁から剥がれることにより除去される。こうして剥がれた塗料片は、塗料除去剤による洗浄で配管内から完全には押し流されず、一部は配管内に残留する。特に、塗料配管に屈曲部や異径接続により生じた段差部があると、その部分に塗料片、特に固化・微細化した塗料片や、樹脂の溶解により自由粒子に戻った顔料が滞留しがちである。その後に、水や有機溶剤によりフラッシング処理しても、配管内の屈曲部や段差部に残留する塗料片や顔料を押し流すことは難しい。
【0007】
塗料配管の洗浄処理後も配管内に塗料片や顔料が残留すると、洗浄後に塗料を配管内に流した時に、粘性の高い塗料によって塗料片や顔料が配管から押し出され、塗料と共に製品に吹きつけられて、ブツ不良の発生や色替え時の色調不良の原因となる。
【0008】
本発明は、塗料配管に屈曲部や段差部があっても、塗料片や顔料を効率よく押し流すことができる塗料配管の洗浄方法と、それに用いる塗料配管の洗浄液とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
塗料は、塗料種や塗装方法にもよるが、一般に粘度は0.5〜5Pa・s程度と、塗料配管の洗浄に用いる塗料除去剤より非常に高い。そのため、塗料除去剤による洗浄で屈曲部や段差部に残ってしまった塗料片や顔料が塗料によって掻き出されて配管外に排出される結果、上記の塗料不良の原因となっていた。
【0010】
本発明によれば、増粘剤を含有させた粘性流体からなる洗浄液で洗浄を行うことにより、上記課題を解決することができる。この粘性流体がベンジルアルコールのような芳香族アルコールを含有している場合には、この洗浄液による洗浄処理だけで、塗料配管に付着した塗料を除去し、同時に塗料片や顔料を押し流すことができる。一方、粘性流体が芳香族アルコールを含有しない場合には、塗料除去剤により予め塗料配管を洗浄処理した後に、上記洗浄液で洗浄処理を行うことが好ましい。
【0011】
ここに、本発明は、1態様において、水および/または有機溶剤を主成分とし、芳香族アルコールを含有する溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体で塗料配管を洗浄することを特徴とする、塗料配管の洗浄方法である。
【0012】
別の態様において、本発明は、塗料を溶解しうる塗料除去剤により塗料配管を洗浄した後に、該塗料配管を、水および/または有機溶剤からなる溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体でさらに洗浄することを特徴とする、塗料配管の洗浄方法である。この態様において前記溶媒は芳香族アルコールをさらに含有していてもよい。
【0013】
以上のいずれの態様においても、前記粘性流体は、アルカリ、界面活性剤、キレート剤および防錆剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有しうる。塗料配管が水系塗料の配管である場合、溶媒は水を主成分とするものでよい。前記粘性流体による洗浄は、この粘性流体を塗料配管に循環させることにより行うことが好ましい。
【0014】
本発明によればまた、水および/または有機溶剤からなる溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体からなる、塗料配管の洗浄液も提供される。この洗浄液はさらに(1) 芳香族アルコールおよび/または(2) アルカリ、界面活性剤、キレート剤および防錆剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有しうる。塗料配管が水系塗料の配管である場合、溶媒は水を主成分とするものが好ましい。前記粘性流体の粘度は、好ましくは500〜4000mPa・sの範囲内である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特に塗料配管への塗料の付着が軽度(付着塗料が半乾き状態)である場合には、増粘剤と好ましくは溶媒の一部として芳香族アルコールを含有する粘性流体からなる洗浄液で塗料配管を洗浄するだけで、塗料配管から塗料を除去し、同時に塗料片や顔料を配管から押し流すことができる。従って、塗料配管の洗浄作業が非常に単純化される。塗料配管内の塗料は、完全には硬化しておらず、半乾き状態であることが多いので、その場合には、この方法により塗料配管を簡単な作業で洗浄することができ、排液処理も容易になるので、コスト面でも優位性がある。
【0016】
塗料配管への塗料の付着が重度(完全に硬化している)であるか、あるいは洗浄液が芳香族アルコールを含有しない場合には、塗料配管をシンナーその他の有機溶剤またはアルカリ性溶剤溶液のような、塗料を溶解しうる塗料除去剤により洗浄した後に、上記粘性流体からなる洗浄液を用いて洗浄を行うことができる。
【0017】
この後者の方法においては、塗料除去剤での洗浄により、塗料配管に付着した塗料は、樹脂が溶解するか、または一部は塗料片として配管から剥がれることにより、配管から除去される。しかし、配管の屈曲部や異径接続により生じた段差部では、塗料片や、さらには樹脂が溶解して自由粒子に戻った顔料が滞留しやすく、粘性の低い塗料除去剤では、それらの塗料片や顔料を除去することは困難である。本発明に従って、増粘剤を含有させた粘性流体でさらに洗浄を行うことにより、従来の塗料配管の洗浄方法では除去が困難であった、配管の屈曲部や段差部に滞留した塗料片や顔料を効率よく押し流して配管から除去することができる。
【0018】
以上のいずれの方法においても、従来は配管の洗浄直後に発生していた、塗料への塗料片や顔料の混入によるブツ不良や色調不良といった塗装欠陥の発生を防止することができ、製品の歩留まりが大きく向上する。
【0019】
従来でも、塗料除去剤の洗浄後に、洗浄した配管に水などの液体または空気を高速で流してフラッシングすることが行われている。フラッシングする水に防錆剤を含有させて防錆処理として利用することもある。しかし、このようなフラッシング処理では配管の屈曲部や段差部に溜まった塗料片や顔料を効率よく除去することはできない。
【0020】
本発明は、手法そのものは簡単であるが、従来は解決が困難であった課題を効果的に解決することができる点で、技術的意義は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上述したように、塗料配管の塗料の付着が軽度の時には、本発明に係る洗浄液で塗料配管を直接洗浄し、一度の処理で塗料配管から付着した塗料を除去し、同時に洗浄により発生した塗料片や顔料も除去できる。この洗浄方法を以下では第1の方法という。
【0022】
塗料配管の塗料の付着が重度の時には、従来より塗料配管の洗浄に利用されてきた塗料溶解性のある塗料除去剤により最初に塗料配管を洗浄した後、本発明に係る洗浄液でさらに洗浄を行う方法により塗料配管を洗浄することが好ましい。この洗浄方法を以下では第2の方法という。
【0023】
第2の方法において、最初に塗料配管の洗浄に使用される塗料除去剤は、塗料配管に付着した塗料の樹脂成分を溶解または分解することができる限り、任意のものでよい。そのような塗料除去剤の例としては、これらに限られないが、塩化メチレン、トリクレンなどの塩素系溶剤、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリをアルコール系の水混和性有機溶剤(メタノール、エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなど)に溶解した溶液が挙げられる。塗料が水系塗料である場合には、アルカリ水溶液も塗料除去剤として使用できる。
【0024】
従って、塗料除去剤は、配管に付着している塗料の種類に応じて、その塗料の樹脂成分を溶解または分解しうるものを選択すればよい。塗料除去剤は、キレート剤(例、EDTA等)、剥離促進剤(例、モノエタノールアミン等)、防錆剤(例、亜硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、有機酸塩等)、酸、アルカリ、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を適宜含有しうる。酸やアルカリは、塗料を溶解する能力はないが、塗料を変質させて脆化させることにより、配管から剥がれ易くする。
【0025】
塗料除去剤は塗料配管に循環させて洗浄を行うことが好ましい。循環条件(温度、循環時間、除去剤流量など)は、除去剤や塗料配管の汚れ具合に応じて、適宜設定すればよい。その後、必要であれば、水でフラッシングしてから、本発明に係る洗浄液により洗浄を行う。その前に、他の洗浄処理、例えば、酸による洗浄、などを行うことも可能であるが、通常はその必要性はない。
【0026】
本発明に係る洗浄液は、水および/または有機溶剤からなる溶媒に増粘剤を含有させた粘性流体からなる。この洗浄液だけで塗料配管を洗浄する第1の方法の場合には、洗浄液に塗料溶解性を付与するため、溶媒は芳香族アルコールをさらに含有する。
【0027】
芳香族アルコールの例としては、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ならびにそれらのアルキル置換誘導体(ベンゼン環上の水素がメチル、エチルなどの低級アルキル基で置換された誘導体)が挙げられる。芳香族アルコールを含有させる場合、その量は洗浄液全体の1質量%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、コストを考慮すると、25質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
芳香族アルコール類は、グリコール類やエステル類に比べて固着した塗料の溶解能力が高く、塗料が半乾きの状態であれば、トルエンのような芳香族炭化水素に近い溶解能を有し、塗料配管内のようにあまり乾燥していない半乾き状態の塗料の溶解に対し非常に効果的であることが判明した。トルエンのような揮発性の芳香族炭化水素の使用は環境への悪影響という問題があるが、芳香族アルコール類の使用はその問題を避けることができる。
【0029】
洗浄液の溶媒は、水と有機溶剤のいずれでもよく、両者の混合物であってもよい。有機溶剤は、グリコール類、アルコール類(グリコールモノアルキルエーテル類を含む)、ケトン類のような水混和性溶剤と、炭化水素類やエステル類等の水不混和性溶剤のいずれでもよい。前述した芳香族アルコールは水不混和性溶剤である。
【0030】
塗料が水系塗料である場合には、溶媒は水または水と水混和性有機溶剤との混合溶媒を主成分とするものが好ましく、より好ましくは水を主成分とする水系溶媒である。但し、洗浄液に塗料溶解性を付与するために、水不混和性有機溶剤である芳香族アルコールを含有させてもよく、特に第1の方法ではその方が好ましい。芳香族アルコールに加えて、例えば、トルエン等の他の水不混和性有機溶剤を含有させることも可能である。水系塗料は、エマルジョン型と水溶性樹脂塗料のいずれでもよく、樹脂種はアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アルキド系、フェノール樹脂系、メラミン樹脂系など、公知のいずれのものでもよい。
【0031】
増粘剤としては、アクリル酸とメタクリル酸アルキルエステルとの共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム等などのアクリル酸系、カルボキシビニルポリマー、PVAなどのカルボン酸系、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系、アラビアゴム、キサンタンガム、トラガカントガム等のガム類が挙げられる。
【0032】
特に好ましい増粘剤の例は、アクリル酸/メタクリル酸共重合体(例、カーボポール1382、ETD 2020、ETD 2050、Pemulen TR-1、Pemulen TR-2等)ならびにカルボキシビニルポリマー(カーボポール980、981、2904、Ultrez 10等)である。これらは強力な増粘・分散作用を示し、0.5質量%といった非常に少量の含有で有効である。Pemulen TR-1およびTR-2は、高分子乳化剤として市販されているが、強力な増粘作用もあるので、本発明では増粘剤として使用できる。これ以外についても、増粘作用があれば、増粘剤以外の製品も本発明において増粘剤として使用できる。
【0033】
洗浄液の粘度が低い場合でも、100mPa・s程度あれば、洗浄液を長時間循環させることにより、塗料配管から多くの残留物(塗料片や顔料)を排出することができる。従って、本発明の洗浄液の粘度は100mPa・s以上であればよい。粘度が高い方が、塗料片の大きさや形状にかかわらず、それらを短時間で排出することが可能となる。ただし、粘度があまりに高くなりすぎると、洗浄液を循環させるための負荷が大きくなり、流量が低下して洗浄効率が低下する。その意味では粘度は5000mPa・s以下とするのがよい。洗浄液の好ましい粘度は500〜4000mPa・sの範囲である。言うまでもないが、洗浄液の粘度は主に増粘剤の種類および含有量により調整することができる。
【0034】
洗浄液の粘度が高めの場合、それを循環する際に洗浄液がエアを巻き込むと、エアが液と共に送られて、時間と共にエアポケットができる可能性がある。エアポケットができると、そこに塗料片や顔料が残留する恐れがあるので、エアを巻き込まない循環方法を採用することが好ましい。
【0035】
本発明の洗浄液にも、前述した塗料除去剤と同様に、キレート剤、剥離促進剤、防錆剤、酸、アルカリ、界面活性剤などの各種の添加剤を適量で添加することができる。特に好ましい添加剤は、アルカリ、界面活性剤、キレート剤および防錆剤である。本発明の洗浄液は、中性付近からアルカリ性領域のpHを有することが好ましい。従って、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムといったアルカリを添加して洗浄液のpHを調整することができる。アルカリは前述したように、配管に付着した塗料を変質させて脆化させ、塗料を配管から剥がれ易くする作用も果たす。界面活性剤は、配管から剥離した顔料や細かい塗料片が沈降して配管に再付着するのを防止する作用と浸透作用(塗料の剥離と膨潤を促す)を果たす。キレート剤は、顔料の分散や配管の防錆に効果がある。
【0036】
本発明において特に好ましい洗浄液の組成(%はいずれも質量%)を説明すると次の通りである。
水:70〜99%
芳香族アルコール:0〜25%
アクリル系またはカルボン酸系増粘剤:0.1〜3%。
【0037】
上記成分に加えて、前述したアルカリ、界面活性剤、キレート剤、防錆剤、さらには芳香族アルコール以外の有機溶剤を少量添加してもよい。
前述したように、塗料が付着した塗料配管の洗浄は、この洗浄液だけを使って行ってもよく(上記第1の方法)、あるいは従来より使われてきた塗料除去剤で予め塗料除去処理を行った後、この洗浄液で塗料配管を洗浄してもよい(上記第2の方法)。いずれの場合も、洗浄液を塗料配管に循環させながら洗浄処理を行うことが好ましい。洗浄時間は、付着した塗料の種類や量にもよるが、通常は1時間〜2週間程度である。
【0038】
本発明に係る洗浄液により塗料配管を洗浄した後、配管を水洗することが好ましい。この水洗は、フラッシング、即ち、流量を高めて行ってもよい。この水洗水に防錆剤を含有させてもよい。塗料が水系である場合には、その後、配管を塗料の移送に使用することができる。塗料が溶剤系である場合には、必要により、水混和性有機溶剤を用いて周知の水置換処理を行ってから、塗料の移送を再開することが好ましい。
【実施例】
【0039】
(実施例1〜3および比較例1〜3)
図1に示す形状に成形された内径19mm、長さ1mの透明チューブの、図中のA部に、2種類の塗料の模擬塗料片(約1×1mm箔)および樹脂ビーズ(3mm球)のいずれか50個を入れた。樹脂ビーズは大きな塗料片を模擬するために試験に採用した。
【0040】
この透明チューブに、表1に示す組成の各洗浄液を約30mL/minの流速で120分間循環させた。表中、アクリル酸系増粘剤は、市販のアクリル酸/メタクリル酸アルキルエステル共重合体であり、カルボン酸系増粘剤は市販のカルボキシビニルポリマーであった。ベンジルアルコールは水不混和性有機溶剤である芳香族アルコールであり、エチレングリコールモノブチルエーテルは水溶性(水混和性)有機溶剤である。界面活性剤はアニオン系界面活性剤であった。
【0041】
各洗浄液の循環後に、チューブ内に残留する模擬塗料片(塗料片1、2)または樹脂ビーズの個数を数えた。こうして、各洗浄液について、2種類の塗料片と樹脂ビーズのそれぞれについて試験した結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1からわかるように、水、シンナー、あるいはエチレングリコールモノブチルエーテルといった溶媒単独では、循環を繰り返しても、塗料片や樹脂ビーズを全く除去することができなかった。
【0044】
これに対し、本発明に従って、増粘剤を含有させた粘性流体により同じ条件で洗浄を行うと、塗料配管内に滞留する塗料片や顔料を効果的に除去できた。特に、洗浄液の粘度が500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上であると、除去効果が高くなる。
(実施例4および比較例4〜5)
上記実施例で使用したのと同じチューブに市販のアクリル系水性塗料を満たし、1時間放置した後、チューブ内の塗料を流し出し、さらに1時間放置した。これにより、塗料はチューブ壁に付着し、一部だけが乾燥により硬化して、チューブに付着した塗料は未硬化部分が残った半乾きの状態になった。
【0045】
このチューブに、表2に示す組成の各洗浄液を約30mL/minの流速で120分間循環させた。表中のアクリル酸系増粘剤およびカルボン酸系増粘剤は上記実施例と同じものであった。各洗浄液の循環中および循環後にチューブからの塗料の除去状況を調べた結果を表2に併せて示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、本発明の洗浄液をチューブに循環させた実施例4では、循環中に未硬化の塗料は溶解して排出され、顔料は全く残留しなかった。また、硬化した塗料は剥離してチューブから排出され、塗料片はチューブ内に残留しなかった。一方、水を循環させた場合には、塗料の硬化部分は壁面に付着したままであり、塗料の未硬化部分は排出されるものの、顔料の一部はチューブ内に残留した。また、水溶性有機溶剤を循環させた場合には、塗料の硬化部分が溶解により剥離されたが、塗料片の一部は排出されずにチューブ内に残留した。塗料の未硬化部分は水を循環させた時と同じであった。
【0048】
このように、本発明によれば、増粘剤を含有する粘性流体で洗浄を行うという簡便な手段により、従来は完全に除去することが困難であった洗浄後も塗料配管内に残留する塗料片や顔料を完全に除去することが可能となり、塗料配管の洗浄後に発生していた塗装ブツや色調不良の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例で洗浄試験に使用したチューブの形状を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水および/または有機溶剤を主成分とし、芳香族アルコールをさらに含有する溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体で塗料配管を洗浄することを特徴とする、塗料配管の洗浄方法。
【請求項2】
塗料を溶解しうる塗料除去剤により塗料配管を洗浄した後に、該塗料配管を、水および/または有機溶剤からなる溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体でさらに洗浄することを特徴とする、塗料配管の洗浄方法。
【請求項3】
前記溶媒が芳香族アルコールをさらに含有する請求項2に記載の塗料配管の洗浄方法。
【請求項4】
前記粘性流体が、アルカリ、界面活性剤、キレート剤および防錆剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の塗料配管の洗浄方法。
【請求項5】
塗料配管が水系塗料の配管であり、溶媒が水を主成分とする、請求項1〜4のいずれかに記載の塗料配管の洗浄方法。
【請求項6】
前記粘性流体を塗料配管に循環させて洗浄を行う、請求項1〜5のいずれかに記載の塗料配管の洗浄方法。
【請求項7】
水および/または有機溶剤からなる溶媒に増粘剤を含有させた粘度100mPa・s以上の粘性流体からなる、塗料配管の洗浄液。
【請求項8】
前記溶媒が芳香族アルコールをさらに含有する、請求項7に記載の洗浄液。
【請求項9】
前記粘性流体が、アルカリ、界面活性剤、キレート剤および防錆剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有する、請求項7または8に記載の塗料配管の洗浄液。
【請求項10】
塗料配管が水系塗料の配管であり、溶媒が水を主成分とする、請求項7〜9のいずれかに記載の洗浄液。
【請求項11】
前記粘性流体の粘度が500〜4000mPa・sの範囲内である、請求項7〜10のいずれかに記載の洗浄液。

【図1】
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【公開番号】特開2006−167514(P2006−167514A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360136(P2004−360136)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】